親は子に、「自立した大人になって、社会に貢献してほしい」と願うもの。でも、毎日子どもと接するなかで、知らず知らずのうちに子どもの芽を摘み取ってしまっているとしたら?子どもたちに向けて、生きる力をはぐくむキャリア教育を提供している「NPO法人キーパーソン21」代表理事、朝山あつこさんに話を聞きました。キャリア教育とは、わくわくできる生き方を応援すること3人の男の子を育てた朝山さんにキーパーソン21を立ちあげた経緯を聞きました。「長男が通う中学校で学級崩壊が起こりました。子どもたちが無気力だったり暴れたりする様子を見て、子どもたちがわくわくと主体的に生きていくには、どうしたらいいだろう?と考えました。日本中の子どもたちと社会のために、学校教育とは違う方法で子どもたちにアプローチしようと決意し、2000年にキーパーソン21を立ちあげました。キーパーソン21では、自分の好きなもの・大切なものが世の中の仕事とつながっていることに気づかせ、子どもたちの主体性を引き出す<夢!自分!発見プログラム!>を開発。学校や教育施設で、35000人近くの子どもたちに向き合い、好きなことを職業意識に結びつけ、自信を持たせる活動をしてきました。キーパーソン21が掲げるキャリア教育の理念は、大切なのは、なりたい職業を探すことだけではないということ。キャリア教育というと、大人はすぐに、将来よい職業につくための教育という発想になりますが、それだけではなく、子どもが何が好きなのか、どう生きたいのか、何なら一生懸命がんばれるのかを見つける応援をすることです。自分は、どんなことにわくわくできるのかという本質がわかれば、特定の職業につくことだけに縛られず、より広い意味での自分の夢や生き方を発見できます」「○○が好き」の裏に潜む子どもの本質を見極めよう朝山さんは親があることを心がけるだけで、日常生活のなかで、子どもの”好き”の本質を見極めることができると言います。そのあることとは、子どもが何かに夢中になっているときに、なぜ”○○が好き”なのかをひも解くこと。「たとえば、子どもが野球が好きという場合、大人が安易に言いがちなのが『野球選手になればいいね!』という一言。でも、野球選手になれる人はほんのわずかです。子どもたちは、野球選手にはなれないと知った時点で、挫折感を味わうだけ。ここで、なぜ野球が好きなのか?に着眼することができれば、可能性がぐっと広がります。実は”好き”の理由はさまざま。”好き”のキーワードは、<野球>という名詞かもしれませんし、<チームで>という形容動詞かもしれないし、<上達を感じる>という動詞かもしれません。つまり同じ野球でも、A君は<作戦や戦略を立てることが好き>、B君は<チームのために役立つことが好き>、C君は<素振りなどで日々の上達を感じることが好き>ということかもしれません。親がそれを感じることができれば、たとえばA君には家族旅行の計画を考える機会をあげる、B君にはお手伝いをしてもらう、C君には毎日の上達がわかるグラフを作ってあげるなど、わくわくする機会を与えて、自信をつけてあげればいいのです。自分はチームプレーが好きだと気づき自信がついた子は、将来職業を選択する際に、チームでプロジェクトを作っていくような職業を幅広く視野に入れることができます。親が、子どもの”○○が好き”に潜む理由をキャッチする力を備えているか、広い可能性を感じてあげられるか、それが子どもを伸ばせるかを左右するのです」多様な仕事や生き方があることを伝えよう「さらに親ができることとして、子どもが小さいうちから、多様な価値観や生き方、仕事があることを伝えることです。たとえば上の例では、3人に共通するキーワードとして野球があります。野球が好きな子には、選手になる以外にも野球に関わる仕事はたくさんあるという可能性を示してあげることで、子どもたち一人ひとりが自分なりの夢を持つことができます。キーパーソン21でも、<夢!自分!発見プログラム!>の一貫として、さまざまな仕事で活躍する大人が、自分の人生や仕事について語る、<おもしろい仕事人がやってくる!>というプログラムを提供しています。子どもたちからは『今をがんばることで、未来につながっていくことがわかった』『大人になるのもおもしろいかなと思った』などの感想が寄せられています」子どもは親とは別の人間。親も自立する準備を最後に、朝山さんからママ達にメッセージをいただきました。「子どもはいつか親から自立し、言う通りにはならなくなるものです。親は小さいうちからそのことを覚悟し、子どもは自分とは違う人間なのだと意識しておくことが必要です。子どもが自立する時期は、親が第二の人生を考える時期とも重なりますが、くれぐれも子どもを追いかけることがないように(笑)。子どもの自立が怖いのであれば、その気持ちを認め、どうして怖いのか考えてみること。すると、子どもを自分とは違う一人の人間として見ていなかったということに気づくと思います。子どもの自立はさみしい面もありますが、一人の人間として成長した子どもが、どんな考えを持ち、どんな仕事をする大人になるのか、幼い頃とは違う楽しみがあります。今はお子さんを信じて、幸せな時間を存分に楽しんでほしいと思います。どんな子にも、わくわくする未来があるのですから」朝山さんの話を聞いていて、じんわり心に響くものがありました。子どもの職業選択に関して、親は勝手な夢を描きがちですが、子どもがわくわくする人生を選ぶ姿を、わくわくと見守れる親になりたいですね。取材協力:認定NPO法人キーパーソン21<文:フリーランス記者鯰美紀>
2016年03月31日