勉強でも、仕事でも、プライベートでも。大事な「ここ一番」のときには、キチンと実力を発揮したいものですよね。そこで今回は、脳科学者の塩田久嗣先生に、本番に強くなる方法をお聞きしました。■そもそも『本番に強い』ってどういうこと?――本番がうまくいく時といかない時、脳の状態に違いはあるのですか?「脳波を調べる実験では、良いパフォーマンスをあげている時というのは、集中力がぐっと高くなっている時であることが分かっています。集中している時とリラックスしている時、ONとOFFの切り替えが上手な人が、本番に強い人であると言えます。集中している時は、脳内でノルアドレナリンやドーパミンなどの神経伝達物質が分泌されて、脳が活性状態になっています。その活性状態が適度に保たれていれば、集中できている良い状態。ですが、過度にノルアドレナリンやドーパミンが分泌され活性しすぎてしまうと良くありません。脳に負荷がかかりすぎた、いわゆる、『緊張しすぎて頭が真っ白』という状態になります」■一流の人には時間にルーズな人が多い!?――では、適度な活性状態をキープするには?「普段から、脳を適度な緊張状態に慣らしておくことです。私がおすすめしている訓練方法は、時間にルーズになること。多くの人の性格や脳波などを観察していくうちに分かってきたことなのですが、本番に強い人の9割くらいは、時間にちょっとルーズな人なんです。私たちは野生動物と違って、少し油断しただけで天敵に食べられてしまうとか、そういう緊張感にはさらされていません。ですが、『時間に間に合うかどうか』という緊張感は、日常的によくある状況です。いつも時間ギリギリで行動している人は、その緊張感で脳に負荷をかけることで、本番の緊張に耐える練習をしているようなものなのです。一流のアスリートなどでも、時間にルーズな人は多いですよ。逆に、いつもまじめな人は緊張やプレッシャーが嫌いで、慌てる状況にならないように、余裕をもって行動するでしょう。そのため緊張に耐える訓練が足りず、本番に弱くなってしまう傾向があります」――なるほど、出発が遅れちゃったけど間に合わせようと頑張って緊張する、待ち合わせ場所について一安心する……。そのONとOFFが訓練になるんですね。ルーズすぎて、遅刻を何とも思わないみたいなのはダメなんですね。「そう、緊張しないと意味がないです。『遅れるかと思って焦ったけど、奇跡的に間に合っちゃった』という経験がある人も多いと思いますが、それは別に奇跡じゃない。程よく緊張している時は脳が活性化されているので、周囲の情報がよく分かります。だから、人にぶつからないで避けながら早足で歩けるし、駅ではどのホームに行くべきか案内にすぐ気づいたりするし、タクシーをいち早く見つけてつかまえることもできる。そして、結果的に間に合うわけです」■緊張に慣れる訓練と楽観主義で、もっと本番に強くなる!――うーん、でも、時間ギリギリで行動するって怖いと思うのですが、そんな小心者の私はダメでしょうか……。「私も、遅刻を奨励しているわけじゃないですよ(笑)遅れても大事には至らないけどちょっと困るというような、プライベートな用事の時に試してみてください。例えば友達との待ち合わせで、いつも15分前に着く人はジャストを目指して乗る電車を決めるとか。あと、銀行でお金を下ろす時、手数料無料の時間ギリギリに行ってみるというのも、私は長年やっています。時間が過ぎると手数料が取られてしまうという緊張感がありながら、万一遅れても大事にはならないのでトライしやすいと思います。また、仕事や勉強、家事などに時間制限を設けて、意識的に脳を緊張状態にするのもいいでしょう。例えば、いつも15分かけている作業を10分でやる。ただ急ぐのではなくて、ちゃんとタイマーをかけて、脳が緊張するようにするのがおすすめです。ただ、日常的に訓練しないとなかなか変わらないので、慣れてきたら色んな場面で、『時間にちょっとだけルーズ』を実践してみてください。『きっと大丈夫、間に合う』と、いい意味でいい加減になれたら、本番でも『きっとうまくいく』と、自信を持って行動できるようになるはずです。本番に強い人というのは、そういう根拠のない自信もしっかり持っているものです。そういう楽観的な考え方も大事です。私は、それができれば日本人はもっともっと世界で活躍できると思います。日本人は、まじめでコツコツ努力ができるのが大きな強み。仕事に対しても人に対しても、まじめであることは良いことです。でも、時間に対してだけは、もうちょっとだけルーズになってみてもいいと思います」――ありがとうございました!(取材・文/島田彩子)塩田久嗣(しおた・ひさし)1962年生まれ、脳科学者。ブレインサイエンス・ラボラトリー所長。京都大学卒業後、脳や心の研究に従事し、それまでの脳科学の常識を覆す「感情量」という独自の概念を提唱している。人気携帯サイト『男子脳×女子脳』の企画・監修をはじめ、執筆活動やテレビ、ラジオ出演も多数。おもな著書に、『99.9%成功する脳の使い方』(中経出版)、『"成功脳"の秘密がわかった!「扁桃(へんとう)体パワー」が幸せを引き寄せる』(徳間書店)など。
2012年08月05日