風邪やインフルエンザは、それぞれの体験を通してどんな病気かわかります。ところが認知症は頭で理解していても、本当のところは発症した人しかわからない病です。そんなよくわからない病について、実際に発症した方の意見を紹介してみたいと思います。■ すべてのことが不明確でぼやっとした感じ認知症医療の第一人者で精神科医の長谷川和夫氏は昨年、自身が認知症を発症していると明かしました。長谷川氏は1974年に認知症診断の物差しとなる「長谷川式簡易知能評価スケール」を公表し、今日まで多くの医療現場で使われています。氏の場合は、それほどひどい症状でなく、正常な状態と認知症とを行ったり来たりするという比較的軽度な認知症です。そんな氏が語ったのは、認知症って実はこういうことだった、という自分なりの体験でした。氏が痛切に感じているのは、確かさが欠如するということでした。freeangle / PIXTA(ピクスタ)今がいつなのか、今どこにいるのか、目の前の人が誰なのか――。そうしたすべてのことが不明確ではっきりしないということです。■ 不明確なことは何度も確かめたくなる病気のようで病気でないような、単なる物忘れと思われがちな初期の認知症のころは、同じ行為を何度も繰り返すことがあります。たとえば家を出て行くとき、ドアに鍵をかけたかどうかが不安になり、途中で引き返して確かめる。あんみつ姫 / PIXTA(ピクスタ)あるいは、昔の同級生や先生の名前がわからなくなり名簿を調べたり、学校に電話することも。cozy / PIXTA(ピクスタ)わからないままだと不安が募り、それが原因でパニックになることもあります。■ はっきりしないことが大きな不安と恐怖になる認知症の人は、よく「怖い、怖い」と口にします。何が怖いかと聞くと「よくわからない」と答えます。B612 / PIXTA(ピクスタ)おそらく何事もはっきりしないというのは、とても恐いことだと思われます。もし自分が急に知らない町で目覚めたとします。しかも、そこに至った経緯さえもわからない。え、ここはどこ?最初は不思議に思うでしょうが、やがて怖くなる。それが常に起きている状態が、認知症ではないでしょうか。■ 笑顔とやさしい声がけで安心感を与える長谷川氏は週に一回、デイサービスに通うようになり、そこでの体験はとても心地良いとも語っています。自分には馴染みのない職員でも、彼女らは自分のことをよく知っていてくれ、とても安心感があると言います。ボーッとしていると、長谷川さんどうしたの、何か困ったことでもあるの?と声がかかる。それがとても嬉しいと感じているそうです。kou / PIXTA(ピクスタ)こうした声がけはどこのデイサービスでも行うものですが、こんな一言だけで安心して過ごせるそうです。■ やさしく接すれば相手もやさしくなれる不安に苛まれる人が多い認知症ですが、誰かが常にそばにいて声をかけてあげるだけで安心できるのです。時には手を取って、笑顔とやさしい言葉で話しかけてあげましょう。kou / PIXTA(ピクスタ)多くの認知症の人はこちらの対応次第で笑ったり、怒ったりします。言葉もそうですが、相手の顔の表情をよく見ています。やさしい言葉でも顔がこわばっていれば、不安になってしまいます。それはあたかも人と接することの基本的な行動であり、心のクスリのようなものなのかもしれません。常にやさしい気持ちで接することができるといいですね。【参考】※認知症ねっと長谷川式認知症スケール
2018年09月07日親を介護するのは長男の嫁の努め。このような固定観念にしばられ、 “いい嫁”になろうとひとりで舅・姑の介護に勤しむ人は少なくないようです。その結果、奥さんが体調を崩し入院することもあります。あるいは「介護うつ」になる人もいます。そうならないために、介護に対して妻がどのように向き合えばいいのかご紹介します。■ 昔の日本では親の介護は嫁がするのが常識だった?一昔前の嫁たちは、舅・姑の親の介護に明け暮れている人が多かったと思います。bee / PIXTA(ピクスタ)しかも、夫は仕事があるため介護は妻にまかせっきりで、夫の兄弟も口は出しても手は貸さないのが常でした。現在はこれほどではないにしても、介護という重荷をひとりで背負っている介護者はたくさんいます。こうした状況が続くと、ストレスが溜まって精神的に追い詰められます。それが原因で「介護うつ」になる人も多いようです。では、そうならないためには、どうすればいいのか。答えは、「いい嫁」をやめること!ひとりで何もかも抱え込むことをやめること!具体的な方法を6つご紹介します。■ 1.身内に「役割の分業化」を提案する夫やその兄妹たちに、できるだけ介護に協力してほしいと伝え、役割の分担を持ちかけてみましょう。ただし、彼らが直接介護してくれることは難しいでしょう。xiangtao / PIXTA(ピクスタ)そのため、彼らができることを提案することが肝要です。たとえば、炊事、洗濯、掃除、買物、見守りなど、手伝えることはたくさんあります。目を離した隙に家を出て徘徊する認知症老人は多くいますので、買い物に行っている間だけでも、親を見ていてくれる人がいれば安心です。Ushico / PIXTA(ピクスタ)見守りは介護の中でも長い時間を占めますので、頼める人を確保しておいて損はありません。■ 2.子どもが手伝えることはどんどんやらせる夫が無理なら子どもに頼みましょう。子どもだって中学生にもなれば、お年寄りの話し相手くらいはできるはずです。Greyscale / PIXTA(ピクスタ)認知症という病を肌で感じ、どのように接するとよいかなども分かり、生きた教育の場になります。思いやりのある大人に育ってほしいと願うなら、介護に協力してもらうことで大きな効果が期待できます。子どもに介護させるのはかわいそう、などという人もいますが、お年寄りを直接介護するのではなく、「介護者である祖母を助ける」ということです。それによって少しでも介護がしやすくなれば、子どもも介護に参加していることになると考えられます。介護や認知症の教育がまだまだ遅れている現状において、家庭での経験はとても貴重といえます。■ 3.身内がだめなら「介護ヘルパー」など外部に協力者を求める身内の協力が無理なら、介護ヘルパーに協力を要請することもできます。kou / PIXTA(ピクスタ)現在は介護保険制度によってヘルパーも低料金で利用できるようです。昼間はデイサービスに親を預けることができます。用事がある時や外出時など、一時的に介護ヘルパーにお願いすることも考えておきましょう。ヘルパーは見守り、食事づくりや食事介助、掃除、洗濯、買い物などいろいろな依頼が可能です。amadank / PIXTA(ピクスタ)時間単位で価格が設定されているので、無理のない範囲でお願いすると良いでしょう。■ 4.負担が大きくなったら施設に入所させることも誰も介護に協力してくれず、ひとりで24時間がんばるしかない状況は異常です。最悪の場合、双方が共倒れになるか、介護放棄、介護離婚といった事態に陥ることも考えられます。介護は嫁がするものと思い込んでいる男性は、いつか痛い目にあうと思っていたほうがいいでしょう。誰の協力も得られないようなら、介護施設への入所も考えておくべきです。Greyscale / PIXTA(ピクスタ)価格的には「特別養護老人ホーム(特養)」や「グループホーム」が手頃です。kunio / PIXTA(ピクスタ)すでに定員を満たして空きがない施設も多く、予約だけでもしておくことをオススメします。■ 5.親と同居する前に、必ず夫婦で介護について話し合うこうした問題は親と同居する前に、夫婦でよく話し合っておくことが大切です。shimi / PIXTA(ピクスタ)親が認知症になって自宅で介護が必要になった場合、家族の誰が中心になって介護し、誰がどの程度協力してくれるのか。たとえば休日は妻に代わって夫が介護する、子どもは買い物や掃除を手伝う、徘徊して事故にあっても誰かを責めたりしない、など。本来なら家長である夫が率先して話し合う問題だと思われます。■ 6.一番大切なのは、些細なことでも介護をひとりで抱え込まないこと介護や認知症を経験している人はたくさんいます。同時に情報もインターネットや新聞、雑誌などで簡単に得ることができます。naorock / PIXTA(ピクスタ)行動すれば助けてくれる人や組織、制度は必ず見つかるでしょう。最後にもう一度言います。大切なのは、介護をひとりで抱え込まないことです!どんな些細なことでもです!KY / PIXTA(ピクスタ)できるだけ協力者を確保して自分の負担を軽くし、介護者も要介護者も快適に過ごせるよう心掛けましょう。
2018年09月02日《今日、母が私を忘れていた。今年で米寿を迎える母母の夫、私にとっての父が他界してから約14年が経つあの父が亡くなった夜から、母は少しづつ悲しみを忘れたいのか、現実逃避していった気がする私は敢えて認知症なんて言葉は使いたくない悲しみを忘れたかった母の気持ちがわかる気がするから》8月20日、真矢ミキ(54)がブログで、同居する実母・雪子さん(87)への率直な心情を綴った。「08年に西島数博さん(46)と結婚後はお母さんが心配で、週に4回は“スープの冷めない距離”の実家に通っていました。結婚6年目に西島さんの方からお母さんに『一緒に住もう』と誘ってくれたときは“感謝で胸がいっぱいになった”と話していました。真矢さんは今、『白熱ライブビビッド』に出演のため、平日は朝4時半には起床。帰宅後はお母さんの介助をしながら、夕食をつくり、翌日の放送の調べ物を一通り済ませて夜11時に就寝する生活を続けています」(友人)そんな彼女が明かした悲痛――。《だけど今夜は一人ただ、どこまでも歩きたかった泣きたいという衝動的な娘としての感情とそれで良いんだといいきかせる、大人になっている自分がいることに気づいた夜だった》もともと宝塚に興味がなかった真矢をこの道に導いたのが、女子高の演劇部出身で宝塚ファンだった母・雪子さん。「真矢みき」という芸名を考え出したのも、彼女だった。「考えていた“友七緒”や“展七緒”という芸名は先生からダメ出し。そのとき雪子さんから『真矢みきはどう?』と。真矢さんは幼少期から破魔矢を買うのが好きで、『真っすぐ矢のように』と思いつき、あとは本名『美季』と組み合わせて“真矢みき”が生まれました」(前出・宝塚関係者)以来、雪子さんは真矢をずっと支え続けてきた。「お母さんは娘が載っている宝塚ファンの雑誌『歌劇』を枕元に積み上げて寝ていたそうです」(同前)真矢は34歳で宝塚を退団。「15年かけて男役トップスターになった真矢さんに引導を渡したのも雪子さんでした。“一人でも多くの人がトップを味わえるよう早くやめなさい”という宝塚愛が根底にあったのだと思います」(同前)芸能界に転身した真矢だったが、40歳の誕生日に実父が他界。「以来、雪子さんは実家でひとり暮らししていました。一方、仕事が好調で多忙を極めるようになった真矢さんが自宅マンションを改装した際、雪子さんが『寝室は結婚運が上がる方向にしなさい』とアドバイス。結婚の予定がなかった真矢さんが渋々それを受け入れたら、44歳で西島さんと結婚できたんです」(知人)常に真矢の人生のターニングポイントに関わっていた雪子さん。「一昨年、雪子さんが尻餅をついた程度で骨折してしまいました。その時も真矢さんは“老いるとはこういうことなのか”とショックを受けていました。今回の彼女の悲しみは計り知れません」(同前)ブログの結びで《母の人生母の思うままにあたたかい日々であってくれたらいいな》とある。母娘の“温かい日々”が一日でも続くことを心から願いたい――。
2018年08月30日「『脚にしびれや痛みがある』『長く歩くとつらい』、こうした症状は脊柱管狭窄症、もしくはその前兆かもしれません。『もう年だから』と諦める前に、どんな病気なのか知っておくことが大事です」こう語るのは、参宮橋脊椎外科病院の大堀靖夫先生。近ごろ、よく耳にする脊柱管狭窄症。どんな病気なのだろうか?「脊柱管とは背骨に沿ってのびるトンネルのようなもので、中には神経が通っています。加齢とともに脊柱管が狭くなり、神経が圧迫され、痛みやしびれが出るのです。活動的なシニアが増えたことから、注目されている病気です」平均寿命が延び、超高齢社会を迎えた現代。この症状に悩む人が急増しているようだ。「腰痛はひどくなく、背筋を伸ばして立ったり、歩いたりすると、脚にしびれや痛みを感じるのが特徴です。前かがみになるとラクになり、また歩けるようになる『間欠跛行』という症状を自覚して病院を訪れる患者さんが多いです」気がかりなのは脊柱管狭窄症が、運動機能が低下する「ロコモティブシンドローム」を招くことだ。「問題は歩けなくなること。体が動かしづらくなるため、ひきこもりがちになり、活動量が落ちるため筋力も低下します。運動不足やストレスから生活習慣病やがん、うつや認知症などさまざまな病気につながることも。足腰が弱くなることで、寝たきりや要介護のリスクも高くなってしまうのです」脊柱管狭窄症は、どの神経が圧迫されるかによって『神経根型』『馬尾型』『混合型』の3タイプに分かれる。「『神経根型』は薬などの治療で7割ほどの人は症状がよくなります。痛みが強い場合は、患部に麻酔薬を注射する『ブロック療法』を行うことも。『馬尾型』『混合型』では投薬治療のほかに、神経を圧迫している骨や靱帯の除去手術も検討します。手術だと短期間で症状が改善されます。また内視鏡などメスを入れる部分を小さくして体の負担が少ない『低侵襲』の手術も増えています」発症を防ぐには、腰に負担をかけない生活を心がけること。仮に発症しても、前向きに病気と向き合ってほしいと大堀先生は語る。「脊柱管狭窄症は命に関わる病気ではありません。治療の目的は症状を改善するだけでなく、背筋を伸ばして歩くことができること。それだけで心身ともに若返ります。生きがいや生き方を見つめ直すことにもつながるのです」
2018年08月30日「子育ては子どもが成長していく喜びが段階的にありますが、介護は出口が見えません。ダブルケアになって介護を続けていると、そういう不安が大きいと思います」こう語るのは、一般社団法人ダブルケアサポートの理事を務める植木美子さん(46)。「ダブルケア」とは、介護と子育てを同時に行っている状態を指す言葉だ。近年の晩婚化にともなう出産年齢の高齢化で、子育てをしている最中に、自分や夫の両親の介護に直面する女性が増えている。植木さんも息子が2歳だった34歳のとき、義母と義父の介護が始まったダブルケア経験者だ。7月に発表された「ダブルケアに関する調査2018」(ソニー生命調べ)では、子どもを持つ50代女性のダブルケア経験率は41.1%。さらに4.7%が近い将来直面する見込みだと答えている。介護と子育ての両立は精神的、肉体的負担だけではなく、経済的な負担も大きい。ダブルケアについて経済的側面からアドバイスしているソニー生命保険のライフプランナー・和知俊行さん(30)が話す。「要介護2で在宅介護の場合、およそ年間80万円ほどかかるといわれています。それ以外にも介護に関わる交通費や家族の諸経費などを考えると、だいたいの費用は月々10万円ぐらいと見ておいたほうがいい。ここに子どもの教育費が重なることになるんです」子どもの大学進学が重なれば、年間360万円がかかるケースもあるという。迫りくる危機に備えて、今すぐやるべき対策は?「まず、親が元気なうちに、親やきょうだいたちと話し合うことがいちばん重要です。介護になった場合にどうするか。親の退職金、年金、貯金がいくらあるかを把握し、そのお金をどのように使い、誰がメインで介護をするかなど、親族間で共通認識を持つことです。それから地域包括支援センターなどの相談窓口の連絡先を調べておくこと。そして自分たちも、必要なお金をできるだけためておくことです」和知さんは、今後必要なお金を把握しておくために、“家族年表”を作ることを勧めている。「何年後に子どもが高校や大学に入学するか。夫の定年時に、子どもや両親は何歳か……、家族全員のライフプランを年表に書き込む。これで、どの時期にどれぐらいお金が必要かを認識できるので、マネープランが立てやすくなります」ダブルケアに直面した際、当面安心できる貯金額の目安としては、介護される親と自分のものを足して1,000万〜1,500万円ほどだという。これくらいあれば、経済的な不安はかなり減る。「貯金額や親の年金額が不安な場合、親が健康な間に、民間の介護保険(終身介護保障保険)に加入してもらうという手もあります。契約内容や加入年齢にもよりますが、月5,000円〜1万円超の掛け捨てで、要介護2以上と認定されれば、初年度に120万円、以降は毎月60万円が支払われる商品があります。要介護2以上の状態が続けば保障は一生涯続き、保険料の納付も不要になります」(和知さん)一時的にお金を借りようとする家庭もあるかもしれないが……。「介護ローンの金利は一般的に奨学金の金利よりも高くなっています。ダブルケアで、どうしてもお金を借りなければならない状態になったときは、金利の低い奨学金を借りる方が得です」じつは和知さんも10歳のころ、両親が自宅で祖母の世話をするダブルケアの状態になった。「介護が始まってから、旅行や外食に行く機会が一気に減ってしまい、さみしい思いをしました。そういう思いをさせないためには、子どもにしっかりと家庭の状況を伝えて理解させたうえで、ときどき介護をデイケアなどの外部に任せて、子どものためだけの時間を作ってください。時間のメリハリが大切です」前出の植木さんも同意する。「介護はできるだけ介護サービスを利用することで負担を減らし、子育てをしっかりやることが大事」
2018年08月29日介護の悩みは尽きることはありません。身近に相談できる人がいると安心して介護が続けられますが、相談できない介護者もいます。認知症やアルツハイマーというだけで他人に打ち明けられず、つい閉口してしまうからです。そんな介護者について考えてみました。■ 男性介護者は要注意!真面目な人ほど相談できず孤独に陥る認知症の親を介護することになれば、食事や入浴、薬、下着、オムツ、排便と、いろいろな問題に直面します。その結果、介護者のストレスは溜まるいっぽうです。真面目な人ほど精神的に追い詰められ、精神系の病に見舞われることもあります。NOBU / PIXTA(ピクスタ)介護中はストレスが溜まり続け、いくらストレス解消とばかりに遊びに出かけても、家に帰ればまたイライラ。特に男性介護者は自分で悩みを抱え込み、他人に相談できない人が多いようです。男性は人に相談するより、自分で何とかしようとする傾向が強く、家に閉じこもってしまいがちです。つい暴力をふるってしまうのも女性より男性介護者のほうが多いとも言われています。■ 介護者の羞恥心とプライドが介護の邪魔をする!?人にあまり相談したり助けを求めない介護者は、認知症の親を人目にさらすのが恥ずかしいと思っているからでしょう。Fast&Slow / PIXTA(ピクスタ)しかし、認知症や介護は今や500万~600万人という人が関わっていて、恥ずかしいというレベルはもう過去の話です。恥ずかしいと思っている人は、認知症の知識が少なく、世間とズレているといってもいいでしょう。一方、自分の介護がうまくいっていると思い込んで、他者の援助を好まない頑固な人もいます。一言でいうなら、プライドでしょうか。これもまた知識や情報を持たず、社会との交流を避けている感があります。車いすに認知症の親を乗せて買い物や行楽に出かける娘や息子はたくさんいます。Fast&Slow / PIXTA(ピクスタ)まずは自分の気持ちと行動を少しずつ外に向けていくことから始めてはいかがでしょうか。■ 同じ悩みを抱える「介護者仲間の会」に参加するのも一つの手段そんなストレスまみれの介護者でも、唯一心を開ける場があります。それは、同じ悩みを持つ人が集う「介護者の会」です。xiangtao / PIXTA(ピクスタ)会員たちは自分と同じような経験をし、悩みを抱えていることが多く、それだけで救われる思いがします。介護者として仲間意識が芽生え、やがてアドバイスをしたり、受けたりするようになります。そこでは誰も虐待は良くない、とは言いません。そんなきれいごとでは済まないことぐらい、十分に承知しているからです。解決法を見つけることができなくても、会員たちは自分の話をちゃんと受け止めてくれ、経験を通してアドバイスをしてくれます。■ 困ったら、すぐに介護の専門家と話をしてみることが大切!介護者にとって最も大切なことは、いろいろなことを相談できる人がいるということです。実の兄弟や友人、あるいは近所のおばさんでもいいでしょう。できれば介護経験者であれば、より安心です。たとえば介護のプロ。ケアマネージャーや介護士などの専門家は、数多くの介護者、要介護者と接してきています。しげぱぱ / PIXTA(ピクスタ)相談者としては理想的です。これらの専門家とは市役所の介護課などで紹介してもらうといいでしょう。■ 常に介護される親の気持ちを考えてみるもしも自分が介護される側に立った場合、娘や息子にそこまで必死で介護してほしいと思うでしょうか。プラナ / PIXTA(ピクスタ)親としては、申し訳ないという気持ちで一杯かもしれません。親の本音はおそらく、独りで頑張らないでほしいということだと思います。自分のせいで子どもが苦しんでいるのを見て平然としていられる親などいないでしょう。そう考えれば、早く病院で診断してもらい、医師専門家の意見を聞いてみるべきです。■ 誰かに相談したくなったら、いろいろな会に参加する専門家は敷居が高いと思ったら、介護者の会に参加(見学だけでも可能)して、話がしやすい相手を見つけておしゃべりしてみましょう。みんなの話を聞いているだけでも勉強になります。「介護者の会」には男性だけの「オヤジの会」などもあり、介護に悩んだらぜひ一度、足を運んでほしいところです。全国の役所や社会福祉協議会などで紹介してくれます。Renoir / PIXTA(ピクスタ)かかりつけの医院でも、どこの病院にどのような専門医がいるか教えてくれることがよくあります。SoutaBank / PIXTA(ピクスタ)それでもだめならインターネットで探してみましょう。介護、相談といったキーワードで相談できる専門家がたくさん出てきます。とにかく、介護では自分一人で抱え込まないことが、一番大事です。抱え込んでしまうと、介護をする方もされる方もダウンしてしまいます。ぜひ、皆さんも参考してみてください。【参考】※認知症ねっと第33回家族による虐待 ~男性介護者の場合~※厚生労働省平成28年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果
2018年08月21日実は多い!?赤面症の悩み。 赤面症は精神医学的には社会不安障害(対人恐怖)のなかに位置づけられています。こうした対人恐怖は実はとても多くの方が悩んでいることにも関わらず、自ら治療を受けようとする方は少ないのが現状です。さらに、対人恐怖は何もせずとも自然と治ってしまう自然治癒率はとても低いのです。そのため多くの方が、そうした不安や苦痛を長い間ひとりで耐え忍んでいることが多いのです。そこで今回は、赤面症のメカニズムと、クリニックなどで、認知行動療法を用いてどんな風に治療をしていくのかご紹介します。もしあなたが赤面症で悩んでいたり、これからご説明することで思い当たることがあるようでしたら受診を考えてみるのも手。 赤面症のメカニズムとは? まずは赤面症というのが、いったいどんなメカニズムで生じているのかを考えてみます。赤面症の方が感じる恐怖には、1.「自分は赤面するだろう」↓2.「人は自分の赤面に気がつくだろう」↓3.「赤面によって、人に変だと思われるだろう」という3つの思考があります。そしてそれに赤面症を含む対人恐怖が、長い間つづいてしまう3つのポイントが関係しているのです。 ■1.意識を向ける先が自分自身へと向いてしまう 例えば、人前で話したり、誰かと会話をするとき。相手の反応や会話の内容ではなく「自分がどう見られているか」ということに意識が集中してしまっていませんか? ■他人にどう見えているか決めつけてしまう 二つ目は、自分の中にある「自分自身についての偏った情報」に基づいて、周囲の人の目に自分がどう映るのかを判断してしまうということです。たとえば、赤面症のある方は、実際以上に自分が真っ赤になっている自己イメージを頭のなかで描いていることがあります。そしてそのイメージをもとに「こんなに真っ赤になっている自分は変だと思われているに違いない」といった風に、周囲のひとの目に自分がどう映っているのかを判断してしまいます。 ■「安全行動」をしてしまう 三つ目は、恐れている結果になるのを防ぐために行う「安全行動」と呼ばれる行動をしてしまうことです。たとえば、赤面している顔を見られないようにするために下を向いて話したり、顔を手で隠そうとするような行動が安全行動といえます。しかし、こうした行動は実は逆にひとの注目を集めてしまったり、「変だと思われている」といった考えを強めてしまうことになります。 赤面症を治す方法 こうした視点に基づき、クリニックで行う認知行動療法では、一人一人のクライアントさんの話を聴きながら、赤面恐怖が起きている状況のモデルを作成します。そしてそのモデルに基づいて、その人に必要な様々な治療ステップを行っていきます。たとえば、自分自身について持っているネガティブなイメージを修正していったり、意識を自分自身ではなく外側の世界にむける「注意トレーニング」をしたり、安全行動に関する行動実験をしていったりします。「気づき」と「意識」で不安を和らげる 治療の目的を簡単にいうと下記です。・「実は自分で思っているほど、あなたが赤面しているということを人は気に留めていない」と気づくこと・自分自身のことを気にかけるよりも、会話の中身や、相手の反応など「外側の世界」へとあなたが意識を向けられるようになること・赤面しているのを、隠そうとせずに放っておけるようになることこれらの解決で、不安や恐怖はずいぶんと楽になっていくはず。 赤面症で悩んでいたら、この3つのことを思い出し、意識してみてはいかがでしょうか。ちょっと気持ちの切り替えで、心穏やかになれるかもしれません。 wellfyより
2018年08月18日8月も半ば。例年なら朝夕は秋めいてもいい時期ですが、今年はまだ記録的な猛暑が続いています。そのため熱中症にかかる人も多く、高齢者を中心に死亡する事態もたくさん起きています。高齢者と小さいお子様にとって、夏に危険なのが、台風のさなかに田んぼの様子を見に行って用水路にはまること(田舎の場合ですが……)と、熱中症です。介護職員ならではの目を通しての、熱中症対策についてご紹介いたします。■ 猛暑の夏はエアコンを使わないとダメ!その理由とは?熱中症は、体内の水分不足が主な原因で体温調節機能に失調をきたし、頭痛やめまい、最悪は死に至るという、なかなか侮れない症状です。特にお年寄りは、高齢になると水をあまり飲まなくなるんです。暑さ寒さの感覚も鈍くなって、真夏にカーディガンを羽織ったりしてしまいます。すると、体温が上昇して体内の水分が不足してしまい、加えて、じめじめと湿度が高い室内では発汗できずに、熱中症にかかってしまうのです。さらに「電気代を節約しなくちゃ」とか言っちゃって、エアコンを消してしまいます。ちなみにエアコンの室外機です介護施設では、職員が温度管理や水分補給に神経をとがらせていますから、そうそう熱中症になることはないのですが、独りで家に住んでいるおじいちゃん、おばあちゃんは、危険と隣り合わせ。遠方に高齢の両親がいる方は、まめに電話などして、エアコンを使うように促してくださいね。y_seki / PIXTA(ピクスタ)もちろん大人も、暑くて湿気の多い室内にいると、熱中症にかかるリスクが高まりますよ。頭が痛くなったら、熱を測ってみることをオススメします。tomcat / PIXTA(ピクスタ)体温が上がっていたら、熱中症の初期症状かもしれません。■ 脱水症状になる前に、水よりも経口補水液を飲もう!深刻な脱水症状になる前に、経口補水液(経口補水塩)を飲みましょう!経口補水塩経口補水液は、点滴に使われる成分の、短時間での吸収率が極めて高い水です。下痢や発熱、嘔吐などで、身体の上から下から、いろいろなものが出てしまった方にも効果があります。では、経口補水液の作り方を紹介します。水1リットルに、砂糖40g(スプーン大さじ4.5杯)と塩3g(小さじ1/2)を入れます。塩よりも砂糖がたくさん入っていますたった、これだけ!スプーンを使わない、もっと簡単な方法もありますよ。ペットボトルのキャップを使って、水2リットルに、砂糖14.5杯と、塩0.8杯を入れます。あとはキャップを閉め、ペットボトルを両手で持って、ぶるぶるぶると激しくシェイクするだけ!簡単ですね。あまりに激しく振りますと、まれにペットボトルが手からすっぽ抜け、天井や床にあたって中身が飛び散ることがあります。蛍光灯に命中すると、割れたガラス片が雨のように降ってきます。くれぐれもご注意ください。なお、経口補水液は一気に飲まず、ちょっとずつでお願いします。■ 大学研究者が推進!コップ一杯の牛乳を飲むと熱中症予防に熱中症の予防として、信州大学学術院医学系教授・能勢博さんが提案するのが、コップ1杯(約200ml)の牛乳を飲むことだそうです。ぱぱ〜ん / PIXTA(ピクスタ)経口補水液は、緊急時に手っ取り早く水分補給するのに役立ちますが、健康な人が飲むには、糖質も塩分も高すぎます。牛乳を飲むことによって、たんぱく質のアルブミンが血中に増え、浸透圧の影響で血管の中に水分が増えるということですよ。牛乳は高血圧の人や、ダイエットしてる人にも優しいですね。他には、夏にスイカを食べるというもの。そういえば、今年の夏にスイカを食べました?スイカの9割は水分で、しかもミネラルが豊富に含まれています。近頃、スイカは値段が高くて、スーパーで買うのをためらってしまいますけど、田舎では郊外の路上や産直ショップで安く手に入ります。なにげなく昔から続けている習慣には、ちゃんと意味や理由があるのですね。jyugem / PIXTA(ピクスタ)まだまだ暑い日が続きます。ぜひこれを参考にして、熱中症対策を心掛けてくださいね。【参考】※医療プレミア(毎日新聞)(written by とんちんさん)
2018年08月15日現在、認知症高齢者数は500万人とも600万人ともいわれています。また、認知症の年齢層は50~40歳代にも下がってきており、若いからといって決して安心はできません。介護をテーマに、誰にでも起こりうるさまざまな問題についてご紹介していきます。■ 65歳以上の高齢者の約7人に1人が認知症!内閣府によると、平成24(2012)年の認知症高齢者数は462万人で、65歳以上の高齢者の約7人に1人が認知症といわれています。しげぱぱ / PIXTA(ピクスタ)2025年には約5人に1人になるとも予測しています。参考までに平成25年にガンと診断された人は約86万人でした。この数字が示すのは、認知症は誰でもなりうる病気だということです。そしてそれと同じ数だけ介護する人(介護者)もいるということです。amadank / PIXTA(ピクスタ)■ 若年性の発症年齢は平均51歳!認知症は老人だけじゃない最近は64歳以下の「若年性認知症」の人も増えているようです。平成21年(2009)の若年性認知症者の方は約3万8000人もいるのです女性よりも男性がなりやすく、若年性の発症年齢は平均51歳といわれています。50代で認知症やアルツハイマーと診断されたらショックは大きいでしょう。しかし、それを引き延ばすと、取り返しのつかないことになります。若いために進行するスピードも速く、重病化する可能性が高まります。家族のことを思うなら、早めに病院で診察して、少なくとも進行を食い止める手立てを打つべきです。mits / PIXTA(ピクスタ)高齢者に比べて若年性認知症は本人に理解力があり、治療法を選択できるという判断力があります。■ 認知症の初期症状を単なる物忘れだと思い、放置してしまう人がほとんど!認知症の初期症状を単なる物忘れだと思い、放置してしまう人が大半です。そうして数年が経過し、ある日突然、家に帰ることができなくなったり、会社に行けなくなるなどの症状に見舞われることがあります。それまでも認知症の信号を多く出していたにもかかわらず、知識がないために見落としてしまうことが多いようです。それ以前に様子がおかしいと気づいたら、診察を受けることが重要です。Ideya / PIXTA(ピクスタ)ガンと同じように早期発見で改善したケースは多々あります。初期の軽度な認知症は自立した生活も可能ですので、その段階で進行を止めることができれば、仕事も家事も続けられる可能性はあるのです。■ 若年性認知症は多くの人を巻き込む可能性が大!一般の病気は病院に行くなど自分ひとりでも対応できます。しかし認知症の場合、親、配偶者、兄弟、子ども、さらには親戚をも巻き込んでしまうことがよくあります。80代の親を介護するのと、50代の夫や妻を介護するのとでは大きく異なります。70~80代に発症することが多い認知症ですので、それに応じた介護サービスが整っています。例えば日中はデイサービス(通所型の介護施設)、それ以外は自宅で過ごすことで介護者の負担は軽減できます。amadank / PIXTA(ピクスタ)ところが、40~50代で発症すると、仕事や育児に影響が出てしまいます。ふじよ / PIXTA(ピクスタ)子育てをしながら、夫の介護をするという難しい問題に直面することもあります。■ 認知症かもしれないと思ったら、すぐに病院に!いざ介護が必要になり、すべて自分ひとりで親や夫の面倒を看ようと頑張る方がいます。ひとりで24時間つきっきりの介護は共倒れになりやすく、最悪の場合、自殺や介護放棄といった事態になることもあります。現在は介護制度が整っており、さまざまなサービスを利用して介護の負担を軽くする方法が増えています。できれば、まず病院で診察して、その際に介護保険や介護サービスについて相談すると良いでしょう。CORA / PIXTA(ピクスタ)気軽に相談できるのは地域包括支援センターです。市区町村が運営しており、役所で聞いてみるのが手っ取り早いでしょう。ISO8000 / PIXTA(ピクスタ)介護のことならどんな些細な相談にものってくれますので、一度訪ねてみてください。問題なのは、知識がまったくないまま認知症や介護に直面することです。介護は誰にでも起こる問題と考え、今から少しずつ知識を吸収しておくことが大切です。【参考】※内閣府統計高齢化の状況認知症高齢者数の推計※厚生労働省若年性認知症の実態等に関する調査結果の概要及び厚生労働省の若年性認知症対策について※認知症介護情報ネットワーク若年性認知症について※国立がん研究センターがん情報サービス最新がん統計
2018年08月11日今月6日、大手医薬品メーカーのエーザイは、認知症新薬の効果が確認されたと発表した。すると、株価は急騰。認知症に対する関心の高さを物語っている。確かに、親が認知症になるのを、心配しない人はいないだろう。そうなると介護はもちろん、経済的な問題も。そこで、経済ジャーナリストの荻原博子さんが対策を解説してくれた——。皆さんがよく困るのは、親名義の銀行口座が多くの場合、凍結状態になることです。キャッシュカードなら出金できますが、窓口での出金は、たとえ実の子でもできません。出金や解約には「成年後見人」の指示が必要だからです。成年後見人とは、認知症などで判断能力が十分でない方の財産管理を援助する人で、家庭裁判所が選任します。現在、約21万人がこの制度を利用していますが、きっかけは、先述のような預貯金の管理や解約のためが最多なのです(’18年・厚生労働省・以下同)。ただ、あわてて家庭裁判所に申し込んでも、成年後見人が決まるまで数カ月かかります。また、親が元気なうちなら、自分で自由に後見人を選べる「任意後見制度」が利用できます。ですが、認知症発症後は親族が後見人になりたくても、親族間のもめごとがあったり候補者が遠くに住んでいるなどの理由で、家裁が弁護士などを選ぶことが多いのです。現在、成年後見人の73.8%は親族以外の弁護士などが占め、報酬の目安は月2万円です。ところが成年後見人による横領等の不正は、後を絶ちません。昨年の被害額は約14億円にも上ります。こうした事態を避けるためには、早めの対策が肝心。金融機関を利用するのも一手です。そのひとつ、西武信用金庫(東京都)の「家族預金信託(ファミリー安心信託)」をご紹介しましょう。一般に、財産を信託すると、自由に使うことや処分などができません。家族預金信託は、高齢者本人が判断できるうちは自分で自由に使えて、認知症になったら、ほがらか信託(東京都)が財産を預かり管理するのが特徴です。契約時に、認知症発症後のお金の使い方を指定すれば、生活費など一定額を定期的に受け取ることができます。また、妻や子などから、財産管理の指示者を決めておきます。そうすると、老人介護施設の入所金などまとまったお金も、指示者の判断で出金できます。本人が振り込め詐欺などにあっても、指示者の了承がなければ送金できません。利用できるのは、西武信金に預金口座を持つ人で、預金額などの条件はありません。しかし、信託手数料が、信託開始時に数十万円、定期出金などの利用方法によって毎月数千円かかります。これは信託手数料としては標準的ですが、注意が必要です。財産信託の申し込みは、通常、金融機関の店頭か自宅で行います。興味のある方は、親が住む地域の金融機関などを探してください。もうすぐお盆です。帰省の際に、親の財産管理について、家族で話してみてはいかがでしょうか。
2018年07月27日自閉スペクトラム症の人が見ている世界を研究自閉スペクトラム症のある人が見ている世界を、工学技術とのタッグで解析し、支援に役立てていく「CREST認知ミラーリング」プロジェクト。VRを使って、自閉スペクトラム症の特徴の一つである、視覚過敏症状を疑似体験できる、「ASD知覚体験シミュレータ」や、それを活用したワークショップなど、さまざまな研究を行っています。参考:CREST認知ミラーリングUpload By K2U関川香織この研究プロジェクトでは、4つの拠点が連携しています。発達障害の当事者視点の提案を東京大学の熊谷晋一郎先生から、多様な認知過程についての神経回路の計算モデルの提案を国立精神・神経医療研究センターの山下祐一先生から。そして、認知ミラーリングシステムを用いたシミュレータ開発を情報通信研究機構の長井志江先生が、実際の社会実装として障害者支援の立場からLITALICOが。さまざまな立場から、自閉スペクトラム症のある人たちの世界を研究し、伝え、社会の中にある障害をなくそうというプロジェクトです。では、自閉スペクトラム症のある人が見ている世界を体験できるシミュレータとは、どういう役割を果たす技術なのでしょうか。長井志江先生とLITALICO発達ナビの鈴木悠平編集長との対談で、紐解いていきましょう。自閉スペクトラム症の世界を体験するシステムを開発するきっかけは、ロボット開発にあったUpload By K2U関川香織LITALICO発達ナビ編集長・鈴木(以下、鈴木) 長井先生、今日はよろしくお願いします。CRESTプロジェクトで研究をご一緒していますが、今回は、CRESTが始まる以前のことからお話を聞かせてください。そもそも、長井先生が自閉スペクトラム症に関わるシステムの開発をしようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。長井志江先生(以下、長井) ロボットの開発をしていたときに、人工知能を賢く発達させていくために、人間の脳から学ぶことが多くありました。入力したことから引き出す結果である出力が、うまくいくときといかないときがあり、エラーが出てしまうのはどういうケースなのかを探る中で、自閉スペクトラム症についても研究することになったのです。そこで、東京大学で自閉スペクトラム症のある方々と「当事者研究」を実施している熊谷晋一郎先生ともつながることになりました。鈴木 なるほど、より賢いロボットをつくるために人間を理解する過程で、定型発達ではない人の脳についても研究することになったんですね。コミュニケーションについて研究するときに、行動の面ではなく、知覚に注目した理由はなぜでしたか?長井 以前から、自閉スペクトラム症は「コミュニケーションの障害である」という説明は聞いたことがありました。ですが、実は当事者は、「出力」としてのコミュニケーションの方法・行動に問題がある以前に、情報が脳に入ってくる「入力」の時点で、定型発達の人とは違う感じ方をしているのです。この視点をもって、CRESTプロジェクトを展開しています。コミュニケーション障害の問題点が、情報を受け取る知覚の違いにある、と気づいたのは、自閉スペクトラム症当事者である綾屋紗月さんとの出会いが大きく影響していました。ヒントとなったのは、綾屋さんの著書にあった写真です。ある景色を普通に撮ったものと、綾屋さん自身にはこう見えるという、コントラストを非常に強くしたものが比較されていました。このコントラストを強くしたものが自閉スペクトラム症の人が見ている世界なら、工学技術で再現ができると思いました。この「自分が何をどう見ているのかを客観的・理論的に分析したい」というニーズに、工学技術がマッチしたと言えます。人間は、自分が何をどう見ているかを自分では気にしていない、隣の人も同じだと思っているUpload By K2U関川香織鈴木 綾屋さんに出会う前から、今回の「ASD知覚体験シミュレータ」開発の基盤となる、技術自体はあったということなんですね。長井 そうですね。ロボット開発をするときは、「入力」と「出力」をセットで開発していきますから。でも、ロボットではない私たち人間は、ふだん自分が何をどう感じているかという「入力」について気にすることは、あまりないんですね。鈴木 たしかに、人から「何がどう見えているの?」と聞かれることはないし、聞かれても客観的に答えることは難しいかもしれませんね。そこに気づいてから、シミュレータのアルゴリズムが完成するまでにはどんな研究があったのでしょうか?長井 知覚の中でも、工学技術的に取り組みやすかった視覚から研究が始まったわけですが、この自閉スペクトラム症のある人の見え方には、個人差が非常に大きくあります。さらに、ノイズなどの特別な見え方は、いつでも見えるわけではなく、ある一定の条件下で起こるということも分かってきました。そこで、データをとって背後にあるメカニズムを探ることになりました。どういう刺激が入るとどう見えるのか、という自分でもよく分からないことを、たくさんのデータを積み重ねることで、分析できるのでは、と。鈴木 なるほど。長井 ここに、自閉スペクトラム症当事者22名(平均年齢38歳)を対象にした認知心理実験の結果があります。29種類の動画を見てもらい、どのように見えることがあるか、というフィルタを6種類用意して、見え方が近いものを自閉スペクトラム症当事者に答えてもらう、という実験をしました。動画は、それぞれのシーンごとに、輝度(まぶしさ)、エッジ量、動き、音の強度などについて調整されているので、自閉スペクトラム症の人たちが選んだ見え方と合わせて分析すると、どういうシーンでどう見えるかが分かる、ということになります。その結果を解析したところ、3つの共通したパターンが分かってきました。Upload By K2U関川香織長井 広いスキー場の映像を見てもらった結果、「画面が白く飛んで見える」と答えた人が非常に多くいました。これは、瞳孔の調節機能にも関係している現象です。定型発達の場合でも、暗い室内から急に明るい屋外に出たときに「まぶしい」と感じますね。自閉スペクトラム症のある人は、「まぶしい」と感じたときに起こる瞳孔の収縮率が低く、ゆっくりなので、「まぶしい」状況がもっと長く・強く続くことから、この現象が起こるようです。Upload By K2U関川香織長井 ホームに入ってくる電車の映像です。電車の車体の緑色のラインが、ときどき白黒に見える、色が消えるという現象を訴えた人が多くいました。色覚異常がないにもかかわらず、です。定型発達でも自閉スペクトラム症でも、視野の中心部分では色や形がはっきりと見え、周辺に行くほど色も形もはっきりしないことが分かっています。また、動くものをとらえるのは基本的に周辺視野です。動く電車の色が消えるという現象は、自閉スペクトラム症の人たちは、周辺視野でものを見やすいという傾向と関係があると考えられます。Upload By K2U関川香織長井 スクランブル交差点で信号が変わり、たくさんの人が渡るときの映像では、砂嵐のようなノイズが見えるということがある、という結果が得られました。これは個人差が大きく、出る場合の条件もさまざまでした。ただ、動きや音強度の変化が大きいときに砂嵐状のノイズは起きやすく、変化が小さい場所ではノイズが起こりにくい、ということが共通していました。この現象は、片頭痛がある人にも見られる現象で、脳の特異的な活動に関係があるらしいということまで分かっています。こうしたノイズは幻覚ではなく、脳の働きによって現れるものなのです。情報のインプットのされ方への理解が、コミュニケーションの足掛かりになるUpload By K2U関川香織鈴木 アウトプットの問題だと言われていたことが、実は刺激=インプットの情報によるものだと分かったわけですね。自閉スペクトラム症のある人は、相手の表情を「見ない、見ようとしない」と言われてきたけれど、「見ない」のではなく、刺激への過敏性があることによって、相手の表情がよく見えない、という場合も少なくないのでは、と思います。このシミュレータを使って、経験することによって、「こう見えているのか」と分かることがたくさんありますね。本人が感じているしんどさの部分への想像を働かせやすくなりそうです。長井 自閉スペクトラム症のある子どもの保護者や、当事者もですが、「なんでそういう行動をするのか」という理由が分かるようになった、ということが大きいですね。「バーチャルだとしても、本人の困難さを体験できる」ことが重要です。鈴木 これまでのワークショップを通じて、いろいろな声を聞かれたと思います。当事者以外の方からの声で、印象深いエピソードがあれば、教えてもらえますか?長井 あるお母さんが、ワークショップ中に「子どもがいつもやっていることをやっていいですか?」と、天井を見ながら、手をひらひらと振って見せてくださったことがあります。「こうやりながら、子どもがいつも『キラキラして楽しいね』と言うんです。天井には何もないのに、と思っていたんですが、シミュレータをつけたら、たしかにキラキラしたものが見えました。楽しいといえば楽しい。これまでは『キラキラなんてないよ』と言っていたけど、あるんだ、ということが分かりました」と。このようにして、行動にまつわる「なんで?」の論理的な背景を、シミュレータの体験によって、理解することができると思っています。親も支援者も、当事者も、「なんで?」「どうして?」の理由が1個ずつ分かって、スッとするのだと思います。「安心しました、肩の荷が下りました」とおっしゃる方もいます。鈴木 なるほど。長井 現象そのものは「ある」だけで、それ自体にはいいも悪いもありません。キラキラが見える子は、困ってはいない場合もあるので、「そんなの見えないでしょ、落ち着いて」とか言わなくてもいい、ということになるんです。支援を考えるときのステップがスムーズになるというか。鈴木 支援以前に、まず知ること・理解することができるギアとして、シミュレータが役に立ってくれそうですね。長井 自閉スペクトラム症の人には視覚の過敏性がある、と漠然とは言われていたものが、もっとはっきり分かるようになります。どういうときにどう見えるか、が客観的に分かることによって、周りも本人も、自分の状況を整理できると思うんです。自閉スペクトラム症の人に参加していただいた実験やワークショップのときには、見え方のパターンを教えるだけで、生活上のアドバイスはしていませんが、後日、「実験に参加してからからサングラスをかけたり、こまかく調光できるLEDの照明に変えたりしました」と話してくれた当事者の方もいました。自分の見え方・感じ方に対して理解を深めることで、自分で解を探り当てたんですね。鈴木 すばらしいですね。自分の体験を客観的に見るという体験を通じて、ホワイトアウトやノイズが当たり前だった人が、そうならないための工夫を理解する、ということですね。長井 自分の中で起こっていることは、外在化されないと、自分でも納得できないでしょう。現象をデータ化することで、自分でも認めて、周りにも認めてもらうことになるんです。鈴木 キラキラして見える、と言うと周りからは「疲れてるだけでは?」と言われたりするけど、一定のロジックで説明されると、言う方も言われた方も両方納得する。説得力のあるシステムですよね。長井 こういうことを、周りが聞いてあげるといいんですよね、どう見えるの?って。そうすると、当事者としては、共有できた!と思える体験になるんです。「そんなのは気のせい」と片づけられるのではなく、コミュニケーションのきっかけになるんですよ。鈴木 この体験を足場にしてコミュニケーションが始まるんですね。見え方の個人差による違いはあるけど、代表的にはこういうものがある、と分かれば、それを足場にしていくことができる。より解像度の高い理解ができると思います。これからの課題は、学術的な知見を社会実装につなげることUpload By K2U関川香織鈴木 今後の展望を教えてください。家庭や支援者だけでなく、企業や教育現場へと広げていくことで、どんな課題がありますか?長井 これまでは、「ASD知覚体験ワークショップ」の対象は、保護者や支援者など、自閉スペクトラム症当事者への理解がある人たちでした。これからは企業や教育現場へ広げて、自閉スペクトラム症とかかわりが今までなかった人にも体験してもらいたいと思っています。鈴木 そうですね。今後は、もっと広く社会に向けて、このシミュレータやワークショップを広げていきたいですね。実際に企業や学校の現場に導入する際、このシミュレーションシステムは、どういう役割を担っていくことになるでしょうか。長井 ものの見え方の「翻訳機」なんだと思います。たとえば言語の違う人たちの間で、同じ思いがあったときに、言葉の通訳や翻訳があれば、相互理解する一歩となりますよね。それと同じように、「こう見えている」ということを翻訳するのが、このシミュレータの役割だと思っています。相互理解に、科学的根拠を加えるのが技術の力です。今、CRESTのシミュレータの研究は、学術的なところにとどまっているけれど、これを社会に役立てていこうとするときに、熊谷先生やLITALICOさんの力が、より必要となるはずなんです。大学の研究と当事者の間をつなげる役割を、LITALICOさんにぜひ担っていただきたいと思っています。鈴木 対話や試行錯誤が、ここから始まっていくんだと思います。これからのワークショップも、一緒につくっていきましょう。どうぞよろしくお願いします。撮影:鈴木江実子
2018年07月21日あなたは日々の記録、日記をつけていますか?スマートフォンで手軽にスケジュール管理ができたり、SNSで手軽に今日の出来事を発信できる現代ですが、日常の記録をつけている方ってどれくらいいるんでしょうか?今回は、”日記”についてのお話です。■ 意外も多くの20代の男性たちが日記をつけていた!こちらのグラフは、20代から60代の男女(各年代性別ごと100人の)計1,000人を対象にした日記に関する調査のものです。何らかの手段で日々の出来事を記録に付けていると回答した割合は、30代女性がトップの39%。次いで、20代女性と60代女性の31%という結果となりました。ここで男性陣の結果を見てみると、20代男性が27%。polkadot / PIXTA(ピクスタ)他の世代の男性も割合は低いものの、意外にも20代の男性が日常の記録をつけていることが判明。それでは、記録をつけていると回答した人はどのような手段で記録をつけているのでしょうか?■ 日記、ブログ、それともSNS?日記をつける手段とは?日々の記録をつけている人は、日記、ブログ、SNS……、どのような”手段”で記録しているか調べてみました。「日記を付けている」という回答がすべての世代でトップでした。Hasemi / PIXTA(ピクスタ)「ブログに書いている」「SNSに書いている」と回答した割合を合計してみると、30代女性で25%、20代男性21%、20代女性18%。tomcat / PIXTA(ピクスタ)やはりSNS世代と呼ばれるだけあって、20代は特に”SNSで記録をつけること”が”日記をつけること”に迫る勢いであることが見て取れます。しかしブログやSNSは、記録をつけるというツールであると同時に、”他者に発信するもの”という側面を持っています。個人の日記であれば”自分の感情を存分に吐き出すことができてスッキリする”、などの効果が期待できますが、SNSは特に”他者に見られる(評価される)”という側面も持っています。SNSに記録をつけることは、過去を振り返ることができるなどのメリットを持ちつつも、利用している人の中には遠慮や見栄を張って記録されている方も多いと考えられるのです。■ 健康になれる!? 日記のすごい効果日々の記録として”日記をつけている”と回答した方は、すべての年代で「(紙の)日記帳、手帳」に日記をつけているが50%を超えていました。パソコンやスマートフォンで簡単に記録をつけられる時代であっても、”日記は手書き派”が多いことはとても興味深い結果となりました。自分で字を書いて日記をつけることは、健康にもいい効果が期待できる説もあるようです。例えば、認知症予防。パソコンの変換機能に頼らず、考えながら書く作業は時間はかかりますが、文字を思い出すきっかけになり脳へのいい刺激となるそう。cba / PIXTA(ピクスタ)また、モヤモヤする感情を紙に書き出すことで、心の健康にもつながります。筆者は怒りの感情を紙に書いてみたことがあるのですが、自分の怒りに冷静になれるのでオススメです。書くことで自分の感情に対して客観的になり、落ち着いて物事を考えることができたり、また日記を読み直すことで、それまで思いつかなかった選択肢に気づけるようになるなどの効果が期待できるそう。手軽に記録できるスマートフォンの日記アプリやSNSもいいですが、思わぬ効果が期待できそうな”手書きの日記”、日常に取り入れてみるのもいいかもしれませんね。【参考】※日記を付けている割合は、20代女性で18%、30代女性で26%。男性では20代で12%。-PR TIMES※認知症と脳のトレーニング-認知症ねっと※こころと体のセルフケア-厚生労働省
2018年07月18日「仕事も親の介護も両方こなさなければならないという家族にとって、『混合介護』は非常に有意義なサービスです。介護保険を使ったサービスと保険外のものを両方うまく組み合わせることで、在宅介護の負担はかなり軽減できるからです」 こう語るのは、All About介護ガイドの介護アドバイザー・横井孝治さん。混合介護サービスとは「介護保険の範囲内(保険内)で受けられる、自己負担1〜2割のサービス」と「介護保険の範囲外(保険外)、全額自己負担のサービス」の、2つを併用して行う介護サービスのこと。 厚生労働省は、「混合介護」の拡大に向け、現在“新ルール”を作成中で、今夏をメドに明確な方針をまとめて全国の自治体に通知する予定だ。 これにより、訪問介護で身体介護(排せつ、食事、清拭・入浴の介助など)のサービスを受けた後に、保険外サービスで家事援助(同居する家族の分の調理、洗濯、掃除、買い物など)が、そのまま続けて受けられるようになる。介護生活になるまで、利用者が一家の家事を担っていた家庭にとっては、非常にありがたいサービスと言える。 そして新ルールの“目玉”は、通所介護における保険外サービスだ。主な内容は次のとおり。 □緊急時における医療機関への受診や巡回健診□理美容サービス□予防接種□物販□買い物の代行サービス□個別の同行支援(付き添い) 「これまでのデイサービスででは、事業所に滞在中は、個人的な用事で利用者が外出することはできませんでした。しかし新ルールでは、保険外サービスを利用し、スタッフが同行し“○○に行きたい”といった要望に応えられるようになる予定。こういった個別のサービスの提供で、さらに利便性をよくしようという考え方です」(厚生労働省老健局) 介護保険は、調理、洗濯といった家事などのサービスは利用者本人だけが対象だ。訪問介護でスタッフが掃除できるのは利用者本人の部屋のみ。「ついでに家族の部屋も掃除してもらいたい」と思っても、保険内ではできないことになっている。 ところが、新しい保険外サービスでは、追加料金で“家事代行”の願いに応えてくれるという。 「ほかの家事をついでにやることは、介護スタッフにそれほど大きな負荷をかけるものではありません。たとえ有料であっても、介護負担がさらに軽減できると、歓迎する家庭も多いと思います。事業者側も介護報酬とは別に収益が入るので、混合介護サービスの利用者が増えれば、スタッフの給与アップにもつながる」(横井さん) 事業者間でサービス内容の競争が始まれば、質の高いサービスを安い料金で受けられる可能性もある。混合介護サービスは、利用者とその家族、そして介護事業者、介護スタッフなど、どちらにもメリットがある制度といえる。 いっぽうでマイナス要素も指摘されている。保険外サービスは全額自己負担なので、どうしても経済的負担は増える。つまり、お金がある人は大いに利用できるが、余裕がない人はただただ我慢……。いわゆる“サービス格差”が広がるという懸念があるのだ。 また、要介護者本人が保険外サービスを過度に利用することで、自立支援の妨げになるかもしれないともーー。 「介護保険をたくさん使ってもらったほうが、事業所は儲かる」と話すのは、都内で介護事業所を経営する男性だ。 「1割負担の利用者さんが1万円分の介護サービスを受ける場合、利用者さんの負担は1,000円。残りの9割は国から入る。仮に、保険外サービスの料金が1,000円だとしたら、事業所にはそのお金しか入らない。ヘルパーさんの時間給は同じなので、その1,000円が時給より少なければ、事業所はまったく儲からないわけです」 介護保険の収入を維持しながら保険外の収入を増やす必要がある。そこで、料金設定をどうするか。ヘルパーに支払う保険外サービスの報酬をどうするか。そしてサービス内容をどのように拡充し、ほかの事業所と差別化するか。混合介護サービスを提供していく側にとって、今後の課題となりそうだ。 だが、別の介護事業所で働くケアマネジャーは、大きな期待を寄せている。 「ヘルパーさんを募集してもなかなか集まらない。定着しないのが実情です。でも、身体介護の資格を持ったヘルパーさんだけでなく、掃除やゴミ出し、ペットの散歩、買い物などを担当するスタッフが、どんどん保険外サービスをやるようになれば、そういった仕事が新たなパート先として注目されるかもしれません」 横井さんに、この混合介護サービスを上手に使うコツを聞いてみた。 「最初に、どこまでが保険内で、どこからが保険外のサービスになるのかを把握しましょう。そして実際に利用する場合は、できるだけ同じ介護事業者にやってもらうほうが効率的です。ただし、事前に周辺地域の事業所をリサーチし、パンフレットなどで、そこがどのような保険外サービスを提供しているかを確認してみてください。サービスによっては、シルバー人材センターにお願いしたほうが、安くなるかもしれませんから」 もし今後、家族のために“介護離職”をしなければならないという状況になった場合も、ぜひこの混合介護サービスの利用を、検討してみてほしい。
2018年06月06日訪問介護で自宅に来てくれたヘルパーさんに“保険内ではできないこと”まで注文してしまう人がいるが、その願いは、やがてかなえられるようになるかもーー。 「仕事も親の介護も両方こなさなければならないという家族にとって、『混合介護』は非常に有意義なサービスです。介護保険を使ったサービスと保険外のものを両方うまく組み合わせることで、在宅介護の負担はかなり軽減できるからです」 こう語るのは、All About介護ガイドの介護アドバイザー・横井孝治さん。混合介護サービスとは「介護保険の範囲内(保険内)で受けられる、自己負担1〜2割のサービス」と「介護保険の範囲外(保険外)、全額自己負担のサービス」の、2つを併用して行う介護サービスのこと。 「『介護保険サービス』で受けられる身体介護と生活援助」と「全額自己負担『保険外サービス』」の主な内容(訪問介護)は次のとおり。 【「介護保険サービス」で受けられる身体介護と生活援助】〈身体介護〉□排せつ、食事、清拭・入浴の介助□就寝・起床、更衣の介助□身体整容、洗面□体位変換□通院、外出介助□自立支援のための見守り援助□専門的配慮をもって行う調理(流動食・糖尿食などの調理)〈生活援助〉□掃除、洗濯、ベッドメーク□衣類の整理・被服の補修□一般的な調理・配下膳□買い物・薬の受け取り ※訪問介護(保険内サービス)の特徴は、“要介護者本人だけを対象としたサービスである”ということ。そのため、同居家族の分の食事を作ったり、介護者以外の部屋の掃除をしたりすることは保険内ではできない 【全額自己負担「保険外サービス」】□同居する家族の分の調理、洗濯、買い物□利用者本人が使用する居室以外の掃除□庭の草むしりや花木の水やり□ペットの散歩や世話□家具の移動、電気器具の付け替え、修理□窓拭きや大掃除□配食サービスなど 厚生労働省は、「混合介護」の拡大に向け、現在“新ルール”を作成中で、今夏をメドに明確な方針をまとめて全国の自治体に通知する予定だ。 これにより、訪問介護で身体介護(排せつ、食事、清拭・入浴の介助など)のサービスを受けた後に、保険外サービスで家事援助(同居する家族の分の調理、洗濯、掃除、買い物など)が、そのまま続けて受けられるようになる。介護生活になるまで、利用者が一家の家事を担っていた家庭にとっては、非常にありがたいサービスと言える。 そして新ルールの“目玉”は、通所介護における保険外サービスだ。 「これまでのデイサービスででは、事業所に滞在中は、個人的な用事で利用者が外出することはできませんでした。しかし新ルールでは、保険外サービスを利用し、スタッフが同行し“○○に行きたい”といった要望に応えられるようになる予定。こういった個別のサービスの提供で、さらに利便性をよくしようという考え方です」(厚生労働省老健局) 通所介護で、すでに先行している例として“お泊まりデイサービス”がある。 「デイサービスまでは介護保険の範疇ですが、お泊まりになると、その分は自己負担になります。それでも施設には介護スタッフがいるので、家族も安心して休みを取れるわけです」(横井さん) これまでも、混合介護サービスは行われていたが、自治体によっては、運用について明確なルールがなく、「曖昧でわかりにくい」と現場を混乱させることが多かった。介護事業者もその煩雑さから、あまり積極的ではなかったという。 「保険外サービスにはさまざまな制限があるからです。たとえば、訪問介護で同じスタッフが同時に両サービスを提供できない。それぞれ時間を分けてスタッフは別にしなければならない。あるいは、保険内から保険外のサービスに移るときに、スタッフはエプロンや名札を付け替える必要があるなど、自治体によってルールもバラバラ。非効率的でもありました」(前出・老健局) 介護保険は、調理、洗濯といった家事などのサービスは利用者本人だけが対象だ。訪問介護でスタッフが掃除できるのは利用者本人の部屋のみ。「ついでに家族の部屋も掃除してもらいたい」と思っても、保険内ではできないことになっている。 ところが、新しい保険外サービスでは、追加料金で「同居する家族の分の調理、洗濯、買い物」から「ペットの散歩や世話」などの “家事代行”の願いに応えてくれるという。
2018年06月06日介護保険料はそれなりの負担額で、特に年金生活者にとって重い負担となります。私も初めて介護保険料を徴収された際は「かなりの金額」と思いましたが、安心して老後を送るために必要なものであれば仕方がありません。そのためできるだけ公平に負担し、適正な使われ方をしているかを注視し、いざ利用する側になった場合は節度ある利用を考えたいものです。今回は保険料の仕組みについて理解していきましょう。○介護保険制度と介護保険料の関係下図は以前にもご紹介した介護保険の仕組みの図ですが、介護給付に必要な資金の構成を赤い点線部分に追記して示しています。その部分を見ると、介護サービスに必要なお金の原資の構成がわかります。税金と保険料が50%ずつなのは、老齢基礎年金と同様です。問題は、この税金や保険料を「誰」が「どのくらい」負担しているかです。制度を存続させるには、収入に応じて適切な負担割合であり、生活が苦しくても何とか負担していける額であることが必要です。○第1号被保険者の保険料の仕組みとは「第1号被保険者」とは上記の図でいうところの65歳以上の方々で、保険給付に必要な費用の21%を保険料として負担しています。保険給付に必要な費用の半分は税金で、残りの半分は保険料です。そのため、保険料のおよそ40%を第1号被保険者が負担している計算になります。この配分がベストであるか、どこか問題点があるかを最終的に判断するのは国民の役割です。当事者、またはそれに近い年齢の方ですと実感しやすいのではないでしょうか。○第2号被保険者の保険料の仕組みとは40歳以上65歳未満の「第2号被保険者」の保険料の仕組みと流れを下にまとめました。ポイントとなる部分に赤い点線で囲んであります。保険料は医療保険に上乗せして徴収されますが、加入している医療保険の種類(国保、協会けんぽ<※1>、組合健保<※2>)、共済健保<※3>)により、金額が異なります。また、地域やそれぞれの組合によっても違います。※1協会けんぽ(全国健康保険協会管掌)……2008年に政府管掌健康保険制度より移管し、健康保険適用事業所である中小企業の従業員とその扶養家族が加入する医療保険で、保険料率は都道府県単位で異なります。※2組合健保(組合管掌健康保険)……社員数700名以上の企業は国の認可を受けて、自社独自の健康保険制度を設立でき、組合健保と称されます。※3共済組合……公務員らが加入する制度です。組合健保については、国による一定の基準はあるものの、各組合によって異なる部分も多いと考えた方がよさそうです。そのため、会社の組合に詳細を確認した方が確実です。特に通常とはやや違った下記のようなケースに該当する場合は、ご注意ください。(1)海外在住の場合(2)本人が海外在住で、扶養家族が介護保険の第2号被保険者に該当する場合(3)本人が40歳未満または65歳以上で、扶養家族が介護保険の第2号被保険者に該当する場合(特定被保険者)(4)育児休業に該当する場合○自身で確認しましょう私自身、若い頃は医療保険の制度など、全く関心がありませんでした。今の若い世代も同じかもしれません。しかし、これからの時代はレールの上に乗っていれば安心という時代ではありません。少なくとも保険料を徴収されている以上、自分たちの今後の生活に大きく影響する制度については、直接生のデータに触れてほしいと思います。末端の雑多な情報に振り回されずに、ぜひ直接会社の組合制度を調べてみたり、国の介護保険制度の詳細を直接確認したりしてください。今ではインターネットで国の制度や条文など、いくらでもチェックできます。本稿がそのきっかけになればと思います。※写真と本文は関係ありません○■ 筆者プロフィール: 佐藤章子一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。
2018年04月19日トイレを洋式に変更するのも介護保険に係る住宅改修の対象になる介護保険で住宅が改修できる――。こう聞いても、介護経験のない方は、ピンと来ないかもしれません。ただ、介護が必要な家族がいると、日常生活において切実な問題に必ず直面します。被介護者が自分で行えることの範囲を広げたり、少しでも介護をしやすくしたりするため、住まい改造に着手するケースは実は多いのです。すでに要介護認定を受けていれば、ケアマネージャーからも情報が得られますので、介護保険を利用して住宅改修を実施している人は少なくありません。今回は住宅改修の観点から、介護保険制度をみてみましょう。○介護保険における住宅改修とは介護保険は「自宅に手すりを取り付ける」など、要介護者らがより住みやすいよう住宅を改修するにあたり、一定の費用を支給してくれます。必要な書類(住宅改修が必要な理由書など)を添えて申請書を提出し、工事完成後に費用発生の事実がわかる書類(領収書など)を提出すると、実際の住宅改修費の大部分が償還払いで支給されるという仕組みです。実際に利用するとなった場合、どのような改修が制度の対象となるのか、その詳細を知りたいですよね。以下に具体例をまとめましたので参考にしてください。(1)手すりの取り付け(2)段差の解消(※)(3)滑りの防止および移動の円滑化などのための床または通路面の材料の変更(※)(4)引き戸などへの扉の取り替え(5)洋式便器などへの便器の取り替え(6)その他、それらの住宅改修に付帯して必要となる住宅改修※屋内における段差解消、床材の変更および手すりの取り付けなどの工事、玄ポーチの工事、玄関から道路までの(建物と一体ではない)屋外での工事も住宅改修などが対象高齢になるとどのような配慮が必要となるかを知っておけば、住まいをリフォームしたり、リノベーションしたりするときに参考になります。今は手すりが必要でなくても、壁の下地に手すり用の補強を入れておくだけで、後々より簡単に手すりが取り付けられます。また、高齢者への配慮は幼い子どもへの配慮にも通じるものがあります。核家族世帯の方も、こういった住宅改修における知識を知っておいて損はありませんよ。なお、やむを得ない事情がある場合には、上述の(1)から(6)に係る工事が完成した後に住宅改修に関する申請をすることができます。○支給額と申請手順をチェック住宅改修に係る支給限度基準額は20万円で、一般的には範囲内でかかった費用の1割が自己負担となります。すなわち、最大で18万円が支給される計算になります。この20万円という金額は「要支援」「要介護」の区分に関わらず定額です。また、「一人につき生涯20万円まで」が原則ですが、要介護状態区分が重くなったとき(3段階上昇時)や転居をした場合は、再度20万円までの支給限度基準額が可能となります。申請をする手順も確認しておきましょう。STEP1: 住宅改修についてケアマネージャーなどに相談STEP2: 申請書類または書類の一部提出・確認STEP3: 施工STEP4: 住宅改修費の支給申請・決定申請をするにあたり必要なのは「支給申請書」「住宅改修が必要な理由書」「工事費見積書」「住宅改修後の完成予定の状態がわかるもの(写真または簡単な図を用いたもの)」となります。実は、私の実家も介護保険を利用してリフォームしました。築40年程度の古い家だったため、トイレは和式で家の中に手すりもありませんでした。高齢で足腰が弱った父のため、私が設計してケアマネージャーと相談しつつ改修しました。住宅改修におけるケアマネージャーのサポートは助かりますし、頼りになる存在です。ただ、補助があるとはいえ、税金を活用するわけですので、適正な価格になるようにいくつかの会社から見積もりを取ることをお勧めします。※写真と本文は関係ありません○■ 筆者プロフィール: 佐藤章子一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。
2018年04月18日「父が認知症になり、先祖代々引き継いできた土地や家が動かせず、ほとほと困っています。一部を売却して介護費用にあてたいのに……」 そう嘆くのは、千葉県在住の山本春子さん(52・仮名)。75歳の父親が数年前に認知症を発症し、その財産が“凍結”されてしまったという。 超高齢社会で65歳以上の4人に1人が認知症予備軍といわれている昨今。親が認知症になり、「実家を処分することができない」「預貯金を引き出せない」などのトラブルが急増している。たとえ本人のためであっても、家族が財産を勝手に処分したり、活用することはできないためだ。 山本さんの場合、両親の介護費用は月約35万円。さらに、空き家となった実家の固定資産税や、割高な空き家用の火災保険料などが、年13万円以上かかり、家計を圧迫し続けているという。 管理のために、定期的に掃除や草取りにも通わなければならない。実家を相続するまで処分できないため、父親が亡くなるまでの数年、場合によっては10年以上もこの状態が続く可能性があるという。 「最近、『家族信託』という制度があることを知りました。父に認知症の前兆が出たころに知っていれば、その制度が使えていたのに……。悔やまれてなりません」 はたして、山本さんがいう「家族信託」とはどんな制度なのか。家族信託普及協会の代表理事で、家族信託研究所を運営する司法書士の宮田浩志さんはこう解説をしてくれた。 「財産の管理をほかの人に任せることを信託といいます。以前は、信託銀行や信託会社など、専門家に任せるのが主流でした。しかし、’07年の信託法改正を契機に、“信頼できる相手との間”、特に家族の間で使いやすくなりました。家族間で行うことが増え、『家族信託』という言葉が生まれました」 一般的に、親が認知症になった場合の方法として、契約や財産管理を任せる後見人を選任する「成年後見制度」が知られている。前出の山本さんも、当初この制度を利用しようとしたという。 「家庭裁判所に後見開始の審判の準備をしました。しかし、後見業務をいくつも手がけている弁護士のほうが選任される可能性が高くなり、途中で諦めました。専門家といっても第三者が入り込むのは気が引けたんです」 後見人となった親族が財産を私的に使いこむ事件が相次いだため、近年の家庭裁判所は弁護士や司法書士などの専門家を後見人に選ぶ傾向にあるという。 さらに、山本さんが父親の後見人になったとしても、実家を処分するには高いハードルがある。家庭裁判所の許可が必要なのだ。 「後見制度は、“財産を維持し、本人のために使う”ことを求められるので、本人の生活費以外の資産を家族が活用するのは困難です。親が施設に移って実家が空き家になっても、売ることができない。賃貸アパートの大規模修繕や親のお金で二世帯住宅を建てたいときなども、家庭裁判所が認めない可能性が高いですね」(宮田さん) 一方、家族信託なら、あらかじめ決めておいた目的と権限の範囲内であれば、親の財産を自由に活用できる。 「成年後見制度では難しかった、家のリフォームや賃貸マンションへの建て替えなど自由度の高い活用ができます。自宅を売却する場合も家庭裁判所の許可がいりません。ただし、家族信託は、本人に判断能力があるうちに、託す相手やその内容を決めておかなければなりません。完全に判断力が低下してから、始めることはできないのです」 前出の山本さんが悔やんだのには、ここに理由がある。あらかじめ、父と「介護費用にあてること」を条件に自宅の処分を託す信託契約を結んでおけば、実家をスムーズに売却することができた。 また、実家を賃貸にして、その不動産収入を介護費用にあてるなど、柔軟な対応も可能だったのだ。親が、あなた自身が認知症になる前に、家族信託を賢く利用しよう!
2018年04月09日超高齢社会で65歳以上の4人に1人が認知症予備軍といわれている昨今。親が認知症になり、「実家を処分することができない」「預貯金を引き出せない」などのトラブルが急増している。たとえ本人のためであっても、家族が財産を勝手に処分したり、活用することはできないためだ。 そんな事態になる前に、検討したいのが家族信託。家族信託普及協会の代表理事で、家族信託研究所を運営する司法書士の宮田浩志さんが解説をしてくれた。 「財産の管理をほかの人に任せることを信託といいます。以前は、信託銀行や信託会社など、専門家に任せるのが主流でした。しかし、’07年の信託法改正を契機に、“信頼できる相手との間”、特に家族の間で使いやすくなりました。家族間で行うことが増え、『家族信託』という言葉が生まれました」 一般的に、親が認知症になった場合の方法として、契約や財産管理を任せる後見人を選任する「成年後見制度」が知られている。しかし、後見人となった親族が財産を私的に使いこむ事件が相次いだため、近年の家庭裁判所は弁護士や司法書士などの専門家を後見人に選ぶ傾向にあるという。 子どもが親の後見人になったとしても、実家を処分するには高いハードルがある。家庭裁判所の許可が必要なのだ。 「後見制度は、“財産を維持し、本人のために使う”ことを求められるので、本人の生活費以外の資産を家族が活用するのは困難です。親が施設に移って実家が空き家になっても、売ることができない。賃貸アパートの大規模修繕や親のお金で二世帯住宅を建てたいときなども、家庭裁判所が認めない可能性が高いですね」(宮田さん・以下同) 一方、家族信託なら、あらかじめ決めておいた目的と権限の範囲内であれば、親の財産を自由に活用できる。 「成年後見制度では難しかった、家のリフォームや賃貸マンションへの建て替えなど自由度の高い活用ができます。自宅を売却する場合も家庭裁判所の許可がいりません。ただし、家族信託は、本人に判断能力があるうちに、託す相手やその内容を決めておかなければなりません。完全に判断力が低下してから、始めることはできないのです」 あらかじめ、親と「介護費用にあてること」を条件に自宅の処分を託す信託契約を結んでおけば、実家をスムーズに売却することができる。また、実家を賃貸にして、その不動産収入を介護費用にあてるなど、柔軟な対応も可能。さらに、家族信託のメリットは資産承継を思いのまま、設定できることだ。 「遺言書の場合、指定できるのは一代限りです。たとえば、長男に自宅を相続させて、長男が亡くなった後は、その配偶者ではなく次男に家を継がせたいと思っても遺言状ではできません。しかし、家族信託であればOK。2次、3次の承継先を決められます」 具体的な例について、宮田さんは次のように語る。 「子どもがいない男性が先祖からの資産を一族に承継させたいと考えても、自分の死亡後に妻に相続させると、妻の死亡後は、妻の親戚に財産の権利がいってしまいます。それを防ぐため、妻の死亡後は甥に財産を承継するといった取り決めができます。また、後妻の生活を保障するために、死亡後は後妻を自宅に住まわせるが、後妻の死後は連れ子ではなく、先妻の子に自宅を承継させるといった活用法もあります」 宮田さんは「家族信託は、成年後見制度と遺言の“いいとこ取り”をできる優れた制度」だと語る。家族信託の手続きは、当事者が合意した内容を信託契約書という文書にして、それぞれ署名押印をすれば完成だ。それだけなら費用はかからないが……。 「必ずしも公正証書にする必要はありません。しかし、対外的により明確にするため、手数料はかかりますが、公正証書にしておくのが原則です。手数料は信託財産の評価額や契約内容によって変わる。たとえば、評価額が3000万円くらいなら、費用は3万〜4万円前後でしょう」 正しく書類を作り、運用するためには、家族信託に精通した弁護士や司法書士、税理士といった専門家に相談するのがいちばんだ。重要なのが、信託する人が元気なうちに行うこと。 「親が認知症と診断されたり、判断能力に陰りがでてきてから、慌てて相談に来る方が多い。できれば、本人が元気なうちに相談してください。どんな老後を過ごしたいか、どう資産を残したいのか、親子でしっかり話しましょう」 そして、手続きの前に、宮田さんが強く勧めているのが「家族会議」だ。 「家族信託には家族全員の意向を盛り込むことが大切です。親がどんな財産を持っているかをオープンにして、意向を子どもに伝えておくこと。“家族会議なんて開いたら、取っ組み合いになっちゃうよ”と言う人もいます。しかし、トラブルを顕在化させないままうやむやにするほうが、親が認知症になったり、亡くなった後、間違いなく家族間でけんかになってしまいます」 しっかりと信託契約が履行されるか、不正が行われないか不安な場合は、専門家を「信託監督人」とし、監督してもらうことができる。
2018年04月09日*画像はイメージです:介護離婚(かいごりこん)とは、簡単に言うと夫の親(義親)の介護に嫌気がさし離婚してしまうことです。離婚を決意するほど疲れる原因として、義理の親との関係が悪く義親の介護をしたいと思えない・夫や夫の兄弟姉妹が介護にまったく協力してくれない・貢献しても労わってもらえないなどが問題になっているようです。このあたりの問題について、高島総合法律事務所の理崎智英先生に伺いました。 ■介護離婚に発展する3つの理由介護離婚は精神的なストレスが根本的な原因です。ここでは、ストレスになる3つの理由を紹介します。◆義親と仲が良くないから精神的にも肉体的にも辛い介護は愛情がないとできません。優しくされたことがなく、恩や情を感じない相手への介護はとても苦痛でしょう。また、離婚に発展しなくても、うつなどの精神病になってしまったり、虐待までしてしまったりする可能性があります。◆兄弟姉妹が介護に協力してくれないから『長男の嫁=義親の介護をしなくてはいけない』という暗黙の了解があることも少なくないでしょう。そうなってしまうと、まだ介護が必要でなくてもプレッシャーですし、「他の兄弟(姉妹)がすればいいのに!」と理不尽に感じてしまいますよね。◆介護をしているのに感謝してもらえないから一生懸命に介護しているのに義親や夫・夫の兄弟姉妹からまったく感謝されないと、介護を続けようという気持ちにはなりませんよね。介護は感謝されるためにすることではありませんが、自分の時間を削ったり、やりたいことを我慢したりしているので感謝や気遣いをしてほしいものですよね。 ■そもそも義親の介護責任は誰にある?夫が長男であったり義親と同居したりしている場合、義親でも妻が介護しなくてはいけないように感じますよね。しかし、妻に介護する義務はありません。その理由として、民法第877条1項の扶養義務者を定めた記述が挙げられます。直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。(引用:民法第877条1項)理崎先生)ここには『直系血族は』と記載されているため、直系血族ではない妻には、原則として、義親の扶養義務はありません。介護を拒否しても法的には問題にならないのです。もっとも、『特別の事情』がある場合には、例外的に『親族』である妻にも義親を扶養する義務が発生する場合があります(民法877条2項)。ただし、『特別の事情』は、扶養義務を負担させることが相当とされる程度の経済的対価を得ているとか、高度の道義的恩恵を得ている等の場合に限定して認められるものですので(大阪家裁昭和50年12月12日審判)、基本的には、妻が義親の扶養義務を負うことはないと理解してよいでしょう。 *取材対応弁護士: 理崎智英(高島総合法律事務所。離婚・男女問題を多数取り扱っている。)*取材・文:編集部【画像】イメージです最近話題の介護離婚って…?何が問題?はシェアしたくなる法律相談所で公開された投稿です。最近話題の介護離婚って…?何が問題?はシェアしたくなる法律相談所で公開された投稿です。
2018年03月31日「介護におけるケアマネジャー(以下・ケアマネ)の存在はとても重要です。実際、よいケアマネか悪いケアマネかで、要介護者とその家族の精神的、金銭的負担は大きく変わってくるんです」 そう語るのは、All Aboutガイドの介護アドバイザー・横井孝治さん。ケアマネ(介護支援専門員)の主な仕事は、介護保険制度において介護を必要とされる人のためにケアプラン(介護サービス計画書)の作成や介護サービスの調整・管理、訪問介護、通所介護、施設介護サービス……などなど、いまの介護は、ほぼ100%といっていいほどケアマネを通して行われている。 つまり、彼らは要介護者とその家族の介護生活をマネジメントする、大切なパートナー。これから親の介護を始める人にとって、よいケアマネを選ぶことが、介護において必要不可欠なのだ。 そこで、ケアマネで失敗しないための3つのポイントを横井さんにアドバイスしてもらった。 【1】ケアマネの所属事業所リストを入手する 「ケアマネの多くは、居宅介護支援事業所や介護サービス提携事業者、特別養護老人ホーム、介護療養型医療施設などに所属している人がほとんどです。市区町村の介護保険課や地域包括支援センターに行けば、ケアマネが所属している事業所のリストをもらうことができますから、まずはそこから始めましょう」(横井さん・以下同) 【2】ケアマネの評判を聞いてまわる 「いちばんよいのは、知り合いから“口コミ”で紹介してもらうパターンです。たとえば、友人や知人にホームヘルパーをしている人がいれば、介護のプロから見てよいケアマネを教えてもらうことができます。また、実際に介護保険サービスを利用している人に話を聞いてみるのもいい。同じ地域でサービスを利用している人から得られる“生の声”は非常に参考になります」 そういう知り合いがいない場合、「かかりつけの病院」にたずねてみよう。 「大きな病院の場合、ソーシャルワーカー、小さなクリニックなどの場合は、主治医や看護師に評判のいいケアマネはいないかを相談してみること。多くの場合、医療との連携を得意とするケアマネや介護事業者を教えてもらうことができるはずです」 【3】電話でケアマネの事業所と話してみる ある程度ケアマネ候補を絞ったら、所属先の事業所に電話をかけてみよう。そのとき、“介護サービスのことは何もわからないので、一から教えてほしい”と伝えるのが重要だという。 「自分にとっていちばんわかりやすく、丁寧に対応してくれたケアマネであれば、実際に依頼することになってからも、介護の相談をする際の対応に期待が持てますから」 電話を通して候補3〜5人絞り込んだら、次は実際に面談を行う。 「面談の際、重要なのは『所属する事業所以外の介護サービスも説明してくれるか』です。面談前に、そこの事業所ではどんなサービスをやっているのか、あらかじめ下調べしておくといいですね。たとえば、ショートステイのサービスをやっていない場合、わざと“ショートステイも使ってみたいのですが?”と聞いてみるんです」 横井さんによると、事業所にないサービスを希望した場合、ケアマネの対応はだいたい2つに分かれるそうだ。 1つは、「よいショートステイを知っているので今度資料を持ってきます」と、希望を受け入れてくれるパターン。もう1つは、「うちの訪問介護だけで十分ですよ」と、理由を説明せずに利用者を納得させようとするパターン。 「後者は当然ダメですが、前者が必ずしもいいとは限りません。本当にショートステイが必要な場合、その説明をきちんとしてくれるケアマネが、本当に信頼できる人なんです」 たとえば、「お宅のお母さんは、会ってお話ししてみたところ、人見知りのような気がします。家族でない人たちと一緒に泊まって何日も暮らしたら、大変なストレスになります。まず住み慣れた家にヘルパーさんが来て帰っていくという訪問介護サービスに慣れてもらう。紹介はいつでもできるので、それから考えませんか」というように、経験に基づいたアドバイスをくれる人だと、信頼度もぐんと上がるという。
2018年03月23日認知症の世界的権威であるデール・ブレデセン医師の著書が全米で20万部を突破。日本でも2月に翻訳本『アルツハイマー病真実と終焉』(ソシム)が出版され、わずか2週間で2万5000部というベストセラーになっている。 「今や、4人に1人が認知症になる時代。うち6割がアルツハイマー型認知症です。今までは進行を抑えることはできても回復ができないということが、患者や家族を脅かしていました。しかし、ついにブレデセン医師がアルツハイマー型認知症発症の原因を突き止めたのです。世界で初めて、症状が回復することを、この本で明言しています」 こう語るのは、同書の日本語版の監修を務めた白澤卓二先生。 「これまでアルツハイマー型認知症は、アミロイドβという異常なタンパク質が脳にたまることで神経細胞が死に、記憶をつかさどる海馬から脳の萎縮が始まることで発症すると考えられてきました。しかし、ブレデセン医師の研究により、アミロイドβはむしろ脳を守る物質ということが判明したのです。ただし、このアミロイドβが過剰に蓄積されることで暴走し、守るべき脳細胞を破壊するということがわかりました」(白澤先生・以下同) 生活習慣により、脳のなかで増えすぎたアミロイドβを取り除くために考案されたのが「リコード法」だ。昨年12月の時点で500人以上の患者が実践し、効果が認められているという。 「肝臓が脂肪を分解してケトン体と呼ばれる物質を生み出すプロセスのことを“ケトーシス”と言います。そして、軽いケトーシス状態を維持することが認知機能を高めるのに最適の状態だとわかったのです。ケトーシス状態にするためには、低炭水化物食、適度な運動、1日に12時間以上の絶食、中鎖脂肪酸100%のMCTオイルなどの摂取が効果的で、これがリコード法のベースです」 さっそく、今すぐ実践できる「リコード法」を白澤先生に聞いた。 【1】炭水化物を極力減らす 食後に血糖値が急激に上がると、膵臓から出る体内ホルモンの1つ、インスリンが大量に分泌される。 「インスリンは血液中のブドウ糖の量が一定に保たれるように、血糖値の調整を行っています。小麦や大麦などの穀物に含まれている“グルテン”は血糖値を急激に上げ、アミロイドβを分解する力を弱めてしまうのです。パンや麺類などは食べない“グルテンフリー”にし、その分野菜を多く取るのが理想的です」 炭水化物は断つことがもっとも望ましいが、高齢者に“米断ち”はハードルが高い。まずはパンや麺類を減らし、お米は玄米などを選んで、白米の量を徐々に減らそう。 【2】1日45mlのMCTオイル サラダ油などの加工オイルの代わりに、体内で速やかに吸収されてエネルギーになりやすいMCTオイルやオリーブオイルを使うことで、ケトーシス状態が促進される。 「MCTオイルまたはココナツオイルをスプーン1さじ(15ml程度)、コーヒーなどに入れて1日3回飲みましょう。空腹感が満たされ、間食の予防にも役立ちます」 【3】12時間以上絶食する リコード法では、1日の最後の食事と翌日の最初の食事の間隔を、少なくとも12時間は空ける。 「絶食が、ブドウ糖を肝臓に蓄積していたグリコーゲンを激減させ、ケトーシス状態を促進させます。日中に断食するのは大変ですが、就寝時間を中心とした半日の絶食ならそれほどつらくありません。夕食は遅くとも19時には取るようにしましょう」 【4】睡眠は1日7〜8時間 「就寝中の脳はアミロイドβなどの老廃物を取り除く働きをします。また、疲労を回復する成長ホルモンが分泌されるのも睡眠中。睡眠時間が短いと、この両方の作用が足りず、アルツハイマー病につながるのです」 脳を休めてストレスをなくすためにも、1日7〜8時間の睡眠をとるようにしよう。 【5】1週間で150分運動をする 脳の中にはインスリンを分解する酵素があり、これがアミロイドβも分解する。しかし、糖尿病の人はこのインスリン分解酵素の働きが鈍くなるといわれている。糖尿病の発症リスクを減少させることが重要だ。 「糖尿病発症を抑えるには適度な運動が不可欠。さらに運動はアルツハイマー病の要因でもあるストレスを軽減し、記憶をつかさどる海馬を大きくする作用もあります」 「リコード法」は、すでに重度の人には効果が表れにくい。しかし、初期、また認知症を発症する前の「軽度認知障害」(MCI)の人には、効果が出やすいという。アルツハイマー型認知症は兆候が表れてから発症するまで20年ほどかかるので、40代後半から「リコード法」を生活に取り入れることが予防にもつながる。
2018年03月19日「好不調の波はありますが、母の認知症は少しずつよくなってきています」 こう語るのは、ブログ「婚活しながら両親介護」の筆者で、認知症の母親(74)の介護をしている映像ディレクター・黒澤うにさん(38)。 黒澤さんの母親に異変が現れたのは’15年10月ごろ。病院でアルツハイマーの薬を処方してもらうが、副作用がひどく中断。なすすべもないまま、昨秋には食卓の用意や買い物も難しくなり、手に持っていたものを忘れることも。連日、母親は泣きながら黒澤さんに電話を入れるようになった。 仕事に支障が出るようになったことで、黒澤さんはアメリカで医師をしている友人に相談。すると、認知症の世界的権威であるデール・ブレデセン医師の著書を薦められたという。 同書は全米で20万部を突破。日本でも2月に翻訳本『アルツハイマー病真実と終焉』(ソシム)が出版され、わずか2週間で2万5,000部というベストセラーになっている。 「さっそく本に書かれていた『リコード法』を、やれることから取り組みました。まず、野菜と天然の魚が中心の食事にし、できるだけ炭水化物を減らしました。また、ココナツオイルをコーヒーやサラダなどにかけ、夕食から朝食まで12時間は絶食。積極的に歩く習慣を11月下旬から始めたんです」(黒澤さん) 気がつくと、母からのSOSの電話も減り、食事も1人で作れるように。買い物でパニックになることもなくなったという。 「今や、4人に1人が認知症になる時代。うち6割がアルツハイマー型認知症です。今までは進行を抑えることはできても回復ができないということが、患者や家族を脅かしていました。しかし、ついにブレデセン医師がアルツハイマー型認知症発症の原因を突き止めたのです。世界で初めて、症状が回復することを、この本で明言しています」 こう語るのは、同書の日本語版の監修を務めた白澤卓二先生だ。 「これまでアルツハイマー型認知症は、アミロイドβという異常なタンパク質が脳にたまることで神経細胞が死に、記憶をつかさどる海馬から脳の萎縮が始まることで発症すると考えられてきました。しかし、ブレデセン医師の研究により、アミロイドβはむしろ脳を守る物質ということが判明したのです。ただし、このアミロイドβが過剰に蓄積されることで暴走し、守るべき脳細胞を破壊するということがわかりました」(白澤先生) そしてアミロイドβが過剰に蓄積される原因が、次の“NG生活習慣”。1つでも当てはまれば、アルツハイマー型認知症になる可能性大! □炭水化物や甘いものが好き□胃酸を抑える薬をよく飲む□夕食時間が遅い、または夕食後に間食をする□定期的な運動習慣がない□睡眠時間が7時間未満□家にカビが生えている 炭水化物や甘いものを食べると、糖分などが血糖値を上げることで、脳の炎症を誘導する。 そして胃酸を抑える薬には亜鉛やマグネシウム、ビタミンB12など、認知機能にとって重要な栄養素の吸収を阻害する働きがあるという。 また、不規則な食習慣は糖尿病の発症を促すが、この糖尿病こそがアルツハイマー型認知症の最大の原因の1つ。さらに、カビや金属などの有害物質の摂取も、アルツハイマー型認知症のリスクを高めるという。 このような生活習慣により、脳のなかで増えすぎたアミロイドβを取り除くために考案されたのが「リコード法」だ。昨年12月の時点で500人以上の患者が実践し、効果が認められているという。そこで、白澤先生に教えてもらった今すぐ実践できる「リコード法」を紹介。 【1】炭水化物を極力減らす【2】1日45mlのMCTオイル、または15ml×3のココナツオイルを取る【3】夕食から朝食まで12時間以上絶食する【4】睡眠は1日7〜8時間【5】1週間で150分以上の運動をする 「肝臓が脂肪を分解してケトン体と呼ばれる物質を生み出すプロセスのことを“ケトーシス”と言います。そして、軽いケトーシス状態を維持することが認知機能を高めるのに最適の状態だとわかったのです。ケトーシス状態にするためには、低炭水化物食、適度な運動、1日に12時間以上の絶食、中鎖脂肪酸100%のMCTオイルなどの摂取が効果的で、これがリコード法のベースです」(白澤先生) できることから、さっそくトライしてみよう!
2018年03月19日深刻な高齢化、かさむ介護費。国の方針もあり、在宅介護が重要視されている。「自宅で介護」を望む人が多いのも事実だが、いくらかかるのだろうかーー。 「国は現在、『地域包括ケアシステム』を推進しており、今後『施設介護』から『在宅介護』の流れが強まるでしょう」 そう日本の超高齢社会の未来を予測するのは、『介護施設&老人ホームのさがし方・選び方』(サンライズパブリッシング)の著者で、介護施設コンサルタントの齋藤直路さん。65歳以上の人口は現在、3,000万人を超えており、2042年には約3,800万人でピークを迎える。介護の需要が今後ますます増加することは火を見るよりも明らかだ。 しかし施設での介護は、高額な資金が必要になる。また、在宅介護は家族の負担も大きく、介護疲れによる虐待や、介護離職に端を発する貧困など、問題も山積。一方で、頼れる家族のいない独居老人も多いのが実情だ。 そこで現在、国は「地域包括ケアシステム」(前出)を推進している。住まいを中心に、日常生活圏内で病院、介護施設、地域包括支援センター、ケアマネジャーなどが、さまざまな支援や介護、医療、サービスを一体的に提供するものだ。地域のなかで安心して介護や医療などが受けられるシステム作りだという。 「介護を受ける側にとっても、在宅介護のメリットは大きい。たとえば、トランスファーショックといって、自宅とは遠く離れた施設に住むことで、環境の違いに戸惑い、近所との交流が途絶える寂しさを感じる。結果、活動量が低下して、認知機能の衰えが出てしまうこともあるのです」(齋藤さん) 実際、内閣府の調査でも、「介護を受けたい場所」は、「自宅」と答えた人が全体の34.9%という結果が出ている(平成24年「高齢者の健康に関する意識調査」)。今後、ますます重要性が高まる在宅介護。 それでは実際に終生、在宅介護をすることで、どのくらいのお金がかかるのか。代表的なケースを、介護施設コンサルタント業務をする「スターパートナーズ」の垰和宏さんに、シミュレーションしてもらった。 ケースでは、介護保険自己負担1割で算出。単純に介護度の利用限度額ではなく、現実的に使用される介護費用を想定している。介護用のベッドの費用や、バリアフリーの改築費用などは含まれていない。 また、将来の平均寿命が現在の87歳(女性)よりも5年ほど延びることを想定し、92歳(93歳の誕生日の前日)で亡くなったと仮定している。 ■段階的に介護度が上がっていったケース 一人暮らしのCさんは、買い物や風呂掃除など不便を感じ始めて、84歳のときに地域包括支援センターに相談。要介護認定調査等を経て、要介護1と認定された。それからは週2回ずつの通所介護、訪問介護の生活になった。 ところが86歳で脳梗塞に。偶然、近くに住む娘夫婦が遊びに来ていたため、早期に発見され大事には至らなかったが、一部まひが残り、要介護2に上がった生活を2年続けた。 そして要介護3の2年、要介護4の3年間は、家族の支援もあって在宅介護を継続したが、平日はほぼ毎日、訪問介護か通所介護、家族の介護負担軽減のため短期入所を組み合わせた。最終的に92歳で、老衰のため自宅で生涯を終えた。 Cさんの場合、介護費用は当初、要介護1ということもあり、訪問介護と通所介護を合わせても月額約1万730円ほどだった。しかし、要介護3に引き上げられると短期入所費用も加わり、介護費用は月額約2万6,930円に、要介護4では月額約3万800円までに跳ね上がった。 「介護度が上がるたびに、介護費用も高額化します」(垰さん) 【Cさんの自己負担額】 <84〜85歳・要介護1>訪問介護:約3,840円/月通所介護:約6,890円/月 <86〜87歳・要介護2>訪問介護:約5,320円/月通所介護:約8,820円/月 <88〜89歳・要介護3>訪問介護:約8,820円/月通所介護:約1万1,110円/月短期入所:約7,000円/月 <90〜92歳・要介護4>訪問介護:約1万1,930円/月通所介護:約1万2,370円/月短期入所:約6,500円/月 84歳から92歳までの9年間で合計:234万8,880円〈内訳:(3,840円+6,890円)×24カ月+(5,320円+8,690円)×24カ月+(8,820円+1万1,110円+7,000円)×24カ月+(1万1,930円+1万2,370円+6,500円)×36カ月〉 前出の齋藤さんは、在宅介護の注意点を次のように語る。 「数千万円かかる施設介護に比べて、一見、安価なイメージを持ってしまいますが、在宅介護は、施設のようなナースコールや、24時間の見守りはありませんから、家族の負担は大きいです。当然ながら、家賃や食事が別途かかることも、忘れてはいけません」(齋藤さん)
2018年03月14日「国は現在、『地域包括ケアシステム』を推進しており、今後『施設介護』から『在宅介護』の流れが強まるでしょう」 そう日本の超高齢社会の未来を予測するのは、『介護施設&老人ホームのさがし方・選び方』(サンライズパブリッシング)の著者で、介護施設コンサルタントの齋藤直路さん。65歳以上の人口は現在、3,000万人を超えており、2042年には約3,800万人でピークを迎える。介護の需要が今後ますます増加することは火を見るよりも明らかだ。 しかし施設での介護は、高額な資金が必要になる。 「民間の有料老人ホームは、入居一時金だけで数百万円単位のまとまったお金が必要なケースも多く、生涯の支払い総額が2,000万~3,000万円にもなります」(齋藤さん・以下同) しかし、在宅介護は家族の負担も大きく、介護疲れによる虐待や、介護離職に端を発する貧困など、問題も山積。一方で、頼れる家族のいない独居老人も多いのが実情だ。 そこで現在、国は「地域包括ケアシステム」(前出)を推進している。住まいを中心に、日常生活圏内で病院、介護施設、地域包括支援センター、ケアマネジャーなどが、さまざまな支援や介護、医療、サービスを一体的に提供するものだ。地域のなかで安心して介護や医療などが受けられるシステム作りだという。 「介護を受ける側にとっても、在宅介護のメリットは大きい。たとえば、トランスファーショックといって、自宅とは遠く離れた施設に住むことで、環境の違いに戸惑い、近所との交流が途絶える寂しさを感じる。結果、活動量が低下して、認知機能の衰えが出てしまうこともあるのです」 実際、内閣府の調査でも、「介護を受けたい場所」は、「自宅」と答えた人が全体の34.9%という結果が出ている(平成24年「高齢者の健康に関する意識調査」)。今後、ますます重要性が高まる在宅介護。在宅ではどのような介護が受けられるのか。齋藤さんが解説してくれた。 【1】訪問介護 自力での家事が困難になったり、入浴の介助が必要になったときに、ヘルパーに自宅に来てもらい、サービスを受けること。 「一人暮らしの要介護高齢者にとって、洗濯や掃除、買い物など生活援助も頼める、ありがたいサービスです。食事や入浴、排せつなどの介助で体が触れ合うこともあるので、ヘルパーの人柄も重視しなくてはなりません」 通常、日中がサービス時間となるが、早朝や深夜も対応してくれる事業者もあるという。 【2】通所介護 「デイサービスともいわれ、通所介護施設で、1日をリハビリやレクリエーション、入浴などをして過ごします。もともとは家族の介護負担を減らすために始まったサービスです」 一般的な通所介護は、朝の9~10時に自宅へ送迎車が迎えに来るところから始まる。 「サービスを利用していることを近所に知られたくないという人もいるため、車体に施設名が書いていない、普通の乗用車を利用するなど、工夫している事業所もあります」 施設に到着後は、体操をしたり、入浴の介助を受ける。 「単に入浴するだけでなく、家族では判断しづらい床ずれや栄養状態までチェックしてくれます」 昼食は自費で700~800円ほど。最近は、食事内容も充実してきているという。午後は昼寝をしたり、レクリエーション、リハビリの時間となる。 「リハビリでは歩行訓練や転倒防止訓練、認知機能の予防改善(学習療法、音楽療法)などが受けられます。それぞれの施設の特徴を知って、自分に合った場所を選びましょう」 帰宅は16時くらいになる。 【3】短期入所 2日~1週間ほどの短期間、施設に入って介護を受けること。ショートステイともいわれる介護サービス。 「在宅介護生活は、介護する家族にとっても大きなストレスや疲労を伴います。家族が介護から解放され、ゆっくり過ごして英気を養う(レスパイトケア)ためにも利用されます」 施設によって料金は異なる。 「介護保険で定められた利用料に、施設独自の居住費、食費や生活費が合算されます」 【4】小規模多機能型居宅介護 以上(1)~(3)のサービスを1つの事業所で受けられる、介護業界において、もっとも新しい形態のサービス。 「利用料金は定額制(例・要介護2で約1万5,000円)とわかりやすい。ケアマネジャーの判断で、利用内容と頻度が決められます。訪問から通所、短期入所まで一事業所で依頼できるので、内部のスタッフの連携も取れているところが利点でしょう」
2018年03月14日深刻な高齢化、かさむ介護費。国の方針もあり、在宅介護が重要視されている。「自宅で介護」を望む人が多いのも事実だが、いくらかかるのだろうか――。 「国は現在、『地域包括ケアシステム』を推進しており、今後『施設介護』から『在宅介護』の流れが強まるでしょう」 そう日本の超高齢社会の未来を予測するのは、『介護施設&老人ホームのさがし方・選び方』(サンライズパブリッシング)の著者で、介護施設コンサルタントの齋藤直路さん。65歳以上の人口は現在、3,000万人を超えており、2042年には約3,800万人でピークを迎える。介護の需要が今後ますます増加することは火を見るよりも明らかだ。 しかし施設での介護は、高額な資金が必要になる。また、在宅介護は家族の負担も大きく、介護疲れによる虐待や、介護離職に端を発する貧困など、問題も山積。一方で、頼れる家族のいない独居老人も多いのが実情だ。 そこで現在、国は「地域包括ケアシステム」(前出)を推進している。住まいを中心に、日常生活圏内で病院、介護施設、地域包括支援センター、ケアマネジャーなどが、さまざまな支援や介護、医療、サービスを一体的に提供するものだ。地域のなかで安心して介護や医療などが受けられるシステム作りだという。 「介護を受ける側にとっても、在宅介護のメリットは大きい。たとえば、トランスファーショックといって、自宅とは遠く離れた施設に住むことで、環境の違いに戸惑い、近所との交流が途絶える寂しさを感じる。結果、活動量が低下して、認知機能の衰えが出てしまうこともあるのです」(齋藤さん) 実際、内閣府の調査でも、「介護を受けたい場所」は、「自宅」と答えた人が全体の34.9%という結果が出ている(平成24年「高齢者の健康に関する意識調査」)。今後、ますます重要性が高まる在宅介護。 それでは実際に終生、在宅介護をすることで、どのくらいのお金がかかるのか。代表的なケースを、介護施設コンサルタント業務をする「スターパートナーズ」の垰和宏さんに、シミュレーションしてもらった。 それぞれのケースでは、介護保険自己負担1割で算出。単純に介護度の利用限度額ではなく、現実的に使用される介護費用を想定している。介護用のベッドの費用や、バリアフリーの改築費用などは含まれていない。 また、将来の平均寿命が現在の87歳(女性)よりも5年ほど延びることを想定し、92歳(93歳の誕生日の前日)で亡くなったと仮定している。 ■自立度が高いまま自宅での生活を継続したケース 5年前に夫に先立たれ、一人暮らしをしていたAさんだが、85歳を迎えたころから、加齢の影響により日常生活で不便を感じることが増えた。 知人の勧めで介護認定の調査を受けたところ、要支援2に。週に2回ずつ、掃除や買い物などの家事サポートのため、要支援者のための訪問介護である「介護予防訪問介護」(月の負担額は約2,400円と、リハビリ目的で「介護予防通所介護」(同3,400円)を利用。 その1年後、86歳のときに要介護1に上がってしまったが、ケアプランは大きく変えず(訪問介護で月約3,840円、通所介護で月6,890円)継続。身体の衰えはあったものの、自宅での生活を続け、93歳を迎える前日、自宅で亡くなった。 「このケースのように、要介護になっても比較的自立した生活をし続ける方も少なくありません」(垰さん・以下同) 【Aさんの自己負担額】 <85歳・要支援2>介護予防訪問介護(II):約2,400円/月介護予防通所介護:約3,400円/月 <86~92歳・要介護1>訪問介護:約3,840円/月通所介護:約6,890円/月 85歳から92歳までの8年間で合計:97万920円〈内訳:(2,400円+3,400円)×12カ月+(3,840円+6,890円)×84カ月〉 ■脳卒中で医療が必要なケース 子どもたちが独立し、夫と2人で暮らしていたBさん。お互い元気が取りえだったが、夫は85歳を過ぎたころから身体機能の低下を実感。86歳で要支援2と判定されてからは、週に2回、通所介護でリハビリを受けた。 1年後、87歳で脳卒中を患い、状況は一変した。一命はとりとめたものの、退院後もまひは残ってしまい、要介護3に引き上げられた。高齢のBさんにとって、1人で要介護3の夫を介護することは困難で、1週間のうち通所介護を2~3回と、短期入所を組み合わせて利用し、週に1日は、脳卒中後の夫の療養生活管理のため、自宅の訪問看護にあてた。 「訪問介護と訪問看護は、別ものです。訪問看護は主に看護師などが自宅に来て、医師の指示のもと、医療や看護面でのサポートをします」 徐々に夫の活動量は低下し、1年後には要介護4、その3年後に要介護5に上がり、92歳で死亡した。 「脳卒中などのライフイベントがあると、当ケースのように、月のほとんどを通所介護と短期入所にあてることになります」 【Bさんの自己負担額】 <86歳・要支援2>介護予防通所介護:約3,400円/月 <87歳・要介護3>訪問看護:約4,210円/月通所介護:約1万1,110円/月短期入所:約1万1,610円/月 <88~90歳・要介護4>訪問看護:約4,940円/月通所介護:約1万2,370円/月短期入所:約1万3,490円/月 <91~92歳・要介護5>訪問看護:約6,500円/月通所介護:約1万3,530円/月短期入所:約1万3,780円/月 85歳から92歳までの7年間で合計:228万4,200円〈内訳:(4,210円+1万1,110円+1万1,610円)×12カ月+(4,940円+1万2,370円+1万3,490円)×36カ月+(6,500円+1万3,530円+1万3,780円)×24カ月〉 「当ケースでは228万4,200円と算出されましたが、さらに訪問医療が必要となれば、医療費や薬代も加算されます」
2018年03月14日18日、東京都港区内で、元東京地検特捜部長で弁護士の78歳男性が運転する乗用車が暴走し、歩道を歩いていた30代の男性をはねて死亡させた。原因はアクセルとブレーキの踏み間違いとみられる。 このような高齢者ドライバーによる死亡事故が、連日のように相次いでいるーー。 前記事故の3日前の15日、警察庁は’17年に認知機能検査を受けた75歳以上の高齢ドライバー196万2,149人中、2.8%に当たる5万4,072人が“認知症の恐れがある”と判定されていたことを発表した。 また、昨年に交通死亡事故を起こした75歳以上のドライバー385人を調査したところ、「認知症の恐れ」があるが28人。「認知機能低下の恐れ」があるが161人だったことも同時に発表。じつに死亡事故を起こした運転者のほぼ半数が、認知機能が低下していたのだ。 認知機能とは、記憶力や判断能力など、物事を正しく理解し、適切に実行するための知的機能のこと。この機能が低下した状態が、認知症や“認知症予備軍”と呼ばれるMCI(軽度認知障害)だ。 認知症研究の第一人者で、『運転を続けるための認知症予防』(JAFメディアワークス)の著者、鳥取大学医学部・浦上克哉教授(61)が、運転時の認知障害について解説してくれた。次のクルマの運転時に起こりやすい事象は非常に危険だという。 ・運転中にバックミラー(ルーム、サイド)をあまり見なくなった・アクセルとブレーキを間違えたことがある・曲がる際にウインカーを出し忘れることがある・反対車線を走ってしまった(走りそうになった)・右折時に対向車の速度と距離の感覚がつかみにくくなった 「認知症に多いのが、“同時に2つのことができなくなる”ということ。『運転中にバックミラー(ルーム、サイド)をあまり見なくなった』、『曲がる際にウインカーを出し忘れることがある』は、運転をしながらバックミラーを見たり、ウインカーを出したりすることができない、やらないというケースです。これは2つのことを同時にやりにくくなる場合と、そもそもウインカーを出すことすら忘れてしまっている場合もある。本人は運転のみに集中しているので、ほかに注意が向かなくなるんです」(浦上教授・以下同) 「右折時に対向車の速度と距離の感覚がつかみにくくなった」が当てはまる人は判断力が低下している可能性があるそう。 「右折するとき、対向車のスピードと、自分のクルマとの距離感を計算しながらタイミングを計りますが、判断能力が低下しているとこれが難しくなる。昔の感覚で右折しているつもりでも、ブレーキからアクセルへの踏み替え、ハンドル操作などが遅くなっていることがあるのです。とくに大きな交差点などでの事故に気をつけてください」
2018年03月01日「ダブルケア」という言葉を知っていますか? 晩婚化や晩産化などを背景に、子育てと親の介護同時に担わなければならないことをいいます。政府が行った調査によると、ダブルケアを行う人は約25万人いると推計されていて、男女ともにその8割を30~40代の働き盛りと言われる世代が占めています。ダブルケアにより業務量や労働時間を変更しなければならなかった人は女性で約4割、男性で約2割いて、社会の問題として考える必要性も訴えられ始めています。筆者はおととし母をみとりましたが、約10年に及ぶ母の闘病において、2人の子どもの世話と母の病気による介護とのダブルケアを経験しました。今回は、ダブルケアとは一体どんな状況なのか、そして乗り切るためにできることは何か考えてみたいと思います。■ダブルケアで女性にかかる重圧とは母の病気がわかったのは筆者が学生のとき。転移が進んだ大腸ガンで、手術や入院を繰り返しながら、病状は落ち着いたり悪くなったりしました。発覚したときは絶望的に悪かった母の病状は、かかりつけ医に「奇跡的」と言われるほどまで回復して、日常が過ごせるように。その間に筆者は結婚して母となりました。しかし、2人目が産まれる1年ほど前から母の病状は深刻になり始め、身体的、精神的なケアを必要とするようになったのです。当時、実家から離れて暮らしていた筆者ですが、父がフルタイムで働いていたこともあり、1年の3分の1ほどを実家で過ごすことにしました。母から頻繁に連絡が来たため、見放せないと感じたこともあります。政府の調査では、ダブルケアをしている人のうち約66%は女性だとわかっています。親の介護や子育てにおいて、頼られがちなのはやはり娘であり、母親なのかもしれません。身をもって女性の役割を実感することとなりました。■介護中、子どもの預け先をどうする?2人目が1歳になったとき、実家に帰ることに。母は緩和ケアしか手立てがなくなっていましたが、幸いにもかかりつけの病院に入院させてもらえることになりました。しかし、毎日洗濯物を取りにいったり、日中の世話をしたりと、3歳と1歳の子どもを世話しながら1人で母の世話はできませんでした。そこで長男、次男の預け先確保に動きました。里帰り先で年少だった長男を受け入れてくれる幼稚園を探しました。実家近くには私立の幼稚園しかなかったため、事情を話して特別に受け入れてもらえることに。さらに次男の一時保育先を確保するために、10件以上の保育園に電話をかけました。ほとんど空きがなく、ようやく見つかったのは自宅から自転車で20分ほどかかる保育園。そこの保育園も、空きがないと一度断られかけたときに、「ご事情は?」と尋ねてもらい、心遣いでねじ込んでもらったような状況でした。市町村によっては、祖父母の家から通う場合は一時保育を利用できるなどの措置もあるようなので、預け先を探すときは一度役所に相談してみるといいでしょう。■経済と家事の負担を軽くするには介護を行うにあたって、最重要課題は介護保険サービスの「要介護認定」を受けられるかどうかだと思います。また子育てしながらの介護となるために、3つめの問題「家事」についても検討する必要が出てきました。●介護保険サービスによって経済的負担が軽減母が自宅に戻ってくることも想定し、入院中に「要介護認定」を受けてもらいました。介護保険制度では、介護を必要とする状態になった場合や、家事や身支度などの日常生活における支援を必要とするなどの場合、介護サービスを受けることができます。その際、介護や支援が必要かどうか、そのなかでどの程度なのか判定を行うのが要介護認定です。市町村に設置されている介護認定審査会において、自宅や施設、病院などに職員が訪れて判定されます。程度や地域にもよって異なりますが、支給限度額のなかであれば、さまざまな介護サービスを自己負担1~2割で使用できます。介護サービスを受けることができれば、経済的に大きな手助けになります。●民間サービスを利用して家事の負担を軽減子育てと母の世話を行う生活において、家事は大きな負担になりました。祖母が同居していましたが、80代後半になるため、家事や育児を頼める状況ではありません。そこで、週に3度、「買い物と食事作りを3時間でしてもらう」という家事代行サービスを依頼することに。とても大きな助けになりましたが、介護サービスとは逆に経済的な負担はかなり重くのしかかります。わが家は父が仕事をしていなければ、このサービスを利用することは難しかっだろうたと思います。また、長期的となった場合には、このサービスを利用すること自体、選択肢には上がらなかったでしょう。■介護で仕事をどうするか?筆者には4歳差の姉がいて、公務員をしています。母が深刻な病状になったとき、姉は2歳の子どもを育てながら時短勤務をしていましたが、しばらくの間介護を理由に休職することになりました。「仕事」、「子育て」、「母の世話」。この期間は、何よりも精神的な負担が大きかったようでした。もしかしたら姉は、仕事も子育ても母のことも中途半端になっているようでつらかったのかもしれません。職場によって、休みが取れるか否かわかりませんが、状況に合わせて休むことも選択肢のひとつです。ダブルケアによって業務量や労働時間を変更している人も多くいますが、何よりも自身が納得して選択できることが大切だと痛感しました。■親も介護する人も限界になったとき母の体調が悪くなり始めたとき、このままでは母も子どもたちもどちらも重荷になってしまうと、自分の限界を感じました。もともと連絡を取り合っていた母の友人や母のいとこ、義妹など、助けてくれそうな人全員にお願いして、病室や自宅にできるだけ来てもらうことに。家族が行けない日には代わりに病室に行ってもらったり、筆者が病室に行く間に子どもたちの世話をしてもらったりと、大きなチームで母の介護にあたることができました。実際に労働力として支えてもらったと同時に、何より精神的に大きな支えになりました。家族だけで抱え込みがちなダブルケアだからこそ、親戚や友人にも手助けしてもらい、話を聞いてもらうことでずいぶん前向きな気持ちになれたと思います。「子育て」と「介護」の板挟みになりつらい思いもありましたが、母は子どもたちの存在で笑顔が増え、子どもたちも母の闘病する姿からさまざまなことを学ぶことができたと思います。「ダブルケア」というと、世話をしなければならないという重みばかりがクローズアップされてしまいがちですが、家庭だけの問題とせず、もっと幅広く親戚、知人、病院、介護スタッフ、勤務先など巻き込んでいくことが必要だろうと思います。さらには今後はもっと社会の問題として、経済的、精神的、物理的な支援、すべてが充実していけば、心に余裕をもって介護や育児をできるのではないでしょうか。筆者の体験は、母の病気によるものではありましたが、これから高齢者が増えていくなかで、「ダブルケア」はひとごととは言えません。ひとりひとりが自分の親や夫の親について、自分たち家族の生き方について、しっかりと考えていかなければならない問題だといえるでしょう。<参考サイト>・内閣府男女共同参画局: 育児と介護のダブルケアの実態に関する調査報告書
2018年02月25日いま介護をする側の家族たちから、注目を集めているのが“福祉車両”だ。介護の負担を大幅に軽減できる機能が備わった福祉車両の需要は、年々伸び続けている。なかでも、主婦をはじめとした女性に人気なのが、軽自動車の福祉車両。じつは各自動車メーカーから人気車種の福祉車両が続々発売されている。 「福祉車両は体の不自由な人のレベルによって選ぶのが基本です。介助などがあれば、車いすから助手席に移ることができて、ひざを曲げることができる場合は助手席スライドタイプがおすすめです」 こう語るのは、モータージャーナリストの佐藤篤司さん。助手席スライドタイプ福祉車両は、助手席が電動でスライドするので、車いすから容易に乗車できる。 「助手席のシートも斜めに低く下がるので、車いすから移動する際の負担も減ります。女性の方でもシートまでの介助が楽にできるはず」 そう話すのは、ダイハツ東京販売・総合営業企画部の阿部周平さん。助手席スライドタイプ福祉車両の中でも、ダイハツ『タントウェルカムシート」は、助手席側に、後部座席との間の柱がなく使い勝手は抜群だ。リモコンのボタンを押すと助手席のシートがスライドし、外側に自動的に出てくる。助手席はやや前に傾斜して出てくるので、車いすから助手席シートに移るのも簡単だ。車いすから立ち上がり、一歩横にずれるだけで、簡単に移ることができた。リモコンのボタンを再び押せば助手席のシートが元の位置に戻る。フロントドアを開くだけでも乗降は可能だが、後部のドアを開くと間口が広く使えて、乗降がよりスムーズになる。 前出の佐藤さんは、福祉車両の利点をこう語る。 「福祉車両はノーマルモデルよりも価格は高くなりますが、車両とオプション部品の消費税が免除となるので、ノーマルモデルとそれほど変わらない値段で購入できます。もともと軽自動車は燃費がよく、自動車税も安いので維持費が少なくてすむ。そのうえ、福祉車両であれば、自治体によって条件や金額が異なりますが、自動車税の減免、ガソリン代、高速代などの優遇サービスも受けられます。さらに、ボディがコンパクトで運転しやすいんです」(佐藤さん)
2018年02月04日「子どもや家族に迷惑をかけたくないから、将来は高齢者施設に――。そう考えている人は多いです。しかし、そのほとんどの人たちが、実際にどのくらいの総額費用がかかるのかイメージできず、不安をかかえていらっしゃいます」 そう語るのは、『介護施設&老人ホームのさがし方・選び方』の著書もある、齋藤直路さん。そこで今回、齋藤さんにグループホームの月額使用料や、介護度ごとの月額介護サービス費用(介護保険自己負担額が1割の場合)を算出し、生涯の総支払額をシミュレーションしてもらった。 「介護費用は各自治体によって若干変化します。今回の設定では、首都圏のベッドタウンを想定していますが、都心部の場合はさらに1割ほど高くなることが考えられます。また、介護施設の利用料金、要介護度の変化、入居期間は、複数の施設を調査して、一般的なケースを想定しました。死亡年齢は現在の女性の平均寿命87歳よりも4~5年延びることが予想されますので、92歳(93歳の誕生日の前日)に死亡すると仮定しています」(齋藤さん) 例:娘夫婦と同居している85歳のDさん。要介護1で在宅での介護生活が可能と思われていたが、認知症の症状が重くなり、娘の意向で、看取りまでしてくれるグループホームに入居した。介護費用として月に2万2,400円(要介護1)~2万5,000円(要介護5)、月額利用料には家賃と食費を含めて16万3,000円かかった。89歳時点で病気のため入院したが、病状は安定し間もなく退院。そして要介護5の寝たきり生活を4年間続けて亡くなった。 【グループホームの場合での介護費用シミュレーション】 (1)要介護1の場合(85歳~86歳)介護費用の目安:約2万2,400円月額利用料:約16万3,000円合計:約18万5,400円 (2)要介護2の場合(87歳~88歳)介護費用の目安:約2万3,400円月額利用料:約16万3,000円合計:約18万6,400円 (3)要介護5の場合(89歳~92歳)介護費用の目安:約2万5,000円月額利用料:約16万3,000円合計:約18万8,000円 85歳から92歳までの8年間で合計:1,794万7,200円(内訳:18万5,400円×24カ月+18万6,400円×24カ月+18万8,000円×48カ月) グループホームの正式名称は、認知症対応型共同生活介護。その名のとおり、認知症と診断された入居者が、スタッフに援助を受けながら共同生活を送る形態だ。 「平成26年の厚生労働省の研究機関が出したレポートによると、80~84歳の認知症有病率は約25%でした。今後、グループホームのニーズが高まるでしょう。すでに全国には1万2,000カ所の施設があり、空き室がないケースも多いです」(齋藤さん・以下同) グループホームは1ユニット最大9人で共同生活を送る。通常の施設では、2ユニット18人が定員だ。アパートを借り上げたり、古い民家をリフォームした施設までさまざま。入居者に個室が割り振られ、台所や食堂、浴室は共同。家庭的な雰囲気で生活できる。 「認知症の方は、食事ができ、体も元気なことが多いため、介護度が低く認定される傾向があります。そのため実際の介護は、介護度以上に大変で家族の負担も大きい。特別養護老人ホームは基本的には要介護3以上でなければ入所できないため、要介護2以下の認知症の方のご家族にとって、この施設はニーズが高いです」 施設での生活は、簡単な計算をしたり、昔のことを思い出す回想療法など、認知症に対応した機能訓練などを行う。一方で、入居者同士が助け合い、車いすを押したり、家事を分担する。それがリハビリにつながるという。認知症の女性の場合、これまで毎日行ってきた料理なども「火の元が心配」と家族から禁止され、家事をする機会をなくしている。 「グループホームでは、禁じられていた家事もでき、人の役に立てる。それが認知症による不安や混乱を抑えます」 看取りを行う施設も多いが、認知症が悪化して共同生活が困難になると、退去を迫られることもあるので要注意だ。
2018年01月31日生活者の意識・実態に関する調査をおこなうトレンド総研は、このたび「介護の事前学習」をテーマにレポート。さらに、「1億総介護時代」を前にした「介護の事前学習」の重要性について、「介護ラボしゅう」代表の中浜崇之さんにお話を伺った。介護の知識があれば負担が軽減される介護職従事者以外で、介護関連の資格を持つ20~60代男女500名を対象に、「介護の事前学習」について調査を実施。「資格取得のための学習で得た知識は、在宅介護をする上で役に立つと思いますか?」と聞いたところ、86%と約9割が「そう思う」と回答し、大多数の人が、資格で得た知識は実際の介護現場でも役に立つと考えていることがわかった。さらに、「介護に関する知識があることで、在宅介護はラクになると思いますか?」という質問でも、71%が「そう思う」と回答。また、「具体的に何割程度ラクになると思うか」を聞くと、平均は「5割」に。介護の知識の有無で、負担は5割も軽減されるということになる。在宅介護を見据えた資格取得・学習にあたって重要なことまた、「在宅介護を見据えた資格取得・学習にあたって重要なこと」を聞くと、「座学だけでなく、実習もあるスクール・講座を選ぶ」(57%)が最も多い結果に。「介護現場の知識が豊富な講師が多いスクール・講座を選ぶ」(41%)、「初心者でもついていける学習フォロー体制があるスクール・講座を選ぶ」(39%)などの回答も上位にあがった。「介護ラボしゅう」代表の中浜崇之さんによると、資格取得を通じて介護の勉強をしておくことは、必要な知識を体系的に得ることで、肉体的・精神的な負担を軽減させられるのはもちろんのこと、今後の社会で必要とされるキャリアの選択肢を拡げるということにもつながるのだそう。介護系の資格としては、入門的な位置づけである「介護職員初任者研修」、介護職に就いた後さらなるキャリアアップを目指す方向けの「介護福祉士実務者研修」などがあるという。身近に介護が迫る家族がいるという方は特に、いざというときに慌てることのないよう、事前に知識を得て備えておくことをおすすめしたい。【参考】※トレンド総研
2018年01月24日