アニエスベー ギャラリー ブティックでは、12月16日(土)より水戸部七絵の個展『座る人 “Sit-in”』を開催します。(C)Nanae Mitobe水戸部はこれまで主に「顔」をモチーフに、油絵具を豪快に積層した塑像のような作品を制作し、その作品群を通して、人種や性別による差別や誤解からうまれる社会問題や、政治や資本主義がもたらす経済社会の弊害を映し出してきました。本展は、水戸部が初めて本格的に取り組んだ立体作品と、レコードジャケットを支持体に描いた平面作品、そしてインスタレーションで構成されます。圧倒的な絵の具の物質感と重量感をもって存在する「座る人」の胸には、ヒップホップ界のスーパースターの名前が記され、コラージュされた複数枚のレコードジャケットの上には、韻を踏むトラッシュ・トーカーとしても有名だったボクシング界の英雄が描かれます。本展示で水戸部は、1960年にアメリカで行われた「座り込み」という非暴力的な抵抗運動と、コミュニティを超えジャンルを横断しながら進化を続けるヒップホップ・カルチャーのヒストリーを交差させ、平和的な方法で自由になることを示唆します。【水戸部七絵 - 座る人 “Sit-in”】会期 :2023年12月16日(土)~2024年1月21日(日)会場 :アニエスベー ギャラリー ブティック東京都港区南青山5-7-25 ラ・フルール南青山2F営業時間:12:00-19:00(月曜休廊)冬季休暇:2023年12月27日(水)~2024年1月5日(金)詳しくは: アニエスベー ギャラリー ブティック公式Instagram 詳細はこちら プレスリリース提供元:@Press
2023年12月14日Tokyo International Galleryでは、2022年6月11日より「AUN」が始動します。「AUN」はプレイヤーのフラットな連携を通して、「展覧会」を再考する継続型プロジェクトです。「AUN」展覧会≒エキシビションという言葉は、ex(外)とhabere(持つ)に由来し、スポーツの世界では、採点や順位付けを抜きにして己が研鑽を魅せる試合をエキシビションと呼びます。ではアートエキシビションとは何なのでしょう。そのミニマムな形は、場に作品を現前させ、その場を外に開くことでしょう。「AUN」はこの行為を現代的に咀嚼、肉付けし、それを繰り返すことを新たな一つのスタンダードとして提示します。現代、展覧会は様々なプレイヤーによって生み出されています。アーティスト、ギャラリスト、クリティック、アーキビスト、デザイナー、キュレーター、コレクター、リサーチャー、そしてオーディエンス、ここでは書き切ることはできません。そして各々のプレイヤーがこの繋がりに意識的であろうとなかろうと、彼/彼女たちの役割によって、展覧会は存在しています。「AUN」はこれらのプレイヤーの繋がりを自覚することで始まります。また「AUN」はTokyo International Gallery(TIG)という「場」に始まります。TIGは言わずもがなギャラリーであり、定期的に展覧会が開催され、作家から作品が旅立つ中継点としての機能を備えています。また本来「ギャラリー」という言葉は、建築外部の回廊を指し示し、人が往来、循環する外に開かれた場というニュアンスが存在します。「AUN」は「ギャラリー」という場を原義的に捉え直し、プレイヤーがフラットに連携する場であろうと画策するのです。「AUN」の始まりには、TIGのギャラリスト・島村航介、谷本弥生の呼びかけに応えたアーティストの水戸部七絵、根本祐杜、シグニチャーデザインに浅井美緒、プロジェクトコンセプトに高木遊、プロジェクトレヴューに太田光海、エディターとして月嶋修平、そしてアーカイブの一端を竹久直樹がフォトグラファーとして参画します。「AUN」は始動とともに開かれた回廊を提示し、プレイヤーの繋がりを生みだしたのちに閉幕します。そしてその繋がりから、また新たに「AUN」が始まるのです。「AUN」は、「展覧会」の終わりが新たな「展覧会」の始まりであることを志向するのです。【開催概要】期間:2022年6月11日(土) - 7月23日(土)時間:12:00 - 18:00(火-土) ※日・月・祝 閉廊場所:Tokyo International Gallery〒140-0002 東京都品川区東品川1-32-8 TERRADA Art Complex II 2F【プレイヤー】<Artist>水戸部七絵 Nanae Mitobe画家。東京藝術大学大学院 在籍。一斗缶に入った油絵具を豪快に手で掴み、重厚感のある厚塗りの絵画を制作する。以前からモチーフとして、著名人の人物画を描いてきたが、14年米国での滞在制作をきっかけに匿名的な顔を描く「DEPTH」シリーズを制作し、16年愛知県美術館の個展にて発表、20年同美術館にて「I am a yellow」が収蔵される。近年は、20年上野の森美術館「VOCA 奨励賞」を受賞、22年東京オペラシティ project Nにて個展を開催。また菅田将暉「ラストシーン」のCDジャケット Art coverに採用され、CASIO「G-SHOCK 2100シリーズ」PRに出演。代表作にマイケル・ジャクソンやデヴィッド・ボウイなどのポップ・アイコンをモチーフにした「STARシリーズ」、SNSに上がる世界各国の時事の出来事を描いた「Picture Diary」等がある。主な展覧会に、22年「war is not over」void+、「OKETA COLLECTION:THE SIRIUS」スパイラルガーデン、「project N 85 水戸部七絵|I am not an Object」東京オペラシティ、21年「VOCA展 2021」上野の森美術館、「Rock is Dead」biscuit gallery、20年「-Inside the Collector’s Vault,vol.1- 解き放たれたコレクション展」WHAT、19年「I am yellow」Maki Fine Arts、2016年「APMoA, ARCH vol.18 DEPTH -Dynamite Pigment-」愛知県美術館など。根本祐杜 Yuto Nemoto1992年 千葉県銚子市出身。セラミックを主な素材として彫刻作品を制作。近年ではさまざまなイメージの元、人を制作しており、棒人間やうんこに埋まっているおじさんなどそのイメージアウトプットは多岐にわたる。そのイメージの発生源はドローイングや夢、日常の中で営まれる思い込みや気付きにより発生する。TIGでは高さ3メートル強の巨大な人を展示する。庭に掘られた人型の穴をそのまま立体にし、垂直に立たせる。そこに立つ人物は土から発掘された新人類となる。主な展覧会に、21年「ナッシングアットオール」TokenArtCenter、20年「PERFECT OFFICE」AOYAMA STUDIO 164。受賞歴:21年「群馬青年ビエンナーレ」入選、18年「CAF賞2018」最優秀賞、15年「日本大学芸術 学部長賞」。パブリックコレクション:15年「山梨県笛吹市大垈いやしの杜公園に根本祐杜先生像永久設置」。<Gallerist>島村航介 Kosuke Shimamuraギャラリスト。東京生まれ。2012年に渡米し2016年に帰国。米国での作家・Michael Hoとの出会いにより2019年にTokyo International Galleryを設立。国内外のアートフェアに出展し2020年に現在のギャラリーを天王洲・TERRADA ART COMPLEX IIにオープン。ギャラリー運営を通して日本のアートシーンをさらに躍進させるべく、新進気鋭の作家を中心に展示を展開している。谷本弥生 Yayoi Tanimotoギャラリスト。ロンドン生まれ。オーストラリア、イギリス、アメリカへの留学を経て2019年に帰国。日本のアートシーンをグローバルに展開することを使命とし、アーティスト個々人に寄り添う第一の理解者/サポーターとして協働。国内外のアートを媒介するパイプラインとして、アーティスト、コレクター、キュレーター等、現代美術に関わる多様なプレイヤーをニュートラルに繋ぐ。主な展覧会企画に「Have you ever seen a ghost」(2022)、「The Practice of Alchemy」(2021)、「Everything but...」(2021)、「Endless.」(2021)「H―C三N」など。(左記全てTokyo International Gallery)<Designer>浅井美緒 Mio Asai1997年 東京生まれ。東京藝術大学美術研究科デザイン専攻。個人史から社会問題を紐付け、広義的に編集を行い、視覚情報としてグラフィックを軸に表現している。クライアントワークとアートワークを横断しながら、デザイン領域に軸を置いて活動している。<Concepter>高木遊 Yuu Takagi1994年 京都生まれ。東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科修了。キュレイトリアル・スペースであるThe 5th Floorディレクター。ホワイトキューブにとらわれない場での実践を通して、共感の場としての展覧会のあり方を模索している。主な企画展覧会として「生きられた庭/Le Jardin Convivial」(京都, 2019)、「二羽のウサギ/Between two stools」(東京, 2020)、「Stading Ovation/四肢の向かう先」(静岡, 2021)<Critique>太田光海 Akimi Ota1989年 東京生まれ。映像作家・文化人類学者。神戸大学国際文化学部、パリ社会科学高等研究院(EHESS)人類学修士課程を経て、マンチェスター大学グラナダ映像人類学センターにて博士号を取得した。パリ時代はモロッコやパリ郊外で人類学的調査を行いながら、共同通信パリ支局でカメラマン兼記者として活動した。この時期、映画の聖地シネマテーク・フランセーズに通いつめ、シャワーのように映像を浴びる。マンチェスター大学では文化人類学とドキュメンタリー映画を掛け合わせた先端手法を学び、アマゾン熱帯雨林での1年間の調査と滞在撮影を経て、初監督作品となる『カナルタ 螺旋状の夢』を発表。また、2021年には写真と映像を用いたインスタレーションを展開した個展「Wakan/Soul Is Film」(The 5th Floor)を開催し、さらに熱海で行われた芸術祭「ATAMI ART GRANT」に参加するなど、映画に留まらない領域で表現活動を行う。<Photographer>竹久直樹 Naoki Takehisa1995年生まれ。多摩美術大学情報デザイン学科メディア芸術コース卒、2019年よりセミトランスペアレント・デザイン所属。主にソーシャルメディア普及後における写真を扱いながら、撮影を行う。近年の主な個展に「スーサイドシート」(デカメロン、東京、2022)、展覧会参加に「惑星ザムザ」(小高製本工業跡地、東京、2022)、「沈黙のカテゴリー」(クリエイティブセンター大阪、大阪、2021)、「エクメネ」(BLOCK HOUSE、東京、2020)など。また展覧会企画に「power/point」(アキバタマビ21、東京、2022)、「ディスディスプレイ」(CALM & PUNK GALLERY、東京、2021)などがある。<Editor>月嶋修平 Shuhei Tsukishima作家。1990年 兵庫生まれ。京都大学総合人間学部精神分析学専攻除籍。文章表現からアートに携わる。展示文章や出版物の構成/編集の傍ら、作家としても美術展に参加する。主な参加展覧会に『The Drowned World Anchor』(東京、2019)、『ストレンジャーによろしく』(石川、2021)、『PROJECT ATAMI』(静岡、2021)、『N貸家はいい貸家 発光する貸家と発光する音楽』(東京、2021)など。キュレイトリアル・コレクティブ「HB.」メンバー、作家集団『モノ・シャカ』の一員。 詳細はこちら プレスリリース提供元:@Press
2022年06月01日現代アートにおける、若手作家の登竜門的美術展『VOCA展』。今年は『VOCA展 2021 現代美術の展望-新しい平面の作家たち』として、2021年3月30日(火)まで、東京・上野の森美術館で開催されている。『VOCA展』が若手作家の登竜門と言われる理由は、40歳以下の作家を全国の美術館学芸員などが推薦し、その作家たちが平面作品の新作を発表する、という点だ。さらにユニークなのは、厚さ20cm以内であれば、絵画、写真、映像、インスタレーションなど、どんな平面作品でも出品可能ということ。これまでにやなぎみわ、蜷川実花、清川あさみ、山口晃などが、受賞者に名を連ねている。コロナ禍ながら、本年度は30組の作家が出品。5人の選考委員によってVOCA賞他が選出され、展覧会の前日には授賞式が行われた。登壇した作家は、VOCA賞を受賞した尾花賢一のほか、鄭梨愛、水戸部七絵、岡本秀、弓指寛治の5人。尾花は「自分が制作を進める上で、どんな場所で展示されるかが大きなモチベーション」と語り、まずは美術館のある上野という土地について調べることから始めたという。そして知った上野の明るさと暗がり、さらに過去と現在をもひとつの作品の中に存在させることで、観る者にさまざまなことを訴え、考えさせる。VOCA奨励賞受賞の鄭は、コロナ禍における制作を「大変厳しいものだった」と振り返る。「さらに今の情勢抜きでは制作出来なかった」と語る彼女の作品は、韓国から日本に渡ってきた祖父母の姿を5枚の布に写し出し、それらを重ねることで祖父母の生きてきた時間、さらには人間の死生観までも表現する。同賞受賞の水戸部は、「コロナ禍においてSNSに流れる世界のニュースを絵日記として描いた作品」と説明。絵の具を非常に厚く塗り重ねた重量感のある作品で、平面作品とは思えないほどの圧倒的なパワーを放つ。VOCA佳作賞を受賞したのは岡本と弓指のふたり。さらに岡本は大原美術館賞も受賞したが、「他の作品を見ると全然慢心していられない」と姿勢を正す。しかし襖とその先の世界という奥行きを平面で見せてしまうその作品は、本展の中でも唯一無二だ。弓指は、新型コロナをイメージし縫いつけたというジャケット姿で登壇。本人の明るいキャラクターは一瞬作品そのままにも思えるが、実はそこに描かれているのは、満蒙開拓民たちの悲しい歴史だ。タブーから目をそらさない、弓指の強い意志を印象づけた。現代アートの今後を知る上でも、見逃して欲しくない美術展である。取材・文:野上瑠美子
2021年03月12日3月12日(金)から3月30日(火)までの19日間、上野の森美術館にて『VOCA展2021現代美術の展望ー新しい平面の作家たち』が開催される。『VOCA展』は現代アートにおける平面の領域で、国際的にも通用するような将来性のある若い作家の支援を目的に1994年より開催されている美術展。日頃から公平な立場で作家たちと接している全国の美術館学芸員、研究者、ジャーナリストなどから推薦委員を選出し、それぞれ40歳以下の作家1名(組)を推薦。また、推薦された作家全員に展覧会への出品を依頼し、全国各地の優れた才能を紹介している。これまで、福田美蘭(1994年VOCA賞)、やなぎみわ(1999年VOCA賞)、蜷川実花(2006年大原美術館賞)、清川あさみ(2010年佳作賞)など、多方面で活躍する作家たち延べ951人(組)が出品してきた。『VOCA展2021』では、これからの活躍を期待される新進気鋭の作家30人(組)が出品。この中から、グランプリとなるVOCA賞に秋田県在住(群馬県出身)尾花賢一の《上野山コスモロジー》が決定したほか、VOCA奨励賞に鄭梨愛、水戸部七絵、VOCA佳作賞に岡本秀、弓指寛治の作品が選ばれれ、大原美術館賞には岡本秀の作品が同美術館の選考を経て選出された。なお、第1回開催から『VOCA展』を協賛している第一生命保険株式会社は、収蔵しているVOCA賞の作品を本社1階にあるロビーでの展示や、第一生命ギャラリーで定期的に公開している。さらに、全受賞者に対して、同ギャラリーを個展の会場として提供。『VOCA展2021』の会期を含む3月1日(月)~12月30日(木)まで、『VOCA展2020』で受賞したNerholや、菅実花の作品を含む、これまでのVOCA作家の受賞作品や近作を展示する『VOCA受賞作家展「TOKYO☆VOCAII」』が第一生命ロビーにて開催されるので、こちらも併せて注目してほしい。◆VOCA賞受賞者尾花 賢一作品に取り掛かる際、会場となる『場所』について思考を深めることから始めます。北関東出身の私にとって、上野は東京の玄関口。幼少の頃、初めて美術に触れたのもこの場所でした。この作品では明るさや暗がりが混在する上野の山を、家族と散策した記憶を思い出しながら絵筆を進めました。過去と現在を反芻し、場所のレイヤーを捉え直す。不思議な経緯で辿り着いた作品が、このような賞を頂くことができ大変嬉しく思っております。◆今井 朋(アーツ前橋)・推薦委員の(会場における本作品鑑賞の手引き)上野という場所は、美術の権力化にも大衆化にも同時に加担し続けてきた。名作が展示されもするし、団体展のような市民の発表の場でもある。さらに尾花は、道端で商売をする似顔絵描きや標識などに描かれたグラフィティへも表現としての敬意を示す。動物園のパンダと公園内で来場者がこぼしていった餌を探し求める都会の野生動物など人間の恣意的なものさしによって生まれる現代社会における存在の貴卑へ本作は疑問を投げかける。【VOCA展2021 受賞者一覧】<VOCA賞>・尾花賢一《上野山コスモロジー》/ インク、ワトソン紙、木枠 / 250cm×400cm×20cm<VOCA奨励賞>・鄭梨愛《Vision》 / 布に昇華転写、フック・ステンレスパイプ・木材 / 148.3×318.4×20cm・水戸部七絵《①Picture Diary20200910》《②Picture Diary20200904》/ 油彩、麻布・木製パネル / 250×200×15cm、250×200×10cm<VOCA佳作賞>・岡本秀《複数の真理とその二次的な利用》 / 紙本着色、額に写真をマウント / 180×354×3.5cm・弓指寛治《鍬の戦士と鉄の巨人》/ アクリル・鉛筆・ペン・新聞紙、木製パネル / 249×399×4cm<大原美術館賞>・岡本秀《複数の真理とその二次的な利用》 / 紙本着色、額に写真をマウント / 180×354×3.5cm<選考委員(上記各賞については、以下の選考委員により選考)>・小勝禮子(選考委員長 / 美術史・美術批評)・水沢勉(神奈川県立近代美術館館長)・家村珠代(多摩美術大学教授)・荒木夏実(東京藝術大学准教授)・前山裕司(新潟市美術館館長)【VOCA展選考委員「VOCA2021」選考所感】<小勝禮子(選考委員長 / 美術史・美術批評)>新型コロナ感染症の世界的な蔓延という、未曽有の事態の中での新作を集めた「VOCA展2021」だが、直接的にその体験を主題にしたものはない。しかしVOCA賞の尾山賢一は、明治以後、美術館・博物館の集中することになった上野の山の歴史的トピックを、漫画の手法でダイナミックに回顧し、奨励賞の鄭梨愛は在日の家族の日常の場面を、転写した薄い布の重なりで重層的に浮かび上がらせた。社会の歴史と個人の日常はつながり合い、溶け合う。コロナ禍での隔離された日常の中で、若手の作家たちは人間と社会の歴史に向き合っているとも言えよう。<水沢勉(神奈川県立近代美術館館長)>パン(すべて)のデモス(人々)を巻き込む「危機(パンデミック)」に境界はないはずである。しかし、結果的に、対立と分断は、深まるばかりであり、それぞれの地域の問題点や弱点がますます露わになった。「危機(パンデミック)」。それは、じつは芸術の本質と重なる部分がある。ただ、必ずしも直接的な批判とはならないことも多い。今回VOCA賞の尾花賢一《上野山コスモロジー》は、記憶の断片に沈潜する。細部に執着する。劇画風の鮮明さで。鄭梨愛(ちょんりえ)《Vision》は世代をつなぐ記憶を喚起する。ヴェールの柔らかさに何重にも包むように。水戸部七絵《PictureDiary 20200910》《Picture Diary 20200904》は差別をテーマにしている。しかし分厚い絵の具に塗り込めて。それらは「すべての人々」に関わる普遍的なテーマを秘めている。そのためには迂回路もときに必要なのだ。<家村珠代(多摩美術大学教授)>VOCA賞の尾花賢一は、木枠、額縁、同展会場となる上野の山の歴史を劇画調に描いた絵画を大小綯交ぜに構成・配置することによって、鑑者の視線をでこぼこと入り組ませ、史実と妄想が判然としない世界に引き込むものであった。奨励賞の水戸部七絵の人物像は、粘土と見紛うほどの絵具の量感と美しさ、荒々しいストロークによって、圧倒的な存在感と輝きを放つ作品ではあると同時に、背景に判読しにくく文字を記すことによって、その人物像のイメージをゆらがしていた。今年の受賞作品は、そのいずれもが、実際に作品の前にたち、細部にわたってじっくりと読み解く楽しさを再認させてくれるものであった。<荒木夏実(東京藝術大学准教授)>絵画で、あるいはより広く、アートで何を表すことができるのか。今回受賞した人たちに共通するのは、表現せずにはいられない、その人が描く必然性ではないだろうか。アーティストがいま、世界のどこを見て、何を考え、伝えようとしているのか。そのヴィジョンを私は見たい。粗さや未熟さがあったとしても、アーティストの思いと問題意識が伝わる作品が見る人の共感を呼ぶのだと思う。今回の受賞をステップに、さらなる飛躍を期待している。<前山裕司(新潟市美術館館長)>新型コロナウイルスのパンデミックによって、未来が見えず、現在を模索するような状況が続いている。大勢の人がいる映像を見ると、これは過去の映像だといつのまにか判断する自分に嫌気がさす。コロナウイルスは「現在」をことさら意識させているように感じてきた。VOCA賞の尾花賢一や佳作賞の弓指寛治など、歴史や過去を扱った作品がとくに印象に残ったのは、そんなことが影響しているのかどうか。選考会の後ずっと気になっている。【「VOCA展2021」開催概要】「VOCA展2021 現代美術の展望ー新しい平面の作家たち」会場:上野の森美術館会期:3月12日(金)~3月30日(火) ※19日間(予定) / 会期中無休開館時間:10:00~17:00 ※入場は閉館30分前まで最新情報は、上野の森美術館ホームページ( )内で随時公開
2021年01月14日