■ 前回 のあらすじ娘が泣き止む唯一の方法を発見!しかしそれはとても壮絶なもので…■赤信号で立ち止まるのを避けるために…目的地があるわけではないので、とにかく信号が青になっている方へ歩き続けました。一瞬でも立ち止まったら大号泣することを考えたらヒヤヒヤしてしまいます…。■次々と襲い掛かる難関…雨や雪の日、真夏はデパートやショッピングモールの中へ避難。しかし、ここでも立ち止まるわけにはいかない!エレベーターを待たずに乗る方法とは一体…!?あくまでも筆者の体験談であり、症状を説明したり治療を保証したりするものではありません。気になる症状がある場合は専門機関にご相談ください。次回に続きます。【同じテーマの特集はこちら】 〜子どもの発達障害を知ろう、考えよう〜 【同じテーマの連載はこちら】 産後の話 この連載の全話を見る >>
2021年01月08日■ 前回 のあらすじ延々と泣き続ける原因として、抱っこヒモが合わないのかと思い、色々な種類のものを試してみたけれど…■娘が泣き止むたったひとつの方法とは…その後、koto子が泣き止む唯一の方法を発見!それは何かというと…その頃の1日のスケジュールは… 一秒でも立ち止まるとギャン泣きしてしまい吐くまで大騒ぎするので、何がなんでも歩き続けなければなりませんでした。飲まず食わずで歩き続けても、街には「難関」がいくつも待っていました…。そのひとつが…今思えば、赤ちゃんの頃から多動の片鱗を見せていました。あちこちで待ち受ける難関、どうする赤信号…!あくまでも筆者の体験談であり、症状を説明したり治療を保証したりするものではありません。気になる症状がある場合は専門機関にご相談ください。次回に続きます。【同じテーマの特集はこちら】 〜子どもの発達障害を知ろう、考えよう〜 【同じテーマの連載はこちら】 産後の話 この連載の全話を見る >>
2021年01月07日■ 前回 のあらすじ産後すぐから、少しでも触るたびに泣き叫ぶ娘に違和感を覚えます。自分はダメな母親なんだと思い始め…■もしかして抱っこ紐が合わない?藁にもすがる思いで様々な抱っこ紐を試しましたが、どれを使ってもこの世の終わりかのように泣き続ける娘…。「9割の赤ちゃんが泣き止む!」の文字に希望をいだき、泣き止まなかった時の悲しみといったら…!しかしこの後、ひとつだけ…koto子が泣き止む方法を発見しました!あくまでも筆者の体験談であり、症状を説明したり治療を保証したりするものではありません。気になる症状がある場合は専門機関にご相談ください。次回に続きます。【同じテーマの特集はこちら】 〜子どもの発達障害を知ろう、考えよう〜 【同じテーマの連載はこちら】 産後の話 この連載の全話を見る >>
2021年01月06日こんにちは!オシャレに夢中な多動っ子の娘をもつ母、kotoです!現在、未就学児の娘は、得意なことと苦手なことの高低差が激しい自閉症スペクトラムです。注意欠如多動性障害でもあり、破天荒な毎日を過ごしています。産まれてからの娘のkoto子の様子はというと…、発育に遅れはありませんでしたが、私は生後半年ほど経った頃から何かあるのでは…と思っていました。今思えば母親の勘ってやつでしょうか…。その確信に至るまで、そして療育に通って成長していく私たち親子の記録を綴っていこうと思います!■出産後すぐに感じた違和感…これが産後すぐに感じた違和感…。当時まだ0歳だったので、周りからは「普通だよ」「大丈夫だよ」と言われ続けましたが、そうは思えない出来事の連続だったのです。■我が子に拒否されている?私はダメな母親なの?当時は「発達障害」「感覚過敏」なんて言葉すらあまり知らない時期…。母親を拒否する赤ちゃんなんて聞いたことがなかったので私の接し方がダメなんだと自分を責め続ける日々が続きました…。あくまでも筆者の体験談であり、症状を説明したり治療を保証したりするものではありません。気になる症状がある場合は専門機関にご相談ください。次回に続きます。【同じテーマの特集はこちら】 〜子どもの発達障害を知ろう、考えよう〜 【同じテーマの連載はこちら】 産後の話 この連載の全話を見る >>
2021年01月05日■前回のあらすじ保健師さんの話を聞いて気持ちが楽になり、周りに弱音を吐けるようになったり自分の趣味も楽しめるようになってきました。■大きかった不安は小さくなっていった息子の発達年齢は少し遅れてはいたものの、療育に通えるようになって周りに同じ悩みを抱える人がいたり、サポートしてくれる人がいることが、とても心強かったです。■不安はゼロにはならないけど、私はもう大丈夫周りと比べたり、成長がゆっくりなことに落ち込んだり…焦っていた自分にたくさん後悔もしているけれど、今私が笑っていられるのは周りの人たちのおかげです。あの時の私は周りの芝生がそれはそれは青く見えて嫉妬して、そんな自分が嫌いで、でもどうしようもなくて、自分と同じ悩みを持つ仲間が欲しかった。共感してもらいたかったし、共感したかった…。私だけじゃないんだ、と思ったら、もう少し頑張ってみようかなと思えました。誰かがこの漫画を見ることで、同じように、私だけじゃないんだ、と思ってもらえたら幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。※発育に関しての見解は筆者個人の体験によるものです。 【同じテーマの連載はこちら】 湯本もゆのオドオド手探り育児 この連載の全話を見る >>
2020年10月03日何かできないか…その想いが療育グッズ製作の始まり2歳半の時、発育の遅れを指摘された娘は、すぐ、言語訓練に通い始めました。しかし、言語訓練は予約がいっぱいで、1か月に1回しか受けることができませんでした。娘は2歳半のころ、ほとんど発語がありませんでした。少しでも発達を促すことができたらと、言語訓練を希望していたものの、療育施設での言語訓練は月に1回しかできないと言われてしまいました。私は言語訓練に通うことができない状況に焦りました。少しでも娘の発語を促すため、何かしなければと考え続ける日々…。そこで、言語訓練で使っていたカード訓練をヒントに、自宅で真似してカードを作りました。Upload By SAKURAUpload By SAKURAUpload By SAKURA最初は、無関心だった娘でしたが…。Upload By SAKURA全く興味を示さない娘に、繰り返しカードを見せ、ほぼ独り言のような状態で、カードに描いてある絵の名前を読み上げ続けると…娘はだんだんと、カードに目を向けるようになりました。そして、少しずつ私の読み上げる言葉に反応を示し始め…。数日後には、カードを自主的に持ってくるようになりました。このカードは、私たちの療育の始まりでもあります。私が初めて作った思い出深いカードです。この後、さらに制作したカードと一緒に、今も大切にしまってあります。Upload By SAKURA現在、カードはおもちゃ箱に保管されていて、娘は(小学3年生になった)今も時々、出して遊んでいます。Upload By SAKURAその光景を見るたび、なかなかしゃべらなかったあのころを思い出し、スラスラと話す今の娘を見ながら、成長を感じ、嬉しくなります。小学校に向けて「自分で」の準備娘が幼稚園の年長になり、「ついに来年は小学生!」というころ…。私は、娘の小学校入学にいくつか不安がありました。そのうちの一つが、「(学校の)準備が一人で、できないこと」でした。そこで、小学校入学にむけて、「準備」を練習することにしたのですが…。Upload By SAKURA一緒に取り組んでも、娘は心ここにあらず。何とかやる気を出してもらおうと、明日の持ち物準備のチェックリストを作りました。Upload By SAKURAこのチェックリストにしてから自主的に、準備に取り組むようになった娘。準備を視覚化することで、「明日の準備」は娘が主体的にできる日課になりました。Upload By SAKURA小学生になった現在、スムーズに「明日の準備」ができているのは、このチェックリストが少なからず影響を与えたのだと、私は思っています。朝、言われなくても動けるようにするために小学校に入学した娘。朝起きるのがとても遅く…支度にも時間がかかり…いつも出発はギリギリでした。「早くして~!」「遅刻する~!」とイライラしながら声をかける日々を毎日繰り返し、私は精神的にいっぱいいっぱいでした。Upload By SAKURA何とかしなければと娘の様子を観察していると、あることに気がつきました。娘は、次の行動にうつる前に必ず、止まって固まっていたのです。次に自分が何をしたらいいかわからないんだ…と気づいた私は、あるものを作りました。Upload By SAKURA作ったのは、朝、娘がしなければならない支度や準備を、すべて描いたカード。娘には、終わったカードを裏返してもらいます。そうすることで、あとは何が残っているかはっきりわかり、全体の見通しも立ちやすくなることが狙いでした。カードを使い始めてから、全部クリアしようとゲーム感覚で楽しく準備してくれるようになり、朝のイライラは激減しました。そして、私が何も言わなくても、カードを自分で出してきて、自主的に身支度を始めるようになったのです。カードを使った支度は、小学1年生から2年生までの半年ほど続き、小学3年生になった今は、声かけをしなくても、出発の時間までテレビを見たり、ゲームをして過ごすことができるほど、余裕をもって支度を終えられています。Upload By SAKURA大切なのは完成度よりも、親の想い私はこれまで、娘に何か課題が発生するたびに、娘の手助けになれば…と、いろいろ作ってきました。その中には、全く娘に響かなかった失敗作も、たくさんありました。しかし、大事なのは、我が子を観察し、どうすれば過ごしやすくなるか、「考えること」ではないでしょうか。子どものために、一生懸命作ったものなら、絵がうまくいかなくても、コピーして切って貼ったものでも、子どもにとっては特別なのです。親の愛情が含まれてこそ、効果があると思います。親が子どものために、試行錯誤してやることに不正解はない。すべて正解だと私は思っています。
2019年08月21日特別支援学校入学に向けて、療育手帳を取得することに現在、特別支援学校に通う5年生の長男。療育園年長時、就学相談で、特別支援学校に入学するには入学前に療育手帳を取得するようにと説明がありました。それまで療育手帳を取得していなかった長男。手続きについて聞くと、私たちの住む地域ではまず市役所を通してから、児童相談所で発達検査を受けなければいけないとのことでした。自閉症の長男の進学先が特別支援学校になるだろうということは早い段階から考えていたことでしたが、療育手帳を取ることによって、確実に障害があると認定を受けることになる...母である私には、息子の障害をはっきりと社会的に認めることになるように感じられ、正直少しためらう気持ちがありました。複雑な気持ちを抱えつつ夫に「特別支援学校に入学する前に、療育手帳を取る必要があるんだって」と相談したところ、「手帳があることでシュウにとって必要な支援が受けられるなら、申請したほうがいいね」Upload By シュウママと賛成してくれました。夫の言葉に背中を押され、手帳取得に向けて実際に手続きを進めていくことになりました。児童相談所での発達検査。果たして長男は...児童相談所での検査当日。長男の検査の前に、先に母親である私と心理士さんとの面談がありました。洋服を自分で着脱できるか、トイレはできるか、ごはんやお風呂は介助が必要かなどの生活面の確認と、パニックを起こさないか、自傷や他害はないかといった精神面・行動面の確認がありました。そしてその後、長男自身が検査を受けました。まず、心理士さんがいろんな絵の描かれたカードを長男に見せます。そこに描かれた動物や乗り物などについて答える問題でした。長男は自分が好きなものだけ大きな声で答えます。発音が聞き取りにくいので、私が横で「これはひこうきと言っています」と心理士さんに通訳しながらすすんでいきました。ただ、出されるカードのほとんどのものは答えることができませんでした。次は組(対)になっているものを答えよという問題。心理士さんは、えんぴつを指して「これは何かな?」と長男に聞きます。...長男は無言。Upload By シュウママ長男が反応せずとも質問はどんどん続きます。「えんぴつとセットになるものは何かな?」...正解のノートを長男は指せません。検査を終え、心理士さんからはおそらく療育手帳はA判定になるだろうというお話がありました。療育手帳の判定結果、親としての思い後日、市役所に行き療育手帳を受け取りました。やはり判定はAでした。私の住む地域では、最も重い丸Aから最も軽いCまであります。A判定であるなら、特別支援学校に通うには問題ありません。けれど分かってはいたものの、長男が重度の知的障害と認定されることにわずかなかなしさがありました。療育手帳を取得して。長男の育ちに必要な支援が受けられるようにそれでも、療育手帳を持つことで受けられるサポートはたくさんありました。市役所で説明されたのは、特別児童扶養手当があることや、バスや電車での本人と介助者の運賃割引、ガソリン代あるいは車を運転しないのであればタクシーチケットの支給もあるということ。私は車が運転できないので、このタクシーチケットは特にありがたかったです。長男は病院からの帰り道、歩きたくなくて道端で「歩くのイヤ~!」と叫ぶときがあります。そんなときにタクシーを利用するのですが、初乗り分の料金を支払えるチケットは経済的にとても助かりました。自治体によってはオムツが支給されるところなどもあるようですので、お住まいの自治体の窓口等に確認するとよいかもしれません。Upload By シュウママ療育手帳を取得することで、自分のお子さんの障害が公的に認定されてしまう、そのことに不安を抱いている方がいるかもしれません。その気持ちは同じ立場として痛いほど分かります。けれど最初の判定から5年経った今は、手帳の取得は障害のレッテルを貼るためのものではなく、子どもの成長や子どもにとって過ごしやすい環境の整備のために必要なものなのだと感じています。また、判定結果がたとえ重度だとしても、特別支援学校に通いながら長男は長男のペースでゆっくりだけれど着実に成長している。それを親である自分が分かってさえいればいい、それが何より大切だと、そう思えるようになりました。Upload By シュウママ
2019年05月31日認知度が上がり、世間の理解が深まりつつある、発達障害。ですが、まだまだネガティブな受け取り方をされることが多く、発達障害の子を持つ親として、ちょっとだけ残念な思いを抱いていました。そんなモヤモヤを解決してくれたのが、信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授である本田秀夫先生の著書 『発達障害 生きづらさを抱える少数派の「種族」たち』 でした。第2回のインタビューでは、本田先生が考える「療育の本当の意味とは?」についておうかがいします。お話をうかがったのは…本田秀夫(ほんだ・ひでお)先生信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授特定非営利活動法人ネスト・ジャパン代表理事精神科医師。医学博士。1988年、東京大学医学部医学科を卒業。東京大学医学部附属病院、国立精神・神経センター武蔵病院を経て、横浜市総合リハビリテーションセンターで20年にわたり発達障害の臨床と研究に従事。発達障害に関する学術論文多数。英国で発行されている自閉症の学術専門誌『Autism』の編集委員。2011年、山梨県立こころの発達総合支援センターの初代所長に就任。2014年より現職。日本自閉症協会理事、日本自閉症スペクトラム学会常任理事、日本児童青年精神医学会代議員。■発達障害「早期発見・早期療育は子どもではなく親のため?」―― 前回 、親が早期に子どもの特性を知っておくことの重要性を教えてもらいましたが、早期発見は早期療育の効果へとつながるのでしょうか? よく、療育を始めるのは早ければ早いほど良いなどと言われますが…。本田秀夫先生(以下、本田先生):僕は、絶対そういうことは言わないようにしています。――なんと…(驚)。そういったお話も聞いたことがありますが、臨床の現場で約30年、幼児期から成人期まで一貫して診てきた先生がそうおっしゃるのは、また違った重みを感じます。本田先生:そもそも早期に発見される子の方が、大人になった時の障害は重いのですよ。なぜなら、症状が重い子の方が早く発見されるから。症状が軽くて、知的障害がない発達障害の場合は、就学時健診でもわからないことも多いのです。ですから、早く発見された人ほど良くなるというのは正確ではありません。――確かに…。本田先生:でも、僕は早期発見・早期療育を推進しています。理由はただ一つ、親御さんの認識を変え、親御さんが学ぶチャンスが早くなる、ということです。実は僕、子どもを療育しているフリをして、親の認識を変えることこそが療育だと思っていますから。つまり、子どもをどうこう療育するというより、親がコペルニクス的に認識を変えられるかどうかが非常に大事なのです。――深いお話…。本田先生:早期に親御さんがわが子の特性を知れば、対処法を学ぶこともできます。例えば、たびたびパニックを起こすようなお子さんだと、親御さんは疲弊してしまいますよね。でも、これを防ぐのは意外と簡単で、パニックを起こしたくなるような刺激を与えなければいいのです。例えば、子どもが好きなことをやっている最中に止めさせようとするとパニックを起こすということがわかれば、大好きなことはある程度切りのよいところまでやらせて次の活動に切り替えさせればよいわけです。ほかの子が近づくとたたいてしまう場合は、ほかの子が近くにきたら、その間に親御さんがスッと割って入って、その子の手が届かないようにすればいい。知っていれば未然に防げるけれど、知らないと結局、親子ともども嫌な思いを重ねることになってしまいます。■「療育でグレーは白にならない」子どもファーストの環境を――親への効果はよくわかりましたが、子どもにとっては本当に効果がないのでしょうか?本田先生:私たちの療育では、基本的に子どもファーストで考えてプログラムを組みます。例えば、一般の子育てなら、2歳の子どもに箸を使う練習はさせませんよね? 2歳くらいならスプーンを使ったり、大人がフォローしてあげればいいわけです。それが、成長につれて箸を使うようになったり、だんだん変わっていくのですが、そのペースが発達障害の子たちはほかの子と違います。ですから、今何を教えたらその子に身につくのかということを、一人ひとり厳密に考えていきます。そうして子どもに合った環境やプログラムを整えてあげれば、情緒的に安定して、活動に意欲的に取り組め、子どもも伸びると思いますよ。――ということは…? と、親はつい期待してしまいますが。本田先生:ただし、ここで一つ注意が必要です。親御さんは「療育で子どもが良くなった! このままいけば治るのでは…?」と思ってしまいがちですが、子どもが良い状態にあるのは、こちら側が相当に配慮した環境だからであり、環境が変われば元の木阿弥です。前回も言いましたが、「グレーとは 白ではなくて 薄い黒」ですから。特性そのものは消えません。ですから、そこまで伝えるために、僕たちの療育では親御さんにも時々参加してもらって、どういう状態だったら子どもが落ち着いた良い状態になるのかを学んでもらうようにしています。■発達障害「どのような大人になるかは、親の育て方次第」――いかに子どもを取り巻く環境が大事か、ということなのですね。本田先生:そうです。発達障害というのは、もともともの原因は育て方のせいでなるわけではないのですが、「どのような大人になるのかは、育て方次第」と僕は思っています。例えば、背が低いことで悩んでいる人がいるとして、「別にいいじゃん」と言ってもらえるのと、「このままじゃヤバいよ! 早くなんとかしないと!」と言われるのでは、本人の受け取る印象はずいぶん変わってきますよね。それと同じで、親御さんがなんとか子どもの苦手を克服させたい、平均にそろえたいと思えば思うほど、克服できない部分が残った時に、子どもは親の期待に応えられない自分を責めてしまうのです。否定的な雰囲気の中で育つと、自己肯定感も低くなりますし、さらに責めたてられるような雰囲気の中で育つと、抑うつ的になってしまったり、逆に、自己防衛する意味で攻撃的な性格になってしまう危険性があります。――確かに…。でも、親は、わが子に対して「こう育ってほしい」という理想を持ってしまうものなのかもしれません。良かれと思って、つい…(苦笑)。本田先生:申し訳ないけれど、いかに親の価値観や考え方をリセットできるかが大事なのです。難しいかもしれませんが、先に理念を変えるというより、実践しながらの方が価値観は変わりやすいと思いますよ。どんな時に子どもが情緒的に不安定になって、どんな時に落ち着いているのか、その両方の状況の違いがわかれば、だんだんと親御さんのとらわれが溶けていくと思います。そのプロセスをなるべく幼児期のうちに通過しておくと、学校に入ってからが楽になると思います。――学童期になると、別の難しさが発生するのでしょうか?本田先生:学校に入ると、親御さんだけではなく先生の中にも「学校ではこういう子どもを育てるべき」という考えを持つ人がいるので、子どもは、家でも学校でも問題児というレッテルを貼られてしまう危険性があります。子どもがトラブルを起こして、先生に怒られて、親御さんも学校から「家庭のしつけが悪い」などと責められて心が病んでしまったり…。そうなってからですと、非常に対応が難しくなります。――確かに…。自由な幼児期と違って、学校では勉強が始まるので、クラスの雰囲気を乱すような子に対して、先生だけはなく保護者の目も厳しくなるように感じます。本田先生:実際のところ、文部科学省の発表では、通常学級の生徒の中になんらかの発達障害を持つ子が6.5%いるということですからね。クラスに必ず数名はいるということになります。早いうちに子どもの特性を理解して、周囲にきちんと説明できるような親御さんが増えて、そういう子がいるのがむしろ当たり前、という雰囲気になってきたらよいですよね。そして、学校もそういう子がいるという前提で、活動内容を組み立てるのが、当たり前になってほしいと思います。社会集団には、個性の凸凹がある程度存在します。「よくある個性」と認める範囲が広い集団では、「少数派」の人がそれほど目立たなくなります。発達障害の人も、その他のさまざまな個性がある人も、それぞれが自分のことをよく理解し、それが自分の普通だと思って生きていけるような社会が、本来あるべき社会の姿だと、僕は思っています。今回のお話や本を通して、いろいろな普通があることを、多くの人に理解してもらえればと思います。もし、わが子の発達に不安を感じている方や、すでに子どもが発達障害と診断され悩んでいる方がいたら、ぜひ一度、本田先生の著書を手に取ってほしいと思います。本を読む前と読んだ後では、きっと発達障害への印象がガラリと変わることでしょう。もちろん、そんな気持ちの部分だけではなく、「発達障害とはどんな障害か」ということもわかりやすく解説し、具体的な環境設定や支援方法まで紹介してあり、発達障害への理解と対応力が一段と深まることと思います。「どのような大人になるかは育て方次第」――その言葉に改めて、発達障害児の子育てにおける、親の役割の重要さを感じた取材でした。参考図書: 『発達障害 生きづらさを抱える少数派の「種族」たち』 (SBクリエイティブ)精神科医として30年以上、臨床経験の大半を発達障害の診療に費やし、乳幼児から成人まで、さまざまなライフステージの方たちによりそってきた、本田秀夫医師による著書。発達障害とは、なんらかの機能や能力が劣っているのではなく、「病気」というよりも、「選好性の偏り」と考えるほうが、ずっと当事者の理解に役立つ。そんな視点から発達障害を理解し、発達障害の人の行動や心理、支援の方法までをわかりやすく解説。まちとこ出版社N
2019年04月02日見知らぬ土地での、初めての子育て私は結婚してすぐに夫の転勤で引越し、実家から離れた土地で娘を育てていました。そこは社宅が多く、私のように実家が遠かったり、パパの帰りが遅かったりして、ワンオペ育児をしている家庭が多い地域でした。娘が1歳の頃、私は公園で知り合ったママ友と仲良くなり、お互いの家を行き来して過ごしていました。この頃の娘は同世代の子どもと一緒にごっこ遊びなどはせず、いつもマイペースに遊んでいました。それでも皆と同じ空間にいることを嫌がる様子はなく、気が向けば遊びに参加したりして、本人はそれなりに楽しんでいるようでした。2歳頃になると、私はママ友に誘われて、地元の子育てサークルが主催する読み聞かせの会や、自治体主催の親子体操、工作教室などに行くようになりました。お友達が楽しそうに参加する中、娘は何度通っても部屋の端っこに隠れたり、外に出ようとしたりして、活動に加わろうとしませんでした。音楽教室の無料体験レッスンに参加させてみると…?出典 : そんなある日のこと。友達に誘われて、音楽教室の無料体験レッスンに行ってみました。講師の先生は、並べられたタンバリンや鈴などの楽器を“順番に”鳴らしていくよう口頭で指示しましたが、娘にはそれが理解できませんでした。そして先生に「お嬢さんには、こちらの教室は無理のようですね」と入会を断られたのです。どうしても入会したいという気持ちはなく、友達に誘われて「無料お試しキャンペーン中だし、楽しめたら良いなぁ」くらいの軽いノリで参加したとはいえ、この言葉に私は大きなショックを受けました。親子の“居場所”を探し求めた日々その後も私は、親子で楽しめる場所はないかと児童館や保育園の園庭開放、短期保育体験、プレ幼稚園など、娘と一緒にいろいろなところに行って相談しました。ですがなかなか、居場所は見つかりませんでした。ある時、自治体の相談窓口で「子どもの発達の相談に乗ってくれるところが最近できたんですよ。よかったらそちらに電話してみてはいかがですか?」と、ある施設で行われている親子教室を紹介されました。そこは今でいういわゆる「療育センター」だったのですが、名称に「療育」の文字もなく(そもそも当時私は「療育」という言葉も知りませんでした)、私は「娘と一緒に体を動かしたり遊んだりできる場所があるなんて、ラッキー!」という気持ちで電話をしました。その親子教室に見学に行った時、娘は一瞬入室を一躊躇しましたが、実際に体験してみると、そこはやはり娘にぴったりの場所でした。嬉しいことがいっぱい。できることがいっぱい。仲間がいっぱい。私は娘が興味を持つ絵本や紙芝居、遊びや体操など、たくさんのことを知りました。毎回楽しく過ごせる上に、そこでおむつ外れもスプーンの使い方も無理なく身につけられたことを、本当に嬉しく思いました。娘と一緒に帰省した時の出来事私と娘が実家に帰省していたある時、親戚から食事に誘われました。キッズコーナーのないレストランでの食事は、娘にはまだ無理ではないかと躊躇したのですが、「せっかく久しぶりに地元に帰ってきたんだから、いらっしゃいよ。個室だし、同じくらいの年の子も来るから大丈夫。身内の集まりなんだから、もし子どもがぐずっても誰も気にしないわよ。」と言われ、私は娘を連れて行くことにしました。ところが、いざ行ってみるとそこはホテルで、個室といってもホールをパーテーションで仕切っただけの、円卓を並べた会場でした。娘が食べられるメニューも少なく、遊ぶものもほとんどありません。同じくらいの子どもといっても、年上の子どもが1人だけ。娘は徐々にむずがり始めましたが、他の利用客もいるので、ロビーに出て遊ぶこともできません。ある程度覚悟していた私は、自分の食事もそこそこに、会場の隅で娘の遊び相手に専念しました。そして食事会が終わるまでの2時間を、親子教室で身につけたスキルをフル稼働して何とか乗り切ったのでした。親戚からの電話で言われた、きつい一言実家から自宅に戻ったある日、食事会を企画した親戚から電話がありました。そしてこんなことを言われたのです。Upload By 荒木まち子私は言葉に詰まりまりながらも「娘については関係各所に相談などもしているし、やれることはやっています。」とだけ言って電話を切りました。実はこの頃、娘は医師から“自閉傾向”と言われていました。遠くに住む親戚、しかも数年に1度しか会わないその人は、普段の私たちの様子を知りません。医師でも支援者でない相手の言葉を気にする必要はなかったかもしれません。でも、私の心は深くえぐられました。それが子育ての先輩としての“親切心”で発した言葉だったとしても、私にはとてもきつい言葉でした。一人で抱えきれないショックと悲しみでいっぱいになった私は、親子教室の先生に電話をしました。「帰省した時、親戚に『あなたの子は施設に入れた方がいい』と言われました。娘はすぐにどこかの施設に入れなければならないほどなのでしょうか?」話をしている途中で何度も言葉に詰まってしまったので、私が泣いていることは気づいていたでしょう。でも、先生はじっと話を聞いてくれました。そして穏やかにこう言ったのです。「ここも“施設”なんですけどね。」私たちにとって、親子教室はどんな存在だったのか今思えば、親子教室で行っていた遊びや体操は、療育そのものでした。例えば、教室の時間中は、子どもが勝手に開けて出て行かないように、ドアには「×」マークの紙が貼られていました。口頭で「部屋の中で過ごします」「一人で外に行きません」と言うだけでなく、視覚的にも分かりやすい工夫がされていたのです。また、親子教室は、子ども達がおのおの好きなおもちゃ遊びを堪能した後に始まるのですが、そのためにおもちゃを片づける時も、次の「楽しいこと」に向けて見通しを持たせたうえで、親子で一緒に片づけをしていましたし、片づけが済んだらサッとおもちゃの棚を布で目隠しして、子ども達が次の活動に集中できるような工夫がされていました。始まりの会では、ピアノに合わせて名前を呼びます。子どもが返事をできると、自然と先生や参加している親子から拍手が沸き起こりました。昔ながらの童謡に合わせた親子体操では、普段は抱っこや手つなぎを嫌う子どもたちと自然に触れ合うことができました。紙芝居は、『じゃあじゃあびりびり』や『もこもこもこ』など、物語重視というよりも視覚優位の子どもの興味を引くものを中心に選ばれていました。先生は私が娘の行動への対応に困った時、さり気なくフォローをしてくれました。でも決して、「こうした方がいい」とか「こうしなければならない」などと言うことはありませんでした。だから私はプレッシャーを感じることなく、自分のできる範囲で先生のすることをまねたりしていました。親子教室で行われていることや工夫には、障害のある子どもとの接し方に悩む親へのヒントがたくさんありました。また、それだけでなく、教室ですごす時間は、純粋に親子で楽しく過ごせ、悩みを相談でき、元気をもらい、笑顔になれる、かけがえのないものでした。私が「療育」という言葉を知らなかったためか、はたまた大らかな土地柄のせいもあったのか、そこにはいつも穏やかな空気が流れていて、ほんわかしていました。通っている他の保護者も皆気負うことなく、お互いの子どもの成長を喜び合う優しい雰囲気がありました。子育てサークルや音楽教室、親戚との食事会…そこでは気をつかったり、落ち着かなかったりして、穏やかな気持ちで娘と接することができませんでした。ですが、親子教室では、自然と笑顔になれました。私にとって、療育センターの親子教室で過ごすひとときは、“外”の世界で傷ついた心を癒すオアシスだったのです。ひとしきり泣いたら、前へ進める親戚の言葉に傷つき「遠くの親戚よりも近くの他人」を実感した私。この経験をもとに、「障害の話はとてもデリケート。私は相手から求められない限り、自分の意見は言わないようにしよう」と心に決めました。とても辛かったけれど、そうやって気持ちを切り替えて前に進めたのは、やはり近くに「プロフェッショナルな理解者」の存在があったからだと思います。娘が小さい頃、私は本当によく泣いていました。年を重ね、心も体も(?)図太くなった今。振り返ると、あの頃は怒り、落ち込み、喜びなどのさまざまな感情すべてをひっくるめて、大きく見守られていたように思います。療育センターの親子教室で、私も娘と一緒に育ててもらったのだと感じています。
2019年03月25日息子が受けた療育と私の思い出典 : 私の息子は自閉症スペクトラム障害と診断を受けてすぐ、3歳になると同時に早期療育を受けました。専門家から「早期療育を受けてください」と言われたのです。私はすぐに言語療法や音楽療法にアプローチし、息子にできる限りの療育を授けました。特に助けられたのはABA(応用行動分析学)でした。人と目を合わせる、人の模倣をする、人の話に耳を傾けて適切に返答をする…等々、「好ましい行動」を増やし、「好ましくない行動」を減らしていく方向で療育を進めました。それまでただただ手こずった息子の育児が、療育を受けて大きく変わりました。息子の表現力やソーシャルスキルが格段に上がったことで、パニックになることもなくなり、行動の幅もグーンと広がりました。それまで苦手だった他者との協力ができるようになったことで、出かけられる場所もやれることもどんどん増えていきました。療育を受ける前の息子は、他者との協力など全く受けつけない子どもだったため、親子で何かを一緒に楽しむということがほとんどできなかったのです。あの療育があったから、今の息子と私の生活があると思っています。療育は私たちと同じような親と子を救ってくれているに違いない。そう思っていた私にとって療育について別の考え方があるなんて思ってもみないことでした。ある小説から調べ始めた「ニューロダイバーシティ」出典 : 療育に対する別の考え方との遭遇…。それは、自閉症スペクトラム障害の子どもが主人公の海外小説を読んでいたときのことです。その小説の主人公の男の子は、幼少期から多くの療育を受け、普段の生活でも努力して「好ましい行動」をし続けていました。療育で教わった通りの行動をすると、家族は喜びます。すると、主人公の男の子が母親にこう言うのです。「自閉症(発達障害)は治すべき病気なの?」そして、自閉症は「ニューロダイバーシティ」の一つなのだと母親に訴えるのです。私はこの場面を見て、「ん?」と手が止まりました。小説の中で使われている「ニューロダイバーシティ」という言葉が気になったからです。そういえば…私は思い出しました。ここ1~2年でしょうか。発達障害関連の研究会やNPO団体等の講演会やニュースレターなどでも「ニューロダイバーシティ」という言葉をたまに見かけるようになりました。あれ?「発達障害」ではなく「ニューロダイバーシティ」?調べてみたところ「神経多様性」や「神経学的多様性」といった日本語訳があてられていました。どうやら、発達障害は脳の神経学的な構造が異なっているだけであり、病気でもなければ「治すべき」ものでもない、というような考え方がもとになって使われるようになった用語のようです。「ニューロダイバーシティ」の背景を知って、自問自答出典 : ニューロダイバーシティという言葉が生まれた背景を探っていくほど、複雑な気持ちになっていきます。そもそもの始まりは、定型発達の人たちの振る舞いやコミュニケーション手段を「正しいもの」として、発達障害の子どもたちをそこに近づけるように矯正する療育に対して発達障害当事者たちが声をあげたことがきっかけだったようです。特に「子どもの行動を変えようとする」という点で、「ABA(応用行動分析学)」は厳しい批判の対象となったようです。けれども私は覚えています。アイコンタクトを嫌がる息子がABAを受けた後に初めて目を見て話してくれて、涙が出るほど嬉しかったこと。自分の好きな話を一方的に喋るばかりでコミュニケーションがほとんど成り立たなかった息子が、きちんと私の話を聞いて応答してくれるようになったときのこと。私はABAを施してくれた先生方には足を向けて寝られないと思うほど感謝していました。私はあのとき、息子を「普通」に近づけたかっただけだったのか…?彼の神経学的な多様性を握りつぶしてしまうことをし続けてきたのか…?私は療育の成果について「息子の成長」として喜んできたことに自問自答しました。社会の変化として考える私なりの受け止め方出典 : ニューロダイバーシティの議論について知ったとき、私は何度も考えました。ではあのまま療育を受けさせずに「ありのままの息子」でいさせれば、それが発達障害という脳の多様性を尊重することになったのでしょうか。確かに息子に施した早期療育は私にとって 「定型発達」に近づけるという目的が見え隠れしていたかもしれません。けれども、療育を受けさせたことによって、辛いことばかりだった息子の育児がなんとも愛おしく充実したものに変わりました。ですから、私は個人的には療育について批判する気にはなりません。課題はあれども、私と息子のクオリティ・オブ・ライフは確かに向上したのです。「ニューロダイバーシティ」という言葉を取り上げるとき、私は療育の可否について議論するのではなく、今この言葉が日本の各所で使われ始めているということの意味について考えたいと思っています。発達障害が「障害」や「疾患」ではなく、多様性の中の一つであり、その人の生き方の一つであるという捉え方が、少しずつ浸透し始めているきざしなのかもしれません。「定型発達」に対立する言葉としての「発達障害」ではなく、究極的には誰もが「異なる」存在である――そんな考え方の潮流が社会の中で生じ始めているのかもしれません。「うちの息子は発達障害」ではなく「うちの息子はニューロダイバーシティ」と言い換えてみると、息子は異質な存在なのではなく、多様性の中の一つであるような心地よい響きがあります。神経的な多様性を表す「ニューロダイバーシティ」という言葉。それは「みんな違ってみんないい」という考え方が根底にあります。そう考えると、その子がその子らしく、尊重されて生きていくスキルをつけられる療育とニューロダイバーシティは、何ら相反するものではないように思います。私はこの二つの言葉がうまく融合し共存していくような希望ある未来を信じたいと思います。"What is Neurodiversity?"(ニューロダイバーシティとは何か)"What Is The Neurodiversity Movement and Autism Rights?"(ニューロダイバーシティ運動と自閉症者の権利とは何か?)
2018年12月13日私と娘のコミュニケーション法は?今回は、私と娘のコミュニケーションの方法についてお話したいと思います。娘の苦手をサポートする私のやり方は、「教える」というよりは『一緒にやる』という感じです。Upload By SAKURA何か娘の苦手な課題が出てきたら、どうすればわかるか考え、一緒に取り組みます。私が「先生」になるのではなく、娘と同じ位置に立つことで、そのやり方が難しくないか、理解しやすいかを娘と同じ目線で見ることができるからです。どうしたら娘が理解できるか、伝えやすいかを考え、娘のそばでそれを確かめながら、方法を模索しています。どんなことも、ありのまま伝える私は、娘に自分の気持ちを正直に話すようにしています。私が自分を抑えて接するのではなく、ありのまま接し、とにかく何でも話します。自分に余裕がないときでも、そのまま娘に伝えます。Upload By SAKURA「察して」「考えて」と言いっぱなしにすることは、私と娘の間では、ほとんどありません。それは、私が、「親だから」「大人だから」と言って自分が一歩引いたり、自分の思いを隠して娘に接することができなかったからでもあります。Upload By SAKURA私自身が、思ったことをそのまま娘に言うスタイルの方がやりやすく、娘に自分の思いを話すことで、私も冷静になれていたのです。このやり方はだんだんと、私と娘のコミュニケーションの方法として定着していきました。それが一般的に良いか悪いかは、わかりませんが、私にとって背伸びをせず、無理もしなくていい、負担にならない方法でした。親がなんでも話すことって、娘にとっては負担かも?しかし娘にとっては…?どうなんだろう?親である私が、我が子に感情をぶつけていいのか?私の負担にはならないけど、娘は負担になっているのではないか?内心そんな風に思っていたとき、こんなことがありました。娘に、宿題の「かけ算の音読」をしてもらっていたときのことです…。Upload By SAKURA私と娘の関係には、何でも【話すこと】が当たり前。自分の気持ちを話すこと、相手の気持ちを予測することが苦手な娘。いつものように、私がまず娘の気持ちを代弁し、何でこんなことをするのか、言うのか…お互いの気持ちや真意を丁寧に説明しました。目には見えない気持ちを、口に出して言うことが大事だと思っていたのです。すると…Upload By SAKURA今まで、いろんな場面で娘に話してきましたが、娘からこんな返事が返ってきたのは初めてでした。娘が私にかけてくれたこの言葉で、私は、「ちゃんと私の気持ちをわかってくれていた…話してきて良かった…」と、娘との間に信頼関係がちゃんと築けている実感を感じました。そしてまた娘が一つ大きくなったと感じました。同じ目線で一緒に取り組み、なんでも話すことで築けた信頼関係私の療育で行きついたのは…・娘の苦手も個性と認める→周りと比べることもなく、落ち込まない・同じ目線で一緒にやる→娘にとって、きついかどうかがわかりやすい・気持ちはたくさん話す→相手の気持ちを見えるようにし、予想ができるようになる+信頼関係を築くということです。同じ目線で接する…たくさん話す…と言えば聞こえはいいですが、私が大人になりきれていない面もあります(笑)だから私は、娘とよく喧嘩をします。嫌な気持ちがしたらすぐ言うからです。最近では、おしゃべりが上手になった娘から、言い返される回数も増え、もういい!とお互いそっぽを向くこともしばしば。でも築いてきた信頼関係のおかげか、最後は「大好き」とハグして終われています。Upload By SAKURA娘が教えてくれた大切なもの…といろいろと偉そうに言ってきましたが、結局は、娘が答えてくれたことと、出してくれた結果から学んだことです。私が娘からもらったものはたくさん。物事の考え方やとらえ方…一つできるたびに胸が温かくなること。…そして、人に対する優しい気持ち。私はこれからも娘からいろんなものをもらいながら、一緒に歩いていきたいと思います。
2018年12月12日映画、講演、体験ブースなど療育を知って楽しめる企画がいっぱい!Upload By 発達ナビ編集部2018年11月17日(土)に大阪で開催される療育をテーマにしたイベントの紹介です!「リョーフェス」は、療育を正しく知ることができる場、子育てについて新たな発見や新しいつながりが生まれる場をつくりたいという願いのもと、箕面市を拠点に活動しているNPO法人ダウン症ファミリー総合支援めばえ21が主催しています。子どもたちの療育にかかわる人、いろいろな療育を知りたい人、わが子の療育を考えている人、子育てについて一緒に考える仲間とつながりたい人など、どなたでも、来場を歓迎しています。当日は、子どもも大人も楽しめる企画がいっぱい!その中から、いくつかをピックアップしてご紹介します。「自分のされていやなことは人にしない」というたったひとつの校則と、「すべての子どもの学習権を保障する」という教育理念を掲げる大阪市の大空小学校に密着したドキュメンタリー映画。障害のある子もない子もすべての子どもが同じ教室で学びます。同級生や教職員、地域とのかかわり合う中で、子どもたちはどう成長していくのか。すべての子どもたちに居場所をつくるということを考えさせられる映画です。(映画鑑賞は有料で事前に予約が必要です)患者さんの病気や障害よりも、まずその人を知る、そして社会に知ってもらおうと多彩な活動を続けている、大阪医科大学小児科の玉井浩教授の講演会です。ダウン症やウィルソン病を研究する医師として、そしてダウン症のお子さんをもつ父として、障害のある子どもの子育てについて講演されます。学習障害(LD)やADHDの子どもたちの課題改善などのために用いられている「ビジョントレーニング」。もともとプロスポーツ選手のパフォーマンス向上のための視覚機能訓練を福祉と教育の世界に展開し、注目された北出勝也先生がビジョントレーニングのメニューなどを紹介してくれます。日本ミュージック・ケア協会認定指導者の浦川暁美先生によるミュージック・ケアの体験教室です。ミュージック・ケアには、個人を尊重しながら、関係性を広め深めるための要素がたくさん含まれています。また、子どもの発達には欠かせない動作が多く取り入れられていて、楽しみながら発達が促進されます。一度、ミュージック・ケアを通じた療育を体感してみてください。リョーフェスでMCも努める田村美波さんによる紙芝居。ダウン症の当事者でもある田村さんの懐かしくてあたたかい紙芝居の世界をぜひ感じてみてください。ほかにも、LITALICO発達ナビを含んだ、療育に関わる15団体がさまざまなブースを開設。障害者や高齢者のためのネイルブースやお絵かきワークショップ、物品販売などもあるので、お楽しみください。イベントを主催する「めばえ21」の想いUpload By 発達ナビ編集部めばえ21代表の永田和子さんは、ダウン症のお子さんのお母さんです。お子さんがダウン症だったことをきっかけに、障害についての正しい知識、悩みを共有できる仲間、障害の特性を理解し子どもの可能性を最大限引き出せる環境の重要性を感じ、ダウン症の子を持つ親たちで2014年にボランティア団体として立ち上げられました。では、なぜ療育のイベントを開催するに至ったのか。それは、「療育」に対するマイナスイメージやよくわからないものという印象を変えていきたいということがきっかけでした。正しく療育を知ることは、障害の有無にかかわらず、子どもをより豊かに育むための手助けになります。また、実際に療育を行う医師の方と話すことで、当事者よりもむしろ、親自身の悩みの解決にもつながることも少なくないそうです。ぜひ会場に足を運んで、たくさんの人と交流してください。子どもたちをより豊かに育めるようなヒント・つながりが見つかるかもしれません。開催概要【日時】 2018/11/17(土) 10:00〜15:00【会場】箕面市立箕面文化・交流センター8階大会議室/地下1階多目的室/2階和室阪急箕面駅から徒歩1分〒170-8445大阪府箕面市箕面6-3-1会場マップ【対象】関心がある方はどなたでも【参加費】 入場無料映画をご覧になる方は大人700円/小中高300円(未就学児無料)が必要です。【タイムテーブル】『みんなの学校』上映会10:00 8階大会議室(定員180人*車いす、ベビーカー入場可能)13:00 2階和室(定員40人)*希望の上映時間とともに必要事項をご記入の上、メールでお申し込みください。詳細はイベントホームページをご覧ください。メインステージ11:00 障がいをもつ子どもの子育てについて玉井浩大阪医科大学小児科教授12:25 シングアハッピーソング!中尾亜矢子さんシンガーソングライター・ヒルシュスプルング病の次男の母13:00 ビジョントレーニング北出勝也視機能トレーニングセンターJoy Vision代表14:15 ダウン症のある美波さんによるほっこり紙芝居田村美波14:40 ミュージック・ケア体験浦川暁美NPO法人日本ミュージック・ケア協会認定指導者ブース出展11:00~15:00療育に関わる15団体がさまざまなブースを出展*「めばえ21」ブースでは、小児科医・オプトメトリスト(視覚機能)・作業療法士・理学療法士など専門の先生方による相談を受けていただけます。【お問い合わせ】NPO法人 ダウン症ファミリー総合支援めばえ21Email: mebae21event@gmail.com
2018年11月09日わが家の息子、「ロボットが相手だと安心する」?出典 : わが家の8歳の息子が療育に行くとき、いつもとても楽しみにしていたことがあります。それは、病院の受付のところに「Pepper」くんというロボットがいてくれたことです。息子は療育に慣れるまで、「今日は何をやるのだろう」「先生に叱られないかな」と予測できないことへの恐怖で、落ち着きがなくなっていました。けれども、「Pepper」くんと話をすると、心なしか少し気持ちが落ち着いているように見えました。その後、息子の希望で犬のロボットを買いました。息子はこの犬のロボットのことも好きで、その後本物の犬を飼ったあとも、「僕はロボット犬のほうが好き」と言っていたほどでした。それは、本物の犬はどういう反応をするのか、どういう動きをするのか読めないから、怖かったのだそうです。(今はもう慣れました)また、一時期、私のスマートフォンの「Siri」に話しかけることにハマっていました。「Siri」が相手だと、何時間でも話ができるようで、なかなかスマートフォンを返してくれないこともありました。そのときに私は思ったのです。人間と違い、感情や態度がいつも一定のAIが相手だと、人間と話すときのような緊張感がなく、いくらでも話ができるのだな、と。心理的な負荷なくコミュニケーションが取れるのであれば、AIロボットが療育をしてくれたり、AIロボットが友達だったりしてもいいのかもしれない…とも。漠然とそんなことを考えていた私に、なんと「発達障害児の療育を行うAIロボットが開発された!」というニュースが飛び込んできたのです。開発者に聞く!QTrobot開発の背景は?発達障害児の療育は人間がするもの、だって人間との関わり方を学んでいかなければならないのだから…そんな固定概念が私たちの中にあるかもしれません。その考えを覆す「QTrobot」というロボットがルクセンブルクの企業で開発され、注目を集めているのです。オランダのアムステルダムで開催された「欧州CES 2019」(International Electronics Commercial Show/国際家電見本市)では、”Tech for Better World”部門でイノベーション・アワードを受賞しました。 récompensée par le CES pour son robot (LuxAI社のロボット CESで入賞(フランス語))Upload By 林真紀私は居ても立ってもいられなくなり、開発した企業の共同設立者のアイダ・ナザリー(Aida Nazarikhorram)さんに連絡を取ってみました。アイダさんによると、療育用ロボットの開発は2016年にルクセンブルク国立研究基金の助成対象となり、そこからLuxAIという会社を設立したとのことです。増加している発達障害児の療育ニーズに対して、療育を担当できる専門家が不足しており、これを解決するためにAIロボットの開発が進められました。ロボットが発達障害児の支援に高いポテンシャルを持つということは、これまでも多くの研究でいわれてきたそうです。QTrobotはこんなことができる !では、具体的にQTrobotはどのような形で療育を行うのでしょうか。こちらの紹介動画を見ると、QTrobotを使った療育で以下のことを教えることができるといいます。・表情・コミュニケーション・好ましい行動・日常的生活スキル人間が話すときには、たくさんの表情とボディランゲージを同時に発信します。それが発達障害の子どもにとって、習得が非常に難しいものであるとアイダさんは言います。しかし、QTrobotは人間のボディランゲージを上半身だけのシンプルな動きで表現するため、発達障害児が簡単に模倣できるそうです。またQTrobotの表情は36種類もあり、多様な表現が可能です。その他にも、相手の言葉と顔と表情を認識する機能がついているので、発達障害児との相互コミュニケーションが可能です。実際に使用する際には、療育の担当者や学校の先生などが操作をすることになります。そこで、ITやプログラミングの知識がない人でも、戸惑うことなく簡単にロボットの動作を組み込むことができるようになっています。担当者が自由に、その日の療育プログラムをつくることができるのです。アイダさんは、QTrobotについて「発達障害児が安全でコントロールされた環境の中で、ソーシャルスキルを学ぶことができる」と話していました。つまり、ロボットが相手だと、発達障害児にとっての「想定外」のコミュニケーションが起きづらいのだと思います。ロボットは、決して相手を否定したり、叱ったりもしません。様々なことができるけれども、決してパターン以上のことはしません。それが、発達障害児にとっては「安全でコントロールされた環境」なのかもしれません。社のホームページ(英語)実際に使っている子どもたちの反応は?Upload By 林真紀QTrobotは現在、英語、フランス語、ドイツ語、ルクセンブルク語に対応していて、既にアメリカやヨーロッパの発達障害児の療育に用いられているそうです。そこで療育を受けている子どもたちの反応は驚くべきものでした。例えば、数分もセラピーを受けることができなかった子どもが、40分も集中して受けることができたとか、セラピーをどうしても受けたがらなかった子どもが、自分から熱心にセラピーに参加するようになったそうです。また、親御さんからもとてもポジティブなフィードバックが沢山きているようです。例えば、子どもが落ち着いてきた、社交的になった、人に対して共感的になった…など。実際にルクセンブルク大学の研究で実証実験が行われたそうですが、ロボットのほうが発達障害児の注意を引きつけることができ、さらに破壊的な行動や自閉症児特有の自己刺激行動が軽減するという研究結果が出たとのこと。 Field Test Report: Case Study - EIPA, Luxembourg (QTrobot実地試験ー欧州行政研究所)言葉や地域を越えて、発達障害のある子への支援をUpload By 林真紀さて、QTrobotが日本の療育現場にやってきてくれる可能性はあるのでしょうか?アイダさんにお聞きしたところ、日本からも問い合わせが相次いでいるそうです。現段階では専門家向けの販売がメインですが、実際に問い合わせをしている方の多くは一般の親御さんなのだとか。今後は、さらにグローバル展開ができるよう生産能力を上げ、輸出入を請け負ってくれる商社を探している最中とのことでした。日本でQTrobotが療育を担当してくれる日も、遠くはないのかもしれません!「住んでいる場所や言葉は関係なく、発達障害の子どもたちを支援していきたいのです」このアイダさんの言葉がとても印象的でした。療育のみならず、発達障害児の大切な友達として、AIロボットが気持ちを癒してくれるような未来がくるかもしれませんね。販売に関する問い合わせフォーム | LuxAI (英語)
2018年10月26日『子どもも親も幸せになる発達障害の子の育て方』著者の立石美津子です。障害基礎年金は自動的に受給はできない!申請のために必要なものとは…Upload By 立石美津子障害のある人は障害基礎年金を20歳から受け取ることができるのは、知っていますか?息子は現在17歳。年金受給できる年齢まであと2年ちょっとです。私は「療育手帳を持っていれば、障害基礎年金は自動的に受け取れるもの」と勘違いしていました。学校の個人面談で担任から、「立石さん、主治医はいますか?いないのであれば、20歳になったら障害基礎年金を受給できるように、申請に必要な診断書を書いてくれる医師を、今から探しておいてください」と言われました。私は、障害基礎年金の受給の申請のためには療育手帳だけ持っていてもダメで、主治医の診断書が必要なのだとこのとき初めて知りました。参考:日本年金機構小児科・児童精神科には年齢制限がある出典 : 私の家の近所に小児専門の国立病院があります。もちろん、発達障害児のための専門外来もあります。でも高校生以上の初診は受けつけていないそうです。発達障害のある子どものかかりつけは、小児科や児童精神科が多いと思います。ですが小児科や児童精神科は、原則として中学生までしか受診ができません。以前は成人期になっても小児科・児童精神科にかかる場合もあったようですが、発達障害の診療ニーズが高まる中、継続しての支援が難しくなってきたという背景もあるようです。また、幼児期は療育に通ったり病院を受診していたりしたけれど、小・中学校時代にはトラブルなく過ごせ、思春期以降も問題行動などの二次障害もなく落ち着いている場合、投薬もなく、主治医を持たないケースもあるでしょう。友人にも「子どもが小さい頃は病院に行っていたけれど、今は定期通院していない」という人が多くいます。そうすると、「障害はあるのに問題行動が落ち着いて病院を離れていた結果、主治医がおらず、年金申請に必要な書類を書いてもらえない」という状態になり、慌てることになってしまうのです。つまり、20歳を迎える前に年金受給申請することになりますが、それまでに成人を診られる病院で主治医を見つけておく必要があります。障害のある子を育てているママ友のなかには、子どもが幼い頃から「年金申請のこと」まで見越して、最初から大人の精神科が併設されているクリニックに通わせている人もいます。でも私は、担任に言われるまで、まったくその知識がありませんでした…。主治医探しの旅へ出典 : 現在、息子は強迫性障害のために大学病院に通院しています。ただ、この病院は「病気の診断を確定して治療方針を立てるところ」です。定期的に通う場合は、住まいの近くのクリニックに転院する必要があるようです。そういう意味ではずっと診てもらえる主治医がいない状態です。わが家の場合、大学病院から他の病院への紹介などはないため、自力で見つける必要があります。都内の精神科のクリニックに電話をしてみました。しかし、まず電話がつながりません。30分電話をかけ続け、やっとつながったとしても「来月の初診枠は満員となりました!」と言われてしまいました。さらに「年金申請の診断書記入目的の新患は受けつけていません」と言われてしまったのです。こうして、病院探しの放浪の旅の途中にあるわが家ですが、医師の立場に立てば、18歳になっていきなり来られても「幼い頃からずっと診てきている訳ではないので、受診してすぐ診断書を書くことは難しい」と考えるのも頷けます。参考:発達障害診療における小児科から精神科へのトランジション | 精神科治療学 第32巻12号(星和書店)精神科医へのスムーズな引継ぎがあれば…出典 : 障害基礎年金の申請支援までして引き継いでもらうことができたら…小児科で診られる年齢と、年金申請までの期間があることなどによって、このような問題が出てきてしまいます。せめて、小児科・児童精神科医が、患者の状態を要約して書面にして成人期の病院へ引き継いでくれたら、精神科医も対応しやすくなると思います。「障害のある人が月に6.5万円(※)を稼ぐことはとても大変です。障害基礎年金があることで、無理なく働くことができるのです」と、知人の社会保険労務士は言います。私もそう思います。ライフラインともいえる障害基礎年金の申請がままならない、制度のはざまでもがく、わが家のような家族はたくさんいると思います。障害基礎年金の申請にも関わる社会の仕組みが、改善されてほしいと強く願っています。そしてまた、わが家のように路頭に迷わないよう、発達障害のある子どもを育てている保護者のみなさんには、中学生になるぐらいから、成人期を見据えた主治医探しをはじめておいてほしいとも思います。(※)「障害基礎年金」年額より算出。障害基礎年金は1級で年額974,125円、2級で779,300円(2018年度)
2018年05月26日療育入園初日。椅子から脱走し走り回る長男3歳当時、自閉症の長男は一日中走りまわっているような子どもでした。多動の特性も強いゆえ、仕方のないことだと思うのですが、母親の私も追いかけるのに一苦労。公園に連れていくと立ち止まったり座ったりすることもなくひたすら駆け回ります。Upload By シュウママ既に療育の通所支援に通うことが決まっていたので、まあ訓練で多動はおさまってくれるだろう…と思っていたのですがそれは甘かった!療育施設の入園日、何度座らせようとしても椅子からおりて脱走する長男を見ながら目の前が真っ暗になりました。Upload By シュウママ他にも座れずに泣いている子もいます。けれど長男ほど活発に動き回る子はいなかったのです。「1か月で座れるようになりますよ!」先生の言葉に半信半疑だったけど…現実をつきつけられたような気がして「この子が椅子に座れる日が来るんでしょうか」思わず尋ねると先生は笑顔で答えてくださいました。Upload By シュウママ「みんなそうです。大丈夫ですよ」優しい先生の言葉にうなずきながらもそう簡単にいくのだろうか――不安が募りました。少しずつ少しずつ。変化があらわれてきた長男それから長男は毎日療育施設に通いました。私は週に2回ある親子通園日に長男の様子を見ることができるのですが、「あの多動がおさまるはずがない…」とやはり半信半疑でした。けれど先生方の日々の取り組みはまさに目から鱗だったのです。その療育施設では手を洗って牛乳を飲み、椅子に座ってみんなで手遊び歌を行うのが日課になっています。はじめ長男は牛乳を泣いて嫌がり、吐き出したりコップを倒したりしていました。けれど先生は牛乳が嫌ならお茶にしようかという妥協は一切なく、他の子と同じ牛乳を飲ませていました。「一口だけでも飲むんだよ」と先生はスプーン1さじから始め、1さじ飲めたら次の日は2さじという風に量を増やしていきました。Upload By シュウママその間、飲み終わった子ども達は自分の椅子を並べて先生と手遊び歌をしています。そうすると不思議なもので自分も遅れを取りたくない、みんなと一緒に手遊びしたい!という意識が芽生えてきたのでしょうか――長男は徐々に牛乳を飲める量が増えていき、最後には一人で全部飲み干し、自分で椅子を持って手遊びに参加できるようになったのです。Upload By シュウママ大切なのは妥協しないことそして長男は、教室以外の大きなホールでお誕生日会をする時でもきちんと座って待つことができるようになったのです。「あの子がちゃんと椅子に座って待てるようになるなんて…」と私は先生に言いました。すると先生は「園では基本みんなと同じものを食べ、同じ行動をするよう促します。そうするとね…」先生はくすりと笑って言いました。Upload By シュウママそして「ご家庭でも、お母さんが子ども用に別におかずを作ったりするのは控えたほうがいいんです。家族みんな同じものを食べるほうが楽しいし、苦手なものも食べられるようになるんですよ」とアドバイスしてくださいました。そういえば療育の給食の時間、子ども達は「シュウちゃんにんじん食べられたね~」とおしゃべりしながら食事していました。お友達が食べられたなら自分も食べれるかもしれない、と感じながらお互いを育てあうのかなと感じました。療育施設ではたくさんのことを教えてもらったのですが、子どもの自主性は重んじても妥協はしないという姿勢や向き合い方も、教えて頂いた大切なことでした。
2018年03月28日アナログゲーム療育って何?出典 : クリスマスにお正月と、年末年始は家族や親戚で集まることも多い時期。みんなでゲームをして遊ぶ機会も多いのではないでしょうか。そんな季節にぴったりな、「アナログゲーム療育」をご紹介します。アナログゲーム療育は、療育アドバイザーであり、発達ナビでも記事を執筆する松本太一さんが提案している療育方法です。ゲームと聞くとテレビやゲーム機で遊ぶデジタルゲームを連想する方も多いかもしれませんが、アナログゲーム療育で用いるのはトランプなどのカードゲームや、すごろくなどのボードゲームです。アナログゲームがデジタルゲームと違う点は、自分たちでルールを守らなければいけないということです。デジタルゲームではゲームのプログラムによって、ルールに沿ったプレイしかできないようなつくりになっています。対して、アナログゲームではプレイヤー同士でルールを守りあう必要があります。この「ルールの守りあい」をすることが、子ども同士のコミュニケーション能力を伸ばすことに繋がるのです。アナログゲーム療育のメリットって?出典 : 学校の授業などは、指示をする先生と指示に従う子どもという上下関係、タテのつながりのなかで行われます。これによって大人との関わり方は学べても、友達同士などの対等な関わり方を学ぶ機会はなかなかありません。アナログゲーム療育では、ゲーム中のルールの守りあいを通して、友達同士のヨコのつながりや対等な関わり方を学ぶことができます。現代社会では、いろんな価値観を持った人々と互いに理解しあったり交渉する力が求められます。ですが、発達障害がある子どもの中には、相手の気持ちや集団の中のルールを察することが苦手な子どももいます。そんな場合も、アナログゲームなら、明文化されたゲームのルールを守りながら遊ぶことができ、集団の中でのコミュニケーションの機会を持てるので、対等な会話や交渉する経験を楽しく積むことができます。できる!を増やす、家族で遊べるアナログゲーム出典 : ここからは子どもの伸ばしたいスキルごとにいくつかおすすめのゲームをご紹介します。友達と遊ぶ前の段階として大人がリードして、ゲームを楽しむためのスキルを獲得していきましょう。ゲームをして遊ぶには、「勝ちと負けを理解する」「ルールを守る」ことが必要です。まずは勝ち負けが分かりやすくルールもシンプルなゲームを、大人と一緒にやってみましょう。◇スティッキーリングでスティックを束ねたタワーから、サイコロで出た色のスティックを引き抜き、タワーを倒してしまった人が負けです。勝ち負けが視覚的に分かりやすく、ルールも簡単です。まずは大人と一対一で遊んでみましょう。スティックをうまく引き抜けたときは大げさによろこび、タワーを倒してしまったときは大げさに残念がるアクションを大人が見せることで、子どもは勝ち負けを理解していきます。子どもがルールを理解できたらほかの大人や友達も誘って一緒にやってみることで、集団への参加もスムーズになります。なかなか友達の輪に入れなかったり、友達とゲームをすることに抵抗を感じる子どもにおすすめのゲームです。初めは遊んでいる様子を見てみることや、大人と二人で遊ぶことから初めてみましょう。ある程度ゲームに慣れてから友達や他の大人を誘うことで、集団で遊ぶことにチャレンジします。◇キャプテン・リノ配られたカードを積み上げて、崩した人が負けというゲームです。積み上げたカードの見た目のインパクトといつ崩れるかという緊張感は、見ているだけでもドキドキしてしまうほど。他の子どもたちがゲームを楽しみ、一喜一憂する様子や、ゲーム中の歓声を聞くことで、ゲームへ興味を感じやすくなります。ゲームに参加したがらない子は、まず見学してみることからはじめましょう。ほかの子が遊んでいる様子からゲームのルールを理解したり見通しを持つことができれば、子どもの安心感や興味に繋がります。参考:集団参加への勇気を取り戻すキャプテン・リノ|アナログゲーム療育のススメ◇禁断の砂漠プレイヤー全員で協力しながら、古代の砂漠都市を発掘して飛行機の部品を集め、脱出するゲームです。プレイヤー同士が競い合うのではなく、協力してクリアを目指すゲームなので、友達に負けてしまうことで癇癪を起こしやすい子にもおすすめです。また年齢の違う子どもたちで混ざってプレイすることで、年下の子をフォローしたり、年上の子に交じって活躍できたという成功体験を得る場にできます。大人が司会役をして、おとなしい子やほかの子のプレイに口を出したくなってしまう子どもをサポートし、参加する子どもたちが、平等に発言したり考える時間を持てるようにするのがポイントです。参考:協力して一つのゴールを目指す「禁断の砂漠」|アナログゲーム療育のススメ自分のターンを待ったり、ゲームの順位を理解したり、順番の概念はゲームに欠かせません。ゲームを通して数の概念を理解し、順番が分かるようになるという効果も期待できます。◇雲の上のユニコーン1から3までのサイコロを振って進む、すごろくのようなゲームです。特定のマスにとまったときにもらえる宝石の数で勝ち負けが決まります。「いくつ宝石がもらえるかな?」といった声掛けをして、サイコロの目に書いてある数の宝石を取らせることで、数の概念を身につけていくことができるのです。自分から発言したり話をすることが苦手な子に、ゲームを通して発語を促すこともできます。ゲームの中のコミュニケーションを通して、相手のことを考えたり自分を表現するコミュニケーションを学ぶことができるゲームを紹介します。◇かたろーぐカタログや一覧から好きなもののランキングをつくって当ててもらうゲームです。身近にあるチラシや本などなんでも題材にできるので、興味に偏りがある子どもでも楽しく遊ぶことができます。初めは子どもの好きなものを誰かに当ててもらって、楽しくなってきたらほかの子の好きなものをあててみることで、自分を理解してもらったり他人を理解しようとしたりする機会につながります。ゲームの後にどうしてそれが好きなのか、という会話をするのも楽しいですよ。かたろーぐ|すごろくや◇わたしはだあれ?まず、一人がほかの子に見えないようにカードを一枚引きます。残りのプレイヤーは、何のカードが引かれたのか、「はい」か「いいえ」で答えられる質問をすることで当てるゲームです。初めは質問をするのが難しいかもしれませんが、大人の質問をまねしてしているうちに、だんだん質問できるようになっていきます。答えを間違えてしまったときも「どんな質問をすれば分かったかな?」などの声掛けをして思考を促すことで、質問力が身についていきます。年齢別・子ども同士で遊びたいゲーム出典 : 暗黙の了解や明文化されないルールが多くある、子ども同士の集団遊びには入りにくい子は、ルールがはっきりしているアナログゲームを集団遊びの入り口にしてみましょう。ここでは子どもの年齢別に、おすすめのゲームを紹介します。勝敗や順位の概念を覚えることを目標に遊んでみましょう。勝ち負けが分かりやすく、ある程度運で決まるようなゲームがおすすめです。◇虹色のヘビヘビのあたま、胴体、しっぽの描かれたカードを一枚ずつめくって場に出し、色が合うようにつなげてヘビを完成させるゲームです。ヘビを完成させると自分のカードにできて、めくるカードがなくなるまでにいちばん多くカードを持っている人が勝ちです。色が鮮やかできれいなので、目で見る情報につよい視覚優位の子どもにおすすめです。◇坊主めくり百人一首の読み札を一枚ずつめくり、自分の札にしていきます。坊主を引いたら手札をすべて場におき、姫を引いたら場にあるカードをすべてもらえて、さらにもう一枚札を引けます。百人一首に親しむこともできる、お正月にぴったりのゲームです。「どちらがより有利か」などといった判断が求められるゲームに挑戦してみましょう。自分で考えて勝つことで、ゲームをより楽しめるようになっていきます。◇パカパカお馬道具を集めながら進むすごろくのようなゲームで、数字が書かれたものと道具の絵がかかれたものの2つのサイコロを振ります。出た目に応じた道具をもらうか駒を進めるかを選びながら、一番先に道具をすべてそろえてゴールした人が勝ちです。2つのサイコロの出目を見比べてより効率的な方を選ぶ、客観的思考を身に付けるきっかけになります。参考:客観的思考の芽生えを促す「パカパカお馬」|アナログゲーム療育のススメ◇カヤナック氷上の魚釣りをモチーフにした盤上で、サイコロに合わせて進んだり、穴をあけたり魚を釣ったりして、釣った魚に応じて与えられる得点を競うゲームです。氷の代わりにボードの下に敷いた紙に実際に穴をあける感覚や、磁石で魚代わりの小さな鉄球を釣る動作の楽しさが魅力です。相手の立場や意図を考えることは、実際の社会生活でも求められる重要なスキルです。相手の考えを読み取ったり、自分の役割を演じたりなど、より高度なコミュニケーションを求められるゲームに挑戦してみましょう。◇ディクシット抽象的な絵が描かれた手札から話し手となるプレイヤーが1枚をえらび、カードの絵を元にお話を語ります。そのお話に合うカードをほかのプレイヤーが手札から1枚ずつだして、シャッフルした中から話し手のカードを探し出すゲームです。「この人ならこんな表現をするはず」と推理することで、相手に対する理解が自然と深まっていきます。参考:互いの距離を縮める「dixit(ディクシット)」|アナログゲーム療育のススメ◇ワンナイト人狼村人の中に紛れ込んだ人狼を探し出す「人狼ゲーム」を短く手軽に遊べるようにしたものが「ワンナイト人狼」です。与えられた役割によって嘘をついたり見破ったりしなければならないので、より高度なコミュニケーション能力を伸ばす機会にできます。まとめ出典 : 家族や親戚で集まりやすく、屋内遊びが多くなる冬休みは、アナログゲーム療育のチャンスです。自分から集団に入っていくのが難しい子どもとは一対一で遊ぶことから初めて、そこに友達を巻き込んでいきます。勝ち負けが分からない子どもに対しては、大人が失敗や成功のリアクションを大きくして見せることで、少しずつ勝敗を学んでいけるようにします。子どもに合わせた小さな工夫で、ボードゲームやカードゲームのゲームを楽しみながら、療育をすることができます。この機会にぜひお気に入りのアナログゲームを見つけて、家族や友達と楽しく療育に取り組みましょう!
2017年12月22日療育とは出典 : 療育とは障害のある子どもの発達を促し、自立して生活できるように援助することをいいます。療育という言葉はもともと、東京大学名誉教授の高木憲次氏(1888-1963)が提唱した概念です。肢体不自由児の社会的な自立を目標に、医療と教育を並行してすすめることを指しました。高木氏の後には高松鶴吉氏(1930-)が療育の対象をすべての障害のある子どもに広げて、育児支援の重要性を強調しました。後に療育の概念をさらに発展させて「発達支援」という概念が生まれました。厚生労働省では「児童発達支援」という言葉として以下のように定義しています。児童発達支援は、障害のある子どもに対し、身体的・精神的機能の適正な発達を促し、日常生活及び社会生活を円滑に営めるようにするために行 う、それぞれの障害の特性に応じた福祉的、心理的、教育的及び医療的な援助である。(児童発達支援ガイドライン|厚生労働省より引用)療育という言葉や概念は時代の変遷とともに意味合いを変えており、現在定まった明確な定義は示されていません。また必ずしも医療行為を含むものではない場合もあります。定義や実践内容の移り変わりはあるものの、概ねの理解としては、療育とは障害のある子どもの発達を促し、自立して生活できるように援助する取り組みを指すと考えるとわかりやすいでしょう。参考:発達支援の指針(CDS-Japan 2016 年改訂版)|全国児童発達支援協議会参考:『脳と発達 第43巻 第6号』「療育とは…」再考「療育とは…」再考(一般社団法人 日本小児神経学会)参考:『佛教大学大学院紀要社会福祉学研究科篇第37号(2009年3月)』子どもの権利条約における「療育の権利」の位置づけ(佛教大学)療育の対象となる児童は?出典 : 療育は基本的に18歳以下の児童を対象としています。身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む)の3障害のいずれかに該当する障害のある児童が療育の対象となります。参考:児童福祉法第19条発達障害のある子どもの場合、療育を受けるために療育手帳や精神障害者福祉手帳は必須の条件ではありません。障害者手帳を取得していない、もしくは取得のための認定基準を満たしていない場合でも、療育を受けることができる場合があります。児童発達支援を利用して療育的な支援を受けたい場合、行政から発行される「受給者証」の申請が必要になります。受給者証の交付を受けると、国と自治体から施設利用料の9割の給付を受け、自己負担1割で児童発達支援を受けることができます。また、児童が属する世帯の市町村民税額により、負担上限月額が定められています。利用月の1割負担額と負担上限月額を比較し、安い方の金額が利用者負担となるため、場合によっては1割以下の金額になります。負担上限月額は、通所受給者証に記載されています。参考:障害児支援の強化について|厚生労働省療育ってどこで受けられるの?出典 : 療育という言葉の定義は明確ではなく、家庭でのトレーニングや私費で受けられる療育的支援を指して「療育」ということもあります。ここでは、公的に受けられる療育的支援についてご紹介します。障害児への支援として療育が受けられる施設について、以前は障害ごとに細かな分類がありましたが、現在は複数の障害がある場合にも対応できるように一元化されています。療育を受けられる施設を児童福祉法にしたがって分類すると、通って療育を受ける「通所支援」型と、自宅で生活するのが難しい子どものための「入所支援」型の2つに分けられます。そこからさらに、福祉サービスとして行われる「福祉」型と医師による治療を併せて行う「医療」型に分かれます。Upload By 発達障害のキホン参考:児童福祉法の一部改正の概要について|厚生労働省施設によって対象としているお子さんの年齢が違ったり、提供しているサービスが違います。保育園のように通い、療育を受けられるような施設もあります。詳しくはこちらの記事に説明がありますのでご覧ください。こちらからお近くの施設も検索できます。施設検索|LITALICO発達ナビ療育ってどんなことをするの?出典 : 障害のあるお子さんが社会的に自立できるように、身辺自立や苦手なことを伸ばすことを意識した働きかけをしたり、コミュニケーションなどの社会的スキルを得られるように助けます。お子さんごとに必要な支援が違うので、一概に内容を説明することはできませんが、発達障害のあるお子さんによく用いられるアプローチをいくつか紹介します。人間の行動は周囲の状況との相互作用によって生まれると考え、状況を変えることで困った行動を減らし、より望ましい行動を身につけてもらうことを目的とした、理論と実践の体系を、応用行動分析学(ABA)といいます。TEACCHとは、アメリカ・ノースカロライナ州発祥の、自閉症スペクトラム障害(ASD)の当事者とその家族を対象とした生涯支援プログラムです。自閉症スペクトラム障害がある人の特徴を「世界の捉え方が一般の人とは異なる」ととらえて、彼らの特性が社会に適応できるように助けるという考え方がTEACCHの特徴です。具体的なアプローチとしては、生活・学習環境を分かりやすく整理したり、今後の見通しがつきやすいようにスケジュールなどはカードを使って視覚化したりといった方法があります。また、コミュニケーションについては、耳から聞くよりも目で見るほうが理解しやすい場合が多いので、絵カードなどを使って伝えるようにします。感覚統合とは、複数の感覚を整理したりまとめたりする脳の機能のことです。感覚統合ができるようになると、状況に応じた感覚の調整や注意の向け方ができるようになります。つまり、自分の身体を把握する、道具を使いこなす、人とコミュニケーションをとるというような周囲の状況の把握とそれをふまえた行動ができるようになるのです。発達障害がある子どもには、感覚統合が難しい子どももいます。感覚統合療法では、そうした子どもたちへのアプローチとして、主に作業療法士(OT)が中心となり、遊びや運動を通して感覚統合を伸ばしていくプログラムを行われます。PECSは、言葉によるコミュニケーションが難しい場合などに行われるアプローチです。絵カードを使って、自発的なコミュニケーションをとれることを目標にしたプログラムです。療育にはどんな効果があるの?出典 : 療育の効果は、その子どもに生じている困難・障害や、療育の目的・プログラム内容に応じて異なります。たとえば、食事、排せつ、身支度などが一人でできるようになったり、認知、言語、運動などの発達が促されて、受け答えや挨拶、表情や感情の理解をして他者とコミュニケーションが取れるようなったりと、さまざまな効果が期待されます。実際の療育現場では、子ども一人ひとりの特性や発達段階に合わせて、個別に目標とプログラムが設定されます。ですが、療育を始めてすぐに目に見えて効果が出ることは極めてまれです。特に、発達障害のある子どもの発達は、ゆっくりと進んでいくことが多いです。目立っている苦手な部分がすぐには改善されない場合もあります。それでも、働きかけを続けることで子どもは着実に成長していきます。苦手な部分はそのままでも、得意なことでそれをカバーできるようになっていくこともあります。また、療育を通して子どもとのかかわり方を学ぶことで保護者の対応が変わっていき、より豊かなコミュニケーションが可能となる場合もあります。療育の体験談もありますので、こちらも参考にしてみてください。みなさんの療育体験談を教えてください|LITALICO発達ナビ早期療育はどうして大切なの?出典 : 発達障害のある子が周囲や本人に特性の理解のないまま成長していくと、叱られたり非難を受ける機会が増え、傷つき自信をなくしていくことが多くなりがちです。そこから、自尊心が育たない、抑うつ、激しい反抗などの問題が生じることもあります。障害そのものによってではなく、ストレスなどから起こる問題を、二次障害と呼びます。このような二次障害を防ぐためには、早期から周囲が特性を理解し、対応することが必要となってきます。また、3歳までの幼いうちに療育に取り組み始めることができると、体も小さいので身体的な支援がしやすく、療育の中で子どもがパニックなどを起こした際も抱き上げたりなだめたりなどの対応がしやすいというメリットがあります。参考:『発達障害の子どもとつき合う本―どう関わればいいかわからずに困っているおかあさんや先生方へ』(浅羽珠子/主婦の友社)子どもが小さいうちから特性を把握し、心を安定させながら育てる環境を作ることによって、その子が持っている能力をさらに伸ばしていける可能性が広がります。発達障害への早期支援については発達障害者支援法の中にも述べられています。市町村は、発達障害児が早期の発達支援を受けることができるよう、発達障害児の保護者に対し、その相談に応じ、センター等を紹介し、又は助言を行い、その他適切な措置を講じるものとする。(発達障害支援法 第六条より引用)発達相談から、療育を受けるまでの流れ出典 : 保護者から見て言葉や発達の遅れが気になったり、健診で「発達の遅れがみられる」と指摘された場合は、行政などの相談機関に行ってみましょう。子育て・発達支援室や療育センター、児童相談所などで相談をすることができます。ここで、その地域の検査機関を紹介してもらえます。年齢に応じてさまざまな検査方法があり、複数を組み合わせることでより的確な結果がでます。地域によっては順番待ちが長く、すぐに検査がしてもらえない場合もあります。急ぎたい場合は、病院の外来などで自費診療という形で検査してもらうこともできます。行政が運営しているものから研究機関が運営しているもの、NPOや民間のものなど、多様な施設があります。対象にしている年齢や受けられるサービスなどもさまざまなので、子どもの検査結果に合わせて選びましょう。役所の福祉窓口で療育施設の紹介をうけることもできます。施設によっては見学や体験もできます。利用する施設によって交付される受給者証の種類が違います。通所型施設の場合は「通所受給者証」を市区町村の窓口から申請します。入所型施設の場合は「入所受給者証」を児童相談所などから申請します。必要な書類は行政によって異なる場合があるので、事前に確認をしておきましょう。支給の有無やサービス内容の決定のための調査や審査が済むと、受給者証の交付を受けることができます。受給者証の交付を受けたら、受給者証の内容に合わせて障害児支援利用計画を作成します。受給者証、障害時支援利用計画など必要な書類がそろったら、施設との契約、利用のスタートができます。まとめ出典 : 「療育」というと、少し敷居が高く感じるかもしれませんが、実際は療育手帳などがなくても受けられる場合もあり、発達が遅れていたり生活に困りを感じている子どもをサポートするためのものです。子どもの成長を手助けし、自分でできることを増やせるよう、療育を活用していきましょう。参考書籍:『発達障害のある子と家族のためのサポートBOOK 小学生編』(岡田俊/ナツメ社)
2017年12月15日2017年7月に放送されたNHK「あさイチ」の発達障害特集の続編として、9月24日(日)午後11:00~11:50にNHK総合テレビで 深夜の保護者会「発達障害 子育ての悩みSP」 が放送される。「あさイチ」とEテレ「ウワサの保護者会」のコラボ特番だ。出演は、発達障害の子を持つ一般&先輩ママ、有働由美子アナ、尾木ママこと教育評論家の尾木直樹さん、タレントのはなわさん。「ママ友の『大丈夫だよ~』という善意の励ましが辛い」、「夫が非協力的」、「周囲にどう伝えたらいいか?」など、発達障害の子を持つ親が抱えがちな悩みに、先輩保護者らが自らの経験で、具体的な対処法や解決のヒントを紹介してくれるとのこと。また、今回はママだけでなく、夫の本音や当事者である子どもの声も紹介するという。例えば、「悪いのはこの子ではなく、障害のせい」と「子どもと障害を別々に考える」ということで楽になったというお母さんの発言に対して、それを聞いた子どもからは意外な本音が飛び出す。子どもの生の声を放送するのは、今までほとんどなかった試み! 今回の放送は、非常に内容の濃いものになりそうだ。■同じ境遇のママと繋がることのメリット一般的に、発達障害の子育ては少数派なので、子育ての情報源が少ない。だから、こういった番組で、ママの本音や先輩ママから具体的なアドバイスが得られるのは、とても貴重なことだと思う。筆者にも自閉症スペクトラムの息子がいるのだが、以前の保育園でのことを振り返ってみると、正直、居心地の良いものではなかった。他のママの子育て話は、申し訳ないがほとんど参考にならなかったし、正直、保育士の中にも、「発達障害のことをあまり理解していない?」と思わせる先生もいた。だから、療育で同じ境遇のママ友に出会えたことは本当にありがたかった。療育では、みな似たような子育てを経験しているので、相手の気持ちは痛いほどわかるし、こちらも気持ちもわかってもらえるという安心感があった。子どものことをありのままに話せるという心地よさもあった。療育機関や小学校、病院の評判など、地域の情報が得られたり、良質な専門書について情報交換ができるのもとてもありがたかった。また、不思議なもので、「同じような境遇で頑張っている人たちがいる」と感じられるだけで、励まされ、心が強くなれた。療育ママとの座談時間は、まさに、私の癒し&パワーチャージの場であった。■療育ママだって、さまざまだが、当たり前のことだが、次第に、療育ママもさまざまなのだなと思うようにもなった。同じ発達障害でも、子どもの特性や障害の程度はさまざまだし、親の価値観や考え方も違う。子どもの障害を認めたがらないママもいたし、支援学級や支援学校に対して偏見を持っているママもいた。また、コミュニティができればできたで、その中でまた比較が生まれて、誰かが誰かの成長をうらやましいと思ってしまったり。時には、愚痴が長引いたり、悪口などのマイナス話で盛り上がってしまったり。ちょっとした違和感を感じることもあった(もちろん、こんなことは少なかったけど)。 ■自分の身近な範囲を「世界の基準」にしない同じ境遇の仲間、それは本当に心強く大切な存在だ。だが、その世界だけにどっぷり浸かっていると、自分でも知らないうちに、周囲が見えなくなってしまう危険性がある。以前 取材 した(株)アイムの佐藤典雅さんは、「発達障害児のママこそ、常に意識して開かれた視点を持つことが大切。療育だけの狭い世界に自分を閉じ込めずどんどん外の世界に出なさい」と、力説されていた。人は、自分の身近な範囲を世界の基準にし、子育てやわが子の生き方について「こうあるべきだ」と決めつけがちだ。でも、自分の知っている世界なんて、ほんのわずか。偏った価値観に縛られないためには、常に広い世界に触れる必要がある。■発達障害は、「支援すべき少数派の種族」また、以前、NHKスペシャルに出演した本田秀夫氏の著書には、自閉症スペクトラムは「治療すべき“病気”」ではなく、「支援すべき“少数派の種族”」である、という認識を持っておくことが重要 「自閉症スペクトラム10人に1人が抱える『生きづらさ』の正体」(本田秀夫 著)より一部編集して抜粋 と表現されており、なるほど! と思ったものだ。少数派の種族が多数派の種族(一般の人たち)とうまくやっていくには、まず、多数派に自分たちのことを正しく理解してもらわなければならない。そのためには、内輪で慰め合っているだけではなく、積極的に外に向けて発信していかなければならないと思うのだ。私のように、「健常児のママの悩みには共感できない」とか「自分の大変さをわかってもらえない」など、自分で壁を作って引きこもっていても、問題は解決しない。■健常児の子育てをしているお母さんにこそ、知ってほしい私は、たまたま縁あって、ウーマンエキサイトに寄稿する機会を得た。だが、今では、こうした一般の子育てサイトにこそ、発達障害の記事を掲載する意義があると思っている。「こういった子どももいるんですよ」と、普通の子育てをしているママにも、ほんの少しでいいから知ってほしいと思うのだ。私自身、上の娘(定型発達)を育てている時は、発達障害というものをまったく知らなかった。子どもというものは、親が愛情持って育てていれば、自然に優しい心を学び、真っすぐに育ってくれるものだと思い込んでいた。だから、感情の抑えられない子や暴力的な子を見ると、「親にも原因があるのでは?」などと、うがった目で見てしまったりしていた。あの時、私がこの障害のことを知っていたら、もう少し違った見方や対応ができたかもしれない。■壁を取り払うこと、隣の子育てに想像力を持つことだから、こうした寄稿を通して、発達障害の子育てを、周囲に広く知ってほしいと思っている。お互いに隣の子育てに想像力を持つことで、発達障害の子育てを一般の子育てともっと繋いでいきたいと思っている。そして、発達障害の子育てをしているママにも、一歩踏み出すきっかけになればと願っている。私自身、保育園の保護者会で息子のことを説明してからは、園での生活(私の)がずっと楽になった。児童心理学の知識があるママが役立つ情報を教えてくれたり、障害は違うけど障害児を持つママが就学相談のアドバイスをくれたり。「お兄ちゃんがそうかもしれない」と興味を持ってくれたり、「そういう子にはどう接したら負担じゃないかな?」と関わり方を知ろうとしてくれたママもいた。また、いろいろ話してみれば、健常児でも登校しぶりで悩んでいるママがいたり、お友達トラブルで悩んでいるママがいたり、離婚した元旦那と養育費でもめているママがいたり…。私は、自分の子育てばかりが大変だと思い込んでいた。でも、みなそれぞれ、いろいろな事情を抱えて生きている。壁を取り払い、隣の子育てに想像力を持つことで、見えてくる景色はずいぶんと違ってくるのだ。今回、番組の担当プロデューサーからも、「発達障害のある子を持つ親御さんに見てもらいたいのはもちろんだが、それだけではなく、周囲の人にも見てほしい。普段なかなか言えない、当事者の本音を周囲に知ってもらう意味は大きいと思っています」というメッセージをいただいた。さらに、NHKでは、今後、9月26日(火)、27日(水)に「Eテレ」ハートネットTVで「自閉症アバターの世界 1、2」が、9月27日(水)に「あさイチ」の特集で「シリーズ発達障害 どう乗り越える? コミュニケーションの困りごと」など、続々と発達障害が特集されるとのこと。今後の放送にも、注目していきたい。文:まちとこ出版社N<NHK発達障害プロジェクト 今後の放送予定>・2017年9月24日(日)午後11:00~11:50 NHK「深夜の保護者会」「発達障害 子育ての悩みSP」・2017年9月26日(火)午後8:00~8:29 Eテレ「ハートネットTV」 「自閉症アバターの世界 ①」・2017年9月27日(水)午後8:00~8:29 Eテレ「ハートネットTV」 「自閉症アバターの世界 ②」・2017年9月27日(水)午前8:15~9:54 NHK「あさイチ」 「シリーズ発達障害 どう乗り越える? コミュニケーションの困りごと」※内容は変更になる場合がありますNHK 発達障害プロジェクト 【発達障害についての記事一覧】▼大変だけど、不幸じゃない。発達障害の豊かな世界(全4回)▼「うちの子、発達障害かも!?」と思ったら(全9回)
2017年09月22日発達障害の子どもの療育にも用いられる音楽療法。その最新の動向をお届けします!みなさんは、「音楽療法」という言葉を聞いたことがありますか?音楽療法とは、音楽のさまざまな力を利用して、対象者が抱えている困りごとの改善を促したり、よりよい生活を送ったりすることができるようにアプローチする療法です。この音楽療法を、発達障害のある子どもの療育に取り入れる試みが世界的に広がっていることをご存知でしょうか。まだ日本では音楽療法の保険適用や法整備が実現されておらず、音楽療法士の資格も国家資格となっていないため、療育としての普及には多くの壁が存在しています。しかし、今回茨城県つくば市で5日間に渡って行われた「世界音楽療法大会」への取材を通して、すでに日本でも医療や教育の現場で発達障害児の療育に音楽療法を取り入れようとする試みがなされていることが分かりました。今回の記事では、世界音楽療法大会への取材を通して学んだ、音楽療法の実践・研究の様子をお伝えします。Upload By 林真紀世界中から音楽療法士が集まる「世界音楽療法大会」とは?Upload By 林真紀「世界音楽療法大会」とは、世界中から音楽療法士が集まり、世界レベルでの音楽療法の発展をサポートするために行われているイベントです。第15回世界音楽療法大会 公式サイト世界音楽療法連盟によって3年に1度、世界各地で開催されてきました。現在では、世界約50カ国から約2,500人が参加する、非常に大きな大会となっています。Upload By 林真紀音楽療法が用いられる場面は、世界的には非常に広く、プログラムをざっと見るだけでも「認知症患者」「末期がん患者」「未熟児」「ホームレス」「DV被害者」等々、多様な人々を対象とした音楽療法の研究がなされています。そしてその中でも、「発達障害児と音楽療法」というテーマは、国内での注目度の高さが感じられ、同様の発表は常に満席で立ち見が出る賑わいでした。その様子から、音楽療法はまさにこれから日本の療育分野で、飛躍的に活用されてゆくのではないかと感じることができました。今回、この大会の中で、実際に発達障害のある子どもの療育に音楽療法を取り入れる活動をされている方々にお話しを聞くことができました。この先進的な取り組みについて、詳しくご紹介していこうと思います。1. 放課後等デイサービスや特別支援学校での音楽療法の取り組みUpload By 林真紀まず最初に取材したのは、兵庫県の特別支援学校や放課後等デイサービスなどで音楽療法のセッションを担当されている音楽療法士の、松﨑聡子さんです。兵庫県では、阪神淡路大震災後、県民の心のケアに音楽が有効であるということから、震災から4年後の1999年に県独自の音楽療法士養成講座をスタートさせました。そして兵庫県知事から認定を受けた第一期生が中心となり、2002年に「兵庫県音楽療法士会」が発足。現在では、約250名の会員が音楽療法の普及・発展を目指して活動を行っています。2011年に発生した東日本大震災でも、復興支援活動として、被災地支援活動、県内避難者支援活動を行ったそうです。兵庫県音楽療法士会多方面で活躍する音楽療法士ですが、残念ながら国家資格ではないため、医療現場や教育現場に入っていくことは、現状ではなかなか難しいといいます。そのような背景から、松﨑さんをはじめ多くの音楽療法士は放課後等デイサービスでのセッションを行うことが多いそうです。松﨑さんは定期的に放課後等デイサービスや特別支援学校でセッションの時間を持ち、楽器や音楽を使って、発達障害のある子どもの社会性を伸ばす療育に取り組んでいます。「音楽は、発達障害児の療育に用いる上で数々の優れた面がある」、と松﨑さんは言います。「音楽」は「言葉」と異なり、「感じるもの」という側面が大きく、子どもの心にダイレクトに訴えかけることができます。また、「始めと終わりがはっきりしているため見通しが立てやすい」「繰り返しがある」等、自閉傾向の強い子どもが好む構造になっているのも特徴です。その他にも、楽器を使うことにより、子どもは五感を刺激され、感覚統合訓練の役割も果たしてくれるとのことです。また、何よりも大切なのは、音楽を通して、セラピストと子どもがコミュニケーションを取ることです。これこそが、音楽療法のなかで一番大切な部分であると言っても過言ではありません。音楽療法士のピアノに合わせて楽器を鳴らす、音楽療法士と順番に楽器を鳴らす、出来たら音楽療法士とハイタッチをする…子どもたちは、このように音楽を通してコミュニケーションを学び、社会性を獲得していくのです。その他にも、松﨑さんが子どもたちに音楽療法を実施する際、とても大切にしていることがあります。それは、その子が音楽療法のセッションの中で学んだことを、日常の生活でも実践できるようにサポートしていくことです。音楽療法のセッションのなかで、子どもは社会性やコミュニケーションなどのさまざまな部分で成長を見せてくれます。しかし、それがセッションの中だけで終わってしまっては意味がない、と松﨑さんは考えます。そのためにも、保護者の協力は必須であるとのこと。松﨑さん含め、音楽療法士は、長いスパンでその子の成長を見ており、その子の長い人生の中の大切な一時期を自分たちが担っているという気持ちでセッションに取り組んでいるそうです。2. 医療現場での音楽療法の取り組み音楽療法は、作業療法や言語療法のように保険が適用されるものではありません。よって、日本の医療現場では音楽療法を取り入れることについてあまり積極的ではないようです。しかし、そうしたなかでもいち早く、発達障害のある子どもに対する音楽療法の療育効果に注目し、治療計画の一環として取り入れたクリニックがあります。筑波こどものこころクリニックの院長、医学博士の鈴木直光先生です。鈴木先生のクリニックでは、2015年より、通常の診察と並行して、別室で音楽療法士によるグループセッションを行っています。Upload By 林真紀筑波こどものこころクリニック鈴木先生は、そこで録画された様子を、診察でも役立てています。 「音楽療法のセッションの中での子どもの様子を観察していると、発達障がいのある子どもに特有の、さまざまな症状を見出すことが出来ます」と言います。例えば、ADHDの子どもは、音楽が止まることを合図にその場で静止することができなかったり、ASDの子どもは音楽に合わせて左右交互に 腕を振ることが難しかったりします。また、ADHDの子どもは音楽に合わせて片足立ちをする際に、体幹が弱いため膝が前にこず、床を蹴るような動作をしてしまうことも特徴だそうです。しかし、そのような兆候は、音楽療法のセッションをこなすごとに改善していくと言います。それだけではなく、言語的な発達、衝動性の抑制、社会性の伸びなど、広い範囲の発達を促すことができると言います。鈴木先生は、診察と並行して音楽療法を行うことで、診察室では見られない子どもたちの発達の状態をより深く理解することができると話してくださいました。例えば、選択緘黙症の子どもなどは、診察室などでは何も話すことができないケースが多く、診察室だけでその子を判断してしまうと、どうしても「出来ない部分」が目立ってしまうと言います。だからこそ、音楽療法のセッションルームで何かが出来るようになっていく姿を見ることは非常に意味があることであり、音楽療法をクリニックで取り入れることにより、「出来ない部分」ではなく「出来る部分」を引き出していくことが出来ると語ってくださいました。このように、「診察室では見えない成長を見る」ために、音楽療法を取り入れている先生もいます。3. 発達障害児/者の音楽療法の研究音楽療法は、さまざまな特性の子どもに合わせたオーダーメイドの要素の大きい療育です。よって、発達障害のある子どもの、それぞれの特性に合わせた選曲も非常に重要になってきます。Upload By 林真紀二俣泉先生(東邦音楽大学准教授)と二俣裕美子先生は、発達障害のある子ども向けの音楽療法で、実際にどのようなプログラムを組んでいけば良いか、どのような曲を使い、どのように楽器を活用していけば良いかを研究されています。また同時に、発達障害のある子どもに合わせた音楽療法のための作曲もされています。二俣先生は、発達障害のある子ども向けの音楽療法で使う曲は、次の4つのタイプがあると言います。1. 自由に演奏する曲2. 演奏に際して緩やかなルールがある曲3. 音が空白の部分で演奏する曲4. 演奏のタイミングが厳密に定められている曲例えば、1の「自由に演奏する曲」は、セラピストの指示が入りにくい子どもに使われます。自由に演奏することで、とにかく楽器に触れること、他の子どもと一緒の活動に慣れること、音楽のなかで活動する楽しさを味わうことなどを目指しています。Upload By 林真紀タイプ2では、曲の中で音を鳴らすタイミングを待つところがあります。これにより、機会を待つということや、自分の役割を果たすという体験をすることができるようになっています。タイプ3の「音が空白の部分で演奏する曲」は、「幸せなら手を叩こう」などのように、空白の部分で楽器を鳴らす、あるいは手を叩くような曲です。このような曲を使うと、当初は集中力が持たず、混乱していた子どもたちが、集中して取り組むようになったと言います。また、特定の空白で音を鳴らすまで「待つ」ことや、「周囲に合わせる」というようなソーシャルスキルの獲得にもつながります。そして、最後のタイプ4は、セラピストの合図に応じて音を鳴らすことで、自分が果たす役割をより明確に実感できるような曲です。実際の現場では、子どもがセラピストの指示を受け入れられるか、複雑な指示を理解することができるかどうかなど、子どもの特性に応じて、1~4の曲を組み合わせていくそうです。また、能力差の大きい子どもが一緒の場に集まるグループセッションでは、個々の子どもの能力に合わせて、障害が重い子どもには 1 のスタイルで演奏してもらい、指示が通る子どもには3や4のやり方で演奏してもらうなど、役割分担をすることで、全員が集中できる活動にしていくと言います。Upload By 林真紀Upload By 林真紀会場では、実際に上の4つのパターンの曲を使い、ピアノに合わせて自由に演奏するパターンから、先生の指示する場所で楽器を鳴らすパターン、交互に演奏する役割分担があるパターンなど、実際の発達障害のある子ども向けのセッションを体験させてもらうことができました。Upload By 林真紀Upload By 林真紀4. 教育現場での音楽療法の取り組み出典 : また、ある公立小学校で音楽療法を取り入れ、効果が目に見える形で現れたケースもあります。公立小学校の教育課程で音楽療法のセッションを取り入れることは難しいため、あくまで 「音楽療法の視点と技術」授業を行った例です。 この取り組みを行ったのは、音楽療法士の資格を持った小学校の音楽の先生です。この先生は、公立小学校の通常学級と特別支援学級の両方で、音楽療法の視点と技術を取り入れた授業を実施しました。通常学級の授業では、暴力・暴言・立ち歩き等の問題行動が見られる児童が1人おり、この児童がいる学級において和太鼓などを使った音楽療法のセッションを20分間取り入れたそうです。その結果、この児童の問題行動が減ったと報告がなされていました。また、特別支援学級では、「自立支援活動」の時間に、歌唱、手遊び、簡単な合奏、リコーダー奏などを音楽療法の視点と技術を使って行ったところ、普段姿勢が悪く、授業中も机に寝そべるような態勢をしていた児童の姿勢が改善し、授業に対するモチベーションの向上が見られたと報告がなされていました。5日間の大会に参加して出典 : 日間の大会で、音楽療法を発達障害児の療育に活用している沢山の方々にお話しを聞くことができました。音楽療法は療育としてはまだまだ発展途上と言われていますが、まさにこれから注目されていく分野ではないかと思いました。大会の中で見ることのできた音楽療法のスライドや動画などをここで共有できないことが残念なほどです。初めは床に寝そべって自分の世界に入っていたり、セッションの部屋に入ることすらも拒んでいたり…そんな子どもたちが、回を追うごとに、音楽に合わせて音楽療法士やグループのお友達と協力できるようになる姿に、私は都度心を打たれました。かくいう私の7歳の息子も、自閉症スペクトラム・ADHDと診断を受けた3歳の時から、継続的に音楽療法のセッションを受けています。音楽療法について知らなかった時分は、「う~ん、なんだか怪しい…」と思っていたことは事実です。けれども、息子は音楽療法を受けて、確かに変わっていったと実感しています。息子が以前大嫌いだった「順番を待つ」「模倣をする」ということも、セッションを重ねることで難なくできるようになったのです。データやエビデンスベースで見ると、まだまだ研究は発展途上なところもありますが、現場ベースで見たときに、「確かに効果がある」と感じている人は多いようです。今後、音楽療法を用いた療育が日本で広がりを見せ、一人でも多くの子どもが、自分に適した支援を受けられるようになることを、願ってやみません。
2017年08月31日今の時代に求められるコミュニケーション力とは?アナログゲーム療育アドバイザーの松本太一です。私は、150種類以上のカードゲームやボードゲームを使ってコミュニケーション力を身につける「アナログゲーム療育」を開発し、発達障害のあるお子さんや大人の方を対象に実践しています。Upload By 松本太一アナログゲーム療育のコンセプトを一言でまとめれば、下のとおりになります。これまでの教育や療育は、大人が子どもに何かを教えたり命令する上下関係が基本となっていました。つまり「教える側と教わる側」、「命令する側とそれに従う側」という関係です。しかし、IT化やグローバル化が急速に進む現代社会では、多様な立場や価値観を持った人たちと対等な立場で関わる必要があります。そこで求められるコミュニケーション力とは、お互いの尊敬に基づいて、交渉したり合意形成できる力だと考えています。お子さんがこうした力を身につけるためにはどんな経験が必要なのでしょうか?ピアジェやヴィゴツキーといった著名な心理学者たちは、ルールを伴う集団遊びを通じた子ども同士の関わり合いの大切さを強調しています。しかし、発達障害のあるお子さんの場合、障害の特性として、相手の気持ちを察したり集団のルールを理解するのが難しいことがあります。そうしたお子さんが安心して楽しみながらコミュニケーションの練習ができるように開発されたのがアナログゲーム療育です。子ども同士のヨコの関係づくりが難しい出典 : 発達障害のある子たちのことで、今、1つ心配していることがあります。それは、親御さんや先生といった大人との関係は良いのに、同年代の子どもたちとの付き合いを避ける子が多いことです。過去に集団遊びで失敗した経験がもとで、他の子と遊ぶことに不安感を感じているのです。しかし、大人と関わる経験だけでなく、子ども同士の関わりを経験しないと、相手の気持ちや場の状況を「読む」力は中々身につきません。大人との関わりでは、子どもが少々無理なことを言っても大人のほうで合わせてくれます。しかし、子ども同士の関わりでは、相手の意にそぐわないことをすれば関係を絶たれてしまうかもしれませんし、集団のルールを守れなければ、仲間はずれにされてしまうかもしれません。裏を返せば子どもたちは、子ども同士の関わりを通じて、「相手はどうすれば喜んでくれるだろう?」、「この場では自分はどう振る舞うことが求められているのだろう?」といったふうに、相手の立場に立って考えたり、場の状況にあわせて動く練習をするのです。こうした経験が充分でないまま成人すると、社会に出て仕事などを通じて否応なしに人間関係を結んだとき、「相手の気持ちがわからない」「空気がよめない」といったコミュニケーション上の困難が表れやすくなると、私は考えています。アナログゲームを通じて「対等な立場で関わる」経験を積む出典 : お子さんたちに対等な立場で関わりあう経験を積んでもらうのに、アナログゲームは最適なツールです。ゲームでは、全てのプレイヤーが対等の関係にあります。また、プレイヤーたちは勝敗や順位を競い合うライバル同士であるのと同時に、ルールやマナーを守り合ってゲームを成立させるパートナー同士でもあります。ルールを守り合って楽しく遊ぶ経験が、子ども同士で対等に関わる経験となり、ひいては今の社会で求められるコミュニケーション力を身につける練習となるのです。ただし、集団遊びに慣れていなかったり、不安を感じているお子さんには、適度な大人の手助けが必要です。私のウェブサイトでは療育で用いるゲームと大人の関わり方を解説しています。また発達ナビでもいくつかゲームを紹介していますので、参考にしてみてください。アナログゲーム療育のススメ(ゲーム紹介)実際にゲームを使ってどんな風に療育を進めていくのか、文章だけではイメージしにくい方もいらっしゃると思います。そこで、2017年7月に(株)ジャパンライムさんから発売したアナログゲーム療育のDVDから、幼児のお子さん向けの「マイファースト・ゲームフィッシング」、小学生向けの「ベストフレンドS」の映像をご紹介します。なお、DVDには上の2つを含め20近いゲームを紹介しており、その全てについてゲームのプレイ映像と指導ポイントの解説が含まれています。下記の販売サイトでお求めいただけます。(株)ジャパンライム販売ページ実際にゲームを体験してみよう!Upload By 松本太一また、実際にゲームを体験してみたい!という方のために、東京の高円寺にあるアナログゲームショップ「すごろくや」にて毎月一回、講座を開催しています。幼児編・学童編・大人編と年代別に分かれており、各回とも講義とゲーム体験交えてアナログゲーム療育を学ぶことができます。こちらもご興味があればぜひ参加してみてください。まずは一緒に遊んでみよう!アナログゲーム療育で使用するのは、どれも通常のおもちゃ屋さんなどで売られているものです。必要なものは全て箱に入っており、プレイの手順は説明書に書かれていますから、誰でも手軽に始めることができます。アナログゲーム療育にご興味を持たれた方は、これまでご紹介してきたゲームの中から、普段関わっているお子さんに合いそうなものを、まずは1つ購入して一緒にプレイしてみることをオススメします。お子さんと一緒にゲームをプレイする過程で、今まで見えなかったその子の思考や行動の特徴と、成長ぶりが見えてくることでしょう。それはお子さんのコミュニケーション力の向上にきっと役立つはずです。
2017年08月18日RDI(対人関係発達指導法)とは出典 : 「RDI(対人関係発達指導法)」とは、英語のRelationship Development Interventionの略で、自閉症児の社会的活動をサポートするための療育方法です。RDIの目的は、家族へのコンサルティングを通して、子どもが非言語コミュニケーションを活用した対人関係を構築することのサポートをすることです。非言語コミュニケーションとは態度や表情など、言葉以外を使ったコミュニケーションのことを言います。RDIは1996年、アメリカの臨床心理学博士スティーブン・E・ガットステインが自閉症スペクトラム障害の療育方法として提唱しました。それまでの自閉症スペクトラムの療育方法では治療対象になっていなかった、社会性に焦点を当てた療育方法です。さらに、RDIの特徴として以下の2点が挙げられます。・困難を抱える子どもだけではなく、その家族を療育の対象としていること・療育にインターネット上のラーニングシステムや、ビデオ通話を使ったりすることRDIのラーニングシステムは、アメリカ・ヒューストンにある「RDI Connections center」というRDIの公式機関が定めているものであり、自閉症ではない子どもとその家族の行動をモデルにしています。支援を受ける家族はRDI認定のコンサルタントのガイドに従って、段階的に実践を進めていきます。「RDI認定コンサルタント」とは、アメリカにあるConnections Centerで公式認定をされたコンサルタントのことを言います。公式認定を受けるためには、Connections Centerで研修を受けた後、スーパーバイズを受けながらの臨床試験を1~1.5年ほど行いながら実力をつける必要があります。研修から臨床までがすべて英語で行われること、アメリカでしか受けられないこともあり、日本にはRDI認定コンサルタントは2017年現在で7人しかいません。 Connections CenterRDIの対象となるのはどんな人たち?出典 : はもともと自閉症、アスペルガー症候群、広汎性発達障害のある人々の対人関係上の困難を解決するために開発されたプログラムですが、最近はADHDや学習障害など、様々な要因から対人関係に困難を抱えている人々にも実践されています。「自閉症ではない子どもの行動を模倣しながら成功体験を積んでいく」という方法は、脳の発達分野や発達度の影響を受けにくいため、年齢や診断名に関係なく効果的な療育方法だと言われています。RDIの具体的な療育方法出典 : という療育方法の基本的な考え方は、「子どもがコミュニケーションをとることが楽しいと思えるような関係性の築き方を、親に考えてもらう」という内容です。親子間の非言語コミュニケーションの量と質を上げるために、自閉症ではない親子をモデルにした行動モデルの模倣をします。この行動モデルは6段階に分けられており、レベルごとに目標となる行動が決められています。例えばレベル2では、ボールを投げ合うといった、簡単な順番のあるゲームをします。ゲームをしている間、家族はガイドされた通りの表情や態度で子どもに接します。子どもは家族の態度に影響されて、物事の順番を予想することや、パートナーと協調するために自分の行動を調整することを学ぶのです。こうして家族のガイドに沿った関わりに触れながら、自らも非言語コミュニケーションを使う経験を重ねることで、子どもたちはより高いレベルの行動目標をこなせるようになっていくのです。具体的な療育の流れは以下の通りです。1. 親がRDI認定コンサルタントとのデモンストレーションやインターネット上の学習システムを通して「子どもにどう接すればいいか」を勉強する。2. 親子は別の部屋に移動して、コンサルタントから指示された簡単な遊びを始める。その間、後に自分たちの行動を客観的に評価できるようにビデオ撮影を行う。コンサルタントは遠隔でその様子を観察している。3. 録画したビデオを見ながら行動評価をして、課題特定を行う。4. コンサルタントと一緒に親子の間での非言語コミュニケーションが十分であったかを評価し、課題となる行動領域を決める。RDIがもたらす効果とは...?出典 : で期待されている効果として、「子どもたちが人と経験を共有することに喜びを感じられるようになる」ことが挙げられます。具体的な行動に起こる変化としては以下の3点が挙げられます。・非言語コミュニケーションを使った柔軟な対応ができるようになる・自分と他者の個性を認め、尊重できるようになる・人間関係を継続させるために、自分から行動を起こせるようになる例えば、「人に話しかけたいときに、どのような表情で、どのようにアイコンタクトをとるのか」「みんなで遊ぶ時はどのように順番を守るのか」など、子どもたちが社会で生きていくために必要なスキルを学んでいきます。このように、対人関係に関する成功体験をつんでいくことによって、子どもたちの中に「人と関わることって楽しい!」という気持ちが芽生えてきます。その気持ちを育てることで、コミュニケーションを単に「必要なモノ・情報を手に入れるための手段」ではなく、「自分の人生をより豊かにするための手段」として捉えられるようになっていくのです。RDIが注目されている理由の一つに、その効果の高さが挙げられます。RDI公式サイトから見ることのできる資料によると、RDI指導を1年半受けた自閉症スペクトラムの子どもたちは、「ADOS(自閉症診断観察尺度)」という尺度を用いた測定で、15人中13人が自閉症の症状が軽減したと診断され、その中でも11人は自閉症の域から外れたという研究結果もあるそうです。® Introductory Workshop Going to the Heart of Autism with Relationship Development InterventionABA、TEACCHなど...他の療育方法とのちがいは?出典 : 発達障害療育には様々な方法が存在しています。現在主流となっている支援法としては、応用行動分析(ABA)とTEACCHなどが挙げられます。この章では、その2つの支援法とRDIとの違いについて説明します。◆応用行動分析(ABA)応用行動分析学、通称「ABA」(Applied Behavior Analysis)とは、発達障害児を対象とした療育の理論と実践の体系です。人間の行動を個人と環境の相互作用の枠組みの中で分析し、実社会の諸問題の解決に応用していくという考え方がベースになっています。◆TEACCHTEACCHとは、ASD(自閉症スペクトラム障害)の当事者とその家族を対象とした生涯支援プログラムのことで、ASDの人々の自立とQOL向上を目指す包括的な「支援の枠組み」を指します。「構造化された環境で認知発達を促す訓練をする」という考え方がベースになっています。ABA、RDIは実践の体系を表すのに対して、TEACCHは支援の枠組みを指す言葉なので、役割の面では一概に比較することはできません。ABAとRDIの違いは、支援対象と教える内容にあります。まず、ABAは子どもに対して、社会生活の行動における正解を与える方法のこと。一方RDIは、家族に対してコミュニケーションの取り方をガイドする方法のことです。ABAは本人と環境にある問題を分析・指導し、RDIは「どういったかかわり方をすれば、本人がコミュニケーションに対する意欲を引き出せるか」を親に対して指導します。どれか一つの正解をだすのでなく、症状や段階に応じて組み合わせることでより個別最適化された療育が可能になるといわれています。自閉症児のためのTEACCHハンドブックRDIを受けられる場所、必要な費用や期間は?出典 : 日本にいるコンサルタントは、Connections Centerのホームページから探すことができます。RDIに関する本も出ていますが、毎年アップデートされているシステムであるため、個人で学ぶよりも専門家と協力して行うことが推奨されています。RDIにかかる費用はコンサルタントによって変わりますが、大体1時間のコンサルティングで1万円ほどが相場です。RDIは他の療育方法と比べ効果が見えづらい療育方法で、2週間に1回程度のコンサルティングを行いながら、約1~2年で効果が見えてきます。療育にかかる費用や期間は、担当するコンサルタントによって変わることが現状です。療育を受けようと思っている家族は、複数のコンサルタントを比較検討してみてもよいでしょう。 Connections Centerより、日本におけるコンサルタント一覧ページまとめ出典 : とは、対人関係において困難を持つ子どもの、生活の質を向上させることを目的とした家族向けの療育プログラムです。RDI認定コンサルタントと協力して、子どもが価値を感じられるようなコミュニケーションの取り方を学んでいきます。RDIは自発的にコミュニケーション上の最適解を見つけていく過程を大事にしているため効果が出るには1~2年ほどの時間がかかりますが、診断名や年齢に関係なく療育を受けることができます。まだ日本ではあまり浸透していない療育方法ですが、子どもが社会活動に一歩踏み出すための身近な環境作りのために、家族同士の関わり方を見直す良いきっかけとなるのではないでしょうか。取材協力:白木孝二RDI®Program Certified Consultant認定臨床心理士
2017年05月25日言葉が遅い息子…まずは自治体の「ことばの教室」に通わせようかしら?3歳になっても言葉の発達が遅い長男。もしかしたら長男にはなにかあるのかもしれないと思い始めていた頃の話です。ただ悩むよりも、この子のために何が出来るのかを考えたほうがいいのかもしれない。そんな時に知ったのが、市などで行われている「ことばの教室」の存在でした。Upload By ぽんぽん専門家の方とお話しながら言葉を促してあげれば、きっと周りに追いつく。大丈夫。やってみよう!もうすぐ3歳児健診の日。そこで具体的に相談してみよう、そう思っていました。3歳児健診で、心理士の先生のアドバイスは意外なものでした思っていた通り健診で引っかかり、心理士との面談に移りました。健診で引っかかること自体は想定内で、特になんとも思いませんでした。「心理士からことばの教室を紹介してもらおう」と思っていたのです。ところが、心理士に言われたのは意外な一言。Upload By ぽんぽん「療育へ」ということばにショックを受ける問題は言葉ではなくコミュニケーション…健診で引っかかることも、言葉の遅れを指摘されることも覚悟していたはずなのに。ショックでした。Upload By ぽんぽんUpload By ぽんぽん長男の場合、私と離れてコミュニケーションを取ることの大切さを学んだ方がいいとの事でした。この時点で私は「ことばの教室を飛ばして、いきなり療育を勧められた」という印象だったので、すぐにはその事実を受け止められずにいました。実験室のような冷たいイメージだった"療育"。療育…と言われてもどんなことをするのか分からず「なにかの訓練を専門家と一緒に黙々とやるのかな…」というイメージがあるだけでした。Upload By ぽんぽん療育…長男に本当に必要なんだろうか…。行かないといけないんだろうか…。そんなことを思いながら、療育先を探し見学の申し込みをしました。しかし実際は…Upload By ぽんぽん不安を感じながらも覗いてみた療育の教室。私のイメージは、いい意味で裏切られました。子ども2人につき先生が1人つくというだけで、やっていること(朝の会から体操、遊びの時間、工作、音楽、運動など)は、普通の幼稚園や保育園とほとんど変わりありません。“実験室”だなんてもってのほか。明るく賑やかな雰囲気の療育、これなら長男も楽しめそう!Upload By ぽんぽんこうして私は長男を療育へ行かせることにしました。療育に通って8カ月。長男は毎回楽しそうに出発し、帰るのを惜しんで帰ってきています。言葉も増え、落ち着き、偏食も少しずつ改善されてきたのは、療育に通ったおかげだと思います。
2017年05月20日同じ「ADHD」の2人。でもその特徴は全然違っていて…Upload By モビゾウADHDの息子は集団療育に通っています。そこでの息子の相方は、同じADHDの診断がついた男の子です。ところが、2人の特性は全然違っていて、「本当にこの子たち同じ診断名で良いの?」と思うほどなのです。ADHDとはAttention Deficit Hyperactivity Disorder の略です。日本語では「注意欠如・多動性障害」となります。ところが、うちの息子はどちらかというと「多動性障害」の部分だけが強く出ています。たとえば、終始ワサワサと動き回り、おしゃべりも止まらず、相手の指示をジッと待つことが苦手です。それに対し、一緒にセッションを受けている相方の男の子は、どちらかというと「注意欠如」のほうが強く出ているように見えます。どうやら先生の呼びかけに対して注意を向けることが難しいようで、セッション中も終始先生から「○○くん、こっちを見てね」と声をかけてもらっています。はたから見たら、2人は対極的です。大騒ぎで落ち着きのないうちの息子と、静かなんだけどもなかなか先生の問いかけに反応をしない相方の子。最初は息子の落ち着きのなさがどうしても悪目立ちしていました。それを見た私は、相方の子は大人しく、手がかからない子なんだろうなと思ったりもしました。しかし、相方の男の子の親御さんに話を聞くと、違う悩みがあることがわかりました。注意欠如の特性が強い子は、ボーっとしていて車にひかれかけてしまったり、幼稚園の課題中も別のことをぼんやりと考えていて注意されてしまったりするそうなのです。同じADHDの子供を持つ親でも、こんなに悩みの種類が違うのかと実感した瞬間でした。正反対の2人を上手にまとめる、先生の「技」とはUpload By モビゾウ「ADHD」といっても、持っている特性によってこれだけ違うのです。こんな全く違った子どもたちをまとめる療育の先生たちの苦労は、察して余りあるものがあります!衝動性がなかなか抑えられないことに加えて、「1番こだわり」がある息子。そして、注意欠陥でどうしてもぼんやりしてしまう相方の男の子。この2人で一緒にセッションをやると、どうしても息子が優先されてしまうことになります。先生が「次はこれをやりましょう。」と言うと、息子は先生の指示を遮って「やるやるやるやる!!ぼくぼくぼく!」と飛んでいこうとします。かたや、相方の男の子はぼんやりとして外を眺めていて、先生の指示が入っていません。普通にやっていたら、なんでも息子がやることになってしまいます。しかし先生方は、息子の衝動性を抑えつつ、相方くんの注意も惹きつける離れ業でセッションを進めてくれます。療育の先生は、「やるやるやるやる!!!」と大騒ぎする息子に、オブザーバー(観察者)の役を与えます。「今回はあなたは相方くんの作業を見て、どんなところが素敵だったか、最後に先生に教える係だよ」と。発達障害の子どもというのは、「待ちなさい」「やめなさい」と言っても納得しないことがあります。そういう時はこのように、何かしらの役割を与えてみるとうまくいくこともあります。先生はこれを実践して、息子と相方くんを上手にハンドリングしてくれているようです。まさにプロにしか為せないセッションだと思います。このようにADHDや発達障害と一口で言っても、一人ひとりの特性は全く違います。私は息子と相方くんを絶妙のテクニックでコントロールする療育現場の先生を見ながら、教育現場での先生方の大変さに思いを馳せずにはいられませんでした。大切なのは、「発達障害」でひとくくりにしないこと。出典 : 息子と相方くんの、特性の全く違う「ADHDっ子」のちぐはぐな掛け合いを見ていて思ったことがあります。それは、「発達障害児」というくくりで子どもを見てはいけないということです。どの子も、何らかの困難を抱えている子どもではあります。けれども、「発達障害児はこういうもの」とくくってしまうことは決して出来ないのだと感じます。「ADHDという障害があるからこの支援をする」といった杓子定規にとらわれた考え方では、サポートとして不十分。この子はこの子。診断名にかかわらず、その子にとって必要な支援をすることが大切だということを忘れてはいけないと思いました。また、様々なタイプの発達障害児を支援していかなければならない現場の先生方の大変さにも思いを馳せるようになりました。両親の側からもできることとして、その子の特性をまとめたレポートを作ってお渡しするなどすれば、先生方もよりスムーズにサポートを行うことができるのではないかと思っています。
2017年04月06日療育センターを舞台にした演劇、「わたしの、領分」わたしの、領分療育センターを舞台に、発達障害がある子どもにかかわる「心理士」の視点で描く、演劇『わたしの、領分』。2年前の初演で好評を博し、このたび再演が決定しました(3/28~4/2 東京・下北沢/小劇場楽園)。LITALICO発達ナビでは、公演に先立って、演出の松澤くれはさんにインタビューを行いました。Upload By 平澤晴花(発達ナビ編集部)松澤 くれは(まつざわ くれは)脚本家・演出家。1986年、富山県生まれ。早稲田大学第一文学部演劇映像専修卒業。演劇ユニット<火遊び>代表。芥川賞作家・中村文則氏『掏摸[スリ]』の舞台化にはじまり、『殺人鬼フジコの衝動』『天帝のはしたなき果実』『くるぐる使い』など、人気小説の舞台版を手がける。オリジナル作品では「あなたとわたしが[We]に近づく物語」をテーマに、言葉で分かり合おうとしながらも分かり合えないことを受け入れる、人間の生き方を一貫して描く。現実のような生々しい会話劇で、観客の日常につながるラストシーンを目指している。大学院を卒業し、都内の療育センターに配属されたばかりの心理士・萩野は、発達障害児を中心に面談を行っている。「いつか治りますよね?」「うちの子を障害者にする気か!」 親たちは口々に言いながら、救いを求める眼差しを彼女へ向ける。認識の齟齬から生じる軋轢に悩みつつも、萩野は実直に、進むべき道を探してゆく。ある日。定期面談を終えたはずの青年が、センターにやってくる。勤務先での生活を嬉々として語る彼に、まとわりつく悪意の存在。青年が起こした傷害事件は社会を巻き込んだ「自閉症をめぐる問題」 へと発展し、偏見と差別が膨らみ続けるなか、萩野は一人「こころ」と対峙する。世界のあいまいさを許容して生きるための。はるかから、わたしの物語。療育センターの心理士が紡ぐストーリー誕生のきっかけ出典 : 編集部(以下、編):はじめまして。今回療育センターを舞台にしたお芝居『わたしの、領分』再演ということで、ぜひお話を伺えたらと思います。まずはじめに、このお芝居を作るそもそものきっかけは何だったのでしょう。松澤くれはさん(以下、松):もともと、僕の知り合いに療育センター勤めの心理士がいたんです。その人から現場サイドの悩みや葛藤を知る機会がありました。そのときはじめて「支援する側にも葛藤や悩みがある」ということを知りました。療育施設という場所には常々舞台として関心があったのですが、そこでの話というと、既存のものはどうしても親御さんや子ども当人からの視点で描かれがちで。療育施設には心理士さんもいます。知人の話を聞いて「心理士の視点から書きあげることで新しい作品がつくれるんじゃないか」と思ったのです。もともと僕は作品を創るときに「視点を変える」ということにこだわってきました。別な角度、いわゆるニッチな視点ですね。うちが手掛けた他の作品でも、例えばオリンピックを描く時、ドーピング商品を選手に売るバイヤー視点でつくるなど取り組んできました。視点を変えて紡ぎだすことによって、新しい問題提起が何かみえてくるのではないかとは常に考えて素材を選んでいます。今回の作品の着想もその範疇(はんちゅう)で生まれました。「当事者意識」の境界線は?発達障害の子どもとその周縁をどう描いてゆくのか出典 : 編:既存のイメージから視点を変えて芝居を紡ぎ出すということですが、今回、療育センターの職員と発達障害の子どもという題材の中で、どのようなテーマを持たれていたのでしょうか。松:「当事者意識」というものに対する興味関心です。「当事者」という言葉はよく使われますが、一体、どこからどこまでが当事者なんだろう、と。たとえば発達障害のある本人がいて、その親御さんまでが当事者なのか、それとも支援にかかわるすべての人もふくめるのか…。実際、劇中でも「あなたに足りないのは当事者意識だ」というシーンがあるんですが、じゃあ、あなたはどうなんですか?と、問い返すこともできる。何があれば「当事者だ」と言えるのか…心の持ち方なのか、血が繋がってることなのか、本当は誰も定義できないからこそ、難しいのだと思います。本人がどれだけ相手を思って行動しても、「いや、あなたは部外者だ」と言われてしまえばそれまで、何もできないというもどかしさがある。その、定めきれない「当事者意識」の境界線を作品で描くには、なるべく広く関係性を作るべきだと思ったんです。子どもと子どもの親がいて、民間のセラピスト、センターの人、ドクター、心理士の夫、などなど。自分は当事者なのか?と悩みながらも相手にかかわっていく、あるいは、この人は当事者ではないと相手に思いながらも頼っている、この状態やそんな関係性そのものを描きたいと思ったのです。編:なるほど…では、劇中の登場人物たちがその人なりの「当事者性」を追求していくような形で物語が進んでいくのでしょうか?松:いえ、自分が当事者と思っているか思ってないかは、バラバラに設定しています。それぞれのシーンで、観る人が「『当事者』というものを考えることに直面する」ように演出しています。たとえば、「息子を障害者にするつもりか!」「あなたに足りないのは当事者意識だ」といった台詞を聞いたときに、ハッとする人もいるかもしれないし、疑問を持つ人もいるかもしれない。観る人それぞれが考える余地を残して、シーンを描いています。編:「これが当事者だ」と答えを出すというより、当事者性そのものを”考える”ために劇がすすむようにしているということですね。松:そうですね。基本的に答えを出したり作り手のメッセージを出していくタイプの劇は作っていないんです。登場人物の悩みそのものを持ち込み、悩みと悩みがぶつかり葛藤がおきる、人間関係のうまくいかなさ、その場面をそのまま提示していこうと。その中で、互いに争わず、妥協ではない前向きな折り合いをつけるにはどうするか、今この瞬間の現実の悩みをどうするかを、描いていきたいと思っています。そもそも80分の劇で人間の悩みなんて簡単に解決できないとも思っていますしね。稽古中、セリフにつまづいて黙ってしまう役者を褒めます。その訳は…Upload By 平澤晴花(発達ナビ編集部)編:役者さんとは普段どのようなコミュニケーションをとりながら稽古をしているのですか?松:「嘘はつかないでほしい」と、まず最初に言っています。セリフがあるからって言わないでほしい、言えないのに言わないでほしいと言っています。セリフを覚えてないわけでなく、うまく出なかった。そんな時には立ち止まって、なぜ出なかったのかを考えてほしいと伝えています。なんでその演技ができないのかということを考えてほしいんです。とりあえずで無理やり話を進めないで、セリフを言うきっかけを探してほしいって言っています。ピンとこないセリフがあったら、じゃあ今どんな気持ちになっているのかを共有して前段階から演技を考えていきます。なるべくお互いにごまかさない、その代わり稽古なんだから失敗していきましょうと。そう伝えると、ホントにセリフ言わない人も出てくるんですよ。そこからは、この人物がセリフを言う動機はどこにあるのか、どれくらいのイメージを持ってやっているのか、お互いのイメージをすり合わせるようにして進めていきます。編:松澤さんが今のような演出スタイルをとることになったきっかけはなんですか?松:そうですね。人はそれぞれ違う、という意識がそうさせたかもしれません。自分と他者という違いに少しずつ気付いてきた時期があって。昔は男主人公でやっていましたが、一挙手一投足が気になりすぎてしまって、役者にも細かく指摘し過ぎてしまうんですね。だんだん、「このままじゃ駄目だ」と思うようになって、女主人公の芝居にチャレンジしたんです。そしたら、女性のしぐさに対してなかなか想像が及ばず、わからないことだらけだったんです。そこで気づいたんです。そもそも演出家も役者も、芝居に挑むバックボーンが違うし、みんなバラバラの意思や体を持っているのだということに。でもそれは、一緒に芝居を作っていく上では、実は大した問題ではないんですよね。大事なのは同じ目標を持って、ひとつのことに向かうこと。そこに至るまでに各々が違う役割を全うすればいいだけ。そこから今のような演出スタイルや、役者とのコミュニケーション方法が築かれていきました。編:人はみんなバラバラで、違った意思を持っている。当たり前のことなのに、人はつい自分の信念や、一般的な社会通念にとらわれてしまう…発達障害のある人の中には、そんな周囲からのプレッシャーに苦しんでいる人も少なくないと思います。演出家、役者、監修者、一人ひとりの「ちがい」を前提として芝居をつくりあげていくスタイルは、きっとこのテーマにぴったりの手法なのだと感じました。自分のフィルターは、視点が異なる他者との密なかかわりで、外していけるUpload By 平澤晴花(発達ナビ編集部)編:今回の作品の話に戻りますが、創作していくうえで、松澤さんの築いたスタイルはどう生かされましたか?役者さんにとっては、発達障害のことや心理士の仕事は未知の世界でしょうし、イメージしにくいところからのスタートだと思うのですが。松:初演の稽古の際、きっかけになったできごとがあります。くまさんがいて、うさぎさんがいて、箱にビー玉を入れるという、子どもへの発達検査のシーンでのことです。最初は、検査で子どもが間違えてしまったことで生じた、発達障害の可能性に対して、両親が失望するという台本にしていたのです。しかし、父親役の役者の意見からは「間違えてしまった子どものことは、僕には正常に見えた。子どもだから複雑な指示に従えないのは当たり前だと思います」といったのです。そこで活路が見えました。こうなるから、こうとこだわらず、なるべく自分のフィルターをはずして、バラバラにして組み立てていくようにしたんです。実際に演じる役者さん、監修をしてくれた心理士、自分と視点が異なる他者の視点を取り入れていくことで、リアリティが生まれていきました。そんななかで、たとえば観客席の最後列から聞くと声が聞き取れない役なども出てきました。登場人物のテンションもそれぞれ違うので、役ごとにバラツキをもたせたのです。普通のお芝居だと、なるべくはっきり、後ろまで声が通るようにしますよね。でも今回、それをやらなかった。あと、余談ですがうちは円陣も組みません。そしたら同じテンションになっちゃうから。それではリアリティを消してしまいます。そこまですると演出がバラバラに見えることもあるかもしれません。しかし、現実では同じテンションはありえないんです。揃えてしまうことではリアリティは生み出せないことになります。なるべく誰かのペースに巻き込まれないでと、役者には言ってます。ストーリーばかりを勝手に進めないようにと。正しいと思ってなくても言ってほしい。自信のなさでもいいので、なるべく決めつけずに進めてほしい。だから達成感がない芝居だと役者から言われることもあるんですけどね(笑)。伝わりにくい「生きにくさ」の正体。観客に「いたたまれない…」と思わせる、ぎりぎりの表現を生み出すには出典 : 編:テーマにかかげてある「生きにくさ」を身体表現と会話劇で繰り広げるのは大変だと思いますが、どういう点で苦労しましたか?松:一般的には芝居って筋書きが決まっているものなので、稽古すればできるようになるじゃないですか。出来不出来はともかく、とりあえずストーリーは追えると思うんですよ。でも、それだけでは安定してしまう。だからぎりぎりを攻めてほしいと、役者さんに伝え続けました。セリフをとちってほしいというわけではないんですが、ぎりぎりまで忘れているんだけどぽろっとセリフが出てくる、それぐらいの状態でいてほしいと。そこでリアリティがでてくるので。矛盾と戦い続けることで出来るようになっていくことですよね。稽古していることを稽古していないことのようにやること。100回練習したことをはじめてやるかのようにやる。「生きにくさ」とは、「うまくいかなさ」ですからね。たとえば、ここで突然御二方(発達ナビ編集部員)に怒られたとするじゃないですか。インタビュー受けなきゃよかったな、早く帰りたいなぁ、言ったこと間違ってたのかなという気持ちになって、ここにいにくくなると思うんです。「いたたまれなさ」です。そのあり様をそのまま舞台上に、その気持ちで立ってもらいたいと思っています。やっぱりお芝居って、自分の出番で自信を持って体を大きく動かしてセリフをバシッということができるほうが気持ちいいんですよ。自分も役者だったんでわかるんです。そっちのほうがある種の安心感があるというか。でも目指すのはそっちじゃない。ここ全然うまくいってない、相手との掛け合いがうまくいってない、っていうときほど「今日よかったですね」って僕は言いますし、逆に役者が「今日は調子いいぞ」と思っているときほど駄目で、「今日は予定調和でした」と言いますね。演劇によっていろいろなジャンルがあるので、秒単位で筋書きが決まってるようなものでこういうことをやるのは駄目ですが、「わたしの、領分」のようにありのままを見せるような芝居では、その人自身がちゃんと傷ついてその場にいたくないという気持ちになることが大切だと思ってます。心のどこかで本当に「ここにいたくない」と思うことが大事なんです。そういうところが身体表現の大事なところなんじゃないかと思います。いるとき、いなくちゃいけないときの境目を分けてふるまうことも大事です。いなくていいときはすぐ舞台上から去ることも大切ですね。編:戸惑うお客さんもいるんでしょうね。松:芝居に親しんできた人は斬新にみえるらしいですね。現代口語演劇の延長線でやってきているので、それに親しんでいる人は受け入れられると思います。アンケートで、「私がいつも観ている帝国劇場より声がでてない」とか(笑)、「結論がない、結論を出せ」といわれることもあります。もともとある価値観を変えることはなかなかむずかしいし、それこそ多様性を認めろというのも押しつけでありエゴでもあります。でもこういう人がいるんだということを知るというのはいいと思っています。登場人物にどこか自分と共通した変なところが見えてくるといいと思います。たとえば、作中に登場する心理士も変な人が多くて、ちょっとずれてるところを持っていることが多いように描きました。登場人物の荻野もシャーペンのカチカチする音がきらいで、年の離れたドクターにおもわず切れてしまうことがあったり。それをお客さんもみて「ここわかる」「ここわからない」と自分の中にもある変わったところと重ねながら観てもらえたらと考えています。相模原殺傷事件の匿名報道への憤り。少しずつ歩き続けようと、すぐ再演を決めたUpload By 平澤晴花(発達ナビ編集部)編:少し話を社会的な事象の時系列から掘り下げて、作品の真相に迫っていきたいと思います。2015年に初演があって、その後、相模原障害者施設殺傷事件がありました。そして今2017年に再演することになったわけですが、松澤さんの中であの事件は偶然の重なりといえますか?どう事件を咀嚼して再演するにいたったのでしょうか?松:誤解を恐れずに言うと…ついに起きたかと思ったんですね、相模原は。ヘイトスピーチや優生思想が最近増えており、それに賛同する人が増え一定の共感を得てしまい社会に浸透しつつあったところでこの事件が起きました。その中での匿名報道、やっぱりそうなったかと思いました。遺族に配慮した、と言って19名全員の被害者名を警察が伏せたというのがそのような社会になってしまっていることの表れで。伏せざるを得ないのが社会の在り方なんだなと思いました。19名全員の遺族が出さないでくれといったわけではないのに、とっさにそのような判断がくだってしまうという。そこには顔がないと思うんですよ。命を奪われて、そのあとに冥福を祈るというときに「個」をはく奪されてしまう。被害者たちは、19という数字になってしまう。まだそういう社会なんだ、平気でそういう判断を下して「悲惨な事件でしたね」という感想で終わってしまう。その近くにいた人だけが解決しないまま問題意識を持っている状態になってしまう。それで、すぐ再演を決めたんですが、再演を決めた後もすぐに批判されたんですよ。「あなたが芝居して何が変わるんですか?」「お金儲けしたいだけでしょ」と言われて。そこに当事者意識の違いを感じました。被害者じゃなければ語れないのであれば、何も変わらないと思うんですよ。結局見て見ぬ振りを続けていく、ひどい事件が起きたね、終わり、にするわけにはいかない。何よりああいう犯人を出さないようにするためにも、あまり議論が尽くされない中での匿名報道などにも待ったをかけるように働きかけていかないといけないんじゃないかと思ったんですよね。そこで再演に関してですが、まず相模原事件が起きたあとに設定を変えたんです。現実に起きた事件をないがしろにできないので、名前は出してないのですがその事件の後だとわかるようにしています。なので時系列は2016年にしました。あとは、ラストシーンを変えました。初演を見た人はびっくりするくらいの全く別物になると思います。まったく見え方が変わるはずです。タイトルも変えたんです。「わたしの、領分。」だったのを「。」をとったり。この違いからこの作品の意味がわかってもらえたらと思います。初演は、立ち止まることが大事、というイメージでしたが、再演は、少しずつでいいから歩き続けよう、というイメージにしています。これは初演から2年たって変わった心境と思ってもらえるといいかもしれません。編:これまでお話を聞いていて、松澤さんが手掛けるお芝居は、非日常の娯楽というよりは、むしろ日常の延長の中にある芝居というような印象を受けます…松:芝居のラストシーンがお客さんの日常につながっていってほしいんですね。家に帰った時にじわじわ効いてきてほしい。演劇は新しい視点をお客さんにあたえることができると思ってます。芝居をみて、「心理士っていう仕事があるんだ」くらいの感想でもいい。あるいは、街中で発達障害かもしれないなという人を見かけたら、見て見ぬふりではなく「あ、昨日のお芝居で…」と思い出してもらえるなら嬉しい、ほんの一歩でもいいので、今まで自分の中になかったものを受け入れるキャパシティが広がれば、と願います。日常忙しい親御さんにも、肩の力を抜いて楽しんでもらいたい出典 : 編:発達ナビは発達が気になるお子さんの保護者の方向けメディアです。何か直接伝えたいことはありますか?松:ここで今、取り立てて伝えたいことはないんですよね。というのも、この芝居は終わる物語ではないので、メッセージも答えもないありのままのものなので。親御さんたちは、ご自分やお子さんに引きつけて見られる部分もあるとは思いますが、一方でまた別のお話、別の人生であると、少し離れて肩の力をぬいてみてもらえたらと思います。こういう生き方もあるんだ、こういう人もいるんだ、というふうに感じ取ってもらえたらいいなと思ってます。編:普段育児に忙しくしている方々も、少し肩の荷をおろせる時間になるといいですね。松:そこまで言い切れるかどうかはわからないんですが、きっと日常で悩みやご負担も多いと思うので、普段なかなか自分のことにかまえずにいるなかで、演劇を純粋に物語として見てもらい楽しんでもらえたらと思います。心理士と親御さんの面談シーンを第三者として見るってのもあまりないと思うので。編:本当に楽しみな舞台ですね。本日はお話ありがとうございました!インターネットを通じて様々なプロジェクトへの活動サポート・寄付ができるクラウドファンディングのプラットフォーム「CAMPFIRE」にて、「わたしの、領分」の公演規模拡大、地方公演の実施に向けた資金を募るプロジェクトを実施中です!わたしの、領分クラウドファウンディングUpload By 平澤晴花(発達ナビ編集部)わたしの、領分松澤くれはプロデュース『わたしの、領分』2017年3月28日(火)~4月2日(日)@小劇場 楽園作・演出松澤くれは出演者善知鳥いお岡村いずみ江幡朋子尾﨑菜奈倉冨尚人今駒ちひろ野下真歩早山可奈子坂内陽向宮川智司柴田淳(ブラックエレベータ)室田渓人(劇団チャリT企画)濱田龍司(ペテカン)スタッフ舞台監督:吉倉優喜舞台美術:小林裕介音響:葉暮呉一郎照明:タカハシカオリ小道具:定塚由里香宣伝美術:イラスト…谷川千佳/デザイン…milieu design制作:森永たえこ協力:特定非営利活動法人アートシアター株式会社アイビー・ウィーウォーターブルー株式会社大沢事務所株式会社スチール・ウッド・ガーデン株式会社パワー・ライズ(有)No.9UTYリベルタ(五十音順)製作:「わたしの、領分」製作委員会公演日程2017年3月28日(火)~4月2日(日)タイムテーブル3/28(火)19:303/29(水)19:303/30(木) 15:0019:303/31(金)19:304/1 (土) 14:0018:004/2 (日) 13:0017:00※上演時間は約80分を予定しています。※受付開始・当日券販売は開演の40分前、開場は30分前からです。※開演10分前までにお越しいただけない場合、キャンセル扱いとなる場合がございます。チケット前売り4,000円 / 当日券4,300円(全席自由席・日時指定)お問い合わせpro.watashi@gmail.com050-5319-3493(森永)
2017年03月16日我が家で役に立ったお手軽療育グッズをご紹介!出典 : 私たち夫婦が娘に家庭内療育を始めたのは、2歳半で娘に自閉症の診断がおりた後、3歳になる直前ぐらいからです。このころは、少しずつですが言葉が出てきだしたころでした。その当時の私たちは、療育に使う教材といってもどのようなものがあり、それがどこで手に入るのか全然見当もつきませんでした。そこで療育の先生から手に入りやすいグッズや簡単に自作出来る教材を幾つか教えていただき、手探りで実践してみました。実際で我が家で使用した療育グッズを紹介します。ご褒美を与えるトークンを100円ショップの磁石で簡単手作りUpload By あいちゃんパパ私の記事にたびたび登場する100円ショップ。安い上にアイデアになる商品がたくさんあります。療育を始めた当時、娘の物の名前や属性が良く分かっておらず、まずは身の回りの物の名前を教える必要がありました。最初は課題ができるたびにご褒美を与えていました。しかし、慣れてくると徐々にご褒美を減らしていく必要があります。とはいえ子どもの療育に対するモチベーションは維持していかなくてはなりません。発達障害児の療育には、子どもが好ましい行動をするたびにご褒美としてトークンを与え、あらかじめ決めておいた数だけトークンを集めることができたらご褒美を与えるトークンエコノミー法がよく使われるのですが、我が家では画像のトークンを自作しました。鉄製の平べったい筆箱と磁石を5個買ってきて、課題が1つできるたびに磁石をくっつけさせ、5個付けるとご褒美を貰えるというものです。これを作ることで、磁石をくっつける楽しさやそれがたまっていく過程が分かり易いこともあり娘のモチベーションも落ちずにすみました。また他にも100円ショップのアイテムを療育グッズとして活用していました。例えばプラスチック製の緑・黄・赤色スプーンとフォークをそれぞれ3組買って来て、同色や同形でマッチングさせたりしました。絵を模倣させるための画用紙や、マッチングに使う色違いの製品、おもちゃの積み木など、100円ショップはアイデア次第で療育グッズの宝庫です。物の名前を覚えるのに大活躍!「くもんの生活図鑑カード」シリーズ出典 : 今でこそ、インターネットでなんでもそろう時代ですが、私たちの頃はまだそこまで普及していませんでした。なので、書店などで「くもん」から出ている「やさいくだものカード」「たべものカード」「のりものカード」(くもんの生活図鑑カード)などを購入し、療育に使いました。くだものやさいカード〈1集〉 (くもんの生活図鑑カード)このくもんのカードには、カード1枚に1つの絵がまるで写真のように本物そっくりに描かれています。我が家では物の名前付け、カテゴリー分けの練習などに使いました。・名前付け・・・りんごのカードを1枚机に置いて「りんごはどれ?」→指差しさせる、「これは何?」→「りんご」と答えさせる・物の区別・・・りんご、みかんのカードを置いて「りんごはどれ?」→どちらかを選ばせる・カテゴリー分け・・・車、船、飛行機、電車のカードを置いて、「空を飛ぶものは?」と言って飛行機を選ばせる。同様に「水の上に浮かぶもの」「線路の上を走るもの」「陸を走るもの」も。また、やさいくだものカードでは全てのカードを置いて「やさいとくだものに分けて」と言う。絵がリアルなせいか、このカードでの練習で娘は徐々に物の名前とその機能を理解していきました。教材はカードでなくても本でもよいのでは?と思われるかもしれません。しかし、本だと同じページに絵が複数載っていることがあり、子どもが集中できないかもしれません。カードだと、目的の絵だけを教えることができるので分かり易いと思います。新聞の折り込みチラシを使った療育グッズ出典 : 市販の物以外にも、お金をかけなくても身近にあるもので教材を作ることが出来るものがあります。それは新聞の折り込み広告のチラシを利用したものです。広告にはモデルさん(男の人、女の人、子供、お年寄り)などの写真が載っています。これらを切り抜いて、カテゴリー分けに使いました。目的はくもんの生活図鑑カードと重なりますが、こちらは無料で作ることができます。切り抜いた人物をいっしょに混ぜておき、「男の人はどれ?」「男の人と女の人に分けて」などと言って、たくさんある中から同じ仲間に分けさせたりします。同様に、果物や野菜、肉、その他の商品などの写真を利用してカテゴリー分けの練習を行いました。カテゴリー分けの練習に生活図鑑カードとチラシの両方を使うことは、自閉症児が苦手だととされる、本質的ではない違いを無視して「同じもの」として扱う「汎化」の練習にもなりました。親が子どもといっしょに、気軽に出来る療育を!出典 : お金をかけてもかけなくても、工夫次第で療育の教材は身近にあると思います。チラシに載ってる商品が分かるようになると、今度はそのチラシを持って実際にお店に一緒に行ってみるのもいいかもしれませんね。
2017年02月25日知的障害者向けの療育手帳、発達障害の私は取得できないの?出典 : 現在、発達障害者のためだけの独自の手帳制度はありません。発達障害者のための法律は、2005年にやっと「発達障害者支援法」が施行されました。ですが手帳制度は定められていません。そのため、知的障害者に発行される療育手帳か、精神障害者保健福祉手帳がその代わりになっているというのが実情です。少し、療育手帳と精神障害者保健福祉手帳の制度について調べてみました。療育手帳は、1960年に施行された「知的障害者福祉法」には記述がなかったのです。1973年9月に当時の厚生省が出した通知「療育手帳制度について」に基づいて、各都道府県知事(政令指定都市の長)が知的障害と判定した人に発行するようになりました。それ以前にも独自に療育手帳を発行していた自治体もあったそうですが、1973年までは国の法律に基づいた制度ではなかったのですね。精神障害者保健福祉手帳は、1995年(平成7年)に改正された精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)に基づいて、各都道府県知事(政令指定都市の長)が発行しています。私は、「発達障害で、実際にかなり生活や仕事で困難を感じているのになぜ療育手帳を取ることができないのか?」という疑問を抱いていました。療育手帳では受けられても、精神障害者保健福祉手帳では受けられないサービスもありますし(特に交通関係のサービスは療育手帳の方が手厚いです)。そして「それなら実際に取得のチャレンジをしてみよう」と決心したのです。大人になってから療育手帳を取るには、どんな手続きが必要?出典 : 大人になってから療育手帳を取るためには、まず市役所等の障害福祉課に申し込む必要があります。申し込んでからしばらくして日時を指定されて、市役所の職員から成育歴や現在の生活の状況などの聞き取りが 約1時間ありました。そして、「取れてB2(一番軽度)ですね。また都道府県の指定機関で検査を受けてもらうので、日時が決まったら連絡します」と言われました。役所での聞き取りから約1カ月後、都道府県の指定機関から連絡がありました。そのときに「子どもの頃のことを聞かせてほしいのでご両親に同行してもらってください」と言われました。父はもう亡くなっているので母にお願いしました。けっこうな歳なので申し訳なかったですが。しかも「そんな昔のこと覚えてない」って言われますし。けっこう不安な気持ちになりました。ちなみに親が高齢で足を運べない場合は、電話での聞き取りになるそうです。親がいない場合はどうなるんでしょうね…?検査を受けた結果は、手帳の取得は…出典 : 検査の流れは、午前中に2時間かけて私はWAIS-Ⅲを受け、その間に母は別の部屋でチェックシートに回答し、それを心理士さんが見ながら追加で質問をいろいろと受けるというものでした。WAIS-Ⅲは途中で休憩をはさみながらも2時間少々で終わりました。心理士さんはとても手慣れていて、検査のベテランという印象でしたね。お昼過ぎに母と合流し、20分間待って母と私を担当した心理士さんたちによる結果の見通しと所見の説明がありました。結果から言うと、「療育手帳の支給はできません」でした。理由はわたしのIQが100を超えていたこと、成育歴に特に問題もなく、大学に進学したことがトドメになったようです。療育手帳の審査ではふたつのことを見るそうです。1.検査でIQを計る2.成育歴で、18歳までに知的障害の状態であったかどうかどちらでもダメだったわけですね。心理士さんにズバリと聞いてみました。「私みたいな知的に問題のない発達障害の人が検査に来ることってよくあるんですか?」すると「はい、けっこう多いケースです。やはり手帳を取っていただくことはできませんが」と答えてくれました。この日も何組もの親子が検査を受けに来ていました。検査を受けに来る人はとても多く、忙しい状態が続いているそうです。WAIS-Ⅲの所見も簡単ではありましたが、説明してくれました。もう少し詳しい所見がきけるのかと思っていましたが、分析する時間もほとんどなかったでしょうし仕方がないのかなと感じました。最後に、精神障害者保健福祉手帳で受けられるサービスについての案内がありました。発達障害に関する啓発パンフレットも、親子に1セットずつくれました。WAIS-Ⅲの結果レポートは、頼めば切手代だけで自宅まで郵送してもらえました。私は医師に提出するためにお願いしました。判定基準は都道府県によって異なります出典 : 療育手帳の判定基準は都道府県によってかなり異なります。甥が発達障がいのため、療育手帳の交付申請をしたが、知能指数が基準の75より1高い76であるという理由で却下された。社会生活に適応できないのに、手帳が交付されないことに納得できない。知能指数が高い発達障がい者も療育手帳の交付を受けられるようにしてほしい。私が住む県では、知能指数が高い自閉症などの発達障がい者には、交付基準に該当しないとして交付されないが、他の県や政令市では交付されている例があると聞いた。療育手帳の交付に当たっては、全国の発達障がい者が平等に手帳の交付が受けられるよう、交付基準を統一してほしい。どこに住んでいるのかによって、判定基準が大きく異なるというのは制度として大きな問題があると思いました。必要な人が手帳を取れる世の中に出典 : 今回の経験で感じたのは、「発達障害の生きづらさはIQで測れるものではないのに、どうして『実生活でどれだけ困難を感じているか』ということを考慮してくれないのだろう」というむなしさでした。そして、療育手帳の基準の地域差が公的文書で問題になっているのに、事務的に振り分けられることの理不尽さを感じました。大人の発達障害は今までほとんど理解されることはありませんでした。少しずつ社会も変わろうとはしていますが、現実としては「努力してもできない」「なまけているのではない」ということも理解されず、SOSを出したくてもうまく福祉につながれない人が多いと思うのです。発達障害が社会的に認知されるためにも、そして発達障害のために生きづらい人が顔をあげてイキイキと生きていくためにも、手帳を必要とする人には公正にスムーズに手帳が手に入る世の中になってほしいと思います。そして、発達障害者のための手帳ができることを心より願っています。
2017年02月24日・ 【第1回】発達障害の子育てに「療育」よりも大切なこと ・ 【第2回】発達障害の子どもが、充実した人生を送るために必要なこと ・ 【第3回】発達障害の子育てを「辛い、苦しい」と感じたら のつづきです。「発達障害」をもっと理解するために必要なことを、『療育なんかいらない!』の著者であり、独自の理論で放課後デイサービスを展開する「アイム」の佐藤典雅さんにインタビュー。今回は、「発達障害の子育てを楽しむコツ」についてお話を伺った。佐藤典雅(さとう・のりまさ)さん川崎市で発達障害の子どもをサポートする放課後デイサービス「アインシュタイン放課後」「エジソン放課後」を運営している、(株)アイムの代表。自身の自閉症の息子さんの療育のために、息子さんが4歳の時に渡米して、ロサンゼルスで9年間過ごす。前職は、ヤフー・ジャパンのマーケティング、東京ガールズコレクションとキットソンのプロデューサーという異色の経歴の持ち主。福祉という範囲を超えた目線で、自身の息子さんの成長を見守りながら、発達障害児が社会で幸せに生きるための道を広げる挑戦をしている。著書: 『療育なんかいらない!』 (佐藤典雅・著/小学館 ¥1,296 税込)※放課後デイサービス(= 放課後デイ):6~18歳までの障害のある子どもが放課後や学校休業日に利用できる、就学時向けの福祉サービスのこと。■子どもの障害は親のせいではありません―― この連載もいよいよ最終回。いろいろ伺ってきましたが、ずばり、佐藤さんが思う発達障害の子育てを楽しむコツって何でしょうか?佐藤典雅さん(以下、佐藤さん): まず、親自身がハッピーであること、充実した楽しい人生を送ることです。人が他人を幸せにするのは無理。幸せって自分が作り出す状態だから。状態である以上、自分で作り出すしかないんですよ。―― 子どもの障害に対して、親は自分の人生すべてを捧げるべきという風潮がありますよね。そういう中、親は自分のことを優先しにくいのかもしれませんね。佐藤さん: でも、親が療育に必死になって、「子どもには充実した人生を送ってほしい」ってボロボロな状態になっていたら、それを見た子どもがうれしいわけがないよね? こんなの、子どもにとっては重荷でしかない。―― 自分を犠牲にしてまでがんばってしまうのは、もしかしたらお母さんは「自分に責任があったのでは?」と感じてしまうからかもしれません。「妊娠中に無理したのが良くなかったのかな?」とか「早くから預けて働いたのがいけなかったのかな?」とか、いろいろ考えて自分を責めてしまうのかもしれません(※)。※もちろん発達障害の原因にそんな根拠はありません。佐藤さん: 子どもの障害は親のせいではありませんよ。僕は、それぞれの人にはそれぞれの生まれ持った宿命と人生があるのだと思っています。そして、その子どもが自分の人生の使命をまっとうできるようにサポートするのが親の役割。後は、親自身が自分の人生を楽しむのが、親の仕事だと思っています。―― 障害者の親って他の保護者より制限があるように思えるのですが、人生を楽しむことってできるのでしょうか?佐藤さん: 大切なのは、子どもに障害があろうがなかろうが、いかに、自分が今の状態を楽しめるか? なんですよ。お母さんが自分の人生を謳歌していれば、子どももその姿を見ていて楽しくなるでしょう。もちろん、普通の子育てより大変なことは多いですよ。でも、地獄で幸せになれない人は、天国にいっても絶対幸せになれませんから!―― どういう意味でしょうか?佐藤さん: 地獄で「暑い、暑い」って言ってる人は、天国に行けったら、絶対「暇だ~、なんかつまんない~」とか言い出すから。―― おもしろい考えですね(笑)。また、お母さんが生き生きとするためには、お父さんの存在も欠かせませんよね?佐藤さん: もちろんです。でも、残念ながら、うちの放課後デイに親子が面談にやってくる時、夫婦そろって来られるのは一割以下。平日の昼間、お父さんは仕事だから仕方がないにしても、お母さんの話からお父さんの存在が見えない家庭が多いのです。―― 療育センターなんかでも、付き添いはお母さんばっかりですものね。佐藤さん: 父親がちゃんと関わってくれないと、母親のストレスは2倍になります。日々の小さいことまでフォローする必要はないのかもしれないけど、重要なことには決断を下し、時々、お母さんの頭の中を整理してあげてほしいと思います。それに、話を聞いていると、お父さんの意見は結構合理的で的を得ているんですよ。なので、お母さんたちも、もう少し素直にお父さんの意見を聞いてあげてほしいと思います。■先輩お母さんとつながろう。人脈をどんどん広げよう―― 旦那が一緒になって考えてくれる、それだけでお母さんは十分心強いと思います。あと、私が心強かったのは、同じ悩みを持つお母さん仲間とのつながりです。佐藤さん: ただ、療育センターでは同じ年頃の子どもを持つ親同士でしか接点がないよね? 特に、就学前は一番不安な時期だし、子どもの先の姿が想像できない。だから、同世代だけで集まると不安を交換しあって、不安だけが増幅してしまうという難点もあります。―― 確かに。いつも同じメンバーで、ぐるぐると同じ話になってしまいがちなところもありましたね。佐藤さん: 一番有効なのは、発達障害をもつ未就学児のお母さんは、同じ発達障害を持つ中学生の親から話を聞くこと。すでにいろいろ経験してきたお母さんたちは、いろいろな情報を持っているので役立つアドバイスをくれます。わが子の将来のイメージもつかみやすいので、お母さんもあんまりパニックにならないですむ。違う世代とつながりを持つことをおすすめします。―― でも、なかなか違う世代とつながる機会がないのですが……。佐藤さん: うちの放課後デイに遊びにいらっしゃい! いろんな先輩お母さんがいるから。みんな仲が良くて、よくバーベキューやクリスマスパーティーしたり、頻繁に交流会をしていますよ!ただ、おもしろいんだけど、うちのお母さんたちが集まっても、みんな誰も子どもの話をしないんですよ。子どもそっちのけで、爆笑トークで盛り上がってるの(笑)。でも、これこそが健全な姿だと思うわけ。―― みなさん、佐藤さん同様、笑い飛ばす力を持っているんですね!佐藤さん: 発達障害の子育てをする親は、特に、開かれた視点で物事をみつめなおす必要があります。療育に通うのに夢中になっていると、気づいたら、接するのは療育センターの先生か学校の先生かママ友だけになってしまいますよ。意識的に努力して、開かれたマインドをもっておかないと。―― 人脈もどんどん広げるべきなんですね。佐藤さん: 例えば、子どもが興味のある業種に人脈を作って、その企業にインターンできるようにするとか、どうでしょう? うちの長女は将来ゲームクリエイターになりたいと言っているので、僕はプロが使うAdobeのフォトショップを覚えさせたり、夏休みは友達の会社でインターンさせたりしています。もちろん、中学生だからたいしたことはできないんだけど、興味ある業界で普段接することのない大人と過ごすことができるのは刺激的でしょう。それができたのは、僕に人脈があったから。―― なるほど! 子どもの興味があることにつながる人脈力か……。佐藤さん: 世の中にはいろんな人います。いろんな人と会って話して、どんどん外の世界に出て行ってほしい。自分の親とか同じ学校とか、同じマンションとか、同じ世帯年収とか、そういう狭い世界だけでみて、こうあるべきだと決めつけないでほしい。臨機応変に考えられるように、いろいろな情報収集をしてほしいと思います。 ■運命を受け入れることも、大切―― ところで、ここの子どもたちはとても自由に寛いでいますね(取材中の様子を見ながら)。図鑑に没頭している子もいれば、ボール遊びをしている子もいるし、寝ている子もいれば、カラオケで熱唱している子もいる(笑)。佐藤さん: 僕は、自分の放課後デイを「川崎のNASA」と呼んでいます。なぜなら、発達障害の子は宇宙人みたいなものだから。僕の役割は地球側の外交官みたいなもので、彼らの地球滞在が充実したものとなるように努めること。そして、いつか彼らが宇宙船に乗って地上に降りてきた時に、「あの時はありがとう」と言ってくれればいいな、と妄想しています(笑)。―― その妄想、素敵です(笑)。佐藤さん: 発達障害はガンダムのニュータイプみたいなもんで、既成概念の外にいる子どもたちなのだから、親の方も子どもに常識を求めるのはナンセンス。期待すればするほどドツボにはまるだけ。そしてもっというと、親自身も「こうあるべき」「こう育つべき」っていう規制概念の呪縛から出る必要があります。―― そう考えると、発達障害の子どもたちは、親に、子育てで忘れがちな、とても大切なことを教えてくれているのかもしれませんね……。佐藤さん: ちょっと話それるけど、みんなよく「結婚して幸せになりたい」とか言うじゃない? でも、結婚したって離婚する人もいるし、結婚は幸せを保証するものじゃない。「結婚すれば老後がさみしくない」っていう人もいるけど、うちのお祖母ちゃんはお祖父ちゃんが早く死んじゃったから、30年間ひとりだったわけ。結婚はさみしくない老後も保証しない。つまり、人生は何が起こるかわからない。だから、一生懸命人生の方程式を作ったって無駄なんですよ。―― では、どこを目指したらいいのでしょうか?佐藤さん: 死ぬときに本人が充実した人生だったと納得して死ねるか、そこしかないと思うんです。だから、子どもに障害があっても、お母さんは自分の人生を思いっきり生きるべきなんですよ! ―― 「やりたいことがあったなら、とりあえずやっておけ!」と?佐藤さん:そう。そして、運命というのか宿命というのかわからないけど、ある程度、受け入れることも重要だと思っています。自分にそういうカードがまわってきたということは、巡り合わせだと。―― 佐藤さんがまったくの異業種から福祉の世界に入ったのも、運命なのですね。佐藤さん: 福祉が大嫌いだった僕が、今福祉の世界で仕事をしているのも、きっと何か理由があるから(笑)。だとしたら、グダグダ文句言ってないでしっかりやりきろう、と。今目の前のことをやりきらないと、次のステージは見えてきません。それに、僕は一生福祉の世界で生きていくつもりはないので、せめて「他の福祉施設よりも結果を出してから辞めてやる!」と思っています(笑)。長時間にわたり、自身の熱い思いをしゃべり倒してくれた、佐藤さん。時に、厳しい指摘もあったが、ユーモアたっぷりの話しぶりで、発達障害の子育ての凝り固まった偏見や閉塞感を気持ちよくブチ壊し、勇気を与えてくれた。そして、著者は何より、佐藤さんのポジティブな姿勢と、常に息子さんの幸せな人生を考え、全力で取り組んでいる行動力に深い感銘を受けた。「この子なりの楽しい生き方ってなんだろう?」「この子が充実した人生を送るために、親として何ができるだろうか?」発達障害の子育てで、本当に親が悩むべきところは、そこにあるはずだ(もちろん、普通の子育てだって変わらない)。そして、大切なことは「子育てを楽しむ」ということを、常に忘れないでいたい。取材・文・撮影/まちとこ出版社 【大変だけど、不幸じゃない。発達障害の豊かな世界】 全4回・ 【第1回】発達障害の子育てに「療育」よりも大切なこと ・ 【第2回】発達障害の子どもが、充実した人生を送るために必要なこと ・ 【第3回】発達障害の子育てを「辛い、苦しい」と感じたら ・ 【第4回】発達障害の子育てを楽しむコツ
2017年02月18日・ 【第1回】発達障害の子育てに「療育」よりも大切なこと ・ 【第2回】発達障害の子どもが、充実した人生を送るために必要なこと のつづきです。「発達障害」をもっと理解するために必要なことを、『療育なんかいらない!』の著者であり、独自の理論で放課後デイサービスを展開する「アイム」の佐藤典雅さんにインタビュー。今回は、発達障害の子育てをする親の「心の持ち方」についてお話を伺った。佐藤典雅(さとう・のりまさ)さん川崎市で発達障害の子どもをサポートする放課後デイサービス「アインシュタイン放課後」「エジソン放課後」を運営している、(株)アイムの代表。自身の自閉症の息子さんの療育のために、息子さんが4歳の時に渡米して、ロサンゼルスで9年間過ごす。前職は、ヤフー・ジャパンのマーケティング、東京ガールズコレクションとキットソンのプロデューサーという異色の経歴の持ち主。福祉という範囲を超えた目線で、自身の息子さんの成長を見守りながら、発達障害児が社会で幸せに生きるための道を広げる挑戦をしている。著書: 『療育なんかいらない!』 (佐藤典雅・著/小学館 ¥1,296 税込)※放課後デイサービス(= 放課後デイ):6~18歳までの障害のある子どもが放課後や学校休業日に利用できる、就学時向けの福祉サービスのこと。■「大変」と「不幸」はイコールではない―― 芸能人の告白やメディアの影響などで、発達障害はだいぶ世間に認知されてきました。でも、まだまだ発達障害への社会の受け皿や理解は少ないと感じています。また、子どもに手がかかる分、親が心のゆとりを失ってしまったり、子育てにおける精神的な負担も多いように思います。日々多くの発達障害児を持つ親御さんと接している佐藤さんは、どのように感じていますか?佐藤典雅さん(以下、佐藤さん):まず、初めに言っておきたいことがあります。「子育ての本質とは、子どもに障害があってもなくても変わらない」というのが、僕の結論です。放課後デイの仕事をはじめてから、発達障害児を持つたくさんの親子を面談しましたが、面談中、「子育てが辛い、苦しい」と言って泣き崩れるお母さんも珍しくありませんでしたよ。―― やはりお母さんの負担は大きいと? 佐藤さん: でも、僕は、苦しいか苦しくないかというのは、その人の受け止め方の問題だと思っている。親が「発達障害の子育ては辛い、苦しい」と思った瞬間、それは本当に辛いことになってしまうんです。もちろん、事実として、発達障害の子育てで大変なことはあります。ただ、それを不幸だと捉えるかどうかは、親の受け止め方次第だと思うのです。―― 確かに、同じ障害を持つお母さんでも、軽く受け流せる人と重く受け止める人がいますものね。佐藤さん: 大変と不幸は、決してイコールではない。だって、オリンピックの選手だって、自分の練習が大変だからって自分が不幸だとは思わないでしょう?あと、これは、僕がいつも言っていることなんだけど、不幸な子どもなんていないんですよ。でも、周りがいつも「この子は不幸だ」って言い続けたら、子どもも親も本当に不幸になってしまう。だって、もし、あなたが自分の親から「あなたはかわいそうな子だ、不幸な子だ」って言われ続けたら、「ちょっといい加減にしてよ!」と怒りたくなるでしょう(笑)?―― 確かに(笑)。それに、自分のせいで親が悲しむなんて、そんなの辛すぎますよね……。佐藤さん: 僕は「不幸だ、辛い」と言っている親ほど、発達障害に対する差別や偏見があると思っている。だって、親に発達障害に対する偏見がなかったら、「あ~、そうなんだ」で終わる話でしょう? でも、「発達障害は不幸だ、かわいそうだ」と悲観して泣き暮らすってことは、それだけ発達障害であることが悲しいと思っているということ。実は、親自身が発達障害を差別している可能性が高いんですよ。―― これはずいぶん痛いところをつかれました(苦笑)。というのも、以前、私は周囲に対して「子どもの障害に偏見を持ってほしくない」と強く思っていた時期がありました。でも、そこにこだわっている自分こそが、何より、わが子のことを受け入れていなかった、ということだったのでしょうね……。佐藤さん: 親が社会的通念や常識で、「受験勉強をして、いい学校に入って、いい企業に入る」という、こうあるべきだという考えに縛られてしまっていると、そのルートから外れた瞬間に、子どもにも親にも、双方にストレスがかかってしまんです。でも、本来は、これが苦手でもあれは得意、というのがあればいいはず。例えば、うちの顧問で新田明臣さんというキックボクシングの元世界チャンピオンがいるんだけど、彼はいまだに割り算ができません。でも、キックボクシングのチャンピオンになれたら、割り算なんてどうでもいいじゃないですか?―― おっしゃる通り。でも、なかなか佐藤さんのように強くはなれません(泣)佐藤さん: もちろん、落ち込んで泣いて過ごす時期があってもいい。落ち込むのは自然な現象ですし、物事を消化するためには必要な過程です。でも、「1年以内に終わらせよう!」とか、短期間に蹴りをつけることが大事。思いっきり泣いた後に、「とりあえずわかりました。では、次はどうしたらよいだろうか?」って、しっかり取り組めばいいんです。 ■笑い飛ばすって、すごく重要―― ところで、著書の中では、がっちゃん(息子さんの名前)のエピソードをユーモアたっぷりに描いていましたね。佐藤さん: 僕は、笑い飛ばせるということが、すごく重要だと思っているんです。うちの子だってすごく大変だけど、もう全部お笑いネタにしちゃってる(笑)。例えば、ロサンゼルスで過ごしていた7歳の頃なんか、がっちゃんが部屋の真ん中でウンチすることにハマった時期もあって(笑)。最近だって、こっそりビニール袋にウンチして勝手にどっかに捨ててくるワザを覚えちゃったり。だから、僕はどこかに捨てられたわが子のウンチを探しにいかなくちゃならないわけ(笑)。すっごく大変ですよ!―― 著書では漫画でとても面白く描いていましたよね(笑)。でも、これと同じことが起こったら、ものすごく深刻に受け止めちゃう親だって多いと思うのです。でも、佐藤さんは「それって、おもしろくない?」と笑い飛ばしている。まさに先ほどのお話の、「親の受け止め次第で全然違ってくる」ということなんですね。佐藤さん: うちにはたくさんの親が面談にくるんだけど、だいたいみんな「学校でこんなことがあって……」と泣きながら話すの。だから、僕はそこで「はい! ストップ!」と大声で声をかけます(笑)。そして、「お母さん、それって本当に悩むべきことでしたっけ?」と言うと、だいたい「え?」とビックリして止まるんですよ。たとえ笑いにできなくても、意識して悩みにストップをかけることはできるんじゃないかな?■問題をごちゃ混ぜにしない。目の前にある課題を客観的に適正評価しよう―― でも、泣いてしまうお母さんの気持ち、よくわかります。私もいまだに、わが子が突飛な行動をすると、周囲の目が気になってしまうことがあります。佐藤さん: でも、それって「周りに迷惑をかけているかもしれない」「周りに申し訳ない」と、お母さんが過剰に周囲に遠慮してしまっているだけなんじゃないかな? もし、実際に面と向って子どものことで悪口言ってくるような人がいたら、そんな人権に侵害してくるような低レベルな奴は放っておけばいいんですよ!―― お母さんはもっと堂々とするべきだ、と?佐藤さん: うちに通っているお母さんには、「わが子のためには親として死ぬ覚悟がある」と豪語する人も多いのですが、そのわりには、隣のお母さんの顔色を気にして謝ったり、学校の先生の顔色を見て傷ついたりしている。それって、どんだけの覚悟なの? 本当に覚悟があるなら、たとえ世間になんと言われようと、「うちの子はこうだ!」って通す強さを持たないと!―― 周囲や世間はともかく、身内の理解はどうでしょう? よく「旦那が理解してくれない」なんて声も聞きますが?佐藤さん: これは、子どもの問題ではなく夫婦の問題。障害児の子育ては、健常児の子育てより、より夫婦で一緒に取り組まなければならない問題が起きやすいので、どんな家庭でも起こりうるトラブルが早く顕在化しやすいという面があります。今までは「この人、なんとなく窮屈だな」って思うくらいで、スルーしていたかもしれない。でも、子どもの障害によって夫婦で向き合うべきことが増えて、問題が浮かびあがってしまったわけ。新しく問題が増えたわけではなく、もともとあった夫婦問題が表面化しただけのことです。―― そうすると「子どもの問題どうするの?」という話ではなく、「夫婦関係どうするの?」という話になってきますね。佐藤さん: 事実として、発達障害の子育てで大変なことはあります。ただ、それを取り巻く環境、例えば、自分とどう向き合うかとか、旦那とどう向き合うかとか、義理両親とどう向き合うかとか、学校の先生とどう向き合うかとか、問題にしなくてもいいことも問題にしてしまっている方が多いと思う。表面に出てくる問題と問題の原因をごちゃ混ぜにしてはいけない。だから、僕はいつも、うちに通っている親には言っています。「今、目の前にある課題を客観的に適正評価しましょう」と。今回、佐藤さんのお話を通して、改めて「笑い飛ばすことの強さ」に気づかされた。「笑いにするなんて不謹慎だ」と感じられる方もいるかもしれない。でも、そうできるのは、何より、佐藤さんご自身が息子さんと放課後デイに通う子どもたちの障害をまるごと受け止めて、受容しているからこそ。笑い飛ばせる強さや、たとえ誰に何と言われようとも負けない強さを、佐藤さんのお話を通して、ほんの少しだけもらえた気がした。次回、最終回は「発達障害の子育てを楽しくするコツ」について伺います。取材・文・撮影/まちとこ出版社
2017年02月15日・ 【第1回】発達障害の子育てに「療育」よりも大切なこと のつづきです。わが子の発達が気になり、「もしかしてうちの子は発達障害なのでは?」と不安に思ったことがあるかもしれない。発達障害をもっと理解するために必要なことを、『療育なんかいらない!』の著者であり、独自の理論で放課後デイサービスを展開する「アイム」の佐藤典雅さんにインタビュー。今回も引き続き、「療育よりも大切なもの」についてお話を伺った。佐藤典雅(さとう・のりまさ)さん川崎市で発達障害の子どもをサポートする放課後デイサービス「アインシュタイン放課後」「エジソン放課後」を運営している、(株)アイムの代表。自身の自閉症の息子さんの療育のために、息子さんが4歳の時に渡米して、ロサンゼルスで9年間過ごす。前職は、ヤフー・ジャパンのマーケティング、東京ガールズコレクションとキットソンのプロデューサーという異色の経歴の持ち主。福祉という範囲を超えた目線で、自身の息子さんの成長を見守りながら、発達障害児が社会で幸せに生きるための道を広げる挑戦をしている。著書: 『療育なんかいらない!』 (佐藤典雅・著/小学館 ¥1,296 税込)※放課後デイサービス(= 放課後デイ):6~18歳までの障害のある子どもが放課後や学校休業日に利用できる、就学時向けの福祉サービスのこと。■いろいろなものに肌で感じる接点を持たせること―― 引き続き、佐藤さんが発達障害の子育てにおいて、療育よりも大切だと感じていることについて伺いたいと思います。佐藤典雅さん(以下、佐藤さん):いろいろなものに接点を持たせることだと思っています。「こんな場所があるんだ」「こういう大人もいるんだ」と、肌で感じさせること。それ自体がその子の人生を変えるわけではありませんが、肌で感じることの重要性はあると思っています。だから、うちは遠足でアップルストアとかに連れて行ったりしています。―― それは楽しそうですね! でも、子どもたちの高価な電子機器の扱いに不安はありませんでしたか?佐藤さん: それが、スタッフの心配をよそに、みんなちゃんとテーブルについて、iPadが配られると指示に従って操作していたんですよ! 普段教室ではみんな全然人の指示を聞かないのに(笑)。これには本当に驚きました。アップルストアも発達障害の子を受け入れるのは初めてだったらしいけど、「普通の子たちとまったく変わらないペースで体験プログラムができましたよ」って喜んでいました。―― 発達障害があってもなくても、子どもはみんなiPadやスマホをいじるのが大好きですよね。佐藤さん: 僕は、障害者だろうが健常者だろうが、子どもの頃から電子機器にどんどん触わらせるべきだと思っています。これからの世の中、仕事をするときにPCスキルがないことは致命的。だから、うちは電子機器がすごく充実しています。パソコンが8台にiPadも数台、それに最新のVRも。子どもたちがVRのゴーグルとつけると、みんな大興奮して遊んでいますよ。―― でも、子どもが電子機器やゲームに夢中になることに、否定的なお母さんも少なくないように思いますが?佐藤さん: うちに通っている親にも、子どもにパソコンやiPadをやらせることを嫌がるお母さんはいますよ。でも、そういうお母さんには、いつも「ビルゲイツが1日30分しかパソコンさわっていなかったら、マイクロソフトを作っていませんよ」と言っています。昔、「漫画を読むとバカになる」とか「ビートルズを聴くと不良になる」などということも言われていたけど、それと同じで、どの時代にも常に新しいものに対するアレルギーはあるものなんです。―― 私も息子を見ていて、電子機器との相性の良さを感じています。「いつどうやって覚えたの?」とビックリするほどiPadやスマホをスラスラと操っていたり、勝手に新しい知識を仕入れてきたり。でも、一人でiPadに没頭している姿を見ていると、ちょっと不安を覚えてしまうことも。やはり、子ども同士で交流を持って遊んでほしいという願望が湧いてしまうのですが(苦笑)。佐藤さん: うちに通う親からも、よく「同じ年頃の子どもと交流させたい」って言われるんだけど、うちの子たちにWiiを与えると、同世代の子たちが集まって遊びますよ。しかも、誰にも言われなくても、ちゃんと順番とルールも守って(笑)。それに、NHKスペシャルで東田直樹君(※)も言ってたじゃない?「大人は友達作れって言うけど、僕、いなくても幸せです」って。うちに通っている子どもたちも、一緒に遊んだりしなくても友達の名前は憶えているし、だいたい一緒にいるのが嫌だったら違う部屋に逃げるから。遊んでいないから交流してないというわけではない。それは、全部大人の既成概念の押しつけなんですよ。 ■子どもの将来を心配する前に、まず目の前のことに全力で取り組もう。―― その子なりの距離感があるはずだし、友達の定義だって人それぞれ違うはずですものね。自分の既成概念の枠の中で子どものことを見てしまう、この癖は意識して外す努力をした方がよさそうですね(苦笑)佐藤さん: 僕が放課後デイをやるようになって感じるのは、やればやるほど、日常の積み重ねでしかないということ。日々のトライ&エラーです。でも、僕は、小さいことの積み重ねが大きな奇跡を起こすと思っています。みんな、「ここの療育に通っていれば良くなる」って大きな奇跡を期待するけど、そんなのはない。いろいろやってきて、1年間振り返った時、「あれ? なんか最近言葉が増えた?」というふうに、奇跡って振り返って実感するものだと思っています。―― 発達障害の子どもも、スピードはゆっくりだけど成長します。今の子どもの姿がすべてではない。……でも、頭ではわかっているはずなのに、先のことばかり考えて不安になってしまうときも(苦笑)。佐藤さん: 子どもの将来に対して、そりゃ、僕だって不安はありますよ。でも、わからないこと悩んだって仕方ないでしょう? それは、独身の女性が「将来の私の旦那さんは……」って言っているのと同じだよね(笑)。人生には順序があって、AをクリアしなければBはこないんですよ。それをすっとばしてZのことを考えても仕方ない。まず、目の前のことをしっかり考えましょうよ!―― 先のことがわからないのは、発達障害の子育ても普通の子育ても一緒ですね。佐藤さん: そうです。親は、今自分の子どもには何ができるか? 何だったら期待していいか、また期待できないか? しっかり精査すること。例えば、動物が好きだったら動物図鑑をそろえてあげたり、パソコンが好きだったらある程度の環境設定をしてあげたり、その子が興味を持っている環境をそろえて、その子の進歩を促すことが大事だと思います。―― がっちゃんはもうすぐ高校生ですよね? 息子さんのために、今、佐藤さんが取り組んでいる目の前の課題は何ですか?佐藤さん: 僕は、アメリカから帰国した時、がっちゃんを通わせたいと思える施設がなかったから、自分で作ろうと思って、たまたま放課後デイから事業を始めました。だから、うちの子の成長に合わせて、フリースクールや就労支援の事業も計画しています。今年の4月には、フリースクールもオープンしますよ!―― 常に、息子さんが充実した人生を送るにはどうしたらいいのか、ということを考えて行動している、佐藤さん。その行動力、見習いたいものです!佐藤さん: 今は、普通に就職することが難しい子たちに対して、その受け皿は就労支援という一つしかない。だったら、うちでその受け皿も作ろう!と。もっと儲かりながら楽しい就労支援を計画しています。―― 確かに、今の就労支援で得られる報酬はほんのわずかです。このシステムでは障害者の自立は難しい……。佐藤さん: みんな、福祉は感動とか想いだと思っている。でも、そんなのは働き手の都合であって、僕は、福祉で一番重要なのはシステムだと思っています。例えば、駅で車いすの人が電車に乗りやすいように、エレベーターをつける。このエレベーターというのはシステム。やった人の感動や気分の問題ではないんです。社会の多くの一般の人と障害を持っている人とのギャップを埋めるシステムをどうやって福祉で作っていくか、そこを考えていきたい。発達障害と就労支援はとても難しいテーマだ、という佐藤さん。でも、もうすでに、具体的な就労支援の計画を3つも持っていた!(ただし、計画段階なのでまだ記事にはできません)ぜひ、この難題に対する答えを開拓し続けてほしいと思う。次回、第3回は、「発達障害の子育てにおいての親の心の持ち方」についてお伺いします。※東田直樹くん 「自閉症の僕が跳びはねる理由」 (エスコアール)や絵本、詩集など多数執筆。2016年12月11日(日)のNHKスペシャル「自閉症のきみがおしえてくれたこと」で出演されました。取材・文・撮影/まちとこ出版社
2017年02月13日最近、モデルで俳優の栗原類さんが自ら発達障害の告白を行うなど、テレビや新聞、インターネットで、発達障害のことがよく取り上げられるようになった。そんな中、自分の子の発達に気になることがあり、「もしかして発達障害なのでは?」と不安に思ったり、すでに診断を受けたりして、この記事をクリックした人もいるのかもしれない。わが子が発達障害と診断された場合、親が、まずはじめることは療育だ。だが、ほとんどの親は、そもそも療育という言葉すら、その時になって初めて聞くことが多いのではないだろうか?そこで今回は、『療育なんかいらない!』の著者であり、独自の理論で放課後デイサービスを展開する「アイム」の佐藤典雅さんにインタビュー。発達障害をもっと理解するために必要なことを、経験談を交えて語ってくれた。佐藤典雅(さとう・のりまさ)さん川崎市で発達障害の子どもをサポートする放課後デイサービス「アインシュタイン放課後」「エジソン放課後」を運営している、(株)アイムの代表。自身の自閉症の息子さんの療育のために、息子さんが4歳の時に渡米して、ロサンゼルスで9年間過ごす。前職は、ヤフー・ジャパンのマーケティング、東京ガールズコレクションとキットソンのプロデューサーという異色の経歴の持ち主。福祉という範囲を超えた目線で、自身の息子さんの成長を見守りながら、発達障害児が社会で幸せに生きるための道を広げる挑戦をしている。著書: 『療育なんかいらない!』 (佐藤典雅・著/小学館 ¥1,296 税込)※放課後デイサービス(= 放課後デイ):6~18歳までの障害のある子どもが放課後や学校休業日に利用できる、就学時向けの福祉サービスのこと。■わが子が「発達障害」だと診断されたとき筆者の息子が自閉症スペクトラムと診断された時も、そうであった。療育の意味もよくわからないまま、「とにかく早期療育が大事」「ABA(応用行動分析学)が効果的」などと初めての情報に右往左往し、診断を受けたばかりの混乱の中、さまざまな焦りと戦いながら模索していた。そして、療育に通いはじめてからは「2歳から始めたんだから大丈夫」などという周囲の言葉に、療育に過剰な期待を持ってしまったり、療育での子どもの出来に一喜一憂してストレスを抱えてしまった苦い経験がある。だからこそ、『療育なんかいらない!』というタイトル本はとても目を引いた。しかも、著者の佐藤さんは、本場アメリカで息子さんの療育を9年間も受けてきた人だ。取材を申し込まずにはいられなかった。■「発達障害」を、ありのままを受け入れる場所を作ろう―― 佐藤さんは、自身の息子さんの自閉症の療育のために、家族でロサンゼルスに引っ越して、9年間も本格的な療育を受けています。それなのに、なぜ「療育なんかいらない」という考えに至ったのでしょうか?佐藤典雅さん(以下、佐藤さん): 息子のがっちゃんが3歳児検診で「自閉症傾向」と診断された時、僕は自閉症も療育もほとんど予備知識がありませんでした。そこで、調べていくうちに、ロサンゼルスがもっとも療育対策が進んでいるらしいということが分かったので、家族で引っ越すことに決めました。―― ロサンゼルスの療育はいかがでしたか?佐藤さん: 最初の頃は、しっかりした療育を受ければ、がっちゃんの問題行動が改善するのでは? と期待していたんだけど、がっちゃんの問題行動は一向になおらず(笑)。その様子を見て、療育とは問題行動を改善するものではないと気づいたのです。―― そこで、目標設定を変えることにしたんですね。佐藤さん: 療育によって問題行動が変わることを期待するのではなく、「わが子にとって適切な環境とは何か?」を考えるようになりました。そして、もし療育が発達障害を治すものでないならば、自身の放課後デイで療育を提供すべきではない、との結論に至りました。―― 放課後デイで療育を行うのは、もはや常識となっています。療育なしの放課後デイとは、かなり思い切った決断ですね。佐藤さん: 放課後デイを設立中、面談に訪れる高学年以上の子どもをもつ親から、「療育ではなく、この子の居場所を探しています」という言葉をよく聞くようになったのも後押しになりました。―― わが子の行動を改善する場所よりも、わが子が安心していられる居場所を求める親が多かった、ということでしょうか。佐藤さん: 子どもが小さいうちは、その子の実力や可能性が見えにくいから、親は療育に期待しがちです。さらに、今は「早期療育」の大切さが力説されているので、特に親は熱心に療育する傾向がある。―― お子さんの年齢が上がると、変わってきますか?佐藤さん: 子どもの年齢が上がるにつれて、だんだんとその子が持つ本来の力がみえてきます。そして、ある時、それは療育の問題ではない、ということに気づくのだと思います。―― 療育では解決しない部分がある、ということに気がつくと。佐藤さん: そうです。すると、次の段階として、その子のありのままを受け入れてもらえる環境が必要となる。そこで、「アイム」の放課後デイでは、発達障害のままを受け入れてくれる居場所を作ろうと思いました。そして、子どもたちが自分自身でいられる環境を、自分の感情を表現したり、引き出したりできるプログラムを用意しようと考えました。―― それでは、アメリカでの療育生活はどのような意味があったと思いますか? 佐藤さん: 一番意味があったのは、人との関りです。がっちゃんも療育で大好きなセラピストたちと時間を過ごすことを、とても楽しんでいました。そこで私は、「アイム」の放課後デイでは療育プログラムではなく、人との関わりを提供すべきだと思いました。だから、うちの採用基準は厳しいですよ(笑)。第一条件は、子どもたちから好かれるということ。どんなに人手不足でも、子どもたちと合わない人は採用しません!■療育はほどほどに。―― 私自身は息子の療育を経験して、やはり良かったと感じています。確かに、「とにかく療育でなんとかしなければ」とストレスを感じていた頃もありましたが、今では楽しい遊び場のひとつとして、そして日々の生活で困っていることなどを専門の先生に相談してアドバイスを受けられる場として、とても心強いと感じています。佐藤さん: もちろん、僕も療育のことを全否定しているわけではありません。ただ、今の療育は子どものためというより、親が納得するためにあるように感じてならないのです。療育に熱心なお母さんが一番よく言うのは、「後になって、あれをやればよかった」っていう後悔をしたくない、ということ。また、「早ければ早いほど良い」とか「どんなに遅くても4歳までに始めないと手遅れだ」などとせかされて、本来親を救うべき療育そのものが、逆に親を追い込み、療育に効果を求めるあまり、親も子どもも多大なストレスにさらされているように思えてならないのです。―― 確かに、「療育で子どもが良くなる」と過度な期待を寄せてしまうと、子どもが変わらない場合、まるで子どもと親の努力不足のように感じてしまいそうです。また、他人から「療育のおかげで成長した」などという話を聞くと、つい、わが子も療育さえ受ければ同じように伸びると思ってしまいがちですね。だけど、他の子が伸びたからといって、自分の子どもも同じようになるとは限らない。その子が持つ力も個性も障害の程度も、それぞれに違うから。佐藤さん: 僕は、人のキャパシティっていうのは子ども一人一人によって違い、療育を受ける受けないにかかわらず、それぞれの能力が伸びる器のサイズに左右されると思っています。つまり、どれだけ療育を施したところで、その効果はその子が持っている上限値を超えることはない、とういこと。―― どういうことでしょうか?佐藤さん: どんなにかけっこをがんばっても、全員がオリンピックに出られるほど早くはなれないでしょう? それと同じことです。親が、子どもが持っているキャパシティ以上の効果を療育に求めてしまうと、子どもにも親にも多大なストレスがかかってしまう。そして、本来大切なところ、「いかに人生を楽しく生きるか」ということに目がいかなくなってしまう危険がある。だから、僕は、療育はほどほどがいいと思っているんです。―― もし、佐藤さんがもう一度子育てするとしたら、もう療育はしないのでしょうか?佐藤さん: やってみて、はじめて「ああ、無理だった」ってことがわかったので、多分、何もしないのは難しいと思います。ただ、療育をするなら、2つ条件があります。―― 佐藤さんの経験から編み出した条件ですね。今悩んでいるお母さんたちにぜひお聞かせください。佐藤さん: まずひとつは、その子のストレスにならないこと。もうひとつは、家庭の金銭負担にならないこと。子どもが楽しく療育に通って、親も負担にならないならいいと思います。でも、子どもが泣いて嫌がったり、親が必死になってやるようなものじゃない。■「普通」って何だろう?―― 療育で、親は子どもの自閉行動や問題行動が良くなり、「普通」になることを期待しますよね。だけど、そもそも「普通」って何でしょうね?「私は、この子にどうなってほしいのだろうか?」そう考えると、答えに詰まってしまう時があります。 佐藤さん: 僕は、もし療育で自閉症を治したいという人がいるなら、「自閉症の何を治すんだ?」って聞きたい。―― 自閉症は治す、という種のものではないということですね。佐藤さん: それって、本人の認識、認知を変えちゃうってことですよ?「そもそも人を形成している人格って何ですか?」というレベルの話なんですよ。「何をもってあなたなんですか?」って、すごく難しい問いじゃない?放課後デイで発達障害の問題に取り組んでから、「人って何なんだろう?」ってよく考えるようになりました。発達障害ってものすごく難しいテーマだよね。佐藤さんのお話を聞いて、発達障害の子育てを描いたコミックエッセイ『母親やめてもいいですか』(山口かこ・文/文春文庫)に書かれていた、ジム・シンクレアという自閉症当事者によって書かれた詩のような一節を思い出した。自閉症は人を閉じ込める殻ではありません中に普通の子どもが隠れているわけではないのです自閉症は私が私であること、そのもの私という人格から切り離すことはできません出典: コミックエッセイ『母親やめてもいいですか』(山口かこ・文/文春文庫) 「子どもの力をできるだけ伸ばしてあげたい」―― そう思うのは、親として当然だ。ただ、「普通に近づけたい」とがんじがらめにならず、子どもをありのままに受け入れ、その子にとって居心地のいい場所を作ってあげることの大切さも、改めて思い知った。次回は、「発達障害の子育てで、療育よりも大切なことは?」を伺います。取材・文・撮影/まちとこ出版社
2017年02月10日