取材・文:瑞姫撮影:洞澤佐智子編集:松岡紘子/マイナビウーマン編集部スタイリスト:中井綾子/crêpeヘアメイク:犬木愛/Ai Inuki人生を変えるひとつの大きな要素に、“環境”がある。環境を変えることは、これまで自分が身を置いていた安定した生活から離れ、未知なる別の世界に飛び込むことだ。それは時に勇気のいることだったり、不安なことだったりする。けれど、その大きな決断によって、これまでにない新たな視点を得ることができるし、自分の人生観を見つめなおすきっかけにもなる。そして、新たな人や場所との出会いにもつながるだろう。女優であり、3児の母でもある杏さんも、2022年の夏に日本とフランス・パリの二拠点生活を始めるという人生で“大きな決断”をした1人。現在は日本とパリを行き来しながら生活を送っている。そんな彼女の移住前最後の作品となったのが、映画『かくしごと』。この作品もまた、環境を変えることで思いも寄らない変化が訪れたことを描く、ヒューマン・ミステリーだ。映画の中で演じた千紗子について、そして杏さんのフランス・パリでの生活で感じた変化や新たな発見について、杏さんにとって“環境を変えること”とは何か、聞いた。■映画『かくしごと』が描く“おとぎ話のような世界”映画は、杏さん演じる絵本作家の千紗子が、長年絶縁状態にあった父・孝蔵(奥田瑛二)の認知症の介護のため、渋々田舎に戻るところから始まる。他人のような父親との同居に辟易する日々を送っていたある日、事故で記憶を失ってしまった少年(中須翔真)を助けた千紗子が彼の身体に虐待の痕を見つけたことから、物語は思いも寄らない方向へと進んでいく。少年を守るため、自分が母親だと嘘をつき、少年と一緒に暮らし始めた千紗子。次第に心を通わせ、新しい家族のかたちを育んでいく3人。しかし、その幸せな生活は長くは続かない。物語が進むにつれ、ひとつの“嘘”をきっかけに、それぞれの“かくしごと”が明らかになっていくが、最後は予想し得ないラストで締めくくられる。台本を最初に読んだ時、杏さんは「現代のおとぎ話みたい」と率直に思ったそう。そのことについて杏さんは「なかなかできないことを行動に移して、束の間かもしれないけれども、本当の幸せを体現できるというのが、おとぎ話みたいなんですよね」と説明する。「不自然かもしれないけれども、確かにそこに本当のものを一瞬でもいいから作りたかったっていう、本当に自分の中のエリアというか箱庭を作っていくかのように、社会からは隔絶された自分の空間を作り上げたというのは、もし私が同じ状況になってもできるか分からないなと思いました。できるか分からない、というのは、本当に映画を観たみなさんが一人一人考えることなんだと思います」この作品は、愛について、自分の中の正義について考えさせられる作品のように思う。作中で演じた千紗子について杏さんは「違う人格」だと話すが、限りなく千紗子の考えに寄り添う理解の深さは、この作品へ向き合って来た杏さんのすごさを感じずにはいられない。「感情がすごく揺れ動いて疲れることもありました。つらいシーンもたくさんあったので、その感情に揺さぶられていたらその日の撮影が終わっていた、ということも多かったように思います。2日に一度くらいのペースで泣いていたので、結構大変な現場でしたね」作品について「箱庭の中の、花が枯れるまでのおとぎ話」だと表現し、「きっと長くは持たなかった」と話す杏さん。その美しくも儚い表現に、作品を思い出してはグッと胸が締めつけられる。千紗子の行動は、法の下では許される行為ではなかったかもしれない。しかし、少年にとって安らかな場所を提供するために、自らの環境はおろか、境遇さえも変えてしまう。善悪の判断はそれぞれに委ねられるが、この作品で描かれている千紗子は、環境を変えることに対して、そうした“強かな心”を持っている。■「おおむね面白く生きてます」パリで暮らすもう1人の自分映画で千紗子が田舎に戻ってきたことで思いもよらない変化が訪れたように、環境を変えることは、人生を大きく変えることだ。あらためて、杏さんに日本とパリの二拠点生活に、不安などはなかったのかと問うと、意外な答えが返ってきた。「多くの人が入学や就職をはじめとする引っ越しで環境が変わる経験があったかと思うんですが、私は今まで東京から出たことがなかったんです。だからそういった意味では、一般的に多くの方が18歳くらいで経験してきたことが、逆に私は今、初めてで。パリは仕事や旅行で何度も訪れているので“知っている街”ではあるものの、自分がこれまで住んでいた場所とは全く違うところで生活を始めるというのは、すごくわくわくしました。もちろん大変なこともあるんですけど、おおむね面白く生きてます」環境が変わることを、ポジティブに捉える人、ネガティブに捉える人がいる。しかしそれは、人の受け取り方の問題で、いくらでも前向きに変換できることなのかもしれない。杏さんはパリに来てからの変化を「自分がもう1人増えたみたい」と説明してくれた。「日本の自分と、フランスの自分がいる感覚。人格が変わったりはしないけれど、生活習慣は変わります。日本に帰ってくるとバリバリ仕事をして、パッパと段取りしてって感じですけど、パリでは日本と同じようにはできないこともあるので、のんびりと過ごしていることも多いですね。2つになったことで、良い刺激もあるし、安らぎもあるし、それはすごく自分にとっても良い変化だなって思います」日本の便利さとは違う、パリでの少しの不便さも、「やっぱり根本的に全然違うっていうのが面白い」と新たな発見と捉える杏さん。マイナスに感じがちな部分に対しても感情的になるのではなく、ひとつの価値観や生活習慣として自分の中に消化して楽しむことは、どんな環境の変化においても大切なことのように感じた。■時間の使い方で見つけた“パリの新たなメリット”日本とパリを比べた時、仕事と休みのバランスに対して異なる考え方を持っていることは、日本に住む私たちも何となく感じる部分がある。そこで、環境の変化は杏さんの“時間の使い方”にどんな影響を与えたのか聞いてみると、またしてもポジティブな答えが返ってきた。「フランスはバカンスが多いので、子どもの学校が半月ぐらい休みになることが年に何回もあるんです。その期間は自分の仕事も控えめにして子どもと過ごすようにしているんですが、そのおかげもあって、圧倒的にメリハリが生まれました。マッサージなどの自分の時間も、人と会う時間も取りやすくなりました」まさに環境を変えたからこそ出会うことができた、新たなメリットだ。とはいえ、大きなバカンスの連続に、戸惑いはなかったのだろうか。「今までにない休みの多さに過ごし方に悩むこともありますが、休みだと言われることって、ある意味ありがたくって。休みじゃなかったら行かなかった場所にも行けるので、ありがたいなと感じています」自分では制御のできない“休み”だからこそ、ゆっくり休んだり新しい体験をしたり、今まで考えもしなかったことに時間を使うことができるようになる。そして、それを“新たなメリット”として前向きに捉える杏さんだからこそ、その時間を有効に使うことができているように感じた。インタビュー中、杏さんは日本とパリ、両方のメリットを話してくれたものの、どちらに対しても後ろ向きな意見は語らなかった。それはきっと、杏さん自身がどちらのメリットも理解し、享受しているからなのかもしれないと思った。私たちが環境の変化に直面した場合、どうしても今までと違う部分や、不便になったところばかりに目が向いてしまう。しかし、杏さんのように前向きに“新たな発見”と捉えることで、そのマイナスな思いさえ、自分の中で形を変えてくれる気がした。映画『かくしごと』その嘘は、罪か、愛か ― 心揺さぶるヒューマン・ミステリーの誕生長年確執のあった父親の認知症の介護のため、田舎へ戻った主人公・千紗子は、ある日、事故で記憶を失った少年を助ける。少年に虐待の痕を見つけた千紗子は、少年を守るため、自分が母親だと嘘をつき、一緒に暮らし始める。ひとつの嘘から始まった疑似親子はやがて、本物の親子のようになっていくが、そんな幸せは長くは続かなかった――。2024年6月7日(金)全国ロードショー(C)2024「かくしごと」製作委員会
2024年05月31日取材・文:ameri撮影:大嶋千尋編集:鈴木麻葉/マイナビウーマン編集部どんな瞬間を切り取ってもかわいらしく、女性たちが憧れる人生を送っている唯一無二の存在。ライフスタイルブランド「Her lip to」の運営をする株式会社heart relationの創業者・代表取締役CCOを務める小嶋陽菜さんだ。2017年にアイドルグループ・AKB48を卒業してから1年後にブランドをローンチ。グループ在籍中は“神7”の一員として人気を集め、卒業後は会社を経営し、“社長”としてさらに活躍の場を広げている。今回は、そんな彼女の人生観を深掘りしてきた。■ブランドローンチからは「密度の高い、すごく刺激的な5年間」2018年にブランドをローンチし、2020年に会社を設立、2022年にコンセプトストアをオープンと順調に見える5年間を振り返り、小嶋さんは「本当に密度の高い、すごく刺激的な5年間でした」と語る。しかし、「まさかこんな規模になるとは思っていなくて……」とも話す。「最初は、自分の好きなものを少し作って、ファンの方にシェアできたらいいなと思いスタートしたので、大きなアパレルブランドを作りたいとか会社を創りたいとかも当時は全くなく。なので、こうなるとは思っていませんでした」彼女にとっても予想外の5年間だったそう。そして、表面上はきらびやかで華やかに見えるものの、彼女は「毎日が大変でした」と振り返る。「初期は芸能事務所のマネージャーを含めた2〜3人で運営していたので、本当に人がいなかったんです。でも、どんどんお客様の数や期待が大きくなってきたので、このままでは期待に応えることが難しいということで、メンバーを集めるために会社を設立しました。設立してからも毎日大変で、華やかな裏側では泥くさくいろいろなことを自分でやっています」■大切にしているのは「決めたことをやり切って正解にしていくこと」「会社を作ったことが大きかった」とターニングポイントを挙げた小嶋さん。「まさか社長になるなんて思っていませんでしたね。社長になりたいと思っていたわけではなく、お客様に求められていることを実現するためには専門的な知識を持つメンバーが必要。そのためには会社を作り、自分が中心となって人を集めることが必要でした。期待に応えたい、より良いものをお届けしたいという思いが自然につながったことではあるんですけど、そこが環境やブランドが変わった大きなポイントだったかなと思います」と話す。トップに立つ人間は特に、さまざまなことを自分で決めていかなくてはならない。彼女はどんな軸で決断をしているのだろう。「決め切る、やり切ることかなと思います。自信のない人には周りはついてこないし、『自分で決めてこういう結果が出た』という実績を、小さいものから大きいものまで自分で貯めていくことが大事だな、と。答えが分からないこともいっぱいあるけど、決めたことをやる。やり切って正解にしていく、みたいな」芸能界、そして社長業と、荒波の多い世界を生き抜いてきた彼女だからこその強い信念を教えてくれた。■悩んでいる友人には「成功体験を積み上げる」アドバイスをしかし、彼女のようにブレない意思を持って突き進める人は多くないだろう。私たちはいつも、ちょっとしたことで立ち止まったり、迷ったりしている。柔らかながら強い芯を持つ小嶋さんに「もし周りに悩んでいる友人や会社のメンバーがいたら、どんな声をかけますか?」と尋ねてみた。すると「一番身近に、峯岸みなみっていう友達がいるんですけど……」と実体験を明かしてくれた。「昔から『これってにゃんにゃん(小嶋さんの愛称)が決めたの?』『なんで決められたの?』と聞いてくるんですけど、『一回自分で決めてそれを成功させるっていう、成功体験を積み上げるといいよ』と昔から伝えていて。そんな彼女が自分の卒業コンサートを自分で全部プロデュースして。それがファンの方にとても好評だったみたいなんです。その時に『やっと言っている意味が分かった』と話していました」説得力のある言葉に、思わず大きく頷かずにはいられない。■“セルフラブ”な生き方がブランドのベースにそして、そんな小嶋さんが大切にしているのは“セルフラブ”な生き方だという。では、具体的にどんなことをしているのだろうか。「私自身は、職業柄もありますが自分を知ることや自分を大切にすることを一番大事にしています。ですが、周りにいる女の子やSNSを見ていると、自己肯定感が低い人が多く『もったいない』『もっと自分を大切にしてほしい』と感じることがあります。“Her lip toのドレスを着て誰かに褒められて自信がついた”とか、“毎日が特別になった”というのもセルフラブにつながると思いますし、Her lip toのプロダクトを通して少しでも自己肯定感を高められたら 、セルフラブが身近になり、より人生が豊かになるのではないかと思ってもの作りをしています」“セルフラブ”を大事にすることが、彼女のブランドへの思いとつながっていたのだ。■オフィシャルブックのこだわりを明かす6月28日に、ブランド初のオフィシャルブックとなる『Her lip to 5th Anniversary Book』を発売。付録とは思えないハイクオリティのバッグ、バニティポーチに全40ページにわたる誌面と、見応えが抜群だ。「アニバーサリーなので特別なことがしたいな、ということで実現しました。こういうのはやはり付録が話題になるけれど、付録だけではなく全体でHer lip toのブランドを感じてほしいと思い、本は別冊にして、本だけでも読み応えのある、ブランドを振り返れるものにしました」ブランド設立から5年間の歩みやロングインタビューなど、さまざまなこだわりが詰まっている中でも、彼女のお気に入りは過去のビジュアルが並んだページ。「ECブランドに留まらないクリエイティブにしたいというのは初期から思っていました。アートブックのような、写真集のようなものを毎回撮影していて、それを年代ごとに並べたページになっています。『あの時こうだったな』と自分もお客様も振り返られるところがお気に入りです」■「反応をもらうこと、うれしい声を聞くことが原動力」仕事にプライベートに突き進んでいる彼女。女性にとってのミューズになっているといえるだろう。では、仕事もプライベートも頑張れる原動力は何なのだろうか。「見てくださる方がいて反応をもらうこと、うれしい声を聞くことが原動力です。アイドル時代も、ファンの方が反応してくれて『あ、これが好きなんだ。じゃあもっとやりたいな』と思っていましたし、今は形は違いますが、やっていることや感じていることは一緒かなと思います」「今も、お客様からお洋服を着て誰かに褒められてうれしかったという声や、旅がより良くなったという声を聞くのがうれしいですし 、会社のメンバーには、その人のキャリアに何か大きいインパクトを与えられたと感じられることが原動力になっています」そんな彼女にこれから楽しみにしていることを聞いてみた。「会社のことで言うと、日々が明るくなるような、豊かになることをお客様にお届けすることを軸に、いろいろな変化をしていけたらと思います。あとは、たくさんのメンバーがいるので、社員に楽しく長く続けてもらえるような環境作りや、その人のキャリアに繋がる価値を提供できたらいいな」そして、社長としての目標とともに、個人的にやりたいことも明かしてくれた。「個人的にはインプットの時間を増やしたいと思っています。コロナ禍でなかなか外に出ることが出来ずにずっとデリバリーばかり食べていたので(笑)、予約の取れないお店に行ったり、海外にいっぱい旅行したりしたいです!」自分のことを大切にしながら、応援してくれている人の期待にも応え続ける。小嶋さんが当たり前のように話してくれたことは、簡単なことではないだろう。そんな簡単ではないことを、まっすぐな目で語れる人柄に、多くの人が惚れこんだのだと気づく。彼女がファンのことを思い続ける限り、ファンは彼女を思い続け、これからも“小嶋陽菜”は、女性たちのミューズとして君臨し続けるだろう。『Her lip to 5th Anniversary Book』(宝島社)Her lip toの5周年を記念して作られたブランド初のオフィシャルブック。特別アイテムには、プロデューサー小嶋陽菜さんが監修した「One Handle Bag」と「Vanity Pouch」の2種を展開でお届け。
2023年07月21日