LGBTという言葉自体は聞いたことがあるけれど、あまり身近でないという方も、まだまだ多いかと思います。LGBTへの偏見は強く、実は当事者だけどカミングアウトしていないのだという人が、あなたの近くにいるかもしれません。ゲイ当事者であり、職場でそのことをカミングアウトしたというはじめさんにお話をうかがいました。LGBT関連の話は、決して遠い世界の出来事ではないということをお伝えできればと思います。マイノリティだからといって間違っているわけではない…学生時代のボーイフレンドからの影響【多様な性、LGBTの世界】vol. 10僕自身、ゲイだと自認した時期は早かったと記憶しています。しかし、ゲイ当事者であることに否定的だった面もありました。大学への進学で上京後、週末に新宿二丁目(ゲイ・タウンとしても知られています)へ足を運んでいました。普段はゲイであることを隠し、週末だけ本当の自分を出せる場に行っていたのです。そんななか、初めてのボーイフレンドができました。彼はアメリカ人の留学生で、僕とは違った価値観を持っていました。彼は、「LGBT当事者だからといって、マイノリティだからといって、間違っているわけではない」という考え方でした。僕は納得し、自分のセクシュアリティを肯定的に捉えられるように。そして、LGBTをより可視化していきたいという思いも芽生え、ゲイサークル設立や大学生向けのイベント開催などをしました。そこで出会ったのは、テレビなどで見るようなキャラクターとは違って、今まで話してきたクラスメイトのような、LGBT当事者でない人と何も変わらない人たちでした。当時、1990年代後半の話です。不本意なアウティングと、ポジティブなカミングアウトそれから社会人になり、都内のクリエイティブエージェンシーに勤めるようになりました。周囲の人への影響を考えて、ゲイであることは職場でカミングアウトしていませんでした。しかし、当時いたある同僚が、共通の知り合いを通じて僕がゲイであることを知ったようです。その同僚は社内でそれをアウティング(LGBTなどで、本人の了解を得ないまま公にしていない内容を暴露する行動)したのです。名指しはしなかったものの、たくさんの人がいるなかで、笑い者にするような表現でした。僕はとても悔しく、悲しい思いをしました。こうした状況が自分の働いているオフィスで許されているのを変えたいと思ったのです。月に1度、みんなの前で話をして良いという習慣がある、僕の会社。僕はそこで、LGBTの広告についてプレゼンテーションをしました。「LGBTを知っていますか?」という質問に対して挙手をしたのは8割程度でしたが、深くは知らないという人がほとんど。「僕自身ゲイですが、世界にはこうしたLGBTに関する広告があります」と、世界のLGBT広告の動向を伝えるとともに、ゲイ当事者であることをカミングアウトしたのです。10分程度のプレゼンテーションでしたが、資料が欲しいと言ってくれる人や、これまでの発表で一番良かったと言ってくれる人もいました。僕は、雰囲気が変わったなと感じました。カミングアウトしたことで、同僚とより打ち解けて話せるようになり、クリエイティビティも上がったと実感しています。風通しも良くなり、広告にLGBTカップルを入れるなど、今までできなかったことにもチャレンジできるように。2016年には、LGBTに関する広告を制作して海外の賞を受賞しました。マイノリティが元気だと会社も元気になると考えています。自分らしくいられることが、あらゆる発想の原動力にもなり得るのです。アウティングされたことは不本意でしたが、結果としてポジティブな方向に進みました。僕の経験は、カミングアウトしたことで、自分自身と仲間が前向きになれた一例だと思います。カミングアウトは信頼の証。僕が伝えていきたいことLGBT当事者のなかには、辛い思いをしている人もいるかと思います。特に地方だと、LGBTがほとんど認識されておらず、孤立しやすい場合も多いと危惧しています。僕は思いを伝えたいから広告業界にいます。LGBT関係の広告を見たときに、辛い思いをしている人が希望を持てたらという気持ちもあります。特に子どもはいじめに遭ってしまうこともあるかと思いますが、仕事を通して明るい未来を伝えていきたいです。当事者かもしれないという人が身近にいる方は、そっと側にいてあげられる優しさを持ってもらえると嬉しいです。もしもカミングアウトされたら、それはあなたが信頼されている証です。噂を聞いてしまった場合も、その人の立場になって考えてください。その人はカミングアウトを望んでいないかもしれません。まだまだ風当たりが強いのが現実。アウティングをしないよう、相手の気持ちを考えられる優しさが必要だと思います。カミングアウトを望んでいる場合はカミングアウトできるよう、セクシュアリティをオープンにできるような環境づくりが大切です。生徒や部下、後輩など、若い世代も生きやすい社会になるよう、LGBTへの理解が深まるよう切に願っています。僕の例がそうでしたが、マイノリティを組織が受け入れると、組織自体が強くなります。誰しもに優しく、プラスになる社会になるよう、僕自身、想いを伝えていきたいと考えています。〜LGBTのバトン〜今回は、はじめさんにお話をうかがいました。次回は、LGBTが働きやすい職場づくりに尽力している、アサコさん。彼女はLGBT当事者(レズビアン)でもあります。「LGBTは外資系の話。日本企業にはいない」といわれていた数年前、伝統的な日本企業から国際色豊かな企業に転職。性的指向・性自認は個人的かつ家庭の話なだけではなく、働く上でも密接に関わってくる話だとのこと。積極的に活動しているアサコさんの視点から、「働く」という身近なことを通してLGBTをお伝えします。Information認定NPO法人グッド・エイジング・エールズ©Rawpixel/Gettyimages©PeopleImages/Gettyimages©jacoblund/Gettyimages
2018年05月22日しゅんかさんのセクシュアリティである ”パンセクシュアル”、”トランス女性” とは【多様な性、LGBTの世界】vol. 9”パンセクシュアル” と聞いてもピンとこない方もいらっしゃるかもしれません。”パン” には ”全ての” という意味があります。平たくいうと、”性別の枠を超えて人を愛する” といった意味合いです。女性が男性に、男性が女性に、といったように異性に恋愛感情を抱くのが異性愛者です。異性愛者のことを ”ストレート” と呼ぶこともあります。いっぽう、同性に対して恋愛感情を抱く方たちは同性愛者です。いわゆる、”レズビアン” や ”ゲイ” です。また、異性にも同性にも恋愛感情を抱く方もいらっしゃいます。こうした方たちは”バイセクシュアル”と呼ばれます。生物学的には ”男性” と ”女性” の2つの性で語られることが多いですが、実はこうした性は複雑です。体が女性で心が男性である方はFemale to Male(FTM)、体が男性であり心が女性である方はMale to Female(MTF)と呼ばれます。生まれた体と心の性が異なる方を、”トランスジェンダー” といいます。また、”男性でも女性でもない” と感じる方もいらっしゃり、そういった方は ”Xジェンダー” と呼ばれています。”男性”・”女性” だけでなく、こうした複雑な性の垣根を超えて全ての人を愛する立場の方が ”パンセクシュアル” です。しゅんかさんは、このパンセクシュアルにあたります。バイセクシュアルとパンセクシュアルの明確な違いについて疑問に思う方がいらっしゃるかもしれません。双方の言葉は、それぞれできた背景が異なります。しかし、大きな差はそこにありません。どちらかだと自認していればそちらのセクシュアリティであり、なかには「自分はバイセクシュアルであってもパンセクシュアルであってもどちらでも構わない」と考えている方もいらっしゃいます。自分の心と向き合って、セクシュアリティを自認しているのです。また、”トランス女性” という言葉も聞き慣れないかもしれません。トランス女性とは、前述したMTFのことで、体は男性で心は女性に生まれ、現在は女性として生きている方のことです。逆にFTMの方はトランス男性といいます。英語では "trans woman" といい、トランス女性はその直訳です。"トランスウーマン" や "トランスジェンダー女性" と呼ぶこともあります。"trans woman" は、"transgender woman" を省略してできた言葉で、LGBTの理解が深まっている国では当事者もポジティブな意味合いで使っています。日本では、セクシュアリティをトランス女性という言葉で説明する方々はまだまだ少ないでしょう。今回お話をうかがったしゅんかさんがトランス女性という言葉を使用する理由は後述します。聞き慣れないかもしれませんが、よりLGBTを知る機会になればと思います。パンセクシュアルでありトランス女性であるしゅんかさん。ここからは、彼女の体験談と思いをお話します。LGBT当事者だと自覚した大学生時代、初めてカミングアウトしたきっかけ私がハッキリとLGBT当事者だと認識したのは大学生の頃です。それまでも違和感は少しありました。例えば、体毛が濃かったり声が低かったりといった男性らしい体つきに抵抗感があったのです。しかし、大学生になるまでは、トランスジェンダーという言葉を知りませんでした。違和感がありながらも、自認する機会がなかったのです。さらに、恋愛対象に関する知識がなかったため、パンセクシュアルだという認識もありませんでした。大学生になって、トランスジェンダーという言葉を知りました。二次性徴に対する違和感があったことから、「私はトランスジェンダーなのかもしれない」と思うように。改めて幼稚園の頃の写真を眺めてみると、女の子たちと一緒に遊んでいることが多いなと感じました。当時は意識していなかったのですが、幼少時の写真や二次性徴のときに覚えた違和感からトランスジェンダーを自認しました。恋愛に関しても、それまでは女性を好きになっていたのですが、大学生になって初めて男性を好きになりました。バイセクシュアルという言葉も知り、「私はバイセクシュアルなんだ」と認識したのです。後述しますが、パンセクシュアルだと自認するようになったのは26歳のときです。この頃は、バイセクシュアルだと思っていました。LGBTについては、テレビで見かけるようなキャラクターのイメージが強く、私自身なんとなく良いイメージを持っていませんでした。父がLGBTに対してネガティブな発言をしていたこともそういったイメージを後押ししていたのかもしれません。自分がLGBT当事者だと認識したものの、それは恥ずかしいことなのではと感じてしまっていました。なかなか人に話す勇気が出ませんでした。そんなとき、叔母を通じて20年以上会っていなかった従姉妹と再会することに。再会してからとても仲良くなり、いろいろな話をしました。その会話の中で、私は自然と自分のセクシュアリティをカミングアウトしていたのです。従姉妹は偏見などを持っておらず、温かい言葉をかけてくれました。従姉妹に受け入れてもらえたことが嬉しくて、「自分らしく生きていけそう」と思えたのです。それがきっかけで、身近な人からカミングアウトしていくように。会社の人にも話し、ありがたいことに、たくさんの人が受け入れてくれました。LGBTの知識を得たきっかけ、自分自身のセクシュアリティについて周囲の人にカミングアウトしてきましたが、両親へのカミングアウトが一番勇気がいりました。そんなとき、LGBTのコミュニティに行ったことがないなと思い、そういった仲間たちが集うというカフェに足を運んでみました。そこで偶然出会ったのが、現在私もLGBT活動をしている団体「認定NPO法人グッド・エイジング・エールズ」の代表者たちだったのです。LGBTに関するさまざまな知識を聞き、「OUT IN JAPAN」という写真を通じて自身のセクシュアリティをカミングアウトするという活動も知りました。そういった話をしていくなかで、両親にカミングアウトする勇気ももらいました。さらにその日、ほかの人たちとも話をしました。そのときにパンセクシュアルという言葉を知り、まさに自分の性的指向だと思いました。”性別の枠を超える” といった意味合いが、男性・女性だけでなくトランスジェンダーなども含まれているため、自分自身を説明するのに合っている言葉だと感じたのです。それからは、自分のセクシュアリティをパンセクシュアルだと紹介しています。LGBTのなかでも、社会や当事者コミュニティからのバイセクシュアルやパンセクシュアルへの偏見は、ゲイやレズビアンに比べて強いように感じます。環境的に言いにくかったり、ときには"バイフォビア(バイセクシュアルに対して嫌悪感や恐怖感など負の感情を抱くこと)"を持っている人もいたりします。理解が深まっていないなか、バイセクシュアルやパンセクシュアルであることをカミングアウトしにくい当事者もいるのです。カミングアウトする人が少ないと、可視化が進みません。私は、「誰もが、どんな性の人を好きになっても良いな」と考えています。当事者にもよりポジティブに捉えてほしいという思いがあり、積極的にパンセクシュアルだと公言しているのです。また、私はMTFと言われるのがあまり好きではありません。MTFの ”M” には ”Male(男性)” という意味があります。女性として生きようとしているのに、”もとの性別” を明記しているようだからです。個人的には、今を生きていくうえでもともとの性別は重要ではないと考えています。だから、私自身を紹介するときはトランス女性だと言っています。とはいっても、MTF、FTMと自己紹介する方は尊重しています。それぞれの考えがあり、それぞれの表し方があって良いのだと思っているのです。”こうであるべき” ではなく、”こうしたい” という意志を尊重し合える社会へ「OUT IN JAPAN」の活動に刺激を受け、少しでも私に手伝えることがあれば、とLGBT当事者として活動を始めるようになりました。私が強く感じるのは、今の社会では ”こうあるべき” という考えが当たり前になっていることです。例えば私は研究職に就いています。それは、私自身追い求めるのが好きだからです。しかし、「せっかく大学院まで行ったのだから」という理由で研究者になっている方も見かけます。やりたくないのに研究者になっているのは、「ここまで勉強したら研究職に就くべき」といった考えが少なからずあるのではと感じています。そうした ”こうあるべき” という考えは、いろいろなところに見受けられると思うのです。私は、”こうしたい” というそれぞれの意志を尊重し合える社会になるよう望んでいます。実は、両親へのカミングアウト後、父とはあまりうまくいっていません。母は歩み寄ってくれ、正直に話せるようになりました。でも、カミングアウトしたことを後悔していません。ずっと嘘をついているよりは良かったのではないかと思うのです。父とも理解し合える日がくるよう努めています。”こうあるべき” が強い社会だからこそ、窮屈なことも多いのではないかと思います。これはLGBTに限ったことではありません。みんなそれぞれがいろいろな面で違っているのです。多くの人と違うから排除するのではなく、違っているからこそ一緒にいると楽しいと感じられるのだと思います。さまざまな人が ”こうしたい” という意志を持ち、それをお互いに尊重できる社会。さまざまな人が自分らしく生きられる社会になるよう、力になれればと活動しています。〜LGBTのバトン〜今回は、しゅんかさんにお話をうかがいました。次回は、ゲイ当事者であり、学生時代もLGBTの社会運動を行ってきたはじめさん。1990年代後半、ゲイサークルを設立したり、大学生向けのイベントを実施したりしていたそう。都内にあるクリエイティブエージェンシーに勤める彼は、2015年に社内プレゼンの機会を使って同僚にカミングアウトしたそうです。認定NPO法人グッド・エイジング・エールズの一番新しいメンバーであり(2018.4.1現在)、LGBT当事者の若い世代がありのままに生きていく手助けができれば、という思いを持っています。学生時代の活動や、会社でのカミングアウトについて、当事者としてのリアルな毎日をお届けします。Information認定NPO法人グッド・エイジング・エールズOUT IN JAPAN©FotoCuisinette/Gettyimages©kieferpix/Gettyimages©Jovanmandic/Gettyimages©skynesher/Gettyimages”パンセクシュアル”、”トランス女性” という言葉をご存知でしょうか? 徐々に認知度が上がってきていると感じるLGBTですが、まだまだ聞き慣れない言葉があると感じる方は多いようです。今回お話をうかがったのは、パンセクシュアルでトランス女性のしゅんかさんです。工学分野の研究者として働きながら、LGBT当事者としても活動を続けています。「さまざまな人が自分らしく生きてほしい」。そう願う彼女の思いを聞いてきました。よりLGBTを身近に感じられるよう、耳を傾けていただければと思います。
2018年04月15日日本では、”LGBT”とくくられることが多い、セクシュアル・マイノリティ。徐々に認知度も上がっており、さまざまな活動を見ることがあります。このセクシュアル・マイノリティですが、海外では ”LGBTI” や ”LGBTIQ” と呼ぶことが多いです。”LGBTIQ”は、”Lesbian(レズビアン)”、”Gay(ゲイ)”、”Bisexual(バイセクシュアル)”、”Transgender/Transsexual(トランスジェンダー/トランスセクシュアル)”、”Intersex(インターセックス)”、”Queer/Questioning(クィア/クエスチョニング)” の頭文字を取ったもの。どういった表現にするか多くの議論があるなか、今回は、KUROさんからお話をうかがいました。彼は、”I” にあたるインターセックスでもあり、”G” にあたるゲイでもあるのです。当事者として活動する彼の思いとは。インターセックス、KUROさんが抱える ”クラインフェルター症候群” とは【多様な性、LGBTの世界】vol. 8インターセックスとは、性分化疾患ともいいます。性染色体や生殖器、解剖学的な性の発達が多くの人とは先天的に異なる状態です。これは、さまざまな症状を持った、おおよそ70種類の疾患をまとめた総称であり、どのような状態であるかは人それぞれです。前述した通り、性染色体や生殖器など身体的な特徴を表すものであり、生まれたときの身体の特徴で男性か女性かにわけにくかったり、曖昧であったりもします。また、インターセックスは身体的特徴に注目したものなので、生まれた身体と性自認が異なる ”トランスジェンダー” や ”性同一性障害” とは異なります。そのなかでも、KUROさんが抱えているのは ”クラインフェルター症候群”。男性の性染色体はXY、女性の性染色体はXXですが、KUROさんの性染色体は1本多く、XXYです。XXXYのように、Xの数が2つ以上多いという方もいらっしゃいます。ただ、診断の機会があまりないため、なかなか気づきにくいという面もあります。男性不妊のうちのひとつ、無精子症の原因になるので、不妊症の検査で判明するという方が多いようです。クラインフェルター症候群は、さまざまな症状を包括した名前です。一般的には、第二次性徴が完全に起きないことが多いですが、程度は人によって異なります。髭や体毛が少なかったり、手足が長かったりすることが多いようです。これは、第二次性徴から胴体の成長が止まって手足が成長することが原因です。KUROさんのように性染色体がXXYである子どもは、男児660人に1人の確率で生まれてくるといわれています。”男性らしくない男性” に見られたり、”どこか幼さが残った男性か女性” のように見られたりすることも。心臓に先天性の異常があったり、広汎性発達障害といった、社会的に生活を送りにくいとされる障害を伴う方もいらっしゃいます。また、体が弱くて病気にかかりやすい部分もあり、社会的にも身体的にも困ることがあるといいます。ここからは、KUROさんの体験談をお話します。まずは、当事者の声を聞いて ”知る” ところから。聞き慣れない単語かもしれませんが、”知る” ことが当事者の辛さに寄り添う第一歩になるのです。32歳のときに、僕自身がクラインフェルター症候群であることを知った僕の場合、第二次性徴が完全に起きなくて、髭は生えず体毛が薄かったです。見た目が男性らしくなく、とても悩んできました。実は、23歳のときに肺気胸を患ったのですが、肺に8か所も穴が空いてしまったのです。そのときにも、クラインフェルター症候群だと医師が気づくことはありませんでした。そして、32歳のとき、会社の健康診断で血液が異常に少ないと診断されたのがきっかけで、今まで感じてきた違和感を知人に打ち明けたのです。そこでたまたま教えてもらった ”当事者グループ” の人たちに話を聞いてみて、自分と同じ悩みを持った人がいるのだと知りました。泌尿器科で染色体検査をするようすすめられ、そこでクラインフェルター症候群だと初めて診断が降りたのです。知る機会がほしい、もっと認知されてほしい。当事者として感じてきたこと僕自身、当事者であるにもかかわらず、クラインフェルター症候群やインターセックスについての知識を教えてくれるものがあまりなかったように感じます。生きていくなかでさまざまな苦悩がありながらも、原因がわからないということが多いのです。僕は男性の体に生まれましたが、”男性らしくない男性” に見られることがストレスになっていました。親から「男らしくしなさい」と言われたり、社会からどう思われているかを過剰に心配してしまったりしたからです。”中性的" で、"女性にも見られることがある外見" から、公衆トイレや銭湯を利用したときに、ほかの利用者から苦情を受けることもよくありました。クラインフェルター症候群発覚後も、専門の病院がないことで非常に苦労しました。体力がなく、体調も崩しがちだった当時。当事者グループの人たちから併発しうる病気を教えてもらったときに、骨粗しょう症が気になりました。そこで骨密度を調べてもらいにいったのですが、かなり低くなってしまっていたのです。医師からは男性ホルモン治療をすすめられていましたが、男性ホルモン治療を受けると急に ”男性らしさ” が出てきます。ずっと一緒に生きてきた自分の体が変わってしまうのが怖くて、その治療に踏み切れずにいました。骨粗しょう症発覚もあり、どんどん悪くなっていく体調に不安を覚えるように。女性ホルモンのほうが骨密度を上げるという情報もあったため、僕は女性ホルモンでの治療を望みました。しかし、戸籍と反対の性ホルモン治療を受けるには、性同一性障害(GID)の診断書が必要になります。僕は、”女性化” したかったのではなく、長年ともに過ごしてきた体を変えずに、健康的な生活を送りたいと考えていました。希望した女性ホルモンの治療を受けるため、ジェンダークリニックに通い、GIDの診断書をもらおうとしました。しかし、”女性化” の意志が全くなかったので、診断書はもらえませんでした。骨密度や体調を改善したい。だけど、診断書がもらえない。そういった状況に焦りを覚えました。そして、自分で女性ホルモンを個人輸入し、自己判断で使用してしまうように。結果、骨密度は上がりました。しかしながら、胸が出てきて服に困るようになってしまったのです。そんなとき、良い病院に巡り会って、男性ホルモンに切り替えるようアドバイスされたのです。泌尿器科の病院で男性ホルモンの治療をしたいと伝えても、「うちは専門じゃないから他の病院に行ってください」と言われることがよくありました。でも、専門の病院がないというのが現状。どこに行ったら良いのか途方に暮れてしまいます。結果的に僕は、男性ホルモンで治療を続けています。治療を始めてから7年が経ちますが、ここまでくるのに長い道のりだったと感じます。さまざまな人を受け入れられる社会に。認知度と理解を高めたい現在は、認定NPO法人グッド・エイジング・エールズで、インターセックスとゲイの当事者として活動しています。インターセックスについての勉強会も行っており、認知度と理解を広げられたら、と考えています。僕以外の当事者と話していても、大変な思いをしているのだと肌で感じます。”中性的” な外見からいじめに遭ったり、「生まれたことが悪いんだ」と思っている人までいるのです。また、僕同様、自己判断でホルモン治療を行ってしまう人もいます。専門の病院がなく、当事者への情報も少ないのが現状です。自己判断はとても危険なので、専門の病院ができるよう望んでいます。LGBTの認知度は徐々に高まっているように思いますが、インターセックスについてはまだまだ低いでしょう。当事者自身、発覚するまでに時間がかかり、悩んでしまうという事実もあります。LGBTはもちろん、インターセックスについてもより認知度が上がり、理解される社会を強く望んでいます。さまざまな人が笑顔でいられるために、僕自身、活動を続けていきたいと思っています。〜LGBTのバトン〜今回は、KUROさんにお話をうかがいました。次のお話は、パンセクシュアルでトランス女性の、しゅんかさん。工学分野の研究者で、認定NPO法人グッド・エイジング・エールズでは ”OUT IN JAPAN” の受け付けなどをしています。大学生の頃、バイセクシュアルでトランスジェンダーだとはっきりと自認したそう。26歳のときにパンセクシュアルという言葉を知り、”パン” に ”全ての” という意味があるのだということも知ったそう。”性別の枠を超えて人を愛する” といったステキな言葉だと感じ、まさに自分の性的指向に合致していると思い、それからはパンセクシュアルだというように、自分のセクシュアリティを紹介しているそうです。Information認定NPO法人グッド・エイジング・エールズ(C)NataliaDeriabina/Gettyimages(C)wutwhanfoto/Gettyimages(C)monkeybusinessimages/Gettyimages(C)jacoblund/Gettyimages
2018年02月03日2017年12月、「OUT IN JAPAN」というプロジェクトが広島で開催されました。このプロジェクトは、LGBTを始めとするセクシュアル・マイノリティの方々をフォトグラファーが撮影し、カミングアウトするというもの。カミングアウトをするか否かは個々人の自由ですし、タイミングもそれぞれ。OUT IN JAPANでは、カミングアウトしたいという人を優しく受け止め、応援できる社会作りを目指しています。初の広島開催でしたが、どのような様子だったかをレポートします。今の社会に必要なものが見えてくるはずです。フォトグラファーはレスリー・キーさん!地方開催への熱い想い【多様な性、LGBTの世界】vol. 72015年4月から始まっているOUT IN JAPANというプロジェクト。2020年までに1万人撮影という目標を掲げて、全国で撮影会を実施中です。東京を皮切りに、大阪・福岡・名古屋・仙台、札幌と各地で開催してきました。大都市が主でしたが、今回は広島という地方開催です。地方開催だからこそ見えてくる社会の実態や当事者たちの想いがありました。フォトグラファーは、プロジェクト開始から継続して参加しているレスリー・キーさん(写真手前)。アートやファッションといった撮影、映画監督など、世界で活躍し、輝かしい実績を持つ写真家です。彼のOUT IN JAPANに馳せる想い、地方開催への想いもとても深いものでした。レスリーさん自身が日本のことを大好きで、日本にできることを考え続けてきたそう。そんななか、このOUT IN JAPANに協力することは、日本に大きく貢献できるのではないかと考えました。一人ひとりが生まれ持ったものにプライドを持って生きていってほしいという強い思いがあります。日本では、LGBTのことを知らない人が多く驚いたと語ります。必要なのはコミュニケーションであり、伝えていくことだと力を込めました。レスリーさんは自然体の写真を表現したいと思っています。和やかなムードのなか行われた撮影会ですが、被写体になるというのはどうしても緊張してしまうもの。しかし、無理な表情を撮影するのではなく、緊張していれば緊張したままの姿を撮影したいと語りました。それが ”今” のあなたなのだから。この言葉も、自然なキャラクターを活かして、写真で生命力を発信したいという想いがあるからこそ出るのだと伝わってきました。温かい言葉と笑顔が飛び交う、優しさあふれる撮影会認定NPO法人グッド・エイジング・エールズ主催のこのプロジェクト。ヘアメイクサポートとして資生堂、スタイリングサポートとして丸井グループ、カメラ機材サポートとしてキヤノン、といった具合にさまざまな企業がその強みを活かして協賛しています。参加者は、それぞれプロにヘアメイクや衣装をセットしてもらいます。担当者は彼らに寄り添いながら、なおかつ特別扱いをするといった空気もなく、さまざまな人の居心地が良い空間ができあがっていました。にこやかな笑顔があふれながら、個々の美しさを引き出していきます。初対面同士の参加者たちもフレンドリーで、楽しそうな会話が飛び交っていました。いざカメラを前にすると緊張した面持ちになる方もいましたが、前述の通りレスリーさんはそれを ”今” として撮影していました。ポージングや表情などはきちんと指導してもらえるので安心です。リラックスムードのなか、プロの力でより自分らしさが引き出された姿を撮影する。カミングアウトをするという勇気も含めて、参加者にとっても良い1日になったのではないでしょうか。当事者の可視化をする意義。主催者の想い認定NPO法人グッド・エイジング・エールズ代表の松中権さん。松中さん自身がゲイで、LGBT当事者でもあります。カミングアウトは必ずするべきものではなく、個人の自由です。しかし、カミングアウトしたいと思ったときに、カミングアウトしやすい社会であるように変えていきたいのだと語ります。そのためには当事者の可視化が必要。可視化することで、自分の身近にも当事者がいるかもしれないという意識をいろんな人に持ってもらうのです。参加者一人ひとりにメッセージを書いてもらいウェブサイトにアップしています。そこにはさまざまな年代、職業、出身地、セクシュアリティの方がいます。当事者の方には勇気や希望を持ってもらいたいと願い、そうでない方にもセクシュアル・マイノリティの方が当たり前にいる存在として世の中に届くようにと活動を続けています。また、東京を中心に理解が広がっているいっぽう、地方は閉鎖的でなかなか理解が進まないという現状があります。そのような現状ではカミングアウトしにくく、”隣にいない存在” になってしまいがち。だからこそ、地方での開催にとても意味があるのだと考えているそう。これからは地方での撮影会だけでなく、写真展の実施も目指したいと熱を込めます。誰しもがその人らしく暮らせる社会になるように。いつかはLGBTというカテゴリーさえも無意味になるように。今は過渡期として、丁寧かつ力強く声を届けていきたいと考えています。一般社団法人広島県セクシュアルマイノリティ協会(通称「かも?」Cafe)代表理事の野元惠水さん。セクシュアリティはストレートで、アライとして活動しています。親友の子どもや仕事のクライアントに当事者がいたことで、彼らの生きづらさを感じたそう。少しでも力になれればと、広島県での活動を続けています。広島の閉鎖的な面を知っているぶん、撮影会には人が集まらないのではと危惧していたそう。当初は写真展だけを開催しようと思っていたけれど、グッド・エイジング・エールズと話を進めていくなかでポジティブな気持ちをもらい、撮影会開催を踏み切ったのだとか。LGBTに限らずボーダレスな社会を望み、誰も排除されない世の中になるよう活動しています。都会だけではなく、あなたの隣にも当事者がいるかもしれないという優しい想像力を持ってほしいと力強く語りました。OUT IN JAPANのロゴやポスター、チラシ等をデザインしている廣橋正さん。昔見たアメリカのLGBT写真集がきっかけで、日本でもそういったものを出したいと考えていたそう。セクシュアル・マイノリティ当事者はどこにでもいるのに、日本では全く認知されていなかったのを常日頃から疑問に感じていたそうです。「私はリンゴが好きだけど、あなたはレモンが好きなんだ」。LGBT当事者とそうでない人の違いは、それくらい些細なものだと考えています。将来的にはLGBTだけでなく他の様々なマイノリティにも優しく、"違い"を受け入れ認め合える社会になってほしいと願っています。デザインに関しては、様々に違う顔や表情、ポーズが一番美しく見える正方形を選んだということ。写真はモノクロでその人らしさをストレートに表し、その上にかかる金色のロゴによって、クローゼットから出てきて光り輝いている彼らの勇気を表現。10年経っても輝いているデザインを願って作ったそうです。「来て良かった…!」参加者の声を聞いてみました広島から参加した、ユキさん。セクシュアリティはゲイです。LGBTのイベントに参加するのは初めてだったけど、写真で自分を表現できればという思いで来ました。異性愛や同性愛の垣根を越えた社会を望んでいるそう。参加して本当に良かったと感じていて、これからもこういったイベントに行ってみたいと笑顔を見せました。Male to Female(MTF)の一之瀬花凛さん。彼女も広島からの参加です。LGBTイベントの参加は初めてでドキドキしたけれど、紹介してくれた人がいたので安心感があったそう。今回参加して良かったけれど、広島の閉鎖的な地域性を考えると今後も室内イベントでないと抵抗があると話します。東京などになると、パレードのような開かれたイベントへの参加にも抵抗感がないそうです。広島でも理解が深まるよう願っており、まずは知ってもらうところからだと語りました。元保健室の先生であり、現在は全国で講師をしている井上鈴佳さん。セクシュアリティはレズビアン。以前広島県内で講演会をした縁で、大阪から参加したそうです。大阪は「おもしろければ何でも来い!」というノリがあるそうで、そこが広島と違うな、と感じます。LGBT当事者の自殺率を下げたいという目標を掲げており、全国の子どもたちにセクシュアル・マイノリティの基礎知識を伝えています。当事者として伝えることで、子どもたちの意識が変わればと考えているそう。自分自身がセクシュアル・マイノリティ当事者だと気付いたとき、身近に当事者がいたときに、井上さんのことを思い出してもらえれば、と語ります。セクシュアル・マイノリティであっても他の人と変わらないし、いろいろな人がいるのだという考えが浸透するよう活動しています。今回のイベントに参加したのも、その一助になればという思いだそうです。広島からパートナー同士で参加したというC.Kさん(Cさん:写真右、Kさん:写真左)。Cさんはパンセクシュアル、KさんはFemale to Male(FTM)であり、クィアでもあります。これまでは、広島以外にも東京や関西でのLGBTイベントに参加したことがあるそうです。ただし、パートナー同士で大々的にカミングアウトするというのは初めてだそう。元々OUT IN JAPANは知っていたもの、広島には来ないだろうと思っていたと話します。ところが今回広島で開催されると知り、2人での参加を決意したそうです。一部の人にはカミングアウトしていたけれど、どこか殻に閉じこもってしてしまうところがあったと話すKさん。この日の撮影で、フッと心が軽くなったそうです。自然に笑顔になれる空間が心地よかったと、2人で笑みを交わしていました。岡山から参加したアメリカ人のJoshua V Oggさん(写真右)と、広島から参加のRasheim Taylorさん(写真左)。彼らはゲイで、友人同士です。Joshuaさんはアメリカで人権キャンペーンに参加したことがあるそうですが、写真を通したイベントは初。支援したいという思いやプライドがあっての参加です。楽しい時間を過ごせ、達成感があると笑顔で話してくれました。いっぽう、Rasheimさんはギリギリまで参加を悩んだそう。東京の友人が参加していたためOUT IN JAPANは知っていたけれど、勇気が出るまで時間がかかったと話します。友人に相談して「変われるかな」と思い、決断したそうです。実際に参加すると心が軽くなったと穏やかな声で語りました。マイノリティであっても、人と違う個性を尊重し合える社会を望んでいます。当事者は全国にいます。身近な存在なのだと意識してみてこちらは、この日撮った参加者の写真の一部です。それぞれが自分に誇りを持って輝いているのがわかるかと思います。その姿は、LGBT当事者ではない方と同じ。みんな、生まれ持った輝きを持っているのだと私は思います。LGBTというくくりは関係なく、自分に誇りを持って生きるのが素晴らしいのです。しかし、カミングアウトしにくい社会であるのも事実。地方ではそういった空気感が強いのだなと肌で感じました。LGBTは遠い世界での出来事ではありません。全国のどこにでも、当事者がいるのです。いろいろな人がいて当たり前だという未来を作るために。このプロジェクトはとても大切な意味を持っているのだと思います。LGBTのニュースを見る機会が増えましたが、東京など大都市での出来事が多いな、と私自身感じます。全国どこに住んでいても身近で当たり前だという社会になることを切に願います。この1日で見たたくさんの笑顔や温かい空気感が広がっていくように。デザインにも込められた想いのよう、輝き、色あせないように。あなたもLGBTを身近に意識して、そして伝えてみてください。きっと、誰もが生きやすい未来が待っているはずです。InformationOUT IN JAPAN認定NPO法人グッド・エイジング・エールズ一般社団法人 広島県セクシュアルマイノリティ協会(通称「かも?」Cafe)レスリー・キー氏すべてのソーシャルメディアのアカウント:lesliekeesuper写真(レスリー・キー氏以外の人物写真除く):photo anno
2017年12月27日LGBT支援団体として活動している、認定NPO法人グッド・エイジング・エールズ。その団体のなかで、唯一 ”アライ” として活動している女性がいます。その女性が、鈴木美樹さん。アライとして活動する思いをうかがいました。LGBT当事者との出会いとNPO法人立ち上げに関わるまで現在、私は化粧品などの流通系コンサル会社を持ち、仕事をしています。そのかたわら、認定NPO法人グッド・エイジング・エールズでも活動をしています。グッド・エイジング・エールズは、LGBT支援団体。そのなかで、唯一アライとして活動しているのです。アライとは、Ally(同盟、盟友、味方)が語源の言葉。LGBT当事者でなくても、LGBTを応援したり支援を行ったりしている人のことを指します。私がLGBT当事者の方と出会ったのは、新入社員時代のころまでさかのぼります。当時私は百貨店に勤務していました。企画スタッフとして働いており、デザイナーと商品企画をすることもありました。そんなとき、ゲイのデザイナーと出会ったのです。当時は1983年。「ゲイはいないものだ」という風潮さえ流れていたように感じます。彼は、「日本で生活することはできないから海外に行く」と、カミングアウトしてくれたのです。これが最初のLGBT当事者との出会いでした。その後私はニューヨークで仕事をすることになりました。ニューヨークでは、クラブに行くこともありました。そこで出会う友達が、ゲイばかりだったのです。これが第二の出会いです。そしてその後、現在グッド・エイジング・エールズの代表をしている松中権さんと出会ったのです。松中さんはLGBT当事者で、ゲイに当たります。私は13年前に夫を亡くし、夫の後輩だった松中さんと病院で出会ったのです。お葬式、1周忌、と顔を合わせる機会があり、精神的に弱っていた私を松中さんや彼の友だちが支えてくれました。支えてくれた松中さんの友だちにはゲイもいました。時が経ち、松中さんはNPO法人を立ち上げたいのだと打ち明けてくれました。私は今まで支えてくれたことへの感謝もあり、「私にできることがあれば」と参加を希望したのです。当時はアライという言葉もなかった時代。LGBT関係のNPO法人で活動していると、レズビアンだと思われることもありました。でも、そういった周囲の視線は気にならなかったのです。アライの立場だからこそできること。みんなの ”かけ橋” になりたい当事者が、ゲイであることをカミングアウトしてくれたときも、「そういった人もいるよね」という認識でした。根強い差別意識があるなか、いろんな人に、LGBTの存在や当事者のことを正しく知ってほしいというふうに思っていたのです。あるとき、店舗の物件を持っているオーナーから「お店をやらない?」といった話を持ちかけられたことがありました。松中さんにも相談しましたが、結局いったん断ったのです。しかし、少し時が経ってから、松中さんやほかのグッド・エイジング・エールズのメンバーが「LGBT当事者であってもそうでなくてもみんなで笑顔になれる場作りをしたい。そういった場作りのために、カフェを作ることはできないかな?」と相談してきました。当時、LGBT当事者が集う場といえば、新宿二丁目のような夜の世界ばかりでした。昼の世界にも、そういったオープンな場作りができれば、と思ったのです。それからは、いったん断ったカフェの場を借りることに奮闘しました。そこは古い別荘地で、お金持ちのご年配の方が多い地域。LGBTに理解がないかも……と思いました。まずはLGBTについて知ってもらうところからと、説明から入りました。返ってきた言葉は、「その人たちは女装しているの?」。そこで、松中さんたちに会ってもらうことにしたのです。「何でも聞いてください」というスタンスでお話をしたら、松中さんたちとオーナーはひと晩で仲良くなりました。ステキな仲間に囲まれていると感じた瞬間でもありました。さまざまな場面で批判されることがあるかもしれない。トラブルが起きるかもしれない。そんなときは、私が前に出よう。そう決意していました。しかしそれも杞憂に終わりました。ステキな仲間と活動しているからだと思います。もっとアライが増えてほしい。これが私の願いですとある企業では、LGBTは全体の7.6%だと発表されています。当事者が団結しても、8%ほどの力なのです。でも、当事者でない私たちが理解し、アライになれば……。それはもっともっと大きな力になるでしょう。私自身の考えでは、アライはLGBTを ”支援している” とは思っていません。LGBT当事者と同じ目線で、ともに過ごしている。より良い暮らしに向かっている。そう思っているのです。私はこの活動をしていくなかで、たくさんの学びをもらっていると感じています。こういった考えの方も増えたら良いな、と思っています。アライになるためには、何かに所属する必要はありません。本などを読んで、もっと勉強がしたかったら ”アライ会” というものに行くという方法もあります。LGBTを知り、ともに笑顔で暮らしたい、と考える人がひとりでも多く増えてくれれば幸いです。Information認定NPO法人グッド・エイジング・エールズ(C) kupicoo/Gettyimages(C) RomanBabakin/Gettyimages(C) veerasakpiyawatanakul/Gettyimages
2017年09月14日