2021年3月24日 19:30
実母と薬物の呪縛を断ち切り…「人々の希望の星となった」女性の大逆転劇
タイトルの『クイーンズ・ギャンビット』は、序盤の定跡の名。ポーン(歩兵)を捨て駒にして、局面を有利に持ち込む戦術だ。
ボルコフとの戦いで、ベスはクイーンズ・ギャンビットを仕掛ける。弱い駒を切り捨て突き進む。
ロシアの強豪ボルコフ(マルチン・ドロチンスキ)との戦い。
だが、最後に勝負の明暗を決めるのもポーンだ。ベスは、ポーンを一番奥まで進める。一番奥まで進んだポーンは昇格(プロモーション)できるというルールがある。
ポーンが、クイーンになる。
最後、ベスの服装は真っ白な長いコートに白い帽子。その姿は白いクイーンの駒のように見える。これは、コスチュームデザイナーのガブリエレ・ビンダーが意図したことだとブルックリン美術館のバーチャルコスチュームエキシビジョンの解説(※1)にある。
60年代ファッション、めちゃキュートな部屋、豪華なホテルの内装、家具など、映像の美しさにもほれぼれするし、アニャ・テイラー=ジョイ演じるベスの魅力、さらにチェス対局の見せ方の多彩さなど、見どころの多いドラマだ。人間ドラマとしても緻密に構築されており、二度三度鑑賞するたびに新しい発見のある傑作であった。
文・米光一成(ゲーム作家、代表作に『ぷよぷよ』『はぁって言うゲーム』など)