2022年1月14日 17:30
最新作『フレンチ・ディスパッチ』にも強く影響、ウェス・アンダーソンの世界を形作る文学作品
完璧なシンメトリーの構図。独特のカラー・パレット。ミニチュアのように作り込まれた世界観。ウェス・アンダーソンの映画の魅力は様々だが、彼の美意識と映画世界の根底にある要素として、ここでは彼の文学的なセンスを取り上げたい。
絵画や写真、そして膨大な数の過去の映画作品をイメージの参照にしているウェス・アンダーソンだが、物語の面で彼が大きな影響を受けているのがJ・D・サリンジャーの小説だ。特に青春映画の要素が強い初期作品のオリジンは彼自身が愛読書として挙げる「キャッチャー・イン・ザ・ライ」にある。
テキサス大学オースティン校の脚本執筆クラスでオーウェン・ウィルソンに会ったことが、アンダーソンの映画作りの始まりだった。2人はやがてアンダーソンの長編デビュー作『アンソニーのハッピー・モーテル』(1996)の基となる脚本を書き始めるが、私立のプレップ・スクールを追い出され、次々と学校を退学になった後、士官学校に転校せざるを得なくなったオーウェン・ウィルソンはまさしく「キャッチャー・イン・ザ・ライ」のホールデン・コールフィールドそのもの。
『アンソニーのハッピー・モーテル』(C) APOLLO
映画嫌いのサリンジャーが断固として自分の作品の映像化を許そうとしなかった結果、逆にニューシネマ以降次々と「キャッチャー・イン・ザ・ライ」