2021年9月12日 11:52
いつが最後になるのか誰もわからない だからこそ、「いま、ここ」にしっかりと立ち、味わう
吉元由美の『ひと・もの・こと』
作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。
たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。
最後に何を……
母は最後に何を食べたのだろう。お線香をあげながら、ふと思う。
5年前のクリスマスイブの朝、介護ホームの部屋で脳梗塞を起こして倒れ、病院へ。翌日に意識が戻ったとき、母は言葉と右半身の自由を失っていました。
話しかけてもきょとんとした顔をして、(この子はいったい誰だろう)と探るように私を見る。そんな母の姿を目の前にし、母の人生はまったく違う次元へ行ってしまったのだと思いました。
倒れる前日、母はどんな夕食を取ったのだろう。それを妹は確認していました。
ホームで出されたのは鯖の味噌煮だったそうです。母は鯖の味噌煮が好きでした。
でも、ふと何だかかわいそうな気がしました。おそらく、そんなに話し相手もいなく、ひとりで食べていたのではないか。