2022年7月24日 10:00
「言葉に心をこめる」というテーマは、生き方の美しさにつながっている
吉元由美の『ひと・もの・こと』
作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。
たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。
言葉と心との隙間に気づいてみると
「幸せを祈っているよ」
こう言った人は、本当にこの言葉の通りに相手の幸せを祈っているのだろうか。
かつてティーンネイジャーのバイブルとも言われたJ.D.サリンジャーの小説『ライ麦畑でつかまえて』の主人公ホールデンは、行く先々で言われるこの言葉に悩みます。
挨拶のような、単なる常套句のような言葉に、彼は嘘、インチキの匂いを感じとります。彼は純粋であろうとするあまり、『善意の衣を纏った嘘くささ』に落胆するのです。
ここがこの小説の肝となる部分。私も10代の頃、本音と実際に口にするそんな言葉の不一致にインチキ臭さを感じたものでした。
他人に言われた言葉に対してではなく、自分の言葉と本音との隙間もどうしていいかわからなかった。