2022年8月7日 16:12
喪失の悲しみを小脇に抱えながら、癒やしていくための『物語』を心に描く
吉元由美の『ひと・もの・こと』
作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。
たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。
「癒される」ということ
母が亡くなった年のお盆のこと。迎え火の炎が小さくなり、おがらが残り火の中で静かに炭になっていったとき、父がポツリと言いました。
「ママ、帰ってきたな」
父の中にいろいろな物語があり、心の中のつぶやきがふっとこぼれたような。私も妹たちも胸の中で、それぞれの想いを噛み締めていた、そんな初盆の入りでした。
いなくなる、ってすごいことだなあと思うのです。いま、ここで生きていた人が、いなくなる。朝、「行ってらっしゃい」「行ってきます」と言葉を交わし、そのまま会えなくなることもある。
脳梗塞で言葉が出なくなった母に「明日、また来るね」と声をかけると、母は弱々しくなった手でぎゅっと私の手を握り返しました。
そして置き去りにされる子どもみたいな顔をして、病室を出る私を見ていました。