2021年12月6日 20:00
過去から現代へ、言葉を紡ぎ必死に対話する人々描く 瀬戸康史主演『彼女を笑う人がいても』観劇レポート
撮影:細野晋司
演出家・栗山民也と、劇作家・瀬戸山美咲の初タッグによる舞台『彼女を笑う人がいても』が上演中である。描かれるのは、現代と1960年のふたつの時代。現代において東日本大震災の被災者を取材している新聞記者・伊知哉と、彼の亡くなった祖父で1960年の安保闘争を取材していた新聞記者・吾郎が、その中心にいる。両者を演じるのは瀬戸康史だ。被災者の取材が継続できなくなり、仕事に行き詰まりを感じた伊知哉が、糸口を探そうと祖父の取材ノートを開くと、その瞬間、伊知哉から吾郎へ、現代から60年へと変わるのである。演劇ならではのマジックによって、自然にふたつの世界へ引き込まれていく。
左から阿岐之将一、木下晴香、瀬戸康史、渡邊圭祐
ふたりの新聞記者を観続けていくうちにやがて、時代は違っても、彼らが同じ苦しみを抱えていることがわかってくる。安保闘争が激化する中で命を落とした女子学生の死の真相を追おうとするも、新聞社の上層部が闘争の沈静化をはかろうとして阻まれる。東日本大震災の被災者の声はもう必要ないとばかりに連載を打ち切られ、配置転換させられる。本当の声が伝えられることはないのである。
左から瀬戸康史、吉見一豊
だからこそだろう。