サカイクがお届けする新着記事一覧 (1/35)
ほんの3日親元を離れて過ごすサッカーキャンプ。コーチたちがいるとはいえ、サッカーも宿舎での過ごし方も自分のことを自分で行うなど、サッカー以外の面でも成長するきっかけになっています。2023年夏の初参加からサカイクキャンプに3回連続で参加しているリヒトくん親子にインタビュー。リピートの理由と実感している成長についてお伺いしました。学校生活にも大きな変化を与えた体験談とは。(取材・文:小林博子)サカイクキャンプでトレーニング中のリヒトくん<<「失敗を恐れずにチャレンジする自分になれた」たった3日で子ども自身が自分の成長を実感するサッカーキャンプの特徴■初参加のきっかけは?現在小学5年生のリヒトくんが初めてサカイクキャンプに参加したのは4年生の夏休みでした。お母さんがSNSでキャンプを見つけて薦めてみたところ、リヒトくんは「行きたい!」とすぐに前のめりに。近所のお友達も誘っての初チャレンジとなりました。実は当時のリヒトくんは、学校を休みがちでいわゆる"不登校"に該当していたそう。ただし、学校は休んでもサッカーチームの練習や習い事は休まず参加するサッカー大好きっ子でした。そのため、親元を離れて同世代の子どもたちと宿泊しながら生活することに対するハードルはお母さんも本人も特に感じてはいなかったそうです。「不登校の理由は今でもよくわかりません。学校の友達がすべてではないから、サッカーを通じての友達との時間を楽しんでほしいと思って薦めました」という当時の気持ちをお母さんはお話してくれました。■晴れやかな表情で帰宅!すぐにリピートを希望する満足度初めてのキャンプを経験して帰ってきたときのリヒトくんの表情が印象的だったとお母さんは言います。「晴々としたとてもいい顔をしていた」と。すぐに「また行きたい!」と話してくれたのも嬉しかったとのことです。そのため、その後2回の参加も即決。今年の夏休みのキャンプ参加予定だそうです。リヒトくんがサッカーを始めた頃はまだコロナ禍で、チームの練習がなかった時期もありました。だからこそ、思いっきりサッカーができる3日間はとにかく楽しく、良い思い出になっているよう。「ホテルからグラウンドに仲間と移動するのも、サッカー選手になったような気持ちになれてワクワクした!」とかわいい感想も話してくれました。■キャンプで学校以外の人との接点を持てたことで、人とのかかわり方に変化が「いい表情」はその後も続き、家庭でのリヒトくんの様子にも変化がみられるようになったようです。その変化とはひとつの「成長」といえるでしょう。サカイクキャンプに参加したことが1つの理由であることは言うまでもないとお母さんは話してくれました。また、夏休み終了後は学校に行けるようになったのも大きな変化でした。毎日ではなかったものの、「明日は学校に行ってみようと思う」とリヒトくんから提案して登校を開始。休み休みだった頃を経て、2回目、3回目のキャンプ参加を経験した今は毎日登校しています。「キャンプという非日常へ飛び出して学校以外の人との接点を濃密に持てたことで、人との関わり方に変化があったようです。学校というコミュニティに戻れたのは、学校だけが社会ではないとわかったからかもしれないですね」とお母さんは語ります。■コーチから見たリヒトくんの成長は"心の容量"が大きくなったことサカイクキャンプでトレーニング中のリヒトくん毎日接している家族には言語化が難しい子どもの内面の変化ですが、キャンプの間ずっと一緒に過ごしたコーチには明確な成長がわかったようです。サカイクキャンプスタッフの柏瀬コーチにリヒトくんについて伺いました。「リヒトくんは、初回参加したときは"心の容量"がすぐにいっぱいになって、周りの人の言うことをうまく受け取れなかったり、自分の気持ちや伝えたいことが言えなかったりする場面が多くありました。感情のコントロールが比較的苦手なほうだったかもしれません。それもリヒトくんの良いところで優しさでもありますが、2回3回と参加するうちに、その容量がどんどん大きくなっていき、受け取れるようになったり、通すフィルターが変わったりしていきました。例えば友達に『こうしよう』と言われた時、初回は素直に受け入れられずマイナスに考えることもあったのですが、今は友達のそういった提案をプラスに受け止める考え方のクセがついてきたように見受けます。人との関わり方に余裕ができた証拠でもあります。また、周りの人に興味が持てるようになったのは3回目で強く感じました。困っている友達がいることにすぐに気づき、荷物を持ってあげたり、苦手そうなことをフォローしてあげたりしている姿を見せてくれるようにもなりました」■「気づき」はプレーにも現れ、自信につながる周りをよく見られるようになったこと、友達とのコミュニケーションがより潤滑になったことが、サッカーのプレーにも現れるようになったとお母さんも気づいています。所属チームではサイドバックを任されることが多いリヒトくん。最近は自分のポジションでの役割以外にも「気づき」が多くなり、広い目でプレーできるようになってきたとか。これも心の余裕あってこそ。チームのコーチに褒められることも多くなったそう。そんな変化が自信につながり、サッカーにも日常生活にも好循環が生まれているのではないかとお母さんも嬉しそうでした。■「僕が今サッカーで褒められているのはサカイクキャンプのおかげ」サカイクキャンプでトレーニング中のリヒトくん最後に、リヒトくんとお母さんにサカイクキャンプへの参加を迷っている親子に伝えたいことを聞きました。リヒトくんは「僕が今サッカーで褒められているのはサカイクキャンプのおかげだから、参加するといいことがいっぱいあるよと言いたいです」とにっこり。そしてお母さんはこう続けます。「サッカーのことは詳しくはわからない私ですが、サッカーでも日常生活でも、子どもの変化を感じます。より一層、家族としても物事を前向きに捉えていけるようになったと思います。とにかく良い影響がたくさんあるので、ぜひ参加してみてください!と強くすすめたいです」。■サッカーだけじゃない!サカイクキャンプの魅力リヒトくんのような心の成長は、多くの他の子にもみられることを、これまでのインタビューでも感じます。サッカーキャンプですが、サッカーの技術だけでなく、人との関わり方や考え方など、心の成長にもフォーカスして指導を受けられるのがサカイクキャンプの特徴でもあります。参加者1人1人に寄り添って成長を後押しするコーチ陣が、自分で考えてチャレンジする姿勢を促しながら、サッカーのレベルアップをサポート。ほんの数日で自信がついて、サッカーへの取り組みが変わる。そんな成長体験を、この夏のキャンプで味わってみませんか?
2025年05月08日ほかの子と差がついてきて二軍の息子。チームメイトたちは個々にスクールなども通っているけど、息子はスクールに行きたくないという。周りとの差にいろいろ考えてしまう。やる気を出させる、スクールに行きたいと思わせるのも親のかかわり次第なの?というご相談をいただきました。ほかの子と比較して焦ってしまうのはよくあることですよね。スポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、悩めるお母さんに3つのアドバイスを送ります。(構成・文:島沢優子)(写真は少年サッカーのイメージご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<週何回行くべき?自主練習は何をしたらいいの?サッカーの「習い方」がわからない問題<サッカーママからのご相談>この春、小学三年生(8歳)の息子のサッカーチームの活動について今後どうして行くべきか教えてください。息子は幼稚園の時に園庭で毎週行われていたサッカー教室に興味を持ち『僕もやってみたい』とサッカーを始めました。小学校に上がる時にサッカーを続けると言うことで、お友達にサッカーチームを教えてもらい、体験会に参加し、そこのチームに入ることを決めました。練習や試合を土日に行い、二年生からは火曜日にある練習にも参加出来るようになり、体調が悪い等の理由でなければなるべく週3回の活動には参加しています。お友達も多く練習には楽しく参加していました。ですが、だんだんと個々のレベルの違いも出て来て息子は言うなれば二軍チーム、親としてはまだまだ二年生(編集部註:投稿時)だしな......と思う部分と、やはりチームスポーツが故に試合に出させてもらった時に上手い子達に迷惑がかかるのではないかと言う気持ちにもなりこのままこのチームで続けていいのかと考えてしまいます。息子は、サッカーは好きで引き続き今のチームでやると言っています。チームメイト達はほとんどの子がこのチーム以外のスクールへ行っていますが、息子はスクールには行きたくないと。周りとの差は明らかに感じますが、息子なりに始めた頃に比べれば色んなことが出来るようになり、たまに驚くプレーをする事もあります。ですが、「上手くなりたい」とか「もっと試合に出たい」とかそういう気持ちがまだまだ足りないと感じます。その気持ちはあるといいますが、今はそこまでサッカーに集中する様子はなく、見ていて歯がゆいところでもあります。習い事については私たち親がやってみたらと勧めて始めることはなく、自分が興味を持ちやってみたいと言って来たことには反対する事もなくやらせて来ました。親は周りとの差に色々と考えてしまいどうしたら良いのかと日々考えます。やる気を出させるのも親の責任なのか、スクールに行きたいと思わせるのも親次第なのか......。チームの親御さんをみていると自分の関わり方なのかと考える事もあり、サッカーだけではなく、こうした事は普段の生活にも影響が出ているように思います。今後どうしたら良いのかわからないのが現状です。<島沢さんからの回答>ご相談ありがとうございます。さて、人の子の親になると、何事も「子どもにしっかりやらせなくては」と肩に力が入りがちです。なぜなら、正しい方向に導くことが「親の責任」「親の役目」だと考えているからです。私自身も似たようなものでした。共働きだったので、しっかり勉強を見てあげなければ、子どもの才能を伸ばしてあげなけばと力んでいました。ところが、見た目の結果が良かったとしても、その子の力になっていないことは残念ながら多々あります。■「親に言われたから嫌々やる」という"負の習慣"が身についてしまうことも例えば、プリントや問題集を早くやらなくては「ママに怒られる」と恐れるがあまり、解答ページをみながら答えを丸写したとしましょう。何も知らない母親は満足するかもしれませんが、なんら成長につながらないうえ、その子は「親に言われたから嫌々やる」という"負の習慣"が身についてしまいます。私の息子はラッキーなことに、私がやらせようとすると「嫌だ!」と激しく拒否する子どもでした。いわゆる「自分」というものを持っていました。そして、宿題でも、お手伝いでも、こちらが我慢強く待っているとやりだすのです。子どもには自分のタイミングというものがあるのです。■息子さんがちゃんと「自分」をもって意思表示ができているのは、とても良いことお母さんの息子さんも同じです。たとえ二軍だとしても「サッカーは好きで引き続き今のチームでやる」とか「スクールには行きたくない」と、ちゃんと自分の意志を伝えています。うちの息子と同じように「自分」を持っています。わが子が自分の意志を表明できたことを、ぜひ喜んでください。心配することなど何もありません。お母さんは、息子さんにとって「何を言ってもいい」安全基地になっている証しです。家庭(親)が子どもにとって安全基地であれば、子どもは学校やサッカーチームでさまざまなことにトライできます。良い成果でなくても、安全基地の家庭はそのことを責めたりしませんから。■やる気を出させるのは親の役目?逆に、「上手くなりたいとか、もっと試合に出たいっていう気持ちが足りないよ!」などと、怒られたり、「やる気はあるって言うけど、本当にサッカーに集中してる?してないよね?」などとなじられたら、家庭は子どもにとって「危険エリア」に変わります。気持ちが足らないとか、集中していないなどと子どもに言い渡し子どもを震え上がらせれば、「はい、頑張ります!」と、その日一日は頑張るかもしれません。が、それは「恐怖学習」もしくは「一発学習」といって、一度しか効き目はありません。「やる気を出させるのも親の責任なのか、スクールに行きたいと思わせるのも親次第なのか......」と書かれています。これについては、やる気が出るようなポジティブな環境を整えるのは親の役目ですが、スクールに行きたいかどうかは子どもが決めることだと私は考えます。■アドバイス①これ以上何もせず見守ってそこでお母さんに3つアドバイスさせてください。ひとつめ。相談文に「今後どうしたら良いのかわからない」とありますが、どうかお母さんはこれ以上何もしないでください。ただひたすら見守ること。まだ3年生が始まったばかりです。息子さんの好きなようにさせてあげましょう。■アドバイス②お子さんをプロにしたいのか、どうしてサッカーをさせているか今一度確認を2つめ。お母さんは、なぜ息子さんにサッカーをやらせているのでしょうか?絶対にプロサッカー選手にならないといけませんか?一度そのあたりを家族で確認してください。お母さんは「習い事については私たち親がやってみたらと勧めて始めることはなく、自分が興味を持ちやってみたいと言って来たことには反対する事もなくやらせて来ました」とあります。とても良いことです。その方針はブラさず維持してください。成果主義ではなく、ただありのままのわが子を愛することを心がけてください。もちろん、容易いことではありません。なぜなら、私たち親世代の多くが、なにかできたり秀でなければほめられなかった人が多いからです。私たちはつい育てられたように育てるものですが、ぜひサカイクで子育てを学んで、それを乗り越えてください。■アドバイス③他の子と比較するより、子どもの内発的動機づけを育てる事に目を向けよう最後の3つめ。お母さんが書いた「チームの親御さん」がどのような方々なのかわかりませんが、他人の子育てに振り回されるのはやめましょう。子どもを他の子と、夫を他の方の夫と比べて何かいいことがありますか?例えば、サッカースクールに行く理由が「親がうるさいから、2軍だと怒られるから」と取り組む際のモチベーションは「外発的動機づけ」です。反対に「サッカーが楽しいからもっとやりたい」と、自分の中からわき出た感情や感覚に従って取り組むことを「内発的動機づけ」と言います。教育心理学の分野では、多くの実験や調査によってすでに証明されています。小学生までは外発的な動機づけでも、ある程度の成長は望めますが、子どもの自我が確立される中学生以降は、内発的な動機づけがある子がぐんと伸びます。主体性がある子と、何事も親から叱られたり世話を焼かれながら生活している子の差がどんどん開いていくのです。例えば「一軍を目指す」ことは一見内発的なものに見えますが、もしかしたら違うかもしれません。結果が出ている時は良いのですが、失敗したり成果が上がらないと途端に意欲を失くしてしまいます。■頑張っている自分が好きになると、どんなことにも意欲的に取り組める好奇心につながる(写真は少年サッカーのイメージご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)したがって、結果をほめるのではなく「毎日よく頑張ってるね」「楽しんでる姿を見られてお母さんも嬉しいよ」というようにプロセスを評価してあげてください。そうすると、頑張っている自分、サッカーをしている自分を好きになります。そこで育まれた自己肯定感が、どんなことにも意欲的に取り組めるエネルギーや好奇心につながるのです。何のためにサッカーをやらせるか。私の答えは「豊かな成長のため」です。お母さんが責任をもつとしたらどこにコミットするか。それは、豊かな成長の邪魔をしないことです。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)ジャーナリスト。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』『東洋経済オンライン』などでスポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』(小学館)『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)『部活があぶない』(講談社現代新書)『スポーツ毒親 暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか』(文藝春秋)『オシムの遺産彼らに授けたもうひとつの言葉』(竹書房)など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著・小学館)『教えないスキルビジャレアルに学ぶ7つの人材育成術』(佐伯夕利子著・小学館新書)など企画構成者としてもヒット作が多く、指導者や保護者向けの講演も精力的に行っている。日本バスケットボール協会インテグリティ委員、沖縄県部活動改革推進委員、朝日新聞デジタルコメンテーター。1男1女の母。
2025年04月30日サッカーでは場面によって1対1になることもあると思うけど、池上さんは普段数的優位な状況をつくるトレーニングを推奨している。数的優位を作るのが大事なのはわかるけど、1対1の練習は不要なの?サッカー経験のない保護者コーチなのでよくわからなくて......。とのお悩みをいただきました。今回も、ジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上のあらゆる年代の子どもたちを指導してきた池上正さんが、お父さんコーチにアドバイスを送ります。(取材・文島沢優子)(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)<<勝ちにこだわりすぎて子どもに厳しすぎるコーチを何とかしたい、パワハラコーチングが間違ってると指摘する方法を教えて<お父さんコーチからの質問>こんにちは。少年団で教えている保護者兼コーチの者です。チームは特に強くもありませんし、結果を求めるよりも人間性含めた成長を求めるチームです。質問は、1対1についてです。池上さんはよく2対1を推奨していますが、試合の中では1対1で対峙する場面もあると思います。数的優位を作るのが大事なことは私も理解できるのですが、1対1の練習は不要なのでしょうか。両方を練習することはダメですか?試合の場面によってどっちも必要かと思っているのですが......。サッカー経験者でもないので、悩んでしまっています。どうぞよろしくお願いいたします。<池上さんからのアドバイス>ご相談ありがとうございます。1対1はやらなくてもいいいいですか?という質問ですが、練習してはいけないということではありません。皆さんは白か黒かどちらか?と選択肢をひとつに絞ろうとする傾向があるようです。■1対1の練習をしてはいけないということはない使う場面や仕掛け方を学ばせて以前も「小学生のサッカーはパスをつなぐ練習をするべきか、ドリブル練習をやらせるべきか」といった議論がありました。パスをつなぐサッカーがあるとしても、そのプロセスでボールを運ぶドリブル、相手を崩すドリブル、ゴールへ向かうドリブルなど、場面によってドリブルの仕方や種類は変わってきます。これと同じように、1対1の練習をしてはいけないわけではなく、どんな時に1対1の場面が出てくるのか、どう仕掛けるのかといったことを学ぶ必要がある。そのために2対1など数的優位の練習をすると理解してください。■1対1を仕掛ける前に見極めなければいけないことプレーする場面場面で対峙している相手を見なければいけません。例えば、自分よりも技術が上だったり、スピードは上だとか、やっているうちに選手は気づきます。そんな相手に向かって1対1を仕掛けるとしたら、やはり無謀です。やめたほうがいいわけです。反対に、相手のほうが技術や経験値は下で、足も遅いとしたら、すぐに自分のフェイントに引っかかってくれる確率は高くなる。であれば、1対1を仕掛けてもいいかもしれません。そんな可能性があることは、ときに「カモれる」などと表現されます。つまり、1対1を仕掛ける以前に、そこを見極めなくてはいけません。■場面に応じて判断できる感性、アンテナを持った子に育てるにはそう考えると、そういった判断ができる感性というかアンテナをもった子どもに育てるためには、1対1ではなく、2対1にしておくほうがいいと私は考えています。例えば2対1で私がいつも子どもたちに伝えるのは以下のようなことです。「自分が右側にいて、左側に味方がいてくれるとするね。その時に左にいる味方にパスを出すような格好(フェイント)をすると、1人しかいない相手のディフェンスはそれにつられるよね。つられたら、自分で持って行ける(ボールを前に運べる)可能性が出てくるよね。そうしてごらんよ」それをやることで「自分がドリブルで前に行くのがいいのか、味方にパス出したほうがいいのか」という判断ができる選手になっていくのです。目の前のディフェンスを見た瞬間に、「この選手は足が速いから、味方にパスを出そう」と考えられる子は、最初に抜く格好をして相手を自分のほうに引きつけておいてから味方にパスを出せるようになります。反対に「この相手(ディフェンス)は自分よりちょっと弱いぞ」と判断した場合、今度は味方にパス出します。当然ながら、パスを出す格好をして相手がそれに大きくつられたのであれば、その瞬間相手より有利なので、自分で抜いていけばいいわけです。そうすれば確実に抜ける。つまり、他の選手を上手く使う。自分を上手く使って相手を活かす。それができるようになるには、ひとりでドリブル練習をしたり、1対1をやっても身につきません。その意味で、2対1や3対1、3対2をやることが重要です。言うまでもなく、サッカーの試合では自分のまわりに必ず味方がいます。味方をどう使ったら自分が抜けるか、味方と2人で抜くためにはどうしたらいいか。そういうことを学ばせてください。■数的優位のトレーニングをすることで「ズレ」を感じさせることが先決数的優位のトレーニングをやっていると、相手と正対しない状態、要するにズレが生まれやすくなります。そういった「ズレ」を感じることが先決ですし、それを生むためにどうするかを自分で考えられるよう、いくつかのパターンを教えましょう。1対1だけでなく、2対1などチームプレーを意識した練習メニューと指導が重要になります。状況に応じて判断できる選手を育てることを、改めて意識してもらえるとうれしいです。また、「結果を求めるよりも、人間性を含めて成長を求めるチームです」と書かれています。とてもいいことだと思います。それには、チームプレーを意識した練習は欠かせません。そこには、味方と協力するとか、例えば場面ごとで「こうしたい」と動く相手の判断やアイデアをリスペクトするといったことが学べます。子どもたちの人間性の成長を実現するためにも、それぞれの練習メニューに意味があることを知っておいてください。■1対1のトレーニングをするときの工夫(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)もうひとつ、1対1のトレーニングをするときは、並んで待つ時間を短縮できるよう工夫してあげてください。練習や試合で実際にボールが動いていて、プレーヤーがかかわっている時間のことを「アクティブタイム」と言いますが、ある研修会で指導実践15分のトレーニングメニューではアクティブタイムが5分弱だったそうです。つまり3分の1です。ドイツはコーチたちに向け、この時間をもっと長くして効率よくトレーニングするよう伝えています。指示が長くなっていないかなど、タイムマネージメントができているかどうかを意識して練習をマネージメントしてください。池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
2025年04月25日サッカーをする子どもの怪我を防ぐために、前回は「負荷耐性」という考え方と、トレーニング・栄養・休養のバランスの重要性について、いわきスポーツクラブ(いわきFC)アカデミーやドームアスリートハウスアスレチックアカデミーのアドバイザーを務める強化育成の専門家である小俣よしのぶさんに解説してもらいました。今回は、ケガのサインとして見逃してはいけない「体のゆがみ」と対処法について、具体例を交えて説明してもらいました。(取材・文鈴木智之)(写真は少年サッカーのイメージ)前編:小学生年代でトレーニングのしすぎは逆効果!負荷耐性が低下するとケガしやすい部位と予防のカギ■子どもの体のゆがみは、ケガの重要なサイン小俣さんは「子どもの体のゆがみは、ケガの重要なサインです」と切り出します。「医学的には『マルアライメント』と呼びますが、これは骨や関節の配列が正常ではない状態を指します。例えば、X脚やO脚、猫背やストレートネック、巻き肩やへっぴり腰、扁平足などが代表的な例です。一見、体つきの個人差のように見えるかもしれませんが、実はスポーツ障害の重要なサインなのです」このマルアライメントは、スポーツ障害の発生要因の一つになるそうです。また、運動効率も低下させてしまうと言います。「X脚やO脚の場合、走るときやボールを蹴るときに問題が生じます。曲がった杖で体を支えたり歩いたりするのは難しいように、曲がった脚で走ったり、蹴ることは難しいのです。また、猫背やヘッピリ腰では『腹圧』がうまくかけられず、強いキックが打てなかったり、相手との競り合いに弱くなったりします。気をつけたいのは、一見、大きな問題に見えなくても、繰り返し運動することで、徐々にアライメントの異常が進行していくことです」■裸足で遊ぶ機会が少なくなった現代の子どもの足裏問題特に注意が必要なのが、偏平足からX脚に発展するケースです。「本来、足裏にはアーチ(土踏まず)があるのですが、過度な負荷や、現代の子どもに多い『裸足で遊ばない生活』により、アーチを支える骨が沈み込んでしまうことがあります。その結果、足が内側に倒れ込み、それが膝や足全体のゆがみにつながっていくのです。これは後天的に起こる変化なので、予防や早期発見が重要になります」このような状態で運動を続けると、様々な問題が生じてきます。「膝が内側に入った状態で急激な停止やターンをすると、膝を痛める可能性が高まります。また、太もも(大腿骨)も内側に絞られ、腰周りの筋肉が張って腰痛の原因になり、股関節への負担も大きくなります。特にサッカーの場合は下半身にアライメント異常が出やすいので、見逃さないようにしましょう」■姿勢を整えることで体幹(胴)まわりの筋肉が自然とつくでは、どうすれば予防できるのでしょうか。小俣さんは、まず「姿勢づくり」の重要性を指摘します。「クラシックバレエの基本姿勢を意識すると、自然と体が整います。横から見て耳・肩・腰・膝・足が一直線に並ぶのが理想的です。この姿勢を保つことで、直立姿勢を支える多くの筋肉が自然と使われ、結果としてお腹に力が入りやすくなったりします」特別な体幹トレーニングをしなくても、正しい姿勢を意識することで、必要な筋肉は自然と使われるそうです。「クリスティアーノ・ロナウド選手がボールを蹴る前に取る、美しい直立姿勢も、実はこれと同じ理にかなっているのです。ヨーロッパのサッカー選手は総じて姿勢が良いのですが、それは決して偶然ではないと思われます」■サッカーの前に、基礎的な運動能力が必要さらに、こう続けます。「サッカーや野球といった専門競技をする前に、まずは基礎的な体力運動能力を身につけることが必要です。腕立て伏せ、懸垂、逆立ち、逆上がりなど、体育で扱う基本的な運動ができることが理想です。体育で『5』を取れるような基礎体力運動能力があってこそ、複雑な球技も上達するのです。本来なら、体育の授業や日常的な遊びの中でこれらの能力が養われるべきなのですが、残念ながら現代の子どもたちにはその機会が不足しています」なるべく外遊びやさまざまな運動,サッカー以外のスポーツの機会を増やし、多様な運動を経験させるとともに「やりすぎ」に注意を払う。それこそが保護者ができるサポートと言えるでしょう。■安易に土踏まずをサポートするインソールを入れるのは避けてまた、子どもの体の変化に早めに気づき、適切に対処することも重要です。「『うちの子、ちょっと偏平足かな』『足が内側に入るような気がする』といった変化に気づいたら、まずは整形外科でレントゲンを撮り、骨に異常がないかを確認しましょう。その後、必要に応じて整骨院やトレーナーに相談するのがよいでしょう。ただし、安易に土踏まずをサポートするインソールを入れるのは避けてください。一時的な対処療法に終わってしまいます。土踏まずを作るための運動や、足裏の筋肉を鍛えるトレーニングなど、根本的な改善を目指すべきです」■早期復帰を、と焦らないで。成長期は休養することで身長が伸びることも(写真は少年サッカーのイメージ)最後に、保護者の方々へ、次のようなメッセージをくれました。「もしケガをしてしまったとしても、ネガティブに捉える必要はありません。『いままでサッカーをしすぎていたから、体を休ませる絶好の機会』と捉えてほしいです。成長期の子どもの場合、休養することで、身長が伸びることも多いです。数か月のブランクで、サッカーが下手になるのであれば、それまでの実力だったということ。焦って早期復帰を急ぐのではなく、長期的な視点で子どもの成長を見守ってほしいと思います」昨今は子どもの様子をビデオカメラで撮り、映像で見返すご家庭も多いです。その際にプレーの良し悪しだけでなく、姿勢や立ち方、体つきなどにも目を向けてみてはいかがでしょうか。そこにケガのサインが出ていたら要注意。この記事を参考に、適切に対処することを心がけましょう。
2025年04月22日同じチームのコーチが、自身の子に厳しすぎる発言を連発。しかも、勝ちにこだわりすぎてポジションもメンバーも固定、子どもに考えさせずすぐ答えを言って「楽しませる」より、勝つ練習をしている。自分はサッカー経験のないボランティアコーチだから我慢しようとしたけど、その過激な手法の片棒を担いでいる気がして......。とのお悩みをいただきました。今回も、ジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上のあらゆる年代の子どもたちを指導してきた池上正さんが、スポーツ現場でのハラスメントについて解決のアプローチ方法をアドバイスします。(取材・文島沢優子)(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)<<鳥かごでずっと奪えない子への対応、自分が介入しているがもっといい方法がないのか教えて<お父さんコーチからの質問>いつも勉強させてもらってます。有難うございます。子ども2人が所属してる少年団(練習は土日のみ)でボランティアコーチをしています。子どもが入団するタイミングで誘われて、私自身は競技経験は無いのですがU-10のコーチとしてお手伝いさせてもらってます。悩みというのは同じチームの別のコーチの件です。まずご自身の子どもへのパワハラがひどいです。転んでも「すぐ立て!」、負けて悔し泣きしてたら「泣いてるんだったら出ろ!」など、とにかくまず自分の子を悪い見本のように叱っています。父親がそうでも母親がフォローすればいいのですが母親も「謝りに行ってきなさい!」とさらに追い詰める始末です。他の子どもへのコーチングも、「一人で(ドリブルで)行くな!」「(守備の時)何で行かないんだ!」「クリア!」とすぐに答えを提示して子ども自身に考えさせないやり方です。他にも勝利に対するこだわりが強すぎて、ポジションもメンバーも固定し、楽しませる練習というよりはとにかく勝つ練習ばかりです。試合内容もとにかくセーフティファーストで、ゴールキックから縦ポンサッカーばかりでリスクを負ってパスを繋ぐことなど皆無です。勝ちたい余り結局はアクシデント任せで狙いのないサッカーばかりです。(練習ではパスサッカーをしようとしていますが)我慢しようかと思っていたのですが、その手法があまりにも過激すぎて近くにいてその片棒を担いでるような気分になってしまって正直参ってます。私自身はとにかく子どもが出来たことを褒め、自分でチャレンジするような、考えさせるようなコーチングを心がけてますが、そもそもメインのコーチがこのような状態では軌道修正もままなりません。(おそらく自分が現役の頃から受けてきたコーチングから今時のコーチングへのアップデートが全く出来ていない)パワハラコーチングが間違ってることを指摘したくても競技経験が無い自分の意見を果たして言っていいのかと悩んでます(私の息子たちも所属しているので大ごとになったら困るので)。全体を統括する代表(異動で来る回数が減ったことも現状が悪化した原因)にも相談しましたが、改善する見込みもなさそうなので、とりあえずキリのいいところでけじめをつけて辞めようとは思ってますが......少年団にはこのようなチームが多いのでしょうか?逆にクラブチームにはこのようなチームが少ないのでしょうか?もしよろしければ意見を聞かせてください。<池上さんからのアドバイス>ご相談ありがとうございます。コーチ同士がいろいろな話ができる環境であれば、パワーハラスメントや指導スタイルの話をしてもいいと思います。■その人に矢印を向けず「少年サッカーのパワハラ」のように話題提供してみるその方に矢印を向けるのではなく「少年サッカーでもパワハラが問題になっていますね。どうしてそんなに厳しくするんですかね?」みたいな話題提供をして、他のコーチたちが話を進めるサポートをしてはいかがでしょうか。そこでさまざまな意見が出て議論が深まれば、その方はそういった指導がしづらくなるはずです。まずは質問や話題提供といったかたちでコーチ同士で話し合う。そんな機会をつくれるのが一番よいと私は思います。ところが、日本ではそのような文化というか習慣がありません。結局、ネガティブな話をすると、各々がそれを受け止められずコーチ間の関係がギクシャクしてしまうことが少なくないようです。■「みんなで学ぶ」場を設けて意識を変えるきっかけにするのも手しかしながら、全体を統括する代表の方が職場異動のため来られる回数が減ったと書いてあります。代表の方がリーダーシップをとって改善を進めてくださるといいのですが、それが望めそうになければ、クラブやチーム以外の第三者を呼んで話をしてもらったり、みんなで学ぶ場を設けると意識を変えるひとつのきっかけになるはずです。基本的に、このようなタイプの指導者は、日本にはまだまだたくさんいらっしゃいます。そして残念ながら、そういう人たちが育成の中心になっている現実も否めません。そういったパワハラを続けているコーチに対し、保護者の皆さんも「厳しく言ってくれる」「怒ってくれる」と評価しているようです。強い態度で指導するコーチが評価される空気をまずは変えなくてはいけないでしょう。■解決の第一歩目は、代表と話をすることさて、方策としては、まずは代表と話をしたほうがいいでしょう。一歩目はそこだと思います。代表の方と話をして、そのクラブがどんなフィロソフィーを持っているか?そういうことをあらためて皆さんで話し合う必要があるでしょう。例えば「もう一度大人同士で確認しませんか?」と提案してみてはいかがでしょうか。最初は「コーチみんなで話をしたい」と要望を出してみることをお勧めします。■決して良いとは言えない環境なのに子どもを所属させ続けるのはどうして?相談文を読むとあきらめムードな印象を受けます。切りのいいところでけじめをつけてやめるとありますが、お父さんがコーチをやめたとしてもお子さんは残るわけです。決して良いとはいえない指導環境なのに、息子さんはそこでプレーさせるのはどうでしょうか。正直に言うと、このコーチの方はなかなか変われないかもしれません。であればなおさら息子さんのことを考えなくてはいけません。私だったら、コーチをやめる前に子どもに相談すると思います。今のチームや、コーチの指導について、自分はこう思う。なかなか変わってくれそうにない。だから、指導をやめようと思うけれど、君はどうしますか?そんな質問をすると思います。とはいえ、12歳以下なので小学6年生。最終学年の活動になります。息子さんからすれば、仲間もいるでしょうしやめづらいはずです。他のチームへ移籍するという選択も、まだ低学年や3~4年生ならまだしも6年生ではなかなか難しいでしょう。■どんな環境でサッカーをしたいか、子ども自身が考えるチャンスでもあるまたよく読むと「息子たち」と書かれているので、このチームに複数所属しているようです。そうなると、兄弟で違うチームになれば、サポートする親御さんもいろいろと忙しくなりそうです。そのように多角的に見ていくと、兄弟全員でチームを替えるか、全員残るかという選択になるでしょうか。とにもかくにも、息子さんに「どうしたい?」と尋ねて、「いや、友達もいるし」となったときは、そのまま中学に上がるまで同じチームでプレーすることになりそうです。当然ながら、子どもにとって一番いい環境にいることが望ましい。パワハラもない、楽しく、心理的な安全が確保される環境でサッカーをやってほしいと私も思います。が、上述したように、サッカーはチームスポーツなので友達関係など無視できない要素があります。サッカーの指導の質だけが条件ではありません。しかしながら、逆に考えると、どんな環境でサッカーをしたいか?という大事なことを、子どもが考えるチャンスでもあります。この際なので、親子で「なんのためにサッカーをするのか」「なぜサッカーが好きか」「どんな環境でサッカーをしたいか」といったことを話し合ってはいかがでしょうか。ぜひ、問いかけて息子さんの意見を聴いてあげてください。■個人を責めるだけでは状況は変わらないそうならないためには......(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)また、ご相談文には、そのコーチの方が「一人で(ドリブルで)行くな!」「(守備の時)何で行かないんだ!」と指示が多いと書かれています。実際どんな場面で言ってしまうのかがわからないので何とも言えませんが、そういったことを責めるだけではこの問題は解決しません。この「個人を責めるだけでは変わらない」ことはぜひ覚えておいてください。この方がもしもやめたとしても、また何年後かに同じような方が入って来てまた同じ問題が起きるかもしれません。そういったことがないように、チーム全体で「自分たちコーチ陣は、どうやってて子どもを育てるのか」「どんなことが条件なのか」といったことを話し合ったほうがいいでしょう。個人攻撃をするのではなく、「一緒に勉強しませんか?」という姿勢を忘れないでほしいです。池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
2025年04月18日小学校からのサッカーの習い方、週に何回行くべきか、個人練習は何をしたらいいのかわからない。おすすめの「習い方」があれば教えてほしい、というご相談をいただきました。わが子に合った練習回数、強度が知りたい、「習い事の正解が知りたい」と思う方もいますよね。子どもがやっているスポーツを親が未経験だとそのような意識を持つ方もいるようです。スポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、子どものスポーツに「リラックスしてつきあう」ためのアドバイスを送ります。(構成・文:島沢優子)(写真は少年サッカーのイメージご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<人一倍繊細な息子、「ミスしたら怒られる」と泣き出すように。親の期待が強くて無理させていたのか問題<サッカーママからのご相談>幼稚園サッカーを年長になってから始め、とても楽しんでいます。年少からやってる子や、小学校のキッズクラブ、習い事でサッカークラブに入っている子たちに比べたら全然ですが、動きも上手くなってきました。幼稚園の先生方の指導がうまくて、本人はサッカーが得意なんだ! と本当に大好きになりました。1年生に上がってからのサッカーの続け方に悩んでいます。小学校の土日に練習があるクラブチームは指導が保護者で結構厳しいようです。平日にやってる近くのクラブは技術を練習するのをメインでしていたり、夜6時台からの楽しむ試合メインのクラブもあるようです。幼稚園サッカーは小学生は参加できないので、引き続き息子に合うサッカーの習えるところについて悩んでいます。ちなみに私も夫もスイマーで、サッカーには触れてきていないのでどういう習い方が一番いいのかが全くわかりません。週何回行くべきとか、なにを個人練習したらいいとか。小学生からのおすすめの習い方があれば教えてください。<島沢さんからの回答>ご相談ありがとうございます。私がお母さんにお伝えしたいことは、大きく分けて3つあります。■親はサッカーに詳しくならなくていいリラックスして楽に構えよう1つめ。息子さんのサッカーのことに少し力が入っていませんか。力が入り過ぎると、過干渉になりがちです。もう少し息子さんがどうするかを見守りましょう。親が先行せず、後ろについて回るイメージで寄り添ってください。お母さんもお父さんもスイマーとのこと、自分たちの運動歴にはないサッカーをさせているのはとてもいいですね。自分もやっていると、どうしても自分と子どもを比べたり、競技を知っているがゆえに、ああしろ、こうしろといろいろうるさく言いたくなります。が、自分たちとは縁遠い競技であれば、完全に素人。例えば「うわ、足でボールをそんなに操れるのはすごいね」と思わず子どもを尊敬の目で見てしまいます。私も自分はバスケットボールをしていたので、何十回と続けてリフティングできる息子や娘に「なんでそんなことできるの?」といつも感動させられました。したがって、どうかサッカーにあまり詳しくならないでもらいたいです。そう言うと「いや、逆でしょ」と言われそうです。子どもがやってるのだから詳しくならなきゃ!ちゃんと考えてあげなければ!と力が入っているのではないでしょうか。どうかもっとリラックスして楽に構えましょう。親があれこれ探してこなくても、小学校に通っていればサッカーをする仲間とも出会います。そうすると「僕はこのクラブに入ったから一緒に行こう」などと誘われたりします。もしくは、通学路に看板があったとか、グラウンドがあったとか、自分で見つけてくるはずです。そうやって息子さんが見つけてきたチームに一緒に見学に行ってみてはどうでしょうか。■チーム、スクールなど所属先を選ぶ際に大事な6つの要素2つめ。お母さんのいう「習い方」のひとつは、チーム選びかと思います。その際、私が大切にしてほしい要素は以下の6つです。1.子どもの足で通えるなど、自宅と比較的近い場所で練習しているチーム。2.○○大会優勝など、強いことをアピールするのではなく「サッカーの楽しさを伝えます」といったビジョンを掲げているチームが望ましい。3.子どもを怒鳴ったり、過度に厳しくしたりしないチーム。4.活動(練習)回数が選べる自由度があるのが理想。もしくは「週に3回以上来ないとダメ」といった縛りがないチーム。5.全員に対し、ほぼ平等に試合に参加させてくれるチーム。6.夜遅い時間に活動しないチーム。毎日夜8時から9時の間に就寝する生活リズムをキープできるチーム。これらを優先項目にして、お子さんと一緒に考えてみましょう。また、いきなりチームに所属せずに、2、3年生くらいまで平日か土曜日などのスクールしか選ばない子もいます。ずっとサッカー漬けでは、週末に親御さんやほかのきょうだいと一緒に出掛けたり、遊ぶこともできません。早期教育に走るよりも、家族の時間を大切にして過ごすのもいいでしょう。■手取り足取り教えてもらう「習い事」ではなく「好きで楽しむもの」と心得るほうが上手くなる(写真は少年サッカーのイメージご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)3つめ。サッカーなど、スポーツは「習い事」ではないと心得ましょう。相談文に「どういう習い方が一番いいのかが全くわかりません」とあり、最後に「おすすめの習い方があれば教えて」と書かれています。始める入口は特に大人に基礎的なことを教えてもらう場面は多いでしょう。とはいえ、サッカーは上達するために人から習うものではありません。楽しくて夢中になっているうちに知らない間に上手くなっている。そのようなとらえ方をしてください。私がつくった本で『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(カンゼン)という書籍があります。この本は、8万部のベストセラー『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(小学館)の著者である池上正コーチが監修し、私が書いたものです。サッカー関連の「ことば辞典」で、「ドリブル」とか「パス」といったよくある言葉を、本質をつく視点で解説しています。そして、その中に「習い事」も載っています。一部抜粋してご紹介します。「サッカーは習い事です」そのように話す保護者や子どもが非常に多いです。スクールやスポーツクラブなどに通わせている方は、月謝を払っているからでしょうか。月謝を払っているからには上手くなってもらいたい。それでなくてはお金がもったいない。そのようにとらえられています。このことは、ずいぶん以前から非常に気になっています。反対に、私はサッカーは「遊び」だと思っています。「スポーツ(sports)」の語源は「遊び」です。技術を習得したり、上手くなりたい、試合に勝ちたいといった気持ちはもちろん大事ですが、小学生ではそれらはすべて遊びだと考えてほしい。ところが、保護者や指導者が過度にわが子に期待して力が入ってしまうと、子どもは練習や試合のたびにストレスを感じるようになってしまいます。遊びだと思っていないので、出来栄えや結果が気になって仕方ありません。大人たちの顔色、もっとエスカレートすると、仲間の顔色までうかがうようになります。(中略)「サッカーは習い事じゃなくて遊びだよね」親子とも、そのように考えられるほうがもっと上達します。出典:『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(カンゼン)いかがでしょうか。どうか、サッカーを楽しむ、好きになるということを第一に考えてあげてください。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)ジャーナリスト。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』『東洋経済オンライン』などでスポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』(小学館)『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)『部活があぶない』(講談社現代新書)『スポーツ毒親 暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか』(文藝春秋)『オシムの遺産彼らに授けたもうひとつの言葉』(竹書房)など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著・小学館)『教えないスキルビジャレアルに学ぶ7つの人材育成術』(佐伯夕利子著・小学館新書)など企画構成者としてもヒット作が多く、指導者や保護者向けの講演も精力的に行っている。日本バスケットボール協会インテグリティ委員、沖縄県部活動改革推進委員、朝日新聞デジタルコメンテーター。1男1女の母。
2025年04月16日サッカーをする上で、避けて通りたいのが「ケガ」です。特に子どもたちにとって、ケガは成長を左右する重要な問題です。ケガをしやすい子には何か特徴があるのでしょうか。また、どうすれば効果的に予防できるのでしょうか。著書「スポーツ万能の子どもの育て方」でおなじみ、いわきスポーツクラブ(いわきFC)アカデミーやドームアスリートハウスアスレチックアカデミーのアドバイザーを務める強化育成の専門家である小俣よしのぶさんに、につ子どものケガの特徴と、その予防法いて話を聞きました。(取材・文鈴木智之)(写真は少年サッカーのイメージ)関連記事:「うちの子運動神経が悪くて」と悩む親必見!「サッカー以前」に必要な運動スキルとは■疲労の蓄積に注意ケガは、大きく2つのタイプに分けられます。打撲や捻挫、骨折などの『外傷』と、長期に渡って影響が出る『障害』です。特に注意が必要なのは後者で、適切な対処を怠ると、最悪の場合、サッカーを続けられなくなる可能性もあります。「ケガと一言で言っても、実はいろいろな種類があります。外傷は、転倒や接触によって起こる捻挫、打撲、骨折などの1回限りのケガです。適切な処置をすれば、回復が見込めます。一方で、障害は反復練習や長時間の練習による疲労の蓄積などが原因で起こります。具体的には疲労骨折や、成長期特有の骨の変形、慢性的な関節の痛みなどが該当します」小俣さんは「ケガの予防には、体の疲労に注目する必要があります。疲労が蓄積すると、練習に耐える力が低下し、それが体つきにも表れてきます」と説明します。「練習とは、体に負荷をかけて体の機能を『破壊』する行為です。その破壊された部分を修復するために『食事』が必要で、修復の時間として『休養』が必要です。このサイクルをうまく回すことで、健全に成長していきます」■練習量が多いのに食事や休養が不十分だと、身体が十分回復せず成長が鈍化するさらに、こう続けます。「トレーニングで体を破壊したとしても、その度合いが小さく、食事という修復材料と休養という修復期間が十分であれば、体は元気に回復して成長します。ところが、これが逆転してしまうと問題です。練習による破壊が大きすぎる上に、食事も休養も不十分だと、元気が回復できず、成長が鈍化してしまうのです」現代の子どもたちの多くは、このバランスが崩れていると言います。「いまの子どもたちはクラブとスクールの掛け持ちなど、練習量が多すぎる一方で、食事や休養が不十分だと感じることがあります。その結果、疲労が蓄積され、ケガのリスクが高まってしまうのです。プロや大学生になってから強度を上げればいいのに、子どものうちから、強い負荷をかけすぎている状況が見られます」■子どもの身体で最も負荷に弱いのが骨格系さらに小俣さんは「負荷耐性」という、スポーツ関わる人にとって、知っておきたい概念についても解説してくれました。「シーズン中の試合や練習、フィジカルトレーニングなど、すべてが身体への負荷となります。この負荷に耐えて、ケガや障害を起こすことなく適応できる能力を『負荷耐性』と呼びます。トレーニング、栄養、休養のサイクルを上手く回すことで、負荷耐性は高まっていきますが、ハードなトレーニングをしているにも関わらず、栄養と休養が十分にとれてうないと、負荷に耐えられず、適応能力が低下していき、ケガにつながります」負荷耐性が低下すると、身体の中で最も弱い部分から順に問題が生じるそうです。なかでも注意が必要なのは、成長期の骨の状態です。ドイツのスポーツ医学の専門家フロイナー医学博士氏によると、子どもの体の中で、最も負荷に弱いのが骨格系だといいます。「骨端線が閉じていない成長期の子どもは、骨や関節がまだスカスカな状態です。また身長の伸びが止まり、筋力が付いても骨や関節の強度は弱いままなんです。特に日本の子どもは欧米に比べて早熟なので、小学生の時期から注意が必要です。身長の伸びが止まったからと言って大人と同じように扱ってはいけません」こうした状態で過度な負荷がかかると、問題が生じてきます。「サッカーをする子どもの場合、下半身は鍛えられていても上半身が弱いことが多いです。転倒時に手をついて肩を脱臼したり、骨折したりすることがあります。また、もともと弱い関節や身体部位に負荷がかかって、足関節の痛みや指の骨折などが起きやすい傾向があります」■小学生年代でトレーニングのしすぎは逆効果(写真は少年サッカーのイメージ)成長期の子どもは、大人に比べてケガをしやすい。当たり前のことですが、頭に入れておきたいものです。「上のカテゴリーに進むほど、練習の強度は上がり、時間も長くなります。その負荷に耐えられる体づくりを、段階的に行っていく必要があります。焦って負荷を上げすぎると、取り返しのつかない事態を招きかねません。育成年代でケガによる離脱の多くは、負荷耐性が整っていないことが原因だと考えられます」成長期の子どもにとって、トレーニングのしすぎは体に悪影響を与えるおそれがある。それを知っておくことが、子どものサッカーに携わる指導者、保護者の役目だと言えるでしょう。「あの子は毎日練習しているから......など、焦る気持ちもわかりますが、本格的に競争のフェーズに入っていくのは、中学2、3年生頃でいいと思います。成長の真っ只中にある、小学生年代での過剰なトレーニングは、効果があるどころか、ケガにつながりかねないので、親御さんが注意深く、見守ってあげてください」次回の記事では、成長期の子どもに見られがちな「ケガの兆候」と「具体的な対処法」について、解説していただきます。
2025年04月09日皆さんはお子さんのサッカーで何を大事にしていますか。公式戦が始まる年代になると特にその傾向が強くなり、子どもより親が勝利を求めて熱くなったり、上手い子だけが試合に出続ける状況もまだまだあります。サカイクでは、上手くなる、勝たせるの前に大事な親の心得10か条を提案していますが、サカイク的な考えに対して「弱いチームがやること」「下手な子が自信をつけるためにやることでしょう」といった考えを持つ方も少なくないようです。SNSで「(サカイク10か条は)私達が大切にしたいこと。簡単なことのようで非常難しい。けど、楚辺SCはこれを大事にしていく」と宣言している沖縄県の楚辺SC。周囲のチームはまだまだ「強くしてほしい」「勝たせるための練習を」という声も多い中、どうしてそのような決意したのか、チームを創設した松田さんご夫妻に真意を聞きました。(文・木村芽久美)(写真提供:楚辺SC)関連記事:保護者とのコミュニケーションが希薄で、些細な諍いが絶えなかった大所帯チームを変えた、保護者と指導者の「10の心得」とは■中学でバーンアウトする子が多い中、「ずっとサッカーを楽しめるチーム」を作りたかった(写真提供:楚辺SC)自身も社会人チームでプレーヤーとして仕事をしながらサッカー選手としても活動していた松田塁さん(夫、以下松田さん)は2019年に楚辺SCを立ち上げました。きっかけは、お子さんが小学生年代、サッカーの活動でなかなか休みがなく、家族の時間が作れなかったこと、また中学年代までサッカーを続ける子たちが少なく、バーンアウトする(燃え尽き症候群)子が多かったことからでした。「少ない練習でもサッカーを頑張ってできるような、余白のあるチームを作りたいと思った」と話す松田さんは、サカイク10か条を知った時「これこそ自分たちがサッカーを楽しむために大切にしたいことだ」と感じ、賛同したのだそうです。■背景に根強くある、勝利のための厳しい指導や保護者の要求バーンアウトの背景には勝利のための厳しい指導や、子どもが思考停止してしまうような言葉かけもあるのだと松田さんは話します。かつての「部活動の厳しさ」を求める保護者も根強くいて、そういう保護者からすると、楚辺SCの考え方は、子どもたちにとって甘いという風に捉えられてしまっているのだそうです。「最近指示でしか動けない、いわゆる『指示待ちの子ども』が増えているのを感じているんです。大人が口を出して子どもを動かした方が、すぐに子どもたちの変化も見えるので、一見良いように思われがちですが、やっぱり子どもが成長していく上で、『本当の意味での成長』はないんじゃないかと思ったりもします。確かに結果はすぐには出ないかもしれないし、遠回りしてるように見えるかもしれませんが」と、教員でもある妻の沢子さんは、子どもたちの主体性の大切さについて見解を示しています。■サカイク10か条に賛同する保護者が増え、ポジティブな声かけをするように(写真提供:楚辺SC)沖縄は地理的なことからも「変化を嫌う」閉鎖的な面も持っているのだそうです。そのため、当初楚辺SCの考え方は「ニューフェイス的な感じ」として、すぐには受け入れてもらえなかったのですが、SNSを通じた発信などから、賛同してくれる人が徐々に増えたのだといいます。また楚辺SCに入部する際、必ずサカイク10か条のチラシを保護者に渡すようにしていて「楚辺SCは、すごく大人の我慢が必要なクラブチームですよ」と説明しているのだそうです。サカイクの発信は、保護者とも一緒に勉強していく上で良い基盤になっているそうで、サカイクの考えに賛同する保護者も増えていると言います。試合会場でも、他のチームの保護者が「シュート出せ!」「パスしろ!」などと指示を出していると、楚辺SCの保護者からは「あっちはうるさいね〜(笑)」というような声を聞くこともあり、子どもたちへのポジティブな声かけも増え、考えが浸透してきていると実感しているそうです。■沖縄という地域ならではの「機械格差」、サッカーを通じて子どもたちの世界を広げてあげたい(写真提供:楚辺SC)昨年11月には佐賀県に遠征をし、サガン鳥栖の協力のもと、試合観戦やプロの選手との交流を図ることができたのだそうです。「プロサッカー選手になりたいって言っている子どもたちもたくさんいる中で、沖縄だとまだまだ閉鎖的で色々な経験ができないんです。子どもたちの世界を広げてあげたい、『もっと世界は広いんだよ』っていうのを子どもたちに感じてほしいという想いがあります」離島という地理的な問題は大きく、全国に比べると幅広い機会が少ない「機会格差」があるといいます。子どもたちが「楽しかった!」と言っていたことに加え、同行していった保護者からも、毎年続けてほしいと好評で、チームにとって貴重な経験が出来たと、引き続き続けていきたいと話しています。■子どもたちが心からサッカーを楽しむために、普段から大切にしていることとは?(写真提供:楚辺SC)サカイクの発信や10か条について、「大人の私たちも学び直しができるからありがたい」と松田さんは言います。特に(1、子どもがサッカーを楽しむために最優先して考えよう)を実践するために、普段からどんな練習や活動をすれば、子どもたちが楽しんでくれるかと考えを巡らせているそうです。教員である沢子さんは、普段から『失敗してもいいんだよ』という教室での雰囲気作りを心がけていて、(6、ポジティブな応援をしよう)が、まさに現場で大切にしていたことだったのだそうです。「やっぱり子どもは大人のこと見ていますから。大人が子どものミスを咎めるような環境では、子ども同士でもそうなってしまうと思うんです」楚辺SCでも同じようにポジティブな雰囲気作りをしていることで、子どもたちが伸び伸びとサッカーができていると実感していると嬉しそうに語ります。■様々な取り組みへの工夫から、中学年代でサッカーを辞める子が一人もいなくなった楚辺SCは子どもたちに合わせた試合や交流を重視しているため、リーグ戦を重視したり、4人制の試合を行ったり、サッカー協会に登録せずに自分たちで工夫してローカル大会を開いているそうです。同じ考えを持つチームは少しずつ増えてきているそうで、もっと賛同者を増やしていきたいと意欲を示しています。このような活動が実を結び、楚辺SCの最初の卒業生である、現在中2の子どもたちは、全員今もサッカーを続けているといいます。今後は子ども食堂とコラボレーションした大会やサカイクのサッカーノート導入を企画中とのことで、多角的に子どもたちがサッカーを楽しめる企画を考えているのだそうです。試合の勝敗だけを意識するのではなく、大人が視野を広げることで、サッカーは子どもたちの世界を広げる良い機会にもなります。本質的にサッカーを楽しむために、サッカーを通じて子どもたちの生きる力や主体性を育むために、あなたのチームでもサカイク10か条を配布してみませんか?
2025年04月03日ウォーミングアップで鳥かごを取り入れているが、ずっと奪えない子がいる。自分が介入しているけど、対応に迷う。いいメニューだと思うけど、もっといいやり方はある?本やネットで練習メニューを探すけど、玉石混交だと思うし......。という悩みをいただきました。今回も、ジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上のあらゆる年代の子どもたちを指導してきた池上正さんが、お父さんコーチの悩みにアドバイスを送ります。(取材・文島沢優子)(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)<<プレーするとき腰の位置が高い。膝が固くてクッションが効かずボールコントロールができない子におすすめの練習法はある?<お父さんコーチからの質問>池上さん初めまして。とある街クラブで指導をしています。(指導年代:U-11)早速ですが質問です。4、5年生ぐらいのウォーミングアップとしておすすめのメニューはありますか。鳥かごをやっているチームは多いと思いますが、ボールを奪えなくてずっと交代なしの子とかがいます。そんな時は私のほうで選手交代を指示しますが......。良いメニューだと思いますが、こういったずっとボールを奪えない子に対しての対応も悩みます。保護者兼指導者という立場であり、サッカー経験もないので練習メニューもワンパターンというか引き出しが少ないです。いつも同じメニューだと子どもたちも慣れて飽きると思うので、バリエーションを増やしたいと思っています。ネットで検索すればいろんな動画があるのもわかっていますが、情報が玉石混交だと思い、池上さんにお聞きしたいと思った次第です。鳥かご以外の良いウォーミングアップ方法などがあれば、教えていただけないでしょうか。<池上さんからのアドバイス>ご相談ありがとうございます。まず、「鳥かごをやってるときにボールを奪えなくて交代なしになる子がいる」とあります。これは本当によくあることです。子どもたちは鳥かごでディフェンスをする人のことを「鬼」と呼びます。それは「ボールを取られるのはいけないこと」という発想です。そうなると、どうしても取られないようにするためにグリッドが広がっていきます。そんなことが起きています。グリッドが広がればディフェンスの子はだんだんついていけなくなるので、ますますオフェンス側に有利になります。■自分たちでグリッドのサイズを決めさせるよって、私はこの練習のときいつも言うのは「自分たちでサイズを決めましょう」と声を掛けます。グリッドを決めておくためにマーカーを置いたりしますが、そういった決め方ではなく、自分たちで調整できるようにやってくださいねと話します。もしくは、ひとりがずっとディフェンスをしているグループのところに行って、ストップをかけます。そこで「今、中の人が全然取れないよね。それは外の人たちが広がってるからだよね。狭いなかでボールコントロールするトレーニングでしょ?そんなことをずっとやってて上手くなりますか?」という話をします。「外の人のグリッドが小さくなると、どうなるの?」と尋ねれば「難しくなる」と言います。そこで「大きくなるのと、小さくなるのとどちらが上手くなると思う?」と。そこでもう理解できるので「そうだよね。上手くなりたい人は、サイズを考えてごらん」と話します。簡単なことばかりやらないで難しいことにチャレンジしてごらんよということです。■ウォーミングアップであれば、時間を決めて交代するなどのオーガナイズをしたら良い場面がウォーミングアップだとしたら、例えば時間を決めて交代してやればいいのです。30秒間だけやるよと告げてやってみる。はい、次交替ねと言って。30秒の間に何回取れるかな?とやってみるのもひとつのやり方です。つまり、オーガナイズを変えるということです。オーガナイズを変えればいいのですが、多くの場合、子どもに何かを言って、子どもを動かそうとしがちです。■本やネットで知ったメニューを、そのままやってみることも大事後半のお話では「情報が玉石混交だ」と書かれています。でも、例えば本を買ってみたり、ネットなどで検索して出会ったメニューを、勇気を持ってそのままやってみることをお勧めします。それが効果的かどうか、自分のその時点でのチームに合ってるかどうかはやってみないとわかりません。私自身、過去に本から選んだ練習を試した時に、子どもたちがどうもしっくり来なかった経験は何度もあります。自信が持てない練習であっても、目の前にいる子どもたちは喜んでやるかなと思ってやってみたらはまったということはたくさんあります。したがって、今日はこれとこれをチャレンジしようとか、体系が違うこれとこれをやってみようというふうに提供してみます。あくまでも「やってみる」ことが大事です。ひとつのメニューでも、子どもたちはどんどん違うことをやったりします。そこが面白いのです。とはいえ、うまくいかないものもあるでしょう。そんなときのことを考えて、私はあらかじめ四つぐらいメニューを考えておいて、まずは「これとこれ二つやろう」とやってみます。そこで「楽しくなかったら言ってね」とそんなふうにやります。そうすると、指導者自身の能力も上がっていくと思います。■上手くいかなかったら変えてみる、臨機応変に対応をしようコーチの皆さんは、練習がうまくいかなかったらメニューを変えることに少々抵抗があるようです。どうしてできないんだろう?と考えてはいるけれど、目の前の子どもたちの理解度が低いとか、やろうとする子がいない、真面目にやってないとか、先ほども伝えましたが、そういった子どもを責める方向へいってしまう傾向があります。そこで理解できないのはどうしてかな?と思ったら、もう一度説明してみる。あるいはそこで少しルール(オーガナイズ)を変えてみることです。私も講習会などでインストラクターをすることがありますが、皆さん練習メニューを考えてきていらっしゃいます。が、考えてきたものをそのままやろうとします。そこで「うまくいかないときは変えた方がいいですよ」とアドバイスします。ライセンスの講習会だからといっても、頑張って用意してきたとしても、それをそのままやるのがいいわけではない。考えてきたけど、うまくいかないのなら「次の事をその場で考えて、思いつきでやるっていうのはすごく大事なことです。考えてきたことじゃないことをやってもらっても全然大丈夫ですよ」と伝えます。要するに臨機応変にできるかどうか。そこが大切だと知ってほしいと思ってやっています。■練習のポイントは子どもたちが見つける必要がある(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)例えば、私が関わってる京都府宇治市の少年サッカーでは「宇治市の少年サッカー指導指針」というものを今作っています。その指針に合わせた練習メニューです。その練習メニューの巻頭言には「この練習をこんなふうに教えましょう、ここがポイントですといったことは何も書かれていません」と伝えています。書かない理由は、それ(練習のポイント)を子どもたちが見つける必要があるからです。よって、われわれはそれを練習がうまくいくよう解説するのではなく、どうしたらうまくいくかを子どもたちに考えさせるかたちで練習を進めてください。今回の練習メニューはそういった特徴があります――。そのように巻頭言に書かれています。ということは、コーチも答えを教えてもらえない。自分で考えなくてはいけないということです。ご相談者様も、ぜひそのことに向き合って欲しいと思います。池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
2025年04月01日人一倍繊細な息子。公式戦や強豪との試合が増えコーチの指導も厳しくなったことに不安が強くなり「ミスしたら怒られる」「行きたくない」と泣き出すように。サカイクで親としてのあり方を学んでいるところだけど、親の期待が強くなり本人に無理をさせてしまっていたのかも......。今後コーチや子どもにどう対応すればいい?というご相談をいただきました。スポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、悩めるお母さんの背中をそっと押すようなアドバイスを送ります。(構成・文:島沢優子)(写真は少年サッカーのイメージご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<2週間でリフティング百回できなければサッカーやめろと言う夫を何とかしたいけれど、どうしていいかわかりません問題<サッカーママからのご相談>サッカー歴4年の10歳の息子がいます。最近、公式戦や県内外の強豪チームとの試合が増えてきました。コーチの指導は厳しくなり、息子の不安が強くなって試合に行きたくないと言うことが増えてきました。しばらくは元気づけて送り出したのですが、「ミスしたらすごく怒られる」「クラブに行きたくない」と泣き出すようになりました。チームは低学年のうちは負けてばかりで、まともにサッカーができるレベルではありませんでしたが、試合数を重ねるごとにレベルが上がり、県内の公式戦でも一定の結果がでるまで成長しました。息子はおとなしく目立つほうではないですが、休まず練習や試合に参加し、レギュラーで出場できるようになりました。試合では点を取ったり、決して上手で目立つタイプではないですが、献身的なプレーをしたりチームを鼓舞できる良さがあります。親としてもそんな息子を誇らしく期待していたのですが、試合でコーチから厳しく叱責されるのが耐えられなくなっていったようです。私も本人が人一倍繊細な子なので、試合後は内容が悪くても一つでも良かったことを思い出すように、何よりサッカーを楽しむよう伝えてきました。コーチは指導経験もある方で、私も長く子どもがお世話になっているので、感謝しています。しかし、最近は指導に熱が入るようになり、試合の度に200%の力を出すように子ども達に声をかけています。最初はあまり疑問を持たずに試合で全力を出すことが大事なんだなと思っていましたが、今となっては特に繊細な息子には負担でしかなかったのではと考えるようになりました。私はこのサカイクで親としてのあり方を学んでいるところで、まだまだ未熟です。これまでも、親の期待が強くなるあまり、本人に無理をさせてしまっていたところがあり、反省点です。このような状態ですが、現チームに所属し続けるのか、子どもとよく話し合って決めようと思います。今のところ、サッカーそのものは楽しいそうで何よりの救いです。今すぐに辞めるという事はないですが、とりあえず一旦休ませようと思います。今後、コーチや子どもとどのように対応していけば良いでしょうか。アドバイス宜しくお願いします<島沢さんからの回答>ご相談ありがとうございます。お母さんからのメールを読むと、もうすでに答えは出ていると感じます。私に伝えて自分の考えが合っているかどうか。もちろん正解はひとつではないけれど、ご自分が考え抜いた対応方法について意見を聞きたい、確認したい、背中を押してほしかったのかなと思いました。選んでいただいてとても嬉しいです。■親をがっかりさせないよう弱音を吐けない子もいる中で、親に弱音を吐けたことは良いことさて、冒頭で書いたように、もうお母さんの答えは出ています。息子さんをとりあえず一旦休ませる。とても良いことだと思います。何よりも、息子さんがお母さんに「ミスしたらすごく怒られる」「クラブに行きたくない」と言えたこと、そしてお母さんの前で涙を流せたことも良かったですね。なかには、コーチの不適切な指導に悩んでいても、それを親に言い出せない子どももいます。がっかりさせるのではないか、「そんなことぐらいで」と叱られるのではないかと想像してしまうようです。弱音を親に吐けたということは「何を言ってもお母さんは僕の味方だ」と思っている。家庭が安全基地になっているひとつの証左です。ぜひ現在の姿勢を継続するかたちで、今のチームでサッカーを続けるか否かを息子さんと話し合ってください。■いつ、どんなことを言われ、何が嫌だったのか、心身に影響はないかなど細かく確認してその際は、チームにとどまるかどうかをすぐ尋ねるのではなく、コーチに、いつ、どんなことを言われたのか。何が嫌だったのか。夜眠れないとか、勉強が手につかないとか、お腹が痛くなったりすることはなかったのか。ほかの子のなかに、コーチにミスをとがめられている子はいないのか。嫌な気持ちになることを仲間と話したりしているのかなど、細かく聞いておきましょう。もしこれまでも詳細を聞いていて、情報が整理できているのなら問題ありません。なぜそこを整理してほしいかというと、いったん休むことを恐らくコーチに親のほうから話さなければならないかと思います。子ども本人に休む報告をさせたほうがいいという意見を聞いたことがありますが、そんなことが堂々とできるのであれば休む必要はないわけです。■「指導が不適切」「パワハラ」という言い方でクレーム扱いされると拗れる、事実を淡々と伝えて基本的にコーチと選手はその肩書があるだけですでに主従関係が存在します。大人であるコーチのほうがそこの枠を外し、少しでも対等な関係性を築くべきだと私は思います。が、現在所属しているチームのコーチはそうではなさそうです。現状、お母さんのほうから説明しなくてはなりません。そこでは、息子さんが委縮していることをきちんと伝えましょう。あなたの指導はおかしいとか、パワーハラスメントだといったコーチへの評価や意見を述べるのではなく、息子さんがこれまでつらいと言ったこと、家での様子、今回休むにあたってあらためて息子さんと話した内容、つまり「事実」をコーチに話してください。そういった事実がある。決して息子にとって良い状態ではないと話します。この点、本音としては「良い環境ではない」と言いたいところですが、あくまで息子の状態を話すよう努めてください。矢印をコーチの指導に向けないこと。ここが肝です。それなのに、親御さん、特にお父さんたちのなかに、こういった事実を伝える言い方ではなく「あなたの指導は不適切だ」「パワハラだ」とクレームになってしまうと話がこじれがちです。適切かどうかの判断は主観でもあるので、言い方に気をつけましょう。■コーチのタイプ、これまでの対応なども加味してなるべくよく話し合うようにしようもちろん、コーチがもっと理解がある方なのかもしれません。この相談文からはわからないので想像の域を出ないのですが、恐らくサッカーの技術向上に関しては指導力のあるコーチなのでしょう。よって強くなったとも言えます。しかし、勝つことに快感を覚えてしまい、もっと勝ちたいという気持ちが抑えられないのかもしれません。とはいえ、いいところもありそうです。息子さんの良さをよく理解しているからレギュラーに抜擢しているのかもしれません。お母さんがお書きになった「試合では点を取ったり、決して上手で目立つタイプではないですが、献身的なプレーをしたりチームを鼓舞できる良さ」という部分をわかっている方なのかどうか。そこも加味しつつ、話をするといいでしょう。そういった理解があるコーチならば、もしかしたら自身の指導者としてのあり方を反省し、謝るかもしれません。謝罪したうえで「態度をあらためるのでチームに残ってほしい。なるべく早くチームに戻って来てほしい」と言って息子さんを引き留める可能性もあります。コーチともなるべくよく話してください。■もしコーチが謝らなかったら......(写真は少年サッカーのイメージご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)謝罪もせず、お母さんとの話を早く切り上げようとする、保護者と向き合わないようなコーチであれば、すんなり休養に入り、その間にほかのチームを探しましょう。10歳ということは4年生。この春から5年生でしょうか。高学年にはなりますが、中学生になるまで2年あります。その点も息子さんとよく話し合ってください。お母さんはサカイクで勉強されているとのこと。伝える力があると思います。ご自分と、やってきた子育てに自信をもって進んでください。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)ジャーナリスト。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』『東洋経済オンライン』などでスポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』(小学館)『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)『部活があぶない』(講談社現代新書)『スポーツ毒親 暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか』(文藝春秋)『オシムの遺産彼らに授けたもうひとつの言葉』(竹書房)など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著・小学館)『教えないスキルビジャレアルに学ぶ7つの人材育成術』(佐伯夕利子著・小学館新書)など企画構成者としてもヒット作が多く、指導者や保護者向けの講演も精力的に行っている。日本バスケットボール協会インテグリティ委員、沖縄県部活動改革推進委員、朝日新聞デジタルコメンテーター。1男1女の母。
2025年03月26日サッカーのプレーをするとき腰の位置が高い選手。膝が固いのが原因のようで、ボールコントロールが上手くない。膝を柔らかく使うことを意識させようとしているが、なかなかうまく行かず......。練習の中に柔軟とか取り入れるべき?というご相談をいただきました。今回も、ジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上のあらゆる年代の子どもたちを指導してきた池上正さんが、膝を柔らかく使ったボールコントロールが身につくメニューを紹介します。(取材・文島沢優子)(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)<<止める、蹴るの上位スキル、上手い子たちがやっている「動きながら受けて、パス」を身に着けるにはどんな練習をしたらいい?<お父さんコーチからの質問>はじめまして。こんにちは。街クラブで指導をしているものです。(指導年代:U-12)一部の選手の話で恐縮なのですが、プレーをする際、腰が高い(膝が固い)ため、ボールをうまくコントロールできない選手がいます。練習で意識させようとコーチングをしますが、なかなか改善されません。柔軟などのメニューを取り入れるべきなのでしょうか。有効的な練習方法(コーチング方法)を教えてください。<池上さんからのアドバイス>ご相談ありがとうございます。最近の子どもたちの体型は我々世代とは明らかに変わってきています。子どもにもよりますが、足が長いです。よって、腰が高く見えてしまうとも言えます。ほかには、動きの要領がつかめない子も多そうです。■衝撃を吸収するための「クッションコントロール」をやってみよう例えば、手を使ってキャッチボールするとき、ボールを受けるためにキャッチの瞬間手を少し引きますね。手にあたる衝撃を吸収するための自然な動作です。それと同じように、サッカーでも足にボールが当たる瞬間に少し力を抜くというか、衝撃を吸収するようにしてコントロールします。指導者の間で「クッションコントロール」と呼ばれる技術です。このクッションコントロール、つまりボールを足下で止める練習をさせてください。対面パスをします。その際、例えばコーチが相手をしてあげて、少し強めにボールを蹴ってあげてください。それを足元にきっちり止める練習をします。短い時間でOKです。単に対面パスをするだけでなく、来たボールをコントロールして足で触りながら、180度ターンするトレーニングもいいと思います。前から来たボールをコントロールしながら後ろを向く感じです。ボールをインサイドに当てて、足を引くとターンできます。ボールがどこかに行ってしまわないよう、インサイドに当てたままボールの速度を落としながらターンしていくイメージです。それをインサイドでも、アウトサイドでもやります。そんなにたくさん行う必要はありません。感覚的なものを養えればいい。アップの時などにやって、試合中にやってごらんと意識させます。サッカーがそれなりにできる人たちは、そのまま遠心力を使ってインサイドに当てたまま360度回ることができます。遊びの中でやってもいいでしょう。また、止めるとき、ボールの半分よりやや上のほうに足を当てるとボールが止まりやすくなります。以前は「ボールの中心に足を当てなさい」と指導していましたが、ボールの真ん中に足を当てると跳ね返ってしまいます。これは風間八宏さんもそうおっしゃっているようです。私もやってみましたが、確かにその理屈で止めるとうまくいきます。■ボールを足の裏で止める動きもおすすめほかにもボールを足の裏で止めることをやってみましょう。フットサルをするときのボールコントロールをイメージしてもらいます。その際、上からボールを押さえるのではなく、グラウンド(地面)と自分の足が三角形になるようなイメージです。そうすればボールがうまく止まります。正確に自分の足元にしっかり止められるよう練習してみましょう。体が硬い、膝が硬いからではないかと書かれていますが、それらとボールコントロールのスキルはあまり関連性はありません。恐らく柔軟体操が効果的に働くことはないでしょう。とはいえ、人間の骨格の話で言うと、10歳くらいから徐々にではありますが老化が始るといわれています。日頃から体を使って動いて、遊んでいればすぐには硬くならないのですが、放課後や学校が休みの日にずっとゲームをしている、寝転んでいることが多いといった場合は、意識して体をほぐしたり動かしたりしてほしいものです。特に関節の可動域を広げるような遊びが求められます。昔なら、木登りや、河原で石を大きくまたいで歩くなど自然の中で遊べば体をうまい具合に使える環境だったのですが、現代の日本では難しくなっています。大人の工夫が必要です。■腰を低くしろ、とは言わないで実は海外の選手もみんな腰が高いすでにおわかりかと思いますが、子どもに腰を低くしろという指示はしないでください。よく見ると、海外の選手たちはみんな腰が高いです。足が長いからだけでなく、実はそのほが瞬発力を発揮できる。スピードが出るからです。トップスピードに乗るためには、腰は落としすぎるとなかなか乗れません。陸上の短距離選手は腰を落としたまま走ってはいませんね。その点でいうと、欧州や南米のサッカー選手は走る姿が陸上選手みたいです。日本の選手にはそのような印象はあまりないのではないでしょうか。あるとすれば三笘薫選手などが挙げられますが、なぜ違いがあるのでしょうか。実は一流クラブでは、ランニングコーチが選手のランニングフォームを整えてパフォーマンスをアップさせています。それをアンダーカテゴリーからやっています。一方の日本はそこが手薄です。ランニングフォームへの意識が高くありません。私が知っているのは、ジェフ千葉に在籍していたときのこと。祖母井秀隆さんがある時期、オランダからランニングコーチを毎年呼んで選手たちに指導してもらっていました。当時からオランダのアヤックスは、7歳からトップまですべてのカテゴリーをひとりのランニングコーチが指導していましたと記憶しています。■体幹の弱い子にも効果的なトレーニング(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)私のところの小学生のチームは、練習が終わってからランニングのトレーニングを少しだけやっています。地面にラダーみたいな輪っかを置いて、その幅を少し広くします。しっかりスピードを上げて、その輪っかに足を入れて走るよう伝えます。そうすると、フォームと体幹の両方を一度に鍛えることができる。今は体幹が弱い子も多いので効果的です。池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
2025年03月21日「現代の子どもの運動能力」について、様々なところで懸念されていますが、実際指導の現場ではどう感じているのでしょうか。サカイクキャンプの菊池健太コーチと「タニラダー講習会」を主宰する谷真一郎さんの対談、後編をお届けします。前編では、現代の子どもたちの運動能力低下や二極化する身体能力の現状、そして自己肯定感を高める方法について語ってもらいました。後編では、姿勢と学習能力の関係性、低学年からのトレーニングの効果、そして日常生活とサッカーの関連性など、具体的なアプローチにフォーカスし、子どもたちの可能性を引き出すヒントをお伝えします。(構成・鈴木智之)(写真は少年サッカーのイメージです)前編記事:転んだ時に手が付けない、サッカーするうえでもベースとなる運動が正しくできていない......、子どもの運動能力低下の原因と課題■姿勢と学習能力の関係性、サッカーでも良い選手は「良い姿勢」でプレーしている(写真は少年サッカーのイメージです)菊池健太(以下菊池):谷さんにお聞きしたいのが「姿勢」についてです。私は姿勢が学習能力や学校の勉強にもリンクするのではないかと思っています。サカイクキャンプの開会式で、子どもたちに座ってもらうと、猫背の子や斜めに座る子がいます。姿勢が整うだけでも、学力に影響があるのではないかと強く感じています。谷真一郎(以下谷):私たちは今、お尻で座っていますよね。お尻で座ると、骨盤が後傾しやすく、背中も丸まりがちです。私の知り合いで三笘薫選手と同じ時期に筑波大学で学んでいた人がいるのですが、彼はハムストリングス(太ももの裏)で座るというんです。そうすると骨盤が立ち、背中も自然と真っ直ぐになる。彼はずっとこの姿勢で授業を受けていました。彼に言わせると「これもトレーニング」とのことです。お尻ではなく、太ももの裏で座るという意識も大切なポイントです。菊池:私たちはよく「オフ・ザ・ピッチ」と「ピッチ上」の関連性について話すことがあります。姿勢の話もその一つですね。子どもたちに「良い姿勢とは何か」を伝えることで、集中してサッカーノートを書くことができるようになるでしょうし、考える力の向上にもつながると思います。保護者からは「うちの子はサッカーノートが続かない」「やる気がなさそうに見える」といった相談が多いです。確かに気持ちの問題もありますが、姿勢や取り組み方、環境も重要な要素です。その意味でも、姿勢の部分からアプローチできることは多いと思っています。谷:タニラダーキャンプでも、子どもたちにノートを書かせることがありますが、机に突っ伏して、髪と目がほんの数センチしか離れていないような状態の子もいます。その状態で考えるのと、正しい姿勢で考えるのでは、効果が全然違うと思います。そこで「どんな姿勢が頭良さそうに見えるかな?」と言うと、シュッと背筋を伸ばして座るようになります。そうやって、サッカー以外の部分にアプローチできるのも、キャンプ形式のトレーニングの良さですよね。菊池:ピッチに立ってボールを持つときも、姿勢が良い選手は胸を張って、全体が見える状態になります。サッカーと日常生活は繋がっていて、上手い選手はパッと見た瞬間に分かりますよね。日常生活の中からも、サッカーが上手くなる方法や意識すべき点がたくさんあることを、保護者の方にも伝えられれば、より良いアプローチができると思います。■わずかな差が勝敗に直結する足の接地の仕方一つでもスピードが変わる(写真は少年サッカーのイメージです)谷:サッカーは、わずかな差が勝敗に直結します。例えば、三笘選手の「1ミリ」。彼が1ミリ進むのに必要な時間は、100メートルを12秒で走るレベルの選手だとすると、約8300分の1秒(0.00012秒)です。スパイクのポイントに当たってコースが変わったり、キーパーの指先がボールに触れてコースが変わることもあります。その距離を進むのに必要な時間は1000分の1秒レベルなのです。ちょっとした足の接地の仕方を変えるだけで、0.2秒、0.3秒、0.4秒と変わってきます。トップレベルを目指す子どもには、「サッカーはそういう世界なのだよ」と伝えています。非常に細かい差ですが、現実的にその差で勝敗が決まる競技なのです。そこをサッカーチームの通常トレーニングだけで補おうとしても、難しいと言わざるをえません。特化したトレーニングをしなければ身につかないスキルもありますし、継続性も重要です。その観点から、選手を送り出してもらい、私たちが良い状態にして戻し、その変化を実感してもらう。そして自チームでもトレーニングできるよう指導者が準備する。このサイクルが理想的だと感じています。菊池:小学校低学年の子どもにラダーやアジリティトレーニングは難しいのではないかと思うこともあるのですが、実際はどうでしょうか?谷:低学年でも十分できますよ。理論も説明しますが、専門用語は使わず、子どもが理解できる言葉で伝えます。動きを身につけるなら、むしろ低学年の方が早いです。以前は高学年限定でやっていたのですが、高学年についてくる弟や妹(年長さんや1年生)の方が早く覚えるケースが多くて。今では低学年もOKにしていますが、やはり低学年の方が動きを身につけるのが早いと感じます。菊池:それはキャンプでも似ていますね。低学年の子は「真似っこ」が上手で、ちょっと見せるだけで、動きを吸収するのですごいです。谷:先日も小学2年生の子とトレーニングをした際、勘がいいというか、見て真似るのが上手で、最初はうまくできなくても、徐々に上達していきました。お母さんにも「初めてやるのに、これだけできるのはすごいですよ」と伝えたほどです。低学年の吸収力は本当に素晴らしいです。■正しい情報と指導の重要性パフォーマンスを上げるためにも正しい動きを身に着けよう(写真はオンライン対談の様子)谷:現在はYouTubeなどでもラダートレーニングの動画がたくさん公開されていますが、「本当にそれで良いのか」と疑問に思うものも多いです。皆さんがYouTubeで探して真似るケースもあると思いますが、私から見ると「これはやらない方が良いのでは」と思うものもあります。間違ったトレーニングをすると間違った動きが身についてしまい、パフォーマンスが低下します。そういった点に気をつけて見てほしいですし、発信する側も責任を持つべきだと、自戒を込めて思います。菊池:せっかく選手が一生懸命練習しているのに、上手くならないどころか悪影響になってしまうのは、本当に残念なことですよね。谷:間違った練習をすればするほど、サッカーは下手になります。これも子どもたちに伝えています。悪い姿勢でシュート練習を繰り返すと、体が悪い動きに適応するので、どんどんシュートが入らなくなります。そうならないために、良い循環を生み出していくことが大切です。ただし、現代の子どもたちは毎週末の試合に追われて、個の能力を伸ばすトレーニングをする時間が足りないように感じます。菊池:そうですね。毎週のようにリーグ戦をこなさなければならないのが、4種(小学生)の悩みです。谷:試合ばかりでサッカーが上手くなるのか?という疑問があります。プロの世界でも、「過密日程で試合をこなすことで、選手は鍛えられて強くなる」という考え方があるのですが、実際はそうではありませんでした。きちんとトレーニングしないと、いくら試合をこなしても変わらないのです。むしろ疲弊し、パフォーマンスは低下しかねません。菊池:試合だけだと、元々上手い子は出場して向上できますが、出場時間が少ない子や苦手意識がある子たちの改善は難しいですよね。谷:1対1が苦手な子がいくら試合をしても、抜かれる動きを繰り返すだけで、改善されません。そこで、改善のトレーニングやヒントを与えることで、良くなる感覚をつかみ、「もっと良くなるためにはどうしよう」という探究心につながればいいですよね。キャンプなどは普段と違う刺激があります。違う環境、違うコーチ、違う仲間と過ごすことで、きっかけや刺激を与えたいと思い、活動しています。菊池:それが私たちの一番の役割かもしれません。キャンプに来て自信をつけてくれることや、できることを認めることで、「1対1で抜かれないためにどうするか」「ボールを奪って素早く攻撃につなげるにはどうすればいいか」といった次のステップに進めます。これは個人によって異なる部分ですが、そういった刺激を与えることで「もっとやってみよう」という気持ちが生まれます。その相乗効果で成長していくのだと思います。■子どもの成長は劇的わずか1日、2日で大きく成長することも(写真は少年サッカーのイメージ)谷:小学生は、わずか1日、2日で劇的に変わることがあります。タニラダー講習会やサカイクキャンプなどを通して、内面にアプローチしていくことで探究心やモチベーションに火がつくのです。「もっとやってみよう」「次はこれにチャレンジしたい」といった前向きな姿勢が生まれる。そのマインドのベースができると良いですね。菊池:おっしゃる通りです。子どもたちと一緒に探究し、チームに戻った後も自分から進んで取り組めるようになってほしい。そのように子どもを導くことのできる場に、サカイクキャンプがなればいいなと思っています。谷真一郎(ヴァンフォーレ甲府・フィットネスダイレクター)愛知県立西春高校から筑波大学に進学し、蹴球部に在籍。在学中に日本代表へ招集される。同大学卒業後は柏レイソル(日立製作所本社サッカー部)へ入団し、1995年までプレー。 引退後は柏レイソルの下部組織で指導を行いながら、筑波大学大学院にてコーチ学を専攻する。その後、フィジカルコーチとして、柏レイソル、ベガルタ仙台、横浜FCに所属し、2010年よりヴァンフォーレ甲府のフィジカルコーチを務める。 『日本で唯一の代表キャップを持つフィジカルコーチ』2020年よりヴァンフォーレ甲府のフィットネスに関わる活動に携わるフィットネスダイレクターに就任、現在に至る。また一般社団法人タニラダー協会の代表として体の動かし方に特化した講習会などの活動を全国で行っている。【取得資格】筑波大学大学院コーチ学修士日本サッカー協会認定A級ライセンスAFCフィットネスコーチ レベル2日本サッカー協会認定キッズリーダー菊池健太(サカイクキャンプヘッドコーチ、シンキングサッカースクールコーチ)【経歴】VERDY花巻ユース 日本クラブユース選手権出場(全国大会)中央学院大学 千葉県選手権 優勝千葉県1部リーグ 優勝【資格】日本サッカー協会C級JFA公認キッズリーダーキッズコーディネーショントレーナー佐倉市立井野中学校サッカー部外部指導員
2025年03月18日強豪チーム所属の息子。4年生になってそれまでのAチームからCチームに。本人が続けたいなら良いと思ってたけど、夫が「2週間でリフティングが100回できなかったら辞めさせる」と言い出した。現状40回しかできないのに......。口では頑張ると言うけど自主練しない息子にいら立ち、本人のために辞めたほうがいいと言う。私はどうしたらいいかわからない。という悩めるお母さんからの投稿をいただきました。スポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、日本政府も批准する「子どもの権利条約」などを用いて、昭和のスパルタ教育からアップデートするためのアドバイスを送ります。(構成・文:島沢優子)(写真は少年サッカーのイメージご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<自主練しない子に本人が気付くまで待つ、という回答に全く納得いきません。一生気づかない子にも見守り続けろというのか問題<サッカーママからのご相談>現在10歳の息子は1年生からサッカーをしています。最初は少年団に所属し、楽しくしていました。引っ越しを伴って、2年生で強豪のクラブチームに加入しました。いま4年生になって、他のチームから、うまい子がたくさん加入し、子どもはAチームにから現在Cチームになってしまいました。私は、本人が辞めたいというまで、そこで続けたらと思っていましたが、夫がリフティングが100回出来るようにならなかったら、もう辞めろと課題を与えました。期限は2週間。現状、リフティングは40回くらいしか出来ませんので達成は難しいです。本人は、辞めたくないと私には言いますが、夫には何も言わないです。夫が辞めろと言うのには、口だけは頑張るというのに自主練しない息子に苛立っていることがあります。本人の為に辞めたほうがいいと夫はいいます。私はどうしたらいいかわかりません。<島沢さんからの回答>ご相談ありがとうございます。日本を除いた多くの先進国では、お父さんのケースは恐らく児童虐待として位置付けられるでしょう。ご本人はしつけ、教育という言い方をするかもしれませんが、その子の能力ではいかんともしがたい課題を与えて、本人がせっかく楽しんでいるサッカーを取り上げようとする行為は限りなく虐待に近い行為です。著書に『スポーツ毒親』(文藝春秋)がある私から見れば、完全に毒親です。■日本政府も批准する「子どもの権利条約」とは加えて、1989年に国連で採択された「子どもの権利条約」をご存知でしょうか。子どもの基本的人権を国際的に保障するために定められたもので、18歳未満の児童(子ども)を「権利をもつ主体」と位置づけ、おとなと同様にひとりの人間としての人権を認めています。日本政府もこれを批准しています。以下、日本ユニセフ協会の抄訳から2つほどご紹介します。★第19条「あらゆる暴力からの保護」どんなかたちであれ、子どもが暴力をふるわれたり、不当な扱いなどを受けたりすることがないように、国は子どもを守らなければなりません。★第31条「休み、遊ぶ権利」子どもは、休んだり、遊んだり、文化芸術活動に参加したりする権利をもっています。いかがでしょうか。お父さんのふるまいは、息子さんの権利を侵害しています。パワーハラスメントです。学校で担任の先生が例えば「リフティング百回できないと体育の時間は参加させない」と言えばパワハラだと親御さんたちは皆怒るでしょう。それと同様に、血を分けた実の親であっても「リフティング百回できなければサッカーやめろ」は虐待とみなされます。■苛立ちの「正体」は、AからCチームに落ちた息子さんへの嫌悪、自主練も「親に言わされいる」だけまたお母さんの相談文のなかに「夫が辞めろと言うのには、口だけは頑張るというのに自主練しない息子に苛立っていることがあります」と書かれています。苛立っているその感情の正体は、息子さんへの嫌悪だと私は考えます。期待してみていたらAチームからCチームに落ちた。そこを嫌悪している。自主練をしないという点でも腹を立てています。そもそも自主練をするかしないかは本人が決めること。自主練をすると「口では言う」と嘆かれていますが、お二人に言わされているだけです。■昭和のスパルタが良いと思ってる?もしくはモラハラやDV体質を感じさせる言動であると気づかせて親は、子どもに最も身近な大人としてその成長を見守り、寄り添わなくてはいけないのにお父さんは逆の行動をしています。リフティング百回の条件を出す行為は、ただの当てつけ、意地悪です。そこで「ほらできなかったな、サッカーやめろ!」と怒鳴るのでしょうか。その行為のどこが息子さんの成長につながるのでしょうか?悔しがって練習し始めることを望んでいるのでしょうか。そんなイージーな行動で子どもを育て上げられるのであれば、私たち親はどんなに気楽でしょう。お父さんは、半世紀以上前に流行った昭和のアニメ『巨人の星』のスパルタ教育をいまだに信じているのか。それともモラハラやDV体質なのかもしれません。唯一救いなのは、息子さんが「辞めたくない」とお母さんに言えていることです。ここはお母さんの踏ん張りどころです。以下に、三つほど具体策を授けます。■アドバイス①夫と対等なパートナーシップを結ぶ解決するうえで最も大事なのは、お母さんがお父さんと対等なパートナーシップを結ぶことです。相談文を読む限り、お母さんがお父さんに意見した形跡は見られません。理屈では叶わないと怯んでしまうかもしれませんが、理屈など述べなくていい。「息子を追い詰めるのはやめてください。私の子どもでもあるんです。本人がサッカーを続けたいというのだからやらせます。私は子どもの権利を守りたいし、毒親にはなりたくない」そう言って守ってあげましょう。そこでお母さんや息子に対する暴言や暴力があれば、子育て支援センターや児童相談所にすぐ相談してください。■アドバイス②夫が息子を追い込んでしまう背景を考える上記の行動の後、夫に少しでも良い反応があれば、彼が子ども時代にどう育ったかをよく聴いてみましょう。理不尽な仕打ちや、しつけと称して親から叩かれた経験はないか。それをどう感じていたかを尋ねてみてください。よくあるのは、「自分も親にガンガン言われてここまでこれた」と、親からの理不尽なパワハラを自分の成功や成長につなげてしまっている暴力容認派です。こういった方々は実際にいらっしゃいます。一方で、同じように圧迫されたけれど「大した人間になれなかった」と自己肯定感が低いタイプ。要するに親の期待に添えなかったと思っている方も一定数います。その方たちが同じことを繰り返すケースは少なくありません。■アドバイス③子ども時代の夫を慰める「おじいちゃん(夫の父)にいろいろ言われて嫌だったね」と過去に共感してみる。「あの子もそうだよ。辛いと思うよ。私は子どもにはサッカーを楽しんでほしい」とお母さんの思いをきちんと伝えましょう。■サッカー少年の親が子つぶすリスク(写真は少年サッカーのイメージご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)かれこれ20年間少年サッカーの取材を続けている私の所見ではありますが、サッカー少年の「両親」には子どもをつぶすリスクがいくつかあります。■リスク【大】両親ともに追い詰めるタイプ■リスク【中】父親が追い詰め、狼狽する母親が手が打てないうちに、子どもの心が折れてしまう。■リスク【小】父親か母親のどちらかが追い詰めるタイプでも、片方が冷静で包容力、判断力、行動力があり、子育てを軌道修正できる。■ノーリスク・ハイリターン両親ともに子どもを尊重できるため、主体性のある子が育つ。いま、お母さんの家庭はリスク【小】です。お母さん、どうか精神的にも自立してください。このままお父さんの好き放題にさせてしまうと、息子さんが中高生になり思春期に入ると、大きなブーメランが返ってくるかもしれません。最後にもう一度言います。ここはお母さんの踏ん張りどころです。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)ジャーナリスト。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』『東洋経済オンライン』などでスポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』(小学館)『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)『部活があぶない』(講談社現代新書)『スポーツ毒親 暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか』(文藝春秋)『オシムの遺産彼らに授けたもうひとつの言葉』(竹書房)など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著・小学館)『教えないスキルビジャレアルに学ぶ7つの人材育成術』(佐伯夕利子著・小学館新書)など企画構成者としてもヒット作が多く、指導者や保護者向けの講演も精力的に行っている。日本バスケットボール協会インテグリティ委員、沖縄県部活動改革推進委員、朝日新聞デジタルコメンテーター。1男1女の母。
2025年03月12日近年子どもの運動能力が落ちているというニュースを目にすることがあります。実際スポーツの現場ではどう感じているのでしょうか。「現代の子どもの運動能力」について、サカイクキャンプの菊池健太コーチと「タニラダー講習会」でおなじみ、谷真一郎さんの対談をお届けします。お二人とも、日々、子どもたちと向き合っていますが、コロナ禍や運動する場所や時間の減少もあり、年々、運動能力の低下は見過ごせないレベルになってきていると感じているそうです。子どもの運動能力を高めるために、指導者や保護者はどのようにアプローチをすればいいのか。お二人と一緒に考えていきましょう。(構成・文:鈴木智之)(写真は少年サッカーのイメージです)関連記事:子どものコンディショニングに関する保護者の疑問に谷真一郎さんが回答■転んだ時に手が付けない、サッカーするうえでもベースとなる運動が正しくできていない菊池健太(以下菊池):今、子どもの運動能力低下が社会問題になっていますよね。以前と比べて外遊びの機会が減少し、「時間」「空間」「仲間」の環境が大きく変化しています。インドアで遊べる機会が増え、スマホ一つで友達とオンラインゲームができる便利さがある一方で、ジャングルジムに登るような遊びは減っています。さらに場所的な制約もあります。昔はボール一つあれば公園でサッカーができましたが、現在は公園でのボール使用が禁止されているケースも多いです。こうした要因が重なり、学校の体力測定でも数値の低下が見られています。私たちが保育園を訪問した際、保育士さんから「転んだときに手がつけなくて、顔から突っ込んでしまう子がいる」という話を聞いて驚きました。様々な動きを経験していない子が増えていることは、サカイクキャンプやシンキングサッカースクールで接する子どもたちの様子からも実感します。谷真一郎(以下谷):ベースとしての運動能力、細かく言うと姿勢や走り方、腕の振りなどが正しくできない中で、サッカーの技術的トレーニングばかりしていても、はたして上達するのだろうか?というのが私の考えです。人の体はトレーニングしたことに適応します。スピードを上げるためには、スピード向上のためのトレーニングが不可欠です。サッカーをプレーする中で、「速く走れない」「うまくターンできない」「1対1の対応ができない」といった課題があれば、その部分を重点的にトレーニングするしかありません。今の子どもたちは外遊びや運動の機会が減少していて、特にコロナ禍を経て、運動能力の低下を肌で感じます。今まで見られなかった動きや「どうしてそうなっちゃうの?」と思うような状況も増えています。それでもサッカーのトレーニングだけで、サッカーを上手くしようとしている。そこが重要なポイントで、走る、ターンするという動きも、サッカーの技術の一つとして捉えてほしい。そして、そのためのトレーニングをすることで、うまくいかない状況を改善するという考え方を持ってもらえると、子どもたちの成長につながるのではないでしょうか。■二極化する子どもたちの運動能力サッカーの現場で感じること(写真は少年サッカーのイメージです)菊池:サカイクキャンプで子どもたちの様子を見ていると、いろいろな動きや遊びを経験している子は、鬼ごっこでも身体が素早く反応し、相手の動きを予測して逆を取るような動きができます。一方で苦手な子はずっと鬼のままの状況や、そもそも「鬼ごっこは嫌だ」と言うこともあります。サッカーにおいても二極化が進んでいて、本格的に取り組む子と習い事感覚でやる子に分かれています。後者は自己肯定感が低く、可能性を狭めてしまっているケースが多いです。昔は中堅層が厚くて、トップを目指す意欲のある子が多かったように思いますが、今はそこが減ってきている。これは大きな問題だと感じています。谷:その傾向はたしかにありますね。上手な子には、さらに運動能力を高めるトレーニングをしてあげたいし、苦手意識を持つ子たちには「こう動かすといいよ」というアドバイスを通じて「こうすればいいんだ」「前より上手にできた」という成功体験が必要です。菊池:そう思います。たとえば、子どもたちに「ヨーイドン」で20mを走らせると、右手と右足が同時に前に出る子や、20mほどの距離でも走りきれずに転んでしまう子もいます。谷さんのような体の動かし方のプロから指導を受けることや、我々指導者が知識を身につけて、正しく指導することの重要性を痛感しています。そうすることで、子どもたちの苦手意識が少しでも解消され、自己肯定感が高まり、チャレンジ精神や「もっと良くなるにはどうしたらいいだろう」という探究心が生まれるきっかけになればと思います。■子どもの自己肯定感を高めることで自信がつき、スポーツの記録が伸びた子も(写真は少年サッカーのイメージです)谷:自己肯定感は子どもに不可欠なもので、人を大きく変えることがあります。以前、タニラダー講習会に来た女の子で、しっかり立てず、走る時に右手と右足を同時に動かしてしまう子がいました。初めは「この子、大丈夫かな」と思ったのですが、勘が良かったのか、たった1回のトレーニングで何かをつかんだようで動きが変わり、家に帰ってから自主練習をするようになったそうです。その結果、最初は自信がなく消極的だった子が、スピードが上がってくると表情が変わり、自分から話しかけるようになってきたのです。お母さんも「性格が変わってしまったみたい」と驚いていました。最初に会った時は小学4年生で伏し目がちだった子が、今は中学2年生になって、陸上の800mに取り組み、県大会で6位に入るまでになりました。自信なさげでふにゃふにゃだった子が、スピードが上がることでこんなに雰囲気が変わるんです。こういった効果が出てくると、自己肯定感の強い子が増えて、チームの雰囲気も変わってくると思います。菊池:サカイクキャンプでも「探究心」が一つのキーワードになっています。自分で考えて取り組んでうまくいったとき、さらに「どうすれば良いだろう?」と興味を持つもの。子どものそのパワーは本当にすごいと思います。サッカーの技術の前に、自分で体を動かすことが好きになり、得意になることで探究心が生まれてくるのは、谷さんのお話を聞いていて強く感じました。谷:そこから二極化の問題が出てくるんです。気づきを得て、より良くなりたいという子がいる一方で、なんとなく『サッカー塾』に通っているけれど、うまくいかず、どうすればいいのかわからないという子や親御さんもいます。私たちのタニラダー講習会のようなスピードアップトレーニングでも、対象が二つに分かれます。「0.1秒を縮めたい、より上を目指したい人」と「動きを改善したいけど、何をすればいいかわからない人」です。その現状を踏まえて、私はトップを引き上げ、ボトムの底上げをする。この両方にアプローチしています。■身体を適切に動かすことができるとサッカーのパフォーマンスが変わる(オンライン対談の様子)菊池:何事もそうですが「やったことないからできない」「やる前からできない」「どうせ自分なんて......」と思っている子は多いですよね。なので、サカイクキャンプでも最初は「自信を持って、自分の得意なプレーを見せてね」というところから始めます。「できたね、そこがすごいね」と認めてあげると、さらに伸びていきます。現状の環境はすぐには変えられません。公園に遊具を増やしたり、ボール遊びOKにするのは簡単ではありません。その中で、我々指導者は子どもたちにとって、どうすればより良い環境を作ってあげられるかを考えることが使命だと思っています。谷:私が甲府で月2回開催している「アジラン(アジリティランニング講習会)」に、小学3年生の頃から通い続けている子がいます。5年生になってサッカーを始めたそうですが、「移動スピードが速く、いつもボールのあるところにいる。粘り強いプレーができる」という評価を受けています。今までの話と重なりますが、「身体を適切に動かす」というベースの上でプレーすることで、サッカーのパフォーマンスは変わるのです。小学生を見ていると、ほとんどの子が良い姿勢で立てていません。ふにゃふにゃしていたり、腕を振れない、片足で立つとグラグラする。その状態でボールを蹴っても、当然パスミスは起こります。速く走れない、転ぶ、そこには理由があります。その部分を改善し、向上させることで、サッカーがもっと上手くなるということを伝えていきたいです。谷真一郎(ヴァンフォーレ甲府・フィットネスダイレクター)愛知県立西春高校から筑波大学に進学し、蹴球部に在籍。在学中に日本代表へ招集される。同大学卒業後は柏レイソル(日立製作所本社サッカー部)へ入団し、1995年までプレー。 引退後は柏レイソルの下部組織で指導を行いながら、筑波大学大学院にてコーチ学を専攻する。その後、フィジカルコーチとして、柏レイソル、ベガルタ仙台、横浜FCに所属し、2010年よりヴァンフォーレ甲府のフィジカルコーチを務める。 『日本で唯一の代表キャップを持つフィジカルコーチ』2020年よりヴァンフォーレ甲府のフィットネスに関わる活動に携わるフィットネスダイレクターに就任、現在に至る。また一般社団法人タニラダー協会の代表として体の動かし方に特化した講習会などの活動を全国で行っている。【取得資格】筑波大学大学院コーチ学修士日本サッカー協会認定A級ライセンスAFCフィットネスコーチ レベル2日本サッカー協会認定キッズリーダー菊池健太(サカイクキャンプヘッドコーチ、シンキングサッカースクールコーチ)【経歴】VERDY花巻ユース 日本クラブユース選手権出場(全国大会)中央学院大学 千葉県選手権 優勝千葉県1部リーグ 優勝【資格】日本サッカー協会C級JFA公認キッズリーダーキッズコーディネーショントレーナー佐倉市立井野中学校サッカー部外部指導員
2025年03月10日「子どものやる気が見えなくてイライラ」「やる気ないなら辞めさせたい」など、最近、子どものやる気が見えないという不満がよく聞かれますが、子どもは本当にやる気がないのでしょうか?前編では、子どものやる気を育てるためには子どもの好奇心を育てることが大切であり、子どもを主役「センター」に捉えることの重要性についてお伝えしました。後編では、失敗を怖がらずにチャレンジするような子どもになってもらうためには、どんな声かけをしてあげれば良いのか、スポーツメンタルトレーナーの筒井香さんにうかがいました。(取材・文木村芽久美)(写真は少年サッカーのイメージです)前編記事:「やる気が見えなくてイライラ」「やる気が見えるなら応援できるのに」という保護者に知ってほしい、子どものやる気を育てるのに大事なこと■失敗を怖がらず、チャレンジするためには?心理的安全性がある声かけが子どものチャレンジを促すサッカーを始めたばかりの子どもは、いわば真っ新な状態です。そこに周りの大人が意味付けていくことで良い・悪いなども理解していくので、子どもにどのような声かけをするか、実はとても重要なことだと言えます。子どもが楽しんで成長できるような、ポジティブな声かけによって家庭内に心理的安全性が生まれ、子どもがチャレンジしやすくなると筒井さんは言います。「枠狙わないと(ダメだよ)」「それは決めないと!」など、よくコーチや保護者が叫んでいますが、このような声かけの場合、失敗したくないという意識が先にきてしまうので、最悪シュートを打たないという選択肢を取るようになったり、バックパスばかりで消極的なプレーになってしまいがちです。そうするとまた怒られて、さらに消極的になるという悪循環が起こり、成長思考が育たなくなると筒井さんは懸念を示します。■子どもが自らの能力を高める「成長思考」を育てる大人の声かけとは?(写真は少年サッカーのイメージです)自分の才能や能力は、経験や努力によって向上できる、つまり「やればできる!」というポジティブな考え方は、「成長思考(グロースマインドセット)」と呼ばれています。成長思考では、難しい問題にチャレンジしたい、そちらの方が楽しいと感じると言います。成長思考に関しては保護者や周囲の大人の声かけで変わるということが研究で明らかにされていて、能力を褒めるよりも成長について褒めた方が、難しい課題に取り組もうとする意欲が育つと言われています。能力ばかりを褒めた場合、次に難しい課題に取り組んだ時に評価が下がることを恐れてしまい、取り組まなくなってしまうと言います。こちらは「固定思考(フィックスマインドセット)」と呼ばれ、守りに入ってしまう考え方なのだそうです。サッカーで言うと、例えばテクニックについて褒めるのだとしても、「前よりも○○が良くなってるね」など、前回と比較して成長ポイントを伝えるといいのだそうです。「ただし、誰かとの比較は良くないです」と筒井さんは言います。また、うまくいかなかった時でも頑張っているところに目を向けられると良いのだそうです。勝った試合の時に褒めるのはわかりやすいですが、負けた試合の時でも「積極的にゴールを狙いにいったよね」など、良かったところを伝えてあげると、チャレンジすることを怖がらなくなり、好循環が生まれやすくなるとと筒井さんは言います。「子どもが成長思考になるためには、保護者やコーチは子どもの成長を促すような声かけをすることが大事です」■褒めて育てるのは大事、そのうえで何が良かったのか理由まで考えよう(写真は少年サッカーのイメージです)一般的に褒めて育てるのが良いと言われていますが、「自分がなぜ褒められたのか、何が良かったのかを一緒に考えるというところまでできた方が良い」と筒井さんは言います。例えば「今日こうやってコーチに褒められたよ」と言う子どもに対して、親は「すごいね」「良かったね」と言うだけじゃなくて、「なんでコーチに褒められたと思う?」など、理由についても一緒に考えてみると良いのだそうです。「この1週間頑張って練習してきたことを試そうとしたから、褒めてもらえたんだ」など、本人が理由を自分の言葉で語るところまでできれば、褒めて育てることはより一層効果的になるのだと言います。また指導者側からするとジレンマもあるそうで、せっかく褒めたのに、サッカーの帰りの車や自宅で、子どもが保護者に怒られ、成長を促すためのコーチングが台無しになってしまうことがあるのだと言います。一番影響力があるのは親であることを保護者は自覚し、基本的にコーチングは指導者に任せ、子どもが主役だと意識した声かけを心がけるようにしましょう。■必ずしもポジティブな声かけじゃなくていい。感情に寄り添った声かけを試合前、緊張している子どもが前向きになるように、親心で「緊張しなくていいよ」と励ますつもりでの声かけ......。実はこれでは緊張している子どもを否定してしまう声かけになってしまう可能性があるのだと筒井さんは指摘します。子どもにとって緊張している理由があるので、その気持ちにまずは寄り添うことが大事なのだそうです。ネガティブをポジティブに変えるというよりも、ネガティブなこともポジティブに受け入れるマインドになると良いのだと言います。例えば「イライラ」という感情についても、イライラしてしまうのがダメなのではなく、そうなる自分というのも自分らしさだし、そこには思いもあるので、イライラの感情をなくしてポジティブになろうとするのではなく、イライラしている自分を認めて、受け入れて前に進むことが大切なのです。■子どもがサッカーを楽しんでいるかが重要。子どものサッカーが受験化している背景子どもがサッカーで伸び伸びとプレーできない背景に、サッカーが受験化されていて、子どもを受験のブランド校に入れるような感覚で有名クラブや有名校に入れることがステータスになっている保護者がいることもあるようです。その場合、親の承認欲求を満たすため、いわば子どもを道具化してしまっていて、健全にスポーツ活動をする環境とはいえません。また親が、マルチアイデンティティであることがとても大切なのだと言います。お母さんが『母親』であるというアイデンティティのみに偏ってしまうと、例えば、子どもがチームでトップのカテゴリーに行ったら成功で、それを支えた自分は成功者である、というような「母親としての成功が、全て自分の価値」とする捉え方をしてしまう危険性があるのだそうです。受験のように意識してしまうと、プレーでの失敗への親の捉え方も変わってきてしまうかもしれません。「スポーツを通じた心身の成長というところを最上位の目標・目的に置いてもらえたら、失敗の捉え方も変わってくると思います」と筒井さんは言います。■家庭は安全地帯であって欲しい筒井さんが今まで、トップアスリートに親がどんな関わり方をしていたか聞いたところ「あまり勝敗に関心がない感じでいてくれたのが良かった」という声が多かったのだそうです。親が自分事のように子どものスポーツに入り込みすぎ、勝負を気にしすぎてしまうのは、子どもにとっては辛いのです。「家庭は試合に勝っても負けても子どもにとって、心が休まる、心理的に安全な場所であって欲しい」と筒井さんは言います。競技者は外では評価にさらされている環境にあるので、家ではもちろん評価されたくないですし、外で頑張るためにも、無条件に家庭が安全地帯であるということが大切なのです。また筒井さんは「自分が関わっている選手の中でも、伸びる選手は共通して好奇心が強いです」と言います。目標達成に向けてやり抜いていくには、やはりどれだけ好奇心を持てるかが重要です。子どものやる気を引き出すために、親も指導者も子どもの好奇心を育てることを大切に考えて、子どもの興味をよく観察し、興味を深掘りしていけるような環境づくりに取り組みましょう。筒井香(つつい・かおり)株式会社BorderLeSS代表取締役博士(学術)日本スポーツ心理学会認定スポーツメンタルトレーニング上級指導士大学・大学院時代に人間行動学、臨床発達心理学、スポーツ心理学などの心理学から「人間の特性」を広範に学び、また、博士論文では、「個別性を重んじたポジティブシンキングの多様性」に関する理論を構築。現在はジュニア選手からプロ選手、オリンピック、パラリンピック選手のメンタルトレーニングのほか、指導者やスポーツを頑張る保護者の学び舎「大人のメントレコミュニティ」を運営し、子どもの主体性を育む大人の在り方や、人としてのキャリアのなかにアスリートとしてのキャリアも含めた、包括的な人生設計に重要な理論と実践方法を伝え、子どもの「キャリア=人生育て」を心理学の視点からサポートしている。2023年12月書籍「シン・ポジティブ思考-しなやかなメンタルのトリセツづくり-」を刊行。株式会社BorderLeSS著書:シン・ポジティブ思考-しなやかなメンタルのトリセツづくり-
2025年03月07日昨今、サッカースクールは子どもたちにとって「サッカーと出会う場所」「サッカーを始める場所」として重要な役割を果たしています。その先駆けとなったのが、日産サッカースクール時代から数えて今年で40年の歴史を持つ、横浜F・マリノスが運営する「マリノスサッカースクール」です。同スクールでは「サッカーを通して子どもたちの未来をつくる」という理念のもと、子どもたちの可能性を最大限に引き出す育成に取り組んでいます。スクールを統括する和田武倫氏は、1991年からスクールに携わるベテラン指導者です。日産自動車サッカー部での選手経験を経て、スクールやアカデミーを通じて、子どもたちの育成に力を注いできました。今回は、子どもたちの育成に携わり、30年以上のキャリア持つ和田氏に「マリノスサッカースクールの理念と育成スタイル」について、話をうかがいました。サッカーを始めたばかりのお子さんを持つ保護者のみなさん、必見の内容です。(取材・文鈴木智之)©F.M.S.C.<<関連記事:松田直樹さんの魂を「#命つなぐアクション」へ。横浜F・マリノスの取り組みから学ぶ迅速な119番通報の方法■サッカーの技術・戦術だけでなく人としての育成を目指す「5アクション」とはマリノスサッカースクールが掲げる理念は「真のスポーツマンを育成する」こと。これは単にサッカーの技術・戦術を教えるだけでなく、人としての成長を重視する姿勢を表しています。和田氏は「サッカーの技術・戦術だけでなく、マナーや協調性、そして何より大切な自主性を育み、将来的には地域に貢献できる人になってもらいたいという思いを込めて、指導にあたっています」と柔らかな口調で語りかけます。©F.M.S.C.スクールでは「挨拶」「尊重」「伝達・傾聴」「自己管理」「挑戦」という5つのファイブアクションを通じて、子どもたちの成長をサポートしています。「挨拶はコミュニケーションの第一歩です。自分を知ってもらい、相手を知るスタートになります。尊重はチームプレーの基本であり、自己管理は自立につながります。挑戦は失敗を恐れない心を育て、伝達傾聴は自分の考えを表現する力、相手の考えを聞く力を養うことを意識しています」©F.M.S.C.指導において重視しているのは、子ども自身が考えてプレーすること。和田氏は「コーチがああしろこうしろ、この場面ではこういうプレーをしなさいということは、サッカーとして適切ではありません」と語ります。「子どもたちは一人ひとり、身体能力もテクニックも違います。スクールでは、その子が持っている力を最大限に活かし、自分でチャレンジしていけるような環境作りを心がけています」その上で「若年層で一番大事なのは、結果が今ではないということ」と和田氏は強調します。「子どもの可能性は無限大です。その無限の可能性に対して、コーチが蓋をしたり、違う方向に導いたりすることは避けなければなりません。子どもたちは非常に素直で、コーチの言うことをよく聞きます。だからこそ、私たち指導者は言葉一つ一つに気を配る必要があります」■他の子と比べない、できることを褒めることをコーチたちが意識している©F.M.S.C.サッカー少年少女の保護者に対しては、「他人のお子さんと自分のお子さんを比べないようにしましょう」とアドバイスを送ります。「子どもの成長は一人ひとり違います。スポーツの世界では、足の速い子もいれば、スピードはなくてもテクニックに優れた子もいます。大切なのは、お子さんができることを認め、一緒に喜んであげることだと思います」日本には欠点を指摘する文化が根強いですが、和田氏は「できないことを指摘するのではなく、できることを伸ばし、考えてもらうことが大事」と語ります。「例えばリフティングが3回しかできなくても、それを褒めて認めてあげる。そうすることで、子どもたちは安心して、新しいことにチャレンジできるようになります」特に小さな子どもには、褒める、拍手を送る、笑顔で接するなど、様々な形で認めることがポイントで、マリノスサッカースクールでも、コーチ陣が意識しているそうです。「この場では『失敗を恥ずかしがる必要はないんだよ』という安心感を持ってもらうことを心がけています。怒られることを恐れてプレーしていたら、サッカーは楽しくありませんよね。コーチたちには、そういった環境づくりを常に意識してもらっています」最初から上手くできる子はいません。失敗を繰り返して上達していくもの。その様子を見守るのも、コーチや保護者といった大人の役割です。「スクールの子どもたちには、リフティングをやろうと言うと、できないからボールを脇に抱えている子がいたりします。『みんな最初からはできないから、一回上にボールを蹴れるようにやってごらん。ワンバウンドでもいいんだよ』と背中を押してあげる。そうすることでチャレンジを繰り返し、成長に導くようにしています」■サッカーを通して子どもたちの未来をつくる©F.M.S.C.サカイクでも5つのライフスキル(リーダーシップ、コミュニケーション、感謝の心、考える力、チャレンジ精神)を大切にしていますが、マリノスサッカースクールと通じるところがあります。これらは子どもの成長にとって、普遍的に大切なものなのかもしれません。和田氏は「我々はサッカーの上手い下手ではなく、サッカーを通して子どもたちの未来をつくることを理念として掲げています。私たちの理念やコンセプトに共感いただける方は、ぜひ体験会に参加してください」と呼びかけます。神奈川県内12校でスクールを開校し、「幼児」「小学生」「中学生」「大人」の年代別カテゴリーに加え、「Girlsクラス」や「GKクラス」「エンジョイクラス」など、レベルに合った環境が用意されています。サッカーの上達に加えて、子どもたちの自立心やチャレンジする心にも良い影響があること、間違いありません。興味のある方は、ぜひマリノスサッカースクールサイトを見てみてください。マリノスサッカースクール和田武倫(わだたけのり)一般社団法人F・マリノススポーツクラブスクールダイレクター日産自動車サッカー部の選手として4年間、ジヤトコで現役を引退して横浜マリノス誕生前の1991年にスタッフとして復帰してからは30年以上にわたって育成に力を尽くしている。
2025年03月05日普段の環境とは違う雰囲気の中、サッカーに取り組むことができるサカイクキャンプ。1度参加すると「また行きたい」とリピートする子も多くいます。今回お話を聞いたカズキくんは、5年生の3月が初参加。その後、6年生の夏と秋もリピートし、4回目となる今回の春キャンプにも申し込み予定だとか。何度も参加したくなる理由や、親から見てのキャンプ後の成長や変化について伺いました。(取材・文:小林博子)サカイクキャンプでトレーニング中のカズキくん<<兄妹でのキャンプ参加も!サッカーを通して、頼もしく成長していく二人が何度も参加したくなるワケ■サカイクキャンプとの出会いはお母さんからの薦めカズキくんが初めてサカイクキャンプに参加したのは2024年3月。5年生から6年生になる春休みでした。申し込みのきっかけはお母さんから。「最高学年になる前のタイミングで、県外で子どもだけで泊まりがけの合宿的なイベントに参加する"今しかできない"経験をさせたかった」という気持ちで、サッカーにこだわらず探していてみつけたのがサカイクキャンプだったそうです。「県外」「1人」にこだわった理由は、カズキくんのお母さんもちょうど同じタイミングでとある合宿に1人で参加して学びが多かったことから。6年生を前に自分と同じ体験をさせたかったと話します。1人で公共交通機関を使って現地に移動すること、数泊するために必要なものを自分で準備すること、初対面の人ばかりの集団に入っていくこと、その人たちと新たなコミュニティを構築すること......。6年生の子どもには大冒険の連続です。親や先生など見知った頼れる人がいない中で過ごしてくるだけでも貴重な経験ではないでしょうか。ちなみに、カズキくんの住まいは徳島県。大阪キャンプには、大阪行きの高速バスに1人で乗って明石海峡を渡って向かいます。親元を離れて単身で"海を超える"のも初めてのことだったそう。「最初は怖かった、はぐれたらどうしようとドキドキした」と、カズキくんは当時の素直な気持ちを打ち明けてくれました。■キャンプでの最大の変化は「チャレンジする心」が育まれたことサカイクキャンプでは、サッカー以外の"オフザピッチ"での過ごし方や考え方にも重点をおいたプログラムが組まれています。中でも「ライフスキル」の座学は子どもたちに身につけてもらいたい能力として、力を入れていることのひとつです。文部科学省が掲げているライフスキルは10項目ですが、サカイクキャンプでは子どもも理解しやすいように、以下の5つを挙げています。1.考える力2.リーダーシップ3.感謝の心4.チャレンジ5.コミュニケーションこの5つについて学んだことで、最も変化したのは4つ目の「チャレンジ」でした実は、ヘディングが怖くてできなかったというカズキくんでしたが、チャレンジすることとは、ということを学び、帰宅後最初の試合で思い切ってヘディングをやってみることができたとか。「やってみたらできた!もう怖くないです。ヘディングができると胸でトラップしなくても次の動きができるのでワンステップ早くボールを繋げられることがわかった。失敗を恐れずにチャレンジする自分になれた」と嬉しそうに語ってくれました。「以前は試合中にコーチから"そこはヘッドだろう"と注意されていたけれど、もうそうは言われない」とも。チャレンジ精神がついたという目に見えるキャンプの効果を実感しているようです。■「心理的安全性」があるからこそ、積極的になれるカズキくんは優しく穏やかな性格なので、何かに対してぐいぐいといくことは普段はあまりないそうですが、キャンプ中は積極的にコーチに質問する姿がよく見られたこともキャンプ中の顕著な変化でした。その理由は「ここなら恥ずかしがることもないので聞きたいことを聞けました」とのこと。キャンプでコーチたちは「心理的安全性」のある雰囲気作りにも注力しています。何を聞いても大丈夫だからこそ、子どもたちは素直に疑問を口にすることができます。3日間しかないこと、そして普段の友達とのコミュニティではないことなどもあいまって、知りたいことは帰る前にちゃんと知って帰る、という意識が芽生えているようです。■キャンプの"その後"エピソードは?サカイクキャンプでトレーニング中のカズキくんサカイクキャンプのその後はどうだったのでしょうか。その答えはお母さん曰く「ばっちり!」とのことです。学校では、「しっかりしてきた」と担任の先生から評価されるようになったほか、忘れ物が減ったり、友達とのコミュニケーションに今まで以上に思いやりがもてるようになったりと、はっきりとした成長がみられます。「相手が言われて嫌なことは考えながら話す」というスキルが身についたと本人も感じているそう。最高学年として活動する所属チームでは、仲間が揉めていると仲裁にはいるのはいつもカズキくん。中立的な立場での意見を貫くしっかり者としてチームのムードメーカー的存在として慕われるようになりました。これらの成長は、1回目より2回目、そして3回目と回をおうごとに顕著になっていったとお母さんは語ります。■ライフスキルを3回も学ぶ意味はある?という疑問にお答えライフスキルの座学は、カズキくんのようにリピート参加者には「毎回同じことを聞くことになるのでは」と懸念されがちですがご安心を。2回目、3回目だからこその気づきが多数ありますし、状況に応じてリピーター向けの回を設けることもあります。コーチに聞いたところ、カズキくんの場合も、2回目ではより深くインプットして積極的に行動できるようになり、3枚目は自らが学んだことを年下の参加者にアウトプットする場面もあったそうです。■コーチも太鼓判!「組織にいてほしい人材になれる」サカイクキャンプでトレーニング中のカズキくんキャンプで指導している柏瀬コーチは、カズキくんの2回目以降の「気づきの幅と深さの広がり」に着目。困っている子がいたら手を差し伸べること、試合中のポジション取り、グループの雰囲気作りになどについて深みのある考えと行動が出るようになったことが目をみはる成長だったと話します。それと同時に、本人が困っていたら周りが助けたくなるような愛されキャラでもあると評価します。「カズキくんがいるチームは雰囲気がよく結果もついてきてうまくいく」という頼もしい存在なのだとか。チームの重要な心の支柱であり、勝ちをもたらす選手として、これからもサッカーだけでなくあらゆる場で活躍してくれるはずと期待しています。■帰ってすぐに「また行きたい」とリピート参加を希望カズキくんは1回目の最終日に迎えに行ったその場で、両親に「次も行く」と2回目の参加を熱望。その繰り返しでまもなく4回目。さらにカズキくんの弟もキャンプに参加することになり、兄弟で複数回リピートしています。金額的にも決してリーズナブルではないサカイクキャンプですが、その価値は十分にあると考えるからこそ、子どもの希望を快く叶えてあげられる、とお母さんは話します。もともとの目的だった「"今しかできない"経験」に加え、心の成長やサッカー技術の上達も目に見えるからこその感想だと言います。「参加するか迷っているなら、行ってみなよとアドバイスします」とカズキくん。楽しいし、友達ができるし、できなかったことができるようになる3日間が待っています。気候がいい春キャンプは、初挑戦にも最適です。
2025年03月04日ボールを動きながら受けて次のパスがしやすい場所にコントロールするにはどうしたらいい?止める、蹴るはサッカーの基本だけど同年代でも強豪チームは動きながらそれをしている。ボールを取られない場所にコントロールする方法を身に着ける方法を教えて、というご相談をいただきました。ジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上のあらゆる年代の子どもたちを指導してきた池上正さんが、ボールコントロールを身に着けるメニューを紹介します。(取材・文島沢優子)(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)<<ショートパスでつなぐスタイルもいいけど、時にはロングボールも必要「使い分け」の判断を身に着けるメニューはある?<お父さんコーチからの質問>こんにちは。子どものサッカーの成長を見続けたら私もサッカーにはまり、チームに誘っていただき保護者兼コーチの立場でかかわっています。(学校のチームです。カテゴリーとしてはスポ少かと。担当はU‐11)今回池上さんにご相談したいのは、動きながら速いパスを受けて、次のプレーがしやすい場所に置くことができるようにしたいのですが、そのためにはどんなトレーニングをしたらいいかということです。止める、蹴るはサッカーの基本ですが、最近同年代でも強いチームを見ていると、そもそも止める時にその場で止まっていない(動きながら受ける)のでボールを取られないんだなと思います。だからすごくボールが持てるというか......。おすすめの方法があれば、お願いします。<池上さんからのアドバイス>ご相談ありがとうございます。動きながら、速いパスを受けて、プレーをしやすい場所に置くことができる。それはつまりファーストタッチをいかに有効的なものにするかがポイントになります。コーチたちがよく言う「ボールの置きどころ」というものです。■ボールをスペースに動かしたほうがいい場合と足元に留めたほうがいい場合があるご存知のようにサッカーというスポーツは、その瞬間の状況に合わせて全員が動かないといけません。ボールを受けるとき、自分の足元から遠いスペースへぽんと運ぶというかボールを動かしたほうがいいときと、自分の足元に留めたほうがいい場合があることをまずは理解してもらいましょう。例えば動かしたほうがいい場合は、自分をマークするために近づいてきた相手をかわすため。あるいは、わざと相手を引き付けるためにボールを動かします。■プレッシャーが厳しいときは足元に止めるほうが有効これに対し、本当にプレッシャーが厳しいときは足元に止めるほうが有効です。相手がそのボールを狙いに来るので、かわしやすくなります。相手のプレスが厳しいのにボールを動かしてコントロールすると、そのままの勢いで相手が取りに来るので、奪われる可能性が高くなります。ディフェンス側の選手に対しコーチが「飛び込むな」とよく言いますね。やみくもに取りに行ってしまうと、オフェンス側にしっかりコントロールされてしまうからです。お互いに正対している状況ですと、オフェンス側からすれば足元に置いたボールは自分の体の中心線にあるので、右でも左でもどちらでもドリブルでかわせます。そのように状況によって異なることを、まずは指導者が理解しておかないといけません。ドリブルの練習で「相手より遠いほうの足でプレーするように」と恐らく皆さんおっしゃっていると思います。ボールと相手との間に自分の体を入れるようにといったアドバイスをされています。■相手から遠いほうの足でコントロールすればよいしたがって、走りながらの場合も相手よりも遠いほうの足でコントロールすればよいのです。そのための練習がどんなものかといえば、実際に相手がいないとだめなので、オフェンス側が動くとしましょう。パスを受けて「相手が右から取りに来たら、どっちにコントロールしますか?」と言ってやらせてみる。次に「左から来たらどうしますか?」さらに「今度は後ろから来るかもしれないね。どうしますか?」と考えさせながらやります。■おすすめのトレーニング例:2対1で「ボールをどこに留めればいいか」を理解させるその狙いも持ちながら練習をするのですが、子どもたちが楽しくできるように2対1でやってみるといいでしょう。例えば、AとBの2人がオフェンス側、Cがディフェンスとします。Aがボールを持っていて、Bにパスをします。そこでCはそのパスをカットするつもりで飛び込みます。まずそこでボールをどこに留めるとか、そんなことがわかりやすくなります。Cがすごくいいタイミングで取りに来たとしたら、BはファーストタッチをCから少し離れるようなところにコントロールします。そうすると、それにCがついてきたとしたら、ここではワンツーが成立しやすくなります。Aからボールを受けたBが少しCから離れるようにコントロールするというのは、Cを引き出すことになります。したがって、Cの裏を狙えるということです。逆にCがあまり激しく取りに来なかったとしましょう。そのようなとき、BはCに向かってボールをコントロールする。よく「ボールをさらす」といった表現をしますが、それをやるとCはそれに反応するかもしれません。もし反応して食いついてきたとしたら、またAを使ってのワンツーが成立しやすくなります。つまり、Cの動きによってBがコントロールする場所は変わるわけです。指導者がそのような理解をしたうえで「ボールコントロールの練習をするよ。どちらがいいか自分で判断しよう」と声掛けをしてからトレーニングをしてください。■ボールコントロールの場面でも相手との駆け引きが大事(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)動きながらパスを受ける状態というのは、このようにワンツーの場面を多く作ることが必要です。子どもたちのサッカーを見ていると、ボールコントロールのところでそういった駆け引きがなかなか見られません。であれば、練習の段階でそのような状況をつくってあげる。意識してできる環境をオーガナイズする必要があります。言葉として「状況に応じて、足元に止める場合と動かす場合を使い分ける必要があるよ」と話しながら、それを体験できる練習を提供してあげてください。最後に本当に単純なトレーニングとして、2人で走りながらのシザースパスです。ここでボールタッチ数を2タッチにします。そうして、お互いのスピードを落とさないように、走りながらワンタッチ目でコントロールして、次のタッチで相手にパスをすることになるので、コントロールからパスまでをスムーズにできるようになるトレーニングは私のチームでもよくやるトレーニングです。池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
2025年02月28日「子どものやる気が見えなくてイライラする」「やる気が見えるなら応援できるのに」、最近サカイクに投稿されるお悩み相談にもこのように書かれていることが少なくありません。試合に負けてもヘラヘラしていて悔しくなさそう、うまくなりたいというのに自主練しないでゲームばかりしている......、そういう姿にいら立つ親御さんも少なくないですが、果たしてお子さんは本当にやる気がないのでしょうか。以前サカイクの取材で、「親と子のやる気の出し方が違うと、親が子どものやる気に気づかないこともある」と教えてくれたメンタルトレーナーの筒井香さんに、子どものやる気を育てるために本質的に大切なこととは何か、をうかがいました。(取材・文木村芽久美)(写真は少年サッカーのイメージです)関連記事:「やる気」にも種類がある!「子どものやる気が見えない」と嘆く前に知ってほしい子どものやる気の種類■まずは否定せずに、子どもの行動を認めてあげることが大切保護者の人生経験の中では、負けたら悔しがるのが当然だと捉えられていたり、負けているのに笑っているのが「ヘラヘラ」しているように見えるのかもしれませんが、子どもにとってはそうじゃないかもしれませんと筒井さんは言います。最近は相手チームのことを敵チームと言わなくなりましたし、ラグビーの場合、試合終了の「ノーサイド」の笛が吹けば、敵も味方もなくなります。一緒にスポーツをしている仲間だという意識があれば、試合内容によっては負けても楽しかったと思うかもしれません。親と子どもは別人格で、そこには感情があります。親が見えていない場面では悔しい表情をしていた可能性も。なぜそういう感情になったのか理由が子どもにはあるので、「ヘラヘラしている」とイライラする前に、「あの時どうして笑っていたの?」など、対話することも大事なことなのだそうです。ゲームに時間を費やすなら、その分サッカーを頑張ってほしいと親は思うかもしれませんが、子どもにとっては大切な自主活動の一つなので、まずは認めてあげることが大切なのだといいます。「否定されたら、誰でも防衛反応が働くと思います。まずは子どもの行動を認めつつ、違うアプローチもしてみる。次はそっちをやろうかなという気になるかもしれないですよ」■誰が主役?スポーツの現場でも重要視されている「アスリートセンタード・コーチング」とは?(写真は少年サッカーのイメージです)そもそも子どものやる気が見えないと素直に応援できないという保護者について、「主役が置き換わってしまっている」と筒井さんは言います。スポーツ界でも選手を主役とし、選手が主体的にどう学ぶかにフォーカスした「アスリートセンタード・コーチング」という手法が注目されています。選手のパフォーマンスを伸ばすには、選手自身が学ぼうとする意欲が重要なのだそうです。これを踏まえ、子どもが主役と考えた時、子ども自身がどうなりたいのか考えることが大切だと言います。■低年齢の時から強い競技性を持ちすぎることの弊害とは(写真は少年サッカーのイメージです)本来小さい子どもは興味・好きなことは時間を忘れて、夢中になってやるものですが、いかに早い段階で、自分の興味を深掘りしていく経験ができるかが大切なのだそうです。早い段階で勝ちにこだわり、競技化を強めたり、ルールを重要視しすぎると、子どもが主体的に興味を深めるところにいけない危険性があると言います。また競技性を持ちすぎることで早熟な子が有利となり、早生まれが不利になりがちですが、こうした環境も子どもの成長の妨げになる危険があります。「トップアスリートでも4〜9月生まれが多いと言われていますが、能力の高さの差というよりは、幼少期の経験から自信の持ち方の差が大きいのでは」と筒井さんは言います。保護者も指導者も周りの子と比較せず、個々の成長に合わせ、子どもが好奇心を持って取り組める環境を作ってあげることが大事だと言えるでしょう。■親の関わり方で変わる、子どもの興味を育てる大切さ自分の目標を達成するためには、生まれつきの才能や資質よりも、やり抜く力「GRIT(グリット)」が重要だと言われています。GRITは生まれつき持っているものではなく、後天的に身につけていくものなのだそうです。興味はそれを育む要素の一つだといわれ、この興味を伸ばしてあげられるかが重要なのだと言います。「例えば子どもが好きなプレーや、やりたいプレーがあるのであれば、そういう映像を一緒に見たり、試合をテレビで一緒に見たり、実際に会場に見に行ければ、さらにいいと思います」と筒井さんは言います。サッカーについて自分で調べてみたり、練習してみたり、子どもが興味を深掘りしていく力を身につけさせるために、まずは保護者が子どもの個性に合った環境を根気強く作ってあげられると良いようです。■親の心が健康であることも大切。まずは自分の感情を認め、自分の感情に思いやりと好奇心を持って自分の子どもの行動やプレーを見て、ついイライラしてしまう親が、決して悪い親というわけではありません。一番身近にいる、大切な子どものことなのだから、ある意味自然なことだと言えます。ただ、思いが強くなりすぎてしまうと、どうしても近視眼的に物事を見てしまい、他の良いところも見落としがちになってしまいます。そうならないよう「まずは自分の感情を認めて、理由に寄り添うことがすごく大切」だと筒井さんは言います。つい子どもにイライラしてしまうのは、自分が熱心に子育てを頑張っている証。「私、今日も本気で子育てしているな」と自己受容してあげると良いでしょう。自分の感情を認めてあげると、自分に矢印が向くようになります。感情の持っているエネルギーを自分に向け、それをプラスとしてコントロールできるようになれると良いと言います。感情を言語化するのも良いことなのだそうで、例えば保護者同士で悩みを打ち明けあって心の発散をしながら、最後には自分の感情を認めたり、分かち合うことは良いのだそうです。イライラしたり負の感情が出てきたら、放っておかず、その理由は何だろう?と自分の感情に好奇心を持つことも大事なのです。子どものサッカーを気持ちよくサポートしたいなら、親の心が健康な状態であることも大切です。親御さんも自分自身を大事にして親子でサッカーを楽しみましょう。筒井香(つつい・かおり)株式会社BorderLeSS代表取締役博士(学術)日本スポーツ心理学会認定スポーツメンタルトレーニング上級指導士大学・大学院時代に人間行動学、臨床発達心理学、スポーツ心理学などの心理学から「人間の特性」を広範に学び、また、博士論文では、「個別性を重んじたポジティブシンキングの多様性」に関する理論を構築。現在はジュニア選手からプロ選手、オリンピック、パラリンピック選手のメンタルトレーニングのほか、指導者やスポーツを頑張る保護者の学び舎「大人のメントレコミュニティ」を運営し、子どもの主体性を育む大人の在り方や、人としてのキャリアのなかにアスリートとしてのキャリアも含めた、包括的な人生設計に重要な理論と実践方法を伝え、子どもの「キャリア=人生育て」を心理学の視点からサポートしている。2023年12月書籍「シン・ポジティブ思考-しなやかなメンタルのトリセツづくり-」を刊行。株式会社BorderLeSS著書:シン・ポジティブ思考-しなやかなメンタルのトリセツづくり-
2025年02月27日上手くなりたいと言うのに自主練しない。アドバイスも嫌がる息子に悩むという相談への回答が「口出しせず何も言わない」だったが、全くもって納得できない。本人が気づくまで待てということ?それが本人のためになるの?何も口出ししなければ気づくの?一生気づかない子は諦めろってこと?というご質問をいただきました。子どものサッカーでの成長について、見守るだけでいいの?という不安を感じたことがある保護者の方もいらっしゃることでしょう。スポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、投稿いただいたご意見にお答えします。(構成・文:島沢優子)(写真は少年サッカーのイメージご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<練習をサボった子が先発で真面目なわが子はベンチ。上手ければ休んでいいのか問題<サッカーママからのご相談>9歳の子どもを持つ母です。以前の連載記事にあった、「上手くなりたいと言うのに自主練しない。アドバイスも嫌がる息子に頭を悩ませている問題」への返答が「何も口出ししない、褒める以外は何も言わない」というのに全く納得いかず、共感もできません。【該当記事】上手くなりたいと言うのに自主練しない。アドバイスも嫌がる息子に頭を悩ませている問題練習中や試合中に砂いじりしていても何も言わないということですよね?なぜですか?本人が気付くまで待てという事でしょうか?それが本当に本人の為になるのでしょうか?「何も口出ししない、褒める以外は何も言わない」を続けていたら自分で気づけるようになると思いますか?一生気づかない子は諦めろということでしょうか?教えてください。<島沢さんからの回答>記事へのご意見、誠にありがとうございます。9歳男児ということは小学3年生でしょうか。ご意見された記事のご相談者様と同じような年齢ですね。まず、こちらの記事をもう一度お読みになることをお勧めします。お母さんは当該記事に対する私の返答として「何も口出ししない、褒める以外は何も言わない」を挙げられ、そこに「全く納得いかず、共感もできません」とおっしゃっています。しかしながら「何も口出ししない、褒める以外は何も言わない」とおっしゃっているのは、ご相談者様ご自身です(以下、記事部分です)。私の言葉ではありません。まず、そこを勘違いされているようなので、ぜひご確認くださいね。自信がない中でも毎日文句ひとつ言わず練習に通い頑張っているとは思うし、昨日の自分と比べたら上手になったね!と褒めてはいますが、もっとチャレンジしなさい、考えなさい、練習しなさい、と言ってしまっているのも確かです。関わり方がわからず最近しんどいな、と感じています。きっと本人はもっと息苦しい思いをしているかもしれません。楽しんでプレーしている息子が見たいから、もう何も口出ししない、褒める以外は何も言わない、と決めたのですが、試合中ベンチで砂いじりをしている息子を見て叱ってしまったり、結局どうしたらいいのか頭を悩ませています。いかがでしょうか。記事にある相談をされた方のお子さんは小学3年生。まだ8歳か9歳です。試合に出られずずっとベンチに座らされたら、砂いじりもしたくなる年齢です。叱ったとて、何ら効果はありません。無駄なことです。ご相談者様はそこに気づかれたので、自ら「何も口出ししない、褒める以外は何も言わない」と決めたのではないでしょうか。■自分の行動の至らなさを「自分で気づいて正す」には年齢やタイミングがあるさらに、お母さんは「何も口出ししない、褒める以外は何も言わない」を続けていたら自分で気づけるようになると思いますか?一生気づかない子は諦めろということですか?と書かれていますが、成人サッカーでベンチにいるときに砂いじりをする大人を私は見たことはありません。自分の行いの至らなさを「自分で気づいて正す」には、それができる年齢やタイミングがあります。■件のご相談者様が「褒める以外は何も言わない」と決めたのには理由があるはずお母さんは「共感できない」と書かれていますが、そもそもこのご相談者様が「何も口出ししない、褒める以外は何も言わない」と決めたのは、大きな理由があってのことだと私は感じています。ご相談者様夫妻は、息子さんがせっかくサッカーを楽しくやっていたのに「あまりにも技術が身に付かない」と評価。エンジョイを優先するクラブでさえ技術の習得が遅れていた子どもを、何ゆえか「強い少年団」に移籍させました。理由として「本人が上手になりたいと言うので」とありますが、強いチームに入れば技術がアップするわけではありません。ご相談文に「以前に比べたらドリブルもずいぶん上手くなりました」と書かれていますが、前のチームにいた2年時より、3年生になれば上達スピードは増します。そして、強豪ゆえに試合に出られず、コーチは厳しい。結果的に息子さんにとって成功とはいえない移籍になっているようです。親である自分たちがいらぬ口出しをしてしまい、子どもを苦しめてしまったことからの反省だと私は感じました。それゆえに、ご相談者様は口出しせず褒めようと決めたのでしょう。それなのに、以前より厳しいサッカー環境でわが子が苦しんでいる姿が、ご相談者様には情けなく映る。イライラするので叱る。叱るのは逆効果だ、子どもの成長を待たなくてはいけないとわかっているのに叱ってしまう。その苦しみに耐えられなくて、私に相談をされたのだと考えました。要するに、このご相談者様夫婦は方向性の結論が出ている。それならば、あとは彼らになかった視点を知らせてあげればいいかなと判断しました。■子どもの成長を促すガソリンは自己肯定感彼らの子育てに加えて欲しい視点は、子どもの成長を促すガソリンは自己肯定感だということです。最初に、公園で友達に誘われてもサッカーをしたがらない、サッカー経験のある父(夫)ともやりたがらないという態度を見せたとき、彼らは「なんのためにサッカーをしているのかわからない」とまるで大人に向けるような視点でわが子を見ています。この時点で「この子は自分が下手であることを気にしている」とわかったら、「なぜ気にしているんだろう?」と理由や背景を考えるべきでした。自分たちの態度が、結果ばかりを求めていなかったか。追い詰めていなかったか。サッカーを「楽しんでくれればいい」「好きになってくれればいいよ」といったジュニアスポーツで最も重要な視点を忘れていないか。その点を振り返ったほうが良かったと私は思ったのです。それなのに、対応を間違えてしまい強いチームに入れてしまった。周囲のレベルは前のチームよりまた一段上がっているので、子どもはよりいっそう委縮してしまっています。そこで、相談者に「言葉や行動の表面で判断せず、その裏にある『なぜ?』を考えよう」と子どもの姿や事象を深く促しました。自己肯定感の重要性も併せて伝えました。ご相談者様はすでに自分たちの間違いに気づいている。でも、現実を突きつけられると焦ってしまい、思わず子どもに当たってしまうのです。■気づくまで待たずに世話を焼き続けたら、指示されないと動けない大人になるリスクがある(写真は少年サッカーのイメージご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)最後に、「本人が気づくまで待つのは本当に子どもためになるのか」という質問ですが、気づくまで待たずに世話を焼き続けていれば、誰かに何かを指示命令されないと動けない大人になってしまうリスクがあります。その理由や根拠は、こちらの連載のそこここに書かれています。この回で200回を迎えました。よろしければご高覧ください。お母さんももしかしたら、うまくいかないことがあり悩まれているのでしょうか。何かありましたらまたお便りいただけたらと思います。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)ジャーナリスト。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』『東洋経済オンライン』などでスポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』(小学館)『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)『部活があぶない』(講談社現代新書)『スポーツ毒親 暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか』(文藝春秋)『オシムの遺産彼らに授けたもうひとつの言葉』(竹書房)など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著・小学館)『教えないスキルビジャレアルに学ぶ7つの人材育成術』(佐伯夕利子著・小学館新書)など企画構成者としてもヒット作が多く、指導者や保護者向けの講演も精力的に行っている。日本バスケットボール協会インテグリティ委員、沖縄県部活動改革推進委員、朝日新聞デジタルコメンテーター。1男1女の母。
2025年02月26日子どものサッカーを見ていると、「スペースに走れ」「そこで止まって」など、声に出さずとも思ってしまうこと、ありますよね。ピッチサイドにいると適切な位置などがよく理解できるものです。ですが、実際にプレーをしているとどうでしょう?サッカー少年団でお母さんコーチを経験した後、自身もサッカーを習い始め「実際にやってみたら周りも見れないし、足も止まらない」と話すお母さんに、子どものサッカーへの理解について聞いてみました。現在中学生で反抗期真っただ中のお子さんとのサッカーという共通ワードでの会話も、参考にしてみてください。(文・木村芽久美)(写真はサッカーのイメージです)関連記事:「なんで走らないの」なんて言えなくなった。サッカー未経験の父たちが、自身もサッカーを始めて変わった子どもへのかかわり方■サッカー未経験のお母さんがコーチをやることになったきっかけ川崎市在住のササキさんのお子さんは、小学校入学時に小学校のサッカー少年団に入部し、サッカーを始めたそうです。当時は仕事が忙しく、普段一緒に遊ぶ時間がなかなか作れなかったため、サッカー未経験だったけれどもお母さんコーチを始めたのだそうです。「熱心なコーチがいて、お母さん達にも『コーチやりませんか?』って気さくに声をかけてくれて」チームのコーチ自身が元々サッカー未経験者で、お子さんのサッカーがきっかけで大人になってからサッカーをやり始め、インストラクターをするまで上達をされたのだそうです。「お父さんコーチだけじゃなくてお母さんコーチもウェルカムな感じで、『教えるんじゃなくて、見守るだけでいいんです』って言うので。サッカーは未経験でしたけど、子どもと一緒にいる時間をできるだけ作りたくて挑戦してみました」とササキさんは振り返ります。■見るのとやるのでは全然違う。サッカースクールに通い始めて、理解が深まる(写真はサッカーのイメージです)お母さんコーチをしていた時も多少ボールに触っていたけれども、大人のフットサルに時々誘ってもらったり、サッカー大会に参加しているうちに自身もサッカーが楽しくなっていったそう。お子さんも中学に入学し、親の手を離れ始めたこともあり、2か月前から大人のためのサッカー教室に通い始めたのだそうです。「これまでもサッカーやフットサルのイベントに参加はしてたんですけど、体が全然いうこと効かなくて(笑)。子どものサッカーを見ている時には『もっとああして、こうすればいいのに』って思うんですけど、自分がいざピッチに立つと、ボールがきてもうまくできないし。だから私も習いたいなと思って」お母さんコーチをしている時から『サッカーは見るのとやるのでは全然違う』とは思っていたそうですが、実際やってみると、自身の体で実感したそう。「子どものサッカーを見てた時は『あのスペースに走って』『そこで止まって』とか思っていたんですが、自分がやってみると周りを見る余裕もないし、走ってると急に止まれなくてバタバタバタってなってしまったり......。どこにパスを出していいのか判断の難しさを実感し、自分がやってみたからこそ、子どもたちは頑張ってサッカーをしているのだと、さらに理解が深まりましたね」■サッカーが、思春期の息子との大切なコミュニケーションツールに(写真はサッカーのイメージです)今、中学2年生の息子さんは部活でサッカーを頑張っていますが、まさに反抗期のまっ最中。「試合を見に来ないで」と言い、機嫌が悪い時はもう話しかけないでほしい雰囲気を出しているといいます。子どもの気持ちもわかるけど、それでも気になるのが親心というもの。「先日、息子にみつからないようこっそり見に行きましたけどね。中学入学以降、試合を見に行ったのは初めてです」とはにかみながら教えてくれました。反抗期真っただ中の息子さんですが、サッカーの話題になると「これができるようになったよ」と自分から報告してくれたり、ササキさんからサッカーのことで息子さんに「これどうやるの?」と聞くと「お母さん、それだと全然ダメだよ。もっとここで触るんだよ」と教えてもらっているのだそうで、親子にとって、サッカーは良いコミュニケーションツールになっているのだそうです。「サッカーは反抗期の子どもとのコミュニケーションにも役立っています。上から目線ですけどね(笑)」■サッカーは人生を豊かにし、生涯楽しめるのが魅力ササキさんは学生の頃ソフトボールをしていたそうで、その楽しかった経験から、スポーツの価値は競技志向というよりは、生涯スポーツとして人生を豊かにしてくれることにあると位置付け、息子さんのサッカーについても口出しせず、夫婦で温かく見守っているのだそうです。「スポーツで別にプロにならなくても、サッカーは仲間もできるし、国内外問わず色々な人と出会えたり、仕事関係以外でも仲間ができたり、人生を豊かにするものだと思っていて。だから小学校でやめちゃうよりは中学校、その先でも続けてスキルを上げた方が、人生的にも自分で頑張ってきた証になるし、積み重ねたものになれば」と話します。ひとつのことをやりきる充実感や忍耐力は、生きる力につながるでしょうし、友人たちとのコミュニケーションを学ぶ場として、また社会人になっても趣味として楽しめるという点などをサッカーの最大の魅力だと捉えているのです。■サッカーを通じて、親子で一緒に成長する息子さんにはできれば高校入ってからもサッカーを続けてほしいとササキさんは言います。「社会人になってからも趣味でサッカーをしたり、サッカー観戦を楽しんだり、生涯サッカーを好きでいてほしいなとは思いますね」ご自身の目標は『サッカーがもっと上手になりたい』そうで、「スクールでは今年一年ドリブルをやるみたいなので、ドリブルとかボールタッチがうまくできるようになれたら」と意欲を示します。お母さんが目標に向かって頑張る姿は、息子さんにとって大きな力になるでしょう。保護者が行動で示すことは、お子さんに大きな影響を与えるという意味でも大切だと言えるでしょう。大人も年齢に関係なく、自分の趣味や目標を持ち、サッカーを頑張るお子さんを、楽しみながら支えていけるといいですね。
2025年02月20日花粉症の季節がやってきました。早い子は1月下旬から症状が出ます。すでに目がかゆい、鼻がグズグズするなどの症状が出ているお子さんもいるのではないでしょうか。花粉症はサッカーのときも厄介ですよね。近年、大人だけでなく子どもも、花粉症に悩まされているケースが多いようです。サッカーをするお子さんの場合、山の麓のグラウンドや風の強い河川敷など、花粉が舞っている状況でサッカーをする場面がたくさんあります。医療法人つばさ会高座渋谷つばさクリニックの武井智昭院長に伺った花粉症対策後編。サッカーの場面での対策、腸活など日常生活でできる体質改善、近年注目されている、花粉症が治る治療法などについてお話を伺いました。(取材・文:鈴木智之)※2021年3月25日に配信した記事に一部加筆(2025年2月19日)<<サッカー少年の大敵、花粉症!試合で活躍するためにも知っておきたい、花粉症対策■症状が出たら医師の診断の元、薬を処方してもらうのが一番もうすぐ本格的な花粉シーズン。前回の記事でもお伝えしましたが、花粉症対策の一番の方法は、病院に行き、花粉症の薬をもらうことです。武井院長は言います。「飲み薬、点鼻薬、目薬と、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、目のかゆみなどを軽減する薬を服用することで、症状をある程度、抑えることができます。花粉症で咳が出ることもあるので、その場合は医療機関を受診して、咳止めを処方してもらうと良いでしょう」■アレルギー症状を抑えるために腸内環境を整えることも大切花粉症はスギやヒノキのアレルギー反応によって起こります。近年、花粉症のほかに、食物アレルギーや気管支喘息など、子どものアレルギーの病気が全体的に増えてきているそうです。「原因として挙げられるのが、食生活の欧米化です。アレルギーの病気や免疫の病気、感染症にも言えることですが、人間の白血球やリンパ球などの免疫に関わる細胞は、多くのものがお腹の中にあります。『腸活』をして、善玉菌が含まれているヨーグルトや食物繊維などを摂ることで、腸内環境を整え、アレルギー症状を抑えることが大切です」『腸活』は腸内環境を整えて、健康な体を手に入れるために行うものです。アレルギー症状を軽減させるためには、脂っこい食事やジャンクフードなどを控えて、7時間以上睡眠をとるといったように、生活習慣を見直し、アレルギーを起こさないための体質にすることが重要なのだそうです。「最近の小学生は食生活の欧米化や、野菜をあまり食べなくなってきているので、摂取する食物繊維が少なくなっています。さらにコロナ禍で外遊びが減り、運動時間の減少も見られます。腹筋の筋力が落ちると排泄機能も低下します。便通が良くなることで腸内環境は改善するので、食物繊維を摂ることと適度な運動を心がけてみてください」■汗の処理にも気をつけよう花粉症に関しては、激しい運動をすることで悪化するおそれがあります。アレルギー症状は、血のめぐりが良くなると発症しやすくなるからです。とくにサッカーなどをして、ぜえぜえと呼吸をすると、その分、花粉をたくさん吸い込むことになります。少年サッカーは山の麓や河川敷のグラウンドなど、花粉が多く舞っているところでプレーすることも多いので、できる限り予防をして臨みたいところです。「サッカーがある日は普段より多めに花粉症の薬を飲んだり、頻繁に目薬をさすと良いでしょう。目や鼻を練習の合間に洗浄するのもひとつの方法です。休憩時間に、水のあるところに行って、目を洗い、目薬をさす。鼻うがいをするなどして、花粉を洗い流しましょう。コンタクトレンズをつけている場合は、一度外してから目を洗うようにしましょう」さらに、こう続けます。「気をつけてほしいのが汗の処理です。汗をかくと、タオルなどで拭く時に、顔などを触ってしまい、タオルに花粉が付着し、それを手で触って目や鼻についてしまうことがあります。目のかゆみの原因にもなるので、なるべく顔を触らないように心がけましょう」■アレルギー症状を抑えるためにはクールダウンで体温を下げるのも効果的お子さんのサッカーを観戦する保護者の方も、基本的な対策は同じです。病院で処方された薬を飲む。マスクやメガネをつけて目と鼻をガードする。コンタクトレンズよりもメガネの方が、花粉から目を守ることができます。また、帽子をかぶると、髪の毛に花粉がつくのを防ぐことができるのでおすすめです。「身体の血流が良くなるとアレルギー反応が出やすいので、身体を冷やすのも効果的です。水分を多く摂る、冷たいものを飲むなど、身体を冷やすことを意識してみてください。お風呂は普段どおり入っても大丈夫ですが、できればぬるめの方が良いと思います」と、可能であれば練習後にクールダウンを行って体温を下げることを実施すると良いと教えてくれました。花粉症の都市伝説として「一定量以上の花粉を浴びると、コップから水があふれるように花粉症が発症する」というものがありますが、武井院長によると「医学的見地からは、あまり関係がない」そうです。「3歳、4歳の時点で発症する子もいますし、遺伝的な要素、食生活の変化も影響していると考えられます。アレルギー検査をすると、原因が何かを知ることができますし、保険適応のものは39項目まで調べられるので、アレルギーかな? 花粉症かな? と思ったら早めに検査し、対策をしましょう」■今や花粉症は治る!悩んでいる方は医師に相談を近年、花粉症の治療で注目を集めているのが『舌下免疫療法』です。花粉のオフシーズンから1日1錠、薬を飲み始め、3年ほど続けると8割ほどの人に改善が見られるそうです。「費用的にもそれほど高価ではなく、保険適応です。花粉以外のアレルギー、ダニやハウスダストにも効果があるので、舌下免疫療法を選ぶ人も増えています。5歳以上から、花粉の飛散がない6月から12月に開始します」2月頃からスギ・ヒノキの花粉が飛び始め、夏を経て、秋にはブタクサ、ヨモギの花粉が飛散します。花粉症になると頭がボーッとしたり、集中力が続かないなど、日常生活へ支障が出てしまうので、なるべく早く対処をして、健やかに日々を送ることができるようにしましょう。武井智昭(たけい・ともあき)医師。慶應義塾大学医学部卒業後、慶應義塾大学病院 にて小児科研修、2005年から平塚共済病院小児科医長として勤務、2020年に「高座渋谷つばさクリニック」院長就任。専門は小児科・内科・アレルギー科。
2025年02月19日食中毒は夏場だけのものではありません。FC東京の栄養アドバイザーを勤めている管理栄養士の久保田尚子さんに伺ったところ、実は冬も食中毒対策は必須なのだとか。冬は風やインフルエンザが流行する時期ですが、子どもが受験を控えているご家庭は特に体調管理に気をつかう時期でもあります。冬の食中毒対策と免疫力について伺いました。(取材・文:小林博子)(写真はお弁当のイメージ)<<前編:おいしく食べて午後も元気なサッカーのエネルギー源にするお弁当の中身とは?■食中毒対策の基本は夏と同じと心得て食材が傷みやすい夏ほどではないにしても、冬に食中毒が皆無になるわけではなく、お弁当が傷むシーンは多々あります。暖房が効いた室内や車内や、直射日光が当たる窓辺に長時間置いてあれば、夏のように暖かくなることも。また、胃腸炎のウイルスなど冬ならではの食中毒もあります。お弁当づくりの食中毒対策は季節に関わらず「つけない!増やさない!やっつける!」を守り、容器は詰める前にしっかり洗い消毒をする、食材にはしっかり火を通す、熱々のまま密封しない、食材を素手で触らないなどの基本は夏と変わらず行いましょう。また、冬場でも温度管理に気を遣うべきものには保冷剤を付けることを忘れずに。■スープジャー内の細菌の繁殖に注意「熱いものを熱い器に入れる」が鉄則(写真はスープジャーのイメージ)冬のお弁当の人気アイテムであるスープジャーは、使い方によっては食中毒を起こしやすいアイテムに様変わりしてしまいます。人間にとって飲み頃の30〜40℃は細菌が繁殖しやすい温度でもあります。スープジャー内での細菌の繁殖を抑える方法は、まず朝は高い温度にして持たせること。スープ類を入れる前に熱いお湯であらかじめスープジャーを温めておきましょう。熱湯に近い温度のお湯であれば殺菌効果もあり一石二鳥になりますし、何より容器が冷たいままよりも中に入れたスープの保温性もぐっと上がり、お昼に蓋をあけるまで高温をキープできます。中に入れるスープはコーンスープクラムチャウダーなど牛乳を使用したものや、シチューやカレーなど粘度の高いものは傷みやすいため避けることも対策の1つです。クリーム系のスープを飲みたい場合は、スープジャーにはお湯だけを入れておき、食べる直前に粉タイプのスープの素を入れて食べることをおすすめします。■サッカーをするために必要なのエネルギーは炭水化物チームによっては試合日のお昼ご飯に指定されることもあるおにぎり。子どもの栄養摂取の観点から、具材にたんぱく質を選びたくなる親御さんは多いと思いますが、前回の記事でお伝えしたように冷めて固まる脂を使った具材は味わいの面から冬場はおすすめしません。また、衛生面からも炊き込みご飯などは傷みやすくなる可能性があります。ではどうしたらいい?と思うかもしれませんが、たんぱく質を意識しすぎて炭水化物が疎かになることが最も避けたいことです。サッカーをするために必要なエネルギー源は米や小麦などの炭水化物。体内に蓄えた炭水化物は、個人差はありますが6時間程度で空っぽになってしまいます。少なくとも運動時の食事ではエネルギー源になる炭水化物が最優先と考えて下さい。3食バランスよく食べるのがもちろん理想ですが、もしお弁当が炭水化物中心で、たんぱく質が足りないなどバランスがとれなかったとしても、前後の食事で補えばいいので気にしすぎなくても大丈夫です。実はご飯には、たんぱく質も案外含まれているのです。※参考;おにぎり1個(110g)に含まれるたんぱく質は約2.8g。もしおにぎりを3個食べたとしたら、たんぱく質は約8.3gとれます。ちなみに、牛乳200mlには約6.9gです。■「おにぎり嫌い」な子はどうしたらいい?「冬は特におにぎりを嫌がる」という子もいるようです。その場合は、前回ご紹介したようにスープジャーの中にうどんなどを入れるのも手段の1つ。また、米ではなくパンでもかまわないとのことです。ただし、パンは脂質を過剰摂取しがちなのが懸念点。脂質は消化に時間がかかるため午後のパフォーマンスに悪い影響を及ぼしてしまうこともあるでしょう。脂っこいものを挟んだサンドイッチや、バターをたくさん使った菓子パンなどは避けましょう。■免疫力をキープする栄養素3つ感染症対策には粘膜強化が有効(写真は柑橘類のイメージ)風邪やインフルエンザなど、細菌やウイルスで罹る感染症対策のため、免疫力の向上は冬の命題です。せっかく食べるなら免疫力をあげるものを食べてもらいたいところですね。意識したい栄養素は以下の3つです。・ビタミンC体内に侵入したウイルスや細菌に対する抗体を作り出す白血球の1種である「マクロファージ」の働きを助けるほか、コラーゲン生成を促すことで粘膜を強化してくれます。そのほか、抗ストレスホルモンの生成も助けてくれます。〈ビタミンCを多く含む食材〉柑橘類、キウィフルーツ、パプリカ、ブロッコリー、じゃがいも、さつまいもなど・β‐カロテン(ビタミンA)β‐カロテンは体内でビタミンAに変換され、粘膜の強化をサポート。粘膜が強くなるとウイルスや細菌の侵入を阻止してくれるため、感染症にかかりにくい体になります。〈β‐カロテン(ビタミンA)を多く含む食材〉ニンジン、ほうれん草、モロヘイヤ、レバーなど・ビタミンD以前はカルシウムの吸収促進が注目されていたビタミンDですが、最近は免疫力向上やアレルギー症状改善の働きが注目されています。サッカーのように屋外で活動する選手は紫外線を浴びることで体内でも合成されますが、免疫力向上のためには食事から摂ることも意識してみましょう。〈ビタミンDを多く含む食材〉鮭、しらす干し、うなぎ、まいたけ、きくらげ、干しシイタケ など■保護者は最強のサポーター今回お話を伺った久保田さんのもとには、Jr.ユースやユースチームで栄養サポートをしてきた選手がトップ選手になったりしてからも栄養の相談をしてきてくれたり、食事の写真を送ってくれることもあるとか。育成年代で保護者やコーチの助言もあって食事の大切さもしっかり学び、よい栄養バランスが自然と身についていることがうかがえて嬉しいと話してくれました。体づくりやコンディション維持の重要な部分を占める食事だからこそ、おいしく食べながら自然な形で身に付けることができたら理想的ですね。久保田尚子管理栄養士1997年からFC東京。(1998年までは前身の「東京ガスフットボールクラブ」)にて管理栄養士としてトップチームの選手の栄養指導を行う。現在はFC東京トップチームから育成セクション(U-18、U-15)までの栄養アドバイザーとして栄養面からサポートしている。
2025年02月17日ショートパスをつなぐのも大事だけど、時にはロングボールを蹴る判断も必要だと思ってる。使い分けを身につけさせたいけど、どんな練習が良いの?というお父さんコーチからの相談。ジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上のあらゆる年代の子どもたちを指導してきた池上正さんが、リスク管理をしながらロングボールを効果的に使えるようになるトレーニングメニューを伝授します。(取材・文島沢優子)(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)<<真面目でコーチの指示をちゃんと聞くのに理解が遅い子、ポジショニングなど動きを理解させるにはどうしたらいい?<お父さんコーチからの質問>はじめまして。子どもがお世話になったスポ少で指導を続けている者です。(わが子はとうに卒団済み、私のみお父さんコーチとして残っている。今や趣味です)主に高学年(U-12)を見ることが多いのですが、パスの使い分け、判断についてのご相談です。最近は後ろから繋ぐことを大事にしているチームが多いと思いますが、ボールを運ぶときに、時にはロングボールも必要かと思っています。いつロングボールを蹴り、いつショートパスで繋ぐか。要は使い分けが必要だと思うのですが、そういった判断を身に着けさせるのにおすすめの練習法はありますか?強いボールを蹴れる学年になると、やたらロングボールを蹴りたくなる気持ちは私も理解できるのですが(笑)。逆にショートパスだけにこだわってロストするリスクも知ってほしいので、使い分けを教えたいです。よろしくお願いいたします。<池上さんからのアドバイス>ご相談ありがとうございます。「ショートパスだけにこだわってロストするリスクも知ってほしい」とご相談文にあります。専門的に言えば、ロングパスを蹴っておけば、相手に来られて奪われたとしても、すぐにピンチにならないというイメージなのでしょう。一方で、プロのチームがショートパスをつなぐ場合、自分たちがボールをロストしても、相手もそれを取るためにそこに集まっている状態なのですぐに取り返せるという考えのもとでやっています。つまり、ショートパスが危険なわけではありません。サッカーの原理原則として、ショートパスが高リスクでロングパスはOKではないことを選手に理解させてください。■相手にカットされた際のリスク管理の面からも横パスより斜めのパスが有効問題は「パスの角度」です。横パスよりも斜めのパスが有効です。これは相手にカットされた際のリスク管理の観点から重要なので説明しておきます。横へのパスが一番よくないと言われています。なぜならば、横にパスしたボールをカットされた場合、パスした選手、そのパスを受けようとした選手の2人がともに置き去りにされてしまいます。これに対し、斜め前にパスを出せば、もしもそれをカットされたとしても、パスを出した選手のほうが後ろにいるので戻ってディフェンスできます。斜め後ろに出せば、カットされてもパスを受けようとした人間が残っているので守れます。いわば失点の可能性が高いカウンター攻撃を受けるリスクを減らせる。カウンターへのリスク管理ができます。このような原理原則を、1990年代に日本代表監督を務めたハンス・オフト監督が当時の代表選手たちに「パスの角度に注意しなさい」と伝えていました。かなり前の話です。パスがつながるように「トライアングル」という概念も伝えていましたが、パスの角度が悪いと指摘していました。角度が悪いと「相手に取られたときに守れなくなるよ」と口酸っぱくおっしゃっていました。■ロングボールを蹴るときは、全体が見えているかがカギ一方、ロングボールを蹴るときは、全体が見えているかどうかに注目してください。遠くにいるフリーの選手を見つけられるか。ただ蹴るのではなく、広い視野を持つことが重要です。それは練習の中で「遠いところを見つけたときは(ロングボールを)蹴っていいよ」と言ってあげること。それで挑戦する子が出てくればいいでしょう。さらに言えば、ロングボールでも横ではなく斜めに出すよう促してください。■おすすめのトレーニングメニューその1練習としては、二つのグリッドをつくり、それぞれで3対1の鳥かごを行います。グリッド間でパスを展開するトレーニングです。<イメージ>例えば、グリッドAの3人が最低3本、5本でもいいでしょう。そのくらいパスをつないでから、逆サイドにあるグリッドBの3人内手を挙げている選手にパスをします。Bはすぐに始めずに、ボールが渡ったら仕切り直す形でそこからスタートして何本かつないで、またAに戻す。AとBの間は10m以上あるといいでしょう。それを繰り返します。逆サイドにパスをするためには、誰にどんなパスを出したらが蹴りやすいかといったことを理解しトライさせます。■おすすめのトレーニングメニューその2もうひとつは、シザースパスです。「ショート・ショート・ロング」という呼び方をします。選手A、選手B、選手Cと、3人1組で行います。Aがボールを持っていて、Bは近くにいます。Cは離れています。AからB、Bが一度Aに戻してから、AがCに長いパスを送ります。次にBがCのところに走って行きます。そこでCはBに1回パスをして、BがCに折り返したら、CはAにロングパスをする。<イメージ>ここでは、パスをした後に折り返しが来る間に、遠くにいる相手見ておいて蹴ってみましょうと伝えます。形としては、3人グループがずらりと横並びに整列してやるといいでしょう。例えばゴールラインに平行にプレーする。グループの間は5メートルくらい離れてやれば、ボールがそこまで交錯することなくやれるでしょう。さらに、例えば一番遠い人は、ボールを受けるために移動してもらいます。3人が動きながらやる。そうすると、他のグループもやっていると重なってしまうので、どこかスペースを見つけて走らないとバスがもらえません。ごちゃごちゃしてきますが、そのようなカオスな状態でショート・ショート・ロングをやると、ディフェンスがいなくてもライブ感が出てきます。要するに試合に近くなってくるので、動きを入れてやるのも非常に有効です。わざとカオスが生まれるようにして、イメージとしては「全体を使って動こう」と伝えてください。■トレーニングのアレンジタッチ数を制限して負荷をかける(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)概ねできるようになれば、高学年なのでタッチ数の制限をするなど負荷をかけてもいいでしょう。例えば「全員2タッチでやってみよう」と声がけします。そうすると、長いボールを受けた子は、遠くから飛んでくるボールをワンタッチでコントロールしないといけません。その次は、ボールを受けに来る子に正確にパスを出さないといけない。視野を確保する力がつきます。私の場合はこの練習を「ダイレクトでやってごらん」ということもよくあります。ダイレクトでやるとなると、それぞれが何か考える必要が出てきます。ロングパスを受ける人はボールが落ちる地点に向かっていかなくてはいけません。しかも、蹴ったらすぐに走らなくてはいけない。これをダイレクトでやるとなれば、みんなが正確にならないとうまくいきません。ただし、そんなに長くやる必要はありません。私のトレーニングは基本的にひとつのメニューを長くやりません。長くやる必要はなく、仲間がどこに走っているかを見て、蹴る。そんなイメージをつかんでくれればよいのです。そのあとにゲームをするときに、裏を狙ったり、遠くにいる味方に蹴ってみようかな、といったトライができればと思います。池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
2025年02月14日「やる気の出し方」には種類がある、って知ってました?「うちの子やる気が見えなくて」「どうしたらやる気スイッチを押せるの」「やる気がないならサッカーやめな」など、保護者の皆さん一度は思ったり、実際にわが子に言ったことがある方もいるのではないでしょうか。兄弟なのに上と下でやる気が全然違う、というご家庭もあるのでは。実はやる気には種類があって、自分自身とやる気の種類・出し方が違うと相手に「やる気」がないように感じてしまうのだそう。お子さんのやる気の出し方が親御さん自身の出し方と違うだけで、実は意欲があることも。今回は「やる気」の種類についてご紹介します。(文:筒井香)※加筆して再配信します(2025.2.13)1.「やる気」の種類「やる気が出ない」「やる気を維持したい」という言葉をよく耳にします。ここで言う「やる気」とはいったい何のことを意味しているのでしょうか?実はやる気は一種類ではなく、たくさんの種類があると心理学では考えられています。「A」というやる気がないだけで、「B」というやる気はあるかもしれません。また、「A」だけを維持しようとするから難しいのであって、他のやる気を生み出すことで、結果的にはやる気を維持できると考えられます。今年は新型コロナウイルスの影響で大会が中止になり、「やる気が出ない」と訴える選手にも出会いましたが、「"試合前に持つ種類のやる気"は捨てる勇気が必要」というお話をさせていただいたこともあります。例えば、やる気の種類には、以下のようなものがあります。・新しいことを知りたい・能力を発揮したい・勝ちたい・認められたい・褒められたい・仲間を作りたい・金メダルを獲得したい・賞金を獲得したい2.「やる気」の出し方「やる気がある」「やる気がない」とわが子に対して感じることはないでしょうか?しかし、本当にやる気がないかは判断が難しいものです。なぜなら、やる気に種類があるように、やる気の出し方にも種類があるからです。例えば、やる気がある時に「大きな声を出す」というタイプの人は、「大きな声を出す」人を見て、「やる気がある」と感じますし、「声が小さい」人を見て、「やる気がない」と感じやすいと思います。でも、黙々と取り組んでいても、やる気がある人もいますね。自分と同じタイプの人のことはわかりやすいかもしれませんが、異なるタイプの人のことは間違った解釈をしてしまう可能性があるということです。でも、「やる気」は目に見えないのでそれも当然ですね。「間違った解釈をしてしまう可能性がある」ということをわかっていることが大切だと思います。3.イライラを鎮めるための3つのポイント「うちの子はやる気がない」と感じた時に、イライラしてしまう、といったことはないでしょうか?そのような時には、以下の3つのポイントを意識することがオススメです。①子どもに期待しているやる気の種類(例:勝ちたい)と、子どものやる気の種類(例:仲間と楽しむ)が異なっていることから生じている可能性を考える。②ご自身のやる気がある時の様子や行動(例:声が大きく、テキパキしている)と、子どものやる気がある時の様子や行動(例:何も言わず、のんびりしている)が異なっていることから生じている可能性を考える。③子どもに「やる気を出して頑張って欲しい」「良いパフォーマンスを出して欲しい」と願う気持ちがイライラに繋がる。イライラしたら、「今日も親として頑張る私がいる」と受け止めてみる。このようにご自身のイライラの理由と向き合い、わが子のやる気の種類や、やる気の出し方に目を向けることが大切になると思います。「やる気がある」とは、「今日、自分が行動を起こす理由がわかっている」という状態のことです。学校や練習に行く前に子どもと「今日のやる気」についてお話をして、一日を始めてみてはいかがでしょうか。今日のやる気を生み出し続けることが、結果的に「やる気の維持」に繋がります。筒井香(つつい・かおり)株式会社BorderLeSS代表取締役博士(学術)日本スポーツ心理学会認定スポーツメンタルトレーニング指導士大学・大学院時代に人間行動学、臨床発達心理学、スポーツ心理学などの心理学から「人間の特性」を広範に学び、また、博士論文では、「個別性を重んじたポジティブシンキングの多様性」に関する理論を構築。現在はオリンピック、パラリンピック選手のメンタルトレーニングのほか、スポーツを頑張る親の学び舎「スポスタ」の講師として、スポーツを(アスリートとして)頑張っている子どもの保護者に向けて、人としてのキャリアのなかにアスリートとしてのキャリアも含めた、包括的な人生設計に重要な理論と実践方法を伝え、子どもの「キャリア=人生育て」を心理学の視点からサポートしている。株式会社BorderLeSSスポスタ
2025年02月13日練習を早退したり、週末Jリーグを観に行くからと欠席するのに公式戦でスタメンに選ばれる子。うちの子と技術的には大差ないのに、引っ込み思案な息子が良くないの......?うちの子は休まず練習に出ているのに、しょっちゅう休む上手い子が選ばれることに同じ月謝を払っているのに納得いかない、という気持ちを持ったことがある保護者は結構いらっしゃるのではないでしょうか。今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、これまでの知見をもとに、お母さんがどうすべきかアドバイスします。(構成・文:島沢優子)(写真は少年サッカーのイメージご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<子どもたちに実力差を作ったコーチに不信感。「スタメン取れなければやめる」の条件つけるべきか迷います問題<サッカーママからのご相談>息子2人を同じクラブチームに所属させています。長男は元々おっとりしており、サッカーで運動できれば良いくらいでした。次男は大人と話せず引っ込み思案ではあるものの、技術はあります。息子達が所属しているチームには親子でJリーグファンの方が多くおり、水曜日に早退したり、土日に欠席する方がいらっしゃいます。それでも、風邪以外で遅刻も欠席もしない息子(次男・8歳)より、Jリーグ観戦のために欠席する子が公式戦でスタメンで出ます。技術は大差ありません。引っ込み思案な次男が悪いのでしょうが、月謝8000円払って、休まずに練習に行ってるそのチームでは上手くならないという事でしょうか?私は、休んでも上手ければ良いという育て方をしたくありません。それでも、彼にとって環境が変わる事の方が良くないのかもと悩みますが、この環境のままで良いとも思っていません。毎回試合のたびにイライラしてしまいます。チームを変えるべきか、スポーツの世界はそういうものだと考えるべきか教えて下さい。<島沢さんからの回答>ご相談いただき、ありがとうございます。ご長男のことも書かれているのですが、8歳男児は次男さんということで話を進めますね。2人の息子さんたちが所属しているチームは、練習を休んだとしても上手な子を試合に出すとのこと。生真面目に練習に出続ける次男さんを不憫に感じているようです。そこで私から4つほどアドバイスさせてください。■公式戦だけに目を奪われずに、チームの指導方針を今一度確認してみよう1つめ。公式戦ばかりに目を奪われないこと。お母さんの書かれていることだけでみると、実力主義で指導するクラブかもしれません。そこにお母さんは不満を感じておられるようですが、こういったクラブの指導方針や、クラブが掲げるミッション(社会的使命)、ビジョン(目指すべき姿)を入団を決める際に確認してから入れたでしょうか。どんなことを掲げているか。それをチームのホームページなどで今一度見直してください。もし、子どもを主体に全員がサッカーを楽しめる環境を目指しているようなら、息子さんは公式戦に出られなくてもその後にB戦と呼ばれる試合でプレーしているのかもしれません。ほかには、例えば練習試合等を組むなどして、年間を通して全員に同じだけプレー機会を与えるようにしているクラブは少なくありません。ぜひ公式戦だけ注目するのではなく、息子さんが練習試合や練習で頑張っている姿に視線を送るようにしてください。■「上手ければいいわけではない」には賛成、自分の力で変えられないこと(=他人)に翻弄されないで2つめ。コーチを始めとした、周囲の大人は変えられません。そこを今一度こころに留めてください。練習に来ない子どもをどう扱うかはさまざま考え方があります。それはチーム(もしくは担当コーチ)の考えによりますが、私たち保護者はそこを矯正も強制もできません。お天気と一緒です。自分の力で抗えないものに抵抗したり、がっかりするよりも、ご自分のお子さんの顔をもっと観察し対話することにエネルギーを使いましょう。何より、他人の子どもが練習を欠席しているか否か、試合に出たかどうかを気にしているご自分自身をどう思われますか?ほんの少しでも自己嫌悪に陥る瞬間があるのであれば、このことについて考えあぐねるのはやめましょう。他方、練習に出ていない子が先発したことを息子さんが怒っているのであれば、自分でコーチに「おかしくありませんか?」と言えるといいなと思います。もちろん無理強いは良くないですが「自分で言ってみたら?」とやさしく背中を押してもいいでしょう。子どもが気にしなければ、親が干渉する必要はありません。お母さんが書かれている「上手ければいいわけではない」の意見に、私も大賛成です。そして、息子さんは真面目に練習に出ています。じゃあ、それでいいではありませんか。サボっても俺は上手いから試合に出られるんだと、自慢するような子どもでなくて良かったではありませんか。無論、他の子どものことはわかりません。要するに、他の人の子育てや、変えられないクラブの価値観に翻弄されてはいけません。人は人、自分は自分です。■子どもがサッカーを楽しんでるのに親がチームにネガティブな感情を持つのはマイナスになる3つめ。わが子がサッカーを楽しんでいるのなら、チームにネガティブな感情を抱くのはマイナスになると心得ましょう。お母さんは「技術は大差ない」と書かれていますが、サッカーの評価は足下のスキルだけではありません。どこまでサッカーをご存知かはわかりかねますが、ひとつ言えるのは、お母さんの評価はチームとは関係ありません。サッカーについてはチームに任せること。親はなるべく評価せずに頑張ったり努力するプロセスだけを見て「頑張ってるね」と励まし続けましょう。息子さんが試合に出られないことで、こころが揺れるのはよくわかります。そこで「残念だったね」と子どもの感情に共感するのはよいことです。が、お母さんが子どもの「悔しい」という感情に同化してはいけません。わが子が評価されなかったり、何かがうまくいかないたびに親が揺れていると、子どもの自己肯定感は下がります。なぜならば、試合に出られない自分は愛されない存在、という受け止めになるからです。したがって、試合に出られなくても「サッカーが好きならいいじゃない。真面目に練習に通っていてすごいなってママは思ってるよ」とほめてあげてください。自分が成果を出さないとママの機嫌が悪くなる――そのような日々は子どもにとって針のむしろです。子どもにとって家庭は安全基地であるべきです。嫌なことがあっても、お母さんの笑顔を見るとホッとする。うちのママは結果じゃなくてプロセスだけ見てくれると子どもに伝わるように接してください。■主体的に取り組む子どもが伸びる!チーム状況や子どもの気持ちを観察し続けて(写真は少年サッカーのイメージご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)4つめ。とはいえ、クラブがB戦を組むといった配慮がなかったり、息子さん自身が「もっと試合に出たい、チームを替わりたい」と言うのであれば、もう少し試合に出られそうなクラブを探しましょう。以前は何人も選手を抱えてふるいにかけ勝利のみを目指す。出して!と頼んで前に出てくる子どもに、コーチが「上手くなってからね」と両手で押さえる姿を私は何度も見ました。お母さんは「スポーツはそんなものか」と書かれていますが、スポーツの捉え方は時代とともに変化してきています。とにもかくにも子どもの意思を尊重してください。子どもの気持ちを無視してクラブを渡り歩く親御さんは少なくないです。そうしてしまうと、うまくいかない時に子どもは親のせいにし始めます。主体的に取り組んだ子どもが必ず伸びます。サッカーのスキルよりも、息子さんに笑顔があるかどうかに注目を。そして長男くんにもぜひ目を向けましょう。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)ジャーナリスト。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』『東洋経済オンライン』などでスポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』(小学館)『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)『部活があぶない』(講談社現代新書)『スポーツ毒親 暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか』(文藝春秋)『オシムの遺産彼らに授けたもうひとつの言葉』(竹書房)など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著・小学館)『教えないスキルビジャレアルに学ぶ7つの人材育成術』(佐伯夕利子著・小学館新書)など企画構成者としてもヒット作が多く、指導者や保護者向けの講演も精力的に行っている。日本バスケットボール協会インテグリティ委員、沖縄県部活動改革推進委員、朝日新聞デジタルコメンテーター。1男1女の母。
2025年02月12日1年で最も寒い日が続く時季、子どもが試合やトレーニングに行く土日に悩ましいことの1つにお弁当づくりが挙げられるのではないでしょうか。冷たくなったおにぎりやお弁当をなかなか食べてくれないと困っている保護者のみなさんへ向け、管理栄養士としてサッカーの現場で長年活躍している久保田尚子さんから教えていただきました。(取材・文:小林博子)(写真はお弁当のイメージ)■冬のお弁当は「体を温める」を意識(写真はお弁当のイメージ)「冷たくて食べる気がしない」「かえって体が冷えるのでは」など、この時季ならではの悩みが生じる冬のお弁当。寒空の下でサッカーをする子どもたちが午後も元気に走れるよう、できるかぎり栄養になるものを食べさせてあげたいと思うのが親心ですよね。お弁当でできる寒さ対策。体を温めるコツは3つあるそうです。"体を温める食材"を活用冷えてもおいしい味付けに食べやすい調理法をスープジャーはもはや必需品!■"体を温める食材"を活用冬のお弁当メニューには体を温める食材を積極的に使いたいところです。まっさきに思い浮かぶのは生姜や辛いものかもしれませんが、苦手な子どもも多く不向きかもしれません。小学生におすすめなのは、未精製のもの発酵食品の2つを使うことです。未精製のもの、とは一般的に体を冷やすとされる精製された白砂糖よりも、未精製の黒砂糖や三温糖を、米は白米よりも胚芽米を使うなど、体を冷やさない食材を積極的に使うとよいでしょう。酵素が多く含まれ、腸活にも良いとされる発酵食品も体を温めると言われている食材です。調味料であれば味噌や塩麹がおすすめ。チーズも手軽に食べられるので、お弁当におすすめの発酵食品です。■冷えてもおいしい調理法に食べるころには冷たくなってしまう冬のお弁当は、冷えてもおいしく食べられるかどうかを意識しましょう。●脂に注意冷えると固まってしまう動物性の油脂は冬のお弁当には不向きです。例えばバターを使った料理は、冷たくなるとバターが固まり食感が悪くなります。また、肉類も脂分が白く固まり、見た目からも食欲がわかなくなってしまう懸念が...。さらに、脂っこいおかずは午後のパフォーマンスも低下させてしまうため、特に冬は避けたほうがベターです。●味付けはしっかりと料理は温度が低いと味を感じにくくなるため、普段よりやや濃い味付けにするとおいしく食べることができます。また、焼き冷まし感が出ずしっとりとした仕上がりになる調理法にするのもおすすめ。その2点を満たす、焼き浸しや味噌漬けなどはいかがでしょうか。●おにぎりは固くならないひと手間をおにぎりは、冷たく固くなったり、ボソボソとした食感になったりと、寒い日には子どもが嫌がるという意見が多いものですが、実はつくり方で改善できるのです。冷たくなってもおいしいおにぎりのポイント炊く前の吸水時間をしっかりとる水蒸気の蒸発を最低限におさえるホイルで包むまずは炊く前の吸水時間から。時間は短縮せずしっかり取り、お米に水分をたっぷり吸わせましょう。炊き立てのご飯では違いはあまり感じないかもしれませんが、冷えたご飯では差が生じます。ご飯は炊き上がった直後から水蒸気を蒸発させ、徐々に保有する水分量が少なく、固くなっていきます。そこで「おひつ」の中では冷えたご飯が時間が経ってもおいしいことと同じ原理をおにぎりで再現しましょう。適度に水分をキープしつつ、余分な水分をのがすことがポイントです。炊けたご飯はすぐにほぐし、おにぎりにするとき、ご飯にほんの少しの油(アマニ油や米油がおすすめ)か、はちみつを混ぜて握ります。おにぎり1つ(ご飯100~120g)に対して小さじ1/4~1/2ほどの、ほんの少しでOKです。そうすることで米粒1つ1つを油分がコーティングし、水分の蒸発を抑えてくれます。握ったおにぎりは常温に冷ましてから、ラップではなくホイルに包みます。寒冷な冬の野外に置いてあるおにぎりは、ラップで密封すると蒸れてべちゃっとなりがちだからです。ホイルで隙間をつくりながらフワッと包めば適度に水分をのがしてくれます。この3つでおにぎりの味わいに差がでますので、ぜひ挑戦してみてください。■スープジャーはもはや必需品今や、寒い日のお弁当のマストアイテムと言っても過言ではないスープジャー。あたかいものを口にできるだけで体の温まり具合は格段に上がります。具沢山の味噌汁や豚汁をつければもうそれだけでおかずも兼ねることができますし、おにぎりなど主食を食べられない場合は、スープにうどんやパスタを入れて炭水化物を補給できる工夫をしてみても。ただし最近のスープジャーは保温性が上がっているので、やけどには十分注意して飲むようにお子さんにお伝えください。とは言え、飲み頃に冷めているものを入れるのは避けて下さい。(後編で詳細をお伝えします)■朝食で体をあたためて1日をスタートすることも大切ここまで冬場のお弁当づくりのさまざまなコツをご紹介しましたが、寒い日こそ、朝起きて1日を始める段階から体を温めておくことがとても大切です。朝は誰でも体温が低い状態。その体温で体が冷えたまま出かけてしまうと、寒さをより一層感じやすいコンディションで1日を過ごすことになってしまいます。外で食べるお弁当よりも、子どもが安心して心地よく食べられる朝食から「温め」を意識。味噌汁やスープなどあたたかいメニューで体温をぐっと上げて体の中からの"ウォーミングアップ"をして、元気にサッカー会場に向かいましょう。久保田尚子管理栄養士1997年からFC東京。(1998年までは前身の「東京ガスフットボールクラブ」)にて管理栄養士としてトップチームの選手の栄養指導を行う。現在はFC東京トップチームから育成セクション(U-18、U-15)までの栄養アドバイザーとして栄養面からサポートしている。サッカー少年少女の考える力やチャレンジ精神を育てる方法をLINEで配信中>>
2025年02月06日男子に比べ環境が整っていない女子サッカーの課題とは何なのか。前編では女子サッカー界の課題や垣本さんの活動の一つ、「ラピスプロジェクト」についてうかがいました。後半は育成年代の課題であるキーパーについて、また女子の育成環境をどのように整理していけば良いか、引き続き垣本右近さんにうかがいます。(取材・文木村芽久美)<<前編:試合会場での着替え、おしゃれなイメージなし、GK不足......女子サッカー普及の課題、解決の糸口は?(2024年12月に開催された第2回ラピスカップに出場した女子選手たち)サッカー少年少女の考える力やチャレンジ精神を育てる方法をLINEで配信中>>■キーパー少ない問題。実際にカッコいいプレーを見れば、印象が変わる?(写真は女子サッカーのイメージ)育成年代の女子の大きな悩みの一つとして、キーパー希望者が少ないことが挙げられます。小学生チームでは女子がキーパーを希望することが少なく、ほとんどのチームは男子がキーパーをすることが多い現状です。おのずと女子でキーパーをやっている子が少ないので、中学生の女子チームの3部や4部のチームになるとキーパーをやってきた選手は少なく、ほとんどのチームがフィールド選手がキーパーを交代でやっています。垣本さんのチームの場合も学年によって希望者がいる時といない時があり、どうしてもいない時は最終的にジャンケンなどをして決めることが多いそうです。ジャンケンで決めた場合、やりたくないのにやらなければいけなくなった子は、メンタル的に落ち込んでしまうこともあるそうです。「ボールも全然取れないし、やる気あんのかなと思うこともあります(笑)」カフリンガの女子中学生チームで仕方なくキーパーをやってくれた子が、その後元なでしこジャパン秋山智美さんのキーパースクールに参加するようになり、基礎を学ぶことで試合でもシュートを止めれるようになり、それが自信になりキーパーが楽しくなったそうです。またポジティブな考え方を持つ秋山コーチのスクールではコーチ本人がカッコよくセービングをしてる姿を目の前で見たり、体験・体感することは何よりも説得力があると言えます。実際にスクールで秋山智美さんが飛んで止めたり、カッコよくセービングしている姿を見ると子どもたちも盛り上がるのだそうで、やはり目の前で見たり、体験・体感することは、何よりも説得力があるのだと言えます。■キーパーするのを怖がるのは当然。実は専門的な技術が必要「キーパーの技術は実は専門的で、きちんと教えるのは自分たちでも難しい」と垣本さんは言います。実際、小学生年代でキーパーコーチが常駐しているチームはごく稀です。垣本さんのスクールは人工芝でやるので、土のグラウンドでやる練習より痛くないのが良いのだそうです。最初は人工芝から慣れていき、徐々に技術が上がっていけば土のグラウンドも怖がらずにできるようになるのだと言います。スクールに通っていた小6の女の子が、中学で垣本さんのチームのキーパーをやることになったそうで「やってきたことの一つが繋がった」と言います。キーパーは高校でも希望者が少ないこともあり、身長が高かったり、ある程度技術があるとスポーツ推薦が取りやすいという面もあるそうで(※学校にもよるので一概には言えませんが)、垣本さんも本人の意志を尊重しながら推薦についても進言することもあるそうです。■女子もずっとサッカーを。引退しないでサッカーを続ける人を増やすために垣本さんの女子中学生チームでは、5年生位から無償で練習参加を受け付けています。「その先サッカーをやるかやらないは別として、特に男子チームでサッカーをしている女子には、まず女子の中で、今までとは違う雰囲気を見てもらったり、自分がこの先こういうところでサッカーやるんだっていうイメージを持って欲しくて」例えば中学と高校がもっと一緒に合宿したり練習できれば、高校で行うサッカーのイメージに繋げられ、楽しくサッカーしていいんだということがわかるのではないかと言います。また思春期は心や体の悩みも出てくる時期、悩みを共有できる先輩が身近にいる方が心強いと言えるでしょう。また、サッカー本来の楽しさを実感してもらうため、地元がお隣の元なでしこジャパンの岩渕真奈さんにも協力してもらい近隣地域の交流戦を企てているそうです。チーム参加だけではなく、寄せ集めチームや選抜チーム、個人参加で募ったチームなど誰でも参加することができるように模索しています。■小学校→中学校、中学校→高校どんなチームを選べばいい?女子サッカーの進路他の女子チームの監督とは「合同で来年は一緒に合宿行きましょうとか、練習試合やりましょうとか、よく情報交換している」と言います。中学から高校年代、小学生から中学生年代に上がる時、どのようなチームを選べばいいのか、自分のレベルに合ったチームを探し、見極めるのはとても難しいそうです。「だから育成年代の女子サッカー選手を集めて、合同説明会をやりたいなと思っていて」進路については、保護者が実際より高いレベルを求める傾向にあるので「本人の意志にもよるけれども、全体的にもう少しハードルを下げた方が良いのではないか」と感じているそうです。また特に強豪チームの場合は推薦をもらえたり、すでにパイプがある場合が多いけれども、下のカテゴリーになると、トレーニング強度やチームの雰囲気など、個々でチームに求めるものも違い、複雑なので、詳細な情報や客観的な意見があった方がいいようです。「女子サッカーの縦社会を、もう少し繋げられるような環境に整えてほしい」と垣本さんは規則やルールの柔軟性を求めています。■生涯スポーツとしてずっとサッカーができる環境を!地元の東久留米市にサッカーグラウンドを作りたい垣本さんの今後の目標をうかがったところ、「女子の試合もそこで出来れば」と地元である東久留米市に人工芝のサッカーコートが欲しいのだと言います。「僕たちが目指しているのが、生涯スポーツとして地域でずっとサッカーができる環境を作ることです。トップチームをもち、サッカーやフットサルを競技としてやっていますが、生涯スポーツとしてもシニアやママさんチームなど、誰しもサッカーやフットサルができれば」現在は地域の子たちにフットサルを親しんでもらうため、小平市に自分のフットサルコートを作り、運営しているのだそうです。「この街に住んでいればいつでも、いつまででもサッカーができるっていう環境を作りたい」と話す垣本さんの今後の活動には期待するばかりです。垣本右近NPO法人東久留米スポーツクラブ代表理事/株式会社KELNCHU代表取締役カフリンガ東久留米/カフリンガBOYS東久留米/FCフエンテ東久留米など8つのクラブを持ちそれぞれの年代でサッカーを楽しめる環境作りをしている指導者・選手としても活動中サッカー少年少女の考える力やチャレンジ精神を育てる方法をLINEで配信中>>
2025年02月04日真面目で勉強はできるタイプだけどサッカーの理解が遅い子。説明に耳を傾けているのにいざやってみるとその子だけポジショニングやスペースの使い方がわかってない......。難しい伝え方をしているつもりはないけど、その子がイメージできるようにするにはどんなアプローチをしたらいい?とのご相談をいただきました。ジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上のあらゆる年代の子どもたちを指導してきた池上正さんが、指示を理解してもらうためのアプローチを伝授します。(取材・文島沢優子)(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)<<小学校入学と同時にサッカーを始める新一年生、未経験の子たちを指導するときは何 から教えればいい?<お父さんコーチからの質問>はじめまして。担当しているのはU-10です。理解が遅い子への対応について教えてください。おとなしい子で、真面目です。私を含め、コーチたちの話にもしっかり耳を傾けています。が、レクチャーしたことができないのです。ポジショニングや空いたスペースの使い方、どこに動けばいいのか、などを説明してからトレーニングしても、その子だけキョトンとしています。強豪チームでも何でもない、普通の少年団ですが、ほかの子は割とすぐに出来るので、そんなに難解な内容でもないと思いますし、伝え方も難しい言い方はしてないつもりです。親御さんも「何事も真面目でコツコツやるタイプ」と言っていて、学校の成績は良いみたいなのですが、イメージする力が弱いのでしょうか。医学的な相談をしたいわけではないのですが、ほかの子より理解が遅い子への良いアプローチをご存じだったら教えていただきたく思います。やんちゃで話を聞かない子ならまだ納得ですが、真面目で話も聞いている、自主練もコツコツするタイプと自認してるため本人の落ち込みも見えてしまい......(話を聞いてない子たちのほうが練習の意図や本質を理解するのが早かったりするのがまた......)<池上さんからのアドバイス>ご相談ありがとうございます。5つほどアドバイスします。■頭の中で咀嚼できていない可能性がある、内容を理解しているか確認しよう1つめ。指導者はできない子を責めてはいけません。ご相談文の最後のほうに「本人が落ち込んでいる」と書いてあります。落ち込んでいるのなら尚更「みんなができるのにどうしてお前はできないのか」と責めるような言動はやめてください。2つめは、その子に問いかけること。できないことをこの子は自覚しています。どう理解するか、例えばこれもその子に質問する必要があるでしょう。「こういうふうな説明したけど、理解できたかな?」と。どう理解できたか言ってもらってその理解度を指導者側がまずは把握するのが重要です。よくあるのが「多分わかってないだろう」みたいに憶測だけで止まってしまうケース。これからどうするかを一緒に考えよう、という姿勢をコーチがまず見せましょう。すごく真面目でよく聞いているけれども、ひょっとすると単に聞いてるだけで、自分の頭の中でもう一度それを咀嚼する、つまり理解する作業ができていないかもしれません。したがって、ぜひ「理解してますか?」といった問いかけをしてみてください。例えば「これはどうしたらいいのかな?」と尋ねて、一度その子の言葉で表現してもらいます。それはみんなが見ている前で言うのではなく、その子ができないときに、そのときもしくはその後で話をするほうがいいでしょう。他の子たちがすでに練習を進めているのなら「ちょっと練習やっといて」と告げ、その子をつかまえて対話してください。■実際の動きを見せて「こういうことをしてほしい」と伝える3つめ。みんなの動きを一緒に見てもいいでしょう。例えば「さっき説明したことってさ、ほらあの子こんなふうにしたでしょう?こういうことをしてほしいんだよね」と伝えましょう。それは一回だけでなく繰り返し行うこと。コーチは根負けせずに付き合ってあげる必要があります。私が過去に教えたなかにも、私が言った説明を聞いて「はい」と返事をしてすぐやろうとするのにできない子どもはたくさんいました。ほかの子どもたちにはそのまま練習を続けさせて、その子に話を聞いて、これはこういうことで、こうしていかないといけないんだと一度頭の中で考えてごらんよという話をしました。頭の中が整理できたらプレーしてみる。そうすると、動き出しは遅いのですができるようになりました。ちょっと待ってあげて、考える時間を与えます。並ぶ順番を後ろにして、他の子がやっているのを見せてからやってもらいました。そういった工夫をしてほしいのですが、どうしても子どもにベクトルが向く指導者は少なくありません。あいつはダメだ、みたいになりがちです。そうならずに丁寧に教えて行けば、ひとり一人が上手くなっていくのでチームの底上げになるのでぜひ理解してほしいところです。■理解度に合わせてグループ分けをするのも1つの方法4つめ。なかなか理解できない子がいたとしたら、グループ分けをしてもいいでしょう。その子たちは理解できるようなことから始めてあげる。つまりメニューを少しだけ簡単にします。複雑すぎて、考えなきゃいけないことがいっぱいあって、その中から何を選びますか?というのは難しいけれど、いくつかの選択肢の中から何を選びますか?といったものからスタートします。練習のすべてではなく、そのように習熟度別で行う時間帯があってもいいと思います。■成長には個体差がある各個人の進化、変化を見るようにしよう5つ目は、基本的な教育観を持つこと。すべての子どもが楽しめて成長できるようにすることを心がけてください。子どもたちには違いがあります。例えば4月生まれと早生まれでは理解する力や身体的な発達が異なります。そういった個体差がある。認めることが大切です。理解が遅いというのは、他の子と比べるから遅いだけ。そのような考え方です。この教育観を持てれば「最初はこうだったけど、今はこうなったね」と子どもの進化、変化をきちんと見てあげられます。その変化をしっかり見ることができ、なおかつ指導者としてそれを楽しめるようになってほしい。よくいわれる「スモール・ステップ」を待てる、気づける、楽しめる指導者を目指してください。それとは逆に「他の子はできているのに、この子は遅い」「全体の練習が進まない」とイライラすることがあってはいけません。トレーニングをスムーズに続けるために「この子をどうするか」という受け止め方ではなく、こういう子がいることこそ他の子にとってもすごくいい経験になることを知ってほしいです。誰かが何かを出来ないことをほかの子どもたちが受容して、カバーする。そんなチーム、いいと思いませんか?サッカー少年少女の考えるやチャレンジ精神を育てる方法をLINEで配信中>>■理解できているか個別に確認することが大事(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)最後に少しまとめましょう。その選手に個別に質問をし、どのように理解したかを確認することが重要です。他の選手と比較するのではなく、その子自身の成長に焦点を当て、丁寧に付き合ってください。個別の声かけや、その子のペースに合わせた指導が重要です。指導者は、他の選手との比較ではなく、その選手自身の成長に焦点を当てること。子どもたちの自然な運動欲求を活かしながら、楽しくサッカーを学べる環境作りを目指してほしいと思います。池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
2025年01月31日プレーヤーの少なさが課題だと言われて久しい女子サッカー。育成年代にスポットを当ててみると、女子は小学生年代は約1万9400人と男子の1/10の割合、中学生は約1万1100人とさらに減ります。(2023年3月末の女子登録者数)2022年にサッカーとフットサルを活動する女子チームを立ち上げ、女子の育成にも力を注ぐ垣本右近さんに女子サッカーを取り巻く環境について、お話をうかがいました。(取材・文木村芽久美)(2024年12月に開催された第2回ラピスカップに出場した女子選手たち)サッカー少年少女の考える力やチャレンジ精神を育てる方法をLINEで配信中>>■なかなか整理されない女子サッカー界の底辺(写真は女子サッカーのイメージ)垣本さんが代表を務めるカフリンガ東久留米の女子のトップチームは全国大会に行くような実力がありますが、その一方で、下のカテゴリーの女子チームも指導しています。そのような状況の中、男子のサッカー環境は整理されてきているけれども、女子はまだまだ整理されていないと感じているのだそうです。「女子中学生リーグの3部や4部になると指導者も不足していて、選手も少なくなってしまい解散するチームが多くなっている状況です。数年前は女子の小学校チームもたくさんあったんですが、ここ5年ぐらいで一気に減って、半分ぐらいになっているんです」競技人口も多い男子は、同カテゴリーでも人数が揃っているし、それなりの強度でサッカーをしていて、モチベーションも高い場合が多いのですが、女子の場合は楽しくサッカーをすることが一番の目的だったりする中で、男子と同じ規則やシステムの中では同様にはならず、最終的にやめてしまう子もいるのだそうです。小学生年代の女子チームが少ない為、男子チームの中でサッカーをする傾向があり、女子だけでサッカーをする機会が少ない状況です。■女子だけで試合をしよう!と始めた「ラピスプロジェクト」とは男子の中でしかサッカーをしたことがないという子は、地方にもいます。そういった子に女子だけの試合を提供することを目的に開始された「ラピスプロジェクト」。垣本さんは伊豆諸島でサッカーをしている女子小学生を集めて、女子だけの試合「ラピスカップ」を開催しました。第1回目は神津島で伊豆大島、新島、式根島、神津島、御蔵島の女子たちに、カフリンガの中学生女子チームも加わり総勢約40人、2024年12月に開催した第2回目では西東京市の岩倉高校で近隣チームも加わり、約70人が集まりました。「毎年カフリンガでは伊豆大島に合宿に行ってるんですよ。神津島はサッカー文化が根強く、女子プレイヤーも結構いるんですけど、男子の中でしかやったことがないから、女子だけで試合やってみたいよねって神津島や伊豆大島の方たちから相談があって」元なでしこジャパンの原菜摘子さん、小林弥生さんがゲスト講師として参加し、楽しい雰囲気でイベントは盛りあがったのだそうです。■イベントを通じて感じる感謝の気持ちや楽しい体験先日の第2回開催では、1日目に悪天候で船が欠航になってしまうトラブルがあり、島からの参加者にとっては移動が大変だったそうですが「普段、年間数試合しかできない状況にいる島の子たちにとって、試合ができるというだけで本当に幸せを感じている」と、参加された監督さんは話されていたそうです。島の子どもたちにとっては試合だけでなく、島にはないコンビニに行くことや、家族のお土産にマクドナルドやミスタードーナッツに行くことを楽しみにしているのだと言います。東京の参加者にとっても普段当たり前に試合ができる環境が、当たり前ではないことを実感でき、サッカーができること、協力してくれる周囲への感謝の気持ちを持つ良い機会になります。また最近は家族で海に行く機会も少なくなっているそうで、参加したカフリンガの女子の保護者は「子どもたちだけで船に乗って島に行くという経験は、とてもありがたい」と話していたそうです。サッカーに関することはもちろんのこと、サッカーを通じ、貴重な体験ができるのも、周りの大人の見守りやサポートがあってのこと。垣本さんも「島のたくさんの人が協力してくれています」と感謝を示し、次回の伊豆大島での開催についても意欲を見せています。■女子選手はガサツで洒落っ気が無いというイメージを変えたい!日本でもオシャレでサッカーが上手い選手の育成環境を「プロや上のレベルを目指す中で、強い強度の中でできたり、早い判断力も身につくので男子チームでサッカーをするのもメリットは多いと思います。ただ女の子の中でやることで男子にはないキャッキャ楽しい雰囲気があったり、女子だけの感性や悩みを相談できたりします」垣本さんはスペインに毎年女子の選抜チームを連れて試合に出場するのだそうですが、初めて行った時、多くはスカートを履いていたり、綺麗なロングヘアーが多かったり、日本との違いに驚いたと言います。ガールズスクールも担当している元なでしこの原菜摘子さんはネイルをしたり、オシャレを楽しんでいますが、2005年のアジア最優秀選手にも選ばれたこともあるレベルで、サッカーが上手くてオシャレな先輩ということで、子どもたちからは憧れの的なのだそうです。必ずしも女子が誰しもスカートを履きたいわけではないし、ロングヘアーに憧れているわけではありませんが、男子チームに所属している場合、女子特有の感性やマインドが表現しづらいかもしれません。垣本さんは原さんと「日本の女の子もスカート履きたい子は履いたり、オシャレしたり。でもサッカーも上手いよねっていう中で育成していかなきゃダメだよね」と話しているのだそうです。■着替えについては周囲の大人が目を配ってほしいまた、サッカー先進国であるスペインでは、スポーツの文化がしっかりしていて、グラウンドには必ずロッカールームがあります。試合前は必ずここに案内され着替えやミーテイングを行うことができます。日本の場合、例えば河川敷のグラウンドなど、更衣室どころかトイレも整備されていない場合があり、着替えもその場で行うことがしばしばあります。最近は低学年であっても「プライベートゾーン」についての説明があったり、体をほかの人に見せないように注意喚起されているので、男女一緒の着替えに抵抗がある子もいるでしょう。ましてや高学年になれば、同じ場所での着替えを躊躇する子も出てくるもの。プレー以外の要素でサッカーが嫌になるきっかけになりかねません。子どもの着替え環境に関しては、日本におけるスポーツの考え方が古く、競技レベルが高くになっているにも関わらず環境が整備されない実情があります。特に女子の更衣の問題は、日本のスポーツ文化の発展のために早く良い環境にしていく必要があると思います。■女子は男子チームと女子チーム、どちらでサッカーをした方が良い?(写真は女子サッカーのイメージ)男子チームに入れたほうが、強度が高い練習ができて上手くなれると期待して男子チームに入れる保護者も多いですが、垣本さんは、サッカーが上手い子が、男子チームに所属することについて、理想としては女子チームでサッカーをすることを勧めています。「女子サッカー界全体のレベルを上げるためには小学生年代から女子チームでやることも大切だと思います。レベルの高い小学生女子が男子の中でプレーすることもいいとは思いますが、カテゴリーを越えて女子中学生や女子高校生に混ざってプレーすることで自分のレベルを知ることと共に、強度も保つことができます。そして女子全体のレベルがアップすると思います」以前は日本サッカー協会で「女子部」が存在していたそうですが、数年前から女子は男子の第3種に所属され、種別での女子の縦関係が繋がっていない状況なのだそうです。「女子部」として一括した組織化ができれば、例えば、普段は男子チームに所属していたとしても、学年の垣根を超えて中学生の女子の試合に出場できるような環境を作ってあげることもできるのでは、と垣本さんは言います。自分が女子の中でどの位のレベルにいるかが理解できること、また原菜摘子さんの例のように、先輩が身近にいる環境にいる方が、先々の自分のイメージができ、サッカーを続けやすい環境につながるのではないかと話しています。(後編に続く)垣本右近NPO法人東久留米スポーツクラブ代表理事/株式会社KELNCHU代表取締役カフリンガ東久留米/カフリンガBOYS東久留米/FCフエンテ東久留米など8つのクラブを持ちそれぞれの年代でサッカーを楽しめる環境作りをしている指導者・選手としても活動中サッカー少年少女の考える力やチャレンジ精神を育てる方法をLINEで配信中>>
2025年01月27日