世間はお盆休みですが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。休暇をとられている方も、世間のカレンダーとは逆にお仕事の方も、お子さんが夏休みのこの時期に色々と考えることがあるのではないでしょうか。本日は、ジュニアサッカー(少年サッカー)の保護者向け情報サイト「サカイク」で2020年1月から7月に配信した記事の中でみなさんの注目度が高かった「考える力」をテーマにした記事をランキングでご紹介します。サッカーを通して子どもを自立させる方法など参考になることがたくさんありますので、ぜひいま一度ご覧ください。第3位サッカーは一人ではできないから助け合いが大事。選手権常連の矢板中央高校が大事にする「サッカーを通じて社会で生きる力」「うち(矢板中央)はプロを多数輩出する学校ではないからこそ、選手同士の『助け合い』など社会で生きる力をつけさせて送り出す」という高橋健二監督。どのようにしてサッカーを通じてその力を身につけさせているのかを伺いました。「90分の試合は人生と一緒。人生において人は一人で生きていけるか?」サッカーは一人ではできない。だから助け合いの精神が大事記事を読む>>第2位今どきの子は実年齢マイナス4歳幼い!? 自分の事を自分でできる子にするために小学生の親が心得ておくこと「最近の子どもは実年齢よりマイナス4歳ぐらい幼い印象の子が増えている」それ感じてた、ハッとした(でも親の自分もそうかも)、わかる、ちょっと耳が痛い......など多くの保護者の反応をいただいたこの記事が2位でした。「今現在」幼さが残るだけならいずれ成長して実年齢相応になりますが、いつまでも子ども扱いして自立を防ぐのはよくありません。いずれ社会に出る子どもたちをどう導けばいいのか。進学塾「VAMOS」の代表で、日本サッカー協会登録仲介人として若手プロサッカー選手の育成も手がけ、アスリートと学習教育に共通する「成長プロセス」の体系化にも取り組む富永雄輔さんに伺いました。子どもが幼いのではなく、大人が幼い子どもを作っている記事を読む>>第1位ゼロ百思考でいきなり「自立しろ」は無理、今どきの子どもに必要な自立へのステップとは「最近の子どもは実年齢よりマイナス4歳ぐらい幼い」がテーマの記事がワンツーフィニッシュという結果になりました。物事についてゼロか百かで考えてしまうこともあるかもしれませんが、子どもの自立においてはゼロか百かで判断できるものではありませんよね。自分の指針となるマニュアルを求める親が多い「まだ子どもだから」「子どもを傷つけたくないから」など自分に都合のいい意見だけを切り取って子どもに対峙する。失敗しないよう親が先回りしてつまづく要因を取り除いて甘やかされた子は勉強でもスポーツでも中途半端になってしまうのだそう。今どきの子どもたちを段階的に自立させるために意識してほしいことを伺ったのでご覧ください記事を読む>>いかがでしたでしょうか。これからも親御さんご自身が考えるきっかけになったり、チームがよくなるきっかけになる記事を配信していきますので、ご愛顧のほどよろしくお願いいたします。【保護者、指導者の皆さんへ】連日猛暑続きで夏バテが続いている方もいらっしゃるのではないですか?まだまだ暑い日は続きますが、お父さんお母さんの疲労回復のためにこちらの記事をご紹介しますので、参考にしてリフレッシュしてくださいね。バスクリンのお風呂博士に聞いた「正しい入浴と睡眠の知識」>>
2020年08月12日世間はお盆休みですが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。休暇をとられている方も、世間のカレンダーとは逆にお仕事の方も、お子さんが夏休みのこの時期に色々と考えることがあるのではないでしょうか。本日は、ジュニアサッカー(少年サッカー)の保護者向け情報サイト「サカイク」で2020年1月から7月に配信した記事の中でみなさんの注目度が高かった記事をランキングでご紹介します。サッカーを通してわが子を成長させる親の接し方について参考になることがたくさんありますので、ぜひいま一度ご覧ください。第5位上手い子だけボールを触れればいいの? サッカー強国ドイツが導入を決めた3vs3のミニゲーム「フニーニョ」とはわが子を含めチームメイトの子どもたちも、好きでやっているサッカーなのに試合中1度もボールに触れない子がいて良いと思いますか?それで「楽しい」という気持ちをもち続けられるでしょうか。スポーツ本来の楽しみ方を全員に感じてもらう、みんながボールに触れる環境がチーム全体のレベルアップにつながります。少年の全国大会がないドイツで、ドイツサッカー連盟が9歳以下の試合に導入を推奨したことで注目されるようになったミニゲーム「フニーニョ」が、チームの底上げにおすすめな理由とは。ドイツで長く指導者を務め、フニーニョ導入の経緯や実際の現場を知る中野吉之伴さんに教えていただいたフニーニョのメリット記事を読む>>第4位新年度から8人制にも本格適用! 新ルールをおさらいしよう!! <前編>すでにJリーグでは取り入れられているサッカーの新ルール。まだ小学生年代では適用しきれていないかもしれませんが、もともと日本サッカー協会が「遅くとも2020年4月1日」と8人制サッカーのルール改正適用の時期を定めていました。すべての大会で新ルールが適用されるのですが、今年は新型コロナウイルスの影響などでチーム活動停止の期間などもあり、まだ新ルールに慣れてないチーム、子どもたちも多いのでは?酷暑の時期、涼しい場所での座学でサッカーへの理解を高めるのもお勧めです。ハンドや交代など多くのルールが改正された今回の新ルールについて今のうちに覚えておきましょう記事を読む>>第3位夏休み短縮、炎天下の登校...今年の夏、子どもたちの学校生活で心配なことトップは?3位にはこの夏の心配事のアンケート結果がランクインしました。多くの学校で夏休みが短縮され、例年は夏休みだった時期も登校になり、マスクをしての授業など、親も子も先生方も経験したことがない今年の夏への不安など、忌憚なきご意見が寄せられました。保護者のみなさんが心配しているのはどんなことなのか、外出の際に子どもに気を付けてほしいことは・・・記事を読む>>第2位「うちの子運動神経が悪くて」と悩む親必見!「サッカー以前」に必要な運動スキルとは「運動能力」の記事に関心の高い親御さんはとても多いです。運動ができる子と苦手な子の違いは何でしょうか。親御さんたちの中にも自分の幼少期に比べ、わが子の運動体験が少ないかも......と潜在的に感じている方もいらっしゃると思います。そもそもいまの子どもたちはサッカーをするための基礎的な運動体験から得られる体力運動能力が低いので、サッカーのスキル習得を中心とした練習や運動をしても上手く習得できないのだ、といわきスポーツクラブアカデミーアドバイザーを務める小俣よしのぶさんが教えてくれました。身体活動の基礎となる姿勢維持の力が弱い子も増えているのだとか。「走る運動も身体を支える力が必要です。走るフォームを直してほしいという要望をよく聞きますが、走る運動は総合的な体力運動で、子どもにとっては高負荷の運動なんです」運動が苦手なお子さんの運動機能を向上させるために、家庭でもできる「身体機能を整える運動」を教えてくれたので参考にしてください記事を読む>>第1位高校サッカー選手権優勝の静岡学園が、部員が多く1日2時間半程度しか練習できないからこそ身につけたタイムマネジメント術毎年注目度の高い高校サッカー選手権大会。今年優勝した静岡学園は南米のサッカースタイルをベースに世界で活躍できる選手育成を目指し、足元のスキルなど個人技に優れた静学スタイルは多くのファンを魅了しました。昨年度の部員は260名。なのに練習グラウンドはフルコート1面と小コート1面という環境。グランドを使える時間が限られているなかでサッカーも勉強も両立するために選手たちがどんな工夫をしているか、齊藤興龍コーチにお話を伺いました。サッカーに勉強にと忙しい選手たちのタイムマネジメントに関心のある保護者の意見も多く寄せられます。近年では現役サッカー部員で東大合格者も生んだ静岡学園の選手たちが、どんな風に時間を使って高いレベルでタイムマネジメントをしているか、ご覧ください記事を読む>>いかがでしたでしょうか。これからも親御さんご自身が考えるきっかけになったり、チームがよくなるきっかけになる記事を配信していきますので、ご愛顧のほどよろしくお願いいたします。【保護者、指導者の皆さんへ】連日猛暑続きで夏バテが続いている方もいらっしゃるのではないですか?まだまだ暑い日は続きますが、お父さんお母さんの疲労回復のためにこちらの記事をご紹介しますので、参考にしてリフレッシュしてくださいね。バスクリンのお風呂博士に聞いた「正しい入浴と睡眠の知識」>>
2020年08月11日前回の記事では、日本サッカー協会のスポーツ医学委員でJクラブのドクターも務める大塚一寛先生(上尾総合病院スポーツ医学センター長)に、オンライントレーニングは正しい姿勢で行わないとケガのリスクがあることや、ジュニア年代のフィジカルトレーニングについて、話をうかがいました。今回は具体的な動き方とチェックポイントについて、アドバイスをいただきました。(取材・文:鈴木智之)自重トレーニングで代表的なダイアゴナルの動き。このとき連動性を意識する筋肉は......■鏡やムービーも活用!骨、関節が正しい位置にある状態で行うことオンラインも含め、トレーニングをする際に気をつけたいこと。それが「正しい姿勢で行うこと」です。大塚先生は「鏡を見て、先生やトレーナーがやっているものと同じ姿勢を作ることを意識しましょう」とアドバイスを送ります。「映像を録って、動画で見るのも良いと思います。自分がやっているイメージとトレーナーがやっている動きのどこが違うのか。視覚で理解して、正しい動きに修正することが大切です」とくにジュニア年代では、筋肉量も少なく、体を支えるのに苦労することがあります。身体のコア(中心)の筋肉を鍛えるトレーニングでおなじみの『プランク』や、片膝を地面に着き、片手を前方に伸ばしてバランスをとるポーズ『ダイアゴナル』をすると、腰が反ったり、重心が左右にぶれてバランスを崩してしまうことがあります。「ピサの斜塔のように、どちらかに傾いたままポーズをとると、身体が間違った動きを覚えることになります。見よう見まねでやるのではなく、シンプルなものから複雑な動きへと、段階を踏んで正しいフォームでできるようにすると良いと思います」自重トレーニングで代表的なのが、ダイアゴナルの動きです。片膝を地面に着き、片手を上げるポーズをしたことのある人も多いのではないでしょうか。「ダイアゴナルの時は、まず四つ這いになり、足だけを上げます。その状態でキープができたら、次に手を前方へ上げます。この時に横隔膜(胸郭)を上げた状態で姿勢をキープします。お腹をへこませたまま呼吸をする『ドローイン』をして、横隔膜を上げた状態をキープして呼吸をすると、背中が曲がりません。このとき、体幹を安定させる胴回りの4つの筋肉(多裂筋、横隔膜、腹横筋、骨盤底筋群)の連動性を意識しましょう」■肩甲骨はがしで上半身の可動域を広げるサッカーは足でするスポーツなので、どうしても下半身に意識が向きがちですが、連動性の面では、上半身も同じぐらい重要なもの。とくに胸郭と肩甲骨の動きは、スムーズかつしなやかな動きに欠かすことができません。「メジャーリーガーの前田健太選手がする『マエケン体操』という、肩甲骨と胸郭、肋骨を回す体操がありますが、これは上半身の可動域を広くするための動作です。上半身を柔らかく動かすことができると、ケガをしにくくなります。反対に、上半身も下半身も、可動域が狭い選手はケガをしやすくなってしまいます」大塚先生は「最近の子はスマートフォンを見ている時間が長く、前かがみになり、猫背の状態で長時間いるので、走るときに胸郭の動きが悪く、肋骨が動いていない子もいます。それは、日常生活の姿勢が少なからず影響していると思います」と注意を呼びかけます。そこで、おすすめなのが『肩甲骨はがし』です。頭の上で両手の甲を合わせ、頭の後ろを通して両手を引き下げていきます。同じように、両手を体の前に伸ばし、後ろに引き下げる運動も効果的です。肩甲骨が動いて、気持ちよく感じます。上半身の可動域を広げるのに効く肩甲骨はがし。頭上で手の甲を合わせ、両手を引き上げる時の姿勢「肩甲骨はがしをするときは、鼻で息を吸って、口で息を細く、長く吐くと、胸郭と横隔膜が固定されます。その状態でスクワットをすると、インナーマッスルが常に使えて、骨盤をしっかり支えている状態を感じ取ることができると思います」肩甲骨はがしには、両手を体の前に伸ばし、後ろに引き下げる運動も効果的スクワットをするときも、骨盤が後傾せず、正しい姿勢ですることを意識しましょう。「家でトレーニングをするときは、保護者の方が、『猫背になっていないか』『腰が反っていないか』『重心が左右に偏っていないか』など、見てすぐわかるポイントだけでいいので、チェックしてあげると良いと思います」■サッカー上達の1番のポイントはケガをしないこと大塚先生の病院には、ケガをしてリハビリに来る子どもたちがたくさんいます。その子達に、こう言葉をかけるそうです。「病院に来るよりも、グラウンドでサッカーしたいよね。少しのことでいいので、毎日体づくり、動きづくりのトレーニングをすると、ケガをせずにボールを蹴ることができるよ」ケガなく、楽しくサッカーに取り組むためにも、日々のちょっとしたトレーニングの積み重ねが大切なのです。そして、日常生活では猫背にならないように、姿勢を意識すること。この2つを心がけて、楽しいサッカーライフを送りましょう!大塚一寛(おおつか・かずひろ)医師、上尾中央総合病院整形外科・スポーツ医学センター長。1999年からJクラブのドクターとしてチームとともに帯同を続けている。そのほか、『日本サッカー協会スポーツ医学委員』や、『Jリーグチームドクター会議部部会長』を務める。多数の講演にも出演し、現場のノウハウや選手のケガ、障害予防などの啓発活動も積極的に行っている。上尾中央総合病院・スポーツ医学センター日本サッカー協会スポーツ医学医員
2020年08月06日監督が片っ端からカップ戦に申し込む。空いた休日も練習試合を入れたり試合が多すぎ。それなのに監督やコーチの子、うまい子しか試合に出さない。しかも、家族と過ごすことを前提として設けられている「家庭の日」はスポ少などもお休みの日とされているのに、それも無視。考えを改めてほしいけど、指導者に意見するなんて何事だという空気もあって言いにくいし、ほかに移籍するチームもない。どうすればいい?身も心も疲労困憊。というお母さんからのご質問です。今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、取材で得た知見をもとにアドバイスを授けますので参考にしてください。(文:島沢優子)(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<コーチの差別的な対応があってサッカーをやめてしまった問題<サッカーママからのご相談>小学5年生の息子がスポーツ少年団に所属していますが、試合が多すぎて困っています。地域のリーグ戦に加え、他チームが主宰するカップ戦に監督が片っ端から申し込み、かろうじて空いていた日も自チームでカップ戦を主宰したり、急遽練習試合をいれたりするので土日がほぼ全て潰れます。地域では毎月第三日曜を「家庭の日」としてスポ少の活動を原則禁止していますが、監督は全く無視です。試合数が多い分、チームのいろんな子が起用される機会があればまだ良いのですが、監督やコーチの子と一部の上手な子ばかりが延々と出場し、そうでない子は最後の数分しか出られません。指導者に物申せば、ますます息子の出場時間が減らされるのが怖くて言えません。都会ではきちんと話し合いができるのかもしれませんが、私の地域では監督が偉い立場で、親が口を出すなんて何事だ、という古い価値観があります。移籍も考えましたが田舎のため他に行くチームがありません。せめて日曜日だけでも休ませて欲しいと思っております。私は平日フルタイムで働いており、土日はスポ少の手伝いで身も心も疲労困憊なのですが、世のサッカー少年の親はみんなこんな大変な思いをされているのですか。無理かもしれませんが、監督に何とかわかっていただくための伝え方などはあるのでしょうか。よろしくお願いいたします。<島沢さんのアドバイス>ご相談のメールをいただき、ありがとうございます。お母さんの「全員出場させてもらえない」という悩みは、少年サッカーが抱える大きな問題です。公式戦だと固定メンバーになりがちな問題は残しているものの、練習試合は平等にプレーさせるコーチは増えてきています。ところが、このご相談でお母さんは「試合数が多い分、チームのいろんな子が起用される機会があればまだ良いが、監督やコーチの子と一部の上手な子ばかりが延々と出場し、そうでない子は最後の数分しか出られない」と書かれています。ということは、練習試合でも「最後の数分だけ」なのかもしれませんね。サッカーはもちろん、スポーツは試合が一番楽しいに決まっています。しかも、お住まいが地方のほうで、通えるチームがそこしかない、という八方ふさがりな状態です。お母さんのやり切れない思いが伝わり、こちらまで胸が苦しくなってきました。■出場機会の偏りには四つのマイナスがある日本の少年サッカーの、全員出場させない悪しき慣習には、四つのマイナス面があると私は考えます。ひとつは、チーム力の底上げができないことです。上手な子だけが延々試合に出続ければ、出られない子のスキルは上がりません。対人スポーツのサッカーは力が匹敵した相手とプレーすることで成長していくのに、チーム内で実力がくっきり分かれてしまうと、拮抗した場面が生まれません。そうなると、やりがいがあってなおかつ楽しいサッカーからほど遠いものになってしまいます。ふたつめは、小学生は成長とともに体格も運動能力も変わることを、指導者が考えていないことです。そこを加味せず、勝つために低学年のころから足が速い子、体が大きい子ばかり起用すると、あとで伸びてきた選手が経験を積めません。逆に、ずっと試合に出続ける子どもは、一日に何試合もプレーしなくてはいけないので、全力でプレーしなくなります。つまり、走れない選手に育ってしまう。そして、なおかつ、活動過多で、足の甲を疲労骨折する、膝を壊すといった故障を抱えるリスクが上がります。三つめは、人権の問題です。コーチは子どもがサッカーを楽しむという人権を侵害してはいけません。ところが「補欠になったなら、その悔しさをぶつけろ」などと、謎の論理を振りかざします。そんな「俺についてこい」型の指導が根強い日本は、選手よりコーチの意見が強い。そこを緩和するため、以前は「アスリートファースト」などと言われました。この言葉は、スポーツ先進国の欧米では使われません。当然の概念だからです。近頃は日本では「アスリート・センタード・コーチング」と言われるようになりました。文字通り、選手が主役。主従関係が強いままでは、選手は主体的に動けません。主体的に動けないところに、未来につながる本当の意味の成長はありません。四つめのマイナス面は、全員出場をさせる文化でなければ、スポーツは勝利至上主義が過熱してしまいます。そのリスクをとっくの昔に理解しているドイツやフランスと言った欧州のサッカー強豪国は、過熱させないよう配慮して育成してきました。ノックアウト方式のトーナメント大会が少なくリーグ戦文化が根付いていたり、全国大会が実施されないのはそのためです。ブラジルでは、数十年前に全国大会を数年続けたら、ファンタジスタと呼ばれるような面白い選手が輩出されなくなりました。そこで全国大会を廃止したら、ようやくロナウドらが出てきたそうです。■全員試合に出すべき、という考えをまだ理解していない指導者も少なくないそんなこともあって、最近は子どもを全員出場させる指導者は増えつつあります。私が行動を共にしてきた少年サッカーコーチの池上正さんはいま、全国を回って「コロナをきっかけに少年サッカーを変えよう」と環境改善に地道に取り組まれています。と、ここまでご説明したように、少年サッカーは全員試合に出るべきです。お母さんの要望はなんら間違ってはいません。ただ、一方で、そのように考えて実践する指導者は非常に少ないうえに、その指導者たちを育成するコーチングデベロッパーの方々や、都道府県、区市町村のサッカー協会のトップの方もこのことを理解していない方は残念ながら少なくありません。サッカー少年の保護者向けのサイトはほかにもありますが、そのひとつにこんな文章を見つけました。「いつかは誰もが控えになる。そういう可能性があるということを知り、保護者が先に悲観しないのも大事です。保護者の悲観は子どもに移ります。控えで居続けることさえ、全然珍しくないことです。泰然と『時期』を待ってあげてください」これは間違っています。メディアでさえ、新たな価値観に気づいている人は少ないのが実情なのです。■自分一人の力で解決しようとせず、区市町村のサッカー協会にも相談をお住まいの関係上、今の所属先以外でサッカーをする環境はないようです。非常に難しいケースですが、以下にアドバイスをさせてください。まず、「監督に何とかわかっていただくための伝え方はあるか」との質問ですが、これはお母さんだけの力では無理だと思います。例えば、ほかのお母さんと同じ考えの保護者に、上記の私がお伝えしたリスクを説明し、一緒にお願いしに行くことも一案ですが、非常にハードルが高いでしょう。したがって、区市町村のサッカー協会に相談してみてはいかがでしょうか。サカイクの悩み相談をしたらこう言われた、と説明してもいいかと思います。「家庭の日」が定められているにかかわらず、休養を子どもに与えていない点も改善を訴えてはいかがでしょうか。区市町村のサッカー協会は、そのような役目を担っています。ただし、匿名だとスルーされるので、実名で話しつつ監督本人には名前を明かさないことを約束してもらってください。■中学以降も視野に入れ、お子さんに確認してほしいこと(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)そして、最後になりますが、子どもの意思を確認してください。5年生の今の状態で、満足しているのかどうか。サッカーが楽しいのかどうか。そのうえで、お母さんが「せめて日曜日だけでも休んでほしい」と思っていることなど、伝えてみましょう。中学生でどのスポーツをするかも話しながら、続ける、辞める、ほかのことをする。サッカーは週末の試合だけ休んで、他のスポーツもやる。いくつかの選択肢の中から答えを出してください。理不尽なことを子どものうちから我慢するのもいい経験だ、などとはまったく思いません。理不尽を感じなくなるほうが不幸です。ただ、そのなかで親子で寄り添った時間は大きな宝物になると思います。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てるテニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。最新刊は『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)。
2020年08月05日子どものサッカーでの心配事の一つがケガ。特に今年は新型コロナウイルスの影響で休校、チーム活動停止が長引いたこともあり、活動再開をしている今もケガの心配をしている保護者は多いでしょう。海外では全体練習の前に個別のケガ予防策をとっているチームもあります。イングランドプレミアリーグ、クリスタルパレスFCのトップチームのコーチ、デイブ・レディントン氏にお話を伺いました。前編では、長期休暇明けの練習のポイントや、選手の疲労チェックなどをお送りします。(取材・文・写真:末弘健太/BAREFOOT)子どもたちには形だけ整えたトレーニングでなく飽きないような工夫をしてあげる方が良いとデイブ氏は言います(写真は少年サッカーのイメージ)■疲労を可視化してケガ予防対策を取っている――日本ではイギリスより早くサッカーが再開され始めましたが、イギリスではどうやって活動が再開されていったのか、他国の施策に興味を持っています。クリスタルパレスのトップチームはどのようにトレーニング強度を高めていったのでしょうか?まず、ロックダウン中は、選手各自にトレーニングプログラムが配られ、そのプログラムを消化していきました。GPSでトラッキングできるようになっていたので、データが毎日アップロードされ、週の終わりには大きなスプレッドシートが送られてきて、選手が何をしたか、どのような状態だったかが把握することができました。チームとして活動を再開する際は、政府のガイドラインに沿って練習を再開していく必要がありました。1ピッチに4人の選手まで入ることができ、3つのグループに分かれていたのですが、 各グループごとに練習時間帯が違うので、2ピッチ、3グループで練習時間帯を変えて練習しました。トレーニング中もソーシャルディスタンシング(2m)を保つ必要があり、最初の3つまたは4つのセッションでは、有酸素運動を多く取り入れて、心肺持久力を高めていく作業となりました。そして、おそらく6回ほどのセッションを経て、ステージ2に移行し、ボディコンタクトを伴うトレーニングが可能になりました。もちろんステージ2に移行する前に政府からその旨の発表がなされています。この時点からトレーニング強度を上げていきました。このような流れは各国同じではないでしょうか。――トレーニング強度を上げる際に、何か基準はあったのでしょうか?決まった基準というものはなく、その選手のケガ歴やロックダウン中の様子などを考慮して決めていきました。なので、チーム全員をそれぞれ見ていく必要があります。トレーニング中、例えばある選手がケガのリスクが高いと判断されます。そうしたらトレーニング中だとしてもその選手をトレーニングから外し、若い選手を入れます。毎朝、プレーヤーはスクイーズテスト(筋肉を圧迫して状態を確かめるテスト)を行い、疲労がどの部分に溜まっているか視覚的に見ることができます。スクイーズテストの結果が低いと、その選手はケガのリスクが高いということになります。その結果を毎朝のミーティングで各スタッフと話し合い、トレーニングプログラムを修正する必要がある場合は都度見直していきます。■形だけのトレーニングより子どもたちの心を刺激するような工夫を――ロックダウン解除後にケガをした選手はいますか?いませんでした。元々ケガをしていた選手がリハビリから何人か戻ってきました。ロックダウン中にケガをしてしまった選手が1名いて、リハビリ用に設定されていたプログラムをしていました。この辺りはこちら側にもコントロールできないので仕方ありません。今のところロックダウン解除後のケガ人は出ていませんが、リーグが再開されると週に3試合あるので、できるだけ多くの選手が試合に出られるような状態にしておくことが大切になります。そのため、それぞれの選手のプレー時間の管理などもしっかりとおこなう必要がありますね。――では、ローカルクラブでも徐々に強度を高めていく必要がありますか?年代によりますね。低年齢の選手の方が関節が柔らかくて可動域が広く、筋肉量も少ないので、いきなり動き始めてもケガをするリスクが低いため、低年齢であればあるほど、通常と同じようなトレーニングをしても問題ないかと思います。カテゴリーが上がるにつれてボールを使ったサーキットトレーニング(俊敏性、アジリティ、技術系トレーニングを組み合わせて短時間で行うメニュー)などを取り入れるなどして、トレーニング強度に気を付けながらフィジカルレベルを元に戻していく必要があります。私が現在指導している選手は全員プロ選手ですのでトレーニングの意図を理解できるし、自分のフィジカルレベルをどこまで引き上げなければいけないかわかっています。低年齢の子どもにサーキットトレーニングをしてもすぐに飽きてしまうと思うので、コーチが工夫をしなければいけません。しかもソーシャルディスタンシングを保つことも忘れてはいけませんからね。私が低年齢のプレーヤーを指導していた頃は、できるだけゴールを設置してシュートを打てるようなトレーニングにしていました。なので、低年齢のプレーヤーには、サーキットトレーニングなどをしてフィジカルレベルを戻すような作業は必要ないかと私は思います。サーキットトレーニング本来の意味も持たせることができないし、子どもも刺激が足りなくなってしまうからです。もちろん低年齢のプレーヤーもサーキットトレーニングをやっても全然良いとは思いますが、私だったら対人トレーニングでないクロスからのシュート練習などから始めます。ただ、ここでも気を付けなければいけないポイントがあります。彼らは長い間サッカーから離れていたので、クロスやシュートなどの筋肉への負荷が一瞬で大きくかかる動作をしていたかどうか、また、その反復回数を見ていく必要がありますよね。同じ選手がずっとクロスを上げていないか、右足でも左足でもやっているか、この辺りはよく見ていく必要があります。こんな時はペアを作らせて、交互に役割を変えていくといいですね。コーチは選手を守るためにこれらのようなことを考えていかなければいけません。日本でもJクラブのドクターが急激に高負荷をかけるとケガのリスクが高まると忠告していますが、プレミアリーグのトップクラブのコーチであるデイブ氏も同様の指摘をしています。休んでいた分を取り返そうとするよりは、飽きずにできるようやる気を刺激してあげるようにしましょう。Dave Reddington(デイブ・レディントン)イングランドプレミアリーグ一部、クリスタルパレスのトップチームコーチ。クリスタルパレス、ワトフォードのアカデミーでコーチとしてのキャリアを積みジュニア~ユース年代まで指導。クリスタルパレスU23チームの監督からトップチームのコーチに就任した。BAREFOOT(ベアーフット)はロンドンに本社があるイングランドサッカー留学会社。選手や指導者、サッカービジネス留学などの個人プログラムも充実している一方、チームでのイングランド遠征も手配可能。長くイングランドのサッカー界に携わっていることから、サッカー関連の情報やノウハウ、クラブとの強い繋がりがある。BAREFOOTのホームページはこちら>>
2020年08月04日ゲームは好きだけど、複数人で協力するプレーがまだできない。一人でできるドリブル練習の方が集中できる子どもたち。U‐6世代ならそんなもの?今は個人のスキルを身につけさせた方がいいのか、それとも仲間との協力プレーを意識させる方法はある?と指導者よりご相談をいただきました。先日配信した、「日本での指導の順番が海外とは逆」という記事でお伝えした課題は、サッカーを始めたばかりの年代にも言えるのだそう。これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが送るアドバイスを参考にして、子どもたちに仲間と協力するプレーを意識づけてあげてください。(取材・文島沢優子)(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)<<ボールを蹴るのは上手いけど、手で投げたりキャッチが苦手な子が多い。全身をうまく使えるようになる方法を教えて<お父さんコーチからの質問>U‐6世代を指導している者です。まだまだ集中力が続かない年代なので、楽しんでもらうことをモットーにしているのですが、自分が得意でなかったり、あまり好きではないメニューになるとどうしても気が散りがちです。ゲームは好きですが、複数人で協力し合うプレーなどがまだまだ苦手で、一人でできるドリブルなどのほうが集中できるようです。この年代では個人のスキルを身につけさせることが先決でしょうか。仲間との協力を意識させるようになる練習やウォーミングアップなどがあれば教えてください。<池上さんのアドバイス>ご相談、ありがとうございます。いただいたメールを読んで、ジェフ時代にオシムさんに言われた言葉を思い出しました。当時私はジェフの普及事業として、ホームタウンにある小学校や幼稚園などを巡回して授業をする「サッカーおとどけ隊」の内容を考えていました。クラブハウスでスタッフと相談していると、オシムさんがやってきたので、「どんなことをしたらいいか考えている」と話したら、一言だけおっしゃいました。「子どもたちにサッカーのやり方を教えるのではなく、サッカーすることを教えなさい」と。■6歳でもプレーを止めて考える時間を与えようサッカーをするといえば、一番楽しいのはゲームです。ゲームをしながら、子どもがサッカーというスポーツを理解していく手助けをしてみましょう。この連載直近の回で「チームの底上げ」や「判断を伴う練習」というテーマでお伝えした、スペインリーグのビジャレアルの育成方法を憶えていますか?日本人コーチの佐伯夕利子さんが育成のトップで活躍されているこのクラブでは、子どもたちにゲームを楽しんでもらいながら、サッカーの成り立ちを理解(認知)させます。考えながら動くことは難しいので、その状況ではどんな選択肢があるかをわかってもらうために「一回止まって考えてみようよ」と呼びかけます。6歳でも、試合を止めて、一緒に考えてみます。一見すると、とても大変そうですが、少しずつやっていくと子どもとさまざまなコミュニケーションがとれるようになります。そんな時間をとれば少しずつ変わってきます。ビジャレアルは、これを3歳児からやっているのですから、日本の6歳児も十分できるはずです。私もこれを実践しています。大阪で「サッカープレーパーク」という無料のスクールを実施していますが、集まるとまずゲームです。様子を見ながら、プレーを止めて対話する時間をつくります。答えは言いません。「どうして、ここにいったの?」「なぜこうなったのかな?」周りを見ていなかった。パスするのを忘れた......ハッキリだったり、ぼそぼそだったり、いろんな声が聴こえてきます。子どもたちの意見は一切否定せず、私の意見も言います。「そうか。オッケー。コーチはね、こうするといいかなって思ったよ。そんなことも考えながらプレーしてごらん」詰問するような言い方ではなく、あくまでリラックスした状態で、伝わりやすい言葉を選んで話します。6歳くらいだと、ボール保持者にぶつかっていく子どももいます。「みんな、知ってる?ソーシャルディスタンス。あるよね?コロナに感染しないようにしてるよね。サッカーもそういうふうにしよう。サッカーの試合、思い出してみて!自分からぶつかっていく人はいないよね」子どもたちはゲラゲラ笑います。全員ではないにしろ、少しイメージできます。ディフェンスが間にいてパスができないとき、どうする?「ドリブルで少し移動してからパスを出す」そんな答えが出てきます。そうやって、子どもが自分で気づいて、自分で学んで理解していくと、パスが早く出始めたり、自分でひとりでドリブルでいってしまうことが減ったりします。■「パスした方がいい理由」を見つけられるように導くサッカープレーパークでは、小学1年生から中学1年生まで一緒にサッカーをします。ある日のこと。小学1年生でドリブルばかりする子がいました。サッカーの初心者では当然です。そこで止めて、私はみんなに声をかけました。「ねえ、君さ、自分の味方がだれか理解していますか?えっと、この子の味方の人?」周りにいた子が一斉に手を挙げました。「ほら、こんなにいるよ」ドリブルをしていた6歳の小学1年生に尋ねます。「君はドリブルしていたね。コーチが前にいたね。右のほうに味方がいるよね。ドリブルをしていた君は、コーチにボールをとられたね。どう?味方にパスする?ドリブルする?どっちのほうがいいと思う?」すると、次にボールをもったとき、その子はドリブルをしながら周りを見たのです。パスもするようになりました。このように頭で理解をさせるのが非常に大切です。コーチの方は子どもたちに「パスしろ!」と言いますが、どうしてパスしたほうがいいのかを子どもたちは理解していません。「ああ、だからパスしたほうがいいんだ!」と子どもたちが納得できるように、その答えを自分で見つけられるような指導をコーチのほうもしていません。そういった指導でも、もし子どもがパスしたとしたら、それはパスをしないと怒られてしまうからだと私は思います。私の孫はいま小学3年生です。先日、通っているサッカースクールの子たちでチームを作って大会に出ました。全員顔見知りではなく、互いに恥ずかしがっていました。孫は特に内気な子で、コーチにベンチから大声で名前を呼ばれるとびっくりしてミスをしてしまいます。ほとんどがポジションが悪くて失敗するのですが、それが重なるとどんどん下を向いていきます。その大会の後、私のプレーパークにもやってきました。私は子どもたちに「ナイス」「お、いいね」とほめることしかしないので、帰宅後に「今日はいっぱいほめられて楽しかった」と母親である私の娘に言ったそうです。リラックスして楽しくプレーしていれば、いいプレーはたくさん出て来るようになります。■褒めながらプレーの幅を広げていく声かけ(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)ご相談者様いわく「協力し合うプレーなどがまだまだ苦手」とのことですが、少しでもみんなで協力してできたことがあったらほめてください。自分でドリブルしてうまくできたことを「すごいね」などとほめてしまうと、それだけしかできなくなります。「ドリブルうまいね。良かったよ。でも、こんなときはどうする?」そんなふうにプレーの幅を広げていくことが指導者の役目です。これまでは、6歳や小学校低学年は個人のスキルを身につけることに重点が置かれていました。でも、決してそうじゃないことがわかっています。みんなでサッカーをすることがどういうことなのか。ここをぜひ理解させましょう。池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
2020年07月31日"コロナ自粛"の影響で、スポーツ界にオンライントレーニングが広がりました。場所を問わず、フィジカルトレーニングができる便利さが受け、多くの選手やチームが取り入れています。ですが、正しく行えていないとケガのリスクもあるのだとか。そこで、日本サッカー協会のスポーツ医学委員でJクラブのドクターも務める大塚一寛先生(上尾総合病院スポーツ医学センター長)に「オンライントレーニングをする際に気をつけたいこと」について、話をうかがいました。(取材・文:鈴木智之)上手くなるために大事なのはケガしないことと正しい姿勢でトレーニングすること(写真は少年サッカーのイメージ)■アライメントが崩れているとオスグッド→シンスプリントなど芋づる式にケガをする可能性大塚先生がまず強調したのが「正しい姿勢でトレーニングを行うことの大切さ」です。オンライントレーニングは一気に身近になりましたが、痛みの発生につながることもあるので注意しなければなりません。「正しい姿勢でトレーニングをしないと、体が"代償"を覚えてしまいます。代償とは、代わりとなる部位の筋肉が動くことで、本来鍛えたい箇所に負荷がかからなくなり、トレーニング効果が得られません。画面を見て、ただ『型』をマネするような形になってしまうので気をつけましょう」と、間違った姿勢でトレーニングすることのリスクを教えてくれました。ジュニア年代でも、オンライントレーニングでフィジカルに刺激を与える取り組みを、たくさんのチーム、指導者が実施しています。サカイク編集部にも「何歳から筋トレをしたほうがいいですか?」という質問が届くなど、保護者の関心が高いジュニア年代での筋トレの情報。ですが、大塚先生は「ジュニア年代であればまずは正しい動きづくり、いわゆる"アライメント"を高めるトレーニングをする方が良いと思います」とアドバイスを送ります。アライメントとは骨、軟骨、間接の配置のことで身体の連動性にも影響します。たとえばシュートを打つときは、ボールに直接触れるのは足ですが、両手を振って、上半身と下半身をねじって、パワーを生み出して、足をボールに当てるという動作をします。この上半身と下半身の連動性、各パーツの動きが連続して行われることがケガをしないために大事なことなのです。「アライメントが崩れていると、慢性障害(痛み)につながる恐れがあります。そうすると、コンスタントにピッチに立てなくなってしまいます。とくに、神経系が発達する"ゴールデンエイジ"と言われる時期の、8歳~12歳前後の子どもたちはボールを蹴ることで感覚を身につけることが大事なので、筋トレではなくアライメントを含めた身体の使い方を身につけることに意識を向けると良いと思います」ケガを未然に防ぐことで、常に練習に取り組むことができ、技術や体力面のレベルアップにつながります。大きく伸びると言われているゴールデンエイジの貴重な時間を、ケガで棒に振ってしまうのはとてももったいないことです。「バランス能力やアライメントが悪いと、小学生の時にオスグッドになり、中学生になってシンスプリントになるなど、芋づる式にケガをしてしまう恐れもあります。アライメントが悪い影響で、身体の至るところに負荷がかかっているのです。元の部分を改善していかないと、痛みが出るたびに治療をしても、根本的な解決にはなりません」■体のバランスを整えるのは「サッカー以前」のことアライメントが大切なのは、子どもだけではありません。大塚先生が日ごろ接している、プロ選手でも、入団したばかりの若い選手はアライメントに改善の余地がある選手がいるそうです。「例えば、あるプロ選手に片足立ちのスクワットをやらせると、片方に傾いて、まっすぐできないことがありました。これがアライメントが良くない状態、つまり機能不全です。選手としてはすごくまずい状態ですよね。アスリートではない私がその選手とおしくらまんじゅうをすると、簡単に勝つことができました」その選手は空中戦やハイボールには強い一方で、相手を背負ってプレーする際には、アライメントが良くないので苦戦していたそうです。「繰り返しお伝えしているとおり、身体のバランスが悪いのでグロインペインなど、股関節周辺のケガをよくしていました。私からすると、プロ選手であるにも関わらず、サッカーをする以前の状態と言えます。それから、アライメント向上のトレーニングに取り組んだことで動きが改善され、いまでは大活躍しています」ジュニア年代から動きづくりに取り組んでいたら、早い段階から上のレベルに到達できたかもしれません。■筋トレなどフィジカルトレーニングは16歳以上で十分「男の子の場合、技術面に関しては、16歳ごろまではやればうやるだけうまくなります。一方で、それ以降の伸びしろは5%ほどしかないと言われています。だからこそ、ジュニア年代から16歳ごろまでは、ケガをせずに、コンスタントにピッチに立つための身体作りが大切なのです」さらに、こうアドバイスを送ります。「その意味でも、指導者の方々は、子どもたちがケガをせず、ピッチに立てるようにしてあげてほしいです。フィジカルトレーニングは16歳以降に取り組んでも、十分に間に合います。ボールテクニックや、ラダーを使って動きの敏捷性を高めるトレーニングなど、ゴールデンエイジのときにするからこそ、より効果的なトレーニングはたくさんあると思います」次回の記事では、正しい姿勢でトレーニングする際に、保護者がチェックすべきポイントについて紹介します。大塚一寛(おおつか・かずひろ)医師、上尾中央総合病院整形外科・スポーツ医学センター長。1999年からJクラブのドクターとしてチームとともに帯同を続けている。そのほか、『日本サッカー協会スポーツ医学委員』や、『Jリーグチームドクター会議部部会長』を務める。多数の講演にも出演し、現場のノウハウや選手のケガ、障害予防などの啓発活動も積極的に行っている。上尾中央総合病院・スポーツ医学センター日本サッカー協会スポーツ医学医員
2020年07月28日千葉県の流通経済大学付属柏高校をサッカー強豪にし、高校サッカー選手権や高校総体で複数回の全国制覇を達成した本田裕一郎さん。これまで45年にわたって高校サッカー部の監督として育成に携わり、73歳の今なお新たな挑戦に挑んでいる名将に伺う、今だからこそ若い指導者に伝えたいこと。後編では、世界中が困難に直面しているからこそ、今、あえて言いたいことを語っていただきました。(取材・文:元川悦子)国士館高校サッカー部(2020年3月19日撮影)<<前編:選手の情熱を掻き立てるのが指導者の務め、全国制覇複数回の元流経柏・本田裕一郎監督が語る目標達成への「早道」とは■「真似る」のは良い指導者になる第一条件新型コロナウイルスの感染拡大でユース年代の活動が制限される中、選手の行動調査を行ったり、自宅で最新の指導法や戦術を勉強をしたりと、本田裕一郎先生は先を見据えた準備に余念がありません。昨年まで指導していた流通経済大学柏高校時代も毎年のように欧州に出かけて最新のトレーニング方法を持ち帰っていました。2018年夏にはGPSを導入し、走行距離やスプリント回数を計測。2019年1月の第97回高校サッカー選手権準優勝の原動力とした実績もあります。このように本田先生はつねに情熱を持って新たなことを取り入れようと努めています。自身を「カメレオン」と称するように、年齢に関係なくいいものは取り入れ、若い指導者から学び、誤りは正すという潔さを備えているからこそ、73歳になろうというタイミングで、4度目の新天地に赴くことができたのでしょう。「国士舘に来てから痛感することですが、若い指導者はチーム運営に忙殺されています。今は上野晃慈監督ら8人に加え、大学生コーチを含めて10人で180人もの選手をマネージメントしていますが、それだけでも本当に大変。そういう状況下でも、私のような人間が来ることで新たな刺激を受けてもらえれば、彼らにとっても活性化になるのかなと感じます。私自身も経験ある指導者に学びながらここまでやってきました。市原緑にいた若い頃は飲めないお酒を飲んで静岡学園の井田勝通さんや島原商の小嶺忠敏先生(現長崎総合科学大学付属)に近づいてノウハウを盗んだものです。人のことを真似るというのはいい指導者になる第一条件。お茶の世界の『守破離』もそうですけど、最初は徹底的に真似るところから始まります。完ぺきにコピーできるようになって初めて応用段階に入れるし、オリジナリティも出せます。『ただの物真似』と言われてもいいですから、人からもっと学んだほうがいいと私は思いますね」■環境の不備を言い訳にしていたら、いつまでも成功できない本田先生の教え子である尚志高校(福島県)の仲村浩二監督、昌平高校(埼玉県)の藤島崇之監督も恩師が目指したテクニックと創造性溢れるサッカーをベースにして経験を重ね、自分らしさを模索していきました。そうやって「経験者に学びながら新しいものを追求していくんだ」という意識を持った指導者が優れたコーチになれると本田先生は考えているのです。「今の時代は情報過多で、いつでもどこでも世界のトップレベルのクラブでやっている練習方法を知ることができます。若い指導者は『盗む前に教えられている状態』と言ってもいいかもしれない。『野鴨も先に餌をやると食べる方法を覚えない』と言いますから、人間も同じかもしれない。飢えている指導者の方が強く求めていくのでしょう。今の時代、ゼロからチームを作り上げるというのは簡単なことじゃないですし、そういう環境にも巡り合えるとは限りませんけれど、『自分が作り上げるんだ』という強い情熱を持った人間が成功できると私は考えます。京セラの創業者である稲森和夫さんが『思い邪なし(よこしまなし)』という本を出されていますが、素直な心でひたむきに前進することの大切さは全ての世界で通用するのではないでしょうか」もちろん全てのサッカークラブの環境が整っているわけはありません。沢山の選手を1人で教えなければいけない指導者もいれば、サッカーコート1面も満足に使えないチームもあるでしょう。そんな環境の不備を言い訳にしていたら、いつまで経っても成功は手にできません。あえて困難に挑んでいくくらいのタフなメンタリティを持ってほしいと本田先生は力強くアドバイスしています。「『ウチはいい人材が来ないから勝てない』と言っている指導者をよく見ますけど、そのことを嘆いているだけでは進歩はないと思います。私も市原緑の頃は弱小チームでしたし、千葉のトップレベルの中学生を送ってもらえるような状況ではなかった。少しずつグランドを作り、選手集めに回り、宮沢ミッシェル(解説者)や石井正忠(現タイ・サムットプラカーン監督)のような選手が来てくれるようになりました。習志野の頃も前任者が辞めてから2~3年経っていたので、チームの規律がなくなっていて、立て直すのに苦労しました。流経も全くのゼロからのスタートで寮を作るところから選手の勧誘まで自分で取り組みました。そうやって環境を変えるような努力を続けて今に至ったのです。家庭のことを振り返ると、私の家族は被害者だったと反省していますが、そのくらいの覚悟を持って取り組まなければ頂点には立てないのではないかと。そこまでやっても私も常勝にはなれませんでした。少し古い考え方かもしれませんが、オンとオフを器用に分けるような指導者では難しいのかなとも思っています」■いくつになっても挑戦し続ける姿を若い指導者に見せる今年に入って、新型コロナウイルスの問題も重なり、全ての指導者が苦しんでいます。子どもたちを高いレベルに引き上げることよりも、安心安全を第一に考えて行動しなければならないのも確かでしょう。そういう時でも落ち着いて生徒の状態を把握し、手洗いとうがいを徹底させ、自分でできるトレーニングを与えてチェック体制も構築するといった工夫も重要になってくるでしょう。厳しい状況の中でも若い指導者を育てることを本田先生は今の最重要テーマだと考えています。新天地・国士舘では自分の長年の経験を全て駆使して、取り組んでいく構えだといいます。「今年は思うような活動ができなくて、チーム強化に遅れが出ているのは確かです。それをどう取り返していくかがこれからの大きな課題になります。転んでもただで起きないようなアプローチを上野監督や若いコーチと一緒になって考えていきたい。私自身もまだまだ成長できると思っていますし、いいチャンスだと捉えて頑張ろうと思います。世界中が困難に直面しているからこそ、今、あえて言いたいことがあります。まず夢を描きましょう。描けなければ夢ではない。妄想です。夢を描いたら、それに近づく目標を、期限つきで考えなさい。そして、目標を持ったらやりなさい。少し頑張れば可能な目標、それより少し高い目標を少しずつ達成していくことが大事。諦めたら、終わりです。前向きに取り組んでいきましょう。そんなことを自分にも言い聞かせていきます」飽くなき情熱を持って挑戦し続けることの重要性を示している本田先生。そのポジティブ志向と積極性を多くの人々に学んでほしいものです。<<前編:選手の情熱を掻き立てるのが指導者の務め、全国制覇複数回の元流経柏・本田裕一郎監督が語る目標達成への「早道」とは本田裕一郎(ほんだ・ゆういちろう)1947年5月1日、静岡県生まれ。順天堂大卒業後、千葉県市原市教育委員会を経て、75年に千葉県立市原緑高校サッカー部監督に就任し佐々木雅尚、宮澤ミシェル、石井正忠らを指導。その後86年に習志野高に転勤し福田健二、広山望、玉田圭司らを指導し、95年のインターハイで初の日本一に。2001年より流通経済大柏高に赴任し、2007年の全日本ユースを皮切りに5度の全国制覇を成し遂げた。2020年4月より国士舘高サッカー部のスーパーバイザーに就任。指導者としてだけでなく高円宮杯U-18サッカーリーグの前身である関東スーパーリーグの立ち上げなど高校サッカーの発展に大きくかかわっている。
2020年07月27日所属したチームのコーチが上手い子とそうでない子をあからさまに差別するので、自信を失ってチームを退団したが、数か月たっても自信が回復しない。サッカーが嫌いになったわけではなさそうだけど、今はほとんどボールも触らないし、こんなときはどうすればいい?子どもに合うチームを探すか、他の道を探すべきか迷っている。というお母さんからご相談です。みなさんならどうしますか?今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、取材で得た知見をもとに3つのアドバイスを授けますので参考にしてください。(文:島沢優子)(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<お前いらなくない?と中傷される中学生のクラブ内いじめ問題<サッカーママからのご相談>小四の息子がいます。運動神経は良い方ではありません。一年から、スクールで遊び程度にサッカーをはじめ、昨年から本人の上手くなりたいという気持ちからチームに入りました。その際にスクールは退会しています。しかしながら、自分から入りたいと言ったのにチームに入団して半年経っても自分から練習をしたりせず、親が言って練習するような状態でした。ですが、しばらくすると自分が成長している実感が出てきたのか、前向きに取り組む様になりました。ようやくやる気を出してくれたと思っていたのですが、所属したチームのコーチが上手な子とそうでない子をあからさまに差別する対応をとることもあり、自信を失ってチームを辞める事となりました。数か月たちますが未だに自信が回復しません。サッカー自体を嫌いになったわけではないようですが、今はスクールにも行っていないし、時々、本当に時々ボールを触るぐらいです。こんな時は、子どもに合いそうなチームを見つけて続けさせるべきなのか、サッカーは辞めて他の道を一緒に探すのが良いのかとても迷っています。なにかアドバイス頂けたら幸いです。<島沢さんのアドバイス>ご相談のメールをいただき、ありがとうございます。短いお便りだけなので、正確に把握できないかもしれません。そこを踏まえてお聴きください。■選択肢を限定しているのでは?ご相談のメールから、お母さんはいま、息子さんのことをあまり認める気分ではないのかな?という印象を受けました。「自分から入りたいと言ったのにチームに入団して半年経っても自分から練習をしたりせず、親が言って練習するような状態でした」「今はスクールにも行っていないし、時々、本当に時々ボールを触るぐらいです」そのような言葉から推測するに、息子さんに対して「なんだかなあ」と残念に感じているのではありませんか?間違っていたらすみません。でも、誤解しないでくださいね。お母さんを責めているのではありません。お気持ち、非常にわかります。もっと前向きにやってよ。やる気出してよ。シャキッとしてよ。子どもに対して、そんなふうに思うこと、ありますよね。私にもよくありました。何かに付け、「もう、本当に不甲斐ない!」と思っていました。お母さんがそんなふうに残念な気持ちでいるときに、お母さんだけの思惑で動くのは危険です。お母さん自身が「この状態を早く何とかしたい」と焦ってしまい、冷静に行動できないかもしれません。親が冷静に動けないときはほとんどの場合、子どもの意思や気持ちを尊重できていません。すでにお母さんは「こんな時は、子どもに合いそうなチームを見つけて続けさせるべきなのか、サッカーは辞めて他の道を一緒に探すのが良いのか」と選択肢を限定して、焦っている様子がうかがえます。では、どうしたらいいか。三つアドバイスさせてください。■声に出していなくてもお母さんからの無言の圧力を感じているはずひとつめ。立ち止まってください。お母さんの息子さんへのネガティブな気持ちを、まずは鎮めましょう。スクールにも行かず、自分でボールを蹴るくらいの息子さんが気になるようですが、「息子とサッカーにまつわること」をとにかく気にしない。見ない、聞かない。そう決心して、なるべくサッカー以外のことで息子さんとつながってください。一緒に何か作って食べる。家で映画を見る。同じ本を読む。一緒にゲームをする。何でもいいです。それも難しければ、一時的に息子さん以外のことで自分を忙しくしてください。首都圏などにお住まいならまだコロナの影響で動きづらい状態ですが、そのなかで自分の趣味や好きなことを見つけてください。子育て以外のことに熱中しましょう。そんなふうにお母さんの視線が息子さんから離れることは、彼自身にとってもいい影響を及ぼすはずです。サッカー、どうするの?もうやめるの?続けないの?もし声に出していなかったとしても、息子さんはお母さんからの無言の圧力を感じているはずです(本人に自覚がなかったとしても)。そこから解放されれば、彼自身にも余裕が生まれます。いまは親子ともに精神的な余裕がない状態だと考えられます。すでにお伝えしましたが、そんなときはあまり新しいことを始めたり、決断をしないほうがいいと思います。■自分で決めなさい、と言いながら親が誘導していないかふたつめ。これまでの子育てを少し見直してみましょう。ご相談文に、「所属したチームのコーチが上手な子とそうでない子をあからさまに差別する対応をとることもあり、自信を失ってチームを辞めた」とありましたが、これは、息子さんが「差別だよ。こんなチームにはいたくない。とりあえずやめる」と強く主張し、自分から決心して退団したのでしょうか?もし、お母さんが「もうやめたら?」と働きかけていたとしたら、少しばかり過干渉な部分がなかったか、考えてみてください。この連載で何度か書きましたが、あれこれと世話を焼くことは、過度になると「転ばぬ先の杖」になってしまいます。大人が世話を焼くことは、子どもが自分で考えたり、決心して自分から動く機会を奪います。失敗もしないし、子どもも何も考えなくていいので楽ですが、そこに成長はありません。杖があると、足腰は鍛えられないのです。そして、注意すべきは「自分で決めなさい」と言いながら、「こうしたらいいのに」「これがいいと思うけど」と誘導している場合です。これは私自身もここに気づくのに時間がかかりました。主体的に動く人間になってほしいと思いながら、いつの間にかうまくいくよう誘導していました。ところが、親が「良かれと思って」動くと、あまりうまくいきません。したがって、親は放置する勇気を持たなくてはいけません。私の子どもは二人ともすでに大学生です。今思えば、放置できてこそ、親になれるのかなという気がします。■待っていても子どもが動き出さなかったら?(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)最後、三つめは、お子さんの気持ちを考えること。ご自分の焦りや感情に向き合うのではなく、「いま、この子はどんな気持ちなんだろう?」と考えてみてください。好きで始めたサッカーがうまくいかなかった。息子さんは大いに傷ついているはずです。傷を癒せるよう、少し休ませてあげてください。「せっかく頑張ろうとしていた矢先だったのに残念だったね。でも、また他のところでやってもいいし、サッカー以外のことをしてもいいよ。いつも応援してるよ」そんな言葉をかけてあげてください。そして、息子さんが自分から動き出すのを待ってください。なかなか動き出さなかったら?もう一度、「いま、この子はどんな気持ちなんだろう?」と観察してください。動き出すペースは人それぞれです。お母さんのペースを押し付けず、「放置する勇気」を奮い起こしましょう。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てるテニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。最新刊は『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)。
2020年07月22日全体的に足元の技術は高いけど、勝負のタイミングでバックパスを選択したり、確実に勝てそうなポイントでしか仕掛けない。「判断力」を養うにはどうすればいいの?というご質問をいただきました。池上さんは、前回の内容でお伝えした、日本での指導の順番が海外とは逆で細かな基本技術から入る事による日本サッカーの課題に通ずると言います。子ども達に判断を伴うプレーを身につけさせるためにはどうすればいいか、スペイン・ビジャレアルFCの育成組織で指導されている日本人コーチのお話なども交えてご紹介します。これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが送るアドバイスを参考にして、子ども達の判断力を養う指導を実践してみてください。(取材・文島沢優子)(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)<<足元の技術はあるけど勝負のタイミングで判断できない。判断力をつけるためには何をすればいい?<お父さんコーチからの質問>私は街クラブで小1~小4を指導しています。年代により伸びやすい能力があると聞きましたが、今指導している年代で伸びる能力と、おすすめのトレーニングメニューを教えていただけませんか。また、兄弟の影響などで未就学児からサッカーをしている子も何人かいて、足でボールを扱う技術はあると思うのですが、手でボールを投げたりキャッチするような動きは得意でなかったりします。サッカーの技術だけでなく、ほかの運動や遊び経験から得られる動き、身体を自在に動かせることなども大事だと思うのですが、楽しんでできるメニューなどもあればお聞きしたいです。<池上さんのアドバイス>ご相談、ありがとうございます。サッカー少年で、ボールをうまく投げられない子どもが多いという話はよく聞きます。この連載でも、昨年2月に掲載された「ボールが投げられない、腰より高いボールが怖い子どもたちが飽きずにできる動きを教えて」という記事で、類似した相談を受けています。そのときにも紹介していますが、練習の中に「バルシューレ」を取り入れることを勧めています。■サッカーの要素もたくさん含まれる「バルシューレ」「バルシューレ」とは直訳すると「ボールスクール」(Ball school)。ボールゲーム教室という意味ですが、実際は子どものための運動プログラムのことです。ドイツのハイデルベルク大学スポーツ科学研究所で開発されました。ほとんどが試合形式なので、子どもたちは楽しく入っていけます。野球のボールからバランスボールまで、大小さまざまなボールを扱います。私もバルシューレのテキストを持っていて、そこから選んだメニューでトレーニングの導入部分などに活用しています。子どものボールゲーム導入プログラム(特定非営利活動法人・バルシューレジャパンのページにリンクします)また、バルシューレには、サッカーの要素がたくさん含まれます。例えば、ネット越しでボールを使ったパス交換をした後は、それを「足でやってみよう」という展開になったりします。ボールを相手の体に当てる鬼ごっこもあります。手で当てるときは、当たっても痛くないよう風船を使います。それを足でもやります。いわゆる発展形ですね。そのように発展させるのは、手も足も使うことで身体の機能がバランス良く高めるためでしょう。■身体をイメージ通りに動かすことができれば全体的なプレーの質もアップ身体の神経系は小さなときからどんどん鍛えられます。どんなスポーツも、自分が思った通りに動けるよう、バランスよく体の機能を向上させなくてはいけません。これが「コーディネーション」です。自分の体をイメージ通りに動かすことができれば、スキルはもちろん全体的なプレーの質もアップします。そこから、もっと素早く動く、もっと高く跳ぶ、もっと強く蹴るといったことができるようになるのです。さらにいえば、バルシューレがいいのは、遊び感覚でやっているあいだにいろいろな能力が身につく点です。そして、それはあくまでも手取り足取り教えられてやるものではなく、基本的に「自己学習」です。例えば、手でボールを「投げる」という動作は、子どもが自由にどんどん投げていくことで、自分でいろんな動きを獲得していきます。遊びの中で、どんどん投げていると、勝手にフォームが良くなると言います。教えられたわけでもないのに、なぜそうなるかは、研究の結果でも明らかになっています。つまり、根拠があるわけです。■サッカーは「どう蹴るか」が目的ではない一方で、指導者の皆さんの多くは、練習メニューが気になるようです。練習メニューや練習のやり方を一生懸命学ばれています。「基礎基本」をとても大事にします。ですが、サッカーは「どう蹴るか」が目的ではなく、どんなタイミングでどんなボールを蹴ってチャンスにするかが重要です。蹴り方は自由でいい。そこから少しずつ選手自身が修正していくものだと考えます。もっと自由な発想をしていきましょう。バルシューレにも、そんな自由な要素がちりばめられています。サッカーのメニューばかりを追い求めずに、バルシューレの成り立ちを学んでみましょう。ご相談者様が「子どもが手を使えない」ことに注目してくださったことは、素晴らしいと感じます。キーパー以外は足でプレー出来れば十分だと思われる方もいらっしゃるかもしれません。でも、前述したように、全身のコーディネーションという側面から考えると、バルシューレを活用して投げる動作をたくさんやることはサッカーの上達にもつながります。■最近推奨されている「ダブルスポーツ」とは(写真はサカイクキャンプ。お互いにボールを投げ、キャッチする練習)もっといえば、サッカーの上達しか考えられないのは、もったいないと思います。スポーツする意味は、スポーツによって人生を豊かにできるからです。サッカーならサッカーばかり。野球なら野球だけしかしない。そんな子が日本では目立ちますが、いまは「ダブルスポーツ」といって、シーズナブルに複数のスポーツをすることが奨励されています。ひとつの種目だけしているとほかのことができないのは、あまり幸せではありません。Jリーグのジュニアユースチームのなかには、家族旅行をしたことがない選手や、海水浴に行ったことがない子どもがいっぱいいました。つまり、サッカー漬けなのです。それでは、その人のスポーツ人生は豊かとはいえません。サッカーの練習のみではなく、今日はバルシューレ、週末はチームでハイキングに行く、そんな将来だと、とても豊かになりますね。池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
2020年07月17日スカウトが見るポイントは技術だけではない。早熟、晩熟傾向などの成長スピードや、何より人間性を含めたポテンシャルであることを前編でお送りしました。プレミアリーグのトッテナムやイングランドサッカー協会のスカウト責任者を歴任するなどたくさんの育成年代の選手を発掘してきたベテランスカウト、リチャード・アレン氏に、後編では成功している選手の保護者が行っているサポートの具体例などを伺いました。(取材・文・写真:末弘健太/BAREFOOT)ベテランスカウト、リチャード・アレン氏が語る、スカウトの際に技術以外でチェックすることとは■プレーしている時には見えない部分も大事――スカウティングをする際に社会性や精神面にもフォーカスを当てるとおっしゃっていましたが、ピッチ外で選手が自分を高めるために何かできることはありますか?スカウトは試合会場に行き、ピッチ上で起きる事象を見ることになります。ただ試合が始まる前や終わった後の選手の言動も見ることができます。良いスカウトというのはただ試合を見に行くわけではなく、試合前後に起こることも全て見に行きます。そして彼らはできるだけ多くの情報を集めます。特に目では見られない情報ですね。例えばその選手はどんな性格なのかなどです。やはり、いつでも少しでも今の自分より良い選手になりたいという気持ちを常に持つことは大切ですよね。クリスティアーノ・ロナウドやリオネル・メッシなどの素晴らしい選手は常にこの気持ちを持ち続けています。その気持ちがあればチーム練習以外の時間で、もしフィジカル能力が足りなければそのトレーニングをするし、技術的に劣っていればそれを補うようにするはずです。もちろん選手がこのようなことをしているかはスカウトには見えにくいところなので、彼らがどのような人間なのか探るために、彼らをよく知る人に話を聞くことも非常に重要です。しっかり毎回の練習にコミットしているか、毎日自分をよくしようとしているか、必要があれば何かを犠牲にしてまでトレーニングができるか、などのメンタリティがあるかを確認します。私はそれをGood Characterと呼んでいますが、それはただの「いい子ちゃん」というわけではなく、トレーニングや試合の時に全身全霊でそれに取組めるメンタリティのことです。今の話が質問の答えになっているかわかりませんが、プレーをしている時だけ見える事象だけではなく、そこでは見えないことも、良い選手になるには非常に重要です。あとは選手のバックグランドも重要な要素ですね。両親が過去にアスリートだったかどうか、保護者が選手をしっかりとサポートしてくれているか、こういった細かいこともスカウトをする上で一つの判断材料にはなります。ある論文の中で、「適切な程度」のサポートを受けているアスリートは、過度にサポートを受けていたり、受けているサポートレベルが低いアスリートよりも成功しやすいというデータが出ています。――では保護者からのサポートというのは非常に大切ということですよね。そうです。ただ、ここは非常に気を付けなければいけません。もちろん過干渉はいけません。選手をサポートしてくれている周りの人にしっかりと責任を与え、モチベーションを高めてあげることは大切です。選手はそれぞれ家庭によって受けられるサポートのレベルが違い、トレーニングに行くのに車で送ってもらえる選手もいればバスなどの公共交通機関で向かう選手もいます。では保護者に活動場所まで送ってもらえる選手の方が成功するかと言うと、もちろんそうではなく、逆にバスで自分で通う経験が選手を成長させることもあります。ほとんどの成功している選手の保護者は、それが母子家庭だろうと父子家庭だろうと関係なく、親から、過干渉でもなく、放置されすぎているわけでもなく、適切な程度のサポートを受けています。親が子どもに自分の夢を押し付けるのではなく、選手の夢をサポートすることが大切です。■子どものモチベーションを下げないために気を付けること――具体的には保護者からはどのようなサポートが必要ですか?選手の年代によってサポートの種類は変わってくるかと思いますが、今お話したように、選手を支え続ける姿勢を貫くことがどの年代でも鍵になります。時に保護者は、親ではなく、コーチになりたがります。でも本来は、指導はコーチに任せ、サポートに徹するべきです。選手がうまくプレーできない時など、話を聞いてあげたり、寄り添ってあげたり、場合によっては背中を押してあげることも必要です。なので、特段「このサポートが必要」というのはなく、通常の親としての役割を普通にこなすということが大切だと思います。やはり選手がやりたくないと思っていることを、無理矢理やらせ始めたりすると問題が起こります。各家庭での子どもへのサポートは違っても当たり前ですが、うまくいかない時は励まし続けてあげましょう。物事を大きくとらえさせ、長期的に考えさせましょう。指導したり、やることを指示したり、プレーに口出ししたりしないようにしましょう。これをしてしまうと選手は混乱してしまいます。コーチの指示と親の指示も聞かなければいけなくなり、一貫性が無くなってしまいます。上手くプレー出来ていても出来ていなくても、何が起ころうともピッチサイドで笑顔で見届けてあげる。それが大切です。あなたが子どもの成長の願っても、全ての子どもが目指しているゴールまで辿り着けるわけではありません。もちろん全ての子どもにポテンシャルはあり、確実に成長しますし、自分のポテンシャルを超える子どももいます。ただし現実は、プロ選手になれる数はそこまで多くありません。トッププロ選手になるにはさらに数が限られます。それはどのスポーツにも当てはまります。さらには人生にも当てはまります。エリートとは限られた人にしかなれないからエリートと呼ばれるのです。色々な要素が相互的に作用しその選手を形成しますが、両親のサポートというのはその要素の一つにすぎません。ただその中で気を付けなければいけないのは、サッカーを強要したりすると選手はモチベーションを下げ、場合によってはサッカーをやめてしまいます。いかがでしょうか。サッカーが好きで頑張っているお子さんをサポートしたいのはどの親御さんも一緒だと思いますが、それが「無理やり」「強要」になってしまうとお子さんはサッカーを楽しめなくなってしまうのです。成長過程において常に右肩上がりで成長するものでもありません。停滞するとき、上手くいかない時もおおらかな気持ちで見守ってあげることが大事なのだとリチャード氏の言葉から気づかされます。Ricard Allen(リチャード・アレン)トッテナム・ホットスパーで6年間アカデミーのスカウティング部門の最高責任者を任され、ヨーロッパサッカー協会連合 (UEFA) やイングランドサッカー協会 (The FA) が開催するジュニアユースとユースのすべての大会で様々な国のトップクラブを視察。the FA Talent Identification in Footballコース (才能あるサッカー選手の選考) を欧州各国のプロフェッショナルクラブで開催し、スカウティングについての講義も開催。現在はラフバラ大学サッカー部門 ダイレクターを務めている。BAREFOOT(ベアーフット)はロンドンに本社があるイングランドサッカー留学会社。選手や指導者、サッカービジネス留学などの個人プログラムも充実している一方、チームでのイングランド遠征も手配可能。長くイングランドのサッカー界に携わっていることから、サッカー関連の情報やノウハウ、クラブとの強い繋がりがある。BAREFOOTのホームページはこちら>>
2020年07月15日千葉県の市原緑高校、習志野高校、流通経済大学付属柏高校をサッカー強豪にし、高校サッカー選手権や高校総体で複数回の全国制覇を達成した本田裕一郎さん。これまで45年にわたって高校サッカー部の監督として育成に携わり、今年からは国士舘高校でテクニカルアドバイザーに就任するなど今なお新たな挑戦に挑んでいる名将に、今だからこそ若い指導者に伝えたいことを伺いました。(取材・文:元川悦子)国士館高校サッカー部(2020年3月19日撮影)<<連載一覧:ベテランの金言「言わずに死ねるか」-今だからこそ、若い指導者・保護者に伝えたい-■SNSツールの弊害がサッカーの現場にも千葉県の市原緑、習志野、流通経済柏で45年間にわたってユース年代の指導に携わり、高校サッカー選手権や高校総体で複数回の全国制覇を達成しているのが、本田裕一郎先生です。2006年ドイツワールドカップ日本代表の玉田圭司(長崎)らを数多くのプロ選手を育てた名将は、2020年1月から国士舘高校でテクニカルアドバイザーに転身。新たなチャレンジに打って出ています。新天地ではトップチーム約30人を主に指導していますが、「笑ってグラウンドに立つ」と新たな目標を設定。明るく接しやすいイメージを作ろうと心掛けています。「練習前からしかめっ面だとチームのモチベーションは上がりません。そう気づいて、『今日は元気?』『目標は何?』とまず笑顔で選手に話しかけ、彼らの考えを聞くところからスタートするようになりました。昨年まで指導していた流経柏はAチームの9割方が『プロを目指す』という目標をハッキリと持っていましたが、国士舘の場合は『全国大会に行きたい』という子がほとんどで、プロを目指しているのは1~2割程度。それはそれでもちろんいいのですが、全国に行くためにやらなければいけない具体的なビジョンをうまく描けないのかなと感じます。それを自分から言葉にして説明できればいいんですけど、今の子どもはコミュニケーション不足なのか、何か聞いても一言二言で終わってしまう。それも目標達成の足かせになっていると思いますね」本田先生がコミュニケーション不足の最大要因だと考えるのがスマートフォンの普及。昨今は『LINE』などの通信アプリで簡単にやり取りできるので、子どもたちが言葉を発しなくていい環境になっています。それがサッカーの現場にも影響しているというのです。「日本人のよさというのは、挨拶や礼儀正しい行動、場の雰囲気を察知したり、相手の表情を見ながらうまく会話を運ぶことだと思うんです。しかし『LINE』だと単にスタンプを押すだけで意思疎通が成り立つ。そればかり多用していたら、目で会話をしたり、相手の思いを汲んで物事を進めていく力は身に付きません。人間関係も希薄になり、サッカーのようなチームスポーツをやるうえでは大きなマイナスになります。現場に立っていて2~3年前から生徒の質がだいぶ変わってきたなという印象を受けるので、我々指導者も工夫を凝らしていく必要があると思います」■選手自身が「何が必要か」に気づくことが一番の早道国士舘に来てからの本田先生は「生徒たちにより高い経験をさせてやりたい」とモチベーションを高めています。同時に「どうすれば全国大会出場へ導けるか」というテーマを真剣に模索し始めました。その一歩として、目標達成への道筋をより明確にさせるところから取り組もうとしています。「選手たちが全国に出るまでの段取りを探っていく中で『何が必要か』を自ら気づいてくれるのが一番の早道なんです。人によってはボールコントロール力やドリブル技術、シュートのスキルを磨かなければいけないという人間もいるでしょうし、走力やパワーが足りないと感じる人間もいるでしょう。個人レベルでもチームでもできることは沢山ある。そこに気づいて行動するように、指導者が仕向けていかないといけないと思います。子どもたちの『全国大会出場』への気持ちは同じでも、重さが100gから1kgになれば取り組み方は全然違ってくる。そうやって情熱をかきたてることが大事なんです。長年、子どもたちを教えてきた私が『全国はそんなに遠い目標じゃないんだ』と言えば『そうかな』と感じる生徒がいるかもしれない。そんな期待を持って、最初に話したように笑顔でグランドに入ることを心掛けたり、言い回しを工夫したりとトライを続けているところです」■高校サッカー部員の休校中の過ごし方、多かったのは......現在も連日感染のニュースが流れていますが、本田先生の新たなチャレンジが始まって約2か月が経過した今年2月末。新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化し、安倍晋三首相が全国一斉休校を要請しました。私立の国士舘も部活動休止に踏み切りました。練習は3月19日にいったん再開され、3月末までは2日に1度ペースで継続できていましたが、東京都から外出自粛要請が出た4月頭から再び活動を停止。少なくとも4月いっぱいまでは全員が自宅待機することになったのです。もともと「日本サッカー界もオフシーズンを設定すべき」と主張し、定期的な休みを取ることに前向きな本田先生にとっても、これは予期せぬ出来事。45年超の高校サッカー指導者人生の中でも初めてのアクシデントだと言っていいでしょう。そんな時だからこそ「選手のことをより知りたい」という思いが強まり、休部期間に彼らがどんな過ごし方をしていたかを調査してみたといいます。「2月末から3月19日までの約3週間に何をしていたかを尋ねたところ、1日の生活は睡眠が約8時間、食事は家族のいずれかととっている選手が多かったですね。ただ、勉強はほとんどしておらず、読書をしたと答えた者も皆無に近かった。スマホでSNSなどで流れてくるニュースを見る子もいましたけど、それを含めてもニュース記事などに目を通していたのは1日1時間以内。活字に触れる時間が極端に減っているなと考えさせられました。外出は1日5時間以内。外で走っていた者、ボールを触っていた選手、買い物に行った選手などさまざまでしたが、それ以外は外出自粛を意識して自宅にいたようです。その多くの時間を(ニュースチェック以外の)スマホ利用と向き合っていたというのはやはりもったいないと感じました。生徒の行動調査をしたのは私自身も初めてでしたが、練習がストップし、時間が空いたことで見えるものもありました。彼らの行動をしっかりと把握したうえで、再開後の部活動に役立てたいと思っています」こうやって目の前の事態を冷静に受け止め、臨機応変な対応を取り、先の段取りを考えていくのが本田先生流のやり方です。何度も全国制覇を達成し、数多くのプロ選手を輩出してきたベテランの発想力や行動力はやはり特筆すべき点でしょう。そこは多くの指導者に見習ってほしいところです。<<連載一覧:ベテランの金言「言わずに死ねるか」-今だからこそ、若い指導者・保護者に伝えたい-本田裕一郎(ほんだ・ゆういちろう)1947年5月1日、静岡県生まれ。順天堂大卒業後、千葉県市原市教育委員会を経て、75年に千葉県立市原緑高校サッカー部監督に就任し佐々木雅尚、宮澤ミシェル、石井正忠らを指導。その後86年に習志野高に転勤し福田健二、広山望、玉田圭司らを指導し、95年のインターハイで初の日本一に。2001年より流通経済大柏高に赴任し、2007年の全日本ユースを皮切りに5度の全国制覇を成し遂げた。2020年4月より国士舘高サッカー部のスーパーバイザーに就任。指導者としてだけでなく高円宮杯U-18サッカーリーグの前身である関東スーパーリーグの立ち上げなど高校サッカーの発展に大きくかかわっている。
2020年07月14日今年の夏休みは新型コロナウィルスの影響で短縮傾向と言われてます。短い休みだからこそ、より充実した時間にしませんか?一般的なサッカーキャンプでは技術の向上がメインですが、サカイクキャンプではサッカーの練習だけでなく、子どもたちが成長する際に身に付けたい「ライススキル」をプログラムに導入しています。なかなかチャレンジができなかった子が積極的になって帰ってきたと、親御さんからも好評です。キャンプでチャレンジを促すためにどのような工夫をしているか、サカイクキャンプの菊池健太コーチにお話を伺いました。(取材・文:前田陽子)クーラーボックスに氷を常備、いつでも適温の水分補給ができるよう準備しています<<【熱中症対策】子どもたちを守るためサカイクキャンプが実施する万全の対策-オンザピッチ編-■キャンプに参加すること自体が、子どもたちにとってはチャレンジサカイクキャンプは、初心者でもサッカーを始めて何年か経つ子でも誰でも参加できます。年齢を対象に分かれているので参加してくれる子どもたちのレベルは様々です。保護者の方にキャンプ参加の動機についてうかがうと「消極的でチャレンジができないので、キャンプを通してチャレンジすることを身につけてほしい」という声が多くあります。「キャンプは親元を離れて、まだ知らない友達やコーチ、初めての場所で生活するという大人でも大変なことだと思います。そこに参加してくれるということ自体、子どもたちにとってはチャレンジだと思います」と菊池コーチ。キャンプでは子どもたちの経験値などを見て、キャンプに慣れている子と初めての子にはそれぞれに合ったチャレンジを提案できるようにしているのだそうです。トレーニングでは、個々のキラリと光る部分を見つけてその部分を評価。自分のしたことを認められると、子どもたちはもっとチャレンジしようと頑張ります。最初の段階では得意なプレーを見せてもらい、「こういうこともするといいよね」と提案をしてその子の苦手なことでも取り組めるように促しています。■ミスした経験の少なさが、チャレンジの邪魔をする最近は、やる前から「絶対ムリ」「下手だから出来ない」とチャレンジする前からあきらめてしまう子もたくさんいるという声も聞きます。そうなってしまう要因のひとつは、ミスした経験の少なさです。親が先回りしすぎてミスした経験が少ないので、失敗に対する免疫がなく「どうしよう、どうしよう」という考えが頭の中に先行する子がたくさん見られるのです。チャレンジしてほしいと考えている親が、先回りして子どもがチャレンジする機会を奪っているのはとても残念なことですよね。また、サッカーの現場では指導者が指導をしすぎる点があるようだとコーチは言います。キャンプで練習していると、プレーが終わるたびにコーチの顔を見る子がよくいるのだとか。「指導者はミスを正してあげよう、欠点を補ってあげようとしているんだと思うんです。けれどそれではどうしても子どもたちは窮屈ですし、コーチは次に何を言うんだろうと顔色を見てしまいます。僕たちサカイクキャンプのコーチたちは常に笑顔を見せ、どんなプレーであっても『やるじゃん』という気持ちで子どもたちを見ています。いいタイミングでシュートを打っても入らないことはたくさんあります。シュートを外そうと思って打っている子はいないので、『いいシュートだったね。でもこうするといいよ』とひとつヒントを与えます。そのとき具体的にこうしろとは言いません。そうすると自分で考えて次にいいプレーをしてくれます。そんな声かけからチャレンジが出てくるかなと思います」と菊池コーチは言います。■サッカーはミスが多いスポーツ。キャンプではミスしてもいい雰囲気を意識サカイクキャンプでは最初にサッカーはミスが多いスポーツだということを子どもたちに伝えるのだとコーチは教えてくれました。先述したように、普段の生活の中で失敗経験の少ない現代の子どもたちは、チャレンジしようとすると「失敗したらどうしよう」という気持ちが先に立ってしまいます。コーチたちもその気持ちは理解しているので、キャンプでは「ミスしていいよ」という雰囲気を作るようにしているのだそうです。指導者はどうしても、パスが通らなかった、シュートが入らなかったという結果に着目してしまいますが、サカイクキャンプでは結果だけでなく過程も見ているといいます。「たとえシュートが決まらなくても、その子なりのちょっとしたチャレンジに良かったよと、Goodサインを出してあげるととてもいい笑顔を見せてくれます。そうやって過程を認めてあげることを続けていると自己肯定感が高まり、キャンプ2日目、3日目になると、僕らもびっくりするくらいいいプレーをしてくれるんです」と菊池コーチ。菊池コーチは、子どもたちのサッカーは上手い下手ではなく、経験が多いか少ないかだと考えているそう。「どうせ下手だから出来ない」ではなく、いろいろなことをやってみる。経験が積み重なってサッカーは上手くなっていきます。リフティングの出来る回数が3回から5回になった。そいういう経験をしてほしい。ボールを取られたら、取り返せばいい、シュートを外したら次に入れればいい。サッカーとはそういうスポーツだとコーチは語ります。■キャンプの主役は子どもたち。短期間でも必ず成長して帰りますご自身もサッカー少年の親でもある菊池コーチ。親の視点でもサカイクキャンプの魅力を語ってもらいました。「サカイクキャンプの主役は子どもたちです。子どもたちのことは、様々な面をしっかり見ていますが、大人が必要以上に手を出すことはしません。道具の忘れ物などちょっとした失敗が予想できる場合も先回りはせず、こういう失敗もするだろうなと見守っています。そうやって失敗してみて気づくことがあったり、次回から注意しようと意識するようになるので」と、子どもたちが失敗できる環境を用意しているのも成長を促すきっかけになっているといいます。もちろん、大きな失敗にはならないように、これ以上は危険だなという時には声をかけています。例えば水筒を忘れてずっと飲料がないのは危険なので、練習に入る前に声かけをします。その時も「水筒忘れているだろう?」とは言わずに、「何か心配なことない?」と気づきを促します。そして一緒に取りに行きながら、こんな会話をするそうです。「荷物の準備はいつも誰がしているの?」「お母さん」「そうか、今回は自分で準することができたね。いい経験になったね」水筒を忘れたことをダメなことにせず、サッカーの準備を自分ですることを意識するような会話にしているのだそう。そういう経験を経て、人間的にも成長できるといろいろなことにチャレンジできる。自己肯定感を高めてあげることも必要だと思っているとコーチは教えてくれました。サカイクキャンプでは熱中症だけでなく新型コロナウイルス感染予防の対策を徹底して行っています。キャンプは数日ですが来れば、間違いなく何かきっかけをつかんでもらえるはずです。子どもたちにとってキャンプに参加してくれることが大きなチャレンジ。親御さんにも子どもをキャンプに行かせるというチャレンジをぜひしてください。帰ってきた子どもはキラキラしているはずです。<<【熱中症対策】子どもたちを守るためサカイクキャンプが実施する万全の対策-オンザピッチ編-
2020年07月13日「お前が何でJ下部行けたんだ」「お前いらなくない?」。小学生時代にJクラブの育成組織に所属していたけど上に上がれず、セレクションを受けて入ったチームでチームメイトから誹謗中傷を受けている。中学生だから親がでしゃばるのもどうかと思うけど、相談させてほしい。とご連絡をいただきました。チームメイトからのいじめは、小学生年代でも心配な親御さんも多いことでしょう。今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、取材で得た知見をもとに、子どもを守るための3つのアドバイスを授けますので参考にしてください。(文:島沢優子)(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<試合が多いため毎週の遠征費が家計を圧迫。移籍させたい問題<サッカーママからのご相談>はじめまして。どうしようもなく悩みご相談いたします。息子は中学一年生でサッカークラブチームに所属しています。小学校の頃は某Jクラブの育成組織に所属していましたが、進級できず。セレクションを受け今のチームに所属しているのですが、体格もなく足の速さも遅い方で現チームでいじめ(誹謗中傷)に合っているようなのです。「お前が何でJ下部行けたんだ」とか「足遅いんだよ(笑)」「お前いらなくない?」など。はじめは頑張って自習練したりしていましたが、最近は暴言が酷くなってきたようで、「サッカーをやめたい、つまらない」と夜な夜な枕を濡らしこらえています。それでも最後には「やる」とは言いますが、明るかった笑顔は消え暗い表情の息子を見てるのもつらいです。厳しいスポーツの世界だからコーチに相談するのも気が引けます。中学生なので親がでしゃばるのもどうかという気もあって。こんなとき見守ることしかできないのでしょうか。<島沢さんのアドバイス>ご相談のメールをいただき、ありがとうございます。中学生男子が泣いてしまうのですから、おそらくチームメイトからの暴言はひどいのだろうと察します。そばで見ているお母さんも辛いですね。とはいえメールだけで詳しいことはわからないので、あくまで推測の上でのお話であることを前提にお聞きください。■「いじめに負けるな、強くなれ」と命じるのではなく、「あなたは何も悪くない」と伝えてメール文によると、息子さんはJクラブの育成組織出身者。それゆえに、そうではない中学生たちから少しばかり疎まれている。つまり、彼らにとってジェラシーの対象になっていることがよくわかります。息子さんが落ち込むのを見て、彼ら「非J育成組織組」は溜飲を下げるわけです。とてもばかばかしいし、スポーツマンシップに欠ける行為です。いいですか?悪いのは、完全にそのチームメイトたちです。それなのに、親御さんの中には間違った行動をとる方もいらっしゃいます。「厳しい世界なんだから耐えなきゃだめだ」「おまえのほうが強くならなきゃ」「言われるほうも問題がある」「逃げたら負けだ」いかがでしょうか?こういったアドバイスは、「いじめられている側の問題」にしてしまっています。息子さんは何も悪くない。悪いのは誹謗中傷するチームメイト。ここを絶対にはき違えないこと。これが私からのひとつめのアドバイスです。これがとても重要です。それを誤って、「まだ中学生だから、そういうやつもいるよね」とか「試練だと思って乗り越えろ」などと軽い気持ちで言わないこと。思ってもいけません。もし、少しでもそう考えていたのなら、考え方を変えてください。今の子どもたちは、自分を否定してくる言葉をストレートに受け止めがちです。「ああ言ってるけど、軽い気持ちで言ってる」「暴言だけど、ただの嫉妬だ」そんなふうに逃がすのが苦手です。苦手なことを「うまくやれ」と命じるのではなく、「あなたは何も悪くない」ときちんと伝えください。例えば、お父さんや、ほかの兄弟姉妹。祖父母など、ほかの家族でそのような対応をされる方がいたら、息子さんの目の前でお母さんがそれをバッサリ否定してあげましょう。そうせずに、息子さんに「お父さんはこう言ってるけど......」などと、陰で言うような状況はダメです。夫に遠慮してはいけません。■子どもをポートする上で大事なのは「言う」より「聴く」そして、二つめ。親御さんがサポートするうえで大事なことは、息子さんの話に耳を傾け続けることです。お母さん自身もお仕事があったり、他にも兄弟姉妹がいてお忙しいかもしれませんが、彼が落ち着くまでは毎日でも話を聴いてあげてください。子どもがいじめられたり、その身の上に何か困ったことが生じたとき、親御さんがそこにかかわって解決しようとする傾向があります。いわゆる「転ばぬ先の杖」ですね。以前も、この連載で「杖を用意してしまうと、自分の足で難題を乗り越える脚力がつきませんよ」と伝えているように、親が出しゃばってしまうと課題解決する力を育む機会をつぶすことになります。したがって、まずは本人の話を聴いて、その辛さに一緒に向き合ってください。「それはひどいね!ママなら、我慢できないかも」とか「許せないね」と息子さんのぶんまで怒ってあげてもいい。とにかく、本人の話を聴き続けましょう。小学生に同様の問題が起きたり、いじめ以外でも子どもが悩みを抱えたときも、いつも同じアドバイスをしています。「言わなきゃ!より、聴かなきゃ!と考えていください」と。お母さんも「コーチに相談するのも気が引けます」「中学生なので親がでしゃばるのもどうかという気もあって」と躊躇されていますね。ただ、毎日「今日はどうだった?」というわざとらしい聴き方はいけません。「サッカー、楽しかった?」「いつでも話聞くからね」「お母さんたちは君の味方だよ。楽しくサッカーしてほしいと思ってるよ」そういったことを伝えながら、聴く耳を持っているということをアピールしましょう。■逃げることは恥ではない。子ども自身が見出す「次の一手」を尊重しようそして、三つめ。どこかのタイミングで「じゃあ、どうする?」と解決方法を尋ねてみてください。もう中学生なので「いろいろ言うのはやめてほしいと勇気を出して言う」とか、「コーチに相談してみる」「他の自分を悪く言わない仲間に相談する」もしくは、「とにかく無視する」など、さまざま出てくるかと思います。そうならず「わかんないよ」と沈んでいるようなら、「少しお休みしてみる?」とクラブと距離を置くことを提案してもいいかと思います。逃げることは恥ではありません。逆に「悪い仲間や環境からは逃げていいのだ」ということを伝えてください。自分から「もうこのクラブを辞めたい」と言うかもしれません。もしくは、「もう少しやってみる」かもしれません。そうやって、どんな答えが出たとしても、それを否定しないでください。すべての答えを「そうか、じゃあ、そうしてみるといいよ。自分で考えたようにやってみるといいよ」と受容してあげてください。もし、それがお母さんの望む答えでなかったとしても、尊重してあげましょう。息子さんがこの、毎晩枕を濡らすような苦しみの中で見出した「次の一手」なのです。そこをまず認めてあげてください。■あまりに追いつめられると......(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)いじめられているときは、子どもも、大人も、著しく自己肯定感が落ちています。「自分はここでサッカーをしていいのか」「自分はこのクラブにいていいのか」あまりに思い詰めると「自分は生きていていいのか」になります。スポーツは何のためにするのか。ぜひそんなことを家族で話し、価値観を共有しながら道を探っていってください。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てるテニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。最新刊は『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)。
2020年07月10日新型コロナウイルスの感染減少にともない、社会活動が徐々に再開し始めました。しかし都道府県によって現状は異なり、同じ県でもクラブの状況によっては、サッカーの活動範囲が限定的なところもあります。早期に感染拡大が起きた、北海道札幌市にある『札幌中央FC』の明真希(あきらまさき)監督は、活動停止期間を経て子どもたちにポジティブな変化が現れたといいます。その変化とはどんなものか伺いました。(取材・文:鈴木智之写真提供:札幌中央FC)札幌市の繁華街が近いこともあり、活動再開も慎重にならざるを得なかった■あえてオンラインツールを活用しなかった理由北海道での新型コロナウイルスの感染拡大は早く、2月下旬には感染者数が東京よりも多くいました。独自に緊急事態宣言を出すことで活動自粛を進め、感染者数を抑え込んできましたが、その後「第2波」が押し寄せるなど、厳しい状況が続いていました。第2波襲来以降、活動が段階的に解除できたのが5月30日。札幌市では学校の分散登校が6月1日から始まり、少しずつ日常を取り戻し始めました。学校再開にともない、道内のサッカー少年団の活動も復活したところがあります。札幌中央FCが活動する札幌市中央区は「すすきの」という繁華街が近くにある、札幌の中心です。東京の新宿歌舞伎町のようなものといえば、イメージしやすいかもしれません。地域性や場所の問題が重なり、学校側もチームの活動再開に対し、慎重にならざるを得ませんでした。学校再開後もグラウンドは使えないままで、体育館も『密』を避けるため一部の学年の教室となり、使うことができません。結果的に、子どもたちの活動場所は失われてしまいました。イレギュラーな事態に直面した、札幌中央FC。緊急事態宣言が出され、活動ができない中、色々なチームの取り組みを目にする機会がありましたが、明監督は「ある疑問を感じました」と言います。それが、オンラインの活用の仕方です。自粛期間中にZOOMなどオンラインツールを活用し、コーチと子どもたちとの間でコミュニケーションをとるチームも多くありましたが、札幌中央FCはあえてしませんでした。その理由を、明監督は次のように話します。「中高生であれば、個人の携帯やパソコンを使って、オンラインでコミュニケーションをとることも可能かもしれません。でも小学生は、保護者のスマホを借りて行うケースが大半です。そうなると昼間に働きに出ている保護者が多いので、日中はできず、夜になります。保護者が求めているのは休校時間の有効活用だと思ったので、あえてオンラインツールを活用するには至りませんでした」一方で毎週、保護者にメールを送り、活動中止の連絡を入れるとともに、子どもたちには「監督もみんなとサッカーがしたいけど、ここは我慢しよう」「学校がある時と同じ時間に起きて、課題をやろう」などのメッセージを送っていたそうです。さらには指導者、選手、卒業生を含めて、リレー形式でボールをつなぐ動画を作成することで、保護者と子どもがボールを使ってコミュニケーションをとる時間を作るとともに、クラブとつながっている気持ちにさせることなど、様々な取り組みで平日を過ごし、週末の練習に全力で臨むことのできる環境を作りました。札幌中央FCの選手たちに現れた変化とは......■限られた時間しかサッカーができないことで子どもたちに現れた変化チームによって、グラウンド使用状況は様々です。札幌中央FCは、通常時は平日に学校のグラウンド、週末は天然芝のグラウンドで練習をしていました。ですが、6月に入っても学校のグラウンドは使えないので、練習は週末(土日)の2日間、各2時間だけの練習になっていました。限られた時間しかサッカーができない中で、子どもたちにどのような変化が起きたのでしょうか?明監督は目を細めて語ります。「活動が再開したばかりの1、2週目はスイッチが入っていないように見えたのですが、6月中旬からはこちらが驚くぐらい、子どもたちに変化が見られ、楽しそうにプレーしていたんですよね。子どもたちが、サッカーができる喜びから、サッカーを大切にするようになってきたんです」そう言って、次のように続けます。「うちは平日の練習がなくなり、土日だけの活動になりました。練習や紅白戦を見ていて驚いたのが、子どもたちの口から、ポジティブな声がたくさん出始めたことです。たとえば、試合で相手にプレッシャーをかけにいく場面で、寄せが遅かったり、甘かったりすると、『もっと行けよ』『なんで行かないの』などの声が、選手間で出ることもあったのですが、活動再開後はサッカーをやれるという喜びが勝ったのか、ポジティブな声掛けが出るようになりました。そんな変化が起きるんだ!と驚きましたね」さらには、相手チームの良いプレーに対しても、自然と褒める言葉が出るようになり、失点後に子どもたちが自主的に集まって、話し合いをするようになったそうです。「失点後にゴール前に自然とみんなが集まって、どうすればよかったかを話し合っていました。コロナで活動を休止する前は、見られなかった光景です。プレー面でも変化があって、以前は球際でそれほどバチバチやる感じではなかったのですが、激しさが出るようになりました。これも、サッカーができる喜びから来ていると思います。とても良い変化だと思いました」子どもたちは限られた時間でサッカーを目一杯楽しみ、「また来週ね!」と笑って帰って行くそうです。子どもたちがサッカーを大事にするようになった「サッカーをする時間が限られたことで、その時間を大切にするようになったのは、コロナ前に比べて、大きな変化だと思います。いまの子どもたちは勉強や塾、習い事でスケジュールが詰まっています。忙しさに加えて、コロナの影響で精神的にいっぱいいっぱいの子もいると思うので、サッカーは適度に力を抜いてやったほうが、結果としてよくなるのではないか。活動再開後は、そんな風に思っています」■改めて気づいた「大人の仕事」とはコロナ自粛明けに、札幌中央FCへの入部を希望する子どもたちが、13人もいたそうです。明監督は「この状況で札幌中央FCを選んでくれたのは、素直にうれしい」と笑顔を見せます。新型コロナウイルスの感染拡大が、今後どうなるかはわからない以上、予防は徹底しています。移動中は明監督が手作りしたオリジナルのマスクを着用し、手洗い、検温をまめにするなど、細心の注意を払っています。明監督が手作りしたマスク「コロナのことがあってから、あらためて、大人の仕事は子どもたちに遊ぶことができる場所、ボールを蹴る場所を提供してあげることなんだと気がつきました。今後はグラウンドの確保も含めて、場の提供に目を向けていきたいです」コロナで起きた変化を、少しでも良い方向へとつなげられるように、多くのクラブ、指導者、そして子どもたちは歩みを進めています。総勢75人に増えた札幌中央FCの挑戦は、これからも続いて行きます。
2020年07月08日気象庁によると、今年の夏は暑いという予報が出ています。ただでさえ年々暑くなるように感じる日本の夏は熱中症の危険がいっぱいです。今年は特に新型コロナウィルスの影響で外出ができない日々が続き、多くの人が暑熱順化できていないので、熱中症には特に注意が必要です。そんな中でも、せっかく参加してくれた子どもたちが思い切りサッカーができるようサカイクキャンプでは、さまざまな熱中症対策をして子どもたちが健康で楽しく過ごす事ができるように工夫しています。トレーニングの環境だけでなく、練習以外の場所で行っている安全策をご紹介しますのでぜひご確認ください。(文:前田陽子)クーラーボックスに氷を常備、いつでも適温の水分補給ができるよう準備しています<<前編:【熱中症対策】子どもたちを守るためサカイクキャンプが実施する万全の対策-オンザピッチ編-■練習の前と後に体重測定前編でもご紹介しましたが、体内の水分が不足すると、脱水症や熱中症を引き起こす原因になります。また、体内の水分が低下すると徐々に動きが鈍くなり正しい判断、動きができなくなってしまいます。そうならないためには、運動中に発汗する分の水分を摂取することが大切です。運動前後の体重を測定することで、水分補給が適切に行われているかを確認することができます。体重の3%以上の水分が失われると体温調節に影響が出るといわれているので(※)、体重の減少が2%以内に収まるように水分補給をさせています。その確認のために、子どもたちの体重を練習の前と後で測定をしています。※独立行政法人日本スポーツ振興センター学校災害防止調査研究委員会「体育活動における熱中症予防調査研究報告書」より■練習前に氷の準備を徹底する水分補給とは、水分を口に含むことではなく体内に吸収することです。口に入れた水分は胃を通過して腸で吸収され、血管に入り全身に運びます。ですから、胃から腸へ水分が速やかに移動することが重要なのです。そのためには、水分の温度管理が重要になります。運動中に摂取する水分は5℃~15℃が適温だとされています。サカイクキャンプでは、子どもたちの摂取する水分の適温をキープするために、グランドに向かう前に各自のボトルに氷を入れることを徹底しています。また、クーラーボックスに氷を常備し、いつでも適温の水分を用意できる状況にしています。■水・清涼飲料水を用意汗は99%が水分で、残りの1%にナトリウムと塩分を中心にカリウム・カルシウムなどのミネラル分が含まれます。汗をかくということは、水分だけが喪失するのではなく、ナトリウムなどもなくなっているということ。ですから炎天下での発汗の際には、水の他に電解質(イオン)などが含まれている清涼飲料水も用意しています。清涼飲料水は塩分濃度0.1~0.2%、糖分濃度3~5%が理想なので、水2リットルに対して1リットル用のパウダーを溶かし清涼飲料水を作っています。水分は一度に大量にとるのではなく、こまめに少しずつ飲むことが大事なので、練習中に自由に水分が摂取できるようにしています。■水分・エネルギーの必要量を確保熱中症を予防するためには運動中はもちろん、運動前の事前飲水が大切です。ですのでサカイクキャンプでは、グラウンドに出る30分前までに、スポーツドリンク500mlを飲むことを義務付けています。これによって、体内に水分が十分ある状態で練習をスタートできます。また、熱中症対策には栄養バランスのいい食事も必要。過不足ない量をきちんと食べ、かつ5大栄養素をバランス良く食べられるように、昨年のキャンプでは食品に栄養素がわかるシールを貼るようスタッフが促しました。このように可視化したことで子どもたちは毎回何を食べたら良いか考えながら取り組めました。バランスよく栄養素をとることも熱中症対策として大事なことです(写真は過去のサカイクキャンプ)■練習後のリカバリー練習後なるべく早い栄養補給を心がけております。また水分補給だけでなくサカイクキャンプでは「熱中症対策には食事も大切だよ」と伝えています。トレーナーやコーチたちが体重が2%以上減少した子を把握することで食事の指導、水分補給を積極的に促し、熱中症を予防します。このようにピッチの外でも熱中症予防に取り組んでいます。練習前後の体重測定をはじめとした施策を行うなど、コーチ、スタッフ全員が子どもたちの様子に目を配り、体調の変化をすぐにキャッチできるように努めているので、安心して参加ください。<<前編:【熱中症対策】子どもたちを守るためサカイクキャンプが実施する万全の対策-オンザピッチ編-
2020年07月07日スカウトの人って選手のどこを見ているの?身体が大きくて速いと有利なんでしょう?など、スカウトの人が何を見て判断するのか気になる親御さんも多いのでは。今回は、世界最高峰のリーグ、イングランドプレミアリーグのトッテナム・ホットスパーFCやイングランドサッカー協会でスカウト部門のトップとして育成年代の発掘に関わってきたベテランスカウト、リチャード・アレン氏に「U-13世代をスカウトする時に見るポイント」を伺いました。(取材・文・写真:末弘健太)技術以外にスカウトが見ているのは......(写真は少年サッカーのイメージ)■「成長速度の違い」も見ている――U‐13世代をスカウティングする際に何を見ますか?スカウティングといってもファンデーション・フェーズ(5~11歳)とU‐13では少し見るものが変わってきます。U‐12、U‐13からは少しずつ、その選手が攻撃的な選手なのか守備的な選手なのかわかってきます。最終的にどこのポジションがその選手にとってベストかはその時点ではわかりませんが、どこが強みでどこが改善点なのかわかってきます。ただし、この年代の選手を見る上で気を付けなければいけないことは、選手それぞれで成長の速度が違うということです。思春期が訪れる頃に、身体的な機能は一気に発達していきます。12、13歳の選手でも15、16歳に見える選手もいますし、9歳くらいにしか見えない選手もいます。これによってもちろん身体能力に差が出てきてしまいます。なので、その場のパフォーマンスの出来で評価するのではなく、選手のポテンシャルを見てあげることが大切です。チームの中で非常に速くて強い選手がいたとしても、もしかしたらそれは彼がチーム内で月齢が一番高いだけかもしれません。この年代の選手をスカウティングをする上で、この点は必ず気を付けなければいけない点です。――では、その一時のパフォーマンスの良し悪しよりも、ポテンシャルを秘めていることの方が大切ということですよね?そうですね。私はその選手のプレーの意図を見るようにしています。例えばある選手がパスを出したとします。その判断は良いものでしたが、身体能力的にパスが通らないことがあるかと思います。30mのパスを出したかったとしても、15mもしくは20mにしか届かなかったということです。そのような時、指導者の方は選手にしっかりと自信を持たせてあげることが必要ですね。パスは届かなかったけど、プレーの意図は良かったと。たとえその場面でのプレーがうまくいかなくても、その選手が正しいプレーをしようとしていれば、私はそれを評価します。■技術面だけではない、スカウトが見る「ポテンシャル」の内容――ポテンシャルがある選手というのはどのように見分けていますか?良い意図のあるプレーをしている選手がポテンシャルがある選手ということでしょうか?もちろん良い意図のあるプレーをすることは大切ですが、最終的には全ての要素が揃わなければ良い選手とは言えません。技術的な能力が高いことも大切です。ゴールデンエイジと言われる時期には技術的な能力が一気に向上します。そしてそれは11vs11の中でゲームの理解度を向上させなければいけない年代になっても伸び続けます。ただし、最終的には技術的の能力に加え、ゲーム理解度と身体能力がうまく相互的に作用してプレーすることになります。そしてそれが自動的に(自然と)できないといけません。あなたが技術的に素晴らしいとしても、身体の成長が追い付いていなくてうまくプレーできないということもありますし、反対にとてもうまくプレーできても、それは身体の成長が周りの選手より早いからということもあり得ます。もちろん、そういう選手は技術的にも優れていて、身体能力も高いという可能性もありますが。この辺りの判断は難しく、スカウトの人間も時々見落とすことがあります。プロの世界では19、20、21歳で素晴らしいプレーをする選手がいますが、彼らが必ずしもU‐13の時に素晴らしい選手だったとは限りません。だから今チームの中でベストイレブンに入っていなくても、将来的にベストイレブンに入ってくる可能性は大いにあります。多くのことは変わっていくのです。――あなたはプレミアリーグ・トッテナム・ホットスパーなどのプロクラブで指導者としての長いご経験がありますが、U‐13の選手をスカウトをする上で大切にしていることはありますか?上記の通り、やはりまずはポテンシャルがあるかどうか、成長の余地があるかどうかが大きなポイントとなります。クラブが求める能力まで伸びる可能性があるのか。スカウトによっては、身体能力などの特徴がある選手を見る人もいます。例えば、思春期に入る前でもずば抜けて素早い選手がいるとして、おそらくその選手は思春期後もずば抜けて素早いのは変わらないだろうと思います。私個人的には技術的な能力を重要視します。もちろん現時点で技術的にパーフェクトである必要はなく、技術的に伸びる要素があることが大切です。私はとにかく1に技術2に技術3に技術です。もちろん最終的にはゲーム理解度や戦術理解度も高める必要があり、身体的な特徴も少なくとも1つ2つは最低ないとプロの世界では戦っていけませんが。あと、この年代を見るうえで大事にしていることといえば、人/選手としての言動や人間性です。社会性や精神的な部分ですね。選手はU‐13の時期でもこのような能力を培います。もちろんこの時点で精神的に成熟しきっている必要はありません。ただし、良いメンタリティを持っているとスカウトに感じさせることは大切です。「もっとうまくなりたい」「もっと学びたい」というような強い気持ちをもち、集中して一生懸命練習している選手は、やはり目にとまります。もちろんまだ若く発展途上なので、先ほど話したようにU‐13時点でパーフェクトである必要はなく、例えば感情のコントロールをうまくできない選手もよくいます。でもこれは技術的な要素と同じで、例えばヘディングの技術がそこまで高くない選手がいます。でもそれは、ヘディングの方法を教わってしっかり練習すれば改善されるのと同様に、精神的な部分も経験を積めば成長していきます。とても強いウィニング・メンタリティを持っている選手で、時に感情のコントロールをうまくできずレッドカードを貰って退場することがあります。イングランドの選手ではベッカムだってW杯で退場したし、ルーニーだって退場しました。多くの選手がやってしまいます。でも彼らが成長するにつれて、その課題に対して上手く向き合えるようになりました。■クラブごとに「良い選手」は異なる各クラブにクラブ哲学があるかと思いますが、それはスカウトする際に影響を与えますか?全てのクラブにクラブ哲学があるかと思います。スカウトをする上で、クラブのニーズと選手のクオリティをマッチングさせることは非常に重要です。あるクラブは1on1に強く、ボールをうまく扱える選手を好むとします。ファーストタッチの質、オンザボール、オフザボールでの色々な動き方ができるという技術的な要素ですね。反対に、あるクラブはとにかく身体能力が大切だと考えていて、たくさん走れてロングボールをバシバシ蹴れる能力などにフォーカスしていて、技術的な側面はあまり必要ないと感じています。このようなクラブ哲学を基に、クラブがどのような選手を求めているか明確にすることはスカウトをする上で非常に重要です。どのクラブも同じようなタイプの選手を探しているわけではありません。ロンドンの中でも、トットナムが求めている選手はチェルシーが求めている選手とは異なります。どのクラブも良い選手を探していることには間違いありませんが、その「良い選手」のニュアンスがそれぞれによって異なり、チェルシー、ウェストハム、フルハム、アーセナル、トットナムが求めている選手というのは全て異なります。リチャード氏の言うように、クラブの哲学、その時志向するスタイルなどによって「良い選手」が異なるのです。セレクションなどを受けて合格できなかったとしても、それは良い選手ではなかったからではないのです。そのクラブがその時求める条件に合ってなかっただけなので、結果に一喜一憂せず技術やメンタルを磨くことで選手として成長することができるということを心に刻んでお子さんをサポートしてあげてください。後編では、子どもの夢をサポートするために親はどうすればいいかをお送りします。Ricard Allen(リチャード・アレン)トッテナム・ホットスパーで6年間アカデミーのスカウティング部門の最高責任者を任され、ヨーロッパサッカー協会連合 (UEFA) やイングランドサッカー協会 (The FA) が開催するジュニアユースとユースのすべての大会で様々な国のトップクラブを視察。the FA Talent Identification in Footballコース (才能あるサッカー選手の選考) を欧州各国のプロフェッショナルクラブで開催し、スカウティングについての講義も開催。現在はラフバラ大学サッカー部門 ダイレクターを務めている。
2020年07月06日学校が再開され、スポーツのチーム活動も再始動しているかと思います。3か月近い自粛期間を経て、サッカーを再開するにあたって気をつけるべきこととは何でしょうか?日本サッカー協会のスポーツ医学委員でJクラブのドクターも務める大塚一寛先生(上尾総合病院スポーツ医学センター長)のインタビュー後編では、例年以上に気をつけたい「熱中症」について、話をうかがいます。(取材・文:鈴木智之)休んだ分を取り戻そうと負荷の高いトレーニングを長時間行うのは禁物(写真は少年サッカーのイメージ)<<前編:休校明け、チーム練習再開で気をつけたいケガのリスク、適切な練習負荷とは■外気が30℃の場合、マスクの下は42℃にも。マスク熱中症に注意日に日に気温の上昇が見られます。このときに気をつけたいのが熱中症。とくに、気温や湿度が急激に変化する時期は、連日猛暑が続く時以上に注意が必要なようです。「今年は自粛の影響で家の中にいる時間が長くなり、外気に触れる機会が少なかったお子さんも多いと思います。急に暑くなったり、気温が下がるときはとくに注意してください。たとえば18℃の日が4日続き、気温が突然28℃になったときに、前日と同じ強度のトレーニングをすると、熱中症になるリスクが高まります。それほど、急激な気温の変化には、気をつけなくてはいけないのです」真夏の30度越えが連日続くとき以上に、涼しい日から一転して真夏日になるようなときは、気温や湿度の急激な変化に身体が対応できず、熱中症になりやすいそうです。昨今、新型コロナウイルスの影響で授業中のマスクが必須になっていますが、スポーツ庁からは「体育の授業はマスク不要」と全国の教育委員会に連絡されています。大塚先生もまた「運動中のマスクは危険なので外しましょう」と呼びかけます。「マスクをつけて運動をすると、外気が30℃の場合、マスクの下は42℃ほどになります。いわゆる"マスク熱中症"になる危険性があります。とくに、子どもたちは昼間に練習することが多いので、指導者は正しい知識を頭に入れておいてください」とくに気をつけたいのが、試合中、ベンチに座っている子どもたちです。「マスクをしたままベンチに座っている子は、炎天下の中でじっとしているので体温が上がり、マスクの中も高温になります。中国でN95マスクをつけて運動した中学生が死亡した例がありますが、気密性が高いマスクをして運動をするのは極めて危険ですので、絶対にしないようにしましょう。サッカーのプレー中にマスクをするのは、現実的ではありません」熱中症だけでなく、ウイルス対策もしなければいけないので、今年の夏は気をつけるべきことがたくさんあります。飲水にも注意が必要です。いままでのように、スクイーズボトルを使って回し飲みをすることは、ウイルス対策の観点からは避けなくてはいけません。「ウイルス対策の観点からすると、試合中に誰が口をつけたかわからないボトルを飲むわけにはいかないので、飲水タイムを設けて、各自のボトルから飲むようにすることも検討するべきでしょう」■成長期だと自粛前と後で身体やボールフィーリングが変わっている子も学校やスポーツ活動も再開していますが、急に3か月前と同じ強度のトレーニング、試合をするのは避けたほうが良さそうです。「子どもの場合、基礎的なトレーニングから、試合と同じ強度のトレーニングに移行するのに、6週間ほどかかります。そこから逆算して、試合は何日から開催すると決めた方がいいでしょう。とくに子どもの場合は、慎重に段階を経て強度を上げていくこと。急に強度の高い練習を長時間すると、外傷リスクは確実に上がります」活動自粛によって失われた時間を焦って取り戻そうとすると、ケガのリスクが上がります。結果として、長期間サッカーができなくなることになるので、自粛明けの指導者には、トレーニングの時間や強度をコントロールすることが、いつも以上に求められそうです。「トレーニングをしていない期間が8週間ある場合、もとに戻るのに8週間かかります。それを2、3週間で戻そうとすると、大幅にギャップがあるので、ケガをするのは当たり前です。すぐに戻そうとせず、時間をかけて戻さなければいけません。とくに小学生年代は身長が急激に伸びる時期なので、自粛前と自粛開けとでは身体のサイズ等の状態が違います。それなのに、2ヶ月前の感覚でやろうとすると代償が起こったり、整合性がとれなくなります」長い休みによって、身長が急激に伸びる子もいます。自粛前と後では、身体やボールフィーリングの感覚が違うことは、頭に入れておいた方が良さそうです。「極端な例ですが、フィギュアスケートの選手が、14歳のときにトリプルアクセルが跳べたのに、20歳になると同じように跳べなくなることがあります。それと似たようなことが、長期休暇明けの子どもたちの身体に起こる可能性があるので、とくに注意深く見ることが必要だと思います」■今年ならではの、子どもに腰痛が出やすい理由さらに、こう続けます。「コロナの自粛時期はストレスが溜まっていた子が多いので、腰痛になる子が通常よりも出やすいと言えます。家の中でゲームばかりしていると背中が丸まり、体幹(※胴回りのこと)も弱くなります。"コロナ巣ごもり"のあとは、筋力の衰えとストレスや悪い姿勢から来る腰痛に気をつけてほしいと思います」ウイルス対策と熱中症予防に加え、長期休暇開けの子どもたちに、どの程度のトレーニング量、強度で行うのかは、指導者の腕の見せ所です。夏はすぐそこに来ています。大人も子どもも例年以上に注意深く行動し、先の見えない時期を乗り越えましょう!<<前編:休校明け、チーム練習再開で気をつけたいケガのリスク、適切な練習負荷とは大塚一寛(おおつか・かずひろ)医師、上尾中央総合病院整形外科・スポーツ医学センター長。1999年からJクラブのドクターとしてチームとともに帯同を続けている。そのほか、『日本サッカー協会スポーツ医学委員』や、『Jリーグチームドクター会議部部会長』を務める。多数の講演にも出演し、現場のノウハウや選手のケガ、障害予防などの啓発活動も積極的に行っている。上尾中央総合病院・スポーツ医学センター日本サッカー協会スポーツ医学医員
2020年07月03日新チームに加入したとき、チームを離れたキャンプ、セレクションのときなど「はじめまして」の相手が多いときに「自分はなにができるのか」「どんな選手なのか」をチームメイトや監督に知ってもらうのは、とても大切なことです。それは自分の力を存分に発揮することにもつながります。ですが、小学生年代だと、知り合ったばかりの子に自分を知ってもらうためにどうすればいいか意外とわからないものですよね。前編では、アジアを中心に4カ国でプレーした経験を持つ渡邉卓矢選手に「初めての相手とサッカーをするときのコツ」を伺いました。後編では初めての相手、入団したばかりなどでも「自分の得意なプレーをする方法」について聞きました。(取材・文:鈴木智之)セレクションやトライアルで自分の力を発揮するためには、仲間の特徴を早くつかむことも大事<<前編:海外リーガーが伝授する、セレクション、チームの中で自分のプレーを出すために必要なスキル■点を取ることから逆算して動くこれまでのサッカー人生で、数え切れないほどセレクションやトライアルを受けてきた渡邉選手。トライアルのときは「どのポジションでプレーしても、点を取ることだけを考えている」そうです。「僕はサイドバックでプレーすることもありますが、どのポジションで起用されても点を取ることを意識しています。トライアルの試合であれば、PKもCKもFKも全部蹴りに行きます。他の選手が『俺が蹴る』と言うこともあるのですが、『わかった。俺は左利きだから、ボールの横に立ってフェイントをかけるよ』と言って、先に蹴ってしまうんです(笑)。そのときは相手に『なにやってんだ!』と言われますが、そこで『ごめん。次は譲るよ』と謝れば、たいていは許してくれます」常に得点チャンスをうかがい、貪欲にゴールを狙う渡邉選手。タイでトライアルを受けた時は、「点を取らないと評価されない」と感じ、点を取ることから逆算して動いていたそうです。「ゴール前のエリアでボールを受けると点に繋がりやすいので、そこに走り込むために、どう動けばいいかを常に考えてプレーしていました。ペナルティエリアの手前で、一度ボールを受けて味方にパスをして、ゴール前に入っていくといったように、シュートを打てるエリアに飛び込む回数を増やそうと心がけてプレーしたところ、2ゴール、2アシストの結果を残せたことがありました」試合中に何度もアップダウンを繰り返すなど、豊富な運動量が持ち味の渡邉選手。ゴール前に駆け上がるスプリントは武器のひとつであり、試合で発揮するための努力は惜しまないそうです。「技術はすぐにうまくはなりませんが、スプリントはトレーニングをすればするほど、走れるようになります。1試合に1、2回スプリントしてボールが来なくても、10回、15回と増やすことができれば、そのうちの1回が得点につながるかもしれません」■チームのために動くことが自分の長所を存分に出すことにつながるスプリントを得点につなげるためにポイントになるのが、味方からパスを呼び込むこと。とくにセレクションや急造チームなどでは、呼吸を合わせるのは難しいもの。渡邉選手は「だからこそ、味方の特徴を早く知ることが大事」と言葉に力を込めます。「僕がトライアルやセレクションのときに心がけているのが、うまい選手の特徴を見極めて、共存することです。たとえば、中盤にボールを持ててパスも出せてという、司令塔タイプの選手がいた場合、その選手と同じように自分がボールを持つのは難しいですよね。やりたいプレーが重なるので、プレーが合わなくなってしまいます」たしかに、互いに自分の得意なプレーをしようとすることで連携がとれず、結果としてチームに悪影響を及ぼしてしまうかもしれません。そうなると、個人の評価は下がってしまいます。「上手な選手をライバル視するのではなく、その選手に合わせることを心がけています。パスが上手な選手がいて『この選手がキーマンだな』と思ったら、その選手から良いパスを引き出す動きをするんです。パスが得意な選手は、走っている選手がいればパスを出してくれます。これが共存です」もし、その選手がボールを奪われたら、我先にと戻って守備をするそうです。チームが円滑に流れるためのサポートを惜しまず、自分の長所をどれだけ出すことができるか。それがセレクションやトライルの場ではポイントになるようです。「サッカーで上を目指したい子どもたちは、セレクションやトライアルを受ける機会はたくさんあると思います。メンタル面で大切なのは『自分はこのプレーで勝負するんだ』という気持ちです。僕であればスプリントと運動量、プレースキック。この3つで勝負して、評価されなかったらしょうがないという気持ちでやっています」■セレクションで緊張したら......セレクションのときは緊張し、プレッシャーを感じることもあるかもしれません。ですが、渡邉選手は「必要以上にネガティブにならず、サッカーを楽しんでほしい」と笑顔を見せます。「セレクションを楽しめると良いですよね。僕も昔は緊張しましたけど、楽しいからサッカーをしているのであって、怖い顔をしてサッカーをしてもうまくいきません。体に力が入り、トラップも失敗してしまいます。いいプレーができるとき、アイデアが浮かんでくるときは、笑顔を作れていたり、リラックスした状態のときが多いです。サッカーを楽しむことがパフォーマンスアップにつながるので、無理矢理でも楽しいと思うこと。緊張していても、『サッカーは楽しい!』と繰り返し思って、その場を楽しんで全力でやれば、結果はどうであれ、得るものはあると思います」新チームでの活動やセレクションに臨むときは、ぜひ渡邉選手の言葉を思い出し、楽しんでチャレンジしてみてください。きっと、良いパフォーマンスにつながるはずです。<<前編:海外リーガーが伝授する、セレクション、チームの中で自分のプレーを出すために必要なスキル渡邉卓矢(わたなべ・たくや)プロサッカー選手千葉県出身 1988年4月11日生Estudiantes de la plata(アルゼンチン1部/レセルバ3軍相当)→JSC Niigata(日本/新潟)→Sportiva Tsukuba(日本/茨城)→HBO Tokyo(日本/東京)→CMAC UNITED(カンボジア1 部)→Goyo FC(モンゴル1部)→Selengepress(モンゴル1部)→Three Star Club(ネパール1部)→Selengepress(モンゴル1部)→Samutprakan FC(タイ4部)→Athletic 220(モンゴル1部)東南アジアを中心にプロサッカー選手として活動する傍ら、子供の頃にJリーグでプレーするサッカー選手に夢を与えてもらったように、子供たちに夢を与えたいと思い、サッカー教室の開催や孤児院への訪問、支援などの活動をしている。
2020年07月02日最近の子どもは実年齢よりマイナス4歳ぐらい幼い印象の子が増えている、それは大人に原因がある。ということを前編でお送りしました。子どもが忘れ物をしてツライ思いをしないようにと、いつまでも学校の道具やサッカーの準備を親がすべてやってあげていませんか?進学塾「VAMOS」の代表で、日本サッカー協会登録仲介人として若手プロサッカー選手の育成も手がけ、アスリートと学習教育に共通する「成長プロセス」の体系化にも取り組む富永雄輔さんは、子どもの自立には勉強でもサッカーでも普段の生活の部分がとても大事だと言います。後編では、わが子を徐々に自立させるために保護者に意識していただきたいことを伺いました。(取材・文:前田陽子)(写真は少年サッカーのイメージです)<<前編:今どきの子は実年齢マイナス4歳幼い!?自分の事を自分でできる子にするために小学生の親が心得ておくこと■親に大切なのは我慢する勇気――子どもを甘やかしてしまう原因は何だと思いますか?子どもを子ども扱いして甘やかしてしまう原因のひとつに、SNSをはじめとする情報収集ツールがあると思っています。親御さん世代の人は盛んに使っていて、そこから典型的なマニュアルを入手している方もいるようですね。今の小学生の親世代は、ちょうど厳しい教えがNGとされてきた変換期で育っているため、教育への観念が同じ世代でも大きく異なります。そういった背景から親自身が結論を持っていないので自分の指針となるマニュアルを求める方が多いように思います。結果、「まだ子どもだから」「子どもを傷つけたくないから」など自分に都合のいい意見だけを切り取って子どもに対峙するので、子どもに甘くなるのだと思います。――親世代がちょうどマニュアルがあることが当たり前な世代ですよね。どうしても指針を欲してしまいます。親がブレると子どももブレます。親が真偽不明な情報に惑わされると子どもも混乱してしまうのはわかりますよね。また、甘やかされた子は勉強でもスポーツでも中途半端になってしまいます。自立させなければいけないことに、親は早く気が付かなければいけません。失敗した経験は子どもをおのずと成長させます。ですので早いうちにたくさんトライをして、たくさんエラーを経験させましょう。例えば、子どもが考えて実践した勉強のやり方で結果が出なくてもその方法を否定してはいけません。そのまま続けるのか、勉強法を変えるのか。それは子どもがまた考えて、トライすればいいのです。勉強なら、そんな経験を受験にまだ間に合う小学5年生、中学2年生の段階でたくさん失敗することは大切だと思います。失敗している間は、親は極力口出しを控えることも大事なことです。失敗を子どもに負わせ続けることを我慢する勇気が親に必要なのです。さらに、今は結果を見る時期なのか、経過を見るべき時期なのかを見極めること。勉強なら小5は過程を学ぶときで、小6は結果を見るときです。もっと短いスパンで考えてもいいですね。今度のテストは算数は結果を見て、苦手な国語はこれまでやってきたプロセスが良かったかどうかを見るとか。結果と過程のどちらに着目するかの基準を持っていると良いと思います。親が子どもにその時、何を学ばせたいかをはっきりすること。それをしないと、結局あれもこれもになってしまいます。■ゼロか100ではなく、徐々に手を放す――子どもの自立を考えたときに大切なのは日々の生活なのかなと思います。そう思います。現在海外で活躍しているサッカー選手の多くは、練習以外の時間を現地の言葉を習得するための勉強などに多くの時間を割いています。そういった努力はほとんど報道されませんが、一流選手たちは練習以外で努力していることがたくさんあります。親御さんにはそこに気づいてほしいですね。勉強にしてもサッカーにしても、上を目指すなら生活の部分がとても大事です。親が口を出し、手を出すことのすべてがダメではないと思いますよ。たとえば九九ができない子に割り算をしろと言っても無理なことです。ベースとなる知識は教えてあげないといけません。教えるステップと手を放すステップが重要なのですが、子どもが失敗することを心配して手を放せない親がとても多いと思います。いきなりすべてのことから手を放す必要はありません。部分ごとに手を放せばいいのです。例えばサッカーなら、練習場は試合会場まで一緒に行くけれど、準備はひとりでやらせる。試合会場へのアクセスを考えさせて、一緒に行くとか。少しずつで良いのです。いろいろな自立のさせ方があると思います。付くのと離れるのを段階的にすることを意識してほしいですね。中学生になったから、高校生になったからと、いきなりすべてをつき放すのではなく、子どもの様子を見ながら徐々にでいいと思います。そして親もトライ&エラーを繰り返していくこと。親がエラーする様子を見せることも、子どもにとっては「失敗してもいいんだ」という教訓になります。■親もアップデートが必要――子どもたちの習い事のスタートが低年齢化していると思います。やはり早く始めないとダメなのでしょうか?ひと昔前に比べて、塾もサッカーなどの習い事も、スタートする年齢が下がってきています。その結果、小1の段階でうまい子がたくさんいます。小学校から始めようとクラブに入った子が同じ練習をしたときに、幼稚園から始めていた子はできて、小学校から始めた子はできないということがたくさんあります。そんな時に小学校から始めた子が「自分はダメだ」とあきらめてしまう子がいるんです。できないのではなくて、やり方を知らないだけなのに。それなのに子どもも親も諦めてクラブを辞めてしまう、これはとても不幸なことだと思います。正当な競争をさせないことでつまづきやチャレンジがないので、ぬるい環境で甘えが出てきてしまうのです。そして甘えが多いと精神的に幼い子が増えます。そういった子を増やさないためには、正当な競争が必要だと思います。過度な椅子取りゲームは精神的にもきついですが、適度な刺激を子どもに与え続けると考え方は変わってくるはずです。一生懸命挑戦してみて、それでも思ったような結果が出なかったり、別の目標をに向かうことを決断することもあるかもしれません。ですが、目標を変えることは挫折ではなく新たなことへのチャレンジなのです。親はつい挫折をさせたくなくて手を出してしまいますが、チャレンジととらえられれば、応援することができるのではないでしょうか。今回のコロナ禍で実感された方も多いと思いますが、10年後どころか、少し先の将来は予想がつかない社会に変化する可能性もあるのです。大人が考えている以上に子どもを取り囲む環境は進化して、これまで以上に変わっていきます。AI、プログラミングなどを小学生時代から学ぶことは、親世代には経験がなかったこと。ですから、親もアップデートが必要です。向上心を持っている親は、子どもへの植え付け方がとても上手ですよ。子どものためにも、自分たちが変わることに躊躇しない親がいいですね。<<前編:今どきの子は実年齢マイナス4歳幼い!?自分の事を自分でできる子にするために小学生の親が心得ておくこと富永雄輔(とみなが・ゆうすけ)進学塾「VAMOS(バモス)」代表。京都大学を卒業後、東京・吉祥寺に幼稚園生から高校生まで通塾する進学塾「VAMOS」を設立。入塾テストを行わず、先着順で子どもを受け入れるスタイルでありながら、中学受験から高校受験、大学受験まで、毎年首都圏トップクラスの難関校合格率を誇る。少人数制の個別カリキュラムを組みながら、子供に合わせた独自の勉強法により驚異の合格率を実現して話題に。小さな学習塾ながら、論理的な学習法や、子供の自主自立を促し、自分で考える力の育成に効果的と、保護者から圧倒的な支持を集めている。日本サッカー協会登録仲介人として若手プロサッカー選手の育成も手がけ、アスリートと学習教育に共通する「成長プロセス」の体系化にも取り組んでいる。主な著書に『「急激に伸びる子」「伸び続ける子」には共通点があった!』(朝日新聞出版)、『東大生を育てる親は家の中で何をしているのか?』(文響社)、『男の子の学力の伸ばし方』『女の子の学力の伸ばし方』(共にダイヤモンド社)、『それは子どもの学力が伸びるサイン!』(廣済堂出版)などがある。進学塾「VAMOS(バモス)」ホームページはこちら>>
2020年06月30日今年は新型コロナウィルスの影響で学校が休校になったり、チーム活動の停止でサッカーの練習も思うようにできていないと思いますが、もうすぐ夏キャンプの季節がやってきます。休校の延長などによる運動不足により、身体が暑熱順化できていない上、気象庁の発表では今年の夏は暑いという予報も出ていて、例年以上に熱中症が心配です。保護者のみなさんとしては、大事なお子さんを預けるキャンプでどんな対策をしているのか、気になるものですよね。サカイクキャンプでは、安心・安全にサッカーに取り組めるようにさまざまな熱中症対策を実施していますので、まずは子どもたちがプレーをするピッチ上ではどんな対策をしているのかご紹介します。(構成・文:前田陽子)クーラーボックスに氷を常備、15分に一度を目標に水分補給タイムを設けています■気温の高さだけではない。WBGTを基準に熱中症対策熱中症とは、高温多湿の環境下で体内の水分や塩分のバランスが崩れ、体内の調整機能が破綻して発症する障害のこと。めまいや大量の発汗、こむら返りなどの初期症状(I度)、頭痛・嘔吐・倦怠感などの疲労感(Ⅱ度)、体温調節ができなくなる熱射病(Ⅲ度)の三段階に分かれます。初期症状の段階では日陰やクーラーの効いている部屋へ移動して、着衣を緩め、水分補給をするなどしますが、Ⅱ度以降は医療機関での診察が必要になります。(引用:熱中症環境保健マニュアル 2018「熱中症になったときには」より)消防庁の調べでは、7~9月の熱中症による救急搬送者数は2018年がピークとなっています。2019年の搬送者数は減少していますが、気象庁の発表によると今年は昨年より暑くなると予想されています。また、新型コロナウィルスの影響で暑熱順化できないまま夏を迎えるので、例年以上に注意が必要と言えます。熱中症の予防に活用するのがWBGT(湿球黒球温度)という暑さ指数。気温、湿度、輻射熱などを取り入れて計測するもので、25℃以上になると屋外活動の警戒指数になり、28~30℃になると熱中症の発生、死亡数が多くなります。8月などの真夏はほとんどの日で25℃を超えるので、屋外活動の際には積極的に休憩を取り、充分な水分補給が必要です。■熱中症にならないように、サカイクキャンプのピッチで実施していること1.屋外での練習時間を工夫キャンプ中はWBGT測定器を用い、数値を確認しています。9時から16時まではWBGT(暑さ指数)の数値が28℃を超えることが増えるので、夏のキャンプ時の屋外練習は朝から9時までと、16時以降に実施するように計画。日中の時間は座学などに充てています。数値は随時計測するので、状況に応じて臨機応変にプログラムを変更し、子どもたちが安全に練習できるように工夫しています。2.グラウンドに日陰を設置、帽子の着用サカイクキャンプではテントを持参し日陰の準備をしており、水分補給の際などは、出来るだけテント内(日陰)で行っております。休憩時間や試合の合間には直射を避け、こどもたちの体の負担を軽減しています。また、練習中も帽子の着用をルール化。頭を直射日光から防ぐことにより、10℃前後、頭の温度上昇を防ぐと言われていますので、帽子を推奨しています。ピッチへの散水なども熱中症対策として挙げられますが、これは気化熱効果で地面温度を下げることで、サッカーがしやすい環境造りになるためです。サカイクキャンプでは、速やかに体温を下げられるようにホース、ビニールプールを用意し体調に異常があった選手にすぐに対応できる準備をしております。3.水分補給の時間を確保ジュニア期のラグビー選手の発汗量と飲水量の実態調査(2011年)によると、WBGT21℃の環境でも1時間で1kg当たり12gの水分量が減少することが報告されています。少年野球チームを対象に行った夏期スポーツ活動における発汗量と水分補給量の年齢差(2002年)の調査でも、WBGT31℃で体重当たりの発汗量は4.54%。40kgの選手が1回の練習で1,816mlの水分を失うことがわかりました。これらの調査により、WBGT21℃以下でも練習1時間の間に500mlの水分補給が必須なことが判明しています。WBGT28℃以上では水分喪失量がより多くなるので、サカイクキャンプでは15分に一度250mlの水分補給を目標としています。ピッチの外にはプールを用意しています。※写真は練習が終わった後にプールで楽しむ子どもたちサカイクキャンプでは、上記のような指標をもとに練習メニューをその日の状況に合わせて臨機応変に実施。つねに子ども対の安全に配慮して進行しています。また、コーチをはじめ、スタッフ全員が子どもたちの様子に目を配り、体調の変化をすぐにキャッチできるように努めているので、安心して参加ください。次回は、体重管理やピッチ外での準備についてご紹介します。
2020年06月26日川崎フロンターレの育成組織で育ち、順調にトップチームデビュー。U‐23世代で主軸を担う選手の一人であり、開催予定の五輪でも活躍が期待される三好康児選手(ロイヤル・アントワープFC/ベルギー)。前編では、子どもの頃から自分で考える習慣を身につけていたことが自立につながったお話や「どうしてそのプレーをしたのか、その結果どうなったか」など理由を掘り下げてサッカーノートをつけていたことなどをお聞きしました。後編では、これまでの経験を踏まえ海外でプレーするために大事な事、小学生から意識して身につけておいてほしいことをご紹介します。(取材・文:松尾祐希写真提供:UDN SPORTS)取材は6月上旬、オンラインで行いました。■自分の事を一から知ってもらう環境は、厳しさもあるが楽しみも三好選手は18歳でプロの世界に飛び込みました。最初の3年間は川崎でプレーをしていましたが、4年目以降は慣れ親しんだ川崎を離れ、新たな場所でプロサッカー選手のキャリアを歩んでいきます。4年目はコンサドーレ札幌でプレーし、5年目となった昨シーズンは横浜F.マリノス。そして、昨夏に念願の海外移籍を果たし、ベルギーのアントワープで新たな挑戦を始めました。三好選手はポジティブな姿勢で異国での生活を楽しみながら、レギュラー争いに身を投じていると言います。「僕はずっと川崎で育ってきて、トップチームに昇格をしました。周りのスタッフもそうですし、選手たちもずっと知っている人たちばかりで、トップチームに上がった時も小さい頃から見ていた選手や、昔から一緒にやっていた選手が多かったんです。そういうよく知っている日本人が多い環境でやることと、横浜や札幌で一から監督やスタッフに認めてもらって受け入れてもらうのは、また違う厳しさや楽しみがあり、海外に行くとそれがさらに大きくなりました。アントワープではスタッフも含めて日本人が僕以外にいないですし、サッカーのスタイルも違いますけど、その中で自分のプレーを認めてもらいながら、常に試合に使ってもらって結果を残す難しさは常に感じています」■食事を含め、自分のライフスタイルを確立させることが大事もちろん、初めての海外移籍で不安もあります。しかし、チーム内に日本人はおらず、一人で全てを乗り越えなければいけません。「僕にとって両親のサポートは不可欠でしたね。なんでも協力をしてくれていたので本当にありがたかった」というご両親のありがたみを感じながら、今まで培ってきたことを生かしながら異国の地で生活を続けています。その中で日々を過ごせているのは、幼少期から培ってきたバイタリティーがあったからでした。「海外の文化は違うと言うのは理解していましたが、実際に行ってみると感覚はやっぱり違いました。例えば、時間を守らないで普通に遅刻してくる選手もいて、ちょっとぐらいであれば何食わぬ顔で練習に入ってきます。そこは時間に正確な日本との感覚の違いですよね。食事面では、ベルギーはまだ日本食のスーパーがあるのでいいのですが、それでも日本のお米も自分で探して買わないといけません。スーパーの品揃えも日本と異なりますし、自分で自炊するのであれば献立も考えないといけない環境になりました。食事面も含め、自分なりのライフスタイルを確立する重要性は海外に行ってより感じましたね」現在、三好選手の所属するアントワープでは朝食と昼食をクラブハウスで摂れる環境があります。しかし、三好選手は朝食で白米を食べたいという想いから、自宅で自炊をしてから練習に向かっているそうです。夜も近所の日本食レストランに足を運ぶこともあるそうですが、時間があれば自宅で食べています。ライフスタイルの構築--。それが早期に実現できたのは、幼い頃から培ってきた考える力があってこそです。■海外でプレーしたいなら英語は最低限できるようにした方が良い異国の地で環境に適応しつつある三好選手ですが、困難な出来事もありました。それがコミュニケーションです。海外移籍を見越し、早くから英語の勉強に取り組んできたものの現地で言葉の壁にぶつかったと言います。「もっと英語を上達させておけばと思いました。ヨーロッパで生活する上で、英語は最低限できないといけません。僕が住んでいるベルギーでは様々な言語を使う国でもあり、英語は全員できるのが当たり前の上でいろんな言語が普段から飛び交っているんです。加入した当初にある選手から『フランス語勉強しているのか』と言われた時に、まだ英語を勉強していると伝えるのがすごく恥ずかしかったのを今でも覚えています。なので、英語は最低限できないとヨーロッパでプレーはできません。英語ができた上で、いろんな国でプレーする中でその国の言語を学んで行くことがベストです。英語は若いうちからやるべきですね」■自分で考える力、意見を伝える力は子どもの頃から身につけるべきまた、コミュニケーションに対する考え方の違いにも三好選手は驚かされたと言います。「一番驚いたのは、自分で伝える力ですね。もちろん言語が出来なければ伝えられないのですが、相手に対しての伝え方や自分の考え方を言葉できちんと表現します。僕もそうですけど、日本人は自己表現がうまくないと思うんです。外国人は年齢、立場関係なく自分の意見をバンバン言うし、言われてもしっかり聞いてまた考えを伝えます。そのコミュニケーション能力は日本人にない部分ではないでしょうか」だからこそ、三好選手は海外でプレーするためには、自らの意見を発信する方法を幼い頃から学ぶべきだと考えています。「小さい頃から自分の意見を持って発言できる力を付け、人の意見をしっかり聞いた上で自分の意見を考える力は必要です。それが自分の考えを整理することにつながります。外国人は良くも悪くも、自分の考えをしっかり持っています。良い部分は取り入れて、日本人の特徴を出していけるのがベストです」■常に考え、自分で解決する力をつけることが成長につながる様々な経験を経て、海外でプレーする三好選手。幼い頃から考える力を身に付けてきたからこそ、今があるとも言えます。リーグが再開された国もありますが、現在は新型コロナウイルスの影響で、チーム練習に制限があったり、不要不急の外出自粛を余儀なくされている選手も少なくありません。しかし、この時期の行動が未来を大きく変えると、三好選手は言います。「学校が休校になり、子どもたちは長い間にサッカーができずにストレスや不安を持っているかもしれません。徐々に自粛も緩和されてきたので、これからの活動にその思いをぶつけて欲しいですね。サッカー選手を目指す子どもたちは、この期間に次にやることを色々思案したと思うので常にこれからも考え続けてほしいです。何が必要かを踏まえてやっていくことが、自分自身の成長につながっていくのではないでしょうか」最後に三好選手は自身の意気込みも語ってくれました。「自分もこの期間に自粛を余儀なくされ、サッカーへの想いを再確認できました。だからこそ、次に向けて早く動き出したい。リーグ戦が再開されれば、早く結果を出して、もっともっと上のカテゴリーにプレーできるように頑張ります」幼い頃から常に自分と向き合う姿勢が三好選手の未来を切り開いてきました。様々な問題にぶつかる場合もあるかもしれませんが、自分で解決する力を身に付けることが子どもたちの自立につながるのではないでしょうか。
2020年06月25日みなさんのお子さんは、年齢なりに自分の事を自分でできますか?親御さんがあれこれ手をかけたり、「こうしなさい」と先回りして口出ししてしまっていませんか。わが子がつまづいて挫折してほしくないばかりに親がつまづきそうな要因を取り除いてしまう......。そうすることが子どもの自立を阻んでいるとしたら?「最近の子どもは実年齢よりマイナス4歳ぐらい幼い印象の子が増えている」と、進学塾「VAMOS」の代表で、日本サッカー協会登録仲介人として若手プロサッカー選手の育成も手がけ、アスリートと学習教育に共通する「成長プロセス」の体系化にも取り組む富永雄輔さんは言います。はたしてそれはなぜでしょうか。子どもを年齢なりに自立させるために親はどうすればいいのかを伺いましたのでご覧ください。(取材・文:前田陽子)(写真は少年サッカーのイメージです)■以前に比べて、子どもたちは実年齢より4歳幼い!?――大学入試に親が同行することが普通となりつつありますが、どう思われていますか?受験のみ、住まい探しなどは別の機会に行う前提ですが、保護者世代の方々の経験として、遠方に入試に行く際に、子どもが女子だとまれに親御さんが会場まで一緒に行く方もいたと思いますが、男子の場合はなかったですよね。最近は男女問わず親がついていくことも増えつつあり、子どもの方も親と一緒に行くのが安心という子もいるようです。そういった、自分で行動する面なども含め、今の子たちは実年齢より4歳くらい幼い印象です。ここ5~6年、特に男の子に幼さが残っていると感じることが多いですね。同様の事は、同業者の中でも聞くことが増えました。「幼い」と聞くとネガティブなイメージを持つかもしれませんが、悪いことばかりではないと思います。どの子もずっと幼いままでいるわけではなく、成長が緩やかなだけで、どこかで追いつきますので、たとえ今お子さんが他の子より精神的に未熟だとしても心配しすぎないでください。では、どうして今の子どもたちが幼いかというと、子どもたちがダメージを受けると立ち上がれないからです。「挫折したら立ち上がれない」「レールを外れたら戻れない」という空気があり、それでも立ち上がれる子はいるのですが、多くの場合は自分の子が大きな挫折をしたら立ち上がれないことがわかっているから、わが子にダメージを与えないようにと親が先回りをして、つまづく要素を取り除いてしまう。その悪循環が突き進みすぎていると感じています。――確かに。子どもたちを守ってあげたいという気持ちはわかりますが。それで社会に出て大丈夫かと心配になります。生物の世界には生存競争があって、勝ち残らなければいけないという本能があります。少し前から「徒競走で順位をつけない」「サッカーでレギュラーを決めない」「成績をつけない」という動きがあります。サッカーで選手全員にチャンスを与えようという主旨はわかりますが、社会に出て全員が同じ条件で同様なチャンスが与えられることは100%ありません。子どもの幼さを増長している要因のひとつは、大人がチャンスを強制的に与えるからだと考えています。昔の部活では、部内の競争を経て18名のメンバーが決められ、そこからスタメンの11名を目指す。全員に与えられたチャンスを生かせるか、生かせないかは個人の努力や力で、その過程が子どもたちを成長させました。けれど、今の子どもたちはチャンスが過度に与えられることで競争する必要がない=無理やり成長をしなくて良くなっているのです。■子どもが幼いのではなく、大人が幼い子どもを作っている――プロとして活躍している選手たちの子ども時代はもっと大人だったと思いますか?近年様々なジャンルでトップ層の子どもは考えがしっかりして成熟している子も多いと思います。サッカーでいうと、今、スペインで活躍している久保建英選手は18歳ですが、20年前の18歳に比べて格段と大人です。インタビューの受け答えなども、とてもしっかりしていますよね。勉強でも東大に入って「東大王」などに出ている子たちは、勉強だけでなく、幅広い知識や柔軟な発想が求められるクイズもできる。どの子も非常に要領が良くて、セルフプロデュースに長けているんです。天が二物を与えた子がたくさん出てきている一方で、前述したように幼い子どもたちも増えているという状況です。――同年代の子どもたちで差が出るのは、なぜでしょう。今の子どもたちは自分で選択せず、大人が与えた環境の中で過ごしています。それは子どもにとって言い訳しやすい状況です。そういう状況を大人が用意し続けた結果が、子どもの成長を妨げていると感じています。『親が出すぎる→過度な公平な機会を与える→順位を付けない→厳しくしない→成長しない』そんな循環ができてしまっています。順位付けをしない、厳しくしないというのは、指導者からするととても楽なことなのです。チームを強化する必要がないので、子どもたちを公平に扱うことさえすればいいだけですから。プロセスに重点を置いて楽しもうという方針にも利点はたくさんありますが、結果を求められないことは指導者にとって非常に楽という側面もあるのです。今の子どもたちはいろいろなことから守られすぎている結果、幼さが残っているのかなと思いますね。何でもかんでも厳しくしなければいけないとは言いません。けれど、競争をさせたら出来る子はたくさんいます。子どもは頑張れるのに、大人がその環境を取り除いてしまうので、頑張り方を知らない子が多すぎるのです。■親は現実を直視しよう――親はどう接していくべきだと考えますか?親御さんの多くが、現実を直視できていないと感じています。日本代表やオリンピック代表を見れば、おのずと過保護で伸びる子が少ないというのはわかるはず。サッカーは飛び級が許されているので、高校生でプロになる子も少なくありません。プロになったら何歳であろうと大人と一緒にプレーをします。15~16歳で大人扱いをしてあげなければいけないことに、親が早く気が付くことが重要です。プロを目指しているのではないので......。と思う人もいるかもしれません。けれど、自分の学年より上のカテゴリーの試合に出る機会がサッカーには多くあります。上の年代の人たちと一緒にプレーをして、自分の意見を言う。そういう環境は身近にあると思います。子どもは勝手に大きくなりません。親の関わり方によって、子どもの成長が変わることを肝に銘ずること。親が周囲の人たちにどう接していくべきかを考え、実行することで子どもの今後が左右されるのです。富永雄輔(とみなが・ゆうすけ)進学塾「VAMOS(バモス)」代表。京都大学を卒業後、東京・吉祥寺に幼稚園生から高校生まで通塾する進学塾「VAMOS」を設立。入塾テストを行わず、先着順で子どもを受け入れるスタイルでありながら、中学受験から高校受験、大学受験まで、毎年首都圏トップクラスの難関校合格率を誇る。少人数制の個別カリキュラムを組みながら、子供に合わせた独自の勉強法により驚異の合格率を実現して話題に。小さな学習塾ながら、論理的な学習法や、子供の自主自立を促し、自分で考える力の育成に効果的と、保護者から圧倒的な支持を集めている。日本サッカー協会登録仲介人として若手プロサッカー選手の育成も手がけ、アスリートと学習教育に共通する「成長プロセス」の体系化にも取り組んでいる。主な著書に『「急激に伸びる子」「伸び続ける子」には共通点があった!』(朝日新聞出版)、『東大生を育てる親は家の中で何をしているのか?』(文響社)、『男の子の学力の伸ばし方』『女の子の学力の伸ばし方』(共にダイヤモンド社)、『それは子どもの学力が伸びるサイン!』(廣済堂出版)などがある。進学塾「VAMOS(バモス)」ホームページはこちら>>
2020年06月22日全体的に足元の技術は高いけど、勝負のタイミングでバックパスを選択したり、確実に勝てそうなポイントでしか仕掛けない。「判断力」を養うにはどうすればいいの?というご質問をいただきました。池上さんは、前回の内容でお伝えした、日本での指導の順番が海外とは逆で細かな基本技術から入る事による日本サッカーの課題に通ずると言います。子ども達に判断を伴うプレーを身につけさせるためにはどうすればいいか、スペイン・ビジャレアルFCの育成組織で指導されている日本人コーチのお話なども交えてご紹介します。これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが送るアドバイスを参考にして、子ども達の判断力を養う指導を実践してみてください。(取材・文島沢優子)(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)<<同学年でもレベル差があってデコボコ。チームの底上げを図る練習メニューはある?<お父さんコーチからの質問>はじめまして。指導年代はU-12です。よく言われる「判断を伴う練習」について教えてほしいです。足元の技術はレベルが高い子が多いのですが、ゲームになるとボールを前へ進めていい場面なのに後ろに下げたり、「今だ」という場面でも確実に勝てそうな勝負にしか挑まない子が多いのです。失敗するのが怖いという側面もあるとは思いますが、どんな場面なら前進させていいかの理解も不足しているのかなと感じています。もっと積極的に仕掛けてもいいのに......と思っているのですが、どんなトレーニングや声かけをすれば状況の理解を深めたり、積極的になれるものでしょうか。<池上さんのアドバイス>ご相談、ありがとうございます。「判断を伴う練習はどんなことをすればいいか」というご質問ですが、これはぜひ前回の記事もともにご参考いただけるとより分かりやすいかと思います。前回の相談は「チームの底上げ」でしたが、そのためにはサッカーの成り立ちを理解(認知)したうえで判断力を養うべきだとお話ししました。■判断を伴う練習の前に「認知」を高めよう。「場面」を描かせる学びが必要日本は育成する「順番」が欧州と違うこと。「認知→判断→行動(プレー=技術指導)」と教えなくてはいけないのに、細かな基本技術から入るため、認知、判断の指導がスムーズにいかないという日本の少年サッカーの課題でもあります。2対1の状況であれば、自分がゴールに向かったほうがいいのか、味方にパスしたほうが得点の可能性が高いのか。では、いつどんなタイミングでパスするといいのか。そんな認知する力から教えましょうと伝えました。そう考えると、質問された「判断を伴う練習」に入る前に、まず認知力を高めなくてはいけません。それは、いきなり実練習でなくても、座学でもいいのです。ホワイトボードに「こんな状況のとき、みんなはどう考える?」「後ろに下げる?」「自分でいっちゃう?」「右と左どっち?」などと問いかけて、考えさせます。いきなり答えをいって説明すると、子どもはイメージできないので、頭に場面を描きやすいように段階的に教えます。そういう学びもサッカーには必要です。判断を伴うのであれば、ボールにかかわるのはひとりではないという前提になります。シュートかパスか?という判断。その際にパスするための情報は何があるか?味方の位置は、どうなのか。自分よりもシュートが入る可能性高い空いている味方、マークの位置、ボールをコントローしている足、体の向きと、さまざまな「情報」があります。これを習得するには、ジグザグドリブルや対面パスといったクローズドスキルではなく、2対1、3対2、3対3など、数的優位を作れたり、作れなかったりする少人数の対人練習をやっていくことが肝要です。■脳と身体が繋がるように、子どもたちに「どうする?」と問いかけ想像力を引き出すこのように、できるだけ早く対人のトレーニングをする。子どもがサッカーの練習に集中できる時間は概ね1~1時間半ほどです。決まった時間を生かすためにも、導入を丁寧にやることを心がけてください。例えば、3対1。自分がボールを持っていて、目の前に相手守備が立っている。真横に味方がいる。その逆サイドの5メートル前方、つまりゴールが近いところにもうひとり仲間がいる。「どっちにパスする?」「自分はどうする?」という質問を投げます。多くの子どもは、ゴールに近いほうの味方へのパスを選びます。次は、自分をマークしている守備との距離の問題です。パスをしようと思ったら、味方のほうに相手守備が動こうとした。そうなったら、自分がフリーになる。ドリブルで進んでいくと、今度は自分のほうに寄って来た。さあ、どうする?どのタイミングでパスをする?そのうちに真横にいた違うサイドの味方のほうがゴールに近くなった。さあ、どうする?このようにして、子どもの想像力を引き出してあげます。そんなことを毎回すれば、間違いなく判断できる子が育ちます。スペインのビジャレアルCF育成部でコーチをしている佐伯夕利子さんが、子どものボール回しの様子をフェイスブックに投稿しています。ぜひ一度チェックしてみてください。見事にパスをつないでいます。佐伯さんの解説に、そこに登場する5歳の子どもたちは「選ばれし子ではない」とあります。つまり、セレクションをするなどして、上手な子を集めているわけではないということです。では、どうしたら、ビジャレアルの子どもたちのように、認知して、判断できる力が養われるのか。それは、丁寧にコーチたちが子どもと向かい合っているからです。「いま、なぜそこにパスをしたの?」「いま、どうしてドリブルしたの?」そんなふうにいつも聞き返します。このように対話することを「フィードバックする」と言いますが、いまなぜこうしたのかを3歳の子にも聞き返す。脳と身体がつながるようにトレーニング組み立てられています。試合前のロッカールームでも、コーチは5歳の子に質問をします。「どんな試合がしたい?」「今までやってきた練習は、どういうものだったかな?」「今日は何を試したい?」これが日本だったら、どうでしょか?「絶対勝つぞ」とか「こうやるぞ」とコーチが率先して話していないでしょうか。アドバイスの内容も、コーチたちのきめつけばかりではないでしょうか。■子どもは目の前に「問い」があるからこそ考え始める(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)子どもは、目の前に「問い」があるからこそ、考え始めます。そして、大きくなったらあらゆることを自問自答できるようになります。もし、みなさんが本当に子どもたちに自分で考える力や判断する力を養ってほしいと思っているのなら、子どもへの「問い」を増やしてください。私は今、大阪の地域総合型スポーツクラブ「岸和田FC」で、アドバイザーを務めています。「指導者のレベルを上げたいので、来てください」と言われて始めました。先日、佐伯さんの映像を見せたら「こんな指導に変えたい」とみなさんおっしゃっていました。認知、判断、行動の順番で教えていく。こういう練習に変えたい、と。私は「このクラブがそうなったとしたら、きっと日本初なので頑張ってください」と伝えました。しかしながら、映像を見た後に「こんなに我慢できないなあ」とひとりの方がつぶやかれました。正直な感想だと思います。「そうなんですよ。ビジャレアルのコーチたちも、答えを言いたくて仕方がない。でも、我慢している。答えを言ってしまったら、子どものためにならないと考えているんですよ」と私は話しました。佐伯さんの映像も、3年かけて彼らがいいコーチであろうと葛藤と闘って成し遂げた映像なのです。判断力を養うためには、子ども達への問い掛けを増やすことを実践してみてください。池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
2020年06月19日サッカーでは、試合中に攻守が目まぐるしく変わり、予想外の事の連続です。そんなとき、いちいちピッチ外の監督やコーチの指導を仰ぐことはできません。だからこそ、自分で判断し動くことができる選手になることが大事になります。自分で考える力はサッカーだけでなく社会においても必要なスキルです。今回は、「幼少期から常に自分で考えることを意識していた」というU‐23世代の注目選手、三好康児選手(ロイヤル・アントワープFC/ベルギー)にお話を伺いました。(取材・文:松尾祐希写真提供:UDN SPORTS)自分のプレーを掘り下げて「どうして」を追求していたという三好選手のサッカーノートの書き方は、上達するためにも必要な思考力をつける書き方なので参考にしてください■小学生時からスパイクは自分で管理現在はベルギーのアントワープでプレーする三好康児選手。U‐23日本代表でも主軸を担っており、来年開催予定の東京五輪でも活躍が期待されるプレーヤーです。そんな三好選手がサッカーと出会ったのは今から小学校1年生の時でした。三好選手はお兄さんの影響を受けて地元・川崎の中野島FCでサッカーを始め、小学校5年生の時に川崎フロンターレU‐12に入団をしました。当時から自分で何でもこなす性格だったそうで、3人兄姉の末っ子でご両親やご家族に頼れる環境があっても過度に甘えることはなかったと振り返ります。「小さい頃は兄と姉がおり、親も含めて色々と身の回りの面倒を見てくれていました。ただ、常に『自分のことは自分でやるように』と言われていましたし、特に川崎フロンターレのアカデミーに入ってからはその意識が強くなりました。クラブの方からも『人間として自立しないと選手として上に行けないぞ』と常に言われていたんです」中でも三好選手が小学校時代から気を遣っていたのが、スパイクの管理です。練習後は汚れを落とし、常に自分で手入れをしていたそうです。なぜ、三好選手が道具の管理を徹底したかというと、私生活とプレーがリンクしていると考えていたからでした。「自分が使う道具なのでスパイクを大事にしていました。スタッフからも、そうした細かい気配りが『プレーの最後に出るんだぞ』と教わっていましたし、『サッカーの部分だけではなく、私生活の取り組みがピッチに出る』と言われ続けていたんです。そこから自分で様々なことを考えるようになりました。たとえば、『ゴミ拾いをすることでその行いが良いプレーに繋がるかもしれない』。そういう考えを自ら持って、やっていたのを今でも覚えています」■「なぜそのプレーをしたのか」サッカーノートで自分のプレーを掘り下げていた"勝負の神様は細部に宿る"。そうした想いでサッカーに取り組むのと同時に、三好選手が重視していたスタンスがありました。"常に考える"ことです。そう思うようになったのは川崎フロンターレに入団してからだったそうで、サッカーノートを付けながら自身と向き合っていたと言います。「川崎フロンターレに入ってからは毎日サッカーノートを付けていました。おこったことや自分の感想を書き連ねる日記みたいに書くのではなく、どういうことが起こって、どうしてそういうプレーをしたのか、なぜそう考えたのか。一つの行動に対して掘り下げていく。そんな風にサッカー面以外も含めて、どういう思いでアクションを起こしたのかを整理していました。それまでは気持ちよくプレーしているだけだったのですが、プロのサッカーチームのアカデミーに入ったことで一気に意識が変わりましたね」小学校の時から自立に向かって歩き始めていた三好選手。中学では早くから頭角を表し、中学校2年次には飛び級で川崎フロンターレU‐18に昇格しました。周りの仲間たちよりも一足早く高校生の舞台に足を踏み入れる環境はサッカー面で大きな意味を持ちましたが、ピッチ外での経験も自身の自立をより促したと言います。「中学生と高校生の間にある数年は大きな差を持っています。その中で高校に進学するといろんな誘惑があるのを目の当たりにし、サッカーをやる上で何が大事かを確認できました。中学から高校に進級すると、大人に近づくのでいろんな誘惑が絶対に生まれます。その中でどれだけ流されないでいられるか、自分自身を持って何が必要なのかを常に考えるようになりました。僕自身はサッカーに夢中だったし、プロになりたいと思っていたので遊びたい欲求やほかの様々な誘惑をそんなに感じていませんでしたし、僕は惑わされることはなかったです。中学2年生からU‐18チームでプレーしていて、早くトップチームのカテゴリーに昇格したいと思っていたので遊びたい欲はあまりなかったですね」■私生活で人を手伝う、助けるなどのスタンスはピッチでも出るまた、中学時代に海外遠征へ行った経験も三好選手を子どもから大人に成長させる大きな要因になりました。特に世代別日本代表でプロを目指す仲間と切磋琢磨できた環境や、異国の地で味わった様々な体験は小学校時代から培ってきた考え方をさらに深めるきっかけになったと言います。「世代別代表ではA代表のように何から何まで揃っているわけではありません。ウェアなどは揃っている部分はありましたが、シューズの手入れも含めて色んなことを自分でやらないといけなかったんです。荷物の管理なども選手の仕事。だからこそ、よりチームのために何が必要なのかを考えて行くようになりました」徐々に自立していく三好選手ですが、すべてが順調にいったわけではありません。失敗を重ねながら成長をしてきました。特に今でも覚えているのが、代表合宿中の出来事です。「U‐16かU‐17の代表合宿中に怒られた経験があります。練習前にグラウンドへ荷物を運ぶ分担をみんなで決め、僕は水を運ぶ係りに決まったんです。行きは水を持って行ったのですが、帰りは水を消費したので何も持たずに宿舎へ戻りました。すると、スタッフの方から『どうして何も持たずに帰っているの?』と聞かれたんです。そこで、『水がなくなって持つものがありません』と答えると、『そういうことではないだろ』と怒られました。その時はただ自分の分担していたものがなくなったから持たなくて良いと思ったんです。当時は中学生だったので、指摘されてムッとした部分もあったのですが、よくよく考えてみたら、チームを思えば、できる行動はあったんですよね。他の誰かを手伝ったり、重い物を持っている人を手伝うとか。そういうスタンスはピッチで出ます。プレーでも人を助けることで自分を助けてもらえるかもしれません。サッカーは助け合いのスポーツですから。そういうチームスポーツの大切さを私生活の部分から学びましたね。上に行けば、行くほど細かいことを言ってくれる人は少なくなりますし、サッカーの面でも周りから言ってもらえるのは、期待をされている証拠でもあります。何も思っていなければ言ってもらえないので、自分は本当に恵まれていました」■活躍するために重要なのは自分自身を理解すること三好選手は高校進学後、川崎フロンターレU‐18でプレーし、2014年の8月に翌シーズンのトップチーム昇格を勝ち取りました。誰もが幼少期を経て多感な思春期を歩みます。その中でいかに大人になっていくのか。自立をする上で、 "常に考える"ことが大きな役割を果たしました。その結果、三好選手は"自分を理解する"ことに繋がったと言います。「一番は自分自身を理解することです。現在のチームメイトは全員プロなので、試合へ出るために競争があります。その中で自分が試合に出て、結果を残すことを考えていかないといけません。そういう意味では、幼い頃からプロになるために何をすべきかを考えてきたので、その習慣がプロになってより生きたと思います。中には何も考えずに能力だけでプロになれる人もいるかもしれませんが、プロになった時に周りはいろんな特徴を持った選手がいます。自分よりも強力な武器を持っていたり、身体の強さを持っていたり。そういう選手に対し、どう戦っていくかを考えなければいけません。自分がどうすべきか、監督にどうやったら認めてもらえるか。でも、周りみんなライバルで、誰もが自分を使ってほしい、自分が一番だと思っているわけで、僕が何をしたらいいかなんてほとんど言ってくれません。だからこそ、小中高で自分で考える力を身に付けることが大事だと思います後編では海外でプレーするために必要な力と語学の重要性について迫ります。
2020年06月18日身長差やサッカーの理解度の差があって同じ学年でもレベル差が大きい中学年の指導に悩むコーチから、チームの底上げを図れるトレーニングメニューなどはある?とご相談をいただきました。池上さんは、これまで見てきた中で欧州の子どもはそれほどレベル差がついてないといいます。その原因は、日本とは真逆の「指導の順番」なのだそうです。これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが送るアドバイスを参考にして、チームの底上げを図ってください。(取材・文:島沢優子)(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)<<U-10でどこまで守備戦術を教えて良いもの?指導のコツがあったら教えて<お父さんコーチからの質問>いつも連載拝読しています。私は少年団でU-10 、U-12の指導をしている者です。先日別の記事で、小学校中学年ぐらいは一番デコボコしているとありましたが、まさしく私のチームも同じ状況なので、指導面でのアドバイスが欲しくご相談させていただきました。体の成長速度は個々の成長速度があるので何ともし難いですが、この学年へのトレーニングメニューで、チームの底上げを図れるものであったり、もしくは練習や試合でのチーム分けの工夫などがあれば教えてください。<池上さんのアドバイス>ご相談、ありがとうございます。日本の子どもたちはなぜ、そんなにデコボコが目立つのか。それは、小学校中学年くらいだと、体の大きさや運能能力の違い、サッカーへの理解度の違いがあるから仕方がない――私たち指導者はそんなふうに考えてきました。■欧州の子どもたちは日本ほど同年代でのレベル差がないところが、スペインなど欧州の子どもはそこまでデコボコではありません。よく見ていると、欧州の子どもたちは、相手とぶつからないようにプレーします。日本のように「相手に押し負けるな」とか「コンタクトで負けるな」などという声はコーチから一切出てきません。なぜなら、幼稚園児くらいのころから「どこでボールをもらうといいかな?」とコーチらに導いてもらえるので、相手から離れてボールを受けることが身についています。日本の子どものようにボールを奪いに来る相手を体で押さえてコントロールするのではなく、フリーな状況でパスを受けます。そして、そのことを学んで身に着けるためのトレーニングを、幼稚園児のころからたくさん積むのです。その際、守備をする側は、攻撃をしてくる相手のパスカットを狙います。相手に体をぶつけるようにして足元のボールをガシガシと奪いにきません。つまり、トレーニング全体に、ボディーコンタクトがないのです。それはなぜでしょう。ひとことで言うと、育成する「順番」が日本と違うからです。「認知→判断→行動(プレー)」欧州の子たちは、この順番で育てられます。例えば、3~6歳、もしくは小学校低学年までの間に、まず「認知する力を」養います。自分がボール保持者だとしたら、味方がどこにいるか認知します。例えば、2対1の状況で、自分がドリブルでゴールに向かったほうが点が取れるのか、味方にパスしたほうが得点の可能性が高いのか。そのとき、守備をする相手選手の位置によって、いつパスをしたほうがいいのか。それが認知する力です。どこが空いてる?誰がチャンス?――そういうことを彼らは10歳くらいまでに見極められるようになります。見極められるようになったら、判断してプレーします。相手選手がパスをしたい味方との間に立っているから、ドリブルでボール1個分ずらしてからパスを通す。自分で縦に突破すると見せかけて、相手が自分に近づいた瞬間、相手をあざ笑いようにスルーパスを通す。そういった判断ができるようになります。この1.認知、2.判断ができるようになったら、最後の3.行動(プレー)の指導に入ります。プレーはつまりはスキル、技術です。それは「今の判断は良かったね。あとはコントロールを磨いていこう」というような声掛けです。トラップをミスしたり、パスがそれたりして正確にできなかったとしても、しっかり認知をし、タイミングよく判断ができているのだから、あとは技術を磨けば済むことです。■日本の子どもたちにレベル差が生まれてしまう理由ところが、日本の子どもたちは、これを逆にした順番で指導されています。1.行動、2.判断、3.認知で教えられているのです。サッカーボールに出会ったら、まずインサイドキックを教えます。コーンドリブルをします。リフティングもですね。かなり長い時間、クローズドスキルに割かれています。それらをやってから、小学校中学年くらいになってから、コーチにこう言われたりします。「ただ蹴るだけじゃだめだ」「まわりをよくみて」「スペースを探せ」「ボールをもらえる位置にいないから、いつまでたってももらえないでしょ?」そこで子どもたちは非常に混乱します。そこで格差、つまりデコボコも出てきます。日本のトレーニングは、本来は最後に指導したほうがいい「行動」、技術練習から始めているので、なかなかうまくいかない。ジュニアの世界大会で日本の子どもたちが優勝して「日本の子どもは足元の技術がうまいですね」と欧州のコーチに褒められます。足元の技術から始めているので、うまいのは当然です。ただし、そのあとはどうでしょうか?ユース年代、成人してからと、上に行くほど世界との差が開いていないでしょうか。私の大学の先輩である祖母井秀隆さんは1970年代、すでに「見て、考えて、判断して、プレーする」という段階を踏んで指導すべきだ、とおっしゃっていました。脳科学的にもそれが正しいのだとおっしゃって、私も納得出来ました。それから40年以上経過しましたが、日本はいまだ指導の順番は逆行したままです。■認知、判断力をつける練習メニュー(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)ご相談者様は、ぜひ前述した三つの順番を意識した練習に変えましょう。具体的には、ミニゲームや2対1といったオープンスキルのメニューをたくさん行って、子どもたちの認知・判断の力を鍛えてあげてください。ぶつかれ、負けるな、などと言ってはいけません。スピードやパワーを求めず、ゆったりとした状態でサッカーの成り立ちを伝えてください。「どこを見てた?」「どうしたらいい?」と子どもたちに質問して、考えさせるのです。認知・判断力はそうやって試行錯誤しながら自分で獲得するものです。池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
2020年06月12日強豪校へ行った兄にようになることがモチベーションの次男。楽しそうにサッカーしているけど、チームメイトとのレベル差もあり、最近ではスクールを辞めたいようなことを口にすることも。運動神経あまりよくなく、兄のように強豪校へ進む進路は無理そうだけど、進路についてどう話せばいい?前向きにさせるか、違うことにモチベーションを持たせるか......。と悩むお母さんよりご相談をいただきました。みなさんならどうしますか?今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、取材で得た知見をもとにお母さんへ3つのアドバイスを送りますので参考にしてください。(文:島沢優子)(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<グローブがなく素手でGKを務めた息子。Bチームは面倒見てもらえないのか問題<サッカーママからのご相談>10歳の息子ですが、強豪校に行った兄を目指し、週1だけクラブチーム下部組織のスクールに通い始めました。最初はモジモジしていましたが段々と意欲的になり、今では早く行ってグランドの端っこで仲間とアップしています。楽しそうにしているのですが、たまに「今日は3人に突っ込まれ削られた」など不満を口にします。チームメイトとレベルがかなり違う(息子が下手)のは親もわかっているので、プレーがうまくいかなかったことは仕方ないと思うのですが、息子にとってはスクールでの不満が帰宅してから寝るまで続いている感じです。それに対して私は「サッカーの中での事はサッカーで解決しなさい!」とか「仕方ないよ」としか言えなくて。最近は「所属チームだけでいいかな?」と、スクールを辞めたい様な事も口にします。前向きにさせる様にするには親はどうしたらいいのか悩んでいます。兄は6年時にJrユース合格の為準備としてスクールに通い始めましたが、兄弟で運動神経は全く違う(今回相談している弟は鈍い)ので下部ジュニアユース→他県強豪校という進路は無理そうに思います。ですが、兄の様になる事だけがモチベーションの子に、どうやって進路を話したら良いかも不安がありご相談しました。息子を前向きにさせる方向がいいのでしょうか、それとも違うモチベーションを持たせるのがいいのでしょうか。アドバイスよろしくお願いします。<島沢さんのアドバイス>ご相談いただき、ありがとうございます。お母さんからのメールには、以下のような問いがありました。前向きにさせる様にするには親はどうしたらいいのか。息子を前向きにさせる方向がいいのでしょうか。それとも違うモチベーションを持たせるのがいいでしょうか。いずれも「○○させる」が並んでいます。まずは、お母さんの中から、この「○○させなくては」「○○させるべき」「○○させたい」という欲求を追い出してください。■子どもが自分から頑張るために、親はどうすればいいか私も長男が小学校低学年のころはそんな言葉ばかりを頭に思い浮かべていました。「宿題をやらせるのはどうしたらいいか」「サッカーの自主練をやらせるにはどんな方法があるだろう」ところが、親が「こうさせるぞ!」と頑張れば、頑張るほど、うまくいきません。子どもから「嫌だ!」と反発されたり、渋々取り組んだとしても、しょせん親(他者)から言われてやることなので成果が上がりませんでした。では、どのようにしたか。何十万人もの子どもにサッカーを教えながらコーチたちを導いてきた池上正さんや、脳科学の専門家、成果を上げている教育現場の人たちの話を参考にしました。すべての人が口をそろえておっしゃったのは「放っておけばいい」でした。そして、実際に放っておくと勝手に自分で自分の道を選び、そこに向かって努力を始めました。つまり、成長が始まったのです。したがって、お母さんも次男さんを、まずはほったらかしにしましょう。こうさせたい、などと考える。それはいわゆるコントロールしようとする行為です。前向きにサッカーに取り組んでほしいなら「いつでも応援しているよ。できることがあったら言ってね」とひとこと言ってあとは黙っていればいいことです。「私が干渉したままでは、息子は成長しない」ぜひそのように考えてください。■兄弟であっても違う個体なので、上の子の経験に縛られないようにしようそもそも第一子は、兄姉がないぶん可視化できる見本はないし、親も最初の子どもなので知見、経験がない。それは一見ディスアドバンテージに映ります。が、その実、子どもも親も何かの前例や価値観に縛られることなく、その子らしい道を自由に模索できるアドバンテージでもあると思います。第二子は兄や姉の姿が良くも悪くも見本になり、親のほうも、上の子の経験に良くも悪くも縛られがちです。要するに、比べてしまう。これはストレス以外の何物にもなりません。日本の子育てには「切磋琢磨する」とか「きょうだいで競い合って」という表現がありますが、そうしたいかどうかは子どもが決めることです。ご相談文を読んだだけなので想像の域ですが、ご長男は、おそらく小さいころからサッカーが得意で自分からどんどん取り組んで強豪校への道も自分で選んだのだと思います。したがって、親のほうもただ見守っていればよかったでしょう。ところが、次男は長男とは違う個体です。違っていて当然。でも、親は迷う。お母さんはいままさに「子育ての森」で迷子になっています。■子どもをコントロールしないで見守ることでは、どうするか。以下の三つを参考にしてください。1.コントロールしようとしない。冒頭でも伝えましたが「○○させる」とは考えないこと。「この子、どんな大人になるかなあ」とゆったり構えてください。子育ては、飯の食える一人前の大人に育てることが第一目標です。サッカーで強豪校に行く、名門のジュニアユースクラブに行く。これはプロセスにおける名誉かもしれませんが、実際はあまり重要なことではありません。例えば、本人が生きがいを見つけて気持ち良く人生を歩む。そんな姿を思い浮かべると、サッカーで試合に出られようが出られまいが大したことではない――親はそう思って見守ったほうがいいと思います。子どもはこのことに懸命になるでしょうけれど、親はそのカオスに巻き込まれることなく離れて見守ったほうがいいのです。子どもは必ずや、のちにお母さんがそのような達観した姿勢で置いてくれたことに感謝するはずです。「いろいろうるさくいわずに放っておいてくれて助かったよ」と。2.「言わなきゃ」よりも「聴かなきゃ」「サッカーの中での事はサッカーで解決しなさい!」とか「仕方ないよ」としか言えなくて。とあります。お母さんがおっしゃっているように、どちらの言葉も意味がありませんね。お母さんだけじゃないです。みなさん「親だからきちんといいアドバイスをしよう!」と思い込んで、空回りしがちです。そうではなく、お子さんの話を聴いてあげてください。別にじっくりじゃなくてもいい。「どんな気持ちだったの?」「どう?大丈夫?サッカー、楽しい?」質問をすると、次男君が自分の気持ちと向き合える機会が作れるかもしれません。■子どもの気持ちを親が決めつけていませんか(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)3.兄弟を比べない自分の中で比べたくなります。でも、比べないこと。比べるのなら、いいところを必ず探してあげましょう。お母さんだって、よそのお母さんと比べられると嫌ですよね?子育てがうまく行ってない人の99%が、きょうだいで比べたり、よその子とわが子をよく比べます。「うちはこんなんだよ。Aさんちの息子さんはいいなあ」と。お母さんの言うように「兄の様になる事だけがモチベーション」だとしたら、もしかしたら親御さんの態度も関係しているかもしれません。「サッカー、楽しい?楽しいなら続ければいいと思うし、そう思えないなら違うことをしてもいいよね」と伝えてください。子どもの気持ちを決めつけていないか?子どもの力を信じているか?ご自分の子育てを、少しとらえなおしてみましょう。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てるテニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。最新刊は『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)。
2020年06月11日新型コロナウイルスの影響で学校やスポーツ活動がストップしましたが、6月に入り、日常復帰への兆しが見え始めました。学校再開とともに、スポーツ活動も段階的に再開されるところも増えてきています。そこで今回は日本サッカー協会のスポーツ医学委員を務める大塚一寛先生(上尾総合病院センター長)に「長期の休みを経てスポーツを再開するにあたり、気をつけておきたいこと」をうかがいました。(取材・文:鈴木智之)長期休暇明けはケガのリスクが高まります。休んだ分を取り戻そうと急激に負荷をかけるのは良くないのです■長期休暇中明けのケガリスク、多いのは筋肉系のケガ地域によって異なりますが、自粛によって3か月程度の活動休止を余儀なくされたクラブ、子どもたちはたくさんいます。長期休止が終わり、サッカーを再開するときに気をつけたいこと。それが「ケガ」です。大塚先生は「長期休暇明けは、ケガのリスクが非常に高まります」と注意を呼びかけます。「これは大人の例ですが、かつてMLB(野球)やNFL(アメリカンフットボール)でストライキが起きたことがあり、シーズンが中断しました。再開した後に、選手のケガが通常は10%程度だったものが、40%に跳ね上がった例もありますので、注意が必要です」よくあるケガは「肉離れ」だそうです。長い期間、筋肉に負荷をかけていない状態で、激しい運動を再開したことから起こる、筋肉系のケガです。ほかにも、筋肉が戻っていない状態で運動すると、イメージ通りに体が動かずに転倒し、骨折するなどのリスクがあります。「体力が落ちている状態で身体を動かすと、イメージとしては動けているつもりでも、身体がついていかないことがあります。それがケガにつながるので、足がもつれてねんざしたり、変な手のつき方をして骨折するといったケースに注意しましょう」活動自粛期間中に、オンラインを利用して、トレーニングをしているクラブがたくさんありました。大塚先生は「良いことだと思います」と言います。「ベーシックな体のコアに効くトレーニングや身体の連動性のトレーニングをすることで、バランスを崩す要素が改善し、体幹を含め不安定な下肢の動きを制動できるので、傷害の予防になります」■オンライントレーニングは便利だけど、故障のリスクも......オンライントレーニングで気をつけたいのが、正しい姿勢で行うこと。そして、動かす筋肉に意識を向けることについても、いつも以上に注意深く行うことです。「たとえば、仰向けに寝ている状態でお尻を上げるトレーニングがありますが、これは大殿筋とハムストリング、多裂筋が連動するトレーニングです。しかし、お尻は上がっているけど、大殿筋が収縮せずに、背筋やハムストリングだけで押し上げてしまうと、鍛えるべき筋肉が動いていないことになります。ヒップリフトやスクワットなどは、姿勢や意識する場所が変わると、意味がなくなるどころか、正しく行われないと肉離れなど筋肉系のケガが起きやすくなってしまいます。代償を覚えてしまうことで、腰痛や関節を痛め、パフォーマンス向上につながらないという悪循環が起きます」チーム活動ができない長期休暇中に家でするトレーニングとしておすすめなのがピラティスだといいます。ピラティスとは身体調整法のメソッドの一つで、理想的な姿勢と動作を学ぶことで体全体を整える効果があり、四肢の筋力強化、柔軟性の向上、筋持久力の向上が期待できるエクササイズです。また、ピラティスでは独特の呼吸法と組み合わせながら、脊柱 (背骨) や骨盤などのアライメントを整えることに重点がおかれている動きが多く、運動パフォーマンスの向上だけでなく、リハビリテーションにも用いられることがあります。大塚先生は「翌日に筋肉痛が出るような、少し高い負荷のトレーニングをすると、筋肉は有効につきます」と話し、ピラティスの有効性を次のように語ります。「サッカーに復帰するためには、有酸素能力を高めた上で、高強度のトレーニングをすることが重要です。ピラティスは呼吸を制動しながら、負荷をかけるときに息を吐きます。ドローインをして体幹(胴回り、身体の中心部分)を保持しながら、スクワットやヒップリフトをするので、身体の連動性を高めることができます。1分間のメニューを5本やるだけでも、たくさん汗をかくので、運動強度も高いです。自重トレーニングなのでケガをしにくく、筋肉に良好な負荷がかかります。ご家庭でお母さんとお子さんと一緒にするのもいいと思います」■持久力も一気に戻そうとしては傷害のもと筋肉と同じように、長期休暇で落ちてしまうのが持久力です。大塚先生は次のように述べます。「マラソンのような一定のスピードで走る持久力はそれほど落ちませんが、高強度での持久力は、長期間のオフをとると落ちます。YO-YOテスト(持久力や回復力を見るテスト)のデータを見ると明らかで、30%ほど落ちるというデータがあります。高強度での持久力が衰えているので、一気に戻そうとすると、傷害が起きる危険性があります」サッカーは急なダッシュ、ストップを繰り返すスポーツ。高強度での運動が求められるので、再開に向けて、準備をしておきたいところです。「マラソンのような一定の強度ではなく、ダッシュしてジョグ、ダッシュしてジョグのようなインターバルトレーニングはすごくいいと思います。自分が速いと思うペースで走り、ゆっくりジョギングして、また速いと思うペースで走る、というのを繰り返すと良いです。例えば、30秒だけペースを上げてみて、慣れてきたら60秒、120秒と走る距離を伸ばしていきます。心肺機能を高めるために必要な、最大酸素摂取量を増やすことができます。2、3ヶ月も休むと、酸素を運搬するために必要な毛細血管の数が減ってしまいます。それを回復させるために、非常に効果があります。インターバル走は急なストップ動作がなく、傷害の発生リスクも少ないのおすすめです」ピラティスやインターバル走でベースの体力をキープするとともに、テクニックにも目を向けましょう。■足裏のセンサーが鈍るとパフォーマンスダウンサッカーは、ボールに触っている時間が一番楽しいもの。家の中でも、ボールと遊ぶことはできます。「家の中では、リフティングや足の間にボールを挟むなど、ボールフィーリングを養うことを続けると良いと思います。人間の身体には、固有知覚深部受容器というものがありまして、ソールが硬い靴を履いて歩くと、足裏の感覚が鈍くなります。長期間ギブスをした状態をイメージすると、わかりやすいかもしれません。固有知覚深部受容器というセンサーが鈍るとパフォーマンスが落ちるので、ボールに触る時間を意識的に作りましょう」家の中で柔らかいボールを使って、ドリブルやリフティングをしたり、壁に向かって蹴ることも、立派なトレーニングです。練習再開に向けて、家庭でできる準備をして、外で思いっきりボールを蹴ることのできる日を楽しみに待ちましょう!大塚一寛(おおつか・かずひろ)医師、上尾中央総合病院整形外科・スポーツ医学センター長。1999年からJクラブのドクターとしてチームとともに帯同を続けている。そのほか、『日本サッカー協会スポーツ医学委員』や、『Jリーグチームドクター会議部部会長』を務める。多数の講演にも出演し、現場のノウハウや選手のケガ、障害予防などの啓発活動も積極的に行っている。上尾中央総合病院・スポーツ医学センター日本サッカー協会スポーツ医学医員
2020年06月08日令和最初の全国高校サッカー選手権で優勝を果たした静岡学園高校。今年78歳となる井田勝通総監督にとっては96年の鹿児島実業との両校優勝以来、24年ぶりの選手権優勝となりました。テクニックと個人技を大事にし、見る者を魅了する「静学スタイル」を確立させた井田総監督が、今だからこそ若い指導者たちに伝えたいことは何か。指導者として大事なことを伺いました。(取材・文:元川悦子写真:森田将義)(C)森田将義■負けた悔しさを糧に努力して初めて頂点に立てる「清々しい青空、満員の観客の中で、美しく華麗で見る者を魅了する学園らしいサッカーを見せて、選手権の単独制覇を果たす。それが俺の夢なんだ」96年1月の第74回高校サッカー選手権大会で鹿児島実業と両校優勝を成し遂げた後、静岡学園の井田勝通監督(当時)は悔しさをにじませました。それから24年の月日が経過した2020年1月、静学は悲願の単独優勝を達成しました。井田監督はすでに現場を退き、総合監督としてベンチに入っていましたが、教え子である川口修監督や齊藤興龍コーチらが自身の哲学を貫き、選手を育て上げ、成果を挙げたのだから、感無量だったはずです。「修も監督になって10年目。優勝するまでには本当に長い時間がかかるもんなんだよ。俺自身も昭和51年度(1976年度)に初めて選手権決勝まで勝ち上がり、国立競技場の大舞台に立ってから、両校優勝するまで19年もかかったんだから。今のユース年代でトップを走る青森山田の黒田(剛監督)だって、柴崎岳(ラコルーニャ)を擁した2010年度の高円宮杯全日本ユース選手権の時は、1次リーグで学園に負けて敗退するくらいのレベルだった。『生みの苦しみ』というのはスポーツ界全体に共通するもの。負けた悔しさを糧に努力して初めて頂点に立つことができる。それを多くの指導者が体験し、理解してほしいな」と名将はしみじみ話していました。■かつては小嶺監督(現:長崎総合)の朝練を学びに行ったことも井田前監督が静学の指導を始めたのは1972年12月。当時の日本サッカー界は1968年メキシコ五輪銅メダルの原動力になったドイツのデッドマール・クラマー氏のメソッドが中心でした。当時のドイツは4-3-3のスイーパーシステムがベースで、3人のDFの後ろにもう1人のDFを置いてセフティに守るという考え方がよしとされていたのです。しかし井田前監督は3バックのゾーンで守って、ドリブルとショートパスでゆっくり攻めるラテンスタイルのサッカーを志向しました。原点となったのが、17歳の時に衝撃を受けたブラジルサッカーの王様・ペレ。彼のような選手を育て、人々を驚かせるサッカーをしたいという理想を掲げてスタートしたのです。「当時の俺はガムシャラだった。島原商の小嶺(忠敏=現長崎総合科学大学付属監督)の朝練がすごいという話を耳にして、1週間泊まって毎日勉強したこともある。小嶺の練習はボールを使ってキックやパス、ヘディングなど基本技術を磨く内容で一般的なものだったけど、『俺たちも朝練をやらなきゃダメなんだ』と分かって、朝5時半から毎日、練習をやるようしたんだ。今の時代は学校もうるさいから早朝練習もやりにくいけど、指導者に情熱がなければ子どもは教えられない。朝練ができない環境なら、子どもたちに『自主練をやらなきゃいけない』という気持ちにさせる工夫をしなくちゃならないんだ」■マニュアル通りの指導ではコピーを生むだけ「今の時代は指導者が勉強できる環境が整っているし、海外から有名クラブの指導者がやってきてセミナーや講習会も受けられる。バルセロナのコーチの話を聞いてそれを取り入れるだけで強いチームを作れるなら全員がそうするはずだ。サッカーはそんなに単純じゃない。日本サッカー協会の指導者マニュアル通りに指導しても画一化が進むだけ。コピーをしてるだけではオリジナリティは生み出せない。そこは声を大にして言いたいところだよ」とゼロから1つ1つ道を切り開いた名将は含蓄ある発言をしています。昨今の子どもたちが個性やオリジナリティに欠けているというのは、サッカーに限った話ではありません。教育現場でも同様の傾向が進んでいると言われています。「何事も言われた通りに動くのがいい子」という一般的な評価基準では、際立った才能のある人間は出てきづらいのは確かです。そのあたりに井田前監督は警鐘を鳴らしています。■行動を起こさなければいつまでもコピーから抜け出せない「最近の日本では『I can do for you(あなたのためにやってあげる)』ではなく『You can do for me(私のためにやってください)』という発想が目立つ。受け身や指示待ち人間も多い。そういう教育ばかり受けていると、自分からアイディアを出したり、創造性を発揮して物事を起こすような人間になるのは難しい。サッカー選手もそうで、特にJリーグの下部組織にそういう子どもが多いと感じる。型にはまっていた方が楽だし、安心なのも分かるけど、それじゃあ本当に見る者を魅了するようなプレーはできないんだ。俺自身は破天荒なタイプだから、何度も協会から怒られた。『なぜドイツ流のスタイルでやらないんだ。日本人はもともと技術的に劣るからそのサッカーが一番合っているのに』と言われたこともある。でも異端児の自分はその考えに賛同できなかった。『絶対に人のコピーはしない』とむしろ燃えてきたよ(笑)。自分らしいサッカーを追求するためにはどうすればいいかとつねに考え、毎年のようにブラジルに足を運んだ。そうやって行動を起こさなければ、いつまでもコピーからは抜け出せない。今の時代は情報が多い分、オリジナリティを前面に出すのは難しいと思うけど、『新しいものを生み出すんだ』という情熱を持ってやってほしいよ」燃えたぎる情熱が信頼できる教え子たちに引き継がれ、静学は約50年がかりで1つのスタイルを確立するに至りました。確固たる信念がなければ、成功もありえないということを、井田前監督は改めて私たちに教えてくれたのです。(後編に続く)井田勝通(いだ・まさみち)サッカー指導者、静岡学園高校サッカー部総監督1942年3月、満州・奉天(現瀋陽)生まれ。静岡高校、慶応大学を経て、静岡銀行に入行。サッカー指導は慶応大学時代からスタートし、72年12月に静岡学園高校のプロコーチとなる。ブラジルスタイルの個人技時主体のサッカーを追求し、77年正月の第55回高校サッカー選手権で準優勝。96年正月の第74回選手権で鹿児島実業と両校優勝。2020年の第98回選手権で24年ぶりの優勝を果たした。2009年に監督勇退後、総監督として現在も公式戦のベンチに入っている。
2020年06月03日緊急事態宣言が解除された地域から学校の分散登校などが始まっているかと思います。地域の状況を確認しながらサッカーのチーム活動なども再開していくかと思いますが、長期休暇で運動不足が心配な親御さんもいるでしょう。チームとしてもケガのリスクなどを考え、いきなり高負荷のトレーニングを行うことはないと思いますが、ケガ予防のために家でできることがあります。これまで、運動したくても中々外に出れず「体を動かしたい」という気持ちを制御するのが難しい子どもたちに、少しでも笑顔になってもらえるように、家でどんなトレーニングを行えばいいか、選手たちからの意見を基にした動画を紹介してくれたジェフユナイテッド千葉・市原レディースや暁星国際女子サッカー部に帯同するアスレティックトレーナーの大橋優花さんが、今回は自宅でできるストレッチを教えてくれました。最終回となる今回は、骨盤の歪みや姿勢が崩れる原因にもなる股関節内転筋を伸ばすストレッチを紹介します。サッカーでけが予防のリスクを減らすためにも、正しい姿勢は大事であり、それを実現するためにも股関節周りの柔軟性を上げることは重要なことなのです。股関節内転筋が硬いとその周辺の筋肉にも影響を与え、骨盤の歪みからくる姿勢の崩れなどにつながります。また、内転筋を含む足の内側の筋肉は身体を支えるために重要な機能を果たしますので、当たり負けしない強い身体になりたい子はぜひやってみてください。大橋優花(おおはし・ゆうか)アスレティックトレーナー、健康運動指導士、柔道整復師、サッカー・フットサルC級指導者帯同チーム:ジェフユナイテッド市原・千葉レディース、暁星国際女子サッカー部
2020年05月25日