動物園を間近に感じて暮らす共働きの野添聡司さん、真由美さん夫妻は、お互いの通勤の利便性を考え、土地探しをスタート。2年近く経ったときに探し当てた土地は、横浜屈指の人気エリアで、駅からも程近い南向きの傾斜地。住宅密集地でありながら素晴らしい眺望が魅力だった。「一目惚れでした」とは真由美さん。南側には、動物園のある小高い丘があり、四季折々に変化する樹木が臨める。時折、動物の鳴き声が聞こえてきたり、キリンの頭がのぞいたりと、ワクワクする風景が広がっている。「住んでみて、これほど動物園を近くに感じるとは思いませんでした(笑)。ほかにも船の汽笛や野球場の歓声なども聞こえてきます」土地探しから相談し、設計を依頼したのはイマジョウデザイン一級建築士事務所。素材の良さを生かしたシンプルで端正な作品に魅かれたという。「今城さんが最初に描いてくださったざっくりとした図面から、自分たちで模型を造って立体に起こし、ミニチュアで造った家具を置いてみたり、あるアングルから写真を撮っては“こういう風に見えるのか”と確認したりして、イメージをふくらませていきました。自分たちで造ることが好きなので、そういう作業が楽しかったですね」(真由美さん)職場は異なるもののデザインの仕事をしているお2人。すでに解体してしまったという模型の写真を見せていただいたが、それは現在の住まいにかなり近い完成度の高いものであった。南向きの傾斜地に建つ。眼下には住宅街が広がり、その先の小高い丘に動物園を有する公園がある。「あ、キリンの頭が見えた!」と薫ちゃん(6歳)が教えてくれた。ダイニングに座りながらも景色が楽しめる。「動物園の“サルの餌やりタイム”には、にぎやかなサルの声が響き渡ります(笑)」と聡司さん。気持ちのよい眺めを得たキッチン「フロアごとに役割を明確にしたかった」という真由美さん。1階は収納や水回りなどの機能面を詰め込み、2階は家族で豊かな時間を過ごす場に。そして、基礎を兼ねた地階は完全プライベートなスペースとし、生活と空間にメリハリをつけた構成にした。テラスと一続きの2階リビングは、内と外が一体化した広がりのある空間。眺めの良さを最大限に活かした造りになっている。フルオーダーのアイランドキッチンを家の中央に配し、ダイニング中心の生活を選択した。「家に居る時間はキッチンに立っていることが最も長いので、ここから眺望を楽しみたいとリクエストしました。ここからのビューは最高ですよ!思い思いのことをしている子どもたちを近くに感じ、安心して家事ができますね」特注の大きな窓のサッシは引き込み式で、レールも落とし込んでいる。フルオープンする窓を通して見る景色は、まるで1枚の絵のよう。季節や空の移ろいなど美しい風景がもたらす非日常感を堪能できる。また、野添邸ではテレビの代わりにプロジェクターを導入。真っ白な壁に移し出された映像を、ソファ代わりとなる小上がりから鑑賞している。多彩な楽しみを届けてくれる2階リビングは、心を豊かにする寛ぎの場となっている。キッチンからの眺めを重視し、家の中央に配置。テラスへと視線が抜け、のびやかな気持ちで料理ができる。ダイニングセットは友人の家具職人にオーダー。「ウォールナットの細かい材を組み合わせたモザイクっぽい感じが気に入っています」(真由美さん)。最後まで悩まれたという照明は、景色やプロジェクターで映し出す映像を邪魔しないようにスポットライトを採用。手元までしっかり明るく照らすプロ仕様のもの。キッチンは建築家の今城さんがデザインした造作。ステンレスの天板と真っ白なキッチン台を濃いめの床材が引き立てる。壁のタイルは野添さん夫妻で貼り付けた。夫婦でキッチンに立つことも多いため、作業場所を分担しやすく動きやすいよう回遊性のあるアイランドタイプを採用。冷蔵庫は奥のパントリーに収納。食洗機から取り出した食器は最短距離で仕舞えるようにと、収納場所を考え尽くしている。ゴロゴロできる小上がりを希望。対面の壁に映し出された映像は、ここから鑑賞する。薫ちゃんがオモチャを広げたり、客人の宿泊スペースとしても活用。床材と同じアピトン材のローボードは聡司さんが造作したもの。ベンチとしても使用可能。撮影時は、組み木のひな人形が可愛らしい空間のアクセントになっていた。キッチンと階段の間の壁に設けた小窓は今城さんのアイディア。「繊細な造り込みが素敵ですよね」と真由美さん。1階に機能面を集中させる中間階である1階に、家族4人の衣類や小物を全て収納するクロークルームと、バスルームや洗濯室、洗濯物を干すテラスなど、機能面を集中させた。動線を考え尽くし、毎日の家事を楽しめるように演出されている。また、野添邸の特徴のひとつであり、センスの良さが光るのがエントランス。引き戸を採用し、大きく開放することで、雨がかりのないポーチから玄関ホール、サニタリールーム、階段室などがつながり、趣のあるスペースが生まれた。「それほど面積のある家ではないので、玄関だけとか洗面所だけといった空間を仕切るより、スペースを兼ねて有効活用してもらいました」(聡司さん)外と室内の境界をあいまいにしたことで、聡司さんが趣味の日曜大工をしたり、植物好きの真由美さんが土いじりをしたりするのに便利と話す。「洗濯物を干しながら、玄関ホールを通して階段の方をふと見ると、ああ、いい家だなぁって思いますね(笑)。超特急で家事をしている中でも癒される瞬間です」(真由美さん)開放的な玄関ホール。引き戸により開口部が広く取れるため、作業するにも便利。洗面台脇のカーテンで仕切ることも可能。玄関脇の外収納。聡司さんが作製した棚により、長男の野球道具やキャンプグッズがぴったり収まっていた。土間ではなく外のポーチにしたことで掃除も楽とのこと。「手入れの楽なものを植えている」という玄関前の植栽。程よく伸びたハイノキ(右側)が、目隠しの役割も。温かみのある木製の引が戸が印象的なエントランス。引き戸を開け放つと、玄関前のアプローチから、玄関奥の物干しテラスまで視線が抜ける。1階には、洗濯の動線を考えて配置したサニタリールームや物干しテラスがある。左側に設けた壁が、玄関からの程よい目隠しになっている。フレキシブルに住まうコンクリート造の地階は広々としたワンルーム。急勾配の敷地を活かして設えた窓からは、地下とは思えないたっぷりの光が入る。現在は、ベッドルームと子どもたちの勉強スペースとして使用している。「地下はいかようにもできるように、がらんどうの状態にしてもらいました。子どもたちの成長や生活スタイルによって変化していくと思うので、住みながら考え、変えていければいいかなと思っています」(聡司さん)この部屋の大きな収納は聡司さんが造ったもの。大作と思いきや「作製期間は1週間くらい」とのこと。「市販のベニヤ板の長さがちょうど収まったので、それを組み合わせて造っただけ。解体するのも簡単です」と。そのときどきの家族のニーズに合わせて変化できる自由度の高いスペースとしている。共働きの野添さん夫妻は、家事は明確に分担するわけではなく、それぞれの仕事の忙しさによって「できるほうがする」というスタンス。家づくりも対等で、お互いが納得するまで話し合いを重ねて形にしていったという。今後も対話を大事にしながらお2人らしいエッセンスを加え、時が経つほどに愛着が深まる住まいとなっていくことだろう。地階とは思えないほど、大きな窓から日差しが入る。カーテンで目隠しした大型収納は聡司さんが作製したもの。撮影時には会えなかった長男の晃(ひかる)くん(13歳)は、リトルシニアリーグ(硬式野球)で活躍中。最近、勉強に集中できるようにと、ロフトベットを入れた。収納の階段側は本棚を造作。壁にぴったりくっつけず、回遊性をもたせた。野添邸設計イマジョウデザイン一級建築士事務所プロデュースザ・ハウス所在地神奈川県横浜市構造木造(1階、2階)+RC造(地階)延床面積103㎡
2020年03月16日