2023年5月20日 14:00
【レビュー】韓国映画の母と娘の幻想を打ち破るリアリズム『同じ下着を着るふたりの女』
その男も酷いもので、どこか「夫婦の世界」のあの夫のようなところがある。お互い、うまくいかなくなった母娘ふたりは再会して、また同じ食卓を囲んでしまうのだ。
キム・セイン監督は本作を、『パラサイト 半地下の家族』のポン・ジュノ監督や『バッカス・レディ』のイ・ジェヨン監督、上記の『ひかり探して』のパク・チワン監督らを輩出した韓国映画アカデミー(KAFA)の卒業制作作品として手がけた。
東京フィルメックスで本作が上映された際には、「最初に企画概要を書いた当時、母親に対するネガティブな感情をここまでむき出しにした作品は他になかった。他人には共感できない私だけの感情だったら……と不安になり、母子関係の本をたくさん読みました」と吐露し、「(精神科医の)斎藤環さんや(「母がしんどい」の)田房永子さんの漫画といった日本の本にも感銘を受け、スタッフに配って一緒に読みました」と語ったことがある。
「なぜ、この女が母親なのか?」一度もそう思ったことのない娘は幸せなのかもしれない。愛憎が積み重なり抑圧されてきた娘と、それに対してあまりに無自覚で毎日を生き抜くしかなかった母との終わりのない闘い。母と娘のふたりのぶつかり合いは、それはそれは痛いもので、血も付きまとう。