2010年9月14日 19:12
美しき男たちvol.1 『シングルマン』を彩るファッションと美学
何もないところからイメージを築き上げ、それを現実のものとするスタッフとともに、ひとつの世界観を作り出す。この作品は、例えるならば、トム・フォードが心血を注いだ渾身のコレクションであり、一着の最高に美しいタキシード。彼が創り上げたもうひとつのマスターピースと言えるでしょう。
さて、そんなトム・フォード作品ですから、衣裳はもちろん、温か味のあるミッドセンチュリー的インテリア、主人公の心情にあわせて変わる色彩など、ビジュアルはすこぶる素晴らしく、彼の美意識の集大成としても一見の価値アリです。でも、それだけではないのが彼の“本物”たる所以。きっとビジュアルばかりにこだわったように見えたら、先入観も手伝って、トム・フォードが自ら作ったブランドのイメージビデオに見えたかもしれません。そんなリスクを免れたのは、彼が持つ映画的な言語センス。音楽の選び方、セリフの粋、適切なキャスト…。
全てに総合的な芸術センスが感じられるのです。そのシーンが単に見かけだけ美しいわけでなく、どんな意味を持ち、何を含んでいるのか、未来への暗示をきちんと表現しているあたりに、思わずニヤリ。
例えばそれは、監督自らがミラノでこれだけは作らせたという、コリン・ファースとニコラス・ホルトの衣裳からも分かります。