戦争という時代にも笑いを生み出そうとした人間の喜劇「円生と志ん生」
もっとも足止めをくらっているのはふたりだけではなく、大連にいる20万の民間人も同じこと。いつになったら日本に帰れるのか、それは誰にもわからない。
お酒と賭け事が大好きで、テンポの良い軽妙な芸を得意とした兄弟子の志ん生と、心にしみる人情噺を得意としたマジメで細かい円生。
性格も芸風も正反対のふたりだが、日本に帰るその日まで、なんとか手を取り合って生きていくことに。
後に「昭和の大名人」と呼ばれるようになる円生と志ん生は、満州での約2年間をどう過ごしたのか――。
飢えや寒さはおろか、ロシア兵に殺される危険やシベリア送りになる不安を抱えながらも芸を磨き続けたふたりの噺家の物語を、歌と笑いを盛り込んで描いた傑作喜劇。
左から円生役の大森博史、志ん生役のラサール石井(2017年こまつ座東京公演、撮影:谷古宇正彦)
■悲しみの奥から、言葉と笑いと音楽の力がほとばしる
実はこのお芝居の背景、円生師匠と志ん生師匠が敗戦後の満州から帰国できなくなり、引き上げ船を待ちながら現地でぎりぎりの生活を送ったことは、紛れもない事実です。
ふたりの芸が真に花開いたのは、帰国後のこと。
ならば、この大連での日々はどのようなものだったのだろう?史実をもとに作家がそんな想像をふくらませ、深く面白く掘り下げたこのお芝居「円生と志ん生」