2016年1月21日 12:00|ウーマンエキサイト

31音にこめられた言葉の結晶 現代を生きる歌人たちがつむぎだす短歌

以前、「職業・女優」というキャッチコピーがありました。確か、確定申告のポスターだったと思います。

目次

・21世紀の歌人がつむぐ、仕事のうた
・21世紀の啄木たち


積み重なった本とメガネ

(c)jy cessay - Fotolia.com



女優は舞台や映画に出演し、お芝居をすることで生活をしています。また、小説家は物語を書き、漫画家は絵を描き、ストーリーを練るのが生業(なりわい)です。

ところが歌人は、短歌をつくるだけでは生活はできません。そのため歌人のプロになっても、皆それぞれに仕事を持っています。

だからこそ、創作としてつくりあげるのではない、現場の、臨場感あふれる職場うたが生まれるのです。

なかでもわかりやすくて、リアリティーある作品を紹介します。


■21世紀の歌人がつむぐ、仕事のうた

「皮膚科医の要らぬ性なり街なかで 義髪がすぐに見抜けることも」 
「訊かざれど皮膚は語れり俯ける 少年の腕の煙草の跡よ」
医師:久山倫代「星芒体」

皮膚科の医師である作者。もしも、皮膚科医でなければ、義髪も、たばこの跡もわからなかったことでしょう。

けれども、勤務時間が終わってからも、また別件で診察をしていても、意識してしまう医師としての〈性〉を、シニカルに描いています。

歌集のタイトル「星芒体」(せいぼうたい)はあとがきによると、「ある種の皮膚疾患の組織標本の中に見られる美しい物質」とのこと。

なるほど。さすが、専門家ならではの着眼点です。

「〈馬〉といふ漢字を習ひみづからの 馬に与ふるよんほんの脚」
「日本語の日記見せにくる学生の 助詞の欠落のみ補いつ」
日本語教師:大口玲子「海量」

母国語でない言語を習得するのは難しい。なぜなら正確な発音や、文法を覚えなければいけないから。


その反面、外国人が達者すぎる日本語をあやつると違和感があるときも。日本語教師の作者は懸命に漢字を覚える学生に、もどかしさと初々しさの両方を感じています。

初心の時期にしかない輝きは、美しい反面、痛々しさも秘めているのではないでしょうか。

「平身低頭謝っている鼻先で 羊羹2ミリ動いたようだ」
「身のほどを知れと言われて大いなる 机かついで帰りぬ」
会社員:奥田亡羊「亡羊」

緊迫感がある場面とは裏腹に、作者の視線はわずかに動いた羊かんや、大いなる机といったこまかい部分に注目しています。

■21世紀の啄木たち

石川啄木が、「はたらけどはたらけど猶わが生活(くらし) 楽にならざりぢつと手をみる」と、詠んでから約100年がたちました。

さて現代の歌人は、時代と生活をどのように表現しているのでしょうか?

「たぶん親の収入超せない僕たちが ペットボトルを補充してゆく」
山田航「さよならハグ・チルドレン」

「手をつたう洗剤の泡アルバイト やめていいよと今日も言えずに」
山田航「短歌」(2015年10月号)

近年は、非正規雇用が急増。とくに男性にとって、結婚にふみきるのも度胸がいるのでしょう。21世紀の啄木ともいえる作品です。



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