藤井二冠も師匠には素の18歳に 筆者語る「棋士師弟は唯一無二」
幼少時から「天才」と呼ばれる子たちには注目が集まり、特別な存在として扱われることは、思い上がる気持ちを生みやすい。指導者は本人だけでなく、その両親の子どもへの対応からも、プロになれる資質を見極めるといいます。杉本八段は、藤井二冠のご両親がとてもしっかりした方であると話しています。藤井二冠の礼儀正しさ、謙虚さは、家庭環境や師匠の姿から習得されたものかと思います。才能は根を張る環境に大きく左右されることを、師弟の関係を見つめる中で強く感じました」
■将棋界の師弟は無償の愛で結ばれた関係
将棋界ならではの師弟関係を表す言葉として、「恩返し」という表現がある。これは、弟子がプロ入り後の公式戦の対戦で師匠に勝利することを意味する。
「『恩返し』が弟子が師匠に勝つこととして語られるのは、将棋界独特の慣習のように思われていますが、実際にはどの師匠も『そんな恩返しはいらない』と言っています(笑)。多くの師匠が言う“真の恩返し”とは、師匠が勝てなかった相手に弟子が勝ってくれることだと。
中田八段は弟子の佐藤が羽生善治から名人位を奪取する姿を、一人自分の部屋で中継を観ていました。自分が追いきれなかった羽生の背中を、愛弟子が捉えようとしている――。