『ふたりの人を愛し…』歌人・永田和宏語る故・河野裕子さんとの青春
翌年に裕子さんと運命的に出会う。46年生まれで1歳年上、京都女子大学2年だった裕子さんとの初対面は、学生たちの短歌同人誌『幻想派』創刊の顔合わせでのこと。
「白いブラウスの彼女はいかにも繊細そうでいて、ちょっとしたことにもよく笑った。無防備な天真らんまんさと、不思議なキャラクターを感じました」
お互い意識してはいるものの、「一目ぼれ」とはいえない初対面。それが「思慕の情」へと急進していくのは、その3カ月後の10月、2度目に会ってからとなる。
「京大近くの喫茶店に先輩に連れられて行くと、河野も偶然、先輩と一緒に現れたんです」
10月14日の裕子さんの日記には、心躍るさまが描かれている。
《永田さん、一目で好きになったほんの一瞬の間でもやはりこころは傾いてしまう彼はふかくて寂しくて厳しい人のようだ》
弱冠21歳の胸に、永田さんが、にわかに入り込んだ瞬間だった。
一方、恋愛経験は「皆無に等しかった」永田さんの胸中も……。
「僕が話しだせば必ず相づちを打って反応してくれる。自分の思いを重ね、質問したりするので話が途切れず、すぐに時間が過ぎていく。そんなことで月に一度会う間隔が、週に二、三度となるのにそう時間はかかりませんでした」