2022年9月25日 06:00
精神科医・香山リカさん 北海道で僻地医療を「自分をだますのはやめました」
「’19年7月、母が87歳で亡くなりました。晩年には『あなたのやりたいことをやるのがいちばんよ。楽しみなさい』と言っていたのが印象的でした……」
その年末には、アフガニスタンで30年以上、医療、治水などの総合的な支援に尽力した中村哲さん(享年73)が凶弾に倒れるという悲報に衝撃を受けた。
「医師の偉大な先輩として尊敬していました。こんな方が非業の死を遂げ、私のような人間が、のうのうと生きていていいのかと」
■「一隅を照らす」――僻地医療こそ自分が手伝える場所と肝に銘じて
それまでの香山さんは、教授や執筆、講演など、医師以外の顔を多く持つことで「逃げ場にしていた」と自身で振り返っていた。
「頑張りすぎない」ことで精神的なバランスが保てるという持説は、自ら実践してきたものだ。
でも、香山さんは今回、自分の使命と真正面から向き合うことに決めた。
それは、「医療が行き届かない場所で、医師としてのキャリアやスキルを生かすこと」だったのだ。
’20年、60歳になる年の香山さんを妨げるものは何もなかった。
まず海外赴任の道を描き、緊急医療のNGO「国境なき医師団」応募を考えたが、英語力や救急スキルなどのハードルが高く断念。