2023年11月10日 13:10
懸命に生きるすべての人々へ贈る鎮魂劇 ―『ガラスの動物園』『消えなさいローラ』オフィシャルレポート
※※※ここからネタバレを含みます※※※
吉岡・和田・渡辺が演じる三者三様の《女》の魅力
開演前に流れていた伝説のロックバンドPYGの「花・太陽・雨」、ヘルマン・ヘッセの詩を曲にしたロックバンド頭脳警察の「さようなら世界夫人よ」から渡辺の意思表明を感じることができ、『ガラスの動物園』は遠くアメリカの昔の物語ではなく身近な家族の悲喜劇である、と導かれたように思う。また、社会情勢を思い起こす効果音では、忘れてはいけない痛みを胸に刻み付けられた感覚を得た。
『ガラスの動物園』は《追憶の劇》であると作家は明確にしているが、さらに《トムの脳内》であると強く打ち出した渡辺の演出は愉快だった。戯曲ではトムが登場しないシーンにも、松也は舞台に居る。ミュージシャンへ指揮をしたり、物を書いていたり、登場人物の様子を眺めていたり、思わず微笑んでしまうチャーミングなシーンも。それは回想するトムの姿でもあり、作家ウィリアムズの姿でもあり、観客の一人でもあり。松也の豊かな表現を堪能できるうえに、作品をより立体的に感じられる。
『ガラスの動物園』尾上松也
非常に繊細で情緒不安定な姉ローラに明るさを加えた吉岡里帆の表現はとても良かった。