贈りものをするとき、仕事の資料を送るときなどに、「一筆箋」を利用する方も多いのではないでしょうか?ただ送るだけではなく、ひとこと添えたい。そう感じたときに使える、短冊状の細長い便箋のこと。紙質やデザインも豊富なので、選び方で自分らしさをアピールすることも可能。ただしこれまで、その魅力や効果について書かれたものは、ほとんどなかったかもしれません。そこでおすすめしたいのが、『心が通じる ひと言添える作法』(臼井由妃著、あさ出版)。タイトルからも想像できるとおり、一筆箋に「ひと言を添える」ことの大切さを記した書籍です。そしてそこからさらに奥深く、「ひと言添える」という好意の大切さについても言及しています。でも、「ひと言」とは「ひとつの言葉」という意味です。たったそれだけで、本当に思いは伝わるのでしょうか?■人の心は「ひと言」で変わるどんな人でも「大切にされたい」と願うもの、だからこそ、そんな心のうちを察してくれる人がいたら、本当にうれしく感じます。たとえば知り合いが、「◯◯さんが探していたバッグを見つけました。お店のアドレスはhttp:××××です。お役に立てればうれしいです」など、自分の好きなことについての情報を教えてくれたら、それだけでうれしいはず。「なんて気が効くのだろう」「これほどまでに自分を大切に思ってくれているんだ」と、少なからず相手に対して好意を持つのではないでしょうか?たったひと言なのに、その効果は絶大だということです。■「うまいひと言」は必要なし「うまいひと言なんて、自分には無理」と難しく感じるかもしれませんが、うまいかどうかは関係なし。相手にとって「耳寄りな情報」であれば、それだけで充分だと著者はいいます。簡単にいえば、「相手のことを知っている自分だからこそ」気づいたことを言葉にして、一筆箋に書き添えればいいだけのこと。そのひと言があるかないかで、お互いの印象は大きく変わり、相手を喜ばせることができるというわけです。さらには相手に、「あなたは私にとって大切な人」というメッセージまでもが相手に届くのだとか。さりげないひと言が、心のつながりを強くしてくれるということです。■案内状にひと言添える意味ひと言の効能は、一筆箋だけでしか生きないわけではありません。たとえば、印刷物にひと言添えるだけでも、大きな意味があるのだといいます。結婚式や発表会などイベントの案内状、転居・転職などの案内状をいただくことは少なくないと思います。そんなとき、印刷された文言だけだと儀礼的に感じるものの、そこにひと言、手書きで添えられていたとしたら、ちょっと温かな気持ちになるのではないでしょうか。それが自分のことを思ってのひと言であればなおさら、「この人はきちんと見てくれている」と親近感が芽生えてくるものです。■どんなひと言を添えてもOKしかし、これについても難しく考える必要はまったくなく、書き添えるのはどんなひと言でもOK。ただし当然ですが、相手が喜んでくれそうなものにすることは必須です。たとえば、「お元気ですか?」「お会いしたいですね」「お元気でご活躍のことと存じます」などの決まり文句は、便利ではあるものの「ビジネスライクだな」「どうせ社交辞令でしょ」ととられてしまいがち。また、「ぜひ顔を見せてください」「いらっしゃるのを期待しております」といった「年を押すようなひと言」は、「大変そうだな」と余計な心配をかけてしまう可能性があるといいます。■相手の顔を思い浮かべようちなみに著者は、印刷した手紙を送るときには必ず、相手の顔を思い浮かべ、より念入りに相手にふさわしい言葉を考え、添えるようにしているのだといいます。印刷物に、手書きで長々と綴るのは野暮というもの。ほんの1行、手書きで添えられているからいいのです。しかも、あくまでさりげなく。そうやって引き出された「ひと言」が、コミュニケーションを円滑にしてくれるということです。*著者はもともとしゃべるのが苦手で、書くことにも苦手意識を持ち続けていたのだそうです。ところがあるとき、自分に届いた一筆箋に勇気づけられたことから、自分でもそれを活用することになったのだといいます。そしてその結果、社交性まで身につけることができたのだとか。そんな効果もあるのだとすればなおさら、一筆箋利用すべきだといえそうです(文/書評家・印南敦史)【参考】※臼井由妃『心が通じる ひと言添える作法』あさ出版
2015年11月06日『「どこでも通用する人」に変わるリクルートの口ぐせ』(リクルート卒業生有志著、KADOKAWA)は、リクルート出身者たちが、同社で飛び交っていた独特の口ぐせを紹介したユニークな書籍です。リクルートという企業の特色として思い出浮かぶのは、多くの “卒業生”がさまざまな業界で活躍しているということ。だからこそ、「人材輩出企業」などと言われたりもしているわけです。つまりここで紹介されている「口ぐせ」を応用することができれば、それがステップアップの足がかりになる可能性があるわけです。そこで本書のなかから、「数字にまつわる口ぐせ」をご紹介してみることにしましょう。■1:「この3カ月で、どれだけ成長したの?」「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」これはリクルート創業者の江副浩正氏が社長だったころの社訓であると同時に、リクルートのスピリットを凝縮したものだそうです。端的にいえば、「自主的に動いて成長を目指せ」ということになるかもしれません。事実、ここで紹介されているスタッフも新人時代、複数の人から次のように言われ続けたのだといいます。「この3カ月で、なんの機会をつくった?どれだけ成長した?」飲み会の席でそう聞かれ、「いやぁ、新人の自分は、まだそんなこと答えるには早いですよ」などと答えようものなら、先輩に「ばか野郎!」と怒られるのだとか。つまり、新人であろうが常に成長していかないといけない。そして機会は与えられるものではなく、自らつくり出すものだということです。■2:「小さな黒字より、社会への影響力!」どんな事業でも、黒字で利益を出すというのが普通の考え方。だから当然のことながら、赤字を喜ぶ経営者や社員などいません。ところがリクルートでは、「健全な赤字」という言葉が使われていたのだそうです。たとえば同社が生み出した雑誌『エイビーロード』や『カーセンサー』は、創刊後しばらくは赤字が続いていたのだといいます。しかし、この場合の赤字は後ろ向きなものではなく、むしろ前向きなものだったというのです。なぜなら当時、旅行にしても中古車にしても、それまでユーザーが個別に集めていた情報を1冊にまとめて「くらべて選べる」ようにした全国規模の媒体はなかったから。それに、「健全な赤字」が必要な理由は、どんな事業も必ず変遷していくという前提があるからだといいます。社会の変動に対処できるように、違う領域に自ら行動していかないといけないということ。「これまでにないもの」をつくるためには、赤字に耐えることも含めてエネルギーがかかるもの。しかし、それをあえてやるのがリクルートという組織だというわけです。赤字という言葉は、人をネガティブな気持ちにするもの。しかし、そこに変革への想いが込められ、みんなでそれを共有できれば、勇気をもたらす原動力になるということ。事実、「小さな黒字より社会への影響力」という思いをもとに行動したある部門は、そののちリクルートの稼ぎ頭になったといいます。新しいことにチャレンジするときは、目先のことは気にしなくていいという考え方の好例だといえるのではないでしょうか?■3:「同じことを3年やっていてはダメ。」同じことを変わらず、ずっとやり続ける。常に新しいことをやるために、返歌し続ける。どちらも大切なことではありますが、リクルートの価値観は圧倒的に後者にあったのだといいます。でも、新しいことをやるというのは、正解がないなかでの仕事になるということでもあるでしょう。なのになぜ、リクルートは常に新しいことに取り組めるのでしょうか?それを嫌だと考えないのはなぜなのでしょうか?ここで重要なのは、同じようなことをしていても進歩は望めないということ。事実、社内では「同じことを3年やってちゃダメだ」としょっちゅう言われるのだそうです。そしてそのために意識しておくべきことは、「会社が仕事の中身まで全て用意するのではなく、あくまで基本は、自ら手を挙げて仕事をつくる」ということ。仕事を待っていても仕方がないので、自分からせっせと社内営業をするのは当たり前のことだというわけです。事実、スタッフが自分のために考えついて始めた小さな仕事が、のちに立派な事業になることも珍しくないのだとか。自分の仕事の幅は、常に新しいことにチャレンジし続けることで広がっていくもの。だから、同じことを3年やっていてはダメだという考え方です。*一般的な企業では考えられないようなことも含め、他にもリクルートならではの流儀がぎっしり。日常的に言葉に置き換えられていたというそれらは、他の多くの企業にも多くのヒントを与えてくれそうです。(文/書評家・印南敦史)【参考】※リクルート卒業生有志(2015)『「どこでも通用する人」に変わるリクルートの口ぐせ』KADOKAWA
2015年11月05日『「仕事ができるやつ」になる最短の道』(安達裕哉著、日本実業出版社)の著者は、世界4大会計事務所のひとつである「Deloitte」に12年間在籍した実績を持つ人物。コンサルタントとして大企業・中小企業含め1,000社、8,000人以上を見てきた結果、わかったことがあるといいます。それは、どんな人であっても「なぜ働かなければいけないのか」「どうしたら仕事が楽しくなるか」といった疑問に対し、自分自身の見解や哲学を持っているということ。そこで、実際に見聞きした数々の話のなかから、「短期的に役立つコンテンツ」と「長期にわたって役立つコンテンツ」をまとめたのが本書だというわけです。そしてその根底にあるのは、「一度に大きな変化を起こすことは誰にもできない。仕事で何かを成し遂げようとするならば、それなりの時間をかけて物事に取り組む必要がある。小手先のテクニックでは、仕事ができる人にはなれない」という考え方。きょうは第2章「1週間程度でできること小さな変化を起こす」から、「『まかされる人』になるために知っておくべき、『仕事をまかされたら、なにをすべきか』8箇条」を引き出してみたいと思います。著者は駆け出しだったころ、尊敬する上司から「小さな変化は、『まかされた仕事をきちんとこなす』ことからはじまる」と教わったのだそうです。実際、現在の仕事の仕方も、ほぼ教えていただいたとおりにやっているのだとか。そして、その「教えていただいたこと」は、次の8つだそうです。■1:納期を確認する当然のことですが、納期を守れない人は社会人として失格だとみなされることになります。逆から考えれば、納期を遵守すれば信頼を獲得することができるということ。そして納期の遵守は人の能力を高め、お金を生み出すことにもなるのだと著者は主張しています。たしかに、当たり前だからこそ忘れてしまいがちなことかも。信頼される人になるためにも、心にとどめておきたいことではあります。■2:成果を仕事の依頼者と合意する仕事をまかせる側が、成果を明確にしてから依頼をするケースは、実は少ないと著者はいいます。まかせる側は、成果があいまいで、考えるのに手間がかかるから、信頼できる相手にそれをまかせるもの。だとすれば、相手と会話して本音を引き出し、成果を合意することが大切。合意できれば、半分の仕事が終わっているも同然だということ。■3:仕事を分析する依頼された仕事は、大きな固まりのようなもの。そのままでは扱うことができないし、誰かの手を借りることもできないというわけです。もしも誰かの手を借りたいのであれば、ノウハウを人から教えてほしいのなら、あるいはスケジュールをつくるなら、仕事を分割することが大切。■4:難しい仕事から取りかかる一般的に難しいといわれている仕事、特に、どうしたらいいのかわからない仕事は、思っているよりもはるかに時間がかかるもの。具体的には、おそらく見積もりの2倍から3倍はかかるといいます。あとになって納期が迫っているときにそれがわかっても、もはや手遅れ。つまり、そうならないように、難しい仕事から取りかかるべきだということ。■5:行き詰まったら、即、相談する仕事をまかせる側も、すべてを見通しているわけではありません。それどころか、なかには無理な要求も存在するでしょう。そして、それは仕事に取り掛かってみないとわからないものでもあります。でも、無理とわかっていてやり続けるのは、お互いにとってマイナス。そこで大切なのは、なにかあったら必ず仕事の依頼者に相談すること。相談が遅れれば遅れる保乳、結果的には信用にかかわる問題になるといいます。■6:説明責任を果たすある意味で当たり前なことですが、仕事をまかせた側は常に不安な状態。そしてその不安を解消する責任は、仕事を引き受けた側にあるもの。では、そのためにはどうしたらいいのでしょうか?それは、少なくとも1週間に1回は報告することだと著者。またその際は、ていねいな説明を心がけることも大切。冗長にならず、適切な情報開示を心がけるべきだといいます。そして資料のわかりやすさ、話のわかりやすさは、そのまま信用につながっていくそうです。■7:自分でゼロから考えず、前例を探すゼロから考えることは「車輪の再発明」と同じで、100パーセント無駄なこと。すでに誰かが発見していることを、もう一度自分でやりなおす必要はないという考え方です。会社の仕事においては、同じようなことが繰り返されています。だから大切なのは、まず前例を探すこと。もしなにもなければ、友だちや社外の人に聞くこと。それでもなければ、本を探してそのなかから探すべきだといいます。見つかりにくくても、必ずどこかに探しているものはあるはず。■8:人への依頼は早めにし、1つ目~7つ目のことを守らせる仕事は、自分だけで完結できるものではありません。だからこそ、他社の協力が必要な仕事は、なるべく早めに依頼することが重要。そしてその際に気をつけるべきは、上記1つ目~7つ目を相手に守らせることだといいます。*「今日からできること」「1週間程度でできること」「1か月以上しっかりと取り組むべきこと」「1年程度かけてじっくりと取り組むこと」「3年は取り組むべき大きなテーマ」「一生かけてやる価値のあること」と、 “時間”を尺度として「やるべきこと」を提示しているため、とてもわかりやすい内容。将来についてのヒントが、随所に隠されています。(文/書評家・印南敦史)【参考】※安達裕哉(2015)『「仕事ができるやつ」になる最短の道』日本実業出版社
2015年11月04日「ブラックサンダー」という駄菓子をご存知の方は多いと思います。コンビニエンスストアのレジ横や、お菓子コーナーの下の段でよく見かける、30円のチョコレート。しかしブラックサンダーが当初はまったく売れず、一時は販売終了していたことを知る人は少ないかもしれません。しかもそれが2003年ごろから売れはじめ、結果的製造販売元である有楽製菓は、結果的に100億円企業へと成長しているのです。でも、なぜそこまで売れたのでしょうか?なぜ売れ続けているのでしょうか?その謎を解明しているのが、『30円のブラックサンダーで 100億円企業になった理由』(エムシー・ブー著、トランスワールドジャパン)。ブラックサンダーの熱烈なファンであることを自称する著者が、クリエイティブエージェンシー「アマナ」のスタッフに、ブラックサンダーのマーケティングと広告戦略、デザインなどを分析してもらい、社会学者の開沼博氏に買い手の心理的な動向と社会的背景を取材したというユニークな書籍です。■ブラックサンダー製造販売元の歴史有楽製菓は東京とかの小平市に本社を置く会社で、1955年の創業当時はウェハースの製造からスタートしたのだそうです。チョコレートも扱うようになったのは、その後、豊橋と札幌に工場を設立してからだというので少し意外な気もします。さらに驚かされるのは、駄菓子の代表格というようなイメージがあるブラックサンダーの歴史は意外に浅いということ。そのことをご説明するためには、まず駄菓子屋の衰退とコンビニの興隆についてご説明する必要があります。「アマナ」のスタッフによれば、駄菓子の黄金時代は、急激に店舗数が増えはじめた1950年代。しかしその後、日本の子どものライフスタイルが変化したことの影響で、駄菓子屋の店舗数は現象の一頭をたどっていったというのです。そして以後は1995年くらいから、コンビニが急激に増加していきます。■ブラックサンダーは懐かしくない!つまりブラックサンダーは、駄菓子屋が衰退してコンビニがいきおいづいていくじだいとともに、黄金時代を生き抜いてきた……わけではないのだそうです。そもそも、発売されたのは1994年のこと。駄菓子の代名詞のようなイメージがありますが、実際にはコンビニが増え出してから登場したことになるのです。つまりは駄菓子の主役どころか、かなりの後発なのです。30代、40代がブラックサンダーに手を出す理油として「懐かしさ」があるそうなのですが、実際にブラックサンダー自体は懐かしいものではないということです。そして、もうひとつビックリなのが、「売れるようになったきっかけ」です。というのも、大学生協で販売し始めたことがきっかけとなり、当時話題になった「生協の白石さん」で取り上げられたり、体操の金メダル選手が大好物だと発言したりして、急激に売り上げを伸ばしたというのです。そしてそんななかで影響を及ぼしたのは、大学生の仕送り額が減ったこと。朝日新聞の記事によると1989年ごろの学生の1日あたりの生活費は2,500円くらいだったそうですが、2015年は897円。つまり食事にお金をかけられない学生が、ランチにブラックサンダーを食べるというわけです。■ブラックサンダーのユニークな戦略ブラックサンダーの商品開発戦略には、ある特徴が存在するそうです。アイデアがあっておもしろいと思えば、とにかく一度試してみる。そして、売り上げにつながったものがきちんと残っていくということ。その商品開発姿勢は、シリコンバレー的なのだとか。時間をかけてマーケティング調査を行うと、その渦中で時代の流れも変わってしまうため、ベストなタイミングで商品が出せなくなる場合もある。しかし「自分たちで考えて、一回試してつくってみる」有楽製菓は社長の社員もクリエイティブなので、すぐつくって試せるからスピードがものすごく速いということ。3Dプリンタが登場したいまでこそ、試してつくってみることができるようになりましたが、同社ではかなり速い時期から、お菓子の世界でそれを実践しているということ。しかもブラックサンダーは現在、コンビニに置いてある商品のなかではかなりの売れ筋。だから新製品を発売したとき、すぐ棚に置いて実験しながらやっていくことが可能。かなりよいループ状態に入っているというわけです。*これらはほんの一部ですが、本書を読めば、ブラックサンダーの背後にクリエイティブな発想力があることがよくわかります。そしてその多くは、他のビジネスに応用できるはず。目を通してみれば、ビジネスチャンスを発見できるかもしれません。なお、本日11月3日の15:00から(14:30開場)下北沢の「本屋B&B」で、エムシー・ブー×開沼博 「社会学的視点で語るブラックサンダー」という刊行記念イベントも開催されます。時間のある方は、覗いてみてはいかがでしょうか?・時間 15:00~17:00 (14:30開場)・場所 本屋B&B(世田谷区北沢2-12-4 第2マツヤビル2F)・入場料 1,500yen + 1 drink order(文/書評家・印南敦史)【参考】※エムシー・ブー(2015)『30円のブラックサンダーで 100億円企業になった理由』トランスワールドジャパン
2015年11月03日「汚い」「バイキンがいっぱい」など、唾液にはあまりいいイメージがないかもしれません。しかし、唾液には非常に重要な役割があると力説するのは、『長生きする人は唾液が多い』(本田俊一、フォレスト出版)の著者。大阪で歯科医院を開業している現役の歯科医師だそうです。具体的にどのような役割があるのかといえば、まず唾液がたくさん出る人は虫歯もできない。そればかりかガンやインフルエンザを予防でき、病気知らずで長生きできるというのですから驚きです。つまり本書では、正しい唾液との秘密を明らかにしているわけです。■食後3分以内に歯磨きしても無意味?ところでそんな本書のなかで、著者は「333運動」について意外な事実を明らかにしています。ご存知の方も多いと思いますが、これは「食後3分以内に、1日に3回、3分間歯を磨こう」というもの。しかし食後に歯を磨く習慣があるのは、世界のなかでも日本をはじめとする少数の国だけなのだそうです。そしてその結果、人によってはドライマウスが進行したり、虫歯になりやすくなったり、食後しばらくしてから口臭がひどくなるケースが多発したのだとか。■飲食後の口腔ケアは歯磨きではないしかも海外の多くの国では起床直後に歯を磨くのに、日本人の多くは朝食後に磨くもの。しかしそもそも、ものを食べたら必ず歯を磨かないといけないのだとすれば、1日に何度も歯を磨かなければならないことになります。飲食後の口腔内は酸性に傾きやすい状態になるため、例外なく口腔ケアが必要。海外でもそれは同じですが、ただし決して歯磨きではないのだそうです。そして歯磨きには、唾液が大きく影響しているのだと著者はいいます。また、「333運動」がよくないのは、食後、口のなかが酸性に傾いているときにブラッシングをするべきではないから。そういう意味で食後の歯磨きは明らかに逆効果で、飲食後にブラシで歯垢を取る必要はなし。大切なのは、舌の上の食べかすや飲みかすを処理することと、pHをコントロールして、酸性化しやすい状態を中和してくれる唾液をいかに活用すること。■歯のためにタブレットやガムの利用を唾液の流れを確保するには、唾液腺から分泌された唾液を飲み込みつつ、唾液を分泌し続けるという舌の連続した動きが重要。そして食後は歯磨きよりも、唾液をしっかり出す方法を実践することの方が、歯の健康のためには有効。食べかすや飲みかすの処理を考えるならば、タブレットやガムを口に入れて転がし続けることが最適だそうです(ちなみに唾液をしっかり出す方法は他にもたくさんあり、本書ではそれもしっかり紹介されています)。逆に、歯磨きをして口をすすぐのでは、唾液は逆に喪失してしまうというのです。■虫歯予防でフッ素を取り込むべきか否かなお現在のほとんどの歯磨き剤には、虫歯の予防のためフッ素が入っています。たしかにフッ素は虫歯予防のために有効ですが、フッ素を口から取り込むことに反対する団体もあるのだといいます。また、日本の歯磨き剤メーカーの多くは、合成界面活性剤のメーカー。合成界面活性剤の成分のひとつであるラウリル硫酸ナトリウムとその誘導体については以前から人体への有害性が指摘されており、アレルギーを引き起こしたり発がん性があったりと、さまざまな問題が取りざたされているのだとか。また歯磨き剤には、たくさんの殺菌剤や薬品、有機溶媒のアルコールなどが配合されています。歯磨き剤は1日に何度も口に入れるものですから、長期使用の影響が懸念されても無理はないでしょう。しかも合成界面活性剤はいくらすすいでも残留しやすく、一度口に入ると、容易なことでは取り除くことができないというのですから恐ろしい話です。その結果、わずかではあっても、毎日、口腔内粘膜から吸収されてしまう。これが、歯磨き剤は少量にすべきだという考え方の根拠。つまり、合成界面活性剤の入っていないオーガニックな歯磨き剤を選ぶことが大切だということです。■ただし起床直後の唾液は危険なので注意なお、先に「海外の多くの国では起床直後に歯を磨く」と書きましたが、これには根拠があるようです。起床直後の唾液には、細菌や、細菌がつくり出した「内毒素」が飽和状態になっているというのです。これは、組織や骨まで破壊する威力を持っているもの。つまり起床直後の唾液は、一晩かかって口腔内で培養された最高濃度の細菌溶液のみならず、最高濃度の毒薬に匹敵するもの。そこで、起床直後の歯磨きが非常に大切なのです。逆に起床後、歯を磨かずに朝食をとるということは、菌を朝食と一緒に飲み込んでいるということになるわけです。*歯磨きとの関係だけを見てみても、唾液の重要性を理解できるのではないでしょうか?他にも知られざる唾液の秘密が満載されていますので、読んでおくべきだと思います。(文/書評家・印南敦史)【参考】※本田俊一(2015)『長生きする人は唾液が多い』フォレスト出版
2015年11月02日きょうご紹介したいのは、『世界70億人をワクワクさせる バカの知恵 ―42歳にして二度の上場を果たした“目覚まし時計”経営論』(藪考樹著、プレジデント社)。「モバプロ」「モバサカ」「モバノブ」など、おなじみの人気モバイルゲームコンテンツを生み出してきた「モブキャスト」代表による著作です。表紙には「バカ」と大きくレイアウトされているため、見た目にも大きなインパクトがあります。でも、どうやら単に奇をてらっているわけではなさそう。つまり、「いまの僕があるのは自分自身が『バカ』だと知っているからだ」と著者はいうのです。そして自分が「バカ」であることを知るというのは、「無知の知」と言い換えてもいいといいます。無知であると認めたその先に、新たな知性が生まれるという考え方だといえるかもしれません。■上場企業の社長なのに重度の人見知りところでそんな著者は、本人の言葉を借りるなら「重度の人見知り」なのだそうです。それどころか、人間嫌いといってもいいのだとか。ところがそれでも、いくつかの会社での営業経験を経て転職した「ベルパーク」という会社を2002年に株式上場させ、さらに2004年には「モブキャスト」を立ち上げることに。しかもそれだけでは終わらず、スマホ向けアプリの開発をメインの業務としているモブキャストをも、8年かけて東証マザーズに上場。こうした実績だけを見れば、とても人見知りだとは思えません。でも、それでも人見知りであることは間違いないのだそうです。■でも社交的なおつきあいはする気なし!世の中には「どんな人とでも仲よくなれるのが特徴です」という人もいて、しばしばそれは人間的な魅力として理解されます。しかし実際のところ、著者はまったくの逆なのだというのです。「社交的なおつきあいっていうのは、本当にする気が起きない」といい切ってしまうのですから、かなりもののです。しかしそれでも、大事な人はちゃんといるのだとか。それは、自分、家族、友だち、社員たち、一緒に仕事をしたいと思う人。人嫌いでありながら、いや、人嫌いだからこそかもしれませんが、仲よくなると、とことん仲よくなるのだそうです。だから、人づきあいもそれだけの輪で精一杯になってしまうということ。たとえば自分が気に入った料理屋には、親しい人をみんな連れていきたいと考えるタイプ。「自分が好きなものは、親しい人たちにも好きになってほしい」というわけで、ある意味では徹底した考え方だといえるのではないでしょうか。そして1、2年にひとりくらいの割合で、「この人のことを、すごく知りたい」と思うことがあるのだそうです。そういう場合は年齢も関係なく、経営者であろうが芸能人であろうが、とにかく会って話を聞かないと気がすまなくなるというのですから、やはり徹底しています。「中間」がないともいえるでしょう。■著者的に人づきあいは0か100しかないだからそういう場合は、どんなことがあっても飲みに行くことにしているそう。「なんでこんなに魅力的なんだろう」「なんであんなパフォーマンスができるんだろう」、そんな思いを真正面からぶつけて、「あっ、だからなんだ」と納得できるまでひたすら聞くというスタイル。つまり、「人間嫌い」でありながら「大事な人は大切にする」という意味で、著者にとってのつきあいは0か100しかないということです。この考え方は、特に珍しいものではないかもしれません。むしろ、シンプルすぎるほどにシンプルです。しかし重要なのは、珍しくなくともシンプルでも、著者が経営者としてそのスタンスを徹底的に貫いているということ。状況に流されてぶれるようなことがないからこそ、そこに強さが生まれ、それは人を引っぱっていく力になっているということです。つまりこの考え方には、リーダーシップの本質が隠されているのです。*他にも本書には、「一般的な企業とはちょっと違う」モブキャストならではの経営哲学が書かれています。語り口調なので読みやすく、スラスラと読み終えてしまえるはず。ぜひ、読んでみてください。(文/書評家・印南敦史)【参考】※藪考樹(2015)『世界70億人をワクワクさせる バカの知恵 ―42歳にして二度の上場を果たした“目覚まし時計”経営論』プレジデント社
2015年11月01日ご存知のとおり、2045年に人類は「コンピューターが人間の知能を超える境目」=シンギュラリティ(技術的特異点)を迎えることになるといわれています。それどころか、やがて人工知能が私たちの生活を脅かすようになるという説も……。では、そんな時代が訪れたとき、私たちはどうすればいいのでしょうか?そのことについて考えているのが、『人工知能に負けない脳人間らしく働き続ける5つのスキル』(茂木 健一郎著、日本実業出版社)。著者が脳科学者という立場から、決して避けて通れないこの問題についての考えを記した書籍です。しかし、そもそも2045年問題は本当に起こるのでしょうか?■人工知能が進化し続けると人間は不要になるこの問題について著者は、「たしかに、シンギュラリティは間違いなく起こるはず。ただし、その意味については、きちんとした説明が必要だ」といいます。意識しておくべきは、人工知能の発達によって人工知能の能力がどんどん「ブラックボックス化」していくということだとか。これまでの人工知能は、人間の手によってアーキテクチャー(構造)が開発されてきました。ひとつひとつの要素を人間がプログラムとして書き込んでいたため、その特徴も把握できていたということ。ところが、人工知能プログラムが人間の知能を超えて進化し続けると、コンピューターは自分で自分を改造できるようになっていきます。しかし自分を改造できるコンピューターが生まれてしまえば、人間はそれ以上介入する必要がないということになります。■コンピューター改良に人間が不要になる意味そして、ここには2つの意味があるといわれているのだそうです。ひとつは、「もうそれ以上発明する必要がない」という意味。そしてもうひとつは、「人類が滅亡する」という意味。そういった人工知能が誕生する可能性はとても高く、そのとき人工知能は、もはや人間には理解できない仕組み、つまりはブラックボックスになっているということ。そういう時代が来るのは時間の問題だということです。問題は、これが原理的には可能なことであり、軍拡競争と同じことだという点。誰かがやらないとしても、必ず他の誰かがやるというわけです。たとえばアメリカで倫理的な議論が起こって人工知能の開発をやめたとしても、ロシアや中国がやる可能性は否定できない。すると、アメリカも対抗上、やらざるを得ないことになるということ。■人工知能に人間がペーパークリップにされるそこで意味を持つのが、「人工知能をどうコントロールするのか」。このことについては、スウェーデンの哲学者で、オックスフォード大学教授のニック・ボストロム氏が著書のなかで警鐘を鳴らしているそうです。取り上げられているのは、ペーパークリップをつくる人工知能があった場合の仮説。その人工知能は進化の過程で自分を改良して暴走し、世界中のあらゆる原料を手に入れながらペーパークリップをつくり続ける。やがて人間も原料にされ、最後には無人の地球がペーパークリップだらけになるという結末。ありえない冗談のような話ですが、それが人工知能では起こりうるということ。特に欧米社会での人工知能についての議論は、キリスト教的な終末思想とも相まって、そういうレベルに達しているというのです。「人工知能のコントロール問題」「人間は人工知能をどうコントロールできるのか」というテーマが、人工知能に関心を持っている人たちの間で、手遅れになる前に解決しなければならない問題として扱われているわけです。*そのとき持っておくべき意識について、本書では著者ならではの視点から論じています。未来に向け準備をしておくという意味でも、読んでおくべきかもしれません。(文/書評家・印南敦史)【参考】※茂木 健一郎(2015)『人工知能に負けない脳人間らしく働き続ける5つのスキル』日本実業出版社
2015年10月31日「超低価格+高スペック+洗練されたデザイン」のスマートフォンによって、マーケットに衝撃を与えたシャオミ。リアル店舗は持たない、自社工場は持たない、役職はつくらない、ハードウェアでは稼がないなど、従来の常識を一蹴する戦略を持つ中国のメーカーです。『シャオミ(Xiaomi) 世界最速1兆円IT企業の戦略』(陳潤著、永井麻生子訳、ディスカヴァー・トゥエンティワン)は、そんなシャオミが創設以来たどってきたプロセス、創設者である雷軍(レイジュン)の経営戦略などを解説した書籍。■雷軍は「中国のスティーブ・ジョブズ」2010年4月に設立されたシャオミの、2011年10月の時点での企業価値はすでに10億ドルを記録していたといいます。Googleが7年、Facebookが6年かけて成し遂げた偉業を、1年半で達成したということ。そんなこともあり、「中国のスティーブ・ジョブズ」と呼ばれる雷軍が打ち出す「インターネット思想」というコンセプト、「シャオミ方式」と呼ばれる戦略、ユーザーを囲い込む「参加型」の秘密は各方面から注目されているそうです。そんなシャオミの独自性が浮き彫りになっている本書から、きょうは人材探しに関する考え方をご紹介したいと思います。■敏腕エンジニアを12時間もかけて説得雷軍は人材探しについて、「人材発掘はこの世の中でいちばん難しい作業だ」と語ったことがあるそうです。起業当初には、週に5日、毎日10時間以上もかけて、あるグローバル企業の幹部を口説いたのだとか。また、面接を受けに来たもののシャオミの前途にも懐疑的だったベテランのハードウェアエンジニアに対しては、数人がかりで12時間もかけて説得し、最後には相手を「屈服」させたのだといいます。「いい人材が来ないというなら、それは、注いだ精力が足りない、ということだ。私は一日の半分以上の時間を人材の募集に費やした。最初の100人のスタッフは、皆私が自ら会ってコミュニケーションをとったものばかりだ」(36ページより)■人材探しには70%以上の時間を割こう人材を長時間にわたって囲い込んでまで説得するとは恐ろしい気もしますが、そこには明確な持論があるようです。「(前略)どんな企業でも優秀な人を見つけるのは大変難しい。この問題を解決する方法はふたつしかない。ひとつは、充分な時間をかけること。少なくとも仕事時間のうちの70%は人探しに割かなければならない。もうひとつは、人が自ら集まってくるようにすること。(中略)将来の伸びしろや発展のチャンスを見せつければ、自ずと人はやってくる」(37ページより)現在、シャオミの従業員の半分以上はGoogle、マイクロソフト、金山(中国最大のソフトメーカー)から来ており、平均年齢は32歳で、大部分が大学卒業後10年か大学院修了後7年の経験豊かな人材なのだとか。情熱を持ち、気力も充実している年代ですが、だからこそ彼らには、必ず有利な待遇も与えなければならないと雷軍は主張しています。ただし「ふさわしい報酬」は必ずしも大金、高給を意味するわけではなく、どんな人材を招聘した場合も、3つの選択肢を出すのだといいます。「1つ目はグローバル企業と同じ報酬。2つ目は3分の2を報酬でもらい、3分の1を株で受け取る。3つ目は3分の1を報酬でもらい、より多くを株で受け取るというやり方だ」企業を成長させるには、人材の重要性を理解し、社内での社員育成とレベルアップを重視する必要があります。いわば、これはそのために導き出された方法のひとつ。そこにも、他の企業にはない圧倒的なオリジナリティーが現れているといえます。*エピソードの数々はどれも新鮮で、読んでいるだけでも知的好奇心を大きく刺激されるはず。ビジネスモデルのあり方について考える際は、ぜひ参考にしたい一冊です。(文/書評家・印南敦史)【参考】※陳潤(2015)『シャオミ(Xiaomi) 世界最速1兆円IT企業の戦略』ディスカヴァー・トゥエンティワン
2015年10月30日『思いが伝わる! 心を動かす!アイデアを「カタチ」にする技術』(長澤宏樹著、総合法令出版)の著者は、大手広告代理店のクリエイティブディレクターとして活躍したのち、ハワイで事業を展開しているという人物。その実績に基づき、本書ではアイデアを有効に活用するコツを明かしています。■好きなことにお金と時間を投資するそんな著者は、オンとオフの切り替えをなくして楽しむことを前提としたうえで、「今後は興味のあるものにお金と時間を積極的に投資してほしい」といいます。ただ、そういわれても「難しい」「時間がない」などの反論が出て当然。それに家族が増える、もしくは子どもの受験があるタイミングなどに自分だけ興味のあるものにお金と時間を投資するというのは、気がひけるものでもあります。しかし、大切なのはそこであきらめないこと。著者はそう断言しています。そもそも、お金と事案を使うことに躊躇するのは、投資してうまくいった経験がないから。興味のあるものに投資して1円でも利益を生むことができれば、十分に元を取れると著者は考えているそうです。つまり、たくさんのリターンを得ようと期待するものの、得ることができないから億劫になってしまうということ。逆から考えれば、投資した時間とお金を回収する方法があれば、躊躇する必要はなくなるわけです。■リターンの出し方を探すクセをつけるそして投資したお金と時間を回収する方法を考えることは、企画をつくるトレーニングにもつながるのだそうです。なぜかというと、いい企画には、もれなく費用対効果がついてくるもの。その企画を実行した場合に、どのようなメリットやリターンを生むのかが明確だということです。つまり普段の生活のなかで、「投資額を上回るリターンはどこにあるのか」を探すクセをつけておけば、企画も自然と考えられるようになるということ。たとえば忘年会シーズンに、満員電車に乗らなければならないとします。でもその電車には、あと1,000円多く払えば確実に座れるグリーン車があったらどうするでしょうか?普通車両であれば、身動きのとれない時間を過ごさなければならず、体が必要以上に疲弊することに。一方、グリーン車に乗れば、多少の費用がかかるとはいえ、仕事をすることが可能。つまり、時間1,000円以上の効果があればいいということ。このように考える習慣をつけておけば、常に少しでも多くリターンを得るよう努力するようになるため、自然と見返りが増えていくのだそうです。■投資をすると違った世界が見えてくる好きなことに投資し、それに対するリターンを考えるクセをつけておけば、企画にもそれが表れてくるといいます。普段から考えるようにしているぶん、企画にも熱量が加わり、それが結果として自然と表れてくるということ。だからこそ著者は、「ふだんから投資したお金と時間、それを回収する方法をセットで考えるようにすると、違った世界が見えてくるはず」だと断言しています。*実際に成功した人物であるだけに、ひとつひとつの言葉には説得力があります。文体も柔らかく読みやすいので、本書はきっと、アイデアを実現させる際の力になってくれるでしょう。(文/書評家・印南敦史)【参考】※長澤宏樹(2015)『思いが伝わる! 心を動かす!アイデアを「カタチ」にする技術』総合法令出版
2015年10月29日インターネットを通じて不特定多数の人から資金調達を募る「クラウドファンディング」が話題です。また、このシステムを利用して成功した人の数も少なくありません。とはいえ知らない相手からお金をもらうのですから、実際にやってみるとなると不安を感じても当然です。そこで目を通しておきたいのが、『日本人のためのクラウドファンディング入門』(板越ジョージ著、フォレスト出版)。クラウドファンディング研究の第一人者が、その基礎知識から活用法までをわかりやすく解説した新書です。きょうは「クラウドファンディングでよくある質問」のなかから、特に気になるお金に関しての質問と答えを引き出してみたいと思います。■1:集まったお金の税金はどうなるんですか?「購入型」(お金を出してくれた人に、その対価として見返り(リターン)である物品やサービスを渡すこと)の場合は、クラウドファンディング(CF)サイト運営会社から受け取ったお金は「商品売買」としての収入とみなされるそうです。支援者としてはプロジェクトを応援する気持ちでお金を出している寄付かもしれませんが、リターンやなんらかの商品を手に入れるため、税法上は先払いで商品を購入したとみなされるということ。したがって、個人の場合には所得税、法人の倍には法人税がかかってくることに。とはいえ調達した資金全額にかかるわけではなく、調達した資金からリターンの原価や人件費など、プロジェクトの実行に使った費用を引いたあとの利益に対しての所得税や法人税がかかるわけです。また通常の「商品売買」となるため、消費税も納付しなければなりません。■2:お金が集まらなかった場合はどうなるのですか?目標金額を達成できなかった場合、達成できたときに報酬が得られる「達成時報酬型」の場合は1円も受け取れません。しかし「実施確約報酬型」の場合は、目標金額に到達しなくてもCFサイト運営会社の手数料を引いた分の全額を受け取ることが可能。■3:投稿するのにお金はかかりますか?クラウドファンディングへの投稿は無料で、お金は一切かかりません。「ノーリスク・ハイリターン」が魅力のひとつだということです。ただし成功して報酬を受け取る場合は、CFサイト運営会社が手数料を引いた分が振り込まれることになります。■4:目標金額以上に集まった場合はどうなりますか?目標金額以上に集まった場合でも、依頼者は全額を受け取ることが可能。また、お金をどのように使ったかを公表する必要もないといいます。とはいえ、善意で集まった資金。支援者を裏切らないように、誠実にプロジェクトを実行することが大切なのはいうまでもありません。■5:すでに開始しているプロジェクトに対して、お金を集めることはできますか?各CFサイトの判断によるところはあるものの、たとえば「新しい機能をつけるので資金が必要」といったような追加投資を目的とした資金調達については、使用できることもあるとか。■6:もし支援したプロジェクトが不成立となった場合、どのような返金方法になりますか?基本的に、プロジェクトの募集期間中は、購入予約の状態になっているもの。そのため、プロジェクトが成立した場合にのみ決済が行われることに。つまりプロジェクトが不成立担った場合は、購入予約は自動的にキャンセルされ、決済も行われないそうです。*クラウドファンディングは、インターネットが実現した画期的なビジネスモデル。しかし、だからこそ、利用する際には基礎的なことを勉強しておくべきでしょう。本書は、「はじめてみようかな」という人にとって心強い一冊となってくれるはずです。(文/書評家・印南敦史)【参考】※板越ジョージ(2015)『日本人のためのクラウドファンディング入門』フォレスト出版
2015年10月28日『自分を変える1つの習慣』(ロリー・バーデン著、児島修訳)の目的は、著者のことばを借りるなら「心構え(マインドセット)」を変えることなのだそうです。人生のあらゆるところで「エスカレーターに乗る(楽だが間違った道)」のではなく、「階段を使う(ちょっとキツいが正しい道)」という小さな選択をすることが、自分を劇的に変えるという考え方。■人生を楽にするためには「犠牲」が必要「スポーツジムに行くべきか?それとも、家でこのままダラダラしていようか?」「これを買うべきだろうか?それとも、我慢して節約すべきだろうか?」「もうひとがんばりして仕事に打ち込むべきか?それとも、最低限の労力で仕事を片づけてしまうべきか?」日々の暮らしのなかにはこうした状況が無数にあるもの。私たちは、「楽な道」を選べば人生が「楽」になると考えがちです。しかし人生を楽にするためには、「いまこの場所で、困難から逃げずにすべきことをする」という「犠牲」が必要なのだと著者はいいます。そしてこれは、私たちの考え方を根本からひっくり返す、きわめて重要な考え。■目の前の困難に取り組むほうが楽になる注目すべきは、成功者がこの「犠牲」について、他の人が気づいていない法則を知っているということ。それは、「目の前にある、しなければならないことを終わらせるのは、思っているよりも短い時間ですむ」ということだとか。これが、私たちが日々直面するさまざまな判断に当てはまる、「苦しみのパラドックス(矛盾)」。すなわち、「目先の楽な選択は、長い目で見た困難を招き、目の前の困難に取り組むことが、長期的には楽な人生につながる」ということ。長期的な時間軸で見てみると、パラドックスが見えてくるわけです。■長期的な時間軸でとらえて合理的に判断でも成功者は、他の人たちにはない、特殊な能力を持って生まれてきたわけではないといいます。ただ、日常生活での価値判断が他の人とは違うだけ。成功者は、感情や衝動は長続きしないことを知っているもの。そして将来のために「犠牲」を払うことができるもの。世の中には、その場の感情に従って判断する人がたくさんいますが、成功者は物事を長期的な時間軸でとらえ、合理的に判断を下すことができるということ。「苦しみのパラドックス」は私たちに、成功は特別な才能や幸運によって得られるのではなく、誰もが当たり前に直面している「小さな選択」の積み重ねの結果であると教えてくれるのだそうです。その選択は、「右か左か」「上か下か」「黒か白か」を選ぶのと同じくらいはっきりしているといいます。成功が「とてつもなく重要な1つの決断」によって得られることはめったにないもの。むしろ、一見すると些細な、「小さな選択」の積み重ねによってつくりあげられていくものだということ。成功とは、「エスカレーターに乗る」か「階段を使う」かを選ぶのと同じくらい単純なものだということです。*ちょっとした習慣が、人生を大きく変えることがある。もしかしたらそれは、多くの人が忘れかけていた、とても大切なことなのかもしれません。(文/書評家・印南敦史)【参考】※ロリー・バーデン(2015)『自分を変える1つの習慣』ダイヤモンド社
2015年10月27日『いいエリート、わるいエリート』(山口真由著、新潮社)の著者は、東京大学法学部在学中に司法試験と国家公務員1種合格。東大もオール「優」の成績で首席卒業し、財務官僚を経て弁護士になったという人物。筋金入りのエリートであるわけですが、つまり本書では、体験に基づいたエリート論を展開しているわけです。ここまでのエリートはそうそういるものではありませんから、「自分とは関係ない世界の話」と感じても不思議ではないでしょう。私もそれは同じでした。しかし本書が魅力的なのは、著者の語り口が決して“上から”ではなく、むしろ共感できるものであること。特殊な能力を持った人の体験談として、とても興味深く読むことができるのです。きょうはそのなかから、「勉強法」に書店を当てた項目を引き出してみたいと思います。■エリートの7回読み勉強法著者の勉強法の基本は“反復”で、具体的にはさまざまな機会に「7回読み勉強法」を勧めてきたのだそうです。その名のとおり、教科書や参考書を7回読むことによって、脳に記憶させるという方法。それはおおむね、次のようなプロセスで進められるそうです。(1)ページ数にもよるが、一冊を30分から1時間のペースで、漢字だけを意識して眺めていく(2)同じペースで、今度は1.で拾いもらした漢字とカタカナを意識して眺めていく(3)前2回をおさらいするつもりで全体を読む以上3回を、著者は「助走読み」といっているそうです。このプロセスではその本に慣れ、大切なキーワードを脳に記憶させるわけです。(4)前3回でチェックしたキーワードの前後の文章を中心に読む(5)「たとえば」「しかし」など接続詞や副詞の前後を意識して読むこの2回を、著者は「本走読み」と呼んでいるのだとか。キーワードをより正確に理解し、要旨をつかむ意識を持って読むのだそうです。(6)(7)本全体の内容を深く理解し、脳に定着させる意識で2回読む最後の2回は「完走読み」。本の内容をしっかり記憶するように心がけるわけです■信じて「続ける」ことが大切これが、著者の勧める「7回読み勉強法」。著者によると、これを実践すると、その本に記載されている内容が「おもしろいように」頭に入ってくるのだそうです。そして著者は、勉強法はできるだけ変えない方がいいと主張しています。だから自身も、一貫して7回読みを続けたのだそうです。その過程では「いまの勉強法でいいのだろうか?」と悩むものですが、そこでうろたえることなく、初志貫徹。自分の勉強法を信じて、「続ける」ことがなによりも大切なのだといいます。*こうした考え方に説得力があるのは、いわゆる「机上の空論」ではないから。読んでみるとわかりますが、著者は考えられないほどの状況を乗り越えてきています。だからこそ、理屈を超えて訴えかけてくるのです。エリートであろうがなかろうが、人に大切なのは「乗り越える」こと。そんな本質的な部分を、本書は実感させてくれます。(文/書評家・印南敦史)【参考】※山口真由(2015)『いいエリート、わるいエリート』新潮社
2015年10月26日悩みのはじまりには、決まって“心の反応”があるもの。心がつい動いてしまうから、そこに悩みが生まれるということです。ならば“ムダな反応をしない”ことで、すべての悩みを根本的に解決できるはず。これが、『反応しない練習 あらゆる悩みが消えていくブッダの超・合理的な「考え方」』(草薙龍瞬著、KADOKAWA)の考え方。そして「反応しない練習」を教えてくれるのは、古代インドの賢者であるブッダの考え方だそうです。そのことを理解するため、「悩み」をモチーフにして考えてみましょう。■悩みは「貪欲」「怒り」「妄想」のどれか?そもそも人はなぜ、いつまでも悩みから抜け出すことができないのでしょうか?著者によれば、それは「自分の心が見えない」から。たとえば心にモヤモヤしたものを抱えているとき、もし「心の状態を知る」という発想を知らないと、霧が晴れない状態はいつまでも続くことになってしまいます。そこで解決のために著者が勧めているのは、心に「貪欲」「怒り」「妄想」の、どれが存在するのかを観察してみること。たとえば「欲が働いている」「怒りを感じている」「これは妄想である」という具合で、3つともある場合が少なくないそうです。たしかに、それを知るだけでもモヤモヤは晴れていくものですが、ここで注目すべきポイントがあります。モヤモヤが晴れていくとき無意識で実践しているのが、本来の仏教——「心を浄化する修行」なのだということ。■「人間の三大煩悩」で心の状態を理解ちなみに「貪欲」「怒り」「妄想」は、伝統的には貪(とん)・瞋(じん)・癡(ち)の「三毒」と呼ばれ、「人間の三大煩悩」とされています。そして現在に伝わる仏教が、こうした煩悩を「戒めなさい」と説いていることも有名な話。しかしブッダが生きていた当時、これらは「心の状態を理解するためのツール(方法)」だったというのです。そもそも“ブッダ”とは、「正しい理解をきわめた人」という意味で、「目ざめた人」「覚者(かくしゃ)」とも呼ばれています。重要なのは、「正しい理解」とは「自分が正しいと考える」ということではないということ。つまり「自分流の見方・考え方で理解する」という意味ではない。むしろ逆で、「自分はこう考える」という判断や解釈、ものの見方を一切差し引き、物事を「ある」ものを「ある」とだけ、ありのままに、客観的に、主観抜きの“ニュートラル”な目で見据えるということ。■ブッダの「正しい理解」の本質的な意味「正しい理解」に反応はなく、ただ見ているだけ。動揺しない。なにも考えない。じっと見つけているだけ。そこまで徹底したクリアな心で、自分を、相手を、世界を理解することを、「正しい理解」と表現しているのです。いわば「正しい理解」こそが、苦しみを超える道であるということ。「正しい理解」をきわめた人であるブッダが到達した境地のことを“解脱(げだつ)”と呼ぶことがありますが、これは「自由」「解放」という意味なのだとか。だとすれば、仏教=ブッダの教えとは、「正しい理解によって、人間の苦悩から自由になる方法」ということになるわけです。*著者は、こうした考え方について、「これは宗教ではありません。本書が『ブッダの合理的な考え方』と呼ぶことには、明白な理由があるのです」と説いています。たしかにそう考えると、ブッダの教えを日常生活に取り入れることには合理的な意味があるといえるかもしれません。(文/書評家・印南敦史)【参考】※草薙龍瞬(2015)『反応しない練習 あらゆる悩みが消えていくブッダの超・合理的な「考え方」』KADOKAWA
2015年10月25日『執事だけが知っている世界の大富豪53のお金の哲学』(新井直之著、幻冬舎)の著者は、「大富豪」への執事サービスを提供しているという「日本バトラー&コンシェルジュ」代表取締役。ニッチな業種ではありますが、その仕事の性格上、多くの大富豪と日常的に接しているのだといいます。つまり本書では、そこから見えてきた大富豪のお金の使い方が明らかにされているのです。■「お金持ちはケチ」なんてウソ?買い物をしたり飲食店を利用したりする際、商品の原価を気にすることはあまりないはず。ところが大富豪は、お店を利用するたび、それぞれの商品の原価を試算してしまうものなのだと著者はいいます。つまり、その価格で買う手間までを計算に入れ、きちんと納得してから代金を払う。それが大富豪ならではのスタイルだということ。「お金持ちはケチ」などと揶揄されることがありますが、そんなに単純な話ではないのだとか。コストを周到に見極める意識が高く、お金を払う前にじっくりと考えることを怠らないということなのだというわけです。■大富豪が原価にこだわる理由事実、著者の会社の執事サービスを利用する顧客も、原価を気にする方ばかりなのだといいます。彼らの多くは、原価について疑問を感じたら、聞きづらいことでも単刀直入に質問してくるもの。しかしそれも、「財布の紐を緩めるのは、値段に納得してから」という考え方があるから。また、「これの原価はおそらく100万円くらいのはず。なのに、なぜ1,980万円でも売れるのか。自分のビジネスにも取り入れられないだろうか」という発想も持つそうです。なぜなら原価を知るということは、価格の裏側にある事情を知るということだから。■手間隙かけられていればOKしかしその一方、私たちには手が届かない高額な商品であっても、それが手間隙かけてつくられたものであれば、あっさり購入を決めてしまうのも大富豪の特徴だと著者は指摘しています。たとえば1杯5,000円もするようなコーヒーでも、とても希少な豆を使っていて、それを手間隙かけて焙煎し、専用の機器を用いて一流のバリスタが1杯ずつていねいにドリップし、もちろん味も香りも格別だということであれば、喜んでお金を払うというのです。もし仮に、それほど原価がかかっていないと判断したとしても、手間や技術、時間、サービスなどに価値を見出すことができれば、納得して購入するということ。■自分の価値観を持っている!でも大胆なように見えて、この「価値を見出すことができれば」という部分には重要な鍵がある気がします。それは、自分の価値観をしっかりと持っているということであるはずだから。だからこそ、大富豪のように原価と差額に注目し、「自分はどんな価値にお金を支払うか」ということを意識していれば、つまらないものにお金を使って後悔することもなくなるはず。*違う世界に生きる人たちのようにも見えますが、実際には大富豪の大半が「ごく普通の人」なのだといいます。つまり、本書から彼らとの共通点を見つけることができれば、大富豪になることは決して夢ではないのかも。(文/書評家・印南敦史)【参考】※新井直之(2015)『執事だけが知っている世界の大富豪53のお金の哲学』幻冬舎
2015年10月24日『ホームページで売上があがる会社、あがらない会社、何が違うか』(石嶋洋平著、あさ出版)は、ウェブコンサルティング会社を経営する“ホームページ屋”として、「売れないホームページ」をたくさん見てきたという著者が、ホームページで売上を上げるための策を公開した書籍。ホームページについて知りたいことはいろいろありますが、きょうはそのなかから、「効果」についての記述を引き出してみたいと思います。■チラシの効果はたった10人?集客したいとき、だれもが思いつく方法のひとつに「チラシを撒く」という手段があります。ところがチラシは、それほど効果のあるものではないのだとか。著者によれば、群馬県の建設会社が住宅展示会のチラシを10万枚配布したところ、それを見て展示会に来たお客様はたった10人だったというのです。新聞折り込みを利用し、さらに市役所でも蒔いたというのに……。■チラシ反応率はおよそ0.01%「展示会に足を運んでもらう」など、お客様に直接的なアクションを促す「ダイレクトレスポンスマーケティング」では、ある程度のレスポンス(反応)限界値があるといわれているそうです。それは、「チラシを撒いたら、反応率はおよそ0.01%」だというもの。「10万枚蒔いて10人のお客様が来てくれた」のは、確率として妥当なところだというわけです。■ホームページの反応率は1%!一方、ホームページに対する反応率は1%。つまり効率よくマーケティングしたいなら、チラシよりもホームページの方が向いているわけです。理由ははっきりしています。つまりインターネットを使えば、「買ってくれそうな人」の属性を絞り込みやすいからです。たとえば携帯音楽プレーヤーを売りたい場合を例に挙げましょう。シンプルに考えれば、音楽が好きな人に対して情報を投げれば、売れる確率は高くなるはずです。しかし先述したとおり、それをチラシでやろうとすると、手間だけかかって効果は期待薄。でもインターネットなら、音楽好きの人が集まるサイトに広告を出すことは容易です。チラシでは「どんな属性かわからない100人に情報を投げ、ひとりに当たるかどうか」ということになりますが、ホームページなら「音楽が好きで携帯音楽プレーヤーに興味を持ってくれそうな10人に情報を投げ、何人に当たるか」という現実的な話にすることができるから。確率が高い属性を絞り込んで分母を下げていけば、それだけマーケティングの効率が上がるということです。「どのような属性を持った人たちにアプローチしたら、商品が高確率で売れるか」を考えることは、いうまでもなく商売の基本。そしてホームページで商品やサービスを売る場合、特に重要なポイントはここなのだと著者はいいます。*こうした基本を踏まえたうえで、本書ではホームページを利用して「誰に売るか」「なにを売るか」「どう売るか」が解説されています。ホームページをつくって活用したい、つくったものの活用できていない……中小企業経営者から個人事業主まで、そんな悩みを抱いている方は少なくないはず。でも本書を読めば、答えを見出すことができるかもしれません。(文/書評家・印南敦史)※なお本書では、企業や団体が管理するウェブサイト、ウェブページの総称として「ホームページ」という単語を使用しているそうです。【参考】※石嶋洋平(2015)『ホームページで売上があがる会社、あがらない会社、何が違うか』あさ出版
2015年10月23日『メンタルトレーナーが教える未来を動かす時間術』(久瑠あさ美著、秀和システム)の著者は、トップアスリートのメンタルトレーニングに取り組んで注目を集め、現在も企業経営者、ビジネスパーソンなど個人向けのメンタルトレーニングを行っているというメンタルトレーナー。そんな実績をもとに、本書では人生に変革を起こす「時間術」を解説しています。この根底にあるのは、「目に見えない“時間”をどう扱うかが、自分という人間の価値を決めていく」という考え方です。■3つの心の業で潜在能力を引き出すそもそも「時間術」には3つの“心の業(わざ)”があり、それらを並列的に行うことで効果が発揮されるのだとか。ひとつひとつ確認してみましょう。[Step1]自意識に麻酔をかける業自意識に麻酔をかける業を行って意識を曖昧にすると、メンタルブロックが外れ、感情を自在にコントロールできるようになるといいます。[Step2]未来の記憶をつくり出す業未来の記憶をつくり出す業を行いワクワクする未来を想像すると、「無限大のビジョン」が勇気を生み出し、根拠のない自信が沸き起こることに。[Step3]未来をキャッチする業未来をキャッチする業を行い、迷いなく「やりたいこと」に挑戦すると、なんだってできる無敵のマインドを持つことが可能になり、潜在能力が引き出せるように。これらを同時進行させることによって、3つの業の完成形となり、未来を動かす達人になれるというわけです。つまり、本書が伝える「時間術」とは単なる時間のコントロール術ではなく、自分の内部の潜在能力を引き出す実践的なメンタルトレーニングだということ。■自意識に麻酔をかけるといい理由たとえば上記の「自意識に麻酔をかける業」は、誰もが苦手な「感情コントロール」を容易にしてくれるそうです。なお「感情をコントロールすること」は「感情を抑えること」ではないと著者はいいます。なぜなら感情は、抑えようとするほど波立つものだから。無自覚な心のサインである感情を押しつぶそうとするから、心が元気を失っていくというわけです。だからこそ、自意識に麻酔をかけ、曖昧な意識にすることで、現在どんな状況にあったとしても、過去に囚われることなく、ワクワクする未来を思う存分、描けるようになるという考え方です。あたかも連続性があるように見える過去と現在、未来の鎖をリセットするために、自らの意識に麻酔をかける必要があるということ。「現在」に身を置きながら「未来」を「いま」として捉えていくことができれば、「いま」にありながら、「未来」にすでに起きたかのような記憶をつくり出すこともできる。それが、「未来の記憶をつくり出す業」。「未来にこうありたい」というビジョンは、自分自身を前のめりに動かしてくれるといいます。その瞬間、「やりたいこと」を実現するために必要な潜在意識を引き出してくれる。それが「未来をキャッチする業」。*この3つの業をマスターすれば、未来を動かす最強のマインドをつくり上げることが可能だと著者はいいます。そして本書には以後も、そのために意識しておくべき大切なことがさらに詳しく書かれています。強靭なマインドをつくって未来を切り開きたい人にとって、本書は大きな力になってくれるかもしれません。(文/書評家・印南敦史)【参考】※久瑠あさ美(2015)『メンタルトレーナーが教える未来を動かす時間術』秀和システム
2015年10月22日英会話を身につけたい。せめて、ビジネスで使える英語くらいはなんとかしたい。そう考えていながらも、なかなか時間がとれないという方も少なくないはず。そこでおすすめしたいのが、『聞くだけでネイティブに伝わるビジネス英語を身につけるCDブック』(デイビッド・セイン著、アスコム)。数々のベストセラー英語本を送り出してきた著者が、あいさつ、会議、プレゼン、商談、上司や同僚との会話、電話応対など、ビジネスのさまざまな場面に対応した600種以上のフレーズを紹介したCDブックです。きょうはそのなかから、お金に関するフレーズを引き出してみましょう。■経費について話す(1)交通費は前払いします。You can get advance compensation for travel expenses.「交通費」はcompensation for travel expenses、transportation cost、traffic expensesなどの言い方があり、どれでも相手に伝わるそうです。(2)交通費は自分で計算するんですよ。You need to figure out your travel expenses.「計算する」はcalculateのほかにfigure outが使用可能。後者は、数学的に算出して数字を出すことのほかに、「把握する」という意味も。(3)これでは経費で落とせません。We can’t write this off.「XXを経費で落とす」はwrite XX offでおぼえておきましょう。不自然な領収書を見たら、すかさずcan’t write this offと注意することも大切。■請求書について話す(1)ABC社から請求書が届いています。I get a bill from ABC.「請求書」はbillのほかにinvoiceもよく使われるとか。ただしinvoiceは請求書明細も含めていうことがあるので、「払うべき金額が明記してある請求書」という意味ではbillが適切。(2)ABC社に請求書を出してくれますか?Could you send an invoice to ABC?「請求書をつくる」は、bill to…やmake an invoiceですが、「請求書を送る」は、send an invoiceで大丈夫。なお、「この内容で」と添えるには、based on thisやwith this informationを使うそうです。(3)請求書の金額が間違っていますよ。The amount on this invoice is wrong.請求書の内容に間違いがあった場合、This invoice is wrongといってその内容に関して告げればOK。ただし金額の間違いに関しては、the amount「合計額」を使って指摘するといいます。(4)先月の振込額に誤りがあるようです。It looks like the wrong amount was deposited in my account.受取額に異論がある場合もあるもの。「誤りがある」はwrongやthere was a mistakeを使い、やや遠慮がちにit looks likeやI thinkで話しかけると、相手に失礼がないそうです。間違いが給与振込にあった場合は、in my accountやwith my last checkを使えばOK。*このように、すぐに使えるフレーズ満載なので、とても便利。なおCDには、本書の内容と連動した約74分もの音声を収録。日本語のあとに英語訳が登場するので聞きやすく、いつでもどこでも利用できます。リラックスしたい時間に流しておくのもいいかもしれません。(文/書評家・印南敦史)【参考】※デイビッド・セイン(2015)『聞くだけでネイティブに伝わるビジネス英語を身につけるCDブック』アスコム
2015年10月21日『運動指導者が断言! ダイエットは運動1割、食事9割』(森拓郎著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者は、次のように断言しています。「ダイエットを運動だけでなんとかしようとするのは、ハッキリ言って無謀であり、非効率的である!」。そして、ダイエットの中心にくるのはあくまで食生活の改善で、それを支えるためのメンタルも非常に大切だとも。■「運動でなんとかなる」発想はNG!本書のターゲットはおもに2つのタイプで、そのひとつが「食生活を変えずに運動でなんとかしようとするタイプ」だといいます。こういう人は「ふだんあまり運動をしていない自分が運動したら絶対に痩せるはず!」という思い込みがあるのだとか。ところがこれは、思ったほど効果が出ないのだそうです。消費カロリーが摂取カロリーを上回るぶん動けばいいのですが、実際にはかなり非効率的。1年続ければ変化は望めますが、労力にくらべると思ったほど効果は出ないのだとか。そして、食の量に対して多くの運動量が必要な人(食べる量が多い人)は、なにかの拍子に運動をパッタリやめると、リバウンドが待っていることに……。■「とにかく食を減らす」行動もNG!もうひとつのターゲットは、若い女性に多い「とにかく食を減らすタイプ」。引き算で食の量を減らすことはもちろん大切ですが、目的はあくまで体脂肪を効率よく落とすこと。体脂肪を落とすための材料となる栄養素もあるので、それらはしっかり摂取する必要があるというわけです。逆に危険なのが、「食べすぎると太る」というイメージから、必要な栄養素まで摂らなくなってしまうこと。簡単に栄養失調になったり、最悪の場合は摂食障害などにまで陥ったりすることもあるというので、注意することが必要なようです。■3ヶ月続かないダイエットは無意味上記2つの共通点は、「日常に溶け込まないような生活」、つまり、ずっと続けていくには無理がある「極端な習慣」。そして、「短期間でなんとか結果を出そうという考えが、太りやすい人の考え方」だと著者は指摘しています。なぜなら短期で結果を出した場合、体は同じく短期でもとに戻ろうとするから。これは「体の恒常性」といわれており、体が「いまの状態が通常だ」と認識するには、最低でも3ヶ月は必要なのだそうです。そして3ヶ月でつくった体は、3ヶ月以上かけて維持しなければ適応してくれないということ。■維持がダイエットでもっとも大切!ダイエットでいちばん重要なのは、結果を維持すること。1年で10キロの減量に成功したなら、もう1年間それを維持できなければいけないということです。リバウンドしやすい人は「ダイエットに成功したら、また前のように好きなだけ食べられる」と思いがちですが、「前より好きなものを欲しがらなくなった状態」になるのが成功だというわけ。だからこそ、ダイエット成功のために、日常生活の負担になるほど運動の時間を「足し算」してしまうことには反対だと著者。しかし、あれこれ引いてしまう「引き算」もまたよくないもの。まず必要なのは、「取捨選択できる知識」だといいます。食べると体の代謝が上がり、体脂肪を燃やしてくれる食材を選び、お腹が空きすぎずに、栄養価の高い食べものを少量摂取することで満足できるようにすることが重要だという考え方。*こうした基本を軸に、本書ではさらに具体的なダイエット法が公開されています。本気でダイエットしたい方は、手にとってみるといいかもしれません。(文/書評家・印南敦史)【参考】※森拓郎(2015)『運動指導者が断言! ダイエットは運動1割、食事9割』ディスカヴァー・トゥエンティワン
2015年10月20日『絶対儲かる「値上げ」のしくみ、教えます』(石原明著、ダイヤモンド社)の著者は、これまでに4,500社を超える企業のコンサルティングや、経営に関するアドバイスを行ってきたという経営コンサルタント。とはいえ、よくいるコンサルタントとは少し違った考え方を持っているようです。なぜなら、事業モデルがB to BであろうとB to Cであろうと、ほとんどすべての企業で値上げをしてもらったというのですから。しかも上げ幅の大きいケースでは、もとの10倍以上の値上げをしたこともあるのだとか。一般的な尺度からすれば、リスクの方が大きくなってしまうとしか思えないのではないでしょうか?■付加価値のない値上げをアドバイス加えて、もうひとつ特異な点があります。たいていの人は値上げと聞くと、「なんらかの改善をするのだろう」と思うはず。たとえば、高い値段にふさわしい付加価値をつけることなどがそれにあたります。ところが著者の指導内容はそうではなく、「単に値段を上げてもらう」ところからスタートするというのです。なにか変えるとしても、せいぜい包装を変える程度だといいます。■実は「値段を上げること」が正しい?そうなると顧客は、「経営が行き詰まるのではないか」と不安に思っても当然。しかし現実的に、値上げして売れなくなったとか、お客様が減ってしまったことはまったくなく、ほとんどの企業で売り上げと収益が向上したのだそうです。当然ながら、「値段は低ければ低いほどよい」というのが従来の常識。多くの人が、1円でも安くすることが正しい企業努力だと信じて疑わなかったはずです。ところがそれは間違いで、値段を上げることこそが正しい企業努力だと著者は断言しています。■値上げで会社が儲かる4ステップでも、なぜ値段を上げると経営状態が改善するのでしょうか?著者によればそれは、値上げによって会社全体が儲かる体質に変わるから。しかもそれは、次の4ステップだけで叶うといいます。(1)値段を上げる(2)客層を変える(3)情報を加える(4)経営を回す商品やサービスの値段を上げると「高収益体質」に変わり、適正な利益が得られるようになるそうです。すると資金繰りから解放され、仕事の絶対量が減ることに。その結果、社内に余裕が生まれるというのです。また高い商品を売ることで、社員は自社製品に誇りを持つことができ、働きがいを感じることにもなります。そして、ある時点から取引する客層が激変。つまり、値段よりも安心や信頼でモノを買いたい顧客(「良質な顧客」や「富裕層」)が顧客になるということ。ここまでくるとビジネスは一気に成功に向かうというわけですが、たしかに、さまざまな意味において「質」にこだわるという考え方は、結果的に「人と人とのつながり」を強めることにもなるはず。そう考えると、きわめて現代的なビジネス感覚だといえます。*こうした基本に基づいて、本書ではさらに深く、「値上げの仕組み」を解説しています。それはきっと、多くのビジネスパーソンにとってのヒットになるはずです。ぜひ一度、手にとってみてください。(文/書評家・印南敦史)【参考】※石原明(2015)『絶対儲かる「値上げ」のしくみ、教えます』ダイヤモンド社
2015年10月19日先の見えない低成長の時代だからこそ、わずかな収入からでも大きな資産を生み出す手腕を身につけておくことが重要。そこで、時代の流れに翻弄されない、盤石な資産づくりの方法を紹介しているのが『空き家を買って、不動産投資で儲ける!』(三木章裕著、フォレスト出版)。「収益不動産経営コンサルタント」である著者は、多くの人の資産づくりを成功させてきたという人物。でも、空き家を利用した不動産投資がそれほど簡単に成功するとは、ちょっと考えにくくもあります。しかし著者はそれでも、1億円の預金をつくるより、1億円の資産をつくる方が簡単だと断言します。■1億円を貯めるのには61年9ヶ月平成24年の国税庁の民間給与実態統計調査結果によれば、平均年収は408万円。毎月の生活費を15万円(年180万円)、毎月の源泉税や社会保険で5万5,000円(年66万円)は引かれるといいます。すると手元のお金を全額預金に回したとしても、年間162万円程度。これをすべて預金したとしても、1億円を貯めるのには61年9ヶ月もかかってしまいます。しかも現実的には、住宅ローン、教育費、怪我や病気などによる思わぬ出費があるとすると、30歳から預金をはじめても90歳をゆうに越えてしまうことになります。■1億円の賃貸マンション購入例では、資産づくりのために不動産投資をした場合はどうでしょう?現在のようにインフレ政策が続けられる限り、20年後も買った不動産の価格は変わらないとします。たとえば1億円の賃貸マンションを銀行ローンで買った場合、表面利回り(年間家賃収入÷物件価格×100)8%以上で買うと、20年間の家賃収入で、ローン返済と維持管理費を(自分の収入から追い出しせずに)なんとか払っていけるはずだといいます。■年間800~1,000万円の収入がということは、20年間その家賃さえあてにしなければ、20年後には入居者が勝手にローンを払い終えてくれて、1億円の資産は自分のものになるということ。そしてそれからは引き続き、年間800~1,000万円の収入を手にすることができるという考え方です。つまり、もしも預金で1億円をつくろうと思えば60年以上もかかるのに、1億円の資産を手にするには20年の歳月しか必要ないというわけです。しかもそれ以降も家賃収入は続いていくのですから、たしかにメリットは多そうです。*こうした考え方を軸に、本書では不動産投資で収入を得るための方法を具体的に解説しています。いままで常識と考えていたことを別の視点から見てみることが必要だというわけで、たしかにこれからの時代には大切なことだといえそうです。(文/書評家・印南敦史)【参考】※三木章裕(2015)『空き家を買って、不動産投資で儲ける!』フォレスト出版
2015年10月18日ただ「実演販売士」とだけ聞いても、その仕事内容はイメージしにくいかもしれません。でも、「テレビショッピングなどで、軽妙に商品の魅力を伝えてくれる人」といえばピンとくるはず。『話し方より大切な「場の空気」の説得術』(松下周平(レジェンド松下)著、KADOKAWA)の著者は実演販売士として、「レジェンド松下」の名で12年にわたって活躍してきた人物。1枚数百円のおそうじクロスで、1日に1億8,000万円の売り上げを記録したこともあるというのですから驚きです。そして、そんな実績に基づいて著者は、「コミュニケーションに必要なものは『伝え方』『説明力』『空気のつくり方』だけ」だと断言しています。当然ながらそれは、すべてのコミュニケーションにいえることでもあるはず。その力は、ぜひ身につけておきたいものです。そこで本書から、「YESといわせるために大切な『9:1』のバランス」をご紹介しましょう。■人はネガティブなことをいわれると安心する?たとえば生命保険の勧誘を受けたとして、最初から最後まで耳にやさしいことだけをいわれ続けたとしたらどう感じるでしょうか?「ここだけの話ですが、保険料は格安で保障はすべてついています。限定商品ですからいまが買いですよ」などとメリットばかりを耳打ちされたら、「きっとなにかデメリットがある」と怪しく感じてしまうものです。というのも、なにか決断を迫られた人は、ネガティブなことをいわれた方がかえって安心するという性質があるから。「プラスもマイナスも、すべてを把握したうえで決断したい」と思っているということ。だから信頼されたいのなら、ネガティブな面やデメリットを相手から指摘される前に口にすることが効果的だというわけです。■「YES」といわせたいなら欠点を堂々と見せるそこで、褒めて、勧めて、押したら、短所をひとつ挟む。そうすることで、「正直者だな」という印象を持ってもらうことが可能になるといいます。そして、その短所をカバーするような長所をさらに重ねれば、安心して「YES」と決断してもらえるというわけです。事実、100%欠点のない商品など存在しないはず。そして「おいしい話はない」ということを、みんな漠然と知っているもの。だからこそ、欠点を隠さず、堂々と見せてしまえばいいということです。たとえば先ほどの生命保険の営業マンなら、「この保険はシンプルさが売りです。なので正直にいうと、医療費の保障は手厚くありません」とはっきりデメリットを伝える。そして、「しかし医療費に関しては、高額になった場合は自己負担の上限が定められています。平均してかかるお金はこれだけなので、月々の保険料を抑えた方がいいのではないでしょうか」と、その保険のメリットをさらに重ねて伝える。こうすれば聞き手も納得できるので、安心して契約できるというわけです。いわば、みんな情報を隠されるのが嫌だけれど、マイナス面を知ったうえで決断することには意外と寛容なものだということ。具体的には、9の長所で1の短所をサンドする「9:1のバランス」を意識して、ネガティブな情報も「戦略的に」伝えていくべきだという考え方です。*このように、実力派実演販売士の考え方は、実績に裏づけられているだけに説得力抜群。本書で明かされているメソッドは、業種を問わず、あらゆるビジネスに応用できるはずです。(文/書評家・印南敦史)【参考】※松下周平(2015)『話し方より大切な「場の空気」の説得術』KADOKAWA
2015年10月17日タイトルがタイトルなので40代向けであるように思えますが、ぜひ20~30代のみなさんにも読んでいただきたいのが、『40代から知っておきたいお金の分かれ道』(神樹兵輔著、フォレスト出版)。なぜなら、人生設計、年金、保険、貯蓄、教育費、遺産相続・住宅ローン、投資・資産運用など、誰もがいつか直面する問題について知りたいことが書かれているからです。■資産形成のための3ステップまず紹介されているのは、老後に安心できる資産を形成するために大切な3つのステップ。(1)稼ぐ(2)貯める(3)殖やす当たり前なようにも思えますが、現実的にこの3つをバランスよく実現するのはなかなか難しいもの。そして、これらを実践するために必要なのは、「人生の3大無駄遣い」からの脱却だといいます。ちなみに3大無駄遣いとは、「ローンによるマイホーム取得」「生命保険加入」「マイカー所有」の3つのこと。なぜ、それらが無駄なのでしょうか?■ローンや保険が無駄な理由(1)ローンでマイホームを買ってはいけないまずはマイホーム。これから先、多額の住宅ローンを借りてマイホームを購入する価値がどれほどあるのかと、著者は問いかけています。住宅ローンの返済シミュレーションをしてみても、将来的にマイナス額の方が大きくなることは明らか。しかも途中で売却しようにも、ローンの残債額より物件価格の値下がりの方が大きく、マイホームを処分しても借金だけが残ることになり、売るに売れなくなるというのです。つまりマイホームを買うと身動きが取れなくなり、十分な資産形成ができなくなるということ。(2)保険に入るなら貯蓄を次に保険。日本の保険は、諸外国の2~3倍の高額商品で、しかも補償は諸外国の2分の1、3分の1と貧弱なもの。保険という商品はあくまで金集めビジネスで、加入者とは利益相反の関係になっているため、保険に入るくらいなら貯蓄にまわす方がいいという考え方です。(3)マイカー所有は「不合理な選択」そしてマイカー所有。たとえば車を13年所有すると、税負担はマイカー購入時の本体価格とほぼ同額。具体的にいえば、税抜き価格180万円の車を購入し、13年乗ったユーザーの税負担は173万円になるというのです(購入時の消費税と自動車取得税、自動車重量税、自動車税、年間1,000リットル換算のガソリン代に含まれる揮発油税、消費税などの合計)。その他に有料道路料金や自賠責保険、リサイクル料金なども、税金に準ずるコストと考えると、約57万円(車検代などの整備費含まず)。これらも含めると、車の本体価格を上回るというわけです。いわばマイカーの所有は、持参形成に逆行する「不合理な選択」だということ。*ご紹介したのはほんの一部ですが、このように、お金についての驚きの事実が次から次へと登場します。しかもそれらはすべて、私たちの人生設計に影響を与える問題。だからこそ、年齢に関係なく読んでおきたい一冊だといえるのです。(文/印南敦史)【参考】※神樹兵輔(2015)『40代から知っておきたいお金の分かれ道』フォレスト出版
2015年10月16日ムダな努力を重ねたところで、「才能」と「能力」と「時間」と「お金」を、無意味に消費するだけ。さらにいえば、「心」も消耗させることになりかねない。こう大胆にいい切るのは、『努力の選び方』(井上裕之著、フォレスト出版)の著者。いいかえれば、「ムダな努力」を捨て、報われる努力を選び、実践することが重要だということです。■「なりたい自分」になるにはお金がかかるそんな著者は、「なりたい自分」になるための過程において、もっとも大きな障壁になるもののひとつとしてお金の心配を挙げています。スキルを高めるため努力をするにしても、そのための時間とお金を捻出する必要は出てきてしまうもの。しかし、仕事に割いている時間をそちらに回したとしたら、そのぶん収入が減ってしまう可能性が高くなります。そうなると、またどこかでお金を稼がなければならなくなるため、仕事やアルバイトに時間を取られてしまうことに。すると結果的に勉強する時間がなくなってきて、悪循環に陥ってしまうというわけです。しかも勉強している人たちは、書籍を購入したり、セミナーに通ったり、自分に投資しているもの。だから、普通に生きている人よりもお金がかかっていることになり、その負担は決して小さいものではありません。残念ながらそういう意味で、もともとお金持ちの家に育っている人は、それだけアドバンテージ(優位性)があるということになります。そして、そうでない人にとって、それは大きなハンデになってしまいます。お金があれば時間すら買うことができるというのは、なんとも理不尽な話です。■夢をあきらめる人とあきらめない人の違いでは、時間とお金に振り回されて夢をあきらめてしまう人と、あきらめずにチャンスをつかむ人との違いはなんなのでしょうか?このことについて著者は、たとえお金のリスクを背負ったとしても、「なりたい自分になってみせる」という覚悟があるかないかだと断言しています。つまり「なにがなんでもこれを獲得する」という欲求が生まれれば、苦労は苦労でなくなるということ。「私はこれだけの投資をしているんだ。なんとしてでもここでチャンスをつかんでみせる」そんな強い思いが、自分自身のステージを上げる起爆剤になるというわけです。成功者だって、はじめからお金持ちだったわけではありません。むしろ社会は、チャレンジして裸一貫から成功を掴んだ人が、経済活動を行うことで回っていくもの。だからこそ、「お金がないから行動できない」と考えるのはおかしいと著者。お金のことが気にならなくなるほどの努力を見つけることで、人は大きく成長していくという考え方です。*他にも「ムダな努力の減らし方」から「効果的なスキル修得法」まで、幅広い内容。読んでみれば、なんらかの気づきが得られるかもしれません。(文/書評家・印南敦史)【参考】※井上裕之(2015)『努力の選び方』フォレスト出版
2015年10月15日『ネスレの稼ぐ仕組み』(高岡浩三著、KADOKAWA)は、ネスレ日本株式会社代表取締役社長兼CEOである著者が、企業にとって不可欠な「稼ぐ仕組み」についての考え方を説いた書籍。ネスレの成功が、常識を打破した考えによるものだということがよくわかります。きょうは、「利益」についてのひとつの考え方をご紹介しましょう。■利益率が10%ならお荷物の事業?仮に、ある事業の利益率が10%だったとします。一般的な企業であれば、10%の利益率を上げられる事業は非常に優秀だということになります。しかしネスレでは、10%の利益率しか上げられない事業は、他の高収益事業の足を引っぱるお荷物とみなされるのだそうです。■将来的に右肩下がりならアウト!たとえば毎年10%ずつ売り上げが減少している事業で、利益率10%を計上する50億円の売り上げがあったと考えてみてください。一方には毎年100%ずつ売り上げが増え、利益率25%の10億円事業があります。両者の売り上げを比較すると5倍の開きがありますが、それでも将来的に右肩下がりに衰退していくことがわかっている事業からは、現在の売り上げ規模や利益率にかかわらず撤退するという考え方。■利益率が下がってからでは手遅れ事業を続けていくには、継続的な投資が必要です。しかし、投資に見合うだけの利益が出ていれば回収できるものの、売り上げ規模が減少していくにつれ、利益も縮小していくので回収の見込みが立ちません。ところが、利益率が下がり、投資の回収見込みが立たなくなってから撤退を決断しても手遅れだということ。市場が縮小し、利益率の工場も見込めない事業にしがみつくことに価値はないと著者はいいます。貴重なリソースを無駄にするくらいなら、現在は小規模でも倍々ゲームで増えていく可能性のある事業にリソースを振り向けるべきだとも。普通の企業は、縮小していく事業をなんとか維持しようとするもの。理由は、現時点で10%の利益率がある事業を、簡単に捨てられないから。一方、成長分野の事業は人手不足に陥っているので、人材を外部から補充することに。しかし、その結果として事業が拡大したとしても、5年、10年経過すると様相は一変するといいます。縮小しつつあった事業はそのころ、売り上げが減って赤字になることに。縮小を食い止めようと雇用を維持し続けた人材にかかるコストが原因ですが、彼らを簡単にリストラすることは困難。その結果、この事業の赤字がネックとなって、全社的に利益率を押し下げる。これが、日本企業の典型的なパターンだといいます。■究極は将来性を見極める目が重要規模は大きくても将来性の見込みがない利益率10%の事業から、規模は小さくても成長が見込める利益率25%の事業にリソースを振り分けるという問題解決をし、価値を出すのがファイナンス部門の役割だという考え方。たとえばネスレでいうと、「ギフトボックス」も問題なのだそうです。お中元、お歳暮のマーケットが縮小していくなか、そこにリソースを注いでも「稼ぐ仕組み」として成立しないから。つまり究極的には、将来性を見極める目が重要だということではないでしょうか。*過去には「キットカット受験生応援キャンペーン」など数々のプロジェクトを成功させ、現在も新しい「ネスカフェ」のビジネスモデルを構築しているというだけあって、著者の考え方は説得力抜群。本書の内容は、業種を問わず、さまざまなビジネスに応用できるはずです。(文/書評家・印南敦史)【参考】※高岡浩三(2015)『ネスレの稼ぐ仕組み』KADOKAWA
2015年10月14日『赤ちゃん教育――頭のいい子は歩くまでに決まる』(久保田競、久保田カヨ子著、ダイヤモンド社)は、脳科学の権威である久保田競さんと、“久保田式育児法(クボタメソッド)”を確立したことでも知られる久保田カヨ子さんによる育児バイブル。もともとは1983年にベストセラーとなったもの。一時期はアマゾンのマーケットプレイスで1万円以上の値がついたという名著を復活させたものです。また久保田カヨ子さんは、2009年に放映された『中居正広の金曜日のスマたちへ』(TBS系)や『エチカの星』(フジテレビ系)で「脳科学おばあちゃん」として取り上げられたので、ご存知の方もいらっしゃるかもしれません。いわば、その原点というべきが本書だというわけです。対象にしているのは、0歳から1歳。激しく成長・発達する赤ちゃんに、脳の発達の時期に応じて「なにを与え、なにをさせればよいか」を、脳研究の専門家ならではの知識、そして実際に子育てをした経験をもとに書かれたものだそうです。育児に役立つ実践的な内容が魅力的ですが、きょうはそのなかから、数字に関係する記述をご紹介したいと思います。■赤ちゃんは育て方ひとつで変わるお父さん、お母さんから受け継いだ遺伝的なものを持っているとはいえ、人間の赤ちゃんは自分ひとりでは生きていけない「たよりない生きもの」。いうまでもなく、他の四足動物のように、生まれたその日から歩いたり、走ったりはできないわけです。しかし、どの赤ちゃんも呼吸して、「泣く子こと」と「吸うこと」はできます。個人によって、働きの差もそれほどありません。でも、外からいろいろな刺激を与えて育てていくことで、いろんな働きをおぼえます。その結果、生後6ヶ月もすると頭の働きには個人差が出てくることに。つまり、頭の働きのよい子に育てるのも、働きの悪い子に育てるのも、育て方次第。こうして、からだの成長と頭の働きの発達も、性格、考え方、知能も違ってくるというわけです。■「三つ子の魂百まで」の本当の意味「三つ子の魂百まで」という格言をご存知だと思います。人間としての頭の働きの基本が3歳ごろまでにほぼできあがってしまい、それがいつまでも残ると、昔の人は考えたということ。しかし、「たしかに、そのとおりなのです」と認めたうえで、著者は次のようにつけ加えてもいます。「ことばがしゃべれるようになり、他人とつきあえるようになって、人間の頭の働きの基本がほぼ決まってしまう、2~3歳のころに教育すればよいということではない」ということ。2~3歳ごろに十分教育できるよう、その前、具体的には「歩きはじめるころまでに教育しておかないといけない」ということなのだそうです。この時期の赤ちゃんの反応は限られていますし、与える刺激も単純。そのぶん苦労は少ないものの、手抜きをすると、よい結果は得られないと著者は断言します。そこでお母さんは、自信を持って育児にあたることが大切だという考え方。*医学的根拠と実体験がミックスされているだけに、とても応用しやすい内容だと思います。赤ちゃんがいる方は、ぜひ手にとってみてください。(文/印南敦史)【参考】※久保田競、久保田カヨ子(2015)『赤ちゃん教育――頭のいい子は歩くまでに決まる』ダイヤモンド社
2015年10月13日きょうご紹介したいのは、1,000人以上の受講者数を誇るメディテーション(瞑想)ティーチャーが瞑想の効能を説いた『世界のエリートはなぜ瞑想をするのか』(渡邊愛子著、フォレスト出版)。各界の著名人が実践している瞑想の効能は、いまや広く知られるところ。しかし、「やりたくても、時間がなくて……」という人も少なくないはずです。そこで本書のなかから、1分、5分でできる瞑想の仕方をご紹介したいと思います。■瞑想1分コース忙しすぎて、椅子に腰かけてゆっくり目を閉じる時間は取れないという方は、1分コースがおすすめ。(1)楽な姿勢で座り、目を閉じます。手は自由に、楽なかたちで膝の上に。そして、手のひらは天井に向けてください。(2)目を閉じたら、自分の意識を胸の中央に向けます。「ハートチャクラ」と呼ばれる、第四チャクラの中心だそうです。(3)胸の中央に意識を向けたまま、「感謝の気持ち」を感じていきます。そのためには、すでに与えられている物事や状況、ありがたいと感じていることをひとつひとつ思い浮かべるといいそうです。たったひとつでもかまわないので、思い浮かべ、感謝の気持ちをじっくり味わうことが大切。■瞑想5分コース(鼓動を感じる)5分程度の時間が確保できるなら、鼓動を感じる「ヒーリング瞑想」を。(1)楽な姿勢で座り、目を閉じます。手は膝かももの上に、手のひらを上に向けて置き、指は自然に開いたかたちで力を抜くそうです。(2)目を閉じたら、自分の意識を胸の中央に向けます。楽に呼吸をしながら、意識全体で自分の鼓動を感じることがポイント。鼓動の感じ方は、鼓動の音でも、からだの感覚でもOK。「どのように感じるべき」という考えを手放し、ただ鼓動を感じることが大切。(3)次に意識を、手の指先に向けます。目は閉じたまま、両手がどこにあるかを感じ、意識を指先に持っていきます。そして鼓動を指先で感じてみるわけです。(4)意識をふたたび胸の中心に戻し、心のなかで次の4つのことばを繰り返します。「平和」「調和」「笑い」「愛」瞑想中は「マントラ」という意味のない音を心のなかで繰り返すことが重要。一方、「平和」「調和」「笑い」「愛」という4つのことばは、「スートラ」という意味のあることばの一部なのだといいます。胸の中心であるハートチャクラを意識しながら、心のなかでスートラを唱えることで、癒しの効果がもたらされるそうです。(5)目を閉じたまま、口を動かさず、この4つのことばを心のなかで1分ほど繰り返したら、自分のからだの癒したいところに意識を向けます。なにかをイメージする必要もスートラを唱える必要もなく、ただ意識をそこに向けるだけ。からだの各箇所に意識を向けることによって、癒しがもたらされるとか。(6)また意識を胸の中心に戻し、4つのスートラを心のなかで1分ほど繰り返します。ここまでで、ちょうど5分くらいだそうです。*他にも実践しやすい瞑想の方法と効果、そしてそれらの大前提となる考え方などがわかりやすく解説されています。「ちょっと疲れた……」という方にとっては、大きな手助けとなってくれそうです。(文/印南敦史)【参考】渡邊愛子(2015)『世界のエリートはなぜ瞑想をするのか』フォレスト出版
2015年10月12日『走らないのになぜ「ご馳走」?: NHK 気になることば』(NHKアナウンス室・編、新潮社)は、以前ご紹介した『「サバを読む」の「サバ」の正体』の続編。気になることばについてのアレコレを、やさしい文体でわかりやすく解説しています。今回もまた、数字にまつわるトピックスを引き出してみましょう。■1:なぜ貯金は「おろす」?「腕をおろす」「腰をおろす」「旗をおろす」「こきおろす」「根をおろす」などなど、「おろす」がつくことばはたくさんあります。基本的な意味合いは「上から下へ移す」ことですが、他にも多くの意味が。「貯金をおろす」や「新品をおろす」は、「収めてあるものを取り出して使う」の意味。平安時代中期に書かれた『宇津保物語』には、「三合の米おろして食ひつつ、……点」とあるそうです。“三合の米を、しまってあるところから取り出して食べる”の意味だといいます。■2:「二連勝」は重複表現?そもそも「連勝」とは「続けて勝つこと、勝ち続けること」、「連覇」とは「続けて優勝すること」。当然ながら、この「連」は“継続して”という意味。最低でも二回、二度以上続くことを表すということです。ですから、二回連続した勝利・優勝だけを取り出してみれば、「連勝」「連覇」で事足りるはず。なのになぜ、「二連勝」「二連覇」がこれだけ一般的に使われているのでしょうか?「連勝」は「続けて勝つこと」なので、3回、4回と勝利を重ねても「連勝」と表現できます。どのくらい続けて買ったのかをわかりやすくするために、連続優勝した回数を2、3、4と数え、違いを表すのだそうです。「二連勝」「二連覇」は二度目ということを強調していると考えれば、重複表現ともいいがたいといわけです。■3:10月20日はなんの日?そして、もうすぐ訪れる10月20日はなんの日だかご存知でしょうか?実は、2つの記念日となっています。[1]リサイクルの日「ひとまわり(十)、ふたまわり(二十)の語呂合わせからきているもの。日本リサイクルネットワーク会議が1990年に制定したものだといいますが、少しわかりにくいですね。[2]頭髪の日「とう(十)はつ(二十)」の語呂合わせからきているもので、これは日本毛髪科学協会が制定したもの。そしてここでは、数字とことばの関係について解説されています。たとえば√2=1.41421356を「ヒトヨヒトヨニヒトミゴロ」とおぼえた方も多いはず。また自分の家の電話番号などを、身のまわりの数字をおぼえるときに使うことはないでしょうか?会社の電話番号などは、語呂合わせにするとおぼえてもらいやすかったりもします。日本人がなぜ語呂合わせが得意なのかについて、杏林大学教授の金田一秀穂さんの話が引用されています。「日本人は数字を漢字としてとらえています。そのため、漢字の音読みと訓読みからいろいろな音になり、その組み合わせで意味のあることばをつくり出すことができるのです」ということだそうです。*空いた時間に好きなところから読めるという手軽さもあり、このシリーズは本当におすすめ。読んでみればきっと、ことばをさらに好きになれるはずです。(文/印南敦史)【参考】※NHKアナウンス室・編(2015)『走らないのになぜ「ご馳走」?: NHK 気になることば』新潮社
2015年10月11日人間誰しも、自分のことを人とくらべてしまいがち。でも当然のことながら、それでなにかが改善されるわけではありません。「わかってはいるんだけど……」という方にぜひおすすめしたいのが、『人と比べない生き方劣等感を力に変える処方箋』(和田秀樹著、SBクリエイティブ)。精神科の臨床医である著者が、「人とくらべることを、どう成長や発達のパワーの源泉にできるのか」を説いた内容です。ベースになっているのは、近年大きな話題を呼んだ精神科医/心理学者であるアフフレッド・アドラーらの理論。きょうはそのなかから、劣等コンプレックスを植えつけないために必要だという、2つの考え方をご紹介したいと思います。■劣等感と「劣等コンプレックス」の違いアドラーによれば劣等コンプレックスとは、劣等感が耐え難いほど大きくなったもの。劣等感が優越性の追求に向かうのに対し、安易な補償を求めてしまうのが劣等コンプレックス。よって、劣等感を過大なものにしないことが大切だと著者はいいます。そして劣等感が劣等コンプレックスにならないようにするためには、劣等感を強めない、極端なものにしないことが重要。これについては、2ついえることがあるそうです。■劣等コンプレックスにならない考え方[ポイント1]:追い打ちをかけるべからずたとえば計算が苦手な子どもがいるとします。自分でも苦手意識を持っていて、それが欠点だということもわかっている。にもかかわらず、親や教師から「どうしてこんなに簡単な計算ができないの?」といわれたら、その子はさらに劣等感を強めることになってしまいます。なにかの癖のように、変えられるものについて注意するというのならまったく問題なし。しかし本人は苦手だと思っていて、努力してもなかなか改善できず、コンプレックスを感じている。そこに追い打ちをかけるのは、賢いやり方ではないということ。[ポイント2]:長所に目を向けさせるそして、コンプレックスを極端なものにしないためのもうひとつの方法は、「長所に目を向けさせる」ということ。劣等感を抱いている点について指摘ばかりしていると、本人も気落ちして自信をさらになくし、劣等感がどんどん増強されていくことになって当然。それでは本末転倒なので、そうならないように、優れた点に目を向けさせるべきだということです。欠点は誰にでもあるもの。そして欠点を気にするのではなく、自分の長所や、人よりも優れた点に目を向ける。それができれば、きっと自信につながると著者はいいます。「計算は苦手でも、作文は得意だ」というように、コンプレックスがあっても他の部分で優位性を持てれば、劣等感は重いものにならないということです。*文体も柔らかく、また新書なのですぐに読めてしまえるはず。劣等感に悩んでいる人にとっては、本書が突破のための切り口になってくれるかもしれません。(文/印南敦史)【参考】※和田秀樹(2015)『人と比べない生き方劣等感を力に変える処方箋』SBクリエイティブ
2015年10月10日難しそうな問題も、中立な立場でわかりやすく解説してくれるジャーナリストの池上彰さん。聞くに聞けないさまざまな疑問を解決してくれる、頼もしい存在です。『池上彰のニュース そうだったのか!! 1 日本人なら知っておきたい「実はみんな知らない日本」』(池上彰著、SBクリエイティブ)は、テレビ朝日の同名人気番組を書籍化したもの。なかなか人には聞けない数々の話題について、わかりやすく解説してくださっています。きょうはそのなかから数字に関連したトピックをご紹介しましょう。■3種類の文字を使う国は日本だけ日本ではひらがな、カタカナ、漢字が使われていますが、このように3種類の文字を使っている国は日本だけ。世界中のほとんどの国は1種類で、多くても2種類の文字しか使われていないのだそうです。■大和言葉を表す文字がなかったところで、日本でもともと使われていたことばを「大和言葉(やまとことば)」といいます。しかし大和言葉には、それを表す文字がなかったというのです。そこで中国から漢字を輸入し、その漢字を崩して書いているうちに、ひらがなやカタカナが生まれていったということ。では漢字に加え、ひらがな、カタカナと2種類も文字があるのはなぜなのでしょう? それは平安時代に、それぞれ違う人が文字をつくってしまったからだというのですから驚きです。■ひらがなをつくったのは女性?ひらがなは手紙を書くために誕生し、平安時代の女性貴族が恋文によって流行らせたのだそうです(ただし、諸説あり)。最初は漢字で書いていたのを、女性が崩し字で書いているうちにひらがなが生まれたというわけ。平安時代の貴族たちは、1日に何度も恋文のやり取りをしていたのだとか。■カタカナはお坊さんがつくったそしてカタカナは、中国から仏教が入ってきたとき、仏教の経典を書き写した人たち、すなわちお坊さんが生み出したもの。当時のお坊さんは、経典を読むために漢字の横にメモを書いており、これがもとでカタカナが生まれたということです。■1,500字ぐらいの漢字が日本産最後は中国に約8万5,000種あるのに対し、日本の漢和辞典に載っている漢字の数は5万字ほど。その多くは中国から来たものをそのまま使っていますが、「鰯」「峠」「畑」など日本で独自につくられたものも。これらを見ればわかるとおり、日本でできた漢字は意味がすぐわかるのが特徴で、1,500字くらいが日本でつくられたそうです。なお、同じ漢字でも音読みと訓読みがあって読み方もいろいろなのは、「いつ中国から入ってきたか」によって異なるのだといいます。*他にもためになる情報満載。字も大きく読みやすいので、お子さんと一緒に楽しむのにも最適です。(文/書評家・印南敦史)【参考】※池上彰(2015)『池上彰のニュース そうだったのか!! 1 日本人なら知っておきたい「実はみんな知らない日本」』SBクリエイティブ
2015年10月09日『「デジタル遺品」が危ない: そのパソコン遺して逝けますか?』(萩原栄幸著、ポプラ社)というタイトルを見てドキッとした方は、決して少なくないはず。パソコンやスマホ内の写真・文章、ブログ・SNS、ネット上の金銭取引、パスワードなどに代表される「デジタル遺品」をきちんと管理しておかないまま亡くなると、残された家族に大きな負担がかかってしまうからです。そこで、「そのとき」のためにどうしておくべきかを解説しているのが本書。しかしその場合、いちばん気になるのはパスワードの管理ではないでしょうか?■パスワードは重要度別に3つに分ける1つのパスワードを使いまわすことの危険性は、いまや広く知られています。しかし現実的に、複数のパスワードを管理することは困難です。そこで著者がおすすめしているのは、パスワードを重要度別に3つに分けること。[A]絶対に重要なパスワード[B]2番目に(そこそこ)重要なパスワード[C]他人に盗まれても実害のない、あっても極めて軽微なパスワードの3つに分けて管理するというわけです。■それぞれのパスワードの使い分け方[A]絶対に重要なパスワードまずAは、業務に関するものと、お金に直接関係するもの。業務関連では、毎日使うOA端末(PC、コピー機、ファックスなども)のパスワード、システムに入る際に必要なパスワードや認証など、業務で使うものすべて。このとき重要なのは、プライベートとビジネスははっきり分けること。プライベートでセキュリティが脆弱なサイトで同じパスワードを使い、それが盗まれてしまっては大変なことになるからです。お金に関連するものとしては、金融機関のキャッシュカード、クレジットカードの暗証番号とセキュリティコード、ネットバンキング使用時の認証一式、証券会社での株売買の際の認証など、いずれも絶対に漏らしてはいけない最重要パスワード&IDなので、十分すぎるほどの注意が必要。たとえば8桁のパスワードの場合には「英字の大文字+小文字」「数字」「特殊文字」を組み合わせてつくること。また意味のある単語、地名、人名、誕生日、車のナンバー、パートナーのニックネーム、住所、電話番号の数字列などの流用は厳禁。[B]2番目に(そこそこ)重要なパスワードBは、通販サイトや、他人に利用されるとまずい有料サイトのパスワード&ID、FacebookやTwitterなどSNS関連のパスワード。このレベルでは、銀行口座やクレジットカードのパスワードが盗まれたときほどのダメージはないものの、「なりすまし」行為などによって結果的に金銭的被害や、信用低下にまでおよぶ可能性も。[C]他人に盗まれても実害のない、あっても極めて軽微なパスワードCは、無料サイトのパスワード&ID、会員限定ニュース記事やメルマガなどのパスワード&IDなど。無料なので銀行口座やクレジットカード情報は入力していないので、金銭トラブルに巻き込まれる心配はなし。単純で、おぼえやすい文字列で大丈夫だそうです。*このように、重要度によってパスワード&IDを3つに分類することで、情報セキュリティ上の安全性は格段に上がることに。デジタル遺品管理の第一ステップとして、まずは手をつけておきたいところです。そして以後も、本書を利用しながら大切な情報を緻密に管理すれば、なにがあっても安心できることでしょう。(文/書評家・印南敦史)【参考】※萩原栄幸(2015)『「デジタル遺品」が危ない: そのパソコン遺して逝けますか?』ポプラ社
2015年10月08日