人生にはつらいことがつきもの。それを避けて通ることは、不可能だと断言しても過言ではありません。しかし「つらい」という部分こそ同じでも、「次はもっとうまくやろう」と、まるで何事もなかったかのように楽しげに毎日を過ごす人もいれば、いつまでもくよくよと「終わったこと」を引きずっている人もいます。でも、できることならイヤな気持ちを引きずらず、気持ちを前向きに切り替えて進みたいもの。そこでぜひとも参考にしたいのが、きょうご紹介する『「引きずらない」人の習慣』(西多昌規著、PHP研究所)です。著者は、おもに大学病院で患者さんの診察や、医学生・研修医の教育に携わってきたという人物。現在はそのキャリアを生かし、スタンフォード大学で、ご自身の専門である睡眠医学の研究を行なっているそうです。当然のことながら、そんな著者自身も人間関係のトラブルでネガティブな気持ちを引きずってしまったり、心を砕かれたりした経験があるのだとか。また、自分よりもはるかに大変な「引きずりそうな出来事」を克服してきた多くの患者さんとも接してきたといいます。そんな経験からいえるのは、くよくよしないことはできないにしても、いつまでも「引きずらない」ことはできるということ。そこで本書では、「引きずらない」ために必要なことを説いているわけです。■100%引きずらないのは無理仕事の悩みを、プライベートでも引きずってしまうことはよくあるものです。たとえば仕事でミスをし、家に帰って家族に八つ当たりしてしまったり。また逆に、失恋のショックから立ちなおれず、仕事に身が入らないというようなこともあるでしょう。「仕事をしている私」も「家でプライベートな時間を過ごしている私」も、どちらも同じ私。だからこそ、仕事とプライベートを分けることは、なかなか難しいのです。そんなせいもあってか、「オンとオフのスイッチを切り替えよう」と、いろんなところで耳にします。しかし、仕事とプライベートを完全に分けることができて、悩みを100%引きずらないというのは無理な話だと著者は断言しています。仕事中にも帰宅時間や余暇のことを少しは考える、プライベートでも、大切な案件のことはアタマに残っている、それが現実だということ。そのような考えを軸に、むしろ、数ある悩みのなかから「引きずってもいい」ものを選ぶというやり方があってもいいと著者。すべてを引きずらないというのは困難な話で、現実的ではないからです。そして、そのようなチョイスができたなら、すでに心のなかに余裕が生まれている証拠でもあるといいます。いいかたを変えれば、「引きずってもいい」というのは、未来を向いている態度。なぜなら「引きずる」自分を許してあげているから。■引きずってもいい4種類の悩みところで、人間の悩みは、たった4つしかないという説があるのだそうです。それは(1)人間関係、(2)金銭問題、(3)健康問題、(4)未来のこと。なんとなく納得できる話ではありますし、著者のフィールドである精神科の診察室での悩みも、この4種類がほとんどなのだといいます。そして著者は、この4種類の悩みに関しては、「引きずる」ことを許してもいいと考えているのだとか。それには根拠があるようです。職場の人間関係がこじれている人はもちろんのこと、リストラによる生活苦、がんを告知されたあとのショック、自分自身の将来の不安など、数々の悩みをたくさん聞いてきたからこそ、こうした思い悩みは「引きずらない」ほうがおかしいと思うのだそうです。いっぽう、「こんなことは絶対に引きずらない」「気持ちを切り替えたい」というものも、ひとつくらいは決めておいてもいいといいます。たとえば、プレゼンで失敗した、会話で場違いなことをいってしまったなど、その日のうちに片づけてしまいたいモヤモヤについては、「引きずらない」と決めてしまうほうがいいということ。そして4つの悩みに関しては、「仕事は家に持ち帰らない」「プライベートは職場に持ち込まない」などと無理にオンとオフとで割り切ろうとするのではなく、家族や職場の同僚などに話してみてもよいといいます。ただし当然のことながら、家で仕事の愚痴ばかり、職場で家の不満ばかりになってしまうなど、極端にならないように気をつける必要はあるでしょう。*豊富な経験を軸として書かれており、しかも語り口がソフトなので、無理なく受け入れることができる内容。「ついつい引きずってしまう」という方には、ぜひ読んでいただきたいと思います。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※西多昌規(2016)『「引きずらない」人の習慣』PHP研究所
2016年03月05日ワインはおいしくて好きだし、興味もあるからいろいろ知ってみたい。でも、入門書を見てみても難解な専門用語ばかりで、基本的に敷居の高い世界。つまり、近づきたくても怖くて近づけない。そんな悩みをお持ちの方は、決して少なくないはずです。そこでおすすめしたいのが、従来の入門書とは一味違う『30分で一生使えるワイン術』(葉山考太郎著、ポプラ社)。日本で初めてワインの世界に笑いを持ち込んだ人物として知られるワイン・ライターが、「ワインに対する恐怖心を取り払うことを最大の目的として」著したものです。情報を厳選し、初心者を遮断する壁になってもいる「薀蓄(うんちく)」は必要最小限にとどめているところが特徴。そして本書の意義は、ワインのキーワードを理解できるようになることだといいます。だから本書を読んでレストランやワイン店へ出かけるころには、胸を張ってソムリエやワインショップの店員と話せるようになると著者は断言しているのです。ところでワイン初心者にとって気になることのひとつに、「スーパーやコンビニに並んでいる1,000円以下のワインはだめなのか?」という問題があるのではないでしょうか?そこで本書のなかから、価格についての解説を引き出してみたいと思います。■高額ワインと安価なワインの違いワインの価格帯には、大まかに1,000円、3,000円、1万円の3つの分岐点があり、4つの価格帯に分かれるのだそうです。でも気になるのは、1本1万円の高額ワインと、1,000円の安価なワインとの違い。高いワインほどおいしいものなのでしょうか?ワインは高価になると、凝縮度やアルコール度数が上がるのだそうです。果汁3%のオレンジジュースが1,000円のワインだとしたら、果汁100%が1万円のワインだということ。つまり高くなると水っぽさがなくなり、色が濃くなるというわけです。具体的にいうと、白ワインは色が黄色に近くなり、赤の場合は香りが大きく、渋さが強くなって色も黒に近くなるのだとか。しかしそんな赤ワインを若いうち(20年以内?)に飲むと、ものすごく濃くて渋く、食べものとも合わせにくいといいます。だからイギリス人のような「濃厚ファン」でない限り、おいしいとは思わないだろうというのが著者の意見。高価なワインは熟成させるとおいしいものですが、若い高級ワインは「渋み爆弾」なので、コルクを開けるのはもったいないという考え方。「高価」と「おいしい」は同じではないので、高価なものは飲みごろを自覚して買うべきだというのです。そして毎日飲むのなら、1,000円前後で買える「濃厚なワイン」がベスト。探せば、お買い得ワインが必ず見つかるはずだといいます。では、先に触れた「ワインの4つの価格帯」について詳しく見てみましょう。■ワインの価格帯ごとのおもな特徴[1,000円以下]毎日大量にワインを飲む「ヘヴィー・ユーザー」にとって、この価格帯のワインはうれしいところ。一般的に低価格のワインは渋みが少なめですが、安くても、渋みの乗ったおいしいものがたくさんあるといいます(特にボルドー系の赤)。[1,000円以上3,000円未満]3,000円近く出すと、ワインの質は格段に上昇。上品な渋みと酸味のバランスがいいため、ボルドー系ならこれで十分だといいます。また、ブルゴーニュ系にもよいものが多数あるというのでチェックが必要かも。ちなみに、気軽なビストロで出てくるのがこのクラスのワイン。[3,000円以上1万円未満]有名なフレンチレストランへ食事に行き、普通の人がオーダーできるのはこのクラス。つまり、かなりの高級ワインだということ。ちなみにワインの仕入原価は小売価格の約70%で、レストランでは食材やワインの原価の3倍で値づけするのが基本。小売価格が3,000円のワインは原価が2,100円で、その3倍なら6,300円。これがワイン・リストの価格になるというわけです。[1万円以上]著者いわく、ワインマニアが人生を犠牲にして集めるクラス。なお1万円以上なら、10万円も100万円も同じなのだといいます。この価格帯のワインは、長期熟成するようにつくられているため、若いうちに飲むと、赤ワインの場合は渋み爆弾。口のなかに紙やすりを敷き詰めたようにギシギシするのだそうです。一方の白ワインの場合は酸味がきつく、歯が痛くなるとか。*つまり「高価だからいい」というわけではなく、1,000円以下のワインでも充分に満足できるようです。本書のページをめくりながら、この週末にはワインを楽しんでみてはいかがでしょうか?(文/書評家・印南敦史) 【参考】※葉山考太郎(2009)『30分で一生使えるワイン術』ポプラ社
2016年03月04日ものごとについてしっかり結果を出せる人と、懸命にやっているのに結果を出せない人がいます。でも、結果が出せない人は、はたしてどこに問題があるのでしょうか?はじめる前から、すでに差がついているということなのでしょうか?あるいは、努力の差が違うというのでしょうか?『東大生が知っている! 努力を結果に結びつける17のルール』(清水章弘著、幻冬舎)は、東大出身の著者がそんな疑問に答えてくれる書籍。具体的には、大切な努力を無駄にしないためのルールが紹介されているのです。「正解を求めない勉強法」「テストの勉強法」「思考法」「社会に出てからの勉強法」からなる構成。著者は学習塾の経営などに携わっている人物であるだけに、勉強法が多め。しかしそれらは、ビジネスパーソンの仕事にも置き換えることができそうです。きょうは思考法のなかから、「時間」に関連する項目を引き出してみたいと思います。■学生時代は時間に振り回されていた!著者は起業した前後には「時間」に関する失敗を重ねていたため、「いつか『時間』で痛い目に遭うよ」といわれていたそうです。大学2年生の冬から会社づくりをはじめたので、結果としてとんでもなく忙しい毎日になってしまっていたというのです。たとえばそのころは、次のようなスケジュールで生活していたのだといいます。【部活のない日】9時~14時30分:授業(@駒場キャンパス)14時40分~16時:自主練習(@駒場ホッケー場)17時~22時:アルバイト(@御茶ノ水)22時30分~23時:夕飯23時~26時:仕事【部活のある日】9時~12時10分:授業(@駒場キャンパス)12時10分~13時:筋トレ(@駒場ホッケー場)13時~16時20分:授業(@駒場キャンパス)16時30分~21時:部活(@駒場ホッケー場)21時30分~22時30分:夕飯23時~26時:仕事■時間を固定することで時間が生まれたこの生活が楽しくて仕方がなかったといいますが、しかし時間に振り回されながら、ミスを連発してもいたのだとか。そうやって不規則な生活を続けていたある日、「予想外なことがたくさん起こるからといって、自分の生活も不規則にする必要はないな。むしろ、規則正しくしたほうが、時間が生まれるんじゃないか?」と気づいたのだそうです。そこで実践してみたのが、中学・高校時代に学んだ「三点固定」という発想。それは、次の3つの時間を固定するというものだといいます。(1)起床時間(2)帰宅時間(3)就寝時間この3つを固定すれば、規則正しい生活になるということを、数年前に学んでいたというわけです。■時間が生まれた決め手は「帰宅時間」それを20歳になってからふたたび試してみたというのですが、結果からいえばこれが大成功。理由は、このようにすると、自分がコントロールできる時間を算出することができるから。なお算出するための計算式は、次のとおりだそうです。(コントロールできる時間)=「就寝時間」—「帰宅時間」—「ご飯とお風呂の時間」たとえば18時に帰宅して、ご飯とお風呂に2時間かかって、24時に寝るのであれば、(コントロールできる時間)=24-18-2=4時間ということになるわけです。つまりここからもわかるとおり、帰宅時間が固定されていると、計画がとても立てやすくなるということ。「起床時間と就寝時間を固定しよう」という話はよく聞くかもしれませんが、そこに「帰宅時間を固定できるか」が大きなポイントだったのだといいます。*この話など、すぐにでも応用することができるはず。また実体験が数多く盛り込まれているので、読み物としても楽しめる内容になっています。時間のあるときにでも目を通してみれば、効果的に結果を出す方法を身につけることができるかもしれません。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※清水章弘(2015)『東大生が知っている! 努力を結果に結びつける17のルール』幻冬舎
2016年03月03日『子どもはイギリスで育てたい! 7つの理由――住んでわかった。子育てと教育から見える日本へのヒント』(浅見実花著、祥伝社)の著者は、タイトルからもわかるとおりイギリス在住。大手広告代理店のマーケティング部門を退職したのち、2010年に移民として、イギリスで起業する夫を含む家族4人で移住したのだそうです。ところが暮らしてみると、日本で慣れ親しんできたものとは違うやり方や考え方に何度も出会うことになったのだとか。そしてそのたびに、「ああ、そういうものか」と思いなおし、適応するように努めてきたのだといいます。イギリスで教わった重要なことは、「あらゆることに期待しない」という人生の教訓。悲観的な意味ではなく、物事を大きすぎもせず、小すぐもせず、ありのままに捉えることなのだそうです。そのうえで実践的に行動すれば、人生が少しだけリラックスしたものになるという考え方。本書でもそこを軸として、子育てや教育の観点から、イギリス社会を個人的に深索しているというわけです。そしてそれは、子育てや教育の観点から、日本社会を深索する作業にもなるはずだといいます。きょうはなにかと気になる「お金」のトピックスのなかから、保育費の問題を引き出してみたいと思います。■保育費が高額なのに復職する母親たちイギリスにおいて、子どもを保育所に預けることは、日本でいわれるほど罪悪感に結びつかないものなのだそうです。むしろそれ以上の問題は、保育所にかかる費用がとんでもなく高額であること。なにしろロンドンで3歳未満の子どもを週5日のフルタイムで保育所に預けた場合、毎月800~1,300ポンド(約15万~24万円)もかかるというのですから驚き。そんなことになるのには理由があって、つまりは3歳未満の公的保育サービスがないから。そのため保育にかかる費用はほぼすべて、各家庭が負担することになるというのです。家庭の経済状況に応じた育児手当や、全員に与えられるわずかな無料保育日など、多少の公的支援があるとはいえ、あまりにも高額な保育費には太刀打ちできないというわけです。いっぽう、保育所への公的資金援助がある日本では、各家庭が保育所に支払う費用はずっと安いものになります。たとえば東京であれば、認証保育所にフルタイムで預ける場合、3歳未満の子どもは上限が8万円。それ以上の子どもは7万7,000円で、認証保育所はさらに低額。もしロンドンの保育所が東京の価格水準で利用できるとしたら、おそらくイギリスの親たちは、国庫に多大な負担をかけるほど保育所を使い倒すだろうと著者は推測しています。■イギリスの保育費は住宅ローン以上!いずれにせよ、いくらフルタイムで働いたとしても、毎月20万円前後の保育費を払うことは決して容易ではないはずです。事実、母親が朝から夕方まで毎日必死で働いたとしても、手取りがほぼ保育費に消えてしまう家庭は決して少なくないというのです。月々に返済する住宅ローンよりも保育費のほうが高くつくという、私たちの感覚では信じられないような話も有名な話。もちろん費用やライフスタイルのバランスをとって、どちらの親がフルタイムからパートタイムに切り替える場合もあるでしょう。しかし不思議なのは、保育費が高くついたとしても、多くの母親たちがなんらかのかたちで復職しているという事実。イギリスで労働可能な年齢の女性のうち、専業主婦は10人に1人にすぎないというのです。■なぜイギリスの母親たちは復職する?でも、母親たちはそんな状況下で、なぜ復職することを選ぶのでしょうか? それは、長い目で見たとき、収入面でプラスになるからというだけではないと著者はいいます。家庭に入るより働くほうが、充実感や満足感を得られるから。働くことによって、自分が健全でいられるから。自分の仕事が好きだから。子どもが成長したあとも、自分のキャリアを続けられるから。働くことで、子どもに手本を示したいから。などなど、復職する母親に関するさまざまな記事に目を通してみると、彼女たちの動機は実にさまざま。つまり母親たちは、復職すること・復職をやめることの、よい点と悪い点とを自分なりに秤にかけ、シビアに判断しているということです。*この話に限らず、イギリスと日本では感覚的に違いすぎることばかり。しかし、だからこそそこを直視すれば、私たちが日本で進むべき方向も見えてくるのではないでしょうか?(文/書評家・印南敦史) 【参考】※浅見実花(2015)『子どもはイギリスで育てたい! 7つの理由――住んでわかった。子育てと教育から見える日本へのヒント』祥伝社
2016年03月02日「これから先、より豊かな暮らしをするためにいちばん大切なものは?」もしもそう問われたとしたら、なんと答えるでしょうか?『ストレスゼロの伝え方』(木村英一著、CCCメディアハウス)の著者は、それは間違いなく「対話力」だと断言しています。そしてその理由は、コンサルタントという自身の仕事に関係するのだといいます。起業家や業界トップ企業の経営者、新入社員、60代のビジネスマンまで、さまざまな人々のトレーニングを行なってきた結果、対話力がないことで「見えない壁」にぶつかって悩んでいる人を数多く見てきたからだというのです。いっぽう、「対話力の達人」「コミュニケーションの達人」といってもいい人たちにも数多く出会ってきたのだとか。そういう人たちは、なにか特別なことを話すわけでもないのに、相手の心をしっかりとつかんでしまうそうです。つまり、そんなたくさんの達人たちと出会い、その対話力を分析する機会にも恵まれてきた著者は、本書を通じて彼らの「伝え方」を公開しているのです。ちなみに、対話の達人たちが自在にこなしている「対話力を上げる7つの要素」があるのだそうです。それは、「伝える目的」「伝える方法」「相手」「環境」「印象」「影響力」「自分」。これらを「整える」ことで、対話力は格段にレベルアップするという考え方です。きょうは「印象」に関する章のなかから、ひとつのトピックを抜き出してみたいと思います。■重要なのは「動く5%」!私たちのDNAのなかに、動物だったころの記憶が刻み込まれているという話は有名です。事実、私たちは、動くものがあるとその対象に意識を集中させてしまうもの。それは、持って生まれた記憶によるものだということです。ところで、話すときに手を動かすクセのある人がいます。ちなみに手の大きさは、体全体からするとせいぜい5%程度。にもかかわらず、他の95%が動いていなかったとしても、残り5%の手が動いただけで、相手の視線はその手に釘づけになってしまうものです。そして無意識のうちに、動かない95%の方ではなく、動く5%によって相手を判断しようとします。■不快に感じさせる動きとは著者は約700名に対し、対面の印象トレーニングを実施したことがあるそうです。おもしろいのは、その結果、ほぼ100%の確率で人々が無意識に行なった行動があったということ。書く必要のないときに筆記具を持った場合、ほとんどの人が無意識に筆記具を使って手で遊びはじめたというのです。そしてその映像を見せると、多くの人が「手の動きが気になる」「不快である」と反省の弁を述べるのだとか。どれだけ真剣に話を聞いているような顔をしていても、手が動いていると真剣さや誠実さに疑問符がついてしまうということです。では、手を隠してしまえばいいのかというと、それも違うと著者はいいます。賄賂や悪だくみを指す「机の下」「袖の下」という言葉があることからもわかるように、手が見えない状態は相手を多少なりとも不安・不快にさせるもの。もしも人にいい印象を与えたいのだとすれば、手は机の上に置き、書く必要がない場合は手を組むといいのだそうです。■話すときのクセは色々ある私たちには誰にでも、「話すときのクセ」というものがあります。たとえば立って話してもらった場合、体の重心をずらしながら話す人、左右に微妙に揺れる人、首で表紙をとりながら話す人など、さまざまなタイプがいることがわかります。しかし体のどこかでリズムをとりながら話す人に対し、「その動きを止めて話してください」というと、まるで話せなくなるのだとか。体を動かしながら話すというクセは、一度習慣になってしまうとなかなかなおしづらいもの。しかし、決して見過ごせないと著者はいいます。理由はいたって明快で、すなわち「この動きはあったほうが好印象」だといえる動きに出会ったことがないから。だからこそ、今後相手に嫌な思いをさせたくないと思うのなら、なおしておいたほうがいいと著者。いってみれば、これも「5%」の範疇に収まること。どうでもいいように思えることが、実は印象を大きく左右してしまうというわけです。*このように、意外とも思える角度からも「伝え方」を検証している点が本書のおもしろさ。人になにかを伝えること、好印象を与えることは楽ではないだけに、目を通しておくといいかもしれません。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※木村英一(2015)『ストレスゼロの伝え方』CCCメディアハウス
2016年03月01日『自分を磨く働き方』(安田佳生著、フォレスト出版)の著者は、普通の人があまり経験したことのない、できれば経験したくないような苦境を乗り越えてきた人物。1990年に「ワイキューブ」を設立し、斬新な人材コンサルティング事業によって話題となったものの、2011年には同社が倒産。それどころか、結果的には自己破産に至ったというのです。本書の根底にあるのは、そんな著者がその後3年の歳月を経てたどりついたという「理想の働き方」。それは「人は楽しむために生き、そして楽しむために働く」というシンプルなもの。そんな視点を軸として「仕事をつまらなくしているものの正体」を明らかにし、やりがいを持ち、楽しく仕事をするにはどうすればいいのかを解き明かしているわけです。そのなかからきょうは、お金についての考え方を見てみたいと思います。■お金が犯した罪とは?世の中にまだお金がなかった時代、人が一対一の物々交換によって欲しいものを手に入れていたという話は、いまさら語るまでもないこと。米を肉と、または肉を魚と交換していたわけです。そしてそののち、交換の道具として「お金」が登場します。それまでは相手が欲しがるものを持っていなければ交換が成立しませんでしたが、お金を介在させることによって取引がしやすくなったのです。肉や魚と違って、お金は腐ることがありませんし、いつまでも蓄えておけます。だからお金さえあれば、時を選ぶことなく、欲しいものが欲しいときに手に入るようになったわけで、これはお金の功績。しかしお金は同時に、矛盾も生み出すことになったといいます。蓄えられるという性質があるため、お金そのものが価値を持つようになったということ。その結果、お金を大事にする人が増えたのです。本来は肉や魚を手に入れるための道具だったはずなのに、それ以上の価値がお金についてしまったという、ある意味では予想外の結果。では、お金そのものが価値を持つようになると、どんなことが起きるのでしょうか?簡単にいうと、お金を基準として世の中の価値がはかられるようになっていくのです。そしてそうなった結果、「本当に価値あるものはなんなのか」ということが見えにくくなってくるわけです。その結果、社会の発展よりも株主や経営者の儲けが重視されるようになり、社員はいつでも替えがきく歯車となっていくことになっていきます。著者によれば、これこそが「お金が犯した罪」。■誰も働かなければいいだとすれば、どのようにすればそんなシステムから抜け出ることができるようになるのでしょうか?この問いに対して、著者はこういいます。資本家に対抗するには、誰も彼らのために働かなければいいのだと。お金がない者同士がみんなで集まって、「どんなに金を積まれても、嫌いな人の仕事は絶対にやらないぞ!」と同盟を組めばいいというのです。そして、資本家の仕事をボイコットすればいいというのです。それは、あまりにも非現実的な話であるように聞こえます。けれど著者は、そんな意見に対して、「社員がみんな会社をやめたらどうなるのか」と反論します。もしもそんなことになったら、当然のことながら会社は利益を出せなくなり、資産家は金儲けができなくなるでしょう。■資本主義社会は終り!しかし一方で、この考え方が成功することもないともいうのです。ボイコットは歩調を合わせなければ効果がないものなのに、そんな流れのなかからは「私がその仕事をやります!」と抜け駆けする人が出てくるものだから。いってみれば賢い投資家は、そこまでお見通しなのです。だからこそ、「お金の価値を暴落させる作戦」に出るしかないと著者は主張します。どういうことかといえば、「お金のために働く」ことをやめるということ。「もっと収入を増やしたい」「お金持ちになりたい」と考えるのではなく、「生きていくのに十分なお金さえあればいいじゃないか」と考える。みんながお金を欲しがらなければ、お金の価値は下がり、誰もお金で動かされなくなるというわけです。そしてお金の価値が暴落すれば、資本主義社会は終りを告げることになります。そこにこそ、人間にとっていちばん大切な生き方があるというのです。*おわかりのとおり、これは極論中の極論です。つまり、ある意味で著者は一種のジョークとしてこの考え方を展開しています。しかし重要なのは、冗談めかした極論の向こう側に、本質的な部分もはっきりと見えるということ。つまり、「誰もが忘れかけていたお金についての大切なこと」を再認識するためにも、読んでみて損はないと思います。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※安田佳生(2015)『自分を磨く働き方』フォレスト出版
2016年03月01日『1万人が実践している 売れる店長の全技術』(丹羽英之著、かんき出版)の著者は、船井総合研究所の経営コンサルタント。商業施設のテナント活性化のプロフェッショナルとして、ショッピングセンターの集客プロモーションから開発・リニューアルまでを積極的に支援してきた実績の持ち主です。入社してから23年間で1万店舗の店長と出会ってきたそうで、その1万人から教わったことがあるのだとか。それは、成果を出している店長には共通したキーワードがあるということ。また同時に、誰にでも簡単に真似できるコツもあるといいます。だとすれば店長さんだけでなく、販売に携わっているすべての人は、ぜひ応用したいところです。■1:「おかげさまで」を口ぐせにする相手がお客様でも取引先でも、なにか聞かれたら「おかげさまで」と最初に返すようにするといい。著者はそう主張しています。なぜなら「おかげさまで」が口ぐせになると、自然に否定的な印象ではなくなるものだから。例をあげてみましょう。たとえば「最近、ご商売はいかがですか?」とたずねられたとします。そんなとき、「いやぁ、よくないですねえ」と答えてしまったら、そこで会話は終わってしまいます。それどころか、たずねた相手もそれを聞いていたスタッフも、「悪いんだ」という印象を持つだけです。でも、「おかげさまで……」と先にいえば、「売り上げはちょっと厳しいんですけど、お客様は増えていまして」と肯定的に締めくくることが可能。つまり「おかげさまで」が口ぐせになると、ポジティブになり、人あたりも変わってくるということ。また対応もよくなり、感謝の気持ちも伝わるというわけです。■2:休憩に入る際、「ついで」に声をかける休憩に入るとき、気が利く人は「休憩に行きます。なにか帰りに買ってくるものはありますか?」と同僚に聞けるのだといいます。そして店長を含めた全スタッフが、日ごろからこうしたことを実践しているお店は、チームワークを感じさせるもの。実際のところ著者も、長年続いている老舗には、そのような文化が根づいていることが多いと感じるそうです。口先だけでなく、店長自ら率先してやる。そうすることで、スタッフが自然と真似するようになるわけです。■3:スタッフに「教えて、助けて」と素直に聞く部下の力を借りるためには、本気で褒めて、感謝することが大切。また、それに加えて最強の店長は、スタッフに「教えて」と素直に頼ることができるのだといいます。本当はわかっていて、できることであったとしても、「私と違うやり方もあると思うから助けて」とスタッフに軽くアドバイスを求める。そんなことができる店長には、力量があるということ。そういうことがいえる人は、どこかのタイミングで「こうすることでいちばん人が育つ、こうすることで現場のモチベーションが上がる」ということに気づいたのだろうと著者は分析しています。■4:気配りで、女性によく働いてもらう流通・小売業で働く人には、店長を筆頭として女性が多いもの。そこで、彼女たちにいかに気持ちよく働いてもらうかが重要だといいます。しかし現実的には多くの店長が、女性スタッフを使うことに苦手意識を持っているものだというのも事実。また女性店長にはバリバリ働いて昇格した人が多いため、「普通」の女性の気持ちがわからないことがあるのだとか。だとすれば、女性特有の気持ちや事情がわからない男性店長にとって、それはなおさらわからないことであるはずです。なお女性に対して特に気をつけるべきは、次の2点。・オンリーワンであることを認めて、順序はつけない・マメに気づくことで、関心を持っていることを伝える特に2つ目の「関心を持っている」ことが伝わるのは、男性にとってもうれしいことではないでしょうか。■5:女性スタッフには順序をつけない女性のほめ方は難しいもの。あまり露骨にやってしまうと、波風が立つこともあるからです。また女性には横並びを好む傾向があり、そうでなくとも順序をつけるようなほめ方はよくないと著者。変に評価されてしまうと、逆に「まわりからいじめられるのでは?」と気にして、ドキドキしてしまう人もいるのだといいます。つまり大切なのは、順序をつけないこと。順序でほめるのではなく、「これは◯◯さんだからできるんだね」「さすが◯◯さん!」というように、行動や成果をほめることが大切だというわけです。*店長をターゲットにしているとはいうものの、このように販売の仕事に携わっている多くの人が活用できる内容。売れる店をつくるために、店長もスタッフも、ともに読んでおきたい一冊だといえます。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※丹羽英之(2015)『1万人が実践している 売れる店長の全技術』かんき出版
2016年02月28日『飛び抜けたアイデアを出す人がやっている ブレイクスルー思考トレーニング』(ひもとあやか著、日比野省三監修、日本実業出版社)は、「普通」の思考法から抜け出して、「飛び抜けたアイデア」や「突き抜けた発想」を得るためのメソッドを紹介した書籍。「この発想はなかった!」と大勢の人から称賛されるような商品やサービスを考えたい人に“使える”思考習慣がつまっています。監修を担当しているのは、1990年に南カリフォルニア大学のG.ナドラー教授とともに「ブレイクスルー思考」を発表して世界的に注目を集めたという人物。そして、ブレイクスルー思考研究に従事、企業・行政・学会等での講演、研修の講師を務めている著者が、その考え方をまとめています。まず意識しておくべきは、「いかに賢く考え選択するか」を意識的に行うことでブレイクスルーを可能にする選択者たちを「スマートセレクター」と呼んでいる点です。人間だれしも、「あの選択は間違いだった」という後悔の一つや二つはあるもの。プライベートでもそうですが、ビジネスでも選択肢を間違えて大損するのはよくあることです。しかし、賢い選択ができるようになれば、そんな失敗はなくなります。自分自身がスマートセレクターになって飛躍するためには、「3つの選択力」が重要な意味を持つのだといいます。■第1の選択力:セルフメイド選択私たちは、上司や親、先輩、友人、歴史上の人物、著名人、世間の同世代などがうまくやってこられたことを、「みんなできたんだから、きっと安全に違いない」と考えてしまいがち。たとえばビジネスの世界でも、「競合他社が成功したのだから、我が社もきっと大丈夫だ」というような話はよくあります。しかしこれは、著者によれば「レディメイド選択」。レディメイドとは大量生産される既製服のことですが、つまりは前例や成功例に依存しきった選択方法だということ。たしかに誰かがやってうまくいったのであるなら、楽で安全なように思えても無理はないでしょう。しかし、実はそこが落とし穴。なぜなら誰かがうまくいったとしても、主役や場所や時が違えば当然のことながら同じ結果は生まれないはずだから。いわば、そんな状況下で「同じような問題だから、同じように解決できるはずだ」と楽観視し、選択してしまうのがレディメイド選択だということです。いっぽう、違いを見落とさないだけでなく、違いを最大限に活かすのがスマートセレクター。どんなときにも、「万物にはユニークな差がある」ということを前提として選択するわけです。どれだけ状況が似ていたとしても、関わる人や目的、価値観、場所、時が違えば、「似て非なる問題」と考える。そして、どんな場合にもあてはまる「ほどほどの解」ではなく、特定の場(主役、場所、時)にとって最適な解決策を考え抜いて選ぶ「セルフメイド選択」をするべきだということ。■第2の選択力:目的情報選択当然といえば当然ですが、人は「より多くの情報を収集してから分析するほうが、適切な答えを得られる」と考えてしまいがち。しかし、主役・目的が違えば、必要な情報も違ってきます。だからこそ、「誰が主役で、目的はなんなのか」を明確にしないまま、情報を集めることだけにとらわれてしまうと、混乱してしまうだけ。しかしスマートセレクターは、闇雲に多くの情報を集めるのではなく、問題解決に必要な、解決策に関する情報を“最小限”集めるもの。まず「セルフメイド選択」で場を設定し、主役の視点から目的を明確化。次いで「目的のためにはどうあるべきか」を考え、必要最小限の情報を効果的に集める。それが、スマートセレクターの第二の選択である「目的情報選択」。■第3の選択:ズームアウト選択スマホやカーナビで地図を検索したとき、目的地にズームインしすぎると周辺の道やお店はわかっても、現在地からの道順がわからなくなってしまいます。だからそんなときはズームアウトして、全体を確認する必要が出てくるわけですが、物事についても同じことがいえるそうです。全体が見えていない場合は、選択そのものを誤ってしまう可能性があるということです。そこで必ずズームアウトし、目的性・連動性・全体性を見ることが大切。現実的には、安全だと思っていたルート(手段)がなくなってしまうことも少なくないでしょう。だからこそズームアウトして全体を見渡しながら事前に危険を察知し、柔軟にルート変更できるようにしておくことが重要。そうでないと衝突・沈没したり、行き詰まったりしてしまうわけです。著者によれば、「夢や理想があっても叶えられない人」と、「次々と実現していくスマートセレクター」との違いはここ。そこで、行き詰まったら、ズームインしすぎていないかを確認してひとまずズームアウトし、「目的を達成するためには、どんな仕組みが必要なのか?」を考えてみることが大切だということ。*さまざまなキャラクターを設定し、彼らの考え方や行動に沿って「ブレイクスルー思考」が解説された内容。「突出したなにか」にたどりつくためのヒントを、ここから見つけ出すことができるかもしれません。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※ひもとあやか、日比野省三(2016)『飛び抜けたアイデアを出す人がやっている ブレイクスルー思考トレーニング』日本実業出版社
2016年02月28日恥ずかしながらきょうは、発売されたばかりの私の新刊をご紹介させていただきたいと思います。『遅読家のための読書術―――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(印南敦史著、ダイヤモンド社)がそれ。『Suzie』をはじめとする複数のウェブメディアで毎日書評を書き続け、年間700冊以上の本を読んでいる立場から、自分なりの読書術を披露した書籍です。などと書くと、あたかも速読の達人であるように思われてしまうかもしれません。しかし実は私自身、放っておくと1ページ読むのに5分もかかってしまうほどの「遅読」派なのです。でも、そんな人間でも年間700冊の壁を越えることができる、それこそがまさに、本書で伝えたいこと。■ポイントは「フロー・リーディング」!私の読書術の根幹をなすには、「フロー・リーディング」という考え方です。いうまでもなく「フロー(flow)」とは、「流れる」という意味。ストック(ため込む)ことに重きを置いた従来の読書法とは違い、「その本に書かれた内容が、自分の内部を“流れていく”ことに価値を見出す読書法」です。「流れて行ったんじゃ、なにも残らないじゃないか」と思われるかもしれませんが、ポイントはそこにあります。なぜならどれだけ熟読しようとも、結果的には忘れてしまうことのほうが多かったりするものなのです。逆に、さらっと読んだとしても、自分にとって重要な部分は必ず心に引っかかります。むしろ大切なのはそちらなのだから、「流して読んで引っかかった箇所」に重点を置きましょうという考え方。■読書習慣をつくるための3つのステップ別ないいかたをすれば、「音楽を聴く」ような気軽さで本を読もうということなのですが、しかし、それ以前にも問題はあるでしょう。「忙しくて、読みたくてもなかなか読書の時間を確保できない」という、現代人にとって切実な悩みです。その気持ちは私も同じなので、本書では読書習慣をつくるための3つのステップをご紹介しています。(1)「毎日・同じ時間」に読むようにするなにかを習慣化するうえでの極意は、毎日・同じ時間に行うこと。読書を習慣化するうえでも、読む時間帯を決めることはとても重要です。小学校の「朝の10分間読書」のように、「仕事をはじめる前の10分間」「昼食後の10分間」「就寝前の10分間」など、読書時刻を自分のライフスタイルのなかに設定することが最初の一歩。なお個人的には、頭をスッキリさせることのできる朝の時間がおすすめ。逆に夜寝る前は、酔っていたり眠かったりするので、あまり効果的ではない気がします。また同じように、読書の場所、シーン、シチュエーションを決めることも大切。「自宅のこの場所」「このカフェのこの席」など“場所”だけでなく、「コーヒーを淹れる」「好きな音楽をかける」などのシチュエーションも意識すべきです。(2)「速く読める本」を中心に選ぶ次に「どんな本を選ぶか」という問題について。もし読書を習慣化したければ、「読みたいかどうか」だけでなく、「速く読めそうか」という基準で本を選ぶことも大切です。1.そもそも読まなくていい本2.速く読む必要がない本3.速く読める本基本的に、本はこの3つに分類されると考えています。「読まなくていい本」というのは価値がないという意味ではなく、「自分にとって必要のない本」。「速く読む必要がない本」は、小説などプロットを楽しみたい本。そして「速く読める本」とは、どこから読んでも相応の価値を見出せる「切れ目」が多い本。この「速く読める本」を中心に据えることによって、「前に進んでいる感じ」をつくり出すことが可能になり、それがモチベーションの向上につながるわけです。(3)「昨日とは違う本」をいつも読む読書を楽しむための原則として、「1冊の本に10日以上かかりきりになっている状態」は望ましいものではありません。いちばんいいのは、時間のかかる本を、別途用意した「速く読める本」と並行して読み進めていくこと。そして、できることなら、本は「1日で1冊読みきる」のが理想的。毎日違う本が自分のなかを通り抜けていく状態をつくることが、フロー・リーディングの基本だからです。大切なのは、「熟読の呪縛」に縛られないこと。「10日間のダラダラ読みより、60分間のパラパラ読み」を意識すれば、読書体験のクオリティは格段に向上します。ちなみにこれは経験的なエピソードですが、現実的には1時間ですばやく読んだほうが、本のポイントはしっかりと記憶に残ることが多いものです。*これ以外にも、読書習慣を身につけるためのちょっとした工夫をたくさんご紹介しています。また、スラスラと読み進めることができるように配慮して書いたつもりです。すぐに読めると思いますので、週末にでもぜひ読んでみてください。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※印南敦史(2016)『遅読家のための読書術―――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』ダイヤモンド
2016年02月26日仕事ができる人や幸せに成功している人たち、とくに一流であればあるほど、まず住まい(部屋)やオフィスなどの周辺環境を整えることに徹底的にこだわっている。そして、自らがつくった環境に成功を後押しされている。そう断言するのは、『なぜ一流の人は自分の部屋にこだわるのか?』(八納啓創著、KADOKAWA)の著者。一級建築士として多くの人の家やオフィスの設計、改築などに関わり、自身が開催する「家づくりのセミナー」を通じて、たくさんの人と出会う機会があるという人物です。そんな著者が本書で伝えようとしているのは、「人生や仕事がうまくいく人といかない人の差・違いはその人の能力差ではなく、住環境、職場環境つまりは過ごしている場所や部屋の活かし方の差である」ということ。なかでもとくに印象的なのは、パフォーマンスを最大限に発揮するためには、環境をうまく活かすことが不可欠であるという考え方。そして環境を活かすための感性を磨き上げるためには、4つのポイントがあるのだそうです。■1:その場所でどう感じるかを意識する場所や空間は、たとえば商談や打ち合わせの結果、仕事の成果、体調や精神的なバランスなどに大きく働きかけるもの。そこで、さまざまな環境下において、自分が「どう感じるか」を意識してみることを著者は勧めています。たとえばオフィスでも、「ここに座ると、なぜか落ち着く」「この部屋で打ち合わせをすると、いつもいいアイデアが出る」といった場所があるはず。その場所が、自分にどういう感覚を抱かせるのかを意識してみるということ。そうすることで、「場」のもたらす影響力を実感できるようになってくるのだそうです。■2:その場所を使う意図を明確にする人生がうまくいく人は、住む部屋を探すとき「公園の近くに住んで緑に囲まれたい」「富士山が見える部屋で毎朝目覚めたい」など、明確な目的を持っているのだと著者はいいます。まずは、それが大前提。そして場所が持つよい力を感じることができたら、次にすべきは「なぜその場所なのか」を決めること。なぜなら、そうすることにより「どう活用するか」が見えてくるから。つまり、ハイパフォーマンスを実現するためには、「そうなるために、なぜそこにいるのか」をはっきりと意識することが大切だという考え方です。とはいっても、新たに目的を考えなおし、その目的に合った住まいに引っ越さなければならないというわけではありません。「なぜ、いまの家に住んでいるのか」を、もう一度考えてみることが重要だということ。たとえば会社が用意してくれた社宅に住んでいるとしたら、「会社に近くて便利だから」「家賃が安いから」などの理由が思い浮かぶでしょう。しかし、もう少し前向きで楽しめる意識に結びつくように考えなおしてみればいいのです。会社に近いのが理由なら、「通勤電車のストレスにさらされずに体力を温存できる。家賃が安いなら「そのぶん、自分の勉強や経験を広げるためにお金が使える」というように、視点を前向きに変えてみるわけです。■3:目的によって場所を使い分ける著者は、原稿を書いたり、本の執筆をしたりするときには、意図的に近所のチェーン系コーヒーショップやファミリーレストランに行くのだそうです。理由は、その場所にあるエネルギーをうまく活用したいから。自宅やオフィスで考えていると専門的な思考に陥りがちになるため、一般社会に近い状況に触れるわけです。いっぽう、社外でクライアントと打ち合わせをするときは、一流ホテルのラウンジを使うようにしているそうです。質の高い空間で、よい記憶のエネルギーを受け、好ましい結果を手に入れるためだといいますが、つまりは目的によって場所を使い分けることが大切だというわけです。■4:相手との快適な距離感も常に意識する部屋や空間以外の大切な環境のひとつが、「人との距離感」。環境を考えるのであれば、相手との距離感についても考えるべきだという考え方です。知らない人ばかりが乗っているエレベーターのなかは、緊張感が漂うもの。しかし知り合いが乗り合わせたときは、さほど緊張しません。このように、「心地よい距離感」は違うものだということ。つまり距離をうまく縮めることができれば、信頼できる関係になることも可能だということです。また、「どこに座るか」も大切な要因なのだとか。仕事のときでも、「この相手とは信頼関係を築きたい」と思ったら、座る位置を変えるだけで相手との距離感が変わる可能性があるそうです。*睡眠環境から風水・家相まで、住まいをさまざまな角度からとらえた一冊。読んでみれば、意外な気づきがあるかもしれません。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※八納啓創(2015)『なぜ一流の人は自分の部屋にこだわるのか?』KADOKAWA
2016年02月26日書店に足を運んでみれば、あるいはアマゾンでビジネス書をチェックしてみれば、「起業」に関する書籍はいくらでも見つかります。そしてそれらは、起業の素晴らしさをアピールし、読者をその気にさせようとやっきになっているようなものが大半。でも、起業したら本当に、その先にあるのはバラ色の未来なのでしょうか?そんなことはあり得ないと考えるほうがいいのではないでしょうか?そう思わずにはいられないからこそ強い説得力を感じさせるのが、きょうご紹介する『7人のトップ起業家と28冊のビジネス名著に学ぶ起業の教科書』(大賀康史、苅田明史著、ソシム)。著者は、「本の要約サイト」として知られる「フライヤー」の代表取締役と取締役。(1)「筆者の経験にもとづいた起業ノウハウ」、(2)「先輩起業家からの生々しいアドバイス」、(3)「起業家必読といえる名著の要約・紹介」という3つの要素で構成されています。■起業家は「天才」ばかりではない起業には特別な人にしかできないことのようなイメージがあり、最近の起業家は、ロックスターのようにも見えるもの。しかし、起業とはごく一部の天才だけが行えるものではないと 著者はいいます。起業家の世界に身を置いてみると、たしかに天才的な人もいるそうです。たとえば大学生時代に起業して、20代後半でベテラン社長としての風格を身につけ、特有のオーラを放つような人など。しかし決して、そのような人がすべてだというわけではないということ。起業家同士で話をしてみると、その多くは悩みを山ほど抱える普通の人間だというのです。数々のトラブルに直面しながら努力を重ねるなかで、名声を手に入れて行っているわけです。だからこそ、「遣り抜くという覚悟さえ決められるなら、起業家には誰でもなれる」と著者はいいます。■起業がしやすくなった3つの理由昔の起業のイメージは、「一世一代の大博打」というようなものだったかもしれません。しかしいま、起業環境は大きく前進したといいます。誰にとっても起業をすべきかどうかについては、もちろん簡単にいい切れない部分はあるでしょう。しかしそれでも、さまざまな要因から、起業にチャレンジしやすい環境へと変化しつつあるのは事実だというのです。そして最近の起業環境については、次の3つのポイントがあるのだとか。(1)借入金の融資の際に、必ずしも連帯保証を求められなくなってきたかつてスタートアップが借入をする際には、ほぼ例外なく社長の連帯保証が入り、万一資金が返せなくなった場合には、個人資産で返すか自己破産しか道がなかったそうです。もちろんいまでもその慣習は残っているものの、日本政策金融公庫の制度融資など、一部のローンは無担保・無保証(連帯保証人なし)で提供されるようになっているのです。(2)投資家に厚みが出てきており、資金の調達手段が広がってきた投資家は、数・質ともに、いままでになく充実してきているといいます。たとえば過去にベンチャーを成功させている「エンジェル投資家」、アイデアとメンバーだけの状態のスタートアップを育成する「ベンチャーアクセラレーター」、小規模から大規模のファンドを運営する「ベンチャーキャピタル」、新規事業の種を探してスタートアップへの投資に積極的な事業会社などがそれにあたるそうです。(3)スタートアップを支える支援組織が充実してきた最近はスタートアップと大企業をつなぐイベントが盛況。経済産業省も近年、『TOKYO イノベーションリーダーズサミット』というイベントで、スタートアップと大企業がマッチングできる機会を提供しているのだそうです。他にも、証券会社、監査法人の組織や、スタートアップと大企業のマッチングを担う企業が主催するイベントも増加傾向。大企業との事業提携の機会が得やすい環境になってきているというわけです。また、テレビや新聞などのメディアもスタートアップに注目しており、サービスの露出の機会も増加傾向にあるといいます。■起業家は金銭的な困難に直面するこのような企業環境のなか、誰もがうらやむような大企業から転じて企業したり、スタートアップに転職したりする人が増えているということ。そして著者は、こうもいいます。もしも起業のアイデアがあって、それは何度検証しても有効だと思え、自分がやり遂げたい「志」にも沿っている。そして、一緒に起業してくれそうな仲間もいる。だとすれば。起業に必要なのは、腹を決めて一歩を踏み出すことだと。ただし冒頭でも触れたとおり、本書ではやみくもに起業を勧めているわけではありません。それどころか、「起業すると、ほとんどの起業家は金銭的な困難に直面する」という、多くの人が触れたがらない現実にもしっかりと目を向けています。単なる机上の空論ではないからこそ、強い説得力が生まれているわけです。*起業を本気で考えている人にとって、とても意義ある内容。また「要約サイト」の著者であるだけに、読む価値のある多くのビジネス書も紹介しています。密度の濃い内容であるだけに、ぜひ読んでおきたい一冊だといえるでしょう。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※大賀康史、苅田明史(2015)『7人のトップ起業家と28冊のビジネス名著に学ぶ起業の教科書』ソシム
2016年02月26日『ザ・パワー・オブ・ザ・ハート 人生の本当の目的を探して』(バプティスト・デ・パペ著、山川紘矢、山川亜希子訳、KADOKAWA)のテーマは「ハート」。「ハート」を単なる臓器としてではなく、頭脳をはるかに超えた知性と知恵を備えたものとしてとらえているというわけです。そして、そのパワーをどう使えば、お金や成功、健康、幸せ、人間関係と社会に対する意識を変革させることができるのか?どうやったら自身の内部に埋もれた才能を見つけ出し、目的を達成できるかを解明しているということ。著者は、ベルギー生まれの「霊的な探求者」であり、作家、映画作家。オランダの法律学校卒業後、世界で最も有名な法律事務所への就職が決まっていながら、「自分の人生で本当にしたいことはなんなのか?」と、人生の目的と将来に疑問を抱いて不安にさいなまれたのだそうです。しかしある日、奇妙な体験をしたことがきっかけとなって、自分の人生の目的が「ハートを探求すること」であることを知ったというのです。そしてそこからは世界を旅し、パウロ・コエーリョ、ディーパック・チョプラ、エックハルト・トールなど世界的に有名な精神指導者たちを訪ね、本書を執筆したという流れ。その結果として生まれた本書は、18人もの精神的指導者たちの言葉、そして著者の文章によって構成されています(ちなみに映画版も製作され、話題となったそうです)。きょうは「お金とキャリア」について書かれた項のなかから、要点を引き出してみたいと思います。■お金はただの道具でしかない!お金は品物やサービスの移転を容易にするための道具、交換の手段。なのに多くの人にとって、それは成功の目安になっていると著者は指摘しています。食料や住居など、基本的な必要を充たすためにお金が必要であることは事実。しかしお金は、人生の困難から自分のことを守り、人生の目的を見つけるための究極的な力とはなり得ないということです。いわばお金はただ、幸せに対して限定的な役割しか持っていないということ。著者によれば、魂は、お金を蓄積すること自体は人生の目的ではなく、よりすばらしいなにかの副産物であり、ハートに従って行動した結果にすぎないと思っているのだそうです。つまりハートはお金を持つことよりも、人生の豊かさ、つまり充実感、愛、そして喜びに関心があるということ。そしてそれを前提として、本書における指導者のひとりであるディーパック・チョプラ氏の著作『富と成功をもたらす7つの法則』のなかから、次の文章を引用しています。「成功にはいくつもの側面があります。物質的な富は、ひとつの側面に過ぎません。……成功はまた、健康、生きるエネルギーと活力、充実した人間関係、創造的自由、感情的心理的な安定、幸せ感と心の平和も含んでいます」自身の行動がお金ではなく、喜び、充実感、調和、そしてより大きな善に貢献することに動かされているときにだけ、宇宙のサポートを受け取れるのだと著者は主張しています。それは、ハートから行動しているときなのだとか。■報酬は自動的に与えられるもの自分のなかの情熱と、卓越したものをつくり出そうという思いが一緒になったとき、自分の行動は認められ、感謝されるもの。その結果、報酬が自動的に、ときには豊かに与えられることも。それだけではなく、自分が最高の人生を生きていれば、お金が入ってくるチャンスはいくらでもあるといいます。もちろんどのくらいかは保証できないものの、遅かれ早かれ、それはやってくるのだといいます。大切なのは、物質的な豊かさを享受していたとしても、満たされるためにそれを必要としているわけではないということ。もっとも大切なことは、自分のハートの思いにかなった「ワクワクすること」をしているかどうか。そうすることによって、充実感を手にし、生まれ変わったように感じ、さらに物質的な報酬をも手にすることができるのだという考え方です。■ハートの力を成功の基準にするお金ではなくハートの力を成功の基準にすると、自分の情熱と使命を追求するようになるのだといいます。するとストレスと緊張も減り、仕事と生活のバランスも良くなり、人生のパートナーや家族や友だちと過ごす時間も増えるのだとか。やがて人生を振り返るときには、すばらしいことばかりを思い出すことができ、後悔はひとつも残らないだろうと主張しています。*スピリチュアル要素が非常に強い内容であるため、この分野に抵抗を感じる方にとっては、満足できない部分もあるかもしれません。しかし、もし心をフラットにして臨める準備があるなら、相応の満足感を得ることができる内容だともいえそうです。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※バプティスト・デ・パペ(2015)『ザ・パワー・オブ・ザ・ハート 人生の本当の目的を探して』KADOKAWA
2016年02月23日出社する必要もなく、専門分野を生かしながら自分のペースで仕事に臨める「クラウドソーシング」が話題を呼んでいます。『クラウドワーキングで稼ぐ! ―時間と場所にとらわれない新しい働き方』(吉田浩一郎著、日本経済新聞出版社)は、日本最大級のクラウドソーシングサービスとして知られる「クラウドワークス」の創業者。クラウドソーシングに関する第一人者として、このビジネスの可能性を本書で明らかにしているわけです。とはいえ、クラウドソーシングについて漠然とわかってはいても、まだまだ知識が足りないと感じている方も少なくはないはず。そこで改めて、このビジネスの可能性についておさらいしてみましょう。■クラウドソーシングの意味「クラウド」は「群衆(crowd)」で、「ソーシング」は「外部委託(outsourcing)」の意。クラウドソーシングとは、この2つを組み合わせた造語です。2005年にこの考え方を初めて提案したのは、米「WIRED Magazine」の編集者・ライターであるマーク・ロビンソン、ジェフ・ハウの両氏。クラウドソーシングについては、「従業員によって行われている機能を、ウェブ上に開かれた外部ネットワークを通して、世界中の群衆(crowd)へ委託(sourcing)すること」と定義しているそうです。クラウドソーシング、つまり業務を委託する主体は当然ながら企業ということになります。■クラウドワーキングの意味同じく注目しておきたいワードが、業務を委託される側の立場に立った「クラウドワーキング」。ちなみにこちらの「クラウド」は、クラウドソーシングの「群衆(crowd)」ではなく、「雲(cloud)」のこと。これはIT業界で使われている「クラウドコンピューティング(cloud computing)」の略称。いうまでもなく、さまざまなデータをインターネット上に保存するサービスです。著者によれば、クラウドソーシングとクラウドワーキングは、コインの表裏のような関係。大まかに説明すれば、前者の視点は「企業」であり、後者の視点は「個人」。クライアントである企業が、受注者としてのクラウドワーカー(おもに個人)に対して仕事を依頼する「群衆(Crowd)+外注(Sourcing)」の関係がクラウドソーシング。そしてクラウドワーカーが、クライアントに対して業務実行・納品を行う「雲(Cloud)+働く(Working)」の関係がクラウドワーキング。■世界の市場は1兆円規模へ当然のことではありますが、クラウドワーキングが成立するためには、「企業がどれだけ仕事を依頼するか」というクラウドソーシングの市場規模が重要な意味を持つことになります。なお、その点について参考になるのが海外の事例。なぜなら欧米ではすでに、クラウドワーキングが広く浸透しているからです。そして、それを立証するものとして著者は興味ふかいエピソードを引き合いに出しています。2014年春に開催されたカンファレンス「クラウドソーシング・ウィーク(Crowdsourcing Week)」においての、当時のElance(イーランス)による役員による講演のこと。驚くべきことにその方は、2015年にはクラウドソーシングの世界市場が1兆円規模に達しているだろうと予測したというのです。事実、この見通しは正しいものになりつつあり、世界的な視野で捉えた場合、角国でクラウドソーシングサービスが急速に広がっていることが実感できるのだといいます。■国内でも市場が急成長中!そうなると、気になってくるのは日本の状況。この点について矢野経済研究所は、2015年に650億円、2018年には約1,820億円まで成長すると予想しているのだとか。およそ3年程度の期間で、一気に2,000億円規模にまでふくらむと指摘しているわけです。また、業界の活性化と健全な発展に貢献することを目的として、クラウドソーシング大手各社が立ち上げた「一般社団法人クラウドソーシング協会」の中長期予測によれば、8年後の2023年には国内市場もおよそ1兆円程度まで成長するだろうという試算結果が出たというのです。*つまり、これがクラウドソーシングの可能性。インターネットの普及と足並みを揃えてワークスタイルが刻々と変化していくなか、この動きには大きく注目する必要がありそうです。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※吉田浩一郎(2015)『クラウドワーキングで稼ぐ! ―時間と場所にとらわれない新しい働き方』日本経済新聞出版社
2016年02月22日『図解 テレビに学ぶ 中学生にもわかるように伝える技術』(天野暢子著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者は、ニュース番組の内容や文字をチェックする「校閲」の仕事を通じてテレビと関わっているという人物。ふだんはプレゼンテーションの現場で指導にあたっているそうですが、数年前からその仕事に関わってから、大切なことに気づいたのだといいます。それはずばり、映像をはじめとして音声、音楽、文字、地図、図解などさまざまな情報が詰め込まれているテレビの可能性。テレビは、視聴率10%で視聴者が約1,000万人といわれています。つまり、1,000万もの人たちが一瞬で内容を理解できるように極限まで工夫されているだけに、いわばテレビは「見せる」「聞かせる」「理解させる」ことを研究しつくした、究極のプレゼンテーションだというのです。だとすれば、テレビで用いられている手法の数々は、ビジネスのさまざまな場面で応用できるということにもなるはず。そこできょうは、すぐに応用できそうなポイントをひとつご紹介したいと思います。■大切な3つのキーワードいうまでもなく、テレビは視聴者が気まぐれに見るメディア。だとすれば当然のことながら、いつチャンネルを変えられるかわからないわけです。だからこそテレビ制作側は、視聴者が一度スイッチを入れたら、チャンネルを変えさせない工夫を重ねているのだといいます。そこで必要となるのは、「楽しい」「ためになる」「好きなタレントが出ている」など、視聴者を引きつけるためのフック。そして、その際の重要なキーワードが「お得感」「意外感」「期待感」の3つなのだそうです。これについては、思い当たることがあるのではないでしょうか?たとえば情報番組内で、松阪牛のハンバーグ・ランチで大繁盛しているお店を紹介するとします。そのとき、映像を番組内で流すにあたって重要な要素は、司会者の言葉とテロップ(字幕)。具体的には「次は、あの高級肉がたったの1,000円で食べられる店を突撃取材です!」とコメントし、画面上には「銀座に大行列そのワケは?」と短いテロップを出すわけです。コーナーがはじまる前の数秒だけで、「高いお肉がたったの1,000円で食べられるらしい」という「お得感」をアピールし、「高級店の多い銀座にそんな激安店が?」という「意外感」も伝え、さらに「それはどんなメニューなんだろう?」という「期待感」も視聴者にインプットするわけです。別な表現を用いるとすれば、そうやって視聴者を囲い込んでいくということでもあると著者。■プレゼンにも必要不可欠そして同じように、プレゼンで最初から相手の心をつかむためにも、この手法を応用することが可能だといいます。やはり最初から押さえておくべきポイントは、「お得感」「意外感」「期待感」の3点の「つかみ」。逆にいえば、これらが存在しないプレゼンには、だれも興味を示してくれないということ。だからこそ、もしもない場合はあとづけでもかまわないので、考えて加えることが大切だというのです。そしてこの3点の「つかみ」に対し、それぞれ次のような「あおりキーワード」を組み合わせます。(1)「お得感」のあおりキーワード:激安、無料、行列、完売、殺到、穴場(2)「意外感」のあおりキーワード:秘密、秘話、マル秘、珍◯◯、涙、潜入(3)「期待感」のあおりキーワード:話題、仰天、驚きの、豪華、絶品、逸品つまり、これらを組み合わせて、表したスライドのタイトルで目立つように見せることが大切。なお、これらをレイアウトやフキダシを利用してキャッチコピーやサブタイトルのように使ってみたり、本編の見出しや図解の表題などに使ってみたりしてもいいといいます。*このように、紹介されている数々の手法はとてもシンプル。しかも大きな効果が期待できるだけに、プレゼンの機会が多い人は特に、ぜひとも本書に目を通しておきたいところです。B5サイズなので大きくて見やすく、イラストなどの図版もふんだんに盛り込まれているので、気軽にページをめくることができます。(文/書評家・印南敦史)【参考】※天野暢子(2015)『図解 テレビに学ぶ 中学生にもわかるように伝える技術』ディスカヴァー・トゥエンティワン
2016年02月21日2003年、杉並区立和田中学校の校長に、都内における義務教育初の民間校長が就任して話題になったことがあります。『藤原先生、これからの働き方について教えてください。 100万人に1人の存在になる21世紀の働き方』(藤原和博著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者が、まさにその人。リクルート社フェローを経て、2008年の任期満了まで勤め上げた実績をお持ちで、現在は教育改革実践家として多方面で活躍中。本書ではそのような実績に基づき、「21世紀の働き方」を提案しているのです。きょうはそのなかから、「LECTURE 3-2初対面の15秒で相手を“つかむ”には」を取り上げてみたいと思います。■1:つかみを取るここ8年ほどで約1,000回の講演を行ない、20万人を動員しているという著者には、ビジネス系の講演会で必ず実施している例題があるそうです。【例題1.】初対面の人と名刺交換をする瞬間、自分のキャッチフレーズをいうとしたら?15秒で答えてください。【答え】初対面ではいきなり名刺を渡すのではなく、キャッチフレーズなどを効果的に使用することによって、自分のキャラクターを相手と共有することが効果的。それは相手との心の距離をすっと縮め、接点をつくる技術で、「つかみを取る」ともいわれるもの。■2:自分プレゼンたとえば著者の場合は、顔を利用したキャッチフレーズとして「こんにちは、教育界のさだまさしです」というのだとか(筆者注:たしかに著者は、歌手のさだまさしさんに似ています)。こういうと大概の方が笑ってくれるそうですが、つまり「さだまさし」という著名人のおかげで、相手の脳と自分の脳が瞬時につながるということ。そのため、すぐに仕事の話に入りやすくなるというわけです。これが、「自分プレゼン」。なお自分プレゼンとは、相手の頭のなかに“像”を結ぶことなので、キャッチフレーズを使用する場合は、その言葉から連想される“像”を相手と共有していることが前提となるそうです。■3:さらにストーリーを加えるなお、より汎用性があるのは、名前にストーリーを加えること。たとえば「◯◯県△△市に多い名前です」「種子島に鉄砲を持ち込んだ最初のひとりになにか縁があったらしい」など、自分で物語を演出してみるのです。ただし報道機関ではないのですから、さほど史実に正確でなかったとしても問題なし。ちなみに平凡な名前でも、ストーリーは用意できるもの。たとえば、ある官庁に「喜平」という名前の偉い方がいるそうなのですが、その人が名刺を差し出すと、相手が萎縮してしまってコミュニケーションがうまくとれないことがあるというのです。そこで彼は、こんなストーリーを用意しているのだとか。「喜平という名前は時代劇なんかによく出てくるんですけどね。見ていると、だいたい最初に出て、橋のたもとあたりでお侍さんに着られる村人の役なんですよ(笑)」「お堅くて偉い人」と「斬られ役の名もなき村人」とのギャップが印象的で、自然に映像が浮かんできて、おもしろい「つかみ」になるということ。その後に仕事の話をはじめると、すでに脳と脳がつながってコミュニケーションレベルが上がっているからこそ、話がうまくいくわけです。では、次の例題を見てみましょう。■4:イマジネーションを駆使し、工夫する【例題2.】初対面の人と名刺交換をする瞬間、自分の名前にストーリーを添えるとしたら?15秒で答えてください。【答え】ポイントは、イマジネーションを駆使し、工夫してみること。なお、この「15秒」が、初対面のときには決定的に重要なのだと著者は主張しています。なぜなら、人間には動物的な感覚が根強く残っているものだから。つまり誰しも、初対面の相手が的なのか味方なのかを、最初の15秒程度で見分けているということ。とはいえ、私たちは服を着て、人間的な社会性も身につけているもの。「どう判断したか」は、口にも顔にも出さないわけです。たとえば「あっ、つまらなそうな人。もう二度と会わないな」と判断しているのに、何十分もうなずきながら話を聴き続ける人もいるでしょう。だとすれば、そんなことにならないようにすべき。そのために肝心なのが、最初の15秒だということです。この15秒で、相手と自分の脳をつなげておくわけです。*タイトルからもわかるように、講義形式になっていることも本書の特徴。つまり気負う必要なく、自然にスラスラと読んでしまえるのです。時間をかけずに要点をつかむことができるので、「将来の働き方」が気になっている方には格好の一冊だといえます。(文/書評家・印南敦史)【参考】※藤原和博(2015)『藤原先生、これからの働き方について教えてください。 100万人に1人の存在になる21世紀の働き方』ディスカヴァー・トゥエンティワン
2016年02月20日相手に対して、自分がいいたいことを伝えるのは難しいもの。「うまく伝えられない」「理解されない」などの悩みを抱える方も、決して少なくないはずです。しかし相手にうまく伝えられないのは、そもそもきちんと考えていないからだ」と主張するのは、『外資系コンサルの3STEP思考術―――どんな難問にも答えを出せるアタマの使い方』(森秀明著、ダイヤモンド社)の著者。ボストンコンサルティンググループ、ブーズ・アレン・ハミルトンなどの外資系コンサルティング会社を経て起業し、経営者や事業の責任者が抱える戦略や業務、組織の課題解決を支援しているという人物です。そこで本書では、コンサルタントたちがどのように考え、クライアントから寄せられる難問に対してどのように答えを出しているのかを明らかにしているわけです。■問題解決には4つの基本があるとはいえ、ビジネスにおける問題解決の活動はいたってシンプル。[1]相手の要望や悩みを聞き出す[2]その要望や悩みの解決策を考える[3]その解決策を説得力のある形で具体化する[4]具体化した解決策を相手に伝える基本は、この4つだというのです。ちなみに[4]で完了する場合もあれば、ふたたび[1]に戻り、相手に伝える解決策を練りなおすこともあるのだとか。このサイクルは、「相手から引き出した情報を活用し、相手の行動を変えるための情報に変換する」「そして適切に相手に伝える」という活動の繰り返し。大切なのは、構想をよく練り上げて考え尽くすこと。なぜならよく考えないことには、理解されることも、相手の心の琴線に触れることもないから。当然ですが、それでは納得感を持って相手に伝えることはできないわけです。■いいたいことが伝わらない理由そして、いいたいことが伝わらないのには、3つの理由があると著者はいいます。これは、本書の重要なポイントでもあります。[1]相手の話の内容や世の中の事象を「整理」できていない[2]物ごとを取り扱いやすいような大きさに「分解」できていない[3]相手に伝える意味を引き出すように「比較」できていないだとすれば、「整理」「分解」「比較」という3つのスキルを身につけることができれば、自信を持ってあらゆるビジネスの難題に立ち向かえるということにもなるはず。それどころか著者は、仕事に必要なのは、この3つの基本スキルだけだとも断言します。(1)「整理」とは?整理とは、「事実を1つ1つのかたまりとしてとらえる」こと。そしてその定義は、「事実」を「かたまり」の集合と考え、それぞれのかたまりがどのくらいの大きさで、どのような内容なのかを正確に把握することだといいます。たとえば「自社製品Aの拡販策」の場合、「既存の販売ルートではAの売り上げは頭打ちだ」という課題も、「B社とのコラボイベント開催で集客と商品認知を図る」という計画も、「総費用は300万円」という概算データも、すべてが事実。また、事実の大きさもさまざま。「自社製品Aの拡販策」はひとつの事実ですし、それは会社全体の「今後3年間の事業戦略」という大きな事実のなかにあるもの。それでも、「自社製品Aの拡販策」と「今後3年間の事業戦略」は、どちらもひとつの事実です。こうして渾然とたくさん存在している事実を、かたまりごとにとらえることが整理で、これが事実と整理の関係だということ。(2)「分解」とは?分解とは、「大きなかたまりを小さく分ける」こと。あるいは、ある考えに従って「事実」を小さくグループ分けしていくこと。ちなみに分解の反対は統合。大きな事実を小さく分けていく=分解していくと、小さな事実がいくつもでき、小さな事実をまとめていく=統合していくと、大きな事実に復元できるわけです。たとえば「ビジネスパーソンを対象にした新製品のマーケティング」について考える場合、「総所得額」という切り口で考えるのも、ひとつの分解の仕方。このとき、「年収500万円未満」「年収500万円以上、700万円未満」「年収700万円以上、1,000万円未満」「年収1,000万円以上」というようにグループ分けすることが分解のルール。いわば事実を分解するときには、「モレなくダブりなく」という考え方が鉄則。(3)「比較」とは?比較とは、「かたまり同士を並べてくらべる」こと。細かさのレベルが同等の、“粒度”が同じ事実同士をくらべることです。A社とB社の「利益」という事実をくらべたいなら、重要なのは「A社の営業利益」と「B社の営業利益」を並べてくらべるべき。「A社の営業利益」と「B社の最終利益」をくらべても、正しい比較にはならないわけです。粒度が同じものをくらべるとは、つまりこういうこと。比較の重要な意味は、2つの事実の間のギャップにメッセージが浮かび上がってくるところ。現在の売り上げの状況が1億円で、3年後の売り上げの状況(目標)が3億円だったなら、「2億円のギャップをどう埋めたらいいか」ということがメッセージになります。そこから、なんらかの施策や戦略を提案することになるわけで、これが事実と比較の関係。つまりこうして考えると、世の中のすべての仕事は、事実の正しい認識と、整理、分解、比較の3つのスキルで成り立っていることがわかります。そしてバラバラだった事実をかたまりとしてとらえ、グループ分けしたり並べなおしたりすることで、新しい戦略や施策、行動などに近づくことができるのです。*このように、思考術をロジカルに検証しているのが本書の特徴。そうすることによって、自分の思考に足りないものが浮かび上がってくるような構造になっています。(文/書評家・印南敦史)【参考】※森秀明(2015)『外資系コンサルの3STEP思考術―――どんな難問にも答えを出せるアタマの使い方』ダイヤモンド社
2016年02月19日『人事の超プロが明かす評価基準: 「できる人」と「認められる人」はどこが違うのか』(西尾太著、三笠書房)の著者は2009年から、「人事の学校」という人事担当者の養成講座を主宰しているのだそうです。毎月、商社、流通、IT、電子機器、住宅、アパレル、マスコミ、エンターテインメントなど、さまざまなジャンルの企業経営者や人事担当者が企業人事や人事制度の基礎を学びに訪れているのだとか。その数はこれまでに2,000人以上だというのですから、人望の厚さがうかがえます。リクルート人材総合サービス部門を経て、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)、そして大手クリエイターエージェンシーのクリーク・アンド・リバー社で人事部長を務め、2008年に人事コンサルタントとして企業したという経歴の持ち主。まさに人事の最前線を歩んできたわけですが、そんな立場から、日本の企業の人事制度に苦言を呈しています。■評価基準が可視化されていないそれは、社員の人生から会社の発展・存続までが「人事評価」に委ねられているにもかかわらず、多くの会社では“なにをすれば評価が上がり、なにをすれば評価が下がるのか”という具体的な「評価基準」が明確になっていないということ。しかしその一方、日本を代表する大企業であっても、社員数名のベンチャー企業であっても、その他のいかなる業界や職種であっても、「成長している元気のいい企業」の人事制度の根幹は、ほとんど同じ形をしているといいます。いわば、キャリアや職位に応じて会社が求めていることは、どんな企業であってもほぼ一緒だということ。明確に可視化されていないだけで、どの企業にも通用する「評価基準」が、実は存在しているということです。つまり本書では、そういった普遍的な「評価基準」を具体的に示し、解説しているわけです。そして注目すべきは、著者がどんな企業にも通用する評価の指標として「影響力」に焦点を当てていること。そして具体的に、影響力を高める3つのポイントも紹介しています。■影響力を高める3つのポイント(1)社内外の人的ネットワークの構築上を動かす影響力とともに、キャリアを重ねるごとに重要度を増していくのは、社内外の多くの人々を巻き込んでいく力。たとえば正攻法でいっても、その案件を直属の上司が通してくれないというようなことはよくある話です。しかしそんなとき、他部署のマネージャーや、自社に強い影響力を持つクライアントなどに根回しし、社内外からの意見として伝えたなら、あっさり通るかもしれません。つまり社内外のキーパーソンとの人間関係を深め、その人を動かす方法論を持っていると、自分の影響力も飛躍的に大きくなるということ。理解者や協力者のネットワークを構築することは、自分だけの特別な武器になるわけです。(2)「パートナー」「先生」になるでは、キーパーソンとの人間関係をどのように築き、深めていけばいいのでしょうか?このことを説明するにあたって著者は、クライアントの抱えるなんらかの問題(ニーズ)に対し、商品やサービスを提供することで解決する職種である営業を引き合いに出しています。営業には、「業者」「パートナー」「先生」という3つの役割があるというのです。「業者」とは、クライアント自身が問題の解決方法を知っていて、なにが必要なのかニーズが明らかになっている場合に必要とされる営業方法。「パートナー」とは、クライアント自身が問題点はわかっているものの、それを解決する方法がわからない場合の営業方法。「先生」は、クライアント自身が、なにが問題なのかも、なにを解決すればいいのかもわかっていない場合。そして営業職で成功するためには、「業者」の立場にとどまることなく、少なくとも「パートナー」の立場になることが必要。さらに「先生」になれば、顧客との信頼関係が強固になり、将来的にはコンサルタントとして転職・独立・起業という将来も見えてくるということ。しかもこれは営業職に限ったことではなく、どんな職種にもいえることだといいます。(3)社内外の人的ネットワークの構築社外の人間と「パートナー」や「先生」のような深い関係性を築くことができると、自分が困ったときにも相談に乗ってもらえるようになるもの。相手が自社に大きな影響力を持つキーパーソンであるなら、頼もしい味方になるわけです。つまり自分が影響力を発揮するだけでなく、相手の影響力も自分の力として活用できるようになれば、自分の影響力はさらに大きなものになるということ。そのためには、自分の仕事とは直接関係のない職種の人々とも関係を築くことが大切。網の目のように人的ネットワークを広げていくと、想像もしなかったような相互作用が生まれるといいます。*このように実践的な解説がなされているため、自身の評価を上げたいという人に最適。影響力をつけて、さらなるスキルアップを目指したいものです。(文/書評家・印南敦史)【参考】※西尾太(2015)『人事の超プロが明かす評価基準: 「できる人」と「認められる人」はどこが違うのか』三笠書房
2016年02月18日『勝ちつづけるチームをつくる勝負強さの脳科学 「ピットフォール」の壁を破れ!』(林成之著、朝日新聞出版)の著者は脳神経外科医。しかも、競泳、女子サッカー、女子バレー、フィギュアスケート、柔道など、さまざまなスポーツの日本代表監督、チーム、選手を脳科学的指導でメダル獲得に導いてきたという実績を持っている人物です。つまり本書ではそのようなキャリアを軸として、チームとメンバー個々の力を同時に伸ばすための組織論を、脳科学的な観点から展開しているわけです。そして、その視点とともに、内容の方もなかなかにユニーク。■はたして100点は満点なのかたとえば著者は第1章「成果をあげるチームとは? 目的を達成する『勝負脳』のチーム理論」のなかで、ひとつの疑問を投げかけています。それは、「はたして100点は満点なのか?」ということ。たしかに日本では、100点満点を取ることが美徳とされており、100点を目指すことが当たり前のことのように思われています。だから必然的に、「あと何点足りない」という「引き算思考」で物事を判断しようという考え方が定着してしまっているわけです。しかし、このような考えで試合に臨んだとすると、「試合当日にようやく100点の状態に到達させることができた」「なんとか間に合った」というような考えが生まれてきてしまっても無理はありません。そうなると、「試合をしながら強くなる」とか、「敵の想定外の実力を発揮する」といった、100点を超えていく力を発揮することができなってしまうわけです。でも、それでは意味がありません。■意識のたるみが結果に影響するまた、ここには「人間の脳は、結果を達成すると無意識のうちに気持ちがたるむ」という現象も含まれてくるのだと、著者は脳科学的に指摘しています。ゴール(終わり)を意識すると無意識のうちに気持ちがたるんでしまうので、気持ちと一体で機能する脳の働きまでが低下することに。だから結果的には、逆転負けをしてしまうというのです。また同じ原理で、優勝したあとの脳のなかの気持ちのたるみによって、連続優勝することが難しくなることも考えられるとか。「強いチームになかなか勝てない」とか、「相手が予想以上に強かったので負けた」という現象も、ここに原因があるようです。■働き方にマッチングする考え方だとすれば、本能的に気持ちがゆるむことをなんとかする必要があるでしょう。そのために、私たちはどうすればよいのでしょうか?著者はこの問いについての解決策として、「人間の行動を決める脳の働き方にマッチングする考え方」を導入することを勧めています。少しわかりにくいですが、つまりはこういうこと。人間の考えは、脳のなかのいくつもの異なる機能を持った神経核の連合によって生まれるのだそうです。そのことによって具体的になにが起こるかといえば、たとえば最初はチームメンバー同士の協力体制が悪かったとしても、繰り返し一緒に考えているうちに、変わっていくものがあるというのです。すなわち、いつも「自分たちにはなにかが足りない、欠けている」と考えるのではなく、そのレベルがどんどん上がっていく「足し算思考」に進化していくということ。■引き算思考から足し算思考へ!このように考えれば、100点がいまの条件においての頂点であったとしても、そこから先は、100点は単なる通過点になるはずです。そこで100点を満点とする「引き算思考」から「足し算思考」へと切り替えることが可能になるということ。すると目指す目標は100点ではなく、120点、130点となっていく。だから、そこを目指すことによって、驚くようなパフォーマンスが可能になっていくわけです。事実、強いチームや勝ち続けるチームの選手は、優勝して100点を取ったとしても、「自分たちには、まだまだ課題がある」と達成すべき目標を持っているものなのだとか。いつまでも舞い上がってはいないということです。「いまはレベルが低くても、最後には誰にも追随を許さない高いレベルになってやる」と考えることによって、人に感動を与える。そして人が感動してくれることに対して「同期発火」し、勝つ能力をさらに高め、連戦連勝できるすばらしい成果を見せてくれるというわけです。*スポーツの最前線で選手たちを指導してきただけあり、話題の中心にあるのは選手たちのエピソードです。しかしおわかりのとおり、ここに示された組織論はスポーツの世界だけではなく、あらゆるビジネスシーンにもそのままあてはまるはず。だからこそ、特に組織のリーダーにとっては、読んでみる価値のある内容だといえそうです。(文/書評家・印南敦史)【参考】※林成之(2015)『勝ちつづけるチームをつくる勝負強さの脳科学 「ピットフォール」の壁を破れ!』朝日新聞出版
2016年02月18日『ベンチャーキャピタリストが語る 着眼の技法』(古我知史著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者は、シティバンク、マッキンゼーなどを経て、現在は独立系キャピタリストとして活躍する人物。これまでに60社以上の起業や、事業開発の現場に直接参画してきたのだそうです。本書ではそのような経験値をもとに、そして「着眼」をテーマとして、新しいビジネスを生み出すための視点を明らかにしているわけです。しかし、そもそも「着眼」とはなにを意味するのでしょうか?その問いに対する回答は、まず本書のページをめくると飛び込んできます。■ひらめきとは着眼のこと「天才とは1パーセントのひらめきと99パーセントの汗である(Genius is one percent inspiration and ninety-nine percent perspiration)」ここで取り上げられているのは、有名なトーマス・エジソンの言葉。そして著者は、この真意を読者に対して明らかにします。努力を積み重ねるということが美徳という意味ではなく、「どれだけ必死になって努力を積み重ねても、ひらめきがない限り、すべては無に帰する」という、非情な現実を認識すべきだという意味だというのです。そして、こうもいいます。「ひらめきとは着眼です。突き抜ける着眼がひらめきです」と。■「着眼を得る」ためにはたとえ毎日が忙しくとも、着眼を得るため意識的に取り組んでほしいことがあると著者はいいます。着眼を阻む、次の3つのブロックを外す練習がそれで、忙しいなかでもできるものなのだそうです。[1]ルール・ブロック(会社のなかの内部統制やコンプライアンスなどがうるさい)[2]ソーシャル・ブロック(他人の目がうるさい)[3]セルフ・ブロック(自分のなかにいるもうひとりの自分がうるさい)これら3つのブロックは、多くの現代人を無意識のうちに苦しめるもの。そして、自分をいつの間にか制御し、制約している圧力、あるいは立ちはだかる壁を意味するのだとか。■外すべき3つのブロック[1]ルール・ブロックルールによるブロックが生じる背景は明確で、子どものころからの家や学校でのしつけの帰結だということ。いわば、やむを得ないものですが、あえてたまにはルールを忘れ、自分の頭で考えようと著者は勧めています。ルールがもたらす問題は、ルールに従っていれば「いい子」だと評価してもらえるということ。そして「ルールこそが正しい」と信じてしまう結果、言動の一元性や一面性の固定化、思い込み、思考の硬直が起こるというわけです。しかし、常識的な世の中のルールを学校で教わり、社会人になってからは会社のルールをただ信じるだけでは、新しい発想も着眼も生まれなくて当然。だからこそルール・ブロックを外すことが大切で、そのためにはまず、自分が無意識に遵守しているルールで、社会的に問題のないものを列挙し、自分の五感と地頭を駆使して状況対応をしてみるといいそうです。[2]ソーシャル・ブロックこれは、他人の目を機にするという制約。まわりの人間の(ソーシャルな)意見や感情に自分の言動が左右されていくという、アイデンティティ喪失のブロック(プレッシャーともいえるもの)。ソーシャル・ブロックが働いてしまうと、自分の判断や意見を曲げてまで、他人たちがつくる空気を読んでしまうもの。本来は主体的に自分の発想や考え、意志に従って意見表明し、行動すべきところでも、自分を押し殺してしまうわけです。しかし、空気を読む暇とエネルギーがあるのなら、まず主体性を持って考え行動することにエネルギーを注いだほうがいいと著者。それが、着眼力をつける最初の、ほんの小さな、しかし絶対に必要な一歩になるからだというのがその理由。なお、ソーシャル・ブロックを外すのは簡単で、疑問や反対の考えが湧いてきたら、そのまま流れに沿って「すみませんが、自分の意見をいわせてください」と枕詞で断り、自然体で意見を述べればOK。どうしても意見がいえない人は、最初は質問をするだけでもいいそうです。[3]セルフ・ブロック自分のなかにいるもうひとりの自分との闘いは、なかなか厄介なもの。なぜなら、もうひとりの自分があるべき自分を導くこともあるけれども、反対に制御することもあるから。しかし、「どうせダメだろう」「やっても仕方がないだろう」などという“内なる声”をよく聞く人は、セルフ・ブロックの奴隷になっていると著者は指摘します。セルフ・ブロックを外すためには、多重人格にならない程度に、もうひとりの内なる自分を意識的に演じてみるのがいいとか。なんでも肯定する、常に楽観的で積極的姿勢の、自分を応援するもうひとりの頼りになる自分を、意識してつくりあげるということです。*どのような仕事に就き、どのようなシチュエーションに身を置いていたとしても、「着眼」は必要不可欠。そのためにまず、これら3つのブロックを外すところからスタートしてみてはいかがでしょうか?(文/書評家・印南敦史)【参考】※古我知史(2015)『ベンチャーキャピタリストが語る 着眼の技法』ディスカヴァー・トゥエンティワン
2016年02月16日きょうご紹介したいのは、『灘高→東大合格率ナンバーワン 伝説の入江塾は、何を教えたか』(入江伸著、祥伝社)。まずは、ここがどんな塾なのかをご説明する必要があるでしょう。■入江塾はただの学習塾ではなかった!入江塾の正式名称は、伸学社。大阪の帝塚山に1986年まで存在していた学習塾で、塾頭である本書の著者、入江伸氏の名から「入江塾」と呼ばれていたのだそうです。大阪府立高校の教師だった著者が退職後、中学生向けの通信添削を行なう仕事をはじめたのがそもそもの発端。やがて生徒たちが自然発生的に集まり、直接の講義を受けるようになっていったという流れ。そして結果的には2~3年後に、塾生のひとりが超難関校として知られる灘高にトップで合格したことから灘高受験希望者が次々と集まり、「入江塾」の名は全国に広まっていったのだといいます。灘高が55人を募集したある年には、合格者のうち30人が入江塾の出身だったこともあったのだとか。それどころか、高校生も教えるようになってからは、入江塾で学んだ灘高生の九割近くが東大へ進学したというのですから驚きです。しかも注目すべきは、閉塾までの30年間にわたり、入塾のための審査や試験をいっさい行なわなかったこと。やる気がある子であれば、成績にかかわらずすべて受け入れたというのです。また、単なる進学塾とは違い、人間形成に重点を置いていたことも注目に値するでしょう。著者の塾運営の目的が、「勉強の成果のみの追求ではなく、少年らしい、健やかな自主性の養成」にあったためだといいますが、その姿勢は学習塾の枠を大きく超えています。しかし、だからこそ多くの実績を生み出すことができたのだともいえるはずです。本書は、そんな著者が過去に送り出してきた『入江塾の秘密』(昭和49年初版)、『奇跡の国語』(昭和53年初版)、『奇跡の入江塾方式』(昭和55年初版)の3点から部分的に抜粋して再構成したもの。現代の受験や教育にも通じる、重要なエッセンスが盛り込まれています。■中学1年は子どもにとって大切な時期本書のなかで著者は中学1年を、暗示的に将来が呈示され、大なり小なり子どもの声質も変化してくる大切な時期であると位置づけ、「この時期ほど親の指導が子どもの性格形成に大きく影響を持つ時期はない」といい切っています。そして実際に中学1年生を教えているなか、彼らの勉強に対する態度により、子どもたちを大きく3つの類型に分けていいとも主張しています。しかもそれは持って生まれた基本的な資質によるものではなく、環境によって育成され、偶然も大きく作用した後天的なものなのだとか。それでいて、いったん形づくられると、なかなか取れにくい性質になってしまうともいいます。■中学1年の勉強に対する態度3つの型[第一の型]第一の型は、誰にもはばからず、自分の興味を積極的に、外部に示すことができる子どもたち。刺激に応じ、体の神経が全身的に動き出す感じがする型です。この型の場合、環境が性格形成を大きく支配していることがわかるのだといいます。そのことに興味を持った時期が他の友だちより早かったというようなことも重要な要素として機能し、それも大きな成長の原動力になるというのです。「まず自分が知ったんだ」という自信が、積極性に輪をかける結果になるわけです。[第二の型]第二の型は、「これはおもしろそうだ。いま話をよく聞いておいて、今度、時間のあるときに本格的にやってみよう」という反応を示す子どもたち。性格は生真面目でありながら、「自分は頭がいいのだ」との自信は持てないタイプ。家庭的には恵まれ、さびしさをあまり感じたことがない子に多く、母親からの配慮は行き届いているものの、普段からかなりの精神的課題を両親から与えられている受け身型なのだとか。「これをするには、こういう条件が必要なのだ」と考える“条件派”ともいえるそうです。[第三の型]第三の型は、「おもしろいころはおもしろいけれど、またしんどいことが増えたなあ」という型の子ども。この型は、母親がつねに他の兄弟や、近所の子どもとその子を比較し、足らないところを注意し続けてきた場合が多いのだといいます。■小学校6年から中学1年の教育が重要つまり、これらの型を踏まえたうえで、その差異を認めつつ、それぞれに適した学習法を取り入れていくべきだということ。実際に三者に対する教育法が紹介されていますが、ほんのわずかな差異が、できる子とできない子を分かつのだといいます。端的にいえば、伸びる子どもは小学校時代は比較的楽しく勉強してきて、軽く灘中を受けて軽く失敗した子に多いといいます。そして伸びない子どもは、「灘中、灘中」と何人もの家庭教師に追い上げられ、親も懸命になりすぎ、肝心の子どもの心が勉強から離れている子。中学に入ってからは、勉強がすでに重荷になっている子どもに多いそうです。つまりこうした例から考えても、小学校6年から中学1年にかけての教育方針が、子どもの性格決定に与える影響は大きいということ。*時代が違うとはいえ、本書における著者の主張は、現代の教育環境にも十分にあてはまるように思えます。なにより魅力的なのは、著者か子どものことを心から大切に思っていることがはっきりとわかる点。子どもの教育について思うところのある方には、ぜひとも読んでいただきたいと思います。(文/印南敦史)【参考】※入江伸(2015)『灘高→東大合格率ナンバーワン 伝説の入江塾は、何を教えたか』祥伝社
2016年02月15日ご存知の方も多いと思いますが、『人生に幸せ連鎖が起こる! ネガポジ 変換ノート』(武田双雲著、SBクリエイティブ)の著者は、幅広い才能の持ち主として有名。なにしろ書道家として数多くの題字、ロゴを手がけ、テレビなど多くのメディアで活躍する一方、仏教や脳科学を取り入れた自己啓発書の作家としても活躍しているのですから。20万部を超えるセールス実績を打ち立てた『ポジティブの教科書』(主婦の友社)など、多くのベストセラーを生み出したことでも知られていますが、その新作である本書のテーマは「ネガティブをポジティブに変換する」思考。「言葉を変換する」だけで、すでに持っているものがベストに変わるという考え方で、つまりは「ポジティブは自分で決めることができ、どんなに不幸で不満に見えることも、見る角度を変えれば必ず違って見えるというわけです。きょうはそのなかから、お金に関するネガポジ変換の方法を引き出してみたいと思います。■誰かと比べるとお金に苦しめられる「あと◯万円あれば、お金に困ることはないのに……」というような思いを抱えている人は、決して少なくないはず。つまりはそれほど、お金は私たちの人生と切っても切れない大切な要素であるということです。とはいえ、お金の捉え方には注意が必要だと著者は主張しています。なぜなら年収が1,000万円の人は、300万円や400万円の人のなかにいた場合、「お金持ちだね」とうらやましがられるかもしれませんが、年収1億円のグループに入ったとたん、今度は「貧乏」となってしまうものだから。つまり、誰かと比較した結果としての「多い・少ない」でお金をとらえているうちは、いつまでたってもお金に苦しめられる人生から抜け出すことはできないというわけです。■一瞬でお金持ちになれる簡単な方法けれど、そうなのだとすれば、どうしたらいいのでしょうか?この問いに対する著者の答えは、いたってシンプル。「お金がない」ではなく、「お金がある!」といい切ってしまえばいいというのです。これは決して気休めなどではないのだと著者は強調しています。そして、だからこそ財布のなかに500円が入っていたとき、どう感じるかによって人は大きく変わるというのです。もしも「500円しかない」と思ったら、それは貧乏な人の発想。一方、「500円もある」ととらえることができる人こそが、本当のお金持ちだということ。だから、お金が「ない」ほうに関心を向けている限り、たとえ収入が1億円を超えても満足できないものだといいます。どんなに稼いでもお金の虚無感が消えないという人は、そういう理由があるから苦しいのだということ。■モノやお金への執着が人を苦しめるところで仏教では、「執着」について何度も語られているのだといいます。執着とは、モノやお金に固執してしまうことを指し、それは人を最も苦しめる感情だともいわれているのだとか。そのため執着している人は、どうしても他人と自分を比較してしまいがちだというのです。しかしそうなってしまうと、誰かを妬んだり、恨んだり、場合によっては蹴落としたりすることになってしまうもの。でも、そんなことをしていたら、孤独感や劣等感が残るだけです。いうまでもなく、昭和のころの日本は右肩上がりの時代でした。その名残なのか、日本人はハングリー精神をあがめすぎているような気がすると著者はいいます。たしかに、経済が右肩上がりだったころは、お給料もどんどん増えていったでしょう。「昨日より豊かに!」「もっとお金が欲しい」という欲は、苦しみを生まなかったともいえるのです。ところが、いまや日本は長きにわたって低成長を続けており、お給料も上がりにくくなっています。そうでありながら昭和のハングリー精神を引きずってしまったとしたら、それは壮絶なパイの取り合いを生み出すだけ。たとえば「働かざるもの食うべからず」をいい表した「アリとキリギリス」という話がありますが、「キリギリスみたいに楽しく演奏していてもいいじゃないか」と著者は思うのだそうです。そして、「もっとお金が欲しい」は、世の中からの刷り込みなのかもしれないとも。なるほどそう考えれば、おのずと気持ちも前向きになってくるのではないでしょうか?*このように、徹底的なポジティブ思考こそが本書の特徴。つらい状況にいる人は本書を通じ、発想の転換ができるかもしれません。(文/書評家・印南敦史)【参考】※武田双雲(2015)『人生に幸せ連鎖が起こる! ネガポジ 変換ノート』SBクリエイティブ
2016年02月14日時間栄養学の観点から、1日の代謝量を決める朝ごはんを重視しているという著者が、朝ごはんの効能を説いた書籍が、きょうご紹介する『-朝ごはんはすごい- 一生太らない食べ方習慣』(大島菊枝著、ワニブックス)。でも、そもそも朝ごはんを食べるとどんなことが起こり、なぜ体にいいのでしょうか?基本的な部分をおさらいしてみましょう。■1:体内時計のリセットでリズムが整う私たちの体内時計は、地球の自転より少し長い約25時間で一周するそうです。そこで地球の自転と体のリズムが合うようにしておくことが大切だというわけですが、三食をきちんと食べるリズムをつけると、「摂食余地反応」が起きるようになるとか。すると体が食べる準備を整えはじめるので、食べたものがすんなりと消化され、朝の排便もスムーズになっていくということ。■2:朝方やせ生活の基礎ができる朝ごはんを食べるとやせる大きな理由は、・代謝スイッチを入れる・筋肉の分解を防ぐ・血糖値の上昇を防ぐの3つ。そして夜型の生活朝型にすることで、エネルギーを代謝するのに有効な体の基礎ができ、健康的なやせ体質になるそうです。■3:体温が上がって代謝スイッチ、オン朝起きてすぐは低体温ですが、朝ごはんを食べることで徐々に体温が上がっていき、さらに代謝が活性化することに。たかが体温と思われるかもしれませんが、体温が1℃上昇するだけで基礎代謝(安静にしていたとしても代謝するエネルギー)は13~15%もアップするのだといいますから無視できません。■4:脂肪燃焼に欠かせない筋肉の浪費をSTOP筋肉細胞がなければ、効率良く脂肪を燃やすことは不可能。ところが朝ごはんを抜いて燃料不足のまま1日をスタートしてしまうと、せっかくつくった筋肉が勝手に分解されてしまうことがあるのだとか。だからこそ、朝に糖質を摂ることが重要。筋肉を崩させないための重要なエネルギー補給になるからです。■5:血糖値の急上昇を防ぎ、老化を遅らせる血糖値が急上昇することにより、余った糖質が体内のタンパク質と結合して「糖化」を起こし、老化物質の「AGEs」を生み出すという説があるそうです。糖化が進むことで細胞が老化し、それは肌などにも影響することに。しかし朝ごはんが、血糖値の数値を改善したという報告もあるのだとか。■6:脳機能を活性化してやる気スイッチもオン朝ごはんを食べた場合、論理的思考に影響している「左脳」、感性に関係する「右脳」の両方が活性化されるのだといいます。つまり朝ごはんを食べたほうが仕事での集中力、注意力、事務処理能力などのパフォーマンスが上がり、オリジナリティあふれるアイデアも生まれやすくなるということです。■7:眠れないという悩みにも効果的睡眠をコントロールするポイントとなるのが、食品からしか摂ることのできない必須アミノ酸の「トリプトファン」。そしてトリプトファンを摂ると、気分を落ち着けるセロトニンが分泌されることに。セロトニンは夜になると、睡眠のリズムをつかさどるメラトニンというホルモンに変わります。つまり朝ごはんから摂ったトリプトファンからセロトニンをたっぷりつくれば、メラトニンも十分にでき、ぐっすり眠れるわけです。■8:成長ホルモンをコントロール成長ホルモンはアンチエイジングホルモンとも呼ばれ、老化防止には欠かせないもの。そして成長ホルモンを効率よく出すために必要なのが「空腹」。おなかがすくと胃の粘膜から「グレリン」という摂食促進物質が出てくることになり、脳では成長ホルモンの分泌指令が出されるので、好循環が生まれるわけです。■9:自律神経を整え、うつを防ぐ自律神経も体内時計と深い関係があるため、朝ごはんとも深く関連しているとか。事実、朝ごはんを食べている人と食べていない人を調査したところ、食べている人のほうが、心が落ち込んだり、情緒不安定になったりすることが少ないことがわかったのだといいます。■10:日中の酸化を防ぐ生きていくためには酸素を吸うことが不可欠ですが、酸素を吸うと、体内に活性酸素やフリーラジカルができ、老化を早めてしまうのだといいます。年齢を重ねるごとに、活性酸素に対抗する「スーパーオキシドディスムターゼ」という酵素が減ってしまうことが原因。そこで、朝ごはんを食べるときに抗酸化作用のある食べものを指揮してたっぷり食べることが必要になるということ。*朝、ちょっとした食べ方の習慣を変えるだけで体が変化し、すがすがしい毎日を実現できると著者は断言しています。しかも本書の魅力は、読んでいるだけできちんと朝ごはんを食べたくなってくること。「食べなきゃいけないことはわかっているけど、なんとなく食べる気がしない」というような方は、本書を読んでみれば気持ち変わるかもしれません。(文/書評家・印南敦史)【参考】※大島菊枝(2015)『-朝ごはんはすごい- 一生太らない食べ方習慣』ワニブックス
2016年02月13日『ネットで人生棒に振りかけた!: 先の読めない時代の情報版「引き寄せの法則」』(新田哲史著、アスペクト)の著者は、言論プラットフォームとして知られる「アゴラ」編集長兼ソーシャルアナリスト。読売新聞で10数年にわたって記者を務めたのち、コンサルティング会社を経て独立したという異例の経歴の持ち主でもあります。まず、高給と社会的地位を約束された大手新聞社を辞めてしまったこと自体が大胆すぎる決断ですが、これはインターネットの普及という表面的な現象や既存メディア崩壊を煽る周囲の意見に踊らされたからなのだとか。しかも転職先でも大失敗し、実務経験もお金もないまま仕方なく独立して社会の荒波で溺死しかけることに。だから、「ネットで人生棒に振りかけた」わけです。では、私たちが人生を棒に振らないためにはどうしたらいいのでしょうか?著者の教訓を抜き出してみましょう。■人生を棒に振らないための教訓(1)「独立」とは、必ずしも会社を辞めて起業するという意味ではないと著者。組織にいようと、凡人のビジネスパーソンが自己判断能力を持って「一人前」と認められるようになるには、相応の「下積み」期間が必要だということ。■人生を棒に振らないための教訓(2)「あの偉大な先生がこう話していた……」「そのジャーナリストの取材によると……」など、私たちはつい著名人や成功者の言説に左右されてしまいがち。しかし先が見えない状況だからこそ、それらを鵜呑みにせず、冷静に検証することが大切。■人生を棒に振らないための教訓(3)男は特に「歴史好き」で、たとえば織田信長、豊臣秀吉、徳川家康などの勇姿に憧れてしまいがち。しかし彼らはほんの一握りの存在であり、天才です。普通の会社員であれば、英雄物語は娯楽として割り切り、まずは凡才を参考にしたほうが堅実だとか。■人生を棒に振らないための教訓(4)衰退業界で汲々とする人生はつまらないけれど、とはいえ組織を飛び出して異業種で成果を生み出すのは並大抵のことではありません。転職は慎重にすべきで、会社にしがみつくのも立派な選択であることを認識すべき。■人生を棒に振らないための教訓(5)自己分析において、近年は「内発的動機」が注目されています。金銭や名誉などの「外発的動機」と異なり、内面から沸き起こる興味、関心、意欲がもたらす動機。まさにその人の本音に沿っているわけで、職業選択においても「やりたいこと」をやるのがいちばんだということ。■人生を棒に振らないための教訓(6)リクルート創業者の江副浩正氏の「自ら機会をつくり、機会によって自らを変えよ」という名言からもわかるとおり、自分から動いて仕掛ければなにかを得られるもの。■人生を棒に振らないための教訓(7)SNS全盛の現代では、ネットでもリアルに劣らないコミュニケーションが可能。でもソーシャルキャピタル(社会・地域の結びつきから、社会に新たな価値を与えようとする考え方)的な関係を目指したいなら、リアルで互いに信頼を築くことが大切。■人生を棒に振らないための教訓(8)職業選択においては、「自分だったら社会にどうやって貢献できるのだろう」と、自分の得意なことをしっかり分析して理解しておくことが重要。■人生を棒に振らないための教訓(9)「自分がアホである」といさぎよく割り切るところから道は開けるもの。時代の先を見通す力がないなら、信じるに値する識者を探し、徹底してついていくのも手。■人生を棒に振らないための教訓(10)自由に働いて生きていきたいのなら、自分から仕掛けていかないと道は開けないもの。信頼やブランドは、企画の積み重ねが実績となって形成されていくということ。■人生を棒に振らないための教訓(11)「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」という孫子の名言は、「絶対勝てる」という意味ではなく、リスクヘッジの大切さを説いていることに注目すべき。■人生を棒に振らないための教訓(12)既存の考え方にとらわれていては、新しいものが生まれなくて当然。まず、疑うことで考えることが大切。■人生を棒に振らないための教訓(13)価値観が多様化する時代だからこそ、情弱(情報弱者)にならないためには相手との認識のズレを把握することは不可欠。■人生を棒に振らないための教訓(14)ソーシャルメディア全盛の現代においては、さまざまなバックボーンを持つ人たちとバーチャル上で知的に語り合うことも可能。ネット時代だからこそ、プロの知見を上手に集めることは重要。*本書の大半は著者自身の体験談で占められており、失敗も明らかにされているため、読み物としても十分に楽しめる内容。ぜひ一度、手にとってみてください。(文/書評家・印南敦史)【参考】※新田哲史(2015)『ネットで人生棒に振りかけた!: 先の読めない時代の情報版「引き寄せの法則」』アスペクト
2016年02月12日内気だったり人見知りだったり、理由や事情は人それぞれ。しかしいずれにしても、「人に話しかける」のが苦手だという人は決して少なくないはず。とはいえ社会人として日常的に他者と接している以上、話しかけることを避けて生きるのは不可能だともいえます。ところが、決してそうではないというユニークな角度から話を進めているのは、『話しかけなくていい! 会話術』(木村隆志著、CCCメディアハウス)の著者。コミュニケーションに関するさまざまな相談を受けている「人間関係コンサルタント」だそうですが、ここでは「無言」か「ひとこと」のみで会話を盛り上げ、「相手から好かれる」テクニックを明かしているのです。■「話す自信がない」のは仕方ない自分から話しかけられない人は、「うまく話す自信がない」「嫌な顔をされたくない」と口を揃えるようにいうもの。しかし、それは仕方がないことなのだと著者はいいます。なぜなら、そもそもほとんどの人は「自分から話しかけるよりも、相手から話しかけられたい」「そのほうが気楽だし、うれしい」と思っているから。いまは簡単な手続きや安価で希望が叶いやすく、多くの人がそれに慣れてしまっている時代。だから同じように人間関係においても、「話しかけられるのを待つだけ」という受け身のスタンスをとる人が増えているというのです。だとすれば、「話しかけられやすい人」になりさえすれば多くのことを解決できるということになります。では、そのためにはどうしたらいいのでしょうか?■話しかけられ上手は「5S」上手著者は、“話しかけられるのが上手な人”には5つの特徴があるのだと考えているそうです。それによると、人が思わず話しかけたくなるのは、スマイル(smile=笑顔)、サイト(sight=視線)、サイン(sign=合図)、サルート(salute=会釈)、スキンシップ(skinship=接触)がある人。なぜならこれら“5つのS”がある人には威圧感がなく、そればかりか相手に対して親近感を与えることができるかた。つまり、必然的に話しかけられる機会が増えるというわけです。ここで注目すべきは、“5つのS”はいずれも「声を発しない」ノンバーバル(非言語)コミュニケーションであり、会話に苦手意識がある人も問題なくできるものであるという点。裏を返せば、「声を発しないところで、自分の印象が上がったり下がったりしている」ということだというわけです。実際、アメリカの心理学者、アルバート・メラビアンの実験結果によれば、「人の印象が形成されるのは、話の内容(言語情報)が7%、声の質やテンポ(聴覚情報)が38%、見た目(視覚情報)が55%」なのだとか。つまりはそれほど、話すこと以上に目から入る情報が重要だということです。もし“5つのS”のなかで欠けているものがあったとしても、それはスキルがないということでも、できないということでもなく、「ただやっていない」だけ。だからこそ、ぜひ実践してみてほしいと著者は提案しています。■赤ちゃんに声をかけたくなる理由たとえば人は赤ちゃんを見ると、つい声をかけたくなるもの。それも、この“5つのS”を感じるからなのだといいます。赤ちゃんのニコニコ笑い、無垢な目でじっと見つめ、顔や手足をバタバタさせる仕草は合図や会釈に近いもの。また、手を出すとつかんでくれます。つまり、本来ならこれくらい無防備なほうが、人間同士のコミュニケーションは活性化しやすいものだというのです。だから“5つのS”を上手に使える人は、どんな人にも好印象を与えることが可能になるということ。そしてなかでも特に効果が大きいのは、恋愛面なのだそうです。「好き」という直接的な言葉よりも、笑顔を見せ、視線を送り、手を振るなどの合図を出し、ていねいな会釈や自然な接触ができるほうが、チャンスは広がっていくというわけです。*こうした基本的な考え方を軸として、本書では以後もさまざまな角度から「話しかけさせる」ためのテクニックを明かしています。表情のつくり方はもちろんのこと、話しかけられやすいファッションなども紹介されているだけに、「なるほど!」と思えることがたくさん。コミュニケーションの仕方で悩んでいる人には、きっと役立つことでしょう。(文/書評家・印南敦史)【参考】※木村隆志(2015)『話しかけなくていい! 会話術』CCCメディアハウス
2016年02月12日きょうご紹介したいのは、『100%好かれる1%の習慣』(松澤萬紀著、ダイヤモンド社)。著者は、ANAの客室乗務員(CA:キャビンアテンダント)として、実に12年にわたって500万人以上のお客様に対応してきたという人物。現在は「日本ホスピタリティー・マナー研究所」代表として、そしてマナー講師として企業研修や講演活動を行っているそうです。つまり本書ではそんな実績に基づき、人間関係の法則が明かされているというわけです。■人間関係の悩みがなくなるとうまくいくCA時代に学んだのは、「人への想いや気持ち(内面)は、日常の行動(外面)に現れる」ということだったと著者はいいます。そして多くの人に慕われる人に共通しているのは、「なにをすれば相手が喜んでくれるのか」を察する心があり、それを言葉と行動に込める習慣を持っていることだとも。つまりマナーは所作ではなく、「相手をきづかう心」が大切だということなのかもしれません。また著者は、「人間関係の悩みがなくなれば、人生の80%はうまくいく」とも主張しています。たしかにそうかもしれません。けれど、それはとても難しいことでもあるはず。現実的にどうすれば、人間関係の悩みをなくすことができるのでしょうか?そのためには、次の3つのポイントに目を向ける必要があるのだといいます。■人間関係で悩まなくなる3つのポイント(1)「誰にでもできるのに、1%の人しかやらないこと」起業家最年少で韓国の大統領表彰を受賞したベ・ドンチョルさんは、1分でも遅刻しそうなときは、必ず相手に電話を入れるのだそうです。元首相の小泉純一郎さんは、食事のとき、相手に背を向けて割り箸を割るのだといいます。いずれにしても、やろうと思えば誰にでもできるけれど、実行できている人はわずか1%程度だろうと思われること。ここからもわかるとおり、相手にきちんと向き合い、「誰にでもできる簡単なこと」だけれども、「1%しかやっていないこと」を習慣にしている人は、ほぼ100%に近い確率で、まわりの人の心を暖かくするものだということです。(2)「人から選ばれる人になる」著者は多い年だと年に20回ほどセミナーに登壇しているそうですが、そんななかで受講者に決まってみられる共通点があることに気づいたのだといいます。たとえば「1クラス30人」の研修を行うとき、6人1組にして、各テーブルを島型に5つ配置したとします。そして入室した順に好きな場所に座ってもらうようにすると、不思議と同じような人たちのグループができるというのです。このようなことが起きるのは、参加者が「好き」か「嫌い」かで人を選んでいるから。仕草やちょっとした気づかいなど、わずかな物事から、他のすべてのことを類推して考えてしまうわけです。だとすれば、まわりの人たちから「よい意味づけ」をされ、「選ばれる人」になることを心がければ、人生が変わってくるだろうという考え方。(3)「毎日の習慣にする」著者が研修講師をしていて残念に思うのは、せっかく研修を受けたのに、変わらない人がいることだとか。そして、変わらないのは「行動していない」ことに原因があるとも指摘しています。「わかる」と「できる」は違うもの。大きな声で元気よく挨拶をすることが大切だとはわかっていても、行動に移さないわけです。あるいは行動したとしても、すぐにやめてしまう。当然のことながら、それでは身についたとはいえないはずです。つまり、小さな習慣を延々と長い期間にわたって積み上げてきた人こそ、「あの人は仕事ができる人」「あの人はていねいな人」という印象を相手に与えることができる。そのためには、「毎日の習慣にする」ことが欠かせないわけです。*こうした基本的な考え方をベースとして、以後はさらに緻密に、そしてわかりやすく、100%好かれるためのメソッドが紹介されています。写真やイラスト、図版もふんだんに盛り込まれているため、リラックスしながら読むことができるはず。そして気づいたときには、人間関係に大切な多くのことが身についていることでしょう。というわけで、空いた時間にパラパラとページをめくるだけでも、多くの気づきを得ることができそうです。(文/書評家・印南敦史)【参考】※松澤萬紀(2015)『100%好かれる1%の習慣』ダイヤモンド社
2016年02月10日『一流理論』(高嶋ちほ子著、PHP研究所)の著者は、編集者として3,000人以上の会社員を筆頭に、料理人、クリエイター、作家、経営者、スポーツ選手など1,000人以上の業界のトップに取材してきた実績を持つ人物。さまざまな人と会い、さまざまな仕事をするなかで「なぜ自分は一流になれないのか」と悩んだこともあったといいますが、その結果として行き着いたのが「一流の定義」。すなわち、・やりたくない仕事を適当にこなすのが、三流・やりたくない仕事を体を壊すまでがんばるのが、二流・やりたくない仕事を断って、好きな仕事に没頭するのが、一流という考え方です。しかし、もしそうなのだとすれば、どうしたら、やりたい仕事だけして食べていけるのでしょうか?つまり、その答えを明らかにしたのが本書だというわけです。きょうは、お金に対する考え方を明らかにした第5章「いい仕事をするための『一流のお金の哲学』」のなかから、興味深いひとつの理論を抜き出してみたいと思います。■中村芳子さん直伝「お金を増やす要素」お金を増やすためには、次の3つの要素が必要だと著者はいいます。・「労働」(働いて資金をつくる能力)・「節約」(無駄な支出を減らす能力)・「投資」(資金を殖やす能力)ちなみにこれは、『20代のいま、やっておくべきお金のこと』(ダイヤモンド社)などのベストセラーを持つ、人気ファイナンシャル・プランナーの中村芳子さんから教えていただいたものなのだとか。お金を増やすには、「働いてお金を手に入れ、無駄な出費を減らし、そのお金をなるべく投資に回す」こと。それが、お金を増やすために求められるべき基本的な流れだというのです。■お金は災害・政治・無知の3つで減る!加えて、ファイナンシャル・プランナーの学校に通ったことがあるという著者は、そこで興味深いことを聞いたのだといいます。それは、世の中には「お金を減らす3つの敵」があるということ。1つ目は「災害」。たしかに災害は大きな敵で、最近は地震だけでなく、大雨による水害も目立ちます。2つ目は「政治」。政権が変わると、その国の経済に大きな影響が出るもの。国外の投資家の評価が変われば、為替や株価に影響が出ます。法改正による規制緩和で株価が推移することもあります。また、生活に直接影響が出る税率も、政権によって頻繁に変わります。だからこそ、政治には目を向けておかなくてはならないということ。そして3つ目は「無知」。損をして悔しがっているならまだいいほうで、世の中には損をしていることにさえ気づかない人が多いのだといいます。■お金を増やすには自分で調べて動くべしさらにもうひとつ重要なのは、「自分で調べて行動すること」の大切さなのだそうです。たとえば著者は以前、日本航空の株を持っていて、同社の経営破綻の際には株券が紙くず同然になったため53万円損したことがあるのだといいます。問題はこのとき、株主優待券ほしさになにも調べずに購入したこと。財務諸表も見なかったどころか、そもそも味方を知らなかったのだといいます。経営危機が報道される少し前に、「日本航空は危ない。株はすぐに売ったほうがいい」と助言してくれる人があったにもかかわらず、「まさかあんな大企業がつぶれるはずがない。万が一のときは国が救済してくれるだろう」とタカをくくっていたというのです。公的資金の代わりに100%の減資という「株主責任」を問われることがあることも知らなかったため、大きな負担を背負うことになってしまったというわけです。■3つの頭で考える「キングギドラ理論」これは「投資」に関する無知ですが、それはともかくも、お金を増やしたいのであれば、「労働」「節約」それぞれの分野で無知であってはならないと著者は強調します。増やしたい以上は、それぞれの分野について自分で調べ、考え、行動しなくてはならないということ。そして「3つの頭で考える」ということから、3つの頭を持つ怪獣「キングギドラ」をイメージしているのだとか。そこでこれを「キングギドラ理論」呼び、無知だった自分を戒めているのだといいます。*この「キングギドラ理論」がそうであるように、本書では著者が経験から導き出した50もの理論が紹介されています。それらは、多くの方々の環境にも当てはまるものであるはず。一度、手にとってみてはいかがでしょうか?(文/書評家・印南敦史)【参考】※高嶋ちほ子(2015)『一流理論』PHP研究所
2016年02月09日『少ない物ですっきり暮らす』(やまぐちせいこ著、ワニブックス)は、同名の人気ブログを書籍化したもの。福岡県出身の著者は、ご主人と13歳の息子、11歳の娘と4人で大分に暮らす主婦で、本書の「おわりに」の部分にも「私は片田舎に住む地味な主婦です」と記しておられます。しかも、「ミニマリストありき」ではなかったという点がおもしろいところ。つまり、さまざまなインテリアの試行錯誤を経て、いちばん大事な家族としっかり向き合うため「減らす」生活をスタートしただけだというのです。でもその結果、「家族の1日のはじまりを笑顔で見送る」という当初の望みが叶ったのだというのですから、なんとも興味深いところではあります。そんな立場を軸として、ブログでも本書でも、インテリア、家事、掃除、ファッションなどさまざまな側面から、ものを減らすメリットと楽しさを伝えています。注目すべきは、ブログが月間PV150万以上の数字を叩き出し、本書もアマゾンの「社会と文化」ランキングで1位を記録しているという事実。それだけ、「シンプルに暮らすこと」に対する関心が高まっているということなのではないでしょうか?しかしそれでも、まだまだミニマリズムという生き方、あるいはミニマリストという人たちが完全に理解されているとはいい切れず、誤解や疑問も残されている気もします。そこできょうは本書から、「ミニマリストへのQ&A」をクローズアップしてみたいと思います。■Q1:ミニマリストになろうと思ったきっかけは?以前管理していたブログのリンクが「ミニマリスト」というカテゴリーに貼られており、「それってなに?」と調べはじめたことがきっかけだったのだとか。つまり最初から「ミニマリストになりたい」と思っていたわけではないということで、これは非常に興味深いエピソードだと思います。■Q2:どうやってものを減らしたの?多くの人にとって気になるのがここだと思いますが、著者はもともと、ひとつ買ったらひとつ手放すタイプだったのだそうです。ですから、転勤族だったご主人とともに引越しを繰り返すうち、だんだんと減ってきた感じだというのです。なお洋服は、ミニマリスト言葉を知ってから、実験的に試すようになってさらに減ったそうです。■Q3:捨て魔なんですよね?この問いに対しては、「捨て魔じゃないです」とキッパリ。つい最近も、バッグのなかにしまったバッグの存在を忘れ、カビだらけにしてしまったほどだとか。■Q4:ケチなの?これも、答えは「違います」。どちらかというと、「コレ!」と思ったら値段を問わず買うほう。たとえばリビングのこたつの天板は5万円、SEIKOの時計は3万円したというのですから、たしかにケチではなさそうです。■Q5:少ないもので暮らしは回るの?これも気になるところですが、回っているそうです。なぜなら自分にとってムダなものがないだけで、必要なものはあるから。■Q6:なんにもなくて、つまらなくない?「逆に楽しい」との返答。ものが多かったときには気づかなかった、季節の移ろいや日々の変化を感じ取ることができ、心が踊るのだといいます。そして、家族で過ごす時間も増えることになったとか。■Q7:「いつも同じ服」って思われたらどうしようと気にならない?気にならないといいます。理由は明快で、似合う服を鉄板コーデで着る、つまり自分にとってベストの選択をしているという自負があるから。実際にそういわれたこともなく、逆に「それどこの?」と聞かれるようになったというのですから、意義あることなのかもしれません。■Q8:ミニマリストでもたくさん持っているものとは?扇風機を3台、はさみを3つ、タオルは20枚……と、必要に応じた数を持っているそうです。■Q9:ご主人はなんといっているの?「暮らしやすい」と喜んでいるといいます。物量がこれだけ少なければ、最悪の場合、家族4人1LDKの家でも暮らせるので、「住む家の心配をしなくても済むね」ともおっしゃっているのだとか。そればかりか、「いまの暮らしを維持しなきゃいけない」というプレッシャーからも解放されるようです。そして著者も、「健康な体と精神さえあれば、なんとでもなる!」と伝えているのだといいます。■Q10:いま、幸せですか?「はい、幸せです!」という答えが返ってくるのかと思えば、幸せなときとつらいときと半分半分だとのこと。「日々の移り変わりと同じで、自分自身にも気持ちの波はあるから」というのがその理由。むしろ、これはとても的を射た考え方だといえるのではないでしょうか?*「インテリア」「炊事と収納」「掃除と選択」「服の着まわし」「家族との関係」など、さまざまな角度からミニマリズムについての考え方をつづった内容。目先の流行に追われることなく、地に足のついた考え方が軸になっているので、大きな説得力があります。少なからずミニマリズムに関心がある方は、ぜひ手にとってみてください。(文/書評家・印南敦史)【参考】※やまぐちせいこ(2015)『少ない物ですっきり暮らす』ワニブックス
2016年02月08日『トヨタの段取り』(OJTソリューションズ著、KADOKAWA)の著者であるOJTソリューションズとは、トヨタ自動車とリクルートグループによって設立されたコンサルティング会社。トヨタ在籍40年以上のキャリアを持つベテラン技術者がトレーナーとなり、トヨタ時代の豊富な現場経験を活かしたOJT(On the Job Training)を行っているのだといいます。そうやって現場のコア人材を育て、変化に強い現場づくりを実現し、「儲かる会社づくり」を支援しているわけです。そして本書では、トヨタの段取りは「成果を出すためのビジネスツール」であるという観点から、どんな職場にも生かせるトヨタの段取りを紹介しているわけです。■仕事のムダを見つける視点作業の段取りを考えていくうえで、「ムダ取り」は重要なポイント。そしてトヨタには、仕事のムダを発見するための視点として、「7つのムダ」という考え方があるのだそうです。それは次のとおり。(1)手待ちのムダ(2)加工のムダ(3)在庫のムダ(4)動作のムダ(5)運搬のムダ(6)つくりすぎのムダ(7)不良・手なおしのムダ作業者にとっては、毎日当たり前のようにやっている仕事であっても、「7つのムダ」の観点から見つめなおすと、多くのムダが見つかるということ。そしてこれらは、トヨタだけに限らず、多くの職場にもあてはまることでもあるはず。ひとつひとつを見ていきましょう。■仕事の「7つのムダ」とは(1)手持ちのムダ作業者が次の作業に進もうとしても進むことができず、一時的になにもすることがない状態。たとえば前工程のデータのまとめが遅れ、企画書作成に着手できないなどがこれにあたります。このとき大事なのは、仕事全体のスケジュールを意識しつつ、自分の前工程である部下に必要な時間(リードタイム)を事前に確認しておくことだといいます。(2)加工のムダ生産(工程の進み具合)や品質(加工品の精度)には、なんら貢献しない不必要な加工のことをさします。社内の関係者限定の資料なのに、アニメーションや装飾など、必要のないところに凝った資料などがこれ。加工のムダは、仕事の目的が共有されていないことから生じることが多いため、目的を共有することが大切。(3)在庫のムダ必要以上の完成品、部品、材料などのこと。オフィスでは、文具、書類、データなどにあたります。ちなみに、メールの返信をせずに放置しておくのも在庫のムダになるのだとか。相手への返信メールが遅れれば遅れるほど、仕事の段取りに支障が出て、スケジュールに響くもの。よって、空いている時間を使ってこまめに返信すべき。(4)動作のムダ付加価値を生まない動きのこと。たとえば、部品をとるためにしゃがむ、資料をとるために手を伸ばす動作など。大切なのは整理整頓で、「いるもの」と「いらないもの」に分けて「いらないもの」は捨て、「必要なもの」を「必要なとき」に「必要なだけ」取り出せるようにしておくことが重要。(5)運搬のムダ付加価値を生まない歩行、モノの運搬、情報の流れのこと。たとえば席とコピー機の間を何度も往復するとか、必要もないのに上司に情報確認することなどだそうです。たとえばモノをとりに行ったら、一度で必要なものがすべて揃うようなレイアウトにすることなども、運搬のムダを減らす方法のひとつ。(6)つくりすぎのムダ必要な量以上に多くつくったり、必要なタイミングよりも早くつくったりすること。たとえば3製品分でよい詳細資料を、10製品分作成するなど。このムダを避ける方法のひとつは、「なくせないか?」「やめられないか?」という意識を持つことだそうです。(7)不良・手なおしのムダ廃棄せざるを得ないものや、やりなおしや修正が必要な仕事をしてしまうこと。1週間前と同じミスをするなどが、これにあたるといいます。このムダを防ぐために重要なのが、「自工程完結」という考え方。自分の工程で品質を保証できるくらいまでつくり込み、やりなおしや修正が発生しないようにするということです。*生産現場でのムダを排除することが第一の目的であるだけに、たとえば(4)などには厳しすぎる印象もあります。しかし、徹底的にムダを省いて管理された作業現場で研ぎ澄まされたメソッドであることは事実。その何割かを自身の職場環境に当てはめてみれば、合理性を高めることはできそうです。(文/書評家・印南敦史)【参考】※OJTソリューションズ(2015)『トヨタの段取り』KADOKAWA
2016年02月07日『一流のサービスを受ける人になる方法』(いつか著、日本経済新聞出版社)の著者は、10代から広告・出版業界でコピーライターとしてキャリアを積んできた実績の持ち主。旅行や取材も含めれば世界約50カ国を訪問し、30代前半には2年間毎昼夜会食という日々を過ごしたこともあるのだとか。そしてその期間に数々の経営者やセレブリティから学んだ社交術は、いまでも役立っているといいます。つまり本書ではそうした経験を軸として、服装、アプローチ、受け答え、態度などの基本的なマナーを解説し、さらにはお得なサービスなどを紹介しているわけです。マナーの話もさることながら、「お得なサービス」に焦点を当てたChapter 5「知ればあなたの世界が変わる、こんなサービス」もポイントのひとつ。きょうはそのなかから、クレジットカードに関する意外な事実をご紹介しましょう。■なんと24時間コンシェルジュサービスもいうまでもなく、クレジットカード特典は魅力的。それを目当てにカードをつくる人も多いため、各クレジットカード会社がさまざまな特典やポイントプログラムを設けています。その最高峰が、アメックスが発行する「アメリカン・エキスプレス・センチュリオン・カード」。その特典は、他のハイクラスなカードをはるかに凌駕するクオリティだといいます。ただしセンチュリオン・カードまでとはいかないものの、各カード会社の発行するプラチナクラスのカードも、その下のゴールドクラスよりはるかに上のサービス特典が受けられるそうです。ちなみにプラチナカードには黒が多いことから、総称として「ブラックカード」と呼ばれることもあるのだとか。それはともかくプラチナカードにもセンチュリオン同様に、「24時間コンシェルジュサービス」「2人以上でレストランの指定コースを注文すると1人ぶん無料」「空港ラウンジの無料利用」の特典が付いているものが多く、その上で各社がユニークで豪華なサービスを提供しているのだといいます。たとえばダイナースクラブ・プレミアムカードには、名医による治療法相談やセカンドオピニオンを受けられる「メディカル・コンサルテーション」サービスや、一見さんお断りの料亭を利用できるサービスなども。ただ、これはセンチュリオンと並ぶステータス・カードなのでダイナースからのインビテーションが必要で、年会費も13万円とハードルはかなり高め。■手ごろな価格でワンランク上のサービスがなおプラチナカードはおおむね5万円以上ですが、最近は自分から申し込めるものや、ゴールド並みの年会費のものも出てきていることが特徴。「自分には無理」と思っていた人もいらっしゃるかもしれませんが、決してそうではなくなっているというのです。そのひとつが、「MUFGカード・プラチナ・アメリカン・エキスプレス・カード」。コンシェルジュサービスや空港ラウンジ利用、ホテルでの部屋のアップグレードやレストランでの優待など基本的な特典のほか、出発もしくは帰国の際に手荷物1個を無料配送してくれる「手荷物空港宅配サービス」など、旅の多い人にはうれしい特典も。年会費は2万円なので、上手に特典を活用すれば「日常のなかの当たり前」としてワンランク上のサービスが受けられるというわけです。■プラチナでありながら加入ハードルは低めそしてビジネスマンに適しているのが、アメックスの「セゾンプラチナ・ビジネス・アメリカン・エキスプレス・カード」。国内外の空港ラウンジ無料利用をはじめ、特別料金による成田空港・羽田空港—都内間のハイヤー送迎サービス、世界中に拠点を持つハーツレンタカーの質の高いサービスを年会費無料で受けられる特典、全国に展開するスポーツクラブが年会費無料になるなど、バリエーションも豊富。またマイルの還元率が高いため、航空会社のカードにくらべてマイルが貯まりやすいというポイント特典もついているそうです。しかも年会費は2万円で、申し込み資格は「学生・未成年を除く電話連絡可能な方で、定型金融機関に決済口座をお持ちの方」と、プラチナでありながらハードルは低めになっています。*このような、あまり知られていないサービスを紹介したうえで、著者はこうした特典をどんどん利用してほしいと主張しています。スタートラインは、「年会費のもとを取るぞ!」でもOK。そうすれば、カードをきっかけとして、一流の場所や一流のサービスに触れることが可能になるわけです。(文/書評家・印南敦史)【参考】※いつか(2015)『一流のサービスを受ける人になる方法』日本経済新聞出版社
2016年02月06日すっかり社会に浸透した感があるので説明の必要はないかもしれませんが、「NPO(Non-Profit Organizationの略称非営利組織)」とは、さまざまな手段によって、社会を少しでもよくしようと取り組んでいる人たちによる組織のこと。それぞれの現場では、深い知識を持った専門家からボランティアまでが集まり、同じ思いを共有し、同じ目的のために協力しながら活動を続けています。きょうご紹介する『10000円のカレーライス NPOで見つけた心にのこる物語』(日本財団CANPANプロジェクト著、日本実業出版社)は、そんなNPOの活動に焦点を当てた書籍。それぞれのNPOの活動のなかから生まれ、活動に携わる人たちのなかで語り継がれてきた21の心温まるストーリーが集められています。自然災害、小児医療、介護など、それぞれのNPOが向き合う社会問題の質もさまざま。つまり「NPOってなにをやってるんだろう?」と、聞くに聞けない疑問を抱いている方が、その活動を知るにも最適だといえるでしょう。もちろん読み物としても、純粋に受け止めることができるはずです。■石巻の高校生たちが主役ところで本書のタイトルは、宮城県石巻市に実在する、いしのまきカフェ「」(かぎかっこ)の活動のなかから生まれたストーリーに由来するもの。東日本大震災で甚大な被害を受けた石巻に誕生した、地元の高校生が運営するカフェです。運営の目的は、将来の地域の担い手である高校生が、地域活性に対して主体的にたずさわり、そこから「自分の将来と地域」について学ぶこと。そこでNPO法人などがプロジェクトを企画し、2012年にスタートしたのだといいます。だから、大人のスタッフはあくまでサポート役。メニューも内装も店名についても、すべて高校生が主体となって生み出され、動いているもの。ちなみに店名の「」には、「なんでも入る可能性や個性、原点のなにができるのだろうというワクワク感を大切にしたい」という高校生たちの思いが込められているのだそうです。■石巻のカレーをつくろうお店がオープンしたのは2012年11月で、地域の人々に支えられたこともあって出だしは好調。高校生たちの学校がない週末のみの営業であるものの、毎週たくさんのお客様でにぎわったのだそうです。しかし2ヶ月ほど経過したころには、客足がだんだん遠のいていくことに。大きな原因は目玉となるランチメニューがないことだと考え、新メニューの企画会議が開かれました。その結果、幅広い世代から愛されているメニューだからということでカレーライスが採用となり、石巻の魅力をふんだんに詰め込んだご当地カレーを開発することになったのだといいます。「カレーで石巻を元気にしたい」という趣旨に賛同した水産加工会社から、石巻のその結果、漁業を学ぶ機会も得ることができ、また素材の無償提供も受けることができたことから、やがてカレーは完成。さらにユニークなのは、実際にお客様に試食してもらい、味の評価とアドバイスを聞き、言い値を支払ってもらうシステムにしたことでした。■カレーに1万円の値段がところがふたを開けてみると、1,000円近くをつけてくれる人がいる一方、多くは500円以下という厳しい評価。それはそれでありがたいと感じつつも、高校生たちは、まだ満足してもらえないもどかしさを感じ、数ヶ月にわたってカレーのマイナーチェンジを続けていったのだそうです。そんななか、いつもどおり営業をしていると、40代くらいの男性客がカレーとコーヒーを注文。そしてその人の帰り際、高校生スタッフがいつもどおりアンケート用紙に記載してもらった金額を確認すると、ご注文品:いしのまきカレー値段:10,000円と書かれていたのだとか。「1,000円の間違いではないでしょうか?」と高校生スタッフが思わず聞くと、男性からは「いいえ、10,000円ですよ」との答え。そして、こう続けたそうです。「私は復興支援の仕事で石巻に来ました。地元の高校生ががんばっている姿に感動しました。これはそのがんばりに対しての応援の気持ちです。いろいろな意見を聞き、じっくりと納得のいくカレーを完成させてくださいね」■石巻への応援の意味も!10,000円もの大金を払ってくれた意味は、がんばる高校生スタッフへの「応援」だけでなく、被災地石巻への「応援」でもあったということです。そしてその結果、その後もたくさんのお客様の意見を聞き、専門家のアドバイスも受け、納得のいくカレーが無事に完成したのだとか。できあがったカレーにつけられた名前は「かぎかっこカレー」。石巻の漁場である三陸沖は親潮と黒潮が交わる豊かな漁場。それを親潮に乗ってくるサンマのキーマカレーと、黒潮に乗ってくる真鯛のスープカレーのダブルスープで表現したのだそうです。*こうしたエピソードは間違いなく、営利目的ではないNPOだからこそ生まれたもの。一人ひとりの取り組みが実現させたものであり、だからこそ読んでいても強い説得力を感じさせてくれるのです。(文/書評家・印南敦史)【参考】※日本財団CANPANプロジェクト(2015)『10000円のカレーライス NPOで見つけた心にのこる物語』日本実業出版社
2016年02月05日