2022年1月17日 06:00
瀬戸内寂聴さん 歌手に秘書、知人らが明かす「私の人生を変えた言葉」
こうした先生とのちょっとした外出先での出来事が、私の記憶に、しっかりと残っているのです。
ふとスマホでメールを見ると新着が……。私が読売新聞に書かせていただいた瀬戸内先生の思い出の記事のゲラ刷りが送られてきたのです。先生が亡くなってからめまぐるしい日々が続き、悲しみにくれる暇もなかった私ですが、先生と座った席で、思い出をつづった原稿をスマホの画面で読み直すうちに、涙があふれました。
京都タカシマヤの前を歩けば、ジーンズとセーター、ニット帽で変装した先生とお買い物をして、帰りにとんかつを食べたっけ……など、秘書を務めるようになってからはどこへ行くのもいっしょでしたから、京都には先生との思い出の場所がありすぎて切ないのです。これまでは『また』があったのに、もう二度とないのですから。いまでもどこかでちょっとおいしいものを見つけると、『あ、先生に買って帰ろう』と思ってしまう。でも『おいしそう!』と子供のように喜んでくださった先生はもう寂庵にはいません。
先生と出会い、間近で暮らしているあいだに、自分の才能を先生にたくさん見つけていただき、私の人生には思いもしなかったことが次々に起こりました。