2022年1月17日 06:00
瀬戸内寂聴さん 歌手に秘書、知人らが明かす「私の人生を変えた言葉」
それに先生は『秘書として私の後ろに控えていなさい』ではなく、『私の前に行け』と、自信のない私の背を押し続けてくれる人でした。なかでも私が『おちゃめに100歳!寂聴さん』(光文社)を出版した後、いっしょに記者会見したときの言葉は忘れられません。
『私の人生も残りが少なくなっています。どうか私が死んだ後も、このまなほをよろしくお願いいたします』、そう言って、記者の皆さんに深々と頭を下げてくださったのです。そのときのことをいま思い返すと、すごいことだったな、と。先生が私のために頭を下げてくださっただなんて。
先生の天台寺での法話や講演旅行には必ず同行してお話を聴いていましたから、たくさんの先生の言葉が耳に残っています。たとえば、人も動植物も万物は次々に生まれては、止まることなく変化していくという『生生流転』。
自分の利益を脇に置いて人の利益や幸せのために尽くしなさいという『忘己利他』などは、抵抗なく私の皮膚の内側に張りついているようです。
でも実はいちばん印象深く耳に残っている言葉は……、晩年が近づいてから先生がよくおっしゃっていた『愛することは、許すこと。それが究極の愛です』という言葉なのです。