ポニーテールと寿司ネイル 【彼氏の顔が覚えられません 第1話】
「竹野内豊と金城武が区別できなきゃ、恋愛できないでしょ」
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ユイに言われた言葉、すっごい覚えてる。そのときのユイの様子も。なんか、変なネイル付けてた……ウニやらイクラやら、お寿司のネタを10本の指に乗せてた。芸術的だけど、重そう。そんな指で、キャラメルマキアートのストローをつまみ、クルクル回してた。
髪は、ポニーテール。結んだ先が本物のウマみたいにふさふさしてた。染めてはいないらしいけど、窓から注ぐ日の光に当たって、茶色に見えた。
服は、紫色のニット。体にぴったりして、巨乳が強調されてた。二の腕とかも。さわったら、ぷに、ってしそう。やばい、超さわりたい、とか思った。
なんの話だっけ。そう、竹野内豊と金城武。ユイが、邦画の『冷静と情熱のあいだ』って恋愛モノと、『リターナー』っていうSFモノのDVD貸してくれるって言って、私、聞いたんだ。
「同じ俳優さん?」って。
だってユイ、いきなり「超おもしろいから、見て」って押しつけてきて。似たようなパッケージで、同じような顔が写ってたら、そうなるじゃん。10年以上前の映画になんて、興味ないし。
「べつに俳優とか見分けられなくても、恋愛できるよ」
で、ちょっとだけ怒った感じでそう返すと、ユイは「ほんとに~?」って、挑発的に言う。私はミルクも砂糖も入れてない、あっついコーヒーを飲む。ずずっ、あちっ。ちょっと舌先ヤケド。
「じゃあ、あんた、彼氏のどこが好きなの? やっぱ、顔なんでしょ?」
ユイは尋ねた。顔。カズヤの顔を思い浮かべながら、「うーん」と、うなる。顔か。
「顔、わからない」