ここ数年、睡眠に着目したアイテムが定期的に話題になっていますよね。睡眠の質を向上させる乳酸菌飲料や寝落ちできるアロマスプレーなどのバズり製品は、在庫切れが長く続くものも珍しくなく、それほど多くの人が睡眠に関して悩みを抱えているのでしょう。小林製薬から2021年秋に発売された「ナイトミン 耳ほぐタイム」もそんな「睡眠バズり商品」のひとつ。度々SNSで話題を呼んでいるこちらの商品、使ったことがある読者も多いのでは?オンライン事前販売時からSNSなどで話題になり、店頭発売開始はすぐにヒットしたという「ナイトミン 耳ほぐタイム」の“バズりの裏側”について、日用品事業部 製品開発担当の松村美香さんに伺いました。■「赤ちゃんの耳って寝る時はあったかいよね」チームの会話から企画がスタート快適な睡眠をサポートする製品を展開するブランド「ナイトミン」は、2017年に第一弾製品「鼻呼吸テープ」が発売され、「耳ほぐタイム」はそれに続く製品として開発されました。耳を温めて眠りをサポートするという新発想の「ナイトミン 耳ほぐタイム」は小林製薬らしい製品といえますが、どのように生まれたのでしょうか。松村さんに聞いてみると、きっかけはチーム内の会話からだったそうです。「睡眠に悩んでいる人が多いという調査結果から、睡眠関連の製品をつくろう!という社内の動きがあり、『ナイトミン』シリーズがスタートしました。小林製薬では消費者の生活実態から企画をすることが多いのですが、『耳ほぐタイム』もまさにそんな商品。企画チームで話しているとき、“赤ちゃんの耳って寝る時にあったかいよね”という話題になったんです。耳を温めたら気持ち良さそうということに加え、耳は副交感神経が集まっている場所……そんな会話から開発が始まりました」働く時間が増えるにつれて、睡眠に悩みを持つ人も増え続けている実態がある中、ストレス対策として自律神経に関する情報、製品に消費者の関心が高まっています。「ナイトミン 耳ほぐタイム」の発売はちょうどコロナ禍。テレワークなどでオン・オフの切り替えが難しいことに悩む人が増えていた時期でもありました。企画当初は20代~40代の女性に加えて、仕事でストレスを抱えやすい管理職の男性もペルソナとして想定していたそうですが、蓋を開けてみたら女性の購入層が多かったんだとか。たしかに、SNSでバズった投稿を見ると投稿者は大人の女性が多いようです。これについて松村さんに聞いてみると、「20代~40代の女性は仕事も子育ても忙しく、ストレスを抱えやすい世代です。また、リラックスアイテムを使用するのは女性の方が多い傾向があり、手軽に使える『耳ほぐタイム』がまさにその層に受け入れていただいたのだと思います」と回答。眠るときに耳につけるだけという手軽さもポイントなのかもしれません。■開発に4年。耳の形状に関するデータを一から集めた独自の発想から生まれたユニークな製品であるがゆえに、「ナイトミン 耳ほぐタイム」発売までには4年の開発期間があったと松村さんは語ります。まず、苦労したのはイヤーピースの形状。耳の形に関するデータは社内に無く、一から地道にデータを集めていったそう。耳の形は人によって異なるため、男女さまざまな世代で100名以上の社員に試作品をはめてもらい、調整したのだとか。「ナイトミン 耳ほぐタイム」はイヤホンのようにフィットする、痛くないだけではなく、熱がちゃんと伝わらなければいけません。耳をメジャーで測らせてもらうなど、体力勝負な場面もあったそうです。そして、「ナイトミン 耳ほぐタイム」の心地良さの決め手となる発熱体も何度も試作を重ねてできたものだそう。「発熱体自体は既存製品の『桐灰カイロ』から発熱技術を転用できたのですが、耳にいれるとなると違う工夫が必要でした。『耳ほぐタイム』の発熱体はカイロよりも小さいため、最初は持続時間が10分ぐらいしか持たないのでは……という仕上がりで。でも、お客様のデータから寝つくまでに20分くらい必要そうということが分かっており、寝つきの悪い人に使ってほしい商品なので、やっぱりもう少し伸ばしたいところ。ということで、一年で50回ほど試作を繰り返しました」発熱の時間と温度の安定性を調整し、なんとか20分まで発熱時間を延ばすことができたそう。ぬるすぎると心地良い温かさを感じられず、熱すぎると危ない……耳に入れるという製品特性から、温度調整も難しかったようです。耳を温めるとなると、現在のイヤホン型ではなく、耳当てのように耳全体を覆う形状は考えなかったのかと聞いてみると、最初に検討したこともあったそう。しかし、「全体を覆うと温かくなりすぎてしまうので、現在の形になりました。耳に入れる形にすることで耳の中心をピンポイントで温めることができますし、耳栓として防音効果も出ます。当時の開発メンバーで寝る時に音が気になる人や、実際に耳栓を使っている人がいたのも参考になりました」と松村さんは回答。最近、住居の騒音トラブルも話題になることが増えていますが、そんな中での悩みが製品開発に取り入れられているようです。■企画チームも想定外の「バズ」。意外な使い方も話題に発売時どころか、ECサイトでの先行発売時からSNSを中心にバズが起こっていた「ナイトミン 耳ほぐタイム」。こんなにも話題になるとは企画チームとしても想定外だったそうです。「店頭で売っているのを見て試してくださる方が増えるケースは多いのですが、店頭で売る前から話題にしていただけたのは予想外でびっくりしました(笑)。SNSから話題になる製品は社内でも少なく、耳ほぐタイムが成功事例の第一歩になったと思います」話題になったポイントを聞いてみると、「まず、耳を温める初めての体験が挙げられると思います。耳を温めることに特化した製品ってなかなかありませんが、でも『なんか気持ち良さそう』とイメージが湧きますよね。また、新しいものを試してみたい、そして小林製薬っぽくて面白いという点も合わさって、このように話題にしていただけたのではないでしょうか」との答えが返ってきました。発売前から発売直後にSNSを中心に話題になっていただけではなく、発売から時間が経ってからも定期的にバズが巻き起こるのが「ナイトミン 耳ほぐタイム」。眠りをサポートするだけではなく、低気圧で不快(雨音がうるさい等)に感じる時に愛用しているユーザーもいるんだとか。「お客様からは『リラックスできた』『気持ち良かった』『いつもはなかなか寝つけなくて困っていたが、こてんと寝ることができた』などうれしいお声をいただいています。毎日使っている方もいれば、週末のご褒美として使っていただいているという声も。ストレスを抱えて眠りに悩みを抱えている方にリラックスしてもらえたらうれしいです」耳の形は人それぞれということで、ユーザーの声を元に今後の展開を検討しているそう。「不眠に悩む方々のさまざまなお声を聞きながらアプローチを考えているのでお楽しみに!」と笑顔で語ってくれた松村さん。今後はどんな製品が出てくるのでしょうか。いつも消費者があっと驚くような新感覚のアイテムを展開している小林製薬。今後も目が離せません。(撮影:田中大介、取材・文:錦織絵梨奈/マイナビウーマン編集部)back numberロボット掃除機「ルンバ」が日本でバズった意外な背景連載一覧はこちらから
2023年06月17日仕事終わりやおいしい料理のおともに、友人たちとのひと時に、お酒を飲みたくなる人も多いのではないでしょうか。ライフスタイルの変化から、健康面を気にかける人が増え、お酒を飲むタイミングや頻度はもちろん、ノンアルコール飲料(以下、ノンアル)を好んで選ぶ人も増えてきているのだとか。日本コカ・コーラ株式会社(以下、コカ・コーラ社)は、2018年に『檸檬堂』でアルコール飲料に参入。2022年には、レモンサワーテイストのノンアルコールブランドとして、『よわない檸檬堂』を発売しました。『よわない檸檬堂』は、どのようにして誕生したのでしょうか。ブランドマネージャーの岸田卓真さんに、ノンアル商品の開発についてお話をうかがいました。日本コカ・コーラ株式会社マーケティング本部岸田卓真さんお酒が好きな岸田さんも、リモートワークになった時に、ノンアルを日常的に飲むようになった一人。「『檸檬堂』で培ったおいしさというものを、ノンアルコールで酔うことなく提供できるのではないか。飲まなくても楽しみたい、楽しめているという人たちに喜んでもらえるものをノンアルコールで届けていく」という想いから、『よわない檸檬堂』を開発したのだそうです。左から『よわない檸檬堂』、『よわない檸檬堂すっきりレモン』ノンアルコールとは思えない、お酒らしい余韻SNS上では、お酒が好きな人や飲めない人、飲みたいけど飲めない人から「うまい」「箱買いしたい」「ロング缶も発売してほしい」という声もあるほど人気な『よわない檸檬堂』ブランド。より多くの人がノンアルを楽しむ味にするには、一筋縄ではいかなかったそうです。岸田さんに、味開発の担当者とともにこだわった点をうかがうと…。当たり前のことですが、味づくりで一番気にかけたのは、おいしさです。『よわない檸檬堂』をお酒くさくすることはできるんですけど、やっぱりおいしいものを楽しんでいただきたい気持ちがありました。『檸檬堂』の時は果汁感など、レモンサワーとしておいしいとはなんだろう、と…。『檸檬堂』と『よわない檸檬堂』は別ブランドですが、その時に培った、おいしいレモンサワーを作った経験から、おいしいノンアルのレモンサワーを追求するとどうなるのかと、追求しましたね。おいしさとお酒らしさの両立が一番苦労しました。ノンアルのレモン味の炭酸飲料といえば、レモンスカッシュを思い浮かべる人もいるのではないでしょうか。レモンサワーとレモンスカッシュの違いが気になった筆者。岸田さんに尋ねると…。この議論はよくありますよね!レモンスカッシュはリフレッシュ、スッキリという感じが強いと思います。一方で、ノンアルコールのレモンサワーテイストでは、お酒を飲んだような余韻や、お酒を飲んだような気持ちになれるリラックス感を、味や香りで楽しんでもらえるというのが、すごく大事だと思っています。すっきり感だけではなく、お酒感を味わいたいときにノンアルのレモンサワーを手にする人にとって、納得の答えではないでしょうか。開発に関わった担当者たちが、お酒らしさにこだわったからこそ、お客さんの期待を超える『よわない檸檬堂』が誕生したのですね。『よわない檸檬堂』が醸し出す居心地のいい雰囲気さまざまな食材と食べ合わせがいい『よわない檸檬堂』。その中でも、特に合うおすすめのおつまみを、岸田さんが用意してくれました。2022年2月に発売したオリジナルの『よわない檸檬堂』には、カットフルーツをチョイス。『よわない檸檬堂』はジューシーなレモン感と甘さ、そしてお酒の余韻を感じるほどよい苦みがあり、ひと口ひと口をじっくりと楽しむことができます。レモン味の飲み物に、フルーツとは一見不思議な組み合わせですが、フルーツの甘さとレモンサワーの甘さや苦みが合わさって、満足感が味わえます。カットフルーツのほかにも、ヤンニョムチキンなど、ガツンと濃いめなおつまみにも、マッチしそうです!早速、2本目を空けようとする岸田さん2023年4月に発売した『よわない檸檬堂』ブランドの新フレーバー『よわない檸檬堂すっきりレモン』には、特にお漬物がピッタリとのこと。お漬物の甘さと塩味に、合わないはずがないレモンのすっきり感と、味をキュッと引き締める苦み。パクパクとお箸を進めながら、缶を持っているほうの手がとまりません!『よわない檸檬堂すっきりレモン』は、オリジナルよりも甘さが控えめで、苦みが引き立ち、すっきりとした味わいなので、暑くなるこれからの季節には、より一層飲みたくなりそうです。食事と合う『よわない檸檬堂』ブランド。味だけではなく、食卓に並べたときのビジュアルも楽しんでもらおうと、パッケージにもこだわりがあるのだそう。このパッケージは、食卓に置いてもさまになるようにしているのですが、身近に感じてもらうようにも工夫していて、さまになるけど親しみやすいんですよ。お客さんからも評判がよくて、SNSでも缶と食事を一緒に載せてくれる人を見かけると、担当としてはすごく嬉しいですね!いい晩酌、いい食事、休みの日の旅行先とかでも。例えばハンドルキーパーの人は飲めないけど、楽しみたいじゃないですか。そんな時にも、ノンアルコールだけど飲めるという瞬間を演出できると思っているので、みなさんの飲む瞬間を写真に撮っていただけると嬉しいです。『よわない』と平仮名表記にしているのも、肩ひじ張らずにカジュアルに楽しんでもらいたいというちょっとしたこだわりが込められています。愛おしそうに『よわない檸檬堂すっきりレモン』を眺める岸田さんコカ・コーラ社だからこそできた『よわない檸檬堂』カシュッと缶を開けて、口元に缶を運んだ時に新鮮なレモンの香りと、さわやかな炭酸がふわっと香ってきたのも印象的だった同商品。 缶を開けたところから、コカ・コーラ社がつくったものだと分かります。果汁飲料をずっとつくってきている会社なので、果汁と炭酸を組み合わせるのは強いと思うんですよ。そこにさらに『檸檬堂』の経験があって、「お酒らしいおいしさってこうだよね」というのがある。だから、ノンアルコールができたと思うんですよね。一足飛びに、『よわない檸檬堂』には行きつけなかったと思います。アルコールブランドの『檸檬堂』をやったからこそ、「我々のノンアルコールってこうだよね」というところに行きつけたのかな。それでも、さらなる探求は続けていきたいですね。「ノンアルコール業界が面白くなってきている」と、感じている岸田さん。「『よわない檸檬堂』もより面白くなれるよう、ノンアルコール業界のみなさんと一緒に楽しんでいきたい」と語ります。にこやかに話す岸田さんからは、ノンアルコール業界の躍進に燃える熱い気持ちと、『よわない檸檬堂』を愛する気持ちがあふれていました。これからも『よわない檸檬堂』の動向に注目です!『よわない檸檬堂』が緊張感をほぐす[文・構成/grape編集部]
2023年06月12日初めて“岸辺露伴”に触れた者は、その奇妙さと比類ない面白さの融合にいささか戸惑うことだろう。高橋一生が主演を務め、飯豊まりえが共演する「岸辺露伴は動かない」が最初に放映されたのは、2020年のことだった。「ヘブンズ・ドアー」の言葉で人の顔が本になり、その人物の経歴や考えが読める特殊能力を持つ、人気漫画家の岸辺露伴。実写映像にするには、あまりにもトリッキーな露伴先生を、飄々とやってのけたように見える高橋さんの稀有な存在、そしてそんな露伴を「先生~!」と明るくタックルする担当編集・泉くんを演じた飯豊さんの潔さ。「一体これは何を見ているのだ…」という不思議な気持ちが、容赦ない面白さとディテールまで完璧な演出と美術にいつしか夢中になり、「もっと見たい」の興奮へと相成る。中毒になる独特の世界観は、荒木飛呂彦の原作の映像化の最高峰と言っていいだろう。映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』は、高橋さん、飯豊さんというキャストのほか、渡辺一貴監督、脚本を担当した小林靖子らドラマの製作陣が再集結。ルーヴル美術館でこの世で「最も黒い絵」を見るべくパリに向かう露伴と泉が描かれるかたわら、その絵にまつわる露伴の青年期パートも展開され、新たなストーリーで魅了する。露伴と泉という稀代のバディを演じた高橋さん、飯豊さんのふたりに、撮影にまつわるエピソードなどをインタビューした。チームでの撮影は「幸福な現場」――1~3期までのドラマを作り上げたメンバーで『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』の製作となりました。このチームワークでの撮影は、いかがでしたか?高橋:実は、1期のときからあくまで夢の話として映画の話をしていたんです。(渡辺)一貴さんから「一生さん、その動きは『ルーヴル』のときに残しておいてもらえませんか?」などと言われたり。だからか、『ルーヴル』のお話をいただいたときは、とても自然に受け入れることができました。実際、現場でフランスのスタッフの方々を見ていても、特段、日本のスタッフと変わりないんです。「全世界共通なんだな」とわかって面白かったです。ですから、映画を撮るんだ!という気負いのようなものは、ほとんどなかったかもしれません。――フランスで撮ったから特別どうこうではなく、これまでやってきたことを地続きでできたということですね。何とも『岸辺露伴』らしいお話です。高橋:『岸辺露伴』のチームは、海外に来たからといって何かが変わることなく、いつも通りの感覚で撮影をしてくださいました。シーンの頭から最後まで一連で通して撮り、余韻を残しながら撮影が進んでいく。その流れは非常に一貴さんらしい、まったく地崩れしていない作品への思いのようなものをスタッフワークとともに感じました。とても楽しい、幸福な現場だったと思っています。――飯豊さんはこれまでも『岸辺露伴』の現場は最高だとおっしゃっていたそうですが、本作の撮影も同じでしたか?新たな感慨も生まれたんでしょうか?飯豊:今、一生さんがおっしゃられていたみたいに、一貴さんは一連で撮ってくださるので、これまでと変わらずいい緊張感の中、泉くんを演じさせていただくことができました。それに加えて、初号を観させていただいた時に、人のいないルーヴル美術館の静けさを、そのまま体感できるような、堪能できる感覚がありました。すごく見どころだと思いますし、余白が楽しめる作品になっていて、改めて今作に参加させていただけた喜びをかみしめています。菊地(成孔)さんの音楽も本当に素晴らしくて。いろいろな楽器で演奏されているのですが、クラシックや日本的な音楽、様々なものが織り交ぜられているところや映像美と音楽の融合が本当に格好よかったです。本当に早く皆さんに観ていただきたいです。『ルーヴルへ行く』は露伴が能動的に動いていく――飯豊さん演じる泉くんは、1期からずっと露伴先生を傍で見てきています。『ルーヴルへ行く』の撮影で、改めて発見した露伴先生のすごさ、演じた高橋さんのすごさなど、どう感じていますか?飯豊:映画を観ていただけたら露伴先生の魅力は存分に感じていただけると思います!今回で言いますと、冒頭、骨董品屋さんで露伴先生が取材しているシーンがあるのですが、そこの店主たちが「ヘブンズ・ドアー」をされるところから、圧倒的でした。――反対に高橋さんからご覧になって、露伴先生を通しての泉くんの魅力はどう感じますか?高橋:1~3期を通して、泉編集が一番の強敵だということを(露伴は)だいぶ理解してきたのではないでしょうか。なぜならば、泉編集が何か問題を持ってこなければ、露伴も怪異に対峙することはありませんから。また面白いのが、彼女自身には悪意がまったくないということ。それが大体わかってきて、ある意味感心する、という感覚になっているんじゃないかと思います。泉編集は露伴の能力を一度たりとも見ていなくて、それが3年続いていますから、その時点でかなり不思議なバディだと思います。露伴のことをすごい漫画家ではあるとは思っているけれど、その漫画をちゃんと評価できているかどうかは…(笑)。飯豊:「偏屈だなぁ、一筋縄ではいかないなぁ~」みたいに思っているかもしれませんよね(笑)。高橋:その不思議なバディ感が熟成されてきていて、露伴自身も「次は何を持ってくるんだろう」という気持ちを抱いているんだとは思うんです。――露伴先生的にも楽しんでいらっしゃるといいますか。高橋:ただ、好奇心で顔をつっこむと痛い目に遭うということはわかっているので、その覚悟のようなものは持っていると思います。もともと「岸辺露伴は動かない」は、露伴が能動的に動いていくことはなく、受動的に事件が舞い込んでくるんです。けれど、今回は『ルーヴルへ行く』と能動的になっている。自分が何かを感じて初めて能動的に動くので、そこで泉編集がどういう風に立ち回っていくか、そのあたりも注目してもらえるといいのかなと思います。泉編集と岸辺露伴、それぞれの過去の話が出てくるので、人間的な奥行きは、より深まるんじゃないかなと思います。露伴の声は「17歳ぐらいのときから、ずっと脳内でイメージしていた声」――そもそもの話になってしまいますが、高橋さん演じる露伴先生の声は非常に独特でぴったりですよね。どのようにあの声を生み出していったのか、製作秘話を伺いたいです。高橋:1期の初日のファーストシーンは2話の「くしゃがら」で(森山)未來と共演するシーンだったのですが、そのときにはもうできあがっていました。ですから…1話の冒頭、(中村)まことさんと増田(朋弥)さんと一緒のシーンのリハーサルのときだったのかもしれません。――露伴の家に強盗が入ってくるところでしょうか。高橋:そうです。撮影に入る前にリハーサルをさせていただいて、そのときに一貴さんが「すごくいい」と言ってくださって。僕が17歳ぐらいのときにはじめて露伴と出会ってから、ずっと脳内でイメージしていた声を出しました。――その声で原作を読まれていたということですよね。高橋:はい、そうです。第一声から“その声”が出たのは、自然だったかもしれません。――最後に、おふたりがお気に入り&お勧めの映像作品を、何か1本ご紹介いただけますか?飯豊:すごく迷います。何回も観ているものなど…何にしましょう!高橋:なかなか思いつかないですね、こういうときは。飯豊:今パッと出てきたのは、ディズニーの『ソウルフル・ワールド』という作品です。「人生のきらめきとは何か」が描かれていて、何回も観ているくらいすごく好きです。お勧めなので、観られたことのない方はぜひ観ていただきたいです。高橋:僕は『ライムライト』です。最近ブルーレイも買い直しました。ちゃんと残しておきたいものは、何とかして所持したい欲求にかられてしまうんです。『ライムライト』はたまに「ああ、そういえばあれを観なきゃいけないな」という気になるんです。バスター・キートンの作品もそうなんですけれど、最近それらの映画を深夜に観ることが多いです。飯豊:そうなのですね。魅力は何ですか?高橋:『ライムライト』は(チャールズ・)チャップリンの人生そのものが集約されていて、喜劇役者としてのあり方が、どこか自分に重なってしまうと感じるときがあるんです。俳優の悲哀というか、道化として生きていくことの悲哀のようなものを。これだけ有名なチャップリンでさえ、今、知っている人は少なくなっているかもしれません。そう思うと、何ともいえない感覚になってしまうんです。「忘れちゃダメだな」という作品は、ちゃんと観ておこうと思います。【高橋一生】ヘアメイク:田中真維(MARVEE)/スタイリスト:秋山貴紀[A Inc.]【飯豊まりえ】ヘアメイク:笹本恭平/スタイリスト:高木千智(text:赤山恭子/photo:You Ishii)■関連作品:岸辺露伴 ルーヴルへ行く 2023年5月26日より公開© 2023「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」製作委員会 © LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社
2023年05月26日【音楽通信】第139回目に登場するのは、音楽を始めて1年でデビューし、飛ぶ鳥を落とす勢いでいまや国内外でティーンを中心に大人気の新世代アーティスト、imase(イマセ)さん!趣味で始めた音楽がいまや韓国でも大人気に【音楽通信】vol.1392020年11月、20歳のときから音楽活動をスタートした、新世代アーティストのimaseさん。2021年5月にはTikTokに初めてオリジナル曲を投稿してバイラルヒットし、約半年後の12月にはデジタルシングル「Have a nice day」でメジャーデビューを果たしました。2022年には「ポカリスエット」や「JT」などのCM曲やドラマタイアップにも抜擢され、現在、TikTokでの総再生回数は20億回超えに。さらに、2022年8月に配信リリースした「NIGHT DANCER」は韓国のボーイズグループ「Stray Kids」などのアーティストがダンスチャレンジしたことからより浸透。最近ではBTSのジョングクさんも、公式ファンコミュニティサービスで歌を披露するなど、韓国をはじめとした世界各国へとバイラル中です。そんなimaseさんが、2023年5月26日に、ニューシングル「Nagisa」を配信リリースされるということで、お話をうかがいました。――20歳から音楽を始めたimaseさんですが、そもそもどのような音楽環境に育ったのでしょうか。小さい頃は、歌うことが好きな子どもでしたね。とくに音楽に興味を持ったり、楽器をやったりしたこともなかったです。聴いていた音楽も、そのときに流行っているJ-POPだったと思いますね。岐阜県の田舎に住んでいたので、近くにカラオケ店もなかったですし、音楽に触れるといえば親が運転する車の中で聴くことがあったぐらいでした。小学校、中学校、高校とずっとサッカーをやっていたので、スポーツ少年でしたね。――サッカーに打ち込まれてきて、その後、高校を卒業後は、一度就職されていたんですよね。音楽の道を志したのはいつぐらいだったんですか?趣味で音楽をやり始めたのが20歳のときです。友達がギターを購入しているのを見て、もともと歌うことは好きだったので、「僕も弾き語りしてみたいな」と思ってギターを買って。それからTikTokを観ていると、ショート尺で投稿されている方がたくさんいらっしゃって、ショート尺の楽曲を投稿し始めました。ーー友達の影響でギターを購入されて、弾き語りもお好きで、最初からオリジナル曲を投稿していたんですか。まだフル尺は難しいけどショート尺だったら「僕もオリジナル曲が作れるかな」と、曲を作って投稿するようになりましたね。最初は簡単なコードで弾ける楽曲をネットで探して、弾き語りカバーをしてみたり。そのうち、自分の声に合った曲でやってみたいと考えて、オリジナル曲を作り始めました。――それからデビューまであっという間の印象がありますが、レコード会社の方からお声がけがあったのはいつ頃だったのでしょうか。TikTokに2曲めの動画を投稿し始めたぐらいのときに、お話をいただきましたね。――2021年12月にはテレビ東京系オーディション番組『Dreamer Z』に参加されて話題となりました。テレビ出演は、さらにimaseさんの認知度を高める契機のひとつにもなりましたね。そうですね。いままでやったことがないことにチャレンジするきっかけにもなるかなと思って参加しました。でも、番組は、弾き語りのオーディション企画だったので、当初どう表現していいのか悩んで。僕はもともと楽器をやっていたわけではないですし、ギターも経験年数が浅くてまだ上手に弾けないので、そこでドラムパッドを使おうと。ドラムパッドは、ドラムを打ち込む機器ですが、好きな音をサンプリング(録音)して、パッドを叩くことでいろいろな音が出せるので、それで弾き語りをして歌って出演していました。――いまやTikTokの総再生回数が20億回数など、急速にブレイクしている実感はありますか?先月、上京してきたのですが、地元に戻ると友達から「imaseの曲をいろんなところで聴くよ」と言ってもらったり、最近は海外の方にも聴いていただけていたり。この間も韓国に行っていて、道を歩いていると「imaseさんですか?」と声をかけられて、本当に海外の方にも僕の音楽が届いてるんだな、ということを実感しました。――代表曲の「NIGHT DANCER」は、日本だけでなく韓国でも「Stray Kids」などのボーイズグループや、「Kep1er」らガールズグループなどの数々の人気アーティストが踊ってみた動画を投稿していますね。さらに韓国の配信サイト“Melon”で J-POP初のTOP100(最高位17位)入りをしていて、とくに韓国の盛り上がりを感じます。「NIGHT DANCER」は、勝負曲だと思って作った楽曲だったので、日本だけでなく韓国をはじめとした海外にも広がっていったのはうれしいですね。韓国のアーティストさんでは最初にStray Kidsさんが踊ってくださって、なかなか言語だけでは超えられない壁があっても、ダンスと音楽がSNSによって言語の壁を超えて楽曲が届くんだなと実感しましたし、日本語でも海外に挑戦できる可能性があるんだなと。――韓国のバラエティ番組や歌番組に出演されたYouTubeを拝見しました。一般の方もそうですが、韓国のメディアの取材もあるなど、注目されている現状を率直にどう感じますか。本当に言語の壁を越えて知っていただけたことは、率直にうれしいですし、僕自身も韓国のいろいろなアーティストの楽曲をよく聴くので、同じように僕の楽曲が韓国の方に受け入れていただけて、すごくうれしいです。――韓国で印象的だったことはありましたか。やっぱり、韓国で声をかけてもらったことが一番印象的ですね。曲を聴いていただけていることはチャートやSNSなどを見てもわかりますが、顔まで覚えていただけているんだな、とそのときに実感できて、うれしかったです。韓国では、ショーケースイベントも実施して。会場に集まってくださった韓国のみなさんが、日本語の楽曲なのに歌ってくださっていて、さらに、みなさんがすごく上手な発音で感動しました。――「NIGHT DANCER」は、3月にTeddyLoid Remixを配信され、5月15日には韓国のヒップホップアーティスト、BIG Naughtyさんとのコラボレーション作も配信されていますね。はい、曲への反響が大きくて、それぞれ新しい「NIGHT DANCER」が生まれてよかったです。BIG Naughtyさんとのコラボ作のほうには、「NIGHT DANCER」の“Korean Ver.”として、僕が韓国語で歌っている楽曲も入っています。ありがたいことにコメントでも、「歌ってくださってうれしいです」と韓国の方にも言っていただけて、やってよかったなと思いますね。80sのリバイバル的なものをテーマにした新曲――5月26日に爽やかなポップチューンのデジタルシングル「Nagisa」を配信リリースされます。作詞作曲はimaseさんが手掛けられていますが、どのようなことをテーマにして作ったのですか。この楽曲は80sのリバイバル的なものをテーマにして、作りました。タイトルの「Nagisa」という言葉も、この楽曲を作るうえで80sのシティポップの曲を聴きあさっていたときに、80年代の曲の歌詞によく出てくる単語だなと思って、歌詞にも入れてタイトルにもしていて。あと「Nagisa」とローマ字表記にしたのは、海外でも“渚”は“Nagisa”と言われているようで、海外の方にも「Nagisa」というフレーズを覚えていただきたいなという思いを込めています。――今回は80sを意識されたということですが、いつも曲作り自体はどのようにされているのですか。そのときどきに作りたい系統の楽曲をたくさん聴いて、テイストをインプットしてから作っています。もともとこの楽曲のメロディは昨年の10月ぐらいにはできていて。そのときはパッと思いついたメロディだったので、そこに80sっぽいトラックにメロディをつけて、楽曲を作っていって、あとはインスピレーションで仕上げていきました。――歌詞は女性目線のものになっていますね。女性アーティストが歌詞の一人称を「僕」にして歌う曲はありますが、男性アーティストが「私」として歌う曲はそれほど多くない印象です。「Nagisa」は、男女ふたりの物語で、強気な女性をイメージしていまして。ただ、最後のサビの部分では、少し弱さが見える面も描いています。歌詞の中では「ネオンをまとい」ですとか、僕が思う80年代と、当時の強い女性をイメージして作りました。――曲ごとにいろいろなチャレンジをされているんですね。自分のなかにある、いろいろなバリエーションを出したいと思っていますし、そのなかでも今回はいままでやっていなかった女性目線の歌詞というところが挑戦した部分です。サウンドでは、シンセブラスの音もあって、いなたい雰囲気も持っていて。80年代に曲を聴いていた世代の方には、この曲を聴くと懐かしい気持ちにもなってもらえると思いますし、逆に僕ら世代の10代や20代の方には、真新しく聴こえるんじゃないかなと思います。――タイトルからなのか、どこか夏をイメージさせるようなところもありますね。とくに夏を意識して作ったわけではないんですが、僕も夏を感じます(笑)。歌詞の最後に、「うつりぎな花の香り」と入れたんですが、それは紫陽花をイメージしていて。紫陽花って、土壌がアルカリ性か酸性かで色が変わる花なので、それを「生ぬるい肌も火照り 涼しげな青も赤に変わるの」という比喩にした歌詞にしたんです。――紫陽花というと、夏の季語ですね。そうですよね、夏の曲です(笑)。――では、歌唱されるときに意識されているポイントはありますか。この楽曲に限らず、リズムを立てるための歌い方を意識しています。あとは母音を柔らかく歌うことはすごく意識していますね。母音を柔らかくすることによって、個人的にはちょっと他言語に聴こえるのかなとすごく思っていて。歌っていて自分でそう気づいたり、日本のR&Bのアーティストの方の楽曲を聴いていても、けっこう母音が柔らかいイメージがあるんです。日本語で歌うときも、基本的に英語の曲でも韓国語でも、みなさん母音が柔らかい印象。なので、日本語で歌っている部分も、母音を柔らかくして歌ったほうが、海外の方も聴き馴染みがあるのかな、と思い意識しています。――驚くべきスピードで音楽の才能を開花していますが、ご自身ではどのように感じていますか。音楽をやり始めた頃は、実はこういった楽曲の聴き方や作り方を全然していませんでした。最初から自分のできることを探っていって、いまに行き着いているところがあります。もともとは自分の歌声が好きではなくて、SNSに投稿していた楽曲も、いまのように裏声1本で作らず、裏声と地声を混ぜて自分の声がわからないようにしたりして。テレビ番組のオーディション企画のときもそうなんですが、どうやったら聴いてもらえるか、聴き心地がよくなるのかをひたすら探って、できることを探していまに至ります。そういった意味では、けっこう絞り出してきました(笑)。――きっと音楽の探求の旅みたいなところもあるんですね。音楽をやり始めて2年半というところで、imaseさんが音楽で大事にしているところはどこでしょうか。どの楽曲も、メロディとキャッチーさをすごく大事にしています。自分でもそういうキャッチーな楽曲、耳に残るものが好きなんですよ。楽曲を作るときはキャッチーさを意識していますし、覚えやすいメロディで、クセなるリズム、口ずさんでしまうフレーズを念頭に置いて制作しています。――この間はワンマンライブがソールドアウトしましたね。ライブパフォーマンスにおいても、研究しているんでしょうか。どうしたら自分のパフォーマンスが映えるのかな、と探っています。パフォーマンスも、MCも、まだまだ拙いところがありますし、歌唱で見せるタイプのアーティストでもないなと思っていて。どういったパフォーマンスをするのが、自分のキャラクターにも合うのかな、ということはずっと探していますね。――実際に、ライブでお客さんを目の前にして、どう感じましたか?これまでSNS上でしか活動していなかったので、聴いてくださっている方と直接対面する機会がなくて、ライブで本当に直接会えて、まず率直にすごくうれしいなって。自分の楽曲を聴いてくださっている方が、さらにチケットまで購入してライブに来ていただけて、すごく幸せです。――10月からは、初のツアー『imase 1st Live Tour』で東名阪をまわりますが、どのようなステージになりそうでしょうか。いま考えている途中です。これまでのワンマンライブでは、そこでしかできない特別なことをしようと、これまでSNS上で発表したショート尺の楽曲をメドレーにして披露したり、弾き語りをやったり。今回のツアーでも、そういったライブならではの何かができたらなと思います。国内外問わずたくさんの方に楽曲を届けたい――お話は変わりますが、最近ハマっていることや趣味はありますか。コロナ禍も落ち着いてきて、外出できるようになってきたので、ご飯を食べに行ったり、遊びに行ったりすることがあります。あとは、フットサルをやっていますね。――好きなサッカーのチームはありますか?(イングランド・プレミアリーグの)ブライトンというチームが好きです。日本代表の三笘薫選手が所属されているチームです。全試合観ることができないときもあるので、時間がないときは、よくハイライトを観たりしていますね。――いろいろなお話をありがとうございました。では最後に、今後の抱負をお聞かせください。日本の方はもちろん、いま海外の方にも曲を聴いていただいているので、これからも言語の壁を越えて聴いていただける曲を作っていきたいです。国内外問わず、これからもたくさんの方に楽曲を届けていきたいですね。取材後記瞬く間にJ-POPシーンを揺るがすニューカマーとして注目を浴びている、imaseさん。華奢でしなやかなスタイルと、表情豊かなルックスで、その場を明るくさせる存在です。朝の取材だったこともあり、すぐに腹ペコになるようで、インタビューの合間もおやつを美味しそうに食べていた無邪気な姿が印象的でした。そんな急成長中のimaseさんのニューシングルをみなさんも、ぜひチェックしてみてくださいね。写真・園山友基取材、文・かわむらあみりimasePROFILE岐阜出身、22歳の新世代アーティスト。音楽活動を開始してわずか1年でTikTokで楽曲をバイラルさせ2021年12月にデジタルシングル「Have a nice day」でメジャーデビュー。2022年にはCM主題歌やドラマタイアップにも大抜擢されるなど、ティーンから圧倒的な人気を獲得。2022年8月に配信リリースした「NIGHT DANCER」は、韓国配信サイト“Melon”でJ-POP初のTOP100(最高位17位)入りを果たし、SpotiifyバイラルチャートTOP50に31カ国ランクインするなど、世界各国でもバイラル中。2023年3月、初の有観客ライブを行い、追加公演もすべてチケットが即完売した。5月26日、デジタルシングル「Nagisa」をリリース。10月、自身初の東名阪ツアー「imase 1st Live Tour」を開催予定。InformationNew Release「Nagisa」2023年5月26日 配信リリース写真・園山友基 取材、文・かわむらあみり
2023年05月25日映画業界で働く人たちに仕事の裏側やその魅力についてじっくりと話を伺う【映画お仕事図鑑】。今回、ご登場いただくのは、日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞した『新聞記者』、興行収入30億円の大ヒットを記録した『余命10年』など近年、次々と話題作を世に送り出している藤井道人監督。最新作『最後まで行く』(5月19日公開)では、岡田准一と綾野剛をメインキャストに迎え、同名の韓国映画のリメイクに挑戦している。スマートフォンひとつで「映画を撮る」こと自体、誰にでも可能になったいま、藤井監督が考える“プロ”の映画監督の仕事、映画づくりの醍醐味とは――?映画監督への道のりは「消去法で選んだ進路」から――子どもの頃、どんなふうに映画と関わり、どういった経緯で映画監督を志したんでしょうか?地元の映画館は近くにあったんですけど、そんなに足しげく映画館に通ったという感じでもなく、映画を教えてくれたのはTSUTAYAでしたね。ビデオやDVDをレンタルして観るのが僕にとっての映画体験で、お金もそんなになかったので、映画館に行くのは特別な時だけでした。学生時代はずっと剣道しかやってこなかったので、高校3年生の進路選択の時、紆余曲折あって、英語と国語だけで受験できる「映画学科」というのがあるらしいと聞いて、日本大学芸術学部の映画学科の脚本コースを受けました。脚本家を目指す脚本コースに在籍はしていたんですけど、大学でみんなで自主映画をつくる中で、自分が監督をするターンが回ってきて、実際に監督をやってみるといろんなことが見えて楽しくなって、20歳の頃には監督に魅力を感じていましたね。――高校の進路選択の時点で「将来は映画に関わる仕事がしたい」という思いはあったんですか?当時、マイケル・ムーアの映画(『ボーリング・フォー・コロンバイン』、『華氏911』など)が流行っていたこともあって、どちらかというとドキュメンタリーが好きでした。もともと、推薦で受けた大学もメディア系の学科だったし、そこまで「映画」とか「監督」というものを意識していたわけでもなかったですね。大学に行ったらまた剣道をやって、普通に就職するのかな…くらいの感じのことしか考えてなくて、自分の将来について楽観的でしたね。ところが推薦に落ちちゃって「ヤバい! どうしよう?」となって(苦笑)、それまで英語と国語しか勉強してなかったので、それで入れる大学という、消去法で選んだ進路でした。――大学の脚本コースの講義というのはいかがでしたか? 実際の“映画のつくり方”や“脚本の書き方”といった実務的なことを学ばれたのでしょうか?どちらかというと理論的なことの方が多かったです。モノクロ時代からどんな変遷を経て、いまの映画技術が生まれたのか? みたいなことだったり、昔の名画を観たり、ギリシャ悲劇から脚本について学んだり。脚本コースに関しては、あまり実践的なことは教わらなかったですね。自主制作映画で実際の映画のつくり方を学んでいったという部分が大きかったです。――仕事として“映画監督”というのを意識されたのは?当然ですが、大学の先輩で映像系の仕事に就いている方も多いので、あちこちの現場にお手伝いに行ったり、その先輩のツテでお仕事をいただいたりという感じで、大学2年生くらいから、学校に通うよりも、現場で仕事する比率のほうが多かったんですね。大学卒業を迎えて、みんなそのままフリーターをしながら映像の仕事をするのかな? と思っていたら、みんな普通に就職していて、フリーターになったのは僕だけで…、「え? みんな就活してたんだ!?」という感じでした(苦笑)。――そこで「この世界で生きていこう」と?その頃は「俺、いけるな」と勘違いしてた時期だったんですね(苦笑)。「俺はこの仕事で飯が食っていける」と。全然、そんなことなくて、社会人1年目は全く仕事がなかったです。それまでは学生という立場だからこそ、いただけていた仕事があったけど、学生ではなく“プロ”となると、同じ土俵にもっとすごい人たちがたくさんいるんですね。そうなると、自分のところに来る仕事の依頼というのがなかなかなくて…。そこからは営業の日々でした。「BABEL LABEL」という屋号を名乗って、あたかも映像集団に所属しているように見せつつ(笑)、あちこちに営業して仕事をいただいていました。――現在も所属されている映像制作会社「BABEL LABEL」の設立にはそんな経緯があったんですね。もともとは“フリーター”と名乗るのがイヤで、勝手に屋号をつけたんです(笑)。そこで細々と自主映画などをつくったりもしてたんですが、社会人になって3年くらい経つと、普通に働いていた同級生たちが次々と会社を辞めて、「BABEL LABEL」に集まるようになったんです。そこで「俺たちで面白いことをしようぜ!」という感じになりまして。最初は会社組織ではなかったんですが、数が増えていくにつれて「会社にしてもらわないと制作費の振り込みができません」といったこともありまして。「1円で会社が作れる」という情報を耳にして「じゃあ会社にしよう」と。実際には35万円くらいかかって、当時は36万円しかなかったんですけど(苦笑)、なけなしの貯金をはたいて作ったのがいまの会社です。――ご自身の中で、職業として「映画監督になれた」と思えた瞬間は?形式上のことで言えば、(商業映画デビューの)『オー!ファーザー』(2014年公開)になるんでしょうけど、映画だけでご飯が食べて行けるようになったのは『新聞記者』(2019年公開)以降ですね。以前は自分のことを“映像作家”と名乗っていたんですけど、最近はMVやCMのディレクターをやることもほとんどなくなりましたし、自分で“映画監督”と言うようになったのは三十を越えてからですね。――お話に出た『オー!ファーザー』で初めて商業映画の監督を務めたのは、監督にとってどういった経験でしたか?自分の実力のなさを実感したというのがすごく大きかったですね。それまでは同世代の仲間たちと自主映画を作っていただけでしたが、『オー!ファーザー』の現場では僕は年齢的に下から3番目くらいでした。40代や50代のベテランのスタッフさんと一緒に映画をつくる中で、彼らを導く“言語”を持っていないことを痛感しました。『オー!ファーザー』以降、僕は再び自主映画に戻るんですけど、あの人たちと渡り合って、一緒にお仕事ができるような実力をつけないと、この先、通用しない、職業としての映画監督にはなれないなと思いました。河村光庸プロデューサーとの出会い――その後、『青の帰り道』や山田孝之さんのプロデュースによる『デイアンドナイト』を監督され、2019年公開の『新聞記者』は日本アカデミー賞最優秀作品賞に輝きました。同作で製作・配給会社スターサンズの河村光庸プロデューサーと出会い、その後も河村プロデューサーと共に『ヤクザと家族 The Family』、『ヴィレッジ』などを作ってこられました。そもそも、どういった経緯で河村さんとお仕事をされることになったんでしょうか?いろんな理由が複合的に絡まっているんですが『新聞記者』という映画はもともと、僕が監督する予定ではなかったんですね。クランクインの直前に、監督をされるはずだった方が降板となってしまい、「どうする?」となって、河村さんは周りの人たちに「誰かいないか?」と声をかけていたんです。ちょうど僕は『デイアンドナイト』を撮った後で、そのラッシュを見た河村さんから突如、電話がかかってきまして「明日、会えませんか?」と言われて「会えます!」と。「スターサンズからのオファーだ!」と思って待ち合わせの宮益坂のパン屋に行ったら、なんかいかがわしい感じのおじいちゃんがいて(笑)、「おーっす! これ一緒にやろうよ」ってタイトル『新聞記者』と書いてある企画書を自信満々に見せられたんです。帰りにマネージャーさんに「ちょっとこれはやりたくないです」って言いました(笑)。そんな出会いです。――河村さんは2022年に亡くなられましたが、藤井監督にとって河村さんとの出会いはどういうもので、作品をご一緒されて、どんなことを教わりましたか?本当に僕の人生における、一番大きなターニングポイントだったと思います。人間、大人になると大人なりの“距離感”というものができるじゃないですか? 人のパーソナルスペースにまで踏み込んできて、映画を作ってくれる人なんて滅多にいないんですけど、河村さんは自分のパーソナルスペースを周りのみんなのパーソナルスペースだと思っているというか、良く言うとすごくフレンドリーな方なんですね。毎日電話がかかってきたし、毎日一緒に過ごしてました。親子ほど歳が離れているけど、この人は何かを俺に伝えようとしてくれている――70年もの人生で培ってきたものを自分に伝えようとしてくれているのをひしひしと感じました。その中で企画の作り方から宣伝の取り組み方まで、本当に全てを教わった気がします。映画監督としての作品選び、向き合い方――藤井監督の作品を語る上で、“ジャンルレス”という言い方をされることが多いかと思います。『青の帰り道』のような青春群像劇から『余命10年』のような恋愛映画、そして『新聞記者』のような社会派に『ヴィレッジ』のようなサスペンスまで、ジャンルを飛び越えて、様々な作品を監督されていますが、ご自身にとって“ジャンル”というのはどういうものですか?やっぱり、気にしないというか、ジャンルにとらわれずにいたいとは思っています。別格というか、神様みたいな存在ですけど、スピルバーグだってジャンルレスですよね。僕は、いちコックと言いますか、映画制作の中での技術者のひとりという側面で見た時、「人間を描く」ということさえ通底していれば、ジャンルというものは、まず誰よりも僕らが壊していかなくてはいけないと思っています。恋愛を描いても人間、人生を描くし、もし僕がホラーを撮るとしても、そこに登場する人たちがどういう時代にどんな思いで生きているのか? という部分をきちんと描くことができればと思っています。社会派ではなく、いつも 映画の中に社会が入っているだけです。もちろん、ひとつのものを人生をかけて磨き続ける人もいますし、ひとつのジャンルでつくり続ける方も素晴らしいと思いますが、自分はジャンルというものよりも、プロデューサーとのセッションを楽しんで、映画をつくるという側面を大事にしています。――藤井監督にとって、プロの「映画監督」というのはどういう仕事ですか?映画づくりにおける、いち部署ですね。決定権のあるいち部署だと思っています。責任という点で考えると、もちろん組織における重要なポジションであると思いますが、「監督だからえらい」とか、「監督の言うことは絶対である」といった思いで映画をつくったことはないですね。――ここ数年、次々と監督作品が公開されていますが、オファーが届いた際にその企画を「やりたい」と思う判断基準や企画選びで大切にしていることはありますか?どんな企画と出会うかは「運」と「縁」と「恩」の部分が大きいと思います。たとえば、今回の『最後まで行く』のリメイクも、10年前であれば僕には来なかったと思うし、10年後だったら僕はやってないかもしれない。『新聞記者』、『ヤクザと家族』、『余命10年』という作品をやった上で、自分が好きなアクション、そして喜劇に挑戦してみたいなと思っていた時期にこの企画をいただけたので、まさに縁ですね。「脚本は映画づくりの精密な設計図」――今回も含め、ご自身で脚本の執筆もされますが、脚本を書く上で大切にされていることはどんなことですか?(脚本は映画づくりの)精密な設計図であるべきということですね。小説ではないので、具体性を大事にして、読み物として全スタッフがその内容を認識し、この船がどこに向かうのかを明確に書いたコードであるべきだと思っています。――藤井監督は毎作品、必ず登場人物たちの経歴や嗜好、どんな人生を送ってきたかなどを記したキャラクターシートを作成されるそうですね? その意図やどのように活用されるのかを教えてください。さきほど脚本を「設計図」と言いましたが、作品という船のエンジンがあったとして、そのエンジンがどんな部品でつくられているのか? 知りたい人は知っておいた方が良いと思っています。キャラクターシートはまさにそのための存在で、細かく映画に登場する人物のことを理解し、描いていくために活用するものですね。どうしても、現場で撮影に費やせる時間は限られています。俳優さんたちに迷わずに「こういう思いでこのキャラクターは存在していて、それをあなたに委ねています」ということを伝えなくてはいけない。「はじめまして」とお会いして、現場で芝居をしてもらった時に、その芝居がこちらのイメージと「全然違う!」という状況になった時、キャラクターシートがあることによって、共通認識を持って「もっとこうしてみるのはどうですか?」「これは必要ないんじゃないですか?」と話すことができるのかなと思います。「絶対に読んでください」ということではなく、(より深くキャラクターについて)知りたい人は見てくださいという感じですね。――このキャラクターシートはどの段階で作成されるんですか?基本的には脚本を書き進めながらつくっていく感じですね。初稿を書き終えた段階でできていることもあるし、改稿を重ねて脚本が完成してつくる場合もあります。どういう家庭環境で育って、どんなスポーツをやってきたか? 家族構成、年収、好きな言葉など…今回、岡田准一さんが演じた工藤で言うと「なぜ彼は自堕落な生活を送るようになったのか?」といったことも書いてあります。パーソナルカラーや好きな音楽などもあるので、部屋の美術や衣装でも活用できます。韓国映画を新たにリメイク、日本版ならではの面白さとは?――ここから、映画『最後まで行く』の制作について、より掘り下げて話を伺ってまいります。大ヒットした韓国映画を新たにリメイクするという作業はいかがでしたか?今回の企画は、本当にプロデューサー陣に恵まれていたと思います。「リメイクだからといって、塗り絵をしてほしいわけではない」「日本映画として、藤井さんらしい『最後まで行く』にしましょう」と言ってくださったので、脚本を大胆に解釈し、アレンジを加えることができました。韓国版のオリジナルの美しいプロットラインがあったので、それをベースに自分たちで新しい映画に作り直すという思いで臨みました。なので、オリジナル版を何度も見直すといったこともなかったですね。――リメイクに際してルールや制約などはあったんでしょうか?特になかったです。韓国のオリジナル版の最大の魅力は、開始5分で物語に引き込まれるプロットラインの面白さだと思っていて、そこはしっかりと拝借しつつ、でも、その後の展開を全く同じにするのであれば、韓国版を観ればいい。そうじゃなく、自分たちなりの新しいストーリーとして、工藤と矢崎という2人の男がどこまで行くのか? というのを純粋に楽しみながら脚本づくりができたと思います。――誤って人をひき殺してしまった刑事・工藤がそれを隠蔽しようとするも、窮地に陥っていくさまを描く本作ですが、韓国版に比べて、綾野剛さんが演じる県警本部の監察官・矢崎の存在が、もうひとりの主人公とも言えるくらい、より深く描かれています。韓国版では(矢崎に当たる男の)バックボーンが描かれるのは1分くらいでしたよね。その割り切り方も面白いと思いますが、やはり自分が映画をつくるときは、何よりも「人間をちゃんと描きたい」という思いが強くあります。“A面とB面”といいますか、人間の愚かさみたいな部分を(表に見える部分との)対比で見せたいなと思いました。『最後まで行く』という物語が、主人公の工藤ひとりで最後まで行くのではなく、2人の運命が絡まり合いながら、最後まで行くという構成になったら面白いんじゃないかと。――今回、平田研也さんと共同で脚本を執筆されていますが、共同脚本ならではの魅力や面白さはどんなところにあると感じていますか?やはり複眼的な視点で構成していけるというのは共同脚本の面白さですよね。監督として「これをやりたい」ということは伝えますが、逆に脚本家の方からしか出てこない構成の妙みたいな部分は確実にあります。30年そこそこしか生きていない自分から出るアイディアだけでなく、平田さんのような円熟した脚本家さんのアイディアが加わることで、本に広がりが生まれるんですよね。僕はできることなら常に共同脚本という形で映画づくりを進めていきたいなと思っています。――改めて日本版『最後まで行く』ならではの魅力、面白さというのはどこにあると思いますか?そうですねぇ…、オリジナル版をリスペクトをしつつも、そこまで意識しなかったので、オリジナルとの“区別化”みたいなこともあまり考えてなかったんですよね。自分の中では、喜劇や転落劇というものが、いまの日本映画にはあまりないと感じていて、笑いながらハラハラして楽しめる映画に、いまの日本映画の現在地で、僕らがどれくらいトライできるか? という部分が挑戦だったので、そこに関しては満足のいく作品になったと思っています。――激しいアクションがあり、痛みを描きつつ、思わず笑ってしまうシーンがたくさんありました。岡田さんと綾野さんの2人が素晴らしかったというのが大前提にありますが、ベースにあるのが“愚かさ”なんですよね。2人とも愚かしい(笑)。でも、奇をてらったりはしてないし、「笑わせてやろう!」という意識もない。「あぁ、この人たちは、這いつくばってでも生きようとしてるんだな」というのが伝わってくるし、2人のお芝居によって脚本を大きく超えた物語になったなと思います。――ひき逃げの被害者・尾田(磯村勇斗)の携帯にかかってきた電話に工藤が出るシーンが面白かったです。韓国版でも同様のシーンがありましたが、緊迫したやりとりになっているのに対し、日本版のほうはちょっとしたやりとりでくすりと笑ってしまうシーンになっていました。コミカルなシーンの演出で大切にされたのはどんなことですか?もともと、コメディは大好きなんですけど、自分が映画をつくる上では、一発ギャグではない笑い――人間の愚かさや、どうしようもない人間らしさが感じられるものがコメディだと思っています。そのためにも、2人にも“状況”をきちんと与えないといけないなと思っていました。様々な受難が振りかかり、そこで慌てたり、怒ったりしていろんな表情を見せてくれて、それが喜劇としての面白さを生んでくれたなと思います。今後の目標は「映画を取り巻く環境の変化、それを日本の映画界にどう取り込んでいけるか」――映画監督としての目標、今後、実現したいことなどはありますか?いま、配信プラットフォームが増えたり、映画を取り巻く環境が加速度的に変わっているので、海外などの環境を勉強して、それを日本の映画界にどう取り込んでいけるか?というのが、この数年の目標ですね。凝り固まった概念をたたき壊していかないと、永久にこのままじゃダメなので、システムを含めて、変えるべきところは変えていかないといけないと思っています。――最後に映画業界を志す人たちに向けて、アドバイスやメッセージをお願いします。僕から言えるのは3つくらいですね。まず「横のつながり」の大切さ。一緒に仕事をする仲間たちや出会いの縁を大事にして、その人たちがどうしたら楽しんで仕事をしてくれるかを考えてほしいということ。それから、仕事がない時期に「オファーは絶対に断らない」ということ。「こういう仕事はしない」と言ってる人は永久にやらないので「自分が適任だと思われてるんだな」と受け入れてやりましょう。最後に、自分の人生なので「自分が納得できることを仕事にする」ということ。そこに関しては、僕自身、昔から変わらないですね。(photo / text:Naoki Kurozu)■関連作品:新聞記者 2019年6月28日より全国にて公開©2019『新聞記者』フィルムパートナーズi-新聞記者ドキュメント- 2019年11月15日より新宿ピカデリーほか全国にて順次公開©2019『i –新聞記者ドキュメント-』最後まで行く(2023) 2023年5月19日より全国にて公開©2023映画「最後まで行く」製作委員会
2023年05月22日日々の生活を楽にしてくれる家電はさまざまありますが、中でも現代の「三種の神器」のひとつともいえるのがロボット掃除機ではないでしょうか。これまでは子どもやペットがいる家庭や共働き夫婦などの利用が多い傾向がありましたが、最近では独身の社会人だけでなく、学生の利用も増えてきています。もちろん、忙しい日々を送るマイナビウーマン読者の皆さんの中にも日常的に使用している人がいるかもしれませんね。一家に一台とまではいかないものの、利用者数が右肩上がりのロボット掃除機。今回はそんなロボット掃除機「ルンバ」を展開するアイロボットのPR担当・村田佳代さんにインタビュー。「バズりの裏側」について伺いました。■バズり商品になるまでの苦労そもそもアメリカで開発されたルンバがいつ日本に上陸したのか聞いてみると、意外にも約20年前とのこと。しかし、最初は日本での展開に苦労したようです。村田さんはそのことについて「“ロボットが掃除をする”という概念がそもそも無かったので、まずはそれを受け入れてもらうのに時間がかかりました。約20年前なので、ロボットと言われると皆さんがイメージするのはアニメや映画の中の世界だったんです」と回答。確かに、今から約20年前は“家事をアウトソーシングする”という概念すらほとんど無く、ましてや“ロボットが掃除をしてくれる”なんて、近未来的なイメージだったかもしれません。また、日本での展開に苦労したのは、日本人の“掃除”に対する向き合い方も大きかったそう。「アイロボット本国のアメリカは合理性を重視するところがあるので、ロボットが家を掃除するっていうこと自体にはそんなに抵抗は無かったようなんです。けれど、日本では学校で掃除の時間が決められているように、“掃除は自分たちでするもの”という観念があるので、それをロボットにお願いすると『サボってる』と言われてしまう。そういった固定観念みたいなものを変えていくのはハードなチャレンジでした」そこからどのようにして日本でも受け入れられるようになったのか尋ねると「地道に販売店でデモンストレーションをやったり、いろいろなマーケティングの施策はやったりしたんですけれども、最初は『使って良かった』という購入者の口コミ効果が大きかったです」と話してくれた村田さん。日本でのヒットは、地道な努力や口コミによって世間にルンバが受け入れられたタイミングで、TVCMが公開された2009年。そこから認知度は大幅に上がっていったそうです。「ヒットしたというよりは、みんなに“ロボット掃除機”という存在を受け入れてもらうのに7年の月日が掛かったという方が正しいかも知れません。ルンバの日本での人気は、お客様に育てていたようなものです」■ルンバのミーム化は日本特有のものルンバは確かな機能性はもちろんですが、“部屋を踊るように掃除する”という意味でつけられたキャッチーな名前が覚えやすいことや、ルンバ自体に名前をつけたり、家族の一員のように扱う様子がSNSで拡散されたりと、日本で“ミーム化”されていることも近年のヒットの要因の一つではないかと思います。特に、ルンバが障害物に引っかかった際、ルンバの連携先の端末に「エラーが起きました」「動作が停止しました」ではなく、「助けを求めています」という通知がくることも、「思わず助けたくなる」「かわいい」とSNS上では話題になりました。家電に名前をつけるというのはかなりユニークな発想に思いますが、それは「1990年頃に『たまごっち』が流行った際、名前をつけて愛されて、どんどん育っていくという発想がすばらしいと思った開発者がインスパイアされたことがきっかけ」だったそう。しかし、ルンバの「助けを求めています」という文言については単に英語の直訳であり、意図してなかったと村田さんは言います。「ルンバに対しての“かわいい”というイメージは日本人特有のものなんです。欧米では家電に名前つけてかわいがるというケースはあまり聞きません。ルンバがミーム化しているのも、私たちからするとすごく意外でした」最初こそ日本ではなかなか受け入れられなかったものの、意図せぬ方向で“バズる”ことになり、ミーム化されたことによって、どんどんと日常に取り入れられるようになったルンバ。アップデートによって、どんどんと避けられる障害物が増えていくのも、学習することによってだんだん賢くなっていくペットのようです。「ルンバは全世界で累計4,000万台を販売していますが、その多くがスマートフォンを通してお客様と繋がっています。お客様のルンバの利用データがどんどん蓄積されていくので、使えば使うほど、どんどん進化していく。ユーザー参加型AIなので、お客様と一緒に成長していくんです」■将来的には「ルンバの存在感が無いことが一番良い」家事は女性の役目というイメージが強かった日本ですが、夫婦共働き家庭の増加により、家事は協力してやるものという認識に切り替わってきています。結婚や出産をしても働く女性が右肩上がりに増えているこの国で、家事を家電に任せるという選択肢を与えてくれるルンバはかなり大きい存在です。村田さんは「家庭内にはプラスの家事とマイナスの家事があると私たちは考えているんです。例えば、掃除や濯物、掃除は汚れを取るのでマイナスの家事。一方、料理や裁縫はクリエイティブなプラスの家事。マイナス家事はできるだけ自分でやらずにロボットに任せて、その分プラスの家事の時間や自分の自由時間にしてほしいなと思っています」と話します。実際、アイロボットには利用者からの機能的なフィードバックの他に「時間が増えて気持ちに余裕ができた」「家族の時間が増えた」「夫婦げんかが減った」という声が多く届くそうです。そしてそれは、元々産業用ロボットを作っていた開発者が、「もっと人が喜んだ顔が見たい」と、人の生活の助けになるルンバを開発したきっかけであり、願いでもあります。最後にアイロボットとして、ルンバを通してどのような社会になっていくことが理想かと尋ねると、村田さんは「開発のトップがいつも言っているのは、ルンバの存在感が無いことが一番良いということなんです。知らない間に全部やってくれて、好みに合わせてくれて、手を煩わせない。この3つがポイントなのですが、そうしていくとルンバ自体の存在が無くなる。けれど、それこそが究極の形かなと思うんです」と語ってくれました。インタビュー冒頭、「バズりの裏側」について尋ねると「正直、何かおもしろいストーリーがあった訳ではなく、今でも“バズっている”とは思っていないんです」と答えていた村田さん。確かに、ルンバが日本に上陸した際のことや、ヒットした際のことはあまり記憶に無いかも知れません。気づけば“日々の生活を楽にする選択肢の一つ”としていつの間にか存在していたという方が正しいでしょう。しかし、その“いつの間にか存在していた”という日常への溶け込み具合こそが、「ルンバ」の「バズりの裏側」であり、毎日の生活を楽にしてくれる、これからも成長し続けていくであろうルンバの魅力のように感じました。(取材・文:瑞姫、撮影:三浦晃一、編集:錦織絵梨奈/マイナビウーマン編集部)
2023年05月20日【音楽通信】第138回目に登場するのは、シンガーソングライターとしての活動が7年目を迎え、20代最後となるニューアルバムをリリースする、山本彩さん!いろんなシチュエーションに合う楽曲が揃うアルバム【音楽通信】vol.138コンスタントに作品を発表し、ライブ活動も展開してきたシンガーソングライターの山本彩さん。最近では、バラエティ番組などでも元気な姿を届けています。そんな山本さんが、2023年5月17日に4thアルバム『&(アンド)』をリリースされるということで、お話をうかがいました。――前回、2020年10月にこのananwebで取材させていただきましたが、シンガーソングライターとして活動されてから今年で7年目となりますね。昨今は少し休養されたり、個人事務所を設立されたり、いろいろと整えられて。最近はバラエティ番組でもご活躍で、リフレッシュされてパワーアップされたように感じます。休養させていただいた際は歌っていなかった期間も長かったので、そのブランクを取り戻すのと、休む前よりは良い状態で今後も続けていきたいので、また一から歌のトレーニングや勉強をしました。まだ進化した感じはしないのですが、少しずつ自分のベストがわかってきて。あとは、もともとすぐ考え込んでしまうタイプだったのですが、いまはだいぶん気楽に物事をとらえられるようになりました。――2023年5月17日には、4枚目となるアルバム『&』をリリースされます。いつ頃からアルバム制作を始めていたのですか。一昨年から、アルバムを作ろうという話をしていました。新曲「劣等感」と「Bring it on」の2曲を収録しているのですが、まず「劣等感」を途中まで作り始めながらも完成はせず。休養のタイミングで一度制作を中断して、復帰してから「劣等感」を仕上げて、復帰後に「Bring it on」を書き終えました。――新曲は2曲とも山本さんが作詞と作曲を手掛けられていますね。そうです。「劣等感」は、もともと書きたい歌詞のテーマとしてあったんです。自分の中にある劣等感と戦っている葛藤みたいなものを描いていて、劣等感を抱きながらも自分が作られていく、戦っていく思いを込めた楽曲です。アレンジは(ボカロPやアレンジャーとして活動中の)100回嘔吐さんにお願いしたので、ギターロックとは違うテイストでのロックを表現できました。――もうひとつの新曲「Bring it on」はどのようなイメージで作っていかれたのですか。「劣等感」が“陰”の部分が強かったぶん、その反動もあってか、真逆の曲が書きたくなって。ツアーも決まっていたので、ツアーに向けて「やってやるぞ!」という気持ちも活かして“陽”なイメージで作りました。自分ならライブだったり、聴いてくださる方にとってはこれから挑んでいく何かだったり、そういったものに対して無敵にさせてくれるような強い曲になっています。――「Bring it on」のミュージックビデオもカッコいいですが、ライブでのパフォーマンスのことも考えながら作ったんですか。比較的、普段の自分のライブスタイルに近い形でミュージックビデオの撮影をさせていただきました。あとは、自分が楽屋で準備している状態から、ステージに上がっていくようなストーリーや背景をそのまま映像として出させていただきましたね。――あらためてアルバムタイトルの意味も教えてください。別人格ぐらいの楽曲ができたなと思うくらい、この新曲2曲だけでもすごく対照的なんです。ほかの収録曲に関しても、そのときどきで歌いたいことや考えも全然違う自分がいて、でもどれも全部あわせて自分ができているな、と。矛盾しているけれど両立してつながっているという意味を込めて、『&』というタイトルになりました。――1曲目「ドラマチックに乾杯」は、東海テレビ・フジテレビ系ドラマ『その女、ジルバ』(2021年)主題歌の軽快でラテンな楽曲ですね。ドラマ主題歌のお話をいただいて、台本を読ませていただいてから、曲を書かせていただきました。主人公が自分とも重なるところがあって、うまくいかないときも、ちょっとした人との出会いや自分が輝けるような場所との出会いによって、そういう小さなきっかけの連続で人生が変わっていくということが、すごくわかる気がして。そこを書きたいなと思ったので書かせてもらいながら、台本の中で印象的だった場面をイメージしながら歌詞にさせていただきました。――主題歌などのタイアップ曲とそうではない曲では作り方も違いますが、意識するところも違う点はあるのでしょうか。タイアップ曲は、たとえばドラマなら観ていると感情移入はするので、まったく自分の思いではないわけでもないんです。なので、自分の思いと誰かの思いを背負って曲作りをしているという、特別感があります。ある意味、自分の思いをそのまま歌にするのは自分勝手でもいいんですが、タイアップ曲だとそうじゃない側面もありますね。歌うときも、自分の思いだけを込めてというよりも、そのドラマを観てくださっている方に思いを馳せながら歌っています。――4曲目「ぼくはおもちゃ」は、NHK『みんなのうた』のために、山本さんが作詞作曲された曲ですね。『みんなのうた』ということで、番組を観てくださる方も、親御さんから小さなお子さんまで年齢層が幅広いなと。お子さんの耳にも残るようなサウンドにしたいなと思って、おもちゃの音を入れたり、身近な音を入れたりしているんですが、歌詞は少し大人も考えさせられるような内容にしたくて。歌をリアルタイムで聴いてくれていた子が大人になったときに、「こういう歌詞だったんだ」とあらためて考えてくれるような曲になったらいいなと思って、子どもらしさと大人っぽさを混ぜ合わせた楽曲にしました。――7曲目「あいまって。」は、大人っぽくアンニュイな印象です。どちらかというと山本さんはロックな楽曲のイメージがありますが、この曲でまた違った表情を見せています。この曲は、作詞作曲ともに(プロデューサーでシンガーの)yonkeyさんと共作させていただいて、アレンジもしていただいて。歌詞は、本当に会話の延長という感じなんです。「こういう歌詞にしたい」「こんな単語を使いたい」というように、その場でラリーをして、そのままプロットを立てて、自然と楽曲ができていきました。歌についても、この曲自体がyonkeyさんの成分がけっこう強めの楽曲なので、言っていただいたような自分のロックな成分をほぼ消すぐらいの感覚で、レコーディングもやらせていただいて。ビブラートは全部なしでとか、こぶしもなしでとか、そういうふうにディレクションをしていただいたので、この曲に合わせた歌唱をしています。――多彩な楽曲が収録されていますが、とくに7曲目以降、曲調やニュアンスなど、山本さんの多様な表情がうかがえる曲順になっているように感じました。9曲目「ラメント」もまったく雰囲気の違う楽曲です。とくに「ラメント」はアルバムの中でもちょっとジャンルが違うような楽曲なので、アルバムを通して、この曲はキーになるなとは思っていて。それを考えたうえで、この位置になった感じですね。――聴き手にはどんな風にアルバムを聴いてほしいでしょうか。喜怒哀楽が詰まっているアルバムなので、いろいろなシチュエーションに寄り添える曲が集まっています。たとえば、やる気になりたいときは「Bring it on」を聴いてほしいですし、ちょっとまだ進むほどの気力はないけどもう少ししたら頑張りたいなというときは「愛なんていらない」とか「あいまって。」を、ゆっくり始めようかというときは「ゼロ ユニバース」をおすすめしたいですし。そういうタイミングごとにきっと力になれる曲があるんじゃないかなと思うので、いろんなシチュエーションで聴いていただきたいです。――アルバムのジャケ写は、山本さんが合わせ鏡のようになっていますね。アルバムのコンセプトとしてもあったんですが、どれも違うけれど自分という意味を込めての多様性や二面性を、衣装の違いや目線の有り無しで違いを出して、このジャケ写でもそれを表現しています。――6月からは「SAYAKA YAMAMOTO LIVE TOUR 2023 -&-」と題した全国ツアーを開催されますね。はい、1年半ぶりの全国ツアーでライブハウスをまわります。よりみなさんと距離が近いうえに、いま声出しも解禁されてきているので、ようやく本来のライブの形ができるかなと。さらに、今回はバンドでのライブ構成にしているので、バンドのライブに来た感じで楽しみにしていただきたいなと思っています。――アルバムはコロナ禍やお休みの期間を挟んで制作をされましたが、これまでの変化の心境が楽曲に反映されたところはありましたか。10曲目の「oasis」は、コロナ禍に差し掛かって、どうなるかわからない葛藤を書いた曲だったんです。でも、どんどん環境が良くなっていたからこその「Bring it on」みたいな楽曲が生まれたのかなと。状況が前進していないと、なかなかライブもどうしていいかわからない期間が続いていたので、いまやっと声が出せるようになって。それだけでも全然違いますし、少し前進したからこその心境が詰まっています。「山本彩といえば、この曲」という曲を作りたい――お話は変わりますが、2023年の現在、ハマっていることはありますか?最近はもっぱら仕事以外はオンラインゲームをしています。よくやっているのはFPS(ファーストパーソン・シューティングの略)という、一人称視点のシューティングゲーム『APEX LEGENDS』を友達と会話しながらやったり、謎解きのゲームをしたりしていますね。ストレス発散にもなりますし、楽しいです。――地元のお友達とゲームしているんですか。いえ、グループ時代の友達ですね。ゲームをしながら、電話をするような感じで、普段の話もしながらやっています。――おうちでゲームをしているとき以外は、お出かけされることも?わりと外出していますね。犬を飼っているので、そのおかげでけっこうフットワークが軽くなりました。毎月のようにどこかしらでワンちゃんのイベントをやっているので、そこへ出かけて、そこでしか出店されてないお店でグッズを見たり、散歩に行ったり、ドッグランに行ったりしていますね。――ワンちゃんの種類はなんですか。ヨークシャテリアです。実家ではトイプードルを飼っています。いてくれるだけですごく癒やされるので、仕事から疲れて帰っても、ワンちゃんがいると思ったら、もうどうでもいいみたいな気になります(笑)。――ワンちゃんのお散歩に行かれるのも健康的ですね。ツアーではけっこう体力を使うことがあると思いますが、何かコンディションを維持するためにやっていることはありますか。最近は、最低限の衣食住の生活基準みたいなものを上げようと、規則正しい生活をするようにしています。当たり前の話ではありますが、遅くなっても12時までにはベッドに入って、朝8時までには起きて、1日3食ちゃんと食べて、しっかり寝る。そのうえで、毎日犬の散歩をしているので、すごく良いリズムが自分の中でできています。そのおかげもあって、夜はちゃんと眠くなりますし、良い生活リズムに整いました。――生活リズムは大事ですよね。そういえば、阪神タイガースがお好きでしたね。以前、始球式をされたこともありました。そうなんです。過去に始球式は5回ぐらい、やらせていただきました。阪神が好きなので、この間は久しぶりにお仕事で甲子園に、プライベートでは神宮球場に野球観戦に行っていました。――いろいろなお話をありがとうございました! 最後に、今後の抱負を教えてください。いまは音楽を軸にさまざまなことやらせていただいます。これからもやりたいことを積極的にやっていて、音楽やほかのお仕事にもつなげていけるように頑張りたいですね。今年の7月で30歳になるので、より濃い音楽を作っていって、「山本彩といえば、この曲だよね」と言っていただけるような曲が1曲でも多く作れたらいいなと思っています。取材後記約2年半ぶりにananwebにご登場くださった、山本彩さん。以前は爽やかなショートカットだったのが、今回は艶やかなロングヘアになって、大人の女性の魅力がさらにアップ。「昔から髪型はロングとショートを繰り返していて、いまはロングの周期なんです」と笑顔で取材に応えてくださいました。そんな山本さんのニューアルバムをみなさんも、ぜひチェックしてみてくださいね。写真・園山友基取材、文・かわむらあみり山本彩PROFILE1993年7月14日、大阪府生まれ。2010年に発足したNMB48に1期生として8年間キャプテンを務め、中心メンバーとして活動。2016年、自身の目標であったシンガーソングライターとしての活動を始動させ、10月にデビューアルバム『Rainbow』をリリース。2018年10月27日、万博記念公園東の広場で卒業コンサート『SAYAKA SONIC ~さやか、ささやか、さよなら、さやか~』を開催。NMB48史上最大規模、約3万人を動員した初の野外コンサートとなった。11月4日、この日の卒業公演をもってNMB48を卒業。2019年2月、ユニバーサルミュージックへ移籍、ライブハウスツアー「I’m ready」を24会場27公演開催。4月17日に移籍第1弾シングル「イチリンソウ」をリリース。以降もコンスタントに作品を発表し、ライブ活動を展開。2023年5月17日、4thアルバム『&』をリリース。6月から全国14都市14公演をまわるツアー「SAYAKA YAMAMOTO LIVE TOUR 2023 -&-」を開催。InformationNew Release『&』(収録曲)01.ドラマチックに乾杯02.against03.愛なんていらない04.ぼくはおもちゃ05.ゼロ ユニバース06.yonder07あいまって。08.劣等感09.ラメント10.oasis11.Don’t hold me back12.Bring it on2022年5月17日発売*収録曲は全形態共通。(通常盤)UMCK-1743(CD)¥3,300(税込)(初回限定盤)UMCK-7210(CD+DVD)¥4,950(税込)※三方背ケース仕様【初回限定盤の特典】・Music Video Clips(ゼロ ユニバース / against / ドラマチックに乾杯 / yonder – Lyric Video – / Don’t hold me back / Don’t hold me back – Dance Performance Video – / あいまって。- Lyric Video – / Bring it on)・Behind the Scenes of “&”(新曲レコーディング風景 / ジャケット写真撮影 / Music Video撮影などのメイキング映像)(FC限定盤)PROS-1927 (CD + DVD + Photo Book)¥9,900 (税込)※豪華BOX仕様【FC限定盤の特典】・SAYAKA YAMAMOTO LIVE 2022 “now” at EX THEATER ROPPONGI 2022.12.27(SAYAKA YAMAMOTO LIVE 2022 “now” at EX THEATER ROPPONGIのライブ映像を収録)・Documentary of SAYAKA YAMAMOTO 2022-2023(昨年8月に活動復帰として行われた SAYAKA YAMAMOTO SPECIAL LIVE STREAMINGから、昨年末のSAYAKA YAMAMOTO LIVE 2022 “now” に密着したオフィシャルドキュメンタリー&独占インタビュー収録)・Exclusive Photo Book -Album “&” and SAYAKA YAMAMOTO LIVE 2022 “now”-(アルバム『&』フォトセッション / SAYAKA YAMAMOTO LIVE 2022 “now” ライブフォト)写真・園山友基 取材、文・かわむらあみり
2023年05月15日2021年日本公開劇場実写映画No.1となる興行収入45億円を記録した大ヒット作『東京リベンジャーズ』。その続編が、前後編の2部作で帰ってきた(前編『-運命-』が公開中、後編『-決戦-』は6月30日に公開)。かつての恋人・ヒナタ(今田美桜)を現代で凶悪化した犯罪集団の東京卍會(東卍)に殺された主人公のタケミチ(北村匠海)。ひょんなことからタイムリープ能力を手に入れた彼は、過去に戻ってヒナタが殺される未来を変えようとする。しかしそのミッションには幾多の試練が立ちはだかり…。凶悪化する以前の東卍と接触し、総長のマイキー(吉沢亮)らの信頼を得たタケミチ。しかしマイキーの旧友ながら憎悪を募らせる一虎(村上虹郎)が少年院から出所し、彼の誘いで壱番隊の隊長・場地が敵対する芭流覇羅に移籍するなど東卍に亀裂が走る。様々な陰謀と思惑が絡み合う中、タケミチの新たな戦いが始まる――。本稿では、物語のキーマンとなる場地を演じた永山絢斗と、彼を慕う壱番隊副隊長・千冬に扮した高杉真宙にインタビュー。『東京リベンジャーズ』の独自性から日本映画界の“未来を変える”提言まで、熱く語っていただいた。永山絢斗、原作を読み「とんでもねぇ役をやることに」――おふたりは「東京リベンジャーズ」というコンテンツがマンガ→アニメ&実写映画と人気を獲得していく過程を、どうご覧になっていましたか?(※原作の正式名称は「東京卍リベンジャーズ」。本稿では「東京リベンジャーズ」で統一)高杉:僕は元々、原作者の和久井健さんの作品(『新宿スワン』ほかで知られる)を読んでいて、「新しい作品を作っているんだ」と思って読んだら面白くて…というのが「東京リベンジャーズ」との出会いです。それで兄弟や父親に薦めたら僕よりハマって…。永山:原作って、何年くらいに始まったんでしたっけ?――2017年に連載が開始され、2022年に完結しました。全31巻です。永山:約5年で30巻分…。そう聞くと、凄いペースで描かれていたんですね。高杉:そうなんですよ。僕はまだ「血のハロウィン編」までしか原作を読めていなくて、完結したら一気読みしようと思っていました。家族が僕を追い越してドハマりしちゃったから、原作が実家に全部そろっていて(笑)。――高杉さんは「じゃりン子チエ」から「PSYCHO-PASS サイコパス」まで幅広くマンガ・アニメに精通していらっしゃいますが、「東京リベンジャーズ」の独自性をどう分析されていますか?高杉:やっぱり、ヤンキー漫画とファンタジーを組み合わせたことだと思います。ヤンキー漫画はいわゆる少年漫画に比べてより上の世代が好きな印象がありますが、「東京リベンジャーズ」は世代や性別問わずに幅広くキャラクターが愛されていますよね。そこもほかのヤンキー漫画にはあまりない特徴かと思います。永山:「東京リベンジャーズ」はタイムリープする設定が上手いですよね。それによって昔の不良スタイルになっても違和感がないし、それが幅広い年代の読者をつかみやすいキーにもなっている。独特のアイデアが詰まった作品だと思います。実は僕はお話をいただくまで「東京リベンジャーズ」に触れてこなくて、まず映画(第1作)を観て、「そういえば甥っ子が読んでいたはず」と思って連絡を取ったら…断られました(笑)。高杉:えぇ!?永山:「絶対折り目とか付けるでしょ」って(笑)。俺、そんなことしないタイプなのに…。そこで所属事務所のスタッフに原作を借りて、10巻くらいまで読んで「とんでもねぇ役をやることになったな」と感じました。アクションシーン撮影は苦労の連続――永山さんは『クローズEXPLODE』にも出演されていますね。永山:『クローズEXPLODE』は監督が豊田利晃さんなので、とにかく試されまくる現場で今回とは全く別物でした(笑)。『東京リベンジャーズ』はエンタメ色も強いですし、今回は2部制の大作。とにかく赤点を出さないようにという意識で芝居をしていました。場地って動いた瞬間にぶっ壊れちゃうような危うさがあるので、そのイメージで演じつつ、過去パートはとにかくみんなで楽しそうにしている空気感が出せたらなと考えていました。細かく動きを付けるというよりも、そういったところに意識を置いていました。――『東京リベンジャーズ2』の最大の見せ場となるのが、廃車場の決戦です。相当なボリュームでしたが、撮影は相当大変だったのではないでしょうか。画面の手前も奥も、終始乱戦状態でしたから。高杉:このパートの撮影全体で10日間以上はかけているんじゃないかな?そうじゃないとおかしいくらいの分量ですよね。映像を観ながら「大変だったな…」と思い出しました。高崎で撮ったのですが、ロケ地に行ったらフラッシュバックしそうなくらいです(笑)。――土埃もずっと舞っていましたし…。高杉:実は、土埃じゃなくて画面映えするようにキラキラ光る特製のものを使っているんです。あれが舞う中で戦うのはきつかった…(苦笑)。永山:俺は下で戦ってないからみんな大変そうだなって…(笑)。(※劇中では千冬たちは地面で、場地は廃車の上で戦う)あの大人数が、朝からずっと取っ組み合いをしていますからね。でも役者さんはみんな気合いが入っていました。――永山さんも、足場がかなり悪いなかでのアクションだったのではないでしょうか。永山:そうですね。でもみんな殺陣が上手ですごく助けられたし、僕自身も足場を気にしないくらいアドレナリンが出まくっていました。そうじゃないと「早くこの殺陣終われー!」ってなって続かなかったかも(笑)。目的にたどり着くまでに、色々な敵が立ちふさがってきますから。高杉:俺らは特攻服でしたが、永山さんが着ていた芭流覇羅のジャケットも暑そう…。永山:MA-1だったからね。綿を抜いてもらっていたけどそれでもある程度の重さはあるし、暑かった…。高杉:映像だと全然そんな風に見えないから、つらいですよね(笑)。永山:そうそう(笑)。年を感じた…(笑)。高杉:そんなの一切感じませんでしたよ!永山:編集でどうにかしてもらったんだと思う(笑)。まぁでも、アクションシーンの撮影は俺らは苦労続きだったけど、お客さんにはそんなこと気にせず楽しんで観てもらいたいです。これからの映画界に思うこと「人生を少しでも変える作品を」――永山さんは2007年、高杉さんは2009年に俳優デビューされ、同じ時代を役者として生き抜いてきた間柄でもあるかと思います。映像・映画界の歩みをどうご覧になっていますか?永山:このままだと海外で戦える作品が生み出せないなとは思います。コンプライアンスに縛られすぎなんだと思います。この前、映画祭で韓国の映画人と話して「低予算でもガツガツ作っていかないと。このままだとヤバいよ日本」と言われて悔しかったです。実際韓国は勢いがありますよね。高杉:どこにも配慮しないで言うと、もうちょっと時間をかけて作りたいですよね。永山:単純にお金がないんでしょうね。でも、お金がなくてもいいものを作ることができるでしょうし、諦めたくはないです。夢を持って仕事していますから。先ほど韓国の話をしましたが、本来は勝負事じゃないんですよね。芸術というものを日本の中で生み出せるかどうかの話ですから。ただまだまだ水商売というか色物というイメージが強いとも思うので、変わらなければいけない部分は多々あると感じています。高杉:僕はこれまで、作品を観た人たちに変化が起きることがあまり好きじゃなかったんです。永山:そうなんだ。高杉:だって怖いじゃないですか。自分の仕事で、どこかの誰かの人生が変わってしまうって。その責任を負えるのか?とも感じてしまって。この仕事は自分の評価でなく、他人の評価で判断されることが多いですし。永山:でも俺も「この映画を観て人生変わった」とか言うけど、それはこっちが勝手にそうなっただけだから。それでいいと思うよ。高杉:そうですよね。でも今は、もう少しその責任を負いたいという気持ちに変わってきました。その人の人生を何か少しでも変える、糧になるような力を持った作品を一個一個作っていかないと、1時間半や2時間を費やして観る価値は生まれないと思っています。(text:SYO/photo:Jumpei Yamada)■関連作品:東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命- 2023年4月21日より全国にて公開©和久井健/講談社 ©2023映画「東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編」製作委員会東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦- 2023年6月30日より全国にて公開©和久井健/講談社 ©2023映画「東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編」製作委員会
2023年05月12日『全員、片想い』の打ち上げの場で出会い、オーディションを経て『青の帰り道』で共闘して――。藤井道人監督と横浜流星はいまや、名実ともに黄金コンビにまで成長した。そして、藤井監督作における横浜さんの長編初主演映画『ヴィレッジ』が、4月21日に劇場公開を迎える。舞台は、能が盛んな辺境の村。ゴミ処理施設の敷設計画に伴い住民が対立し、父親がある事件を起こしてしまった優(横浜流星)は、事件から歳月がたった今、親が遺した汚名、そして母親の借金返済に追われていた。村中から蔑まれながら、村から出られない生き地獄の中、幼なじみの美咲(黒木華)が帰郷したことで光が差していくのだが――。横浜さんの狂気すら感じさせる熱演と共に、観る者に強い衝撃を与える意欲作。藤井監督×横浜さんが、チャレンジ尽くしだった撮影の日々を振り返る。「ちゃんと腰の据わったもの撮れる」と証明する作品に――まずは横浜さん、舞台『巌流島』お疲れ様でした!(取材は3月末に実施)横浜:ありがとうございます。もう抜け殻です(笑)。藤井:終わったばっかりだもんね(笑)。お疲れ様でした。――そして『ヴィレッジ』がいよいよ劇場公開を迎えます。本作はマスコミ試写が連日満席で「席が取れない」と業界内で話題を呼んでいます。現時点で、反響はおふたりに届いていますか?横浜:仲良くさせていただいている「関ジャニ∞」の丸山隆平くんや、高校の同級生の岩谷翔吾(THE RAMPAGE from EXILE TRIBE)から連絡をもらいました。翔吾は普段そんなことないのですが、長文で『ヴィレッジ』の感想を送ってくれましたし、丸ちゃんは優の気持ちになって作った詩を送ってくれて。こんなに人の心にこの作品が届いたんだとすごく嬉しかったです。藤井:僕は前作が『余命10年』で、次回作が『最後まで行く』(5月19日公開)ですが、この2つの感想は結構近くて「めっちゃ良かった!」というものが多いんです。『余命10年』だったら「感動して涙が出た」とか。でも『ヴィレッジ』においては「ここ数年の1本になりました」という人と「すぐ感想が出ません」という人に分かれていて、自分で作っておきながらすごく映画らしい体験をしていただけて良かったなと感じています。みんなが「良かった」という映画って、どこか「本当?」と思っちゃうんですよね。でも『ヴィレッジ』は、様々な形で観てくださった方々の人生の余白に入り込めている気がしていて。拒絶しちゃう人の気持ちもわかるし、色々な感想が出る映画はいままでビビっちゃっていたけど、今回チャレンジできたのかなと思っています。――いまの藤井さんのお言葉通り、ひょっとしたら本作は、おふたりのタッグ作の中でも最も作家主義的映画かもしれません。藤井:SYOさんには粗編(編集段階の本編映像)段階からアドバイスをいただいて、その過程でそういう話もしましたよね。僕も内容が内容だけに、コミック原作の公開数300館規模の演出をするのも多分違うなと思っていました。どちらかというと、ちゃんと腰の据わったものを30代の僕と20代の流星でも撮れるんだよ、としっかり証明する作品だったなと思います。多分このコンビは、商業映画だったらたくさん組むチャンスが来ると思うんです。でも河村(光庸)さん(スターサンズ代表)とのコラボレーションというのは、なかなかない。そういうことも含めて、重心を低くしてどっしりした映画を目指しました。――横浜さんにおいては、演技に上限や縛りを付ける必要がなかったのではないでしょうか。スターサンズ作品ということもあって、「わかりやすい」芝居を求められない自由さがあるといいますか。横浜:本当に、いま出来てよかったと思います。おっしゃる通り、わかりやすい芝居を求められていた時期に『ヴィレッジ』に挑戦できて、そういうことを全く気にせずに芝居に集中できました。優として生きるのはつらい瞬間も多々ありましたが、役者としては幸せな1か月でした。「いままでに経験はなかった」撮影期間中のポスター撮り――作家主義的映画ですと、より演じ手が躍動できる向きもありますよね。編集時に藤井さんとA24の話もしましたが、アリ・アスター監督の新作『Beau Is Afraid』の本国公開が『ヴィレッジ』と同日の4月21日です。藤井:えっ、早い!昨日メイキング映像を観たばかりです。アリ・アスターは僕と同い年ですが、A24とだけ組んで作品を作って…まさに作家主義を地で行っていますよね。――4月のA24作品ですと、おふたりのお気に入り映画『バーニング 劇場版』のスティーヴン・ユアン主演ドラマ『BEEF/ビーフ~逆上~』がNetflixで配信されます。藤井:スティーヴン・ユアンは素晴らしい俳優ですよね。楽しみです。――A24の話を無限に続けたいですが『ヴィレッジ』に戻って…(笑)。作家主義のお話にも通じますが、藤井組ではポスター用の写真撮影が撮影スケジュールに組まれることも多いかと思います。映画業界では珍しい形態ですが、こだわりをぜひ教えて下さい。横浜:本ポスター用の撮影は夜中…いや、朝方でしたね(笑)。藤井:そうそう。能のシーンを撮り終わったあとに、兵庫県にある平之荘神社にある能舞台の前に全員集合して撮りました。撮影期間中にポスター撮りをするのは河村さんの教えでもあって、現場中のメイキング写真を宣伝部さんにお渡ししてポスターを作ってもらうのではなく、宣伝も一気通貫だから企画の段階から宣伝部と一緒に見えていた方がいい、という考えです。河村さんに「現場で一番いいと思う写真を撮ったほうがいい」と言われて、最近は撮影の時間を設けるようにしました。そのほうが俳優部も気持ちが乗っていますしね。横浜:確かに。本ポスターはすごい画になっています。現場は時間も時間だったし、全員集合でわちゃわちゃしていました(笑)。藤井:本ポスターは特にね(笑)。横浜:ティザーポスターの撮影時は、そのためだけに霧をセッティングしてくれてすごくありがたかったです。僕自身も優として生きているときだったから、より入り込むことができました。いままでにそういう経験はなかったし、どうしても「ポスターは別撮り」が当たり前だと思い込んでいましたが、『ヴィレッジ』のようなやり方の方がもっといいものが作れる気がします。横浜流星、脚本の改稿段階から参加「役作りにおいて本当に大きかった」――『ヴィレッジ』では横浜さんも脚本の改稿段階から参加したり、ロケハンに同行されたと伺いました。より良い映画づくりの在り方自体を模索した作品でもありましたね。藤井:今回が1作目の間柄だったら、本人に「ロケハン一緒に行こうよ」と言う前にマネージャーさんに連絡して「何でですか」と断られちゃっていたかもしれないし、積み重ねる大事さを感じます。過去に一緒にやったことがあるからこそ「もっと良くしよう。良いものを作りたい」と思えますしね。横浜:積み重ねてきたからこそロケハンに同行できて、すごく得るものが多くて「本来役者もやるべきことだ」と思えました。ちょうどその日が、優の家やゴミ処理施設といった大事な場所を見学できる日だったんです。僕たち俳優は当日その場に行き、「思っていたのと違う」となることもあります。だからこそ、事前にその場所に行って色々と感じられる経験は、役作りにおいて本当に大きかったです。良い作品を作るためにみんながひとつになるのはとても大事ですし、自分自身もよりよい役者になるために積極的に動いていきたいと思います。藤井:脚本においては、1シーン1シーンを一緒に作っていくというよりも、僕が悩みながら書いているときに「待っているよ」と声をかけてくれたり、自分がしっくり来た部分を教えてくれる形でした。横浜:多少は自分の思っていることを伝えはしましたが、絶対に渾身の脚本が来ると思っていたので僕はただ信じて待っていました。藤井:そんななか、優の人物像においては、ふたりで雑談しながらお互いの悩みを共有して落とし込んでいきました。横浜:そうですね。役者をやっていて、数年前とはまた違った状況にいますし、恐れや憂い、怖さといったものは藤井さんに全て伝えて、反映してくれているのを感じていました。優もそうですが、いきなり祭り上げられて次の瞬間には転落していく。僕自身、周囲で転落していく人を見てきたりもしましたし、この仕事はひとつの失敗だったり過ちで一気に転落し、許してもらえないところがあります。その恐怖は常に感じています。――今回だと藤井さんから横浜さんに「コミュニケーションが取りづらくなるから、入り込みすぎないように」と事前にリクエストがあったと伺いました。作品を経るごとに、おふたりの“つくり方”も収斂してきていますね。藤井:そうですね。『ヴィレッジ』の後に流星と組んだ作品でも新しいことを試しているし、ジャンルや作品によっても変わってくるかとは思いますが、それらを楽しめる環境だったらいいなと思います。現場もそうですが『ヴィレッジ』の興行面含めた反響を見て、「宣伝のときにもっとこういうことをやっておけばよかったね」と次の作品に生かしたり、良いものを作るためにこの先も試行錯誤していきたいです。藤井監督流“粘りの演出”は「可能性が広がる」――変わらないものとしては、藤井さんの“粘りの演出”があるのではないでしょうか。横浜さんは以前「もう1回」を待っているところもある、と話されていましたね。横浜:そうですね。何度もチャレンジできるのはもちろん大変さはありつつ、色々なことを試せるので可能性も広がりますし、ありがたいです。もちろん演じるときは1回目から常に全力で挑みます。もしかしたら1発OKがあるかもしれませんしね。絶対ないですが(笑)。藤井:(笑)。横浜:逆に一発OKが出たときは「本当に大丈夫!?藤井さんどうしたの!?」とびっくりしちゃうかもしれません(笑)。だから「もう1回」と聞くと安心するところもあります。――ちなみに今回、最もテイクを重ねたのはラストシーンでしょうか。横浜:ラストシーンもそうですが、一番多かったのは村長(古田新太)に「人生変えるなら今だ」と言われるシーンだったかと思います。藤井:あそこは一番回数を重ねましたね。優にとって嬉しいのか、怯えなのか…。優にとって“蜘蛛の糸”をようやくつかんだ瞬間ですが、同時に彼は自分の罪や家のこと、様々なことが頭をよぎってしまって「やった!」とは言えない。その複雑さを流星の表情に課した部分が多かったので、一番大変でした。ラストシーンは僕からするとすごく良い芝居を見せてくれてとにかくうれしくて「素晴らしい役者になったな」と一発OKにしたつもりだったのですが…。他のスタッフから「監督はすぐ『もう1回』って言ってましたよ」と言われて(笑)。一発OKにしてなかったみたいです(笑)。横浜:そうそう(笑)。――藤井さんは以前「2回目からは確実に演出が乗る」というお話をされていましたよね。藤井:そうなんです。まずは俳優部が準備してきたものを自由にやっていただいて、2回目から僕の演出を乗せていく。そうするとやっぱり調整に何回か時間はかかるんです。ロボットじゃないから感情が伴うのにも時間がかかるだろうし、3回目・4回目と徐々に馴染んできて5回目で1番いいものが撮れることもあります。感情演技においても、俳優部の「泣かないといけない」という義務的な感情が正しいとは思えないんです。台本に「泣く」と書いてあったらやっぱりそうしようという意識が働いてしまいますから。先ほどのシーンで、古田さんは流星に「君すごいね!」と話していました。「毎回同じところで泣けるなんて」と。それを見ながら、確かにすごいな流星…と感じました(笑)。横浜:(笑)。――逆に藤井さんが1発OKされることはあるのでしょうか?藤井:いや、ほとんどないですね。物撮りのケータイの手元くらいじゃないですか?(笑)いつも「はいOK、早く次のシーン撮ろう」ってなってます(笑)。【横浜流星】ヘアメイク:永瀬多壱 (VANITES)/スタイリスト:伊藤省吾 (sitor)(text:SYO/photo:You Ishii)■関連作品:ヴィレッジ(2023) 2023年4月21日より公開©︎2023「ヴィレッジ」製作委員会
2023年04月19日【音楽通信】第136回目に登場するのは、俳優として映画や舞台でも大活躍するなか、音楽活動でもソロアーティスト「MORISAKI WIN」としてニューアルバムをリリースする、森崎ウィンさん!ミャンマーで祖母が聴いていた洋楽に触れる【音楽通信】vol.136中学2年生でスカウトされ、芸能界へ入った森崎ウィンさん。2008年から12年間、ダンスボーカルユニットでメインボーカルとして活動後、2020年にアジアから世界に発信するエンターテイナー「MORISAKI WIN」名義にてソロアーティストとしてメジャーデビューし、音楽配信チャート1位を獲得するなど話題を呼びました。さらには、俳優としても2018年に公開されたスティーヴン・スピルバーグ監督の映画『レディ・プレイヤー1』でハリウッドデビューを果たし、2020年には映画『蜜蜂と遠雷』で第43回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。現在上演中のミュージカル『SPY×FAMILY』では主演のロイド役を務めるなど、多方面で大活躍されています。そんな森崎さんが、2023年4月19日に2枚目のフルアルバム『BAGGAGE』をリリースされるということで、音楽的なルーツなどを含めて、お話をうかがいました。――そもそも幼いときに音楽に触れたきっかけから教えてください。僕は小学校4年生で来日するまで、生まれ故郷のミャンマーでおばあちゃんと一緒に住んでいたんです。おばちゃんは音楽が好きでよく聴いていましたし、英語の先生だったので英語の授業で音楽を使って生徒に英語を教えていたので、小さいときから音楽にはよく触れていましたね。とくにマドンナやマイケル・ジャクソン、カーペンターズといった洋楽を聴いていました。日本に来てからは歌手になりたいと思っていたわけではなかったのですが、いまの事務所にスカウトされて「歌を歌ってみて」と言われ、歌えることがわかってダンスボーカルユニットに加入して、人前で歌うようになって。グループが解散後、お声がけいただいて、ソロとしてデビューすることになりました。――グループ活動とソロ活動はまた違いますよね。グループでの活動があるから、いまがあると思っています。それこそグループにいた当時から応援してくれているファンのみなさんがいらっしゃいますし、これまでの経験を経たことがいまのミュージカルなどのソロ活動にすごく影響を与えているので、グループ活動で培ったものはかなりためになっていますね。――その後、2020年7月に「MORISAKI WIN」として配信シングル「パレード‐PARADE」でソロアーティストとしてメジャーデビューされました。その間も俳優として数々の作品に出演され、2018年の映画『レディ・プレイヤー1』で注目を集めたことは飛躍の大きな転換期でもあったと思いますが、俳優活動と音楽活動の相互の影響はあるのでしょうか?まず歌もお芝居も好きなので、両方ともやれる環境がありがたいです。どの活動がどう影響しているのかは説明しづらいですが、結局のところ、表現するということ自体は変わらないのかなと。俳優をやっているからこそ学んだ表現が音楽に生かされていたり、音楽をやっているからこそ俳優に生かされていたりするものもあって。たとえば音楽活動でのリズム感や音の出し方も、俳優としても必要になってくる場合もあります。――そもそもスカウトされて芸能界に入られたときは受け身だったわけですが、どの活動にも抵抗はなかったんですね。実際にやってみると、どれも「楽しいじゃん!」って(笑)。それ以前はサッカー以外に興味がなかったんですが、やってみて「好きだな」「どんどん極めたい」と思うようになっていきました。どの活動も作り上げるまでは苦しい瞬間もあるんですが、どのジャンルにおいても、純粋に全部やりたいと思っているからこそ、やれる環境にいることがうれしいですね。聴いていると出かけたくなるようなアルバム――2023年4月19日、2枚目のフルアルバム『BAGGAGE』をリリースされます。まずはアルバムタイトルの意味からお聞かせください。いろいろなものを詰め込んだアルバムにしたくて、「BAGGAGE」というタイトルをつけました。その名の通り、旅のお供になるような、夏服もあれば冬服も持っていったよね、とさまざまなテイストの楽曲が詰め込まれたアルバムになったらいいなという願いを込めています。――まず1曲目「Move out」はウィンさんが歌詞を手がけられた軽快なバンドサウンドですが、どのようなことをイメージして作られましたか。楽曲が先行だったので、曲を聴いたときに、出かけたくなる曲だと感じました。僕はキャンプをやることがあるのですが、仕事というルーティンから抜け出して、キャンプのような全然違う旅に出かける瞬間をイメージして歌詞を書いていって。普段いる場所から抜け出して新しい世界の扉を開けるように、旅先でのハプニングさえもプラスにとらえたり、最終的にはいま世界で戦い合っているところからも抜け出してほしい思いも込めたり。歌詞を仕上げていくにつれて、世界観が壮大になっていった楽曲です。――続いて2曲目「Perfect Weekend」は、大人っぽいキャッチーな楽曲ですね。これはタイトルのように“最高の休日”を思い浮かべるような楽曲です。リズムが気持ちいいはやさで、どこか一歩ずつ踏みだしていくことを思わせる四つ打ちのサウンドに合うようなボーカルを意識して歌っていますね。――クールなサウンドの5曲目「No Limited」も作詞を手がけています。はい、これは「人生は無限大だよ」と、人生は一度きりだけれどできないことはないと歌っている楽曲です。誰かのためになればいいなと思って歌詞を書いていたのですが、聴き直してみると最終的には、自分自身を鼓舞するような楽曲になっていて。聴いていると「大丈夫だな、頑張ろう」と思える曲になったので、不思議な感覚の曲になりましたね。――6曲目「Love won’t die」は英語詞で歌う壮大なバラードで、続く7曲目「anymore」も全英語詞ですね。世界に向けて勝負していきたいのと、英語と日本語の歌を両方ともきれいに歌えるのは、僕にしかできないことでもあるから、その武器はちゃんと使っていきたいなと英語詞にしました。そして自分の故郷や家族をテーマにした6曲目「Love won’t die」は、日本語で綴るよりも英語で全世界の同じような状況の人たちの楽曲にもなればと、幅広く受け取ってもらえるように意識しています。7曲目「anymore」は既発曲で、シンガーソングライターのTHE CHARM PARKさんが書いてくださった曲です。純粋にギターのリフがカッコよくて、初めて曲を聴いたときに「これやりたい」となりました。――サウンドから入っていくこともあるのですね。それはけっこう大事です。自分がまずカッコいいと思えないと、自分がリリースする音楽を人に勧められないので、最初に曲を聴いたときの直感を大事にしていますね。――8曲目「BeFree」は、デビュー前にウィンさんが作詞と作曲をされた楽曲です。もともとはグループ活動をしていた2019年に作った曲です。グループでの自分のバースデーイベントのリード曲にもなればいいなと思って作った曲でしたが、今回のアルバムに収録する前に、一足早く昨年末から日本グッドイヤー「オールシーズンタイヤ」CMソングとしてオンエアされて。まさかタイヤのCMのタイアップがとれるほどの楽曲になるとは思わず、本当に有り難いですね。――グループにいらっしゃったときは曲を作ることもあったと。当時は、自分で曲を作って歌いたいという意欲が強くて、作っていました。ただ、やっぱり作家さんとは違って幅広く音楽理論を知らないので限界はありましたが、まだ意欲が消えたわけではないので、またタイミングを見て曲を作りたいです。――どのように曲作りをしているのですか。メロディから作っていきます。家でピアノを弾いてメロディを決めて、そこに歌詞をあてて自分で仮歌をとっていく感じですね。ピアノは、音楽活動をするときに以前から少し弾いていましたが、映画『蜜蜂と遠雷』で天才ピアニストの役を演じる際に本格的に習ったこともあって。歌詞を書くときは、フィクションもあればノンフィクションもあって、そのときどきで違います。この8曲目「BeFree」の場合は、純粋にライブに来てくれたみなさんが日常のいろいろなことから解放されたらいいな、と思って作りました。――9曲目のラブソング「My Place, Your Place」はどんな思いで歌っていますか。堂々と言葉にして伝えるには少し恥ずかしくなるような歌詞なんですが、音楽に乗せることによって、恥ずかしくならずに素直な気持ちを音楽の力を借りて伝えています。ずっと僕を応援してくれていてるファンのみなさんの思いに応えられる楽曲にもなればいいなという思いと、この楽曲を聴いて誰かへの自分の思いを馳せてみるようなときに聴いていただきたい楽曲ですね。――聴き手には、アルバムをどんなふうに聴いてほしいでしょうか。今回、聴いていると出かけたくなるようなアルバムになりました。遠出できないときや仕事の移動中でも聴いてくれたら、前に進むのがラクになるような楽曲になっていると思うので、ぜひ移動中に聴いていただきたいです。――4月から6月まではソロとして初の全国ツアー「MORISAKI WIN JAPAN FLIGHT TOUR」を開催されます。ようやく全国ツアーができるようになりました。ずっとやりたかったんですが、スケジュールの都合やコロナ禍という状況もあって、今回ようやく行けます。まずは、これまでに培ったものを全国各地に生で届けに行くことをメインにやっていきたいなと。アルバムの楽曲ももちろん披露しますが、アルバムだけにフォーカスを当てたライブというより、いままでに発表してきた楽曲も歌って、いままでの僕の成長も伝わる構成のステージにできたらなと思っています。「森崎ウィンにしかできない世界観を作る」――現在は、5月までミュージカル『SPY×FAMILY』を上演中ですね。森崎さんは主演のロイド・フォージャー役ですが、手応えはいかがですか。楽しくやれていますし、すごく好評をいただいていまして、本当に有り難いです。――舞台に音楽活動にとご多忙ですが、お休みの日はありますか?休みはあるんですが、いつも何かしらのスケジュールが入っているので、連休がないんですよね。1日だけ休みがあっても、意外と何もできないので、疲れを癒すだけで1日が終わってしまいます。――そんななかでも趣味をされるようなことも?趣味といえば、キャンプですね。できれば一泊したいので、次の日が昼以降の仕事なら、キャンプに行くこともあります。でも、いまのように舞台をやっている時期は、家でやらなきゃいけないこともあって、なかなか行けませんね。休みの日は、外出中にできない洗濯や掃除といった家事をまとめてやっているので、時間に追われています。――ご多忙の様子が伝わります。お話は変わりますが、ファッションではどんなものを好んで選びますか。黒い服を選ぶことが多いです。“森崎ウィン”として人前に出ているときは派手な服も着るんですが、普段は派手な格好は選ばずに、なるべく地味でいたいかな。スタイリッシュで、落ち着いていてる感じのファッションがいいですね。――ウィンさんはジャンルレスにご活躍で、音楽ではラブソングを歌ったり、お芝居では恋愛をしたりすることがあるなか、魅力的な女性というとどんな人だと思いますか。しっかりと自分の芯を持っている女性は、魅力的ですね。バリバリ働いている女性は嫌いじゃないんです、カッコいいなって思います。最近は女性が主役の作品も増えましたし、女性がトップに立つような場面も多くて、応援したくなりますね。――今回は音楽取材をさせていただきましたが、ウィンさんにとっての“音楽”とは、どんな存在でしょうか。僕をいろいろな感情にさせてくれて、気持ちをさまざまな場所に連れていってくれるものです。音楽を聴いていると、癒されるだけでもないですし、時に怒りも覚えることもあるし、時に驚きもあるし。ひとつのジャンルにくくって言い表せない存在ですね。――いろいろなお話をありがとうございました! 最後に、今後の抱負をお聞かせください。森崎ウィンにしかできない世界観を作ることが目標です。ミュージカルをやって、映画をやって、ドラマをやって、CDを出してと、こんなに多岐にわたって活躍できている人はあまりいないと思うんですよね。日本の俳優が歌を歌ったとしても、これだけ洋楽をしっかりと歌えて、これだけ俳優もやって。僕にとってのエンターテイナー像を作り上げたいです。そのためには各方面に自分の代表作を作らなくてはいけないので、もちろん時間はかかると思うんですが、世界で活動している人たちはもっとスゴイ人たちがいっぱいいるので、成し遂げたいですね。取材後記さまざまなジャンルの壁を軽やかに飛び超えて、グローバルに活躍される、森崎ウィンさん。ミュージカルをされている合間のスケジュールで音楽取材を行いながらも疲れを見せず、ananwebの取材が始まる前には「やる気スイーッチ!」とご自身でスイッチを入れていただいていたのが印象的でした。不思議なキャラクターのウィンさんが、エンターテイナー「MORISAKI WIN」として放つニューアルバムをみなさんも、ぜひチェックしてみてくださいね。写真・幸喜ひかり取材、文・かわむらあみりスタイリスト・森田晃嘉ジャケット¥106,700(サイ TEL:03-6407-0117)ネックレス¥19,800(マリハ TEL:03-6459-2572)その他スタイリスト私物森崎ウィンPROFILE1990年8月20日、ミャンマー生まれ。小学校4年生で来日。中学2年生でスカウトされ、芸能活動を開始。2018年より母国ミャンマーで観光大使を務め、現地でもドラマの主演やCMに数多く出演し圧倒的な知名度を誇る。俳優としても活躍するなか、2018年に公開されたスティーヴン・スピルバーグ監督の映画『レディ・プレイヤー1』で主要キャストに抜擢され、ハリウッドデビュー。2020年、映画『蜜蜂と遠雷』で第43回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。主演を務めた連続ドラマ『本気のしるし』(メ〜テレ)では釜山国際映画祭 2021のASIA CONTENTS AWARDSにてBest Newcomer-Actor賞を受賞。その劇場版は第73回カンヌ国際映画祭「Official Selection2020」作品に選出された。ミュージカルでは、2020年の『ウエスト・サイド・ストーリー』Season2で主演トニー役、2021年の『ジェイミー』で主演ジェイミー役、2022年の『ピピン』日本公演の単独主演、2023年3月から5月までミュージカル 『SPY×FAMILY』で主演のロイド役を務める。歌手としては、2008年にダンスボーカルユニット「PRIZMAX」に加入し、メインボーカルを担当。2020年7月、「MORISAKI WIN」として1st EP『パレード – PARADE』でメジャーデビューし、音楽配信チャート1位を獲得するなど話題に。5月には1stアルバム『Flight』をリリースし、5つの音楽配信サービスで1位を獲得。2022年は『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』(テレビ朝日系)の主題歌を担当した。2023年4月19日、2枚目のフルアルバム『BAGGAGE』をリリース。4月から6月は初の全国ツアー「MORISAKI WIN JAPAN FLIGHT TOUR」を開催。InformationNew Release『BAGGAGE』【DISC1】(収録曲)01. Move out02. Perfect Weekend03. Live in the Moment04. Me, Myself and I05. No Limited06. Love won’t die07. anymore08. BeFree09. My Place, Your Place2023年4月19日発売*【DISC1】収録曲は全形態共通。<ECONOMY(DISC1 Only)>COCB-54356¥3,000(税込)<class W(2CD+Blu-ray+豪華フォトブック)>COZB-2006〜8¥12,000(税込)*三方背スリーブケース仕様。【DISC2】*<class W>のみ付帯。ACOUSTIC LIVE「CHRIS’s CHRISTMAS TIME IS HERE」2022 (at CottonClub Liveより)01.Take A Look At Me Now(フィルコリンズ/映画『カリブの熱い夜』より)02.SINGIN‘IN THE RAIN(映画、ミュージカル「雨に唄えば」より)03.Waving Through A Window(映画、ミュージカル「ディア・エヴァン・ハンセン」より)04.Fly Me to the Moon (ジャズのスタンダード・ナンバー)【Blu-ray】*<class W>のみ付帯。『MORISAKI WIN LIVE FIRST FLIGHT』(恵比寿ザ・ガーデンホール 2021/9/20)『MORISAKI WIN -Dancing Charter Night Flight- TYO』(人見記念講堂 2022/5/5)写真・幸喜ひかり 取材、文・かわむらあみり スタイリスト・森田晃嘉
2023年04月16日フィリピン発、釜山行きの貨物船に乗っているのは、現地で逮捕された極悪犯罪者たちと、彼らを護送する刑事たち。“海上の監獄”と化した船内では、やがて血で血を洗うサバイバルが繰り広げられ…。容赦ない残酷描写が話題となり、各国のジャンル映画祭でも注目を集めた『オオカミ狩り』に、日本でも人気のソ・イングクが出演。極悪犯罪者の1人であり、刑事たちに牙を剥く男ジョンドゥを嬉々として怪演している。2012年の初主演ドラマ「応答せよ1997」から「ショッピング王ルイ」「空から降る一億の星」、そして昨年の「美男堂の事件手帳」まで、スウィートな役も哀愁漂う役もユーモラスな役も自在に演じ上げてきた彼は、全身にタトゥーを施した狂気の殺人鬼にどう向き合ったのか。韓国とのリモート画面越しには、柔らかな笑顔のソ・イングクがいるのだが…。演じたジョンドゥには詳細な設定が「とりあえず内緒」――ジョンドゥは残虐性の塊のような男ですね。その通りです。そんな彼を演じるのは、体に電流が走ってゾクッとするような体験でした。役というものは僕自身に似たものもあれば、共通点の少ないものもありますが、ジョンドゥは僕には全くない暴力性や残忍さを持っている役です。とは言え、僕なりの表現を用いて演じることに変わりはありません。与えられた役や物語を上手く表現したい気持ちで彼を自分の中に作っていくのは、とても楽しい過程でした。――囚人仲間にウィンクをしたり、人を殺すときに軽く笑ったり。ソ・イングクさんのウィンクや笑顔を見て、ときめくのではなくゾッとさせられる日が来るとは…。リハーサルのときに試してみたところ、監督がすごく気に入ってくれたんです。なので、本番でもやってみました。ウィンクをしたり、笑顔を見せたりしても、キャラクター次第で残忍に見えることもあるんだなと学びましたね(笑)。――劇中では、ジョンドゥの生い立ちや背景はあまり明かされません。実は、ジョンドゥの過去については監督の中に詳細な設定が出来上がっていました。彼がどんな人生を送ってきたのか。それを教えてもらった上で演じたのですが、この『オオカミ狩り』が大ヒットしたら、続編で彼の前日譚を語るプランもあって。今は状況を見極めているところですが、続編を作る可能性もなくはなく…。なので、ジョンドゥの過去についてはとりあえず内緒にしておきます(笑)。細部から徹底した役作り――これまで様々な役を演じてきた中、決まって実践するアプローチ方法はありますか?いろいろありますが、まずは台本を受け取った後、監督も交えて細部を入念に話し合います。その人物の行動、習慣、癖、歩き方、話し方に至るまで。例えば、(ナチュラルな口調で)「こんにちは。お会いできて嬉しいです」と話す人なのか、(荒っぽい口調で)「こんにちは。お会いできて嬉しいです」と話す人なのか。話し方1つからいろいろ試し、ディテールを作り上げていきます。――ジョンドゥはどんな「こんにちは」だったんですか?これ以上は無理というほど軽いトーンの「こんにちは」です。それでいて、鋭さも含んでいる。ぶっきらぼうでつっけんどんで、無礼な人をイメージしました。――「僕自身に似た役もあれば、共通点の少ない役も」とおっしゃっていましたが、演じてきた中でご自身に通ずる要素が多い役はどれですか?あえて1人を選ぶとしたら、「応答せよ1997」のユン・ユンジェだと思います。彼も僕も小心者ですから(笑)。――キュートなところも共通点ですか?たしかに、ユンジェはキュートで愛らしく見えます(笑)。ですが、素っ気なかったり、1人であれこれ悩んだり、嫉妬を見せたり、かと思えば周りに愛嬌を振りまいたり。友達に優しく接することもあれば、ふざけて悪戯をすることもある子…と僕は捉えています。役を選ぶポイントは「楽しめる役かどうか」――役を選ぶときに大切にしていることは?最も大事なのは、僕自身が楽しめる役かどうかです。楽しんでキャラクターを表現できるかどうか。楽しめなければ、本当の意味で役を演じることもできませんから。――1つを挙げるのは難しいでしょうが、今までで最も楽しめた役は?日本のタイトルは…、「元カレは天才詐欺師 ~38師機動隊~」でしたよね?ちゃんと覚えていますよ(笑)。この作品は本当に楽しかったです。すごく挑戦してみたい役柄(詐欺師)だったんですよね。撮影しながら、俳優としての成長を肌で実感することができました。それに、キャストが全員楽しい人ばかりで、現場の雰囲気がすごくよかった。もちろん、他の作品でもいろいろと学びましたし、楽しめましたが、特に印象深い作品の1つです。――ジョンドゥのような悪役も、挑戦したい役柄だったとか。「悪役を演じたい」とずっと言い続けていて舞い込んできた役でした。だからこそ演じる楽しさがありましたし、撮影現場自体も明るい雰囲気で。もちろん、安全第一でしたけどね。血糊だらけの船内でしたから、足を滑らせようものなら大怪我に繋がってしまいます。ただ、この現場の特徴としては、(物語の中で命尽きて)寝転がっている人が終始あちらこちらにいて。彼らが「カット!」のたびに立ち上がり、「あ~、腰が痛い」とぼやいているのがおかしかったです。撮影した映像はとことん残忍ですけど(笑)。――ソ・イングクさんの出演作には面白いものがたくさんあります。作品を見抜く力もお持ちのようですが、どんな映画やドラマが好きですか?普段からいろいろな作品を見ますが、最近のお気に入りは『THE FIRST SLAM DUNK』ですね。子供のころに親しんでいた作品なので、あの感動を映画館で味わうことができて嬉しかったです。あと、Netflixの「ウェンズデー」も。登場人物たちがみんな魅力的でしたし、もともとティム・バートン監督の描く作品世界が大好きで。ああいったダークでファンタスティックな世界観にすごく惹かれます。――では、今度はダークファンタジーにもぜひご出演を!実を言うと、僕も今それを強く願っているところです!(渡邉ひかる)■関連作品:オオカミ狩り 2023年4月7日より新宿バルト9ほか全国にて公開ⓒ 2022 THE CONTENTS ON & CONTENTS G & CHEUM FILM CO.,LTD. All Rights Reserved.
2023年04月05日【音楽通信】第135回目に登場するのは“世界中の毎日をおどらせる”をテーマに、心地よい音楽を放ち続ける6人組バンド「Lucky Kilimanjaro(ラッキーキリマンジャロ)」のボーカル、熊木幸丸(くまきゆきまる)さん!大学のサークルで出会った6人で結成Lucky Kilimanjaroのフロントマン・熊木幸丸(Vo.)。【音楽通信】vol.1352014年に結成された6人組バンド、通称「ラッキリ」こと「Lucky Kilimanjaro」。2018年にEP『HUG』でメジャーデビューし、コンスタントにリリースやライブ活動を繰り広げて、2022年にはバンド史上最大動員の全国ツアーのファイナルをパシフィコ横浜にて開催し、大成功を収めました。バンドの要となっているのは、プロデューサーとしての目線でもメンバーを導いている、ボーカルの熊木幸丸さん。そんなラッキリが2023年4月5日に4thアルバム『Kimochy Season(キモチイシーズン)』をリリースされるということで、バンドを代表して、熊木さんにお話をうかがいました。――熊木さんが音楽に出会ったきっかけから教えてください。もともと両親ともに音楽が好きな家庭に育ちました。父は趣味でドラムやギターをやっていましたし、家族でキャンプに行くときも常に音楽が流れていて。僕自身は中学1年生ぐらいから「音楽を聴く趣味ってカッコいいな」という漠然とした思いから、CDショップでCDを借りるようになりました。ちょうどポルノグラフィティさんが発売されたベスト盤を聴いて「僕が好きな音楽ってこれかも」とビビッときて(笑)。そこからは自ら音楽を選んで、どんどん聴くようになったことが音楽人生のスタートですね。――日本のアーティストから聴き始めたと?そうですね。中学生では、ポルノグラフィティさん、Mr.Childrenさん、スピッツさん、BUMP OF CHICKENさんをよく聴いていました。自然とバンド形態の音楽に惹かれていって、ひたすらCDショップでレンタルしていました。――男性グループの曲をよく聴いていたんですね。確かに。中学生のときにカラオケによく行くようになって、自分で歌うことも好きになったので、カラオケで歌える曲を探して男性ボーカルの曲を聴くことが多かったのかもしれません。女性ボーカルだと、YUKIさんを聴くこともありましたね。――歌うことが好きで音楽の道を目指し始めたのでしょうか。当時は、ただ歌うことが好きなだけでした。中学3年でギターを始めてからは「ボーカルじゃなくてギターだ」と、自分の中のアイデンティティみたいなものが芽生えてきて。大学に入ってからはシンセサイザーも始めて、いろいろな音楽の広がりはあったんですが、就職活動をする頃になって「オリジナルのバンドをやりたいな」と思って始めたのが、Lucky Kilimanjaroなんです。だから、半ば趣味で始めたバンドといいますか。メジャーデビューするぞ、このバンドでやってやるぞという感じではまったくなくて。ちゃんと生活を考えたのはメジャーデビューしてからですね。――中学生のときにギターを始めたのは、何か曲を作ろうと?中学3年生は高校受験がありますよね。でも、僕は推薦で進学することが決まっていて、ほかの人より早く受験が終わって時間があったんです。友達はまだ受験勉強中だから遊んでくれないので、家にある父のギターを弾いたらモテるんじゃないかな、と思うようになって(笑)。熱中できるものが欲しいという気持ちもあって、ギターを始めてみました。――その後、大学のサークルで出会われた6人でラッキリを結成しています。いつから「世界中の毎日をおどらせる」というテーマを持つようになったんですか。もともとシンセを使って気持ちいいバンドをやりたいというのが、ラッキリのスタート時のテーマでしたが、「世界中の毎日をおどらせる」というコンセプトに至ったのは、メジャーデビューの時ですね。自分たちがどういうふうに楽曲を聴いてくれる人たちと向き合うのかを考えると「やっぱり踊らせたいよね」という意見が最初に合致して。バンドを通じてみんなが踊ってくれる、そういう社会を目指そうというところで、このコンセプトを立ち上げました。――熊木さんは、バンド活動と並行されてHey! Say! JUMPやDISH//などにも楽曲提供されています。そのソングライティング力の高さが周知されていてのオファーということですよね。オファーをみなさんからいただくときは、「ラッキリが好き」「聴いていて一緒にやってみたいと思った」と言ってくださることが多いです。そのなかで一緒にお話しさせていただいて、「この人のどういう面をブラッシュアップしたら面白いかな?」と僕なりに考えながら、制作をまとめていく感じですね。新作で「気持ちよく変化を伝えていく」――2023年4月5日、4枚目のアルバム『Kimochy Season』をリリースされます。これまで1年ごとにコンスタントにアルバムをリリースされていますが、今作に込められた思いをお聞かせください。たとえば、昨年はロシアとウクライナの戦争が始まったり、自分自身は結婚したり、非常に変化を感じることが多い時期を過ごしていました。それこそコロナ禍の状況もいろいろと変わっていくなかで、心がざわざわする年を過ごしながら、「こういう変化というものが実は人生には当たり前にあって、むしろ同じところに居続ける状態がもしかしたら普通ではないんだろうな」と思うようになって。そうなると、この変化をいかに乗りこなすかが、自分にとっても、僕らの音楽を聴いてくれる人にとっても、心を豊かにするひとつの方法になるんじゃないかと思って、「変化について歌おう」と思ったのが今回のアルバムにつながる思いの最初ですね。それを昨夏にシングル「ファジーサマー」として発表して。今作にも収録されているんですが、そこで思いを表現して、気持ちよく変化を伝えていこうというのが、今作のコンセプトになりました。――「ファジーサマー」がアルバムの発端、軸になっていたんですね。2曲目に「Kimochy」というアルバムタイトルにもかかるワードの楽曲があるので、この曲もアルバムの軸になったのかなと思いきや。むしろ「Kimochy」は補完的といいますか。変化を味わってねと言うと、かたい表現になってしまう気がして脱出方法を探していたときに、この「気持ちいい」という単語を英単語で書くことを思いついて。「やっぱり大事なのは結局、気持ちよさだよな」と。変化を楽しんで、気持ちよく思えるようにと、「Kimochy」という曲を書きました。アルバムは、季節の変化を聴いてくれる方にも感じやすいように、季節にまつわるサウンドや歌詞も書いています。――3曲目「Heat」は、どんなふうに生まれた曲ですか。僕、冬がすごく苦手なんです。寒さもあって100パーセントは能動的に動けなくなって、それはまるで人生を変化させてはいけないような感覚になるので(笑)、そこに熱を入れることで自分の人生を能動的にして、変化を生み出していこうという楽曲です。クールなサウンドがありつつ、ダイナミックに動くことは大切に組み上げていきました。アルバム全体でいうと、冬から始まって、最後は秋の曲で終わるという構成です。ワンシーズンがきれいに一周するようなイメージでまとめました。――6曲目「またね」は春の歌ですね。はい。春といえば、一番辛い変化は喪失だと思っていて。たとえば学校を卒業したり、仕事で転職したり、そういう瞬間は不安になることもありますよね。でも別れやさよならが未来への期待に変わるように、ダンスミュージックとして描いた曲ですね。喪失から何かが始まるといつも思っているから。自分の中で新しい道が見えているからこそ、何か前に進み出せるような力が持てるんだと思っていて、そういう気持ちを肯定して、より動かせるようにしたい気持ちを込めています。――どの曲も言葉選びにセンスや遊び心を感じさせます。熊木さんはバンドのフロントマンでもあり、全曲の作詞作曲を手がけていますが、いつもどのように歌詞が浮かび、曲を作っていかれるのでしょうか。僕が全部の曲のプロデュース、サウンドデザインをしていますが、曲によってスタートは違いますね。ギターを弾き語って言葉を思い浮かべながら歌っていって作ることもあれば、「これいいな」と直感で楽曲が生まれてきたり。でもどんな曲も、「こういうことを歌いたいな」というものが最初にありますね。あとは、あまり作品にする気はなくて、自分の練習として家の中でセッションをやっていて、「これいいかも」となったものをふくらませていくことも。けっこうランダムですね。――それはどういうときにひらめくんですか?いつでもありますね。たとえばこうやってインタビューさせていただくなかで、答えている僕の言葉って、ほぼ反射的に出ているもので。話しながら、「こういうことだと思うなあ」というようなところから、アイデアが出たりするんですよね。お風呂に入っているときも、本を読んでいるときも、Twitterを見ていて「これ面白いかもな」というところからも。――では日常的にいろいろなものに刺激を受けるといいますか。そうですね、やっぱり自分のビビッとくるところって、事前に準備ができないんですよね。それゆえにそこは系統立てないようにしようと思っています。だから、無駄なこともいっぱいやりますし、なんか面白くなさそうだけどとりあえずやってみるか、ということもいっぱいあります。――そういったこともおひとりで全部できてしまうわけですが、バンドで表現していく、ということが重要なところなんですよね?そうです。制作においてメンバーはむしろ、僕にアドバイスをくれる人たち。僕がワガママで出しているものに対して、「こっちのほうががいいんじゃない?」と提案してくれるアドバイザーのような存在です。ライブは、僕が作ったものを最終的にパッケージとして、どうやってお客さんとのコミュニケーションに落とし込むかという作業だと思っていて、そこはメンバーの力をふんだんに借りています。アレンジを組み替え直したりするような面でも、バンドの面白さが、Lucky Kilimanjaroらしく表現できているのかなと思っています。――Lucky Kilimanjaroらしい、というのはどういうことだと思われますか?それはメンバーに関わらずスタッフも含めて、Lucky Kilimanjaroという概念が成すお客さんとのコミュニケーションにおいて、チームで「世界中の毎日をおどらせる」ことに対して、それぞれが持つ引き出しの中からどういうアプローチができるかを考え続けられるのが、Lucky Kilimanjaroらしさなのかなと。――では一番聴き手の反応が見えるのがライブかと思いますが、5月から7月まで「Lucky Kilimanjaro presents. TOUR “Kimochy Season”」と題した全国ツアーを開催されますね。2022年は自分たちのワンマンだけではなく、フェスにもたくさん出させていただきました。そのなかで、お客さんが自由に、自分の気持ちを整理せずにそのままアウトプットできる場として、ライブをもっと続けたい気持ちが強くなって、より自由に踊ってもらうためにはどうしたらいいかを研究し続けた1年だったんです。そこから2023年になって、今回のアルバムは僕が好きなダンスミュージックをふんだんに取り込んでいて、よりみんなが心で踊れるライブができるんじゃないかなと思っていて。昨年の経験とこのアルバムがあれば、みんなが自由にとても楽しく気持ちよく踊れる空間を作れるはずだと、気合が入っています。ひたすら「いま面白いことをやりたい!」――お話は変わりますが、おやすみの日はどうお過ごしですか。音楽以外の時間だと、ご飯を食べたり、お酒を飲んだりすることが好きです。アルバムにも、お酒の曲がありますが、お酒を飲む時間がたまらなく好きで(笑)。本を読むのも好きですし、そうやって違う世界に連れて行ってくれる時間が大事ですね。あとはゲームがすごい好きなんですよ。小さいときはゲームデザイナーになりたいときもありましたね。――デザインをする側にご興味を持たれていたんですよね。ずっと物作りが好きなんです。両親が広告のデザインの仕事をやっていこともあって、当たり前に物作りの環境が家の中にありました。――クリエイティブな環境でずっと育っていらっしゃるんですね。小さい時からパソコンに触らせてもらって、描いたイラストを額縁に飾るような家庭だったので、クリエイティブに対して非常に伸ばしてくれるといいますか、認めてくれる家でしたね。そこから物作りが楽しくて、刺激的なことなんだと、自分の中の土台になっている感じがあります。――スタイリッシュな印象がありますが、ファッションで意識されていることは?楽な服装が一番好きです。外出着よりも、部屋着をいろいろと持っていますね。音楽を制作するなかでの楽さを重視して、サイズ感とかデザイン感で服を選んで、着て気持ちよくなる服が自分のなかのモードです。――今回のアルバムは変化がテーマというお話をされていましたが、生活の変化という面では、ご結婚されたというお話もされていましたね。メンバーでシンセサイザーを担当している大瀧真央と結婚しました。もともと一緒に暮らしていて、猫も飼っていた生活のままなので、あまり変わった実感はないんです。でも、やっぱり心持ちは、ちょっと違いますね。入籍してから1年ぐらいになりますが、心持ちのちょっとした変化は、作品にも入っているのかなとは思っています。ただ、より変化を感じるのは、これからなのかも。ふたりの生活が深まっていく時に、また新しい変化が生まれて、それを楽しめるといいなと。――ご両親がクリエイティブな環境を用意してくれたというお話もされていましたが、熊木さんのご家庭も未来の環境を整えようと考えることも?少なくとも自分の家族や自分がいる空間は、何かに挑戦できたり、ちょっと面白くなれたり、そういう気持ちよさがあるといいなと。この間も、リビングにDJミキサーを置こうかと考えて話すと、「邪魔だろ」と言われたり、でも「面白いかも」と言われたり(笑)。そういうふうに、自分のスタイルを決めこまず、心持ちも家庭の環境もどんどん変化を楽しんでいきたいです。――いろいろなお話をありがとうございました! では最後に、今後の抱負をお聞かせください。個人的には、まだダンスミュージックや音楽で能動的に気持ちよく踊る体験に対して、すごくマイノリティだと考えていて。もっとみんなが自分の気持ちを自然に発露できるものとして、ダンスミュージックをちゃんと広めたいと思っています。まずはそこを突き詰めるのが当面の目標ですね。自分自身のことでいえば、音楽以外のことには飽きっぽいので、飽きないように楽しく何かをやり続けたいかな。あまり大きな目標もなく、ひたすら「いま面白いことをやりたい!」という感覚でいます(笑)。その積み重ねでいつの間にか知らないところにいると思うので、楽しみながら、活動していこうと思います。取材後記心地いい音楽でわたしたちを踊らせてくれる6人組バンド、Lucky Kilimanjaro。ananwebでは今回、バンドのフロントマンの熊木幸丸さんにご登場いただきました。インタビュー中に、メモを取る熊木さん。取材を受ける側の方がメモする姿が「珍しい」とお話しすると、「よく言われます」と笑顔。あふれでる発想力で、今後も素敵なダンスミュージックを届けてくれるはずです。そんな熊木さんのいるラッキリのニューアルバムをみなさんも、ぜひチェックしてみてくださいね。写真・幸喜ひかり取材、文・かわむらあみりLucky KilimanjaroPROFILE2014年、同じ大学の軽音サークルで出会った6人でバンド結成。2018年、EP『HUG』でメジャーデビュー。以降、コンスタントに配信リリースやライブ活動を展開。2020年にはメジャー初のアルバム『!magination』、2021年には2ndアルバム『DAILY BOP』、2022年には3thアルバム『TOUGH PLAY』をリリース。アルバムを携えたバンド史上最大動員の全国ツアーのファイナルをパシフィコ横浜で開催した。2023年4月5日には4thアルバム『Kimochy SEASON』をリリース。5月から7月は全国ツアー「Lucky Kilimanjaro presents. TOUR “Kimochy Season」を行う。InformationNew Release『Kimochy SEASON』(収録曲)01. 一筋差す02. Kimochy03. Heat04. 越冬05. 掃除の機運06. またね07. 咲まう08. 千鳥足でゆけ09. ファジーサマー10. 地獄の踊り場11. 闇明かし12. 辻13. 山粧う14. Kimochy(outro)2023年4月5日発売(通常盤)MUCD-1513(CD)¥2,970(税込)写真・幸喜ひかり 取材、文・かわむらあみり
2023年04月02日【音楽通信】第134回目に登場するのは、心地よいグルーヴ&ハーモニーを響かせ、新メンバーを迎えて第二章を迎えたボーカルグループ、Little Glee Monster(リトルグリーモンスター)!歌が好きな音楽を愛する6人が集まった写真左から、かれん、MAYU、ミカ、アサヒ、結海、miyou。【音楽通信】vol.134力強い歌声と高度なアカペラをも歌いこなせる透き通ったハーモニーで、数々の楽曲を世に送り出してきた女性ボーカルグループ、通称“リトグリ”こと「Little Glee Monster」。2014年にシングル「放課後ハイファイブ」でメジャーデビュー以降もコンスタントに作品を発表し、2018年には初のアジアツアーを成功させるなど日本国内にとどまらない活躍ぶりで、脚光を浴び続けています。2022年に新メンバーを募集し、オーディションで7002人の応募者の中からミカさん、結海(ゆみ)さん、miyou(みゆ)さんの3人が加入。先輩メンバーとなったかれんさん、MAYUさん、アサヒさんの6人で、第二章をスタートしました。そんなリトグリが2023年3月22日に新体制となって初めてのEP『Fanfare』をリリースされるということで、先輩メンバーからMAYUさんとアサヒさんに、新メンバーから結海さんとmiyouさんにご登場いただき、お話をうかがいました。――今回はメンバー4人に集まっていただきました。おひとりずつ、お名前とご自身のチャームポイントから、教えてください。MAYUMAYUです。「手が細長いね」と褒めていただくことが多いので、手がチャームポイントです。アサヒアサヒです。チャームポイントといえば、えくぼでしょうか。結海新メンバーの結海です。チャームポイントは……きれいな眉毛です。miyou新メンバーのmiyouです。チャームポイントは、きれいな歯にします(笑)。――自己紹介ありがとうございます。Little Glee Monsterは2014年10月にシングル「放課後ハイファイブ」でメジャーデビューされて約10年経ちますが、先輩メンバーのMAYUさん、アサヒさんは振り返るといかがですか。MAYU 10代から20代という一番変化のある年齢をリトグリとして過ごしてきました。上京してきたメンバーもいたので、家族よりも近くでアーティストとして、人間として成長する姿を見てきていて。メンバーは同級生や地元のお友達とは違い、本当に「歌が好き」という理由だけでオーディションに応募してきた仲間です。アサヒは北海道出身ですし、私は大阪出身なので、この機会がなかったら出会うはずのなかった存在と出会えました。アサヒ本当にあっという間でした。最初はデビューできてうれしい気持ちと、デビューしてもやっぱり下積みが大事なので、一歩ずつ乗り越えてこうして10年目を迎えられるのは、これまでの積み重ねがあったからこそだなと。いま新メンバーと一緒に、素晴らしい10年目を迎えられたのは本当にうれしいですね。MAYU 昨年の夏にまたオーディションをして、わたしたちと同じく「歌が好き」というひとつの理由で集まった新しい仲間3人と出会うことができました。いろいろな変化を経験してきた濃い10年になりましたね。――2022年は5名体制から2人が卒業し、新メンバーを募集して、7002名の応募者からオーディションで勝ち進んだミカさん、結海さん、miyouさんの3人が加入しましたよね。昨年11月から6人の新体制になりましたが、新メンバーの結海さん、miyouさんの現在の心境は?miyou本当にびっくりすることがたくさんあります(笑)。これまで一視聴者としてリトグリの音楽を聴いていたときは、ただ「楽しい」という大きな感情しか抱かなかったんですが、加入してからは「すごいな」という尊敬の気持ちと、ひとつの曲に対していろいろな角度から練習したり、「こんなことを考えて歌っているんだ」と学ぶことがあったり。以前とは考え方や感じ方がすごく変わりましたね。結海先ほどアサヒさんも言っていたんですが、お姉さんメンバーのこれまでの長い積み重ねがあったからこそ、私たち新メンバー3人はまだ実績がなくてもすぐテレビに出られたり、すぐ大勢のお客さんの前で歌を披露する場が設けられていると思うんです。だから、日々感謝の気持ちを持ちながら、リトグリとして活動しています。新体制で初めてのEPをリリースMAYU。1999年9月12日、大阪府生まれ。メンバーカラーはエメラルドグリーン。――2023年3月22日に新体制で初めてのEP『Fanfare』をリリースされます。まずはアルバムタイトルの意味と、今作にも収録の昨年配信された新体制の初シングル「Join Us!」への思いなどからお聞かせください。MAYUアルバムタイトルは、「Join Us!」の歌詞に「ファンファーレ」という言葉が出てくることから付けました。「Join Us!」には、6人体制になって新たな出発をするお祝い、みんなで次のステップに行こうという意味があったので、そんな気持ちで歌っています。アサヒEPのジャケ写は明るくて華やかなイメージになっていますが、収録曲はどちらかというと、カッコいい曲や今までにないような感じのものもあって、多彩な曲が入っています。MAYU色とりどりに鮮やかでかわいいジャケ写と、中身のギャップも楽しんでもらえる要素かなと思います。――2曲目「WONDER LOVER」は、ダンサブルで大人っぽい楽曲ですね。miyou個人的には今まで歌ったことのないジャンルの曲でした。リトグリとしても、すごく新しい角度の楽曲で、新しい一面をお見せできた曲ではないかと思います。アサヒ。1999年5月13日、北海道生まれ。メンバーカラーはサンフラワー。――小粋でファンキーな3曲目「Rolling Rolling Rolling」についても教えてください。MAYU言葉遊びや歌い回し、メロディが独特で耳に残るんですが、歌うのはとても難しい曲ですね。「どこで息をしたらいいの!?」というくらい息をするタイミングがなくて。ひとりで歌うと大変な曲なので、ファンのみなさんがもしカラオケで歌うときは、2人以上がいいと思います(笑)。でも、みんなで盛り上がる曲でもあるので、どんどん歌っていただきたいですね。展開が変わったり、言葉のあてはめ方や区切る位置など、いろいろなパターンがある曲なので、私は歌うより、聴いてるほうが楽しいかも(笑)。アサヒ確かに、けっこう文字数が多い歌詞だから、口がまわらないことも(笑)。MAYUちょっとラップを歌っているような感じもあるんです。ここまで全部がすごくはやいラップっぽさのある曲は「Rolling Rolling Rolling」が初めてで。面白い曲ですし、カッコよさもある曲。「これリトグリ?」と思ってくれる意外性のある曲になるのではないかなと思います。アサヒ耳には残るから、わりとすぐに覚えられる曲なんですが、実際に歌い回しや歌い続けられるコツを習得するのは、意外と時間のかかった印象がありましたね。結海(ゆみ)。2004年5月29日、東京都生まれ。メンバーカラーはガーネット。――4曲目「HELLO NEW DAY」は、明るくて元気になれるような楽曲ですね。どのようなことを意識して歌いましたか。結海この曲は、「1日の始まりがみんなにとってハッピーでいい日になったらいいな」と思いながら、歌わせていただきました。miyou始まりといえば、新生活を迎える学生の方が聴いても、楽しい曲になっているのではないかと。結海毎朝、登校中に聴いていただいたり。miyouそう、楽しい気分で学校に行けるんじゃないかな。結海新生活にぴったりな曲となっております。――5曲目「Million Miles」は「2022富士山女子駅伝」テーマソングだった爽やかな楽曲ですね。結海ライブではすでに歌わせていただいてますね。MAYU実はこの曲は「Join Us!」の次に、6人体制でレコーディングした曲なんです。だからこの曲を聴くと、まだ6人になって間もなかった時期の声を思い出しますし、6人になってまた頑張っていこうという気持ちも重なる部分もあって。駅伝のテーマソングとして歌わせていただき“バトンをつなぐ”思いを込めて歌っているのですが、私たちもグループとしてあとにつないでいくという意味が重なる部分もあって、すごく好きな曲になりました。歌いつないでいく構成にもなっている素敵な曲です。miyou。2003年2月12日、大阪府生まれ。メンバーカラーはターコイズ。――今回、レコーディングの際は、先輩メンバーはどんなふうに新メンバーの方にアドバイスをされたんでしょうか。アサヒ……とくに何も先輩らしいことしてない(笑)。MAYUかもしれない(笑)。レコーディングでは、新メンバーの3人は基本的にみんなワンコーラスずつ歌って、歌割りを決めて、ひとりずつ録っていくスタイルでした。私たちも昔からひとりずつ録るんですが、新メンバー3人が「勉強しよう」と言って、一番器用に歌うオールラウンダーのかれんのレコーディング風景を見学しに行っていましたね。でも、私とアサヒは「恥ずかしいから来ないで〜」って(笑)。まだレコーディングにも慣れないなか、3人が自分たちで熱心に学んでいる姿はとても素敵でしたね。私たちが何かをするときは、6人もいるので、待ち時間もすごく長いんです。でも、そこでたわいもない話をしたりして、だんだん打ち解けていきました。空き時間も大事な時間になったと思います。――今年の4月と5月には「Little Glee Monster Live Tour 2023 “Fanfare”」と題した東名阪のホールツアーが行われます。どのようなステージになりますか。miyou新体制を華やかに祝う“Fanfare”になるように、私たちの新しい声や新しいリトグリをたっぷりと披露させていただこうと思っています。6人でさらにリトグリの音楽を盛り上げていきたい――お話は変わりますが、みなさんは普段、美容面で気をつけていることはありますか。結海リトグリに加入させていただいてから、メイクさんにメイクをしていただく機会がすごく増えて、「肌をきれいにしないとな」と思い始めていたので、毎日パックをするようになりました。お風呂上がりにパックをして、外したあとには卵のように肌がツルツルになっているので、毎晩楽しみなんです。miyou私は水をいっぱい飲みますね。冬は寒いので、寝る前と朝起きたときに、白湯を飲むんですが…。MAYUえ! 意識高い!!miyouいえいえ〜(笑)! ただ、朝に白湯を飲むと、すぐ目も覚めるんです。味がないので、寝起きでも飲みやすくて。寝る前は、カラダもあったまって、ゆっくり寝れるのでオススメですよ。アサヒ私はあまり汗をかきにくいタイプなので、長くお風呂に入って、じんわりと汗をかくまで湯船に浸かるようにしていますね。MAYU私は高校生のときから美白成分が入っている同じ化粧水をずっと使っているんですが、久々にお会いした人に「肌、白いね」と言われることもあって。結海、miyouすごい〜!!MAYUもともと夏でも日焼けを気にしないようなタイプなんですが、きっと美白化粧水のおかげだなと思いましたね(笑)。即効性はないけれど、地道に積み重ねてきた結果は出るという。今後も続けていくと思います。――オフの日はどんなふうに過ごしていますか。結海ドラマや映画を観るのが好きなので、よく観ていますね。最近は、映画館で映画『タイタニック(タイタニック:ジェームズ・キャメロン25周年3Dリマスター)』を観ました。miyou休みは家でなんにもしない日もありますし、ちょっと外出してリフレッシュしたいときは古着屋に行っていますね。かわいい服を見て、テンションを上げています。MAYU私も極端なんですが、1日ベッドで天井を見て終わる日もありますね。あとは友達が運転する車でドライブに行ったり、カラオケが好きなのでお酒を飲みながらカラオケをしたり。仕事で毎日のように歌っていますが、自分の中でカラオケはまったく別物なので、リフレッシュするためにカラオケによく行きます。アサヒ私は家から少し遠い場所にある回転寿司屋まで歩いて食べに行っていますね。miyou歩くの好きですよね?アサヒうん、人のマイブームをよく覚えてるね(笑)。遠い場所にお店があることによって、行くことで、少し運動を兼ねてるの。歩いて、食べて、歩いて…。結海プラマイゼロ!アサヒそう、プラマイゼロ(笑)!――ではみなさん、プライベートで今年やってみたいことはありますか?アサヒ今年は、免許を取りたいです。miyou私は最近引っ越しして、まだ何もないので、部屋を落ち着く場所に作り上げてみたいです。結海私はまだ髪の毛を染めたことないので、ちょっとでもいいので、染めてみたいな。MAYU今年、高校卒業でね。結海はい、卒業したらやってみたいですね。MAYU私も髪かな。いま髪を伸ばしているんですが、一度ショートカットにして、そこからまたのばしています。短くてもいいんですが、結海ちゃんぐらい髪の長さがあるほうが、ステージ映えして迫力も出るかなと。さらに長いエクステもつけたら、けっこういい長さになると思って、髪を伸ばしてからのことも楽しみにしています。――いろいろなお話をありがとうございました。では最後に、今後の「Little Glee Monster」としての抱負を代表してMAYUさんから教えてください。MAYU Little Glee Monsterは新しい3人の仲間に出会いました。6人ではすべてが初めての場所になっていきますし、ここからまた10年、そしてその先も長く活動していきたいと思っています。「いままで以上にキラキラして活動してるね」と言っていただけるように、6人でここからさらにリトグリの音楽を盛り上げていきたいですね。取材後記新たに6人体制となったLittle Glee Monsterから、ananwebではMAYUさん、アサヒさん、結海さん、miyouさんにインタビューさせていただきました。和気あいあいと楽しい雰囲気のなか、先輩メンバーのおふたりに導かれながら、新メンバーのおふたりもフレッシュに応えてくださいました。そんなリトグリのEPをみなさんも、ぜひチェックしてみてくださいね。写真・オイケカオリ(ライブ写真)取材、文・かわむらあみりLittle Glee MonsterPROFILE“研ぎ澄ました歌声で人々の心に爪痕を残す”ことをテーマに結成されたボーカルグループ。現在のメンバーは、かれん、MAYU、ミカ、アサヒ、結海、miyouの6人。2014年、シングル「放課後ハイファイブ」でメジャーデビュー。2017年には初の武道館単独公演のほか、Earth, Wind & FireやAriana Grandeのツアーサポートアクトを務め、2018年には初のアジアツアーを成功させるなど日本国内にとどまらない活躍を続け、4年連続でNHK『紅白歌合戦』に出場。2022年7月より、新メンバー募集オーディション「M∞NSTER AUDITION」を開催。7002人の応募の中からミカ、結海、miyouの3人が新メンバーに決定し、第二章をスタート。新体制での新曲「Join Us!」を同年12月に配信リリース。2023年3月22日に、新体制となって初めてのEP『Fanfare』をリリース。4月と5月に「Little Glee Monster Live Tour 2023 Join Us!」を東京と大阪にて開催。InformationNew Release『Fanfare』(収録曲)01. Join Us!02. WONDER LOVER03. Rolling Rolling Rolling04. HELLO NEW DAY05. Million Miles2023年3月22日発売*収録曲は全形態共通。(通常盤)SRCL-12449(CD)¥1,980(税込)(初回生産限定盤A)SRCL-12445〜46(CD+BD)¥4,180(税込)*BD:「Little Glee Monster Live Tour 2023 Join Us!」1月7日昼公演ライブ映像全曲収録。(初回生産限定盤B)SRCL-12447〜48(CD+Photo Book)¥2,860(税込)*Photo Book:「Little Glee Monster Live Tour 2023 Join Us!」東京公演のライブ写真で構成。写真・オイケカオリ(ライブ写真) 取材、文・かわむらあみり
2023年03月21日【音楽通信】第133回目に登場するのは、NHK連続テレビ小説『おちょやん』の主題歌「泣き笑いのエピソード」や『六本木クラス』挿入歌「残影」も収録されたアルバムを発表する、秦 基博さん!2021年に迎えたデビュー15周年を超えて【音楽通信】vol.1332006年のデビュー以降、コンスタントに作品を発表し、多彩なライブ活動を展開しているシンガーソングライターの秦 基博さん。心に響く歌声で、わたしたちを魅了し続けてくれています。2021年にはデビュー15周年というアニバーサリーイヤーを迎えて、横浜アリーナと大阪城ホール、さらには日本武道館でコンサートを開催。2022年はドラマ『六本木クラス』挿入歌「残影」をリリースするなど、これまでに数々の映像作品やCMソングを手掛けています。そんな秦さんが、2023年3月22日に7枚目のオリジナルアルバム『Paint Like a Child』をリリースされるということで、お話をうかがいました。――以前ananwebでは、今回のアルバムにも収録されたNHK連続テレビ小説『おちょやん』の主題歌「泣き笑いのエピソード」のリリース時(2021年1月)に取材させていただきました。あれから2年、本格的にコロナ禍となって、現在は対策などにも慣れてきた時期ですね。いわゆるステイホーム期間はいろいろなことが止まって、音楽制作もライブも中止になりましたが、次第にその状況をみんなが受け入れっていっていたような時期でもありました。そんななかでも少しずつレコーディングも進んでいましたし、無観客の配信ライブを行うなどのできることを模索しましたね。2021年は、大きな会場でライブも開催させていただきました。――15周年を迎えられてのライブは、いつもと違った感慨深さはありましたか。そうですね。横浜アリーナと大阪城ホールの公演では、1日ずつ内容を変えて、初日に弾き語り、2日目にバンドスタイルと2daysで内容を変えました。15年間やってきた音楽スタイルがひとつではなく、弾き語りやバンドアンサンブルといろいろとやってきたので、両方を楽しんでもらえる2日間にしたくて、内容を変えて公演しました。15年のキャリアを経て、みなさんと一緒に大きい会場でライブを共有できる幸せを実感できましたね。3年3か月ぶりのニューアルバムが完成――2023年3月22日に、7枚目のニューアルバム『Paint Like a Child』をリリースされます。3年3か月ぶりとなるアルバムですが、いつ頃から制作されていましたか。2021年の秋ぐらいから、本格的にアルバムに向けた曲作りを始めました。――タイトルは、ピカソの残した言葉からつけたそうですね。以前から、すごく好きな言葉だったんです。いろいろなことを成し遂げてきたピカソほどの人が、晩年に「ようやく子どものような絵が描けるようになった」という言葉を残していて。子どものように無垢で無邪気で自由な表現が、さまざまなことを経験した先にあるんだとすれば、それは音楽を作るうえでも、ひとつの指針になるといいますか。自分でも、そんなふうに自由に音楽をより表現できたら楽しいな、という思いをずっと持っていました。だから、そのピカソの言葉が心の中にずっとあって、今回のアルバムを作るうえでのコンセプトにもふさわしいと思ったんです。いまの自分の思うままに、やりたいことを1曲ずつ突き詰めた結果、思い描いたアルバムが出来たと思います。――既発曲としては、2022年のテレビ朝日系木曜ドラマ『六本木クラス』挿入歌「残影」や『映画ざんねんないきもの事典』主題歌「サイダー」も収録されていますね。「残影」は、主人公のテーマということでしたので、彼がどんな人物でどうやって人生を過ごして、どんな思いでいるのかというところが、曲のもとになっています。圧倒的な絶望感があっても、心折れずに進む鉄の心を持つ主人公とまったく同じではないにしても、自分の中にもある絶望感やそれに抗うように前に進んでいこうとする気持ちを照らし合わせながら、曲を作っていきました。「サイダー」は、『ざんねんないきもの事典』で描かれる動物たちが“ざんねん”と言われてしまうけれど、生命が生きていることの喜びがそこにあると思ったんです。それぞれの個性は、もしかすると人から見たら残念に思われることだとしても、そもそも存在している、生きていること自体の素晴らしさや歓びを歌いたいと「サイダー」という曲が完成しました。――アルバムのタイトル曲でもある新曲「Paint Like a child」は、未来や希望を感じさせるナンバーですね。僕はだいたいメロディやサウンドから曲を作っていくんですが、この曲は、アルバムを象徴する1曲目になるような曲を作りたくて書きました。制作過程で、アルバムのタイトルを先に決めたのですが、そのタイミングでこの曲の歌詞を書いていたこともあり、タイトルトラックになりました。――新曲「Life is Art!」は明るくてどこか懐かしいナンバーですが、この曲はどのようなことをイメージして作られたのですか。ライブでもみんなで一緒に楽しめるレパートリーを、アルバムの中でも作りたい、と思って書き始めた楽曲です。歌詞では、カラフルな世界が描けたらいいな、というイメージがあったので、具体的に青や黄色、マゼンタなどの色を入れています。――新曲「イカロス」は、ピアノの調べに乗せて切ない心情を歌うバラードですが、どのように生まれた曲でしょうか。アルバムに向けて曲作りを始めたときに生まれた曲で、純粋にこういうメロディやサウンド感を作りたくて。ピアノが中心になりながら、コーラスの広がりや、シンセベースの重低音が彩どるサウンドのイメージがあって、サウンドが固まったときに、自然と“喪失”をテーマに歌おうと思ったんです。とはいえ、喪失に関する特別な理由があったわけではありませんが、できた曲の世界観に導かれながら、歌詞をじっくりと書いていきました。――この「イカロス」を主題歌にした映画『イカロス 片羽の街』が2023年2月からU-NEXTで配信されています。今回、「イカロス」にインスピレーションを受けた児山隆監督、枝優花監督、中川龍太郎監督の3人による、3本の映画が制作されました。「イカロス」のサウンドが出来たときに、その時点ではまだ歌詞はなかったんですが、メロディにすごく映像が合う、シーンや情景がすごく広がる曲だというイメージがありました。通常は、そこからミュージックビデオを作る流れになるんですが、今回は「映像との新しいアプローチはないか」という話になって。たとえば、タイアップがあればその作品に合わせた楽曲を書き下ろすことが多いんですが、逆に「曲をもとに映画を撮り下ろしてもらうことができないかな?」という話になり、3人の監督さんにオファーしたところ快諾してくださって、今回「イカロス」をもとにした映画化が実現しました。――すごいお話ですね、しかも一編ではなく三遍の物語があるという。本当に。「イカロス」という曲を物語にすると、どういう解釈を生むのか、どんな状況が広がるのか、とても興味深かったです。おひとりの監督さんに映画化していただくのももちろんうれしいのですが、何人かの監督さんがいると、曲からの解釈の違いや広がりがより感じられるので、お三方にお願いすることになりました。曲では“喪失”を歌っていて、映画では“喪失と再生”がテーマで、喪失した先の物語までを描いています。あとは僕の生まれた“横浜”が舞台というものがしばりとしてありましたが、それ以外は「自由に作ってください」とご依頼して、生まれてきた3つの物語でして。それぞれまったく違う物語が生まれました。内容はお任せだったので、出来上がるまでは監督のみなさんともお会いせずにいたんですが、完成してから取材で監督たちにお会いしたときに、それぞれの方のパーソナルな部分と結びついて、物語や映画が生まれるんだなと感じました。――秦さんの原曲から、監督がどのようにインスピレーションを受けたかということですものね。はい、曲をどう受け取ったかもそうですし、ご自身のどういう経験や思いと結びついたのか。いざ情景になったときに、どうやって映画になるのかなど、面白かったですね。映画監督は、そうした思いを映画で表現すると思うんですが、僕の音楽を受け取ったみなさんも、いろいろな景色や物語が広がって、それぞれに描いているものがあるのかなと。そういう広がりのある曲が書きたいと思っていますし、自分の音楽からみなさんの世界が広がっているといいなと思います。――ジャケ写はカラフルな色で絵が描かれていますね。実際に子どもたちが集まって、いろいろな絵を描いてくれました。クリエイティブディレクターの方のチームのアイデアで、アート教室に通う幼稚園生から中学生までの総勢46人の子どもたちが集まってくれたんです。「真っ白い紙に自由に絵を描いてください」とだけ言って、こんなに素敵なものができあがりました。――では、このアルバムがどんなふうに聴き手に届いてほしいでしょうか。僕自身は、音楽を作ることの楽しさと喜びを表現していけたらいいなと思うんですよね。もちろん生みの苦しみはついてまわるんですが、それも含めて、僕はこのアルバムで自分の描きたい音楽を思いっきり表現しました。だから、聴く方も楽しい気持ちやいろいろな気持ちになったりと、みなさんそれぞれの響き方や広がり方をしてくれたらいいですね。――4月から7月まで「HATA MOTOHIRO CONCERT TOUR 2023 ―Paint Like a Child―」と題した全国ホールツアーを開催されます。どのようなステージになりそうでしょうか。今回はバンドアンサンブルでまわる久々のワンマンツアー、アルバムの世界をライブで再構築することになります。もちろんいままでの楽曲たちも織りまぜながら、アルバムの世界を中心に、楽しんでもらえるライブを作れたらと思っています。ツアーで音楽を共有できる瞬間が楽しみ――アルバムは“子どもの落書き”のように、はみ出していく自由さや遊び心がテーマとなっていますが、秦さんご自身が子どもの頃、一番熱中した遊びはなんでしたか?熱中していたことでいうと、野球とバスケです。わりとスポーツに熱中していたんですが、どれも小学生ぐらいから始めたんです。それまでは絵を描くのが好きでしたね。――今回のアルバムをきっかけに、また絵を描いてみようとは?いや、この子どもたちが描いてくれた絵を見たら、なおさら描けなくなる(笑)。みんな思い思いに線を描いたり、好きな色を選んで好きなものを描いていて、それがなんでこんな素敵になるの? と。全部子どもたちが自由にやった結果こうなっていて、大人の僕が描こうとすると、うまく描こうとして邪念が入るので、いまは難しそうです(笑)。――子どもたちは最強ですね(笑)。では普段、ライフスタイルにおいて気をつけていることはありますか。普段は激しい運動などはしていないですが、歌を歌いますしカラダが楽器なので、ストレッチを中心にやるよう、ジムに行くときもあります。すごく鍛えるわけではないんですが、柔軟性は保っておかないとカラダが固まるとあまりよくないので、そのあたりは気をつけていますね。――喉は何かケアをされているのですか?すごく特別なことは全然していません。しいて言えば、乾燥に気をつけるぐらい。少し乾燥しやすいときは、喉に良いハーブティーを飲んで、喉を潤したりするぐらいですね。基本的には、あまりナーバスになりすぎると、逆に疲れてしまうから。昔は、あれをしなきゃ、これをしなきゃという意識も強かったんですが、気にしすぎるほうがマインド的に良くないなと思ってやめたら、気が楽になりました。アマチュアの頃なんて、たいしたケアもせず、水さえ飲めば歌えていたので(笑)。マインド的には、それぐらいでちょうどいいなと思っています。――いろいろなお話をありがとうございました! では最後に、今後の抱負をお聞かせください。この3年ぶりの新しいアルバムをみなさんにたくさん聴いていただきたいですし、ツアーでもみなさんにお会いしたいですね。音源を作って終わりではなく、ライブでみなさんと共有することで、その曲の本質を知るといいますか。「こういう曲の表情があったんだな」「この曲ってこんなふうに響いていくんだな」と、ライブをしてみないとわからないことがたくさんあります。そういったことを通して、やっと作品が完成していくから。ライブも楽しみですし、何よりも一緒に音楽を共有できる瞬間が待っているのが待ち遠しくて。またツアーが終わったら、自分の中で何かがまた芽生えてくるんじゃないかな、ということも自分自身、楽しみにしています。取材後記新作に込めた想いはもちろんのこと、新曲をもとにして映画が生まれたというお話も印象深かった、秦 基博さん。「絵を描こうとすると邪念が入る」というお話もありましたが、秦さんはどこか少年のような清らかさも思わせる、物腰の柔らかいお人柄。歌だけでなく、その人間力でも多くの方々を惹きつけているのではないかと感じました。そんな秦さんのニューアルバムをみなさんも、ぜひチェックしてみてくださいね。写真・園山友基取材、文・かわむらあみりヘアメイク・鷲塚明寿美、スタイリスト・高橋 毅(Decoration)Tシャツ¥15,400(is-ness)、シャツ¥46,200、パンツ¥44,000(ともにRAKINES)、靴¥35,200(ORPHIC / alpha PR : 03-5413-3546)秦 基博PROFILE1980年10月11日、宮崎県生まれ、横浜育ち。A型。2006年11月、シングル『シンクロ』でデビュー。“鋼と硝子でできた声”と称される歌声と叙情性豊かなソングライティングで注目を集める一方、多彩なライブ活動を展開。2014年、 映画『STAND BY ME ドラえもん』主題歌「ひまわりの約束」が大ヒット、その後も数々の映画、CM、TV番組のテーマ曲を担当。デビュー10周年には横浜スタジアムでワンマンライブを開催。初のオールタイム・ベストアルバム『All Time Best ハタモトヒロ』は自身初のアルバムウィークリーチャート1位を獲得、以降もロングセールス中。2023年3月22日、7枚目のオリジナルアルバム『Paint Like a Child』をリリース。4月から7月に全19公演をめぐる全国ツアー「HATA MOTOHIRO CONCERT TOUR 2023 -Paint Like a Child -」を開催する。InformationNew Release『Paint Like a Child』(収録曲)01. Paint Like a Child02.Trick me03.サイダー04. Life is Art !05. 残影06. Dolce07. 202208. 太陽のロザリオ09. 泣き笑いのエピソード10.イカロス2023年3月22日発売*収録曲は全形態共通。(通常盤)UMCA-10093(CD)¥3,300(税込)(初回限定盤)UMCA-19068(CD+BD)¥5,280(税込)*スリーブケース付。(Home Ground 限定盤)PROS-1924(CD+BD+インタビューブック+グッズ)¥10,450 (税込)*本体スケッチブック仕様。(Home Ground 限定盤)PROS-1925(CD+DVD+インタビューブック+グッズ)¥10,450 (税込)*本体スケッチブック仕様。写真・園山友基 取材、文・かわむらあみり ヘアメイク・鷲塚明寿美、スタイリスト・高橋 毅(Decoration)
2023年03月20日2023年3月17日(金)に公開される『長ぐつをはいたネコと9つの命』のキティ・フワフワーテ役を担当した土屋アンナさんにインタビュー。小さい頃から憧れていたアニメーションの世界で吹き替えをした感想、勇敢で愛情深いキティへの想い、プスとキティの関係から学ぶ新しいパートナーシップについて話を聞きました。また多忙な日々の中で4人の子育てをするアンナさんの子育てルール、力を入れている環境保護活動についても伺いました。2011年に公開された人気アニメーション映画『長ぐつをはいたネコ』、前作から12年の時を経て、新作の続編『長ぐつをはいたネコと9つの命』が公開されます。“A cat has nine lives”——「猫は9つの命を持つ」というヨーロッパで言い伝えられることわざをモチーフにしたストーリーは、主人公のプスが最後のひとつになった命と共に進む冒険物語です。作品から新しいパートナーシップ、家族のあり方に共感——キティ役のオファーがきた時の感想を教えてください。「先に英語版を観させてもらったのですが、キティ役を担当したサルマ・ハエックさんの声を聞いた時に、私とすごく似ている! と思って。しかも、キティはちょっと悪役っぽい雰囲気もあり、美しくてキュート。ぜひやりたいと思いました。私はアニメーションが大好きで、これまでたくさんの作品を見てきました。その中に、キャラクターとして入らせてもらえるのがとても楽しみでした」——『長ぐつをはいたネコ』は、物語の面白さはもちろん、ネコそのものの愛らしさが描かれているところも魅力のひとつです。「そうなんです。一般的な猫の魅力と言われるようなやわらかい肉球とか、まん丸い瞳孔とか、その辺りはもちろんですが、ネコらしいしれっとした性格、喧嘩する前の逆立つ様子とか。ネコの本質的な部分が淡々と描かれているのも魅力なんですよね。ミルクを飲むときも舌でぺろぺろ飲んだり(笑)。片や、吹き替えは山本耕史さんが演じていて、愛らしいネコというより渋くてかっこいい雰囲気。ネコのイメージを覆す演出も気に入っています」——キティは、前作ではプスの恋人のような存在でしたが、今回は“元カノ”として登場します。関係の変化をどのように受け止めて吹き替えましたか。「プスとキティ、かつては恋心があったとはいえパートナーシップとしての男女関係はあると思うので、性別を超えたつながりが今の時代にぴったりだと思いました。例えば、私が男性と戦いに行ったとして、普通は男性が先に戦いに行くのかもしれないけど“私が先に行きます!”みたいな。男女対等な関係ですね。キティのプスに対する母性や助けてあげたいというやさしさにも共感します。そういう意味では、私とキティはすごく似ていてやりやすかったです。一方で、ちょっと人を騙しちゃうような可愛げのある表情は、私が持ち合わせない部分だったりするので(笑)、可愛い子ぶるような声を出すのは、ちょっと難しかったですね」——今回の物語は、スケール感のあるストーリーや豪華なアクションが見どころでもあります。アンナさんのお気に入りのシーン、好きな場面などはありますか。「キティがプスに騙されたと思って、“あなたは自分のことしかやらないのね”と言うシーンですね。キティは淡々として怒ってはいないけど、すごく悲しくて深く傷ついている。あのシーンで、キティが崩れ落ちるでもなく、“私は私でやるからいいけど、あんたは私を傷つけたのよ”ときっちり説明して去っていく姿にはグッときちゃいます」——ヒロイン像としても新しく、かっこいいですよね。アンナさんの話を聞いていると、子ども向けのアニメーションに留まらず、大人が感じる部分が多い作品にも思いました。「見方によっては、ものすごくメッセージ性が強いと思います。例えば、願い事って、みんなそれぞれあると思うけれど、気づいたら実は叶っている、というのも印象的ですよね。3匹のクマと一緒にいるゴルディがそう。家族が欲しいと思っていても、愛を確かめ合えるなら、血のつながりや形はどんなものでもいい。今の世の中、いろいろなシチュエーションの家族がいると思うから人と比べちゃいけないんですよね」——視点を変えてみると、気づきの多さに驚きますね。私の役目は子どもの命を守ることだけ子どもの人生は子ども自身のもの——アンナさんは18歳から下は4歳の、4人のお子さんを育てられていますが、子育てで大切にしていることは何でしょう。普段、子育てで悩むことはありますか。「悩まないですね。4人それぞれ得意不得意が違うし、私とも違いますし。それぞれに合った道に進めばいいと思います。もちろん大まかなレールは引いてあげる必要はあると思いますが、そこから誰と出会うか、何に目覚めていくかは誰も分からない。それなのに親がレールを引いてしまうと、完全に私の人生になってしまいます。不得意なことを無理にやらせても苦しい人生になるだけ。私が母親として唯一やることは、子どもたちの命を守るだけです。それだけはちゃんとしていますが、基本自由にやっています。母親でいるというより、きょうだいのひとりとして同じ屋根の下で暮らしているという感じですね」——子どもが10代になると思春期を迎え、反抗期になるお子さんもいます。そんな時期はどう対処しましたか。「そういう時期はあまりなかったのですが、たまに話をしているときに、完全に心がここにない目になっていることはありましたね。そのときは、すかさず“今反抗期来てるよ!” “私のこと、うざいと思ってるでしょ?”と先に言っちゃいますね。そのおかげか、わかりやすい反抗期や無視もなくてハグもしています。もちろん、思春期の男子特有の匂い問題があるときは、『臭いから洗って』とかはあります(笑)。ざっくばらんにやっていますね」——ちなみに家でこれだけは守っているというルール、土屋家の家訓はありますか。「”嘘をつかない”ということは伝えていますね。誰でも経験するものではあるし、大人も嘘をついてしまうことがあるので絶対ではないのですが、”人を傷つける嘘は、全部自分に返ってくる”と教えています。1回目の嘘、2回目の嘘、嘘をつくとつき続けなくてはいけない。苦しいのは自分ですが、それまでにどれだけの人を傷つけてきたのかを考えなさい、と。現実的なもので言えば、部屋に閉じこもらない。ちょっとでも部屋に閉じこもりそうになったら、みんなで映画を観たり、“何やってるの〜?”“おいで〜!”と声をかけますね。成長とともにひとりの時間も大事になってくるんだけど、私がいなくなったあと、残るのはきょうだいだけだから、そこの絆は強くして欲しい。年齢が離れているからこそ、いっぱい喧嘩をして、いっぱい話して、お互いを守り合って欲しい。だから私との会話よりも、きょうだいで一緒に遊びなさい、と伝えています」——きょうだいの仲がよければよき相談相手にもなるし、頼れる存在になりますよね。「あとは困っている人は助ける、弱いものいじめはしない。例えば、飛行機でバッグを取ろうとしている年配の人がいたら手伝うとか。気づいたら、すぐ行動に移すようにと言っています。私はついやり過ぎちゃうタイプだから、逆に気をつけてと注意されちゃうんですけど(笑)。見てみぬふりって、いちばん怖いじゃないですか。それだけはできる子になって欲しいですね」——最後に、最近力を入れている環境保護活動について聞かせてください。「はい、保護活動は以前から続けていますが、最近とくに力を入れているのは“知ること”ですね。珊瑚の生態について、読んだり、話を聞いたりしています。実際に宮古島に足を運んで、環境保護活動をしている人からも話を聞きました。地球は人間のためのものと思ってしまいがちですが、ほかの生き物が住む場所でもあります。ほかの生き物の生態を知ると、ゴミを捨てることがどれだけ悪いことか分かる。知ると、ゴミを捨てないようにしようと思うし、分別しようと思う。そしてそれを私が伝える。すると周りの人も気づき、行動を起こすことができます。例えば、ゴミを拾うことも、ひとりでやるとひとつしか拾えないけど、みんなで拾えば同時にたくさん拾える。24時間テレビでそれができたらおもしろいなとか。そんなことを考えながら、知識を増やしています。知識を持つことが行動のもとになると思っています」——家族には、環境保護活動についてどんなことを話していますか。「いちばんは、食べ物を残さないことです。魚1匹、そこには魚の命があって、それが私たちのお薬にもなる。だからちゃんときれいに食べようねと伝えます。大きなことをやろうと思っても続かないから、まずはそこからです。子どもたちは、それを楽しんでやってくれるんですよね。今見ている青い海が、子どもたちの世代では見られなくなるかもしれない。そのためには、私たちも行動を起こさないといけないと伝えています。今戦争もしているから、いろいろな矛盾があるんです。戦闘で落とした爆弾が海に行く、そうすることで海の生き物が死ぬ。そう考えると、戦争がいかによくないことか分かりますよね。地球に住むひとりとして、ともに生きる動物たちの生命を考えることは大事だと思います」『長ぐつをはいたネコと9つの命』監督:ジョエル・クロフォード本国声の出演:アントニオ・バンデラスサルマ・ハエック日本語吹替版キャスト:山本耕史、土屋アンナ、中川翔子、小関裕太、木村昴、津田健次郎gaga.ne.jp/nagagutsuneko2023年3月17日(金)TOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー© 2022 DREAMWORKS ANIMATION LLC.ALL RIGHTS RESERVED.
2023年03月16日「ソラニン」や「おやすみプンプン」で知られる人気漫画家・浅野いにおが己の業(ごう)をさらけ出したと評される「零落」。存在意義を見失った漫画家の彷徨を生々しく描いた本作が、竹中直人監督・斎藤工主演で実写映画化された。売れるとは何か?売れればいいのか?自分はどうしたら幸福でいられるのか?才能を持ってしまったがゆえに奈落に堕ちていく主人公・深澤を演じた斎藤さんは、本作で己の内臓と向き合うような体験をしたという。『フェイブルマンズ』や『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』といった最新映画の話題もはさみつつ、作り手の業について語っていただいた。「零落」は読者自身が自分に向き合わされる作品――斎藤工さんは、浅野いにお先生の作品が世に与えた影響をどう見ていますか?自分は同世代であり、進行形で常に浅野先生に衝撃を受けてきました。どんな映画よりも映画を感じるところすらあります。かつて竹中直人さんが監督された『無能の人』を観たときに、竹中さんと原作者のつげ義春先生の親和性をすごく感じました。そして今回、『零落』を竹中さんが監督されると聞いて、日本の漫画のカルチャーが積み重ねてきたものを改めて思いました。つげ義春先生、水木しげる先生(※つげさんは水木さんのアシスタントだった)、そして浅野先生。つげ先生の「貧困旅行記」に代表されるように、貧困や暗部、何かしらが欠落していることにある種の美しさを見出していく文化が、この国にはそもそもあるんじゃないかと思っています。そこに迫りうる映画や漫画はいままでにも数多くありましたが、浅野先生はそこにより写実性を与えたように考えています。実際にロケハンして写真から背景に起こす描き方をされる方だから、漫画の持つリアリティが現実とシンクロして強いインパクトを受けるんですよね。と同時に、いまお話ししたように浅野先生はつげさんや様々な方の影響を受けて、ある種現代版に翻訳しているとも感じました。そして「零落」においては、スティーヴン・スピルバーグ監督ですら『フェイブルマンズ』で自伝を映画化したように、自分の赤裸々な部分をさらけ出している。「ここを表現しないと次にいけない」というクリエイターの性(さが)――「これは人に受けるだろう」がもう通用しないと気づいたとき、壁にぶち当たった表現者たちがもう一回自分の中を掘り出し、自らの内臓と向き合う。それがこの「零落」であり、初読ではっとしたのはその部分でした。僕はどうしても「いかに取り繕うか」という思考に陥りがちなんです。衣装を着せてもらい、メイクをしてもらって場所を整えてもらって光を当ててもらったうえでの自分ですが、その逆に真実があるといいますか…自分が向き合わないといけないのに目を背けてしまっていた部分に、浅野先生は「零落」で斬り込んだと感じて。それはきっと僕だけじゃなく、多くの読者がご自身の生業と状態とどこか目を背けて先延ばしにしていた自分事に向き合わされる瞬間が、この作品だったんだと思います。確定申告みたいなタイミングといいますか(笑)。だからこそ、そうした浅野先生や竹中さんの覚悟が出合った方々に伝われば、実写化した意味になるのかなと思います。――浅野先生という作り手が自身の内臓と向き合った作品を実写化し、主人公を体現するなかで工さんもまたご自身の深淵と対峙したかと思いますが、そうした作品における主観と客観、「役に入り込む」と「作品を俯瞰する」のバランスは非常に難しかったのではないでしょうか。そうですね。主観と俯瞰の温度感がつながってくるとこんなに大変なんだ…と感じました。冷めているというとちょっと違うかもしれませんが、僕は普段、この2つのアングルをスイッチするみたいに切り替えてガス抜きをしていたんだと気づかされました。いまやっている連ドラもそうなのですが、作品に入っているときって主観だけでは決してないんですよね。連ドラは数字や納期に追われてしまっているから、自分が1ピースとして何を必要とされているかを明確にしないと間に合わない。つまり俯瞰の意識が強く働いているわけです。でも『零落』はそうした染み付いてしまった方法論が全く通用しないというか、持ち込んではいけない現場でした。垂れ流してしまわないといけないしんどさといいますか…。ただ、僕自身が「見られたくない・見せたくない部分を表現者が表現したとき、その作品に近づける」という観客としての実体験があるので、ある種の赤裸々さや、覚悟すら持っちゃいけない垂れ流し感が必要だとは理解していました。どこか『トゥルーマン・ショー』的でもありましたね。だから正直、心の底からみんなに観てほしいかというとそうじゃない側面もあるんです。でも、そこにいかなければきっと『零落』じゃない。――非常によくわかります。先ほどお話しされていた『フェイブルマンズ』でも、多幸感にあふれた映画ながら作り手の業(ごう)も克明に描かれていました。その部分が見えない作品って世の中にあふれているかと思いますが、観ている瞬間は楽しくて娯楽として成立しているけど、自分の中に残るか残らないかといったらやっぱり残らないんですよね。残る部分は意外とそうしたネガティブな部分というか、日向じゃないもののほうが地続きの何かとして自分の中に蓄積されているように思います。“業”のあり方で作品が決まる――まさにそうなんですよね。ある種の真実味を観た気になるといいますか。そうした業をさらけ出した映画で、工さんの中で印象的だったものはありますか?人様の作品でいうと、やっぱりラース・フォン・トリアー監督の作品ですね。特に『ドッグヴィル』のドキュメンタリー『メイキング・オブ・ドッグヴィル ~告白~』は強烈でした。――あれは凄かったですね…。出演者たちが撮影の合間に「告白部屋」にやってきて不満をぶちまけるという。いま日本でも、現場で監督の方がどう働き、どう映ってどう影響を及ぼすかが追及されていますよね。僕らはどこかで「芸術だから」とかこつけて認可してきてしまったけど、心のどこかで良くないことだとはわかっていた。いまは「そういうことはもうやめよう」という切り替わりの時期でそれはすごくポジティブなことだとは思いますが、ただやっぱり作品を観たときに何が残るかというと、人の本性や本分、決して美しくない心根が見えたときにどこかその人に近づくという不思議な現象がある。僕たちのように表に出る人間はパブリックイメージと自分自身のギャップや摩擦は常に感じていますが、それが思いっきり浮き彫りになっているものをそのまま作品にしてしまういやらしさも含めて、『メイキング・オブ・ドッグヴィル ~告白~』は記憶に残っています。――そうした“業”は、俳優や監督といった関わり方によっても変わりますよね。僕は常々、仕上げで作品が生まれると思っています。俳優はポスプロに立ち会わないものですから、素材としていかに“内臓”を提供するかで、それをどうパッケージするかは仕上げで決まります。監督業は、2回作品が始まるんですよね。現場のクランクインとクランクアップ、仕上げのクランクインとクランクアップというように。どう素材を調理するか、生のままなのか火を通すかという意味では、仕上げの段階は業の塊のようなところもあります。――集めた素材を「編集で落とす」等の判断も含めて、ですね。そうですね。ただSYOさんがおっしゃるようにその業の部分が作家性として見えてこないと、監督のクリエイションをちゃんと受け止められたか?となってしまう。その部分の判断基準は、ある意味で業の残り方だと思います。A24の監督の引き上げと作品の残り香のバランスは非常にスムーズで機能的ですよね。『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』を観ていても、同じマルチバースでもルッソ兄弟(『アベンジャーズ/エンドゲーム』ほか。『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』にもプロデューサーとして参加)とダニエルズでこんなに違うのか!と驚きました。――『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』で描かれるのは、あくまで一つの家族のマルチバースですもんね。「こういうマルチバースが見たかった!」という観客の声を反映しているようにも思いましたね。シリーズの風呂敷を広げすぎた感のあるMCUに対して、A24が何をやるか。ある種の作家性と商業性の折衷案が一番の理想形に近づいていくといいますか、ひとつの答えを提示したようにも感じました。しかも、映画業界ではマイノリティであるアジア系にフォーカスを当てたり、様々な側面でいま映画界がすべきチョイスを全部叶えたうえでああいう仕上げをするのはすごくロジカルですし、気持ちよかったです。変わりゆく環境「理想のような現場」――先ほど伺った作品に対する関わり方の多様さでいうと、『零落』は竹中直人さんが監督、工さんが主演、MEGUMIさんがプロデューサーと出演を兼任と実にフレキシブルな座組ですね。竹中さんはあれもこれも…とやりすぎないようにディレクションに専念されていました。それによって作品が機能的になることを誰よりわかっている感じがありました。その竹中さんをどうMEGUMIさんがサポートしてプロデュースしていくかを見ながら、これが新しい形だとも思いました。阪本順治さんはかねてから椎井友紀子さんというプロデュサーとずっとやってきていますし、昨日たまたま来日しているエリック・クー(『家族のレシピ』監督)と久々にご飯を食べたのですが、彼もフォンチェン・タンという女性のプロデューサーと組んでいて、椎井さんもフォンチェンも非常にやり手なんです。クリエイターが作品を純度高く作れているのは、彼らがそうであるように竹中さんがMEGUMIさんに絶大な信頼を寄せているからだと感じます。ハリウッドなどだと主演の方がプロデュースにも入っているのは全然珍しくないものですが、日本だとあれもこれもやっていることが時として変わった映り方をしてしまう。でももう明らかにそういう時代ではありませんし、MEGUMIさんのように力のある方、そして女性が主導権を持つのは非常に健全だと思います。一つのひな型のような景色でした。――MEGUMIさんはBABEL LABEL(藤井道人監督たちが所属するコンテンツスタジオ)にもプロデューサーとしてジョインされましたね。彼女は業界を良くしていきたいエネルギーがものすごくて、食にまつわる事業に多数携わられていますし、今回の現場でも非常に刺激を受けました。いままで撮影現場に尽力されていたお弁当屋さんを切り離すんじゃなくて、お弁当屋さんのキッチンを使った食の提供といったことまでMEGUMIさんは考えていて。僕も狭い半径ではありますが、自分なりに託児所の設置や自分なりにこうなったらいいなということをやってきて、向かっている方向はすごく近いと感じました。希望をいただけましたね。そして、竹中さんは現場の判断がとにかく早い。ロケハンの段階で絵が見えているからカメラテストも早々に終わりますし、テストを挟まずに本番というときもあるので現場のテンポが非常にいいんです。ただテンポが速いんじゃなくて明確だからみんなが迷わないし、撮影が早く終わる日もちゃんとあることでスタッフの皆さんもきちんと翌日に備えられる。プライベートの時間にも使えますし、一つの理想のような現場に僕には見えました。◆ヘアメイク:赤塚修二◆スタイリスト:三田真一◆衣装クレジット:スズキ タカユキ2023年3月17日(金)よりテアトル新宿ほか全国にて公開(c)2023浅野いにお・小学館/「零落」製作委員会(text:SYO/photo:You Ishii)■関連作品:零落 2023年3月17日よりテアトル新宿ほか全国にて公開©2023 浅野いにお・⼩学館/「零落」製作委員会
2023年03月16日今年でデビュー5周年を迎える、6人組ダンス&ボーカルユニット「ONE N' ONLY」。メンバー全員で挑んだ初主演映画『バトルキング!!-We'll rise again-』のインタビュー後編では、自分にとって大切・大好きな作品を、それぞれたっぷりと語ってもらった。――後編からは、シネマカフェに初登場となる皆さんのことをもっと知るために、ご自身のお気に入りの映画を1本ご紹介いただきたく思います。高尾:じゃあ僕から!『ステップ・アップ』という映画がずっと大好きで、今回僕らが主演した『バトルキング!!』ともちょっと近いニュアンスの作品です。『ステップ・アップ』はシリーズ5ぐらいまで出ているんですけど、ダンスがテーマになっています。シーズンごとにテーマがあって、バトルっぽい1本もあったり、スクールでのストーリーもあったり、主役とヒロインの女性がペアダンスをしたり…そうしたダンスをからめたストーリーが主体です。ダンスをテーマにした映画はほかにもたくさんあるけれど、『ステップ・アップ』はストリート感があるところが特に好きなんです。主人公が大体ストリート出身なので、僕もそういう感じに憧れてスクールに通ったりしていたので(照)、自分の人生のテーマとまで言うと大げさですけど、それに近い感じです。高尾颯斗(ONE N’ ONLY)――スペシャルな1本なんですね、きっと何回もご覧になっていますよね。高尾:めちゃくちゃ何回も観ています!ダンスシーンなんかは踊れるくらいすっごく観ています(笑)。実際、『バトルキング!!』の撮影のときも、監督と「こういう感じでも撮りたい」みたいな話を『ステップ・アップ』を例に挙げてしていました。劇中で披露した振り付けもこの映画の影響をすごく受けているので、本当に好きな映画ですね。草川:僕は普段お芝居を観ているとき、目にとにかく注目してしまうんです。台詞も大事ですけど、顔の表情、目だけで伝えるお芝居が好きで。そういう意味で、特に好きな俳優さんは菅田将暉さんです。最近観た菅田さんの作品では、『糸』が特に印象的でした。榮倉奈々さんとのシーンで、「しっかりしろ」という台詞を言うんですけど、そのときの菅田さんが目だけでズバっと(心情を)伝えられていて、すごく心に残っています。あともう1本いいですか(笑)?ドラマの「MIU404」での菅田さんの目もすごく好きです!悪役を演じているんですけど、最後の屋形船のシーンで捕まったときの失望した目が本当に上手で…。伝わるか、伝わらないかのほんのちょっとのラインが絶妙なんです。ああいうお芝居を観ていると、僕もそのラインでのお芝居をして、人に何か届けられるようになりたいなと思います。草川直弥(ONE N’ ONLY)――お芝居自体に、すごく影響を受けていらっしゃるんですね。草川:はい、そうですね。上村:…実は、僕も菅田さんのお芝居が好きで。これまで1番ぼろ泣きした映画が、桐谷健太さんと菅田さんのW主演の映画『火花』なんですけど。――又吉直樹さん原作、板尾創路さんが監督を務められた映画ですね。上村:そうです!あれはすごかったです…。売れない漫才師を演じているんですけど、全然結果が出なくて、最後、コンビを解散するときに漫才をするんです。そのときに菅田さんが客に向かって「死ね」と何回も叫ぶんですね。「漫才なんかやっていたから、こんな苦しい思いをした、でも楽しかった」みたいな気持ちを「死ね」の2文字で伝えているところで、号泣してしまいました。そういう感情を爆発させた芝居も好きなんですけど、自然な演技もすごい好きで。最近だと『花束みたいな恋をした』もよかったです。菅田さんは歌がうまいじゃないですか。だけど、カラオケのシーンでは素人が歌っている、みたいな歌い方をしているんですよ。すごすぎると思いました。挙げていけばキリがないくらい好きな作品はいっぱいあるんですけど、今回僕が演じた鞍馬も感情を爆発させるシーンがあったので、そうやって好きな作品を観て勉強したりもしました。上村謙信(ONE N’ ONLY)沢村:僕は、アカデミー賞作品賞を受賞した『グリーンブック』にすごく衝撃を受けました。優秀なピアニストの黒人と、彼のドライバーで用心棒をする育ちが悪い白人の物語なんですけど。ピアニストは自分の背景にある、それまで受けた迫害や家族のこととかは、一切人に見せないようにしていたんです。だから、感情的に動くドライバーが「いや、これはこうしたほうがいいんじゃねぇの!?」と言っても、最初のうちは割り切って対応していた。けど、ドライバーが迫害や差別から彼を守ってくれたりするうちに、少しずつ自分自身のことも見せるようになっていく。その過程がすごくいいんですよね。最終的に、ピアニストがドライバーの家に招かれて、みんなで仲良く食事をするんです。みんなが仲良く彼を受け入れてくれるところ、そのあたりは少し『バトルキング!!』の役の引き出しとしても参考にしてやりました。僕が演じた早乙女は音楽1本でやってきて、ほかの人間の関係は付属品、という風に捉えていた人物。だけど、5人の仲間を見て、ちょっとずつ変わり、最後「一緒にやろうよ」となっていくところは、まさに似ているなと。そういうところで人の背景が見えたらいいな、と思いながら僕も演じていました。沢村玲(ONE N’ ONLY)――ご自身の演技をする上で参考にされている方も多いんですね。続いて山下さん、いかがですか?山下:僕がよく観るのは『BECK』という佐藤健さん主演の映画です。大きいフェスに出るために頑張る姿を描いている作品で、何度も映画を観てますし、原作も読んでいます。バンドマンは、ひとりひとりの方向性がぶつかり合っちゃう一面がたくさんあると思うんですけど、それでも最終的にみんなの思いがひとつになって夢をかなえるところが、とにかく大好きです。――ご自身もグループ活動をしていく中で「わかるな」と共感する気持ちがありますか?山下:ありますね。やっぱりみんなの気持ちがひとつに向いていなくてバラバラだと、どうしてもうまくいかないものだと思います。グループ全体がひとつに向かっていくのは素敵なことですし、自分たちはやっぱりそうでいたい、と思います。山下永玖(ONE N’ ONLY)――ありがとうございます。最後に、関さんお願いします。関:映画ではなくてドラマでもいいですか?賀来賢人さん主演でやっていた「クローバー」という作品で、結構前なんですけど…。――入江悠さんが演出をされているドラマですよね!関:それです!有村架純さんも出ていらして。俺は賀来賢人さんのちょっとコメディチックな役柄が好きなんです。ちょっとどんくささもあるけれど、どこか男として憧れる部分があって。「クローバー」の賀来さんがまさにそういう演技で、めっちゃ好きでした。賀来さんで言えば、「スーパーサラリーマン左江内氏」のコメディも好きです。僕自身、性格がけっこううるさいというか明るい感じのタイプなので(笑)、今挙げたような作品の役や演技をいつかやってみたいなと思います。関哲汰(ONE N’ ONLY)――ありがとうございました。ところで、5年間活動してきて一番変わったメンバーさんはと聞かれたら、皆さんから見てどなたですか?全員:(口々に)永玖じゃない?関:永玖はまずは男らしさが増したかな!沢村:それだわ。関:最初に会ったときは本当に少年で、髪の毛も真っ黒なぱっつんで「いい子ちゃん、おぼっちゃん」みたいな感じだったんです。今はもうザ・男、ですよね。一番『バトルキング!!』に近づいている感じがします。沢村:うん。どんどん源二郎に近づいている感じだよね。関:ね、ガタイもよくなって。たぶんそれが本質だったんじゃないですかね。男らしさが歳を重ねていくうちに出てきて、彼の味になっている感じがします。山下:ふふ(笑)、自分でもちょっと思います。――最後に、2023年スタートしたばかりですが、こうしていきたいという抱負をメッセージに代えてお願いします。高尾:ONE N' ONLYの初主演映画ができました。皆さんに観ていただけることが、まずはすごくうれしいです。僕らはグループとしても今年5周年という節目を迎えるので、この作品で勢いをつけてこの先の5周年イヤーにつながるような年にしたいです。『バトルキング!!』から知って好きになってくださる方もいたら本当にうれしいので、たくさんの方にこの作品を届けたいです。よろしくお願いします!ヘアメイク:NOBU(HAPP’S.)映画『バトルキング!! -We’ll rise again-』3月10日よりユナイテッド・シネマ アクアシティお台場ほか全国公開(text:赤山恭子/photo:Maho Korogi)■関連作品:バトルキング!!-Weʼll rise again- 2023年3月10日よりユナイテッド・シネマアクアシティお台場ほか全国にて公開©映画「バトルキング!!」製作委員会
2023年03月09日【音楽通信】第131回目に登場するのは、大阪の難波を拠点に活躍し、全国へと人気を拡大し続けているアイドルグループ、NMB48(エヌエムビーフォーティエイト)!小学生のときにアイドルに憧れるようになった山本望叶(やまもとみかな)。2002年3月11日、山口県生まれ。B型。身長162.1cm。ニックネームは「みかにゃん」。【音楽通信】vol. 131秋元康さんが総合プロデューサーを務め、大阪の難波に誕生したアイドルグループ、NMB48。現在、研究生を含む総勢61名が在籍し、「NMB48劇場(シアター)」では、パワフルなステージを披露しています。2011年7月、シングル「絶滅黒髪少女」でメジャーデビュー後もコンスタントに作品を発表し、2021年には結成当初から在籍していた一期生が全員卒業しました。そんなNMB48が、2023年3月8日に4枚目のアルバム『NMB13(なんばサーティーン)』をリリースされるということで、グループを代表して今回初センターを務める、山本望叶(やまもとみかな)さんにお話をうかがいました。――まずは自己紹介からお願いします。NMB48の山本望叶です。山口県出身の20歳です。――ライブでは自己紹介をするときに、定番の“キャッチフレーズ”もあるんですよね?はい、そうなんです。いつもライブのコール&レスポンスでやっているのは、「長州から歴史を変えるためにやってきた」と言うと、ファンの方が「みかにゃーん!」と返してくださるので、続けて「あなたの望みを叶えちゃる、山口県出身の山本望叶です」と言っています。――キャッチフレーズも教えていただいてありがとうございます。山本さんは2018年にNMB48に加入されましたが、そもそもアイドルを目指したきっかけはなんでしたか。小学生のときにアイドルに興味を持って、AKB48さんのような女性アイドルがすごく好きになって、憧れていました。中学2年生から、芸能界に入りたいと思って、実際にアイドルのオーディションを受け始めました。――アイドルに興味を持っていたということは、実際にライブに行くこともあったんですか。山口県にいたので、規模の大きなグループの方のライブとなると、東京や大阪でしか公演がなかったりするので、なかなか行けていなかったですね。でも、地元アイドルさんのライブにはよく行っていて、そのうち観る側ではなく、出るほうに憧れるようになっていきました。――もともと歌うことは好きだったんですか。あまり歌うことを意識したことはなかったんですが、2歳上の姉がいるので、姉と一緒にカラオケ行って、好きなアイドルさんの曲を歌っていましたね。元モーニング娘。の後藤真希さんやAKB48の板野友美さんが好きで、そんなカリスマ性のある、男女ともに支持されるようなアイドルに憧れていました。――ご出身は山口県ですが、大阪を拠点とするNMB48のどんなところに惹かれたのでしょうか。もともと48グループの中でもNMB48が一番好きで、大阪も好きで、大阪の人の情に厚くて温かいところや面白いところもすごく好きだったんです。だから、ずっとNMB48に入りたいと思っていたので、NMB48の一員になれてうれしいです。NMB48の魅力がたっぷり詰まっているアルバム――2023年3月8日に4枚目のアルバム『NMB13』をリリースされますね。約5年ぶりのアルバムになります。メンバーもそうですが、きっとファンの方も新しい作品を楽しみにしてくださっていたはずなので、みなさんの期待を上回るようなアルバムになっていたらいいなと思います。――山本さんは、NMB48に加入してから6年目にして、今作から初めてのセンターを務められますね。いままでセンターの経験がないので、初めは不安な気持ちが大きかったんです。でも、先輩メンバーさんに励ましの言葉をいただいたりして、ちょっと気が楽になったといいますか。最近「あまり気を張らずに楽しんでセンターに立とう」と思えるようになりました。センターはみんなが目標としているポジションなので、「しっかり務めないといけない」というプレッシャーもあったんですが、やっと「私なりのやり方でいいんだな」と思えるようになりましたね。――収録曲の新曲「Done(ダン)」は、クールでドラマチックなナンバーです。「Done」=「終わり」という意味の恋の未練を歌う曲ですね。アルバムはレコード会社を移籍させてもらってから初めてリリースする作品でもあるんですが、「Done」はサビで何度も「終わり」と歌っていて、いいのかな? と思ってしまう歌詞です(笑)。歌詞を全部読むとすごく切なくて、失恋をしたときに、さらに自分を追い込むといいますか。とことん落ちたいときもあると思うので、そういうときに聴いてほしい曲になっています。――「Done」のミュージックビデオはクールな印象ですが、振り付けのポイントはありますか。けっこう力強さを感じさせる振り付けになっているんですが、今回のテーマは“色っぽさやセクシーさ”なので、女性らしさも忘れずにパフォーマンスすることを意識しました。――今日着ているお衣装は、アルバムのジャケ写と同じ黒のお衣装ですね。衣装はメンバー全員、黒と白のモノトーンで、テーマはゴシックな感じです。そしてちょっとセクシーさもあって、強い女性をイメージしていますね。――ファンの方から“NMB48の国歌”と呼ばれる「青春のラップタイム」(2011年のNMB48デビューシングル「絶滅黒髪少女」のカップリング曲)は、現在のメンバー全員で歌った2023年新録バージョンも収録されていますね。この曲は、メンバーもファンの方も大切にしている曲です。リリース当時に歌っていたメンバーさんは全員卒業されて、いまのメンバーでまたこうしてCDに声が残るというのは、すごく感慨深いですね。ライブではほぼ毎回歌っている思い入れのある曲ですし、ライブで最後に披露する定番の曲でもあります。――昨年発売されたニューシングル「好きだ虫」も収録されていますね。「好きだ虫」もすごく盛り上がる曲で、劇場公演でも披露させていただいているんですが、ファンの方も歌にあわせてペンライトを振ってくださることもあって、これからまたライブでもたくさん披露することになるんじゃないかなと思います。――アルバムは4形態ありますが“TYPE-M”には、新ユニット「りぷりっぷる(山本望叶さん、小嶋花梨さん、坂田心咲さん、桜田彩叶さん、佐月愛果さん、新澤菜央さん、原かれんさん)」が歌う「Enjoy無礼講!」が収録されていますね。新ユニットの「りぷりっぷる」は、SNSに力を入れているメンバーを集めています。この曲は本当に可愛い曲で、テンションを上げたいときに聴いてほしいですね。歌詞もすごく明るくて、「好きなことをやるしかない」と歌っている、ハッピーになれる曲です。――収録曲の中で、とくに印象深い曲はありますか。やっぱり、りぷりっぷるの新曲ですね。「Enjoy無礼講!」のミュージックビデオもすごく可愛いらしくて、“ザ・アイドル”という感じのミュージックビデオになっているので、たくさんの方に観ていただきたいです。――可愛らしい感じというと、クールな「Done」とはまた違った世界観ですね。本当に真逆ですね。りぷりっぷるの衣装やセットはピンクと白でまとめていて、メンバーもみんなすごくテンションが上がって、ミュージックビデオを撮影しました。――ミュージックビデオも楽しみです。では、アルバム全体の聴きどころを教えてください。NMB48の魅力がたっぷり詰まっているアルバムです。可愛い曲もありますし、カッコいい曲もありますし、ちょっとクセの強い曲も、セクシーな曲もあって。どんな気分のときでもどれかしらにハマるという、聴いていて飽きないアルバムになっているので、ぜひ楽しんでいただきたいです。もっとNMB48の魅力を知ってほしい――「大阪が好き」だとおっしゃっていましたし、NMB48は関西をベースにしていますが、お笑いなどもお好きですか。お笑い番組やバラエティ番組をよく観ていて、昔からお笑いが好きですね。よく観ているのは『ロンドンハーツ』(テレビ朝日系 毎週火曜午後11時15分)や『アメトーーク!』(テレビ朝日系 毎週木曜午後11時15分)といったトーク番組です。――普段、おやすみのときはバラエティ番組を観たりするんでしょうか。おやすみだと、家で寝ていることが多いかもしれません(笑)。「睡眠命」なので、何もなければ1日10時間ぐらいは寝られます。寝て、起きて、ご飯を食べて過ごしますね。外出するとすれば、姉とすごく仲が良くて友達みたいな関係なので、姉と遊ぶことが多いです。姉は東京に住んでいるんですが、まとまったやすみがあると「大阪に来て」と呼んだりして(笑)。ときどきは私が東京に行って、姉と遊ぶこともありますね。――ではいまハマっていることは?“平成”がすごく好きで、平成の頃の曲やファッションも好きなんです。私の音楽アプリには、最近の曲は全然入っていないですね。平成に流行った曲がすごく好きだから、浜崎あゆみさんとか、ORANGE RANGEさんとか、大塚愛さんなどが好きでよく聴いています。――今日も美しい山本さんですが、お気に入りのコスメはありますか。一番お気に入りのものだと、「クレ・ド・ポー ボーテ」の化粧下地ですね。人気の下地があるんですが、いろいろと試してみたなかでもこれは他とは全然違って、肌にすごくなじみますし、欠かせないものになっていて。美容は気になるので、SNSでバズっていたら試してみようと思いますし、知識が豊富なメイクさんに「おすすめのものありますか?」と聞いたりして、その都度気になるものを試しています。――普段ご自身でメイクされる際は、メイクのポイントはありますか。まつ毛にすごくこだわっています。黒が好きなので、まつ毛を黒のマスカラで、バサバサにするのが好きでなんです(笑)。――黒がお好きということで、普段のお洋服も黒系が多いんですか。黒は好きですし、白も好きですね。楽な服装がいいので、スウェットもよく着ます。ファッションのポイントでいえば、楽な服装かどうか、いかに歩きやすいか、寒くないかが大事。コーディネイトする必要がないから、セットアップも好きですね。――とても細身ですが、ダイエットとは無縁ですよね?いえ、常にダイエットしています。食べたい気持ちを我慢できるときは我慢しようと思っていて。なるべくお菓子は控えて、もともとお野菜やお魚が好きなので、そういったヘルシーなものを食べるように意識しています。――今日は朝早くから取材させていただいていますが、東京には滞在せずに日帰りで大阪へお帰りになるそうで、行き来するのも大変ではないですか?そうですね、疲れることももちろんあります。そういうときは、力をつけるためにダイエットを忘れて、食べていますね(笑)。昨日の夜に食べた、いぶりがっこチーズはめちゃくちゃおいしかったです。しぶいんですけど(笑)。――おいしそうです(笑)。ちなみに、山本さんは3月11日がお誕生日ですね。いま20歳で、今年21歳を迎えるということで、20代でこれからやっていきたいことといえば?やっぱり、いろいろなお仕事に挑戦したいなって思っています。まだあまり経験はないんですが、演技のお仕事にすごく興味があって、やってみたいなって。いま、「これまでで一番休みがなくていいな」と思っているので(笑)、どんどんお仕事がしたいですね。――さらなるご活躍が楽しみです。あらためてNMB48とはどんなグループですか?NMB48はみんなすごく一生懸命で、熱くて、グループへの愛もすごく強くて、お笑いにも貪欲です(笑)。ダンスの振り付けもすごく細かいところまで揃えていたりしていて、本当にみんながグループのことを思って一生懸命やっている泥臭いグループなので、そういったところをもっとたくさんの方に好きになっていただきたいですね。――では最後に、NMB48として、センターとして、今後の抱負をお聞かせください。常に思っているのは、NMB48に関わってくださる方への感謝の気持ちです。メンバーには「NMB48に入ってよかった」と思ってほしいですし、スタッフさんには「支えてきてよかった」と思ってほしいですし、ファンの方には「応援してよかった」と思ってもらいたいですね。もっと知名度を上げて、たくさんの方にNMB48の魅力をこれからどんどん知っていただけるよう、がんばります!取材後記大阪の難波から全国へと、笑顔と元気を届けてくれるNMB48。「みんなすごく一生懸命で、熱くて、グループへの愛もすごく強くて、お笑いにも貪欲」と山本望叶さんがグループを紹介してくれましたが、大阪出身の筆者としても、頼もしい限りです。インタビューにも一生懸命に応え、撮影では美しい表情を見せてくださった山本さんがセンターを務めるNMB48のニューアルバムをみなさんも、ぜひチェックしてみてくださいね。写真・幸喜ひかり取材、文・かわむらあみりNMB48 PROFILE©UNIVERSAL MUSIC LLC.秋元康さんが総合プロデューサーを務めるアイドルグループ、NMB48(エヌエムビーフォーティーエイト)。東京・秋葉原のAKB48、名古屋・栄のSKE48に続いて、大阪・難波に誕生し、拠点としている。“会いに行けるアイドル”をコンセプトに、2010年10月に活動開始。2011年7月、シングル「絶滅黒髪少女」でメジャーデビュー。2023年3月8日、4枚目のアルバム『NMB13』をリリース。InformationNew Release『NMB13』(収録曲)01. Done02. 最高に下品なアタシ/小嶋花梨03. ワロタピーポー よくぼうもの04. 欲望者05. 僕だって泣いちゃうよ06. 床の間正座娘07. 母校へ帰れ!08. 初恋至上主義09. だってだってだって10. 恋なんか No thank you!11. シダレヤナギ12. 恋と愛のその間には13. 好きだ虫14. ごめん 愛せないんだ/Team N15. 涯/Team N16. ダンシングハイ/Team N17. 青春のラップタイム 2023*初回限定盤「Type-N」以外「Type-M」「Type-B」「劇場盤」あり。CD 収録曲はそれぞれ異なります2023年3月8日発売(初回限定盤Type-N)UMCK-7204(CD+DVD)¥3,850(税込)写真・幸喜ひかり 取材、文・かわむらあみり
2023年03月07日学生時代、ひとり暮らしの部屋に貼っていたお気に入りの映画のポスター、ずっと捨てられずにいまも手元にある思い出の映画のパンフレット、映画館に足を運ぶたびに集めたスタイリッシュなデザインのチラシ。映画の楽しみは映画そのものだけではない。劇場に足を運んでもらうための宣伝ツールであるポスターやチラシ、作品への理解を深め、映画の余韻を味わうための(もちろん、映画会社にとっては売り上げにもつながる)パンフレットもなくてはならない映画のカルチャーの一部である。そんな映画ポスター、チラシ、パンフレットの分野で近年、邦画・洋画を問わず、次々と話題作のビジュアルデザインを担当しているのがアートディレクター、デザイナーの石井勇一である。『ムーンライト』、『君の名前で僕を呼んで』、『花束みたいな恋をした』、『Mid90s ミッドナインティーズ』、『燃ゆる女の肖像』、『わたしは最悪。』…とこれまで担当した作品を並べてみるだけで、いかに彼が映画ファンの心をくすぐる仕事をしてきたかがわかる。ちなみに、この2月はパク・チャヌク監督作『別れる決心』、ジョージ・ミラー監督『アラビアンナイト 三千年の願い』、そして、カンヌ国際映画祭の最高賞パルムドール受賞作で、アカデミー賞作品賞、監督賞、脚本賞にもノミネートされている『逆転のトライアングル』という3本の劇場公開作品で日本版アートディレクションを担当している。映画に携わる“仕事人”にその裏側や魅力について話を伺う【映画お仕事図鑑】。今回は、『逆転のトライアングル』の公開に合わせて、石井さんのお仕事についてたっぷりと話を聞いた。映画のポスターやパンフレットのデザインに関わるようになった経緯――映画のみならず、様々な分野でアートディレクター、デザイナーとして仕事をされていますが、そもそも石井さんが映画のポスターやパンフレットのデザインに関わるようになった経緯を教えてください。独立してもうすぐ10年になりますが、それ以前のアシスタント時代に所属していた事務所がこうした映画のデザインの仕事を手がけていて、僕は補佐する立場で関わっていました。当時、一緒に仕事をさせていただいていた配給会社の方が、僕が独立して2年ほどしたタイミングで声を掛けてくださって、こうした映画関係の仕事をするようになりました。――もともと映画はお好きで、映画に関わるデザインをしたいという思いはお持ちだったんですか?そうですね。昔から映画は好きでしたし、最初の事務所を選んだ際も、ファッション、映画など多角的にやっている事務所だったというのが、理由としてありましたね。あとは、ポスター文化というのはずっと前から根強くあって、特に20~30年前くらいは映画のポスターってデザインの仕事における花形でしたので「デザイナーたるもの、ポスターの仕事をすべし」という思いはなんとなく昔からありました。ポスターを作品にできる仕事というと、意外と限られているんですけど、映画ってかなり自由に展開できる媒体なんですね。――お仕事で関わる以前に個人的に好きな映画のデザインやポスターなどありましたか?初めてポスターを自分で買ったのは『トレインスポッティング』でしたね。あれは強烈に刺さりました。あのカルチャー、ロンドンのぶっとんだ世界の若者たちが人生を謳歌していて、それがメッセージとして発信されていて、それらがデザインとしてカッコよく落とし込まれているんですよね。あのポスターは迷わず買いましたし、ピチピチのTシャツまで買ってしまった覚えがあります(笑)。いまでも忘れられないデザインですね。――奇しくも独立されて、初めてデザインを手がけた作品が、『トレインスポッティング』と同じくロンドンを舞台にした映画『追憶と、踊りながら』だったそうですね。その後、アカデミー賞作品賞を受賞した『ムーンライト』をはじめ、次々と話題作を担当することに?そうですね。『追憶と、踊りながら』の後、『ムーンライト』を担当させていただいたんですが、後になって聞いてみると『追憶と、踊りながら』のチラシや試写状を見てくださった配給会社の担当の方が気に留めていてくださって、1年後くらいにお声がけいただいたんです。それくらいからですね、いろんなお話をいただけるようになったのは。――2月だけで石井さんがデザインを手がけた作品が3本公開されるなど、かなりハイペースに様々なジャンルの作品を手がけられている印象です。まあ、この時期はアカデミー賞が3月にある関係で、作品が込み合う時期だというのはありますが、たしかに映画の仕事の割合は増えていますね。他にも、書籍の装丁やファッションのブランディングのロゴまわりのことなどもやっていまして、そちらの仕事もありがたいことに増えてはいるんですけど…。独立してもうすぐ10年ですが、徐々にやりたい仕事にフォーカスしてきているのかなと思いますね。日本独自のポスターデザイン、完成までの工程――ここから具体的に映画(洋画)のポスター、チラシ、パンフレットなどのデザインの仕事をどのように進めていかれるのかうかがってまいります。まず最初にお話をいただいたら、初号試写と呼ばれる関係者・マスコミ向けの試写があるので、そこで作品を拝見した上で、引き受けられるかどうかを決めます。そこで正式にお引き受けすることになったら、その後、1か月くらいをかけて(ポスターやチラシで使用される)メインビジュアルを開発していきます。実は、その間にムビチケの入稿期限があることが多いので、ムビチケの画像に関しては、本国のビジュアルを使い、仮ロゴとして組んだものを入稿したりする場合もあります。なので、みなさんの手元に届くムビチケのビジュアルは、実は最終的なビジュアルやロゴとは全く違うものだったりする場合もあります。『アラビアンナイト 三千年の願い』これは余談ですが、昔の「前売券」全盛の頃は、メインビジュアルを決めて、マスコミ用の試写状を作って、その後のタイミングで前売券を作っていたんですけど、ムビチケは少し早いんですね。その後、メインのビジュアルが決まって…と言ってもすんなり決まればいいんですが、なかなか決まりにくい作品性の場合もあって(苦笑)、そういう場合は事前に複数案を提案して絞り込んでいきます。そこで方向性が決まったら、チラシの裏のデザインに移ります。このあたりは毎回、時間がありそうで意外とないことが多くて、一番つらい時期ですね(笑)。それを越えると、マスコミ用のプレス、映画館で販売されるパンフレットを作っていきます。――メインビジュアルが本国のポスターなどで使用されていたものから変わることは多々あるのでしょうか?そうですね。そこは宣伝の方向性にもよります。日本と本国で、映画の宣伝方法が異なるという部分が大きいと思います。日本だと広告性を重視していて、とにかく数を動員しないといけないという方向で動いていて、打ち出し方が広告に近いんですよね。作品性やアート性を出し過ぎても、(ポスターの前を)素通りされてしまいがちなので、その作品からどういう感動や感覚を得られるかを説明しないと実際に人が動かないという実情は昔からあります。コピーなしのファンポスターみたいな感じでいけるかというと難しいんですね。今回の『逆転のトライアングル』で言うと、本国のビジュアルを派生して作っているんですけど、そうじゃなく全くガラッと変えて、劇中のシーンからビジュアルを切り出して使うこともありますし、そこはわりと自由ですね。――洋画が日本で公開される際のポスタービジュアルや邦画タイトルが、本国のものとかけ離れていたり、その作品の持っているアート性が反映されていないということがSNS上で批判を呼ぶこともあります。コアな映画ファンとなかなか劇場に足を運ばない人々がいる中で、後者を広く呼びこまなくてはいけないという部分で難しい部分、ジレンマもあるかと思いますが…。そういう様々な意見が飛び交うのは良いことだと思いますし、批判的な意見もありがたく受け止めています。ただ、そこはおっしゃるようにジレンマもありまして、普段、あまり映画を観ないという方にもいかに劇場に足を運んでもらうか? というのが、多くの場合、映画ポスターの目的なので、ペルソナ(=ターゲットとなるユーザー像)を決めて、作っていくというのが日本独自のやり方だと思います。――今回の『逆転のトライアングル』のポスタービジュアルは、傾いた黒い枠の中に、豪華客船に乗り込んだセレブたちがくつろいでいる姿が映りつつ、後部では炎上が起きているというゴージャスさと不穏な空気が混在した構図になっています。そして、映画を観た人ならわかる黄金の“あるもの”がポスターにもぶちまけられていて…というデザインですが、どのようなコンセプトで作られたのでしょうか?作品性の高さという点では、カンヌでパルムドールも獲っていて、ファンや映画好きは間違いなく動く作品だと思うので、あとは若い人たち、特に皮肉も含めてファッション文脈の多い作品でもあるので、そういうのが好きな人たちにも広げるという意味で、感度を上げていかないといけないだろうと思いました。ファッションブランドで、フチをとって背景を白にする角版(切り抜き)をあえて内側に入れるデザインというのをよくやるんですね。黒枠は「CHANEL(シャネル)」や「CELINE(セリーヌ)」といったブランドで、昔からよくあるもので、下にシンプルにロゴをバンっと入れるというものなんですけど、意外とこのスタイルってファッションでしか見たことがなかったんですよね。あの面白い文化を上手く皮肉に落とし込めたらいいなというのが最初に思い付いたアイディアでした。『逆転のトライアングル』あとはこの写真をどう調理してはめるか? いくつかのパターンを提案しました。写真が斜めに傾いているのは、本国のビジュアルでも船長だけが斜めになっているものがあったので、それをあえて正対にして、全体が斜めになるようにしたら、ポスターとして貼った時に、なぜか曲がっている違和感が人間の錯視的に引っ掛かるだろうと考えました。加えて、ポスターとして貼られた時、今回の作品でも非常に印象的な“ゲロ”がポスターに掛かっていたら、それ自体がセンセーショナルだし、そんな汚いポスターはいままでないだろうと(笑)。でも、加工されてそこまで汚くはないんですよね、シャンパンだからなのか…(笑)。あの「キレイなのにグロい」という謎の違和感を出せたら良いなということで、あえて金のインクをアナログ的に垂らして作っています。富豪の象徴としての金(ゴールド)やシャンパンゴールドのゲロという、ポスターを見て「なんかキレイだけど、これは何だろう?」と思ってもらえて、映画を観ると手にも取りたくなくなるような(笑)、そんな二面性を出せたら面白いなと思いました。――序盤のレストランでの「誰がデート代を支払うか?」という口論を中心とした、モデルでインフルエンサーのヤヤとカールのカップルのパート、中盤の豪華客船パート、そして、船が難破し、たどり着いた無人島でのサバイバル生活のパートと本作はパートごとに雰囲気がガラッと変わります。この豪華客船のセレブたちの姿をメインビジュアルにした決め手は?この映画、いろんな切り口があって、おっしゃるように場面ごとに全く雰囲気も変わるので、いろんなつくり方ができたと思います。ただ、この場面が一番、これからまさに逆転が起こる直前の違和感があるんですよね。我々からしたら、豪華客船に乗ってシャンパンを飲みながらのんびりしている様子って、思い切り“非日常”じゃないですか? しかも、後ろのほうを見ると炎上しているというのは、フックとしてすごく良いレイヤードをしているなと本国のビジュアルを見て思ったんですね。しかも、海の先には島があって、“逆転”してのし上がるアビゲイルの姿も控えていて……というビジュアル性の高さを1枚でうまく表しているんですよね。シンメトリーの構図も美しいですし、よくできたビジュアルだなと思ってこれを採用しました。『逆転のトライアングル』――ちなみに、洋画と邦画ではポスタービジュアルのデザインの工程、コンセプトなどは大きく変わってくるのでしょうか?全然違いますね。同じ業界ですが、つくり方も時間も違ってきます。邦画ですと、撮影される前からお話をいただくことも多いですし、それこそ昔は台本の表紙のデザインからスタッフTシャツまで担当することもありました。洋画はスケジュール的に、短い時で3か月、長い時でも6~7か月ですが、邦画なら1年半前からということもあります。邦画のほうが、製作委員会があったり、関係者の数も多いですし、各俳優さんの所属する事務所の確認などもありますので、工程数も大きく変わってきます。――先ほどお話に出たような、日本の映画興行におけるポスタービジュアルに対する批判がある一方、近年、邦画でもアート性の高いポスターやチラシが掲出され、話題を呼ぶことも増えてきました。『花束みたいな恋をした』、『はい、泳げません」などではティザーポスターで、キャストの写真を使わず、イラストを使っているのも話題になりました。それぞれの作品のキャストの豪華さ(『花束みたいな恋をした』は菅田将暉、有村架純、『はい、泳げません』は長谷川博己、綾瀬はるか)を考えると、なかなか稀有なケースかと…。あのティザーに関しては、配給・製作会社がリトルモアさんだったという部分が大きいと思います。わりと文化的アプローチを好まれるプロデューサーさんが多いので、イラストを使ったりして何かしらのフックをつけて気に留めるというやり方を採用されていました。制作の時間が長いゆえに、そういう戦略が広がってきていて、それは良い傾向だなと思います。「買いたい!」となるようなものを日本オリジナルで――改めて、石井さんが考える映画ポスターの役割、デザインする上で大切にしていることを教えてください。僕の中でポスターって、それこそ昔『トレインスポッティング』を思わず買ってしまったように、昔は1000円くらいで劇場などで売っているものだったんですよね。いま思うと、すごく良い時代だなと思うんですけど、そういうのが理想としてありますね。思わずほしくなって「買いたい!」となるようなものを本国のものではなく日本オリジナルで作ることができたらという思いはあります。(観客の興味を惹くための情報を伝えるという)機能は持ちつつ、憧れの存在としての映画のポスターというものは保っていきたいなと思っています。――その一方で、パンフレットは基本的に映画を観た人が、さらにお金を出して買うものであり、あちこちに掲出されるポスターとはまた役割や意味が違うものだと思います。パンフレットをデザインされる上で意識していることはどんなことですか?やっぱりパンフレットって映画を観て、作品性を理解した上で読まれるものなので、劇場を出てもそのまま手元に取っておきたくなるようなものであってほしいなと思っています。僕自身、いまだに捨てられない映画のパンフレットってあって、何度か引っ越すタイミングで「捨てるか?」「いや、これは捨てられないよなぁ…」と(笑)。そこがパンフレットの寿命なんですよね(笑)。そこで何十年も取っておきたくなるものにしたいし、いろんな思いがあったり、当時の自分につながっているものだったりするので、その思いに寄り添える媒体でありたい。それが、あえてフィジカルなパンフレットの面白さですよね。――先日、公開を迎えた『別れる決心』のパンフレットもTwitter上などで話題になっています。茶封筒に入っていて、しかも絆創膏で留められているという…映画を観た人にはたまらないつくりになっていますね。『別れる決心』に関していうと、「捜査資料」というポイントでまとめることができたので封筒というアイテムが使えるなと考えました。じゃあ封を留める必要があるな…なにか留める文脈ってあったかな? 映画の中に絆創膏が出てきたけど、あの登場人物なら絆創膏で留めてもおかしくないなと。そうやって、キャストの存在も含めた作品性、文脈にうまくハマると、こういうことが起きるんですね。毎回、そうやってモヤモヤと妄想を広げながら、つながる部分を見出していく感じですね。『別れる決心』――そして『逆転のトライアングル』のパンフレットもちょっと変わったつくりになっていますね。雑誌をモチーフにしているようですが…?これは豪華客船の船内誌をイメージしています。飛行機でよく見る前の座席の網棚の部分に置いてあるなんとも言えない独自のラグジュアリー感、かつ販売をしてない媒体というあの皮肉さを本作のシュールな違和感のあるビジュアルとハメたら面白くなるだろうと思いました。架空のロゴも含めて一冊の船内誌としてまとめてみました。その上で“謎のマガジン”感を思いきり出しています(笑)。表紙はヤヤの水着姿ですが小口折の二面になっていて、180度逆転したら、裏も表紙になっていて、こちらは表紙とは正反対の島で苦労するヤヤのビジュアルを載せています。前後には広告がたくさんあるのもこういう機内誌の特徴ですけど、実際の劇中の写真もライフスタイル系の広告っぽい写真なんですよね(笑)。リゾート地ってファッションの撮影でよく使われますけど、そこに思い切りハマるんですよね。これを使わない手はないなと。面白おかしく謎の船内誌に仕上げています。――最後にデザイン分野で映画の仕事を志す若い人たちにアドバイスや大切にしてほしいことなどメッセージをお願いします。映画が好きな人は、劇場に足を運んでいろんな作品を観ていると思いますが、作る側になるなら、それ以外のいろいろなことを“体験”として知って、理解していないと表現にまで落とし込めないと思います。僕も、これからまたパリのコレクションにも足を運ぶ予定なんですけど、現地に行き、各国の富裕層を目の当たりにして、どういう感覚でその人たちが世界で動いているのを見て、フィルターして語れないといけないと思います。そこから表現がにじみ出てくるものなのだと思うので、いろんな体験、経験にお金を惜しまずに投資していってほしいですね。逆にデザインや映画に注力し過ぎない方がいいと思います。様々な体験が財産としてのちのち活きてきます。(photo / text:Naoki Kurozu)
2023年03月05日今年でデビュー5周年を迎える、6人組ダンス&ボーカルユニット「ONE N' ONLY」。TikTokの動画総再生回数は2億回超え&フォロワー数は日本人アーティスト1位の520万人を誇るなど、今後ますますの活躍が期待される彼らが、メンバー全員で初主演映画『バトルキング!!-We'll rise again-』に挑んだ。本作は、ダンスや音楽の出会いを通して、自分たちを見つめ直し夢に向かって突き進む男たちの青春ストーリー。仲間とともに踏み出す姿は、スクリーンを離れたところでも仲が良い「ONE N' ONLY」に重なるようだ。役を通して、6人は6様のフレッシュな魅力を振りまいた。シネマカフェでは、メンバーの山下永玖、高尾颯斗、草川直弥、上村謙信、関哲汰、沢村玲に前後編でインタビューを敢行。前編では自身が演じた役へのこだわりを、後編では自分にとって大切な作品を、それぞれたっぷりと語ってもらった。――初主演映画の完成、おめでとうございます。全員:ありがとうございます!――撮影に臨む際、役へのアプローチでこだわったこと、意識していたことなど、おひとりずつうかがえますか?上村:はい。僕の演じた鞍馬憲一郎は、一番最初にラップのシーンがあるんです。鞍馬は中学のときにラップ大会で優勝して実力はあったんですが、喧嘩早いことが原因で夢を諦めてくさっていて。そこを表現したかったので、ラップの歌い方はいつものONE N' ONLYのKENSHINで歌っているラップとは全然違う形にしましたし、めちゃめちゃこだわりました。上村謙信(ONE N’ ONLY)もうひとつはアクションです。『バトルキング!!』自体、ヤンキー映画ということもあるので、アクションがひとつの大きな見せ場で課題としてありました。二度目になりますけど鞍馬はとにかく喧嘩早いので(苦笑)、鞍馬きっかけでアクションが始まることも多いんです。この作品の勢いをつける役割なのかなと思ったので、そこもすごく意識して、役づくりなりラップなりアクションなりに取り組んでいきました。――冒頭から引き込まれると、一気に映画の世界観に入っていけますもんね。要のシーンを、上村さんがしっかり体現したんですね。上村:そこは本当にプレッシャーでしたけど、「最初の掴みだから」と監督といろいろコミュニケーションを取って作りました。表情や歌い方、会場を煽ることも、殴ったりするシーンも、ひとつひとつ丁寧に作りあげたつもりです。だからか、完成した作品を観たときはめっちゃ感動しました。――メンバーの皆さんからご覧になって、上村さんのたたずまいはいかがでしたか?関:普段の謙信とは全然違いました。僕は鞍馬と一緒にいる時間が多い役で、役柄的にふたりでひとつみたいな、親友の関係性だったんです。常に横にいたので、謙信との違いもよくわかりました。普段は温厚で優しい感じなんですけど、役になるとすごい活発で喧嘩をふっかけたりして、ギャップがすごくて!映画の一番最初に流れるラップのパートも、かましているなとすごく思いましたね。出だしでちゃんと掴みにいってくれているので、これから観る人にも楽しみにしてほしいです。――ありがとうございます。関さんの役作りの秘話もぜひ聞かせてください。関:役作りで言うと、僕は難しく考えすぎずにやりました。最初、台本を読んだときはもうちょっとクール系かなと思ってやっていたんですけど、監督とコミュニケーションを取っていくうちに、「もっと素を出してほしい」と言ってくださって。なので、あまり深く考えず、自分らしくできた感じがします。関哲汰(ONE N’ ONLY)――何と言っても「アメイジング・グレイス」のアカペラシーンが印象的でしたが、緊張しませんでしたか?関:歌うときはめちゃくちゃ緊張しましたね!!あのときの撮影は奇跡に奇跡が重なって、一発撮りで終わったんです。太陽がいい感じに差し込んでくれてロケーションも最高で、歌も一発で決まって…。監督も「これでいこう!もうこれ以上ないよ!」みたいな感じの雰囲気になったぐらいでした。あのシーンが個人的には一番印象的でした。だけど、こう…試写で聴いたときもまた緊張しましたね(笑)。シーンと静まり返っている中で、アカペラの歌が流れてくるのはちょっとドキドキしました。山下:「アメイジング・グレイス」のシーン、本当にめっちゃよかったです。現場で、監督が「よっしゃー!あのシーンよかった!!」と言っていたんですね。だけど、僕はその場にいなかったから「どんな感じなんだろう?」と楽しみにしていたんです。実際に観て感動しましたし、すごくぐっときました。山下永玖(ONE N’ ONLY)――見どころのひとつですよね。山下さんは物語を引っ張っていく役どころでした。シーン数も多かったですし、いろいろと準備していたのではないですか?山下:はい。僕が演じた源二郎は意志が強くてプライドもあり、仲間もいるという役柄でした。小学校からダンスをしていたけど、ヤンキーになってやらなくなり、だけどもう1回ダンスをやりたいと向き合っていく、という感じで。僕も昔から音楽活動をしていたので、そのころの葛藤や辛い思い、悔しい思いを思い出しながら演じていました。感情の起伏が大きいところは大変でしたが、性格的には僕も源二郎と同じというか、意思が強くてプライドもあるので、そこは安心してできたなと思います。僕自身も重ねて演じられた役でした。草川:この作品は源二郎という人間がすごく成長をしていく物語なんですよね。僕が演じた甲斐は、源二郎と中学のときのダンス仲間だけど、今は源二郎がダンスをやめたので不仲になった感じで再会するんです。源二郎と甲斐とのシーンでは、永玖とふたりで「ここ、俺はこう思っているから」みたいに話し合ってやっていました。ぶつかるところや、昔はふたりがどういう仲で何がきっかけでダンスを始めたのかとか、すごく話したんです。山下:うん。めっちゃ話し合いはしました。草川直弥(ONE N’ ONLY)――草川さんが演じる上で、こだわったところはどこでしたか?草川:今回アクションシーンやダンスシーンももちろんあったんですけど、最初に脚本を読んだときに、甲斐玄武という人物自体がすごく掴みづらいな、と思ったんです。甲斐は物語の途中から出てくるのもあるから、物語にどうスパイスを注ぎ込むか、どう変えていくのかが難しいと思っていました。だから、芝居面ではどうやるかめちゃくちゃ考えました。簡単に作っても面白くないし、近づきすぎてもあれだし、みたいな。高尾:確かに、甲斐はダンスがすごく上手で、源二郎に対してのライバル意識みたいなのがすごくあるキャラクターなんですよね。直弥くん自身が、甲斐のようにバチバチのライバル意識みたいなのを素で出すタイプじゃないから、演技している姿を見ていても、完成した作品を観ても、全然違う人に見えました。甲斐がいないと物語が動いていかなかったので、すごい大事な人物だなと改めて思います。高尾颯斗(ONE N’ ONLY)――高尾さんはいかがでしたか?今回、実の弟さんと兄弟役で共演というリアルさもありました。高尾:そうですね。実際にリアルな弟と兄弟役というのが、僕の中では一番大きかったです。僕が演じた愛之助という人物は、めちゃくちゃ弟思いなんです。愛之助自身はダンスという夢を諦めてヤンキーになっちゃったけど、その道は弟に追ってほしくないという葛藤があって。実際の兄弟だけど自分たちとは違う雰囲気があったので、そのあたり「こういう家庭環境だから、こうなったんだろう」とか、リアルに弟と話し合ったりしました。そうやって弟とふたりで役を作っていくのは新鮮すぎましたね(笑)。ふたりで温泉に行ったりして話すのもなかなかできないことだと思うので、すごくいい経験になりました。――最後になりましたが、沢村さんも役についての裏話をお願いします。プロのアーティストになるために、5人とは少し異なる立ち位置の役どころでした。沢村:今振り返ると、監督としゃべっている時間がすごい多かったです。僕が演じた早乙女以蔵は、元ヤンキーという一面と、名門アートスクールの生徒という一面があって。さらに、5人とは唯一、仲間意識という面でつながっているわけではない人物でもありました。そういうのもあって、早乙女は(仲間の)この5人が羨ましくありつつも、自分はやりたいことをやって生きていくという気持ちがすごいあるのかな、と思ってやっていきました。沢村玲(ONE N’ ONLY)――今回コメディパートも担っていましたよね。そのあたりはいかがでしたか?沢村:面白いほうに持っていくことについては、監督から「この作品に凸凹をめちゃくちゃつけてほしい」というオーダーがあったんです。振り切った感じにやるように、撮影の直前でやっと決まった感じです。僕なりに考えてやったら「ばっちりだ!」と言ってくださったので、それで臨んだ感じでした。――ありがとうございました。引き続き後編もお願いします。ヘアメイク:NOBU(HAPP’S.)映画『バトルキング!! -We’ll rise again-』3月10日よりユナイテッド・シネマ アクアシティお台場ほか全国公開(text:赤山恭子/photo:Maho Korogi)■関連作品:バトルキング!!-Weʼll rise again- 2023年3月10日よりユナイテッド・シネマアクアシティお台場ほか全国にて公開©映画「バトルキング!!」製作委員会
2023年03月03日映画『エゴイスト』が話題を呼んでいる。国内外の大作ひしめく中、初週の週末興行収入ランキングでトップ10入りを果たし、鑑賞後のレビュー、満足度でも軒並み高い評価を叩き出している。鈴木亮平演じる浩輔と宮沢氷魚演じる龍太の激しく濃厚な愛の交わり、彼らを襲う過酷な運命、そしてゲイであるがゆえに彼らが直面する様々な困難を描いたテーマ性の深さなど、高い評価を得る理由は数多くある。だが何よりも心に突き刺さるのは、俳優たちが発する強く、生々しい感情、特に映画の後半で、浩輔と龍太の母・妙子(阿川佐和子)のやりとりには心揺さぶられずにいられない。これは浩輔? それとも鈴木亮平そのもの――?昨年のアカデミー賞最優秀助演男優賞に輝いた『孤狼の血 LEVEL2』で見せた狂気のヤクザや数々の漫画原作のキャラクターなど、体重の増減などを含め、どちらかというと役柄に合わせて自身を“変身”させるというイメージが強い鈴木だが、本作では役柄と本人が一体になったような錯覚さえ感じさせつつ、弱さや葛藤、それを覆い隠そうと虚勢を張る姿を見せている。そして、そんな彼の感情を受け止める阿川佐和子の包容力――。どのようにして彼らのやりとりは生まれたのか?公開初日の翌日、映画館での舞台挨拶を終えた鈴木亮平に話を聞いた。<こちらのインタビューは、映画の核心部分、ネタバレに触れた内容になっております。映画ご鑑賞後にお読みください。>映画完成後に初めて気づく撮り方――映画を通じて、セリフではなく表情から感情が伝わってくるシーンが多いですね。歩道橋でのキスシーン、後半に病院で“愛”について話すシーンなど「こんな鈴木亮平の表情、見たことない!」と驚かれる人も多いのではないかと思います。一方で「え?ここで顔は見せないの?」というシーンも多くあって…。そうですね。浩輔が龍太に「さよなら」を告げられるシーンも、浩輔の顔はずっと裏なんですよね。僕も映画を観ながら「こんなに浩輔の顔、映らないんだ!」って驚きました。普通、ああ言われた浩輔の表情を映したくなるものですけど、これは松永(大司)監督の意図ですね。――現場では浩輔の表情も含め、いくつかのパターンを撮った上で、編集でああなったんでしょうか?いや、全く撮ってなかったと思います。最初からああいうふうでした。――病院に見舞いに行った際に、阿川さん演じる妙子が「自慢の息子なの」と言うシーンも、そう言われた瞬間、浩輔がどんな表情をしているのか気になりますが…。あそこも撮ってないんですよ。監督はもちろん、あれがキラーフレーズであり、浩輔にとってそのひと言がどれだけ大きいのかを理解しているんですけど、それでも「撮らない」という選択をしています。その場で本当に物事が起こっているようなドキュメンタリー感を大切にするという意図もあると思いますが、その後のトイレに駆け込む浩輔の姿で、お客さんは十分に感じ取ってくれるはずだ、とおっしゃっていました。――そういう、少し変わった切り取り方をしている映画であると現場で感じながらそれぞれのシーンに臨んでいたんですか?いえ、この作品は撮影前からリハーサルを重ねてきて、しかも台本に存在しないシーンをリハーサルで演じた部分も多かったんです。そうしたリハーサルの間も、ずっと手持ちのカメラが近い距離で回っているんですね。そうすると、逆に演技をしていても「いま、何を撮られてるのか?」というのを忘れる状況になるんです。だから撮影初日から、カメラがどこを向いていて、何を切り取っているか?ということを気にせずに現場にいられた気がします。――完成した映画を観て、初めて「こんなふうに撮っていたのか」と気づくような?全くその通りで、やっと最近、この映画を客観的に見られるようになってきました。だから、先ほど言った龍太とのシーンで浩輔の顔がほとんど映っていないことも昨日の公開初日に劇場で観て、初めて気づきました。あそこで映っていたのは、まさに現場で僕が見ていた龍太の顔なので、それまではただ「そうそうそう!」って思って観ていました(笑)。正直いうと、昨日まで、みなさんがこの映画のどこにそこまで感動してくださっているのか、いまいちピンときてなかったんですよ。僕はただ自分が生きた時間の記録を見ているような感覚で。たぶん、運動会で頑張ってる子供って自分ではただ精一杯走ってるだけで。でも、それを客観的に見る親は感動してくれていて。演技も、それに近いところがあるのかもしれませんね。<以下、映画中盤以降のネタバレを含んだ内容となります。未見の方はご注意ください>役のほとんどは“自分”という感覚「それは本当に怖いこと」――今回は公開後のインタビューということで、特に後半部分のやりとりを中心にお話を伺えればと思います。龍太の母親・妙子を演じられた阿川さんと共演されて、いかがでしたか?素晴らしかったです。本当に自然体で、2人のシーンに関して、僕はセリフはほとんど決まっていなかったので、阿川さんが龍太の母親として投げかけてくれる言葉に自然に反応するだけでいいという状況でした。――セリフが決まってなかったんですか?特に食卓のシーンはそうでした。「別れた夫のことを話す」とか、何となく会話の内容は決まっていたんですけど。もちろん何度も繰り返すので、だんだん固まってくるんですが、監督は固まることを嫌うので…。「別れた亭主から電話があってね」という阿川さんの言葉に対して「ちょっと待ってください。当てていいですか?」と言ってみたり…“生”の感じを求めるというか、そのテイクごとに新しいことが起きないとOKが出ないんですね。――浩輔が妙子にお金を渡そうとするシーンでは、松永監督は阿川さんに「受け取らなくてもいいです」と伝え、鈴木さんには「絶対に受け取ってもらうように」と指示されていたそうですね。妙子としては当然「受け取れません」となるわけで、それをどう説得して受け取ってもらおうかと思案し、苦慮する様子が伝わってきました。あれは本当に決まってなくて…。台本に書いてあることはガイドみたいなことで、それじゃ妙子さんを説得できないんですよね。当然、断られるわけです。どうすればいいのか…?いや、あれはそもそも断られて当然の無理な交渉なんですよね。なんで自分はこれをそこまでして受け取ってもらいたいのか――?それを言葉にすると、自分が正気ではいられないような気がして…。でも、そこまで踏み込まないとこの人は受け取ってくれないんだというところに気づいていきました。――最初は「龍太くんを応援してまして…」という言葉を口にされますが、言いながら「いや、この言葉は違うな」と感じているのが伝わってきます。かといって、単に「お願いします!」と頭を下げるのではなく、何とかして自分の“言葉”で思いを伝えないといけないという、役柄を超越して、鈴木さん自身の“誠実さ”みたいなものがにじみ出てくる最高のシーンでした。「応援」と言ったはいいけど「その言葉じゃないんだよなぁ…」というのが自分でも感じられて。なかなか自分の気持ちを言葉で説明できなかったんです。なんというか、ああいう撮り方で、本当に嘘のないものを見せたいと思ったら、半分くらいは“自分”を混ぜていかないと…いや、半分以上ですね、浩輔の8割方は僕自身だと思います。自分の見せたくない生々しい部分、傷みたいなものを見せないと成立しない役だったように思います。――現場で浩輔という人物に向き合い、自身の中からわき上がってきた感情を取り込んだからこそ、繊細さや弱さ、葛藤が生々しく伝わってきたんですね。いま、おっしゃったような、“役に自分を混ぜていく”アプローチの面白さや大変さについて教えてください。怖いですね。それって僕自身が魅力的な人間じゃなかったら、役も魅力的に見えないということじゃないですか?僕は自分を魅力的だと思えるほど自信家ではないので、本当に怖いですよね。自分の繊細さであったり「自分だったらこうする」というのを前面に押し出さないといけないわけで…。「自分の生々しさに賭ける」というやり方は、もしかしたら20代から仕事が順調にいっていた人間だったら自信を持って当然のようにできるのかもしれませんが…、僕は、否定とは言わないまでも、「求めているのは君じゃないんだよ」と突きつけられる経験を現場やオーディションなどで重ねてきたので「こんな自分で勝負できるわけがない」という強迫観念みたいなものがどこかにあるんです。それでも勇気を持って「でもこれしかないから」と自分を解放させようと思えたのは、即興に近い今回のような撮り方の作品だったからこそできたのだと思います。もちろん、セクシュアリティという部分で、ゲイの方たちがこの作品を観た時、リアルな物語、自分たちの物語であると納得していただけるものにしなくてはいけないということは、また別の側面としてありました。そこは監修の方と相談しながら作っていますが、そうは言っても、浩輔という役のほとんどは“自分”という感覚でやっていました。それは本当に怖いことでもありました。<以下、映画中盤以降のネタバレを含んだ内容となります。未見の方はご注意ください>映画を通じてそれまでの“常識”を疑う――映画の公開と重なるタイミングで、同性婚の法制化についての議論が巻き起こっています。劇中でも浩輔の友人が婚姻届けを手にする描写などが出てきますが、例えば浩輔と龍太の関係性も、男女の関係性であれば、婚姻によってカップルが経済的な部分も含め、互いを支え合うというのはごく当たり前のこととして受け止められていたかもしれません。本作への出演を経て、いま、社会で議論されていることに対して、どのような思いを抱いていますか?原作者の高山真さんのエッセイなどを読ませていただくと、果たして彼らの関係性で「結婚」まで至ったかは分かりません。もしかしたら結婚していたかもしれないし、たとえ同性婚が法制化されていたとしても、そうはならなかったかもしれない。そこは彼らだけにしか分からない部分ですので。ただ、僕がこの作品で演じていてつらかったのは、お葬式のシーンで、あんなに愛し合っていたのに、なぜ浩輔は堂々と龍太の“恋人”としてお母さんを慰めてあげられないのか? 親族側とは言わないまでも、関係者として参列できないのか?そもそも、当日に病院に駆けつけて慟哭することだってできたかもしれない。葬儀のシーンでも、浩輔は絶対に恋人であったとバレちゃいけないので、さっと済ませて早く帰らなきゃいけない。――泣き崩れながらも「大丈夫です! 大丈夫です!」と気丈にふるまおうとする姿に胸が締めつけられます。自分が泣き崩れたことで関係がバレたとしたら、どれほど周りに迷惑をかけるのか?でも、それってとても悲しいことですよね。一番大切な人が死んでしまって、それでもお葬式で「周りに迷惑をかけちゃいけない」と思うのは。同性婚や法律的な部分での整備に関して、僕は進めるべきという意見ですが、それと同時に自分たちの意識を変えていくことも大切だなと感じています。いままで育ってきた環境で身に着けた“常識”と言われるものだったり、価値観を自分で疑っていくということ、「これってどうなんだろう?」と自分で自分に問いかけることが大事なんだと思います。この映画に出演させていただいたことが、LGBTQ+について考えるきっかけになりましたが、他のイシューに関しても、自分の中に気づかないままの“偏見”ってまだたくさんあると思うんです。(映画作品など)エンタテインメントを通して、そこに気づかされるということもすごく多いです。だからこそ僕らは、映画やドラマをみなさんに観ていただき、「いや、その描き方、こうしたほうがいいんじゃないの?」という前向きな意見もいただいて、お互いに前に進む力を高め合っていくことが重要だなと今回の作品を通じて感じました。(text:Naoki Kurozu/photo:Maho Korogi)■関連作品:エゴイスト(2023) 2023年2月10日より全国にて公開© 2023 高山真・小学館/「エゴイスト」製作委員会
2023年03月01日『サマーフィルムにのって』『由宇子の天秤』『ちょっと思い出しただけ』『PLAN 75』『ある男』等々、話題をさらった力作に立て続けに出演している河合優実。彼女の待望の初主演映画『少女は卒業しない』が、2月23日に劇場公開を迎える。朝井リョウの同名小説を、『カランコエの花』の中川駿監督が脚本・監督を務めて映画化。廃校が決まった高校の“最後の卒業式”までの2日間を美しくも切なく描き出す青春群像劇だ。河合さんは本作で、卒業式での答辞を任された卒業生・まなみを繊細に演じている。2019年のデビューから4年。河合さんが歩んできた初主演映画までの道のりを、じっくりと語っていただいた。デビューから丸4年「ステージがどんどん上がっていく」――河合さんは『少女は卒業しない』公開タイミングで、デビューから丸4年を迎えます。怒涛の年月だったかと思いますが、改めて振り返ってどういった出来事が印象的でしたか?たくさんありますが、初めて舞台に挑んだ際(2019年上演の「some day」)に「これが原風景であり、原点だ」とはっきり感じました。そのときにマネージャーさんが「原点と思うものが、この先どんどん更新されていくかもしれないね」と言ってくれたのですが、だんだんとその意味が分かってきた気がしています。セーブポイントが増えていく感じといいますか、「この経験は初めてだな」と思えるものがひとつずつ増えて、ステージがどんどん上がっていく感覚があります。記憶に新しいところでいうと、去年お仕事で海外に行ったことはいままでと全く違う経験でした。短編の撮影だったし、海外だから全部そうというわけではないかなと思いつつ――お金にも時間にも日本より余裕がある現場だったんです。そして、敬語がないのも一つの要因かもしれませんが、スタッフさん皆さんと対等に、友達のようにコミュニケーションを取りながら作っていけました。毎日「How are you?」から始まる現場を経験できたことで、私の“いつも”の余裕のなさに気づけたんです。慣れない環境で撮る経験も初めてでしたし、とにかく体の隅から隅まで新鮮な感覚で撮っていました。――「セーブポイント」という表現、非常にしっくりきます。経験がたまっていくことで、「ここからもう一回始めよう」というリロードできる場所が進んでいく。自分の中では結構たまってきたようにも感じますし、「これ2周目だな」と思う日がいつ来るんだろうとは思いますが、まだ経験したことのないポジションや感覚はまだまだある気もします。――それこそ『少女は卒業しない』は初主演映画ですしね。こういった取材の場でも「主演」ということを聞かれる機会が増える、つまり周囲も変わってくるかなと思うのですが、撮影現場ではいかがでしたか?出来るだけ自分にかからないように心がけていましたが、プレッシャーというか責任感はやっぱりありました。――出演した年はバラつくでしょうが、去年公開・放送・配信された河合さんの出演作はなんと15本以上でした。他に類を見ない数字かと思います。そんなに本数があったんですね…。もちろん公開年やその前年に全て撮っているわけではないのですが、数が増えていくことで怖いなと思うのは、こなしてしまうことです。現場に行ってセリフを言っちゃえば演じたことになってしまうので、それは絶対にしたくないと思います。ファストにしたくないんですよね。そこは常に気を付けています。いっぱい出させてもらったことはすごく嬉しい反面、いまは色々なプラットフォームがあって作品の全体数もすごく多い。消費のサイクルに飲まれないようにしたいと思っています。「演じること」への意識の変化「“好き”で終わりじゃない」――多忙を極めるなかで役を生きる=演じる準備等はどのように工夫されてきたのでしょう?そうですね、なかなか準備の時間が取れないことが一番苦しいのですが、自分にもバレないようにうっすら次の作品を考え始めて、撮影が終わった瞬間に準備を始めるというやり方をするしかないなとは感じています。ただ、自分のリアルなリズムでいうとそこまで働きづめということでもないんです。公開が重なってはいますが毎回ちゃんと準備する時間は取れているので、今後もそうでありたいと思っています。――『少女は卒業しない』だと、実際の学校で卒業式シーズンに撮影できたり、中川駿監督が俳優のその場の発想を吸い上げる作り方をされたことで、準備時間をカバーしてくれる部分もあったのではないでしょうか。それはありました。脇役やスパイスになるような役だとがっつり決めてかかるというかその日に出たものしかできないところがありますが、本作のように主演だったり撮影期間が長いと自分が考えていることも変わってきますし、今回はそれを反映できる環境でした。時系列順に撮っているわけではなくとも自分も役も成長していく感覚があって、それを利用しながら演じていきました。そうした自分の変化が作品に上手く作用していたら、一番ですよね。――今回は最後のセリフが空欄のまま、河合さんも中川監督もどんな言葉が入るか考えながら撮影をしていたとか。ここまではっきり空欄だったのは初めてでした。中川監督は「脚本通りじゃなくていいよ」と自由に泳がせてくださる方でありながら、同じ目線で悩んで考えて一緒に取り組んでくださる方という印象がすごく強いです。――そうした本作での経験も含めて、「演じること」への意識はこの4年で変わってきましたか?そうですね。演技のアプローチ自体は計算式があるわけではないので、「今回はこれをやってみよう」と常に何かしら試している感覚です。ただ、演じる“重み”は変わってきたように感じます。昔は「自分がやっていて楽しい」だけでよかったのが、いまは「好き」という気持ちもありつつ、それで終わりじゃないという気持ちが芽生えました。『少女は卒業しない』で主演を務めさせていただいたこともあり、「映画に出る」ということの中に演じる以外のこともたくさん含まれていると思うようになりました。いまは、「ものを作って届ける」という重みをより感じています。――河合さんは高校時代からダンスなどで人前で表現する機会は多かったのかと思いますが、プロの現場となるとまた心持も変わってくるというか。そうですね。特にいまは、気持ちだけでやる時期じゃないと思っています。藤原季節の言葉がいまも生きている――『少女は卒業しない』は、他者からかけられた言葉がその後の人生を左右するさまを描いています。河合さんの中で、いまも生きている言葉にはどのようなものがありますか?この作品にせっかく出ていらっしゃるので、(藤原)季節さんからいただいた言葉をお話ししたいと思います。季節さんとは『佐々木、イン、マイマイン』で出会いました。この作品の最後に季節さんや皆さんが佐々木コールをしているなかで私が泣くシーンがあるのですが、撮影時には音声さんからは「他の方は音声オフで、河合さんの声だけを録りたいです」と言われたんです。でも、どうしてもダメだと思い「本当にごめんなさい。皆さんにも声を出していただいていいですか」と相談したら音声さんも季節さんたちも快くOKしてくださって。後から季節さんに「あれは役を守った瞬間だったね。守れないときもあるから」と言われました。そのときは真意がわからなかったのですが言葉だけはずっと残っていて、年を経るごとに「そういうことか」とわかってきた感覚があります。『少女は卒業しない』で、答辞のシーンの撮影で「テスト段階から回していただいてもいいですか」とお願いしたのも、この経験がつながっています。季節さんは自分にとって、熱くて優しい先輩です。――河合さんは『ダンサー・イン・ザ・ダーク』や『ラ・ラ・ランド』がお好きと伺いましたが、観る側としてのご自身はいかがですか?変化があったのか、それともなかったのか。そこは変わっていないように思います。もちろん仕事につながることではあるけど別に勉強とは思っておらず、かといって完全な娯楽でもない。映画を観るのはずっと変わらない日常です。――素敵な言葉ですね。自分だとそれこそ映画の仕事を始めて3・4年目くらいで「実写を観るのが無理」みたいな状態に陥ってしまい、しばらくアニメばかり観ていました…。ライターさんだと「この時までに観ないといけない」があるでしょうから、より大変だと思います。私の場合も、波はありますね。例えば現場中だと「最近あまり観る気分になれないな」ということはあります。直近だと年末までがっつり撮影していたので映画館に行けていなかったのですが、ようやく『RRR』を観に行けました。最高に面白かったです。――河合さんの『RRR』評、気になります。すごく評判になっていたので気になっていた作品でした。ある意味思っていた通りの面白さというか、「インドの映画の力がここに結集しました」というようなエネルギーを感じましたね。インド国民の観賞率がものすごいだろうな、と思いました。――劇場の熱気も凄まじいと聞きます。本当に、近年稀にみる客席のざわめきでした。席も埋まっていましたし、上映後にみんなが熱くなったまま作品の話をしている光景を久々に観た気がします。――まさに劇場映画の良さですね。河合さんも『少女は卒業しない』の東京国際映画祭の上映などで、お客さんの熱を感じたとおっしゃっていましたね。舞台挨拶等でお客さんの前に立たせていただくことはありますが、基本的に上映前の登壇が多いため、上映後に皆さんの反応を見られることは稀なんです。東京国際映画祭ではお客さんと一緒に観賞できたので、リアルタイムな反応を見られました。皆さんマスクをしていて言葉にしなくても、伝わってくる空気ってありますよね。今後もそういった機会があると嬉しいです。(text:SYO/photo:Maho Korogi)■関連作品:少女は卒業しない 2023年2月23日より新宿シネマカリテ、渋谷シネクイントほか全国にて公開© 朝井リョウ/集英社・2023 映画「少女は卒業しない」製作委員会
2023年02月23日『JSA』『オールド・ボーイ』『渇き』『お嬢さん』など、エンターテインメント性と芸術性を兼ね備えたセンセーショナルな作品を生み出し続けているパク・チャヌク監督。6年ぶりとなる長編映画『別れる決心』も、登場人物のセリフや表情の1つ1つが見る者を翻弄する予測不能なサスペンスだ。韓国国内や海外の映画祭で絶賛された本作の日本公開を控え、来日したパク監督にお話を聞いた。こだわった瞳の演出――登山中に転落死した男の事件を追っている刑事へジュン(パク・ヘイル)が、容疑者である被害者の妻ソレ(タン・ウェイ)を監視するうちに、2人の間に特別な感情が生まれていくという物語です。視線を交わす2人がよく似た黒目がちの目をしていることが印象に残りました。瞳を映す演出にこだわりを感じたのですが、その意図は?俳優2人の黒目が大きいということは偶然なのですが、目を強調したというのは確かにおっしゃるとおりです。この映画は、「霧」という歌からインスピレーションを得て作り始めました。霧の中にいると、全てのものがぼやけて見えます。それを何とか、はっきり見ようとする人のイメージからスタートしているのです。実際、「霧」の歌詞にも、「霧の中で、しっかりと目を開けて」という意味のフレーズがあります。全ての始まりがそこだったので、劇中でヘジュンがしきりに目薬をさすなど、「しっかり前を見よう」という意志を表現した演出を入れました。後半、ソレが頭にヘッドライトをつけて、へジュンが照らされるシーンがありますが、そこはちょっと意図が違っています。どちらかというと、へジュンは普段、自分の感情を隠そうとする、気弱なところがある人間ですが、ソレという強い光を放つ女性の前では、全て丸裸にされてしまうという関係性を表そうと思ったのです。「愛してる」と言わないラブストーリーを――主役の2人はどちらも感情を抑制しているキャラクターですね。作品のトーンは脚本の段階ですでに決まっていたのでしょうか?一緒に脚本を書いたチョン・ソギョンさんと、今回の作品においては、情事や暴力的な場面をできるだけ排除しようと話し合いました。繊細で、優雅で、深みのある、そんな感情を内に秘めた映画にしたいと思ったのです。そのためにも、それ以外の刺激的な表現は避けようということになり、俳優の目の動きや揺らぎ、細かな表情、さらに編集やカメラワークといった映画的な技法で補おうと考えました。「愛してる」という言葉を一度も発しない、そんなラブストーリーを作ってみようと思ったのです。――映画のテーマが、復讐から愛に変わったことに、どのような心境の変化があったのですか?「今までもそうであったように、今回もまた新しい愛の映画を作りました」と言うと、皆さん笑います。私は決して、笑わせようと冗談を言ったわけではないのですが。復讐劇の代表作ともいえる『オールド・ボーイ』も愛情を描いていますし、『渇き』やドラマ「リトル・ドラマー・ガール 愛を演じるスパイ」など、今まで作ってきた大部分の作品に、いろいろな形の愛情を盛り込んでいます。皆さんが笑う理由をよく考えてみました。やはり暴力やエロティシズムといった肉体的な表現が強すぎて、観客は内面的な愛情やロマンスの部分を忘れてしまうようです。だから今回は、「愛の映画を作りました」と言っても笑われることのないような作品を作りたいと思ったので、暴力やセクシュアルな表現を抑えました。パク・チャヌク監督独特のセリフ回しを生んだタン・ウェイのこだわり――ソレは中国人で、演じるタン・ウェイさんは『レイトオータム』(2010年)で韓国映画への出演経験があるものの、韓国語は話せません。彼女が話す韓国語がネイティブにはどんな風に聞こえるのか日本の観客には分からないので、韓国語での演技のディレクションについて教えてください。タン・ウェイさんは韓国語が全くできない状態からのスタートでした。普通、俳優が外国語で演技をする時、まずセリフを音として覚えて、それを発することになります。でも、タン・ウェイさんには愚直すぎるぐらいのこだわりがあって、それでは納得できないと言うのです。文法から学び、それぞれの単語はどういうことを意味するのかまで理解したい、「なぜこのシーンでは、この単語ではなく、こっちを使うのか?」というところまで納得したいという人でした。自分のセリフだけではなく、相手のセリフもちゃんと理解して、覚えて、演技に臨みたいタイプ。時間もかかるし、大変な作業だったとは思いますが、それをして演じてくれました。タン・ウェイさんには韓国語の先生を2人つけました。1人は文法から教える先生、もう1人はご自身も演技ができる先生で、演じながらどう言葉を乗せればいいか教われるようにしました。さらに、私が演技指導をしたうえで、舞台俳優の女性にソレのセリフを全て録音してもらい、タン・ウェイさんに渡しました。へジュンのセリフを全部録音したものも渡しましたし、どうして必要としたのか分からないのですが、彼女が「監督の声のものも欲しい」と言うので、私もソレのセリフを録音して渡しました。彼女はずっと、それらを聞きながら練習していました。――ソレはテレビで時代劇をよく見ているという設定ですが、それがセリフにどう関係しているのですか?彼女の発する韓国語には、どうしても外国人が話すイントネーションがあり、発音もつたないので、誰が聞いても外国人だと分かるのですが、文法的には完璧にできていました。そして、ご指摘のとおり時代劇をよく見ているので、普通の韓国の人が使う言葉よりも、むしろ優雅で品のある言葉遣いをしたりします。「強い男と弱い女」から、男の愚かさが際立つ展開へ――ヘジュンは優秀な刑事で、一方のソレは外国から逃げてきた移民。韓国語のたどたどしさがへジュンの庇護欲をかき立てた可能性もあるし、さらにソレにはDVを受けていた疑いもある。最初は力のある男性が弱い者に興味を示すという構図が見えるのですが、それが次第に覆されていく。2人の関係の設定の意図を教えてください。おっしゃるとおり、一見すると「強い男と弱い女」という設定に見えるかもしれません。ソレは容疑者ではあるけれど、へジュンは彼女を哀れに思い、親切にしてあげなければという気持ちから関係が始まっていく。結局どちらが本当に強いのかは、徐々に分かっていきます。ヘジュンは内面的にとても弱い部分があり、また愚かでもあります。自分が抱いた愛情、彼女から向けられた愛情に気づく頃には“時すでに遅し”で、ラストではその愚かさが際立って見えます。この作品においては、もう1つ、越えなくてはいけない段階がありました。これは、いわゆるフィルム・ノワールと呼ばれるジャンルの映画です。そこに出てくる女性は、男性を利用する悪女、つまり“ファム・ファタール”とよく表現されます。本作のソレも、最初は観客から「彼女はファム・ファタールで、この刑事を利用しようとしている」と思われるような女性ですが、それをもう一段階、「あ、違ったんだ」というところに持っていく必要があり、そのハードルを越えなくてはいけないと思っていました。ですから前半は典型的なフィルム・ノワールのように見せて、後半は本格的なロマンスが展開する。後半でソレが見せる行動は、彼女の命懸けの愛の現れなのです。(text:新田理恵)■関連作品:別れる決心 2023年2月17日よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国にて公開© 2022 CJ ENM Co., Ltd., MOHO FILM. ALL RIGHTS RESERVED
2023年02月17日孤独死した人々の弔いに従事する誠実な公務員を描いた前作『おみおくりの作法』(2013年)が昨年、日本で阿部サダヲ主演の『アイ・アム まきもと』としてリメイクされたウベルト・パゾリーニ監督。久々の新作『いつかの君にもわかること』は余命宣告された30代のシングルファーザーと幼い息子の物語だ。北アイルランドのベルファストに暮らす主人公・ジョン(ジェームズ・ノートン)は窓拭き清掃の仕事をしながら、4歳のマイケル(ダニエル・ラモント)を育ててきたが、不治の病のために余命はあとわずかだ。自分の亡き後の息子の幸せを願って養子縁組手続きを行い、マイケルの“新しい親”を探し始める。偶然目にした新聞記事の実話から着想を得た物語は、全編が静かなトーンで貫かれ、余計なものを削ぎ落とすことによって親子の日常の愛おしさを際立たせる。幼い子どもの視点に立ち、死と向き合うことで生の希望を描いた監督に、繊細な名演を見せたキャストについて、演出術について語ってもらった。ウベルト・パゾリーニ監督© Oksana Kanivetsドラマティックな物語を「静かに」紡ぐ――英語に「Less is more(少ない方がより豊か)」という表現がありますが、その概念をこれ以上ないくらい証明する作品だと思いました。それこそが、この映画で僕がやろうとしていたことです。この映画のキャラクターたちは人生の中で非常にドラマティックな瞬間を生きていますが、だからこそ、なるべくそのように描かないことがとても重要だと思ったのです。脚本はもちろん、演技、カメラワーク、音楽、全ての要素が静かでなければ、と心がけました。それがあなたに響いたのであれば、すごくうれしいですね。映画作りは賑やかな方が楽です。静かに物語を紡ぐのは大変ですが、今回は素晴らしい役者とチームに恵まれました。非常にドラマティックな状況だからこそ、最もドラマティックではない映画的言語を使いたかった。ただ、役者としてはもう少し表現したいのでしょうね。ジェームズは「もう1回、もうちょっと大きめにやっていいですか」と言うんです。だから「全然構わないけど、使わないよ」と言いました(笑)。――ジェームズ・ノートンの静かな佇まいが、非常に印象深かったです。彼を選んだ理由をまず聞かせていただきたいです。とにかくボリュームを絞った作品を作りたかったので、ジョンが置かれている状況や彼が感じている気持ちを言葉にするシーンは、ほぼありません。つまり言葉ではない形で多くのもの、感情を伝えられる俳優でなければならないのです。ジェームズのキャリアは幅広くて、コメディもドラマも、善人も悪役もやっています。ある作品でのかなり抑制した演技を見て、彼ならできるんじゃないかと思って脚本を送ったら、すぐ連絡が来て「泣きました」と言ってくれました。彼に子どもはいませんが、駆け出し時代に子ども向けのエンターテイナーの仕事をしたことがあるので、子どもと接するのは慣れているそうです。実際、彼は素晴らしかった。最初こそ演技は少し大きめでしたが、すぐに共通の映画的言語を見つけることができました。子役ダニエル・ラモントの起用「演技体験の旅を共にしたい」――マイケル役のダニエル・ラモントと本当に親子に思える自然さでした。撮影当時4歳だったダニエルがあれだけ演技ができたのも、ジェームズのおかげだったと思います。ジェームズはとても心が広いのです。そんなジェームズを見ることによって、ダニエルもまた物静かな演技をできたと思いますね。――幼い子どもが死と向き合う内容に、フランス映画の『ポネット』(97)を思い出しました。『ポネット』で主演した少女も撮影時は4歳で、名演を絶賛されましたが、ダニエルの表現力はそれに勝る勢いです。彼をどのように発見したのですか?撮影地がベルファストで、北アイルランドのとても優秀なキャスティングディレクターが3歳半から4歳半の子を100人ほど集めてくれました。私が実際に会ったのは30、40人ですが、彼らがどんなふうに遊んでいるのか、大人のいる空間でどう振舞うのかを見ました。全く演技未経験の子を求めていましたが、中でもダニエルは自分自身もしっかり持っていて、幼いながらも大人と一緒の現場で怖がらずにいる子でした。そして元気いっぱいで、いつも幸せそうで楽しそうですが、部屋の角で1人静かにしている時もある。そういう側面を持っている点がポイントでした。ご両親もとてもサポートしてくれました。特にお父さんが脚本を読んで、ご自身とダニエルの関係性に近いものを感じてくれたそうです。彼らとは今も交流があるんです。この映画をきっかけにダニエルに出演オファーが来るようになったのですが、そのたびに「どう思います?」と1週間に1回ぐらい連絡があります(笑)。――演技経験のない子を起用したいと思われた理由は?演技とはこういうものだと既に考えを持っている子ではなく、その子の初めての演技体験の旅を共にしたい、一緒に発見していきたかったんです。とはいえダニエルの起用は一種のギャンブルでした。実際に演技できるかどうかなんて、撮影が始まるまでわかりませんから。先ほど話に出た『ポネット』はいい映画ですが、メイキング映像を見ると、主演の少女に対して1から10まで細かく指示してひとつひとつのカットを撮り、後で編集して繋げていました。実は私たちも撮影前には、同じようにしなければならないと思っていたんです。ところがダニエルは「アクション」の声がかかるとマイケルになる。もちろん事前に「ここに立って、こっちを見て」と指示はしますが、カメラが回ると、もう一言足りとも私が演出する必要はなかった。本当に奇跡です。編集室で親子関係を人工的に作る必要がなかった。あの2人がワンフレームで収まっているカメラワークは私自身、とても気に入っています。「これは誰にでも起きること、誰もが共感できる物語」――冒頭でジョンが窓拭きの仕事をするシーンがあります。様々な場所の窓から様々な光景が見えますが、どういうふうに思いつかれたのですか?着想の元になった新聞記事を読み、この男性は労働者階級で、友人が少なく、お金もあまりない。それでもこの4年間、全てを息子に捧げてきた父親だとわかりました。そこで、自分の置かれている状況や感情を相談する相手がいないような孤独な仕事として窓の清掃という職業にたどり着きました。個人で元手があまりなくてもできる仕事であり、窓を拭きながら部屋の中の様子が彼の目に映る。自分の死や生について考えている彼が、他人の生を目撃することにもなるわけです。窓ガラスを通して、反対側にいる人たちの人生を見ることによって、自分の息子がこれから進むかもしれない人生を想像する。実際、自分が亡くなった後を考えて養親候補の家庭を訪問する時も、家族と対面する前にその家のキッチンの窓などから彼らが見えるシーンも入れました。ジョンは、物理的にも心理的にも外にいて、自分がいなくなった後の世界での息子に思いをめぐらせ、夢や可能性を見ているんです。つらいけれど、同時に彼を癒やしてくれる部分もありますね。――監督の作品はいつもタイトルが印象的です。原題『NOWHERE SPECIAL』にどんな想いを込めたかをお聞きしたいです。私はメル・ブルックス監督の『ブレージングサドル』(74)でジーン・ワイルダーとクリーヴォン・リトルが交わす、「どこへ行く?」「特別な場所じゃない(Nowhere Special)」「そういう場所に前から行きたかったんだ」という会話が大好きなんです。私のオフィスの壁にそのやりとりを引用したものを貼ってあるんですが、本作の元になった記事の親子の写真を偶然その真下に貼ったんです。それがすごく合致した。つまりこれは誰にでも起きること、特別なことではないんです。特別な世界で起きる特別なストーリーではなくて普遍的なもの。リアルな真実に、誰もが共感できる物語だと思いました。彼らはヒーローではない、ただの普通の人々です。だからこそ、観客も彼らの心の旅に帯同できるのではないでしょうか。(冨永由紀)■関連作品:いつかの君にもわかること 2023年2月17日よりYEBISU GARDEN CINEMAほか全国にて公開© 2020 picomedia srl digital cube srl nowhere special limited rai cinema spa red wave films uk limited avanpost srl.
2023年02月16日【音楽通信】第130回目に登場するのは、バンドからソロアーティストへと音楽人生を駆け抜けながら、現在ソロ活動10周年というアニバーサリーイヤーを迎えた、藤巻亮太さん!大学生のときに曲を作るようになったことが転機【音楽通信】vol.130ロックバンドのレミオロメンのボーカル&ギターとしても活躍し、「3月9日」「粉雪」など数々のヒット曲を世に送り出してきた藤巻亮太さん。2012年からはソロ活動をスタートし、昨年、10周年を迎えました。そんな藤巻さんが、2023年1月25日に、4枚目となるオリジナルアルバム『Sunshine』をリリースされたということで、お話をうかがいました。――あらためて学生時代よく聴いていた音楽から教えてください。僕が中学生の頃はバンドブームでしたので、ユニコーンをよく聴いていました。高校生の頃からは洋楽も聴くようになって、オアシスやブラーといったイギリスのロックも好きになって聴き始めて。とくにレディオヘッドというロックバンドが好きで、レミロメンの頭文字はレディオヘッドの頭文字から取ったのですが、名前の由来になるぐらい聴き込んで、高校生ぐらいまでは日々UKロックばかり聴いていましたね。――2000年にレミオロメンを結成されて、2003年8月にシングル「電話」でメジャーデビューされましたが、学生時代から将来、音楽の道に行こうと考えていたんですか?そんなこともなかったんです。中学生のときにエレキギターを買って、いわゆる学園祭バンドを組んだぐらいです。高校生のときはバンドでギターを担当していましたが、(アメリカのインストゥルメンタルロックバンドの)ザ・ベンチャーズといった、ボーカルがいないようなバンドのカバーをしていました。途中からは、日本のロックバンドのTHE YELLOW MONKEYや、(アメリカのミュージシャンの)レニー・クラヴィッツのカバーをしながら、学園祭で歌ったりして、楽しく過ごしていました。大学生になってから、自分で曲を作るようになったことが、転機になりました。それまでは誰かの曲のカバーをして音楽を楽しんでいたんですが、曲を作る喜びに出会いまして。そこからレミオロメンを組んで、自分たちの音楽でどこまで行けるのか挑戦したくなったのが、19歳の頃ですね。――歌うことは、もともと得意だったのですか。中学生や高校生の頃は、みんなと同じでカラオケが好きというぐらいで、得意だとは思っていなかったです。だから、まさか将来、歌手になるとは思わなかったですね。――2012年2月にシングル「光をあつめて」でソロアーティストとしても活動をスタートされました。現在、ソロ活動10周年という節目でもありますが、振り返ってみていかがでしょうか。20代ではバンドで音楽を作って届けていく活動をさせてもらって、30代からは自分の名前で活動してきましたが、最初ひとりでは大変なことのほうが多くて。バンドのときよりも、うまくいかないことがたくさんあったのですが、そのぶんひとつずつの学びがあって、それが音楽に活かされている気がするんですよ。すごく大事な10年を積み重ねてきたと感じています。20代は音楽だけに集中する深く掘り下げる時期があって、30代でソロになってからは音楽以外のいろいろな出会いとともに、横に根をのばしていったような時期でもあって。たとえば登山家の野口健さんと出会って、一緒に世界中の山に登るようになって、山が好きで旅とともに写真も撮るようになりました。さらに体力作りの一貫として始めたフットサルも10年続いていて。そんな音楽以外のいろいろな出会いの中から、曲作りへのインスピレーションも得られるようになって、良いかたちで活動できています。前向きなエネルギーが伝わるニューアルバム――2023年1月25日に、前作から約5年ぶりとなるニューアルバム『Sunshine』をリリースされます。明るく、とても前向きさを感じさせるアルバムですね。ありがとうございます。この5年の間に、僕は野外フェス「Mt.FUJIMAKI」を主催するようになるなど、いろいろなチャレンジが増えていました。その中で自分自身と向き合ってきたものが、曲として蓄積されていって、いま自分の中にあるものを表現するためにまとめたものが、今回のアルバムに収録した12曲になります。――爽やかなメロディの2曲目「Sunshine」は、アルバムの表題曲でもありますね。この曲は、初期衝動とか最初にあったピュアなものが、自分の中に変わらずに今もあることを信じられたときにできた曲なんです。そもそも曲を作り始めた19歳の頃も、10代なりに悩むことがあって、気持ちの整理がうまくできないときもありました。僕の場合は、自分を取り巻く社会や世界がわからないときに曲を作ることで気持ちの整理ができて、いろいろなことを把握できるようになって、それが曇り空の中でも太陽を見つけるような作業だと感じています。これまでの道のりを光を頼りに歩いてきたという感覚。それは自分が音楽を作ることの原点のようにも思うんです。それから20年以上経っていますが、年齢を重ねるほど、さまざまなものがクリアになっていく反面、経験を重ねるほどわからなくなることも。でも、曲作りを始めたときもいまも、雲の中から光を見つける、曲を作ることは変わらない。曲を作っていくうちに「これはこういうことだったんだ」と発見する。世界は混沌としていても、自分で道筋を見つけて、照らされたものを信じて、それが指標になっているところがあります。だから、本当に1曲ずつ向き合うごとに光があって、それを信じて音楽を作っていこうと。いろいろな葛藤を超えて、光が見つかったときの喜びを伝えていきたいですね。先にこの「Sunshine」という曲ができていて、最後にアルバムのタイトルを決めようと思ったときに、 前向きさが伝わるタイトルであり、光を象徴している言葉だと思ってアルバムのタイトルにつけました。――そのお話をうかがうと、アルバムのジャケット写真は、光を見つけてつかんだイメージなんでしょうか。そうなんです。これは三角形のプリズムを持っていまして、プリズムは理科の実験などで光をあてると反対側から虹のように光の分散が見えることもありますよね。光にもいろいろなグラデーションがあって、このアルバムにも12曲分の光があるので、プリズムを持ったこのジャケットにしました。――軽快な6曲目「ゆけ」は、親子、夫婦、友達とさまざまな人間関係を後押ししてくれる印象がありますが、どのようなメッセージを込めて歌っていますか。30代で始めたサッカー友達がみんな独身だったのに、40代になるとどんどん結婚していって家庭ができて、大事なものが増えていくことを実感してきました。年齢を重ねながら、みんな自分の人生を大事に生きていることにあらためて気づかされたんです。コロナ禍や海外の戦争があるこの時代に翻弄されながらも、それぞれの人生を生きていて、実はシンプルに平穏に暮らしたいというところで、「何が一番大事なんだろう」と。そんなみんなの人生の未来が輝くようにと歌っています。――7曲目「オウエン歌」も力強く後押ししてくれる楽曲です。実はこの曲は、僕の後輩に向けて、送った曲なんです。母校が10数年前に統合されて新しい高校になったんですが、光栄なことにその校歌を作らせていただいたんです。それから、10周年のタイミングでその高校に行って、ライブと講演をさせていただいたときに、初めて高校生たちと交流させてもらって。彼ら彼女らが頑張りながら、一生懸命この時代を生きている姿を見たときに、自分にできることは音楽なので、応援したいと思って、後輩たちに送った曲なんです。それが聴いてくださる方一人ひとりの応援歌になったらうれしいですし、さまざまな方々のシチュエーションや背景の中で、感じ取ってくださればうれしいです。――昨年11月に配信されたTBS駅伝のテーマ曲にもなった1曲目「この道どんな道」は、「大丈夫」という歌詞が力強い曲ですが、オファーされてから書き下ろされたのですか。よくそう言われることもあるのですが、タイアップのお話の前にできていた曲なんです。この曲が書けたときに、自分のいまの立ち位置や、これからどんな気持ちで進んでいこうかということが明確になって、わりと素直に書けた曲でもありまして、この曲を気に入ってくださって使っていただきました。Aメロで「大丈夫」という言葉を4回繰り返すんですが、不安を抱えながら、それでも自分を信じて進んでいこうと思ったときに、まあ大丈夫だよって自分に諭すようにかけた言葉でもあります。“いまの時代は厳しい”と訴えかけるような言葉はたくさんあふれているんですが、「大丈夫だよ」とはなかなか言ってくれない。でも、実はみんなが求めているのはこういう言葉なのかなって。どんなことがあっても近くにいるよ、味方だよという思いが届いたらと思っています。――アルバムのラストを飾る12曲目「大地の歌」は、どのように生まれた曲ですか。この曲はでき方が特別なんです。J-WAVEの震災復興をテーマとした番組「HEART TO HEART」のナビゲーターを2019年度に務めさせていただいていたのですが、被災地にインタビューに赴いて、その現状を伝えていました。そもそも僕たちはまず“大地”から、衣食住すべて恵みをいただいていて、普段は感謝の気持ちを忘れるぐらい、自然に生活している。でも、大地というのは時として猛威をふるって、人の命を奪ってしまう災いにもなるということを1年間取材させていただいて感じました。人間は大地に生かされて翻弄されているけれど、被災地の福島県浪江町の方に「我々は過酷な状況にいることは間違いないんですが、不幸だとは思わないでいてほしい」と言われたことが印象に残っていて。確かに、周りの人が他人の幸不幸なんて決めることはできない。人はどう振る舞って、どういうふうに生きるか。人間の尊厳に触れた気がして、そのときにこの曲を作りました。――強いメッセージが込められた曲なんですね。そんなアルバムを引っ提げて、2月から3月は『藤巻亮太 Live Tour 2023「Sunshine」』と題したバンドツアーがありますが、どのようなステージになりそうでしょうか。このアルバムはかなりロックなアルバムで、バンドアレンジがすごく効いていて、ドラム、ベース、そして自分もエレキギターを弾いています。先ほど、前向きなアルバムとおっしゃってくださいましたが、アグレッシブなサウンドからもそういう部分は伝わるのかなと。このアルバムを引っ提げた全国7か所9公演のツアーになります。弾き語りやアコースティックでのライブも増えたんですが、久しぶりにドラム、ベース、ギター、藤巻という4ピースバンドで全国をまわってお届けします。季節が冬から春にかけてのツアーなので、ニューアルバムの曲だけではなく、季節を彩る曲やレミオロメン時代の曲も歌って、楽しんでいただけるツアーにしたいです。「しっかりと音楽を届けて活動していきたい」――お話はかわりますが、登山やフットサルのお話もされていましたね。最近は、おやすみの日はどのようにお過ごしですか。散歩に出かけて、普段とは違う景色の中を歩いています。散歩しながら頭が空っぽになる時間がすごく大事だと思っていて。いまの時期だとツアーの準備やこうしてプロモーションさせていただく時間も多いんですが、散歩することでまたリフレッシュして、違う角度からこのアルバムのことを見つめたり、新しい解釈でお話できたりするといいなと思っているんです。また次に向かう楽曲へのアイデアも、散歩の時間に浮かぶこともあるので、できる限りゆったりと過ごす時間を大事にして、休日は自分をフラットに戻していますね。――ライフスタイルにおいて普段気をつけていらっしゃることはありますか。健康面でいえば、ひとつはフットサル。週に1回か2回は何も考えずにカラダを動かしたいなと。ルーティーンになっているので、これが体力づくりの基礎になっています。あとはやっぱり柔軟が大事なので、ストレッチをよくするようになりました。しっかりケアすることで、この体力づくりがライブに活かされています。――いろいろなお話をありがとうございました。では最後に、今後の抱負をお聞かせください。今年の2月からソロ活動が11年目に入ります。毎年ファンクラブの方に向けて“今年の漢字”というものを一字書いていて、「こういう年にしたいです」と、所信表明させてもらっているんです。今年は、さまざまなものを届けたいという意味で「届」を掲げさせてもらいました。ニューアルバム『Sunshine』が発売されることもそうですし、ツアーに出ることもそうですし。僕の音楽を手に取ってくださる方やライブに来てくださる方、こうして今日のインタビューもやらせていただいてananwebの記事を読んでくださる方にも、しっかりと音楽を届けていけたらという気持ちです。11年目も変わらずに音楽を届けていけるように活動していきたいですね。取材後記バンド時代からソロアーティストとしての現在まで、そしてこれからもわたしたちに光にあふれた色とりどりの音楽を届けてくれるであろう、藤巻亮太さん。ananwebのインタビューで“曲作りは曇り空でも太陽を見つけるような作業”というお話をされていたことが印象的でした。今年ソロ活動11年目に突入される藤巻さんのニューアルバムをみなさんも、ぜひチェックしてみてくださいね。取材、文・かわむらあみり藤巻亮太PROFILE1980年生まれ。山梨県笛吹市出身。2003年にレミオロメンの一員としてメジャーデビューし、「3月9日」「粉雪」など数々のヒット曲を世に送り出す。2012年、バンド活動休止を発表し、ソロ活動を開始。ソロアーティスとして1stアルバム『オオカミ青年』を発表以降も、2ndアルバム『日日是好日』、3rdアルバム『北極星』、レミオロメン時代の曲をセルフカバーしたアルバム『RYOTA FUJIMAKI Acoustic Recordings 2000-2010』をリリース。2018年からは自身が主催する野外音楽フェス「Mt.FUJIMAKI」を地元・山梨で開催するなど、精力的に活動を続けている。2023年1月25日、4thアルバム『Sunshine』をリリース。2月25日から『藤巻亮太 Live Tour 2023「Sunshine」』を開催。InformationNew Release『Sunshine』(収録曲)01.この道どんな道02.Sunshine03.裸のOh Summer04.僕らの街05.まほろば06.ゆけ07.オウエン歌08.千変万化09.Heroes(Album ver.)10.サヨナラ花束11.花びらのメロディー12.大地の歌2022年2月9日発売*収録曲は全形態共通。(通常盤)VICL-65771(CD)¥3,300(税込)(初回限定盤)VIZL-2145(2CD)¥4,400(税込)*初回限定盤のみ、10周年を記念し、藤巻本人がセレクトしたベストアルバムが付属。【ベストアルバム収録曲】01.オオカミ青年02.ハロー流星群 03.月食 04.光をあつめて 05.名もなき道 06.指先 07.花になれたら 08.8分前の僕ら 09.日日是好日 10.Blue Jet 11.マスターキー 12.北極星 13.3月9日 14.粉雪 15.ウイスキーが、お好きでしょ 16.Summer Swing取材、文・かわむらあみり
2023年02月08日映画『スクロール』でW主演を飾る北村匠海&中川大志の本取材が行われたのは、2023年早々のことだった。北村さんと言えば、フロントマンを務める「DISH//」の活動で年末は怒涛の歌番組出演があり、一方の中川さんは初の音楽劇「歌妖曲~中川大志之丞変化~」が年末に大千秋楽を迎えたばかり。多忙を極めるふたりに、せめてお正月はゆっくりできたのかと聞くと、対照的な声が上がった。「年末年始は音楽の仕事をしていたので、まだ正直、年が明けたかどうか実感がないです…!」(北村さん)「僕は匠海と反対だわ、ごめん(笑)」(中川さん)そう話す中川さんに、北村さんは「いいなあ~!」と身をよじり、「オフの自分を輝かせるために仕事していますからね」とにこりとする。そして、ときには愛車のドライブで息抜きをしていることも、朗らかに教えてくれた。ふたりの出会いは今から10年以上前。同じ事務所に所属している1歳違いで、子役時代から同じ役のオーディションを受けてきた。近い距離を保ちながらそれぞれのステージを見つめてきた瞳には、表現者としてのプライドと熱がこもっている。映画での共演は中川さんが石井杏奈とW主演を務めた『砕け散るところを見せてあげる』以来2度目だが、正確に言えば『砕け散る~』では共演シーンがなく(中川さんの成長した子供役が北村さんで撮影はすれ違い)、本作『スクロール』が正真正銘・堂々たる共演作となった。大学時代の友達の死を通して再びつながった〈僕〉(北村さん)とユウスケ(中川さん)のふたりが、20代中盤にして改めて向き合う生死への葛藤を描く物語。ふたりに作品のテーマや共演について、じっくりと語り合ってもらった。同じ熱量を持つも、役者としてのタイプの違い――北村さんと中川さんのW主演映画『スクロール』では共演シーンも多かったです。お互いに刺激を受けたと思いますが、その感想から伺えますか?北村:僕は大志のことを常々、言葉に芯がある役者だなと思っていました。言葉の意味がきちんと伝わる役者はなかなかいないけれど、大志のお芝居は大志自身の芯が通っている感じがすごくするんです。僕はどちらかと言うと、かなりぼんやりしているから「つえぇなあ」と今回すごく思いました。僕らは同じ熱量を持っているけれど、役者としてのタイプは全然違うと思うんです。そのことを久々に一緒にお芝居をして感じました。映画の中でふたつの役が違うようで似ているのと同じ感覚というか。向いている方向も炎の大きさも一緒だけど、炎の色が全然違うんです。――似ているけれど表現のあり方が違うとは、面白いお話です。作品のトーンとしてもぴったりだったわけですね。北村:僕らのベクトルは違うけれど、同じような感覚を持っていると思うんです。今起きているいろいろなことに対して、一(いち)人間として感じていることは同じはず。だけど、歩んできた道が違うから得てきた色も違うということは、芝居を見ていてもすごい感じました。中川:うん。僕は匠海と一緒に“W主演で映画”をできることが、単純にすごくうれしかったです。お互い20代半ばになって共演できた、っていう。北村:僕ら、もう半ばなのか…!中川:26でしょ、今年?北村:26だね。中川:でしょ。僕達は子どもの頃からお互いを知っているわけですけど、匠海はすごく映画に愛されている人だな、と感じていて。映画の中の北村匠海が「やっぱりすげぇな」と思っていました。匠海は「ぼんやり」という言い方をしていたけれど、“〈僕〉(北村さん演じる)”は抽象的でどこかつかみどころのないキャラクターなんです。でも、それをすごく細かいところまで抽出するようなお芝居をするんですよね。だから、隣で一緒に芝居をしていて現場で見ても気づかなかったことが、映画館のスクリーンだと拾えるんですよ。もう微粒子レベルのものを放っていることを、映画(の画)では捉えられる。完成したものをスクリーンで観たときに、「わぁ、こんなところまで!」と驚きますし、匠海はそういうものを表現できる人だと思っています。北村:うれしいなぁ…!――「映画に愛されている人」という表現もすごく素敵ですよね。北村さんが中川さんにキャッチフレーズをつけるなら何になりますか?中川:キャッチフレーズ(笑)。北村:そうですね…僕は大志のことを革命家だと感じているんです。勝手に僕が革命を起こす仲間だと思っているのもあるけど。キャッチフレーズになるのかな、大志のことは「三国志」でいう諸葛亮的な立ち位置だと思っています。中川:えっ!諸葛亮…って、どういう人なの?北村:諸葛亮(孔明)は、天才軍師。策士なんだよね。中川:そうなんだ…!北村:何と言うか、僕自身はわかりやすく音楽と役者をやっている中で、音楽は自分の持っているものが大事というか、ある意味すごく自分勝手でいいところもあると思うんです。役者の場合は脚本というのがそもそもあるので、また違っていて。でも大志は役者という一本道に生きながら、その両方を持っている感じが僕にはすごく感じられるんです。だから、プレイヤーであり、クリエイターの心をすごく持っていて、スケッチするのが大志なのかなと思ったりしました。取材で話していても、それはすごい感じています。だから諸葛亮!中川:うわ、すごいうれしい。ありがとう!“今”起きていることへの向き合い方「考えてみることが大事」――作品内では、〈僕〉もユウスケも友人の死をきっかけに「生きることや生きる意味」を見つめ直します。おふたりも「生きる意味」について、考えたりしますか?北村:僕は「生きる意味」が人生のテーマでもあるので、しょっちゅう考えています。…さそり座なんですけど、さそり座は「生きる・死ぬ」とかがテーマらしくて。生きると一言で言っても、自分の人生についても、今のエンタメ界における自分の存在意義は何だろう、とかも考えます。特にエンタメ界に生きることについては、すごく難しいなと思っています。自分がやることが正解なのか、不正解なのか、常に模索しながらやっている感じです。生きることに答えなんてないと思うんだけど、…としたら死ぬことにも答えがないとすると、じゃあ何なんだろうと。だから常に、やることなすこと自分が本当に心の底からわくわくできるものを選んでいくことが、単純だけど、そういうことの積み重ねが北村匠海の生きることなのかな、と思っています。中川:「生きる意味」を考えているかという質問の答えとは、ちょっと違うかもしれないけれど、僕は自分の生きている時間を大切にするようにしています。僕らがやっている仕事と、ひとりの人間に戻った瞬間の部分は、いつも切り離せないんですよね。僕らは毎回台本をもらって、いろいろな“誰か”を生きないといけない。そうなってくると、まずは自分の人生をちゃんと(見つめ)、僕はそこに立ち返ってくる時間を大事にします。作品や仕事場でずっと目まぐるしくしていると、だんだん軸がわからなくなってくるんです。そこで家族や友人との時間に戻ると、自分に帰ってこられるんです。自分の人生や生活、生きている時間に1回戻ってくることを大事に生きています。――本作は、ハラスメントや社会的な問題にも触れています。おふたりは今ハラスメントについてどう感じたり、もしくは向き合ったりしていますか?北村:映画の中で、まさしくハラスメントはいっぱい出てきますよね。でも、ハラスメントしている側をたどっていくと、その上にはきっとハラスメントを受けてきた過去があったりするのかな、と思うんです。だから、僕らはいろいろ試行錯誤するし、それがかなったり・かなわなかったり・失敗したり・成功したりする年代なのかなと受け止めています。中川:うん、そうだね。結構いろいろなことが転換期なんじゃないかなと、僕も思ってる。北村:変わるよね。変わっていっているよね。――中川さんも肌で感じていらっしゃるんですね。中川:肌で感じたり、ニュースを見て感じたりします。これまで当たり前としてやってきたことを、1回冷静に立ち止まって考えてみることが大事なのかなと思います。やることがすべてになってしまって、なぜやっているかを考えなくなることが、結構怖いなと思いました。北村:そういう話を大志とちょろっとしたよね。中川:そうそう。意味を求めることが、すごく大きなことという気がしています。(text:赤山恭子/photo:Maho Korogi)■関連作品:スクロール 2023年2月3⽇よりTOHOシネマズ ⽇⽐⾕ほか全国にて公開©橋⽖駿輝/講談社 ©2023映画「スクロール」製作委員会
2023年02月04日ディズニープラス「スター」にて、昨年12月より独占配信がスタートし、毎週1話ごとの更新(水曜配信/全7話)でいま、まさにクライマックスを迎えようとしているのが、二宮正明の人気コミックを原作としたヴィレッジサイコスリラー「ガンニバル」である。プロデュースを手がけたのは、アカデミー賞国際長編映画賞に輝いた『ドライブ・マイ・カー』のプロデューサーを務め、現在はウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社にて、日本オリジナルのコンテンツの企画・制作に従事している山本晃久氏。「人が喰われているらしい」という噂のある山奥の村に赴任した警察官が、愛する家族を守り、村に隠された秘密を明らかにするべく戦う姿を描く本作。“ディズニー”というブランドのイメージとはかけ離れた感のあるサイコスリラーである本作がなぜディズニープラス「スター」で配信されることになったのか?映画の仕事に携わる人々に話を伺う【映画お仕事図鑑】。19回目となる今回は、山本プロデューサーに本作の企画の成り立ちから配信にいたるまでのプロセスについて話を聞いた。――“映像化不可能”という枕詞のついた「ガンニバル」というコミックをディズニープラスが映像化することになった経緯について、そもそもの企画の成り立ちから教えてください。今回のプロダクションに入っていただいているSDPの岩倉達哉プロデューサーが、我々ディズニーのローカルコンテンツ制作チームに企画の提案をしていただいたのがそもそもの始まりです。我々も「ガンニバル」という原作の存在を知ってはいたんですが、それまでしっかりと読んでおらず、拝読したところ、本当に面白く、単純に原作の力が素晴らしいというのが一番の感想でした。みなさんに驚いていただいているんですがこれを「ディズニープラス」というプラットフォームで映像化するというインパクトの強さに我々全員がワクワクしました。ディズニープラスの中でも、「スター(STAR)」ブランド(※)というゼネラルエンタテインメントを掲げるブランドの特性を最大限に活かせるコンテンツになるのではないかという声も上がりました。確かに「ガンニバル」の実写化は大変難しいものではありましたが、挑戦しがいのある、我々のローカルコンテンツのオリジナル作品にふさわしい一本になるのではないかということで採択に至りました。※ディズニー・テレビジョン・スタジオや20世紀スタジオをなどが制作する映画やドラマや、世界中のスタジオが生み出すローカルコンテンツを配信。なお、ディズニープラスには「スター」以外に「ディズニー」、「ピクサー」、「マーベル」、「スター・ウォーズ」、「ナショナル ジオグラフィック」というブランドがある。――「難しい」という言葉がありましたが、カニバリズム(食人)をテーマのひとつとして扱い、凄惨なシーンも多いという点で、反対意見は出なかったのでしょうか? 映像化決定にいたるまでにどのような議論があったのでしょうか?当たり前のことですが我々は、何かを変に誇張したり、倫理的に許されざることを肯定するような意図は全くありません。ただ、この「ガンニバル」という原作にある“カニバリズム”というものが、社会の中の別の価値観を持った集団の存在を浮き彫りにする上で、非常に強いテーマ性を持っている事象であることは明らかです。だからこそ、避けたり、濁したりすることなく、このことを正面からしっかりと描くことが重要ではないかという議論はありました。避けたり、濁したりすることは、原作の味わいをなくしてしまうことになる。人間ドラマを描く上で、非常に重く、強過ぎる――ある意味で究極の表現だと思いますが、そこから逃げるのではなく、そのことによって起きる人間のドラマにちゃんとフォーカスを向けるためにも、きちんと正面から取り組もうという話し合いはしました。――約2時間の劇場映画でも地上波のドラマでもなく、ディズニープラスという配信プラットフォームだからこそ可能になった部分はありますか?当たり前ですが、原作はそもそも2時間という枠に収めるような前提で描かれているわけでもなく、連綿と物語が紡がれていきます(全120話)。配信ドラマで映像化する利点として、やはり尺にとらわれないというのは大きいところだと思います。2時間にギュッと押し込むのではなく、この物語を見せる上で、最も適した形にすることができるという利点は、脚本の大江崇允さんも感じてくださったと思います。実際、第1話は51分で、第2話は34分、最終話である第7話は1時間を超える作品になっていたりしますが、尺の制約がないということが、物語をより豊かにしていると思います。――大江さんの名前が出ましたが、『ドライブ・マイ・カー』でもご一緒された大江崇允さんに脚本を、そして『岬の兄妹』でセンセーションを巻き起こした片山慎三監督を起用された意図と経緯を教えてください。まず、片山慎三さんにこの作品をお任せしたいということ、大江さんに脚本をお願いしたいということは私から提案させていただきました。意図としては『岬の兄妹』で片山さんが見せてくれた、作家性と娯楽性の絶妙なバランス感覚が本当に秀逸だと感じたこと。なかなかこの感覚を持っている人はいないと思います。もちろん、日本の映画監督で優れた方は多いですが、バランス感覚ってなかなか難しい部分だと思うんです。片山さんのことは前から知っていまして、人柄やどういった演出をされるかということは理解していましたし、この「ガンニバル」という題材にも興味を持ってくれるだろうとは思っていました。大江さんに関しては、原作の有無にかかわらず、物語の世界観を構築する際の“分析能力”が非常に高い人なんですよね。物語の世界観を細分化した上で、何が必要で何が必要じゃないか? あるいは何を加えるべきか? といったことを精緻に分析してくれるんです。「これはこういう物語なのではないか?」と言語化する能力に優れていて、それはものをつくっていく上での指針にもなるので非常に助けられます。また、非常に柔軟な頭の持ち主でもあるので、ディスカッションを重ねていく中で「そうか、自分はこう思っていたけど、こういうことだったんですね」と再構築する力にもたけています。さらに、それ等を脚本に落とし込んでいく際の“構成力”も素晴らしく、今回で言うと、長い物語を全7話に振り分けたり、1話ごとの物語の運びという部分での“柱”の立て方でも非常に優れているんです。この「ガンニバル」という入れ子構造の難しい物語を大江さんならまとめ上げてくれるだろうと思っていましたし、もしかしたら、我々が思ってもいないような新たな発想や視点を加えてくださるのではないかと期待してお願いしました。――原作の脚本化を進める中で、大切にした部分、大江さんや片山監督と話し合ったことについてお聞かせください。まず何より、原作の味わいというものを余すところなく伝えようということ。原作を読まれた方ならおわかりになると思いますが、本当にどうなっていくのかわからないし、展開もテンポも早いんですよね。読み始めると、全巻を一気に読んじゃうような原作が持っている“熱量”は大切にしたいということは話しました。一番大切にしたのは、第3話の構成ですね。ここで大悟の過去のエピソードと、現在の後藤家の襲撃によるカーアクションが交差して描かれます。エモーショナルな過去と、いま起きているアクション&サスペンスが“入れ子構造”となって、クライマックスに向けて加速していきます。当初はこういう構造ではなく、過去と現在がセパレートされていて、過去のエピソードから始まり、それが終わってから現在のパートという流れだったんです。ここに関して僕のほうから「見たことのない映像体験にしたい」という話を大江さん、片山さんにしました。主人公の阿川大悟の過去がめくれていく部分と、現在軸で起きている後藤家の襲撃に対処する大悟の“狂気”みたいなものが、重なる瞬間があるんじゃないか? 過去に娘を守るために彼が取った行動と、現在、後藤家の襲撃に対して見せる狂気が重なる――それは、その後、ある人物が発する「お前も同じじゃろ? 俺は家族を守るためなら何でもする。お前もそうじゃろ?」というセリフともシンクロするんですね。それを見たら視聴者はきっとゾクゾクするだろうし、大悟という主人公は何をしでかすかわからない! と彼から目が離せなくなるんじゃないかと思いました。片山さんは、そこでの僕の提案を僕以上に深く理解して、あの映像シークエンスで結実させてくださいました。――主人公の警察官・阿川大悟を柳楽優弥さんが演じていますが、いまのお話にあったように、赴任先の村で遭遇する奇妙な事件に巻き込まれていくだけでなく、途中で妻から「楽しんでいるでしょ?」と指摘されるような、どこか狂気を帯びた男を見事に演じられています。柳楽さんの起用に関しては満場一致でしたね。本当にすごい俳優さんで、現場であれほど強い影響力を持てる俳優さんはなかなかいません。カメラの前に柳楽さんが立っているだけで、物語の世界がこちら側に流れ込んでくる錯覚を覚えるような――レンズを通して視聴者に届けるだけでなく、現場にいる我々に対してまでも没入感を与えて、その場を掌握するような強い存在感を持った俳優さんですね。阿川大悟という男を柳楽さんでしか演じられないようなやり方で演じてくださったと思います。柳楽さんが持っている――例えば過去の作品で言うと『ディストラクション・ベイビーズ』で見せたような狂気のかがやきみたいなものが、「ガンニバル」でも見られます。何を軸にお客さんにこの作品を興奮してもらうか? という指針、何を見せるべきか? という編集の方向性などが、柳楽さんの芝居で定まっていったと思います。柳楽さんに出演をお願いし、快諾していただいた瞬間に、この作品の“核”が定まったんだなと思いますね。――お話にもあった第3話のカーアクション然り、映像の質の高さも目を引きます。きちんと予算と時間をかけて、クオリティの高い作品をつくろうという意思が伝わってきますが、プロデューサーとしてこの作品を成功に導く“勝算”はあったのでしょうか?映像のクオリティに関しては、まず片山慎三さんにこの作品をお願いしたということ。そもそも、片山さんと知り合ったのは、何本かお仕事をさせていただいているカメラマンの池田直矢さんのご紹介なんです。今回も池田さんに撮影監督をお願いしているんですが、池田さんのセンスが本当にすごいことはわかっています。映像の質の高さという点に関しては、片山さんと池田さんのコンビによる部分が大きいですし、そこに照明、美術、録音などの素晴らしいスタッフ陣が加わってくれました。何よりもまずスタッフへの信頼がありました。これだけのスタッフを揃えた上で、“力点”をどこにするかを選ぶ必要はありました。全てのシーンに100%の予算と時間を注いでつくりあげていくというのは現実的になかなか難しいですし、様々な制約はあります。スケジュールが決まった時点で、「この作品は、ここに賭けるんだ」という力点を選んでいかないといけないのですが、その選択肢の豊かさは今回、確実にあったと思います。実際の撮影に関していうと、ロケ現場があちこちに点在してしまったことで、現場のスタッフやキャスト陣は本当に大変だったろうと思います。――12月に配信が開始されて以降、反響はいかがですか?非常にありがたいことに「面白い」「一気に見てしまいます」「続きが気になる」「早く水曜日にならないかな」といった声を数多くいただいています。海外でも非常に見られているということで、ありがたいです。先ほどの話にも出たような、柳楽さんの“狂気”を楽しんでいる視聴者の方が数多くいるみたいで(笑)、それは僕自身、編集の段階でも強く感じたことだったので嬉しいですね。本当にすごい“ヒーロー”なんだなと思います。もちろん、暴力そのものは恐ろしいんですけど、あの男の戦い方は、見入ってしまうような魅力があるんですよね。それが多くのお客さんに届いているのは嬉しいです。――改めて本作の企画から配信までをふり返って、プロデューサーとして大切にされたこと、苦労されたことはどんなことですか?長丁場でスタッフ、キャストの負担がどうしても大きくなってしまったということ。加えて各話ごとに大きな見せ場があるので、その準備の部分でも現場のみなさんは本当に大変だったと思います。これだけの長丁場の中で、みなさんのモチベーションをどう維持していくか? そのためにも「いま、我々は面白い作品をつくっているんだ」ということを常に確認しながらやっていく必要がありました。その共通認識を深めていくということが、非常に重要なことだったと思います。それは、私というよりも、片山慎三監督が力強く旗を振ってくださったおかげだなと思います。その手助けが少しでもできていたならプロデューサーとして嬉しいです。「ガンニバル」山本晃久プロデューサー――最後に、映像業界を志している人たちに向けて、メッセージをお願いします。僕自身の経験則に基づいてでしか、何かを言うことはできないですが、僕自身、これまでに素晴らしい映画やドラマに救われて、何度も人生の後押しをしてもらいました。だからこそ、いま、こうして映画やドラマづくりを仕事にさせてもらえているということは、本当にありがたい日々だなと感じています。僕は常にワクワクしています。まだ見ぬ物語、映像、新しい語り口がこの世界にはたくさんあって、それを探す旅は本当に面白いです。なので、本当にドラマや映画のことを本当に好きでいてくださるなら、ぜひまだ見ぬものを探す旅に乗り出してほしいなと願っています。(text:Naoki Kurozu)
2023年02月01日【音楽通信】第129回目に登場するのは、一度聴いたら忘れられない艶やかなハスキーボイスでわたしたちを魅了する、デビュー25周年を迎えたシンガーソングライターのスガ シカオさん!「いまでもデビューの頃と同じ新鮮な気持ち」【音楽通信】vol.1291997年のメジャーデビュー以降、一度聴いたら忘れられないハスキーで艶やかな歌声と、ポップだけれどファンキーなサウンド、幅広い世代の心をとらえるソングライティングで、数多くのヒット曲を世に送り出してきたシンガーソングライターのスガ シカオさん。スガさんご自身の楽曲はもとより、スガさんと武部聡志さんらトップミュージシャンで結成されたバンド「kokua」によるNHK総合テレビ『プロフェッショナル 仕事の流儀』主題歌「Progress」や、SMAPへの「夜空ノムコウ」、KAT-TUNへの「Real Face」や嵐への「アオゾラペダル」などの楽曲提供者としても、その優れたセンスを世に知らしめています。そんなスガさんは、2022年2月にデビュー25周年を迎えました。2023年2月1日には、3年の歳月をかけて完成した25周年を締めくくるニューアルバム『イノセント』をリリースされるということで、音楽的なルーツなどを含めて、お話をうかがいました。――あらためてスガさんが学生時代によく聴いていた音楽や、影響を受けたアーティストから教えてください。学生時代からデビューまでは、ほとんどブラックミュージックしか聴いてこなかったです。70年代から2000年代までのソウル全般、ファンク、ニュージャックスイング、ディスコ、ブラックコンテンポラリー、R&B、ネオソウル、ジャズフュージョン、ヒップホップ……と寝ても覚めても、そういった音楽ばかりを聴きあさっていました。当時はレンタルCDが全盛の時代だったんですが、いろいろな音楽が聴きたくて、レンタルショップにあるCDとレコードを全部借りて聴き終えてしまったほど。日本のポップスも、あげたらキリがないくらいたくさん聴いていました。当時聴いていたレジェンドアーティストたちに、いまはかわいがってもらっています。――学生時代はたくさんの音楽に触れていたのですね。その後、スガさんは社会人生活を経て、1997年2月26日にシングル「ヒットチャートをかけぬけろ」でメジャーデビューされましたが、音楽の道を選んだきっかけはなんだったのですか。大学を卒業してからは会社員をしていたのですが、4年半勤めてアラサーに差し掛かる頃、アーティストになる夢を諦めきれず、27歳のときに退社を決意しました。当時メジャーデビューの限界は“30歳”だと言われていたので、「30歳までがんばってダメだったら潔く諦めよう」と思って、勝負をかけました。――昨年、デビュー25周年を迎え、今年は26年目に入りますね。当時と現在での内外での変化や、振り返ってみてのお気持ちはいかがでしょうか。いまでもデビューの頃と同じ新鮮な気持ちで音楽に向かえています。音楽業界は大きく変わってしまいましたが、パソコンの前でギターを持って集中してイメージを広げて曲を作る、自分の内面に潜って歌詞を削り出してくるといったスタイルは、当時とまったく一緒です。ただ、25年を経て、自分の武器になる声や歌詞やリズムなどには、あの頃より自覚的になったと思います。「これ以上はもうできないと思える」新作が完成――2023年2月1日に、ニューアルバム『イノセント』をリリースされますが、スガさんの楽曲は揺れ動く心情や強い言葉もスガさんの歌声を通すとすんなりと耳に馴染んで生々しくリアルに響きますね。まずは今作が完成した手応えからお聞かせください。デビューして25年も経って、こんなにも新鮮で初々しいアルバムを作れたことを素直に喜びたいです。出来上がっていくときのドキドキ感、思い通りにいかないときの焦燥感も含め、完成したときのやり切った感はすごかったですね。手応えというか、これ以上はもうできないと思える作品になりました。――昨年開催された全国10公演のツアー「大感謝祭 2022」でも披露された、セクシーな歌詞の新曲「バニラ」が1曲目に収録されています。1月18日に先行配信もされましたが、どのようなイメージから、この曲が生まれたのでしょうか。昔から性的なテーマの曲が大好物で、ほかの誰も触らないテーマなので、ぼくが一人でその歴史をどんどん開拓していこうと勝手に思っています(笑)。「バニラ」はSM的な内面感情を、自分なりに深く掘り下げた曲。メロディやアレンジを作っていく段階で、頭の中のそういった性的なイメージに火がついた感じです。ーー9曲目「灯火(ともしび)」は、関東電気保安協会「安全のプロ編」CMソングとしても流れていたあたたかいナンバーです。どのようなメッセージを込めて歌っていますか。関東電気保安協会のCM曲なので、なにか「光」をテーマにした曲を作りたかったんです。まだプロにもなれていなかったデビュー前の時代、はるか遠くのほうにある成功を光に例えて、届かないけれどがんばる景色を描きました。若い友人のアーティストたちも、いままさにそういう状況にいるので、彼らや彼女らに向けて作った曲でもあります。――切ないラブソングがストリングスとも相まって届く11曲目「国道4号線」は、どのように生まれた曲ですか。自分でも抑えられないくらいイメージや映像、言葉がどんどん頭の中にあふれてきてしまった曲です。本当はもっと長く歌詞やメロディを足して、壮大な映画のようなストーリーにしたかったんですが、さすがにそうもいかないので、このサイズで打ち切りました(笑)。渋谷で待ち合わせをしているシーンから始まる、映画みたいな切なくも苦しい曲です。――ヒャダインさんと組まれた13曲目「モンスターディスコ」は、フジテレビ系TVアニメ『デジモンゴーストゲーム』エンディング主題歌としても親しまれたキャッチーなダンスナンバーで、お子さんたちにも響いた曲ですね。アニメを観ているお子さんに向けて作ったホラーソングなんです。ヒャダインに、「スガ シカオのイメージをぶち壊してくれ」って頼んだら、やれラップやれだの、ここにメロディを作ってだの、無茶振りの応酬を受けて、この曲が出来上がりました(笑)。その結果、歌詞もメロディもいままでやったことのない感じになっていて、ヒャダインに感謝です。――そうだったのですね(笑)。今作には、25周年を機に立ち上げたファンク集団「ファンクザウルス」の楽曲も4曲収録されています。ファンクザウルスでは、インパクトのある歌詞を陽気に聴かせてくださいますが、ソロと違う点として、ファンクザウルスで意識されている点はどこですか。ファンクザウルスは、とにかく大真面目にアホなことをやり尽くすバンドなんです。お客さんも一緒になって“ファンクバカ”になってもらって、泣くまで笑ってもらうというコンセプトで始めました。このタイプのバカバカしい歌詞を書かせたら、ぼくの右に出るものは日本にはいません、天才としか言いようがないかも(笑)。ちなみに次のファンクザウルスの新曲のタイトルは『スガ シカオで領収書ください』というバラードです!――わー、早く聴きたいです! デビュー記念日となる2023年2月26日には、中野サンプラザ公演を開催され、ファンクザウルスの初お披露目もあるようですね。そしてアルバム『イノセント』のツアーも行うご予定は?ファンクザウルスのステージは参加型ステージなので、お客さんもコーラスやペンライトでガンガンにステージを盛り上げてもらいます。いままでのような聴くライブではなく、騒ぐライブと位置付けているんですよ。そして『イノセント』のツアーもやりたいですが、まだ予定はないですね。「海外や踏み込んだことのないジャンルに進出したい」――少し普段のご様子もお聞かせください。音楽活動以外では、おやすみの日はどんなふうにお過ごしですか。趣味や現在ハマっているものもあれば教えてください。最近、休日に船釣りに行きました。朝5時集合で、東京湾のアジを大量に釣ってきたんです。自分で捌いて、刺身やなめろう、アジフライにして食べたんですが、最高でしたね。あと習い事が好きで、いまも英会話、ギター、たまにボイストレーニングと、いろいろやっています。できなかった何かができるようになると、すごく得した気になるんですよね。食べ歩きも好きで、70人くらいいる食べ歩き同好会みたいなものに入っているので、日本全国の美味しいものを探して、食べ歩いています。――多趣味で多彩でいらっしゃるんですね。ではライフスタイルにおいて、普段気をつけていることはありますか。体型がだらしなくならないように気をつけていますね。トレーニングはもとより、週に2回、10kmは歩いていますし、食べ物もかなり気をつけています。――いろいろなお話をありがとうございました。最後に、今後の抱負を教えてください。今年は、活動の幅を少し広げていきたいと思っています。たとえば、海外とか踏み込んだことのないジャンルとかに、どんどん進出していきたいですね。取材後記ファンクな要素をポップミュージックにちりばめて、多くの人たちを惹きつけ、何度も聴きたくなる楽曲にして届けてくださる、スガ シカオさん。デビュー25周年というアニバーサリーイヤーを迎えてもなお新鮮さを持ち続けて、また新しい楽曲を聴かせてくれるのはうれしい限りですよね。そんなスガさんのニューアルバムをみなさんも、ぜひチェックしてみてくださいね。取材、文・かわむらあみりスガ シカオPROFILE1997年2月、シングル「ヒットチャートをかけぬけろ」でメジャーデビュー。同年9月発売の1stアルバム『Clover』以降、これまですべてのオリジナルアルバムがオリコンTOP10 入りを記録している。2011年、所属事務所から独立。メジャーとインディーズの枠組みに捉われない独自の活動を行ったのち、2014年に両A面シングル「アストライド/LIFE」でメジャーシーンに完全復帰。2017 年にはデビュー20 周年を迎え、自身が主催する「スガフェス!」をさいたまスーパーアリーナと大阪城ホールで開催した。2021年12 月、デビュー25周年のキックオフ作品としてアルバム『SugarlessIII』をリリース。同年6月には、オリンピックや世界選手権で活躍する一流スケーターたちが繰り広げる「Fantasy on Ice 2022」にて、フィギュアスケーターの羽生結弦とコラボレーションしたことが大きな話題に。2022年2月、デビュー25周年を迎え、全国10公演をまわったホールツアー「大感謝祭 2022」は大盛況のうちに幕を閉じた。2023年2月1日、25周年を締めくくるニューアルバム『イノセント』をリリース。InformationNew Release『イノセント』(収録曲)01.バニラ02.さよならサンセット03.叩けばホコリばっかし(Short Mix)by ファンクザウルス04.痛いよ05.獣ノニオイ06.バカがFUNKでやってくる(Short Mix)by ファンクザウルス07.覚醒08.東京ゼロメートル地帯09.灯火10.メルカリFUNK(Short Mix)by ファンクザウルス11.国道4号線12.おれのせい by ファンクザウルス13.モンスターディスコ2023年2月1日発売*収録曲は全形態共通。(通常盤)VICL-65749(CD)¥3,300(税込)(初回限定版A)VIZL-2132(2CD)¥4,950(税込)*内容:『イノセント』+CD「ファンクザウルス」デビューEP(初回限定版B)VIZL-2133(CD+DVD)¥5,500(税込)*内容:『イノセント』+DVD「25周年ツアー 大感謝祭2022 東京国際フォーラム ホールA(2022.10.14)」/「バニラ」ミュージックビデオ完全版取材、文・かわむらあみり
2023年01月29日自由すぎて、型破りにもほどがあり、超迷惑。それでいて、こんな人になりたい、こんな生き方をしたいと思わされる。入間みちおはそんな人だ。そのことは彼の被害者(?)であり、彼の信奉者とも言える井出伊織が一番よく知っている。そして、“みちお旋風”ならぬ“みちお暴風”はスクリーンへ。裁判官・入間みちおと検事・井出伊織として連続ドラマ「イチケイのカラス」を共に駆け抜けた竹野内豊と山崎育三郎が、映画『イチケイのカラス』と一連のシリーズについて語る。「竹野内豊と入間みちおの境界線がよく分からない」──映画『イチケイのカラス』でも、みちおと井出の関係は相変わらずですね。山崎:井出がみちおさんを追いかける構図は、連ドラのころから変わりないんですよね。初めこそ敵対するポジションにいましたが、どこか惹かれていって。みちおさんの生き方や行動を見ながら、井出自身が変わっていく。「自分にとっての正義とは何か?」を考えるような瞬間もありましたし。そのあげく、今ではみちおさんのお目付け役のような立場になって。みちおさんのことになると結局、井出はコントロールできないんです(笑)。竹野内:私を含め、入間みちおという破天荒な裁判官には誰しも違和感を持っていると思います(笑)。ですが、みちおと出会うことで、井出くんも坂間さん(黒木華)もそれぞれ自分自身や自分なりの正義と向き合うことになっていくんですよね。たとえ反発していても心の中の塊みたいなものが少しずつ溶かされていき、内心では認めざるを得なくなっていく。それが「イチケイのカラス」の魅力にもなっているんじゃないでしょうか。──ある意味、井出はみちおに最も溶かされる登場人物の1人です。山崎:特に連ドラでは猛スピードで溶かされていました(笑)。でも、僕自身も竹野内さん演じるみちおさんが大好きなので、気持ちは分かります。──山崎さんから見て、“竹野内さんが演じるみちお”の魅力はどんなところにありますか?山崎:まずは何より、僕は竹野内さんの声が大好きで。喋り出すだけで全体を包み込むような、柔らかくて優しい低音の声をずっと聴いていたい。竹野内:ありがとうございます(笑)。山崎:僕、声フェチなんです(笑)。そんな竹野内さんだからこそ、みちおさんを演じるうえでの絶妙な説得力があって。正直、竹野内さんとみちおさんの境界線ってよく分からないんです。なんて言うか、佇まいと存在感に説得力があるんですよね。台本を読んだときに僕がイメージしたのとは全然違う角度で演じられることも多いんですが、それこそが竹野内さんならではのみちおさん。芯の強さも感じますし、「次はどうするのかな?」とずっと見ていたい。井出としても山崎育三郎としても憧れの目で見ています。回を追うごとに山崎育三郎“井出伊織”のキャラクターが構築──逆に、竹野内さんから見た“山崎さんが演じる井出”の魅力は?竹野内:まずは、冒頭陳述のスピードですね。ものすごい速さで読み上げますから。しかも、なんてこともないようにさらっと。なかなかできるものじゃないですよね。山崎:いやいや、いつも緊張しています(笑)。竹野内:NGを出すこともなく、本当に素晴らしいなと思います。それに加え、回を追うごとに井出伊織のキャラクターが構築されていき…。気づいたら、独自の世界観が確立されていました(笑)。今や「イチケイのカラス」になくてはならない存在ですからね。みちおとはまた違うキャラの濃さがあって。山崎:連ドラのときは大抵、事件の説明をしているか、全速力で走っているかでしたけどね(笑)。それが、スピンオフ(「イチケイのカラス-井出伊織、愛の記録-」)でネジが外れちゃって…。竹野内:ほんとだねえ。ちょっとネジが外れてた(笑)。山崎:恋愛になるとそういうタイプなんだなって。すごく危険な人だと改めて感じました(笑)。──スピンオフドラマにはみちおも登場していましたね。ふたりの距離感が今まで以上に縮まっているのを感じました。竹野内:顔が近かったですよね(笑)。ああいったシーンはすべて田中(亮)監督の指示です。「もっと(近くに)行って」とおっしゃるので…。山崎:竹野内さんはコミカルなシーンの瞬発力がすごいんです。ぱっと予測不可能なことをなさる(笑)。竹野内:その言葉はそのままお返しします(笑)。山崎:僕はもう、ふざけているだけなので(笑)。でも、竹野内さんはこの素敵な感じのまま瞬時にアドリブをなさるから。──優しい低音の声で面白いことをなさるんですね。ずるいです。山崎:そうそう。そうなんですよ!(笑)約7年前「グッドパートナー」での共演秘話──おふたりは「グッドパートナー 無敵の弁護士」でも共演なさっていますね。竹野内:もう7年ほど前になりますね。クランクアップの直後に、育三郎くんのミュージカルを拝見しに行ったことも覚えています。山崎:帝国劇場まで観に来てくださいましたよね!竹野内:あえて前情報を入れずに観に行ったら、最初に髭の男性が出てきて。それが育三郎くんだったんですが、しばらく分かりませんでした。低くて野太い声の別人で…。山崎:(「エリザベート」の)ルキーニだったので…(照れ)。竹野内:10分ほど経ってから、もしかして…育三郎くん?と。山崎:(笑)。「グッドパートナー」のイメージもあったでしょうしね。竹野内:そうそう。直後だったから、本当に分からなくて。ものすごい才能を持たれているんだなと思いました。役柄による変化はもちろん、カメラの前と舞台の上の違いもありましたし。台詞を言う声に圧があり、圧倒されました。山崎:そうおっしゃってくださって、すごく嬉しかったです。竹野内さんも「グッドパートナー」(の咲坂健人)とみちおさんでは全然違いますけど(笑)。でも、現場での居方は変わらないですよね。変わらず魅力的で、安心感があって、優しいです。何をしても何が起きても絶対に受け止めてくれますし。どうして常にフラットにいられるんですか?竹野内:いやいやいや(笑)。主演として皆さんを引っ張りたい気持ちはすごくあるし、かっこいいところを見せたいんですけど、気づくと自分のほうが受け止められていて…。山崎:そんなことないです!竹野内:育三郎くんを含め、皆さんから教わることのほうが多いです。山崎:竹野内さんのおかげで、明るく開放的な撮影現場になっていましたから。“入間みちお”から学ぶ、今の時代に求められる人物像──現場の空気づくりをなさる竹野内さんと空気の読めないみちおは、ある意味対照的ですね。その一方、目的に向かう信念の強さは共通していて。おふたりは入間みちおのような生き方をどう思いますか?竹野内:ぶれることなく、自分の信念を貫く。それがみちおの何よりもの強さですし、見習いたいとは思います。映画の彼みたいに、国と戦うほどの勇気はなかなか出ないかもしれませんけど。不可能と言われているような壁すら突破していく。そんなエネルギーを持つ人が、今の時代には必要なんじゃないかなとも思います。あまりやりすぎると身の危険を感じることになるかもしれないし、難しいことではありますけど。でも、彼のような生き方と強い心に憧れる気持ちはあります。山崎:僕がいいなと思うのは、みちおさんの子供っぽさですね。できれば僕も大人になんてならず、子供でいたい(笑)。大人っていろいろな場面で空気を読み、人の視線も感じ、「こうしなきゃ」と思いながら生きていくものじゃないですか。そういったものから解放され、思うままに生きてみたいですね。それが、みちおさんにとっては真実にとことん向き合うことであって。そのためにあえて空気を読まず、ありのままの自分で突き抜けていくみちおさんみたいに生きられたらかっこいいと思います。(text:Hikaru Watanabe/photo:Maho Korogi)■関連作品:イチケイのカラス 2023年1月13日より全国にて公開©︎浅見理都/講談社 ©︎2023映画「イチケイのカラス」製作委員会
2023年01月26日満島ひかりと佐藤健が共演し、宇多田ヒカルの「First Love」「初恋」からインスパイアされたラブストーリーを紡ぐNetfixオリジナルシリーズ「First Love 初恋」。配信開始されるや否や、日本のみならず各国でヒットを記録している本作、その立役者の一員が八木莉可子と木戸大聖だ。本作は、也英と晴道という高校生が恋に落ちるも予期せぬ試練に遭い離ればなれになり、時が経って運命的に再会する姿を約20年というスパンで描いた作品。也英を満島さんと八木さん、晴道を佐藤さんと木戸さんがそれぞれ2人一役で演じている。一大ブームの渦中で自身に起こった“変化”を皮切りに、ふたりが本作とどのように歩んできたのか――。その軌跡を語っていただいた。国内外の声からも反響の大きさを実感――11月24日の配信からちょうど1か月が経過しましたが、おふたりのもとにはどのような反響が届きましたか?八木:私は、本当にたくさんの国の方からInstagramのコメントをいただくようになりました。あとは、この間渋谷で撮影をしていたら台湾出身の方が英語で話しかけてきてくださったんです。ご本人も向こうで役者をされているそうで、観ていただけたことも嬉しかったですし、これまではそんな風に声をかけていただけることもなかったのでびっくりして嬉しかったです。大学の友達も観てくれましたし、学内の知らない子からも声をかけられて反響の大きさを実感しています。木戸:僕も莉可子ちゃんと一緒で、日本だけでなく海外の人からも反響をいただけたことがすごく嬉しかったです。あとは、具体的な数字になってしまうのですがInstagramのフォロワーが配信前は1.3万人くらいだったのですが、一気に19万人くらいまで増えました。これも莉可子ちゃんと一緒だとは思うのですが、海外の方がたくさんフォローしてくださいました。――10倍以上!すごいですね…。木戸:あまりに増えすぎて、その数字を見たときは「バグかな?」と思ったくらいでした(笑)。こうやって、日本のラブストーリーが国を超えて海外の方にもたくさん支持いただけていると実感できて嬉しかったです。――ここからは作品の舞台裏含めて伺えればと思います。まずはオーディションについて。木戸さんはオーディション後、タクシーで移動中に合格の連絡が来たそうですね。ちなみに、オーディション時はどんなシーンを演じたのでしょう?八木:也英と晴道がリスの話をしているシーンがあって、「10年後に何をしているんだろうね」と会話するところです。大聖くんもそうだったよね?木戸:そうだね。僕は2回オーディションを受けたのですが、2回目は先に莉可子ちゃんの出演が決まっていて相手役をしてくれたんです。その時に演じたのがいま言ってくれたシーンでした。八木:私が受けたオーディションは1回だったのですが、実際に具体的なシーンを演じていた時間は2分くらいで、ほぼほぼ1時間くらい寒竹ゆり監督やプロデューサーさんとお話ししていました。「普段はどういう人か」といったように私自身のことを聞かれたり、宇多田ヒカルさんの音楽を聴きますか?とご質問いただきました。実は私が初めて受けたオーディションがポカリスエットのCMなのですが、その時の課題曲が宇多田さんの「traveling」だったんです。そのことを話したら「じゃあ歌ってみて」という話になってその場で歌ったり…。「プロットを読んでどう感じた?」というお話もしましたし、自分の内面や考え、気持ちをたくさん話すオーディションでした。木戸:僕が受けた1回目のオーディションも同じ内容でした。ただ僕は、1回目のオーディションであえて渡されたプロットを読まずに挑んだんです。そのときは審査して下さる方の中で「えっ読んでないんだ」という反応もありましたが、現場に入る前に寒竹監督からいただいた手紙に「プロットを読まずにオーディションに挑んだあなたは誰よりも晴道でした」と書かれていて、ホッとしました。莉可子ちゃんと一緒にやった2回目のオーディションも、ずっとお芝居していたというより話していた時間が多かったよね。八木:そうだね。ふたりで並んでみて!みたいなのもあったね(笑)。木戸:あったあった(笑)。あと、僕は作品の中で坊主にするシーンがあるのですが、プロデューサーの方に頭をたくさん触られました(笑)。――頭の形のチェックが…(笑)。木戸:そうなんです(笑)。でもそのときはなんのこっちゃわからず、後からそういうことか!となりました(笑)。役作りのため様々な“90年代”を体験――撮影に入る前には、満島ひかりさんによるワークショップも開催されたと伺いました。木戸:也英と晴道が『タイタニック』のポーズを真似してはしゃぐシーンをピックアップしてやりしました。台本にはジャック(レオナルド・ディカプリオ)とローズ(ケイト・ウィンスレット)のセリフがあって「笑い合う」くらいしか書いていないんですが、ワークショップの前に監督と3人で読み合わせをやったときに僕と莉可子ちゃんが恥ずかしくなっちゃって(笑)。八木:私も「I’m flying, Jack!」のセリフが全然うまく言えなくて、何回も回数を重ねてしまいました…(苦笑)。あとは晴道との電話を切った後に「キャー!」って喜びを爆発させるシーンも何回もやったことを覚えています。木戸:ワークショップではひかりさんが莉可子ちゃんの部分をやってくださって、そこに書いてあるセリフに関係なくアドリブで「やだやだやだやだ!やりたくない!」みたいに演じてらっしゃって、新鮮でした。お芝居というよりもひかりさんが素で楽しんでらっしゃるような感じがあって、ご本人も「とにかく楽しんだ方がいいよ」とおっしゃってくださいました。――八木さんは役作りの一環で「90年代当時のことを調べた」とおっしゃっていましたが、『タイタニック』のシーン然り、世代的に当時の盛り上がりを体感していないなか演じる状況でもありました。八木:おっしゃる通り当時の盛り上がりだったり、そういった当時流行ったものがその人にとってどれくらい大切なものなのかわかっていなくて、監督に現場で指摘いただいて「自分はちゃんとわかっていなかったんだな」「違ったんだな」と感じることはありました。木戸:いまのお話に通じますが、90年代当時はいまみたいにスマホで簡単に連絡を取り合えなかっただろうから、と思い、僕から提案して莉可子ちゃんと連絡先を交換しなかったんです。そのぶん、会える時間に色々な話をするはずと思って現場入りしたのですが、お芝居をやりながら「もっと普通に連絡を取っておけばよかった…」と思い直して(苦笑)。僕が監督から晴道を演じるうえで色々言っていただけたことを処理しきれずに悩んでしまったときに、ホテルのロビーで莉可子ちゃんと話をさせてもらったのですが、そのタイミングで「やっぱ連絡先交換していい?」とお願いしました。八木:お互いに「こうした方がいいよ」みたいにシーンの悩み相談をするだけじゃなくて、普通に会話する時間を増やしました。「明日は仲のいいシーンの撮影だし1回会って話そうか」みたいにホテルのロビーで待ち合わせて話したり、1回だけじゃなくて何回もお互いに話す機会を作りました。木戸:ふたりでNetfixの宇多田ヒカルさんのライブツアー「Hikaru Utada Laughter in the Dark Tour 2018」を観たりもしましたね。それこそ、劇中の也英と晴道の屋上のシーンみたいに。八木:でも私たちはAirPodsだったから(有線式の)イヤフォンを片耳ずつ、ではなかったです(笑)。木戸:(笑)。あとは撮休のときに、莉可子ちゃんが飛行機のお守りを買ってきてくれたんです。八木:パイロットの方やCAさんが買うお守りがあるんです。――素敵ですね。劇中とリンクしていますね。木戸:そうなんです。僕が空いている日はお守りを買ってきて、お守り交換もしました。八木:札幌の中島公園に行って話したりもしたよね。木戸:そうだね。出演を経てからの変化と成長――本作ですと順撮り(※脚本の順番通り、ないし時系列順に撮影すること)ではないぶん日によって也英と晴道の距離感も変わりますし、満島ひかりさん・佐藤健さんと2人一役という難しさもあります。八木さんは手の使い方・木戸さんはタバコを吸うときの角度などを参考にされたと伺いました。八木:最初にプロデューサーさんから「ひかりちゃんと莉可子が通じるのは、野性的なところ」と言っていただけたのが大きかったですね。手に関しては最初からそこを考えていたというより、むしろ意識できていなくて監督から教えていただいたんです。私は「仕草を真似しようかな」と考えていたのですが、撮影時に監督から「ひかりちゃんはすごく丁寧にものを持つんだよ」と言われて、「確かに!」と気を付けるようになりました。――なるほど、そういう順番だったのですね。最初に「ひかりさんと通じる」と言ってもらえたことで、自分らしくいられる部分もあったのではないでしょうか。八木:そう思います。最初は「ひかりさんと同じ役を演じさせてもらえるなんて、どうしよう」と思っていましたから。ひかりさんも「莉可子ちゃんの自然体のキラキラしたところが映るといいね」と言ってくださって、お陰でリラックスしてお芝居に臨めました。木戸:僕も初めは健さんのいままでに出ていらっしゃる作品を観たうえでの芝居のイメージはもちろんあったのですが、そこに近づこうとしていくのは違うのではないかとどこかのタイミングで思うようになりました。健さんも晴道に近づこうとしているなかで、僕も同じようにしなければベクトルが違ってしまうと感じたんです。本作は也英の事故を境に健さんのブロックになりますが、それまでは僕が演じないといけない。晴道自身も大きく変わるわけで、同じものを演じるというより僕がやる部分では純愛のキラキラした部分をしっかり演じようと思いました。そういった意味では芝居面で寄せていこうというアプローチではなく、ただ先ほど挙げてくださった所作については人間が子どものころからやっているものが大人になっても出ちゃうものだから、晴道が1本の線でつながっていると見せるためにも沿わせていきたいと考えていました。――いま木戸さんがお話した部分は、「身体が憶えている」という本作のテーマにも通じますね。木戸:そうなんです。そのうえで今回、「タバコを吸う」という共通項があるのであれば…と先に撮っていた健さんの喫煙シーンを見せていただき、「指のこの位置で挟んでいるな」等を研究して、意識して演じましたね。――本日は貴重なお話、ありがとうございました。最後に、「First Love 初恋」を経験したことでおふたりの「演じる」に生じた変化があれば、ぜひ教えて下さい。八木:本作の出演が決まったのは高校生のときで、まだお芝居の経験もあまりないタイミングでした。それからコロナなどで撮影が延びてしまい、何回も読み合わせをしたりワークショップを開いていただいたりと、本当に一から手取り足取り教えていただいた感覚があります。だから「ここが変わった」というより、この作品で役との向き合い方を教えてもらった気持ちです。まだまだ未熟なので全然わかっていないのですが、「こうしたら綺麗に見える」みたいなものではなく、役に対して俳優としてどう向き合うかの姿勢や意識ができてきたように感じます。たとえば私は自分に引き寄せて考えないと苦手なタイプだな、自分事として捉えるのがいいんだなとわかりました。木戸:僕がすごく覚えているのは、去年の7月くらいに自衛隊の基地で撮影していたときのことです。炎天下のなか自衛隊員の方たちに混ざってほふく前進をしないといけないシーンでしたが、無我夢中でやっている僕の芝居を観た寒竹監督が「それまで撮ってきた中で、初めて大聖が周りの目や人が気にならなくなって、ガッとそこしか見えていない状態になっていた」とおっしゃっていて。ひかりさんがそういう状態のことを「水中に潜っている状態」とおっしゃっていて、ひょっとしてこれかもしれないと気づきました。――ゾーンに入るといいますか。木戸:そうですね。芝居の最中は必死でしたが、周りの音が聞こえなくなって目の前のことだけに集中する瞬間は初めてかもしれないと感じました。寒竹監督は五感や身体の人間的な反応をすごく大事にしている方なので、そう思っていないまま表面的な芝居をするとすぐカットをかけられて「違う」と言われてしまうんです。でも、そういった部分に気づけずに役者を続けていたら、いつか絶対に壁にぶち当たっていました。寒竹監督や、莉可子ちゃんはじめ色々な方と芝居していくなかでこの“水中に潜った感覚”に出会えたこと――この経験は、今後も大事にしていきたいです。(text:SYO/photo:Jumpei Yamada)■関連作品:【Netflix映画】ブライト 2017年12月22日よりNetflixにて全世界同時オンラインストリーミング【Netflix映画】マッドバウンド 哀しき友情 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2023年01月04日