Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。2023年4月スタートのテレビドラマ『ラストマン』(TBS系)の見どころを連載していきます。かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。皆実広見(福山雅治)がむごい事件で視力を失ったのが1980年代だとしたら、この10年来に起きた『映え』という価値観の急な高騰は、どうとらえられているのだろう。これまでのストーリーで、視聴者は皆実という人物が健常者よりよほど慧眼であること、身体的な能力も引けを取らないことを分かっている。それでもふとした折に、私たちは彼が失ったまま生きている深い淵に気づく。暗闇の中で静かに煮る肉じゃがに、暗がりで聴いているピアノの音に。思い出す女性の笑顔は少年の頃に見た母の笑顔だという言葉に。アメリカから日本の警視庁に交換留学でやってきたのは、全盲のFBI捜査官・皆実広見だった。視覚のハンデなどものともせず、皆実はアテンド役の護道心太朗(大泉洋)をバディとして捜査一課の難事件に挑んでいく。『ラストマン-全盲の捜査官-』(TBS系 日曜21時)、5話は料理のSNSインフルエンサーをめぐる殺人事件。卓上に料理を残したまま、人気インフルエンサーが殺害される。皆実は最初の現場検証で見たテーブルのメニューに違和感を覚え、他の料理インフルエンサーに接触をはかる。皆実と心太朗は捜査を重ねるにつれ、インフルエンサー間の競争の熾烈さ、そして人気次第で動く金銭の規模を知って驚く。ひとり被疑者の男が浮かび上がる中、再びインフルエンサーの殺人未遂事件が起こるが、皆実はまだ最初に抱いた違和感を拭えずにいた。今回も、捜査の最中に「これでまた美味しい料理が食べられる!」と無邪気に語り、心底楽しそうに捜査と美食を並行する皆実の軽やかさは見ていて思わず頬が緩んでしまう。こういう肩の力が抜けた人たらしの魅力は、福山雅治本人と皆実広見という人物の境界線が重なって滲むようだ。そして、皆実の享楽的な振る舞いは捜査の一環だと頭では理解しつつも、毎度ハラハラしている心太朗の振り回されっぷりが絶妙な凹凸になっている。料理をめぐる会話のなかで、皆実は殺人犯として服役中の心太朗の父親の思い出について問いかける。素っ気なくいなす心太朗だが、言いよどむ一瞬を皆実は汲み取ったように見える。最後に、犯人の青嶌(高梨臨)が連行された後にテーブルに残された料理を心太朗は淡々と食べる。佐久良(吉田羊)に語った「食べ物に罪はないから」という言葉と「しょせん人殺しが作った飯だよ」という二つの言葉が、引き裂かれた父への愛情を滲ませて切なかった。普段は人に振り回されて愛嬌たっぷりに右往左往している大泉洋が、やさぐれて煤(すす)けた表情の瞬間に、淡い煙のように哀切と色気を放つ。印象に残る一瞬である。3話目では、芸能人の不倫によるイメージの低下と殺人罪を天秤にかけた結果、捜査が混迷している。4話目では痴漢や盗撮といった性犯罪に対する性別間の認識の差を丁寧にすくい上げて描いていた。そして今回の事件では、SNSの中で過剰な承認欲求と利益が人を狂わせる様子を描いている。従来の価値観が変動して、動機と罪と罰のバランスが崩れている現状を今作はじっと見据えて描いている。絶対的な価値が見えづらいからこそ、闇の中から迷わず本質をつかみ取る盲目の男に、私たちは惹かれてやまないのだろう。だが常に他者の本質を見抜いてしまう人生は、生きづらくはないだろうかと思う。実はバツイチだとあっけらかんと語った皆実の、かつてのパートナーはどんな人物だったのだろうと思った。事件が解決する時、心太朗は幼い自分を育んだ父の料理を思い出し、そして皆実は母親に置き去りにされても自立して生きようとする少女を励ます。少女の決意に、両親を失った自分の孤独と苦難の道を重ねたのかもしれない。食べるということが人を作るとしたら、皆実のそれは開けっぴろげで享楽的で、その一方で評価に容赦はない。そして心太朗のそれは、複雑な苦味を伴いながらも、突き放すことの出来ない愛着が根底にある。その対比が興味深かった。今回のラストで、皆実は自身の両親を殺された40年前の事件を調査したいと警察庁次長の護道京吾(上川隆也)に申し出る。丁寧に応じながらも、京吾の反応はあまり前向きなものではない。護道家、皆実家、そして心太朗の父。三つの家族を繋ぐ細く長い糸は、果たして後半に向けてどんな模様を描くだろうか。ドラマコラムの一覧はこちら[文・構成/grape編集部]かなTwitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している。⇒ かなさんのコラムはこちら
2023年05月24日ドラマ好きなイラストレーター、ゆう。(@yamapyou)さんが、2023年4月スタートのテレビドラマ『ケイジとケンジ、時々ハンジ。』(テレビ朝日系)の見どころをつづります。現在放送中のドラマ『ケイジとケンジ、時々ハンジ。』(毎週木曜よる9時)。サスペンスとユーモアを組み合わせた軽快なスタイルで描かれるドラマで、主人公の仲井戸豪太(桐谷健太)は、最近では重要視されているコンプライアンスなどにはあまり気を使わず、「とにかく犯人を逮捕して被害者から感謝されたい」という熱心な元体育教師の刑事である。脚本は『オールドルーキー』(TBS系)、『まんぷく』(NHK)、『龍馬伝』(NHK)、映画だと『容疑者Xの献身』などを手がけた福田靖である。「人生を描く」福田靖脚本の魅力彼の脚本には社会的や心理的なテーマがあり、人間の関係や社会の問題について考えさせられる要素が含まれており、特に人生の挫折や成功を描く作品が印象的だ。『オールドルーキー』ではサッカー選手として挫折した主人公が、裏方のスポーツマネジメントにやりがいを見つけ、スポーツ選手たちを支えるというストーリー。主人公の辛い挫折の経験や、新しく歩む道での葛藤、やりがいを見つけ情熱で溢れていく姿を見ることができる。同様に連続テレビ小説『まんぷく』も、インスタントラーメンを世界で初めて開発した日清食品の創業者・安藤百福と妻をモデルとした物語であるが、開発するまでの苦難や喜びを描いている。見る側の受ける印象としては、どの作品も不思議と『元気が出る』作品であるということ。その理由はきっと、『人生を一生懸命に歩む』主人公が描かれているからではないだろうか。『ケイジとケンジ、時々ハンジ。』これも同様である。元体育教師の仲井戸はデリカシーもなく、刑事として光る才能も今のところないが、捜査の一つひとつに一生懸命であることが伝わってくる。特に取り調べシーンは、被疑者に厳しい反面、若者には諭すように語りかけるところも、なんだか自分に言われているような気持ちになり、また、仲井戸に親近感を持つことができる。そんな人の情熱や人間らしさを感じることができるのが福田靖脚本の良さではないだろうか。『ケイジとケンジ、時々ハンジ。』福田靖と俳優陣の相乗効果もう一つ、彼の作品で特徴的なのはテンポの良い会話劇である。『ケイジとケンジ、時々ハンジ。』ではシリアスなシーンもありながら、笑いを誘う場面が豊富に含まれている。性格も様々で個性溢れるキャラクターが多く描かれていることに加え、キャラクターの間の掛け合いやコミカルなシチュエーション、言葉選びにセンスが光る。ストーリーの展開や会話のテンポが速く、リズミカルであることがわかるだろう。素早いジョークや二転三転する展開が視聴者を惹きつける良さであると思う。そんなテンポを魅力とした福田靖脚本では俳優陣の演技力が重要だ。タイミングの良い演技や表情、身振りなどが笑いを生み出す要素となる。本作に出演する俳優は表情や身振り、会話のトーンといい、どのキャラクターもしっかり演じられている。事件だけでは重くなるところを、仲井戸や目黒(磯村勇斗)、仲井戸の妹(比嘉愛未)との会話でクスッと笑いを誘うことで、視聴者を飽きさせない工夫がほどこされている。福田靖脚本の良さと俳優陣の演技の相乗効果が生まれることでドラマが成立しているといってもいいだろう。どちらかが欠けていても成り立たないと思う。これらの要素が組み合わさったドラマは、視聴者に楽しい時間を提供し、娯楽を与えてくれる。『ケイジとケンジ、時々ハンジ。』の視聴者を引き込み、各回、「明日からまた頑張ろうかな」そんな心軽やかな気持ちにさせてくれるところが素敵だ。第6話でぐっと近づいたように思える、二階堂(北村有起哉)と、みなみの心境の変化も気になるところである。恋愛要素も含んだ本作の今後の展開にも注目だ!『ケイジとケンジ、時々ハンジ。』Tverで配信中視聴はコチラから[文・構成/grape編集部]
2023年05月22日Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。2023年4月スタートのテレビドラマ『ラストマン』(TBS系)の見どころを連載していきます。かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。罪と同じくらい、罪の周辺について考えさせられるエピソードだった。許しがたい性犯罪をめぐって加害者の家族側と被害者側として、女性たちの立場が捻じれあう展開は重苦しかった。その重苦しさを『怒る男』護道心太朗(大泉洋)と護道泉(永瀬廉)、そして『包み込む男』皆実広見(福山雅治)の両方で突破して見せた回になった。アメリカから警察庁の交換留学生として来日したのは、全盲のFBI捜査官・皆実。全盲だが高い能力と判断力を持ち、捜査を終わらせる『ラストマン』と敬意を込めて呼ばれている。本来は形式的な留学だったはずの皆実は、アテンド役の護道心太朗をバディとして現場に乗り出し、捜査一課の難事件を次々と解決していく。『ラストマン-全盲の捜査官-』(TBS系日曜21時)、4話目は一人の男性毒殺死に端を発する事件である。皆実と心太朗、そして吾妻ゆうき(今田美桜)のチームが男性の死因を探るうちに同様の不審死をした男性数人があぶり出されるが、彼らには痴漢行為の加害者あるいは被疑者という共通点があった。捜査が徐々に進んでいく中、過去に同種の事件でトラウマを負う吾妻は、性犯罪の加害者が被害者であるというねじれに、自身の捜査の意味を見失いかけて苦しむ。被害、加害、両方から性犯罪をめぐる女性達の苦悩が明かされ、それを見る視聴者側の気持ちもオセロのように白と黒がめまぐるしく入れ替わる。最終的に事件が解決しても残る湿った重さは、これまでの開放感あるエピソードとはまた異なる見応えがあった。刑事ドラマとしては苦い後味だったが、見る側の記憶に長く残るエピソードだと思う。重い展開ではあったが、大泉が絶妙な福山のものまねを差し込んで視聴者をニヤリとさせたり、クライマックスの地下鉄の中で皆実と心太朗が阿吽の呼吸を見せたりと、バディは絶好調である。バディを演じている本人達の互いへの信頼が、二人の演技を更に半歩踏み込ませているようだ。そして今回特筆すべきは、やはり心太朗の甥・護道泉を演じる永瀬廉と、吾妻ゆうきを演じる今田美桜の演技だろう。吾妻ゆうきは、陸上に打ち込んでいた学生時代に、いわゆるアスリート盗撮をされた上にストーカー被害まで受けて深く傷ついている。望まない見られ方に傷ついた少女は、見えない人生を自らの力で切り開いて生きるFBI捜査官の存在を知り、彼を人生の道しるべとして歩き出す。普段は控えめだが、迷いながらも過去の傷から逃げずに立ち向かう吾妻の強さを、今田美桜が懸命に、健気に演じていた。そして警察エリート一家・護道家の息子、護道泉を演じる永瀬廉も回を追うごとに存在感を増している。心太朗に恋心をいじられて上司部下から甥と叔父の口調になるのも、吾妻を案じて捜査から外れるよう勧め、すげなく断られて目線を落とす表情も、永瀬廉の演技はいつも名前のつけられない繊細なグラデーションで出来ている。とりわけ、父の護道京吾(上川隆也)から、「大人になりたければ、清濁併せのむことを覚えろ」と諭された時の、どうにものめないことを自覚している微かな憂いの表情は印象に残った。事件の解決後、皆実は傷を負った吾妻に「残酷で理不尽なことばかりですが、ある日突然目の前に虹がかかることがある。人生というものは、やはり素晴らしいものですね」と、彼女の心身の傷を包み込むように語りかける。その言葉に、軽やかに生きているように見える皆実のこれまでの痛みや、若い吾妻がこれからも警察の中で立ち向かわねばならないだろう理不尽が透けて見えるようだ。それでも、生きていれば虹はかかる。うつむかなければ虹を見る日が来る。勇気を出して綴った点字の手紙と、10年忘れなかった優しさの間に虹がかかったように。時に善悪の境界線さえ見失ってしまいそうな混迷の日々を、懸命に生きていく人たちに届く言葉だと思った。ドラマコラムの一覧はこちら[文・構成/grape編集部]かなTwitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している。⇒ かなさんのコラムはこちら
2023年05月17日ドラマ好きなイラストレーター、ゆう。(@yamapyou)さんが、2023年4月スタートのテレビドラマ『ケイジとケンジ、時々ハンジ。』(テレビ朝日系)の見どころをつづります。「過去は変えられない」…ドラマや映画でよく耳にする言葉がある。自分が過去にしてしまったことは後悔しても、変えることはできない。しかし、それを受け止めることで、その失敗を糧に、自分自身を成長させることができる。『ケイジとケンジ、時々ハンジ。』第5話は、そんなメッセージが込められているようだった。今回はドラマが伝えたかったメッセージと共に、係長となった磯村勇斗演じる目黒元気にも注目する。目つきが違う!新係長になった目黒ドラマ冒頭、第4話で退職した江戸係長(古田新太)の席に座っていたのは、なんと横浜みなとみらい署のエース、目黒(磯村勇斗)だった!いつもは思わず英語を口にしたりと少しお茶目だった目黒だが、今日はなんだか雰囲気が違う。変わらず馴れ馴れしく話しかける仲井戸(桐谷健太)に険しい顔をしていた。もともと、誰よりも自信とプライドを強く持ち、仕事に専念していた目黒だが、着実に昇進し、責任感も強くなっているのだろう。磯村勇斗の鋭い目つきはとても魅力的だ。江戸元係長の席につく彼の目は、早くも係長の貫禄が見えた。思わず息をのむ、磯村勇斗の取り調べのシーン係長となった目黒の責任感が見ることができたのは、犯人候補である唐沢吾郎(忍成修吾)の取り調べシーン。被害者に抱いていた恨みを述べる唐沢に自白を求め「唐沢!」と怒鳴るシーンは思わず息をのむ場面となった。こんなに怒りの感情をあらわにした目黒は初めてである。「確かなのは、お前が殺人犯で最低な人間だってことだ」と一喝する姿は、係長という役職を背負い、また一つ成長した目黒なのだと感じた。恋に仕事に順調な目黒の変化に今後も注目していきたい。淡い初恋の結末今回は、伊藤淳史演じる横浜みなとみらい署の署長・牛島正義の高校の同窓会が舞台となっていた。牛島は高校時代に片想いをしていた城山由希子(黒川智花)と再会し、39歳で署長になったことを褒められ、嬉しく思っていたが、事件が起こり、捜査をしていくうちに、城山が被害者と不倫関係にあり、さらに妊娠していることが発覚。あんなに可憐で、清楚で、透明感のあった彼女が結婚していないなんて何か理由があるとは思ったが、まさか不倫だったとは…。牛島がショックを受けたのは確かだろう。しかし、事件解決後も「印象は変わらない」と告げる彼は、なんだか初恋の思いに区切りをつけたような気がした。ドラマ冒頭のおどおどした印象はまるでなく、彼女を見送る眼差しは、優しいものであった。ドラマが伝えたかったメッセージ同窓会での殺人事件、王道の展開であったが、その分『変えられない過去と変わり続ける未来』というメッセージ性が伝わりやすいストーリーになっていたと思う。最後、別れを告げた牛島も城山も過去にケジメをつけ、きっとこれから未来へと進んでいくのだろう。ドラマは生きることや人との関わり方、人生の意味や価値、社会問題などについて考えるきっかけを提供してくれる。クスッと笑えて、疲れが癒されるような場面ももちろん良いが、ドラマを通して、自分と向き合い、新しい気づきや価値観を得ることができると思う。人情味溢れる『ケイジとケンジ、時々ハンジ。』、これからも私たちに様々な気づきをくれるに違いない。『ケイジとケンジ、時々ハンジ。』Tverで配信中視聴はコチラから[文・構成/grape編集部]
2023年05月17日Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。2023年4月スタートのテレビドラマ『ラストマン』(TBS系)の見どころを連載していきます。かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。初回はFBI捜査官・皆実広見(福山雅治)、2話目は刑事・護道心太朗(大泉洋)、それぞれどんな性格の人物かの紹介だった。いわばこれまでは視聴者に対する名刺の交換で、3回目からが本格的なバディの始動。アメリカから日本の警察庁にやってきたのは、全盲のFBI捜査官、皆実広見。お飾り扱いの交換留学生としてやってきたはずが、皆実は案内担当の刑事・護道心太朗を連れて現場での事件解決に乗り出していく。現場を仕切る捜査一課から反発を受けつつ、有能かつ人たらしの皆実は心太朗の力を借りながら徐々に理解者を増やし、難事件を解決に導く。日曜の夜、視聴率も好調な『ラストマン-全盲の捜査官-』(TBS系日曜21時)。第3話は人気刑事ドラマに絡む若い俳優の殺人事件である。早朝、不祥事で落ち目となっていた若い俳優が殴打殺害されているのが発見され、遺体の第一発見者もまた俳優、国民的スターの羽鳥潤(石黒賢)だった。羽鳥が演じる人気刑事ドラマシリーズの大ファンだという皆実は、半ば呆れる心太朗を連れて嬉々として羽鳥のもとに事情聴取に向かう。国民的人気俳優の気さくな対応と演技へのストイックな取り組みに感心する二人だったが、羽鳥は犯人ではないという皆実の見立てをよそに、羽鳥が犯行を自供したことで事件は意外な展開へと転がっていく。国民的スターとその妻、共演者の女優、ドラマのプロデューサー。それぞれに隠したいことが絡み合って殺人の真実を覆い隠す複雑な過程を、皆実と心太朗は一つ一つ要素を拾いながら解き明かしていく。今回もっとも興味深いのは、皆実が心太朗に対して捜査の中では多くを語らず、心太朗自身の判断を期待しながら行動を共にしていたことである。むしろ「私のバディは、そんな(ネタを共有する)必要はないはずですが」と突き放し、心太朗も自分の能力を証明すべく受けて立つ。一方で、皆実は彼特有の視覚以外をフルに活用した捜査の様子を逐一、心太朗に見せている。材料は提供しつつ、それを心太朗がどう調理していくのかを見るように。皆実のその様子には、自分が選んだ相棒をただの『添え物』にはしたくないという願い、対等な相棒と充実した日々を過ごしたいという願いが見えるようだ。そして初回と2話で、私たちも皆実の捜査の流儀を知りつつある。鍵に触れる指、玄関の床の違和感、台本の匂いを確かめる仕草、繰り返し差し出されるハンドクリーム。心太朗と私たち視聴者は、皆実の微妙な表情の変化を見つめつつ、どの要素が犯人に繋がるのかを緊張感とともに考える。匂いか、触覚か、それとも声か。意外にも皆実が重点的に求めた要素は『チューブの潰し方』であった。改めて皆実広見という男が見せてくれる、人ひとりを構成する要素の細かさ、複雑さに驚かされる。ドラマの中で、最終的に事件の種明かしに費やした時間はおよそ10分強。だがそのボリュームを感じさせない流れるような種明かしで、冒頭から解決まで一切緩めず駆け抜ける構成の見事さに唸った。回を追うごとに次々と人たらしの本領を発揮する皆実だが、今回は日本のドラマが好きだったり、女優のゴシップに本気でがっかりしたりと、意外とミーハーという愉快な一面を見せてくれた。それに呆れながらも、相棒として凸凹が噛み合っていく心太朗の様子も楽しい。とりあえず人前の『シンディー(皆実が心太朗につけた愛称)』呼びは嫌がりつつ、バディ二人ならもう『シンディー』呼びでかまわないようである。そして今回はバディ二人に加えて、心太朗の昔の恋人で現在は捜査一課の班長を務めている佐久良円花(吉田羊)の仕事ぶりが描かれていた。殺人事件自体が解決したあとも、その事件を引き起こした人々の根本の怒りや悲しみをしっかり掘り起こし、昇華させる。直接は組織内の評価に繋がらないだろうその仕事に、皆実が大きな敬意を表したのが印象深かった。こうした硬質で有能な女性の役は吉田羊の十八番(おはこ)である。今回は皆実の動向を監視しておきたいらしい護道家の思惑も垣間見え、この先バディの二人はもちろんのこと、佐久良、吾妻、護道泉ら周辺の面々の人物像もより奥行きを得て立体的になっていくだろう。楽しみに待ちたい。ドラマコラムの一覧はこちら[文・構成/grape編集部]かなTwitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している。⇒ かなさんのコラムはこちら
2023年05月11日ドラマ好きなイラストレーター、ゆう。(@yamapyou)さんが、2023年4月スタートのテレビドラマ『ケイジとケンジ、時々ハンジ。』(テレビ朝日系)の見どころをつづります。「犯人は誰?動機はなんだろう?」と刑事ドラマ特有の疑問を抱かせる前半から、いつもどんでん返しが繰り広げられるテレビ朝日系木曜ドラマ『ケイジとケンジ、時々ハンジ。』。元体育教師という異色の経歴を持つ刑事・仲井戸豪太(桐谷健太)が個性豊かな同僚の刑事と検事に加え、一風変わった判事(裁判官)と事件を解決に導く、緊迫感あふれるサスペンスとユーモアが交差する大人の群像劇である。『ケイジとケンジ、時々ハンジ。』第4話は餃子泥棒事件無人の餃子店に目出し帽をかぶった3人組が侵入し、冷凍餃子126パックを盗んだ上、鉢合わせになった女性を突き飛ばして逃走した事件の捜査が始まった。強行犯係の仲井戸豪太(桐谷健太)らは、盗まれた餃子がフリマアプリに出品されていることを突き止め、出品者が大学生の三鷹蒼(濱田龍臣)であることを発見する。しかし、三鷹はアカウントが乗っ取られたと主張し、関与を否定。更に、三鷹とボイスチャットをしていた女子高生が、係長である江戸一(古田新太)の娘である陽葵(飯沼愛)だと判明する。陽葵がアリバイ工作に関わっているのではないかと疑惑が深まり、検察チームも苦戦を強いられる事態に発展する。江戸係長が下した決断陽葵の疑惑も晴れ、無事に事件は解決した。父親含め多くの刑事に疑われていた陽葵は事情聴取の際、「人を疑うのが仕事なんでしょ。何言ったって信じてくれないんでしょ」と悲しさと怒りをあらわにしていた。そのこともあり、係長は陽葵を疑ってしまったことを謝罪。真剣に謝る父に、「わかってるよ」というように、うなずく陽葵。冒頭はあまり仲が良好でない親子だと匂わされていたが、陽葵には、『刑事=疑って信じてくれない』という考えがあったのかもしれない。陽葵はもしかしたら、これまで何度もそのような思いをしてきたのだろう。でも彼女ももう高校生だ。今回は係長の仕事も理解している。その上での、うなずきに思えた。しかし、横から「仕方ないんだよ、刑事さんだから」と後押しをする仲井戸を差し置いて、係長は「お父さんはもう、刑事をやめるよ。刑事をやめてパン屋さんになる」と告げる。「ええ~~~!??」と驚きを隠せない仲井戸だったが、これは視聴者も同じく。陽葵も刑事という仕事を理解してくれて、定年退職まであと少し。まさか係長がここでやめる決断をするとは予想もしなかった展開。SNSでは「本当にさよならだったとは」「係長があっさり辞めてしまったのには驚いたわ」「古田新太は退場!?」「え?パン職人に転職!?」との驚きと寂しさの声が多く上がっていた。まだやり直せる、親子の絆刑事をやめるという決断は係長の『けじめ』だったのだと思う。係長はこの事件を通して、自身が陽葵にどんな対応をしてきたのか、改めて認識したのだろう。これまで寂しい思いをさせてしまった分、これからは陽葵のために時間を使いたい。退職後にパン店を開くという選択からも、その思いが伝わってくる。ラストのシーンでは、楽しそうに親子並んでパンを売る表情がとても印象的であった。係長の退職は寂しいが、あの笑顔を見れたことで、彼の選択は間違っていなかったんだと思うことができた。今回は事件に絡めて親子の絆を描いた良回だったといえる。今後どうなる!?仲井戸の活躍に期待ベテラン刑事だった係長がいなくなってしまったことには不安もある。これまでの事件もトントン拍子に進む中、係長だけが「違和感がある」と言って捜査を深堀し、まったく別の犯人が逮捕されたケースもあった。係長が抜けたいま、横浜みなとみらい署は中堅と若手のみ。係長の後釜には誰が来るのか?期待できるのは新キャラの登場。しかし個人的には、もっと主人公である仲井戸に活躍してほしいという想いもある。係長がいなくなった分、横浜みなとみらい署を引っ張っていかなければと仲井戸の意識も変わるかもしれない。これまでは、熱血すぎる故にちょっとポンコツな部分も見えていた彼の今後の活躍に期待である。『ケイジとケンジ、時々ハンジ。』Tverで配信中視聴はコチラから[文・構成/grape編集部]
2023年05月06日Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。2023年4月スタートのテレビドラマ『ラストマン』(TBS系)の見どころを連載していきます。かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。本当に間口の広いドラマだな、というのが2話目の感想だった。初回を見ずに2回目から見始めても十分に楽しめる。相関図や設定を知らなくても、数分見ていれば大まかに把握できる。それでいて初回に示された情報の欠片が散りばめられているから、それが初回から見ている視聴者には楽しい。老若男女問わず、間口も奥行きもある。まさしく王道の面白さである。全盲のFBI捜査官・皆実広見(福山雅治)と、彼の世話係を命じられた孤高の刑事・護堂心太朗(大泉洋)がバディとして事件の解決にあたる『ラストマン-全盲の捜査官-』(TBS系日曜21時)。初回は皆実広見という男の能力や魅力全開のストーリーだったが、2回目はバディである護堂心太朗の人物像を横糸に、そして二つの殺人事件をめぐる冤罪の疑いを縦糸にした物語になった。十数年前と類似の殺人事件が起き、その時の犯人が刑務所から出所していることが判明する。しかしその男には今回明確なアリバイがあり、そこから心太朗が担当していた過去の殺人が誤認逮捕であった疑いが発生する。当時の捜査は間違いないと強く主張する心太朗に対し、皆実は自分は日本の警察にしがらみのない立場であるから、公平に捜査をすると宣言する。以前、大泉は自分の演技を「悪く言えば何をやっても大泉洋なのかもしれないが、それでも大泉洋のお芝居が見たいという人のためにいる俳優でありたい」と語っていた。確かに、大泉の演じる役柄は軒並み『大泉洋の』として記憶に残るけれども、大泉洋という俳優の面白いところは、善人も悪人も同等の説得力を持って演じるというところにあると思う。2018年放送の『黒井戸殺し』(フジテレビ系)も、2022年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK)も、善悪の境をギリギリで綱渡りするような人物を、彼は大泉洋の持ち味のまま、ユーモアでゆらゆらと揺れながら演じきった。今回も、手柄に貪欲になり善悪を見失ったのか、当時逮捕に至る正当な根拠があったのか、どちらにも見える一線を演じた大泉の演技が、物語全体を絶妙な緊張感で引っ張っていた。今回のラスト、殺人犯の息子だという罪悪感とコンプレックスに苦しみ続ける心太朗に、皆実は「(あなたは)まっとうな正義感を持った、ごくありふれた人間です」と語りかける。プラスでもマイナスでもなくニュートラルだと、殺人犯の息子であるという要素はどちらにも心太朗の倫理観を変えていないと伝える皆実の言葉は、人たらしの甘さはなくとも、真心に満ちていて心地よかった。また、兄・京吾(上川隆也)をはじめとする護堂家の面々と心太朗の関係も、互いに愛情はあると分かる一方で、一筋縄でないようで興味深い。そんな複雑な距離感を、甥の護堂泉(永瀬廉)の「階級は俺の方が上ですよ」という言葉に「誰がキャッチボールを教えてやったと思ってんだ」と憮然と返し、互いに緊張が緩む一連がよく表現していた。また、今回も事件捜査の過程は、全盲ゆえに皆実が視覚以外の感覚をフル稼働させて、推理を組み立てていく様子に唸らされた。嗅覚、聴覚を限界まで研ぎ澄ませて、犯人や犯罪の方法を絞り込んでいく皆実の言動に、健常者は『見えて』いるために逆に気づくことのない点と線があるのだと痛感する。一方、最後に暗闇の中で一人料理をする皆実の姿に、明かりの有無は彼にとって関係ないのだと、全盲であるということの厳しさについて今更のように想いをはせる。バディとして本格的に稼働しはじめた二人が、私たちにどんな『見えない世界』からわかるものを見せてくれるのか、楽しみにしたい。ヒーローは、白杖の乾いた音とともにやってくるのである。ドラマコラムの一覧はこちら[文・構成/grape編集部]かなTwitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している。⇒ かなさんのコラムはこちら[文・構成/grape編集部]
2023年05月05日ドラマ好きなイラストレーター、ゆう。(@yamapyou)さんが、2023年4月スタートのテレビドラマ『ケイジとケンジ、時々ハンジ。』(テレビ朝日系)の見どころをつづります。整った顔立ちと強い目力、でもどこか子犬のような可愛がりたくなる要素もあり、多くの女性から支持を集めている磯村勇斗。若手俳優としては珍しい、さまざまな役に完璧になりきる演技力の高さを持っている。映画やドラマでの役柄に応じて、自然で魅力的な演技を見せてくれる彼は、現在放送中のドラマ『ケイジとケンジ、時々ハンジ。』に出演中である。磯村勇斗が演じる目黒元気は、エリート刑事なのに、どこか天然でピュアな一面がある。2023年4月27日木曜日に放送された第3話ではそんな目黒のピュアな一面を見ることができた。目黒は警備担当外交官として2年間アメリカへ赴任していた経歴がある。時折「yes sir(イエスサー)」などの英単語が飛び出してくるのはそのためだ。今回も強行犯係の刑事たちと仕事終わりに一杯飲みに行こうと盛り上がるシーンでは、「またあの居酒屋ですか?もっとオシャレなレストランバーで…」と強行犯係がよく利用しているいわゆる雑多な居酒屋に難癖をつけていた。「何、気取ったこと言ってんだよ」と主人公・仲井戸豪太(桐谷健太)に突っ込まれていた。第1話から、捜査もコスパ重視と言っており、アメリカが染み付いている様子がうかがえる。目黒のピュアさが垣間見れたシーンに注目!第3話では、横浜地方裁判所みなと支部の裁判官・諸星美沙子(吉瀬美智子)が、行き交う人々でごった返す駅近くの街路で、腕を切りつけられるという事件が発生。これまでの事件においては毎度ゲストが登場していたところ、今回は被害者がレギュラーメンバーであることにも驚きだ。そして、目黒は被害者である諸星の護衛につくことになった。すると『氷点下100度の女』の異名を持ち、仕事中は感情を一切見せない諸星が「お腹すいちゃった」と食事の誘いをする。目黒のいう『オシャレなレストランバー』と思われる場所で二人は食事をすることに。普段、業務中でしか関わらない刑事と判事がまさかの急接近し、見ているこちらもなんだかソワソワしてしまう。諸星の「かっこいい」「(判事や検事より)目黒さんたちの方がすごいと思う」など、意識させる嬉しい言葉の連発に動揺する目黒が非常に面白い。その後も仲井戸との電話で「これからは僕が判事を守ります」「彼女のこと、理解してますから」と諸星の護衛をすると伝えた目黒。たった一度の食事で諸星にハートを掴まれたのか?そうだとしたら、チョロすぎるのだが、普段はスマートな目黒が恋愛においてはピュアだったという面はギャップは非常に魅力的である。目黒というキャラクターの新たな一面を見ることができた。これまではアメリカかぶれの少々鼻につく彼だったが、可愛らしい一面も見れたことでさらに愛着も沸き、このドラマを一層盛り上げてくれている存在であると確信した。これまで恋愛要素が少なかった本作なだけに、「あれ?この雰囲気はなんだろう?」と思った視聴者も多いはず。恋愛要素あり?今後の展開が気になる!そしてなぜか、男性を立てることが非常に上手い諸星にも興味が湧いてしまう。女性らしい気品があふれるたたずまいと、会話術は『モテる女』感がすごかった。そんな諸星と諸星と横浜地方検察庁みなと支部の検事・二階堂俊介(北村有起哉)が過去に恋人関係にあったという衝撃の事実もカミングアウトされた。多くは語られなかったが、お互いのことをよく知っているような会話を見せた二人に、どうして別れたのか、どれぐらい付き合ってたのかなど、聞いてみたいことが盛りだくさんだ。目黒と諸星の今後の関係も気になるところだが、近い距離に元カレの二階堂俊介(北村有起哉)がいるとなると、刑事・検事・判事の三角関係が出来上がってしまう。事件の展開も王道で楽しめる本作だが、恋愛を匂わせるシーンにまた一つ楽しめる要素が追加された。『ケイジとケンジ、時々ハンジ。』Tverで配信中視聴はコチラから[文・構成/grape編集部]
2023年04月30日Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。2023年4月スタートのテレビドラマ『ラストマン』(日本テレビ)の見どころを連載していきます。かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。そもそも配役だけで恐ろしくハードルが上がっている。大体、福山雅治と大泉洋だ。この国のどんな映像作品でも、どちらか一人だけでも主演を張れる。それが二人も揃う。盆と正月が一緒に来たような、というやつだ。誰もが思う、きっと面白い物語が見られるに違いない。そんな最初から爆上がりしたハードルを、今作『ラストマン全盲の捜査官』(TBS系 日曜21時)の初回はいとも軽々と越えて飛んだ。晴れた空に舞い上がるような気持ちの良い跳躍だった。アメリカから交換留学で来日した全盲のFBI捜査官・皆実広見(福山雅治)と、彼をアテンドすることになった警察庁の孤高の刑事・護道心太朗(大泉洋)。本来なら形式上の交換留学のはずが、皆実は警察庁が捜査中の無差別連続爆破事件の捜査に渋る心太朗を連れて乗り出していく。招かれぬ客として、皆実と心太朗に対して敵意満々の捜査一課の中で、皆実が最初に披露した犯人の見立ては意外なものだった。爆破現場に足を運んだ皆実は、火薬の匂いから一人の男を探り当てるが、そこから事件は意外な展開を迎える。初回の見どころは、やはり次から次に繰り出される『人たらし』、皆実広見という人物の魅力だろう。盲目という大きなハンデと引き換えに会得した鋭敏な聴覚、嗅覚。犯人の数手先まで見越した推理と適格な判断力、そしてシャープな身のこなし。捜査官としての高い能力はもちろんだが、皆実の周囲への飄々(ひょうひょう)とした言動一つ一つが魅力的だった。皆実はとにかく頻繁に相手の名前を呼ぶ。相手の存在が自分にとって記憶に足る特別なものだと暗に示すようだ。そして些細なことでも細かく礼を伝える。お礼の言葉は、いつも紋切り型のものではなくて、その場に応じた彼なりの言葉だ。爆破事件解決ののち、助力してくれた吾妻ゆうき(今田美桜)に、わざわざアイカメラの向きを変え、顔を見せて礼を伝えた場面はとりわけ印象に残った。皆実自身には視覚という感覚が失われているからこそ、その心遣いの重みが感じられるように思う。視覚の欠如は最新のガジェットや他の感覚で補い、無類の機転と身体能力で『ほぼ』健常者と同じように、いやそれ以上の能力を見せる皆実だが、それでも盲目という要素は大きく、どうしても彼一人でミッションを完結することは出来ない。とりわけ運転・歩行・走行といった身体の移動のハンデは大きい。その欠落の部分こそが他の刑事ドラマとの違いであり、物語全体に常に心地よい緊張の糸を張る。個人的に今回最もゾクゾクしたのは、皆実が爆弾を作った犯人・渋谷英輔(宮沢氷魚)と対峙し、銃を向けられながらも距離を詰めていくシーンだった。イヤホン越しに止めようとする心太朗を制し、「チャンスは今しかありません」と犯人に向かい合う瞬間、皆実はにっこりと完璧な作り笑いを見せる。ミュージシャンとしての魅力、俳優としての魅力、極上のトークも、ユーモアも寛容さも、何もかも持ち合わせている彼を見るたびに、「この人の内面は一体どこからどこまで『福山雅治』という存在なんだろう」と、畏怖に近い気持ちになる。演じる本人へのそんな憧れとシンクロするように、皆実の完璧な笑顔にしびれた瞬間だった。そして、皆実の超人めいた存在をリアリティとして物語に繋ぎとめるのは、実は護道心太朗を演じる大泉洋の『渋い顔』だと思う。人たらしの魅力に必死で抗い文句を言いつつ、それでもついていく心太朗の右往左往が、皆実を単調な超人、聖人君子にしない。それこそ、日本一『右往左往が絵になる男』大泉洋の、魅力の本領発揮だろう。また重要な初回のゲスト犯人役として、これまでの好青年の印象を覆し、社会に排除され恨みを暴走させる青年の哀切を演じきった宮沢氷魚もまた、見ごたえある演技だった。バディの脇を固める俳優陣もまた、日曜劇場に相応しい厚みのある顔ぶれだ。出会ってすぐの車の中で、心太朗は苦々しく「お別れする日が楽しみです」と嫌味を言い、それに皆実は「泣かないでくださいね?」と飄々と応じた。私たち見る側もこれからの数か月、一筋縄でいかないこのバディを堪能したい。きっと最終回、お別れする日にはひどく寂しくなってしまうだろうけれども。ドラマコラムの一覧はこちら[文・構成/grape編集部]かなTwitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している。⇒ かなさんのコラムはこちら
2023年04月26日ドラマ好きなイラストレーター、ゆう。(@yamapyou)さんが、2023年4月スタートのテレビドラマ『ケイジとケンジ、時々ハンジ。』(テレビ朝日系)の見どころをつづります。桐谷健太はどうしてこんなに人間味あふれる役が似合うのだろう。青春ドラマやラブストーリーでは、繊細な感情表現で視聴者を感動させるのに対し、アクションドラマや刑事ドラマでは、強い意志や熱血さを表現し、迫力ある演技を見せる。『ROOKIES』(TBS系)、『天皇の料理番』(TBS系)、『カインとアベル』(フジテレビ系)、『4分間のマリーゴールド』(TBS系)など代表作が数多くあるにも関わらず、すべてハマっていた。時にはコミカルで愉快なキャラクター、時には口下手でぶっきらぼうなキャラクター、いつも全く異なる役を演じていることに驚きである。その中でもやはり、彼は誠実で、情熱がある印象が強い。失敗を恐れずに挑戦し、挫折から立ち上がることができそう。彼の演じるキャラクターにはそんな力を感じる。今回スタートした春ドラマ、『ケイジとケンジ、時々ハンジ。』(テレビ朝日系)を見ていると特にそれを感じた。本作は元体育教師の刑事という異色の経歴を持つ仲井戸豪太(桐谷健太)が、個性ある刑事、検事、判事らと共に事件を解決するストーリーだが、仲井戸は立場や役職に物おじせず、発言をする特徴がある。検事に思っていることをズケズケと発言したり、説教したり、また職場の上司にも「はあ~?」という反応を見せたりするから面白い。でもうっかり失礼なことを言ってしまった時はすぐに謝まるところもなんだか憎めないのだ。みんなが気を使って接する上司や取引先に、こうやって等身大でぶつかることができる人はなかなかいないだろう。みんなができないことをやってみせるからこそ、仲井戸のキャラクターに視聴者は惹かれてしまうのかもしれない。また、演じる桐谷健太は、仲井戸というキャラクターを、表情やしぐさ、声のトーンなど、細かな演技のニュアンスで繊細かつ正確に表現している。例えば取り調べのシーンでは、なかなか口を割らない被疑者に同情するところからスタートする。第2話では俳優として売れていない田中克也(橋本淳)に「なあ、田中。どこの世界でもイケてるやつもいれば、そうじゃないやつもいるんだよ」と情に訴えかけるトーンで語りかけていた。かと思えば、最終的には「田中、田中、田中~!!」と大声で叫び出す。感情表現が豊かなところがまた桐谷健太演じる仲井戸の良さだ。仲間たちのツッコミがちょうど良いこのドラマの良さは、主人公を取り囲む周囲のキャラクターにもある。仕事に対して熱心なのはいいことだが、熱血キャラが時に暴走してしまう仲井戸に仲間たちの反応が良いスパイスとなっている。彼の言動に「は?」と冷たい反応をする目黒(磯村勇斗)や、「また始まったよ」と呆れる岸本(長井短)のツッコミがまたクスッと笑えるのだ。ラストシーンでは妹である、みなみも兄のおしゃべりが止まらず「ええ加減にせえ!」と怒鳴っていた。普段は冷静でおしとやかなのに対し、ギャップのある彼女のセリフに衝撃を受けた人も多いだろう。そんな個性あるキャラクターたちが仲井戸の周りにいることで、彼の良さがさらに引き立つのであった。『ケイジとケンジ、時々ハンジ。』はストーリー展開が王道の警察ドラマだが、犯人やその動機、事件解決までのプロセスなど、テンポよく描かれている。最後にどんでん返しが起こったり、所々に散りばめられている伏線を探すこともこのドラマの楽しみである。これからも事件解決に向けて刑事、検事、判事たちがどのように立ち向かうのかを見届けたい!『ケイジとケンジ、時々ハンジ。』Tverで配信中視聴はコチラから[文・構成/grape編集部]
2023年04月26日お弁当の数だけ物語がある!東洋アルミエコープロダクツはホームページ内『暮らしのアイデア』にて「わたしのお弁当ストーリー」のコラムをお客様の声とともに2023年4月19日に公開いたしました。URL: 春休みが終わって、新しい期が始まりました!お弁当作りが終わった!という人。これから始まる!という人。いやいや、ずーっと作り続けていますよ!という人。栄養バランスを考えたり、彩りをよくしたり。量は足りるかな?食べる時まで、おいしさを保ってくれているかな?など、お弁当には作り手の想いがギューッと詰まっています。お弁当の数だけ、物語がある!今回は、お弁当作りで「おべんとうカップ」を愛用してくださる方から寄せられたお弁当ストーリーを紹介していきます。みなさまからいただくお声にある名称では、「お弁当カップ」「おかずカップ」と呼ばれたりもしているようですね、みなさんはなんと呼んでいますか?お弁当作りのエピソード汁漏れ課題を解決!「汁も油も吸いとるケース」お客様の声吸いとるケースとは3層構造になっているので、汁気を超速吸収!味移りを防いで、おいしさそのまま!汁も油も吸いとるケース | 商品情報 | 東洋アルミエコープロダクツ株式会社 : 味移り問題を解決!「抗菌深いぃおべんとケース」お客様の声深いぃケースとは深さがあるからしっかり仕切れる!おべんとうカップです。抗菌加工もあって安心。抗菌深いぃおべんとケース | 商品情報 | 東洋アルミエコープロダクツ株式会社 : 東洋アルミのコラム『暮らしのアイデア』暮らしのアイデア | 東洋アルミエコープロダクツ株式会社 : 会社概要商号:東洋アルミエコープロダクツ株式会社代表者:代表取締役社長山口正起本社所在地:大阪市西区西本町1丁目4-1設立:1969年11月1日URL: 詳細はこちら プレスリリース提供元:NEWSCAST
2023年04月21日ドラマ好きなイラストレーター、ゆう。(@yamapyou)さんが、2023年4月スタートのテレビドラマ『ケイジとケンジ、時々ハンジ。』(テレビ朝日系)の見どころをつづります。話題となっていたあのドラマが、3年ぶりに帰ってきた。2023年4月13日(木)夜9時から『ケイジとケンジ、時々ハンジ。』(テレビ朝日系)がスタート。2020年に放送された『ケイジとケンジ所轄と地検の24時』の続編となっており、今回は刑事と検事だけでなく、判事も加わり、ユーモアあふれる登場人物たちが事件をさまざまな角度から紐解いていく。3年ぶりとは思えない、主演・桐谷健太演じる仲井戸豪太の熱血ぶりも、前作を見ていた人は当時を思い出して懐かしい気持ちになっただろう。ユーモアあふれる登場人物たちが大集合なんといっても見どころは個性あふれるキャラクターである。元体育教師の刑事という異色の経歴を持つ豪太を中心に、横浜みなとみらい署強行犯係には目黒元気(磯村勇斗)をはじめとする個性派が勢揃い。冒頭でアメリカ赴任から帰ってきたばかりの目黒に自己紹介するシーンでは、みなとみらい署強行犯係の雰囲気が一瞬でわかっただろう。前作でも豪太とバディを組んでいた目黒元気を演じるのは磯村勇斗。ミスをせず要領よく仕事を片付けようとするいわゆるコスパ重視な目黒。若くて優秀。豪太が「めぐちゃん、めぐちゃん」と連呼することに対しても、クールに返す姿が印象的だ。スマートで自信に満ち溢れている様子が伝わる磯村勇斗のたたずまいは、主演に劣らない存在感を放っていた。また、豪太の妹、比嘉愛未演じる立会事務官の仲井戸みなみも、猪突猛進な豪太にテキパキとツッコミを入れる良いスパイスとなっている。しっかり者で、仕事もできて、美人なのに男運に恵まれないところも応援したくなるポイントだ。同居する豪太とのきょうだいバトルでは、彼の無神経な言葉にムキになって言い返す。2人の掛け合いはテンポがよく、とても面白い。行きつけの店に呼んで新しい検事を紹介したり、なんだかんだ仲が良いところもほっこりする場面である。初回ゲスト『なにわ男子』大橋和也の演技が光った第1話初回のゲストは今、ドラマやバラエティでも大人気のアイドルグループ『なにわ男子』の大橋和也だ。可愛らしい笑顔とハスキーな声が魅力的で、なんといってもあの無邪気な少年らしさが強く印象に残る。そんな彼が今回は事件の最重要となる被疑者役として登場。豪太と目黒に事情聴取をされている最中も、何かを隠している様子がありながら、自分は事件に関与していないと必死で訴えるシーンは迫真の演技であった。学生であるため、警察の事情聴取はきっと怖いはず。そんな思いがひしひしと伝わってくる怯えた声と縮こまった姿勢、大橋和也の繊細な演技力に驚かされたのは事実である。豪太が高校時代のバスケ部の話をすると、少し笑顔を見せ、打ち解ける様子も自然で子供らしさが出ているところが非常によかった。今回はゲスト出演だったが、視聴者の記憶に残る重要な役どころを見事に演じきった。ドラマ『年下彼氏』(テレビ朝日系)や『メンズ校』(テレビ東京系)など、話題のドラマに出演してきた彼だが、今後、俳優としてさらに花開く予感がした今作であった。クスッと笑えて、胸がアツくなる群青劇はじまる!個性あふれるキャラクターと豪華な俳優陣が繰り広げる『ケイジとケンジ、時々ハンジ。』。被疑者と事件と、必死に真正面から向き合おうとする熱血な刑事の姿。時に彼の言葉が胸に刺さる、そう、これは群像劇なのだ。またクスッと笑えて木曜日の疲れを忘れさせてくれるようなシーンも魅力的である。アメリカ赴任から帰ってきたばかりの目黒の、ルー大柴なみの英語混ざりな口調。真面目なシーンで不意に飛び出す英単語に何度笑っただろうか。今後も目黒のアメリカかぶれっぷりは、ドラマの中で一服の清涼剤になってくれるはずだ。また、検事・二階堂(北村有起哉)とのやりとりの中で「前にここにいた、でっかい検事も同じこと言ってましたよ」など、少し踏み込んだ小ネタも交えていたところも制作の遊び心を感じた。前作からのファンも大事にされていることが伝わるワンシーンである。初回からアクセル全開でスタートを切った『ケイジとケンジ、時々ハンジ。』今後の展開にますます目が離せない![文・構成/grape編集部]
2023年04月13日Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。2023年1月スタートのテレビドラマ『大奥』(NHK)の見どころを連載していきます。かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。ドラマの初回、長い髪をなびかせて馬を駆る吉宗(冨永愛)の颯爽とした姿に目をみはった時から三か月。美しく、時に痛いほど悲しく、視聴者として毎回贅沢な視聴体験だった。小説や漫画原作ものの映像化として、エピソードの取捨選択は避けられないが、これだけ原作のエッセンスを愛情深く汲んだ上で作られるドラマは決して多くないと思う。そして映像化にあたって追加したオリジナルの部分も、全編を通して将軍と彼女たちをめぐる人々への愛に満ちていた。最終回での一番のドラマオリジナル要素は、やはり杉下(風間俊介)が病に倒れ、吉宗が献身的に看病をする場面だと思う。自らの薬代すら倹約するほど無欲な杉下のために、吉宗が取り計らったのは『物』よりも旧知の人物を呼んで語り合う和やかなひとときだった。やってきたかつての政敵・藤波(片岡愛之助)は、すっかり好々爺になっており、今は歌舞伎役者・片岡仁左衛門の贔屓をしていると楽しげに語る(愛之助に仁左衛門の贔屓を語らせるという作り手の遊び心が楽しい)。※写真はイメージやはり藤波は、吉宗が政治改革の為に実用至上主義を掲げ、二の次にしてきた情緒や芸術という要素の体現者なのだろう(その藤波の今の生業は骨董商である)。そして『種なし』と自らを卑下していた杉下が、誠実さと愛情深さで、吉宗の子らの父親代わりとなり、家族のような愛に包まれて生涯を終えたことは、子をなせなかった有功(福士蒼汰)の悲痛や、生殖だけが男女ではないと訴えかけた右衛門佐(山本耕史)の言葉の延長線上にある。長い時間をかけながら、呪いと苦しみは緩んでいくのだと感じさせるドラマオリジナルのシーンだった。だがやはり、この最終回の白眉は、吉宗と忠臣・加納久通(貫地谷しほり)の別れの場面だった。この場面はほぼ原作通りの展開で、眉ひとつ動かさずに自らの罪を認める久通の貫地谷しほりと、その忠義に痛切の涙をこぼす吉宗の冨永愛の演技は、圧巻の一言だった。ドラマでは村瀬(石橋蓮司)の没日録は一度失われ、密かに吉宗の手に戻る。その時、既に久通が犯した罪について推測しながらも、長い時間沈黙し、最後にそれを確かめた吉宗の心情を思う。久道が一人で背負ってきた重い罪を、政(まつりごと)を次世代に継げるようになった今、ようやく自分も半分引き取ってやれるという心持ちだったのではないか。その主君の愛に対し「私が信さまの政を見ていたかったからでございます」と、どこまでもそれは自分の欲であり責任であったと久通は涙とともに返す。主従が互いに想いあう深い愛情が、胸が締め付けられるように切なかった。※写真はイメージその吉宗の死をもって、ドラマ10『大奥』のシーズン1としての物語は一度幕を閉じる。母である吉宗を失おうとするその時、家重(三浦透子)が泣きながら縋った「私をおいていかないでくださいませ」はドラマのみで描かれたセリフである。全てにおいて優れた偉大な親を持ち、劣等感にさいなまれながら、それでも深い思慕をねじれるように抱いて生きている娘の悲痛な叫びだった。伝染病と戦う国の舵取りは、家重と彼女を補佐する田沼意次(當真あみ)に引き継がれた。そして、死の間際に現代と一瞬繋いだ「この国は滅びぬ」という吉宗の最後の言葉は、苦悩しながら模索し続ける為政者たちと、たくましく生きる民衆の力があれば、国は潰(つい)えないという確信なのだろう。※写真はイメージそして同時に現代の私たちもまた、人口が減り続けていくこの国で諦めずに滅びぬ道を模索していくのだという、作り手がドラマに託した願いでもあると思う。大奥が血を繋ぐための牢獄だった家光の時代から、享楽と尊厳を捉えなおす綱吉の時代を経て、よりよき選択を求められる分だけ新たな苦悩が生じる吉宗の時代へ。人の生きる道が、過酷な苦しみや悲しみ、憎しみに洗われても、最後の最後に残るのは善であり、正なるものだと信じたい。杉下の死にも、吉宗の死にも、そんな願いがこめられた最終話だったと思う。今回のラストにはシーズン2の医療編を示唆するシーンがいくつかあり、重要な登場人物の配役も発表になった。いずれも、シーズン2もドラマのオリジナル要素も含めて素晴らしい作品になると今から確信させるものだった。※写真はイメージうねりながら流れる川のように、時に波と砕け、溢れながらも淀みなく水は流れ続ける。この物語の遥かに流れゆく先を、今年度内に再び見届けられる幸せをかみしめながら、その時を待ちたい。ドラマコラムの一覧はこちら[文・構成/grape編集部]かなTwitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している。⇒ かなさんのコラムはこちら
2023年03月20日Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。2023年1月スタートのテレビドラマ『大奥』(NHK)の見どころを連載していきます。かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。その時、貫地谷しほり演じる加納久通が怒って、世継ぎについて進言する家臣をりつけたのは印象深かった。原作も今回のドラマ化でも、加納久通は切れ者だが普段は物腰柔らかく、能ある鷹は爪を隠すを地で行くような人物だ。そして久通が激怒するこの場面は、原作にはないドラマのオリジナルである。トップと補佐の間柄として、彼女なりの厳然とした一線が垣間見える場面だった。NHKドラマ10『大奥』の9話は、前回に引き続き八代将軍・吉宗(冨永愛)の治世をめぐるオリジナル色の強い内容だった。小石川養生所を舞台にした赤面疱瘡(あかづらほうそう)との戦いとその苦い結末、そして世継ぎをめぐる吉宗自身の決意に至る過程が、より詳細に描かれていた。小石川養生所の漢方医・小川笙船(おがわ・しょうせん)を演じた片桐はいりは、今更言うまでもないが見事な演技だった。※写真はイメージその無骨な誠実さは、男女逆転の社会という設定そのものすら忘れさせるような、最初からこういう人物だったのではないかという力強さに満ちている。そして一度はこれというものを見つけながら結局特効薬ではなかった落胆から立ち上がり、新たな学問に挑む進吉の清々しさも、中島裕翔の持ち味である素直な演技とシンクロした躍動感があった。行政・現場一体となって尽力しても伝染病を克服することが出来ず、苦い負け戦となったことを認めたその時、吉宗は苦悩しながら呟く。「滅びぬ道はどこにあるのか」と。この一連に、昨今のコロナ禍と同時に、現代のこの国の少子化を重ね合わせて見た視聴者も多かったのではないかと思う。今作の脚本家の森下佳子は、2022年放送のテレビドラマ『ファーストペンギン!』(日本テレビ系)でも、減衰していく日本の水産業をめぐる問題を地方の過疎に絡めて描いていた。かなさんが書く『ファーストペンギン!』のコラムはこちらそれは、今この場をしのぐことを最優先に考えている層と、多少の失敗や損失を織り込んででも未来に向けて改革の種をまくべきと考える層の、対立と対話を描くドラマだったが、その流れは今作にも引き継がれている。男子の人口が増えないという緩やかな滅びの道を打開する為に、進吉と吉宗は鎖国という国防上の要素を織り込んだ上で、それでも蘭学を学ぶべきだと判断を下す。そして暗愚と噂される長女と見るからに賢くて美しい次女、揺れる評価の中で吉宗が次の将軍にと決めたのは、身体が不自由な為に周囲から軽んじられている長女の家重だった。生まれつき身体が不自由で言葉が明瞭に話せず、排泄にも時折難が生じるほどだが、将棋に長けており思考能力は高いという難役に挑むのは三浦透子。※写真はイメージ演技力は折り紙付きとはいえ、果たしてこの役はどうなるかと思っていたが、どこまでも杞憂だった。美男を侍らせ酒に溺れている登場の最初の瞬間から目を離せない存在感を放ち、知性はあるのにそれを言葉に出来ず、他者からは侮られてひたすらに鬱屈する女の苦しみを表現してみせた。不自由な身体を抱え鬱々と生きながら、それでも自分の人生は他者の為に使いたいと心の中で願う娘に、希代の名君と褒め称えられる母は、将軍になる覚悟はあるかと問う。「己の無力と向き合わされ、投げ出すことも許されず、時として世の恨みまで買う。将軍とは、真のところ左様な役回りじゃ」思えば、吉宗にとって久通の言葉は少なからず重みがあると知った上で、加納久通は最後まで娘の中で誰が将軍に相応しいという名指しはしなかった。吉宗に直接問われ、答えず「頑固だのう」と苦笑いされながらも、名指しは拒んでいた。それは、将軍として国を背負う凍るような孤独を、その果てしない重さを、一度でも自分で背負った者だけが、重みを託すに足る誰かを知るだろうという久通なりの『一線』だったのではないかと思う。滅びぬ道への舵取りは、弱いものの苦しみを知り、思い通りにならない政(まつりごと)の苦しみに耐えうる女に託された。幼い吉宗が呟いた「五万石ほどの大名にでもなれれば、そなたの忠義に報いることが出来るのに」と、鬱屈した家重が泣いた「役に立たないのなら死にたい」という嘆きは、母と娘の表裏の一枚だったのである。※写真はイメージ先月下旬、このドラマ10『大奥』の2期の制作が発表された。||◤ ◥|| #大奥 速報||◣ ◢|| #ドラマ10大奥 SEASON2医療編/幕末編が…2023年秋に放送決定!そして吉宗編(今クール)は第10回までの放送となります。引き続き『ドラマ10大奥』をよろしくお願いいたします pic.twitter.com/zssCwURjG5 — ドラマ10「大奥」 (@nhk_oooku) February 21, 2023 美しく、時に哀しく、胸に迫るこの物語に、秋以降再び会えることを大変喜ばしく思う。それでも次回、1期の最終回は冨永愛が演じる吉宗の幕引きになるのかと思うと今から寂しいが、最後までその凜とした姿を目に焼き付けたいと思う。ドラマコラムの一覧はこちら[文・構成/grape編集部]かなTwitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している。⇒ かなさんのコラムはこちら
2023年03月10日Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。2023年1月スタートのテレビドラマ『大奥』(NHK)の見どころを連載していきます。かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。執着のなさというものは、はた目には爽快でもあるけれど、もしも自分に近しい人がそうならば、結構寂しいものかもしれない。世継ぎさえ出来れば相手は誰でもいいと言う女将軍に、それではまるっきり男たちは種馬扱いではないか、情がなさすぎると憤りの言葉を述べる大奥総取締・藤波(片岡愛之助)の言葉を聞いてそう思った。正統な世継ぎが得られなければ国が壊れるという切迫のあった家光の時代、大奥は『牢獄』だった。牢獄で少しでも人らしい生き様を求めた結果が、大奥総取締という地位を通じた緩やかな管理と花鳥風月を愛でる華美だった。だが徳川の世が安定した結果、次第に大奥は牢獄ではなくなり、一方で華美は肥大し、ついには政権維持の為に華美を切り捨てようとする時がくる。まるで一つの目的をめぐって形を変える流水のようで興味深い。同時に藤波が語る『情』とは、人はパンのみで生きるにあらずという意味で、文化・芸能を暗喩するものであろうし、実利だけを追及して切り捨てがちなその部分を安易に軽んじないでほしいという作り手の切なる主張にも思える。(藤波が暇乞いを申し出るこの場面は、原作にはないドラマのオリジナルである)それを伝統芸能の歌舞伎役者たる片岡愛之助が、セリフとして語る堂々たる説得力にはしびれた。※写真はイメージ今週8話から物語は冒頭の吉宗の時代に戻り、原作にオリジナル色を濃く加えたものになっている。加えられているのは、先の吉宗と藤波のやりとりであり、そして大岡忠相(MEGUMI)をブレーンに加えて吉宗が公共政策に奔走する様子であり、御半下から中臈(ちゅうろう)に出世する杉下(風間俊介)の有能さであり、そして原作では大奥から下がらせた後の描写は殆どなかった水野(中島裕翔)が、薬種問屋の若旦那・進吉として再登場する。当初は単純に質素倹約ぶりを吉宗に見込まれて出世する杉下だが、次第にその細やかな気配りで吉宗の右腕のような存在になっていく。面倒くさがってお腹の子の父親を決めない吉宗を当初は『稽古』と誤魔化して呼び出し、なおも渋れば、決めないことが逆に陰謀や政争を呼ぶと理論的に説明する。最終的に開けっぴろげに「ならばいっそ正々堂々胸三寸いたしましょう」と吉宗好みの煽りで父親問題を決着に導く。自分は人の機微が分からぬと悩む吉宗には、媚びることなく、人は欠けているからこそ愛おしいもので、持てるもので補い合えばいいと淡々と語りかける。孤独に落ちて心を閉ざすか、足りないものは誰かで補えばいいと思い直せるか、それはどんな組織においてもリーダーとしての分水嶺だと思う。※写真はイメージ長いキャリアの中、複雑な役の経験も時代劇の経験も豊富な風間俊介演じる杉下の言葉は、ストレートに私たちの心に落ちてくるものだった。優れたリーダーの資質を持った1人と、様々な才能を持った人間が結びついて力を発揮することで、組織は、ひいては社会は変革していく。思えば、家光が初めて女の将軍としてお目見えをした時には、自らを滅びを覚悟した国の人柱であると悲壮な決意で明言していた。数十年の時代を経て、今、女将軍は国を蝕む業病や貧困に立ち向かうべく忠臣達の力を借りて尽力している。時の流れは、数えきれぬ人々の悲哀や無常を巻き込みながら、それでも長い時を経て、世の中は少しずつ良い方向に向かっていく。それは時に容赦の無い厳しい死生観を織り込みながら、その上で人の善を信じて描く森下佳子の脚本の真骨頂であると思う。※写真はイメージ今回の8話は、これまでの重い色調の物語から一転して、明るく開放的でもあった。町中にお忍びでやってくる貴人、慎ましく清廉に生きている市井の賢者と、そこで起こる事件。明かされる貴人の身分と、スピーディで爽快な事件の解決。まさに古き良き時代劇へのリスペクトに溢れ、その楽しさを満喫できる回だった。※写真はイメージそして、町人として再び吉宗の為に奔走する進吉を演じる中島裕翔の清々しさがやはり嬉しい。月代姿の横顔も、町人らしいべらんめえ口調も、ちょっととんちきな女装姿も、どこかしら品があるのが良いと思う。賢明で開放的で心身ともにタフだが人の機微にはちょっと疎い、魅力的な女将軍がほんの僅かに執着を見せた男は、とても純粋で、彼女以上に人の言葉の機微には疎いのだった。望めば何でも手に入るのに、そこで執着せずに淡い笑顔ひとつで、すっと引いてしまう吉宗の姿がほろ苦く愛おしかった。嬉しいことに第2期までの制作が発表されたドラマ10『大奥』だが、今期は全10話、あと2話である。オリジナルのエピソードとして、先が見えない伏線もまだある。最後の盛り上がりを楽しみに見守りたい。ドラマコラムの一覧はこちら[文・構成/grape編集部]かなTwitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している。⇒ かなさんのコラムはこちら[文・構成/grape編集部]
2023年03月03日Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。2023年1月スタートのテレビドラマ『大奥』(NHK)の見どころを連載していきます。かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。溺れかけては浮きを繰り返す苦しい一生だとしても、女将軍は幸せだったのだと願いたい。若さの怖いもの知らずで、努力すれば何もかも手に入れられると思っていた人生が、懸命に生きて中年期に入って振り返れば、家庭も仕事も人望も、願っていたものの多くは手のひらからこぼれ落ちていた。自身の身体の衰えに直面しながら、目の前には更に衰えて暮らしのおぼつかない親がいる。これは誰の人生か。綱吉(仲里依紗)と名乗った女だけではない、誰の身にもおぼえのある、私たちの人生ではないのか。ドラマ『大奥』を盛り上げる役者陣圧巻の綱吉編の完結だった。まずは性的なシーンの描き方も含め、あらゆる点で映像表現が難しかったであろうこの章を、原作のエッセンスを汲み上げ、華麗な映像として完成させた俳優陣と制作に惜しみなく拍手を贈りたい。幼少期の回想から続いて綱吉が「月のものなど、もうとうに来ておらぬわ」と力なく呟く場面は原作屈指の名場面だが、今回ドラマ化ではそれを綱吉が父・桂昌院(竜雷太)に直接告げ、桂昌院はそれを理解出来ず更に子作りを綱吉に望むという、恐怖すら感じる場面にしていた。それは人生の大半を大奥で閉じ込められて生きてきた桂昌院の無知なのか、それとも直系の世継ぎが得られないという絶望を受け入れ難い無理解なのかは分からない。そして綱吉は父の言葉にそれ以上反論はしない。側用人の柳沢吉保(倉科カナ)もまた、綱吉の悲しみを汲むように黙っている。老父の哀れな誤解をそのままにしたのは、絶とうとしても絶ちきれない娘としての愛着でもあり、諦めと深い絶望でもあるのだと思う。愛なのか執着なのか、自身でも割り切れない感情を抱えて、もがきながら人は生きていく。※写真はイメージそんな女の人生の終盤に、二つの転機が訪れる。一つは互いにとって意図せぬもので、家督を継ぐ見込みのない紀州徳川家の三女、信(のぶ)。身を飾り女として魅力的に見せる必要を感じないと言う大胆な少女は本人も意図せぬまま、初老の女のがんじがらめの人生に多様性という風穴をあける。自分は美男に興味がないから、美女に興味のない男もいるだろうという少女の発想に驚きながら、その愉快さに綱吉は笑いころげる。それはこの風穴が自分を救うなにかであったという直感と、同時に「もっと早くこう考えられていれば」という痛恨に見えた。そして赤穂浪士の討ち入りを契機に民衆からの支持を失い、跡継ぎ問題も解決しないまま自らの生きる意義を見失う綱吉に、右衛門佐(山本耕史)は生きていくということの意味を、体と魂すべてをかけて説く。「生きるということは、女と男ということは、ただ女の腹に種をつけ子孫を残し、命を繋いでいくことだけではありますまい!」それは自らを「種なし」と自嘲し、家光と男女として添うことを断念した有功の悲しみを、時代を経て昇華するものであり、同時にその悲哀を抱え込んだ桂昌院が縛り付けた娘、綱吉を解放するものだった。前回の、一度は抱きしめながらも離れた心の揺れも、今回の激情が溢れ出す情熱的な抱擁も、仲里依紗と山本耕史、円熟期を迎えつつある俳優の体温と深みのある演技はさすがの見応えだった。※写真はイメージ右衛門佐の愛を得て、父の呪縛から解放された綱吉は父の意思に反して次の将軍を決め、ようやく真に自分の人生を選び取るが、その自由と引き換えるように待っていたのは右衛門佐との死別だった。それでも、綱吉は幸福だったと思いたい。老いて病に苦しみ、朦朧とするその時に、愛した男が迎えにくる夢が見られるならば、その人生は幸福だったと思いたい。そして「佐が迎えに来たと思った(原作にはないドラマのオリジナルの表現)」と苦しい息で語る綱吉に、最後に最も純粋で残酷な愛情を捧げたのは柳沢吉保だった。泣きながら綱吉を死なせようとする倉科カナの長い独白は、まさに圧巻の一言である。その瞬間に彼女の心によぎったのは、ただ一夜の愛で綱吉の心を奪っていった男への嫉妬だったのか、報われぬ哀しみであったか、それとも今死なせればこの人は幸せに逝くだろうという慈愛であったか。いずれにせよ、やはり人の心はそう簡単に切り分けられなどしないだろう。原作では、窒息しこときれる瞬間に綱吉の脳裏に浮かぶのは右衛門佐である。きっと右衛門佐は、綱吉のもとに迎えに来たと思う。※写真はイメージ人として望まれたことを何一つ成せなかったと嘆いた綱吉は、しかし自分でも気づかぬ間に次世代への種をまいた。本来なら自身の領地を持つはずのなかった風変わりで賢い少女に領地を与え、マネジメントの機会を持たせ、為政者として最初のレールに乗せたのである。綱吉編が終わり、次回から再び物語は吉宗(冨永愛)の時代に戻る。予告からはオリジナルの要素が多くなっているように予想され、またあの魅力的な吉宗の姿を見られると思うと心が躍る。ドラマコラムの一覧はこちら[文・構成/grape編集部]かなTwitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している。⇒ かなさんのコラムはこちら
2023年02月27日Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。2023年1月スタートのテレビドラマ『大奥』(NHK)の見どころを連載していきます。かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。漠然とした悲しみや痛みが、一つの言葉にまとまった途端に輪郭を持って刃に変わる。NHKドラマ10『大奥』6話。周囲には奔放で性愛を愉しんでいるかに見えていた女将軍が、自嘲しながら吐き出した「そうか。これは辱めであったか」という言葉。周囲から「上様、上様」と持ち上げられながらも、苦しみもがいて生きていた彼女の痛切さを表すのに、小さくてもこれ以上に鋭い刃があるだろうか。これは原作にない、ドラマ化にあたって付け加えられた一言である。コミックの映像化だから、時には原作通りには書けないことも、そして時間の制約や流れで入れられないエピソードもある。けれど、この鋭い一言は、ドラマの作り手が原作の一番大切な部分を深く汲み上げて、誠実に作りあげているということを如実に示すセリフだと思った。※写真はイメージ男子のみがかかる伝染病のために女性が政治と労働を担い、体制変革を経て、既に戦乱の世が数十年前に遠くなった元禄の時代。女将軍の綱吉(仲里依紗)は享楽的な日々を繰り返し、大奥には野心を秘めた公家の右衛門佐(山本耕史)がやってくる。自らの自由の為に権力を求める右衛門佐は、巧妙に綱吉と駆け引きを繰り返し、大奥総取締役の地位を手に入れるのだった。6話では、これまでただ退廃的に見えた綱吉の秘めた苦しみが次第に明らかになる。阿佐ヶ谷姉妹演じる町人達の「お世継ぎがないんだったら親戚の子でももらってくればいいじゃないか」という言葉が、是が非でも直系の血筋で戦乱の芽を摘まねばならないという切迫感の薄れた社会を端的に表していた。そんな社会で、縋るように過去の価値観のままの父・桂昌院(竜雷太)の盲愛と、自身の聡明さの間で綱吉は板挟みになっている。さらに、その危ういバランスは、跡継ぎ娘・松姫の病死で完全に崩れてしまう。自分の手で側室を差配し、大奥を意のままにしようと目論む右衛門佐を「そなたの命など、わたしの心一つじゃ。騙されてやっておるうちが華と思えよ、佐」と厳しく牽制し、主君としてのカリスマ性を見せつけながらも、老いた父の罪悪感に端を発した愚かな政策を、娘として拒みきれない姿が痛々しい。右衛門佐をりつけてから一転、艶然と微笑む仲里依紗と、圧倒されて黙り込む山本耕史のこのシーンは非常に見応えがある。この部分も、生類憐れみの令を求めて桂昌院が駆け込んで来た時に綱吉が学んでいた書物がうち捨てられる部分も、ドラマで追加されたエピソードで効果的な演出だと思う。※写真はイメージ衣食住は満ちている、地位の高い女として大事に扱われている。それなのに、知性よりも前に女としての魅力を求められ、それをくだらないと思いつつも、それでもその価値観から逃げきれない。これは現代でも私たちが見ている何かだという、ぞわっとした感覚があった。次の世継ぎを求めて若い男たちを誘い、毎夜華やかに装う綱吉の姿が美しいほど、冷え冷えとした空しさが画面に満ちていく。そうして自身の内面をぼろぼろに傷つけ、耐え続けた果てが「そうか。これは辱めであったか」という彼女の慟哭(どうこく)であり、「将軍とはな、岡場所で身体を売る男達より卑しい、この国で一番卑しい女のことじゃ」という叫びなのである。それは、どんなに高い地位の人間でも、自分でそれを選んだように見えても、生身の人間が自身の性とそれにまつわる事柄を他人から暴かれ、その結果を勝手に評価されることは、暴力であり、不可逆の被害なのだという強烈な告発である。転じて、それらの目線が持つ加害性の指摘でもあり、私たちはその激しさに息をのむ。※写真はイメージ綱吉が初めて見せる苦しみに、互いの心を通じ合わせたかに見える右衛門佐と綱吉だが、綱吉の苦しみを知ってしまったがゆえに、右衛門佐はもはや彼女との性愛には踏み込めなくなってしまう。この切ない成熟した大人ふたりの愛はどのような結末になるのか。そして原作の通りなら、この先も綱吉にはいくつかの無情な運命がふりかかる。仲里依紗と山本耕史の2人が、どんな深みのある愛を表現してくれるのか、楽しみに待ちたい。なお、6話放送直前に、今作の広報から「NHKドラマとしては初めてインティマシー・コーディネーターを採用して作られている」という旨がアナウンスされている。インティマシー・コーディネーターとは、演技やメンタルケア、性についての専門知識を持ち、俳優の心身をケアしながら性的シーンの撮影に関わる調整役のスタッフである。 #大奥の舞台裏 #大奥 ではNHKで初めて #インティマシー・コーディネーター を導入しました。ヌードやキス、セックスなどインティマシー(親密な)シーンにおいて、制作側の意図を十分に理解した上でそれを的確に俳優に伝え、演じる俳優を身体的・精神的に守りサポートする役割の方です。— ドラマ10「大奥」 (@nhk_oooku) February 13, 2023 今回の大奥のエピソードほど、インティマシー・コーディネーターの存在を得て撮影されたことが、物語の説得力を増す内容はないと思う。演じる側の不安や不快を少しでも減らしていくことが、同時に見る側の私たちの「この撮影、俳優は大丈夫だったのか」という懸念を減らし、より深く物語に没入させてくれる。NHKのこの取り組みに、大きな拍手を送りたい。ドラマコラムの一覧はこちら[文・構成/grape編集部]かなTwitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している。⇒ かなさんのコラムはこちら
2023年02月17日Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。2023年1月スタートのテレビドラマ『大奥』(NHK)の見どころを連載していきます。かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。名を奪われた女(家光)と、望む未来を捨ててその女に寄り添った男(有功)。互いに小さな焚火のような尊厳を守りあい、愛し合った男女に死別のときが訪れた。ともに太平の世を守るために苦悶の人生を耐えて生きたけれども、世代がぐるりと回った時、そうして守りたかったものの記憶は自身の子孫でも、社会でも薄れていく。史実から考えると、およそ30年強。価値観が変わっていくのにその時間は長いか短いか。でも思えば、私たちも親や祖父母の語る苦労でさえ、どこかふわふわと実感を伴わないものだ。江戸、太平の華やかな時代に、漂うように退廃をまとわせて現れた将軍・綱吉(仲里依紗)の姿にそんなことを思う。ドラマ『大奥』のオリジナルのシーンも男子だけが罹る伝染病で、人口の男女比が不均衡になった架空の江戸時代。三代将軍家光を伝染病で失った春日局(斉藤由貴)は、その唯一の落胤(らくいん)である少女(堀田真由)を拉致してきて家光の身代わりとし、正統な血筋の世継ぎを産ませようと画策する。頑なに子供を産むことを拒む少女に春日局が引き合わせたのは、公家出身の僧侶・万里小路有功(福士蒼汰)だった。望まぬ還俗を強いられ、未来を奪われてもなお慈悲深さを失わない有功との日々で家光は愛情と安らぎを得るが、二人の間に子は出来ず、やむなく家光は他の男との間で子を産む。だが、出産の為に他のどの男と関係を持とうが心は有功にある家光と、愛する女が他の男に抱かれる苦しみから逃れられない有功との間には、細くても埋まることのない悲しい溝が出来てしまっていた。※写真はイメージ死の間際、家光が有功に頼んで身体を寄せ合う場面、そして本当の名前を呼んでほしいと家光がせがむセリフは原作にない、ドラマのオリジナルである。名は人が生きていく尊厳の最後の砦であり、悲しい運命の女将軍はそれを有功の存在で守り通したのだと分かる、素晴らしいシーンだった。「千恵様」と万感の想いを込めた福士蒼汰の表情と声にこみ上げるものがあり、更にそれに「…うん」と小さく頷く堀田真由が、出会った頃のように性別を越えた無垢な笑顔で頷くのを見ていて、思わず声と涙をこらえきれなくなった。※写真はイメージ悲しい人生だが確かな幸せもあったのだと伝わってくる。春日局が有功に還俗を強い『仏をさらった』、その時に望んだ『上様こそこの世で最も救われねばならないひと』という願いを、有功は果たしたのである。ドラマの有功はより人間らしさが溢れていたし、春日局の深みのある烈女ぶりも見事だった。そして、玉栄を演じた奥智哉の愛嬌とバイタリティもまた印象深い。この玉栄の可愛らしさが私たちの記憶に残れば残るほどに、綱吉編は業の深い、やるせないものになるだろう。かくして、家光の死から物語は一気に五代将軍綱吉の時代にとぶ。戦乱の世は遠のき、大奥は絢爛豪華になり、そして江戸の町では庶民が芸能や食事を楽しんでおり、これぞ我々がイメージする『大奥』の世界という高揚感に満ちている。御鈴廊下、しずしずと女将軍に付き従う極彩色の衣装に身を包んだ御台所や御中﨟たち。その中で、権力、美貌、跡継ぎの娘、腹心の部下、世に人が望む全てを持っているかのように見える女将軍・綱吉は倦怠にうんざりしている。大奥での房事に飽き飽きしている綱吉は、かつての愛人で、今は重臣・牧野の夫になっている男を目の前で奪いとり、更に息子まで大奥に召し出して奪ってしまう。奔放な女将軍の欲望で牧野の一家は崩壊し、綱吉の元から去ってしまうが、綱吉には罪悪感の欠片もない。興味深いのは、原作ではここで「成貞は優しうてお母上のようで私は大好きであったに」と綱吉は心底悲しそうに呟くのである。不可解な価値観にも見えるが、もしも貞淑であることが美徳であると教え込まれるのと同じくらいに、性に奔放で貪欲であることが彼女にとってある種の勤めであり、美徳であると教えられて生きれば、そういうことになるのかもしれないとも思うのだった。エピソードを通して、エロスはふんだんにあるがロマンスは見えにくい、怜悧(れいり)だが同じくらい強引な女将軍綱吉は、演じるにあたってもリスクの高い難役だろうと思う。その高い山に挑むのに、怪女優・仲里依紗ほど適任の俳優はいないだろう。早くも京都からやってきた御中﨟(おちゅうろう)の右衛門佐を値踏みするねっとりした視線にはゾクゾクさせられる。その視線を受けるのは『信用ならない男』を演じたら当代随一の山本耕史で、NHK大河や時代劇の常連でもあり、所作の自然な美しさはさすがである。綱吉編は、大奥らしさ全開の政争や情念の駆け引きも楽しく、同時に史実や、赤穂浪士といった歴史上有名なエピソードと物語の縫い合わせ具合が絶妙で、それもまた楽しみな見所といえるだろう。ドラマコラムの一覧はこちら[文・構成/grape編集部]かなTwitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している。⇒ かなさんのコラムはこちら
2023年02月10日ドラマ好きなイラストレーター、ゆう。(@yamapyou)さんによるドラマコラム。ゆう。さんがピックアップした人気作を、キャスト、ストーリー、脚本家などから語っていきます!門脇麦が主演する連続ドラマ『リバーサルオーケストラ』(日本テレビ系)の第4話が、2023年2月1日に放送された。本作は、『元天才バイオリニスト』の谷岡初音(門脇麦)が、Sキャラな指揮者、常葉朝陽(田中圭)と共に、地元の『ポンコツオーケストラ』を立て直すため奮闘する物語である。門脇麦、田中圭、永山絢斗など豪華なキャストが並ぶ中、今SNSで話題となっているのが坂東龍汰演じるフルート首席・庄司蒼である。子犬系男子!坂東龍汰の魅力可愛らしい顔でどこか守ってあげたくなるような、うるうるとした瞳を持つ子犬系男子・坂東龍汰。『にぶんのいち夫婦』(テレビ東京)、『真犯人フラグ』(日本テレビ)、『ユニコーンに乗って』(TBS)など、近年話題作に引っ張りだこの俳優である。演じるジャンルはバラバラで、この若さでこんなにも幅色い演技ができるのか、いつ見ても「坂東龍汰くん?あのドラマと同じ人が演じてるの?」と思ってしまうほどキャラクターの演じわけが上手い。人妻を口説く可愛い年下ホストであったり、無口で怪しい従業員だったりと、キャラクターはバラバラだが、どれもハマっていて見入ってしまうのである。陽なキャラクターも陰キャラクターも演じることができるのが、彼の素晴らしさだ。優しい笑顔を持つ反面、無表情で闇を感じる表情も上手い。これからも幅広い役を演じてくれることを期待している。第4話で見せた蒼の優しさにキュンまた、先述した坂東龍汰が演じるフルート首席・庄司蒼が今SNSで話題沸騰中なのである。その人気の理由は、優しくて守ってあげたくなるような蒼の魅力にあった。蒼は、音楽という夢を追い続けるため、工事現場など複数のアルバイトを掛け持ちしていた。しかし、経済的にも苦しい中、父の病気が発覚したことで音楽の道を諦めることを考えていた。最終的に初音(門脇)らの説得で、音楽を続けることを決心したのだが、3話以降の蒼は、これまで以上に音楽に身が入り、団員との信頼関係ができたこと、心に余裕ができたことが現れるかのように優しくて頼りになる面が増えている。一人で抱え込もうとする初音に、「全部一人で何とかしようって思わないでくださいね。必要なときは頼ってください」と声をかけるシーンにキュンと来た視聴者は多いだろう。また、初音がトラウマとしている曲を選んだ朝陽に対して、蒼は「あなたのやること全部おかしいっすよ」「初音さんの過去を知っていて『チャイコン』選んだんじゃないですか?それ追い詰めるだけじゃないっすか!」と抗議。どんどんかっこよくなる蒼に、これからも注目していきたい!楽器と音楽のマッチがすごいさて、キャストの魅力をお伝えしたが、このドラマの最大の魅力はやはり、楽器の演奏と音楽である。第4話では、ビオラのみどり(濱田マリ)が受験中の娘のために休団を決意する。なんとかしたい初音たちはみどりを出張オーケストラに参加させた。サプライズで到着した先はみどりの娘が通う高校だった。出張オーケストラで大勢の高校生たちの目の前で演奏されたのは緑黄色社会の『Mela!』。オーケストラの勢いと青春の音楽がマッチし、まるで映画のような感動的なワンシーンとなった。みどりの娘が感銘を受ける表情に涙してしまった視聴者も多いはず。音楽は人の心を動かすことができると感じさせられた素晴らしい第4話であった。本作は、豪華キャストが楽器を演奏する姿もとても美しく、見入ってしまうので、音楽や楽器についても今後とも是非注目してほしい。[文・構成/grape編集部]
2023年02月08日Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。2023年1月スタートのテレビドラマ『大奥』(NHK)の見どころを連載していきます。かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。NHKドラマ10『大奥』(火曜22時)の原作、よしながふみの同名漫画は2021年の日本SF大賞を受賞している。時代劇がSFというカテゴリであることに一瞬不思議な気持ちになるが、SFの『科学的な空想に基づいたフィクションである』という説明に基づくなら、男子のみが罹る架空の伝染病が起点となるこの作品は、まぎれもなくSFだ。大きな虚構で読者や視聴者をしっかり包み込むためには、細部のリアリティこそが必須だ。今回4話目、つまり一人の名を奪われた女が、男の偽物ではなく女として将軍の名を継ごうと立ち上がる場面は、この大奥という物語の世界観が成立するための物語の最重要場面である。どんな描き方になるか、楽しみであり少し不安でもあったが、杞憂だった。※写真はイメージもしもおとぎ話なら、不幸な姫と優しい王子が出会い、愛し合うことで物語はめでたしめでたしで終わる。この物語でも、将軍の落し胤(おとしだね)として子供を産むことを強いられた女・家光(堀田真由)と、聖職者として望んでいた未来をくじかれた失意の青年・万里小路有功(福士蒼汰)は出会い、恋に落ちる。しかし物語はその先も残酷に続いていく。深く愛し合いながらも二人は子に恵まれず、徳川政権を維持するため、この国を戦乱の世に戻してはならないという過酷な判断のもとに、家光は有功以外の男を相手にせねばならなくなる。※写真はイメージいずれ共に死のうと誓うほどに互いを想い合う激しい愛情から、他の側室との間に子をなして母になる家光と、ただそれを見守って生きるしかない有功の対比が鮮やかで残酷だ。別離を告げる場面での「死ね、お前など死ね」と激する堀田真由の表情も素晴らしいし、「では…殺して下され」と応える福士蒼汰の、たっぷりと間合いをとった表情のグラデーションは見応え抜群である。しかし母となり政務もこなすようになる家光が、内面に強い芯が出来て愛情も覚悟も揺るぎないものになるのに比べて、有功は悲痛なまでに不安定だ。原作でも有功は柔和な人物だが、今回のドラマ版の有功は、優しい上に体温のある人間くささがあって、それがとても良いと思う。嫉妬に苦しみながらも廊下側には切りつけられない苦悩は原作でも描かれるが、有功をけなげに抱きしめる玉栄(奥智哉哉)とその胸ですすり泣く有功は、ドラマのオリジナルである。※写真はイメージその上で、有功が聖職者になろうとしていた青年であること、その素養が大奥での暮らしでも損なわれずに内面に残っていることがドラマでは繰り返し描かれている。ただひとり、愛する女への純粋な愛情と嫉妬の間で不安定に揺れ続ける有功の人生は、他人のケアをすることで、利他という杖を得てようやく安定する。そして病に倒れた春日局(斉藤由貴)の最後の懺悔を聞き、彼女の秘めた悔いも詫びも引き取って看取るのである。懺悔の中で春日局が呟く「あの日わしは、仏をさらってきたのじゃ」は原作にないセリフだが、このドラマの春日局の複雑で魅力ある人物像を端的に表現したものだと思う。誰よりも苛烈で誰よりも甘い。その春日局のありようを脚本は『母』だと表現する。より多数の幸福のために集団を維持し、時に個をすり潰すことすら良しとする苛烈さは女将軍の家光に。弱き者に手を差し伸べ、人が生きる苦しみに寄り添う慈愛は有功に。その二面性は、人が集団で生きていく社会の機能そのもののようだ。※写真はイメージ原作では江戸城の大奥の物語だけでなく、伝染病により変質していく市井の人々の生活が差し挟まれるように描かれ、それが男女の権力構造が逆転していく描写に独特のリアリティを与えている。ドラマでは描かないその部分をどう補うか。作り手は、残虐な時代を生き抜いた春日局の愛情と執念、そして母となった女将軍の、いずれ滅ぶとしても足掻いて子の世代に少しでもベターな社会を残したいと願う覚悟を描きこむことで、男女が逆転する大奥という『大いなる虚構』に説得力を持たせた。大奥という場所が今後どのように変転していくのか、そして家光と有功の愛はどのような決着になるのか。それは次回を待つことになる。そして次の将軍・綱吉の話が始まる。綱吉編は『大奥』というパブリックイメージに最も近い華やかなエピソードだと思う。くせ者揃いの配役といい、今から楽しみである。ドラマコラムの一覧はこちら[文・構成/grape編集部]かなTwitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している。⇒ かなさんのコラムはこちら
2023年02月03日恋愛ドラマが数多くある今期、中でも話題となっているのが金曜22時から放送中のドラマ、井上真央主演の『100万回 言えばよかった』だろう。幽霊が見える!?ファンタジーラブストーリー井上真央と佐藤健の恋愛ドラマかと思いきや、なんと佐藤健は『幽霊』だという衝撃の展開からスタートした本作。行方不明になった恋人が幽霊になってやってきた。ということはすでに直木(佐藤健)は亡くなっているのか…?唯一、幽霊となった直木と言葉を交わせるのが魚住譲(松山ケンイチ)。直木と悠依(井上真央)の間に入り、通訳をすることに。しかし、直木も言葉は交わせるが自身がどうなったのか記憶がない。初回は井上真央と佐藤健の仲睦まじいシーンに癒されながらも、サスペンス要素が非常に強く、少しずつ明らかになっていく殺人事件の真相から目が離せない。SNSでは様々な考察が飛び交い、盛り上がっている。松山ケンイチと佐藤健のコミカルなやりとりにキュンドラマの中でも視聴者が特に盛り上がっているのは幽霊の直木と魚住の会話シーンである。事件とミステリのシリアスな雰囲気の中に訪れるクスッと笑える時間がなんとも癒しだ。悠依と3人で対話するシーンでは、直木が「『結婚したい』って言うつもりだった」と漏らしたことに対して「それも俺が彼女に伝えるの?」と言わんばかりに困惑する魚住。「言わなくていい!」と返され、安心したかのように頷く松ケンは、とてもお茶目で可愛らしかった。また直木が会話の中では「悠依」と呼ぶにも関わらず、魚住が伝えるときは「あなた」と言い換えるのも、気遣いと少しの照れが混じっていて魚住のキャラクターに愛着が湧くのである。徐々に仲も深まりつつある二人の関係がこれから楽しみだ。もはや鉄板となった佐藤健の恋愛ドラマ若手俳優や人気アイドルが主演を張るなか、近年、佐藤健の恋愛ドラマが何かとヒットしている。『恋は続くよどこまでも』(TBS系)や、Netflix オリジナルドラマ『First Love 初恋』など、ドSな口調と少し恋愛不器用なキャラクターが佐藤健に絶妙にマッチしているのだ。33歳にして大人の色気と、笑った時のあどけなさ、好きな人を見つめる真剣な眼差しの演技は、やはり若手との大きな差だろう。大人の魅力を醸し出す佐藤健にこれからも魅了されたい。ラブストーリーなら最強の安達奈緒子脚本!ドラマファンの中で、安達奈緒子と言えばラブストーリーで有名な脚本家である。過去には『リッチマン、プアウーマン』(フジテレビ系)、『失恋ショコラティエ』(フジテレビ系)、『G線上のあなたと私』(TBS系)など、ヒット作を数多く生み出している。その特徴は、恋愛とお仕事、恋愛と友情、恋愛とサスペンスなど、彼女の脚本は恋愛と別ジャンルの掛け合わせが非常に上手い。しかも、どちらもかなりいいバランスで配合され、結果的にお仕事ドラマとしても100点、恋愛ドラマとしても100点といったような素晴らしい作品が仕上がるのだ。本作も同様、恋愛とサスペンスのバランスが非常に良い。恋人が行方不明になっているという主人公の状況は非常にシリアスなものだが、ドラマ自体重くなりすぎず、時にはコミカルなやりとりが挟まれているのも、視聴者が見やすい構図ができている。ドラマはキャストや主題歌も大事だが、面白くなりそうかどうかを判断するには脚本家が重要な判断材料となる。これはきっと面白くなる、第2話でそう感じた私の勘を是非とも信じてほしい。恋愛とサスペンスの融合、『100万回 言えばよかった』の今後の展開に期待したい。[文・構成/grape編集部]
2023年01月31日Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。2023年1月スタートのテレビドラマ『大奥』(NHK)の見どころを連載していきます。かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。よしながふみ原作の『大奥』1巻は、丸々一冊、導入としての吉宗編である。今回のドラマの初回同様に、爽快な展開かつ吉宗(冨永愛)の魅力的なキャラクターで一気に読者を引っ張り込む。だが2巻が刊行されて読んだ時、これは男女が逆転しているから視点が面白いとか、思考実験として刺激的だとか、そういう単純なものじゃないとぞわっとしたのを思い出す。これは閉塞された環境で引き起こされる人間のあらゆる業の物語で、現代に通じる普遍的な痛みと、その解放を模索する物語だと。今回のNHKドラマ10での『大奥』映像化もまた、その原作の持つ深みを裏切らない誠実さで製作されていることを3話で確信した。堀田真由の演技が光る前回の2話では万里小路有功を演じる福士蒼汰の魅力が特に光ったが、3話では堀田真由演じる家光の演技に目を奪われた。【『大奥』感想2話】福士蒼汰が演じる憂いの絶妙堀田真由といえばヒロインの友人であったり姉妹であったり、様々な役を出すぎず引きすぎず、きっちり演じる職人肌の女優というイメージがあった。だが今回、人生を奪われて、ただ血筋を残すための生を強いられている少女の哀しみを複雑な緩急をつけて演じきっている。男女の性別どちらもあるというよりも、どちらの色もない透明感で、1人の人間として尊厳を奪われたものの痛みと怒りに満ちていた。家光と有功のかわいがっていた猫の死を契機に、2人のひとときの穏やかな日々は一気に緊張感をはらむことになる。死んだ存在に対して経を唱え弔うことが、哀しみの淵から日常への回帰を促すと語る有功に、「これまで穏やかな日常など一度たりともなかった者には回帰する先などない」と少女は激する。自分に降りかかる理不尽な運命を他者への暴力に転化するより他に逃げ道を見いだせない少女に苛立ちながらも、有功もまた自分の中に理不尽な運命への怒りが消えずにあり、それが『八つ当たり』という形で共鳴を起こしたと自覚する。決別しようとする間際、少女の過酷な経験を知らされた有功は、彼女の壮絶な過去の痛みや怒りを包み込んで、この閉ざされた大奥という空間で共に生きることを選ぶのだった。※写真はイメージ今回、ごく狭い範囲に閉鎖されて、未来の選択を奪われた人々が、それぞれどんな形で逃避し、生きる道を選び取るのかが興味深い。家光の側室候補の男たちのように、序列にこだわり自分より弱い者を見下そうとする者。玉栄のように、大切な存在を守ろうと奔走して自らを奮い立たせる者。そして有功のように、慈愛と赦しで自分が今ここにある意味を求める者。少女の無理矢理切られた髪と奪われた本当の名前は、傷つけられた身体と魂の尊厳の象徴であった。彼女が奪われてしまった長い髪を自らが身につけ、似合わぬ姿を恥じずに晒すことで有功は彼女の心身の傷に共感しようとする。千恵という本当の名で呼びかけることで、彼女に尊厳の灯火をともす。互いの傷ついた魂を寄せ合い結ばれた2人を、その幸福な時間を今はただ見守っていたいと思う。今回の最後で春日局(斉藤由貴)が有功に宣告し、次回予告でも仄めかされた通りに、人の業をこれでもかと描きこむこの名作は、そんな「めでたしめでたし」を簡単には許してはくれないのだが。ちなみに終盤にちらりと出てくる吉宗と村瀬のやりとりで、村瀬が記録に書きこんだ「それは二羽の傷つき凍えた雛が、互いに身を寄せあうがごとき恋」の一文は、2人が固く抱擁しあう、原作全体を通しても名場面中の名場面の美しいト書きである。※写真はイメージ映像化にあたり、セリフとして差し込むことは難しくても、何とかどこかで視聴者に伝えたいと制作が願ってくれたものだと思う。今回のドラマ化にあたって、御右筆の村瀬(岡山天音)は、原作よりユーモラスで魅力的な人物として描かれている。「これでは記録というより読み物ではないか」とロマンチックな文章に半ば呆れる吉宗相手に、へへっと照れ笑いする老いた村瀬(石橋蓮司)の様子が岡山天音の若い村瀬に重なり、思わず笑ってしまった。世代も、本来なら容姿も違うはずの俳優ふたりが、ぴたりと一本の線に重なる妙味である。そんな村瀬老人を見ながら、閉鎖されて未来の見えない集団の中で自らを保ち生き抜く手段として「傍観して目前の物語を楽しみつくす」というのも、中々に有効な手段かもしれないな、と思うのだった。ドラマコラムの一覧はこちら[文・構成/grape編集部]かなTwitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している。⇒ かなさんのコラムはこちら
2023年01月27日広瀬すずと永瀬廉が出演する恋愛ドラマ『夕暮れに、手をつなぐ』が火曜からスタートした。爽やかで少し甘酸っぱい、そんな恋の予感がした初回。キャストと各シーンから紐解く、このドラマの見どころをお伝えしよう!『夕暮れに、手をつなぐ』音楽の使い方にも注目横断歩道でぶつかり、互いにイヤホンを落とすという漫画のような出会いから始まった浅葱空豆(広瀬すず)と海野音(永瀬廉)。音が振り返ると、嬉しそうに男性と去っていく空豆の後ろ姿が見えた。「運命の出会い、あっさり終了」そうつぶやく永瀬廉の優しい声が耳に残るのを、ヨルシカの『春泥棒』がかき消す。この出会いを『運命』と表現した音は、これから始まる何かを期待していたのかもしれない。これからどんな物語が始まるのか、映画のような美しい映像と、今時の音楽がマッチして、番組冒頭から本作に引き込まれた人も多いだろう。ヒットするドラマの法則は『音楽が良いこと』と聞いたことあるが、本作の音楽の使い方はとても美しく、初回からすでにヒットの予感がしている。永瀬廉の演じる音の優しさに心惹かれる永瀬廉といえば、人気を博するグループ『King & Prince』のメンバーであり、近年は朝ドラ『おかえりモネ』(NHK)や『わげもん』(NHK)などさまざまなジャンルのドラマに引っ張りだこだ。子犬のような可愛らしさ、繊細さと、それでいて真剣な目つき、クールさも持ち合わせており、表情だけでもかなりバリエーションが広い。かっこいい見た目とはギャップのある優しい声もまた魅力の一つだろう。本作では、どこか頼りなさも感じるのに、困っている人を放っておけない、そんな優しさが、絶妙に声にマッチしていた。婚約者に振られた空豆にジュースを奢ってあげたり、絶対に修羅場になるであろう元婚約者の家に一緒についていってあげたり、「さすがに人が良すぎる…!」という面が多々見えた。空豆との会話で、「あまり人を好きにならないみたい」と話す音。その言葉の裏には、これまでの人生、まだこれといった大恋愛も失恋もしていない、という、どこか寂しさと味気なさも感じた。作曲家として、作品を生み出すには、まだ自分の人生に深みがないことをわかっているのだろう。その純粋さが、このドラマの真意に違いない。また、2022年に放送された清原果耶主演の『ファイトソング』(TBS系)というドラマを思い出した。恋愛をすることで、間宮祥太朗演じる芦田はいい曲を生み出すことができたのである。最後にいい曲を作ることができるのか、二人の恋愛と共に音のアーティストとしての成長も楽しみである。純愛が求められる今、北川悦吏子脚本に期待!このドラマの脚本は北川悦吏子氏。『オレンジデイズ』(TBS系)や『半分、青い。』(NHK)など時代にあったヒット作を数多く生み出している。彼女の作品は、メッセージ性と共感性が強く、本作でも大恋愛をしていた空豆と、恋愛経験の少ない音が対照的に描かれている。振られて感情的になる空豆も、うっかり見栄を張って嘘をついてしまう音も、なんだか共感できてしまうのだ。さらに本作は完全オリジナルということで原作が存在しない。『夕暮れに、手をつなぐ』というタイトルの意味も、今後の展開もまったく予想できないのである。最近は不倫のようなドロドロしたドラマより、『silent』(フジテレビ系)や、Netflixオリジナルドラマの『First Love 初恋』など、純愛を貫くドラマがヒットを打っている。高校生からの恋愛が実ったり、手を繋ぐ、初めてキスをする、そんなシーンですら初々しくてキュンとするような作品ばかりだ。「自分もこんな時期があったな…」と懐かしさや照れ臭さを感じさせることがあるだろう。『夕暮れに、手をつなぐ』このタイトルは、そんな純粋さを表しているのかもしれないと思う。これから始まる純愛ラブストーリーに期待である。[文・構成/grape編集部]
2023年01月25日Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。2023年1月スタートのテレビドラマ『大奥』(NHK)の見どころを連載していきます。かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。福士蒼汰の声が好きだ。いや、もちろん声だけじゃない。容姿も演技もいい。でもやっぱり、彼特有の湿度のある濡れた声には聞き惚れる。そして少しダークな役だとその湿度が活きると思う。最近では、『DIVER-組対潜入班-』(フジテレビ系)のダークな役には見とれた。そして個人的に好きなのが、NHK時代劇『明治開化 新十郎探偵帖』での探偵役である。明治維新、洋装と和装が混ざりあう時代の名探偵という斬新な役にリアリティを持たせていた。だからこそNHKドラマ10『大奥』の配役が発表になったとき、正直彼ではお万の方、つまり万里小路有功としては少し堅いんじゃないかなと思っていた。原作の有功は、登場時は線の細い、女性と見まごうほどの美形の僧である。だがその印象は、初回の冨永愛の吉宗同様に、良い方向に裏切られた。【『大奥』感想1話】冨永愛の鮮烈さと中島裕翔の純粋さが奏でる極上の協奏曲NHKドラマ10『大奥』の、よしながふみの原作は、大奥が作られた家光以降徳川幕府の時代を貫徹しつつも、大まかにいくつかのパートがある。主要人物はパートを超えて時に重なり入れ替わりながらストーリーが進行していく(おそらく原作ファンの多くには、どのパートが一番好きかという語りつくせぬ作品愛があると思う)。中でも「なぜ男女逆転の大奥になったのか」を描く家光編は、愛と重苦しさと痛みをたたえた長いパートである。この物語の中では、男子のみが罹る奇病の流行で国内の男子の人口が減り続ける中、三代将軍・家光もその病で死んでしまう。西日本では奇病が本格的に流行していない今、幕府が揺らぐことが再び戦乱の原因となりうると危惧した春日局(斉藤由貴)と幕閣たちは、将軍の死を秘密裏にしたまま、家光の唯一の落胤である市井の少女(堀田真由)に世継ぎを産ませて繋ごうと画策する。理不尽な運命に抗い、頑なに出産を拒む少女の心を惹くべく白羽の矢が立ったのは、衆生を救いたいと願い公家から僧となった美しい青年、慶光院の院主・万里小路有功だった。※写真はイメージその院主を演じる福士蒼汰は、柔和な物腰も京ことばも見事にはまっていたが、何より原作の有功らしさを感じさせるのは、他者の人生の痛みや理不尽を思いやる瞬間の何ともいえない憂いである。原作にないドラマのみの場面として、有功は最初に案内の稲葉正勝(眞島秀和)相手にその名を問う。稲葉正勝は自分には名前などないから、呼びかけのみで呼んでもらえればよいと素っ気なく返す。そして将軍の身代わりとして生きている少女に対峙した直後、呆然としながらも「あのかたの本当のお名前は」と問い、そこでも少女に名前はない、本来は存在してはならない存在であるから、「上様とのみ呼べばよい」と聞かされる。上様と呼ばれる少女から、自らの名前をめぐり心身に酷薄な仕打ちを受けた直後ながら、有功は少女の運命と痛みに思いをはせたように悲痛な表情を浮かべるのである。名前は、個々の尊厳そのものである。世継ぎを生むためだけに連れてこられた少女も、巻き込まれた有功も、周辺にいる家臣たちも、この閉じられた場で根本的に尊厳を奪われて生きている。原作にないドラマのみの描写としてもうひとつ印象的なのは、有功が大奥から逃れようと強く願い、その方法を模索する描写である。※写真はイメージ部屋子の村瀬(岡山天音)に、子を作れば大奥から出られるかと問い、また秘密裏に京都に手紙を書き自分たちを逃がしてほしいと懇願している(失敗に終わってしまうが)。その描写で、衣食住が存分に提供されるとしても、ここは有功にとっては牢獄であり収容所のような場所であると強調されている。そんな未来も尊厳も奪われた牢獄で、最後に遠く、かすかな光がさす。周囲から強制された武芸の稽古で有功は他人を打つことを拒み、代わりに千回の素振りを願い出、芸の経験のない体で心身の限界まで追い詰めながらもやり遂げて最後は倒れ伏す。※写真はイメージ未来と尊厳が奪われた場所であっても、何をもって自分を良しとするかを決められるならば、それはわずかながらも自由だ。そこに到達するためにもがくならば、それは強さだ。有功はその強さを証明してみせる。主君、側室たち、家臣たち。誰にとっても絶望のこの場所で、この先どんな物語が起きるのか。酷薄に見える春日局が、帰ろうとする有功を引き留めるために叫んだ「上様こそ!この世で一番救われぬお方にございます!」という言葉。このセリフもまた、原作にはないドラマのオリジナルである。血筋を残すために名前と人生を奪われた少女に対する春日局のこのセリフは、彼女の咄嗟の本心であるように思えてならない。そしてこのドラマの作り手にとっても。哀切あふれる家光編は、これからが本番である。ドラマコラムの一覧はこちら[文・構成/grape編集部]かなTwitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している。⇒ かなさんのコラムはこちら
2023年01月20日Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。2023年1月スタートのテレビドラマ『大奥』(NHK)の見どころを連載していきます。かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。小説やコミックを映像化したドラマや映画を見るたび思う。文字や紙面が動画としてあるいは実写として動けばインパクトは大きい。とりわけ原作に対して愛情が注がれていると分かる実写化には感動するし、深い感謝の念がわく。それでも、その原作者が最初に作品世界を構築しようとした衝動と情熱、一つの世界を立ち上げ、最後に閉じるまでの膨大なエネルギーは、やはり原作者の中にこそあるものだろうと思う。原作の映像化は、その無二の情熱をより触りやすい形で解釈し、視聴側に提示するものだ。作曲者と演奏者のようなものだと思っている。だからこそ、そこに楽譜があれど決して誰が弾いても同じではない。ストーリーは決まっているから脚本は誰でも大差ないなんてことはない。衣装を整えて無難に演じればそれで良しでもない。冨永愛と中島裕翔の魅力NHKドラマ10『大奥』(火曜22時)初回を見た。何はともあれ冨永愛、である。NHKから最初に配役の発表があった時、なるほどという感触はあったし、おそらく原作ファンの多くが同様に感じたと思うが、今回その『なるほど』のレベルをはるか斜め上に超える八代将軍・徳川吉宗を魅せてくれた。衣装に吞み込まれない立ち姿、歩く姿、鋭い目線、迫力ある一喝。とても初めての時代劇とは思えない堂々たる存在感である。インタビューで冨永本人も歴史や時代劇が好きで、いつかオファーが来る日のために乗馬や殺陣の練習を積んでいたと語っていた(通常の乗馬に加えて、今回時代劇としての乗馬も訓練したとのこと。さもありなんの人馬一体の疾走だった)。※写真はイメージ美しい束髪をなびかせて馬を駆る姿一つで、彼女は原作のファンも、時代劇のファンも、ここから男女逆転大奥の世界を見るファンも、がっちりとわしづかみにしたのである。全編に哀切漂う原作において、吉宗はある意味清涼剤のような存在であり、見る側を特殊な物語世界に手引する『掴み』の役割でもある。見事な初手だった。そして、中﨟・水野祐之進として、冨永愛の将軍吉宗の強烈な魅力に寄り添った中島裕翔の素直な演技も讃えたい。昨年、テレビドラマ『純愛ディソナンス』(フジテレビ系)での怪演が評判高かった中島だが、過去に『デート〜恋とはどんなものかしら〜』(フジテレビ系)や『SUITS/スーツ』(フジテレビ系)等の助演で見せた、好青年として癖のないまっすぐな演技も魅力的だ。今作では月代も似合う涼やかな立ち居振る舞いで、時代劇との相性の良さも証明してみせた。演技派のジャニーズタレントとして、もっとその実力を知られてもいいのにといつも思う。※写真はイメージ初回は脚本・演出ともに原作の世界観を最大限に尊重した美しいトーンだったが、原作では吉宗が『ご内証の方』は死罪となると知った上で水野を慈しんで抱くが、ドラマではそれを知らずに2人は惹かれ合って関係を結び、後で知るという違いがあった。「そなたは私の男じゃ」というインパクト特大の名台詞もドラマのオリジナルで、全体的によりロマンチックな方向に振ってある印象なのも、今後楽しみだ。ちなみに、水野が死罪に見せかけて赦免される場面、原作では大岡越前らしき女性が登場して、吉宗と「ただでさえ数少ない男子をこんなことで殺しては勿体ない」と久通の前でコミカルに愚痴る場面がある。ドラマでは登場しなかった大岡忠相だが、登場するならどんな俳優が演じただろうかと想像してみるのも楽しい。※写真はイメージ今回、脚本を担当する森下佳子は、いうなれば原作ものを解釈し脚本に起こす『名指揮者』である。過去にはテレビドラマ『JIN−仁−』(TBS系)や、『義母と娘のブルース』(TBS系)等、原作ものの脚本を手掛けてその魅力を大輪の花として咲かせた。原作をどう解釈し、どう魅力を伝えるか。そのさじ加減に加え、森下佳子が手がける原作ありのドラマで重要な点は、原作を読んでいなくても、一つのドラマとして完結して魅力が伝わる再構成の妙だと思う。今作もまた、初回を見たところ間口は広い。原作未読でも存分に魅力が伝わるドラマなので、是非多くの人に鬼才・よしながふみが紡ぎ上げた渾身の人間賛歌を堪能してほしいと願っている。そして次週から始まる家光編は、作中でも屈指の哀切とロマンスの濃度が高い章だと思っている。早くも次の火曜が待ち遠しい。ドラマコラムの一覧はこちら[文・構成/grape編集部]かなTwitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している。⇒ かなさんのコラムはこちら
2023年01月13日Twitterで人気ドラマの感想をつづり注目を集める、まっち棒(@ma_dr__817125)さんのドラマコラム。2022年10月スタートのテレビドラマ『エルピス—希望、あるいは災い—』(フジテレビ系)の見どころや考察を連載していきます。誰も触れられない『パンドラの箱』を開けた彼らに待ち受けたのは、『災い』か『希望』か。手に汗握る、最終回スタート大門副総理(山路和弘)の元秘書・大門享(迫田孝也)の死は病死として公表された。だが真相は他殺だった。そして村井(岡部たかし)はそのことを知り、『ニュース8』のスタジオに殴り込み、怒りを爆発させる。その村井の姿を見た浅川(長澤まさみ)は、自分の古巣である報道を木っ端微塵にしたくなる程の真実があると感じ、その事情を聞きに岸本の元を訪ねに行く。一方、岸本(眞栄田郷敦)は憔悴しきっていた。浅川が訪れた時も、一度居留守をしようとしたが通用せず、岸本は渋々部屋に通す。信じていた浅川から「番組を背負う立場で無茶はできない」と跳ね返されてからというもの、二人は言葉を交わすこともなく、岸本は深い失意の中にいた。だが浅川もたとえ信用を取り戻せなくても、消えそうな真実を見過ごすことはできなかった。言葉に詰まりながらもう一度お願いすると、岸本は享へのインタビュー音声を浅川に差し出した。だが、彼はもう手を引くつもりだった。始まりは、ただ勝ち組でいるためだった。だが、浅川をはじめ、周りに助けられていく中で、本当の自分と向き合い、我武者羅に突き進んできた。諦めかけてもその度に自分の情熱に従い、全てを賭けて挑んできたのだ。それがいつしか自分よがりの『報道ごっこ』となっていたのだ。希望が見えなくなる先へ足を踏み入れることが、何より怖かった。そんな様子に対して、浅川は自分で報道すると言い出す。岸本は「殺されますよ」と忠告をするが、浅川は声を荒げて言い放つ。「何で殺されなきゃいけないのよ!」この浅川の叫びは、亨の言葉でもあった。確かに全部覚悟の上だ。しがらみを捨てた自分に訪れる悲劇を、何処かで感じてもいただろう。だが、人の命の価値もわからぬ人間のくだらぬ欲望のために殺される以上に理不尽なことはない。真実を伝えることは何も無茶なことでないはずだ。浅川はアナウンサーとして、一人の人間として、真っ当に生きたいだけなのだ。誰かを信じていたいという願いや『希望』を奪われ続けたこれまでを思い、浅川は息を切らしながら本音をぶつける。でもこんな災いだらけの闇の中に、希望はあるのだろうか…。そう弱気になりそうな瞬間に享へのインタビューの続きがレコーダーから流れる。ふと、真っ暗闇の中に一筋、細い光がさしたような気持ちです…。そして浅川は、その中に探し続けてきた答えを見つける。享が見た光と二人が、リンクしたかのように、西日の暖かい光が、冷え切っていたはずの岸本の部屋に滑り込んでくる。「希望って、誰かを信じられるってことなんだね」岸本の目にも涙が込み上げてくる。お互いが知らぬうちに希望を与える存在になっていたのだ。目の前にいる信じられる誰かが『希望』そのものなのだ。浅川は誓った。「希望がないなんて、もう二度と言わない」ついに動き出した浅川早速浅川は、滝川(三浦貴大)に今夜の『ニュース8』で大門の揉み消しに関する報道を扱いたいと相談を持ちかける。渋る滝川に対して清々しい顔で、浅川は「私やったことあるもん」と答える。正気ではないと周りから指差されようとかつての『浅川恵那』はもうゴミ箱へ捨ててきたのだ。揺るがぬ覚悟を決めスッキリした表情で去っていく浅川に、ひと言、滝川がクギを刺す。だが一度考えてみたい。狂っているのは、本当はどっちの方なんだろうか。そして、浅川の強行を知った滝川は、放送前のスタジオに斎藤(鈴木亮平)を呼び出す。そして浅川に、斎藤は大門のニュースを外してほしいと願い出る。案ずるはこの国の行く末。緊迫した世界情勢の中での国政と司法の混乱。国際的信用の失墜の中で起こり得る悲劇。このカードを今切るべきではない…斎藤はそう強く説得する。確かに先を見据えれば真っ当な意見に聞こえるし、浅川が取れる責任で賄えきれるほどその波紋は小さいものではないだろう。だがこんな時だけ都合良く国家や世界という大きな存在を提示して良いのだろうか。紛れもない真実を権力で押し潰すような腐り切った存在に、未来を預ける方が余程怖いことなのではないのか。国際的信用を失う行動をしている人間は、私達ではなく、力を持った貴方達のはずなのに。おかしいものをおかしいと声を上げる者の小さな声を無視したって、何事もなかったかのように世界は回り続ける。国家を形成する一細胞である自分が何かを成しても人生も世界もマシになんてならない。だがもう目の前にいる誰かを裏切り続けるなんてできない。浅川には迷いはなかった。壇上を降りて、勝負に出る。「では、本城彰を逮捕させてください」浅川の表情には一点の曇りもなかった。そして斎藤が差し出した手を浅川は強く握り返し、ついに本城彰の特集の放送が決まった。もう1人ではない、『希望』という存在を得た浅川しかし半ば勢いだったし、「明日まで待つと、事故か病気で出れなくなるよ」という脅しまでオマケされ、浅川は少々不安気味だった。だが浅川には『希望』がいた。岸本拓朗がいた。その『希望』が偶然にも、テレビ局に特集データを持って出向いていた。「君、最高!」という言葉に、信じていて良かったという気持ちが詰まっていた。浅川は岸本に何故か愛情のビンタをお見舞いし、そのままスタジオへ駆けていく。そして運命の『ニュース8』の放送が始まった。彼らが必死に掴んできた真実が、知りたい誰かに伝わっていく。駆け抜けた彼らの集大成だ。そして冤罪を暴くために協力してくれた人々が、岸本の連絡を受け、その放送を見守っていた。誰よりも松本を信じ続け、冤罪事件を暴くそのきっかけを作ったチェリー(三浦透子)をはじめ、『フライデーボンボン』で特集に協力した若者達。被害者のために奮闘した遺族や西澤の嘘の目撃証言を覆した由美子。松本の冤罪証明に何年も前から奮闘してきた木村弁護士(六角精児)や情報を提供してくれた笹岡(池津祥子)。皆、誰かを信じ、必死に生きた者達だ。彼らの小さな声が集まり、大きな声となって届いた。『生きること』の本質とは放送後すぐ、岸本と浅川は小さな定食屋に入る。そこは村井行きつけの美味しい牛丼が食べられるお店だった。浅川が「お腹すいた」とこぼし、大盛りの牛丼を大きな口を開け微笑みながらそれを頬張る。そして遅れて登場した知った顔に「遅い」と不満を投げながらも、笑顔で迎える。そして無事に冤罪が証明された松本が、チェリーが作ったカレーとショートケーキを美味しそうに食べる。そんなごく当たり前の日常が、何故か強く響いてくる。何も喉を通らなかった浅川が。孤独感に苛まれてきた岸本が。信じたものに何度も裏切られてきた村井が。多くの時間を奪われ続けた松本が。そんな彼らが笑い合あってご飯を食べているのだ。信じ合える人と美味しいご飯を食べているだけで、世界で一番最強になった気分にだってなれてしまう。そしてエンディングで黒く爛れたケーキを作り続けた浅川と真っ白なケーキを食べ続けたチェリーの『信じる誰かへの希望があるか』での対比。それらが『生きること』はつまり『信じる人と共に食べること』という本質に気づかせてくれた。『正しさ』はそこに存在しながらも、時に強大な力に飲み込まれ、歪められ、真実との間に壁をつくり、凶器へと姿を変える。闇に葬られた真実は人の見えない場所で渦を巻き、また別の真実の手を掴み引き摺り込もうとする。そんな腐りきった構図は一瞬でひっくり返えせるものではない。だが、浅川恵那や岸本拓朗のように、何の問題意識も感じてこなかった人間だって、自分自身を見つめ直し、壁にぶち当たる度に変わり続け、戦い抜けば、災いの中の『希望』を掴むことだって決して不可能なことではないのである。そうだ。『エルピス』が描いてきたのは、横暴な国家権力やメディアの報道責任に対する挑戦だけではないはずだ。絶望の中をこれからも生きていく私達に、誰かを救うことのできる『希望』をそっと託してくれたに違いないのだ。[文・構成/grape編集部]
2022年12月31日Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。2022年10月スタートのテレビドラマ『ファーストペンギン!』(日本テレビ系)の見どころを連載していきます。かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。ヒロインの岩崎和佳(奈緒)が時折例えられていた、ジャンヌ・ダルクだったら、「最後は焼かれちゃうでしょ」と思っていたら「ファーストペンギンも大体食べられちゃいますけどね」と作中で言われ、そこは笑いどころだと思っていた。まさかの最終回。愛した浜を去っていく和佳に、それが冗談ではなかったんだと呆然とする。『ファーストペンギン!』(日本テレビ系水曜22時)の最終話は、そのほろ苦さで、見届けた私たちの心に強く残る結末になった。でも不思議と悲愴感はない。少し苦くても、きちんと光さすラストだ。食い詰めたシングルマザーがやってきたのは、うらぶれた漁村だった。そこで彼女は、浜の未来を憂う漁師の片岡洋(堤真一)たちと協力して、従来の漁協の販路を通さない直販事業を立ち上げる。しかし幾多の妨害の果てに、漁協と地元の元政治家から資金繰りを切られ追い詰められた和佳は、元官僚の経営コンサル・波佐間(小西遼生)の紹介を通じてとある民間会社から支援を受ける。しかしその会社は外国企業で、経済を通じて浜の実質的な侵略行為を目論んでいることが判明する。最終回、浜の面々はすんでのところで外国企業を追い返したものの、それは執拗に和佳とさんし船団丸を追い詰めてきた地元の保守政治家・辰海(泉谷しげる)の力あってのことだった。本意ではなくとも、あわやのところで浜を売り渡す寸前だった和佳は、責任を厳しく問われることになってしまう。直販事業をやめるように迫られた和佳は、自分が浜を去ることと引き換えに直販事業を続けられる約束を取り付け、浜の未来を漁師たちに託して浜を後にする。そして10年後、成長した和佳の息子の進(城桧吏)が、片岡を訪ねて懐かしい汐ヶ崎にやってくるのだった。人口が減少し続けて縮んでいくこの国で、生産者と消費者ともに利益ある新しい流通を構築したい主人公たちも、衰退を待つ体制を潰す為に外国と結託して何が悪いかと問う元官僚も、古くあるものには理由があるのだと大衆には見えづらい大局観と体制の意義を厳しく問う老練の政治家も、それぞれの理由があって非常に見ごたえある最終話だった。今あるこの社会は、自然の生態系と同じように、様々な事柄が絡み合って回っている。結果として悪い一つの事象に対して、安易にこれだけを壊して取り除けば良いという『悪者』など本来いないのだろうと思う。それも理解した上で、やはり守旧の側から新しい価値観への対話の余地がもっとあるべきだと痛感した。資金が尽きれば会社は死ぬ。リーダーは、部下や組織に関わる人々を大切に思えばこそ会社が死なないために、どんな藁かも見ないで掴む。そこまでに追い込んだのは、「話してもどうせ分かるまい」と相手を侮って対話を持たずに突き落とした側だろう。その前に、五十年、百年先の未来を見据えた対話は考えられなかったものか。政治家の辰海は和佳のリーダーとしての資質を認めつつも、浜で仕事を続けることは許さず、和佳は辰海相手に自分が去った後のさんし船団丸の仕事の安寧を願って膝を折り土下座する。分かりやすい勧善懲悪の物語なら、最終話に膝を折るのは敵対する側だったろう。あるいは、敵のボスが去ったなら、主人公は立派に凱旋するだろう。けれども、『ファーストペンギン!』は、そのどちらもしなかった。和佳は直販事業の引き継ぎを果たした後は、浜の繁栄を願い去っていく。浜に残った漁師達や和佳が関わった人々は、さざ波が広がるように幸福になり生きていくが、和佳はそこにいない。その後も和佳は元気で暮らしている様子で、浜のことを深く気にかけているけれども、約束相手の辰海の死後も筋を通して浜には戻らず、汐ヶ崎の幸せの輪の中にはいないのだった。「なぜだ、こんなの納得できない」と、見ていて心の片隅が痛くなる。だが、もしこれが少しでも納得いかないと思うなら、「ここで現実を振り返り、縮みゆくこの国の農林水産業を、国全体の未来を考えてみて下さい」という作り手の願いかもしれないと思った。「長いものに巻かれなかった人の勇気に報いられない、今でいいのですか」と。その勇気あるペンギンは最初に飛び込んで、泳ぎきることはできなかった。傍目には敗者かもしれないけれど、最初から最後まで圧倒的に格好よかった。巻き舌の啖呵も、何一つ諦めない図太さも、人の愚かさを包む暖かさも、自分のプライドは二の次で部下の為に土下座する姿も、生涯筋を通す潔さも、何もかも爽快で格好良かった。その発端は、愛する息子がこれまで食べられなかった魚を美味しく食べたという喜びで、その幸福を更に多くの人に届けることのできる事業は決して間違ってはいないという強靱な信念だった。誰かの日々の暮らしの小さな幸福は、いずれ地域社会の繁栄と幸福に、更にこの国の未来にまで繋がっている。それを喜怒哀楽とともに誠実に見せてくれる素敵なドラマでした。作り手の皆様、演じて下さった皆様に深く感謝します。ありがとうございました。ドラマコラムの一覧はこちら[文・構成/grape編集部]かなTwitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している。⇒ かなさんのコラムはこちら
2022年12月12日Twitterで人気ドラマの感想をつづり注目を集める、まっち棒(@ma_dr__817125)さんのドラマコラム。2022年10月スタートのテレビドラマ『エルピス—希望、あるいは災い—』(フジテレビ系)の見どころや考察を連載していきます。八頭尾山連続殺人事件の真相解明は、瞬く間に全国に広まっていったが、その後は大した進展もなく、松本死刑囚(片岡正二郎)の冤罪はまだ証明できずにいた。一方、浅川恵那(長澤まさみ)は『ニュース8』の看板アナとして忙しない日々を過ごし、岸本(眞栄田郷敦)は経理部へ異動。一方の齋藤(鈴木亮平)は、会社を辞め、ジャーナリストとして他局のテレビに出演するなど政治の世界へと飛び込んでいた。そんな斎藤を通して浅川は、八飛市出身の副総理大臣の大門(山路和弘)がなんらかの形で事件に関わり、報道にも圧力をかけていたのではないかと考え、新聞記者の笹岡(池津祥子)に大門の身辺調査を依頼する。笹岡によれば、事件当時は警察庁長官だった大門が県警に圧力をかけたとするならば、高リスクを顧みなかっただけの相当な理由があったのではないかという。相当に近しく有力な人物からの頼みであった可能性が浮上してきたのだ。一方の岸本は異動でかえって動きやすくなっていた。だがDNA鑑定も再審も一向に動く気配はなく、真実が人間が作ったものだとは思えないくらい、重たく、冷たく感じられた。そして岸本は母・陸子(筒井真理子)と久しぶりに会うことに。弁護士である陸子も、検察の力が圧倒的な構図の中で、DNA再鑑定まで持ち込むことは難しいと話す。「この社会というのはね、君らが思っているよりずっと、恐ろしいものなのよ」そんな陸子の言葉だが、岸本はそれをもって実感してきた。母親との関係もそうだ。裕福な家庭、力のある両親、色々な権力に従ってやっと勝ち組でいられた自分はきっと、検察に嫌われてたくないがために真実を捻じ曲げてきた者たちと同じなのだ。だがもう同じにはなりたくなかった。何も信じられなくなっていても、あの頃には戻りたくなかった。岸本はそんな思いからか、実の母親に対しても終始他人行儀で接していた。そして岸本が村井(岡部たかし)に愚痴をこぼしていると、『ニュース8』から浅川の声が聞こえて来る。そして二人の瞳に飛び込んできたのは、松本死刑囚のDNA再鑑定実施の速報だった。退官する人間に働く『圧力』弁護士の木村(六角精児)によると、現裁判長が再来月に退官するため、この先出世も左遷もないからこうした奇跡的な決断を下したのだという。しかし再鑑定には検察の壁がそびえ立っていた。検察側と弁護側の両方がDNAを鑑定するため、松本とDNAが一致しないとしても、検察側がそれを正直に公表するとは限らない。過ちが詰まった箱を退官する人間に勝手に開けられまいとする力が、それを必死に閉じ込めようとするのである。浅川はこの事態を重く受け止めつつも、木村の「組織というのは必ずしも一枚岩ではない」という言葉を聞き、強大な組織の中の個人の良心を信じたい気持ちが大きくなっていた。だが岸本からは、「それは平和ボケして考えることから逃げてるだけだ」と喝を入れられる。信じたいと思うことは決して逃げではないが、自分では何もアクションを起こそうとせず、ただ全てを丸投げする意味での『信じる』も存在する。確かに報道にいる浅川は最近「時間がない」と岸本の声掛けを遮ることが増えていた。岸本から見れば、事件を追うことを辞めたと捉えられても無理もなく、浅川も結局、権力の一部となっているかのように思えただろう。岸本は、無関心で生きていた自分に対して浅川か投げかけた「おかしいと思うものを飲み込んじゃダメなんだよ」という言葉を今も繰り返し唱えてきた。だからこそ、寂しさも感じているのだ。一方の浅川は本当に時間がなかったが、その中でも大門の情報を集めるなどやれることはやってきたつもりであるし、この環境に甘えているわけでもなかった。浅川は半ば逆ギレしたかのように岸本にバックを投げつけ、『バカな岸本』を殴り倒して帰っていった。帰る途中、村井から電話がかかってきて、泣き言を吐かれた浅川は「甘ったれないでください」と逆に喝を入れ、そのまま電話を切る。浅川は忙しい。だが、それに甘えはしない。まだ何も終わっちゃいないのである。刑事が告白した許されざる罪そしてDNAの鑑定結果が公表される。弁護側の鑑定では検出されたDNAは犯人の松本とは一致しなかったものの、検察側の鑑定ではDNAは検出されなかったという結果だった。岸本は想定内だったが、一方の浅川は心塞がる思いだった。浅川は、八飛市出身の大門が当時の警察に圧かけて逮捕させなかった可能性があることを伝え、笹岡に調べてもらった大門関連の資料を岸本に託す。そんな頃、岸本の元には以前訪れた八飛署の平川刑事から連絡が入り、話を聞くことになる。あれほど「絶対にあり得ない」との一点張りだった平川だったが、金銭を受けとった後、その重い口がようやく開く。語られた真実は、許されざる罪だった。「うちは無実の人間を犯人にでっち上げたんです」上が真犯人を逮捕させたくないという裏事情があると現場の皆が感じていたという。だからこそ丁度よかったのだ。悲しむ家族がおらず、少女を匿っていた松本良夫が、それに適任だった。こうして署の刑事たちは目を明け、真実を追い求めることを辞めた。長い間、耳を塞ぎ、口を閉ざし続けてきた。だが平川自身は「あくまで正義側の人間である」と語る。金銭という手土産もなく、そこまで世間から注目されていなかった時にはあれだけ否定していた隠蔽を、今は自慢気に話すのだ。平川はきっと警察内部の当時を語ったヒーロー気分なのだろうか。目の前にあるのは正義なんかではなかった。毒に侵され続けた平川が願うのは、犯人の逮捕だという。「組織は一枚岩ではない」と言い放った平川の告白がまさかこの言葉の象徴とされるとは思わないだろう。岸本はそんな平川に思わず口がすべってしまう。「なんというか、まじクソですね」その後、被害者の井川晴美の姉・純夏が八頭尾山連続殺人事件の被害者遺族の会を立ち上げる。だが集まりの中で、結成の記者会見を開きたいというと、会場はざわついた。被害者遺族は当時から散々マスコミの的にされてきたのである。もう一度注目を浴びるなんて御免なのだ。そして他にも気になる点があった。それは多くの家族が出席している中、去年当時14歳で殺害された中村優香の遺族だけは連絡が取れなかったのだという。というのも、岸本が平川から受け取った資料によると、家族はまだ30代の母親と二人の兄弟の三人暮らし。そして彼女は18歳と偽って風俗で働いていたという。中村優香の事件が真犯人の犯行だとするならば、松本を救い出す最短の道になり得る。岸本は遺体現場まで出向き、解決を願い、被害者に静かに手を合わせた。明るみになってきた、八飛と大門の関係その帰り、岸本は麓の八飛市中に大門のポスターが貼られていることに気づく。地元の人間によれば、大門の幼馴染である本城が代表を務める本城建託が、ここ一帯の権力を握っているのだという。そして岸本は託された資料の中で本城を見つけるが、兄妹の中で一人だけ業務を手伝っていなかった長男の本城彰(永山瑛太)が気にかかった。この人物こそあの商店街で店をしていた人間だ。浅川が『見つめられただけで体が動かなくなってしまった』あの男だ。明るみになってきた、八飛と大門の関係。そして中村優香の殺人事件の真相とは。物語はついに終盤へと加速していく。[文・構成/grape編集部]
2022年12月11日ドラマ好きなイラストレーター、ゆう。(@yamapyou)さんによるドラマコラム。2022年10月スタートのテレビドラマ『アトムの童(こ)』(TBS系)の見どころや考察を連載していきます。闇堕ちした松下洸平の演技が素晴らしいゲーム作りに励む二人の青年を応援し続けた日曜日。それもとうとう終わりを迎えようとしている。衝撃だったのは、最終回目前にして絶対なる友情を築いていたはずの二人が決裂してしまったことだ。シアトルに行くはずだった隼人(松下洸平)は、敵にまわってしまった。青春を共にした仲間と戦うことになる…。どこかで見たことのあるシナリオなのに、私たちが不安になるのは敵の元についてしまった隼人の表情のせいだろう。冒頭から興津に放った「SAGASを潰します」という言葉と、その目は本気そのものだった。隼人を演じるのは今、ドラマで引っ張りだこの松下洸平。エリートなキャラクターも、子供のような笑顔で可愛らしいキャラクターも演じて見せていた彼が、また本領を発揮した瞬間である。その瞳に光はなく、完全に敵にまわった『闇堕ち』の表情であり、松下洸平という俳優のさらなる可能性を感じた。こんな表情もできたのか、最終回目前にして、さらに魅力が引き出されたと言える。どうせ最終回で仲直りするだろう、そんな気持ちがあったにも関わらず、彼の表情を見たあと「本当に大丈夫…?仲直りするよね?」と不安を掻き立てられた。それだけ深い闇を感じてしまった。俳優の力でここまでドラマに深みが出ることに驚きである。隼人の決意は固い。これまで那由他と隼人、二人を応援してきた我々にとっては対立する二人の構造に胸が痛くてたまらないが、どうやってこのわだかまりが解けるのか。最終回最大の見どころとなるだろう。急に良いヤツ!?憎めないキャラのオダギリジョー松下洸平の演技に続き驚いたのは、これまで悪に徹していた興津の存在である。感情的になる那由他と常に論理的で冷静な興津は意外と相性が良いのかもしれない。ゲーム制作で煮詰まる那由他の元へやってきた興津、アドバイスもさながら、テレビゲームをしながらの二人の会話が非常に印象的であった。以前ジョン・ドゥが作ったゲームを奪った興津。そのことに対して興津は「誤解だ」と言った。疑問を浮かべる那由他に興津ははっきりと「惚れ込んだんだよ」と伝えた。これまでプライドも高く、隙や弱みを一切見せなかった興津が、初めてジョン・ドゥを認めた瞬間だろう。これまで散々、ひどい仕打ちをされ、絶対に許してはなるものか!と思っていた宿敵であったはずなのに、このワンシーンにより、これまでの悪行を忘れてしまいそうになるほどの衝撃を受けてしまった。こんなことされたら憎めない…さすがオダギリジョー。極悪のラスボスさえ、憎めないキャラクターに仕上げてしまった。てっきりこの作品は興津を成敗して終わるのかと思っていたが、これは話が変わってきそうだ。興津と分かり合える日もそう遠くはないだろう。最終回予想!みんな仲良くハッピーエンドなるか?最愛の友人は敵にまわり、最悪の宿敵は味方になった。ここまで構図が逆転するとは最初は誰も予想もしていなかっただろう。最終回はどんな展開を迎えるのか、やはり我々が見たいのは那由他と隼人のコンビである。これまで二人が一生懸命にゲームを作る姿を応援してきた。彼らだからついてきた。もう一度、二人が見たい、この想いに尽きる。株主総会後、那由他は「このゲームを作り上げるには隼人の力が必要だ」そしてまた、隼人も「那由他とゲームを作ることが一番楽しい」となってほしいと願う。離れてみてお互いが欠かせない存在だと気付いた二人がまたタッグむ、そして興津もまた同様、日本のゲーム業界を盛り上げていく仲間となるだろう。そんなハッピーエンドであって欲しいと思った。予想というより願望に近くなってしまったが、みなさんはいかがだろうか。展開を予想しながら見ることもドラマの醍醐味である。約3ヶ月間、ゲーム制作に夢中になる二人を見守ってきた。彼らとのお別れは辛いが、「アトムの童という素晴らしいドラマに出会えて本当によかった、毎週楽しい日曜日をありがとう」そう感謝の意を込めて次回の最終回を見届けたいと思う。『アトムの童(こ)』/TBS系で毎週日曜・夜9時~放送ドラマコラムの一覧はこちら[文・構成/grape編集部]
2022年12月10日Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。2022年10月スタートのテレビドラマ『ファーストペンギン!』(日本テレビ系)の見どころを連載していきます。かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。これはもう、意図的なさじ加減で地味目にしてるんだろうなと、最終回を前にした9話で思った。もっと派手に事件が起きて、もっとヒロインにキラキラした恋愛要素を盛り込んで、いつもすっきり勧善懲悪に解決したら、フィクションとして面白く見えるのかもしれない。でも、今現実にある問題と結びつけて、見た人々の記憶に少しでもそれを残すのに、地に足の着いた感触は必須なのだろう。9話まで見てきた『ファーストペンギン!』(日本テレビ系水曜22時)を、一言で表すならば『誠実なドラマ』だと思う。身体の弱い一人息子を連れ、食い詰めたシングルマザーの岩崎和佳(奈緒)がやってきたのは山口県のとある漁村、汐ヶ崎。そこで出会った漁師の片岡洋(堤真一)や、さんし船団丸の面々と混獲魚の直販事業『お魚ボックス』を始めて会社を立ち上げたものの、従来の販路から外れた販売のため地元の漁協とのトラブルが絶えない。これまで販売事業とは無縁だった漁師たちの仕事もミスだらけ、次々と苦難は襲いかかるが、一歩一歩階段を上るように和佳は協力者や理解者を増やし、自らも漁師もスキルアップしてボックス事業はようやく軌道に乗る。ところが好事魔多し、さんし船団丸は事故で網を失い、約1千万円の修理費と同時に金融機関の貸しはがしに遭う。必死の思いで頼った経営コンサルタント波佐間(小西遼生)の提案により、大手の食品流通会社から多額の融資を受け危機を切り抜けるが、波佐間の介入を嫌う片岡は浜から出て行ってしまう。さらにその融資元の会社は外国資本で、このままでは浜そのものが事実上の乗っ取りにあう可能性を知った和佳は愕然とする。今回、地方の浜が経済上外国資本に乗っ取られるということが、国防の危機の可能性に繋がることまで言及したことに、そこまで踏み込むかと驚いた。ここまでに漁協という組織の保守性や、漁業の現状とミスマッチが生じている問題点を丁寧に描いてきたが、その保守性や継続性にも役割があり、安易に切り落とすように取り除いてはならないものだと明かされる。一方で外資と知らずとも外部の資金に縋らされるをえないほどに、さんし船団丸を追い詰めたのも漁協を中心とする保守勢力である。もつれあう問題に、これでは衰退する一方の漁業に打開の手はないのかと、見ていて暗澹たる気持ちになってしまう。そんな中、現場の漁師たちのリーダーとして自分でなくても波佐間がいればいいのではないか、戻る必要はないんじゃないかと躊躇する片岡を、永沢は汐ヶ崎に連れ戻そうと腐心する。永沢は、波佐間と一緒にいる時の従いっぱなしの和佳が好きになれない、和佳らしくないと懸命に片岡に訴えかける。ここまで、この作品では『その土地』で『その人たち』が生きていこうとする姿を描いてきた。故郷の衰退を憂いながらなすすべのない中年世代、都会に出たけれどもやむなく戻ってきた若者、ここで家庭を持つ決断が今は難しい若者、一次産業への希望をもってやってくる移住者。立場や経歴ではなく、本音でぶつかり合っても容易には壊れない関係で生きられるなら、自分らしさを発揮しながらより良い未来を目指せるならば、その人たちが、その土地で生きていく理由としては十分なのではないか。永沢が片岡を引き戻そうと熱く語った言葉には、そんな希望が込められていると思った。最終回直前まで、息のつけない困難続きではあるけれども、このドラマが『10年前』から届けられている物語だということは、繰り返し冒頭のナレーションで語られている。何らかの決着がついていると察することが出来るのは、間違いなく光明だろう。ずっと誠実さをもって描かれてきたドラマがどんな希望を見せてくれるのか、最後まで楽しみだ。ドラマコラムの一覧はこちら[文・構成/grape編集部]かなTwitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している。⇒ かなさんのコラムはこちら
2022年12月05日