2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(74)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「ロシアがウクライナに侵攻して始まった戦争。このままだと第三次世界大戦になってもおかしくない状況。非常に怖い世の中です。戦争反対と思っているだけではだめ。蛭子さん、この世界を平和にする方法を教えてください」(ラスGOさん・23歳・千葉県・学生)【A】「いじめっ子は、世界のリーダーになってはいけないことにすべき」(蛭子能収)オレもテレビを見ていて、世界中で戦争が始まるような気がして怖くてしかたありません。なんか世の中がおかしな方向に向いていっている感じがします。(マネージャー「蛭子さんは認知症になる前から、戦争をしてはいけないと言い続けていますよね」)オレは死にたくないし、殺したくないからです。どんな人でも「死にたくない」はずですが、そんな人たちに戦場に行く命令をしているんですからね。プーチン(大統領)の顔つきを見るとゾッとします。オレは中学校のときにいじめにあっていて、不良仲間からある女のコをたたくことを命令されたことがあります。オレは抵抗することもできずに女のコを「ぺたん」とたたいてしまいました。そのときの手の感覚は、今でも思い出されてすごく嫌な気分になります。世界中の指導者はみんないじめっ子みたいな顔つきをしていますが、いっそのこと、いじめられた経験がある人しかリーダーになれないと決めればいいと思います。
2022年05月30日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(74)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん〜介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1,320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「結婚する前は、デートでいろんなところに連れていってくれたし、外食することも多かったのに、一緒になってからはどこにも連れていってくれない夫。釣った魚にエサをやらない男でした……。ショック!」(サラ13さん・29歳・静岡県・主婦)【A】「夫が相手してくれないなら1人でデートすればいい」(蛭子能収)釣った魚にエサをやらない……って?(マネージャー「結婚してから態度が変わって優しさや愛情をみせない男のことです」)そうなんですね、でも結婚しても、それまでと同じようにデートに金をかけていたら大変ですね、ウフフ。たぶん夫の問題というより、この相談をしている人の問題で、自分で解決するしかない気がしますね。そんなにどっかに行きたければ1人でデートすればいいと思いますけど。そもそも結婚してからも、あんな面倒くさいデートなんかするんですかね?(マネージャー「蛭子さんのデートは何時何分に映画を見て、○時○分に昼食とかスケジュールを立てて、計画どおりにならないとイライラするそうですよ。奥さんが、あまりに細かいからランチは別々に食べていたと話していました」)あ〜、そうでしたっけ?恋人でも夫婦でも人間関係は難しいですよね。デートだって、相手の自由を奪うこともありますからね。やっぱり1人で競艇場に行くのがいちばんですよ。
2022年05月23日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(74)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1,320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「商品企画や宣伝などの企画職を希望していましたが、営業職にまわされて……。ノルマを達成するのが難しいし、人と話をするのも苦手。あ~転職しちゃおうかなと思う毎日。本気で仕事ができる方法を教えてください」(春プリさん・27歳・神奈川県・不動産会社)【A】「仕事は金を稼ぐためだけのもの。テキトーにやっつけよう」(蛭子能収)あ~、なんか今日は調子が悪いんですよね。そんなときに仕事の相談なんて面倒くさいですよ。働くことなんかに本気を出そうと思わないほうがいいですよ。(マネージャー「蛭子さん、ダメですよ、仕事なんですから。しっかり答えてください!」)あっ、すみません。オレに苦手な仕事があったやろか……。(マネージャー「漫画家になっても食えなかった時期には、エッチ系の漫画雑誌で描いていましたよ」)そうそう、オレはエッチなシーンを描くのがすごく苦手ですからね、テキトーに仕上げて、余白にUFOや毛沢東の絵を描いていました。そしたら編集の人が意味ありげだと面白がってくれたんですよね。この人も転職してもしなくても何があるかわからないですからね。テキトーでいいですよ。そもそも働くのは金を稼ぐためだけですから、それほど思い悩むようなことではありませんからね。だって金があれば働かなくてもいいですからね。あ~競艇、当たらないかな~。
2022年05月16日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(74)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1,320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「夫は、外食をしても『このラーメンの原価は50円だ』とか、花火を見ても『あの1発は50万円だな』など金の話ばかり。とくに年をとってから細かい計算ばかりでおもしろくない。夫とどう一緒に暮らせばいいのでしょうか……」(ピンキーメーズさん・51歳・埼玉県・パート)【A】「細かいお金の計算をしていくと、たいていのものはバカバカしくなる」(蛭子能収)花火って高いんですね。オレは、キレイだと思ったことがないので、そんなに金かかるんだったら花火なんてバカバカしいし、この世からなくなってかまいませんよ。(マネージャー「食事をしても花火大会に行っても金のことばかり聞かされるのが嫌なんでしょうね」)それやったら「今は金の話はしないでよ」と笑いながら言えばいいだけ。でも、お金に対する考え方は夫婦でも違ってていいと思いますよ、ちょっと面倒ですが……ウフフ。この人も、旦那と一緒に細かい計算をしてみたら、いろいろな実体が見えてきますよ。オレはとにかく金の計算が好きだし、だから仕事も続けたいです。(マネージャー「最近は認知症関連の講演が増えています。先日は三重県御浜町の会場とリモートでつないでやりました」)そうでしたっけ?家にいて金が稼げる仕事をもっとやりたいですね。(マネージャー「この人生相談も仕事ですよ!」)細かい計算をするまでもなく、講演のほうがいい仕事だと思います。
2022年05月09日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(74)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「6歳と3歳の2人の子育てパパです。自分の父親のように、子どもたちから慕われながらも、威厳がある、でも優しい父親になりたい。そんな理想の父親になるためにはどうすればいいでしょうか?」(ヘンリ直さん・40歳・山口県・会社員)【A】「いい親だったかどうかは死んだ後に決まるもの」(蛭子能収)立派な父親がどういうものかなんてわかりません。オレは子育てした記憶がありません。そもそもオレは父親ですか?(マネージャー「2人のお子さんを育てましたよ」)あっ、そやった!家族を食べさせるために必死でギャンブルや仕事をしていたから子育てはしていません。オレの父親はずっと海で漁をしていて、たまに帰ってくると家で偉そうにしていたから嫌いでした。でも死んでから、家族のために頑張って仕事をしていたと思えばいい父親だったと思います。たぶん、いい父親かどうかは、死んだ後に決まるから、生きている間は、あまり気にしてもしかたないと思いますよ。(マネージャー「蛭子さんはドラマ『いつも誰かに恋してるッ』で主演の宮沢りえさんの父親役で出演し、当時の『理想の父親』調査で1位になりましたよ」)まったく覚えていませんが、オレはただ笑っていただけだと思いますよ。だから、いい父親だと思われたかったらニコニコ笑っていればいいと思います。
2022年04月25日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(74)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん〜介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1,320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「仕事場の上司にあたる男性が、前までは食事に誘ってくれたので、よく連れていってもらいましたが、最近は、性的な関係まで求めてきます。この上司さえいなければいい職場なのですが……。どうすればいいですか?」(青いフラミンゴさん・35歳・群馬県・派遣社員)【A】「不快な思いをする場所からはとっとと逃げるべき」(蛭子能収)オレなんかに相談しないで警察や会社のエライ人に話したほうがいいような気がしますが……。(マネージャー「最近、俳優や映画監督などに、権力や地位を利用して性行為を強要されたことを女優が告発するニュースが続いています。告発は勇気がいりますよね」)オレも中学生のときにいじめられていましたが、悔しいし本当に怖いんですけど、先生や親には口が裂けても言えなかったですからね。そんな職場からはとっとと逃げることを考えたほうがいいと思いますよ。そんな上司を雇っているということはもみ消される可能性もありますからね。いじめもそうだけど、不快な思いをさせるのは立派な犯罪だと思うから、罰が下るようなシステムがあれば最高ですよね。(マネージャー「蛭子さんは映画『諫山節考』でメガホンをとっていますが、変なことしていないでしょうね?」)映画監督なんかしたことありましたっけ。オレが役者の人に不快な思いをさせたかどうかも覚えていません……てへっ!
2022年04月18日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(74)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「青汁、糖質制限……芸能人が実践しているいろんなダイエット法に挑戦してきましたが、ことごとく失敗。太らない生活をするためには、どうすればいいの?蛭子さんなら、太らない秘密を教えてくれそう!」(サーリ子さん・35歳・福島県・主婦)【A】「『ちょっとやせた?』と夫や彼氏に言わせるように仕向ける」(蛭子能収)やせる方法をオレに聞くなんて、どういう意味ですかね?(マネージャー「蛭子さんはポッチャリした女性が好きだから、本音では『太っていてもいいんだよ』と言ってほしいんじゃないですかね」)相手の心まで読まないといけないなんて、人生相談って、ちょっと面倒くさいですね。(マネージャー「どんなにやせていても、見た目をスリムにしたいのが女心ですからね」)オレは、自分の見た目を気にするくらいならギャンブルをして、スリリングに生きるほうが好きですけどね。ただ、オレの女房は、結婚してからすごくやせたんですよね。本当は、丸々とした女性がタイプなんですけど。オレが認知症になって苦労かけたからやせたんやろか……テヘッ!この前、女房になんとなしに「ちょっとやせた?」と言ったら喜んでいました。ダイエットで努力するよりも、夫や彼氏に「ちょっとやせた?」とちょくちょく言わせるように仕向ければいいですよ。
2022年04月11日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(74)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1,320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「恋人がいない自分は人間として未熟ではないかと……。仕事はけっこうバリバリやっているほうだと思いますし、稼ぎも同世代ではいいほうです。でも恋人がいないのがけっこうなコンプレックス。どうすれば彼女ができるの?」(ペックムーンさん・24歳・神奈川県・会社員)【A】「モテる秘訣は『私とギャンブルどっちが好き?』と聞かれて『ギャンブル』と答えないこと」(蛭子能収)この前は、彼氏ができない女性からの相談でしたよね。(マネージャー「蛭子さんに恋愛相談するなんて、ちょっとズレている気がしますが……」)オレが長崎にいたときに通っていたパチンコ店に大谷直子と辺見マリを合わせたような女性店員がいて、いつもそのコが担当している「島」(台が並んでいるエリア)ばかりで打っていました。玉がくぎに引っ掛かると彼女と話せるチャンスが増えますからね。でも、そんなよこしまな考えがあると彼女はできないしパチンコも勝てませんからね。(マネージャー「二兎を追うものは一兎をも得ず、ですね」)この人も、今は仕事をどんどんやっていればいいんですよ。オレだって結婚しているんだし、知らない間に彼女もできると思いますよ。あと女性は思いのほかギャンブルする男が嫌いみたいです。あるとき女房に「私とギャンブルどっちが好き?」と聞かれて、うーんと悩んでいたら、すごく怒られたことがあります。そんな女の心がわかるようになれば大丈夫です。
2022年04月04日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(74)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1,320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「恋愛経験がないまま35歳になります。高校生までは『いいな』と思った人もいましたが、働きだしてからは人を好きになったこともありません。このまま人生が終わると思うと寂しいですが、どうしたらいいですか?」(腐ハムさん・35歳・岩手県・介護職員)【A】「人間には、いいところもあれば、ダメなところもあるから面白い」(蛭子能収)人を好きになったことがないなんて別にどうでもいいですが、自分で自分を拒否しているのはちょっとかわいそうですね。ウフフ……。(マネージャー「最近はアニメキャラなど二次元のほうが好きで、本当の人に興味を持てない人も多いようです。生身の人間が苦手なんですかね。恋愛も面倒くさいですからね」)ボートレースも生身の人間がやるから面白いと思いますよ。ロボットがハンドルとスロットルを操作したらどうなるんやろ。オレは競艇の西田靖選手が好きで、強引にインを狙っていく姿にひかれていました。その分、ときどき失敗することもあって勝ったり負けたり。でも、一度好きになったら、そんな悪いところも含めて西田選手から離れられなくなりました。(マネージャー「いいこと言いますね、人はいいところもあればダメなところもある。それを受け入れて好きになるということですか?」)本当は、オレが買った舟券で勝つ選手。お金を持ってきてくれる選手が大好きです。
2022年03月28日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(74)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1,320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「結婚15年目にして手にした新築一戸建て。でも隣に住んでいる若夫婦は、親からお金を出してもらって家を買ったことを知り、憂うつな気分に。夫は嫉妬するなと言いますが……。蛭子さんどうすればいい?」(チェリッスさん・39歳・岐阜県・パート)【A】「他人に嫉妬するのは当たり前。そんな自分をネタにして笑い飛ばそう」(蛭子能収)この人の気持ちが痛いほどわかります。競艇場で、隣の人が当たって大喜びされると憂うつになります。(マネージャー「蛭子さんは競艇で大当たりしても喜びを表現しませんね」)当たったことがばれると周りからご祝儀を要求されたり、恨まれたりしますからね。隣の夫婦も親が金を出したなんてわざわざ言わなくてもいいのにね。(マネージャー「漫画家の西原理恵子さんは、共演したイベントで『私の漫画は売れないのに、蛭子さんがテキトーに話した本が売れて、腹が立つ』と言って笑いを取っていましたね」)誰でも嫉妬するものだと思いますが「ウジウジした自分」をネタにして生きていけばいいと思いますよ。オレは高校卒業後、看板店で働きましたが、同じ美術部にいた同級生は給料がいいテレビ局に就職したんです。それを50年以上根に持っていて、テレビで「泣きたくなるほど悔しいですよね」と話したら、なんだか笑ってもらえました。ワクワクした気分になりました。テヘッ!
2022年03月14日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(74)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1,320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「結婚して22年。夫婦での食事中には会話はありますが、夫はすぐにパソコンに向かったり本を読んだりしています。もっと話をしたいのに……。老後を楽しく過ごせるのか不安。『結婚は人生の墓場』といいますが、どうすればいいですか?」(ジュンレインさん・52歳・東京都・会社員)【A】「『楽しい、楽しい』と言い続ければ、相手も『楽しい』と思ってくれるはず」(蛭子能収)えっ、結婚が人生の墓場になるなんて初めて聞きましたけど……、え~と、どういう意味やろ?(マネージャー「結婚生活を地獄のようにとらえている人が多いんでしょうかね、僕は独身なのでわかりませんが……」)独身のマネージャーも競馬で負けてばかりで、とても天国とは思いませんけどね。オレは、結婚してもしなくても、この世は地獄だと思いながら生きています。そっちのほうが、ちょっといいことがあるだけで天国に感じられますからね。そういえば、オレはちょっと前から女房に「好きだ、好きだ」と言い続けているんです。最初は、女房が喜ぶからテキトーに言っていたんですが、繰り返し言い続けたことで、オレもなんとなく女房が好きになってきました。(マネージャー「言葉どおりの結果になるなんて言霊みたいですね」)この人も食事だけでも夫といると「楽しい、楽しい」と言い続ければ、本当にそう思えるし、夫も喜ぶんじゃないですかね、よくわかりませんけど。
2022年03月07日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(74)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1,320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「16歳になる娘は今、反抗期真っ盛り。スマホでYouTubeばかり見ているから注意すると父親の私にむかって『うるさい!』と。あれだけ愛情と心血を注いで頑張って子育てしたのにと思うと残念です……。反抗期は治りますか?」(サージさん・51歳・東京都・会社員)【A】「愛情を注げば報われると思ったら大間違い」(蛭子能収)オレにも、たしか娘がいると思いますが、反抗期ってあったんやろか?(マネージャー「蛭子さんは運動会も授業参観も行ったことがないほど、子育ては奥さんに任せていたからわかりませんよね」)でも、この人は、言うことを聞かない娘が、変な状態だと思い込んでいるようですが、どうなるかわかりませんよね。反抗期のままずっといったりして……ウフフ。(マネージャー「愛情を注いだのに報われないのはかわいそうですよね」)だからって、子どもに愛されて当然と思うものなんですかね……面倒くさい人ですね。なんか不機嫌な人が、家にいると思っていればいいと思いますよ。オレの女房も、出会ったころは、デート中や旅先でもすごく不機嫌になっていたから放っていました。(マネージャー「それはデートでも旅行でも競艇ばっかりしていたからですよ」)そっか、あれだけ愛情と心血を注いで計画を練って競艇場に行っているのに、プリプリするなんておかしいと思っていました、てへっ!
2022年02月28日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(74)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1,320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「88歳の義母を施設に入れました。私は介護がなくなり負担も軽くなりましたが、『親を預けるなんて』と親戚に言われてから、義母には悪いことをしたな……と罪悪感でいっぱい。施設に行っている蛭子さんはどう思いますか?」(フージーさん・58歳・群馬県・会社員)【A】「介護は自分ファーストで。決めたら後悔しなくていい」(蛭子能収)オレはどうやったっけ……施設という所に行っているんやっけ?(マネージャー「蛭子さんは、奥さんが1人で介護して倒れそうになったから、今は毎日のように通っていますよ」)ああ、オレが行っているのは施設なんですね。まあ、でも、オレが行くようになってから、女房はよく眠れるようになったようですし機嫌もよくなったからいいと思いますけどね。(マネージャー「蛭子さんの持論は“自分ファースト”ですが、介護している人も自分を大切にしないと共倒れになっちゃいますよね」)いろいろ言ってくる人がいますが、あまり考えすぎないほうがいいと思いますよ。競艇は湖とか川でやるから、魚が跳ねて選手の邪魔をしてレースが荒れることがあります。だからといって、魚のことまで考えてレースを予想しだしたら大変。魚の気持ちなんて読めませんからね。最後は自分の信念ですよ。迷わずにオレ自身の考えで舟券を買えば後悔もしません。まあ、それでもオレは当たりませんけどね。
2022年02月14日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(74)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん〜介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1,320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「最近、50年来の友人から一方的に関係を切られました。私のメールがストレスになったようで『終わりにしてください。今までありがとう。元気でいてください』と。いまだに頭にひっかかっています。どう思いますか?」(楓さん・65歳・千葉県・パート)【A】「パチンコでもやって頭を切り替えてください」(蛭子能収)たしかに、ストレスに感じていたんだったら、もう少し前に言ってくれたらいいのになあ、とは思いますね。でも、そもそも、そんなに友人って必要ですかね。(マネージャー「蛭子さんは友達がいると、時間を拘束されるから面倒だと話していますね」)他人に合わせて行動するのが苦手なんですよね。もう頭を切り替えて、忘れたほうがいいと思いますけどね。オレは競艇で負けが込んだときは、帰り道にパチンコ店へ寄って、ウジウジした気持ちを晴らしていました。不思議とそういうときは勝つことが多かった気がします。夢中になってパチンコ玉の行方を目で追いかけていると、頭もスッキリして、しかもお小遣いが増えるかもしれません。この人が、ストレスを与える人だとしても、パチンコ台はなにも感じませんからね。最近、競艇場には、マネージャーの車で行くから帰りにパチンコしに寄れません。このところウジウジしている原因だと思います。パチンコに行きたいです。
2022年02月07日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(74)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん〜介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1,320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「向かいに住む80歳のおじいさんが、夕方や夜間、私の家をのぞくので困っています。その人は、私に興味があるようで、トイレや着替えをしているところも見られているような気がして不安です。どうすればいいですか?」(I.Oさん・63歳・京都府・アルバイト)【A】「老人が“困ったこと”をしたら笑顔で注意してあげて」(蛭子能収)のぞきですか、怖いな……。オレも本能としては興味があるかもしれませんが「見てはいけない」と思っているから、のぞきはしませんね。たぶん向かいの人は80歳を超えて、判断力を失って感情のままに動いているんだと思いますよ。本人か、その家族に「やめてくださいよ」と笑いながら注意してみたらどうですかね。(マネージャー「蛭子さんは癖で人の食事をジロジロとのぞきますよ。この前も僕が食べているオムライスをやたら見つめていました」)あ〜、オレは、人が食べているものがいつも気になって「おいしそうだな〜、あれにすればよかったな」って、ついキョロキョロ見てしまうんですよね。前に叱られてから、注意していましたけど、オレも年をとって本能のままに動くようになったのかもしれません。でも人が食べているものが欲しいわけではありませんから、見るだけならいいじゃないですか?(笑顔をつくりながら、マネージャー「やめてくださいよ」)もう怖いな……てへっ!
2022年01月31日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(74)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1,320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「娘が最近よくおしゃべりするし、パズルが好きで、2歳2カ月とは思えないほどの成長ぶり。通っているスイミングを優先させるか、もっと自分がやりたいことをさせるか迷っています。どうしたらいいでしょうか?」(ケイちゃんさん・27歳・三重県・専業主婦)【A】「子どもの成長は、競艇選手を見るように、さめた目で見守っていけばいい」(蛭子能収)そういえば、この前、多摩川ボートレース場に行ってきました。すごく久しぶりだったのでずいぶん気合を入れましたが、結局、3万円負けました。昔のように淡々とやっていたほうがもっと成績はよかったかもしれません。(マネージャー「そんな話より人生相談をやってください!」)えっ、子育ての悩みですか?ちょっと面倒くさいですね。オレは子どもをどうやって育てていたんやろ。(マネージャー「蛭子さんは“自分の子どもには興味がない”と話していました」)最近、物忘れがひどいけど、オレ、そんなこと言ったかな……、たしかに子どもには期待しないと話した記憶がありますけど。でも子どもなんてどう育つかわからないし、気合入れてもしょうがないと思いますよ。オレは、競艇選手では、今村豊選手がすごい強くて好きで、いつも今村選手の舟券を買っていましたが、そう簡単には当たりません。子どもにも競艇選手にも期待しないで、さめた目で見守っていたほうがいいと思いますよ。
2022年01月24日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(74)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん〜介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1,320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「ドライアイで緑色の目薬を買って会社に置いていましたが、ある日なくなったと思ったら、上司がその目薬を勝手に使っていました。『それは私のです』と言うべきでしょうか?目がショボショボしてしょうがないです」(コーバさん・28歳・東京都・会社員)【A】「『仕方ないからあなたにあげる』と心の中で恩に着せればいい」(蛭子能収)目がショボショボしているって、かわいそうですね。へへへっ。どうでもいい相談だけど難しいですね。「私のだから返してよ」と言ってもいいけど「オレが自分で買ったんだよ」と言い返されたらトラブルになりそうですね。それでも相手に言いたいなら、目をショボショボさせながら「あの〜」と笑いながら切り出したほうがいいと思いますよ。(マネージャー「蛭子さんも、漫画家のみうらじゅんさんの仕事場で500円玉を自分でなくしたのに、みうらさんを犯人扱いして『じゃあ、あげますよ』と言って、あぜんとさせたエピソードがありますね」)あれ、そんなことありましたっけ?でも、その目薬も自分でなくしたのかもしれないけど、もめ事になるのは面倒くさいから「仕方ないからあなたにあげますよ」と心の中で思って恩に着せればいいですよ。新しい目薬を買えば気分も違いますよ。ずっと目をショボショボさせていれば、誰かが心配して目薬を買ってくれるかもしれませんよ。てへっ。
2022年01月17日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(74)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1,320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「コロナ禍で週3回の在宅勤務の夫とぶつかっています。一緒にいると息苦しい。若いときは優しくて信用できる人だったのに、最近は家事を手伝うこともない。あ~イライラ!どうすればいいですか?」(りとさん・51歳・群馬県・主婦)【A】「夫婦なんて他人同士。ストレスをためたほうが損」(蛭子能収)オレはずっと女房と一緒に家にいますが、息苦しいと思ったことがありませんね。まあ、オレの場合は、女房の言うことをしっかり聞いて、オレ自身は空気のように過ごしているだけですけどね。(マネージャー「ストレスが原因でこのコロナ禍に夫婦間で仲が悪くなるケースもあるようですね」)夫婦なんて他人同士だから、ずっと一緒に暮らすのならストレスをためたほうが損をするぐらいに考えていたほうがいいですよ。(マネージャー「イライラしたら自分の好きな時間を持って解消すればいいですよね」)オレは仕事が立て込んでイライラしたときは競艇場にふらっと出かけていました。この人も群馬に住んでいるなら「ボートレース桐生」があるので行ってみたらどうですかね。桐生は予想が難しい競艇場で、どこのレース場でも通用する「1256」のボックス買いでもなかなか勝てません。「これだ!」と信じていることがことごとく裏切られる経験は貴重だと思いますね。やっぱり競艇ですよ。
2022年01月04日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(74)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1,320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「今年で25歳になりひとり暮らしを考えています。会社まで電車で約1時間。仕事も慣れてきたため一歩踏み出そうと思いますが、料理がいっさいできません。こんな私でもひとり暮らしできますか?」(ひなちゃんさん・24歳・東京都・会社員)【A】「何を選択しても正解。もちろんオレの結婚も大正解」(蛭子能収)若い人からの相談なんて珍しいですね。今だったら指先を使って機械で調べれば何でも教えてくれるのに。(マネージャー「機械って、スマホのことですよね」)オレは上京してから寮生活だったから食事に困ったことはありません。今はコンビニもあるし、料理ができなくてもまったく問題ありませんよ。それにひとり暮らしをするかどうか迷っても、いずれ決めたら、それがいちばんいい選択だと思いますよ。オレは長崎を飛び出したのが人生の分岐点だけど、そのまま地元にいたら看板店の社長の娘と結婚させられていたから、今ごろは看板店の2代目社長だったかも。それはそれでよかったかもしれませんね。どっちの人生を歩いても正解だと思いますよ。(マネージャー「蛭子さんは今の奥さんと再婚したのも正解ですよね」)え~と……そ、それは……。(マネージャー「そこはあたふたしないで即答しないと波風が立つじゃないですか!」)あっ、すみません。大正解でした。
2021年12月20日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(74)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1,320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「72歳の夫はラーメン店で働いているのですが、体が衰えてきているので、もうそろそろ考えたらというと、『やめて何をするんだ!』とへりくつばかり。いろいろ物忘れも多くなって心配です。蛭子さん、どう思いますか?」(カオルさん・65歳・埼玉県・主婦)【A】「『失敗が許される社会』は理想だけど、オレの注文が間違えられるのは嫌」(蛭子能収)オレも何歳になっても働いていたいです。というより金を稼ぎたいんですよね。施設でも「リハビリになるから、絵を描きなよ」と言われますが、ギャラが出ない絵は描きたくありません。夫を心配する気持ちもわかりますが、働いていたほうが長生きすると思いますよ。物忘れがひどくなって、ラーメンの注文を間違えてチャーハンを作ったりしても、おもしろいと感じてくれる人がいると思いますよ。(マネージャー「認知症の人がホールスタッフをやる『注文をまちがえる料理店』が話題になって、いい取り組みだなと」)へえ~、オレがその店で働いているところに取材が来たら出演料とその店のバイト代とダブルで金が稼げますね。(マネージャー「いえいえ、お客さんも事情を知っているから失敗しても笑って許してくれる温かい雰囲気がいいんですよ」)失敗が許される社会はいいけど、オレは客としてオムライスを頼んだのにハヤシライスが出てきたら「嫌だな」と思いますけどね。
2021年12月13日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(74)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1,320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「歯科医院で歯ぐきにとがったものを押しつけられ、強い痛みが残っています……。それからはコロナ禍で、外出も怖くて、誰かに殺されるのではないかと思うように。気持ちが落ち着く方法を教えてください」(気まぐれうさ子さん・56歳・栃木県・主婦)【A】「みんなが怒りっぽくなってる世の中、自分だけでも笑っていよう」(蛭子能収)それは大変ですね……。(マネージャー「蛭子さん、なにニヤニヤしてるんですか!」)えっ、笑っています?若いときは自分と関係ないところで、人が怒られていたり、不幸になっていたりするのを心で楽しんでいましたが、今は、駅でケンカしているカップルを見かけても、誰かがすごく怒っている姿を見ても、絶対に笑わないように真剣なふりをしています。「なに笑っているんだ?」と言いがかりつけられそうですからね。それにしても最近は通り魔や放火事件とかが多いですよね。(マネージャー「蛭子さんが描いた暴力的な漫画がリアルになっています」)みんな怒りっぽくなっているんですかね。気持ちが落ち着く方法なんて知りませんが、一緒になって怒っているよりも、自分だけでも笑っていることが一番だと思いますよ。外出先でもおもしろいものを探して笑っていればいいと思いますよ。最近のオレは、よく行く公園で子どもがオモチャの取り合いをしている姿を見るのが好きです。
2021年12月06日「金と自由は欲しいけど、何もしたくないーー」を貫いてきたタレントで漫画家の蛭子能収さん(74)。2020年夏に認知症を公表した後も、その“人生哲学”はまったく変わらない。絵を描くよりもテレビの仕事のほうが楽だしギャラもいいと言い続ける蛭子さんに突如湧いた「絵画展プロジェクト」。果たしてプロジェクトは成功するのだろうか……。(第9回/全10回)「蛭子さんの絵は、どこか人を幸せにする魅力があるんですよね」蛭子さんの「最後の絵画展プロジェクト」の第一作となる絵が完成したとき、この日、動画を撮影していたフリーのディレクター・小松隼人さんがぽつりと口にした。〈東京に負けた男〉(仮題)は、「東京で夢破れた」と思い込んでいる蛭子さんが自分の姿を描いたものだ。隣に立つのは、長崎に住んでいたときに勤めていた看板屋の社長だという。東京に打ちのめされた男は「もうだめだ……」と語っている。たしかに悲惨な状況かもしれないが、どこか見る者の心を惹きつけてやまない魅力がある。40年来の盟友・根本敬さんが語る。「無意識過剰の蛭子さんは、人間というよりも、動物的としかいいようのない生き方をしてきたんですよね。自意識や自我が手枷足枷となっている人たちにとって、蛭子さんが、自由に漫画で表現してきた絵や言葉、普段の自然体の発言や指向が心に刺さるんでしょう。認知症になったからこそ、アーティストとして、心に浮かんだものを思い通りに絵にぶつけてほしい。今、蛭子さんは、東京に負けた、負けたと思い込んでいる。それなら、東京に負けた男を徹底的に描き続ければいいんですよ」それにしても根本さんは本気だ。担当記者の私は「蛭子さんの認知症の進行をおさえるために絵を描かせる」程度に考えていた。さらに、その絵が、ほかの認知症の人たちを勇気づけられたらと思っていた。だが、根本さんはこう語る。「リハビリのための絵、では面白くない。“認知症になった蛭子さん”が描いた絵ではなく、あくまでも“芸術家・蛭子能収”として、今の蛭子さんが自由に描いた絵を見てみたい。次はアクリルで書いてもらうのがいいと思います」蛭子さんの絵画展プロジェクトに向けて体制は万全だ。あとは、蛭子さんがやるか、やらないか、だけの問題だ……。
2021年12月05日「金と自由は欲しいけど、何もしたくないーー」を貫いてきたタレントで漫画家の蛭子能収さん(74)。2020年夏に認知症を公表した後も、その“人生哲学”はまったく変わらない。絵を描くよりもテレビの仕事のほうが楽だしギャラもいいと言い続ける蛭子さんに突如湧いた「絵画展プロジェクト」。果たしてプロジェクトは成功するのだろうか……。(第6回/全10回)「あれ~どうやったっけ?」“最後の絵画展プロジェクト”に向けた作品を描いていた蛭子さんの手が止まった。絵のわきに添える文章を描こうとしたが「東京」の「東」の漢字が思い出せない。そばでみていた「蛭子能収の人生相談」担当記者の私・山内は、ノートに「東」と字を書いて蛭子さんに見せようとした。40年来の盟友である根本敬さんは、そんな“おせっかい”を手で制してこう問いかけた。「間違えたっていいんだよ。正しくなくてもいいよ。ひらがなでもいいじゃない」蛭子さんは安心した表情をみせた。絵を描きはじめて20分ほどが過ぎた。「せっかくだから色を塗ろうよ」と根本さんが声をかける。ところが蛭子さんは、少し遠くに座っているマネージャーの森永真志さんのほうをチラチラ見ながら、「次の仕事はなかったっけ?」「まだ大丈夫?」としきりに話しかける。あきらかに注意力が散漫になっている。やはり……。認知症の症状として「もの忘れ」が代表的だが「集中力の低下」も始まる。毎月1回1時間ほどの人生相談の取材でも、30分を過ぎると、蛭子さんは困った顔をして森永さんに「まだ大丈夫?」と聞く。森永さんが「大丈夫ですよ。次に仕事は入っていませんよ」と答えても、蛭子さんはソワソワがとまらない。蛭子さんの落ち着かない様子を前にして、いつも私は慌ててしまう。本日中に聞いておかなければいけない読者の悩み事はまだ残っている。なんとかしなければ。急かすように蛭子さんに“ゆるゆる”の回答をしてもらおうとしていた……。再び蛭子さんが森永さんに“ねえ助けてよ”という表情で「まだ大丈夫?」と声をかける。電池がとまったように、蛭子さんが右手にもったペンはピクリとも動かない。もはやこれまでか……。蛭子さんの集中力が切れたようだ。スケッチブックに描かれた絵は、黒いサインペンで描かれたまま。色が塗られていない。未完成といってもいい。蛭子さんのかつてのイラスト作品は、シュールさも魅力だが、グラフィックデザインを目指していただけに、独特な色彩感覚による色遣いも特徴のひとつだった。蛭子さんのキレやすい集中力──。絵画展プロジェクトの大きな壁となって立ちはだかった。
2021年12月05日「金と自由は欲しいけど、何もしたくないーー」を貫いてきたタレントで漫画家の蛭子能収さん(74)。2020年夏に認知症を公表した後も、その“人生哲学”はまったく変わらない。絵を描くよりもテレビの仕事のほうが楽だしギャラもいいと言い続ける蛭子さんに突如湧いた「絵画展プロジェクト」。果たしてプロジェクトは成功するのだろうか……。(第7回/全10回)“最後の絵画展プロジェクト”の初作品の製作は順調に進んでいたが、蛭子さんの集中が途切れるという問題が発生した。心配そうにキョロキョロとまわりを見渡しはじめる蛭子さんは、気持ちが乱れ、いまにも口から「面倒くさいんですけど」という言葉を出てきそう。サインペンはスケッチブックの横に置かれたまま。この状態から、なにか作業を進めることはほとんど不可能だ。「今日はこれまでか?」と記者の私が思ったとき、「休憩しましょうよ。お菓子でも食べませんか?」根本敬さんに同行した青林工藝舎『アックス』の漫画編集者・高市真紀さんが、絶妙のタイミングで声をかけた。担当編集者として、蛭子さんとは20年以上の親交がある彼女は、手土産の『チーズケーキ』を蛭子さんの目の前に差し出した。「あ~、おいしそうですね」大好きなスイーツを目にして、蛭子さんの表情に落ち着きが戻って来た。根本さんも一緒に、おやつタイムになった。根本さんが語りかける。「ねえ、横尾忠則さんの展覧会に行った?」「あれ~、行ったかな?どうでしたっけ」蛭子さんの代わりに、マネージャーの森永さんがかわりに答える。「蛭子さん、斬新な構図と色彩に目を奪われて“すごい、すごい”と息を荒くしていましたよね」蛭子さんにとって、グラフィックデザイナーの横尾忠則は憧れの存在。2021年10月17日まで東京現代美術展で行われていた横尾忠則の大規模展『GENKYO 横尾忠則』を見て、感激し、圧倒されたことを『サンデー毎日』の連載コラムに記していた。蛭子さんが、なにか思い出したように語り出す。「あ~、横尾さん、すごい大きな絵を描いていましたね。オレには、ちょっと、もうあんな絵は……。もうオレは負けました。アイデアや体力がもうない。もう横尾さんには追いつけないですよ」それを受けて根本さんが穏やかに話しかける。「横尾さんは、蛭子さんより10歳上だよ。それに蛭子さんが本気出したら、横尾さんにも負けないくらいの作品が描けると思うよ」「いや~、もう無理ですよ」とポリポリと頭をかく蛭子さん。「蛭子さんは『負けた、追いつけない』とかネガティブな考えになっているけど、オレは今でも蛭子さんがしっかり取り組んだらすごい作品が描けると思っているよ。そんな絵が完成したら、きっと100万円、200万円で買う人だっていますよ。これから本気を出して絵を描いていけば、蛭子さんが希望する、何歳になっても稼ぐことを実現できると思う。さあ、色を塗って、絵を最後まで描いてみようよ」「本当ですか?オレの絵が100万にも200万円にもなるなんて信じられないな……」根本さんの声に背中を押されて、蛭子さんはカラーサインペンに手を伸ばした。
2021年12月05日「金と自由は欲しいけど、何もしたくないーー」を貫いてきたタレントで漫画家の蛭子能収さん(74)。2020年夏に認知症を公表した後も、その“人生哲学”はまったく変わらない。絵を描くよりもテレビの仕事のほうが楽だしギャラもいいと言い続ける蛭子さんに突如湧いた「絵画展プロジェクト」。果たしてプロジェクトは成功するのだろうか……。(第10回/全10回)「なんか、すごい楽しかった」“最後の絵画展プロジェクト”のための作品を書き上げて、蛭子さんは晴れ晴れしい表情を見せた。「こんなに夢中になったのは、競艇を予想していたとき以来ですね……、あ~、最近、競艇場にいっていませんね」口も滑らかだ。そこで改めて「蛭子能収の人生相談」連載の担当編集・吉田が、最後の絵画展プロジェクトについて説明をはじめた。「蛭子さんが絵を描いている姿を見て、本当に、すごく感動しました。ぜひ絵画展をやってみませんか?この調子で作品を描いていけば、きっと素晴らしい絵画展ができますよ。実は今日は、そのプロジェクトの一環と考えて根本敬さんに来てもらったし、蛭子さんに絵を描いてもらったんですよ」蛭子さんから予想通りの返事が戻って来た。「絵画展?それはちょっと、面倒くさいですね……」吉田も引かない。「絵画展をやれば、入場料などのお金も入ってきますよ。そのお金で競艇にも行けますよ」それでも蛭子さんの心は揺れない。「オレの個展なんかしても誰も来ないと思いますよ。それにもう競艇に行く気がしないんですよ。お金をとられるばっかりですから……」吉田もさらに食い下がる。「絵画展で絵が売れるかもしれませんよ。さっき根本さんも言っていたじゃないですか。フランスやイギリス、世界中に蛭子さんの絵のファンがいます。もしかしたら100万円、200万円出すという人もいるかもしれない。きっと売れますから、絵を描いていきましょうよ」蛭子さんの口もとが緩んだ。「えっ、本当ですか?じゃあ、面倒くさいけど、ちょっとやってみようかな」汗だくになって説得を続けた吉田はホッと息をついた。そんなわけで、人を幸せにする、蛭子さんの「最後の絵画展プロジェクト」が、ーー蛭子さん気持ちが「お金」で動いたことはともかくとしてーー本格的に動き出した。(了)
2021年12月05日「金と自由は欲しいけど、何もしたくない──」を貫いてきたタレントで漫画家の蛭子能収さん(74)。2020年夏に認知症を公表した後も、その“人生哲学”はまったく変わらない。絵を描くよりもテレビの仕事のほうが楽だしギャラもいいと言い続ける蛭子さんに突如湧いた「絵画展プロジェクト」。果たしてプロジェクトは成功するのだろうか……。(第8回/全10回)スケッチブックに体をグーッと寄せながら、蛭子さんは黄色のサインペンで色をつけていく。どこか無骨だった絵が、色遣いが独特な蛭子カラーで彩られていく。黄色のペンを置くと、蛭子さんは消しゴムを手にした。鉛筆を使っていないのに、蛭子さんはサインペンで描いた線になぞって消しゴムをかけていく。まるで鉛筆で描いた下絵を消すように……。疲れが出て、なにか勘違いしていると思った「蛭子能収の人生相談」担当記者の私・山内は、「消しゴムを使う必要はありませんよ」と声をかけたが、蛭子さんは、ずっと消しゴムを使い続けている。40年来の盟友・根本敬さんがこう声をかけた。「いいよ、いい感じ。消しゴムで、黄色がぼやけて、紙に馴染んでくるね」うーん、蛭子さんと根本さんのコンビは、やはり絶妙だ。「ま、これでいいでしょ」と〈東京に負けた男〉(仮題)に、最後に赤いサインペンで着色し終えた蛭子さんが顔を上げた。満足そうに顔をほころばせている。蛭子さんが絵を描き始めて50分ほど。プロジェクトに向けた1枚の絵が仕上がった。「色がついた蛭子さんの絵はやっぱり違う!」「ペンに迷いがない!」「夢中に描いていましたね!」まわりからあがる感想を耳にして、蛭子さんは照れくさそうに笑う。根本さんもこう語る。「前の蛭子さんなら、白い空間をうめるためにUFOや女性の裸を描いていたけどな……。でも、まあ、ちょっと前の、手抜きのイラストよりは断然いいよね」テーマを自分で決めて、思い通りに絵を描く。昨今の蛭子さんには珍しいことだったのかもしれない。そのためには、周囲は、焦らせないで、気長に待つ姿勢が大切だが……。いずれにしても「最後の絵画展プロジェクト」に向けた第一作目が完成した。
2021年12月05日「金と自由は欲しいけど、何もしたくない──」を貫いてきたタレントで漫画家の蛭子能収さん(74)。2020年夏に認知症を公表した後も、その“人生哲学”はまったく変わらない。絵を描くよりもテレビの仕事のほうが楽だしギャラもいいと言い続ける蛭子さんに突如湧いた「絵画展プロジェクト」。果たしてプロジェクトは成功するのだろうか……。(第4回/全10回)40年来の盟友・根本敬さんが蛭子さんを動かした──。サインペンを手にし「なにを描けばいいですかね?」という蛭子さんに、根本さんはこう語りかける。「蛭子さんの好きなモノを描いてごらんよ。今、気になっていることとか、自由に描いてみてよ」蛭子さんは少し考えたあとで、「今は東京が怖い。金が稼げるけど、金をとられていくのも東京。すこし前は東京に勝ったと思ったけど、手強くて、なんか東京に負けたと思って……」と話す。「じゃあ、東京にやっつけられた人の絵を描きましょう」という根本さんの声とともに、蛭子さんが持つサインペンが動き出す──。一心にスケッチブックに向き合う蛭子さんを見ながら、根本さんが語る。「蛭子さんの漫画はどれもすごいんだけど、とくに脱サラして再デビューして描いた『地獄のサラリーマン』がすごい。81年に『ガロ』に載った作品だけど、それをみて“蛭子さんの漫画すごいな、おれも『ガロ』に載りたいな”と思っていたんだよね」作家で編集者の都築響一は、復刻された単行本『地獄のサラリーマン』の帯文に「漫画のひとりセックスピストルズ!破壊せよ、とエビスが叫ぶ」と記している。「蛭子さんは『これを書いて下さい』とテーマが決められるのは苦手でしょう。生活が苦しかった頃、虐げられていたこと、抑圧された気持ちなど、蛭子さんの地がダイレクトに出ている作品はやっぱりすごい。むき出しの欲望と暴力を描いた作品は、日本だけじゃなく、フランスやイギリスにも蛭子ファンがいる。蛭子さんの絵ならお金を払ってでも欲しいという人が世界中にいるんですよ」動いていた蛭子さんのペンが止まった。「ホントですか?世界中から金が入るんですか」蛭子さんの目がキラリと光った。
2021年12月04日「金と自由は欲しいけど、何もしたくない──」を貫いてきたタレントで漫画家の蛭子能収さん(74)。2020年夏に認知症を公表した後も、その“人生哲学”はまったく変わらない。絵を描くよりもテレビの仕事のほうが楽だしギャラもいいと言い続ける蛭子さんに突如湧いた「絵画展プロジェクト」。果たしてプロジェクトは成功するのだろうか……。(第5回/全10回)絵画展プロジェクトの1枚目になるであろう絵を、鉛筆で下絵を描くことなく、フリーハンドで仕上げていく蛭子さん。40年来の盟友・根本敬さんが語る。「本人も平気で言うじゃないですか、『漫画は原稿料が安い。テレビならみんなにバカにされるだけで10倍稼げる』って。たしかにそうなんだろうけど……。かつては狂気を内側から描いていたのに、お茶の間の人気を得てからは、まったくの手抜き状態でしたけどね。やっぱり蛭子さんは絵を描いていたほうがいいんですよ」蛭子さんにどんな作品を残してもらいたいのだろうか?「正直、今から漫画を描くのは難しいですよ。ストーリーも考えないといけないし、なにか締め切りに追い詰められでもしない限り描けないと思います。これからの蛭子さんは、一枚の絵で勝負すればいいんです。これまでのテキトーな絵じゃなくて、しっかり労力をかけて仕上げた蛭子さんの作品にはそれこそ100万円払ってもいいという人がいますよ」そんな根本さんの言葉に、突き動かされるようにペンを動かす速度が増す蛭子さん。〈狂気の漫画家〉から〈お茶の間の人気者〉になったことに、寂しい思いをしている人は少なくない。根本さんはその代表格だ。「蛭子さんのすごいところは、人間の基本である『自我』と『自意識』というのが欠落していること。つまり無意識過剰なところ。理想もプライドもない。見栄を張る、自惚れることもない。だから、漫画やイラストを描いても、いつかこういう作品を描きたいとか、目標や夢、製作欲が一切ない。金さえもらえたらいい。そんな世にも珍しい無意識過剰の人間だからこそ、自意識過剰な人たちばかりのテレビの世界で人気ものになったんでしょう。でも蛭子さんの才能はやっぱり絵で発揮してほしいんだよね」〈金さえもらえたらどんな仕事も引き受ける〉〈葬式で笑ってしまう〉〈自分の子どもの成長に興味がない〉〈蛭子さんのサインをもらうと不幸になる〉──根本さんは数々の蛭子さん伝説の発信元でもある。そんな伝説をまとった“タレント・蛭子能収”はさらに人気を博していった。そんな根本さんが、今、蛭子さんを芸術の世界に引き戻そうとしている。「蛭子さんは、日本のサブカルチャーに大きな影響を与えたアーティストとしての高い評価があるのに、本人はまったく無自覚。気づいていないんですよね。蛭子さんの作品を、もっと多くの人に知ってもらいたいよね」“日本一のクズおじさん”のイメージを世に広めた根本さんが、キュ、キュッと、スケッチブックにサインペンを滑らしていく蛭子さんを柔らかい眼差しで見ている。
2021年12月04日「金と自由は欲しいけど、何もしたくない──」を貫いてきたタレントで漫画家の蛭子能収さん(74)。2020年夏に認知症を公表した後も、その“人生哲学”はまったく変わらない。絵を描くよりもテレビの仕事のほうが楽だしギャラもいいと言い続ける蛭子さんに突如湧いた「絵画展プロジェクト」。果たしてプロジェクトは成功するのだろうか……。(第2回/全10回)蛭子さんが連載している『サンデー毎日』のエッセイ「ニンゲン画報」にはイラストが毎回添えられている。ただ、その筆力は、全盛期の蛭子さんの絵とはほど遠い。サブカルチャー業界を震撼させた、あの独特のタッチにも精彩がない。それ以上に「絵を描くのは面倒くさい」という蛭子さんの思いがひしひしと伝わってくる。今の蛭子さんに、絵画展を開催するまでの絵を描かせるなんて不可能だ。「じっくり絵に向き合ってもらうのは難しいですよ」と、担当編集の吉田に話しても聞く耳を持たない。「とっておきの秘策があるんですよ。最強の助っ人を呼んだんです。このプロジェクトに欠くべからざる最重要人物を」と吉田はにやりと笑った。──2021年11月某日、蛭子さんの人生相談の取材。その取材場所に、相談相手として現れたのは漫画家の根本敬さんだ。蛭子さんの40年来の盟友である根本さんに「友達が絵を描いてくれません」という相談をぶつけてもらい、そのまま蛭子さんに作品を描かせようというのが吉田の思惑だ。伝説のサブカル漫画誌『ガロ』を牽引した根本さんは、過激な作風の“特殊漫画家”としてカリスマ的な人気を誇る作家。さらに『蛭子博士』『蛭子ウォッチャー』という顔も持ち、<葬式で笑ってしまう>などの“蛭子さん伝説”を世に広めた張本人だ。2008年には漫画共作ユニット「蛭子劇画プロダクション」を結成してともに活動するなど、蛭子さんのすべてを知り尽くしている根本さんが協力してくれるなら、絵画プロジェクトも夢ではない!そんな根本さんと蛭子さんの再会──。ところが、根本さんをひと目見て蛭子さんが発した言葉は、「あ~どうも、初めまして」「え?」と表情を引きつらせる根本さん。蛭子さんは、根本さんの存在をすっかり忘れているのか……?蛭子さんの絵画展プロジェクトは、ガラガラと音を立てて崩れた……。(続く)
2021年12月04日「金と自由は欲しいけど、何もしたくない──」を貫いてきたタレントで漫画家の蛭子能収さん(74)。2020年夏に認知症を公表した後も、その“人生哲学”はまったく変わらない。絵を描くよりもテレビの仕事のほうが楽だしギャラもいいと言い続ける蛭子さんに突如湧いた「絵画展プロジェクト」。果たしてプロジェクトは成功するのだろうか……。(第1回/全10回)いつも笑顔を絶やさない蛭子さんの表情が固まってしまった──。それは、『女性自身』で連載中の「蛭子能収の人生相談」を担当する記者の私・山内太が、2021年夏に行った取材の合間の出来事だった。その日、軽い気持ちで蛭子さんに「デジタル庁のロゴ作成者を推薦で募集するという話があるんです。ちょっと書いてみてもらえませんか?」とお願いをした。手渡されたスケッチブックを前にした蛭子さんに、「“デジタル庁のロゴ”からイメージして、ロボットでもパソコンでも何でもいいので」と、ペンを渡したが、いっこうに描き始めない。「デジタルっぽいものを、テキトーに描いてくれればいいですよ」こちらがお願いすればするほど、蛭子さんは戸惑うばかり。時間だけが過ぎていく。「ロボットってどういうのやったっけ?」という蛭子さんに、スマホで検索した画像を見せながら、「いいですよ、ささっとで」と。蛭子さんは、ロボットらしき絵をなんとか描いたが、今度は「デジタル庁」の「デ」の文字が出てこない。「どうやったっけ?」──。時計を気にする蛭子さんのマネージャー。無表情のままの蛭子さん。「蛭子さんがテキトーに描けば、どんな絵でも“シュール”や“不条理”の味が出る」と高をくくっていた私。かつて、サイン会での蛭子さんは、サインを希望する人の似顔絵を添えていた。似ているかどうかはともかく、ささっと30秒ほどで書き終え、色紙を手にしたファンを喜ばせていた。認知症という病が、そんな蛭子さんの才能を奪っていった──。ところが、2021年秋、人生相談連載の担当編集者・吉田健一がこう口にした。「やっぱり今こそ“芸術家・蛭子能収”の作品が見たいんです」青春時代、サブカルチャーの影響を受け、蛭子さんが80~90年代に漫画を描いていた月刊漫画雑誌『ガロ』を愛読していた吉田は、“タレントの蛭子さん”ではなく“漫画家・蛭子能収”を信奉。「できればプロジェクトとして、絵画展ができるぐらい絵を描いてもらいましょう」とまで、のたまう……。デジタル庁のロゴを描いてもらったときのことを思い出すと、そのプロジェクトは成就しないことが明らかだった──。(続く)
2021年12月04日