8月10日(土) から9月1日(日) にかけて、鴻上尚史のプロデュースユニット「KOKAMI@network」(コーカミネットワーク)第20回公演として、舞台『朝日のような夕日をつれて2024』が上演されることが決定した。本作は、鴻上尚史が結成した劇団「第三舞台」の旗揚げ公演として1981年に初演され、再演され続けている鴻上尚史の代表作。サミュエル・ベケットの『ゴドーを待ちながら』を下敷きに、ギャグと遊戯の洪水の中でその時代の最先端を反映し変化し続けた作品だ。8回目の上演となる今回は、81年初演から「初めて」上演キャストを一新して上演する。キャストは、2014年上演の本作にも出演し、現在放送中の大河ドラマ『光る君へ』に出演する玉置玲央、舞台『鋼の錬金術師』シリーズで主演のエドワード・エルリック役を務めた一色洋平、昨年上演の音楽劇『浅草キッド』にて、後輩芸人でコンビを組むも武へのコンプレックスから次第に悲劇へ突き進むことになるマーキー役を好演した稲葉友、2020年の一人芝居舞台『カプティウス』など数々の舞台に出演する安西慎太郎、そして現在放送中のドラマ『恋は湯けむりの中で』や新宿LIVEで上演中の舞台『最果てリストランテ』出演する小松準弥が顔を揃える。東京公演後、大阪公演が9月7日(土)・8日(日) サンケイホールブリーゼで上演される。■作・演出:鴻上尚史 コメントとうとうこの日が来ました。『朝日のような夕日をつれて』は、僕が22歳の時、初めて書いた戯曲で、『第三舞台』の旗揚げ作品として上演した作品です。幸いなことに、その後、2014年まで、計7回も上演することができました。劇団と僕自身の代表作のひとつと評価される作品になりました。男5人が登場する作品で、初演からは大高洋夫、二回目の公演からは小須田康人の二人とずっと一緒に創ってきました。他の役は、何人かは変わりましたが、すべて、「この人と一緒に創りたい」と僕が思った人でした。今回、『朝日のような夕日をつれて2024』では、5人すべてを新しい二十代、三十代のニューメンバーでやることにしました。5人とも、僕が「この人と一緒に創りたい。この人達となら、新しい朝日が創れる」と思った人達です。いろんな人から、「新しい朝日が見たい」と言われてきました。「朝日はとても演技的に難しい作品だから、簡単には、できないんです」とそのたびに答えました。でも、とうとう、上演できるニューメンバーが集まってくれました。劇場でお会いしましょう。とうとうこの日が来ました。<公演情報>紀伊國屋ホール開場60周年記念公演KOKAMI@network vol.20『朝日のような夕日をつれて2024』『朝日のような夕日をつれて2024』ティザービジュアル作・演出:鴻上尚史出演者:玉置玲央一色洋平稲葉友安西慎太郎小松準弥【スケジュール】東京公演:8月10日(土)~9月1日(日) 紀伊國屋ホール大阪公演:9月7日(土)・8日(日) サンケイホールブリーゼ公式サイト:
2024年02月27日鴻上尚史が作・演出を務める舞台『アカシアの雨が降る時』が10月14日(土)から新国立劇場 小劇場で上演される。物語は、桜庭⾹寿美(竹下景子)が倒れたところから始まる。孫の陸(鈴木福)、息⼦の俊也(松村武)が見守る中、目覚めた⾹寿美は自分は20歳の大学生で、陸は自分の恋人で、俊也を恋人の父親だと思いこんでしまう。俊也と陸は医者のアドバイスに従い、⾹寿美の思い込みを否定しないよう、演技を続けることを決意。こうして3人の⾹寿美の青春である70年代を共にすごす旅が始まる――。初演は2021年で、久野綾希子、前田隆太朗、松村武が出演した。鴻上は本作の着想点について「いくつかある」としながら、「久野さんと一度お芝居をやらせてもらって、なんて素敵なコメディエンヌなんだろうと思って。彼女曰くほとんどコメディの芝居をやったことがないというので、じゃあやりましょうと。もう一つは、母を亡くした直後だったんです。自分の中で抱えていたこともあって、母というものを書きたいと思いました」。久野と再演の約束をしていたという鴻上。残念ながら、久野は2022年8月に乳がんで亡くなってしまったが、鴻上は「久野さんは生前『私の代表作だ』と言ってくださっていたそう。すごく嬉しいし、ありがたい。その代表作を再演することは久野さんを忘れないということにも繋がると思って、再演を決めました」と話す。久野の後を継ぐのは竹下景子。「初演のイメージが強いから、二の足を踏むのが当たり前だと思うんですけど、今回引き受けてくださって。稽古が始まってまだ数日ですが、とても“おきゃん”なおばあさんになっていて、素敵です」と鴻上は評する。今回が初参加となる鈴木福については「国民の息子ですからね」と笑いつつ、「陸はなかなか屈折した役。『鈴木福、やるな』と思ってもらえるように、頑張ってもらいたい」。初演から続投する松村武については「彼も劇団の主宰者で演出家なので、何を求めているかをすぐ分かってくれる。物語を俯瞰しブレずにやってくれるのでやりやすい」と話す。観客に対しては「自分で言うのもなんですが、これは名作です。笑いあり、涙あり、歌あり、とても豊かな気持ちになれると思います。劇場でお待ちしています」。東京公演は10月22日(日)まで。その後、兵庫、石川、盛岡、久慈、愛媛、大阪公演も予定されている。取材・文:五月女菜穂
2023年09月25日鴻上尚史が作・演出を手がける『アカシアの雨が降る時』が、10月14日(土) から22日(日) に新国立劇場 小劇場で上演されることが決定した。物語は、桜庭香寿美が倒れた所から始まる。孫の木村陸、息子の桜庭俊也が見守る中、目覚めた香寿美は陸を自分の夫、つまり陸の祖父の名前で呼び、自分は20歳の大学生で、陸は自分の恋人で、俊也を恋人の父親だと思いこみ挨拶した。俊也と陸は医者のアドバイスに従い香寿美の思い込みを否定しないよう、演技を続けることを決意する。こうして3人の香寿美の青春時代(70年代)をともに過ごす旅が始まった――。「家族」という普遍的なテーマを軸に、若者たちの熱気があふれていた70年代(若者たちが抗議活動に参加した「戦車闘争」や、若者のバイブルだった高野悦子著『二十歳の原点』、当時流行した歌やギャグなど)を青年と中年の世代がリアルな現代の悩みを抱えながら体験することで、徐々に変化し、違いを理解し合おうとする姿を描き、2021年の初演時も好評を博した。今回は、主演の桜庭香寿美役を竹下景子、孫の木村陸役を鈴木福、そして桜庭香寿美の息子で陸の父親の桜庭俊也役を松村武が務める。なお本作は東京公演を上演後、兵庫・石川・岩手・愛媛・大阪と巡演する。■作・演出:鴻上尚史 コメントこの作品は、過去と現在と未来を3世代の個性的な登場人物によって描き出す物語です。70年代の記憶に生きる「おばあちゃん」役は、竹下景子さんです。僕自身、青春時代から竹下さんの映画・テレビを見続けてきました。今回ご一緒できるのは本当に嬉しいです。現在を生きるビジネスマンの息子役には、村松武さんです。ものすごく上手い俳優さんです。そして、未来を生きる大学生の孫役は、子役時代から活躍を続ける鈴木福さんです。魅力的な3人のキャストを迎えて今からワクワクしています。初演の「おばあちゃん」役だった久野綾希子さんへの感謝とリスペクトを胸に、魂込めて作品を作ろうと思っています。■竹下景子 コメント『アカシアの雨が降る時』の主人公香寿美さんとは同世代。劇中に登場する歌もギャグも昨日のことのように記憶しています。違うのは社会の出来事に疎かったこと。演劇少女だった私にはベトナム戦争も安保もどこか遠い出来事でした。鴻上ワールドの中で、あの青春を生き直すことができたら。二十歳の私を、50年後の私の体を通してより鮮明に、そしてみずみずしく演じたいと思います。松村武さん、鈴木福さんとの共演も楽しみです。■鈴木福 コメント木村陸役を演じさせていただきます。鈴木福です。初めての3人でのお芝居。鴻上尚史さんの演出のもと、竹下さん、松村さんと、どのようなお芝居ができるのか今からワクワクしています。昨年、初めて立たせていただいた新国立劇場小劇場に戻ってこられることも、とても嬉しく思います。しっかりと稽古を経て、みなさんに素敵な作品を届けられるよう頑張ります!!■松村武 コメント初演に引き続き出演させていただくことになりました。いろんな思いに満ちた、個人的にも忘れ難い大切な作品となりました。新たなお二人の素晴らしい方々とともに、再びこの物語に臨めること、何かとても貴重な機会をいただいたと思っております。とにかく心して、観客の皆さんに丁寧にお届けしていけるよう頑張ります。<公演情報>『アカシアの雨が降る時』作・演出:鴻上尚史【登場人物】桜庭香寿美:竹下景子木村陸(俊也の息子・大学生):鈴木福桜庭俊也(香寿美の息子・サラリーマン):松村武【公演日程】東京公演:10月14日(土)~10月22日(日) 新国立劇場 小劇場兵庫公演:11月3日(金・祝) 神戸朝日ホール石川公演:11月11日(土) 北國新聞赤羽ホール盛岡公演:11月17日(金) 盛岡劇場メインホール久慈公演:11月19日(日) アンバーホール 小ホール愛媛公演:11月28日(火)・29日(水) あかがねミュージアム大阪公演:12月3日(日) 大阪・富田林市すばるホール 2Fホール公式HP:
2023年06月29日鴻上尚史が主宰する「虚構の劇団」で二度上演。劇団を代表する一作として知られる『エゴ・サーチ』が、キャストを一新し9年ぶりに上演される。そこで作演出の鴻上と、小田切美保役で初舞台を踏む吉田美月喜に話を訊いた。本作について、「劇団の中では間違いなく1、2を争うぐらい、自分では気に入っている作品」と語る鴻上。だが初演は12年前。作品の見え方もだいぶ変わってきたようで…。「“エゴ・サーチ”って言葉が当たり前になりましたからね。だから余計に今、この物語は届くんじゃないかなと。また僕らは、インターネットという手に余るツールを得てしまったことで、自分がどう生きるかってことをハードに突きつけられている。実に複雑で、厄介な時代を生きていると思います」吉田は今回の出演をオーディションで勝ち取ったが、「受かったのが不思議なくらい、オーディションでなにも出来なくて…。帰り際、『すみませんでした!』って鴻上さんに謝ったくらいなんです」と振り返る。すると鴻上は、「美月喜さんはね、悔しがり方がすごかったんですよ」とニヤリ。「でもこれだけエネルギーと向上心とガッツがあれば何とかなるかなと。また美保というのが悩みの中に放り込まれる役なので、そこにも合っていたんです」と経緯を明かすと、「本当に運が良かったです!」とパッと吉田の顔に笑顔が戻る。さらに吉田は、「鴻上さんから『演じている時は自分のことを最高の役者だと思って演じ、反省するのは終わったあとにしなさい』と言われたことがすごく印象に残っています。あと鴻上さんって、『ここはこう』と指示するのではなく、『それを自分の言葉で言うとなに?』と聞いてくださる。その会話によって、役にすごく近づけている気がして。稽古場では学ぶことばかりです」と、鴻上に絶大なる信頼を寄せる。その言葉に鴻上は、「だって僕は良い演出家ですから」と大笑い。と同時に、「僕自身、新しい役者とやる時には届く言葉を探す旅になりますし、鍛えられる部分はとても多いです」と続ける。最後に、「生きる勇気や希望を感じられる作品だと思います。この舞台を観ることが、なにか明るい元気のきっかけになってくれたら嬉しいです」と吉田。鴻上は、「役者が変われば違うものになるのは当たり前。初演、再演をなぞるつもりはまったくありませんし、このメンバーで出来るベストなかたちを探っていきたいと思います」と抱負を述べた。取材・文:野上瑠美子
2022年04月08日10月31日(土)~11月23日(月・祝)の期間、紀伊國屋ホールにて鴻上尚史 作・演出の舞台『ハルシオン・デイズ2020』が上演されることが決定した。鴻上が出会った様々な人間と公演するために立ち上げたプロデュース・ユニット「KOKAMI@network」。第18弾となる今回は、絶望と救済、そして希望をテーマに、4人の登場人物が妄想・幻影・虚構と向き合いながら、目まぐるしく物語を展開していく。鴻上作品の中で最も多く上演されている『トランス』のテーマを引き継ぎ、2004年に初めて上演された本作。2011年のロンドン公演を経て、「今だから」届けたい作品として2020年版を上演する。紀伊國屋ホールほか、サンケイホールブリーゼにて大阪公演も開催される予定だ。主演を務めるのは、ミュージカル『フランケンシュタイン』や現在放送中の連続テレビ小説『エール』で注目を集める柿澤勇人。共演には、『恐るべき子供たち』『HAMLET ―ハムレット―』をはじめとする舞台や、TVドラマ出演、執筆活動とマルチな活躍を見せている南沢奈央、連続テレビ小説『なつぞら』や大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』の話題作をはじめ、現在公開中の映画『弱虫ペダル』にも出演している須藤蓮、そして、『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』『天使にラブ・ソングを〜シスター・アクト』など数多くのの舞台に出演する一方、シンガーソングライターとしても活躍する石井一孝が集結。実力派俳優の手により、2020年版として新たに彩られる鴻上ワールドに期待したい。◆作・演出:鴻上尚史コメント『ハルシオン・デイズ2020』を上演することに、本当にいろんな思いがこみ上げています。初演は、自殺系サイトで出会った4人の物語でした。2020では、ツイッターの♯(ハッシュタグ)自殺で、出会った4人の物語です。初演はその中の一人が「人間の盾」になりますが、2020では、目に見えない「自粛警察」に戦いを挑みます。素敵なキャストが集まってくれました。優しさとたくましさが両立する柿澤勇人さん、僕とは二回目、知性と実力が光る南沢奈央さん、チャレンジ精神と野望に溢れた須藤蓮さん、色気と安定のベテラン石井一孝さん。間違いなく、刺激的で面白い作品になると思います。劇場でお会いできることを祈っています。◆柿澤勇人コメント出演予定だった、ミュージカルの中止が発表されたすぐに、鴻上さんから一緒に芝居をやろうと声をかけて頂きました。また舞台で芝居が出来るんだ、しあわせだな。というのが率直な気持ちです。この状況下で、役や作品がどんどん失われていった中だったので…今まで10数年演劇をやってきましたが、今までとは違う感覚の嬉しさでした。鴻上さんと、このハルシオン・デイズについてお話した際、とにかく「生きろ!」というメッセージを伝えるためにやりたいと仰っていたのが印象的で、その言葉で自身も更に身が引き締まりました。鴻上さんは、僕のような若造の意見にも耳を傾けてくれて、且つ、導いてくれる、そんな印象です。そして素敵な俳優の方々が集まりました。生きること、命について考えさせられる素敵な作品です。駆け抜けます。◆南沢奈央コメント鴻上さんの作品に出演させていただくのは、4年ぶりになります。どんな影の部分も、テンポよく、むしろ明るく作り出されていく世界観が私はとても好きです。「ハルシオン・デイズ 」は、死を目の前にして表れる"人の本質"が色濃く描かれます。16年前の初演時とは、大きく変化した世の中になりました。捉え方がまったく違うものになるのではと思う一方、時代を問わずに私たちの胸に響く普遍的なメッセージがたくさん込められていると思います。私自身が作品から感じた「生き抜く力」を持ち、「今上演する意味」というのを噛み締めて演じたいと思います。◆須藤蓮コメント半年ほど前に、自身の俳優としての実力のなさ故、二度と舞台に立つことはできないと確信していたものですから、まあ縁がないだろうとぼんやりしていましたので、決まったときは少しギョッとしてしまいました。自分には勿体ないほどの役をいただきましたが、それに見合うところまで、丁寧に鍛錬していきたいです。たった1日先のことすらわからない世の中ですから、この舞台で突然芝居が大好きになることだってあるんじゃないかと期待しています。◆石井一孝コメント『蜘蛛女のキス』というミュージカルでモリーナという愛深きトランスジェンダーを演じたのは10年ほど前だったか。「女言葉や女性としての自然な所作」という設定が難しく、膨大なセリフもなかなか覚えられず、七転八倒の毎日でした。しかし仲間達と絆を重ねあい壁を超えると、女でいたいというモリーナの心が、男の私にも伝わり、生き生きと女を生きられたのだ。今回は哲造というゲイの役。モリーナとは違い、男として男を愛する役ではあるけれど、自分のいつもの言葉とは違うセリフで、難しい役であることは似ていると感じる。けれど今度は最初からうまくいく...気がしている。しかし鴻上さんとは初めまして。「生きる!」というテーマに立ち向かうのはきっと大変な毎日になると思う。でもHalcyon days(穏やかな日々)を少しでも早く迎えられるよう、気を引き締めて挑みたい。<公演詳細>◆KOKAMI@network vol.18『ハルシオン・デイズ2020』公演日程:【東京公演:紀伊國屋ホール】10月31日(土)~11月23日(月・祝)【大阪公演:サンケイホールブリーゼ】12月5日(土)~12月6日(日)<チケット情報>●東京公演一般発売:10月3日(土)AM10:00〜チケット料金:8900円(全席指定/税込)☆U-25チケット:4500円(当日引換券/税込)※25才以下のお客様を対象とした枚数限定チケットです。当日劇場にて開演30分前より指定席券とお引換え致します。(引換時、要身分証提示)※未就学のお子さまはご入場いただけません※当日券は開演の1時間前より劇場受付にて販売いたします●大阪公演一般発売:10月17日(土)AM10:00〜チケット料金:8900円(全席指定/税込)ブリーゼシート:6500円(全席指定/税込/前売・当日共通)※端のお席になります。シーンにより見づらい可能性があります。☆U-25チケット:4500円(当日引換券/税込)※25才以下のお客様を対象とした枚数限定チケットです。当日劇場にて開演30分前より指定席券とお引換え致します。(引換時、要身分証提示)※未就学のお子さまはご入場いただけません※当日券は開演の1時間前より劇場受付にて販売いたします
2020年09月14日司会をつとめる番組を通じて、多くの外国人のお話を聞いてきた鴻上尚史さん。私たちにとっては当たり前でも、外国人観光客からするとカルチャーショックを受ける東京の光景は意外と多くある模様。なかでも驚きのエピソードを鴻上さんが教えてくれました!日本だから成り立つ、「おまかせ」と「食べ放題」の衝撃。「飲食店で、『おまかせで』と注文することがあると思います。でも、それを海外の方に言うと驚かれることがしばしば。どうやら、『どんな食事が出てくるかわからない』『残り物を出されるかも?』と、警戒するよう。日本人の良心に基づいたオーダー方法なのかもしれません」。また、食べ放題や飲み放題も、海外ではあまり見かけないそう。「理由はとても簡単で、どれだけ食べて飲むかわからないからです。とあるロシア人は、『お店のお酒がなくなってしまう』と言っていましたから(笑)。外国人ほど多く食べられない人が多く、アルコールにもそこまで強くない日本人だからこそ、上手くいくのでしょう」温かい便座ときれいな公衆トイレの数に驚き!日本にやってきた外国人が買っていくものの一つに、温水洗浄便座がある。「まず、ほとんどの人が座った時にお尻が温かい、その気遣いに感動します。お尻を洗う機能も、最初は必要ないと言いながら、次第にその快適さにやみつきになってしまう人が多い。とはいえ、世界での売り上げはそこまで伸びていないのが実情。大きな理由の一つが、海外では硬水の地域が多く、ノズルに石灰が詰まり故障しやすいことです。もう一つトイレにまつわることでいうと、公園やサービスエリアなど、きれいな公衆トイレがたくさんあることに喜ぶ観光客が多くいます。コンビニなど気軽に貸してくれるお店が多いことも、すごく珍しいんです」昔の“寿司・天ぷら・すき焼き”が“ラーメン・寿司・チェーン店”に。最近ハマっている食べ物を聞くと、寿司よりもラーメンを一番に挙げる外国人が増えていると鴻上さん。「スープや麺の味が店ごとに違うバリエーション豊かなラーメンは、探究のしがいがある料理のようです。比較的薄味のものが多い日本食の中、濃厚な味をしており、がっつりとしていて“食べた感”が得られるところも、他の麺類に比べて愛されている理由でしょう」。また、吉野家や松屋といったチェーン店にも観光客が増えている模様。「ワンコインで、美味しくてお腹がいっぱいになる量の食事ができることに驚くようです。特に、ゲストハウスに泊まるなど滞在費を節約したいという旅行者にとっては、嬉しい存在となっています」ヴィーガンたちが喜ぶ精進料理に、熱い視線が集中。もともと人気の観光スポットであったお寺に、以前とは違う目的でやってくる人が増えているという。「これまでは、建築デザインや座禅体験、境内にある屋台などを楽しみにしている人が多かったのですが、最近は、精進料理を食べに来る観光客が目立つようになりました。というのも、さまざまな料理を楽しめることで人気の日本ですが、肉や魚を食べないベジタリアン、さらに卵や乳製品、はちみつなども口にしないヴィーガン向けの料理が食べられる場所は、まだまだ少ないのが現状です。その点、動物性食材を使わない精進料理は、彼らにとって食べられるケースが多く、熱い視線が注がれています」こうかみ・しょうじ作家、演出家。『COOL JAPAN~発掘!かっこいいニッポン~』の司会を担当。虚構の劇団『日本人のへそ』が5/15~、舞台『スクールオブロック』が8/22~公演。※『anan』2020年4月15日号より。イラスト・佐久間 薫取材、文・重信 綾瀬尾麻美(by anan編集部)
2020年04月12日鴻上尚史が作・演出、中山優馬が主演を務めるKOKAMI@network vol.17「地球防衛軍苦情処理係」が現在上演中。その公演レポートをお届けする。【チケット情報はこちら】本作は、定期的に怪獣の襲撃を受けるようになった近未来の地球を舞台に、人類を守るために創設された地球防衛軍……の「苦情処理係」に集まる人々を描いた新作。主人公で苦情処理係の新人・深町を演じるのは、鴻上と2度目のタッグとなる中山優馬。その同期・遠藤を原嘉孝(宇宙Six/ジャニーズ Jr)、先輩・竹村を矢柴俊博、同期・日菜子を駒井蓮、上司・瀬田を大高洋夫が演じる。苦情処理係は、地球防衛軍が怪獣と戦うことで被害を受けた住民達から出る「家が地球防衛軍のミサイルでやられた。弁償してほしい」などのクレームを処理することが仕事。日々対応に追われるメンバーは、時に内容に疑問を感じつつも、人のためになると信じてクレームを受け続ける。ある日、地球防衛軍が苦戦する怪獣の前に謎の巨大生物が現れる。後に「ハイパーマン」と命名されるその巨大生物は戦って怪獣を追い払うが、その巨大さゆえに戦いの中で建物や人に被害が及び、「迷惑」というクレームが殺到する。地球のために戦ったハイパーマンへの感謝もリスペクトもない声に日菜子は激怒。深町にある計画を持ちかける――。開幕前の囲み取材で鴻上が「今は、SNSなんかでみんなが正義の使者になっているというか、 みんなが自分を主張する時代になったなと感じたのが始まり」と話したストーリー。本作でも、登場人物たちの語る正義はそれぞれが理解できるもので、けれどその全てを通すのは現実的に不可能なものでもある。劇中の応酬に「じゃあどうすればよかったの?」と思わずにはいられない、けれど覚えのあるやり取りだ。とはいえシリアスな作品というわけではなく、怪獣の戦闘シーンは演劇の楽しさ満載で、今回は多めだというダンスシーンも華やか。職場のシーンはやり取りが面白く、恋のシーンはロマンチック。登場人物ひとりひとりが生き生きとしていて、彼らを見ていると、人は浮かれもすればヤケクソにもなる生き物で、それが言動に直結するということをやさしく思い出せる。けれどその“一時の感情”から生まれる言動こそ世のクレームの対象になりがちなのだ。では正義とは何なのか?真実とは?愛とは?エゴとは?彼らの迷いはどう結着するのか、ぜひ劇場で確認してほしい。公演は11月24日(日)まで東京・紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA、11月29日(金)から12月1日(日)まで大阪・サンケイホールブリーゼにて上演。取材・文:中川實穗
2019年11月06日鴻上尚史が作・演出を務める新作舞台『地球防衛軍 苦情処理係』が2019年11月2日(土)から紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAにて上演される。主演は、昨年8~9月に上演された舞台『ローリング・ソング』で鴻上と初タッグを組んだ、中山優馬。どんな舞台になるのか。鴻上と中山に話を聞いた。【チケット情報はこちら】物語の舞台は、タイトルの通り、人類を怪獣や異星人から守るために戦う“地球防衛軍”というエリート組織の中にある、“苦情処理係”。「私の家は、地球防衛軍のミサイルで壊された。弁償しろ」などと激しいクレームにさらされながら、日々“正義の戦い”とは何かを苦悩して…。現在、脚本を絶賛執筆中の鴻上。物語の着想を得たのは「SNSなんかで、みんなが正義の使者になっているというか、みんなが自分を主張するという時代になったなと感じたのが始まり」だという。鴻上は「僕の作品なので、どこか社会性があって、単なるファンタジーで終わる話ではない。2時間ひたすら苦情処理をする話ではないです」と笑う。すでにプロットを読んだ中山は「(脚本の設定の)目の付け所がすごい。地球防衛軍だけでもすごいのに、苦情処理だなんて。役者が動いて、どんな物語になっていくのか、楽しみ」と期待を寄せていた。ふたりは、前作『ローリング・ソング』で初タッグを組んだ。鴻上は、中山について「とても良かった。すごく熱心にやってくれたし、芝居に対する態度が真面目だった。今回は優馬がひとりで引っ張る面があるが、気負いすぎず、優馬のいろいろな多面性が出せれば面白いかな」。一方、中山は「スピード感があって、毎回スリリングな舞台で。本番はすごく緊張した」と前作を振り返りつつ、「鴻上さんの指示は分かりやすいし、毎回課題をくれる。目標ができるので、やっていて楽しい」とも語っていた。最後に本作への見どころを聞いた。中山は「いろいろな顔、いろいろな感情を出していきたいと思う。鴻上さんの書いた物語は、間違いなく面白いと思う。だって、地球防衛軍の苦情処理係ですから」。鴻上は「笑いがあって、ダンスも、もちろんファイティングもある。お芝居の楽しさや面白さを、ギュッと集めた作品。間違いなく面白いものにするので、見に来ていただければ」と話した。出演者は中山優馬、原嘉孝(宇宙 Six/ジャニーズ Jr.)、駒井蓮、矢柴俊博、大高洋夫ほか。東京公演は11月24日(日)まで。大阪公演は11月29日(金)~12月1日(日)、サンケイホールブリーゼにて。
2019年09月13日鴻上尚史が作・演出の舞台『ピルグリム2019』が2月22日(金)より東京・シアターサンモールほかで上演される。本作品は、鴻上が1989年に劇団「第三舞台」の作品として手がけた作品で、2003年には新国立劇場にてシリーズ「現在へ、日本の劇」のオープニング公演を飾っている。今回、虚構の劇団第14回公演として上演することが決まった。出演する秋元龍太朗と、鴻上に話を聞いた。【チケット情報はこちら】秋元が演じるのは、主人公の売れない作家・六本木と同居している、ゲイの直太郎。初演は勝村政信、2003年は山本耕史が演じた役だ。秋元が初めて鴻上の演出を受けた舞台『もうひとつの地球の歩き方』(2018年)では、「普段の自分のイメージと割と近い役柄」だったが、今回の直太郎は違う。秋元は「今回、鴻上さんからガッツリ試練を与えられたと感じた一方で、役者としての次のステップを用意してくれたと思った」と話す。「鴻上さんの演出は、新しい自分を知っていくような感覚になる。前回は常にいっぱいいっぱいだったけれど、今回はふっと楽になれる瞬間がある。他の舞台に出ていても、鴻上さんの言葉を思い出すようなことがたくさんあった。ひとつひとつの言葉が少しずつ自分のものになっているような気がする」対して鴻上は「続けて一緒にやるということは、次に行きたいから。いろんな面の龍太朗と一緒に遊べたらすごくいいなと思っている。舞台で経験を積んで、自分の中の水準ができて、その上で、舞台上で遊べるようになると、鬼に金棒だと思う」と、秋元に期待を寄せる。およそ16年ぶりの上演。社会情勢も変化し、平成という時代が終わろうとしている。2019年版を上演するにあたって、鴻上は「16年前はまだ、人と人がつながること、目に見えないネットワークがあることが希望だった。けれど、今はインターネットとスマホによって、かつての希望から重荷や苦痛になった。つながることがかえって、孤独や寂しさをあぶり出すことになった」と話す。物語の枠組みは変わらないものの、きっと“2019年らしさ”が上手に入り混じった演出で、鴻上らしい作品になるのだろう。最後に鴻上は「龍太朗ファンの人から、昔の『ピルグリム』を見たことがある人、どうやって集団で生きていったらいいんだろうなと悩んでいる人も含めて、幅広い年齢の方に見てもらえたら」。秋元は「僕もいろんな人に見てほしい。例えば30年前の『ピルグリム』の初演を観ていた方にも、30年経った今、作品をもう1度見てもらいたい」と語った。東京公演は2月22日(金)~3月10日(日)、大阪公演は3月15日(金)~17日(日)に大阪・近鉄アート館、愛媛公演は3月23日(土)・24日(日)愛媛・あかがねミュージアム あかがね座にて。チケット発売中。文・写真:五月女菜穂
2019年02月15日美しいプロポーションとバレエで鍛えた柔軟な肢体を、73歳になってもキープし続ける金井克子。Theレビュー『カーテンコールをもう一度!2018』(9月5〜7日、東京・EXシアター六本木にて)では、往年の名曲とダンスで、まぶしい青春を再現する。出演者はほかに、レビュー出身の前田美波里、本作のプロデューサーも務める中尾ミエ、ロカビリー界のレジェンド・尾藤イサオら。彼女たちの、年齢をまったく感じさせない“いつまでも現役”ぶりには脱帽だ。「(前田)ビバちゃんと(中尾)ミエちゃんと私を合わせると200歳を超しちゃうんですけど、みんな昔からずっと歌って踊ってるのよ、飽きもしないで(笑)」(金井・以下同)舞台は、今は廃墟となった伝説のレストラン・シアター。金井、前田、中尾の3人は、レビューショーの聖地であるこの地を再建してほしいと、依頼される。「前半は若い時代を振り返るトーク、後半は私たちが現代に現れるつくりで、懐かしい’60〜’70年代のヒット曲を披露します」本作は、昨年好評を受けた公演の再演だ。「再演になったらどうしよう、体力はもつのかしら……って感じでしたけど、これが最後かもしれないから挑戦してみよう、と。足をきれいに高く上げるためにせっせとジムに通って……そんな年齢になってしまいました(笑)。だけど、今だからこそ懐かしい仲間たちと往年の名曲を楽しめますね」これまでの仕事漬けで多忙だった人生を振り返って、金井自身が“あの思い出を、あの気持ちをもう一度”と焦がれるのは……。「30年ぐらい前にパキスタンで挙げた結婚式!主人はジープでサハラ砂漠を旅するような人で、いとこが住んでいるパキスタンでの挙式を選びました。私はお姫様みたいにゴージャスなサリーを着せてもらって、彼は白いターバンを巻いた王子様としてゾウに乗って私を迎えにやって来たの。まわりではロマたちが踊っていて。新婚旅行を兼ねてインドやネパールも旅しました。当時はバタバタと忙しかったけれど、今、改めて客観的に自分の結婚式を眺めて楽しめたら素敵よね」結婚願望はなかった当時の金井だが、一般男性と縁があって夫婦になり幸せな日々を送っている。オフのときは、大阪の自宅で“普通の主婦の生活”を送っているそうだ。「車でスーパーへ買い物に行くときもあるんだけど、ふだんはママチャリで(笑)」
2018年09月03日作・演出が鴻上尚史、作詞・音楽監修が森雪之丞の豪華タッグで贈る新作舞台「ローリング・ソング」。転がり続ける人生の中で、胸の中に鳴りやまない音楽への夢を、三世代の男達があがきながら歌い上げていく物語だ。20代のミュージシャン役にはジャニーズの中山優馬、40代の元ロッカーにして現在は納豆売りの男役にはロックバンドMICHAELの松岡充を各々キャスティング。そして、60代の結婚詐欺師役を演じるのが、日本を代表する俳優&歌手の中村雅俊だ。【チケット情報はコチラ】中村が鴻上の舞台に出演するのは約10年ぶりだという。「お互いの舞台やライヴをよく行き来して、一緒にやろうとずっと言っていたので、遅いよという感じ(笑)。鴻上さんの舞台は、前回の『僕たちの好きだった革命』もそうでしたが、実にきめ細やか。台詞にふさわしいキーの高さ、メロディ、ニュアンスなどが細部まで的確なんです。さらに全体を見渡し、観客を一瞬たりとも飽きさせない構成力を備えているのも素晴らしい。今回は稽古の度に台詞に直しが入っていて、鴻上さんの真剣さがひしひしと伝わってきますね。詐欺師役はこれが初めてですが、俳優の演じる仕事と共通する部分もあり、台詞を本音か嘘かわからなくなる瞬間があるのが面白い」今回は音楽劇ということで、歌が重要な役割を果たすが、歌謡界の大御所・森が手がける音楽の聴きどころを尋ねると、「舞台全体で7~8曲あって、僕が歌うのは2曲。1曲目は、自分が口説く納豆売りの母親・久野綾希子さんとのコミカルなデュエットです。彼女との共演は久々ですが、さすがは劇団四季の出身で歌がお上手。もう1曲は、『あゝ青春』。43年前に松田優作さんと共演したドラマ『俺たちの勲章』のテーマ曲でした。どちらも百戦錬磨の森さんらしい、鴻上さんの舞台の流れに合った巧みな作詞と選曲だと思います」音楽への夢を持ち続けることへの喜びや不安を描いた今回の舞台。過去に多くのヒット曲を残してきた中村だが、自身の20代と40代を振り返りながら、共演の中山&松岡に対する印象を次のように語る。「プロになるのも売れ続けるのも難しい音楽の世界で40年以上やってこられた自分は、本当に幸せでした。20代は膨大な時間があって、将来なんて全く考えなかった。その後、場数を踏んで得たキャリアを周りにどう還元するかを意識したのが40代。60代はそれがもっと熟成するけれど、今度は体力の問題が出てきて(笑)。この点、優馬も松岡君も、僕とは音楽的にも俳優的にもタイプが違う。優馬は稽古段階から台詞をひとつもとちらない集中力の高さが凄いし、松岡君は台詞の喋り方も“ミュージシャンそのもの”なのが魅力だと思います」公演は8月11日(土・祝)から9月2日(日)まで、東京・紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYAにて。その後、福岡、大阪を巡演する。取材・文:渡辺謙太郎(音楽ジャーナリスト)
2018年07月27日期待の新人・金井浩人と演技派女優の池脇千鶴のW主演で、『夏美のホタル』『ふしぎな岬の物語』の原作・森沢明夫による同名小説を映画化した『きらきら眼鏡』。死と恋愛というテーマを織り交ぜた人間ドラマとして注目を集める本作のビジュアルが解禁。併せて犬童一利監督、金井さん、池脇さんのコメントが到着した。恋人を事故で失った喪失感から立ち直れずにいる青年・明海(金井浩人)、1冊の本を介し、明海と知り合ったあかね(池脇千鶴)は、余命宣告された恋人・裕二(安藤政信)を抱え、日々を過ごしていた。あかねを通じて裕二と触れ合うことで、立ち止まっていた明海の心に変化が生まれていく…。本作が映画デビューとなる金井浩人は、新人ながら際立った演技力が高く評価され、主役に抜擢されたという逸材。W主演となるヒロインには、『ジョゼと虎と魚たち』『そこのみにて光輝く』など確かな演技力が光る池脇千鶴、その恋人役に『キッズ・リータン』『GONIN サーガ』『花芯』など日本映画界を代表する安藤政信。さらに、人気急上昇中の若手俳優『覆面系ノイズ』の杉野遥亮、ViVi専属モデルで『東京喰種トーキョーグール』などの映画でも活躍する古畑星夏、『富美子の足』で話題の片山萌美、『ひかりのたび』で長編映画初主演を務め、話題を呼んだ志田彩良ら、いま注目の若手俳優陣が集結!スタッフ陣も、石倉三郎主演、キム・コッピ共演の『つむぐもの』の犬童一利がメガホンを取り、「相棒」シリーズなどの守口悠介が脚本を、『そこのみにて光輝く』『つむぐもの』の前田紘孝がエグゼクティブ・プロデューサーを務めるなど盤石の布陣が揃い、映画ファンの間で熱い注目を集めている。このほど、メインの舞台となる千葉県船橋市の街を背景に、明海とあかねが並んで歩く、ティザービジュアルが解禁。澄み切った空の下でありながら、2人の微妙な距離感、空気感が伝わってくるビジュアルに、期待は高まるばかりだ。また、併せて主演となる金井さん、池脇さん、犬童監督、前田エグゼクティブ・プロデューサーからコメントが到着している。キャスト&スタッフからコメント到着■金井浩人未だに色んな思いが溢れんばかりにあって、言葉に詰まってしまいます。この作品に携わり本当に沢山の出会いがありました。その多くの出会いや、またこの物語に感化されたことで、自分自身のこれまでを回顧し、今現在を肌身で感じ、これからを見つめ続けた日々でした。いつかのあのとき、あることを思い、あるところへ行着き、人に出会って、あれをしてこれをして。そんな繰り返しがあって今自分はここにいて、この人達に出会って、一緒にものを創っていて。全てが繋がっていて今なのだと。なにか、この映画が物語っていることとその時の日々が、力強く通じているような気がしてなりませんでした。そんなことを心の片隅で小さく想い続け、全うした気がします。この映画を背負い、これからを生きていけることが幸せでなりません。多くの人に届くことを祈っています。■池脇千鶴いま思い返すと、撮影していた毎日がきらきらしていたのかもしれません。普段はそんなにきらきらなんてしませんが(笑)、心から信頼できるキャスト、スタッフ、そしてあかねという役のおかげでほがらかに毎日を過ごすことができました。繊細で傷つきやすく、それでも精一杯人生を生きようともがく優しい人間たちを、観てくださる皆さんにしっかりと見届けていただければと思います。■犬童一利監督本当に沢山の人に支えられ、無事にクランクアップを迎えることができました。現在編集中ですが、原作の魂を引き継ぎつつ、映画ならではの『きらきら眼鏡』を皆さんに届けられると思います。素敵なスタッフ、俳優部、そして地域の方々と丁寧に作っています。今の日本にこそ必要な映画になると信じています。ご期待ください。■前田紘孝エグゼクティブ・プロデューサー本作品、クランクイン前から、市民の皆さまに、制作プロダクションがいままでにないくらい、踏み込んでいきます、ホンモノの共作にしましょう。と宣言してクランクインしました。その分、たくさん摩擦もありました。しかしながら、その摩擦で生まれた「温度」は、この作品にしっかり刻まれたと思います。大きな喜びと手応えでいっぱいです。多くの皆さまに届けたいです。支えてくださった皆さまに、心から感謝いたします。さらに、エンディング曲「Reminiscence ~回想~」を、チェロ奏者・柏木広樹が書き下ろし、ヴァイオリン・葉加瀬太郎、ピアノ・西村由紀江という日本の音楽界を代表する豪華トリオでの演奏も決定した本作。死生観と恋愛観を織り込みながら主人公の成長を描く、珠玉の人間ドラマの公開を楽しみにしていて。『きらきら眼鏡』は2018年、全国にて公開。(text:cinemacafe.net)
2017年12月20日作・鴻上尚史×演出・菜月チョビ『パレード旅団』が上演中だ。OFFICE SHIKA REBORN 「パレード旅団」チケット情報本作は、OFFICE SHIKA PRODUCEによる新シリーズ「OFFICE SHIKA REBORN」の第一弾。「名作は、死なない」のキャッチフレーズのもと、これまでの名作戯曲を上演していくシリーズとなる。その1作目である『パレード旅団』は、本作で演出を務める劇団鹿殺し座長の菜月チョビが“初めて目にした「演劇」”という鴻上尚史の戯曲。現在59歳の鴻上が27歳のときに原型を書き、その10年後の1995年に鴻上主宰の劇団「第三舞台」(2012年解散)で上演された作品だ。舞台は、「いじめにさらされている中学生の世界」と「崩壊にさらされているある家族の世界」、そのふたつの世界を往復するように進行し、キャストは“ある少年の家に全国から集まったいじめられっ子7人”と、“洪水で流される家の中に閉じ込められたバラバラの7人家族”の2役を演じる。ダンスや歌、布を使った水の表現、大きな扇風機でつくり出す台風の表現など鴻上戯曲テイストを感じる演出を、菜月ならではギラリとした味付けでみせていく世界。そこに登場する7人+2人の人物たちのやり取りは、2017年に上演するうえでのアレンジも加えられてはいるが、これが約30年前に生まれた物語だと思うとある種の絶望を感じるほどに現代に響くものだ。中でも、いじめられっ子の少年の「復讐、しませんか?」や、父親の「今日かぎり、父さんは父さんをやめようと思う」という台詞は印象的。そこの言葉を発端に、物語が動きだす。全く違う軸で展開するふたつの世界が徐々に近づいていくかのように、世界間の往復テンポも少しずつ上がっていき、ある瞬間、交差する。そのとき、思いもよらない光景がそこに広がった。その光景は、菜月の描く世界とも鴻上の描く世界とも感じられる、演劇ならではの鮮烈な魅力を放っていた。公演は、犬のポチ役を伊藤今人が演じる「踊る犬組」、菜月が演じる「歌う犬組」があるほか、葉丸あすか(柿喰う客)が演じる婚約者役を「日替わり婚約者」として七味まゆ味(柿喰う客)やファーストサマーウイカ、有田杏子(劇団鹿殺し)が演じる日も設定されており、さまざまなバージョンが楽しめる。『パレード旅団』は12月17日(日)まで東京・シアターサンモール(終了)、12月21日(木)から24日(日)まで大阪・ABCホールにて上演。撮影・取材・文:中川實穗
2017年12月18日2月13日、東京・目黒区の碑文谷会館の葬儀会場には、悲しみに暮れるタモリ(71)の姿があった。トレードマークであるサングラスの奥に光るものをたたえながら、じっと無言で祭壇の前に立ち尽くす。その視線の先には、「タモリカップ」のロゴ入りの帽子をかぶった男性の笑顔の遺影が。金井尚史さん(享年56)。数多の人気番組に出演してきたタモリがもっとも信頼を寄せていたテレビマンが、この金井さんだった。 「タモリさんとは90年代にラジオ番組『タモリの週刊ダイナマイク』で仕事をしたのが親しくなったきっかけだったと聞いています」(芸能関係者) タモリと金井さんは、瞬く間に意気投合。2人の親密ぶりを、ニッポン放送関係者が明かす。 「金井さんは、相手の懐に入るのが早くてうまい。タモリさんと番組を始めたときもそう。タモリさんがヨットが好きだと聞くと、あっという間に1級船舶免許を取って周囲を驚かせた。以降、公私に渡って親しい付き合いを続けていました。毎年お正月はタモリさん宅で過ごしていましたし、『笑っていいとも!』が終わった直後のタモリ夫妻のヨーロッパ旅行にも、彼は同行していました」 タモリの夢の実現に一役買ったのも、金井さんだった。前出の芸能関係者は語る。 「タモリさんは昔から『ヨットレース=お金持ちのスポーツというイメージをなんとか払拭したい』と話してました。参加費を下げて、誰でも気軽に楽しめる、そんなヨットレースをやりたいというのがタモリさんの夢でした。ですが、いくら著名なタモリさんでも、ヨットレースを主催するのは難しいだろう、というのが大方の関係者の意見でした」 これまで、いくつもの難しい番組企画を成立させてきた金井さんは、その高い交渉能力、プロデューサーとしての手腕を、タモリのためにいかんなく発揮した。参加費を抑えるために、たくさんの企業に協賛を求めて回った。 「そうして09年、『日本一楽しいヨットレース』を謳い文句にスタートしたのが『タモリカップ』です。大会プロデューサーとして毎年開催を続けながら規模を拡大させて、昨年には237艇が参加する日本一のヨットレースにしたんです」(ヨット関係者) タモリカップをここまで大きく育ててきた2人。その絆はいつしか揺るぎないものとなっていた。しかしタモリにとってかけがえのない存在である金井さんに、病魔が襲い掛かる。15年5月、検診を受けた金井さんの体にがんが発見されたのだ。金井さんの友人が語る。 「肝臓がんでした。精密検査の結果から、医師は『余命3年』と告げたそうです。金井は人一倍明るい性格なので『まいったよ~』と笑顔で僕らには話してましたけど……」 医師からの余命宣告に、本人以上にショックを受けたのがタモリだった。 「彼の病状を聞いたタモリさんは、ひどく驚いていたようです。そして金井に向かって突然、『おれ、引退するから。ヨットで世界一周しよう』と言ったんです」(金井さんの友人) 複数のレギュラー番組を抱え、芸能界で不動の地位を築いたタモリ。だが、それらすべてを投げ捨ててまで、タモリは金井さんに生きるための希望を与えたかったのだ。しかし、金井さんの病状は予想以上に早く悪化していった。 1月末、家族以外面会謝絶だったがタモリだけは面会を認められた。やがて金井さんは意識を失う。ベッドサイドから見守っていたタモリはこんな提案を。タモリはジャズ好きなことで有名だが、金井さんもサックスが趣味だった。好きな音楽を聞いたらもしかして――。 「音は聞こえているかもしれない。耳元で音楽を流してあげたらいいんじゃないかな」 しかし今月9日、午前2時4分。タモリの願いもかなわず、金井さんはついに帰らぬ人となった。冒頭で紹介した葬儀会場でのこと。身じろぎもせずに金井さんの遺影を見つめ続けたタモリは、出棺直前、真っ先に棺に歩み寄った。 「タモリさんがとくに弔辞を述べることはありませんでした。でもこのとき、棺の中には2人が育てたタモリカップのパンフレットも収められていました。そのパンフレットに目を落としながら、タモリさんは故人の顔の横にそっと花を置いたんです」(前出・芸能関係者)
2017年02月21日鴻上尚史のプロデュースユニット「KOKAMI@network」の第15 回公演『サバイバーズ・ギルト&シェイム』が、11月11日に開幕した。KOKAMI@network『サバイバーズ・ギルト&シェイム』チケット情報「サバイバーズ・ギルト」とは、戦争や災害、事故、事件から奇跡的に生還を遂げた人が、周りの人々が亡くなったのに自分が助かったことに対して感じる罪悪感のこと。日本では特に3.11(東日本大震災)で広く浸透した。本作のタイトルにはそれに日本人ならではの「生き延びた恥ずかしさ(シェイム)」が加わっている。物語は、戦場から1年ぶりに故郷に戻ってきた主人公が母親に「母さん。僕ね、死んじゃったんだ」と告白することから始まる。主人公の水島明宏を演じるのは、本作で初主演を務める山本涼介。明宏が所属していた大学の映画サークルの先輩・夏希を演じるのは南沢奈央。さらに、身体が弱い明宏の兄を伊礼彼方、明宏の所属する部隊の上官・榎戸を片桐仁、明宏の母親を長野里美、その婚約者・岩本を大高洋夫が演じる。明宏が本当に幽霊として戻ってきたのかそうでないのかは、明かされないまま物語は進んでいく。とぼけた母親は息子の帰宅を喜び、堅物の兄は「戦場に戻れ、非国民!」と非難する。そこに母親の婚約者や、明宏の上官まで現れると混乱状態に。そんな中で明宏は「生きた証を残したい」と夏希に出演を頼みこみ、最後の映画撮影に挑む。“抱腹絶倒の爆笑悲劇”と銘打たれた本作。登場人物それぞれの個性は強烈で、ちょっとした会話にいちいち笑わされてしまう。中でも片桐が巻き起こすハチャメチャなやり取りには何度も爆笑が起きていた。その一方で、そんな彼らがそれぞれの理由で抱えている「自分が許せない」という感情。それは懺悔のように吐露したところで終わらない感情だが、物語の中で少しずつ溶かされ、温められ、さまざまに昇華されていく。「映画の撮影が終わるまで」をひとつの支えのようにして進んでいく彼らの結末を、ぜひ劇場で見届けてほしい。笑いながらも泣けてしまうし、泣きながらも笑ってしまう。そんな演劇ならではの体験ができる作品『サバイバーズ・ギルト&シェイム』は、12 月4 日(日)まで東京・紀伊國屋ホールにて。取材・文:中川實穗
2016年11月17日作家・演出家である鴻上尚史のプロデュースユニットKOKAMI@networkの第15回公演『サバイバーズ・ギルト&シェイム』が11月に上演される。主演は、『仮面ライダーゴースト』の仮面ライダースペクター/深海マコト役などを演じた山本涼介。鴻上と山本に話を聞いた。KOKAMI@network vol.15『サバイバーズギルト&シェイム』チケット情報鴻上書き下ろしの新作である本作。「サバイバーズ・ギルト」とは、戦争や災害、事故、事件などに遭いながら奇跡的に生還を遂げた人が、周りの人々が亡くなったのに自分が助かったことに対してしばしば感じる罪悪感を表す言葉。鴻上は本作が生まれた背景について「“サバイバーズ・ギルト”という言葉、生き残ったことへのいろんな想いについて、ずっと考えていました。具体的にはやっぱり3.11。それまでもそういうことはあったけど、国民として“サバイバーズ・ギルト”にどう向き合えばいいんだろうっていうことを、みんなが考えだしたのはやっぱり3.11以降なんじゃないかなって思うんですよね。“シェイム”って足したのは、日本人らしく生き延びた恥ずかしさもあるだろうってことで。このタイトルで作りたい作りたいと思ってて、やっと作品になりました」と語る。それを“抱腹絶倒の爆笑悲劇”と表現するのは「悲劇的な状況をどれだけ笑える状況にするかっていうのが、表現の力だったり、芸術や芸能のやるべき仕事だと思っているから」(鴻上)。山本は舞台初主演。「台詞が出ない夢を見ます(笑)」とプレッシャーを感じながらも「共演者のみなさんは、僕にはまだできない芝居をする方々。観て学びたいですし、この舞台を通してたくさんの“初めて”を経験していきたい。一個一個大事にできたら」と意気込む。そんな山本に鴻上は「涼介の仕事は、野球でいえばピッチャーとしてとにかく一生懸命球を投げること。周りの守備たちはベテランなのでどんな球が飛んできても処理する。だから観客は一生懸命投げる涼介の姿に一番感動するんだよ」と話す。山本が演じるのは、戦場から「死んじゃった」と帰ってきた主人公。天国に行かずに故郷に戻った理由は、大学で所属していた映画研究会で納得できる映画がまだ撮れていないから。南沢奈央をヒロインに最後の映画を撮ることを決意する。「人に対してまっすぐぶつかる人。自分とそこまでかけ離れてないので、自身にあるもので活かせるところは活かしていきたいですね」(山本)。「テーマは「生きる」ってことかなあ。「サバイバーズ・ギルト」に苦しんでいる人もいない人もみんないろんな意味で生きのびて苦労してると思うんです。そういう時に、深刻に悩むんじゃなくて笑い飛ばせる力を少しでも与えられる作品になれば。」(鴻上)公演は、11月11日(金)から12月4日(日)まで東京・紀伊國屋ホールにて。取材・文:中川實穗
2016年10月18日1988年の第三舞台第20回公演として誕生した鴻上尚史作・演出の『天使は瞳を閉じて』。以来、さまざまなバージョンで披露されてきたこの作品が、鴻上率いる「虚構の劇団」で5年ぶりに上演される。放射能に汚染されて誰もいなくなった地球に天使だけが残された──。そんな物語の設定が、リアルに感じられた5年前。あれから5年で何が変わったのか。ユタカ役で客演する上遠野太洸と鴻上が、上演に向けての意気込みを語った。【チケット情報はこちら】鴻上は今回の上演を決めた思いをこう語る。「この作品は、もともと、チェルノブイリ原子力発電所事故が起こったあとに、地球上から人類がいなくなったらどうなるんだろうと着想したものでした。それが、5年前の上演では、上演を決めたあとに東日本大震災が起こって、思いがけず日本の状況にシンクロしてしまった。それから5年、この間に忘れられてしまったこともあるのではないか。本当に意味のある5年だったのか。今上演したらどう感じてもらえるのか。そんな興味があって、もう一度やろうと思ったんです」。そこに客演として呼ばれた上遠野は、誰もいなくなったと思われた地球上で、透明な壁に守られて生きている人間のひとりを演じる。この作品では彼らの格闘を細かい心理描写で描いていくとあって、今、人間の内面を表現することへの苦悩と喜びを感じているようだ。「たとえば怒る場面があったとして、その怒りは悲しみから生まれているものなのかとか、そこに付随するものまで考えさせられる。だから、感情というものを今までよりも深く見つめられるようになってるんです。それをどう表現して伝えていけるのか、これからの稽古でもっと高めていきたいですね」。鴻上から見ても、上遠野の成長ぶりは著しい。「太洸が演じるユタカは、意識的にも無意識的にも自分を持て余し、自分と周りを傷つけながら引っ掻き回すという役なので、演技力のあるイケメンでないと(笑)、説得力がない。それに、太洸はとても熱心で努力家だから。演出家としてはやっぱり、必死になってやってくれる人だと、一緒に手を取っていける。彼の参加によって劇団員にもいい化学変化が起こってくれるといいなと思っています」。新しいユタカの存在が、きっと新しい『天使は瞳に閉じて』につながるだろう。歴代の作品を観てきた人も初見の人も、ぜひ目撃してほしい。これが今の“テントジ”だ。『天使は瞳を閉じて』は8月5日(金)から14日(日)まで東京・座・高円寺1で上演。その後、愛媛、大阪、東京を周る。取材・文:大内弓子
2016年07月25日KOKAMI@netwaork vol.14『イントレランスの祭』がまもなく幕を開ける。イントレランスとは不寛容の意味。作・演出の鴻上尚史が、不寛容になっている今の時代を、地球人に憧れる宇宙人と、宇宙人を愛した地球人の物語に託した。彼らの愛と戦いの日々から見えるのはどんな風景か。宇宙人を演じる岡本玲とともに、稽古が進む今の思いを聞いた。KOKAMI@netwaork vol.14『イントレランスの祭』チケット情報『イントレランスの祭』は4年前、鴻上率いる「虚構の劇団」の第8回公演作品だ。それを再び「KOKAMI@netwaork」で上演することにしたのには、鴻上のこんな思いがある。「世の中がどんどん不寛容になっているなと感じた4年前より、状況はシビアになっている。だから、今やる意味がすごくあるのではないかというのがひとつ。そして、僕が若いヤツを育てている『虚構の劇団』ではなく、すでに育った役者さんたちを呼んでやることで、また違うものが見えるだろうと思ったんです」。そこで、地球人を演じる風間俊介の相手役となる宇宙人役にと声をかけたのが、岡本玲。風間とは朝ドラ『純と愛』で兄妹役を演じ、鴻上ともかつてラジオ番組で共演経験がある、信頼のおける女優である。岡本のほうも鴻上の舞台への出演は念願だったという。「鴻上さんの作品は、テーマはいろいろあるんですけど、観ると必ず元気になって帰れる。だから、私も、エネルギーを与える側になりたいとずっと思っていたんです」。演じ手が変わったことで、同じ戯曲でもやはり変化はあると鴻上はいう。「これは人間がぶつかっていく話。一人ひとりの人間が鮮明になればなるほど、ぶつかり度合いも大きく深くなっていきますし、演劇って結局人間を見せるものなので、より面白くなっていると思います」。だから岡本も燃えている。「私自身は演じながら、人間社会って煩わしいな、もっと笑って許し合えたらいいのにって思ってるんですけど(笑)、その煩わしさを表現するには、もっともっと繊細に演じていかなければなと思うんです」。しかし、鴻上作品のこと、不寛容な社会を切り取るだけでは終わらない。「世の中にはいろいろ問題があるけど、それでも生きていこうよと、やっぱり絶望じゃなく希望を描きたいんです」(鴻上)。「この作品を観ると、日常でイヤな人とか事柄に出会っても、いろんな人がいていろんなことが起こるから世の中面白いんだって、寛容になれるんじゃないかなと思うんです」(岡本)。日常を変えてくれるような演劇の力を、きっと体感できるだろう。公演は4月9日(土)に東京・全労済ホール/スペース・ゼロにて開幕したのち、4月22日(金)から大阪・シアターBRAVA!、4月29日(金・祝)から東京・よみうり大手町ホールにて上演する。チケットは発売中。取材・文:大内弓子
2016年03月28日●宇宙行きはゴールではなく夢に向けた第一歩宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2015年8月26日、金井宣茂(かない・のりしげ)宇宙飛行士を、国際宇宙ステーション(ISS)の第54/55次長期滞在搭乗員に任命したと発表した。出発は2017年11月ごろ、滞在期間は約半年間が予定されている。それを受け、8月27日には記者会見が行われ、宇宙飛行士になろうと思ったきっかけや、このミッションに向けた意気込みなどが語られた。金井さんはISSでどのような活動を行うのか。そしてそれに対する意気込み、また自身を「"もぐり"の宇宙飛行士」と呼ぶ理由、さらに金井さんの後の、日本の有人宇宙活動について、見ていきたい。金井宇宙飛行士に関連する記事・【インタビュー】ISS長期滞在が決定した金井宇宙飛行士が語る - 宇宙旅行が当たり前になるためにロケット以外で重要なものとは・【レポート】海底から火星を見据えて - JAXAの金井宣茂 宇宙飛行士が語った宇宙へのリハーサル・JAXAの金井宣茂宇宙飛行士、ISS第54次/55次長期滞在搭乗員に決定○「宇宙行きはゴールではなく夢に向けた第一歩」金井さんは1976年生まれで、現在38歳。2002年に海上自衛隊に入隊し、医師の資格を有する幹部自衛官(医官)を務めた。金井さんは特に、水に潜って作業を行う隊員(潜水員)の健康管理を専門とする、潜水医学の医師(潜水医官)でもあった。そんな中、JAXAは2008年3月31日に、新しい日本人宇宙飛行士を募集すると発表した。それまでの宇宙飛行士が「日本人が宇宙に行くこと」や、「日本人がスペース・シャトルを使ったミッションを行うこと」を目的として選ばれたのに対して、このときは「国際宇宙ステーション搭乗宇宙飛行士」、つまりISSで働き、その利用によって新しい成果を生み出す飛行士を選ぶことを目的としていた。これに金井さんは応募し、厳しい選考を経て、2009年の2月に宇宙飛行士候補者の補欠として選ばれ、同年9月には正式に採用されることになった。同期には、現在ISSに長期滞在している油井亀美也(ゆい・きみや)宇宙飛行士や、2016年6月に打ち上げ予定の大西卓哉(おおにし・たくや)宇宙飛行士がいる。医師から選ばれたのは向井千秋さん、古川聡さんに次ぐ3人目、また自衛隊出身は油井さんに次ぐ2人目となった。宇宙飛行士候補者に選ばれた後、2009年からは油井さんや大西さん、また米航空宇宙局(NASA)とカナダ宇宙庁の宇宙飛行士候補者らと共に、宇宙飛行士になるための訓練が始まった。そして、2年後の2011年に、ISS搭乗資格をもつ宇宙飛行士として正式に認定され、さらにそれ以降も、実際に宇宙へ飛び立つ日を目指し、米国やロシア、日本で訓練を積み重ねていた。そしてついに、それが叶う日が決まったのである。金井さんは記者会見で、「私の夢は、より宇宙が身近になり、まるで海外旅行に行けるような感覚で、誰でも宇宙旅行を楽しめるような時代が来ることです。それを実現するために活躍したいと思っています。今回、宇宙飛行という大任を受けましたが、これは自分にとってゴールではなく、その先の夢に向かって進むための第一歩であると考えています」と語った。○滞在期間は半年間、さまざまな実験を予定現在の予定では、金井さんは2017年の11月ごろに、地球を出発し、ISSの第54/55次長期滞在員として約6カ月間にわたって滞在。ISSの運用や科学実験を行うことになっている。往路、復路ともに、ロシアのサユース宇宙船に搭乗する予定となっている。また2016年1月からは、打ち上げに向けて、サユース宇宙船への搭乗や、ISSの長期滞在に必要な訓練を開始するという。ISS滞在中に、金井さんが具体的にどのような実験を行うのかは、まだこれから決められることになっているが、金井さんは医師であり、また潜水医学の専門家でもあることから、JAXAでは医学や医療に関する実験への貢献を大いに期待しているという。たとえば「きぼう」の大きな利用テーマのひとつに「健康長寿社会の貢献」というものがある。宇宙空間では、筋肉の老化や骨の密度の減少が、地上より速く進むことがわかっており、その研究によって、日本が直面している高齢化社会への、何らかの貢献ができないかということが考えられている。金井さんがこのテーマに関する研究を行うことは大いに考えられる。また、打ち上げまで時間が十分にあることから、「金井さんならでは」のミッションも考えていきたいという。記者会見で金井さんは、次のように期待を語った。「現在『きぼう』では、ダークマターの謎を追う実験や、生きたマウスを飼育して、そのまま地球に持ち帰る実験、また超小型衛星の放出などを行っていますが、これらは『きぼう』を造っていた段階では、まったく想像していなかった新しいアイディアだったり、夢物語だったりしたものが、現実になったものです。私のミッションは2年後。2年後になると、宇宙産業だけではなく、他の産業からもたくさんの研究者が宇宙に参入してきたり、より低価格に、より手軽で、よりスピーディに宇宙空間を使うような動きがさらに加速していると思います。今現在、世界中の誰もが想定していないようなおもしろい実験、最先端の科学を切り拓くような実験が、2017年には待っていると思います。それに向けて全力疾走でがんばりたいと思います」。○"もぐり"の宇宙飛行士にしてネモ船長ところで、金井さんのように、潜水医学を専門としているお医者さんの間では、初対面の人に「私、"もぐり"の医者なんです」と自己紹介するという、伝統的なギャグがあるのだという。もちろん、この場合の「もぐり」の本当の意味は、ブラック・ジャック先生のような「モグリ」ではなく、「潜り」のことである。そこで金井さんは、それに引っ掛けて、自身を「"もぐり"の宇宙飛行士」と呼び、会場の笑いを誘った。また、金井さんは宇宙飛行士の仲間たちから、「NEMO」(「ニーモ」、もしくは「ネモ」)というコール・サインで呼ばれているという。これは、ジュール・ヴェルヌの名作『海底二万里』や『神秘の島』に登場する潜水艦「ノーチラス号」のネモ船長、また『ファインディング・ニモ』に登場するクマノミの「ニモ」(ネモ船長に由来)にちなんでおり、金井さんが潜水医学の専門家であることから名付けられたのだとされる。ちなみに、金井さんは今年7月20日から8月2日にかけて、米フロリダ州の沖にある海底実験室「アクエリアス」で、NASA極限環境ミッション運用訓練に参加したが、この訓練がNASA Extreme Environment Mission Operationsの頭文字から「NEEMO」(「ニーモ」)と呼ばれていることから、関係者の間では「NEMO in NEEMO」(ニーモの中にニーモ(ネモ)がいる)というギャグが流行ったという。"もぐり"の宇宙飛行士であり、現代のネモ船長でもある金井宇宙飛行士が、ISSでどんな活躍を見せてくれるのか。それはきっと『海底二万里』と同じぐらい、あるいはそれ以上におもしろく、驚異に満ちた冒険譚になるに違いない。●日本人宇宙飛行士と、日本の有人宇宙活動の未来○金井さんがサユースに乗る最後の日本人宇宙飛行士に?ところで、金井さんはもしかすると、サユース宇宙船に搭乗する最後の日本人宇宙飛行士になるかもしれない。2011年にスペース・シャトルが引退して以来、NASAは新型宇宙船が完成するまでのつなぎとして、ロシアからサユース宇宙船の搭乗権を購入し続けており、そこにNASAの宇宙飛行士を乗せて飛ばしている。また、金井さんを始め、これまでサユースに搭乗した日本人宇宙飛行士の搭乗権も、このNASAがロシアから購入した分の中から割り当てられている。しかし現在のところ、NASAは2018年の打ち上げ分までしか購入していないため、2017年11月に地球を出発し、2018年の春ごろに帰還する金井さんが、サユース宇宙船に乗る最後の日本人宇宙飛行士になる可能性がある。なお2017年には、米国の民間企業2社(ボーイング社とスペースX社)が開発している新型の宇宙船が完成し、NASAやJAXA、欧州宇宙機関(ESA)やカナダ宇宙庁などの宇宙飛行士は、サユースではなく、この新型宇宙船によって打ち上げられる予定となっている。つまり、金井さんの次に飛ぶ日本人宇宙飛行士は、この民間の新型宇宙船に乗りこむことになる可能性が高い。ただ現在、予算不足などが原因で開発に遅れが出ており、また今後、開発中に問題などが発生することも考えると、2017年に間に合わない可能性は十分考えられる。そうなると、NASAはまたサユースの座席を購入せざるを得なくなるため、金井さんが最後ということにはならないかもしれない。○9年後のISS金井さんの宇宙飛行が決定したことで、現在の日本人宇宙飛行の中で、宇宙飛行を経験していない人はいなくなる。現在のところ、ISSは2020年まで運用されることが決まっているが、米国などはそれを2024年まで延ばすことを提案している。すでにロシアやカナダはこの提案に賛同しており、日本と欧州は2016年まで決定を先送りするとしている。仮に2024年まで運用を延長することになったとしても、金井さんが現在38歳ということを考えると、9年後でも十分に現役として活躍できる年齢だ。実際にJAXAは、2013年11月に、宇宙飛行士の新規採用を当面の間凍結する、と明言している。この当面、というのが、具体的にどれぐらいの期間を指すのかはわからない。もっとも、それはJAXA自身も知らないし、決められることでもない。現在の日本の宇宙開発は、内閣府の中に設置された「宇宙開発戦略本部」が取り仕切っており、また同様に内閣府に設置されている「宇宙戦略室」が、計画の企画や立案、調整を、そして「宇宙政策委員会」が審査や意見などを行っている。しかし現在、これらの中では有人宇宙計画の評価はあまり高くなく、今の段階で決まりつつあることといえば、コストを削減した上での「きぼう」の継続的な運用や、宇宙ステーション補給機「こうのとり」の改良ぐらいで、ISS"以降"の、日本の有人宇宙計画については、何も具体的なことは決められていない。金井さんの例にみるように、新しい宇宙飛行士を育成するには年単位の時間がかかり、さらに新しい有人宇宙計画を立てるのにはそれ以上の時間がかかる。ISSの運用終了まで長くともあと9年、残された時間は多くはない。○米欧は火星や小惑星へ、ロシア、中国は新宇宙ステーション建造ところで、他国はISS以後の世界を、どのように見据えているのだろうか。まず米国NASAは、かねてより月や火星、小惑星を有人探査を行う計画を進めており、現在はそのための新型宇宙船「オライオン」と、新型の超大型ロケット「スペース・ローンチ・システム」(SLS)の開発を行っている。オライオンは2014年12月に無人での試験飛行に成功し、2018年11月にはSLSの初打ち上げも兼ねて、月まで行って帰ってくる無人の試験飛行を行う予定を立てている。有人飛行は2021年以降に予定されており、月の近くまで運んできた小惑星に宇宙飛行士を送り込んで探査が行われる。そして2030年代には、火星への有人飛行が計画されている。また欧州は、この米国の計画に参加する意向を示しており、オライオン宇宙船の「サーヴィス・モジュール」と呼ばれる、エンジンやバッテリー、生命維持装置などが搭載されている部分の開発と製造は、欧州側が担うことになっている。これは計画の首根っこを押さえているのと同じであり、計画の内容などに対して、ある程度の口出しができる権利をもつ。一方ロシアは、ISSに結合されているロシア側のモジュールの中から、比較的新しいモジュールだけを分離して独立、さらにそこに新しいモジュールを結合させて、新しい宇宙ステーションを造る構想を持っている。ロシアが主導権を握る形にはなるものの、欧米にも参加を呼びかけてはおり、第2の国際宇宙ステーションのような存在になる可能性もある。また、その先には月の有人探査も視野に入れているという。ただ、ロシアは近年、宇宙産業の力が低下しており、また連邦予算も厳しい状況にあるため、今後計画がどうなるかはまだわからない。中国は2003年に「神舟五号」宇宙船によって有人宇宙飛行に成功し、2008年には「神舟七号」によって船外活動(宇宙遊泳)にも成功している。さらに2011年には、宇宙ステーション「天宮一号」の打ち上げにも成功し、無人の神舟宇宙船によるドッキング試験を経て、有人の「神舟九号」と「神舟十号」が訪れ、「天宮一号」の内部で科学実験などが行われるなど、ゆっくりとではあるが、着実に有人宇宙開発を進めている。そして現在は「天宮二号」の開発を進めると同時に、より大型の宇宙ステーション「天宮」の開発も進めており、2018年に最初のモジュールを打ち上げ、2022年以降に完成させる予定とされる。もし予定通り計画が進めば、2022年から2024年にかけて、宇宙にISSと「天宮」の、2つの大型宇宙ステーションが存在することになる。また、最近ESAは、中国との宇宙開発における協力体制を強化することを検討しており、たとえばESAの宇宙飛行士が「天宮」を訪れる、ということもあるかもしれない。その他、インドも独自の有人宇宙船の開発を進めており、2014年12月には無人でのサブオービタル(軌道に乗らない)飛行試験に成功している。いずれは実際に人を乗せ、地球をまわる軌道に打ち上げることが計画されている。また、イランも有人宇宙船の開発を進めており、数年のうちにサブオービタル飛行を行うとしている。○日本はどの選択を採るかこの状況の中で、まずロシアや中国の宇宙計画に参加することはまず考えられないし、ましてや、日本が独自に何らかの有人宇宙計画を立ち上げることも考えにくいため、米国と歩調を合わせるか、あるいは有人宇宙活動そのものを止めてしまうか、という選択肢しかないだろう。しかし前者の場合、欧州がオライオンのサーヴィス・モジュールの開発で、計画の根幹を握っているのと比べると、日本がこれから参加を表明したところで、貢献できる部分は少ない。たとえば「はやぶさ」のような無人探査機で、有人探査の露払いをすることなどは考えられるが、それは日本でなければできないことではない。また、そもそもミッションの内容からして、参加できる宇宙飛行士の人数はISSより少なくなるため、日本人宇宙飛行士が搭乗できる機会も必然的に少なくなる。そのため、貢献に見合うだけの利益が得られるかはわからない。参加するにしても、「どういう形で参加するのか」が重要となり、大きな議論となるだろう。たとえば年間何百億という予算を使いながら、アポロ計画以来初めて月に降り立つ宇宙船に、日本人宇宙飛行士が乗っていなければ、大きな批判を受けることになるかもしれない。毛利衛宇宙飛行士がスペース・シャトルで宇宙を飛んでから、今年で23年になる。以来、宇宙開発事業団(NASDA)、そして現在JAXAは、有人宇宙船を持たないながらも、有人宇宙活動に関する知見を着実に蓄積してきている。その実績をどう生かすのか。あるいは、捨ててしまうのか。選択のときが迫っている。国際宇宙ステーションを越え、月や火星、小惑星、そしてさらにその先の世界で挑みたいと夢見ている少年・少女たちは、今も日本中に大勢いるはずだ。たとえ困難な道でも、何らかの形で、彼らに夢を叶えるチャンスが訪れ、そして油井さんや大西さん、金井さんらの跡を継ぐ、新しい世代の宇宙飛行士が生まれることを切に願いたい。参考・・・・・
2015年09月01日●自衛隊時代に培った知識を宇宙に国際宇宙ステーション(ISS)第54/55次の長期滞在搭乗員に決定した金井宣茂宇宙飛行士は東京都生まれの38歳。同宇宙飛行士は、防衛医科大学校を卒業後、自衛隊呉病院などを経て、海上自衛隊 第一学術科学校 衛生課に所属し、2009年に日本人宇宙飛行士候補者として選抜された。自衛隊時代は潜水艦などに搭乗し、乗組員の精神状態を管理していたという。2年後に予定されているミッションに向けて意気込む金井宇宙飛行士に話しを伺った。○水中医学というユニークな経歴を宇宙へ持っていく-- このたびはISSへの長期滞在決定、おめでとうございます。金井宇宙飛行士が、宇宙飛行士を目指したきっかけは何だったのでしょうか?もともと子供の頃に宇宙に興味があったわけではなく、当時は毛利さんとか向井さんのミッションが取り上げられていて「スペースシャトルってすごいな」くらいに思っていたので、まさか自分が宇宙飛行士になるとは想像していませんでした。大人になって海上自衛隊で仕事をするうちに、水中医学という特殊な環境での医学運用やオペレーションのサポート作業をしていくと、それが有人宇宙飛行のミッションサポートや医学的問題に通じることが多い事に気づきまして、だんだん宇宙飛行という潜水とは全く違う世界に自分がこれまで勉強してきたことを持っていったら何か面白い仕事ができるんじゃないかなと感じ始めたところから宇宙飛行士を目指すようになりました。--そうすると自衛隊に入隊されてからある程度時間が経った後に宇宙飛行士を目指したということになりますが、目指し始めてからどれくらいの期間で実際に宇宙飛行士になれたのでしょうか?私は2005年から2006年にかけて半年ほど米海軍に勉強に行かせてもらっていて、日本に帰ってきたくらいから宇宙飛行士を目指そうということを決めて勉強をしたり情報集めたりしていました。それから2008年4月に宇宙飛行士の応募があって、タイムリーに「宇宙飛行士になってみませんか」という話が舞い込んできたわけです。本当にご縁がご縁を呼んで、いつの間にかこの場所にいるという感じです。--金井宇宙飛行士の場合はタイミングもかなり良かったということなんですね。宇宙飛行士になるにあたって訓練などで、自衛隊時代の経験が活きているなと感じますか?自衛隊で仕事をしていて良かったなと思うのは、集団生活が全然苦にならないとうことです。ほかには入隊したばかりの新人教育でわざと理不尽なことを言われたりなどしたことは、メンタル面での鍛錬につながったと感じます。--そういったご経験は宇宙飛行士の選抜でも有利に働いたのでしょうか?私は採用する立場ではないのでなぜ選ばれたのかはわからないですが、「私は普通の人では体験できないような経験をもっているので、この経歴を宇宙業界でうまく使ってください」ということをアピールしたので、ユニークな経歴という点を買っていただいたのかなとは感じています。○普通の人が宇宙に安心して行けるように--そのユニークなご経験についてもう少し詳しくお伺いさせてください。海上自衛隊時代は潜水艦乗組員の健康状態や精神状態をチェックされていたそうですが、これまでの宇宙飛行士の訓練の中で、潜水艦と共通する点はあるのでしょうか?(海上自衛隊時代は)将来に不安を抱いている若い幹部候補生の悩みを聞いたり、人間関係に悩みを抱いて船を降りたいという隊員の心理状況を確認して、配置を変わってもらったりといったことをやっていました。なので閉鎖環境でどういう気の持ちようでいたらいいのかとか、孤独になったり寂しくなったりしないためにどうしたら良いのかという知識や自分なりの対処法などは、過去に学んだものが使えているんじゃないかなと思います。--逆に宇宙と深海で違う部分はあるのでしょうか?宇宙がユニークなのは無重力ということで、無重力がゆえのいろいろな体の問題があります。例えば体液シフトといって、地上では体の下半身にたまっている体液が相対的に上半身に分布するので、顔がむくんだり、ずっと鼻づまりがしているような感じがしたり、ひどい人では頭が痛くなったりします。そういう宇宙ならではの体の変化というものを自分で経験してみないとと思っています。宇宙にはこれまで限られた人しかいっていなくて、全てのデータがきちんと残っているわけではないし、昔は研究していなかったことが実は問題があるということがわかって、最近になって調べ始めたりしています。宇宙医学はまだ始まったばかりで、もっと色んな人が宇宙に行ってそこでどういうことが起きるのかを調べる必要があります。その始まりの部分に私は携わらせてもらっているので非常に面白いです。また、これは記者会見でも述べさせてもらったことなのですが、地球低軌道を色々な人に使ってもらうこと、もっと言うと海外旅行に行くような感覚で普通の人が宇宙空間に行って帰ってくることを考えると、「高血圧があるんだけど大丈夫なの?」「体に障害があるんだけどそれでも宇宙を楽しめるの?」と聞かれたときに「もちろんです!」と言えるだけの宇宙医学のバックグラウンドであったり安全な宇宙技術というものを先に進めたいと思っています。●「宇宙医学」は日本宇宙開発の強みとなり得る○アメリカとロシアは日本と違う感覚を持っている--宇宙旅行の実現というと、どうしてもロケットなどハードの部分が注目されがちですが、それを利用する人に対してのケアも重要なのですね。話は変わりますが、金井宇宙飛行士はソユーズロケットでISSへ飛び立つことになります。ロシアでは少し前に事故が続きましたが、同国の宇宙開発についてはどのような印象をお持ちでしょうか?宇宙飛行士の感覚としては非常に信頼感がある開発と言えますね。事故は続きましたが、それは有人ではないロケットでの事故でした。ロシアはそこを割り切っていて、全てのロケットを有人飛行と同じレベルでやろうと思うとすごいお金がかかってしまいます。(無人ロケットでは)そこまで求めずに、ある程度リスクは許容して安く、たくさん打ち上げると。逆に有人の方は多少お金がかかっても安全性をきちっとやります。特にソユーズは昔から使われている宇宙船で信頼性は高いと感じます。面白いのは米ロは失敗を悪いと思わないんですね。日本の場合は失敗すると大問題になりますが、彼らは「ロケットは難しいんだから落ちて当たり前でしょ」と、落ちても大丈夫なようなスケジューリングであったり安全管理をしています。もちろん、なぜ落ちたのかという点は厳しく追究して次に活かします。そういったところが合理的というか日本人とは違う感覚だなと感じますね。--日本と米ロでは宇宙開発に対する感覚の違いがあると。以前ある日本人宇宙飛行士の方が「アメリカの宇宙船は飛行機で、ロシアの宇宙船は潜水艦のようだ」と仰っていましたが、金井宇宙飛行士はそういった感覚はお持ちですか?空気清浄機であったり二酸化炭素を取らなきゃいけないとか、たしかに宇宙船と潜水艦ってテクノロジーの部分で似てますよね。またソユーズは信頼性の高い古典的な技術が使われているので、潜水艦でも使われている技術がソユーズでも使われていることも考えられます。あとソユーズには船長の足下に潜望鏡がついていて、それを覗きながらドッキングをします。そういった意味でも「ロシアの宇宙船は潜水艦のようだ」という比喩は面白いですね。○宇宙医学を日本宇宙開発の強みに--それでは最後のトピックについてお話を伺っていきたいのですが、医学分野のご出身という観点から、ISSでのミッション全体を通じて、どのようなことを期待していらっしゃいますか?宇宙開発は国際協調であると同時に国際競争でもあります。NASAとかロシアは組織の大きさであったり予算の多さでこれまで非常に良い仕事をどんどんやってきました。それ自体は非常に良い事なんですが、その中でJAXAが光っていくためには何をすれば良いのかと考えたときに、宇宙医学という分野で日本の強さを見せることができるのではないかと考えています。(宇宙医学という分野は)先輩宇宙飛行士の向井千秋さんが立ち上げて、古川さんが中心となって世界レベルの研究を推し進めようとしています。チームジャパンとして勝負していく中で、宇宙医学を宇宙飛行士としてサポートできれば良いなと思います。--「宇宙医学が日本の強みとなる」と仰るのはどのような技術が根拠となるのでしょうか?日本はタンパク結晶実験というのをスペースシャトルの時代から続けてきました。NASAもやっていたのですが、あまりうまくいかなかったので途中でやめてしまいました。日本だけが地道に続けてきて、それが今花開いてタンパクが実は筋ジストロフィーや歯周病の薬になるんじゃないかといった成果に結びつきつつあります。このノウハウは日本しか持っていないもので、この知見をもとにもっと効率良い方法でできないかというところを急ピッチで進めています。こうした強みを伸ばしていくということをやっていかなければならないと思います。また、マウスを宇宙へ連れて行って戻すという実験を油井さんが今やっていますが、2年後は宇宙でマウスの子供を作って、大人になってから地球へ戻すということができるかもしれません。ほ乳類は宇宙で生育できるのかということを検証するということは、月の周りにコロニーを作ってそこで人間が繁栄する、といった昔アニメで見たような世界が近い状況にあるということになって、そういう実験を担当するかもしれないと思うと非常に楽しみです。--2年後の科学技術の進歩によって可能性はさらに広がりますね。無重力って面白くて、例えばiPS細胞などでは3Dの臓器を作る上で重力が難しさを生んでしまっているところがあります。もし重力が無いことで機能する臓器をより手軽に作ることができれば、そのノウハウを重力下での臓器作成に活用できるかもしれません。アイデア次第で宇宙は色んなことに使えますので、より多くの研究機関を惹き付けるような営業活動もやっていかなければいけないと思います。実際、時代の流れとしてそういう方向に行っていますので、2年後いろいろな産業が宇宙に入ってくることで今では想像できないようなイノベーションが起こるんじゃないかなと期待しています。
2015年08月31日宇宙航空研究開発機構(JAXA)は8月26日、金井宣茂宇宙飛行士を、国際宇宙ステーション(ISS)第54次/55次の長期滞在搭乗員に任命決定したと発表した。同宇宙飛行士は2017年11月頃にロシアのソユーズ宇宙船で打ち上げられ、約6カ月間ISSに滞在することになる。滞在中はフライトエンジニアとしてISSの運用や宇宙環境を利用した科学実験を担当する。今後は、ロシアのソユーズ宇宙船の搭乗およびISSの長期滞在に必要な訓練を来年1月から開始する予定だ。金井宇宙飛行士は、東京都生まれの38歳。防衛医科大学校医学科を卒業後、防衛医科大学校病院、自衛隊呉病院などを経て、海上自衛隊 第一術科学校 衛生課に所属。2009年に日本人宇宙飛行士候補者として選抜されたのち、2011年にISS搭乗宇宙飛行士として認定された。その後も、米国海底研究施設でのアメリカ航空宇宙局(NASA)極限環境ミッション運用(NEEMO)訓練に参加するなど、研鑽を重ねていた。今回の決定を受けて同宇宙飛行士は「これまで、NASAをはじめ世界中から高い評価を受けてきた日本人宇宙飛行士の先輩に引き続いて、このような重大な任務を任せていただいたことに誇りを感じるとともに、寄せられる大きな期待に応えるためには、これから2年あまりの訓練に臨むにあたり、相当な覚悟をもっていかなければならないと心を引き締めております。」とのコメントを発表している。
2015年08月27日鴻上尚史が旗揚げした「虚構の劇団」の第11回公演がまもなく幕を開ける。『ホーボーズ・ソング~スナフキンの手紙Neo~』という、“さすらう人たちの歌”を意味するタイトルを掲げた新作は、どんな世界になるのか。鴻上の創作の過程に、劇団だからできること、劇団ならではの面白さが、改めて見えてきた。虚構の劇団 チケット情報「虚構の劇団」に新作を書こうとしたとき、鴻上に映ったのは、「わさわさし始めて、どこに行くのかわからない感じの」今の日本の姿だった。「世の中全体がさすらってる感じがしてるぞと、さすらい人という意味のホーボーという言葉が浮かんだんです」。そして書いたのは、“賛成派と反対派に分かれて内戦を続ける日本”の物語だ。「今、安保法制のことで揉めているけれども、じゃあ、本当にふたつに分かれて戦いが始まったらどうなるのかと興味が湧いてきたんです」。といっても、安保法制のことを描くわけでも、警鐘を鳴らすわけでもない。「作品を作ることでそのパラレルワールドを覗いてみようということですね。そういう思考実験は、稽古初日に台本があればいいという(笑)、劇団だからできること。鴻上が今この時点で何を考えているのかということをリアルタイムで観られるのが、虚構の劇団の新作だというわけです」。劇団を立ち上げて8年目。劇団員たちに課すものも高くなってきた。「たとえば、ふたつに分かれて戦う軍隊の片側のリーダーを演じる三上(陽永)。僕の作る芝居なので、内戦といってもただ深刻なだけにはならず、歌も踊りも笑いもあるわけで、そこを目指しながら、ある権威みたいなものを真っ当に表すことが果たしてできるのか。また、戦いの話なので、過去の虚構の劇団作品以上に、けっこうなファイティングもある。だから、ちゃんと見せられるものにするために、稽古中はもうカリカリしてるんですけど(笑)。でも、彼らに書く脚本は、僕の役者に対する挑戦状。鴻上の言葉、鴻上の演出を全身で引き受けて、必死にあがいて何とかしようとする姿は、感動的かなと。みなさんにもそれを目撃していただければなと思っています」。客演に迎えるオレノグラフィティと佃井皆美が劇団員に与える刺激にも期待しながら、「こんなやっかいな時代だけど、明日も生きていこうと思ってもらえるような芝居」を今回も目指す。今年7月にオープンしたばかりの「あかがねミュージアム」での新居浜公演は、「故郷でやる初めての芝居」。ほか2か所の四国公演と、東京、大阪公演で、「しんどい分、面白い」という新作を披露する。各地公演ともにチケットは好評発売中。取材・文:大内弓子
2015年08月19日7月23日、油井亀美也宇宙飛行士ら3人の打ち上げ中継を、フロリダ沖の海底基地で見守る人たちがいた。金井宣茂JAXA宇宙飛行士を含む欧州、NASAの宇宙飛行士たちだ。「我々3人は油井飛行士と一緒にNASAで訓練を受けた同級生。宇宙に行くチャンスが身近に迫ってきているのを感じて、興奮した」と金井飛行士は笑顔で言った。7月20日(月)から14日間、金井飛行士らは海底基地で行われるNASAの訓練に参加した。「NEEMO(NASA Extreme Environment Mission Operations)」は国際宇宙ステーション(ISS)のリハーサルとも呼ばれる訓練で今回が20回目。ISSで長期滞在を行う宇宙飛行士のほとんどはこの海底訓練を経て宇宙に飛ぶ。NEEMO訓練に参加する宇宙飛行士たちは、アストロノート(宇宙飛行士)をもじってアクアノートと呼ばれる。なぜ、宇宙に行くために海底で訓練をするのだろう? ポイントは2つある。1つは環境が似ていること。海底20mにある基地アクエリアスは、さながら「海底にある宇宙ステーション」。幅3m×長さ約15m(「きぼう」日本実験棟船内実験室をやや細長くした大きさ)の基地内は空気で満たされシャツ姿で暮らせるが、空気や電力・通信など生命維持のための機能はすべて外部から供給されていて、常に安全を意識しなければならない。また簡単には外に出られない「隔離環境」であり緊張感を伴う点がISSと似ている。2つ目はその閉鎖環境を利用して、宇宙と同じようにミッション(任務)を行うこと。アクアノートたちのスケジュールは分刻みで決められている。さらに宇宙飛行中と同じように、海上にミッションコントロールセンター(管制室)が設けられ、管制官と密に交信しながら作業が行われていく。金井飛行士によると、今回のNEEMO訓練ではこの通信をわざと10分遅らせてやりとりしているという。「将来、火星に行くことを想定すると、火星との交信には往復で20分かかります。すぐに会話ができない中でどのようにミッションを効率的に行うか。10分のタイムラグでストレスがかかると同時に、知的好奇心が刺激されてさまざまなアイデアを仲間うちで話ながら進めています」(金井飛行士)。チームにはコマンダー(船長)役の宇宙飛行士がいる。様々なトラブルを乗り越えてチームワークやリーダーシップ、フォロワーシップを磨きながら、仕事を安全確実に行っていくことが、この訓練の大きな目的だ。○将来の火星探査を見据えて14日間の訓練中には、海底を火星と見立ててアクアノートたちが船外活動を行った。「NASAは急ピッチでISS後の話し合いをしています。小惑星や火星ミッションなどのアイデアが出ているが、具体的な技術について、何が将来の探査に必要なのか、NASAもまだ手探り状態と感じている」と金井飛行士は指摘する。たとえば重力の小さな小惑星や火星の衛星を探査する際、足場はどうするのか。磁気がなくコンパスが使えない火星でどうやってナビゲーションを行うのか、など実際に活動するために検証しなければならない課題は多い。海底の活動時、宇宙服に取り付ける錘の重さを変えることによって、火星に近い重力を作り出すことができる。アクアノートたちは「海底の火星」でさまざまなツールの作業性や手法を検証する。また、海底基地内ではITツールの検証も行った。たとえばメガネ型ウェアラブル端末。今回、金井飛行士は会見中にマイクロソフトの現実拡張ヘッドマウントディスプレイ「HoloLens」を見せ、「ISSや月のミッションを想定して作業性を評価している」と説明してくれた。宇宙飛行士が見た風景を地上の科学者も同じように見られるかもしれない、という可能性が広がるツールだ。元々、金井宣茂宇宙飛行士は、海上自衛隊のお医者さんで、ダイバーの健康管理も行っていた。アメリカで一年間、潜水医学を学んだ際、潜水医学のドクターが宇宙飛行士になった事実を知り、宇宙飛行士を目指すようになった。「自衛隊時代はサポート役で地上に残りダイバーの健康管理を確認する役目でした。実際に潜ってみてこんなに大変だったのかと新しい発見があった」と吐露する。NEEMO訓練初期にはチームワークで失敗ばかり。多国籍の仲間と一緒に仕事をする中で相手の嫌な面を見ていたが、訓練が進むにつれて、得意な面が見えるようになり、「今ではあうんの呼吸で仕事ができるようになった」という。「日本の強みは宇宙医学。力量と経験を高め、次世代の宇宙飛行士として将来の日本の宇宙開発を担っていきたい。」海底から宇宙をめざし、力強く抱負を語った。
2015年08月06日鴻上尚史が主宰を務める、「虚構の劇団」の第8回公演『イントレランスの祭』が、10月30日(火)、東京・シアターサンモールで開幕する。今回書き下ろす新作のテーマに“イントレランス=不寛容”を掲げた鴻上に、作品にかける思いと劇団の今について話しを訊いた。虚構の劇団『イントレランスの祭』チケット情報現代における殺伐さ、許容範囲の狭さを、身に沁みて感じていたという鴻上。「たぶん不寛容になるには、それなりの理由があると思うんです。なぜちょっとした“異物”に対し、人はイラっとしてしまうのか。そしてイラっとする側、イラっとさせる側にもそれぞれ人生があって。そこを抽象論にならないよう、いかに演劇的におもしろく描けるかを考えました」。鴻上はその“異物”を、今回“宇宙人”というかたちで劇中に登場させている。それは物語を抽象論にしないことに加え、「個別の問題を扱っているとは思われたくなくて。具体的な事象ではなく、なぜ人は不寛容になるのか。差別そのものをあぶり出すためには、宇宙まで飛んでしまった方がいいだろうと思ったんです」と話す。一見すると非常に重いテーマ。だが作品には、鴻上らしい笑いが随所に盛り込まれている。「深刻に悩んで解決するなら、いくらでも深刻にします。でも深刻にすることで、事態は余計深刻なものになるんじゃないかと。だったら悩みのあまりの重さに思わず笑ってしまうとか、突き放して笑うってことの方が可能性はある。そもそも僕は、笑いのない芝居以前に、笑いのない人生は嫌なんですよね」。前作『夜の森』では、「虚構の旅団」と題し木野花に演出を託した鴻上。劇団メンバーにとってこの舞台は、「嵐のような経験だったのでは」と笑う。「俳優の根本を突きつけられましたからね。その傷がどれだけ癒えているのか……(笑)。ただ“虚構の劇団”っていう枠組みで芝居ができることの嬉しさやありがたさ、貴重さということは、強く実感できたんじゃないかと思います」。2名のメンバーが離脱したが、新たに2名の研修生が参加。キャラクターの厚みが増し、鴻上自身「だからこそ書けた脚本」と語る。劇団として「虚構の劇団」は、次なるステップへ踏み出す時期に来たのではないだろうか。「そう感じますね。鴻上の旗のもとにという意識から、自分がこの集団で何ができ、この集団はどこを目指しているのかという意識に変わってきた。彼ら彼女らが自分を主体に考えられることが一番大事だし、本作がその布石になればいいなと思います」。公演は10月30日(火)から11月11日(日)まで東京・シアターサンモールにて、11月23日(金・祝)から11月25日(日)まで大阪・ABCホールにて上演される。チケットは発売中。取材・文:野上瑠美子
2012年10月17日ザ・ブルーハーツの楽曲を全編に散りばめた、鴻上尚史作・演出による音楽劇『リンダリンダ』。2004年に初演された本作が8年ぶりに再演される。5月8日、記者発表が都内にて行われ、鴻上ほか主要キャストの松岡充、伊礼彼方、星野真里、丸尾丸一郎、高橋由美子、大高洋夫が登壇。松岡と大高以外は、再演からの新キャストとなる。KOKAMI@networkvol.11「リンダリンダ」チケット情報物語は存亡の危機を迎えたロックバンドのメンバーと、それを取り巻く人々との、夢をかけたある無鉄砲な計画の行く末を描くもの。再演では新たに、昨年の東日本大震災から現在に至るまでの日本の状況を反映させる。鴻上は再演を決めた理由として、「世界的に名の知られたミュージカルはすべて再演され、ブラッシュアップを繰り返しながら成長していくもの。これは音楽劇ではありますが、同じように育てることで絶対いい作品になっていくと思います」と語った。バンドメンバーでベースを担当するマサオ役は、初演同様SOPHIAの松岡が演じる。松岡にとっては初舞台だった今作について、「この作品にかける思い入れは誰よりも強いと思っています。あれからの8年間で成長した部分を無駄にはしたくないですし、お客さまに納得していただくのはもちろん、自分のなかで納得できるものにしたいですね」と再演に向け力強い抱負を述べた。ザ・ブルーハーツへの思いを誰よりも興奮気味に話していたのは、かつて彼らのコピーバンドをしていたという伊礼。「こうやってまた違うかたちで、ザ・ブルーハーツに出合えたことに運命を感じています。もう楽しみで楽しみで夜も眠れないくらい!」と気合いは十分のよう。初の音楽劇への挑戦となる星野は、「一番好きなザ・ブルーハーツの楽曲は?」との質問に、劇中でも披露する『キスしてほしい』をチョイス。すると伊礼は「誰にキスしてほしいの?」とニヤニヤ。そこですかさず松岡が「そういうことじゃないでしょ?(笑)」と返し、会場が笑いに包まる場面も。松岡の「稽古が楽し過ぎる」という言葉を裏づけるような、カンパニーの仲の良さを垣間見た瞬間だった。また初演を振り返って鴻上は、「客席には松岡くんのファンから、演劇、ミュージカル、ブルーハーツのファンがいた。それらの人たちが混在した、カオスのような客席がすごくおもしろくて!今回もまたそうやって、いろいろなファンの人たちで客席が埋まると素敵だなと思います」と、幅広い客層に向けアピールした。公演は6月20日(水)から7月22日(日)まで東京・紀伊國屋サザンシアター、7月28日(土)から30日(月)まで大阪・森ノ宮ピロティホール、8月2日(木)・3日(金)に福岡・ももちパレス大ホールにて開催。チケットは東京公演は発売中、大阪、福岡公演は5月26日(土)より一般発売開始。取材・文:野上瑠美子
2012年05月09日先日公開を迎えた奇想天外なラブストーリー『恋愛戯曲〜私と恋におちてください。〜』監督の鴻上尚史を“講師”に迎え、読者の恋の悩みに答えてもらう“恋愛講座”企画。後編となる今回は、付き合うようになってからの恋の継続に焦点を当ててお届け!悩み:付き合ってからなかなかその後が長続きしません。どうしたら長く付き合えるのでしょうか――?ハラハラドキドキしつつ恋に落ち、その恋愛が成就したはいいけれど、なかなか長続きしない。そんな悩みに“鴻上先生”の答えは?鴻上:恋愛の初期というのは、互いにとって未知なわけ。そこで互いについて知りたいという思いで、いっぱい会っていっぱい話そうとするんですよね。そこで僕がよく言うのは“お土産を渡す”ということ。お土産は、相手が喜ぶものなら、なんでもいいんだ。手料理でもマッサージでも微笑みでも。でも、情報がお土産になるってことを忘れがちなんです。昨日、こういう映画を観た。こういう小説を読んだ、でも何でもいいんだけど、相手が知らない“情報”――すなわち、情報というお土産を互いに渡しあえる関係を築くこと、それが大事なんだと思う。――映画の中で深田恭子演じる脚本家の谷山は、自分が恋に落ちることで、それを脚本に反映させて執筆するという人物ですが、いまの話で言うと、谷山はいわば、相手から“お土産”を引っ張り出して…。鴻上:そう、“情報”をくれる相手と恋に落ちてそれを脚本にしているわけだけど、彼女のこれまでの恋愛で言うなら、谷山という女性は貪欲だから、1回でその相手が持っている全ての情報を吸い取っちゃうんだね(笑)。悩み:相手に対して甘えたいけれど、どこまで甘えていいのかうまく出すことができません。監督から見て、許せる甘えと許せない甘えは――?鴻上:これはもう、相手としっかりと話すしかないと思うよ。「どんな甘え方をされるのがあなたは好きなの?」ってね。また逆に彼がどんな風にあなたに甘えたいと思っているのかもね。それを相手に尋ねることって、全然、恥ずかしいことじゃなくて、隠している部分やナイーブな部分を見せ合うのが恋愛なわけ。それは甘え方だけでなく、例えばセックスの方法についても同じなんだよね。――なかなか、そこまで踏み込んでいいのか?と思ってしまいそうですが…。鴻上:例えばドラマなら、2人がベッドインしたら、奇跡のようにお互いの想いが通じてて、相手が何をほしがっているのか100%分かっているかのように描かれるけど、現実にはそんなことありえないわけで、話さなければ始まらない!それでも、彼に対してどんな甘え方がいいのかなんて言葉にして聞けないというのなら、実際にどんな甘えを彼が喜んでくれているのかを確かめていくしかない。――付き合いが続けばやがて、結婚ということを互いに意識するのは自然なことですが、その一方で最近では結婚を前提にした“婚活”というのがブームにもなっています。監督の中での恋愛と結婚の関係性、“結婚観”は?鴻上:俺が若い頃は、もちろん婚活なんてなかったから恋愛して、それが結婚に繋がっていくのが当たり前だった。恋愛をして、ちゃんとケンカをして、互いに嫌になったり行き詰まったりもして、「この人とならやっていけるかも」という思考ができて結婚、ということになるのかな。付き合って“恋愛”をせずにいきなり最初から「この人と結婚を…」というのは泳ぎを習い始めてすぐにオリンピックを意識するようなもの。婚活っていうのはいわばお見合いのようなもので、それ自体、否定しようとは思わない。ただ、“婚活”って言い方をすると、結婚ありきで間の恋愛をすっ飛ばしてしまうような響きがあるけど、そこでしっかりと恋愛がないのは、互いにとって不幸だとは思うよ。――ちなみに監督は、お付き合いからどれぐらいで結婚を…?鴻上:それはどこにも言ってないから内緒だな(笑)。悩み:結婚しても相手と恋愛気分でいたいのですが、秘訣を教えてください。鴻上:なかなか難しい質問だね(笑)。だけどこれもやはり、先ほどの話と同じで“お土産”だね。例えば、互いにいつも綺麗でいることを意識するとか、だらしない部分を見せないというのも僕は相手へのお土産だと思う。互いが互いにそういう意識を持つこと。長く一緒にいれば、知るべき新しいことというのは減ってくるかもしれないけど、そこで互いに相手のために“お土産”を作る努力ができるか否かだと思う。俺?俺は相手が喜びそうな映画や小説のことをよく話すかな…と、これ以上喋ると俺の結婚生活相談になりそうだから、ここまでで(笑)!恋愛中であれ結婚後であれ、鴻上監督が重視するのは相手とのコミュニケーションの継続。曰く「語ることで相手と一致することが大事なんじゃなくて、相手との違いを理解することが大切」とのこと。“達人”の言葉を胸に、いつもよりほんの少しだけ、会話の時間を長くとってみるのもよいかと…。第1回講座:【恋愛継続編】特集 新しい恋のカタチ■関連作品:恋愛戯曲〜私と恋におちてください。〜 2010年9月25日よりヒューマントラストシネマ有楽町、シネセゾン渋谷、新宿武蔵野館ほか全国にて公開© 2010映画「恋愛戯曲」製作委員会■関連記事:シネマカフェ読者ゴコロなんでもベスト5(第7回)映画で見てみたいカップルと言えば?深キョン&椎名桔平&塚本高史「結婚しても恋心」で意見一致深キョン&椎名桔平が原稿に埋もれ…『恋愛戯曲』特別画像&白熱の本編映像が到着達人に聞く!『恋愛戯曲』監督・鴻上尚史の恋愛講座【出会い編】恋多き女(?)深キョンが恋の悩みをバッサバッサ
2010年09月28日