何せ人生長いし、いつまでも変わらない自分でいると、やっぱりいつか「飽き」がくる。
■化粧は「別人に変わるための道具」だったけれど
思えば私なんて随分早いうちに自分に“飽き”を感じていた。10歳を過ぎた頃には、いつまでも自分でいなければならないことにほとほと嫌気がさしていた。
けれどもそれから数年が経ったある日。忘れもしない、実家から電車で30分ほどの街にあるTHE BODY SHOPで、優しい店員のお姉さんが初めて私に一から、化粧のいろはを教えてくれたのだ。ファンデーションはこう塗って、チークはこう塗って、眉毛はこう描く。
お姉さんに化粧を施された私の顔は、それまでの私とはまったく別の人の顔のように思えた。化粧をして、生まれ変わったような気にさえなった。
気分が高まり、可能性を感じ、それ以来化粧は、私がもうひとつの顔を手にし、別人に変わるための魔法の道具となった。
ところが、30代も半ばを過ぎた頃から再び事情が変わったのである。次第に、どんなに化粧をしても今ひとつパッとしない、謎のスランプに陥った。旬の化粧品を使ったり、眉毛の形を流行りのものに変えたりもしてみた。しかしやはり、なんとなく思っているのと違う。