その代わり、アルガンオイルとハイライトを仕込んで地肌をピカッと光らせ、その上に薄付きのリキッドファンデを顔の中心部分にだけ塗るのである。中心以外の部分には少しだけ粉をはたいて、それで終わり。透けるファンデーションの下にはたしかにシミやクマの粗が存在している。ところが光によってパワフルさを増した地肌が、「シミやクマはありますが、だから何?」と言わんばかりの威風堂々を全力で演出してくれているのである。
■美人に見えなくても、若く見えなくてもいい
これこれ、今私が求めているものはこれだったんだよな! と思った瞬間に、はたと気付く。年齢とともに変わったのは化粧ノリや顔の形でもない。何より私の意識だったのだ。
Tさんによって仕上げられた新しい私の顔は、決して「別人」ではない。
元気に見えて、しかし上品さもあって、「別人」というよりむしろ、バージョンアップした私。“私2.0”くらいの私。今日日何にでも2.0をつけるのはダサいのかもしれないが、それでもたしかに少しだけパワーアップした私だったのである。自分でも気づかないうちに私は、化粧によって別の人になりたいとは思わなくなっていた。代わりに、私は別に私のままでも割といいなと思っていたのだ。