2019年10月2日 11:00
“余命は足し算”ガンになった緩和ケア医が辿り着いた境地
「今年6月に、妻と思い切って出かけたんです。車でたった30分ほどの場所ですが、今の私には、ギリギリの距離。消えそうになりながら、また力強く発光するホタルは、自分の命に重なりました」
こう語るのは『緩和ケア医が、がんになって』(双葉社)を出版したばかりの大橋洋平さん(56)。愛知県JA厚生連海南病院の医師であり、10万人に1人といわれる希少がん・ジストの患者でもある。
「緩和ケア医として15年間、末期のがん患者さんに寄り添ってきたつもりです。がんのことも理解していると思っていました。でも、自分ががん患者になると、冷静ではいられなかった。よく“がん患者でもよりよく生きる”という言葉が使われますが、とても“よく”なんて無理。
それでもしぶとく生きていこうと思っています」
1年3カ月の闘病生活では、生きることにこだわり続けた。
「がんの発覚は昨年6月4日です。前日、仕事から帰宅後、おなかが張って動くのがしんどくて。さらに、夜中に2回、血のにおいが混じる真っ黒な下痢をしたんです。これで悪性腫瘍だと悟りました。痛みがあれば、胃潰瘍の可能性もあるんですが、私にはなかった。翌朝、病院に行く前には、腹をくくっていましたね」