管理栄養士語る食事ルール「中高年世代に減塩は必須」
「中年以降は、血圧を意識した食生活を送らないと、加齢とともに血圧が高くなる傾向があります」
管理栄養士で女子栄養大学名誉教授の三浦理代先生はそう警鐘を鳴らす。特に女性の場合は、ホルモンバランスが崩れる更年期以降に高血圧になる傾向が著しい。加えて、昨年から続くコロナ禍におけるストレスや運動不足が加わり、私たちの気づかないところで高血圧のリスクは高まっているというから厄介だ。
「血圧が上昇すると、脳卒中や心筋梗塞などのほか、糖尿病や動脈硬化などさまざまな疾患のリスク要因となるため、気をつけてほしいところです。高血圧はそのような危険があるいっぽうで症状がわかりづらいことから別名“サイレントキラー”とも呼ばれ、気にしない人が多いのが問題です。症状が出た段階ではすでに遅いのです。血圧はある程度、食事でコントロールすることが可能です。ふだんの食事習慣から高血圧のリスクを抑えることは大切です」(三浦先生・以下同)
血圧が高くなる最大の要因とされるのが塩分の取りすぎだ。
これは塩分を過剰摂取すると、血液の浸透圧を一定に保とうと、血中の水分量が増え、血圧を上げてしまうため。次に挙げられるのが肥満。
「太っていると、インスリンの働きが弱くなるため、インスリンの分泌量が増えます。すると、交感神経が刺激されて血圧が上がるという悪循環を招きます。肥満の人はそうでない人に比べて高血圧になる比率が2〜3倍ともいわれています。また、肥満で血中コレステロールが多くなると動脈硬化が起こります。動脈硬化は血管がもろくなる症状ですから、血圧にも深く関係します」
さらにストレス。
「ストレスは交感神経を刺激し、血管が収縮してしまうことで高血圧を招きます。
ストレス発散のために過食をする人も増えているようですが、ますます塩分の摂取過多に陥ってしまいます」
そのほかにも、飲酒、喫煙、寒暖差など、高血圧の要因は私たちの生活の中に多々あるが、「食」の改善は最も効果が見えやすいという。
日本人はもともと食塩摂取量が多く、減塩に気をつけたい。厚生労働省が目標量とする1日の食塩摂取量は6.5グラム未満だが、実際の摂取量は女性で約9.3グラム。1日あたりの目標摂取量より3グラム近くオーバーしており、1日3食の人の場合は、毎食1グラム程度食塩を取りすぎているという計算になる。特に高齢になるほど食塩摂取量は増える傾向にあり、60代の食塩摂取量が最も多い。高血圧の女性の数が年代に比例して増えているのも、食塩摂取量との関係がうかがえる。
「高齢の人たちは、若いころからしょっぱいものが好きだった年代で、長い間の食習慣が残っているのではないかと考えられます。生活習慣病の罹患状況からも、この世代が最も減塩が必要な世代です」
イギリスでは、国民全体で1.4グラムの減塩を8年間かけて行ったところ、平均の最高血圧は2.7mmHg、最低血圧は1.1mmHg減少し、心筋梗塞や脳卒中の死亡率が約4割減少したという研究結果がある。
やはり減塩は大切だ。
しかし、血圧をコントロールするために塩分の取りすぎには気をつけようと、単に塩分を減らして調理をしても、薄味に慣れていない人にとってはおいしさを感じないというジレンマも……。
「濃い味つけの食事に慣れている人がいきなり全部薄味に変更して、食事を楽しめなければ、減塩も続きません。まずは夕食のメニューの1つだけ薄味にして、残りはふだんの味つけにするなどの段階的な取り組みが必要です。次のステップで、レモンや酢を用いて味をつけることで塩分を減らしていきながら、1品だった減塩メニューを2品、3品と増やして慣れていく……、などの方法がよいでしょう」
ほかにも、外食やスーパーの総菜など味つけが濃いものを食べる頻度を減らす、加工品に表示されている「栄養成分表示」の「食塩相当量」をチェックする習慣をつけるなど、日ごろの食習慣で、減塩のためにできることはいろいろあるという。
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