腹八分目を感知して食べ過ぎ防止「満腹チェッカー」開発秘話
ベルトの裏に着いたセンサーがお腹の膨張具合を感知
“腹八分目を心がけて抑え気味に食べていたのに、なぜか後でお腹が苦しくなってしまった――”。
そんな、誰もが経験する食べ過ぎの失敗を繰り返さないために発明・開発されているのが、歩数計のようにベルトに装着すると、お腹の膨れぐあいから腹八分目を検出して、振動で知らせてくれる「満腹チェッカー」だ。
宮城県仙台市を中心に科学教育活動をおこなっているNPO法人「ナチュラルサイエンス」に所属する佐々木洋輔さん(東北電子専門学校2年)、井上晶成さん(東北大学工学部3年)、犬塚悠月さん(角川ドワンゴ学園N高校2年)の3人による試作品は、約20カ国の学生が参加する国際イノベーションコンテスト(iCAN)の国内予選で優勝し、日本代表に選ばれた。
目下、今年11月に行われる世界大会に向けて小型軽量化し、新たな機能を付け加えるなど、改良を重ねている状況だ。
開発のきっかけは「今度の大会、何作る?」「何か困っていることないですか?」「食べすぎちゃって太ってきたんだ」という、何気ない日常会話だったという。
「肥満は、日本人の死因の半数以上を占める『がん』『心疾患』『脳血管疾患』の原因にもなっているともいわれます」(井上さん)
その肥満を防ぐためにも、日々の食べ過ぎには注意すべきなのだという。
「ところが、満腹中枢が刺激されて実際に満腹をかんじるまでには、20分ほどかかるといわれています」(佐々木さん)。
つまり、食後に予想外にお腹が苦しくなるのも、脳が満腹と判断するまでに食べ過ぎてしまっているからだ。
そこで目をつけたのが、脳の満腹度に頼らず、“お腹のふくれ具合い”から、腹八分目を計測することだった。
■圧力を検知し、満腹度を数値化
まずはベルトの裏、下腹部あたりに圧力センサーをつけて、被験者がおにぎりを2分間に一個ずつ、満腹状態になるまで食べ続けてみた。
「食べたおにぎりの量に比例して、お腹のふくれ具合い(圧力)も強くなっていきました。おにぎりを9個から10個を食べる実験を6、7回は繰り返したでしょうか。その結果、食事の量と、お腹の張り具合が比例することがわかりました」(井上さん)
最年少の犬塚さんは「中2からプログラミングを勉強していましたが、アプリにするのが難しかった」というものの、メンバーの力もあり、見事スマホの画面で満腹度をグラフ化することにも成功。そのグラフをもとに、腹八分に到達したら振動で知らせてくれる仕組みが出来上がったのだった。
食事中、スマホに映し出された満腹度の推移グラフをチェックしておけば“好きなものを食事の最後に食べようと思ったら、先にお腹いっぱいになってしまった”なんて失敗もなくなるはずだ。
■見えてきた商品化「歩数計のような身近な存在に」
実験ではさらに、1分間でおにぎり一個を食べていくという“早食い”でも計測。
すると、思わぬ発見もあった。
「早食いの場合、はじめは全然お腹がふくれないのに、途中から急激にお腹がふくれるという意外な測定結果が得られ、早食いそのものを検知できることに気づきました」(佐々木さん)
早食いは、脳の満腹中枢が作動するまでにたくさんの食べ物を詰め込むことになる。
「不健康の原因ともなり得ますので、11月の世界大会には、急激なお腹のふくれ方をした場合に振動で知らせる“早食い防止センサー”を新機能として付け加え、出品する予定です」(佐々木さん)
単4電池3本を含めて100グラムほどの試作品も、ボタン電池対応のさらなる軽量化にも挑戦中だ。
「今後は医学的な検証も重ねながら、いずれは歩数計のようにベルトに装着にするタイプに改良を重ね、商品化を目指しています」(井上さん)
こうした学生たちの思いは、けっして夢物語ではないと言うのは『ナチュラルサイエンス』理事の大草芳江さんだ。
「当NPOのメンバーが発明し、2017年にiCANで世界1位に輝いた『美姿勢メガネ』は、今年度を目処に商品化される予定です。『満腹チェッカー』も、それに続く製品になると期待しています」
健康志向の高まりから、歩数計、カロリー計算などスマホと連動した“健康アプリ”や“健康デバイス”の需要が高まっている昨今、「満腹チェッカー」が店頭に並ぶ日も近いはずだ。