研究で明らかに「歩幅が狭くなると、認知機能の低下リスク」
コロナ禍でも正しい歩き方で健康に
「脳と足の関係は深く“足は脳を映し出す鏡”といわれるほどです。脳の衰えには気づきにくくても、足腰の衰えには気づくことができます。足腰の衰えは認知症のサインだと考えています」
長年、歩幅と認知機能との関係を研究している東京都健康長寿医療センター研究所協力研究員で国立環境研究所主任研究員の谷口優先生はこう話す。
谷口先生の研究から、65センチを境に、歩幅の広さによって認知機能低下や認知症のリスクに大きな差が出ることが明らかになったという。
歩幅とは、後ろ足のつま先から前に出した足のつま先までの距離を指す。一般的な目安として、横断歩道の白線の幅を踏まずにまたげるくらいの距離が65センチだ。
「脳が健康な状態だと、問題なくこの歩幅で歩くことができるのですが、脳内に異変が生じると、この歩幅を保つことが難しくなります」(谷口先生・以下同)
実際、歩幅が狭くなると、認知機能の低下リスクが、3倍以上になることがわかっている。
「脳内の変性が進行し、脳の働きが障害されると、広い歩幅を維持することが困難になります。
しかし、歩幅の変化に早く気づき、脳が障害される前に歩幅を改善し、生活習慣を見直すことができれば、認知機能の維持・改善が可能です」
■コロナ禍が高齢者の健康に及ぼす影響は楽観できない
’12年時点で、日本における認知症患者は約462万人いるとされている(内閣府報告)。なかでも約半数を占めるアルツハイマー型認知症は、加齢とともに脳にゴミがたまり、脳の神経回路が死滅して脳が萎縮する病気だ。しかし、現在のところ、治療法は確立されていない。
一方、認知症の前段階にある軽度認知障害(MCI)の人は、約400万人いると推定されている。MCIは、必ず認知症に移行するわけではなく、脳の働きを正常な状態に回復させることが可能だ。ところが、コロナ禍でその状況が一変してしまったと谷口先生は危惧する。
「近年、先進国における認知症有病率は減少傾向にありました。教育の充実に加えて、積極的な運動や良好な食習慣といった生活習慣の改善により、認知症の発症を抑制できていたと考えています。
しかし、この約1年半、コロナによる自粛期間が続いた結果、外出の機会が極端に減ってしまいました。これが高齢者の健康状態にどのように影響しているのかは、まだ明らかになっていません。ただ、運動や食事の習慣が変化したことを考えると、楽観視はできないと感じています」