ウィッグ、タクシー代…治療費以外にも年間55万円が!がんでかかる本当の費用
「11月10日、国立がん研究センターの調査で、がんの10年生存率が過去最高の58.9%だったことが明らかになりました。2人に1人が罹患するといわれているがんですが、医療の発達により生存率は上昇傾向が続いています」
こう語るのは『がんになったら知っておきたいお金の話』(日経メディカル開発)の著書もある“看護師FP”の黒田ちはるさん。
「一方で、療養期間が長引けば治療費がかさんだり、仕事に影響が出て収入減につながるケースもあります。闘病が長期戦になることも想定して、健康なうちから『がんとお金』の問題を考えなければなりません」
医療ガバナンス研究所理事長で内科医の上昌広さんも、がん治療が発展すると同時に、治療費も増加傾向にあると指摘する。
「治療が長期化すれば定期検診を受ける回数も増えます。しかし画像診断においては、自己負担額が数百円程度のX線検査ではなく、精度の高い数千円のCTやMRIが主流になってきました。さらに転移を確認するため、1~3万円のPET検査も増えています。治療薬においても、1回10万円以上もするような抗がん剤が次々に開発されている。
こうした医学の進歩が“高額化”につながっているのです」
■乳がんの場合は5年以上治療が続く
たとえば、女性の罹患数が最も多い乳がんの場合、外科的手術などを行う1年目には高額療養費制度を適用しても53万円がかかる。さらに2年目に17万円、3年目に15万円、4、5年目に7万円の治療費が発生する。
「乳がんはステージ1で治療を行っても、10年後に再発、転移が見つかるケースがあります。そのため、乳がんの増殖を促す女性ホルモンを抑制する治療を5~10年にわたって行う必要があるのです。また抗がん剤を続けるケースでも、同様に長期戦を覚悟する必要があります」(上さん)
このような治療費の大半はがんと診断されてから3カ月で一気に必要となることが多いと黒田さんは指摘する。
「しかし、一般的な収入の家庭なら、自己負担額が約9万円を超えた分は、高額療養費制度を申請することで還付されます。がんの治療においては必ず利用したい制度です」
高額療養費制度とは、1カ月(1日から月末まで)にかかった医療費について、一定の金額(自己負担限度額)を超えた分が払い戻される制度。ただし、自己負担限度額は、年齢や収入によって異なるので確認を。
また、1年間に3カ月以上高額療養費の支給を受けた場合には、4カ月目から「多数回該当」となり、自己負担限度額がさらに軽減される。
自己負担限度額は、70歳以上で年収156万円~約370万円の場合、5万7,600円(外来:1万8,000円、多数回該当なら4万4,400円)。70歳未満で年収約370万円~約770万円の場合は8万100円+(総医療費-26万7,000円)×1%(多数回該当なら4万4,400円)となる。
さらに、高額療養費制度と合わせて使いたいのが「限度額適用認定証」だ。高額療養費制度を使えば実際の負担額は減らすことができるが、いったんは窓口で医療費を支払わなければならない。あらかじめ健康保険組合などに「限度額適用認定証」を申請し医療機関で提示すれば、窓口での支払い金額が自己負担限度額までとなるのだ。
■治療費以外に年間55万円かかるという調査も
ただし、これはあくまでも保険診療への助成。“がんは治療費以外にもお金がかかる”のだ。
ニッセンライフなどががん患者らを対象に行ったアンケート調査によると「がん治療費以外の年間費用」について「20万円以上50万円未満」と答えた人が最も多く全体の24%を占めた。しかしなんと「100万円以上」と回答した人が全体の17%も存在したのだ。 「治療以外にかかる費用として代表的なものが差額ベッド代。患者本人が望まなくても、病院の空きベッドの状況で差額ベッド代がかかる部屋が割り当てられてしまうことは珍しくありません」
厚生労働省の調査によると、’19年7月時点での差額ベッド代の平均額は1日6354円だった。
「また、抗がん剤による脱毛で、医療用ウイッグを利用する人も多いでしょう。病院と家の往復ならば、数千円のウイッグで対応している人もいます。しかし直接人と会う仕事をしているなどの場合、自分の頭の形状に合わせてウイッグを作るとなれば、費用も20万円ほどかかってきます。自治体によっては、助成金を出している場合もあるので確認してみてください」
抗がん剤治療による体力の消耗も、家計の負担につながる。
「行きは電車を利用しても、治療後は、タクシーでなければ帰れない人もいます。さらにふだん料理をする人ならば、治療日は総菜を買ったり、出前を頼むかもしれません。このようにして、じわじわと出費が重なっていくんです」
サプリなどの健康食品への出費も、考慮しておくべきこと。前出のニッセンライフの調査では、サプリの購入にかかった年間平均費用は15.3万円だったが--。
「相談者の中には健康食品に50万円、100万円と出してしまう方も少なくありません。親戚や友人から紹介され、やめたくてもやめられないと悩んでいる人もいるのが実情。効果が医学的に証明されない商品もあるので、要注意です」
このように多額の出費が見込まれるがん。当座をしのぐためには、準備金として100万円ほどが必要だといわれている。
「いつでも使える100万円の貯蓄があれば安心ですし、蓄えがなければ、がんと診断されると一時金100万円が給付される民間のがん保険も検討材料です」
■支出以上に負担となる収入の減少
また、がん治療が長期化した場合は、収入が減るリスクにも対応しなければならない。
「これまで相談を受けた中で、がん治療をしていて収入が増えたという人はいませんでした。会社員の場合、最長1年6カ月間は傷病手当金が受けられますが、支給されるのは給与の3分の2のみ。自営業にいたっては傷病手当金がありません」
がんは就労への影響も大きく、がん対策情報センターの調査によると、がんによって退職、廃業した人は約20%、休職、休業した人は約55%もいるという。
このようながんによる困窮を防ぐためにできることはあるのだろうか?上さんはこう助言する。
「胃がんはピロリ菌を除菌、大腸がんは内視鏡検査でポリープを切除すれば、そもそもがんになるリスクを大幅に減らせます。さらに胃がんの場合、がん治療費.comによれば内視鏡で除去できるものであれば5日ほどの入院で1年目の治療費も12万円で済みます。しかし、胃の3分の2を切除するような手術になると、入院日数が17日、費用も43万円に跳ね上がります。
つまり予防、早期発見、早期治療が、治療費増や収入減のリスクを抑えることにつながるのです」
■女性の5大がんでかかる最新費用
今回編集部では、「がん治療費.com」の調査をもとに、女性がなりやすい5つのがんでかかる費用を一覧にした。