A型は胃がん、O型は胃潰瘍…血液型別「なりやすい病気」
性格のタイプ分類や相性診断などで何かと盛り上がる血液型の話。それだけではなく、生活習慣病から重篤な疾患まで、血液型には病気の発症リスクとも関わりがあるという――。
「なお予断を許さない新型コロナウイルス感染症の重症化リスクですが、血液型がA型およびB型の人に比べ、O型が0.8倍低く、AB型は1.4倍高いという研究結果があります。これは昨年5月、慶應義塾大学や東京医科歯科大学、北里大学などの共同研究班『コロナ制圧タスクフォース』が、全国100以上の医療機関から得た3400人以上の患者の血液を解析したものです。また、米国の遺伝子検査会社『23andMe』が75万人のデータをもとにした調査では、O型の人は10~20%ほど新型コロナに感染しにくいという結果が出ています」(医療ジャーナリスト)
私たちが性格を分類したり、相性を占うときなどに指針にすることの多い“血液型”だが、じつは“病気”との関連を調べた研究が世界中で行われている。
『血液型でわかるかかりやすい病気と対策』(扶桑社)を監修した、ナビタスクリニック理事長で内科医の久住英二先生は次のように話す。
「O型は胃潰瘍や十二指腸潰瘍、またO-157大腸菌など消化器系の病気、A型は日本人男性に多い胃がん、冬場に流行するノロウイルスなどの病気のリスクが高いといった、大規模なコホート研究の結果が発表されています」
そもそも血液型とは、今から約120年前の1900年、オーストリアの病理学者・血清学者であるカール・ラントシュタイナー氏が発見したものだ。
「体内を流れる血液は酸素を運ぶ赤血球、ウイルスや細菌から体を守る白血球、出血を止める血小板などから構成されていますが、血液型は“赤血球の分類方法”の一つである『ABO式血液型』を利用したものです。
これが多くの人にとってなじみの深い、A型、B型、O型、AB型の4種類の血液型です。赤血球表面の血液型物質(抗原)で決まる血液型にはそれぞれ特徴があり、たとえば『O型は血液が固まりづらく、循環器疾患リスクに関連している』と考えられるなど、さまざまな疾患との関連性が指摘されています」(久住先生・以下同)
そのなかには、身近な病気の数々が。日本人のかかりやすいがんとして、男性2位、女性4位の胃がんは、A型の人に多く見られるという。「’10年、スウェーデンのカロリンスカ研究所が発表した、100万人を35年間にわたって追跡調査した研究では、A型はO型と比較し、1.2倍も胃がんの罹患率が高いことがわかりました。つい“A型は几帳面で、ストレスがたまりやすいから胃を悪くしがちなのでは”とも考えてしまいますが、残念ながら因果関係は解明されていません。ただ、胃がんにかかる大きな要因となるのはピロリ菌です。検査費用2,000~3,000円ほどで呼気検査、血液検査、検便などで簡単に調べることができますし、保菌者だとわかった場合には薬によって除菌できます」
■胃潰瘍・十二指腸潰瘍は、O型の人に多いというデータが
しくしく痛む胃潰瘍・十二指腸潰瘍は、O型の人に多いというデータが。
「前述のカロリンスカ研究所の調査で、O型はそれ以外の血液型に比べ、胃潰瘍が1.1~1.3倍、十二指腸潰瘍が1.18~1.33倍も罹患リスクが高いという研究結果が出ています。
胃がん同様、主要因はピロリ菌の感染です」
ときには命にも関わる心臓病はAB型、脳梗塞はB型とAB型に多い傾向があるという。
「’12年のハーバード公衆衛生大学院のルー・チー博士の研究では、心臓病の罹患率は、O型と比較して、AB型が20%増、B型が11%増、A型が8%増でした。脳梗塞に関しては、’09年のワシントン大学が行った脳梗塞患者への調査があり、B型とAB型の人は、O型に比べて1.59倍リスクが高いと結論づけられています。心臓病も脳梗塞も急に起こるものではなく、糖尿病や高血圧などが原因で血管にダメージが蓄積し、やがて発症するもの。定期的な健診で数値をチェックしておくことが重要です」
■AB型は認知障害のリスクがO型の8割増
’25年には65歳以上の高齢者のじつに5人に1人が罹患するといわれる認知障害(認知症)はどうだろうか。
「米国バーモント大学が行ったコホート研究では、O型に比べ、AB型は認知障害のリスクが82%も高くなるという報告が。脳に適度な刺激を与えることが予防につながりますが、脳の酸素不足も認知症を招く要因の一つであるため、血圧を正常に保つことが大事になります。週3日以上の運動もおすすめします。
ウオーキングをする場合は、1回20~30分で“会話はできるものの息が弾むくらいの強度”を心がけましょう」
そのほか、さまざまな研究結果から血液型と病気との関連が注目されている。【胃がん】A型
日本人全体で、最も罹患数が多いがんである大腸がんに次ぐのが胃がん。血液型と胃がんについての論文は世界中の研究者によって発表されてきた。「’10年、スウェーデンのカロリンスカ研究所で、献血者100万人を35年にわたり追跡調査した結果、A型はO型に比べ1.2倍も罹患率が高いというデータが得られました」
【脂質異常症(高脂血症)】A型
「’15年にエジプトのヘルワン大学が発表した論文によると、脂質異常症(高脂血症)の発症リスクはA型は37%と最も高く、続くB型は33%、O型で18%。最も低いAB型は12%でした。脂質異常症は女性が全体の7割を占めています。肉料理、炭水化物、甘いもの、アルコールの取りすぎが思い当たる人は生活習慣の見直しを」
【ノロウイルス】A型
「感染症学雑誌で報告された、国内の小中学校で起きたノロウイルスの食中毒感染者への調査で最も高い発症率を示したのはA型で71.1%。最も低い発症率はAB型の55.3%。
家庭内の2次感染でも、A型の41.4%が最も高い結果でした。アルコールでは除菌しにくいノロウイルス対策には、石けんによる手洗いを忘れずに」
※B型は「高血圧」に注意
【高血圧】B型
「脂質異常症と血液型の関連を調べたエジプトのヘルワン大学が発表した論文(’15年)によると、血液型別の高血圧発症リスクは、B型が最も高く48.5%、A型で30%、AB型で13.8%と続き、最も低いO型が7.2%でした。高血圧は放置すると動脈硬化が進行してしまうので、血圧は定期的に測定することを心がけましょう」
【糖尿病(2型)】B型
「生活習慣に由来する2型糖尿病と血液型の関係を研究したフランス国立衛生医学研究所は、O型に比べて、B型は1.21倍、A型は1.1倍発症リスクが高く、AB型は有意差がなかったと結論づけています。糖尿病の原因の一つは炭水化物の取りすぎ。食物繊維を含む野菜を先に食べる、炭水化物を減らしておかずを増やすなど、食習慣の見直しも大切です」
【胃潰瘍・十二指腸潰瘍】O型
「’58年にイギリスで行われた研究では、O型が非O型に比べ、胃潰瘍や十二指腸潰瘍に約1.35倍もかかりやすいという結果でした。その約50年後、’10年のスウェーデンのカロリンスカ研究所でも、O型は非O型に比べ胃潰瘍で1.1~1.3倍、十二指腸潰瘍で1.18~1.33倍もかかりやすいという研究結果が出ています」
【O157大腸菌】O型
「スコットランド中央部でO157の感染者を調査したエジンバラ大学の論文では、感染者の63.4%がO型で、有意に高い発症率だと発表。さらに重症化した患者の64.3%、死亡した患者の87.5%がO型でした。ここ10年ほどでは国内でも年間100人以上の感染者が発生しています。
肉以外に、生野菜が感染源になることもあります」
【インフルエンザ】AB型
「’77~’78年にソ連で流行したインフルエンザの研究論文では、発症率が最も高いのがAB型の59%でした。’89年のフィンランドの研究者による論文でも、AB型はインフルエンザA型・B型いずれにも感染しやすく、重症化しやすいと発表されています。コロナと同じく感染力が強いウイルスなので、ワクチン接種が望ましいでしょう」
【心臓疾患】AB型
「’12年のハーバード公衆衛生大学院のルー・チー博士が、心臓病を発症した約4000人の血液型を解析したところ、O型に比べAB型が20%、B型が11%、A型が8%、心臓病にかかるリスクが高かったということです。過去の研究では、血中コレステロール値や血栓の発達リスクに血液型が影響する可能性も考えられています」
【認知障害(認知症)】AB型
「米国バーモント大学が行ったコホート研究で血液型と認知障害の関連を調べた研究では、O型に比べ、AB型は1.82倍も認知障害のリスクが高いという報告が。A型とB型では、O型と比べ、リスクの有意な変化はありませんでした。脳の酸素不足で認知症を発症することもあるため、血圧を正常に保つことがとても大事です」
【貧血】A型、O型
「’10年、理化学研究所と東京大学の研究チームが、赤血球の中にあるヘモグロビン濃度と、血液型の関連を調べた研究では、B型とAB型の女性に比べ、A型とO型の女性が21%も貧血のリスクが高いという結果に。貧血は女性に多く、主に原因は生理で、4人に1人の割合で起こります。予防的に、鉄分をサプリなどで補う方法もあります」
【脳梗塞】B型、AB型
「ワシントン大学が’09年に30~79歳の脳梗塞患者約450人を調査したところ、B型遺伝子を持っているB型とAB型の人は、O型に比べて脳梗塞の発症リスクが1.59倍という結果が出ました。
心臓病同様に、AB型のリスクの高さが目立ちます。脳出血と血液型との関連については、症例数が少ないこともあり、証明されませんでした」
【卵巣がん】B型、AB型
卵巣がんの約10%は遺伝的要因によるものとされる。「ハーバード大学のコホート研究によると、’96年から’06年の10年で卵巣がんを発症した人のうち、O型に比べ、B型とAB型が1.41倍も発症率が高いことが判明。A型では発症率の優位な増加は見られず、卵巣がんにはB型抗原の血液の特徴が関連しているという指摘もあります」
もちろん、ここに挙げられている病気のリスクが低い血液型だからといって、安心できるということではない。
「性格診断をするときと同じくらいの軽い気持ちで、予防のための日々の生活習慣の見直しや、早期発見のための健康診断、がん検診のきっかけ作りにするとよいと思います」
日々の規則正しい生活やバランスの取れた食事は、誰にとっても大切なこと。それに加えて、自分とさまざまな病気との“相性”を参考にしてみてはいかがだろう。