当事者が明かす「要介護認定の裏側」訪問調査の注意点は?
要介護認定には要支援1〜2、要介護1〜5の要介護度がある。要介護度が高くなるほど、受けられる介護サービスは多くなるので、要介護認定は介護を受ける人にとっても、介護する家族にとっても大事な問題だ。
だが、高齢化による介護費用の増大を受け、全国的に要介護認定の“抑制”が行われているという。
今までなら、認定を受けられたような人に「非該当」の判定が出たり、予想よりも低い要介護度の判定が出たりしているとの声が現場からあがっているのだ。
どのような手順で、要介護認定は行われるのだろうか。東京都内で認定業務に関わっていたAさんが解説する。
「認定の申請をすると、調査員が自宅などを訪れ、74項目の調査をします。調査結果がコンピュータにかけられ、一次判定が出ます」
ここで出された客観的なデータと医師の意見書をもとに、一次判定の結果が妥当なのか、市区町村の審査会で審査される(画像参照)。
「私が所属していた審査会のメンバーは5人。月に換算すると2.5回ほど参加してきました。1回で40名分ほどの審査が行われますが、時間は全体で30分から1時間ほどしか要しませんでした」
もちろん、事前に資料が送られてくるので、問題なさそうな人は30秒ほどで審査が終わる。
「しかし、どこの審査会でも、医師が議長のような立場となります。利用者思いの人もいれば、適当な人もいる。医師の意見に反論をしづらい雰囲気の合議体もあって、同じ市区町村単位でも、合議体ごとにばらつきが出ているはずです」
審査会では“認定を抑制しろ”と表立って言われることはないが、そうした空気はあるという。
「認定後も利用されたケアプランの点検が義務付けられていて、『そのサービスはいらないんじゃないか』など、厳しく判断されます」
実態にそぐわない厳しさを感じるケースもあるという。
「ある透析の患者さんには苦労しました。
要支援2だったのですが、週3回、半日に及ぶ透析を受けて、その日は体力が持たない。床で寝るよりもベッドの生活のほうが楽なのですが、要支援2では介護ベッドは借りられませんので、本来なら要介護2に上げたかったんです。でも、ガイドラインでは、認知症の症状がなければ要介護1すら受けられません。また、車いすは歩行できる人は借りられませんが、その歩行の基準は、5メートルをものにつかまらずに歩けること。しかし、5メートルをやっと歩ける人が、徒歩10分のスーパーに買い物に行けるでしょうか。『日常生活に支障をきたすので、車いすを貸してください』としっかり伝えられる経験豊かなケアマネであればいいのですが、経験が足りないケアマネなら、引き下がってしまうこともあります」
こうした状況下で、納得のいくサービス、そして要介護認定を受けるには、どうすればいいのだろうか。
『図解ポケット 30分でわかる! 介護保険の上手な使い方』(秀和システム)などの著者で、介護施設のコンサルティング業務などを行う「スターパートナーズ」の齋藤直路さんは次のように語る。
「まずは調査員への対応です。
74項目のチェックポイントは、ネット上でも公表されているので、事前に、どんなところが見られるのか、知っておきましょう。とくに高齢者は、調査員の前でがんばってしまうので、ふだんはどうなのかをしっかり伝え、特記事項に書き加えてもらうようにしてみましょう」
■「訪問調査」あらかじめ答えを考えておきたいこと
【歩行はできるか】(1−7)
歩行するとき、何かの支えを必要とするか。
【移動や外出の程度】(2−2、2−12)
どの程度の介助があれば移動できるか。外出の頻度はどれくらいか。
【トイレの状況】(2−5、2−6)
排尿や排便時に介助を必要としているか。どの程度必要か。
【衣服の着脱】(2−10、2−11)
上衣やズボンの着脱時に介助を受けているか。どの程度必要か。
【記憶や認知機能の状況】(3−4、3−7など)
少し前のことを覚えているか、自分がいる場所を理解しているか。訪問調査のときだけ正しく答えられることもあるので、家族が日常の状況を把握しておく。
【日常生活は送れているか】(4−4、5−6など)
昼夜は逆転していないか、簡単な調理はできるか。
【会話能力に問題はないか】(4−5、4−15など)
しつこく同じ話をすることはないか、話は支離滅裂ではないか。
※()内は調査票の質問番号。
医師の意見書も、認定に大きく影響する。高齢者は内科や整形外科など複数の主治医がいることが多いが、生活実態をいちばん知っている医師に依頼しよう。
「医師のなかには、意見書をしっかり書き上げてくれる人もいれば、ほとんど白紙のような人もいます。
真摯に対応してくれる主治医を見つけておくことが重要です」