コロナ禍で急増“あごの痛み”を改善する「アイーン体操」
女性は男性の約3倍なりやすいという「顎関節症」。コロナ禍のマスク生活に加えて運動不足も原因の一つだという。専門医が教える体操で、不調を予防&改善していこうーー!
「全国的に、あごの痛みを訴える人が増えています。アメリカではコロナ以降、歯科医師の約62%が『顎関節症』の増加を認識。日本でも同様の事態に陥っていると考えられます」
そう語るのは、日本口腔顔面痛学会の理事を務める徳島大学大学院医歯薬学研究部の松香芳三先生。
イスラエルとポーランドの大学の共同研究によると、パンデミック後に顎関節症の発症者が12%増えたという。あごの不調に悩む人が、世界中で急増しているのだ。
そもそも「顎関節症」とはどんな症状なのか。
日本顎関節学会の常任理事で、歯科医師の小見山道先生に教えてもらった。
「顎関節症には、あごの筋肉や関節が痛む、口が開かなくなる、あごから音が鳴るという大きく3つの症状があります。『ずん』『じーん』と締めつけられるような痛みがあり、食事のときにあごが痛くて困る人が多いですね」
痛みのほか次のチェックリストに当てはまる人も要注意だという。
【あなたもじつは顎関節症!?あごのトラブルサイン】
□ 上を向きながら口を開けて指が縦に3本入らない
□ あくびをするとあごがポキッと鳴る
□ 耳の穴から1cm前に指を当て、口をかみ締めたときにぷくっと膨らむ関節が痛む
□ えらの角から斜め上1cmに指を当て、口をかみ締めたときにぷくっと膨らむ筋肉が痛い
※1つでも当てはまったら顎関節症の可能性あり。
「顎関節症は、日本人の5人に1人がなるといわれており、20代後半~30代前半、40代後半~60代が発症のピーク。女性は、男性よりも上あごと下あごをつなぐ関節が細く、筋肉の質も異なるため、約3倍発症しやすいのです」
では一体なぜ、コロナ禍で痛みを訴える人が増加しているのか?
「一つは、マスク生活です。マスクをつけていると会話が減り、表情が乏しくなるなど、あごの関節を動かす機会が大幅に減少。すると筋肉がこり固まり、痛みが発生しやすくなる。
マスクのひもは、あごを動かす咬筋に逆らう形で長時間固定するため、さらなるこりの原因になってしまうのです」
ステイホームが続いたことも影響しているという。
「体を動かさず、テレビやスマホなどに集中していると、どうしても歯を食いしばってしまいます。上と下の奥歯は離れているのが正常ですが、無意識のうちにぎゅーっとかみ合い、筋肉を緊張させてしまうことに」
さらに、コロナ禍での不安状態が、痛みを悪化させた可能性も。
「気分が落ち込んでも、歯を食いしばりやすくなります。また、ふだんは痛みを感じない程度のこりでも、不安が重なると“痛み”として体が反応することも。とくに女性は痛みの感受性が高いので発症しやすくなります」
■痛みを放っておくと、「変形性顎関節症」になることも
では、顎関節症を予防・改善するにはどうしたらいいのか。
日本訪問歯科協会所属の歯科衛生士・北岡千恵さんに顎関節症を防ぐ3つの体操を教えてもらった。
咬筋と表情筋を意識的に動かすとこりが解消できるという。
あごの筋肉をほぐす【咬筋ほぐし体操】
歯をかみ締めたときに膨らむエラのあたりを円を描くように人さし指で10回マッサージ。指を前方に少し動かし、同じようにマッサージする。このとき上下の歯はかみ合わせず、少し隙間を空けた状態で行う。
ポイント:マッサージをするときは、“痛気持ちいい”くらいの強さで押そう。
表情筋を動かす【あっぷっぷ体操】
〈1〉舌で頰と唇の上下を膨らませる
舌を左右の頰と上唇と下唇の裏に各3~5秒間、ゆっくり押し当てて膨らませる。2~3回繰り返す。
〈2〉空気で頰と唇の上下を膨らませる
口を軽く閉じ、空気で左右の頰と上唇と下唇の裏を交互に各3~5秒膨らませる。2~3回繰り返す。
〈3〉〈2〉よりも大きく膨らませる
〈2〉よりも大きく、空気で左右の頰と上唇と下唇の裏を交互に各3~5秒膨らませる。2~3回繰り返す。なるべくたくさん空気を入れて膨らませる。
ポイント:口から空気が漏れても大丈夫なので、恥ずかしがらずになるべくたくさん頰に空気を入れて膨らまそう。
あごの緊張をほぐす【アイーン体操】
〈1〉あごを前にスライドさせて左右に動かす
上下の奥歯を軽くかみ合わせたまま、顔をまっすぐに保ち、あごをゆっくり前方にスライドさせる。その状態で、あごを左右に3~4回無理のない範囲でゆっくりと動かす。〈2〉口を大きく開けてあごを戻す
〈1〉の状態で口を大きく開ける。ゆっくりと口を閉じて上下の奥歯をかみ合わせる。
5~10回繰り返す。
ポイント:あごを前に出すときは、決して無理せず違和感があったらすぐに中止すること。あごを突き出すことで筋肉が伸び、緊張がほぐれる。
「アイーン体操は、無理に行うとあごが外れたり、痛みが出る場合があるので、1日10回を上限に、ゆっくり行いましょう」(北岡さん)
基本的に2~3週間で自然と痛みが引くというが、放っておくと、変形性顎関節症になる場合もある。
「3週間以上、違和感や痛みが続く場合は、かかりつけの歯科に診てもらいましょう」(小見山先生)
マスクを外す機会も増えてきたが、あごの不調は今のうちに改善しておこう。