B.ウィリスが発症した前頭側頭型認知症…“窃盗・放火”に走る危険性も
ブルース・ウィリスが認知症を患っていることを家族が公表した(写真:共同通信)
「これまで“認知症である”ことをカミングアウトされる方のほとんどが、アルツハイマー型でした。今回、ブルース・ウィリスさん(67)が罹患していることが明かされた“前頭側頭型”は、認知症の中でも非常に割合の少ない疾患です。一報を聞いたときは、ついにこの病気でも公表する人が出てきたのか、と」
こう語るのは、認知症治療・研究の第一人者である「メモリークリニックお茶の水」の朝田隆院長。2月16日(現地時間)、米国の元人気俳優・ブルース・ウィリスが、認知症を患っていることを家族が公表し、世界中に衝撃を与えた。昨年3月、すでに失語症を患っていたことが明かされ、俳優業を引退。その約1年後に“前頭側頭型認知症”の診断を受けたのだ。いったいどんな病気なのか?
「脳の前方部にある前頭葉、側頭葉が萎縮などによって正常に機能しなくなり、日常生活に支障をきたします。言葉が出てこなくなることや、人格・行動の変化が主な症状です。
アルツハイマー型と異なり、記憶障害があまりみられないので、本人や家族、周囲も認知症であることに気づきにくい病気です。
さらに、この病気は65歳未満で発症するケースが多く、早い人では40代、50代から。若年性の患者に多いことが特徴で、男女比はほぼ同じです」(朝田院長・以下同)
まだまだデータが少なく、現時点では発症原因も不明。治療法も確立されておらず、認知症の中で唯一難病指定されている病気なのだ。前頭側頭型認知症は、大きく3つのタイプに分類されている。
【1】「行動異常型」
毎日決まった時間に同じことをする。また性格や人格が激変し、反社会的な行動を起こすことも。
【2】「意味性認知症」
言葉の意味がわからなくなる。
たとえば、あなたの利き手はどちらですか?と聞いた場合、利き手って何ですか?と、言葉の意味を理解することができない。
【3】「進行性非流暢性失語」
言葉が出てこなくなったり、流暢に話せなくなる。
耳慣れない病名だけに、今回の報道で初めて知ったという人もいるのではないだろうか。しかし、日本の医療従事者の間では警戒すべき病気として認識されているという。「この病気にかかった患者さんが、犯罪など反社会的な行動を起こす危険性があるからです。
それは“脱抑制”という症状で、本能的な衝動を抑える理性が働かなくなり、異常行動を起こしてしまうのです。たとえば、人のものを盗んだりしても、なぜ悪いのかがわからない。万引きがいちばん多いのですが、窃盗、放火といった犯罪行為の背景に、この病気が関わっている可能性もあるのです」
実際に前頭側頭型認知症が原因で犯罪が起きた例もあり、40代の若年層~高齢者が突然反社会的な行動に走ったときには、専門医らはこの病気の関連も疑うようになったのだという。
「米国の神経学会では、以前から前頭側頭型認知症を犯罪の原因分子として考えるように警告を出していました。それだけ社会的意味を持つ難病なのです」
治療法が確立されていないとはいえ、現状ではどのような対症療法が行われているのだろうか。
「症状によって、アリセプトなどのアルツハイマー用の薬や抗うつ薬、ほかに抗精神病薬などを使用した治療が行われています。投薬治療により、行動面の改善が見られたという報告もあります」
欧米では前頭側頭型認知症の治療薬の開発が進められていて、すでに治験が始まっているという。
若年患者が多い難病だけに、40代の働き盛りの夫や、子育て中の主婦だって、突然発症することもありうる。この病気にならないための予防策はないのだろうか。
「必ず効果があるといえる予防策は、残念ながらありません。ただ、認知症全般にいえる予防策としては、運動・食生活・昼寝、そして2つのことを同時に行うデュアルタスク(ながら作業)などは、効果が期待できるかもしれません」
認知症はけっして高齢者だけの病気ではない。
現役世代もリスクを遠ざける心がけが大切なのだ。