花粉症の人ではがんリスクが半減する可能性 東京大学特任教授が指摘
(写真:PIXTA)
スギ花粉の飛散量がピークを迎え、ヒノキ花粉も飛び始めたこのごろ。環境省は、関東・北陸・中国地方の今年の花粉量は過去10年で最大となると予想していた。昨年よりもひどい花粉症の症状に悩まされている人や、今年になって花粉症を発症してしまった人も多いのではないだろうか。
そんな憂き目にあっている花粉症の人に、ある“朗報”が。
「花粉症の人は、がんによる死亡率が約半分になったという研究結果があるのです」
こう語るのは、東京大学医学部附属病院放射線科特任教授の中川恵一先生。
「調査を行ったのは東京大学の研究チーム。群馬県に住む40〜69歳の男女8796人を8〜15年間追跡調査した結果、花粉症の人は、そうでない人に比べて、全疾患の死亡リスクが43%低く、がんによる死亡リスクは52%も低下することがわかったのです」
さらに中川先生によると、「花粉症ががんを抑制する作用」は、国内のみならず海外のいくつかの論文で示されている、という。
「たとえば中国で行われた研究では、8つの疫学調査を統合した分析が行われました。
対象は北米、欧州、オーストラリアの1万人以上。これによると花粉症の人ではすい臓がんの発症リスクが43%も低下するというのです。
このほかに、大腸がん、脳腫瘍の発症リスクも大きく下げるという報告もあります」
いったいなぜ、花粉症の人はがんになりにくくなるのだろうか。
「花粉症ががんを防ぐメカニズムについて解明はされていません。
『免疫監視機構』といって、われわれの体内には日々数千、数万個のがん細胞が生まれ、免疫の力で未然にがん細胞を殺しているとされています。花粉症は花粉に対して免疫作用が過剰に反応している状態ですから、免疫監視機構も強いということではないでしょうか。
実際に高齢になるとがんの発症率が高くなる理由は、“遺伝子の経年劣化”と“免疫監視機構の衰え”です。花粉症患者の過敏な免疫は、がん化した異常細胞にも敏感に反応して、殺してくれるのかもしれません」
■花粉症の治療は続けたほうがいい?
医療ガバナンス研究所理事長の上昌広氏も、花粉症の人にとっては明るいニュースだと語る。
「免疫のエラーで起こるがんと花粉症は異なる病気ですが、いずれも『免疫』が関与するという共通項があります。さらなる研究の必要はありますが、花粉に対して免疫が過剰に反応してしまう花粉症の方の体内では、がんへの防御反応が何らかの形で働くという可能性は考えられるでしょう。花粉症の症状に苦しむ人も悪いことばかりではない、といえそうです」
それでは、花粉症の治療をすることで過剰に反応する免疫力を抑えてしまうと、がんを抑える免疫監視機構の働きも抑制してしまうのだろうか。中川先生が解説する。
「免疫作用を強く抑えるステロイド剤などを投与すると、免疫力自体は低下してしまう可能性があります。そもそも免疫力が低下すると、がん以外にも感染症などさまざまな疾患にかかりやすくなるので注意は必要です。
しかし、がんと花粉の関係は解明されていない点も多いので、このために花粉症の治療を控える必要はないでしょう」
自分が花粉症であるという現実に落ち込んでいる人も、この研究結果で少しは前向きになれる!?