香りをかぐことで脳を刺激、活性化! 東大式アロマで認知症を予防
年齢を重ねると、嗅覚も衰えていく。それは視力や聴力と同じだ。中には、「嗅覚障害」に悩まされる人もいる。嗅覚障害になると、食物の腐敗やガス、煙などの悪臭にも気づかなくなるため危険だ。
また、嗅覚の衰えは脳の認知機能と深く関わりがあり、認知症の前兆の1つともいわれている。
ところで、私たちがにおいを感じるメカニズムはどのようなものだろう。東京大学大学院医学研究科外科専攻感覚・運動機能講座耳鼻咽喉科学分野准教授の近藤健二先生はこう話す。
「においを感じるのは鼻の穴の奥の鼻腔の天井部分。
ここに分布している嗅細胞がにおい成分をキャッチしています。
そして、その嗅細胞が受けた情報を脳に伝達することで、私たちはにおいを感じることができるわけです」
嗅覚障害は、このようなメカニズムのどこかに異常が起こることで現れる。
「嗅覚障害は、主に3つに大別されます。
1.気導性嗅覚障害…ポリープや副鼻腔炎などで、空気の通り道がふさがれて、吸った空気が嗅細胞まで届かない。
2.嗅神経性嗅覚障害…有毒ガスの吸引、ウイルス感染、加齢などが原因で嗅細胞が劣化して起こる。
3.中枢性嗅覚障害…脳挫傷やアルツハイマー型認知症の進行などが原因で、脳の神経細胞が脱落して起こる。
このうち、気導性嗅覚障害は、薬や外科的治療で除去し、空気の通り道を確保すれば嗅覚は元に戻ります。しかし、嗅神経性嗅覚障害と中枢性嗅覚障害は、トラブルのある神経が回復しなければ衰えた嗅覚が改善することはありません」(近藤先生、以下同)
けれども、鼻腔の天井にある嗅細胞と、中枢神経の障害は、どちらも嗅覚トレーニング(嗅覚刺激療法)を行えば回復が望める、と近藤先生は語る。
「目の視神経や耳の聴神経は一度死滅すれば回復はできません。ですが、嗅細胞は新陳代謝により再生するのです。
嗅細胞が再生され、嗅覚をよみがえらせることで、脳が活性化され、認知症の進行をくいとめたり、予防をする効果があると考えられています」
■東大病院では数百人がアロマを使って嗅覚トレーニングを試している
そこで重要になるのが、においをかぐこと。ドイツのドレスデン大学耳鼻咽喉科の研究グループが、嗅神経性嗅覚障害の患者さん56人を2グループに分け、片方に1日2回12週間、嗅覚トレーニングを行ったところ、このグループの7割が改善したというデータが出ている。「東大病院では、すでに数百人の患者さんがアロマオイルを使った嗅覚トレーニングを試しています」
東大式のアロマを使った嗅覚トレーニングとは、どのようなものだろう。
「花や果実、スパイスなどのアロマオイルをかぎ、鼻腔の嗅細胞を刺激する治療法で、自宅でもできます。
まず、4種類のアロマオイル、密閉ボトル(50ml)4本、直径2㎝大の綿球(丸めた脱脂綿でもOK)4個を用意。アロマオイルは、『バラ』『レモン』『ユーカリ』『クローブ』を用います。
この4種類の香りが、世界標準の組み合わせです」
密閉ボトルに綿球を入れ、アロマオイルを各ボトルに1mlずつ垂らしてフタをする。準備ができたら、バラ→レモン→ユーカリ→クローブの順に、それぞれの香りを10秒間かいで、10秒間休み、次の香りに移る。それを5分繰り返す。
「嗅細胞の再生を促すには強い香りの刺激が必要です。密閉ボトルを使い、ボトル内に香りが充満したところで開け、それをかぐことで強い刺激が与えられます」
かぐときは、バラならバラと、香りを具体的にイメージすると効果的なのだとか。
嗅覚トレーニングは1日2回行う。朝と夕方がおすすめで、12時間ほど間隔を空けるのがコツだ。
なお、高価な100%天然精油でなくとも100円ショップのアロマオイルでも、嗅覚トレーニングなら、においをかぐという意味では効果がある、と近藤先生はいう。
「欧州で行われた研究によると、香りの種類を増やすと効果がさらに高まると報告されています。4種のアロマオイルだけでなく、さまざまな香りをかいでみてください。
私は患者さんに日常の中でも多様なにおいをかぐことを推奨しています。たとえば、コーヒーやカレー粉、せっけん、香水、食材などです」
その効果が表れるまで、数カ月から1年以上はかかるというが、効果が出始めると一気に回復することが多いとか。
さらに、「嗅覚トレーニングは、新型コロナウイルス感染症やインフルエンザなどの後遺症に現れる嗅覚障害にも、顕著に効果を示します」と、近藤先生。
嗅覚の衰えが気になるなら、ぜひ一度トライしてほしい。
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