また、味覚のセンサーとして働く味蕾の味細胞をつくるときにも必要になるので、亜鉛が不足すると味覚に変化が起こる可能性があります。さらに、日本人は「亜鉛が不足しがち」といった指摘もあり、特に妊娠中は胎児に亜鉛を供給するため必要量が増え、亜鉛不足になりやすいです。
・塩分の必要量が増える
妊娠中は、ママの体を循環する血しょう(血液から血球などを取り除いて残った成分)の量が増えていきます。とくに妊娠中期ごろから加速的に増え、妊娠32週ごろにピークになります。この血しょうの増加にともない塩分の必要量も増加し、それが妊娠中の塩味に関する味覚機能に影響を及ぼしている可能性があるという考えがあります。ただし、その影響は主に妊娠の中期以後が中心で、妊娠初期の味覚異常の原因としては考えにくいと思われます。
妊娠中の味覚の変化は時期によっても変わる?
同じ妊婦さんの味覚の変化について、妊娠初期から後期まで継続して調査した研究があります。その結果は以下のようなものでした。
1)酸味の強いものや、塩味を好むようになる人が多かった
2)濃い味を好むようになった人も1/3ほどいた
3)ほとんどの場合、1)や2)のような変化が起こるのは妊娠前期(初期)で、中期以後に始まることはまれであった
4)味覚機能検査を実施した結果、妊娠前期には明らかに味覚機能が低下していたが、妊娠中期以降は、さほど低下していなかった
5)味覚異常と亜鉛不足の関係に注目し、妊婦さんの血液中の亜鉛を測ってみたところ、妊娠中期以後には亜鉛が不足する傾向がみられたものの、妊娠初期は正常範囲であった
また、味覚障害の程度と亜鉛の濃度には相関がみられなかった
6)「口の中が乾きやすくなった」と訴える妊婦さんは多かったが、実際に診察してみると、口内乾燥の症状が認められた人は1人もいなかった
妊婦さんにみられる味覚の変化や異常の原因は、いろいろな要素が関係している可能性があるものの、はっきりわかっていません。しかし、妊娠の初期に始まって5カ月ごろまでには明らかでなくなる場合がほとんどであることから、妊娠したことによってホルモンが急激に変動し、その結果体にさまざまな変化をもたらす…。そうした反応のひとつと考えられます。それに加えて、つわりが続くことによるビタミンや栄養素の不足なども関係している可能性があります。