訪問型病児保育が実施する「往診」、親も医師もありがたいサービスだった
●感染症検査も、登園許可証発行も「在宅」で
朝起きたら子どもが発熱。「朝から会議があるのに、どうしよう! 」
そんな経験、働く親であれば「あるある」なのではないだろうか。何とかその日は仕事を休めて病院に行ったとしても、感染症なら再度病院に行って登園許可証をもらう必要があり、「有給休暇が何日あっても足りない! 」という声はよく聞く。
認定NPO法人フローレンスは、訪問型病児保育を実施。病児保育施設に預けるのと大きく異なるのは、子どもが自宅という慣れた環境で保育してもらえる点だ。そんな安心感と、設立依頼10年間無事故という実績で、会員数は2016年度中には5,000名を超えるという。
ここでは、そんなフローレンスが実施している「往診サービス」の取り組みをご紹介。子育て中のママドクターも活躍しているという同サービスについて、病児保育事業部の栗原さくらさん、田中純子医師に聞いた。
○感染症の検査から登園許可証の発行までフォロー
「往診サービス」は、フローレンスの病児保育の利用中、提携医師が家庭をまわり診察を行うというサービスだ。同団体では、保育スタッフが家庭を訪問し、マンツーマンでの保育を行っているが、病気の子どもを預かるというのはやはりリスクのあること。「往診サービスは、団体として安全・安心を目指すために導入した」という。たしかに医師が診てくれているという安心感は、保育スタッフにとっても親にとっても大きいだろう。
病児保育の利用には、前提としてかかりつけ医の診察を受けておくことが必要となっている(かかりつけ医の事前許可があれば、保育スタッフによる受診代行も可能)。それでは、「往診ドクター」は具体的に何をするのか。栗原さんは、「問診をして、主に"吸引・吸入"という処置をします」と答えてくれた。吸引は「鼻吸い」のことを指し、鼻水がひどい場合に、吸引してあげることで子どもの呼吸が楽になる。
また、気管支に薬を蒸散させる「吸入」を行うと、特にぜんそく持ちの子どもは症状がやわらぐ。結果として、ぐっすり眠れるようになり、治りを後押しするのだ。
さらに、インフルエンザ、溶連菌、アデノウイルス、RSウイルス、マイコプラズマの感染症検査も行ってくれる。これらに感染しているかどうかは、発症直後の検査ではわからないことが多いため、ありがたい。その場で処方箋も出してくれるので、すぐに薬を飲ませることができる。また、感染症が完治したことを証明し、保育園への登園再開に必要な「登園許可証」の発行もしてくれる。
一般的に、子どもが感染症にかかった場合は最初の診察から検査、それに登園許可証の発行など、何度も病院に足を運ばなければならない。その点フローレンスは、「感染症の急性期から治るまでお子さんを保育でき、受診代行や検査、登園許可証の発行も実施。
ご両親共に働いているご家庭だからこそ、助かるサービスだと思います」と栗原さんは語る。
○既往歴のある子どもも預かりが可能に
病児保育の利用を希望する家庭の中には、子どもに既往歴があったり、重いぜんそくを持っていたりするケースもある。これまでは、そのような子どもたちを万全の体制で受け入れられないと断ることもあったという。しかし、「往診サービス」を導入したことで、受け入れられる子どもの幅も広がった。
子どもを預かることができるかどうか判断する際に、往診ドクターと事務所に常駐する看護師がカンファレンスを実施。ケースに応じて柔軟に判断することが可能になったのだ。現場の保育者が症状の変化を読み取った場合には、看護師に相談して医師による処置が必要か適宜判断できる体制も整えられている。
――充実した内容が魅力の「往診サービス」。
実は現在、この事業を支えている医師全員が子育て中のママドクターだ。ママドクターが活躍できる仕組みはどのように作られているのか。
●将来は遠隔診療も! ママドクターが意欲的に活躍できる仕組み
○ママドクターも助かる仕組み
さらに注目すべきは、この取り組みが子育て中の女性医師たちによって成り立っていることだ。往診ドクターは一般の病院勤務に比べて勤務時間が短く、結果として子育て中でも働きやすい環境が整っている。2歳と5歳の子どもを育てながら往診ドクターとして働いている田中医師は、「夜の呼び出しがなく、土曜日曜に出勤しなくてもいいというのが助かります」と話した。
「病院は主治医制となっているので、担当の患者さんの具合が悪いと帰りづらいとか、夜に症状が急変したら呼び出されるということがあります。当直勤務についても、病院によっては免除してくれるところがありますが心苦しかったり、代わりに土日出勤をするということになったりします」とのこと。往診ドクターという働き方は、これらの点が解消できるのだ。
また、妊娠、育児、今後は自身の体調不良や介護などによって働き方に制約が生じる場合、医師が病院勤務に戻るステップにもなると考えているという。本格的に職場復帰を考える際にも、まったく働いていないのと、ちょっとでも働き続けているというのは、全然違うからだ。
「お母さんたちがもっと楽になる方法は何かないかと、前向きにどんどん変えていける職場で働けるのは楽しい。アンケートで、『往診に来てくれて安心した』という感想を目にすると、仕事をしていてよかったと感じます」と田中医師。子どもが安心できる自宅で診察できる点も、医師の視点から意義を感じているという。
○要望に応えられないジレンマも
一方で課題もある。現在、提携している往診ドクターは5人。往診には移動時間が伴うので、外来に比べて診察できる子どもの数が少なくなる。
現体制で希望者全ての家庭を往診することは難しい状況だ。栗原さんは「子どもの症状は刻々と変わるので、誰のところにどの順番で往診するかというのは、毎朝悩むところです。本当に診察が必要な子どもに医師を向かわせることができたのか、日々ジレンマを抱えています」と語った。
そんな中でも「4月から提携医師を7人に増やし、体制を強化していく」と栗原さん。将来的には、遠隔診療で登園許可証を発行できるようにするなど、さまざまなツールをいかして内容を充実させていきたいと話した。親はもちろんだが、病気の子どもの負担も軽減できる「訪問サービス」。今後のサービス拡大を期待したい。