五・七・五・七・七 男性歌人と女性歌人がうたう妊娠と出産のうた
■命の誕生をドラマチックにあらわす出産のうた
「子を負える埴輪(はにわ)のおんなあたたかしかくおろかにていのち生みつぐ」
山田あき(『山河無限』)
スケールの大きさが魅力。母から受けついだ遺伝子を子に伝えていくさまを、「はにわ」にたとえるところに作者のゆたかな感性があらわれています。
「海原にうしほ満つべし現身を揺り上げていま吾子生まれたり」
小島ゆかり(『水陽炎』)
女性のバイオリズムは月と海にたとえられます。月の引力と潮の満ち干きは深いかかわりがあります。満ちてきた潮がからだを揺りあげるように新しい生命が誕生した。宇宙と一体化するような出産の名歌といえるでしょう。
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「巻尺をもちて計れるその体、声だして指の数は数へる」
大松達知(『ゆりかごのうた』)
男性は冷静です。出産の余韻がさめない妻の横で、夫はわが子の体を観察していました。
さりげないシーンですが、はっきりと男女の考え方のちがいがわかりますよね。
「生まれたる日の体重の四ケタをアマゾンの暗証番号にせり」
大松達知(『ゆりかごのうた』)
うれしいという言葉を使っていませんが、出生時の体重をネットショッピングの暗証番号にするところに作者のよろこびがうかがえます。
妊娠や出産をうたう作品はきれいなものだけではありません。作者の顔が見えるようなリアリティのあるうたや、現代の問題点を鋭く指摘する名歌も多いのです。人が人を産みだす過程は、それだけドラマチックで起伏に富んでいるのですね。