我が家では息子のお風呂を僕が担当していて、0歳の時からほぼ毎日一緒にお風呂に入っている。
生まれて間もなくの沐浴では、ぬるま湯に入れた瞬間に笑顔で寝てしまうというような天使っぷりを見せていた息子も近頃は、風呂上がりに僕の髪の毛を指さして「お父さんの髪の毛ゴワゴワ」と父親をイジるようになってしまった。
ある日の息子「お母さんのシャンプーいっぱいだね〜」
僕「そうだね〜。5つもあるね〜」
息子「お父さんのは?」
僕「無いからコレ(息子のを)使わせてもらってるよ」
息子「僕の使っちゃだめでしょ!」
僕「明日買ってくるね…」
なかなか手厳しい息子だけど、お風呂での掛け合いの時間はとても楽しい。しかし、とある一件からお父さんと入りたくない状態が始まって悩んだこともあった。
我が家は息子が生まれる前からよく銭湯に行っている。息子が2歳の時、そろそろ一緒に連れて行っても楽しめるんじゃないかと思って出かけてみた。
案の定、息子はとても機嫌が良く、途中で妻と別れても平気で鼻歌交じりに男湯ののれんをくぐった。
しかし脱衣所に入った瞬間、ビタッと動きが止まり、おっさん・おじいさん達が裸でうろうろしている空間を引きつった顔で見ていた。
みるみる泣き顔になり号泣し始めたので、急いで服を脱がせて中に入った。立ちこめる湯気の中にはさらに大勢の男たち、息子はパニックで抱きついてきた。
息子を抱いたまま、体を洗おうとシャワーの前に腰掛けると隣のおじさんが豪快にかけ湯。水しぶきにおののく息子をかばい体をさっと洗うと露天風呂に移動し10秒ぐらい入ってすぐ脱出。
全く体を暖められないまま脱衣所へ避難する。
すると2度目の脱衣所でも「おがーさんがいい〜。おがーさんがよかったああああ!」と大号泣してしまい、知らないおじさんから「そうかそうか」と慰められる始末。
しかし、そのおじさんも漏れなく屈強な男で息子は放心状態。
2歳ではちょっと早かったか…と後から反省、湯気の中から裸の大男たちが次々に姿を現す光景は確かに怖いよな。
銭湯ショックで毎日お父さんと一緒だったお風呂がしばらく無くなり、「今日もお母さんとお風呂が良いの〜」と言われる寂しい日が数日続いた。
銭湯からも足が遠のいていたが、それから数ヵ月後、妻と息子で行った長野旅行で女湯に入ることになり、ご機嫌で入っていたとの報告に胸をなで下ろす。
我が家の銭湯ライフは再スタートした。
先月、近所の銭湯が一日限定の柚子湯だった日に家族三人で出かけた。脱衣所に入ると息子は慣れた様子で「お風呂から出たらイチゴ牛乳かな〜」と口笛でも吹きそうな勢いだ。
さっさと服を脱いで体重計に乗ったり足つぼを刺激したりして遊んでいる。「おっさん!入るぞ」と軽くツッコんで中に入る。
体を洗ったら早速お目当ての柚子が入った露天風呂へ。湯船に浮かんだ柚子は想像していたいわゆる柚子とは違う晩白柚(バンペイユ)というサッカーボールのような巨大な果実だった。
その露天風呂には外国人さんが一人で入っていて息子と目が合うと、ニコッと微笑んでプカプカ浮かんだ晩白柚を息子に向かってゆっくり押して流してきた。
僕はキャッチボールをして遊んでくれるのかなと微笑ましく見ていたら、息子は怖かったらしく体に柚子が当たらないようにヒョイ〜ヒョイ〜と一玉一玉を強ばった顔で避けていた。
その様子はまるで水上ドッジボールの交流戦。
怯えた息子は僕にだけ聞こえる小さな声で「上がる」と言って隣の誰も入っていない柚子風呂に移動した。
柚子を独り占めして幾分声も大きくなった息子はようやく銭湯を楽しみ始めた。
二つ抱えて浮き袋にしている。少しのぼせた僕は露天風呂脇のイスで休憩。すぐに息子も寄ってきて同じようにイスに座って「何でイスがあるの?」と不思議そうにしていた。
露天風呂を出て少し冷えた体を温めるため、最後に室内の風呂に浸かって「10数えたら上がろうか」と言って二人で数える。
二人で「…しーち、はーち、きゅーう、じゅう」
息子「おーまけーの、おーまけーの汽〜車ぽっぽ〜」
ありがたくおまけの汽車ぽっぽをいただいて17秒で風呂を出た。脱衣所ではルーティンのように体重計と足つぼを済ませる息子。
休憩所では念願のイチゴ牛乳を飲み干して「くあ〜」と一息。汽車ぽっぽ好きの3歳とはとても思えない姿。
息子はこの日の柚子湯がたいそう気に入ったようで、寒い日のブロック遊びでは銭湯を営業し、いつも大繁盛している。
建物には細かなこだわりがあり、必ず2〜3階建てにして屋上に露天風呂を設置、スーパーボールを柚子に見立ててくつろぎの空間を演出している。
露天風呂の脇に涼むためのイスを設置しているのには笑ってしまった。
つづく
上手くなりたいと言うのに自主練しない。アドバイスも嫌がる息子に頭を悩ませている問題